説明

駐車ブレーキ装置

【課題】 小さなドラムなどに好適に対応し得る小型化容易で、かつ制動状態と非制動状態との切換えを一系統の制御で行い得る駐車ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 ブレーキシュー10をドラムに押付けて制動状態にし、その制動状態を保持する保持機構3を備えている駐車ブレーキ装置1であって、保持機構3は、ブレーキシュー10をドラムに押付ける押付け機構2を操作する際に引張られる操作部材25を液圧によって引張る制動用ピストン31と、制動状態において制動用ピストン31の非制動方向への移動を機械的に規制する隔回規制手段4とを備える。そして隔回規制手段4は、制動用ピストン31が内挿されるシリンダ30b内への液圧の印加隔回毎に液圧を直接的にまたは間接的に利用することによって機械的規制を解除する構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシューをドラムに押付けて制動状態にし、かつその制動状態を保持する保持機構を備えている駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駐車ブレーキ装置は、近年、様々なタイプのものが知られている。
例えば、特許文献1に記載の駐車ブレーキ装置は、電動モータによってブレーキシューをドラムに押付ける構成になっている。
特許文献2に記載の駐車ブレーキ装置は、油圧ピストンによって一対のブレーキシューをドラムに押付け、その状態において一対のブレーキシューを電動モータによって位置保持する保持機構を有している。保持機構は、一対のブレーキシューの間に設けられた一対の出力部を有しており、一対の出力部は、電動モータによって相互に逆方向に直線移動されることによって一対のブレーキシューの間で突っ張る構成になっている。
【0003】
特許文献3に記載の駐車ブレーキ装置は、油圧ピストンによって一対のブレーキシューをドラムに押付け、その状態において一対のブレーキシューの間で突っ張る突っ張り機構と、その突っ張り機構を突っ張り状態と回避状態とに切換える切換え機構とを有している。突っ張り機構は、一対のブレーキシューの間で延出し一端部が一方のブレーキシューに支持されたリンク部材と、他方のブレーキシューに傾動可能に取付けられた係合部材とを有している。切換え機構は、電磁的に作動するプランジャを有し、そのプランジャによって係合部材を傾動させ、係合部材とリンク部材とが係合した突っ張り状態と、これらが係合解除された回避状態とに切換える。
【特許文献1】特開平11−105680号公報
【特許文献2】特開2003−72534号公報
【特許文献3】米国特許5127495号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献2,3に係る保持機構は、全構成部品がドラム内に収められる構成になっていた。そのため小さなドラム内に設置することが難しい構成になっていた。なお小さいドラムの一例としては、ドラムインディスク型のブレーキが挙げられる。すなわちドラムインディスク型のブレーキは、外周部にディスクブレーキ部を有しており、中心部にドラムブレーキ部を有しているためにドラムの径が小さくなっている。
またドラムの外に電動モータなどを設ける形態なども考えられるが、車両によってはドラムの外においても十分なスペースが確保できないものも多い。
【0005】
また特許文献2に係る駐車ブレーキ装置は、油圧ピストンの制御と電動モータの制御とによって制動状態と非制動状態とに切換える構成になっていた。そして特許文献3に係る駐車ブレーキ装置は、油圧ピストンの制御と電磁作動するプランジャの制御とによって制動状態と非制動状態とに切換える構成になっていた。したがって制動状態と非制動状態とに切換えるための制御系統が二つ必要であって、装置が複雑になるなどの問題があった。
そこで本発明は、小さなドラムなどに好適に対応し得る小型化容易で、かつ制動状態と非制動状態との切換えを一系統の制御で行い得る駐車ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える駐車ブレーキ装置であることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によると、保持機構は、ブレーキシューをドラムに押付ける押付け機構を操作する際に引張られるまたは押される操作部材を液圧によって引張るまたは押す制動用ピストンと、制動状態において制動用ピストンの非制動方向への移動を機械的に規制する隔回規制手段とを備えている。そして隔回規制手段は、制動用ピストンが内挿されるシリンダ内への液圧の印加隔回毎に液圧を直接的にまたは間接的に利用することによって機械的規制を解除する構成になっている。
