説明

高分子繊維及びその製造方法

高分子繊維類及び前記高分子繊維類の製造方法を記載している。高分子繊維は、架橋したヒドロゲル類又は乾燥したヒドロゲル類であって、これらは、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える重合性材料を含有する前駆体組成物から調製される。高分子繊維類は、任意の活性剤を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2007年2月23日出願の米国特許仮出願第60/891,260号及び2007年6月28日出願の同第60/946,745号並びに2007年8月30日出願の米国特許出願第11/847,397号の優先権を主張するものであり、これらの開示内容を全て参照として本明細書に組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、高分子繊維、及び前記高分子繊維の製造方法を目的とする。
【背景技術】
【0003】
高分子繊維には、例えば、生物学的用途、医療用途、及び工業的用途等の多くの商業用途がある。高分子繊維の用途範囲は、増大及び拡大し続けている。特有の物理特性と、追加された万能性とを有する高分子繊維が未だに必要とされている。高分子繊維の様々な製造方法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子繊維の改善及びそれらの製造方法は常に求められている。特に、医療用途に適した新しい繊維が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
高分子繊維及び前記高分子繊維の製造方法が記載されている。高分子繊維は、所望により乾燥させることができる架橋したヒドロゲルを含有している。高分子繊維は、一部の実施形態では、活性剤を含有することができる。すなわち、高分子繊維は、種々の活性剤に対して担体の役目を果たすことができる。
【0006】
第1の態様では、高分子繊維の製造方法が提供される。本方法には、前駆体組成物を形成する工程であって、前駆体組成物が、(a)前駆体組成物の総重量に対して少なくとも5重量%の極性溶媒と、(b)極性溶媒と混和する重合性材料と、を含有することが含まれる。重合性材料は、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える。その方法は更に、前駆体組成物の流れを形成する工程と、該流れを放射線に、重合性材料を少なくとも部分重合するのに十分な時間、曝露する工程と、を含む。3:1を超えるアスペクト比を有する第1の膨潤した高分子繊維が形成される。
【0007】
第2の態様では、高分子繊維の別の製造方法が提供される。本方法は、前駆体組成物を形成する工程であって、前記前駆体組成物が、(a)前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒と、(b)前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料であって、前記重合性材料が極性溶媒と混和するものと、を含有することが包含される。重合性材料には、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基と少なくとも5個のアルキレンオキシド単位とを有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が挙げられる。その方法には更に、前駆体組成物の流れを形成する工程と、前記流れを放射線に、重合性材料を少なくとも部分重合するのに十分な時間、曝露する工程と、が包含される。3:1を超えるアスペクト比を有する、第1の膨潤した高分子繊維が形成される。
【0008】
第3の態様では、3:1を超えるアスペクト比を有する高分子繊維を包含する物品が提供される。高分子繊維は、前駆体組成物のフリーラジカル重合反応生成物であって、前記前駆体組成物は、(a)前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒と、(b)前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料とを含有し、前記重合性材料は極性溶媒と混和する。重合性材料には、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基と少なくとも5個のアルキレンオキシド単位とを有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が含まれる。
【0009】
第4の態様では、3:1を超えるアスペクト比を有する高分子繊維を包含し、かつ活性剤をも含有する、物品が提供される。高分子繊維は、(a)少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を包含する重合性材料を含有する、前駆体組成物の反応生成物と、(b)活性剤と、を含む。
【0010】
本発明の上述の「課題を解決するための手段」は、本発明の開示される各実施形態又は全ての実施を記載することを目的としていない。以下の「発明を実施するための形態」及び「実施例」によって、これら実施形態をより具体的に例証する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】断面が示された2本の高分子繊維に関する、複数の代表的な高分子繊維の略図。
【図2】図1の繊維を製造するためのプロセス及び機器の第1の実施形態の概略図。
【図3】図1の繊維を製造するためのプロセス及び機器の第2の実施形態の概略図。
【図4】倍率50倍の、2本の膨潤した高分子繊維の代表的な環境走査型電子顕微鏡写真。
【図5】倍率50倍の、2本の乾燥した高分子繊維の代表的な環境走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高分子繊維、及び高分子繊維の製造方法を記載している。高分子繊維は、架橋したヒドロゲル又は乾燥したヒドロゲルである。本明細書で使用するとき、用語「ヒドロゲル」とは、親水性であり、かつ極性溶媒によって膨潤しているか又は膨潤可能であるかのいずれかの、高分子材料を指す。高分子材料は、典型的に、極性溶媒と接触すると膨潤するが溶解はしない。すなわちヒドロゲルは、極性溶媒には不溶である。膨潤した高分子繊維は、乾燥することで、極性溶媒の少なくとも一部を除去することができる。一部の実施形態では、高分子繊維が活性剤をも含有する。
【0013】
高分子繊維は、前駆体組成物の流れから形成することができる。本明細書で使用するとき、用語「前駆体組成物」とは、高分子繊維を形成するために放射線に晒される反応混合物を指す。すなわち、前駆体組成物とは、重合前の反応混合物を表す。前駆体組成物は、極性溶媒と、極性溶媒と混和する重合性材料と、を含有する。また前駆体組成物には、他の任意の添加物、例えば、処理剤、活性剤、又はそれらの混合物を含むこともできる。前駆体組成物の流れは、多くの場合、気相に取り囲まれている。放射線に曝露すると、前駆体組成物内の重合性材料がフリーラジカル重合反応を起こして、高分子繊維を形成する。反応生成物は、重合した物質と、極性溶媒と、いずれかの任意の添加物と、を含有するヒドロゲルである。極性溶媒は、高分子物質を膨潤させるものであって、別個の相というよりむしろヒドロゲルの一部である。
【0014】
本明細書で使用するとき、「繊維」と「高分子繊維」という用語は互換的に用いられる。高分子繊維は、いかなる長さをも有することができるが、多くの場合、1ミリメートル〜100メートルまでの範囲である。高分子繊維は、3:1を超えるアスペクト比(すなわち、長さ対直径の比)を有する。例えば、アスペクト比は、4:1を超え、5:1を超え、6:1を超え、8:1を超え、又は10:1を超えることができる。アスペクト比とは、高分子繊維の最長寸法とその最長寸法に直交する寸法との比を指す。直径に沿った断面形状はいかなる形状でもあり得る。一部の実施形態では、断面形状は円形又は楕円形である。本明細書で使用するとき、用語「円形」とは、円形又はほぼ円形の形状を指す。同様に、用語「楕円形」とは、楕円形又はほぼ楕円形の形状を指す。
【0015】
図1は、複数の高分子繊維の略図である。高分子繊維10はそれぞれ、外表面12と内部組成物15とを有している。高分子繊維10は均質であって、走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡等の顕微鏡によって観察した場合でも、外表面12と内部組成物15との間には識別できる界面が何ら存在しない。調製したままであれば、高分子繊維は、前駆体組成物中に包含されている極性溶媒で膨潤している。乾燥させて極性溶媒の少なくとも一部を除去すると、乾燥した高分子繊維は多くの場合、均質なままであって、内部の孔又は溝、例えば、肉眼で見える(すなわち、100nmよりも大きな)孔又は溝を含有していない。高分子繊維及び乾燥した高分子繊維のこの均質性は、重合した物質と、存在し得る任意の極性溶媒とを含有する高分子マトリックスに言及される。活性剤が存在する場合、活性剤は、高分子繊維の全体に亘って均質に分散されていても、されていなくてもよい。更に活性剤は、高分子マトリックスとは別個の相内に存在していてもよい。
【0016】
