説明

高い接着性を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】
本発明は、前駆体溶液の高い貯蔵安定性を有し、かつ高価な表面処理なしで高い接着性を発現する非熱可塑性ポリイミドフィルムを提供することにある。
【解決手段】分子中に熱可塑性ポリイミドのブロック成分をポリイミド全体の20〜60mol%含有させることにより、前駆体溶液の高い貯蔵安定性、高い接着性、特にはポリイミド系接着剤との高い密着性が発現する。特には接着性向上の為の表面処理を施さなくとも高い接着性を発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤との高い密着性、特には熱可塑性ポリイミドを用いた接着剤との高い密着性を示す非熱可塑性ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びているが、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する)の需要が特に伸びている。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼りあわせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている(これら熱硬化性接着剤を用いたFPCを以下、三層FPCともいう)。
【0004】
熱硬化性接着剤は比較的低温での接着が可能であるという利点がある。しかし今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられる。これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたり、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したFPC(以下、二層FPCともいう)が提案されている。この二層FPCは、三層FPCより優れた特性を有し、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0005】
ポリイミドの接着性を改善するために、種々の技術が提案されている。例えば、ポリイミドフィルムを低温プラズマ処理した後、アルカリ性薬品で改質処理する方法、特定の金属成分を含有させて高温加熱処理する方法などが知られている。(特許文献1、2)しかしながらポリイミドフィルムは、接着剤として熱可塑性ポリイミド系接着材を用いた場合、接着性が低く、これらの処理を施しても、接着性は不充分であるというのが現状である。従って、ポリイミド系接着材との接着性を向上させるためには、プラズマ処理を施す場合であっても、ポリイミドフィルムを構成する樹脂の組成を選択しないと十分な効果が得られなかった。(特許文献1)
一方、ポリイミドフィルムの線膨張係数や弾性率などをコントロールするために、ポリイミドフィルムの製造に用いるポリアミド酸の重合方法を制御する方法が開示されている。
例えば、予めブロック成分を重合する方法として、フェニレンジアミン及びピロメリット酸二無水物からなるポリアミド酸、あるいは、フェニレンジアミン及び3,3’−4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸からなるポリアミド酸を重合し、これらのブロック成分を形成後、イミドを添加してブロック成分を含有する共重合ポリイミドを製造する方法が開示されている。(特許文献4、5)しかし、これらは、いずれも剛直性のモノマーを使用しており、熱可塑性のブロック成分を含まない。各種接着剤との接着性、特に、従来から接着性の改善が困難であったポリイミド系接着材との高い接着性を得るという観点で、ブロック成分を制御するという技術は、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−222219号公報
【特許文献2】特開平6−32926号公報
【特許文献3】特開平11−158276号公報
【特許文献4】特開2000−80178号公報
【特許文献5】特開2000−119521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、接着剤との接着性、特にはポリイミド系接着剤との接着性を有するポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドの分子設計を適切に行うことにより、これを用いたポリイミドフィルムは、接着剤との接着性、特にはポリイミド系接着剤との高い接着性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の新規なポリイミドフィルムによって、上記課題を解決しうるものである。
1)非熱可塑性のポリイミドフィルムであって、該非熱可塑性ポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を含むことを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルム。
2)前記熱可塑性ブロック成分は、非熱可塑性ポリイミド樹脂全体の20〜60mol%含有されることを特徴とする1)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
3)熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成するジアミン成分が、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを含むことを特徴とする1)または2)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
4)熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成する酸成分が、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類及び/又はビフェニルテトラカルボン酸類を含むことを特徴とする1)〜3)のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
5)熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが3〜99であることを特徴とする1)〜4)のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
