説明

高い固形成分含有率を有する層状珪酸塩スラリ

スラリあるいは懸濁物の総重量に対して少なくとも10重量%の層状珪酸塩と;b)水性の懸濁媒体と;c)90000未満の平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコールおよび/または少なくとも1つの自由酸形態のポリアクリル酸から選択された分散補助剤;を含んだスラリあるいは懸濁物が記載されている。さらに、前記スラリあるいは懸濁物の製造方法ならびに好適な適用方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
この発明は、高い固形成分含有率を有する層状珪酸塩からなるスラリあるいは懸濁液、ならびにその製造方法及び適用方法に関する。
【0002】
いくつかの特定の技術用途においてベントナイト等の層状珪酸塩が分散した形態で添加される。その用途は例えば製紙作業における不純物結合、あるいは洗剤調合物に該当する。すなわちベントナイトが製紙プロセスに際していわゆる固着剤として使用される。
【0003】
粉末形態の洗剤調合物へのベントナイト添加は、洗濯物の柔軟効果を高めるよう作用する。その原理は更に、同様にベントナイトの添加によって洗濯物の柔軟効果を高める必要がある液体洗剤にも採用されている。
【0004】
前述した技術分野において、水性の懸濁液あるいはコロイド状溶液内においてベントナイトの固形成分含有率が特に高くなるように分散した形態のベントナイトを提供することが重要である。しかしながら例えばベントナイトは水性のコロイド状溶液内において通常ゲルを形成するため、そのような高濃縮されたスラリの製造は容易ではない。この効果は特に、増粘剤へのベントナイトの使用に際して技術的に利用される。ベントナイトにおけるゲル形成メカニズムは、例えばS・アーベント氏およびG・ラガリ氏による応用クレイ科学第16号(2000年)第201−227頁の発表において記載されている。
【0005】
米国特許第5484834号明細書には、水、ポリアクリレート、および珪酸のナトリウム塩を含んだ液体状のベントナイトスラリが開示されている。このベントナイトスラリはさらに10ないし30重量%の量のスルホン酸塩を含んでいる。これは、10ないし30重量%に上る高い分散剤濃度、ならびにスラリをアルカリ化するナトリウム珪酸塩の存在のため、pH値が中性領域にある調合物には適用できない。
【0006】
国際公開第93/22254号パンフレットにはベントナイトスラリならびにその製造方法が記載されている。ここで濃縮された水性のベントナイトスラリは少なくとも8重量%の分散したベントナイトを含んでいる。塩の添加によって低い粘性が設定される。ここで第1の塩は、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、あるいは燐酸塩の一群のうちの陰イオンを有するナトリウムあるいはリチウム化合物に係り、それらは個別にあるいは組み合わせて添加される。第2の塩成分はカリウム塩、ならびに塩化物、炭酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、あるいは燐酸塩の一群のうちの陰イオン、または珪酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムあるいは低い分子量を有するナトリウムポリアクリレートに係る。この種の調合物には、高い電解質含有率がゲル相を破壊するかあるいは影響を与えるため、液体状洗剤との混和性を有していないという問題点がある。
【0007】
欧州特許出願公開第0485124号A1明細書には、少なくとも15%のベントナイトを有する濃縮液として製紙プロセスに使用されるベントナイト膨潤粘土が開示されている。高いベントナイト濃度は電解質添加によって達成される。電解質として1価イオンの塩、特にナトリウムおよびアンモニウム塩が使用される。それは例えば塩化物、硫酸塩、あるいは炭酸塩化合物に係る。9−30重量%のベントナイト濃度を有するスラリを設定することができる。製紙工程における使用のためにはそのスラリを後に希釈する必要がある。電解質においては、主に適宜な塩化物、硫酸塩、あるいは炭酸塩化合物の形態のナトリウムあるいはアンモニウム塩が使用される。その適用は製紙工程においてのみ可能であり、洗剤においては不可能である。
【0008】
国際公開第95/09135号パンフレットには、低い粘性を有している安定化された高濃度スメクタイトスラリとその製造方法が開示されている。このスラリは10ないし47重量%のスメクタイト質の粘土を含んでいる。低分子アミン(少なくとも0.3重量%)の添加によって粘土の膨潤が防止され、スラリの固形成分含有量が高まる。アミンが陰イオン性の界面活性剤システムとの間で交換作用を有する可能性があるため、この種のアミンの使用によってスラリの使用が制限される。従ってベントナイトスラリを洗剤調合物中に添加するためにはアミンを使用せずに加工することが好適である。国際公開第95/09135号パンフレットには、主に製紙および/または増粘剤としての適用が記載されている。
【0009】
従来の技術によるスラリは前述のように問題点を有しており、従って高い層状珪酸塩含有率および良好な貯蔵安定性を有する改善されたスラリの需要が常に存在している。
【0010】
従って本発明の目的は、例えばカルシウムベントナイト、マグネシウムベントナイト、およびカルシウム−ナトリウムベントナイト等のベントナイトのような多様な層状珪酸塩タイプに適用可能であるとともに長期貯蔵安定性を有するスラリの製造に適している、高濃縮されたスラリ製造のための添加剤コンセプトを開発することである。本発明の目的はさらに、従来の技術の問題点を克服することができる、高い固形成分含有率を有する層状珪酸塩からなるスラリあるいは懸濁物を提供することである。
【0011】
前記の課題は本発明の第1の特徴に従って、
a) スラリあるいは懸濁物の総重量に対して少なくとも10重量%の層状珪酸塩と、