【0007】
したがってシリンダ内への液圧印加によって制動用ピストンが制動位置へ移動し、その状態が隔回規制手段によって機械的に保持される。そのため制動状態は、シリンダ内の液圧に関わらずに保持され続ける。そしてその状態でシリンダ内に液圧を印加すると、隔回規制手段による機械的規制が解除されて、制動用ピストンが非制動状態方向へ移動可能となる。したがって駐車ブレーキ装置は、シリンダ内への液圧印加毎に制動状態と非制動状態とに切換えられる。
そして制動状態と非制動状態は、シリンダへの液圧印加によって作動する制動用ピストンと隔回規制手段とによって切換えられるため、液圧一系統の制御によって切換えられる。かくして駐車ブレーキ装置は、簡易な構成でかつ小型化容易な構成になっている。
【0008】
請求項2に記載の発明によると、隔回規制手段は、制動用ピストンに設けられた規制体と、その規制体に対して軸回転する回転体と、制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に回転体を軸回転させる回転構造とを備えている。そして回転体と規制体との間には、回転体の軸回転毎に規制体の非制動状態方向への移動を規制する状態と許容する状態とに切換える切換え規制構造が設けられている。
したがってシリンダ内の液圧によって制動用ピストンが軸方向に移動し、その制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に回転体が軸回転する。そして回転体の軸回転毎に規制体を介して制動用ピストンが非制動状態へ移動規制された状態と、移動許容された状態とに切換えられる。かくして駐車ブレーキ装置は、制動状態と非制動状態とに切換えられる。
【0009】
請求項3に記載の発明によると、隔回規制手段は、制動用ピストン側に設けられる係合部と、その係合部に機械的に係合する係合部材と、その係合部材を所定方向に付勢する付勢部材と、制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に付勢部材の姿勢を変えて付勢部材による係合部材の付勢方向を係合部へ係合させる係合方向と、係合部から係合解除させる解除方向とに切換える切換え構造とを備えている。
したがってシリンダ内の液圧によって制動用ピストンが軸方向に移動し、その制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に付勢部材の姿勢が変わる。これにより付勢部材による係合部材の付勢方向が変わって、係合部材が係合部に対して係合する状態と、係合部材が係合部から解除する状態とに切換わる。かくして駐車ブレーキ装置は、制動状態と非制動状態とに切換えられる。
【0010】
請求項4に記載の発明によると、制動用ピストンと、その制動用ピストンによって操作される操作部材との間、あるいはこれらの部材のいずれかには、制動状態において操作部材を弾性的に制動方向へ付勢する弾性部材が設けられている。
したがってブレーキ装置が冷却した際などに生じるブレーキシューのドラムへの押付け力の緩みは、弾性部材のばね定数による荷重変化程度に軽減され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1を図1〜6にしたがって説明する。
実施の形態1に係るブレーキは、図1,2に示すようにドラムインディスク型であって、外周部にサービス用のディスクブレーキ部を有し、中央部に駐車用のドラムブレーキ部を有している。そしてブレーキは、ドラムブレーキ部を操作し保持する保持機構3を備える駐車ブレーキ装置1を有している。
【0012】
ドラムブレーキ部は、図1に示すように車体側の部材に固定されるドーナツ円盤状の裏板17と、裏板17上に可動的に装架される一対のブレーキシュー10を有している。
ブレーキシュー10は、円弧状であって、外周面にライニング11が取付けられている。
【0013】
一対のブレーキシュー10の一端部間10a,10aには、図1に示すようにアジャスタ14と戻りばね15が取付けられている。アジャスタ14は、一端部間10a,10aの距離を調節する機構を備えている。戻りばね15は、弾性的に一端部間10a,10aを近接する方向に付勢する。