一般的に、高分子繊維(特に、活性剤を伴わないもの)は、顕微鏡によって観察した場合、識別できる孔又は空隙を全く有さない。例えば、2本の代表的な膨潤した高分子繊維に関する図4に示すように、50倍までの倍率で環境走査型電子顕微鏡を用いて高分子繊維を観察した場合、識別できる孔が全くない。高分子繊維を電界放出走査型電子顕微鏡を用いて100倍まで、200倍まで、500倍まで、1,000倍まで、5,000倍まで、10,000倍まで、20,000倍まで、又は50,000倍までの倍率で観察した場合、識別できる孔が全く見られないことが多い。
【0017】
高分子繊維は、前駆体組成物から形成され、前駆体組成物は、(i)前駆体組成物の総重量に対して少なくとも5重量%の極性溶媒と、(ii)極性溶媒と混和する重合性材料と、を含有する。重合性材料には、フリーラジカル重合が可能でありかつモノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える少なくとも1つのモノマーが含有される。一部の実施形態では、他の任意の添加物、例えば処理剤、活性剤、又はそれらの混合物を、前駆体組成物中に存在させることができる。存在する場合、これら任意の添加物は、前駆体組成物に溶解又は分散させることができる。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「極性溶媒」は、水、水混和性の有機溶媒、又はそれらの混合物を指す。極性溶媒は前駆体組成物中では反応しない(すなわち、極性溶媒はモノマーではない)が、極性溶媒は典型的に、結果として生じる高分子繊維を膨潤させる。すなわち、重合性材料は極性溶媒の存在下で重合されるので、結果として生じる高分子繊維は極性溶媒で膨潤している。膨潤した高分子繊維は、前駆体組成物中に包含されている極性溶媒の少なくとも一部を含有している。多くの場合、膨潤した高分子繊維は、前駆体組成物中に包含される極性溶媒の大部分又はその全てを含有している。
【0019】
前駆体組成物中で用いられる任意の水は、水道水、井戸水、脱イオン水、湧き水、蒸留水、滅菌水、又はいかなる他の好適な種類の水であることもできる。水混和性の有機溶媒とは、典型的には、水素結合が可能で、かつ水と混合したときに単相の溶液を形成する、有機溶媒を指す。例えば、溶液の総重量に対して少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、又は少なくとも50重量%の量の水混和性の有機溶媒を水と混合すると、単相の溶液が現れる。水混和性の有機溶媒は、理想的には室温で液体であるが、融解温度が約50℃未満の固体であってもよい。好適な水混和性の有機溶媒としては、多くの場合はヒドロキシル基又はオキシ基を含有するものであって、アルコール、重量平均分子量が約300g/モル以下のポリオール、エーテル、及び重量平均分子量が約300g/モル以下のポリエーテルが挙げられる。代表的な水混和性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダムコポリマー及びブロックコポリマー、ジメトキシテトラグリコール、ブトキシトリグリコール、トリメチレングリコールトリメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
極性溶媒は、多くの場合、前駆体組成物の総重量に対して少なくとも5重量%の量で存在する。一部の代表的な前駆体組成物では、極性溶媒は、前駆体組成物の総重量に対して少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、又は少なくとも50重量%の量で存在する。前駆体組成物中の極性溶媒は、前駆体組成物の総重量に対して85重量%まで、80重量%まで、75重量%まで、70重量%まで、又は60重量%までの量で存在することができる。一部の前駆体組成物では、極性溶媒は、前駆体組成物の総重量に対して5〜85重量%、10〜85重量%、5〜80重量%、10〜80重量%、20〜80重量%、30〜80重量%、又は40〜80重量%の量で存在する。
【0021】
重合性材料は、極性溶媒と混和し、及び、極性溶媒から相分離しない。重合性材料に関連して本明細書で使用するとき、用語「混和性である」とは、重合性材料が主に極性溶媒に溶解するか又は極性溶媒と相溶性であることを表す。しかし、極性溶媒に溶解しない、少量の重合性材料が存在する可能性もある。例えば、重合性材料が、極性溶媒に溶解しない不純物を有する場合がある。一般的に、重合性材料の少なくとも95重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、少なくとも99.5重量%、少なくとも99.8重量%、又は少なくとも99.9重量%が極性溶媒に溶解する。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「重合性材料」は、モノマーの混合物を指す場合がある。用語「モノマー」と「モノマー分子」とは互換的に用いて、フリーラジカル重合が可能な少なくとも1個の重合性基を含有する化合物を指す。重合性基は通常、エチレン性不飽和基である。
【0023】
一部の実施形態では、重合性材料には、単一化学構造のモノマーが含まれる。他の実施形態では、重合性材料には、複数の異なるモノマーが包含される(すなわち、化学構造が異なるモノマーの混合物が存在する)。重合性材料が1つのモノマーを含もうと、モノマーの混合物を含もうと、重合性材料のモノマー1分子当たりの重合性基(例えば、エチレン性不飽和基)の平均数は、1.0を超える。重合性材料には、例えば、2つ以上の重合性基を有する単一種のモノマーを包含することができる。あるいは、重合性材料には、モノマー1分子当たりの重合性基の平均数が1.0を超えるように、複数の異なる種類のモノマーを包含することもできる。一部の実施形態では、モノマー1分子当たりの重合性基の平均数は、少なくとも1.1、少なくとも1.2、少なくとも1.3、少なくとも1.4、少なくとも1.5、少なくとも1.6、少なくとも1.7、少なくとも1.8、少なくとも1.9、少なくとも2.0、少なくとも2.1、少なくとも2.2、少なくとも2.3、少なくとも2.4、少なくとも2.5、少なくとも2.6、少なくとも2.7、少なくとも2.8、少なくとも2.9、又は少なくとも3.0である。
【0024】
分子1個当たりの重合性基の平均数は、各モノマー分子の相対モル濃度とその官能価(重合性基の数)とを決定し、そして数平均官能価を決定することによって求められる。例えば、n個の重合性基を有するXモル・パーセントの第1のモノマーとm個の重合性基を有する(100−X)モル・パーセントの第2のモノマーとを含有する重合性材料の、モノマー1分子当たりの重合性基の平均数は、[n(X)+m(100−X)]/100である。別の例では、n個の重合性基を有するXモル・パーセントの第1のモノマーと、m個の重合性基を有するYモル・パーセントの第2のモノマーと、q個の重合性基を有する(100−X−Y)モル・パーセントの第3のモノマーとを含有する重合性材料の1分子当たりの重合性基の平均数は、[n(X)+m(Y)+q(100−X−Y)]/100である。
【0025】
重合性材料には、2個以上の重合性基を有する少なくとも1つのモノマーが包含される。多くの場合、重合性材料は、典型的に、2個以上の重合性基を有するモノマーを少なくとも5重量%含有する。例えば、重合性材料は、2個以上の重合性基を有するモノマーを少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%含有することができる。
【0026】
多くの場合、2個以上の重合性基を有するモノマーは、重合性基をほとんど有さないモノマー不純物を含有している。例えば、3個以上の重合性基を有するモノマーは、2個の重合性基を有する不純物、1個の重合性基を有する不純物、又はこれら両方を含有することができる。
【0027】
前駆体組成物には一般的に、前駆体組成物の総重量に対して15〜95重量%の重合性材料が含有される。例えば、前駆体組成物には、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、又は少なくとも50重量%の重合性材料が含有される。前駆体組成物は、95重量%まで、90重量%まで、80重量%まで、75重量%まで、70重量%まで、又は60重量%までの重合性材料を含むことができる。一部の前駆体組成物では、重合性材料の量は、前駆体組成物の総重量に対して15〜90重量%、20〜90重量%、30〜90重量%、40〜90重量%、又は40〜80重量%の範囲である。
【0028】
重合性材料には、多くの場合、1つ以上の(メタ)アクリレートが包含される。本明細書で使用するとき、用語「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート、アクリレート、又はそれらの混合物を指す。(メタ)アクリレートには、(メタ)アクリロイル基が含有される。用語「(メタ)アクリロイル」は、式HC=CR−(CO)−で表される1価基を指し、式中、Rは水素又はメチルであり、及び(CO)は、炭素が酸素と二重結合によって結合していることを示す。(メタ)アクリロイル基は、フリーラジカル重合が可能な(メタ)アクリレートの重合性基(すなわち、エチレン性不飽和基)である。すべての重合性材料が(メタ)アクリレートであることもでき、又は重合性材料には、1つ以上の(メタ)アクリレートを、エチレン性不飽和基を有する他のモノマーと組み合わせて包含することもできる。
