説明

高分子固体電解質電池

【課題】
熱的特性、物理的特性及びイオン伝導度が優れていて、特に、固体電解質からなる4.2V以上の耐電圧を有する5V級高分子固体電解質電池を提供する。
【解決手段】
高分子および電解質塩を含有する高分子固体電解質を備え、耐電圧が4.2V以上、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上であることを特徴とする高分子固体電解質電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧特性に優れる高分子固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子固体電解質として、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(A成分)とスチレン(B成分)とを、リビングアニオン重合法により共重合させて得られるA−B−A型トリブロック共重合体をマトリックス基材とする高分子固体電解質が提案されている(非特許文献1)。ここで用いられるマトリックス基材において、A成分は、リチウムイオンの拡散輸送空間としてのポリエチレンオキシド(PEO)ドメインを形成する。従って、高分子固体電解質の導電率を高めるためには、マトリックス基材中のA成分の含有量を多くすることが望ましい。
【0003】
しかし、A成分であるメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートのホモポリマーは、高分子量体となっても室温で液状物であるため、A−B−A型共重合体を固体電解質のマトリックス基材とするためにはA成分の含有量には上限があった。すなわち、リチウムイオンの拡散輸送空間としてのPEOドメインの形状及びサイズに制限があるため、前記マトリックス基材の40℃での導電率は10−6S/cmと低いものであった。
【0004】
一方、高分子固体電解質として、分子内のエステル部位にポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル酸エステル誘導体由来の繰返し単位をもつ共重合体を架橋して得られる架橋型高分子のマトリクス成分と電解質塩からなるものが知られている。例えば、特許文献1には、該マトリクス成分として、少なくともウレタン(メタ)アクリレート系化合物及び下記一般式(1)で示される重合性モノマーを含有してなる高分子固体電解質が開示されている。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R101は水素原子又はメチル基を表し、R102は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表し、k’、r’、m’はそれぞれ独立して整数を表し、k’+r’+m’≧1である。)
特許文献2には、少なくとも、式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、R111〜R113はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R114は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、nは1〜20の整数を表す。)で表される単量体、及び式(3)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R115〜R117はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R118〜R122はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のハロアルキル基を表す。但し、R118〜R122の少なくとも一つは炭素数1〜4のα−ハロアルキル基である。)で表される単量体を含有してなる単量体混合物を共重合させて得られる多分岐高分子、及びこれらを用いた固体電解質が開示されている。
【0011】
特許文献3には、(i)下記に示す極性単量体1、極性単量体2及び極性単量体3からなる群から選ばれる少なくとも1つの極性単量体を構成成分として10〜100モル%含有するセグメントA、及び当該極性単量体を構成成分として10モル%未満含有するセグメントBからなるブロックコポリマーと、(ii)エステル化合物とを含有することを特徴とするブロックコポリマー組成物、及び該組成物を用いた固体電解質が開示されている。
【0012】
極性単量体1:少なくとも1個の重合性不飽和結合と、ヒドロキシル基、ニトリル基、カルボキシル基、アミノ基及びアミド基からなる群から選ばれた少なくとも一種の官能基とを有する極性単量体。
極性単量体2:式(4)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R201及びR202は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R203は炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基を表し、tは1〜25の整数を表す。)で表される極性単量体。
極性単量体3:式(5)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、R204は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R205は炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を表し、f及びgはそれぞれ独立して1〜20の整数を表す。)で表される極性単量体。
【0017】
また特許文献4には、リチウム二次電池用の正極を製造する方法であって、(i)3V級Mn酸化物、導電助剤、結着剤及び有機溶媒を含む混合物からなる電極層を集電体上に形成する第一工程、(ii)電極層を乾燥することにより有機溶媒を除去して極板を得る第二工程、(iii)極板をプレス成形する第三工程、及び(iv)リチウム伝導性高分子電解質を電極層に含浸させる第四工程を有する固体型リチウム二次電池用複合正極の製造方法が提案されている。この文献に記載された複合電極によれば、固体型リチウム二次電池の正極の充放電サイクル特性を向上させることができる。しかし、この文献記載の複合正極においては、用いる固体電解質の種類によっては十分な充放電特性が得られない場合があった。
【0018】
特許文献5には、リチウムポリマー電池の充電方法として、電池電圧を3.6V〜4.2Vで行なう方法が開示されている。しかし、この文献に記載されたリチウムポリマー電池は、二次電池の正極材料として4V程度の電位を示す高電位正極材を活物質として用いる場合、電池電圧が4V以上となると高温となりポリマー電解質の分解が促進して大きな容量低下を招くため、電池電圧を4V以下で作動させる必要があった。
【0019】
また非特許文献2、3には、電極として白金電極、及び電解質塩としてLiN(SOCFを使用した場合、ポリエチレンオキサイド(PEO)からなる高分子固体電解質は、80℃におけるリニアスイープボルタンメトリー測定で、4.5Vまで安定である旨が記載されている。しかし、これは電解質塩であるLiN(SOCFの高温における可塑効果を利用したものであって、導電性に関する記載ではない。さらに、非特許文献4には、LiN(SOCFを使用したポリアルキレンオキシド系のPEOからなる高分子固体電解質は、温度の影響を受けて、高温時には導電率は高い(80℃における導電率が10−6S/cm以上)が、室温では導電率が10−6S/cm以下に低下すると記載されている。
【0020】
以上のように、従来の高分子固体電解質電池は、いずれも実用的に満足できる耐電圧特性と導電率を兼ね備えるものではなかった。
【0021】
【特許文献1】特開2002−216845号公報
【特許文献2】特開2001−181352号公報
【特許文献3】特開平11−240998号公報
【特許文献4】特開2002−157998号公報
【特許文献5】特開2002−298844号公報
【非特許文献1】Macromol.Chem.,190,1069〜1078(1989)
【非特許文献2】Journal of Power Sources,92,234〜243(2001)
【非特許文献3】Journal of the Electrochem.Society,150(9),A1166〜A1170(2003)
【非特許文献4】Journal of the Electrochem.Society,148(10),A1171〜A1178(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、4.2V以上、好ましくは4.5V以上の耐電圧を有し、室温付近においても導電率が1×10−5S/cm以上である、5V級高分子固体電解質電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート単位からなるブロック鎖を有するトリブロック共重合体であって、その片端又は両端にポリスチレンのごとき剛直なブロック鎖を配したものは、その擬似架橋効果により、アルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート単位の含有量を増しても固体化が可能であり、高い導電率を有する高分子固体電解質が得られることを見出した。また、この高分子固体電解質と白金電極などの金属系電極を用いることで、4.2V以上、好ましくは4.5V以上の耐電圧を有し、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上である5V級高分子固体電解質電池を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(22)いずれかの5V級高分子固体電解質電池が提供される。
かくして本発明によれば、下記(1)〜(21)いずれかの5V級高分子固体電解質電池が提供される。
(1)高分子及び電解質塩を含有する高分子固体電解質を備え、耐電圧が4.2V以上、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上であることを特徴とする高分子固体電解質電池。
(2)前記高分子が、式(I)
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子又はC1〜10炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよく、R4a、R4bは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基又はシリル基を表し、mは2〜100いずれかの整数を表し、式:−CH(R4b)−CH(R4a)−O−で表される基同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される繰返し単位を有する重合体であることを特徴とする(1)の高分子固体電解質電池。
(3)前記高分子が、式(I)
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子又はC1〜10炭化水素基を表し、RとRは、結合して環を形成してもよく、R4a、R4bは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基又はシリル基を表し、mは2〜100いずれかの整数を表し、式:−CH(R4b)−CH(R4a)−O−で表される基同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される繰返し単位を有するブロック鎖A、式(II)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子又はC1〜C10炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で表される繰返し単位を有するブロック鎖B及びブロック鎖Cが、B、A、Cの順で配列してなる共重合体であることを特徴とする(1)又は(2)の高分子固体電解質電池。
(4)前記ブロック鎖Cが、式(III)
【0031】
【化9】