b) 水性の懸濁媒体と、
c) 90000未満の平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコールおよび/または少なくとも1つの自由酸形態のポリアクリル酸から選択された分散補助剤、を含んだスラリあるいは懸濁物によって解決される。
【0012】
意外なことに、前記の高い層状珪酸塩含有率(10重量%あるいはそれ以上)を有するスラリ内の分散補助剤によって、従来の技術において発生していた粘性増加あるいはゲル形成の問題を回避することができ、長期保存可能で高濃縮されたスラリを製造し得ることが判明した。
【0013】
スラリあるいは懸濁物が前記の成分a)、b)およびc)の他には全く1価の金属イオンを含有する成分を含まないことが特に好適である。従って本発明の1つの特徴は、粘性を低下するための特にリチウムおよびナトリウム塩等の塩の使用が、特にカルシウムおよび/またはマグネシウム形態のベントナイト等の層状珪酸塩、ならびに高いカルシウムおよび/またはマグネシウム含有率を有する層状珪酸塩の分散に際して問題となるという知識に基づいている。1価のイオンを分散のために付加すると、まず1価のイオンが2価の中間層陽イオンとの交換によってベントナイトを活性化することによる粘性の増加が観察される。そのよう場合は国際公開第95/09135号パンフレットに記載されているようなポリアクリレートのアルカリ塩の使用によっても目的を達成することはできず、その理由は単純な無機塩の場合と同様に活性化が生じるためである。すなわち、ポリアクリレートのアルカリ塩の使用によってまず低粘性のスラリのベントナイトの分散が生じることが確認されたが、1ないし3日の貯蔵期間後に肉眼大のゲルが形成される。
【0014】
本発明の枠内においては一般的に任意の層状珪酸塩を使用することができる。それらの層状珪酸塩は当業者において周知である。層状珪酸塩は例えば天然または合成の二層あるいは三層の層状珪酸塩とすることができる。三層の層状珪酸塩としては、スメクタイト(モンモリロナイト、ヘクトライト、アンチゴライト、ノントロナイト、バイデル石、あるいはサポナイト等)、バーミキュライト、イライト、あるいはグリマーの一群の中のものを使用することができる。
【0015】
別の使用可能な層状珪酸塩は海泡石、アタパルジャイト(パリゴルスカイト)、スチーブンサイト、あるいは緑泥石である。モンモリロナイト質の鉱物としては特に、採掘した場所に従って異なった組成であり得るベントナイトおよびフラー土が挙げられる。
【0016】
層状珪酸塩は化学および/または熱処理によって改質したものとし得る。化学的な改質は特に無機および/または有機酸による活性化であると理解される。無機酸としては例えば塩酸、燐酸、あるいは硫酸が挙げられる。
【0017】
熱処理は乾燥および場合によって焼結を含んでいる。熱処理は酸化性あるいは還元性の条件下で実施することができる。
【0018】
本発明の好適な一実施形態によれば、層状珪酸塩はスメクタイト質の層状珪酸塩である。層状珪酸塩がベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、あるいはバイデル石の一群のうちのものであればさらに好適である。
【0019】
本発明の極めて好適な一実施形態によれば、使用される層状珪酸塩は2価の陽イオン、特にカルシウムおよび/またはマグネシウムイオン等のアルカリ土金属イオンを含んだ層状珪酸塩である。それに関しての原理は当業者において周知である。層状珪酸塩内の2価の陽イオンの存在は例えば元素分析によって判定することができる。極めて好適な実施形態によれば、カルシウムを含んだ層状珪酸塩が使用される。
【0020】
好適な実施形態によれば、陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity、CEC)の一部が2価あるいはより多価の陽イオンによって、特にカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンによって、特に好適にはカルシウムイオンによって形成される。CECの測定方法ならびに個別のイオン成分比については後述する。
【0021】
従って意外なことに、この種の層状珪酸塩によって従来の技術において発生していた粘性増加あるいはゲル形成の問題を回避し、長期安定性の高濃縮されたスラリを製造できることが判明した。
【0022】
本発明の別の好適な実施形態によれば、少なくとも1つの層状珪酸塩が膨潤性の層状珪酸塩に係る。この少なくとも1つの層状珪酸塩の膨潤能力は少なくとも4ml/2gであることが好適である。膨潤能力は後述する方法欄において定義するように判定することができる。この際、純粋なカルシウムおよび/またはマグネシウム含有層状珪酸塩も膨潤性であることが注目される。2価の中間層陽イオンと1価の陽イオンとの交換によって、層状珪酸塩が水性の懸濁液あるいはスラリ中で膨潤する。
【0023】
2種類あるいはそれより多い層状珪酸塩をスラリあるいは懸濁物に対して使用することができる。本発明の枠内において“スラリ”および“懸濁物”という表現は広範かつ同義のものと理解され、分散液あるいは懸濁液はいずれも少なくとも1つの層状珪酸塩を液体状の媒体内に含んでいる。
【0024】
本発明の枠内において、少なくとも1つの極めて大きな分子量を有するポリエチレングリコールの使用によって前述したような極めて高濃縮されかつ高い貯蔵安定性を有する少なくとも1つの層状珪酸塩の懸濁物あるいはスラリが得られるという第1の特徴が判明した。
【0025】
本発明の第2の特徴によればさらに、少なくとも1つのポリアクリル酸を酸形態(プロトン化された形態)で使用することによっても極めて良好な貯蔵安定性を有する高濃縮されたスラリが得られることが判明した。
【0026】