【0029】
多くの実施形態において、重合性材料には、ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が包含される。用語ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)と、ポリ(アルキレングリコール(メタ)アクリレート)と、アルコキシル化(メタ)アクリレートと、アルコキシル化ポリ(メタ)アクリレートとは、2つ以上のアルキレンオキシド残留単位(アルキレンオキシド単位とも称される)を含有する少なくとも1個の基を有する(メタ)アクリレートを指すために、互換的に用いることができる。多くの場合、少なくとも5個のアルキレンオキシド残留単位が存在する。アルキレンオキシド単位は、式−OR−で表される2価基であり、式中、Rは、炭素原子を10個まで、炭素原子を8個まで、炭素原子を6個まで、又は炭素原子を4個まで有するアルキレンである。アルキレンオキシド単位は、多くの場合、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、ブチレンオキシド単位、又はそれらの混合物から選択される。
【0030】
モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基(例えば、(メタ)アクリロイル基)の平均数が1.0を超えるのであれば、重合性材料は単一の(メタ)アクリレート又は複数の(メタ)アクリレートの混合物を含むことができる。モノマー1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の平均数が1.0を超えるようにするためには、重合性材料中に存在する少なくとも一部の(メタ)アクリレートが、モノマー1分子当たり2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する。例えば、重合性材料は、モノマー1分子当たり2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを含有することができるか、又はモノマー1分子当たり2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートと、モノマー1分子当たり1個の(メタ)アクリロイル基を有する1つ以上の(メタ)アクリレートとを組み合わせた混合物を含有することができる。別の例では、重合性材料には、モノマー1分子当たり3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを含有することができるか、又はモノマー1分子当たり3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートと、モノマー1分子当たり1個の(メタ)アクリロイル基、モノマー1分子当たり2個の(メタ)アクリロイル基、又はそれらの混合物を有する1つ以上の(メタ)アクリレートとを組み合わせた混合物を含有することができる。
【0031】
モノマー1分子当たり1個のエチレン性不飽和基を有する好適な重合性材料の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)(例えば、ポリ(エチレンオキシド(メタ)アクリレート)、ポリ(プロピレンオキシド(メタ)アクリレート)、及びポリ(エチレンオキシド−コ−プロピレンオキシド(メタ)アクリレート))、アルコキシポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−アルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド)、並びにN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
モノマー1分子当たり2個のエチレン性不飽和基を有する好適な重合性材料としては、例えば、アルコキシル化ジ(メタ)アクリレートが挙げられる。アルコキシル化ジ(メタ)アクリレートの例としては、ポリ(アルキレンオキシドジ(メタ)アクリレート)、例えば、ポリ(エチレンオキシドジ(メタ)アクリレート)及びポリ(プロピレンオキシドジ(メタ)アクリレート);アルコキシル化ジオールジ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシル化ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、及びエトキシル化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート;アルコキシル化トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート及びプロポキシル化トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート;及びアルコキシル化ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート及びプロポキシル化ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
モノマー1分子当たり3個のエチレン性不飽和基を有する好適な重合性材料の例としては、例えば、アルコキシル化トリ(メタ)アクリレートが挙げられる。アルコキシル化トリ(メタ)アクリレートの例としては、アルコキシル化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートと、アルコキシル化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
モノマー1個当たり少なくとも4個のエチレン性不飽和基を有する好適な重合性材料としては、例えば、アルコキシル化テトラ(メタ)アクリレート及びアルコキシル化ペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。アルコキシル化テトラ(メタ)アクリレートの例としては、アルコキシル化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0035】
一部の実施形態では、重合性材料としては、モノマー1分子当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が挙げられる。アルコキシル化部分(すなわち、ポリ(アルキレンオキシド)部分)は、多くの場合、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、ブチレンオキシド単位、又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有している。すなわち、ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)1モル毎には、少なくとも5モルのアルキレンオキシド単位が含有される。これら複数のアルキレンオキシド単位によって、極性溶媒中でのポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)の溶解が促進される。一部の代表的なポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)は、少なくとも6個のアルキレンオキシド単位、少なくとも8個のアルキレンオキシド単位、少なくとも10個のアルキレンオキシド単位、少なくとも12個のアルキレンオキシド単位、少なくとも15個のアルキレンオキシド単位、少なくとも20個のアルキレンオキシド単位、又は少なくとも30個のアルキレンオキシド単位を含有する。ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)は、ホモポリマー鎖、ブロックコポリマー鎖、ランダムコポリマー鎖、又はそれらの混合物である、ポリ(アルキレンオキシド)鎖を含有することもできる。一部の実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)鎖はポリ(エチレンオキシド)鎖である。
【0036】
高分子繊維類が前駆体組成物から形成することができるのであれば、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基と少なくとも5個のアルキレンオキシド単位とを有する、あらゆる分子量のこのポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を使用することができる。このポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)の重量平均分子量は、多くの場合、2000g/モル以下、1800g/モル以下、1600g/モル以下、1400g/モル以下、1200g/モル以下、又は1000g/モル以下である。しかし、他の用途では、重合性材料中に重量平均分子量が2000g/モルを超えるポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を含むことが望ましい。