他端部間10b,10bには、押付け機構2と戻りばね16が取付けられている。押付け機構2は、裏側に延出する操作部材25(ケーブルなど)によって操作されることで他端部間10b,10bを離間させる機構である(図3参照)。戻りばね16は、弾性的に他端部間10b,10bを近接する方向に付勢する。
【0014】
他端部間10b,10bには、図1,2に示すようにアンカ部材41の凸部41aが張出している。
アンカ部材41は、図3に示すようにボルト42によって車体側の部材(キャリア)40に固定されている。したがってブレーキシュー10の回転は、アンカ部材41によって規制される構成になっている。
【0015】
裏板17の裏側には、図2に示すように略ドーナツ円盤状のダストカバー18が取付けられている。一方、裏板17の表側には、ロータ部材12が取付けられている。
ロータ部材12は、ハット型であって、取付部12aとドラム12bとディスク12cを一体に有している。
取付部12aは、中央部にてドーナツ円盤状に形成されており、車軸側の部材に取付けられる。したがってロータ部材12は、車輪とともに回転する。
【0016】
ドラム12bは、図2に示すように筒状に形成されており、取付部12aの外周縁から裏板17に向けて延出している。ドラム12bの内周面には、ドラム12bの内側に配設されたブレーキシュー10が押付けられる。そのためドラム12bは、ブレーキシュー10との間において制動力を生じる。
ディスク12cは、ドーナツ円盤状に形成されており、ドラム12bの外周面から外周側方に延出している。ディスク12cのインナ面とアウタ面のそれぞれには、サービスブレーキとして利用されるパッド13が押付けられる。そのためディスク12cは、一対のパッド13との間において制動力を生じる。
【0017】
押付け機構2(倍力機構)は、図1,2に示すように一対のブレーキシュー10をドラムに押付ける部材であって、トグルレバー20とストラット21を有している(トグル機構)。
トグルレバー20は、図3に示すように一端部が回動ピン22を介してストラット21と回動可能に取付けられている。そしてトグルレバー20は、他端部に掛止部20bを有し、一端部に係合部20aを有している。掛止部20bには、操作部材25の先端部に取付けられた掛止具24が掛け止められ、係合部20aには、ブレーキシュー10の一端部が係合されている。
【0018】
ストラット21は、一端部がトグルレバー20に回動可能に連結されており、他端部にブレーキシュー10の一端部が係合される係合部21aを有している。
したがって操作部材25を引くことによって、トグルレバー20とストラット21が車体側の部材40に固定されたボルト42の頭部に当接し、その状態にて回動ピン22を中心に回動する。そのため一対のブレーキシュー10は、トグルレバー20とストラット21とによってドラム12bに向けて押付けられる(図2,3参照)。
【0019】
保持機構3は、図3に示すように操作部材25を引くことによってドラムブレーキ部を制動状態にするとともに、操作部材25を引いた状態で保持することによってドラムブレーキ部を制動状態で保持する機構である。
保持機構3は、ハウジング30と、ハウジング30のシリンダ30bに内挿された制動用ピストン31と、ハウジング30の収納室30cに内設された隔回規制手段4とを有している。
【0020】
ハウジング30は、車体側の部材40に取付けられるフランジ部30aを有している。
ハウジング30には、配管が接続される配管口30dと、配管口30dとシリンダ30bの左端部とを連通する液路30fとが形成されている。そして液路30fの途中を開閉する電磁弁50がハウジング30に取付けられている。
【0021】
制動用ピストン31は、図3に示すように左端部に操作部材25と連結される連結部31aを有しており、液圧が印加されることによって操作部材25を右側に引張る構成になっている。
制動用ピストン31は、制動方向の先端側(右側)に軸部31bを有しており、軸部31bの先端部に隔回規制手段4の一部材である規制体33が固定されている。
【0022】
隔回規制手段4は、制動用ピストン31が軸方向に往復移動する毎に制動用ピストン31を制動位置と非制動位置とで切換え保持する構成になっており、図3に示すように規制体33、回転体34、回転力付与部材35、弾性部材36を有している。
規制体33は、図4に示すように制動用ピストン31の軸部31bに固定されており、制動用ピストン31とともに軸方向に移動する。
