説明

駆動装置

【課題】コーンリング式CVTは、トラクション用オイルを介在した状態でリングを介して動力伝達するので、その伝達トルク容量が比較的小さい。
【解決手段】エンジン出力軸54に連結する入力軸6の回転を、入力歯車17及び中間歯車19を介してコーンリング式CVT3の入力側摩擦車22に増速、反転して伝達する。コーンリング式CVT3の出力側摩擦車23の回転を、出力歯車44、カウンタ軸47に設けた歯車49,50及びデフマウント歯車41を介して同方向に減速して伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力を円錐摩擦車リング式無段変速装置(以下コーンリング式CVTという)を介して出力部に伝達する駆動装置に係り、駆動源として上記エンジンの外に電気モータを備えるハイブリッド駆動装置に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン及び電気モータを駆動源として、該駆動源の動力をコーンリング式CVTを介してディファレンシャル装置に伝達するハイブリッド駆動装置が提案されている(特許文献1参照)。コーンリング式CVTは、互いに平行な軸線上に配置された円錐形状の入力側摩擦車(プライマリコーン)及び出力側摩擦車(セカンダリコーン)と、鋼製のリングと、を備え、上記プライマリコーンとセカンダリコーンとがその大径側と小径側が逆になるように配置されると共に、いずれか一方のコーン(例えばプライマリコーン)を囲むように対向する両コーンの傾斜面に接触するように上記リングを配置して、該リングを軸方向に移動することにより上記両コーンの接触位置を変更して無段に変速する。
【0003】
前記ハイブリッド駆動装置は、上記プライマリコーンと同軸状に配置されかつ該プライマリコーンと一体に回転する入力軸に、エンジン出力軸からの動力を伝達すると共に、電気モータからの動力をギヤ列を介して伝達している。そして、セカンダリコーンと同軸状の出力軸にピニオンギヤを設け、該ピニオンギヤとディファレンシャルマウントギヤを噛合して、ディファレンシャル装置に出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2011/033719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記コーンリング式CVTは、トラクション用オイルを介在した状態で、比較的幅狭のリングを介してプライマリ及びセカンダリコーンを接触するため、伝達トルク容量が比較的小さい。
【0006】
そこで、本発明は、駆動装置全体で、上記コーンリング式CVTに作用する伝達トルクを低減して、駆動装置全体で必要トルクを伝達し得るものでありながら、上述した課題を解決した駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジン出力軸(54)に連結する入力軸(6)と、
互いに平行な軸線(l−l)(n−n)上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車(22)及び出力側摩擦車(23)と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして前記両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング(25)と、を有し、該リングと前記両摩擦車の接触部にトラクション用オイルを介在した状態で前記リングを軸方向に移動することにより無段に変速する円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)(3)と、
ディファレンシャル装置(5)と、を備えてなる駆動装置(1)において、
前記入力軸(6)と前記入力側摩擦車(22)との間に、前記入力軸の回転を増速しかつ回転方向を反転して前記入力側摩擦車(22)に伝達する第1のギヤ伝動装置(7a)を介在し、
前記出力側摩擦車(23)と前記ディファレンシャル装置(5)との間に、前記出力側摩擦車の回転を減速しかつ回転方向を同方向に維持して前記ディファレンシャル装置に伝達する第2のギヤ伝動装置(7a)を介在してなる、
ことを特徴とする駆動装置にある。
【0008】
なお、本発明において、ギヤ(gear)は、歯車(toothed gear)及びスプロケット(sprocket,鎖歯車)を含み、噛合による回転伝達手段を意味し、従ってギヤ伝動装置は、該噛合回転伝達手段による伝動装置を意味する。