前述したように、(濃縮された)スラリの製造に際して成分a)、b)およびc)に対して1価の金属イオン(あるいはアンモニウムイオン)を含んだ成分を付加しないことが好適である。水性の懸濁媒体(成分b))は1価の金属(あるいはアンモニウムイオン)を含まないことが好適である。分散補助剤(成分c))自体にも同様のことが該当することが好適である。意外なことに、それによって前記少なくとも1つの層状珪酸塩の強度の膨潤およびゲル化を防止し得ることが判明した。
【0027】
本発明に係るスラリあるいは懸濁物において高濃縮された水性分散液のベントナイト等の層状珪酸塩が貯蔵安定性を有するように製造され、その際分散液は依然としてポンプ吸引可能であるとともに粘性状態が数日あるいは数週間にわたって貯蔵安定性を保持することが好適である。
【0028】
本発明の枠内においてさらに、スラリのpH値が約4ないし10、特に約5.5ないし9、さらに好適には約6ないし9、特に好適には約6.5ないし8.5であれば、極めて好適な(低い)粘性と高い貯蔵安定性をスラリが有することが判明した。前記のpH値が単に前記の少なくとも1つの層状珪酸塩を水性の懸濁媒体内に懸濁させ必要に応じて分散補助剤(成分c))を添加した後に得られなかった場合は、前記のpH値領域への調節は少なくとも1種類の酸の添加によって実施することができる。その際原則的に任意の無機あるいは有機酸を使用することができる。それらに限定されるものではないが、特に、例えば塩酸、硫酸、燐酸、あるいは硝酸等の鉱酸を使用することができる。有機酸には、例えばクエン酸、蓚酸、蟻酸、酢酸等が挙げられる。特に好適には塩酸が使用される。
【0029】
本発明の好適な実施形態によれば、その陰イオンがCa2+あるいはMg2+に対してあまり錯イオン化作用しない、あるいは全く錯イオン化作用しない酸が使用される。それによって層状珪酸塩からのCa2+あるいはMg2+の分離とそれに従ってスラリの活性化あるいは増粘がさらに低減される。
【0030】
本発明によればさらに、酸添加を実施する限り、所与のpH値への調節のために水性の懸濁媒体内に酸が存在し、その後少なくとも1つの層状珪酸塩の添加が実施される。
【0031】
本発明の好適な実施形態によれば、スラリあるいは懸濁物が約0.5重量%未満、特に0.1重量%未満、さらに好適には0.05重量%未満、特に好適には0.01重量%未満の1価の金属イオン(およびアンモニウムイオン)の含有率を有し、その際前記少なくとも1つの層状珪酸塩のイオン含有率は算入されていない。意外なことに、その種の(低い)1価の金属イオン(およびアンモニウムイオン)含有率によって高い層状珪酸塩含有率において低い粘性を達成しまた極めて良好な貯蔵安定性を達成し得ることが判明した。極めて好適な実施形態によれば、本発明に係るスラリあるいは懸濁物は成分a)の他に1価の金属イオン(およびアンモニウムイオン)を有する成分を含有しておらず、その際一般的な不純物とその中に存在する特に本発明に従って分散補助剤c)として使用される市販の製品中のナトリウムイオン等の陽イオンは考慮しない。本発明の別の好適な実施形態によれば、前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCEC中の2価の陽イオンの比率が少なくとも35%、特に少なくとも40%であれば、本発明に従って使用される分散補助剤が極めて良好な結果をもたらすことが判明した。
【0032】
本発明によればさらに、前記少なくとも1つの層状珪酸塩の2価の陽イオンがカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンであることが好適である。さらに、前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCEC中における1価の金属イオン(およびアンモニウムイオン)、特にナトリウムイオンの比率が約65%未満であることが好適である。
【0033】
本発明の別の好適な実施形態によれば、前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCECが70meq/100g超、特に少なくとも75meq/100gとなる。CECを判定するための方法については後述する。
【0034】
本発明によって、前記少なくとも1つの層状珪酸塩の高濃縮されたスラリが生成される。そのスラリの前記少なくとも1つの層状珪酸塩の含有率が10重量%超、特に15重量%超、さらに好適には20重量%超、さらに好適には30重量%超、特に好適には40重量%超となることが好適である。
【0035】
本発明において水性の懸濁媒体として水を使用することが極めて好適である。しかしながら、例えば水性のアルコール溶液あるいはグリコールを含有した水性溶液等のその他の水性の懸濁媒体も可能である。
【0036】
本発明の1つの特徴によれば、比較的小さな平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコール(ポリグリコール)を分散補助剤として使用する。ここで意外なことに、その種の比較的小さな平均分子量を有するポリエチレングリコールを使用することによって高い層状珪酸塩含有率(10重量%あるいはそれ以上)を有していても粘性増加あるいはゲル形成の問題を回避し保存安定性を有する高濃縮されたスラリが得られることが判明した。このことは、従来の技術において凝集剤(当然分散剤ではない)として使用されている例えば100000超の著しく高い平均分子量を有するポリエチレングリコールにおいては不可能である。この種の凝集剤は、いわゆる“ブリッジング凝集”によって個々の層状珪酸塩粒子を結合しそれによって粘性を高めるために使用される。従って本発明の極めて好適な実施形態によれば、約80000未満、特に約70000未満、さらに好適には約200ないし約50000、さらに好適には約2000ないし20000、さらに好適には約4000ないし15000、特に好適には約4000ないし12000の平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコールを使用する。
【0037】