【0032】
(式中、R10〜R12は、それぞれ独立して、水素原子又はC1〜C10炭化水素基を表し、R13は、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。)で表される繰返し単位を有するブロック鎖であることを特徴とする(3)の高分子固体電解質電池。
【0033】
(5)前記共重合体が、ブロック鎖A、B及びCが、B−A−Cで結合して配列してなる共重合体であることを特徴とする(3)又は(4)の高分子固体電解質電池。
(6)前記式(I)で表される繰返し単位の重合度が10以上であることを特徴とする(2)〜(5)いずれかの高分子固体電解質電池。
(7)前記式(II)で表される繰返し単位の重合度が5以上であることを特徴とする(3)〜(6)いずれかの高分子固体電解質電池。
(8)前記式(III)で表される繰返し単位の重合度が5以上であることを特徴とする(4)〜(7)いずれかの高分子固体電解質電池。
(9)前記式(I)で表される繰返し単位が、前記式(I)中、mが5〜100の整数である繰返し単位であることを特徴とする(2)〜(8)いずれかの高分子固体電解質電池。
【0034】
(10)前記式(I)で表される繰返し単位が、前記式(I)中、mが10〜100の整数である繰返し単位であることを特徴とする(2)〜(8)いずれかの高分子固体電解質電池。
(11)前記式(III)で表される繰返し単位が、前記式(III)中、R13がアリール基であり、かつ、重合度が5以上の繰返し単位であることを特徴とする(4)〜(10)いずれかの高分子固体電解質電池。
(12)前記式(I)で表される繰返し単位と、式(II)で表される繰返し単位及びブロック鎖Cに含まれる繰返し単位の合計とのモル比〔繰返し単位(I)のモル数/(繰返し単位(II)のモル数+ブロック鎖Cのモル数)〕が、1/30〜30/1であることを特徴とする(3)〜(11)いずれかの高分子固体電解質電池。
(13)前記式(I)で表される繰返し単位と、式(II)で表される繰返し単位及び式(III)で表される繰返し単位の合計とのモル比〔繰返し単位(I)のモル数/(繰返し単位(II)のモル数+繰返し単位(III)のモル数)〕が、1/30〜30/1であることを特徴とする(4)〜(11)いずれかの高分子固体電解質。
【0035】
(14)金属系電極材、ガラス状炭素又は熱分解炭素を用いる電極を備えることを特徴とする(1)〜(13)いずれかの高分子固体電解質電池。
(15)前記金属系電極材が、白金系電極材、金系電極材又はアルミニウム系電極材であることを特徴とする(14)の高分子固体電解質電池。
(16)前記高分子の数平均子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする(1)〜(15)いずれかの高分子固体電解質電池。
【0036】
(17)前記高分子が、膜構造中において、ミクロ相分離構造を有するものであることを特徴とする(1)〜(16)いずれかの高分子固体電解質電池。
(18)前記高分子固体電解質がミクロ相分離構造を有するものであることを特徴とする(1)〜(17)いずれかの高分子固体電解質電池。
【0037】
(19)前記ミクロ相分離構造が、ネットワーク型ミクロ相分離構造であることを特徴とする(17)又は(18)の高分子固体電解質電池。
(20)前記電解質塩が、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(19)いずれかの高分子固体電解質電池。
(21)前記電解質塩が、リチウム塩であることを特徴とする(1)〜(20)いずれかの高分子固体電解質電池。
(22)耐電圧が4.5V以上であることを特徴とする(1)〜(21)いずれかの高分子固体電解質電池。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、4.2V以上、好ましくは4.5V以上の耐電圧を有し、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上である5V級高分子固体電解質電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子固体電解質電池は、高分子及び電解質塩を含有する高分子固体電解質を備え、耐電圧が4.2V以上、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上であることを特徴とする。
【0040】
1)高分子固体電解質
本発明の高分子固体電解質電池に用いる高分子固体電解質は、高分子及び電解質塩を含有してなる。
(1)高分子
本発明に用いる高分子としては、高分子固体電解質のマトリクス成分として用いることができるものであれば特に制限されないが、導電率、耐電圧特性及び機械特性に優れる高分子固体電解質電池を得られることから、少なくとも前記式(I)で表される繰返し単位を有する重合体であるのが好ましく、前記式(I)で表される繰返し単位を有するブロック鎖A、前記式(II)で表される繰返し単位を有するブロック鎖B、及びブロック鎖Cの各ブロック鎖が、B、A、Cの順で配列してなる共重合体であるのがより好ましい。特に用いる高分子がブロック共重合体である場合には、成形又は成膜した際に(すなわち、膜構造中において)ミクロ相分離構造を発現し、固体状態でも良好な導電率を示すものとなる。
【0041】
ここで、前記ブロック鎖A又はBにおいて、式(I)又は(II)で表される繰返し単位を有するとは、各ブロック鎖が対応する繰返し単位以外に、他の繰返し単位を構成単位として含む場合及び含まない場合の両方を意味するものとする。
【0042】
すなわち、ブロック鎖Aは、式(I)で表される繰返し単位のみからなるポリマー鎖、又は式(I)で表される繰返し単位と他の繰返し単位からなる共重合ポリマー鎖のいずれかを意味する。ブロック鎖Bは、式(II)で表される繰返し単位のみからなるポリマー鎖、又は式(II)で表される繰返し単位と他の繰返し単位からなる共重合ポリマー鎖のいずれかを意味し、ブロック鎖Cは、式(III)で表される繰返し単位のみからなるポリマー鎖、又は式(III)で表される繰返し単位と他の繰返し単位からなる共重合ポリマー鎖のいずれかを意味する。
【0043】
また、各ブロック鎖がB、A、Cの順で配列してなるとは、各ブロック鎖が、直接結合していても、連結基、重合鎖等の他の構成単位を間に挟んで結合していてもよいことを意味する。
【0044】
かかる連結基としては、酸素原子、アルキレン基等が挙げられる。
また、重合鎖としては、ホモポリマーからなる鎖、2元以上の共重合体からなる鎖等が挙げられる。
重合鎖を構成する共重合体の種類は特に制限されず、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、徐々に成分比が変化するグラジエント共重合体等が挙げられる。また、各ブロック鎖を構成する繰返し単位間の成分比が徐々に変化するテーパーブロック共重合体であってもよい。
【0045】
(ブロック鎖A)
ブロック鎖Aは、少なくとも前記式(I)で表される繰返し単位を有する。
前記式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。炭素数1〜10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基;等が挙げられる。
【0046】
また、RとRは結合して環を形成してもよい。環としては、シクロプロパン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等の3〜8員の炭素環が挙げられる。
【0047】
前記R〜Rの炭化水素基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;シアノ基;ニトロ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;アミノ基、ジメチルアミノ基等の置換基を有していてもよいアミノ基;アニリノ基;等が挙げられる。また前記R〜Rの炭化水素基は、同一又は相異なる複数の置換基を有していてもよい。
【0048】
4a、R4bは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。
mは2〜100いずれかの整数を表し、好ましくは5〜100いずれかの整数、より好ましくは10〜100いずれかの整数である。各繰返し単位におけるmの値は、同一でも相異なっていてもよい。また、式:−CH(R4b)−CH(R4a)−O−で表される基同士は、同一でも相異なっていてもよい。
【0049】
は、水素原子、炭化水素基、アシル基又はシリル基を表す。
の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
シリル基としては、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
の炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、通常1〜20、好ましくは1〜10である。またRの炭化水素基は、前記R〜Rの炭化水素基と同様の置換基を有していてもよい。
【0050】
式(I)で表される繰返し単位として、具体的には以下の化合物を例示することができる。但し、式(I)で表される繰返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示する。
【0051】
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、「ブレンマーPMEシリーズ」〔式(I)においてR=R=水素原子、R=メチル基、m=2〜90に相当する単量体〕(日本油脂社製)、アセチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンゾイルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルジメチチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールシクロヘキセン−1−カルボキシレート、メトキシポリエチレングリコールシンナメート。
【0052】
前記式(I)で表される繰返し単位は、これらの単量体の一種単独からなるものであっても、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
式(I)で表される繰返し単位の重合度は、mの値にもよるが、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。
【0053】
(ブロック鎖B)
ブロック鎖Bは、少なくとも前記式(II)で表される繰返し単位を有する。
前記式(II)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。炭素数1〜10の炭化水素基としては、前記R〜Rの炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0054】
は、置換基を有していてもよいアリール基を表す。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらの置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基等が挙げられる。
【0055】
式(II)で表される繰返し単位として、具体的には以下の化合物を例示することができる。但し、式(II)で表される繰返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示する。
【0056】
スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、4−カルボキシスチレン、ビニルアニソール、ビニル安息香酸、ビニルアニリン等のスチレン類;1−ビニルナフタリン等のビニルナフタレン類;9−ビニルアントラセン等のビニルアントラセン類;等。
【0057】
前記式(II)で表される繰返し単位は、これらの単量体の一種単独からなるものであっても、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
式(II)で表される繰返し単位の重合度は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0058】
(ブロックC)
ブロック鎖Cは、任意の繰返し単位を有するブロック鎖である。
ブロック鎖Cを含有する共重合体は、膜構造中においてミクロ相分離状態を発現し、この共重合体を用いる高分子固体電解質の導電率を向上させることができるので好ましい。
【0059】
ブロックCの有する繰返し単位は、特に限定されず、例えば、前記繰返し単位(II)、前記式(III)で表される繰返し単位、後述するその他の繰返し単位、これらの繰返し単位の二種以上の組み合わせ、等が挙げられる。これらの中でも、ブロックCとしては、前記式(III)で表される繰返し単位を有するものが好ましい。
【0060】
前記式(III)中、R10〜R12は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。炭素数1〜10の炭化水素基としては、前記R〜Rの炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
13は、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;又は2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基等のヘテロアリール基;を表し、アリール基であるのが好ましい。
また、R13のアリール基又はへテロアリール基は、適当な炭素原子上に、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の置換基を1個以上有していてもよい。
【0062】
式(III)で表される繰返し単位として、具体的には、以下の繰返し単位を有する化合物を例示することができる。但し、式(III)で表される繰返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示する。
【0063】
スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、4−カルボキシスチレン、ビニルアニソール、ビニル安息香酸、ビニルアニリン等のスチレン類;1−ビニルナフタレンなどのビニルナフタレン類;9−ビニルアントラセン等のビニルアントラセン類;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;2−ビニルキノリン、4−ビニルキノリン等のビニルキノリン類;2−ビニルチオフェン、3−ビニルチオフェン等のビニルチオフェン類;等。
【0064】
前記式(III)で表される繰返し単位は、これらの単量体の一種単独からなるものであっても、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
式(III)で表される繰返し単位の重合度は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0065】
前記ブロック鎖A〜Cは、前記式(I)〜(III)で表される繰返し単位と異なる繰返し単位(以下、「その他の繰返し単位」ということがある。)を構成単位として含んでいてもよい。
【0066】
本発明に用いる高分子が、前記その他の繰返し単位を構成単位として含む場合、式(I)又は(II)で表される繰返し単位と他の繰返し単位との重合形式は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、交互重合等のどのような重合形式であっても構わない。
【0067】
その他の繰返し単位としては、以下の化合物を例示することができる。但し、その他の繰返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示する。
【0068】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸2−メチル−2−アダマンチル、(メタ)アクリル酸1−メチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸1−エチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸3,7−ジメチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ノルボルナン、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロピラニル、(メタ)アクリル酸3−オキソシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ブチロラクトン、(メタ)アクリル酸メバロニックラクトン等の(メタ)アクリル酸エステル類;
【0069】
1,3−ブタジエン、イソプレン、2、3−ジメチル−1、3−ブタジエン、1、3−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、1、3−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、4、5−ジエチル−1、3−オクタジエン、3−ブチル−1、3−オクタジエン、クロロプレン等の共役ジエン類;N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のα,β−不飽和カルボン酸イミド類;(メタ)アクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル類;等。
その他の繰返し単位は、これらの単量体の一種単独からなるものであっても、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0070】
さらに、本発明に用いる高分子においては、前記式(I)〜(III)で表される繰返し単位を形成する単量体と共重合可能な二重結合を有し、かつ、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を分子内に有する繰返し単位を構成単位として含ませることができる。
【0071】
そのような繰返し単位として、以下の化合物を例示することができる。但し、そのような繰返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示する。
【0072】
【化10】