規制体33は、略筒状に形成されており、左端縁から右端縁に向けて深く切欠いた複数のスライド溝33aと、左端縁を浅く切欠いた切欠き部33bとを周方向に交互に有している。
【0023】
回転体34は、略筒状であって、収納室30c内において軸部31b周りに軸回転可能に取付けられており、規制体33に対して軸回転され得る構成になっている。
回転体34は、規制体33よりも左側に配設されており、規制体33に向けて張出す複数の張出部34aを有している。
回転力付与部材35は、略筒状であって、回転体34よりも右側に配設されており、回転体34に向けて突出する複数の突部35aを有している。回転力付与部材35は、収納室30c内に設けられた弾性部材36によって回転体34に向けて付勢されている。そして回転力付与部材35の軸孔内において規制体33が軸方向にスライドする。
【0024】
次に、隔回規制手段4を有する保持機構3の作用について説明する。
図4に示すように非制動状態によると、規制体33のスライド溝33aに回転体34の張出部34aが嵌っている。そのため規制体33は、左寄り(非制動状態位置)に位置し、制動用ピストン31が図3に示すように左側に位置する。したがって操作部材25が制動用ピストン31によって引張られていない。
【0025】
制動状態にする際には、電磁弁50を開いて(図3参照)、シリンダ30b内に液圧を印加し、制動用ピストン31を右側に移動させる。なお配管口30dには、液圧源(例えばESC等の加圧手段、ポンプ、ACC、マスターシリンダ等)が配管接続されている。
これにより規制体33が図5に示すように右側に移動し、規制体33のスライド溝33aから張出部34aが外れる。回転体34の張出部34aの先端面は、傾斜しており、その先端面に弾性部材36によって付勢された回転力付与部材35の突部35aの先端が押付けられている。そのため回転体34は、張出部34aの先端面に形成された傾斜によって軸回転する(回転構造)。
【0026】
その状態で電磁弁50を開き(図3参照)、シリンダ30b内の液圧を減圧すると制動用ピストン31が左側(非制動状態側)に移動しようとする。しかし図6に示すように規制体33の切欠き部33bに回転体34の張出部34aが嵌る。そのため規制体33の左方向への移動が規制される。
したがって制動用ピストン31は、隔回規制手段4によって非制動状態方向へ移動することが規制され、制動位置にて保持される。
【0027】
制動状態から非制動状態にする際には、電磁弁50を開き(図3参照)、シリンダ30bに液圧を印加し、制動用ピストン31を右側に移動させる。これにより規制体33が右方向に移動し、規制体33の切欠き部33bから張出部34aが外れる。そして回転体34の張出部34aが回転力付与部材35の突部35aに押され、回転体34が軸回転する(回転構造)。
【0028】
その状態で電磁弁50を開き(図3参照)、シリンダ30b内の液圧を減圧すると制動用ピストン31が左側(非制動状態側)に移動し、図4に示すように規制体33のスライド溝33aに回転体34の張出部34aが嵌り、制動用ピストン31が非制動状態の位置まで移動する。
【0029】
また制動用ピストン31と操作部材25との間には、図3に示すように制動状態において操作部材25を弾性的に制動方向へ付勢する弾性部材23が設けられている。
したがってブレーキ装置が冷却した際などに生じるブレーキシューのドラムへの押付け力の緩みは、弾性部材23のばね定数による荷重変化程度に軽減され得る構成になっている。
【0030】
以上のようにして駐車ブレーキ装置1が形成されている。
すなわち駐車ブレーキ装置1の保持機構3は、図3に示すように操作部材25を液圧によって引張る制動用ピストン31と、制動状態において制動用ピストン31の非制動方向への移動を機械的に規制する隔回規制手段4とを備えている。そして隔回規制手段4は、制動用ピストン31が内挿されるシリンダ30b内への液圧の印加隔回毎に液圧を利用することによって機械的規制を解除する構成になっている(図4〜6参照)。
【0031】
したがってシリンダ30b内への液圧印加によって制動用ピストン31が制動位置へ移動し、その状態が隔回規制手段4によって機械的に保持される(図3参照)。そのため制動状態は、シリンダ30b内の液圧に関わらずに保持され続ける。そしてその状態でシリンダ30b内に液圧を印加すると、隔回規制手段4による機械的規制が解除されて、制動用ピストン31が非制動状態方向へ移動可能となる。したがって駐車ブレーキ装置1は、シリンダ30b内への液圧印加毎に制動状態と非制動状態とに切換えられる。