【0037】
複数の(メタ)アクリロイル基を有する一部の代表的なポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)の調製は、米国特許第7,005,143号明細書(アビューリャマン(Abuelyaman)ら)、並びに米国特許出願公開第2005/0215752(A1)号(ポップ(Popp)ら)、同第2006/0212011(A1)号(ポップら)、及び同第2006/0235141(A1)号(リーゲル(Riegel)ら)に記載されている。モノマー1分子当たりの平均的な(メタ)アクリロイル官能価が少なくとも2でありかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有する、好適なポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)は、例えば、サートマー(Sartomer)(ペンシルベニア州エクストン(Exton))から、取引表記「SR9035」(エトキシル化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート)、「SR499」(エトキシル化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート)、「SR502」(エトキシル化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート)、「SR415」(エトキシル化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート)、並びに「CD501」(プロポキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート)及び「CD9038」(エトキシル化(30)ビス−フェノールAジアクリレート)として市販されている。括弧内の数は、モノマー1分子当たりのアルキレンオキシド単位の平均数を指す。他の好適なポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)としては、ポリアルコキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、例えば、バスフ(BASF)(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン(Ludwigshafen))から取引表記「ラロマー(LAROMER)」として市販されている、少なくとも30個のアルキレンオキシド単位を有するものが挙げられる。
【0038】
重合性材料には、多くの場合、モノマー1分子当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有する、少なくとも5重量%のポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が包含される。例えば、重合性材料は、モノマー1個当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%含有することができる。
【0039】
一部の代表的な前駆体組成物には、モノマー1分子当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有し、少なくとも5個のエチレンオキシド単位を有し、及び重量平均分子量が2000g/モル未満である、ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が含有される。この重合性材料は、前駆体組成物中の唯一の重合性材料であることもできるし、極性溶媒と混和する他のモノマーと組み合わせることもできる。より具体的な代表的な前駆体組成物には、モノマー1分子当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有し、少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有し、及び重量平均分子量が2000g/モル未満である、ポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレートが含有される。更により具体的な代表的な前駆体組成物には、重量平均分子量が2000g/モル未満であるエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートを含むこともできる。多くの場合、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートには、1個の(メタ)アクリロイル基を有する不純物、2個の(メタ)アクリロイル基を有する不純物、又はそれらの混合物が含有される。例えば、市販されている「SR415」(エトキシル化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート)は、多くの場合、モノマー1分子当たりの平均官能価が3未満である(分析したところ、モノマー1分子当たりの平均官能価は約2.5であった)。
【0040】
モノマー1分子当たり少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基と少なくとも5個のアルキレンオキシド単位とを有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)に加えて、前駆体組成物は、高分子繊維に特定の特性を付与するために添加される他のモノマーを包含することも可能である。場合によっては、前駆体組成物は、アニオン性モノマーを含有することもできる。本明細書で使用するとき、用語「アニオン性モノマー」とは、エチレン性不飽和基に加えて、カルボン酸(すなわち、カルボキシ)基(−COOH)若しくはその塩、スルホン酸基(−SOH)若しくはその塩、硫酸基(−SOH)若しくはその塩、ホスホン酸基(−PO)若しくはその塩、リン酸基(−OPOH)若しくはその塩、又はそれらの混合物から選択される酸性基をも含有するモノマーを指す。前駆体組成物のpHに応じて、アニオン性モノマーは、中性状態(酸性型)又は塩の形態(アニオン型)であり得る。アニオン型の対イオンは、多くの場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、又は種々のアルキル基で置換されたアンモニウムイオン、例えばテトラアルキルアンモニウムイオンから選択される。
【0041】
カルボキシ基を有する好適なアニオン性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、及び種々のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、3−カルボキシプロピルアクリレート、及び3−カルボキシプロピルメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。カルボキシ基を有する他の好適なアニオン性モノマーとしては、米国特許第4,157,418号明細書(ハイルマン(Heilmann)に記載されているもののような、(メタ)アクリロイルアミノ酸が挙げられる。代表的な(メタ)アクリロイルアミノ酸としては、N−アクリロイルグリシン、N−アクリロイルアスパラギン酸、N−アクリロイル−β−アラニン、及び2−アクリルアミドグリコール酸が挙げられるが、それらに限定されない。スルホン酸基を有する好適なアニオン性モノマーとしては、種々の(メタ)アクリルアミドスルホン酸、例えば、N−アクリルアミドメタンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及び2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸基を有する好適なアニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミドアルキルリン酸、例えば、2−アクリルアミドエチルリン酸及び3−メタクリルアミドプロピルリン酸が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸基を有する好適なアニオン性モノマーとしては、アルキレングリコール(メタ)アクリレートのリン酸塩、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレートのリン酸塩、及びプロピレングリコール(メタ)アクリレートのリン酸塩が挙げられる。これらの酸性モノマーのうちのいずれかの塩を用いることもできる。
【0042】
アニオン性モノマーは、存在するのであれば、高分子繊維の膨潤の度合いを増加させることができる。すなわち、膨潤の度合いは、多くの場合、アニオン性モノマーの量並びに前駆体組成物中の他の親水性モノマー(類)の量を変えることによって変更することができる。膨潤の度合いは、通常、高分子繊維が収着することができる極性溶媒の総量に比例する。アニオン性モノマーは、多くの場合、重合性材料の総重量に対して0〜50重量%の範囲の量で存在する。例えば、前駆体組成物は、40重量%まで、30重量%まで、20重量%まで、15重量%まで、10重量%までのアニオン性モノマーを含有することができる。一部の例では、前駆体組成物には、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、又は少なくとも5重量%のアニオン性モノマーが含有される。一部の前駆体組成物類は、アニオン性モノマーを含有しない。