【0073】
【化11】

【0074】
【化12】

【0075】
これらの繰返し単位は、上記した単量体の一種単独からなるものであっても、二種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0076】
本発明に用いる高分子おいて、前記式(I)で表される繰返し単位と、前記式(II)で表される繰返し単位及び前記ブロック鎖Cに含まれる繰返し単位の合計とのモル比〔式(I)で表される繰返し単位/(式(II)で表される繰返し単位+ブロック鎖Cに含まれる繰返し単位)〕は、特に制限されないが、1/30〜30/1の範囲であるのが好ましい。前記モル比が、1/30未満では十分な導電性が得られず、30/1より大きい場合には、充分な熱的特性、物理的特性が得られないおそれがある。
【0077】
また、ブロック鎖Cが式(III)で表される繰返し単位を有する場合には、「ブロック鎖Cに含まれる繰返し単位」の代わりに、「式(III)で表される繰返し単位」を当てはめることができる。すなわち、モル比〔式(I)で表される繰返し単位/(式(II)で表される繰返し単位+式(III)で表される繰返し単位)〕は、1/30〜30/1の範囲であるのが好ましい。前記モル比が、1/30未満では十分な導電性が得られず、30/1より大きい場合には、十分な熱的特性、物理的特性が得られないおそれがある。
【0078】
本発明に用いる高分子がブロック鎖A、B、Cが、B、A、Cの順で配列してなる共重合体である場合、ブロック鎖A、B、Cの結合状態は特に限定されない。前記ブロック鎖A、B、Cの結合状態としては、ブロック鎖A、B、Cが、直接に又は連結基若しくは他のポリマー鎖を介して結合しているものが挙げられる。
【0079】
ブロック鎖A〜Cの結合状態としては、[A−B]、[B−A−B]、[B−A−C]、[C−B−A−B−C](jは、1以上の整数を表す)等を例示することができる。ここで[A−B]は、ブロック鎖AとBが直接に又は連結基若しくは他のポリマー鎖を介して結合していることを意味する。[B−A−B]、[B−A−C]、[C−B−A−B−C]等も同様である。
【0080】
また、本発明に用いる共重合体としては、上記各ブロックポリマーをそれぞれカップリング剤の残基を介して、下記式(11)〜(14)で表されるようなセグメントが延長又は分岐されたブロックコポリマーであってもよい。式中、wは1以上の整数を表し、Xはカップリング剤の残基を表す。
【0081】
【化13】

【0082】
ここで、(A−B)は、ブロック鎖AとBが直接に又は連結基若しくは他のポリマー鎖を介して結合していることを意味する。(B−A−C)、(B−A−B)、(C−B−A−B−C)等も同様である。
【0083】
これらの中でも、本発明に用いる高分子としては、前記ブロック鎖A、B、Cが、B−A−Cと結合して配列してなる共重合体が特に好ましい。ここで、B−A−Cと結合してなるとは、各ブロック鎖が直接にB−A−Cの順で結合していることを意味する。
【0084】
本発明に用いる高分子のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法により測定した数平均分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算で、5,000〜1,000,000の範囲であるのが好ましい。数平均分子量が5,000より小さい場合には、熱的特性、物理的特性が低下し、1,000,000より大きい場合には、成形性又は成膜性が低下するおそれがある。
【0085】
本発明に用いる高分子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、後述するミクロ相分離構造を形成する上では、1.01〜2.50の範囲が好ましく、1.01〜1.50の範囲がより好ましい。
【0086】
本発明に用いる高分子は、高い導電率を有する高分子固体電解質を得る上から、膜構造中において、ミクロ相分離構造を有するものが好ましく、特に、ネットワーク型のミクロ相分離構造を有するものが好ましい。
【0087】
(高分子の製造方法)
本発明に用いる高分子の製造方法としては、用いる高分子が公知化合物の場合、公知の製造方法により製造することができる。
本発明に用いる高分子が、少なくとも下記式(I)で表される繰返し単位を有する重合体である場合には、このものは、下記式(IV)で表される化合物の一種又は二種以上を含むモノマー(モノマー混合物)を重合することにより製造することができる。
【0088】
【化14】

【0089】
(式中、R〜R、R4a、R4b、R及びmは前記と同じ意味を表す。)
前記式(IV)で表される化合物の一種又は二種以上を含むモノマー(モノマー混合物)を重合する方法は特に制限されず、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法などが挙げられる。
【0090】
本発明に用いる高分子が、前記式(I)で表される繰返し単位を有するブロック鎖A、前記式(II)で表される繰返し単位を有するブロック鎖B、及びブロック鎖Cの各ブロック鎖が、B、A、Cの順で配列してなる共重合体である場合、このものを製造する方法としては、
(イ)前記式(I)で表される繰返し単位を有するポリマー鎖を合成した後、連続的に、式(II)で表される繰返し単位等の他の繰返し単位を有するポリマー鎖合成して、ブロックコポリマーを製造する方法、
(ロ)用いる繰返し単位を有するポリマー鎖を別々に合成した後、カップリング反応により、それらのポリマー鎖をそれぞれを結合してブロックコポリマーを製造する方法、
(ハ)分子中に式(I)で表される繰返し単位を有する重合開始剤の存在下に、式(II)で表される繰返し単位を有するポリマー鎖を合成してブロックコポリマーを製造する方法、
(ニ)分子中に式(II)で表される繰返し単位を有する重合開始剤の存在下に、式(I)で表される繰返し単位を有するポリマー鎖を合成してブロックコポリマーを製造する方法、等が挙げられる。
【0091】
本発明に用いる高分子が、前記式(I)で表される繰返し単位を有するブロック鎖A、前記式(II)で表される繰返し単位を有するブロック鎖B、及びブロック鎖Cの各ブロック鎖が、B、A、Cの順で配列してなる共重合体である場合、このものを製造する方法として、より具体的には、前記式(IV)で表される化合物、式(V)で表される化合物及び式(III)で表される繰返し単位を含むブロック鎖Cを含ませる場合には、式(VI)で表される化合物をモノマーとして用いて共重合することにより製造することができる。
【0092】
【化15】

【0093】
【化16】

【0094】
(式中、R〜R13は、前記と同じ意味を表す。)
また、本発明に用いる高分子は、上記式(IV)、及び下記式(VII)又は下記式(VIII)で表される化合物を、前記と同様の方法を用いて共重合させることにより製造することもできる。
【0095】
【化17】

【0096】
またこの場合、上記式(IV)、及び下記式(VII)又は下記式(VIII)で表される化合物に加えて、必要に応じて、下記式(IX)、式(X)で表される単量体等をさらに含ませてもよい。
【0097】
【化18】

【0098】
前記式(VII)〜(X)中、R14〜R16、R18〜R28は、それぞれ独立して水素原子、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R14とR16は、結合して環を形成してもよい。
【0099】
17は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等のC1〜C6アルキレン基;フェニレン基、ナフチレン基等のC6〜C10の2価芳香族炭化水素基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、アダマンタンジイル基等の炭素数3〜10の2価脂環式炭化水素基;等を表す。また、R17は、アルキレン基、2価芳香族炭化水素基、2価脂環式炭化水素基を2以上複合した2価の有機基であってもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0100】
前記R14〜R16、R18〜R28の炭化水素基、及びR17の、アルキレン基、2価芳香族炭化水素基、2価脂環式炭化水素基、又はこれらの基を2以上複合した2価の有機基は適当な炭素原子上に置換基を有していてもよい。
【0101】
かかる置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;シアノ基;ニトロ基;メトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基等の置換されていてもよいアミノ基;アニリノ基等が挙げられる。
pは1〜3いずれかの整数を表し、フェニル基の水酸基の置換位置は特に限定されない。
【0102】
また、前記式(VIII)において、フェニル基上の適当な炭素原子は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、フッ素原子、クロル原子、又はブロム原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;ニトリル基;ニトロ基;メトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;アミノ基、ジメチルアミノ基等の置換されていてもよいアミノ基;アニリノ基等が挙げられる。
【0103】
ポリマー鎖を合成する方法としては、特に制限されないが、例えば、(a)リビングアニオン重合法、(b)安定ラジカルによるリビングラジカル重合法、(c)遷移金属錯体を重合触媒、ハロゲン原子を1又は複数含む有機ハロゲン化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合法等の公知の方法が挙げられる。これらの中でも、効率よく目的とする共重合体を得ることができることから、(b)又は(c)のリビングラジカル重合法が好ましく、(c)のリビングラジカル法が特に好ましい。
【0104】
(a)のリビングアニオン重合法を採用する場合においては、アルカリ金属又は有機アルカリ金属を重合開始剤として、通常、減圧下、又は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下、有機溶媒中において、重合温度−100〜+50℃、好ましくは−100〜−20℃において行うことができる。
【0105】
用いるアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム等を例示することができる。
用いる有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物等を使用することができる。具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、α−メチルスチレンジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム等が挙げられる。
【0106】
また、(a)のリビングアニオン重合法において用いる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロペンタン等の環族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド類;等のアニオン重合において通常使用される有機溶媒が挙げられる。
【0107】
また、共重合反応を制御することを目的として、公知の添加剤、例えば塩化リチウム等の鉱酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を反応系に添加してもよい。
【0108】
前記(b)又は(c)のリビングラジカル重合法によるブロック共重合体の製造方法として、具体的には、
(1)第一の単量体の転化率が100%に達した後、第二の単量体を添加して重合を完結させ、これを繰り返すことによりブロック共重合体を得る、単量体を逐次的に添加する方法、
(2)第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で第二の単量体を加えて重合を継続し、ブロック鎖間にランダム部分が存在するグラジエント共重合体を得る方法、
(3)第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で一旦反応を停止、系外に重合体を取りだし、得られた重合体をマクロ開始剤として他の単量体を加えて共重合を断続的に進め、ブロック共重合体を得る方法、
等を例示することができる。
【0109】
(b)のリビングラジカル重合を安定ラジカル系開始剤を用いて行う場合、用いる安定ラジカル系開始剤としては、安定フリーラジカル化合物とラジカル重合開始剤との混合物、各種アルコキシアミン類等が挙げられる。
【0110】
安定フリーラジカル化合物とは、室温又は重合条件下で単独で安定な遊離基として存在し、また重合反応中には生長末端ラジカルと反応して再解離可能な結合を生成することができるものである。
【0111】
安定フリーラジカル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペルジニルオキシ、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、4,4’−ジメチル−1,3−オキサゾリン−3−イルオキシ、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロジニルオキシ、ジ−t−ブチルニトロキシド、2,2−ジ(4−t−オクチルフェニル)−1−ピクリルヒドラジル等のニトロキシドラジカルやヒドラジニルラジカルを1〜複数個生成する化合物等が挙げられる。
【0112】
用いるラジカル重合開始剤としては、分解してフリーラジカルを生成する化合物であれば、特に制限されない。具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類等、キュメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類の有機過酸化物が例示できる。また、ジメチルアニリンやナフテン酸コバルト等有機過酸化物と組み合わせて用いられる公知の重合促進剤を併用しても良い。
【0113】
こららのラジカル重合開始剤は、前述の安定フリーラジカル化合物1モルに対して通常0.05〜5モル、好ましくは0.2〜2モルの範囲で用いられる。
【0114】
アルコキシアミン類としては、ラジカル重合ハンドブック、107頁(1999年)エヌティエス社、J.Am.Chem.Soc.,121,3904(1999年)等の文献に記載されている化合物が挙げられる。なかでも、下記に示す化合物を特に好ましく例示することができる。
【0115】
【化19】