本発明の別の特徴に従って少なくとも1つのポリアクリレートが分散補助剤として使用される限り、これは約100ないし100000、特に約200ないし約70000、特に好適には約200ないし50000の平均分子量を有する少なくとも1つのポリアクリレートとすることが極めて好適である。
【0038】
本発明の好適な実施形態によれば、前記少なくとも1つのポリエチレングリコールがいずれも前記少なくとも1つの層状珪酸塩に対して約0.1ないし10重量%、特に約2ないし8重量%の分量で使用される。しかしながら個別のケースにおいてはより少ないあるいはより多い分量とすることも有効である。
【0039】
別の好適な実施形態によれば、少なくとも1つのポリアクリル酸(酸形態)がいずれも前記少なくとも1つの層状珪酸塩に対して約0.1ないし10重量%、特に約1ないし6重量%の分量で使用される。しかしながら、ここでも個別のケースにおいてはより少ないあるいはより多い分量で前記少なくとも1つのポリアクリル酸を使用することも有効である。
【0040】
前述したように本発明の枠内において意外なことに、従来の技術において記載されている(電解質の)分散補助剤と1価の金属イオンを含んだ化合物と異なって、本発明に係る分散補助剤は高濃縮されていて貯蔵安定性を有しているスラリの製造に極めて好適に使用することができる。
【0041】
本発明の別の特徴は、前述したスラリあるいは懸濁物の製造方法に関する。ここでまず特に顆粒あるいは粉末形態の少なくとも1つの層状珪酸塩を生成する。さらに、前述したような水性の懸濁媒体および前述したような分散補助剤を生成する。その後前記の成分(成分a)−c))を混合することによって本発明に係るスラリを製造する。ここで、まず前記少なくとも1つの分散補助剤を水性の懸濁媒体内に付加し、その後前記少なくとも1つの層状珪酸塩を添加すれば極めて貯蔵安定性が高いスラリあるいは懸濁物を製造し得ることが判明した。加えて、前述した好適なpH値領域に調節するために酸を使用する限りそれを前記少なくとも1つの層状珪酸塩が添加される前に予め水性の懸濁媒体内に付加することが、極めて貯蔵安定性の高いスラリを得るために好適であることが好適である。
【0042】
本発明の別の特徴は、前述したような少なくとも1つのポリエチレングリコールおよび/または前述したような少なくとも1つの酸形態(プロトン化形態)のポリアクリル酸の、少なくとも1つの層状珪酸塩、特に少なくとも1つのカルシウムおよび/またはマグネシウムを含んだ層状珪酸塩用の分散補助剤としての適用方法に関する。
【0043】
本発明の別の対象は、特に少なくとも10重量%の層状珪酸塩含有率を有するスラリあるいは懸濁物の適用方法である。これは、特に洗剤および浄化剤に適用可能であり、例えば液体洗剤調合物あるいは液化洗剤粉末調合物へのベントナイトの混合のために適用可能である。加えて本発明の別の適用方法においてスラリあるいは懸濁物を製紙分野に適用可能であり、特に不純物除去および固定剤の分野において適用可能である。しかしながら、高濃縮された層状珪酸塩スラリの使用が効果的であるその他の分野においても、本発明に係るスラリの適用が可能であるとともに本発明の枠内に含まれる。別の本発明の適用方法においては、前記のスラリあるいは懸濁物が、ベントナイト等の層状珪酸塩が吸着剤あるいは吸収剤または増粘剤として使用される全ての分野に適用される。
【0044】
次に、以下に記述する非限定的な例を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0045】
例/測定方法
陽イオン交換容量(CEC)の判定
原理:粘土を多量の水性NHCl溶液によって処理し、さらに洗浄し、粘土上に滞留したNH量を元素分析によって測定する。
【0046】
Me(粘土)+NH ― NH(粘土)+Me
(Me=H,K,Na,1/2Ca2+,1/2Mg2+...)
【0047】
装置:篩、63μm;エルレンマイヤフラスコ、300ml;分析秤;薄膜吸込みフィルタ、400ml;ニトロセルロースフィルタ、0.15μm(サルトリウス社製);乾燥庫;還流式冷却器;ヒータ板;蒸留ユニット、VAPODEST−5(ゲアハルト社製、No.6550);メスシリンダ、250ml;バーナ−AAS。
【0048】
化学材料:2N NHCl溶液;ネスラー試薬(メルク社製、品番9028);ホウ酸溶液、2%濃度;苛性ソーダ、32%濃度;0.1N塩酸;NaCl溶液、0.1%濃度;KCl溶液、0.1%濃度。
【0049】
実施:5gの粘土を63μm篩で篩分けして110℃で乾燥させる。その後分析秤上で天秤式に正確に2gをエルレンマイヤフラスコ内に計り入れ、100mlの2N NHCl溶液を混合する。懸濁液を還流しながら1時間沸騰させる。高濃度にCaCOを含有しているベントナイトの場合は、アンモニアが発生する可能性がある。その場合は、アンモニア臭が確認されなくなるまでNHCl溶液を付加する。湿式の試験紙によって追加的な検査を実施することができる。約16時間の放置時間後にNHベントナイトを薄膜吸込みフィルタを介して濾過し、極めて無イオンになるまで完全脱塩水(約800ml)によって洗浄する。洗浄水の脱イオンの証明は、NHイオンに対して反応するネスラー試薬を使用して行う。洗浄時間は粘土の種類に従って30分ないし3日間の間で変化し得る。洗浄されたNH粘土をフィルタから取り出し、110℃で2時間乾燥させ、粉砕し、篩にかけ(63μm篩)、再度110℃で2時間乾燥させる。その後粘土のNH含有率を元素分析によって判定する。
【0050】
CECの算定:粘土のCEC(陽イオン交換容量)は、従来の方式によって、窒素含有率の元素分析を介して求めたNH粘土のNH含有率を介して判定する。そのため、ドイツ国ハナウ市のエレメンターヘラエウス社製の装置ヴァリオEL3を製造者の指示に従って使用した。表示値はmVal/100gの粘土(meq/100g)で示される。
【0051】
例:窒素含有率=0.93%;
【0052】
分子重量:N=14.0067g/mol
【0053】
【数1】

