説明

骨振動シート

【課題】 着座者の骨芽細胞の分化を促進するとともに破骨細胞の分化を抑制することで、着座者の骨密度の向上を図る。
【解決手段】シート1内に、人体の骨芽細胞の分化を促進するとともに破骨細胞の分化を抑制する特定の低周波数域の振動を出力するスピーカ2を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両や映画館のシート等に用いて好適の、骨振動シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車のシートや映画館のシートにスピーカ、特に低音用のスピーカを取り付け、スピーカから発生する振動を着座者の人体に直接伝導することにより、低音域の音を着座者の体全体に感じさせるようにしたスピーカ内蔵式の音響用シートが広く知られている。このような音響用シートは例えばボディソニックなどとも呼ばれ、映画館等のみならず、家庭内での使用を考慮したものもすでに実用化されている。
【0003】
また、このようなシートは医療用にも種々開発されており、例えば心療内科用にはリラクゼーションを目的としたシート(ソファ)が実用化されており、また外科用には、人工透析や外科手術前後の不安や痛みの緩和、ターミナルケア、ストーマケアを目的としたもの(手術台やベッド)が実用化されている。
なお、下記の特許文献1〜5には、スピーカ内蔵式音響用シートを自動車用シートに適用した技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−235385号公報
【特許文献2】特開2007−235386号公報
【特許文献3】特開2007−229105号公報
【特許文献4】特開2007−229106号公報
【特許文献5】特開2007−229107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスピーカ内蔵式のシートはいずれも音響用シートであって、音楽を楽しむためのシートに過ぎなかった。また、上述したような医療用のスピーカ内蔵シート(或いはベッド等)においても、やはりいずれも音楽を聴くことにより気持ちを和らげるようなものでしかなく、音響装置として機能しているに過ぎなかった。
これに対して、本願発明者らは人体に与える振動と、人体の骨内の未分化骨髄細胞との関連性に着目し、さまざまな実験を行った結果、スピーカによる振動刺激により骨内の未分化骨髄細胞の分化を制御できることを見出した。特に、スピーカからの振動により骨芽細胞の分化促進(骨形成促進)、及び破骨細胞の分化抑制(骨吸収抑制)の二つの効果を得られることを見出した。
【0005】
本発明は、このような知見に基づいて創案されたもので、着座者の骨芽細胞の分化を促進するとともに破骨細胞の分化を抑制することで、着座者の骨密度の向上を図るようにした、骨振動シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明の骨振動シートは、シート内に、人体の骨芽細胞の分化を促進するとともに破骨細胞の分化を抑制する特定の低周波数域の振動を出力するスピーカを有することを特徴としている。
なお、該特定の低周波数域が、100ヘルツ未満であるのが好ましく、特に、5〜50ヘルツであるのが好ましい。
【0007】
また、該シートが車両内に設けられる車両用シートであって、該スピーカは、車内の音響用スピーカから出力される音楽に同期して作動するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の骨振動シートによれば、スピーカから特定の低周波数域の振動を出力して着座者の骨に振動を伝達することにより、着座者の骨密度の増加、すなわち骨量増加を図ることができる。これにより、着座者の骨粗しょう症等を改善することができる。
また、スピーカからの振動を単調な正弦波等で与えるのではなく、音楽視聴時にスピーカを作動させることで、着座者に違和感を与えることなく振動を付与することができるほか、リラクゼーション効果を得ることができる。
【0009】
また、スピーカの作動遅れを考慮して、音響用スピーカと同期させることにより、違和感の更なる低減を図ることができる。また、スピーカの作動を音楽と同期させることにより、シートにいわゆるボディソニックとしての機能を付与することができる。したがって、骨量の増加を図りながら音響を楽しむことができるという2つの異なる効果を同時に得ることができる。これにより、付加価値の極めて高いシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係る骨振動シートについて説明すると、図1は本発明を車両用シートに適用した場合の構成の一例を示す模式図、図2はスピーカ振動が与える影響について説明する図、図3〜図8はいずれも本シートのスピーカ取り付け構造を説明する図、図9はスピーカの振動周波数とカルシウム沈着量との関係を示す図、図10及び図11はスピーカ構造について説明する図である。