【0116】
(c)のリビングラジカル重合に用いる遷移金属錯体を構成する中心金属としては、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅等の周期律表第7〜11族元素(日本化学会編「化学便覧基礎編I改訂第4版」(1993年)記載の周期律表による)が好ましく挙げられる。なかでも、ルテニウムが好ましい。
【0117】
前記遷移金属錯体を形成する配位子としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィン等の炭素数18〜54のトリアリールホスフィン;トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン等の炭素数3〜18のトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジフェニルホスフィノエタン;ヨウ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;一酸化炭素;水素原子;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、シクロオクタテトラエン、ノルボルナジエン等の脂環式炭化水素;インデン、ベンゼン、シメン、フェノール、4−イソプロピルトルエン、シクロペンタジエニルトルエン、インデニルトルエン、サリシリデン等の芳香族炭化水素;2−メチルペンテン、2−ブテン、アレン等のアルケン;フラン;カルボン酸;等を好ましい例として挙げることができる。また、含窒素系配位子やカルコゲナイドも有用である。
【0118】
以上例示した配位子のうち、炭化水素配位子は、種々の置換基、例えば、メチル基、エチル基等のC1−C4アルキル基;ビニル基、アリル基等のC2−C5アルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のC2−C5アルキニル基;メトキシ基等のC1−C4アルコキシ基;メトキシカルボニル基等のC1−C4アルコキシカルボニル基;アセチル基等のC2−C5アシル基;ホルミル基、アセチルオキシ基等のC2−C5アシルオキシ基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;アミノ基;アミド基;イミノ基;ニトロ基;シアノ基;チオエステル基;チオケトン基;チオエーテル基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等を有していてもよい。
【0119】
置換基を有する炭化水素配位子としては、例えば、ペンタメチルシクロペンタジエニル基等の1〜5個のメチル基で置換されていてもよい環状炭化水素配位子等が例示できる。
【0120】
また遷移金属錯体は、前記例示した配位子以外に、水酸基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アセチルアセトナート等のβ−ジケトナート基;アセチルアセテート等のβ−ケトエステル基;CN、チオシアナート(SCN)、セレノシアナート(SeCN)、テルロシアナート(TeCN)、SCS、N、OCN、ONC、アジド(N)等の擬ハロゲン基;酸素原子;HO;NH、NO、NO、NO、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリブチルアミン、1,3−ジイソプロピル−4,5−ジメチルイミダゾール−2−イリデン、ピリジン、フェナントロリン、ジフェナントロリンや置換フェナントロリン、2,2’:6’,2”−ターピリジン、ピリジンイミン、架橋脂肪族ジアミン、4−4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン、チオシアネート基;O,S,Se,Teの配位したビピリジン;アルキルイミノピリジン、アルキルビピリジニルアミン、アルキル置換トリピリジン、ジ(アルキルアミノ)アルキルピリジン、エチレンジアミンジピリジン、トリ(ピリジニルメチル)アミン等の等の窒素含有化合物;等を有していてもよい。
【0121】
前記遷移金属錯体の具体例としては、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリブチルホスフィン)ルテニウム、ジクロロ(トリアルキルホスフィン)p−シメンルテニウム、ジクロロ−ジ(トリシメンホスフィン)スチリルルテニウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)ルテニウム、ジクロロベンゼンルテニウム、ジクロロp−シメンルテニウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)ルテニウム、シス−ジクロロビス(2,2’−ビピリジン)ルテニウム、ジクロロトリス(1,10−フェナントロリン)ルテニウム、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドロテトラ(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ルテニウム(II)、ジカルボニルシクロペンタジエニル臭化ルテニウム(II)、ジカルボニルシクロペンタジエニル塩化ルテニウム(II)、ジカルボニルインデニルヨウ化ルテニウム(II)、ジカルボニルインデニル臭化ルテニウム(II)、ジカルボニルインデニル塩化ルテニウム(II)、ジカルボニルフルオレニルヨウ化ルテニウム(II)、ジカルボニルフルオレニル臭化ルテニウム(II)、ジカルボニルフルオレニル塩化ルテニウム(II)、ジクロロ−ジ−2、6−ビス[(ジメチルアミノ)−メチル](μ−N)ピリジンルテニウム(II)等のルテニウム錯体;
【0122】
ジ(トリフェニルホスフィン)二塩化鉄、ジ(トリブチルアミノ)二塩化鉄、トリフェニルホスフィン三塩化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−トリエトキシホスフィン−二臭化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−トリフェニルホスフィン−二臭化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−[4−4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン]二臭化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−トリ−n−ブチルアミノ−二臭化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−トリ−n−ブチルホスフィン−二臭化鉄、トリ−n−ブチルホスフィン−二臭化鉄、[4−4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン]二臭化鉄、テトラアルキルアンモニウム三ハロゲン化鉄(II)、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化鉄(II)、ジカルボニルシクロペンタジエニル臭化鉄(II)、ジカルボニルシクロペンタジエニル塩化鉄(II)、ジカルボニルインデニルヨウ化鉄(II)、ジカルボニルインデニル臭化鉄(II)、ジカルボニルインデニル塩化鉄(II)、ジカルボニルフルオレニルヨウ化鉄(II)、ジカルボニルフルオレニル臭化鉄(II)、ジカルボニルフルオレニル塩化鉄(II)、1,3−ジイソプロピル−4,5−ジメチルイミダゾール−2−イリデン塩化鉄、1,3−ジイソプロピル−4,5−ジメチルイミダゾール−2−イリデン臭化鉄等の鉄錯体;
【0123】
カルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルシクロペンタジエニル臭化ニッケル(II)、カルボニルシクロペンタジエニル塩化ニッケル(II)、カルボニルインデニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルインデニル臭化ニッケル(II)、カルボニルインデニル塩化ニッケル(II)、カルボニルフルオレニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルフルオレニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルフルオレニル臭化ニッケル(II)、カルボニルフルオレニル塩化ニッケル(II)、o,o’−ジ(ジメチルアミノメチル)フェニルハロゲン化ニッケル、ジ−トリフェニルホスフィン二臭化ニッケル、ジ(トリn−ブチルアミノ)二臭化ニッケル、1,3−ジアミノフェニル臭化ニッケル、ジ(トリn−ブチルホスフィン)二臭化ニッケル、テトラ(トリフェニルホスフィン)ニッケル等のニッケル錯体;
【0124】
トリカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化モリブデン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル臭化モリブデン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル塩化モリブデン(II)、ジN−アリール−ジ(2−ジメチルアミノメチルフェニル)リチウムモリブデン、ジN−アリール−(2−ジメチルアミノメチルフェニル)−メチルリチウムモリブデン、ジN−アリール−(2−ジメチルアミノメチルフェニル)−トリメチルシリルメチルリチウムモリブデン、ジN−アリール−(2−ジメチルアミノメチルフェニル)−p−トリルリチウムモリブデン等のモリブデン錯体;
【0125】
トリカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化タングステン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル臭化タングステン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル塩化タングステン(II)等のタングステン錯体;
ジカルボニルシクロペンタジエニルコバルト(I)等のコバルト錯体;
トリカルボニルシクロペンタジエニルマンガン(I)、トリカルボニル(メチルシクロペンタジエニル)マンガン(I)等のマンガン錯体;
トリカルボニルシクロペンタジエニルレニウム(I)、ジオキソビス(トリフェニルホスフィン)ヨウ化レニウム等のレニウム錯体;
【0126】
トリ(トリフェニルホスフィン)塩化ロジウム等のロジウム錯体;
トリフェニルホスフィンジアセチルパラジウム等のパラジウム錯体;
ジフェナンスロリン、置換フェナンスロリン、2,2’:6’,2”−ターピリジン、ピリジンイミン、架橋脂肪族ジアミン、アルキルビピリジニルアミン、アルキル置換トリピリジン、ジ(アルキルアミノ)アルキルピリジン、イミノジピリジン、エチレンジアミンジピリジン、トリス(ピリジニルメチル)アミン等を配位子とする銅錯体;アセチル[4−4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン]銅、六フッ化ホスフィン−ジ[4−4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン]銅、チオシアネート銅、O,S,Se,Teの配位したビピリジン銅等のその他の銅錯体;等が挙げられる。
これらの遷移金属錯体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0127】
これらの中でも、ルテニウム錯体、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化鉄(I)などの鉄錯体、カルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ニッケル(II)等のニッケル錯体が好ましく、ルテニウム錯体がより好ましい。特に好ましいルテニウム錯体としては、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ルテニウム(II)、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等が挙げられる。
【0128】
前記有機ハロゲン化合物は、1〜4個又はそれ以上のハロゲン原子を含み、遷移金属錯体と作用してラジカル種を発生させることにより重合を開始させるものである。
用いる有機ハロゲン化合物としては、特に制限されず、例えば、下記式(XI)又は(XII)で表されるハロゲン化合物等が挙げられる。このような有機ハロゲン化合物は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0129】
【化20】