【0054】
CEC=66.4meq/100gのNHベントナイト
【0055】
湿潤容積の測定
目盛付けされた100mlのメスシリンダ内に100mlの蒸留水を充填する。2.0gの測定すべき物質をそれぞれ0.1ないし0.2gに分割して遅速に水面上に付加する。付加した分割分が水中に沈降した後次の分割分を付加する。添加が終了した後1時間待機し、膨潤した材料の高さをml/2gの単位で読み取る。
【0056】
粘度測定
以下において実施する粘度測定はブルックフィールドデジタル粘度計DVII型(米国マサチューセッツ州02072ストートン市ブルックフィールド社製)を使用して行った。使用されたスピンドルおよび回転数に関する表記(mPas)はいずれも例中に記載してある。
【0057】
スラリの製造
ここではPENDRAULIK攪拌機(ドイツ国スプリンゲ市のFHペンドラウリク社製)を使用した。添加剤をまず水中に混入した。次にベントナイトをペンドラウリク攪拌機の動作ポジション1(930rpm)で最大5分間攪拌した。その後5分間ポジション1.5(15rpm)で追加攪拌した。ここで通常は800mlのビーカグラス内でスラリを生成した。500mlの適用量の場合小さなチョッパー盤(直径40mm)を攪拌器具として使用した。5lの適用量の場合は55mmの直径を有する溶解盤を攪拌器具として使用した。10lの容器を使用した。
【0058】
本発明に係る添加剤
ポリエチレングリコール1500、4000、6000、20000は、フランクフルト市のクラリアント社製の商品名ポリグリコールを採用した。他に、BASF社からプルリオールの商品名で市販されているポリエチレングリコールも使用した。個々のポリエチレングリコールのメーカ名は例中に記載した。典型的に適しているプロトン化されたアクリレートとしては、ルードビッヒスハーフェン市のBASF社製のソカランCP10Sを使用した。これは40重量%の溶液として用意されている。
【0059】
その他の添加剤および化学材料
塩酸:0.5m、リーデル・デル・ハエン社あるいはメルク社製
ディスペックス(R)N40、A40:グレンツァハ市のチバ社製の分散補助剤(水性の溶液を製造者の指示のように使用した)。
【0060】
例1
スラリ製造のために以下の特性を有するベントナイト(ベントナイト1)を使用した:
【0061】
【表1】