【0009】
好ましくは、前記第1のギヤ伝動装置(7a)は、前記入力軸(6)に設けられた入力歯車(17)と、前記入力側摩擦車(22)と同軸状にかつ一体的に回転するように設けられた中間歯車(19)とを有し、これら入力歯車及び中間歯車を互いに噛合してなり、
前記第2のギヤ伝動装置(7b)は、前記出力側摩擦車(23)と同軸状にかつ一体的に回転するように設けられた出力歯車(44)と、前記ディファレンシャル装置(5)に設けられたデフマウント歯車(41)と、前記出力歯車(44)及び前記デフマウント歯車(41)にそれぞれ噛合する歯車(49,50)を有するカウンタ軸と、からなる。
【0010】
駆動源として、エンジンの外に電気モータ(2)を備え、ハイブリッド駆動装置として適用する場合、
該電気モータ(2)の出力軸(8)に一体に歯車(16)を設け、該歯車(16)を前記入力軸(6)に設けられた歯車(17)に噛合してなる。
【0011】
例えば図3を参照して、軸方向から視た側面視において、ケース(11)内に、前記ディファレンシャル装置(5)及び前記デフマウント歯車(41)と、前記電気モータ(2)及びその出力軸(8)に設けた前記歯車(16)とを下方部分に並べて配置し、
前記入力側摩擦車(22)及びそれと同軸状の前記中間歯車(19)と、前記出力側摩擦車(23)及びそれと同軸状の前記出力歯車(44)を上方部分に並べて配置し、
前記中間歯車(19)及び前記電気モータの前記出力軸に設けた歯車(16)の上下方向間部分に、前記入力歯車(17)を配置すると共に、前記出力歯車(44)及び前記デフマウント歯車(41)の上下方向間部分に、前記歯車(49,50)を有する前記カウンタ軸(47)を配置してなる。
【0012】
例えば図2を参照して、前記駆動装置は、前記円錐摩擦車リング式無段変速装置(3)を収納しかつ前記トラクション用オイルを封入した第1の空間(A)と、前記第1及び第2のギヤ伝動装置(7a)(7b)を収納しかつ潤滑用オイルを封入した第2の空間(B)とを有し、これら第1の空間と第2の空間とを油密状に区画したケース(11)を備える。
【0013】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、エンジン出力軸に連結する入力軸の回転を、第1のギヤ伝動装置を介して増速して円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)に伝達するので、該コーンリング式CVTに作用するトルクは小さくなり、該コーンリング式CVTの伝達トルク容量内に納めることができ、トラクション用オイルを介在した状態での動力伝達を正確かつ確実に行うことができる。
【0015】
上記コーンリング式CVTからの出力回転は、第2のギヤ伝動装置により減速して、かつ上記増速に際して反転した回転を、出力側摩擦車と同方向にしてディファレンシャル装置に伝達されるので、駆動装置全体では、所定のトルク及び回転数を、所定の回転方向で出力することができる。
【0016】
請求項2に係る本発明によると、第1のギヤ伝動装置は、入力軸に設けられた入力歯車と、入力側摩擦車と同軸状の中間歯車とからなり、これら両歯車を噛合して反転した回転を伝達するので、コンパクトで簡単な構成により所定の増速比を得ることができる。また、第2のギヤ伝動装置は、カウンタ軸に設けた歯車を介して、出力歯車の回転をデフマウント歯車に伝達するので、出力歯車とデフマウント歯車は同方向回転となり、上記第1のギヤ伝動装置により反転した回転を正方向回転に戻すことができるものでありながら、カウンタ軸により、簡単でコンパクトな構成で所定の減速比を得ることができ、デフマウント歯車を大径なものを用いなくても足りる。これらが相俟って、駆動装置は、全体で所定寸法内に納まり、車輌搭載性を確保できると共に、剛性及び耐久性を有する信頼性の高い構造とすることができる。
【0017】
請求項3に係る本発明によると、電気モータを備え、該電気モータの出力軸に設けた歯車を前記入力軸に設けた入力歯車に噛合して、ハイブリッド駆動装置として適用することができ、上記入力歯車は、提案した従来の技術のアイドラ歯車が配置されている部分であり、該従来の技術を大きな設計変更することなく、コーンリング式CVTの伝達トルク容量に対応したハイブリッド駆動装置を得ることができる。