【0130】
【化21】

【0131】
式(XI)、(XII)中、R29、R30は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はヘテロ原子を含む有機基を表す。R31は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヘテロ原子を含む有機基を表す。
【0132】
前記R29〜R31のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のC1−C12アルキル基等が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のC4−12シクロアルキル基等が挙げられ、C4−C8シクロアルキル基が好ましい。
【0133】
アリール基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のC6−C12アリール基等が挙げられる。
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等のC7−C14アラルキル基等が挙げられる。
【0134】
ヘテロ原子を含む有機基としては、少なくとも1つのヘテロ原子(窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子)を含む有機基であれば、特に制限されない。例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等の脂肪族C1−C10アルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基等のC6−C12アリールオキシカルボニル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等の脂肪族C2−C10アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ基等のC6−C12アリールカルボニルオキシ基;ホルミル基、アセチル基等の脂肪族C1−C10アシル基;ベンゾイル基等のC6−C12アリール−カルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の脂肪族C1−C10アルコキシ基;フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等のC6−C12アリールオキシ基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;アミノ基、アミド基、イミノ基、シアノ基、ニトロ基等の含窒素官能基;チオエステル基、チオケトン基、チオエーテル基等の含硫黄官能基;等が挙げられる。
【0135】
また、前記R29〜R31のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はヘテロ原子を含む有機基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。
【0136】
は、ハロゲン原子又はハロゲン原子を含む有機基を表し、Zは、Z、又はR29若しくはR30と同様の意味を表す。
【0137】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示でき、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。
【0138】
前記ハロゲン原子を含む有機基としては、少なくとも1つのハロゲン原子を含む有機基であれば、特に制限されない。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
有機基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0139】
これらの中でも、前記式(XI)で表される化合物として、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化エステル(ハロゲン含有エステル)、ハロゲン化ケトン(ハロゲン含有ケトン)、ハロゲン含有ニトリルが好ましく、また、前記式(XII)で表される化合物として、スルホニルハライド(ハロゲン化スルホニル化合物)が好ましい。
【0140】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化n−プロピル、臭化n−プロピル、ヨウ化n−プロピル、塩化イソプロピル、臭化イソプロピル、ヨウ化イソプロピル、塩化t−ブチル、臭化t−ブチル、ヨウ化t−ブチル等のモノハロC1−C12アルカン;ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジヨードメタン、1,1−ジクロロエタン、1,1−ジブロモエタン、1,1−ジヨードエタン、1−ブロモ−1−クロロエタン、2,2−ジクロロプロパン、2,2−ジブロモプロパン、2,2−ジヨードプロパン、2−クロロ−2−ヨードプロパン、2−ブロモ−2−ヨードプロパン等のジハロC1−C12アルカン;シクロヘキシルクロライド、シクロオクチルクロライド等のC5−C10シクロアルキルハライド;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化C6−C14アリール;塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、塩化ベンズヒドリル、臭化ベンズヒドリル、1−フェニルエチルクロリド、1−フェニルエチルブロミド、1−フェニルエチルヨージド、キシリレンジクロリド、キシリレンジブロミド、キシリレンジヨージド、ジクロロフェニルメタン、ジクロロジフェニルメタン等のC7−C14アラルキルハライド;等が挙げられる。
【0141】
ハロゲン含有エステルとしては、ジクロロ酢酸メチル、トリクロロ酢酸メチル、α−ブロモフェニル酢酸メチル、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−ブロモ−プロピオン酸ヒドロキシエチル、2−ブロモ−プロピオン酸グリシジルメチル、2−ブロモ−プロピオン酸プロペニル、クロロ酢酸ビニル、ブロモラクトン、2−ブロモ−プロピオン酸−p−カルボキシルフェノルエチル、2−クロロイソ酪酸メチル、2−クロロイソ酪酸エチル、2−ブロモイソ酪酸メチル、2−ブロモイソ酪酸エチル、2−ヨードイソ酪酸メチル、2−ヨードイソ酪酸エチル等のハロゲン含有C2−C12モノカルボン酸のC1−C10アルキルエステルや置換アルキルエステルやアルケニルエステル;
2−クロロ−2−メチルマロン酸ジメチル、2−クロロ−2−メチルマロン酸ジエチル、2−ブロモ−2−メチルマロン酸ジメチル、2−ブロモ−2−メチルマロン酸ジエチル、2−ヨード−2−メチルマロン酸ジメチル、2−ヨード−2−メチルマロン酸ジエチル、2−ブロモ−2,4,4−トリメチル−グルタル酸ジメチル等のハロゲン含有C1−C14多価カルボン酸のC1−C10アルキルエステル;
ジクロロ酢酸、ジブロモ酢酸、2−クロロイソ酪酸、2−ブロモイソ酪酸等のハロゲン含有C2−C12カルボン酸等が挙げられる。
【0142】
ハロゲン含有ケトンとしては、2−クロロアセトン、1,1−ジクロロアセトン、エチルクロロメチルケトン、1−ブロモエチルエチルケトン等のハロゲン化C1−C10アルキル−C1−C10アルキルケトン;2,2−ジクロロアセトフェノン、2−ブロモイソブチロフェノン等のハロゲン化C1−C10アルキル−C6−C12アリールケトン等が挙げられる。
【0143】
ハロゲン含有ニトリルとしては、2−ブロモプロピオニトリルが挙げられ、その系列としてベンジルチオシアネートも使用できる。
【0144】
本発明においては、前記式(XI)で表されるハロゲン化合物の他に、3〜4個のハロゲン原子を含む有機ハロゲン化合物も開始剤として用いることができる。
【0145】
3個のハロゲン原子を含むものとしては、クロロホルム等のトリハロC1−C12アルカン;トリクロロフェニルメタン等のC7−14アラルキルハライド;アセチルトリ塩化メタン等のハロゲン含有C2−C12モノカルボン酸のC1−C10アルキルエステル;1,1,1,−トリクロロアセトン等のハロゲン化C1−C10アルキル−C1−C10アルキルケトン等が挙げられる。4個のハロゲン原子を含むものとして、四塩化炭素、ブロモトリ塩化メタン等のテトラハロC1−C12アルカン等が挙げられる。
また、トリフルオロトリ塩化エタンのような4個を超えるハロゲン原子を含むものも用いることができる。
【0146】
前記式(XII)で表されるスルホニルハライドとしては、塩化メタンスルホニル、臭化メタンスルホニル、ヨウ化メタンスルホニル、塩化クロロメタンスルホニル、臭化クロロメタンスルホニル、ヨウ化クロロメタンスルホニル、塩化ジクロロメタンスルホニル、臭化ジクロロメタンスルホニル、ヨウ化ジクロロメタンスルホニル、塩化ブロモメタンスルホニル、臭化ブロモメタンスルホニル、ヨウ化ブロモメタンスルホニル、塩化ジブロモメタンスルホニル、臭化ジブロモメタンスルホニル、ヨウ化ジブロモメタンスルホニル、塩化ヨードメタンスルホニル、臭化ヨードメタンスルホニル、ヨウ化ヨードメタンスルホニル、塩化ジヨードメタンスルホニル、臭化ジヨードメタンスルホニル、ヨウ化ジヨードメタンスルホニル、塩化トリクロロメタンスルホニル等の脂肪族スルホニルハライド;塩化ベンゼンスルホニル、臭化ベンゼンスルホニル、ヨウ化ベンゼンスルホニル、塩化p−メチルベンゼンスルホニル、臭化p−メチルベンゼンスルホニル、ヨウ化p−メチルベンゼンスルホニル、塩化p−クロロベンゼンスルホニル、臭化p−クロロベンゼンスルホニル、ヨウ化p−クロロベンゼンスルホニル、塩化p−メトキシベンゼンスルホニル、臭化p−メトキシベンゼンスルホニル、ヨウ化p−メトキシベンゼンスルホニル、塩化p−ニトロベンゼンスルホニル、臭化p−ニトロベンゼンスルホニル、ヨウ化p−ニトロベンゼンスルホニル、塩化p−フッ化ベンゼンスルホニル、塩化p−カルボキシルベンゼンスルホニル、塩化p−アミノジアゾベンゼンスルホニル、塩化2,5ジクロロベンゼンスルホニル、塩化2,5−ジメトキシベンゼンスルホニル、塩化2−ヒドロキシ−3,5−ジクロロベンゼンスルホニル、塩化1−ナフタレンスルホニル、塩化2−ナフタレンスルホニル、塩化(5−アミノ−2−ナフタレン)スルホニル、塩化1,4−ジスルホニルベンゼン、二臭化1,4−ジスルホニルベンゼン、二ヨウ化1,4−ジスルホニルベンゼン、二塩化2,6−ジスルホニルナフタレン、二臭化2,6−ジスルホニルナフタレン、二ヨウ化2,6−ジスルホニルナフタレン等の芳香族スルホニルハライド等が挙げられる。
【0147】
さらに、ヘテロ原子を有する他のハロゲン化合物としては、2,2−ジクロロエタノール、2,2−ジブロモエタノール等の脂肪族、脂環族又は芳香族ハロゲン化C1−C10アルコール;ジクロロアセトニトリル、ジブロモアセトニトリル等のハロゲン化アセトニトリル等のハロゲン化ニトリル;ハロゲン化アルデヒド;ハロゲン化アミド;等が挙げられる。
【0148】
リビングラジカル重合法においては、遷移金属錯体に作用することによりラジカル重合を促進させる活性化剤として、ルイス酸及び/又はアミン類を使用することができる。前記ルイス酸及びアミン類は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0149】
ルイス酸の種類は特に制限されず、種々のルイス酸、例えば、下記式(XIII)又は式(XIV)で表される化合物等が使用できる。
【0150】
【化22】