【0043】
他の実施形態では、前駆体組成物はカチオン性モノマーを包含することができる。本明細書で使用するとき、用語「カチオン性モノマー」とは、エチレン性不飽和基に加えて、アミノ基、アミノ基の塩、又はそれらの混合物を有するモノマーを指す。例えば、カチオン性モノマーは、アミノ(メタ)アクリレート又はアミノ(メタ)アクリルアミドであり得る。アミノ基は、第1級アミノ基若しくはその塩、第2級アミノ基若しくはその塩、第3級アミノ基若しくはその塩、又は第4級の塩であり得る。カチオン性モノマーには、多くの場合、第3級アミノ基若しくはその塩、又は第4級アンモニウム(ammmonium)塩が含まれる。前駆体組成物のpHに応じて、一部のカチオン性モノマーは、中性状態(塩基性型)又は塩の形態(カチオン型)であることができる。カチオン型の対イオンは、多くの場合、ハロゲン化物(例えば、臭化物又は塩化物)、硫酸塩、アルキル硫酸塩(例えば、メトサルフェート又はエトサルフェート)、並びに種々のカルボン酸塩アニオン(例えば、酢酸塩)から選択される。
【0044】
代表的なアミノ(メタ)アクリレートとしては、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びN−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N−tert−ブチルアミノプロピルメタクリレート、及びN−tert−ブチルアミノプロピルアクリレート等が挙げられる。
【0045】
代表的なアミノ(メタ)アクリルアミドとしては、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド、N−(3−アミノプロピル)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)アクリルアミド、N−(2−イミダゾリルエチル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3イミダゾリルプロピル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−イミダゾリルプロピル)アクリルアミド、N−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)アクリルアミド、及びN−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)メタクリルアミドが挙げられる。
【0046】
代表的なモノマーの第4級アンモニウム塩には、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及び3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、並びに(メタ)アクリロキシアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、及び2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
他の代表的なモノマーの第4級アンモニウム塩としては、炭素原子数2〜22又は炭素原子数2〜20のアルキル基を有するジメチルアルキルアンモニウム基が挙げられる。すなわち、モノマーには、式−N(CH(C2+1の基が包含され、式中、nは、2〜22までの値の整数である。代表的なモノマーとしては、以下の式のモノマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
【化1】

【0049】
ここで、nは、2〜22までの範囲の整数である。これらのモノマー類の合成は、米国特許第5,437,932号明細書(アリ(Ali)ら)に記載されている。これらのモノマーは、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩と、アセトンと、炭素原子数2〜22の1−ブロモアルカンと、所望により酸化防止剤とを混合することによって調製することができる。得られた混合物は、約35℃で約16時間攪拌した後、室温まで冷却してもよい。その結果として生じる白色固体沈殿物は、その後、濾過によって分離され、冷酢酸エチルで洗浄されて、40℃で真空乾燥することができる。
【0050】
一部のカチオン性モノマー、例えば、四級アミノ基を有するものは、抗菌特性を高分子繊維に付与することができる。カチオン性モノマーは、多くの場合、重合性材料の総重量に対して0〜50重量%の範囲の量で存在する。例えば、前駆体組成物は、40重量%まで、30重量%まで、20重量%まで、15重量%まで、又は10重量%まで含有することができる。一部の例では、前駆体組成物には、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、又は少なくとも5重量%のカチオン性モノマーが含有される。一部の前駆体組成物は、カチオン性モノマーを含有していない。
【0051】
一部の代表的な重合性材料は、非イオン性モノマーのみを含有している。すなわち、重合性材料は、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの両方を実質的に有さない。アニオン性モノマー又はカチオン性モノマーに関連して本明細書で使用するとき、「実質的に有さない」とは、重合性材料が、重合性材料の重量に対して1重量%未満、0.5重量%未満、0.2重量%未満、又は0.1重量%未満のアニオン性モノマー又はカチオン性モノマーを含有することを表す。例えば、存在する任意のイオン性モノマーが別のモノマー中に不純物として存在する場合もある。
【0052】
一部の実施形態では、前駆体組成物は、(a)前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒と、(b)前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料と、を含有する。重合性材料は、極性溶媒と混和し、及び、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える。重合性材料には、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が包含される。
【0053】
極性溶媒及び重合性材料に加えて、前駆体組成物は、1つ以上の任意の添加物、例えば、処理剤、活性剤、又はそれらの混合物を包含することもできる。これら任意の添加物のうちいずれかは、前駆体組成物に可溶であるか、又は前駆体組成物中に分散可能である。
【0054】
本明細書で使用するとき、用語「処理剤」とは、主に前駆体組成物又は高分子材料のどちらかの物理的若しくは化学的な特性を変えるために添加される化合物又は化合物の混合物を指す。すなわち処理剤は、前駆体組成物の性質を変えるためか又は高分子材料の形成を助長するために添加される。添加する場合、処理剤は、典型的には、前駆体組成物に添加される。これら処理剤は、典型的には、活性剤とはみなされない。
【0055】
好適な処理剤としては、レオロジー変性剤、例えば、高分子増粘剤(例えば、ゴム、セルロース、ペクチン等)又は無機増粘剤(例えば、粘土、シリカゲル等)、表面張力を変更する界面活性剤、前駆体組成物を安定させる乳化剤、極性溶媒へのモノマーの溶解度を高める可溶化剤、重合性材料の重合反応を促進する開始剤、連鎖移動剤又は連鎖遅延剤、結合剤、分散剤、定着剤、発泡剤、流動助剤、気泡安定剤、発泡促進剤、ゲル化剤、艶出し剤、噴射剤、ワックス、前駆体組成物の凝固点を下げるため及び/又はその沸点を上げるための化合物、並びに可塑剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
いずれかの任意の処理剤は、典型的には、前駆体組成物の総重量に対して20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、又は0.5重量%以下の量で存在する。
【0057】
1つの代表的な処理剤は開始剤である。ほとんどの前駆体組成物には、フリーラジカル重合反応用の開始剤が包含される。開始剤は、光開始剤、熱開始剤、又はレドックス対であり得る。開始剤は、前駆体組成物に可溶であるか、又は前駆体組成物中に分散可能である。
【0058】
好適な可溶性の光開始剤の例は、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノンであって、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)(ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown))から取引表記「イルガキュア(IRGACURE)2959」として市販されている。好適な分散型光開始剤の例は、α、α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンであって、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)から取引表記「イルガキュア(IRGACURE)651」として市販されている。他の好適な光開始剤は、米国特許第5,506,279号明細書に記載されているアクリルアミドアセチル光開始剤であって、これには、重合性基のみならず、開始剤として機能し得る基も含有される。この開始剤は通常、一部の重合性組成物中で使用されるような、当該技術分野において既知のレドックス開始剤ではない。このような開始剤は、存在する場合、生物活性剤と反応する可能性がある。