【0018】
請求項4に係る本発明によると、側面視において、ケースの下方部分に、ディファレンシャル装置及び電気モータを配置したので、ディファレンシャル装置及び電気モータを、ケース下部に溜った潤滑用オイルにより充分に潤滑及び冷却することができる。
【0019】
ケース上方部分に位置する中間歯車及び出力歯車は、デフマウント歯車及び電気モータの出力軸歯車によりかき上げられる潤滑用オイルが、上下方向間部分に位置するカウンタ軸の歯車及び入力歯車を介して供給され、第1及び第2のギヤ伝動装置の各歯車を潤滑することができる。
【0020】
また、ケース下方部分にディファレンシャル装置及び電気モータが並んで配置され、ケース上方部分にコーンリング式CVTの入力側摩擦車及び出力側摩擦車が並んで配置され、これら上下方向の間部分に入力歯車及びカウンタ軸の歯車が配置されるので、ハイブリッド駆動装置全体でコンパクトにまとめられたレイアウトになる。
【0021】
請求項5に係る本発明によると、コーンリング式CVTを収納した第1の空間にトラクション用オイルを封入し、第1及び第2のギヤ伝動装置を収納した第2の空間に潤滑用オイルを封入したので、コーンリング式CVTは、早期に摩耗することなく所望のトルクを伝達すると共に素早くかつ滑らかな変速が可能であり、また第1及び第2のギヤ伝動装置は、潤滑用オイルを介在して大きな動力損を生じることなく確実に動力伝達し、これらが相俟って高い伝動効率でかつ滑らかに動力伝達することができ、かつ耐久性を有する信頼性の高い駆動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るハイブリッド駆動装置を示す概略図。
【図2】本発明を適用したハイブリッド駆動装置を示す展開断面図。
【図3】その軸方向からみた側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面に沿って、本発明を適用したハイブリッド駆動装置を説明する。ハイブリッド駆動装置1は、図1及び図2に示すように、電気モータ2と、円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)3と、出力部材を構成するディファレンシャル装置5と、図示しないエンジンの出力軸54とクラッチ4を介して連結する入力軸6と、ギヤ伝動装置7とを有する。上記各装置及び軸は、2個のケース部材9,10を合せて構成されるケース11に収納されており、かつ該ケース11は、隔壁12により第1の空間Aと第2の空間Bとに油密状に区画されている。
【0024】
電気モータ2は、第1のケース部材9に固定されたステータ2aと出力軸8に設けられたロータ2bとを有し、出力軸8は、一方側端部が第1のケース部材9にベアリング13を介して回転自在に支持されていると共に他方側端部が第2のケース部材10にベアリング15を介して回転自在に支持される。出力軸8の一方側にはピニオンからなる出力歯車16が形成されている。前記入力軸6は、その先端に比較的大径の入力歯車17が設けられ、該入力歯車17の両端部にベアリング20,21を介して隔壁12及び第2のケース部材10に回転自在に支持されており、該ケース部材10を貫通してエンジン出力軸54方向に延びている。前記入力側摩擦車22と同軸状でかつスプラインSにより一体に回転する中間歯車19が第2のケース部材10にベアリング46を介して回転自在に支持されている。
【0025】
上記入力歯車17は、上記電気モータ出力歯車16及び中間歯車19に噛合しており、第1のギヤ伝動装置7aを構成している。従って、入力軸6からの回転は、入力歯車17及び中間歯車19を介して反転して入力側摩擦車22に伝達され、この際入力歯車17が大径で中間歯車が小径からなるので、所定のギヤ比により増速されて伝達される。電気モータ2からの回転は、出力歯車16、アイドラギヤとして機能する入力歯車17及び中間歯車19を介して同方向回転として入力側摩擦車22に伝達される。本実施の形態は、ハイブリッド駆動装置1からなるため、電気モータ2を備えているが、エンジンのみで駆動するものに適用する場合、電気モータ2及びその出力歯車16が省かれる。この場合、第1のギヤ伝動装置7aは、入力歯車17及び中間歯車19のみからなる。なお、該第1のギヤ伝動装置7aを歯車により構成したが、チェーン等の他の伝動装置でもよい。
【0026】