6)熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが4〜90であることを特徴とする5)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
7)前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムであることを特徴とする1)〜6)のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
8)前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂およびフィラーを含むことを特徴とする1)〜6)のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
9)熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を、ポリイミドフィルム中50重量%以上含有することを特徴とする8)記載のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によりフレキシブル金属張積層板の各種接着剤を介して金属箔を積層した場合を接着性を改善することができる。具体的には、高い密着性を実現することにより高密度実装に伴う配線パターンの微細化に対応することができる。また特に、接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いた場合の低い密着性を改善できるため、半田の無鉛化に伴うリフロー温度の上昇にも対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。本発明の非熱可塑性のポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を含むことを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルムである。本発明者らは、ポリイミドフィルムの接着性を改良するために、ポリイミドの分子設計を種々検討したところ、非熱可塑性のポリイミドフィルムでありながら、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分をポリイミド樹脂中に含むように、ポリイミドの分子設計を行えば、接着剤との優れた接着性を有することを見出した。このような分子設計をすることによって、接着性が改良されるという知見は、本発明者らが初めて見出したものである。
【0011】
本発明のポリイミドフィルムはポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0012】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0013】
ここで、本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂は分子中に熱可塑性ポリイミドのブロック成分を有しており、かつ、フィルム全体として非熱可塑性ポリイミドフィルムとなるように設計されている。このようなポリイミド樹脂を得るための好ましい重合方法としては、理想的にブロック成分を形成する目的で熱可塑性ポリイミドの前駆体のブロック成分を形成した後、残りのジアミン及び/又は酸二無水物を用いて非熱可塑性ポリイミドの前駆体を形成する方法を用いるのが好ましい。この際、前記1)〜5)の方法を部分的に組み合わせて用いることが好ましい。
【0014】
一例を挙げると、例えば、上記2)あるいは3)の方法において、プレポリマーを製造する際に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を等モル反応させた場合に熱可塑性ポリイミドとなるように組成を選択してプレポリマーを製造し、かつ最終的に得られるポリイミドが非熱可塑性となるように全工程において用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を選択すればよい。
【0015】
たとえば、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンを溶解させ、ここにピロメリット酸二無水物、3,3‘,4,4,’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を、合計で、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンに対して過小量となるように加えて熱可塑性ポリイミドブロック成分を合成した後、この溶液にさらに、パラフェニレンジアミンを溶解させ、さらに全工程において用いる酸二無水物とジアミン量がほぼ等モルとなるようにピロメリット酸二無水物を加えてポリアミド酸溶液を得ることができる。
【0016】
ここで、熱可塑性ポリイミドブロック成分とは、ブロック成分を構成する芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を等モル反応させて得られるポリイミド樹脂のフィルム(便宜上、熱可塑性ポリイミドブロック成分からなるポリイミドフィルムとする)が、金属製の固定枠に固定して450℃で1分加熱した際に軟化し、元のフィルムの形状を保持しないようなものを指す。熱可塑性ポリイミドブロック成分からなるポリイミドフィルムは、公知の方法で、最高焼成温度300℃、焼成時間15分として得ることができる。具体的な作製方法としては、例えば、後述の熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有するか否かを確認する方法に記載したような方法において、最高焼成温度300℃で15分とする方法が挙げられる。熱可塑性のブロック成分を決定する際に、上述のようにフィルムを作製してみて、溶融する温度を確認すればよい。
【0017】
この熱可塑性ブロック成分は、上述のように作製した熱可塑性ポリイミドブロック成分からなるポリイミドフィルムフィルムが250〜450℃に加熱した際に軟化して形状保持しなくなるもの好ましく、特には300〜400℃に加熱した際に軟化して形状保持しなくなるが好ましい。この温度が低すぎると、最終的に非熱可塑性ポリイミドフィルムを得ることが困難になり、この温度が高すぎると本発明の効果である優れた接着性を得にくくなる傾向にある。
またさらに熱可塑性ポリイミドブロック成分は、ポリイミド全体の20〜60mol%含まれるのが好ましく、さらには25〜55mol%、特に30〜50mol%含有されることが好ましい。
【0018】