【0011】
図1において、1は車内に設けられたシートであって、ここでは運転席シートを示している。また、シート1にはスピーカ2が内蔵されており、このスピーカ2からは極めて低い特定の周波数域(100Hz未満、好ましくは5〜50Hz)の振動が出力されるようになっている。このため、スピーカ2は音響用スピーカ(音楽を聴くためのスピーカ)としての機能を考慮すると低音再生用のウーハーということができるが、本実施形態では主として音響再生以外の用途に用いられるようになっている。なお、これについては後述する。
【0012】
また、車内にはオーディオのヘッドユニット(CDプレーヤ,アンプ,チューナ等の機能を一体化したオーディオユニット)3が設けられ、スピーカ2はヘッドユニット3に対しローパスフィルタ(LPF)4を介して接続されている。なお、LPF4は、100Hz以上の信号を減衰させる公知のフィルタである。
また、車内には、上記のスピーカ2とは別に、音響用のスピーカ6が設けられており、図示するように、音響用スピーカ6はディレイ回路5を介してヘッドユニット3に接続されている。そして、この音響用スピーカ6からはヘッドユニット3で選択されたソース(音源)の音楽又は音声が出力され、シート1のスピーカ2からは上記ソースの100Hz未満の低音域の特定周波数の振動が出力されるようになっている。
【0013】
ここで、ディレイ回路5は、音響用スピーカ6から出力される音声と、シート1に取り付けられたスピーカ2から出力される振動とを同期させるために設けられている。なお、同期させる理由については後述する。また、本実施形態では上述のLPF4及びディレイ回路5をヘッドユニット3に対してそれぞれ個別に設けて構成しているが、これらLPF4及びディレイ回路5をヘッドユニット3に対して一体に構成してもよい。
【0014】
次に、図2を用いて人体の骨細胞について簡単に説明すると、図示するように骨髄には2系統の未分化骨髄細胞として造血系幹細胞と間葉系幹細胞とが含まれていることが知られている。このうち造血系幹細胞は分化して前破骨細胞(GM−CFU,破骨細胞前駆体)となり、さらに分化して破骨細胞となる。また、この破骨細胞は人体の古い骨細胞を溶かして吸収(破壊)する機能を有している。
【0015】
一方、間葉系幹細胞は分化して前骨芽細胞となり、さらに分化して骨芽細胞となる。また、この骨芽細胞は新しい骨を形成する機能を有しており、骨の表面を破骨細胞が溶かした後に骨芽細胞が骨細胞に沈着することで、その部位に新たな骨が形成される。
このように、骨も皮膚と同様に新陳代謝を繰り返しているのであって、破骨細胞により古い骨を吸収し(骨吸収)、骨芽細胞により新たな骨を形成する(骨形成)というサイクルを繰り返すことで骨のしなやかさや強さを保っている。なお、これを骨のリモデリング(再構築)という。
【0016】
そして、骨のリモデリングに係る破骨細胞と骨芽細胞とのどちらの働きが活発となるかにより、骨の量が減る(骨密度が低下する又は骨量が低下する)のか、骨の量が増える(骨密度が増加する又は骨量が増加する)かが決まる。具体的には破骨細胞の方が活発に活動する或いは骨芽細胞の働きが弱いと骨密度が低下し、骨粗鬆症となるリスクが高まることになる。
【0017】
本願発明者らは、このような知見に基づいて、人体の骨に与える振動と人体の骨内の未分化骨髄細胞との関連性に着目し、さまざまな実験を行ってきた。
そして、この結果、シート1に着座した人に対してスピーカ2から特定周波数域の振動刺激を骨細胞に与えると、骨内の未分化骨髄細胞の分化を制御できることを見出した。特に、スピーカからの振動により骨芽細胞の分化促進(骨形成促進)、及び破骨細胞の分化抑制(骨吸収抑制)の二つの効果を得られるという知見を得た。また、このときの振動条件を詳しく調べたところ、周波数は100Hz未満が好ましく、特に5〜50Hzの周波数域で効果が顕著であることが確認できた(図9参照)。なお、図9において、縦軸は骨細胞に対するカルシウム沈着量(骨芽細胞の分化促進度合い又は骨量と等価)、横軸が周波数であり、5〜50Hzの周波数域でカルシウム沈着量が突出しているのがわかる。