コーンリング式CVT3は、入力側である円錐形状の(一方の円錐形)摩擦車22と、出力側である同じく円錐形状の(他方の円錐形)摩擦車23と、金属製のリング25とからなる。前記両摩擦車22,23は、互いに平行な軸線l−l,n−n上に配置されかつ大径側と小径側が軸方向に逆になるように配置されており、上記リング25が、これら両摩擦車22,23の対向する傾斜面に挟持されるようにかつ両摩擦車のいずれか一方例えば入力側摩擦車22を取囲むように配置されている。両摩擦車の少なくとも一方には大きなスラスト力が作用しており、上記リング25は上記スラスト力に基づく比較的大きな挟圧力により挟持されている。具体的には、出力側摩擦車23と無段変速装置出力軸24との間には軸方向で対向する面にボールを介在した傾斜カム機構からなる軸力付与手段28(図1参照)が形成されており、該軸力付与手段(カム機構)28は、出力側摩擦車23に、伝達トルクに応じた矢印D方向のスラスト力が発生し、該スラスト力に対抗する方向に支持されている入力側摩擦車22との間でリング25に大きな挟圧力が生じる。なお、該軸力付与手段28の詳細は、本出願人によるWO2010/073557A1号公報に開示されている。
【0027】
入力側摩擦車22は、その一方側(大径側)端部がローラベアリング26を介して第1のケース部材9に支持されると共に、その他方側(小径側)端部がテーパードローラベアリング27を介して隔壁12に支持されている。出力側摩擦車23は、その一方側(小径側)端部がローラ(ラジアル)ベアリング29を介して第1のケース部材9に支持されると共に、その他方側(大径側)端部がローラ(ラジアル)ベアリング30を介して隔壁12に支持されている。該出力側摩擦車23に上述した矢印D方向のスラスト力を付与した出力軸24は、その他方側端がテーパードローラベアリング31を介して第2のケース部材10に支持されている。入力側摩擦車22の他方側端部は、ベアリング27のインナレースを段部及びナット32により挟持されており、該入力側摩擦車22にリング25を介して作用する出力側摩擦車23からのスラスト力が、上記テーパードローラベアリング27により担持される。一方、出力軸24には、出力側摩擦車23に作用するスラスト力の反力が反矢印D方向に作用し、該スラスト反力が上記テーパードローラベアリング31により担持される。
【0028】
上記リング25は、変速操作手段により軸方向に移動して、入力側摩擦車22及び出力側摩擦車23の接触位置を変更して、コーンリング式CVT3の回転比を無段に変速する。上記伝達トルクに応じたスラスト力Dは、上記両テーパードローラベアリング27,31を介して一体的なケース11内にて互いに打消され油圧等の外力としての平衡力を必要としない。
【0029】
ディファレンシャル装置5はデフケース33を有しており、該デフケース33は、その一方側端部が第1のケース部材9にベアリング35を介して支持されていると共に他方側端部が第2のケース部材10にベアリング36を介して支持されている。該デフケース33の内部には軸方向に直交するシャフトが取付けられており、該シャフトにデフキャリヤとなるベベルギヤ37,37が係合されており、また左右のアクスル軸(出力部)39l,39rが支持され、これらアクスル軸に上記デフキャリヤと噛合するベベルギヤ40,40が固定されている。更に、上記デフケース33の外部には大径のデフマウント歯車41が取付けられている。
【0030】
前記無段変速装置出力軸24とディファレンシャル装置5との間には、一端部をベアリング45を介して隔壁12に支持され、他端部をベアリング46を介して第2のケース部材10に支持されてカウンタ軸47が配置されている。該カウンタ軸47には大小2個の歯車49,50が一体に設けられており、大歯車49は、前記出力軸24に形成された歯車(ピニオン)44に噛合し、小歯車50は、前記デフマウント歯車41に噛合している。
【0031】
互いに噛合する前記各歯車44,49,50,41が第2のギヤ伝動装置7bを構成している。該第2のギヤ伝動装置7bは、無段変速装置出力軸24の回転を、同方向でかつ減速してディファレンシャル装置5に伝達する。この際、カウンタ軸47に大小の歯車49,50が配置されているので、デフマウント歯車41に大径の歯車を用いなくとも、所望の減速比を得ることができる。なお、前記第1のギヤ伝動装置7a及び第2のギヤ伝動装置7bにより前記ギヤ伝動装置7を構成する。
【0032】