熱可塑性ポリイミドブロック成分がこの範囲を下回ると本発明の優れた接着性を発現することが困難となる場合があり、この範囲を上回ると最終的に非熱可塑性ポリイミドフィルムとすることが困難となる。
【0019】
例えば、上記2)の重合方法を用いた場合、熱可塑性ポリイミドブロック成分の含有量は、下記式(1)に従って計算される。
(熱可塑性ブロック成分含有量) = a/Q×100 (1)
a:熱可塑性ポリイミドブロック成分を製造する際に用いた酸二無水物成分の量(mol)
Q:全酸二無水物成分量(mol)
また上記3)の重合方法を用いた場合、熱可塑性ポリイミドブロック成分の含有量は、下記式(2)に従って計算される。
(熱可塑性ブロック成分含有量) = b/P×100 (2)
b:熱可塑性ポリイミドブロック成分を製造する際に用いたジアミン成分の量(mol)
P:全ジアミン量(mol)
またさらに熱可塑性ブロック成分の繰り返し単位nは3〜99が好ましく、4〜90がより好ましい。繰り返し単位nがこの範囲を下回ると優れた接着性が発現しにくく、且つ吸湿膨張係数が大きくなりやすい。また、繰り返し単位nがこの範囲を上回るとポリイミド前駆体溶液の貯蔵安定性が悪くなる傾向にあり、かつ重合の再現性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0020】
本発明における熱可塑性ポリイミドブロック成分は、上述のように熱可塑性ポリイミドブロック成分からなるポリイミドフィルムを製造した場合に、150〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有していることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値等により求めることができる。
【0021】
本発明の熱可塑性ポリイミドブロック成分を形成するモノマーについて説明する。
ジアミン主成分として好ましく用い得る例としては4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。これらの例は主成分として好適に用いられる例であり、副成分としていかなるジアミンを用いることもできる。これらの中で特に好ましく用い得るジアミンの例として、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0022】
また、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を構成する酸成分として好適に用い得る例としてはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物などが挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。本発明においては、少なくとも3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物から1種以上の酸二無水物を用いることが好ましい。これら酸二無水物を用いることで本発明の効果である接着剤との高い密着性が得られやすくなる。
【0023】
本発明において、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分と反応させて非熱可塑性ポリイミド前駆体を製造する際に用いられるジアミンと酸二無水物の好適な例を挙げる。ジアミンと酸二無水物の組み合わせにより種々特性が変化するため一概に規定することはできないが、ジアミンとしては剛直な成分、例えばパラフェニレンジアミンおよびその誘導体、ベンジジン及びその誘導体を主成分として用いるのが好ましい。これら剛直構造を有するジアミンを用いることにより非熱可塑性とし、且つ高い弾性率を達成しやすくなる。また酸成分としてはピロメリット酸二無水物を主成分として用いることが好ましい。ピロメリット酸二無水物はよく知られているようにその構造の剛直性から非熱可塑性ポリイミドを与えやすい傾向にある。このようにして、最終的に得られるポリイミドフィルムが非熱可塑性となるように、分子設計を行う。
【0024】
なお、得られるポリイミドフィルムが非熱可塑性であるか否かの判定は、次のようにして行う。ポリイミドフィルムを金属製の固定枠に固定して450℃1分加熱した際に、元のフィルム形状を保持(タルミ、溶融などが無い)しているものを非熱可塑性とする。
【0025】
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムの線膨張係数は、10〜20ppmであることが好ましい。また、吸湿膨張係数は13ppm以下であることが好ましい。
さらに、弾性率は5〜10GPaであることが好ましい。
これらの物性は、通常組成を変えることによって変動しうるが、本発明の熱可塑性ブロック成分の選び方を変更することでもコントロールが可能である。
【0026】
本発明においては、重合制御のしやすさや装置の利便性から、まず熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を合成した後、さらに適宜設計されたモル分率でジアミン及び酸二無水物を加えて非熱可塑性ポリイミド前駆体とする重合方法を用いることが好ましい。
【0027】
ポリイミド前駆体(以下ポリアミド酸という)を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
【0028】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0029】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0030】
これらポリアミック酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法については従来公知の方法を用いることができる。この方法には熱イミド化法と化学イミド化法が挙げられ、どちらの方法を用いてフィルムを製造してもかまわないが、化学イミド化法によるイミド化の方が本発明に好適に用いられる諸特性を有したポリイミドフィルムを得やすい傾向にある。
【0031】
また、本発明において特に好ましいポリイミドフィルムの製造工程は、
a) 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミック酸溶液を得る工程、
b)上記ポリアミック酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
c)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