【0059】
好適な熱開始剤としては、例えば、アゾ化合物、過酸化物若しくはヒドロペルオキシド、又は過硫酸塩等が挙げられる。代表的なアゾ化合物としては、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、及び4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタン酸)が挙げられる。市販の熱アゾ化合物系開始剤の例としては、デュポン・スペシャルティ・ケミカル(DuPont Specialty Chemical)(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington))から取引表記「バゾ(VAZO)」、例えば、「バゾ44」、「バゾ56」及び「バゾ68」として入手可能な材料が挙げられる。好適な過酸化物及びヒドロペルオキシドとしては、過酸化アセチル、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、及びペルオキシ酢酸が挙げられる。好適な過硫酸塩としては、例えば、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0060】
他の例において、フリーラジカル重合開始剤は、レドックス対であって、例えば過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウムとN,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン、過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウムと硫酸第一鉄アンモニウム、過酸化水素と硫酸第一鉄アンモニウム、及びクメンヒドロペルオキシドとN,N−ジメチルアニリン、等である。
【0061】
一部の実施形態では、前駆体組成物は、重合性材料と、極性溶媒と、光開始剤などの開始剤とのみを包含する。大抵の実施形態では、開始剤は、前駆体組成物の総重量に対して4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、又は0.5重量%以下の量で存在する。
【0062】
前駆体組成物は、1つ以上の任意の活性剤を包含することができる。活性剤によって、何らかの更なる機能が高分子繊維に与えられる。高分子繊維は、活性剤に対して担体の役割を果たす。存在する場合、活性剤は、通常、前駆体組成物の総重量に対して30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、又は5重量%以下の量で存在する。
【0063】
一部の実施形態では、活性剤は、高分子繊維に出入りすることができる。他の実施形態では、活性剤は、高分子繊維内で静止して留まる傾向がある。例えば、活性剤の分子サイズによって、活性剤が繊維から外へ溶出又は拡散するのを防止することもできる。別の例では、活性剤は、繊維に共有結合又はイオン結合によって結合されている場合もある。活性剤は、所望により、他のエチレン性不飽和基と反応することで、高分子材料の一部になるか又は繊維中の高分子材料と結合することになる可能性のある、1つ以上のエチレン性不飽和基を有することもできる。
【0064】
一部の活性剤は、生物学的な活性剤である。本明細書で使用するとき、用語「生物学的な活性剤」及び「生物活性剤」は、互換的に用いられるものであって、生物系、例えば、バクテリア若しくは他の微生物、植物、魚、昆虫、又は哺乳動物に対して何らかの既知の効果を発揮する化合物又は化合物類の混合物を指す。生物活性剤は、生物系の代謝へ影響を及ぼすように、生物系に影響を及ぼす目的で添加される。生物活性剤の例としては、薬剤、除草剤、殺虫剤、抗菌剤、消毒剤及び防腐剤、局所麻酔剤、収れん剤、抗真菌剤、抗菌剤、成長因子、ビタミン、ハーブ抽出物、酸化防止剤、ステロイド又は他の抗炎症剤、創傷治療を助長する化合物、血管拡張薬、剥離剤(例えば、α−ヒドロキシ酸又はβ−ヒドロキシ酸)、酵素、栄養素、タンパク質、及び炭水化物が挙げられるが、これらに限定されない。更に他の生物活性剤としては、人工的な日焼け剤、日焼け促進剤、皮膚鎮静剤、皮膚引き締め剤、しわ抑制剤、皮膚回復剤、皮脂抑制剤、皮脂刺激物質、プロテアーゼ阻害剤、かゆみ止め成分、発毛抑制剤、発毛促進剤、皮膚感覚剤、抗にきび治療剤、脱毛剤、除毛剤、魚の目除去剤、タコ除去剤、イボ除去剤、日焼け止剤、防虫剤、脱臭剤及び制汗剤、染毛剤、脱色剤、及び抗ふけ剤が挙げられる。当該技術分野において既知のあらゆる他の好適な生物活性剤を使用することができる。
【0065】
その他の活性剤は生物学的に活性ではない。これら活性剤は、高分子繊維に何らかの生物学的ではない機能を付与するために添加される。すなわち、これらの活性剤は、生物系の代謝へ影響を及ぼすように、生物系に影響を及ぼす目的のために添加するのではない。例えば、好適な活性剤は、高分子繊維の臭い、電荷、色彩、密度、pH、浸透圧モル濃度、水分活性、イオン強度、又は屈折率を変えるように選択することができる。活性剤は更に、反応性基又は化合物を生じさせるように選択することもできる。生物学的に活性ではない薬剤の例としては、乳化剤又は界面活性剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双極性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びこれらの組み合わせを包含するもの)、顔料、無機酸化物(例えば、二酸化ケイ素、チタニア、アルミナ、及びジルコニア)、芳香剤、例えば、アロマセラピー剤及び香料、臭気吸収剤、保湿剤、潤滑剤、染料、漂白剤又は着色剤、着香剤、装飾剤、例えば、光沢剤、皮膚軟化剤、酸、塩基、緩衝剤、指示薬、可溶性塩、キレート化剤、等が挙げられる。用いられる量のうち、室温、液体であってかつ水混和性である一部の湿潤剤(例えば、グリコール及び他のポリオール)は、膨潤した高分子繊維又は乾燥した高分子繊維の組成百分率を計算するときには、極性溶媒の一部であるとみなされる。
【0066】
一部の実施形態では、活性剤は指示薬である。指示薬には、あらゆる好適な化学反応が利用可能である。指示薬は例えば、特定のpH範囲、又は特定種の化合物の存在を検出することができる。いくつかの特定種の化合物が存在することによって、色変化を生じさせることができる。ニンヒドリンは、例えば、タンパク質又はアミノ基の存在を検出するために利用することができる。指示薬は更に、典型的なpH指示薬、例えば、メチルブルー又はフェノールフタレインでもあり得る。
【0067】
ナノ粒子の無機酸化物を高分子繊維類に添加して、当該繊維の屈折率を増加させることができる。例えば、高分子繊維に、ジルコニアナノ粒子又はチタニアナノ粒子を添加することもできる。ジルコニアナノ粒子類は、例えば、米国特許第6,376,590号明細書(コルブ(Kolb)ら)及び米国特許出願公開第2006/0148950(A1)号(ディビッドソン(Davidson)ら)に記載されている方法を用いて調製することができる。
【0068】
どの活性剤も重合性基を有してよい。活性剤での重合性基の利用は、活性剤が高分子繊維から外へ移動するのを防止するために用いることができる。エチレン性不飽和基並びに四級アミノ基を有するカチオン性モノマーは、抗菌剤として機能する場合があり、及び、前駆体組成物の重合性材料中に含むこともできる。カチオン性モノマーは、多くの場合、四級アミノ基を有する(メタ)アクリレートである。
【0069】
高分子繊維類は典型的に、未反応の重合性基を有するため、高分子繊維は、形成後に、重合性基を有する活性剤と反応させることができる。例えば、エチレン性不飽和基及び四級アミノ基を有するカチオン性モノマーは、未反応のエチレン性不飽和基を有する高分子繊維と反応させることができる。高分子繊維とカチオン性モノマーと光開始剤とを含有する混合物を化学線に曝露して、カチオン性モノマーのエチレン性不飽和基を高分子繊維の未反応のエチレン性不飽和基と反応させることができる。この反応生成物は、高分子繊維に四級アミノ基が付加したものである。
【0070】
高分子繊維類の形成方法は、前駆体組成物を供給する工程と、この前駆体組成物の流れを気相に取り囲まれた状態で形成する工程と、を含む。前記方法には、流れを放射線に、前駆体組成物中の重合性材料を少なくとも部分的に重合させて第1の膨潤した高分子繊維を形成するのに十分な時間、曝露する工程が更に包含される。
【0071】