【0062】
ベントナイト1の2つの異なった変更例を使用した:
【0063】
【表2】

【0064】
上記のベントナイトからいずれも乾燥ベントナイトに対して25重量%の固形成分含有率(130℃で重量一定化するまで乾燥させた後の水分含有率測定によって判定)を有するスラリを製造しその粘度について特徴判定した。
【0065】
変更例2(異なった粒子細度)において得られた粘度について大きな違いは示されなかった。
【0066】
【表3】

【0067】
表1に示されているように、ポリグリコール4000は濃縮されたスラリを製造するために適している。
【0068】
従って別の実験においては塩酸によってスラリのpH値を7に調節した。酸は、ポリエチレングリコールを溶解した後ベントナイトを添加する前に付加した。
【0069】
【表4】

【0070】
極めて好適なスラリの貯蔵安定性を達成するために、塩酸を予め付加するものとし後から添加はしないことが好適である。
【0071】
比較のために2つの市販の分散剤、CIBA社(グレンツァハ市)製の製品ディスペックス(R)N40とA40の測定を実施した。
【0072】
【表5】

【0073】
この添加剤においては濃度が0.2ないし5%で変化した。いずれの場合においてもまず粘度が低いスラリが得られ、それが1日後にゲル化した。表3には例として5%の添加剤を含んだスラリが示されている。
【0074】
例2
例1の変更例1のベントナイト1を使用してpH値7においてポリエチレングリコールの分子量の粘度への影響を検査した。その際分子量を600から20000g/モルまで変化させた。
【0075】
【表6】