d)更に加熱して、残ったアミック酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程、
を含むことが好ましい。
【0032】
上記工程において無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表されるイミド化触媒とを含む硬化剤を用いても良い。
【0033】
以下本発明の好ましい一形態、化学イミド法を一例にとり、ポリイミドフィルムの製造工程を説明する。ただし、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0034】
製膜条件や加熱条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ等により、変動し得る。
脱水剤及びイミド化触媒を低温でポリアミド酸溶液中に混合して製膜ドープを得る。引き続いてこの製膜ドープをガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャストし、支持体上で80℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃の温度領域で加熱することで脱水剤及びイミド化触媒を活性化することによって部分的に硬化及び/または乾燥した後支持体から剥離してポリアミック酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有し、式(3)
(A−B)×100/B・・・・(3)
式(3)中
A,Bは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量
B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量
から算出される揮発分含量は5〜500重量%の範囲、好ましくは5〜200重量%、より好ましくは5〜150重量%の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、焼成過程でフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ、特性ばらつき等の不具合が起こることがある。
脱水剤の好ましい量は、ポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5〜5モル、好ましくは1.0〜4モルである。
また、イミド化触媒の好ましい量はポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05〜3モル、好ましくは0.2〜2モルである。
脱水剤及びイミド化触媒が上記範囲を下回ると化学的イミド化が不十分で、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、フィルム状にキャストすることが困難となることがあるため好ましくない。
【0035】
前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤及び触媒を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、本発明のポリイミドフィルムが得られる。
【0036】
この時、最終的に400〜650℃の温度で5〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり問題が生じることがある。逆にこの温度より低い及び/または時間が短いと所定の効果が発現しないことがある。
【0037】
また、フィルム中に残留している内部応力を緩和させるためにフィルムを搬送するに必要最低限の張力下において加熱処理をすることもできる。この加熱処理はフィルム製造工程において行ってもよいし、また、別途この工程を設けても良い。加熱条件はフィルムの特性や用いる装置に応じて変動するため一概に決定することはできないが、一般的には200℃以上500℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下、特に好ましくは300℃以上450℃以下の温度で、1〜300秒、好ましくは2〜250秒、特に好ましくは5〜200秒程度の熱処理により内部応力を緩和することができる。
【0038】
このようにして得られたポリイミドフィルムが、非熱可塑性のポリイミドフィルムであり、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を有するフィルムとなっていることは、以下のような方法により、物性を比較することによって間接的にも確認することができる。すなわち、非熱可塑性ポリイミドフィルムから、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有するか否かを確認する方法を以下に記載する。
(1)非熱可塑性ポリイミドフィルムの組成を、ヒドラジン等のアルカリによりポリイミドを分解して液体クロマトグラフィーによりモノマー成分を分析する。フィルムにフィラーなどの添加剤が配合されている場合は、その種類と量を特定する。
(2)特定された組成で以下のようにランダム重合する。具体的には以下のように重合操作を行う。
i) DMFに全ジアミンを溶解させ、0℃の氷浴で冷却する。
ii) i)で得た溶液を氷浴につけたまま攪拌下、沈殿しないように注意しながら酸二無水物を粉体で徐々に添加し、2500〜4000ポイズ(23℃)のポリアミド酸溶液を得る。なお、複数種類の酸二無水物が用いられている場合は、粉体を混合し他後添加する。
(3)フィルムを製造する。具体的には以下のようにしてフィルムを得る。
i)ポリアミド酸溶液を100g、500ccのポリエチレン製容器に秤量し5℃前後に冷却する。充填剤を用いる場合はポリアミド酸溶液にあらかじめ分散させておく。
ii)アミド酸1モルに対して0.8モルのイソキノリン、2モルの無水酢酸およびDMFを含む−10℃に冷却されたイミド化剤を50gのポリアミド酸溶液に添加し、すばやく混合する。
iii) ii)の溶液を冷却下、遠心脱泡する。
iv) コンマコーターを用いてアルミ箔上にiii)の溶液を流延する。
v)アルミ箔ごと120℃2分間乾燥させた後、ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がして金属製の固定枠に固定する。このとき、ゲルフィルムが収縮しないように注意する。
vi)金属製の固定枠に固定したゲルフィルムを、あらかじめ予熱された熱風循環オーブンで300℃1分、400℃1分、450℃1分加熱し、固定枠から切り離して厚み25μmのポリイミドフィルムを得る。