そして制動状態と非制動状態は、シリンダ30bへの液圧印加によって作動する制動用ピストン31と隔回規制手段4とによって切換えられるため、液圧一系統の制御によって切換えられる。かくして駐車ブレーキ装置1は、簡易な構成でかつ小型化容易な構成になっている。
【0032】
そして制動状態と非制動状態とを液圧一系統によって切換えることができるために操作性にも優れている。
また保持機構3は、図3に示すように操作部材25を保持することによって制動状態を保持する構成である。そのためドラムの外に設けることが可能な構成にもなっており、小さなドラムなどに好適な構成になっている。
【0033】
また隔回規制手段4は、図4に示すように制動用ピストン31に設けられた規制体33と、規制体33に対して軸回転する回転体34と、制動用ピストン31の軸方向の往復移動毎に回転体34を軸回転させる回転構造(35,36等)とを備えている。そして回転体34と規制体33との間には、回転体34の軸回転毎に規制体33の非制動状態方向への移動を規制する状態と許容する状態とに切換える切換え規制構造(33a,33b,34a)が設けられている。
【0034】
したがって図3に示すようにシリンダ30b内の液圧によって制動用ピストン31が軸方向に移動し、制動用ピストン31の軸方向の往復移動毎に回転体34が軸回転する。そして回転体34の軸回転毎に規制体33を介して制動用ピストン31が非制動状態へ移動規制された状態と、移動許容された状態とに切換えられる。かくして駐車ブレーキ装置1は、制動状態と非制動状態とに切換えられる。
【0035】
また保持機構3は、図3に示すようにアンカ部材41の裏側に配設された車体側の部材40に取付けられている。したがって従来のケーブル引張り式駐車ブレーキ装置のようにケーブルが延びるおそれが少なく、頻繁にケーブル長さを調整する必要がない。また操作部材25の長さが短いため、従来のケーブル引張り式駐車ブレーキ装置のように長いケーブルを車体内で取り回す必要もない。
また駐車ブレーキ装置1は、図3に示すように既存のトグル機構からなる押付け機構2を利用している。そのため既存の構造を利用した汎用性の高い構成になっている。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態2は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態2に係る駐車ブレーキ装置は、図3に示す保持機構3に代えて図7に示す保持機構103を有している。以下、実施の形態1と相違する点を中心に実施の形態2について説明する。
【0037】
保持機構103は、図7に示すようにハウジング130と、ハウジング130に形成されたシリンダ130bに内挿される制動用ピストン131と、ハウジング130に形成された収納室130cに内設される隔回規制手段104とを有している。
ハウジング130には、配管が接続される配管口130dと、配管口130dとシリンダ130bの左端部とを連通する液路130fとが形成されている。そして液路130fの途中を開閉する電磁弁150がハウジング130に取付けられている。
【0038】
制動用ピストン131は、左端部に操作部材25と連結される連結部131aを有しており、液圧が印加されることによって操作部材25を右側に引張る。
制動用ピストン131は、制動方向の先端側(右側)に軸部131bを有しており、軸部131bの先端には、隔回規制手段104の一部材である傾動部材140が取付けられている。
【0039】
隔回規制手段104は、制動用ピストン131が右側に移動する毎に制動用ピストン131を制動位置と非制動位置とで切換え保持する構成になっており、図8に示すように傾動部材140、係合部材141、解除部材143、付勢部材142を有している。
傾動部材140は、図8に示すように略扇形であって、ハウジング130に回動可能に取付けられる回動部140bと、制動用ピストン131の軸部131b先端と回動可能に連結される連結部140cとを有している。そして外周円弧部に複数の歯を有する係合部140a(ラチェット歯)を有している。
【0040】
係合部材141は、図8に示すように中央にハウジング130に対して回動可能に取付けられる回動部141bを有している。
係合部材141の右寄り位置には、傾動部材140の係合部140aに向けて突出し、係合部140aの歯のいずれかに係合する係合爪141aと、付勢部材142の一端部142bが掛け止められる長穴141cとが形成されている。一方、係合部材141の左端部には、解除部材143の当接部143cに向けて延出する腕部141dが形成されている。