【0018】
そこで、このような振動を出力するスピーカ2を自動車用シート1に取り付け、乗車中に特定周波数域の振動を乗員に与えることで、乗員の骨密度の向上を図る事が可能となるのである。ただし、このような低周波域(100Hz未満、好ましくは5〜50Hz)の単調な振動(例えば正弦波)のみを与えていると、人によっては不快感を覚えることが考えられる。
【0019】
このため、本実施形態では、上述したようにオーディオのヘッドユニット3にスピーカ2を接続して、音楽と同期してスピーカ2から低周波振動を出力するようにしているのである。ところで、このような低周波での再生には、通常大口径のウーハが適しているが、スピーカ2をシート1内部に取り付けるという構造上、大口径ウーハを用いることができない。そこで、本実施形態では上述したように、ヘッドユニット3とスピーカ2との間にLPF4を介装し、骨密度の向上に寄与しない周波数(特定の低周波数域以上の周波数、本実施形態では100Hz以上)をLPF4で減衰させることにより、比較的小さい口径のスピーカ2で低音域の再生を実現しているのである。なお、このような特定の低周波数域以上の周波数を減衰させることにより、副次的に室内でのこもり音の発生も低減することができる。これは、車内で発生するこもり音は主に100Hz以上の周波数域が原因となっているからであり、この音域を減衰させることで、こもり音の低減を図ることができる。
【0020】
次に、スピーカ2の構造及びシート1への取り付け構造について説明する。すでに上述したように、一般的に低周波数域の再生には大口径のウーハが適しているが、スピーカ2をシート1内部に取り付けるという構造上、大口径ウーハを用いることができない。このため、本実施形態では、比較的小型のスピーカ2を用いているが、このような小型のスピーカであっても効率よく低周波数域を着座者に伝達できるようにスピーカ2に対して工夫がなされている。
【0021】
具体的には、図10に示すように、スピーカ2のコーンにアルミ板2aがたとえば接着剤や融着などにより接合されており、このアルミ板2aによりコーンが覆われるようになっている。このようにスピーカ2のコーンにアルミ板2aを装着することにより振動板重量を重くし、最低共振周波数を下げることにより、より低音域の音を効率的に再現できる。また、重い振動板を動かすことにより、振動伝達力が増す。
【0022】
また、スピーカ2の振動時にシート1の構成部材(例えば後述するSバネ)との干渉による異音(ビビリ音)を防止するために、図11に示すように、上記アルミ板2aにウレタンパッド2bが装着されている。そして、このウレタンパッド2bがシート表皮に触れることでビビリ音の発生が防止されるようになっている。
ところで、スピーカ2は上述のように、低音域再生および振動伝達の効率化のためにコーン部にアルミ板を装着しているため、振動板重量が重くなり、音響用スピーカ6に対して駆動が遅れることになる。したがって、単に音響用スピーカ6とシート1内のスピーカ2とを同時に駆動すると、シート1に設けられたスピーカ2からの出力に位相遅れが生じてしまう。
【0023】
このような位相遅れが生じると、通常は着座者は違和感を覚える。そこで、上述したように、本実施形態ではヘッドユニット3と音響用スピーカ6との間にディレイ回路5を介装し、ディレイ回路5を作動させることで音響用スピーカ6の作動とスピーカ2との作動との同期を図り、上述の位相遅れを解消しているのである。
ところで、図3〜図8はいずれも本シートのスピーカ取り付け構造について示す図であって、図3及び図5はシートバックのフレームを左前方から見た斜視図、図4は同じく左後方から見た斜視図、図6は同じく右後方から見た図である。また、図7及び図8はその要部を拡大して示すものであって、図7(a)及び図8(a)はいずれも、図3,図5と同様に左前方から見た斜視図、図7(b)及び図8(b)はいずれも、図4と同様に左後方から見た斜視図である。
【0024】
ここで、図3〜図8において、符号10,11はいずれもシート1の左右方向に配設されるSバネであって、図3〜図6に示すように、左右のシートフレーム12,13の間に架設されている。なお、Sバネとは、JISのばね用語(JIS B 0103)において定義されている用語のうち、「c).形状の欄」の「3800 その他のバネ」に分類される「3810 ジグザクばね」に相当しており(JISの付図62参照)、このジグザグばねを慣用的にSバネと称している。
【0025】