(4)このようにして得られたフィルムと本発明の熱可塑性ポリイミドブロック成分を有するような重合をした場合とで物性を比較した場合、次のような特徴を見ることができる。
i)本発明のフィルムの方が、0.3GPa以上、特には1GPa以上、弾性率が高くなる。
ii)本発明のフィルムの方が、1ppm以上、特には3ppm以上、線膨張係数および吸湿膨張係数が小さくなる。
iii)引張伸びはほぼ同等レベルを維持する。
iv)本発明のフィルムの方が、動的粘弾性測定における380℃での貯蔵弾性率が0.1GPa以上、特には0.3GPa以上小さくなる。また、本発明のフィルムの方が、tanδピークトップの値が0.01以上、特には0.02以上大きくなる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、合成例、実施例及び比較例における熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度、フレキシブル積層板の寸法変化率、金属箔引き剥し強度の評価法は次の通りである。
【0040】
(金属箔の引き剥がし強度:接着強度)
JIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、5mm幅の金属箔部分を、180度の剥離角度、50mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定した。
【0041】
(弾性率)
弾性率の測定はASTM D882に準じて行った。
【0042】
(線膨張係数)
50〜200℃の線膨張係数の測定は、セイコー電子(株)社製TMA120Cを用いて(サンプルサイズ 幅3mm、長さ10mm)、荷重3gで10℃/minで10℃〜400℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに10℃/minで昇温させて、2回目の昇温時の50℃及び200℃における熱膨張率から平均値として計算した。
【0043】
(吸湿膨張係数)
吸湿膨張係数は、50℃30%Rhの環境下でのフィルム寸法(L1)を測定した後、湿度を変化させて50℃80%Rhの環境下でのフィルム寸法を測定し(L2)、下記式より算出する。
吸湿膨張係数(ppm)=(L1−L2)÷L1÷(80−30)×106
(動的粘弾性測定)
セイコー電子(株)社製DMS200を用いて(サンプルサイズ 巾9mm、長さ40mm)、周波数1、5、10Hzで昇温速度3℃/minで20〜400℃の温度範囲で測定した。温度に対して貯蔵弾性率をプロットした曲線の変曲点となる温度をガラス転移温度とした。
【0044】
(熱可塑性の判定)
熱可塑性ポリイミドブロック成分からなるポリイミドフィルムを、最高焼成温度300℃、焼成時間15分で作製し、金属製の固定枠に固定して450℃で1分加熱した際に軟化し、元のフィルムの形状を保持しないようなかった場合、熱可塑性であると判定した。
【0045】
(参考例1;熱可塑性ポリイミド前駆体の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を115.6g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を78.7g徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を3.8g添加し、氷浴下で30分間撹拌した。2.0gのTMEGを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が3000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は240℃であった。また、このフィルムを金属枠に固定し450℃ 1分加熱したところ形態を保持せず、熱可塑性であることがわかった。
【0046】
(接着性評価)
前処理としてポリイミドフィルムをコロナ密度200W・min/m2で表面処理した。
参考例1で得られたポリアミド酸溶液を固形分濃度10重量%になるまでDMFで希釈した後、表面処理したポリイミドフィルムの両面に、熱可塑性ポリイミド層(接着層)の最終片面厚みが4μmとなるようにポリアミド酸を塗布した後、140℃で1分間加熱を行った。続いて、雰囲気温度390℃の遠赤外線ヒーター炉の中を20秒間通して加熱イミド化を行って、耐熱性接着フィルムを得た。得られた接着フィルムの両側に18μm圧延銅箔(BHY−22B−T,ジャパンエナジー社製)を、さらに銅箔の両側に保護材料(アピカル125NPI;鐘淵化学工業株式会社製)を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.5m/分の条件で熱ラミネートを行い、FCCLを作製した。このFCCLからJIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、5mm幅の金属箔部分を、180度の剥離角度、50mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定した。
【0047】
(実施例1)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)546gに2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)46.43g溶解した。ここに3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)9.12g添加して溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)16.06g添加して30分攪拌し、熱可塑性ポリイミド前駆体ブロック成分を形成した。
この溶液にp−フェニレンジアミン(p−PDA)18.37gを溶解した後、PMDA37.67gを添加し1時間撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったPMDAのDMF溶液(PMDA1.85g/DMF24.6g)を注意深く添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度約19重量%、23℃での回転粘度が3400ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミック酸溶液100gに、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比18.90/7.17/18.93)からなる硬化剤を50g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を130℃×100秒で加熱した後アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして(揮発分含量45重量%)金属枠に固定し、300℃×20秒、450℃×20秒、500℃×20秒で乾燥・イミド化させて厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性および接着特性を表1に示す。