なお、ギヤ伝動装置のギヤとは、歯車及びスプロケットを含む噛合回転伝達手段を意味するが、本実施の形態においては、ギヤ伝動装置は、すべて歯車からなる歯車伝動装置である。なお、ギヤ伝動装置にチェーン及びスプロケットを用いてもよく、また電気モータ2の出力歯車16をギヤ伝動装置7のみを介して(従ってコーンリング式CVT3を介することなく)出力歯車44に伝達してもよく、また電気モータ2を直接出力軸24に連結してもよい。
【0033】
前記中間歯車19は、その一端軸部がスプラインSにより入力側摩擦車22に篏合しており、該一端が上記入力側摩擦車22の小径側軸部及びベアリング27を介して隔壁12に支持され、他端軸部がベアリング46により第2のケース部材10に支持されている。入力歯車17を有し第2のケース部材10を貫通している入力軸6は、第2のケース部材10により形成される第3の空間C内に収納されるクラッチ4を介してエンジンの出力軸54に連動している。第2のケース部材10の上記第3の空間C側は開放されており、図示しないエンジンに連結される。
【0034】
前記ギヤ伝動装置7は、電気モータ2及び前記第1の空間Aと第3の空間Cとの軸方向間部分となる第2の空間B内に収納されており、該第2の空間Bは、第2のケース部材10と隔壁12とにより形成される。前記隔壁12の軸支持部分(27,30)は、オイルシール51a,51bにより油密状に区画されていると共に、第2のケース部材10及び第1のケース部材9の軸支持部分もオイルシール51c,51d,51eにより軸封されて、上記第2の空間Bは油密状に構成されており、該第2の空間BにはATF等の潤滑用オイルが所定量封入されている。第1のケース部材9及び隔壁12で形成される第1の空間Aも、同様に油密状に構成されており、該第1の空間Aには、前記コーンリング式CVT3が収納されていると共に、剪断力、特に極圧状態における剪断力の大きなトラクション用オイルが所定量封入されている。
【0035】
クラッチ4は、図1に概略を示すように、乾式単板クラッチからなり、エンジン出力軸54に連結されているクラッチディスク4a及び前記入力軸6にダンパスプリング55を介して連結されている出力側となるプレッシャプレート4bを有し、プレッシャプレートは、ダイヤフラムスプリング56により常時クラッチディスクに接続するように付勢されている。そして、上記ダイヤフラムスプリング56をクラッチ操作用電動アクチュエータA1により操作することにより、クラッチ4は、断接操作される。
【0036】
また、前記コーンリング式CVT3のリング25は、ボールネジ等の変速操作装置60により軸方向に移動操作され、かつ該変速操作装置60は、電気モータ等の変速用電動アクチュエータA2により制御される。
【0037】
ついで、上述したハイブリッド駆動装置1の作動について説明する。本ハイブリッド駆動装置1は、ケース11の第3の空間C側を内燃エンジンに結合され、かつ該エンジンの出力軸54をクラッチ4を介して入力軸6に連動して用いられる。エンジンからの動力が伝達される入力軸6の回転は、第1のギヤ伝動装置7aである入力歯車17から中間歯車19に反転、増速されて伝達される。更に、該中間歯車19の増速回転は、スプラインSを介してコーンリング式CVT3の入力側摩擦車22に伝達され、更にリング25を介して出力側摩擦車23に伝達される。
【0038】
この際、両摩擦車22,23とリング25との間は、出力側摩擦車23に作用する矢印D方向のスラスト力により大きな接触圧が作用し、かつ第1の空間Aはトラクション用オイルが封入されているので、上記両摩擦車とリングとの接触部には、該トラクション用オイルの油膜が介在した極圧状態となる。この状態では、トラクション用オイルは大きな剪断力を有するので、該油膜の剪断力により両摩擦車とリングとの間に動力伝達が行われるが、リング25の幅寸法は制限されており、該リングの接触面積によりトラクション伝達されるため、トルク容量が充分でない場合がある。従って、上記入力軸6からの回転を、第1のギヤ伝動装置7aで増速することにより、コーンリング式CVT3に作用するトルクは、その分減少し、これにより上記コーンリング式CVT3の制限されたトルク容量をクリアできる。なお、上記入力軸6が連結する入力歯車17は、従来の技術で提案したハイブリッド駆動装置のアイドラ歯車に相当し、大きな設計変更を伴うことなく上記入力軸の変更を行うことができる。これにより、金属同士の接触でありながら、摩擦車及びリングが摩耗することなく、所定のトルクを滑ることなく伝達し得、かつリング25を軸方向に滑らかに移動することにより、両摩擦車との接触位置を変更して無段に変速する。