【0041】
解除部材143は、図8に示すように係合部材141と協働して制動用ピストン131の軸方向の往復移動毎に付勢部材142の姿勢を変えて係合部材141の付勢方向を変える部材であって、長穴143bと当接部143cとを有している。
長穴143bは、解除部材143のほぼ中央において縦方向に延出し、回動部141bに対して上下動可能に掛止められている。
【0042】
当接部143cは、図8に示すように解除部材143の左端部から係合部材141に向けて張出しており、係合部材141の腕部141dによって押され得る構成になっている。
そして解除部材143の右端部に付勢部材142の一端部142aが掛け止められている。
付勢部材142は、コイルスプリング(ねじりばね)であって、端部142a,142b間を離間させる方向に付勢する。そのため付勢部材142は、図8の状態においては、係合部材141を傾動部材140に向けて付勢している。
【0043】
次に、隔回規制手段104を有する保持機構103の作用について説明する。
図7に示すように非制動状態における制動用ピストン131は、左寄り(非制動状態位置)に位置しており、操作部材25を引張っていない。そしてこの状態における傾動部材140は、左方向に傾いている。
制動状態にする際には、電磁弁150を開いて(図7参照)、シリンダ130bに液圧を印加し、制動用ピストン131を右側に移動させる。これにより傾動部材140が図9に示すように反時計回りに傾動し、係合部140aが係合爪141aに係合する。
【0044】
その状態で電磁弁150を開き(図7参照)、シリンダ130b内の液圧を減圧すると制動用ピストン131が左側(非制動状態側)に移動しようとする。しかし図9に示すように係合爪141aが係合部140aに係合しているため、係合部材141が回動部141bを中心に反時計回りに回動する。そして腕部141dが解除部材143の当接部143cを押して、解除部材143が回動部143aを中心に反時計回りに傾動し、図10に示すように長穴143bの下端部が回動部141bに当接して停止する。そのため解除部材143と係合部材141との姿勢が定まる。そして係合爪141aと係合部140aとの係合にて傾動部材140の傾動量が規制され、制動用ピストン131の非制動状態方向への移動が規制される。そのため駐車ブレーキ装置101が制動状態にて保持される。
【0045】
制動状態から非制動状態にする際には、電磁弁150を開いて(図7参照)、シリンダ130bに液圧を印加し、制動用ピストン131を右側に移動させる。これにより傾動部材140が時計回りに傾動し、係合部材141が回動部141bを中心に時計回りに回転する。これにより付勢部材142の姿勢が変わり、一端部142aが一端部142bよりも傾動部材140側になる。そのため付勢部材142によって係合部材141は、係合爪141aが係合部140aから離間する方向に付勢される。かくして係合部材141と係合部140aとの係合が解除される。
【0046】
そしてこの状態において電磁弁150を開いて(図7参照)、シリンダ130b内の液圧を減圧すると、制動用ピストン131が左側に移動する。これにより傾動部材140が図11の状態から時計回りに回転する。そして傾動部材140の当接部140dが解除部材143の当接部143cに当接して、当接部143cが当接部140dに案内され、解除部材143が回動部143aを中心に時計回りに傾動する。かくして隔回規制手段104は、図8の状態、すなわち非制動状態に戻る。
【0047】
また制動用ピストン131と操作部材25との間には、図7に示すように制動状態において操作部材25を弾性的に制動方向へ付勢する弾性部材23が設けられている。
【0048】
以上のようにして駐車ブレーキ装置101が形成されている。
すなわち隔回規制手段104は、図8〜11に示すように係合部140a、係合部材141、付勢部材142、制動用ピストン131の軸方向の往復移動毎に付勢部材142の姿勢を変えて付勢部材142による係合部材141の付勢方向を係合部140aへ係合させる係合方向(図8参照)と、係合部140aから係合解除させる解除方向(図11参照)とに切換える切換え構造(141,143)とを備えている。
【0049】