なお、BAPP/BTDA/PMDA=46.43g/9.12g/18.53gの比で得たポリアミド酸溶液をガラス板状に流延し、最高焼成温度300℃で15分焼成してフィルムを作製し、金属製の固定枠に固定して450℃で加熱しようとしたが、熔融して形態を保持せず、熱可塑性ブロック成分となっていることが確認できた。
【0048】
(実施例2、3、比較例1、2)
モノマーの比を変えて実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は240℃であった。なお、実施例2,3について、熱可塑性のブロック成分の確認を実施例1と同様に行ったところ、熱可塑性ブロック成分となっていることが確認できた。
【0049】
(参考例1)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)546gに2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)46.43g、p−フェニレンジアミン(p−PDA)18.37gを溶解した。ここに3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)9.12g、ピロメリット酸二無水物(PMDA)53.73g添加して1時間撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったPMDAのDMF溶液(PMDA1.85g/DMF24.6g)を注意深く添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度約19重量%、23℃での回転粘度が3400ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミック酸溶液100gに、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比16.96/8.58/24.46)からなる硬化剤を50g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を120℃×2分間乾燥させた後、ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がして、ゲルフィルムが収縮しないように注意しながら金属製の固定枠に固定した。金属製の固定枠に固定したゲルフィルムを、あらかじめ予熱された熱風循環オーブンで300℃1分、400℃1分、450℃1分加熱し、固定枠から切り離して厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によりフレキシブル金属張積層板の各種接着剤を介して金属箔を積層した場合を接着性を改善することができる。具体的には、高い密着性を実現することにより高密度実装に伴う配線パターンの微細化に対応することができる。また特に、接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いた場合の低い密着性を改善できるため、半田の無鉛化に伴うリフロー温度の上昇にも対応することができる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性のポリイミドフィルムであって、該非熱可塑性ポリイミドフィルムは、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を含むことを特徴とする非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性ブロック成分は、非熱可塑性ポリイミド樹脂全体の20〜60mol%含有されることを特徴とする請求項1記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項3】
熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成するジアミン成分が、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを含むことを特徴とする請求項1または2記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項4】
熱可塑性ポリイミドのブロック成分を構成する酸成分が、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類及び/又はビフェニルテトラカルボン酸類を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項5】
熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが3〜99であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項6】
熱可塑性ポリイミドブロック成分の繰り返し単位nが4〜90であることを特徴とする請求項5記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂およびフィラーを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
熱可塑性ポリイミド由来のブロック成分を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂を、ポリイミドフィルム中50重量%以上含有することを特徴とする請求項8記載のポリイミドフィルム。


【公開番号】特開2012−36401(P2012−36401A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224356(P2011−224356)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【分割の表示】特願2006−527822(P2006−527822)の分割
【原出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】