【0076】
【表7】

【0077】
【表8】

【0078】
【表9】

【0079】
上記の表4ないし7に示されているように、ポリエチレングリコール(PEG)は先に検査した全ての分子量領域において検査されるベントナイトの安定化のために使用することができる。分子量に対する関数としての粘度の比較により、分子量が高いほどスラリの貯蔵後の粘度が低くなることが示されている。より大きな平均分子量を有するより長い分子がより強力に表面に結合し、時間が経ってもあまり層間に浸透しないことが推定される。
【0080】
例3
4.3%のソーダによる活性化によって製造された例1のベントナイトを使用した(ベントナイト2)。本発明に従い、それによってベントナイト1の全てのCa2+およびMg2+イオンがナトリウムイオンによって置換される。
【0081】
本発明に係る方法によってこのベントナイト2もポリエチレングリコールによって分散し得ることが判明した。勿論、必要な添加量が分散液内の利用可能なより高い比表面積に従って約10%まで上昇した。新規に製造されたスラリの粘度測定の結果は表8に示されており、ここで数日後に大きな粘度増加が観察された。
【0082】
【表10】

【0083】
例4
例1で製造された変更例1のベントナイトを別の本発明に係る調合物中において酸性のポリアクリル酸、BASF社製のソカラン(R)CP10Sによって分散した。この添加剤においても例えば0.5ないし5%の範囲の添加によって25重量%のベントナイト濃度を有する貯蔵安定的なスラリを製造することができた。
【0084】
以下に例としてスピンドル5による100rpm時のブルックフィールド粘度、ならびに1%添加に際しての全粘度データを示す(市販の水性溶液ソカランCP10Sに関しての添加の表記)。
【0085】
【表11】

【0086】
【表12】

【0087】
比較のために適宜なナトリウム塩(ソカラン(R)CP10)を添加剤として検査した。調合後にはソカラン(R)CP10Sの使用時と同様に低い粘度が測定できたが、スラリは1日後に流動不可能な程のゲルになるまでゲル化した。
【0088】
【表13】

【0089】
このデータにより、本発明に従って使用された酸形態(プロトン化形態)のポリアクリレートが大きな利点を有することが示されている。ナトリウム形態を使用するとベントナイトのNa活性化による増粘につながる。意外なことにこの作用は酸形態においては発生しない。
【0090】
例5
2つの別のベントナイトを使用し、それらの特性を以下に記載する:
【0091】
【表14】

【0092】
例6
例5のベントナイト3を高濃縮されたスラリの製造に関して検査した:
【0093】
【表15】

【0094】
表13のデータにより、本発明に係るベントナイト3の添加剤によって高濃縮されたスラリあるいは懸濁物が調合されることが示されている。ポリエチレングリコールあるいはポリアクリレートのパーセント比率が異なっているにもかかわらず、実験により依然として貯蔵安定性が保持されることと懸濁物のゲル化が発生しないことが示された。
【0095】
例7
別の変更例として例5のベントナイト4によるスラリ製造を実験した。これも乾燥材量に対して25重量%の濃度で使用した。
【0096】
【表16】