前述の前駆体組成物のうちいずれもが、高分子繊維類の形成方法で使用できる。前駆体組成物中に包含される重合性材料の、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数は、1.0を超える。一部の実施形態では、重合性材料には、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有する、ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が含まれる。
【0072】
放射線に曝露すると、前駆体組成物内の重合性材料はフリーラジカル重合反応を起こす。本明細書で使用するとき、用語「放射線」とは、化学線(例えば、紫外線スペクトル領域又は可視光スペクトル領域の波長を有する放射線)、加速粒子(例えば、電子ビーム放射線)、熱線(例えば、熱又は赤外線)、等を指す。放射線は、化学線又は加速粒子であることが多い。なぜならば、これらのエネルギー源が、重合の開始や重合速度を良好に制御する傾向があるためである。加えて、化学線及び加速粒子は、比較的低い温度の硬化にも使用できる。このことにより、熱線を用いて重合反応を開始するためには避けることのできない比較的高い温度に対して反応し易い構成成分を劣化させないようにする。所望の電磁スペクトル領域のエネルギーを生成することができる、いずれかの好適な化学線源を用いることができる。化学線の代表的な供給源としては、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、タングステンフィラメントランプ、レーザ、太陽光、等が挙げられる。
【0073】
図2は、1つの代表的な高分子繊維の製造プロセスの略図である。プロセス20には、供給システム30と重合システム40とが含まれている。少なくとも重合性材料と極性溶媒とを含有する前駆体組成物50を、供給システム30に供給する。重合システム40内では、前駆体組成物50中の重合性材料を放射線に曝露してフリーラジカル重合反応を生じさせることで、高分子材料を形成する。
【0074】
供給システム30には、前駆体組成物50に圧力を加える圧力源35が包含されている。圧力は、通常、345kPa(1インチ四方当たり50ポンド(psi))未満、276kPa(40psi)未満、又は207kPa(30psi)未満である。例えば、圧力は、時には138〜207kPa(20〜30psi)までの範囲である。重合システム40からは、膨潤した高分子繊維が得られる。膨潤した高分子繊維は、通常は均質であって、アスペクト比が3:1を超える。プロセス20の供給システム30と重合システム40にはそれぞれ、種々の要素を包含することができる。
【0075】
供給システム30には、リザーバ32と少なくとも1つの出口34とが含まれる。リザーバ32は、ある容積の前駆体組成物を流し込む又は別の方法で加えてから加圧下に配置することができる、ポット又は他の容器であってもよい。リザーバ32は、金属、プラスチック、ガラス、又は別の材料であってもよい。好ましくは、前駆体組成物50は、リザーバ32に付着したり反応したりせず、又はそうでなくても、リザーバ32から容易に取り出される。リザーバ32は、圧力源35によって付与される圧力に耐えるほど十分に頑丈である。この圧力は、多くの場合、少なくとも34kPa(5psi)、少なくとも69kPa(10psi)、少なくとも138kPa(20psi)、又は少なくとも207kPa(30psi)である。出口34は、リザーバ32内の開口部又は穴のように簡素であってもよいし、又は別個の要素、例えば、超音波アトマイザであってもよい。図2に示す実施形態では、出口34は、単にリザーバ32内の開口部である。出口34は、前駆体組成物50の流れの形成を促進する。リザーバ32と出口34との接続には、いずれかの好適な配管の利用を必要とすることがある。1つの特定の実施形態では、第1(例えば、柔軟な)供給ライン36によって前駆体組成物50をリザーバ32から第2(例えば、剛直な)供給ライン38へ供給し、その後、この組成物50を出口34と重合システム40へ供給する。
【0076】
重合システム40には、放射線源42とシールド装置44とが含まれている。シールド装置44は、多くの場合、供給源42から出た放射線を所望の場所の方へ導くために、そして極めて接近している可能性のある人又は機器を防護するために存在する。
【0077】
この実施形態では、重合システム40には更に、前駆体組成物50(例えば、前駆体組成物50の流れ)を、放射線源42から生じ得るあらゆる高速の空気流からも保護又は隔離する、管理要素46も含まれている。管理要素46によって、重合が生じる局所的な環境を制御することができる。すなわち管理要素46を用いることで、前駆体組成物50の流れを取り囲む気相の組成を、流れが放射線源42に曝露されるように制御することができる。
【0078】
放射線源42は、単一の放射線源であっても、又は同一の若しくは異なる複数種の放射線源であってもよい。放射線源42は、赤外線、可視光、紫外線、電子ビーム放射線、マイクロ波放射線、又は高周波放射線等のエネルギーをもたらす。使用される特定のエネルギー源は、特定の前駆体組成物50に左右されるであろう。好適な非イオン化放射線源には、連続したパルス状の供給源が包含され、及び、広帯域供給源であっても、単色光源等の狭帯域供給源であってもよい。代表的な非イオン化放射線源としては、水銀ランプ(例えば、低圧型、中圧型、及び高圧型、並びにそれらの付加型又はドープ型)、蛍光灯、殺菌灯、ハロゲン化金属ランプ、ハロゲンランプ、発光ダイオード、レーザ、エキシマランプ、パルス化キセノンランプ、タングステンランプ、及び白熱灯が挙げられるが、これらに限定されない。赤外線源及びマイクロ波放射線源のみならず、電子線等のイオン化放射線源を利用してもよい。更には、これら放射線源の組み合わせを利用してもよい。
【0079】
いくつかの代表的な方法では、100〜1000ナノメートル、100〜800ナノメートル、又は100〜700ナノメートルの範囲の波長を有する電磁放射線を用いることができる。いくつかの方法では、100〜400ナノメートル又は200〜400ナノメートルの範囲の波長を有する紫外線を用いることができる。例えば、エキシマ源からの200nm未満の波長の紫外線を用いることができる。多くの実施形態では、放射線源42は、高発光の紫外線源、例えば、少なくとも40W/cm(100W/インチ)の中圧水銀ランプである。殺菌灯などの低圧水銀ランプを包含する低発光ランプを用いることも可能である。
【0080】
シールド装置44は、供給源42からの放射線を、極めて接近している人又は機器に接触させないようにするのに好適な、いかなる形状及び材料でもあり得る。シールド装置44は、放射線技術分野では周知である。
【0081】
管理要素46は、存在する場合、放射線源42を通り過ぎる前駆体組成物50の落下又は流動を隔離又は保護するのに好適ないかなる形状及び材料でもあり得る。大抵のプロセスでは、管理要素46は、供給源42からの放射線を透過するか又は少なくとも部分的に透過する。要素46の一例は石英管であり、この中を前駆体組成物50の流れが通過する。
【0082】
繊維10の製造中に、前駆体組成物50を、例えば、開口上部からリザーバ32に供給する(例えば、流し込む)。圧力源35を用いて前駆体組成物50に圧力を加えて、前駆体組成物50を出口34から押し出す。リザーバ32内の圧力は、前駆体組成物50をリザーバ32から出口34を通じて押し出すことができるように、大気圧よりも高い。通常、この圧力は、大気圧よりも高く、少なくとも34kPa(5psi)、少なくとも69kPa(10psi)、少なくとも138kPa(20psi)、又は少なくとも207kPa(30psi)である。
【0083】
前駆体組成物50の流れは、好ましくは、それが重合システム40を通り抜ける(自由落下する)ように、ある程度の距離の間その状態を保っている。この距離は、例えば、前駆体組成物及びその流れの粘度によって規定される。組成物50は、重合システム40を通過(例えば、自由落下)するが、一般には、重力等の自然力、又は空気の流れ、対流性の熱流、表面張力等の他の任意の力によってのみ影響される。典型的には、落下中の組成物50は、それが管理要素46を通り抜けて落ちるように、いくらか横に移動する。
【0084】
前駆体組成物50の流れは、多くの場合、気相に取り囲まれている。気体は通常、重合領域では、前駆体組成物、形成中の繊維、形成された繊維、又はこれらの組み合わせを取り囲んでいる。例えば、気体は多くの場合、高分子繊維が形成されるときに、高分子繊維の複数の面を取り囲んでいる。より詳細には、気体は典型的には、高分子繊維が形成されるときに、高分子繊維の主軸(すなわち、全長)を取り囲んでいる。気相は、大気圧より高くても、大気圧と同等であっても、又は大気圧より低くてもよい。一部の実施形態では、気相は周囲空気であり得る。他の実施形態では、気流又は他の大気の特徴を利用して、重合システム40の中を通る前駆体組成物50の流動を安定化させる場合もある。例えば、不活性雰囲気を使用することも可能である。好適な不活性雰囲気としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素、又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0085】
重合システム40からは、膨潤した高分子繊維10が得られる。重合システム内の継続時間は、少なくとも、高分子繊維を得るのに要する最小時間よりも長い。重合システム40内での前駆体組成物50の継続時間又は前駆体組成物50の放射線への曝露時間は、一般に、10秒以下、5秒以下、3秒以下、2.5秒以下、2秒以下、1秒以下、又は0.5秒以下である。