【0039】
該無段変速された出力側摩擦車23の回転は、その出力軸24から第2のギヤ伝動装置7bを介して同方向に減速してディファレンシャル装置5に伝達される。これにより、上記第1のギヤ伝動装置7aで反転・増速された回転は、第2のギヤ伝動装置7bにより反転されることなくかつ上記増速を打消して、所望の回転方向及び回転数で出力部であるディファレンシャル装置5に伝達され、更に該ディファレンシャル装置5のデフケース33から、左右のアクスル軸39l,39rに動力分配されて、車輪(前輪)を駆動する。上記第2のギヤ伝動装置7bは、カウンタ軸47に配置した大小の歯車49,50を経由するので、所定の減速比を容易に得ることができ、上記従来の技術で提案したハイブリッド駆動装置が、回転方向の関係でカウンタ軸を介在することができないため、デフマウント歯車41に大径の歯車を用いたが、本発明にあっては、カウンタ軸を配置することが可能となって、デフマウント歯車41に大径の歯車を用いなくても、所望の減速比を得られ、コンパクト性や強度の点からも有利である。
【0040】
一方、電気モータ2の動力は、出力歯車16、入力歯車17及び中間歯車19を介して入力側摩擦車22に伝達される。該入力側摩擦車22の回転は、先の説明と同様に、コーンリング式CVT3を介して無段に変速され、更に出力歯車44、カウンタ軸47の歯車49,50及びデフマウント歯車41を介してディファレンシャル装置5に伝達される。上記各歯車16,17,19,44,49,50,41,37,40からなるギヤ伝動装置7は、潤滑用オイルが充填される第2の空間Bに収納されており、各ギヤの噛合に際して潤滑用オイルが介在して滑らかに動力伝達される。
【0041】
この点について、軸方向からみた側面図(側面視)である図3に沿って詳しく説明する。ケース11内の第2の空間Bに、下方部分にて横方向に並んで、デフマウント歯車41を有するディファレンシャル装置5と、出力歯車16を有する電気モータ2が配置される。ケース11の上方部分には第1の空間Aが配置され、横方向に並んで入力側摩擦車22及び出力側摩擦車23が配置されている。従って、第2の空間Bにおける上方部分には、上記入力側摩擦車22と同軸状の中間歯車19及び出力側摩擦車23と同軸状の出力軸24及び出力歯車44が配置されている。そして、該第2の空間Bにおいて、上記出力歯車44とデフマウント歯車41との上下方向間部分に、大小の歯車49,50を有するカウンタ軸47が配置され、上記中間歯車19とモータ出力歯車16との上下方向間部分に、入力軸6に設けられた入力歯車17が配置されている。
【0042】
第1のギヤ伝動装置7aが一方側に、第2のギヤ伝動装置7bが他方向側に、上下方向に並んで各歯車19,17,16並びに23,49,50,41が配置されている径方向側の配置は上述の通りであるが、軸方向に関しては、図1に示すように、それぞれの歯部分が比較的幅狭の第2の空間Bに納められており、各歯車は、軸方向に一部が重なるように配置されている。そして、ケース11の下方に位置するディファレンシャル装置5及び電気モータ2は、少なくともその一部がケース11の第2の空間Bの下部に溜められている潤滑用オイルに浸っている。
【0043】
従って、ディファレンシャル装置5及び電気モータ2は、潤滑用オイルにより充分に潤滑され、かつ冷却される。デフマウント歯車41、及び(場合によっては)電気モータ出力歯車16によりかき上げられた潤滑用オイルは、上下中間部に位置する歯車50,49及び入力歯車17を介して上方部分に位置する出力歯車44、中間歯車19に供給される。
【0044】
上記エンジン及び電気モータの作動形態、即ちハイブリッド駆動装置1として作動形態は、必要に応じて各種採用可能である。一例として、車輌発進時、クラッチ4を切断すると共にエンジンを停止し、電気モータ2のトルクのみにより発進し、所定速度になると、エンジンを始動すると共にクラッチ4を接続して、エンジン及び電気モータの動力により加速し、巡航速度になると、電気モータをフリー回転又は回生モードとして、エンジンのみにより走行する。減速、制動時は、電気モータを回生してバッテリを充電する。また、クラッチ4を発進クラッチとして使用し、エンジンの動力により、モータトルクをアシストとして用いつつ発進するように用いてもよい。
【0045】