したがって図7に示すようにシリンダ130b内の液圧によって制動用ピストン131が軸方向に移動し、制動用ピストン131の軸方向の往復移動毎に付勢部材142の姿勢が変わる。これにより付勢部材142による係合部材141の付勢方向が変わって、係合部材141が係合部140aに対して係合する状態と、係合部材141が係合部140aから解除する状態とに切換わる(反転する)。かくして駐車ブレーキ装置101は、制動状態と非制動状態とに切換えられる。
【0050】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態2とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態3に係る駐車ブレーキ装置201は、保持機構203のハウジング230と隔回規制手段204がドラムブレーキのドラム内に収納される点などにおいて実施の形態2と相違している。以下、相違点を中心に実施の形態3について説明する。
【0051】
ドラムブレーキは、図12に示すように裏板217と一対のブレーキシュー210を有しており、一対のブレーキシュー210の間には、連結部材211と押付け機構202が設けられている。
連結部材211は、一対のブレーキシュー210の一端部を回動可能に連結支持する部材である。
【0052】
押付け機構202は、駐車の際にブレーキシュー210をドラム212に押付けるため、梃子部材221と支持部材220と操作部材225を有している。
梃子部材221は、上端部221aが右側のブレーキシュー210の上端部に回動可能に取付けられており、右側のブレーキシュー210に沿って下方に延出している。そして梃子部材221の上端部近傍には、支持部材220の一端部が嵌め込まれている。そして下端部近傍には、操作部材225の一端部が連結されている。
【0053】
支持部材220は、梃子部材221と左側のブレーキシュー210との間に跨って延出しており、左端部220aが左側のブレーキシュー210に嵌合されており、右端部220bが梃子部材221に嵌合されている。
操作部材225は、保持機構203によって引張られることによって梃子部材221を回動させ、梃子部材221は、支持部材220の右端部220bを中心に回動する。そして梃子部材221と支持部材220とによって一対のブレーキシュー210がドラム212に押付けられる。
【0054】
保持機構203は、図12に示すようにハウジング230と隔回規制手段204を有している。
ハウジング230に形成されたシリンダ230bには、制動用ピストン231が内設されている。そして制動用ピストン231は、右端部が操作部材225と連結されており、左端部が隔回規制手段204に連結されている。
隔回規制手段204は、傾動部材240、係合部材241、付勢部材242、解除部材243を有しており、実施の形態2に係る隔回規制手段104と同じ構成になっている。
【0055】
ハウジング230は、図13に示すように裏板217の表面側に取付けられる表側部材232と、裏板217の裏面側に取付けられる裏側部材233とに分割構成とされており、裏板217を挟んで裏板217に取付けられている。
裏側部材233には、配管が接続される配管口230dが形成されており、裏側部材233と表側部材232との間には、配管口230dとシリンダ230bの右側端部とを連通する液路230fが形成されている。そして裏側部材233には、液路230fの途中を開閉する電磁弁250が取付けられている。
【0056】
また制動用ピストン231と操作部材225との間には、図12に示すように制動状態において操作部材225を弾性的に制動方向(左方向)へ付勢する弾性部材223が設けられている。
【0057】
(他の実施の形態)
本発明は、実施の形態1〜3に限定されず、以下の形態であってもよい。
(1)すなわち実施の形態1,2に係る保持機構は、ドラムインディスクブレーキ型のブレーキ装置に利用される形態であった。しかしブレーキシューがサービスブレーキとしても利用され得るドラムブレーキにおいて、前記保持機構が駐車ブレーキ装置として利用される形態であっても良い。
(2)また実施の形態1〜3では、操作部材の引張り操作にて操作される押付け機構を有する形態であった。しかしバーなどによって押されることによって、ブレーキシューをドラムに押付ける押付け機構などを有する形態であっても良い。
(3)また実施の形態1〜3は、制動用ピストンと操作部材との間に弾性部材が設けられていた。しかし弾性部材が制動用ピストンまたは操作部材の一部に設けられる形態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1に係るブレーキの正面図である。