このSバネ10,11は図中の左右方向(バネの長さ方向)への伸縮を許容することによりシート1の乗り心地に寄与するバネであって、シートフレーム12,13間において、上下方向に複数配設されている。
そして、スピーカ2は、この隣接する2つのSバネ10,11に後述の樹脂製クリップ14,15及び金属製ブラケット16,17を介して固定されるようになっている。ここで、2つのクリップ14,15のうち、図3及び図5に示すように、14は上方のSバネ10に取り付けられる上側クリップであって、15は下方のSバネ11に取り付けられる下側クリップである。なお、これらのクリップ14,15は同一の形状に形成されており、特段の相違はない。したがって、以下では主に上側のクリップ14を用いて説明する。
【0026】
クリップ14は樹脂により一体に形成されたものであり、図7(a),(b)及び図8(a),(b)に示すように、クリップ本体20と、クリップ本体20の一方側に形成されたスリット部(第1係合部)21と、クリップ本体20の他方側に形成された係合部(第2係合部)22とを有している。
スリット部21は、Sバネ10の直線部(一方の直線部分、以下第1直線部という)10aの線径よりも僅かに広い隙間を有して形成されており、このスリット部21において直線部10aが遊嵌されるようになっている。このため、クリップ14をSバネ10に取り付けた後、スリット部21においては左右方向及び上下方向に対してクリップ14とSバネ10との相対変位が許容されるようになっている。
【0027】
また、係合部22は上記第1直線部10aと対向する直線部(他方の直線部分、以下第2直線部という)10bと係合する部位であって、断面が凹部形状に形成されている。そして、この係合部22に第2直線部10bが係合されるようになっている。また、この係合部22においても、第2直線部10bに対し上下方向には相対変位が許容されるようになっている。
【0028】
また、図示するように、スリット部21と係合部22とでは、Sバネ10の直線部10a,10bに対する取り付け方向が略直交するように形成されている。具体的には、スリット部21は、シート1の左右方向からSバネ10に向けて差し込むことで第1直線部10aを把持するように形成され、係合部22は、シート1の前後方向からSバネ10に向けて押圧することで第2直線部10bが係合するように形成されている。
【0029】
また、クリップ本体20には図示するように縦方向に2つの穴部20a,20bが形成されており、この穴部20a,20bを介してブラケット16が取り付けられるようになっている。
ここで、図3及び図4に示すように、ブラケット16,17はスピーカ取り付け用の2本のスタッドボルト24,25と、上記スタッドボルト24,25とは反対方向に向けて立設したクリップ14,15への固定用のスタッドボルト26,27(以下、スピーカ取り付け用の2本のスタッドボルト24,25と区別するために小スタッドボルト26,27という)とを備えている。
【0030】
そして、上記小スタッドボルト26,27をSバネ10に固定されたクリップ14,15の穴部20a,20bに挿通してナット28で締結することによりブラケット16,17がクリップ14,15に固定されるようになっている。また、図5,図6に示すように、ブラケット16,17のスタッドボルト24,25とナット29とを用いてスピーカ2が4点で固定されるようになっている。
【0031】
本発明の一実施形態に係る骨振動シートは上述のように構成されているので、その作用等について説明すると以下のようになる。
まず、スピーカ2のシート1への取り付けについて説明する。スピーカ2はシート1の骨格が形成されたのちに表皮を被せる前に取り付けられる。以下、具体的に説明すると、まず最初にクリップ14,15の取り付けを行う。このとき、スリット部21をSバネ10の第1直線部10aに対して左右方向から差込み、上記直線部10aを把持する〔図7(a),(b)の状態〕。次に、スリット部21で把持した第1直線部10aを軸としてクリップ14を回動させて、第2直線部10bと係合部22とを対向させる。そして、この状態で係合部22を前後方向から第2直線部10bに押圧して、係合部22に第2直線部10bを係合させる。これにより、図8(a),(b)に示すような状態でクリップ14がSバネ10に取り付けられる。
【0032】
ここで、スリット部21においては、Sバネ10を左右方向に拘束していないので、Sバネ10が伸びた場合、第1直線部10aとスリット部21との間で左右方向に相対変位が許容され、これによりSバネ10の伸縮を何ら阻害せずにクリップ14,15をSバネ10に取り付けることができる。また、クリップ14,15の上下方向への動きも許容されるので、スピーカ2を取り付ける際の厳密な寸法管理が必要なくなり、この結果コスト低減を図ることが可能となる。