リバース時は、クラッチ4を切断すると共にエンジンを停止し、かつ電気モータ2を逆方向に回転駆動する。これにより、モータ出力軸8の逆回転は、歯車16,17,19及び低速状態にあるコーンリング式CVT3を介して出力軸24に伝達される。更に、歯車44,49,50,41を介してディファレンシャル装置5に伝達され、左右のアクスル軸39l,39rを逆回転して、車輌を後進する。
【符号の説明】
【0046】
1 ハイブリッド駆動装置
2 電気モータ
3 円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)
5 ディファレンシャル装置
6 入力軸
7 ギヤ伝動装置
7a 第1のギヤ伝動装置
7b 第2のギヤ伝動装置
8 モータ出力軸
11 ケース
12 隔壁
16 (出力)歯車
17 入力歯車
19 中間歯車
22 入力側摩擦車
23 出力側摩擦車
24 出力軸
25 リング
39l,39r 出力部
41 デフマウント歯車
44 出力歯車
47 カウンタ軸
49,50 (大小の)歯車
54 エンジン出力軸
A 第1の空間
B 第2の空間
l−l,n−n 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン出力軸に連結する入力軸と、
互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして前記両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、を有し、該リングと前記両摩擦車の接触部にトラクション用オイルを介在した状態で前記リングを軸方向に移動することにより無段に変速する円錐摩擦車リング式無段変速装置と、
ディファレンシャル装置と、を備えてなる駆動装置において、
前記入力軸と前記入力側摩擦車との間に、前記入力軸の回転を増速しかつ回転方向を反転して前記入力側摩擦車に伝達する第1のギヤ伝動装置を介在し、
前記出力側摩擦車と前記ディファレンシャル装置との間に、前記出力側摩擦車の回転を減速しかつ回転方向を同方向に維持して前記ディファレンシャル装置に伝達する第2のギヤ伝動装置を介在してなる、
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記第1のギヤ伝動装置は、前記入力軸に設けられた入力歯車と、前記入力側摩擦車と同軸状にかつ一体的に回転するように設けられた中間歯車とを有し、これら入力歯車及び中間歯車を互いに噛合してなり、
前記第2のギヤ伝動装置は、前記出力側摩擦車と同軸状にかつ一体的に回転するように設けられた出力歯車と、前記ディファレンシャル装置に設けられたデフマウント歯車と、前記出力歯車及び前記デフマウント歯車にそれぞれ噛合する歯車を有するカウンタ軸と、からなる、
請求項1記載の駆動装置。
【請求項3】
電気モータを備え、
該電気モータの出力軸に一体に歯車を設け、該歯車を前記入力軸に設けられた歯車に噛合してなる、
請求項2記載の駆動装置。
【請求項4】
軸方向から視た側面視において、ケース内に、前記ディファレンシャル装置及び前記デフマウント歯車と、前記電気モータ及びその出力軸に設けた前記歯車とを下方部分に並べて配置し、
前記入力側摩擦車及びそれと同軸状の前記中間歯車と、前記出力側摩擦車及びそれと同軸状の前記出力歯車を上方部分に並べて配置し、
前記中間歯車及び前記電気モータの前記出力軸に設けた歯車の上下方向間部分に、前記入力歯車を配置すると共に、前記出力歯車及び前記デフマウント歯車の上下方向間部分に、前記歯車を有する前記カウンタ軸を配置してなる、
請求項3記載の駆動装置。
【請求項5】
前記円錐摩擦車リング式無段変速装置を収納しかつ前記トラクション用オイルを封入した第1の空間と、前記第1及び第2のギヤ伝動装置を収納しかつ潤滑用オイルを封入した第2の空間とを有し、これら第1の空間と第2の空間とを油密状に区画したケースを備えた、
請求項1ないし4のいずれか記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−247042(P2012−247042A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121210(P2011−121210)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】