【0151】
【化23】

【0152】
上記式(XIII)、(XIV)中、Mは周期表3族元素又は周期表13族元素を示し、Mは周期表4族元素又は周期表14族元素を表す。
【0153】
前記Mとしては、具体的には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)等の周期表3族元素;ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等の周期表13族元素;が挙げられる。これらの中でも、Sc、B、Alが好ましく、Sc、Alがより好ましい。
【0154】
前記Mとしては、具体的には、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等の周期表4族元素;ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等の周期表14族元素;が挙げられる。これらの中でも、Ti、Zr、Snが好ましい。
【0155】
32〜R35は、それぞれ独立して、ハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のC1−C12アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のC4−C12シクロアルキル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のC6−C12アリール基;ベンジル基、フェネチル基等のC7−C14アラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のC1−C12アルコキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロオクチルオキシ基等のC4−C12シクロアルキルオキシ基;フェノキシ基等のC6−C12アリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のC7−C14アラルキルオキシ基;等を表す。
【0156】
前記R32〜R35のC1−C12アルキル基、C4−C12シクロアルキル基、C6−C12アリール基、C7−C14アラルキル基、C1−C12アルコキシ基、C4−C12シクロアルキルオキシ基、C6−C12アリールオキシ基、C7−C14アラルキルオキシ基は、前記炭化水素配位子の置換基と同様の置換基等を有していてもよい。
【0157】
例えば、アリールオキシ基は、芳香環上に、C1−C5アルキル基等の置換基を一つ又はそれ以上有していてもよい。このような置換アリールオキシ基の具体例としては、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2−エチルフェノキシ基、3−エチルフェノキシ基、4−エチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、2,6−ジエチルフェノキシ基、2,6−ジイソプロピルフェノキシ基、2,6−ジ−n−ブチルフェノキシ基、2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基等が挙げられる。
【0158】
これらの中でも、R32〜R35としては、それぞれ独立して、ハロゲン原子;C1−C12アルキル基;C1−C12アルコキシ基;等が好ましい。
【0159】
前記式(XV)で表される化合物としては、具体的には、アルミニウム系ルイス酸、スカンジウム系ルイス酸等が挙げられる。
【0160】
アルミニウム系ルイス酸としては、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムハライド等が挙げられる。アルミニウムアルコキシドとしては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド等のアルミニウムのC1−C4アルコキシド;アルミニウムトリフェノキシド等のアリールオキシド;メチルアルミニウムビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシド)等のアルキルアルミニウムアリールオキシド;等が挙げられる。
【0161】
スカンジウム系ルイス酸としては、前記アルミニウム系ルイス酸に対応する化合物が挙げられ、具体的には、スカンジウムトリイソプロポキシド等のスカンジウムアルコキシド;三塩化スカンジウム、三臭化スカンジウム、三ヨウ化スカンジウム等のスカンジウムハライド;等が挙げられる。
【0162】
前記式(XVI)の化合物としては、チタン系ルイス酸、ジルコニウム系ルイス酸、スズ系ルイス酸等が挙げられる。
【0163】
チタン系ルイス酸としては、チタンアルコキシド、チタンハライド等が挙げられる。チタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド、チタンテトラフェノキシド、クロロチタントリイソプロポキシド、ジクロロチタンジイソプロポキシド、トリクロロチタンイソプロポキシド等が挙げられ、チタンハライドとしては、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等が挙げられる。
【0164】
ジルコニウム系ルイス酸としては、前記チタン系ルイス酸に対応する化合物が挙げられる。具体的には、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド等のジルコニウムアルコキシド;四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム等のジルコニウムハライド;等が挙げられる。
スズ系ルイス酸としては、前記チタン系ルイス酸に対応する化合物が挙げられ、具体的には、スズテトライソプロポキシド等のスズアルコキシド、四塩化スズ、四臭化スズ、四ヨウ化スズ等のスズハライド等が挙げられる。
【0165】
これらの中でも、ルイス酸としては、アルミニウム、スカンジウム、チタン、ジルコニウム及びスズから選択された金属化合物が好ましく、これらの金属アルコキシドが特に好ましい。
【0166】
具体的には、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド;スカンジウムトリイソプロポキシド等のスカンジウムアルコキシド;チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド、チタンテトラフェノキシド等のチタンアルコキシド;ジルコニウムテトライソプロポキシド等のジルコニウムアルコキシド;スズテトライソプロポキシド等のスズアルコキシド;等が挙げられる。
【0167】
またアミン類としては、2級アミン、3級アミン、含窒素芳香族複素環化合物等、含窒素化合物等が挙げられ、2級アミン、3級アミンが好ましい。
【0168】
2級アミンとして、具体的には、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられる。
【0169】
3級アミンとして具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン等が挙げられる。
【0170】
また、同一分子内に、1級アミン部分、2級アミン部分及び3級アミン部分から選ばれる少なくとも2つ以上を有する化合物をも使用することができる。
そのような化合物として具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチルペンタミン、4−(2−アミノエチル)ピペリジン等を例示することができる。
【0171】
遷移金属錯体とルイス酸又はアミン類との割合は、前者/後者=0.05/1〜10/1(モル比)、好ましくは0.1/1〜5/1(モル比)程度である。
【0172】
前記(b)及び(c)のリビングラジカル重合法を採用する場合、重合は、通常、減圧下、又は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下、重合温度0〜200℃、好ましくは40〜150℃で行なうことができる。
【0173】
前記(b)及び(c)のリビングラジカル重合法によれば、いかなる結合形態の共重合体を得ることも可能である。特にブロック単位で結合した形態を得る場合、狭分散の共重合体を得る場合に好適に用いることができる。さらに、分子内に活性水素等を有する官能基を有する化合物を重合する場合においても、リビングアニオン重合法のような官能基を保護する必要がないため(もちろん、必要に応じて保護したものを用いることもできる。)、リビングラジカル重合法が有利である。
【0174】
前記(a)〜(c)のいずれの重合方法を採用する場合においても、それらの重合形態は特に制限されず、従来公知の形態が採用できる。例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられるが、溶液重合法が特に好ましい。
【0175】
溶液重合法を採用する場合、用いる溶媒としては特に制限されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール誘導体類;等が使用できる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上混合して使用できる。
【0176】
いずれの方法による場合にも、共重合反応過程の追跡及び反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、膜浸透圧法、NMR等により容易に行うことができる。共重合反応終了後は、カラム精製、減圧精製、又は、例えば水や貧溶媒中に投入して析出したポリマー分を濾過、乾燥させる等、通常の分離精製方法を適用することにより共重合体を得ることができる。
【0177】
(3)高分子固体電解質
本発明の高分子固体電解質電池に用いる高分子固体電解質は、上述した高分子と電解質塩とを含有してなる。
本発明に用いる高分子固体電解質においては、上述した高分子を一種単独で、あるいは構成単位が異なる二種以上のものを混合して用いることができる。
【0178】
前記高分子が前記ブロック鎖A及びBを有するブロック共重合体である場合、該共重合体に含まれるブロック鎖Aは、式(I)で表される繰返し単位を含む、導電性を有するポリマーセグメント(P1)であるといえる。ブロック鎖Bは、式(II)で表される繰返し単位を含む、導電性を有さないポリマーセグメント(P2)であるといえる。また、好ましい態様である式(III)で表される繰返し単位を含むブロック鎖Cも、導電性を有さないポリマーセグメント(P2)であるといえる。
【0179】
前記高分子固体電解質は、前記高分子に加えて電解質塩を含有してなる。
用いる電解質塩としては、特に限定されず、電荷でキャリアーとしたいイオンを含んだ電解質であればよいが、硬化して得られる高分子固体電解質中での解離定数が大きいことが望ましい。
【0180】
このような電解質塩としては、アルカリ金属塩、(CHNBF等の4級アンモニウム塩;(CHPBF等の4級ホスホニウム塩;AgClO等の遷移金属塩;塩酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸;等が挙げられる。これらの電解質塩は一種単独で、あるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0181】
これらの中でも、本発明においては、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩又は遷移金属塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
【0182】
アルカリ金属塩の具体例としては、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiC(CH)(SOCF、LiCH(SOCF、LiCH(SOCF)、LiCSO、LiN(SO、LiN(SOCF)、LiB(SOCF、LiPF、LiSbF、LiClO、LiI、LiBF、LiSCN、LiAsF、NaCFSO、NaPF、NaClO、NaI、NaBF、NaAsF、KCFSO、KPF、KI、LiCFCO、NaCFCO、NaSCN、KBF、KPF、Mg(ClO、Mg(BF等が挙げられる。これらの中でも、リチウム塩が好ましく、LiPF、LiBFがより好ましく、LiPFが特に好ましい。
【0183】
電解質塩の添加量は、高分子中のアルキレンオキサイドユニットに対して、通常0.005〜80モル%の範囲、好ましくは0.01〜50モル%の範囲である。
【0184】
前記高分子電解質は、上述した高分子に電解質塩を添加混合(複合)することにより製造することができる。高分子に電解質塩を添加混合(複合)する方法には特に制限はない。例えば、高分子と電解質塩とを溶媒に溶解させる方法、高分子と電解質塩とを常温又は加熱下に機械的に混合する方法等が挙げられる。
【0185】
用いる溶媒としては極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、極性を有するものであれば特に限定されないが、具体的には、アセトニトリル等のニトリル類;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド;クロロホルム;メタノール、エタノール等のアルコール類;等を例示することができる。
【0186】
高分子固体電解質は、シート状、膜状、フイルム状等の形状に成形して用いるのが好ましい。この方法を採用する場合には、加工面の自由度が広がり、応用上の大きな利点となる。
【0187】
シート状等の高分子固体電解質を製造する手段としては、例えば、高分子及び電解質塩を含む溶液を、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種コーティング手段により、支持体上にキャスト又は塗布し、前記高分子固体電解質を成膜させ、その後支持体を除去する方法等が挙げられる。
【0188】
用いる溶液の固形分濃度は、特に限定はされないが、0.5〜30重量%の範囲が好ましい。0.5重量%未満では、濃度が希薄すぎて少ない工程で成形体を得ることができず、30重量%より多い場合には、膜厚を制御することができなくなるおそれがある。
【0189】
また、キャスト又は塗布後においては、常圧又は減圧留去、加熱乾燥等の方法で溶媒を除去する必要があるが、少なくとも溶媒が含んだ状態で加熱処理するのが好ましい。
【0190】
ここで溶媒を含んだ状態とは、溶媒が完全に除去される前の状態であり、キャスト又は塗布した溶液中にしめる固形分に対して、10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%の範囲で溶媒が残存している状態である。溶媒が残存した状態で加熱処理することにより、均一にミクロ相分離構造を形成することができる。
加熱する温度は特に制限されないが、用いる高分子のガラス転移点温度付近又はそれ以上が好ましい。
【0191】
以上のようにして得られる高分子固体電解質は、イオン伝導性膜として機能し、膜中でミクロ相分離構造を形成する。このイオン伝導性膜中におけるミクロ相分離構造は、ネットワーク型ミクロ相分離構造であることが好ましい。膜中にこの様な構造を有することで、導電率、物理的特性及び熱的特性、特に膜強度が良好となる。
【0192】
(3)高分子固体電解質電池
本発明の高分子固体電解質電池の電極は、特に制限されないが、高い耐電圧特性を付与する上では、金属系電極材、ガラス状炭素又は熱分解炭素を用いる電極であるのが好ましく、金属系電極材を用いる電極であるのがより好ましい。
【0193】
金属系電極材を用いた電極としては、少なくとも金属系電極材を使用するものであればよく、例えば、金属系電極材の薄膜からなる金属電極や、金属系電極材からなる集電体層上に電極活性層を形成した電極等が挙げられる。
【0194】
用いる金属系電極材の金属としては、耐電圧特性に優れることから、Al、Pt、Au、Tiが好ましく(それぞれ、アルミニウム系電極材、白金系電極材、金系電極材、チタン系電極材という)、Al、Pt、Auがより好ましい。
【0195】
電極活性層は、例えば、前記金属薄膜上に、電極活物質、結着剤等をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒に分散したスラリー液を塗布し、乾燥させて形成することができる。スラリー液の固形分濃度は、特に限定されないが、具体的には、0.5〜10重量%の範囲を好ましく例示することができる。
【0196】
電極活物質としては特に制限されず、従来公知の電極活物質を使用することができる。 正極の電極活物質としては、例えば、金属リチウム、金属銀、金属亜鉛等の単体金属;Li−Al等の合金;式:LiMn2−aa/c4+b(Mは、Co,Ni,Fe,Cr,Cu,Ti等のLi以外の金属カチオンを表し、0<y≦1.2,0≦a≦0.2,1≦c≦3,0≦b<0.3)で示されるリチウムマンガン複合酸化物、MnO、CoO、V、V、TiO、WO、Cr、Cr、CuO、Cu、Bi、BiPB、Mo、LiCoO等の金属酸化物;TiS、TiS、MoS、CuCo、VSe、NbSeCrS、NbSe等のカルコゲン化物;AgCrO、AgMoO、AgIO、Ag等の酸素酸銀;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレン等のπ−共役系高分子;等を例示することができる。なかでも、LiMn2−aa/c4+b(MはLi以外の金属カチオンを表し、0<y≦1.2,0≦a≦0.2,1≦c≦3,0≦b<0.3)で示されるリチウムマンガン複合酸化物が好ましい。
【0197】
また、正極には公知の導電材が含まれていてもよい。正極に用いる導電材としては、特に限定されないが、具体的には、ケッチェンブラック、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、コークス粉末、黒鉛等を例示することができ、中でも、アセチレンブラック等を好ましく例示することができる。
【0198】
負極の電極活物質としては、例えば、リチウムイオン等を吸蔵・放出する炭素質材料や、錫酸化物を主体とする複合酸化物等が挙げられる。
【0199】