【図2】図1のA−A線断面矢視図である。
【図3】図1のB−B線断面矢視図である。
【図4】隔回規制手段近傍の図3の一部拡大図である。
【図5】制動状態にする際の動作途中における実施の形態1に係る隔回規制手段の拡大図である。
【図6】制動状態を保持した際の実施の形態1に係る隔回規制手段の拡大図である。
【図7】実施の形態2に係る駐車ブレーキ装置の断面図である。
【図8】隔回規制手段近傍の図7の一部拡大図である。
【図9】制動状態にする際の動作途中における実施の形態2に係る隔回規制手段の拡大図である。
【図10】制動状態にした際の実施の形態2に係る隔回規制手段の拡大図である。
【図11】非制動状態にする際の動作途中における実施の形態2に係る隔回規制手段の拡大図である。
【図12】実施の形態3に係るブレーキの正面図である。
【図13】図12のC−C線断面矢視図である。
【符号の説明】
【0059】
1,101,201…駐車ブレーキ装置
2,202…押付け機構
3,103,203…保持機構
4,104,204…隔回規制手段
10,210…ブレーキシュー
12…ロータ部材
12b,212…ドラム
12c…ディスク
17,217…裏板
20…トグルレバー
21…ストラット
23,223…弾性部材
25,225…操作部材
30,130,230…ハウジング
30b,130b,230b…シリンダ
31,131,231…制動用ピストン
33…規制体
34…回転体
35…回転力付与部材
23,36,223…弾性部材
40…車体側の部材
140,240…傾動部材
141,241…係合部材
142、242…付勢部材
143,243…解除部材
220…支持部材
221…梃子部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューをドラムに押付けて制動状態にし、かつその制動状態を保持する保持機構を備えている駐車ブレーキ装置であって、
前記保持機構は、前記ブレーキシューを前記ドラムに押付ける押付け機構を操作する際に引張られるまたは押される操作部材を液圧によって引張るまたは押す制動用ピストンと、制動状態において前記制動用ピストンの非制動方向への移動を機械的に規制する隔回規制手段とを備え、
前記隔回規制手段は、前記制動用ピストンが内挿されるシリンダ内への液圧の印加隔回毎に前記液圧を直接的にまたは間接的に利用することによって前記機械的規制を解除する構成になっていることを特徴とする駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駐車ブレーキ装置であって、
隔回規制手段は、制動用ピストンに設けられた規制体と、その規制体に対して軸回転する回転体と、前記制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に前記回転体を軸回転させる回転構造とを備え、
前記回転体と前記規制体との間には、前記回転体の軸回転毎に前記規制体の非制動状態方向への移動を規制する状態と許容する状態とに切換える切換え規制構造が設けられていることを特徴とする駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の駐車ブレーキ装置であって、
隔回規制手段は、制動用ピストン側に設けられる係合部と、その係合部に機械的に係合する係合部材と、その係合部材を所定方向に付勢する付勢部材と、前記制動用ピストンの軸方向の往復移動毎に前記付勢部材の姿勢を変えて前記付勢部材による前記係合部材の付勢方向を前記係合部へ係合させる係合方向と、前記係合部から係合解除させる解除方向とに切換える切換え構造とを備えていることを特徴とする駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の駐車ブレーキ装置であって、
制動用ピストンと、その制動用ピストンによって操作される操作部材との間、あるいはこれらの部材のいずれかには、制動状態において前記操作部材を弾性的に制動方向へ付勢する弾性部材が設けられていることを特徴とする駐車ブレーキ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−161924(P2006−161924A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352908(P2004−352908)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】