【0033】
そして、クリップ14,15をSバネ10に取り付けた後、ブラケット16,17の小スタッドボルト26,27をクリップ14,15の開口20a,20bに挿通してナット28で締結することにより、クリップ14,15にブラケット16,17が取り付けられる。また、このブラケット16,17に対してスタッドボルト24,25とナット29とを用いてスピーカ2を固定する。
【0034】
これにより、スピーカ2を簡単且つ確実に固定することができる。また、Sバネ10のたわみ(伸縮)を阻害しないので、シート1の乗り心地に何ら悪影響を与えることがないという利点がある。また、Sバネ10が伸縮した場合であっても、クリップ14を樹脂で形成することにより、スリット部21においてSバネ10とクリップ14とが擦れても異音の発生を防止することができる利点がある。
【0035】
また、クリップ14に対して金属製のブラケット16を取り付けることにより、剛性の高い取り付け構造とすることができる。
また、本実施形態のスピーカ取り付け構造によれば、取り付け構造自体を簡素化でき、部品点数を低減することができるほか、これにともない重量も低減することができるという利点がある。また、スピーカ2の有無に関係なくシート1の構造を共通化することができる。つまり、スピーカ2を取り付けるシート1とスピーカ2を取り付けないシート1とで異なる仕様のシートを用意する必要がなくなり、部品点数及びコスト低減を図る事ができる。
【0036】
また、スピーカ2にアルミ板2aを装着することにより、小型のスピーカ2を用いながら効率よく振動を伝達することができる利点がある。
また、アルミ板2aの上に、ウレタンパッド2bを装着することにより、スピーカ2の作動時にビビリ音を防止することができる。
ところで、このシート1を図示しない車両に取り付けるとともに、スピーカ2をLPF4を介してオーディオのヘッドユニット3に対して接続して使用することで、シート1として以下のような作用及び効果を奏する。
【0037】
まず、音楽を聴く場合に、ヘッドユニット3から通常の音響用スピーカ2に対してはディレイ回路5を介して信号が出力される。ここでディレイ回路5では、シート1のスピーカ2の作動遅れを考慮して、2つのスピーカ2,6からの出力が同期するように(位相ずれがないように)、ディレイ時間が設定されている。したがって、音響用スピーカ6からは上記ディレイ時間だけ遅れて音楽が出力されることになるが、この点以外は通常の自動車用オーディオと同様に音楽を楽しむことができる。
【0038】
一方、シート1に設けられたスピーカ2からは、LPF4により100Hz以上(好ましくは50Hz以上)の音域が減衰される。したがって、このスピーカ2からは特定周波数域(100Hz未満、好ましくは5〜50Hz)の周波数の振動が出力される。ここで、このような特定周波数の振動を骨に与えると、図2を用いて説明したように、骨芽細胞の分化促進(骨形成促進)、及び破骨細胞の分化抑制(骨吸収抑制)の二つの効果を得ることができ、着座者の骨量増加を図ることができる。
【0039】
このような効果は1日当たり15分の振動を3週間与えるのみでも顕著な効果を得ることができ、シート1に座り音楽を聴くことにより、骨細胞のリモデリングを促進して、例えば乗員の骨粗しょう症を改善することができる。
また、この振動を単調な正弦波等で与えるのではなく、音楽視聴時にスピーカ2を作動させることで、乗員(着座者)に違和感を与えることなく、振動を付与することができる。特に、本実施形態においては、スピーカ2の作動遅れを考慮して、音響用スピーカ6とスピーカ2とを同期させているので、さらに違和感を低減することができる。また、音楽と同期させることにより、シート1にいわゆるボディソニックとしての機能を付与することができ、骨量増加という効果と同時に音響装置として楽しむことができるという効果を両立させることができる。したがって、付加価値の極めて高いシート1を提供することができる。
【0040】