炭素質材料としては、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース等を焼成することにより得られる有機高分子化合物;コークスや、メソフェーズピッチを焼成することにより得られるもの;人造グラファイト、天然グラファイト、無定形炭素、繊維状炭素、粉末状炭素、石油ピッチ系炭素、石炭コークス系炭素等が挙げられる。
【0200】
錫酸化物を主体とする複合酸化物は、リチウム等を実質的に含まない負極活物質前駆体を電池内で予めLiの挿入により活性化し、低電位の活物質に転化する方法により得ることができる。負極活物質前駆体としては、SnM(式中、Mは、Al,B,P,Si,Ge、周期律表第1〜3族元素、ハロゲン元素から選ばれる一種以上の元素を表し、xは0.2〜2であり、zは1〜6である。)、Snl−y(式中、M、xは前記と同じ意味を表し、yは0.1〜0.9である。)等が挙げられる。
【0201】
結着剤としては、電極活物質を金属薄膜(集電体)上に固定した場合に、導電性に影響を及ぼさない化合物であれば特に制限されない。具体的には、前記高分子;通常、湿式法で作製されるポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、通常、乾式法で作製されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂;スチレンブタジエンゴム等のゴム類;等を例示することができる。なかでも、前記高分子、又はPVDF等のフッ素樹脂が好ましい。
【0202】
また、結着剤として前記高分子を用いることもでき、この場合、同一素子内において、電解質として用いる高分子と同一の高分子を用いてもよいし、異なる高分子を用いてもよいが、同一の高分子を用いるのが好ましい。
【0203】
前記スラリー液を塗布する方法は特に制限されず、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の方法を用いることができる。
【0204】
キャスト又は塗布する回数は、用いる溶液の固形分濃度にも関係するが、複数回行うのが好ましい。塗布する方法は特に制限されないが、高分子固体電解質中の高分子と電解質塩が電極活物質を含む層に浸透するように、塗布後溶媒が残存する方法が好ましい。溶液をキャスト又は塗布後、常圧、又は減圧下に徐々に溶媒を留去するのが好ましい。
【0205】
高分子固体電解質電池の製造方法としては、特に制約はなく、例えば、高分子固体電解質を予めフィルム等の成形体としたものを電極間に組み込む方法や、窒素雰囲気下において、電極上に、先に述べた高分子と電解質塩を含む組成物を、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種コーティング手段により塗布して前記高分子固体電解質を成膜し、さらに、もう一方の電極を配置する方法等が挙げられる。
【0206】
本発明の高分子固体電解質電池は、耐電圧が4.2V以上、好ましくは4.5V以上であり、室温又は高温において単に5V耐性を有するだけでなく、同時に高い導電性を示し、充放電試験において良好な特性が保持される実用性の高い5V級電池である。具体的には、導電率:10−5S/cm以上(23℃)、好ましくは導電率:10−4S/cm以上(23℃)の導電性を有する。耐電圧は、+5V安定性試験によって測定することができる。
【0207】
本発明の高分子固体電解質電池は、重量エネルギー密度が150Wh/kg以上、好ましくは170Wh/kg以上、又は体積容量エネルギー密度が350Wh/kg以上、好ましくは370Wh/kg以上のエネルギー密度を有し、該エネルギー密度を有する高分子固体電解質からなる、高エネルギー密度を有する高分子固体電解質電池である。
【0208】
本発明の高分子固体電解質電池は、5V耐性を有する実用レベルの優れた熱的特性、物理的特性及びイオン伝導度を有する5V級電池である。
【実施例】
【0209】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1
<ブロック鎖Aをポリ−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ブロック鎖Bをポリスチレンとする、B−A−B型多分岐高分子化合物を含む高分子固体電解質>
(1)ブロック鎖Aの合成
アルゴン雰囲気下において、トルエン1143.7gにジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム1.44g(1.5mmol)、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−1000、前記式(VI)においてm=23)630.0g(566.0mmol)を加えて均一に混合後、ジ−n−ブチルアミン0.81g(6.2mmol)、2,2−ジクロロアセトフェノン0.83g(4.4mmol)を加え、攪拌下、80℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して22時間経過後に、重合反応系を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合率は60.0%であった。
次に、重合液をカラムクロマトグラフィーにて精製し、金属錯体、未反応モノマー等を除去した後、トルエンを減圧下に留去してポリ−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(P−PME1000−1とする)を得た。
得られたP−PME1000−1は、数平均分子量(Mn)=115,000の単峰性ポリマーであった。
【0210】
(2)B−A−B型多分岐高分子化合物の合成
アルゴン雰囲気下において、トルエン475.4gに、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.53g(0.65mmol)、P−PME1000−1 110.1g(1.10mmol)、スチレン50.1g(480mmol)、n−オクタン0.57(5.0mmol)を加えて均一に混合後、ジ−n−ブチルアミン0.32g(2.5mmol)を加え、攪拌下、100℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して22時間経過後に、重合反応系を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた。スチレンの重合率は36%であった。
重合液をカラムクロマトグラフィーにて精製し、金属錯体、未反応モノマーを除去した後、トルエンを減圧下に留去して、メトキシポリエチレングリコールをグラフト鎖とするポリ−(スチレン−b−PME−1000−b−スチレン)の構造を有する多分岐高分子化合物(以下、「共重合体1」とする。)を得た。
得られた共重合体1は、ブロック鎖Aとブロック鎖Bとの比率がA/B=6.14/1(重合度比)、Mn=149,000の単峰性ポリマーであった。
【0211】
得られた共重合体1をアセトンに溶解して成膜したフィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、膜構造はネットワーク型のミクロ相分離構造を有することがわかった。
また、この膜を白金板に挟み、周波数5H〜10MHzのインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン伝導度を測定した。その結果、イオン伝導度は、23℃で2.5×10−4S/cmであった。
【0212】
(3)高分子固体電解質膜及び試験セルの作製
窒素雰囲気下において、上記の操作で得られた共重合体1をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて均一な溶液を調製した。次に、この溶液に、共重合体1のエチレンオキサイド(EO)ユニットに対して、5mol%(20重量%)の電解質塩を加えて攪拌し、均一な溶液とした。具体的には、調製した共重合体溶液0.5gに対して、LiClO:9.9mg、LiPF:14.1mgを使用した。
アルゴン雰囲気下において、白金電極1cmあたり、高分子固体電解質の上記混合溶液50μlを塗布し、アルゴン雰囲気下、室温で24時間放置した後、120℃で3時間減圧乾燥を行ない、試験用高分子固体電解質を得た。
アルゴン雰囲気下に、銅箔上に圧着させたリチウム金属をこの高分子固体電解質上に張り付け、更に両側からPP板で挟み,クリップにて固定して試験用セルを作成した。
【0213】
(4)高分子固体電解質電池の作製及び物性評価
<+5V安定性試験>
試験用セルを用いて、リチウムを対極と参照極として、高分子固体電解質電池を作製した。この電池を使用して、試験セルの自然電位(開回路電圧)の安定を確認後、自然電位から+5Vまでのリニアスイープボルタンメトリーを行い、20℃と60℃の電流−電位曲線(I−E曲線)を得た。結果を図1に示す。
図1中、縦軸は、電流(μA・cm−2)を、横軸は、電位(V)をそれぞれ表す。
【0214】
次に、上記電池を使用して、+5Vに達した時点で電位を保持して、保持時間に対する電流の変化を測定し、20℃と60℃の電流−時間曲線(I−t曲線)を得た。結果を図2に示す。
図2中、縦軸は、電流(μA・cm−2)を、横軸は、保持時間(秒)をそれぞれ表す。
図1及び図2から、実施例1の高分子固体電解質電池は、20℃、60℃のいずれにおいても、高い導電性を有し、+5Vの耐電圧性能を有していることがわかった。
【0215】
+5V安定性試験における耐電圧試験の条件は以下のとおりである。
電圧範囲:自然電位〜5V、スイープ速度:1mV/sec
測定温度:20、60℃
【0216】
実施例2
(1)ブロック鎖Aの合成
アルゴン雰囲気下において、トルエン1720.5gにジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム1.44g(1.5mmol)、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−1000、前記式(VIII)においてm=9)630.0g(566.0mmol)を加えて均一に混合後、ジ−n−ブチルアミン1.02g(7.7mmol)、2,2−ジクロロアセトフェノン0.57g(3.1mmol)を加え、攪拌下、80℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して22時間経過後に、重合反応系を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合率は62.2%であった。
次いで、重合反応液をカラムクロマトグラフィーにて精製し、金属錯体、未反応モノマー等を除去した後、トルエンを減圧下に留去して、ポリ−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(P−PME1000−2とする)を得た。
得られたP−PME1000−2は、数平均分子量(Mn)=138,000の単峰性ポリマーであった。
【0217】
(2)B−A−B型多分岐高分子化合物の合成
アルゴン雰囲気下において、トルエン1052.0gに、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.71g(0.87mmol)、P−PME1000−2 211.6g(2.12mmol)、スチレン62.2g(596mmol)を加えて均一に混合した後、ジ−n−ブチルアミン0.57g(4.6mmol)をさらに加えた。攪拌しながら、100℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して22時間経過後に、重合反応系を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた。スチレンの重合率は24.7%であった。
重合反応液をカラムクロマトグラフィーにて精製し、金属錯体、未反応モノマーを除去した後、トルエンを減圧下に留去して、メトキシポリエチレングリコールをグラフト鎖とするポリ−(スチレン−b−PME−1000−b−スチレン)の構造を有する多分岐高分子化合物(以下、「共重合体2」とする。)を得た。
得られた共重合体2は、ブロック鎖Aとブロック鎖Bとの比率がA/B=13.86/1(重合度比)、Mn=159,000の単峰性ポリマーであった。
【0218】
得られた共重合体2をアセトンに溶解して成膜したフィルムを白金板に挟み、周波数5H〜10MHzのインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン伝導度を測定した。その結果、イオン伝導度は、23℃で2.5×10−4S/cmであった。
【0219】
(3)高分子固体電解質膜及び試験セル、高分子固体電解質電池の作製、及び物性評価
共重合体1に代えて共重合体2を使用する以外は、実施例1と同様にして試験用高分子固体電解質を調製して、試験用セルを作成した。
【0220】
次に、実施例1と同様にして+5V安定性試験を行ない、20℃と60℃の電流−電位曲線(I−E曲線)、電流−時間曲線(I−t曲線)を得た。結果を図3,4に示す。
【0221】
図3中、aが実施例2の高分子固体電解質電池の測定結果である。また、縦軸は電流(μA・cm−2)を、横軸は電位(V)をそれぞれ表す。
【0222】
図4中、aが実施例2の高分子固体電解質電池の測定結果である。また、縦軸は、電流(μA・cm−2)を、横軸は、保持時間(秒)をそれぞれ表す。図4から、実施例2の高分子固体電解質電池は+5Vの耐電圧性能を有していることがわかった。
【0223】
図3及び図4から、実施例2の高分子固体電解質電池は、20℃、60℃のいずれにおいても、高い導電性を有し、+5Vの耐電圧性能を有していることがわかった。
【0224】
+5V安定性試験における耐電圧試験の条件は以下のとおりである。
電圧範囲:自然電位〜5V、スイープ速度:1mV/sec
測定温度:20、60℃
【0225】
比較例1
高分子固体電解質に代えて電解液を用いる以外は実施例1と同様にして、リチウムを対極と参照極として電池を作製して、試験セルの自然電位(開回路電圧)の安定を確認後、自然電位から+5Vまでのリニアスイープボルタンメトリーを行い、20℃と60℃の電流−電位曲線(I−E曲線)を得た。
次に、+5Vに達した時点で電位を保持して、保持時間に対する電流の変化を測定し、20℃と60℃の電流−時間曲線(I−t曲線)を得た。測定結果を図3、4にそれぞれ示す。図3、4中、bが比較例1の電池の測定結果である。
【0226】
図3、4から、比較例1の高分子固体電解質電池は、20℃、60℃のいずれにおいても、高い導電性を有するものの、+5Vの耐電圧性能試験において、電流のリークが観測され、電解液が分解していることが示唆された。
【0227】
比較例2
実施例1の高分子固体電解質に代えて、ポリエチレンオキサイド(PEO、Mw=4,000,000)を用いる以外は実施例1と同様にして、PEOをアセトンに溶解して成膜したフィルムを白金板に挟み、周波数5H〜10MHzのインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン伝導度を測定した。その結果、イオン伝導度は、1.5×10−6S/cm(23℃)、1.2×10−3S/cm(80℃)であった。
【0228】
上記の+5V安定性試験結果から、実施例1、2の高分子固体電解質電池においては、+5Vにおいて高分子固体電解質の劣化が認められず、+5V耐電圧が確認された。
充放電試験結果からも、2.0〜5.0Vの充放電電圧に十分に耐えることがわかった。
また、実施例1,2の高分子固体電解質電池の導電率は、23℃で1×10−4S/cm以上であり、低温下で良好な導電性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】図1は、実施例1における+5V安定性試験の電流−電位曲線(I−E曲線)を示す図である。
【図2】図2は、実施例1における+5V安定性試験の電流−時間曲線(I−t曲線)を示す図である。
【図3】図3は、実施例2及び比較例1における+5V安定性試験の電流−電位曲線(I−E曲線)を示す図である。
【図4】図4は、実施例2及び比較例1における+5V安定性試験の電流−時間曲線(I−t曲線)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子および電解質塩を含有する高分子固体電解質を備え、耐電圧が4.2V以上、かつ、23℃における導電率が1×10−5S/cm以上であることを特徴とする高分子固体電解質電池。
【請求項2】
前記高分子が、式(I)
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子またはC1〜10炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよく、R4a、R4bは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基またはシリル基を表し、mは2〜100のいずれかの整数を表し、式:−CH(R4b)−CH(R4a)−O−で表される基同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有する重合体であることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項3】
前記高分子が、式(I)
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子またはC1〜10炭化水素基を表し、RとRは、結合して環を形成してもよく、R4a、R4bは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基またはシリル基を表し、mは2〜100のいずれかの整数を表し、式:−CH(R4b)−CH(R4a)−O−で表される基同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖A、式(II)
【化3】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子またはC1〜C10炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖B、及びブロック鎖Cが、B、A、Cの順で配列してなる共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項4】
前記ブロック鎖Cが、式(III)
【化4】