【0097】
表14のデータにより、別のベントナイト(ベントナイト4)を使用した場合にも本発明に係る懸濁物がその良好な特性を維持することが示されている。良好かつ安定的な粘度を達成するためにpH値を8未満の値に有効に調節した。
【0098】
例8
さらに別の変更例として、例1(表1参照)に従ってスラリの製造を実験したが、その際100000超の平均分子量を有するポリエチレングリコールを使用した。例えば400000の平均分子量を有するポリエチレングリコール(ダウケミカル社製のポリオックスTMWSR N3000およびポリオックスTMWSR301)を使用した。この場合流動可能なスラリは得られず、単に固形の物質が得られた。このことは、高分子ポリエチレングリコールがブリッジ凝集によって個々のベントナイト粒子を結合し、そのため立体的安定化によって粘性を低下するようには作用し得ないことによって説明できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) スラリあるいは懸濁物の総重量に対して少なくとも10重量%の層状珪酸塩と;
b) 水性の懸濁媒体と;
c) 90000未満の平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコールおよび/または少なくとも1つの自由酸形態のポリアクリル酸から選択された分散補助剤;
を含んだスラリあるいは懸濁物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのポリエチレングリコールが約80000未満、特に約70000未満、さらに好適には約200ないし約50000、さらに好適には約2000ないし20000、特に好適には約4000ないし15000の平均分子量を有することを特徴とする請求項1記載のスラリ。
【請求項3】
前記少なくとも1つのポリアクリル酸が約100ないし100000、特に約200ないし約70000の平均分子量を有することを特徴とする請求項1または2記載のスラリ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCEC中の2価の陽イオンの比率が少なくとも30%、特に少なくとも40%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスラリ。
【請求項5】
前記スラリあるいは懸濁物が成分a)、b)およびc)の他には全く1価の金属イオンを有する成分を含まないことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスラリ。
【請求項6】
スラリのpH値が約5ないし10、特に約6ないし9、特に好適には約6.5ないし8.5であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のスラリ。
【請求項7】
請求項6に記載のpH値は少なくとも1つの酸の添加によって調節することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のスラリ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩が膨潤性の層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のスラリ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩がカルシウムを含有した層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のスラリ。
【請求項10】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩がスメクタイト質の層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のスラリ。
【請求項11】
スラリ中の1価の金属イオンおよびアンモニウムイオンの含有率、特にナトリウム含有率が0.5重量%未満、特に0.1重量%未満、さらに好適には0.05重量%未満、特に好適には0.01重量%未満であり、その際前記少なくとも1つの層状珪酸塩中の1価の金属イオンおよびアンモニウムイオンの含有率、特にナトリウム含有率は算入されていないことを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のスラリ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩がベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、あるいはバイデル石であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のスラリ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩中の2価の陽イオンがカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンであることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のスラリ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCEC中の1価の陽イオン、特にナトリウムイオンの比率が65%未満であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のスラリ。
【請求項15】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCECが70meq/100g超、特に75meq/100g以上となることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載のスラリ。
【請求項16】
スラリ中の前記少なくとも1つの層状珪酸塩の含有率が15重量%超、特に20重量%超、さらに好適には30重量%超、特に好適には40重量%超となることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載のスラリ。
【請求項17】
前記水性の懸濁媒体が水、水性のアルコール溶液、あるいはグリコールを含有した水性溶液であることを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載のスラリ。
【請求項18】
前記少なくとも1つのポリエチレングリコールが前記少なくとも1つの層状珪酸塩に対して約0.1ないし10重量%、特に約2ないし8重量%の分量で使用されることを特徴とする請求項1ないし17のいずれかに記載のスラリ。
【請求項19】
前記少なくとも1つのポリアクリル酸が前記少なくとも1つの層状珪酸塩に対して約0.1ないし10重量%、特に約1ないし6重量%の分量で使用されることを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載のスラリ。
【請求項20】
必要に応じてpH値を調節するための酸を添加しながらまず少なくとも1つ分散補助剤を水性の懸濁媒体中に付加し、その後少なくとも1つの層状珪酸塩を添加することを特徴とする請求項1ないし19のいずれかに記載のスラリあるいは懸濁物の製造方法。
【請求項21】
少なくとも1つの層状珪酸塩を少なくとも10重量%含んだスラリあるいは懸濁物の製造に際しての前記少なくとも1つの層状珪酸塩の分散補助剤としての、90000未満の平均分子量を有する少なくとも1つのポリエチレングリコールおよび/または少なくとも1つの自由酸形態のポリアクリル酸の適用方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩のCEC中の2価の陽イオンの比率が少なくとも30%、特に少なくとも40%であることを特徴とする請求項21記載の適用方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩が膨潤性の層状珪酸塩であることを特徴とする請求項21または22記載の適用方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの層状珪酸塩がカルシウムを含有した層状珪酸塩であることを特徴とする請求項21ないし23のいずれかに記載の適用方法。
【請求項25】
液体状の洗剤あるいは浄化剤化合物中、特に液体洗剤および柔軟すすぎ剤化合物中への、請求項1ないし19のいずれかに記載のスラリあるいは懸濁物の適用方法。
【請求項26】
製紙工業の分野における、特に不純物除去および固定剤中、または増粘剤あるいは吸着剤としての、請求項1ないし19のいずれかに記載のスラリあるいは懸濁物の適用方法。

【公表番号】特表2009−500279(P2009−500279A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519844(P2008−519844)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006467
【国際公開番号】WO2007/003402
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(507294959)ジュート−ヒェミー アクチェンゲゼルシャフト (21)
【Fターム(参考)】