また、LPF4で少なくとも100Hz以上の周波数域を減衰させることにより、車内のいわゆるこもり音を低減することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、特定の低周波数を単独で出力すると着座者が不快に感じる場合があることを考慮して、オーディオからの音楽と同期させるようにした場合について説明したが、単に特定の低周波数を出力するためのオンオフスイッチを設け、着座者が自らの意思でシート1に振動を与えるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、シート1を自動車用シートに適用した場合について説明したが、自動車以外にも種々の乗り物用シートにも適用できるのはいうまでもない。さらには、映画館のシートや医療用シートに適用してもよいし、パーソナルユース(家庭用)のソファに適用してもよい。もちろん上述したような種々のシートへの適用についても、音楽と同期させてもよいし、同期させなくてもよい。
【0042】
また、上記実施形態ではLPF4を設け、特定の低周波数域(100Hz未満、好ましくは5〜50Hz)以上の周波数を減衰させているが、物理的な特性により特定の低周波数域のみの振動を出力するような特性であれば、LPF4は設けなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の骨振動シートを車両用シートに適用した場合の構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る骨振動シートの作用について説明する図であって、人体の骨形成について説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左前方から見た斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左後方から見た斜視図。
【図5】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左前方から見た斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを右後方から見た斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る骨振動シートにおけるスピーカ取り付け構造の要部を説明する図であって、(a)は左前方から見た斜視図、(b)は左後方から見た斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る骨振動シートにおけるスピーカ取り付け構造の要部を説明する図であって、(a)は左前方から見た斜視図、(b)は左後方から見た斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ振動周波数とカルシウム沈着量との関係を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ構造を説明する図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る骨振動シートのスピーカ構造を説明する図である。
【符号の説明】
【0044】
1 シート
2 スピーカ
2a アルミ板
2b ウレタンパッド
3 ヘッドユニット
4 ローパスフィルタ(LPF)
5 ディレイ回路
6 音響用スピーカ
10,11 Sバネ
12,13 シートフレーム
14,15 クリップ
16,17 ブラケット
20 クリップ本体
21 スリット部
22 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート内に、人体の骨芽細胞の分化を促進するとともに破骨細胞の分化を抑制する特定の低周波数域の振動を出力するスピーカを有する
ことを特徴とする、骨振動シート。
【請求項2】
該特定の低周波数域が、100ヘルツ未満である
ことを特徴とする、請求項1記載の骨振動シート。
【請求項3】
該シートが車両内に設けられる車両用シートであって、
該スピーカは、車内の音響用スピーカから出力される音楽に同期して作動するように構成されている
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の骨振動シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−297408(P2009−297408A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157977(P2008−157977)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【出願人】(000225887)難波プレス工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】