(式中、R10〜R12は、それぞれ独立して、水素原子またはC1〜C10炭化水素基を表し、R13は、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖であることを特徴とする請求項3に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項5】
前記共重合体が、ブロック鎖A、B及びCが、B−A−Cで結合して配列してなる共重合体であることを特徴とする請求項3または4に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項6】
前記式(I)で表される繰り返し単位の重合度が10以上であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項7】
前記式(II)で表される繰り返し単位の重合度が5以上であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項8】
前記式(III)で表される繰り返し単位の重合度が5以上であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項9】
前記式(I)で表される繰り返し単位が、前記式(I)中、mが5〜100の整数である繰り返し単位であることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項10】
前記式(I)で表される繰り返し単位が、前記式(I)中、mが10〜100の整数である繰り返し単位であることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項11】
前記式(III)で表される繰り返し単位が、前記式(III)中、R13がアリール基であり、かつ、重合度が5以上の繰り返し単位であることを特徴とする請求項4〜10のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項12】
前記式(I)で表される繰り返し単位と、式(II)で表される繰り返し単位及びブロック鎖Cに含まれる繰り返し単位の合計とのモル比〔繰り返し単位(I)のモル数/(繰り返し単位(II)のモル数+ブロック鎖Cのモル数)〕が、1/30〜30/1であることを特徴とする請求項3〜11のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項13】
前記式(I)で表される繰り返し単位と、式(II)で表される繰り返し単位及び式(III)で表される繰り返し単位の合計とのモル比〔繰り返し単位(I)のモル数/(繰り返し単位(II)のモル数+繰り返し単位(III)のモル数)〕が、1/30〜30/1であることを特徴とする請求項4〜11のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項14】
金属系電極材、ガラス状炭素又は熱分解炭素を用いる電極を備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項15】
前記金属系電極材が、白金系電極材、金系電極材又はアルミニウム系電極材であることを特徴とする請求項14に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項16】
前記高分子の数平均子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項17】
前記高分子が、膜構造中において、ミクロ相分離構造を有するものであることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項18】
前記高分子固体電解質がミクロ相分離構造を有するものであることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項19】
前記ミクロ相分離構造が、ネットワーク型ミクロ相分離構造であることを特徴とする請求項17又は18に記載の高分子固体電解質電池。
【請求項20】
前記電解質塩が、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜19のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項21】
前記電解質塩が、リチウム塩であることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。
【請求項22】
耐電圧が4.5V以上であることを特徴とする請求項1〜21のいずれかに記載の高分子固体電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−92792(P2006−92792A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273632(P2004−273632)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】