【0086】
高分子繊維の第2の好適な製造プロセスを図3に模式的に表す。最も基本的な形態において、プロセス120には、供給システム130と重合システム140とが包含されている。前述と同様に、前駆体組成物50を供給システム130に供給し、それを重合システム140へ送る。重合システム140からは、均質な、膨潤した高分子繊維が得られる。プロセス120の供給システム130と重合システム140とにはそれぞれ、種々の要素が包含されている。
【0087】
供給システム130は、前述のシステム30と同様とすることができ、少なくとも1つの出口134の付いたリザーバ132を有している。重合システム140は、前述のシステム40と同様とすることができ、放射線源142と、シールド装置144と、管理要素146とを有することができ、及び、重合システム140の中を通る組成物50を隔離又は分離する。プロセス120は更に、重合システム140を真空にするための真空源150をも含む。好適な真空源150の一例は、水流吸引器又は真空ポンプであり、好適な真空水準としては、67kPa(500torr)未満、13kPa(100torr)未満、及び一部の実施形態では、7kPa(50torr)未満が挙げられる。
【0088】
繊維10の製造中、前駆体組成物50は、リザーバ132から出口134を通じて供給される。組成物50は、出口134からの流れとして押し出され、それが真空源150からの真空によって助長されて重合システム140を通り抜ける。重合システム140の下方では、高分子繊維が得られる。
【0089】
前述のプロセスでは、前駆体組成物50がリザーバから重合システムを通って垂直方向に落下することを表している。別の代替のプロセス構造では、前駆体組成物50が、例えば、リザーバから水平に(又はある角度で)押し出される場合があり、その結果、重合システムよりも前方の前駆体組成物50及び/又は重合システムの中を通る前駆体組成物50の経路は、水平なベクトルを包含する。例えば、繊維10は、吹込み成形操作によって形成することができる。
【0090】
高分子繊維類は支えられていない。すなわち、高分子繊維類は、内部又は外部の支持体を用いずに形成される。繊維内の高分子材料は、繊維の直径全体に及んでいる。高分子繊維類は、他の繊維類、織り糸類、ひも類、ワイヤー類、メッシュ等の予め形成された物品類のためのコーティングではない。更には、高分子繊維類は、別の予め形成された物品類からは成形されない。すなわち、高分子繊維類は、シート、フィルム、若しくは発泡体から切断されず、それらから切り離されず、又はそれらから成形されない。
【0091】
膨潤した高分子繊維の直径は、それを製造するのに用いられるプロセス、及び具体的な前駆体組成物によって左右される。上述のプロセス20、120と同様にして溶液をオリフィスに貫流させる場合、結果として得られる膨潤した高分子繊維の直径は、オリフィスの直径と関連付けられる。オリフィスの形が前記繊維の断面形状に影響を及ぼす場合もある。例えば、非円形のオリフィスによって非円形の繊維が生成される場合がある。膨潤した高分子繊維は、多くの場合、直径が5000マイクロメートルまで、4000マイクロメートルまで、3000マイクロメートルまで、2000マイクロメートルまで、又は10000マイクロメートルまでである。前記繊維の直径は、多くの場合、少なくとも1マイクロメートル、少なくとも5マイクロメートル、少なくとも10マイクロメートル、少なくとも20マイクロメートル、少なくとも25マイクロメートル、少なくとも30マイクロメートル、少なくとも40マイクロメートル、少なくとも50マイクロメートル、又は少なくとも100マイクロメートルである。一部の実施形態では、更に細い繊維(例えば、直径が約250マイクロメートル以下の繊維類)を不活性雰囲気で形成することが望ましい場合もある。
【0092】
高分子繊維類は、いかなる長さのものでもあり得る。多くの実施形態では、長さは0.1センチメートル〜100メートルまでの範囲である。例えば、長さは、少なくとも0.1センチメートル、少なくとも0.2センチメートル、少なくとも0.5センチメートル、少なくとも1センチメートル、少なくとも2センチメートル、少なくとも5センチメートル、少なくとも10センチメートル、少なくとも20センチメートル、少なくとも50センチメートル、又は少なくとも100センチメートルである。一部の代表的な高分子繊維類の長さは、100メートルまで、50メートルまで、10メートルまで、2メートルまで、1メートルまで、0.5メートル(50センチメートル)まで、0.2メートル(20センチメートル)まで、又は0.1メートル(10センチメートル)までであり得る。
【0093】
高分子繊維は、前駆体組成物の流れを放射線に曝露することで重合性材料のフリーラジカル重合を引き起こすことにより、形成される。前駆体組成物には重合性材料に加えて極性溶媒も包含されるため、高分子繊維は極性溶媒で膨潤している。高分子繊維は、膨潤した繊維、ヒドロゲル繊維、溶媒で膨潤した高分子繊維、又は膨潤した高分子繊維と表すことができる。これらの用語はすべて、本明細書では互換的に用いることができる。
【0094】
膨潤した高分子繊維中の高分子材料は、架橋しているが、未反応の重合性基又は反応性基を含有する可能性がある。未反応の重合性基としては、典型的に、更にフリーラジカル反応可能なエチレン性不飽和基が挙げられる。縮合反応又は求核置換反応が可能な他の種類の重合性基、例えば、ヒドロキシル基又はアミノ基が存在する可能性もある。
【0095】
膨潤した高分子繊維は、一般には、当該膨潤した高分子繊維の重量に対して15重量%〜95重量%の高分子材料を包含する。膨潤した高分子繊維の15重量%未満が高分子材料である場合、形の良い繊維を形成するのに十分な高分子材料が存在していない場合がある。膨潤した高分子繊維の95重量%超が高分子材料である場合、乾燥した高分子繊維がソルベートを収着する能力が、不適切に低い場合がある。
【0096】
一部の代表的な膨潤した高分子繊維類では、膨潤した高分子繊維類のうち少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、又は少なくとも50重量%が高分子材料である。膨潤した高分子繊維類のうち95重量%まで、90重量%まで、85重量%まで、80重量%まで、75重量%まで、又は70重量%までが高分子材料である。例えば、膨潤した高分子繊維類は、15〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、30〜80重量%、又は40〜80重量%の高分子材料を含有することができる。
【0097】
膨潤した高分子繊維類中の極性溶媒の量は、多くの場合、膨潤した高分子繊維の5重量%〜85重量%までの範囲である。極性溶媒の量が85重量%を超える場合、形の良い繊維を形成するのに十分な高分子材料が存在していない場合がある。極性溶媒の量が、膨潤した高分子繊維の多くても5重量%である場合、乾燥した高分子繊維が追加された液体類を収着する能力は、不適切に低い場合がある。膨潤した高分子繊維に包含されるいかなる極性溶媒も、通常、マトリックスに共有結合されていない。一部の代表的な膨潤した高分子繊維類では、膨潤した高分子繊維類のうち少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、又は少なくとも40重量%は極性溶媒類である。膨潤した高分子繊維のうち85重量%まで、80重量%まで、70重量%まで、60重量%まで、又は50重量%までが極性溶媒類である。
【0098】
一部の実施形態では、膨潤した高分子繊維類は活性剤も含有することができる。これら活性剤類は、膨潤した高分子繊維を調製するために用いられる前駆体組成物中に存在することができる。あるいは、膨潤した高分子繊維類を乾燥して、ソルベートによって2回目の膨潤を行なうこともできる。すなわち、乾燥した高分子繊維にソルベートを収着させることで、第2の膨潤した高分子繊維を形成することができる。ソルベートには活性剤が包含されていることが多い。活性剤は、生物学的に活性な薬剤、生物学的に活性ではない薬剤、又はそれらの混合物であり得る。好適な活性剤類については先に記載している。
【0099】
前駆体組成物に包含される場合、活性剤類は、好ましくは、材料を重合させるために用いられる放射線に対して安定である及び/又は耐性がある。しかしながら、一部の活性剤類はエチレン性不飽和基を有するモノマーであることができる。放射線に対して安定でもなく耐性もない活性剤類は、高分子繊維の形成後に添加すれば、より上手く進行する場合がある(すなわち、高分子繊維を乾燥させてから、活性剤を包含するソルベートに晒すこともできる)。活性剤類が、多くの場合、前駆体組成物に添加できるか又は高分子繊維の形成後に添加できることとは異なって、処理剤類は、典型的に、前駆体組成物にのみ包含されている。
【0100】
活性剤の量は、膨潤した高分子繊維の重量に対して0〜30重量%までの範囲であり得る。一部の代表的な膨潤した高分子繊維類では、活性剤の量は、膨潤した高分子繊維の20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は1重量%以下である。
【0101】
一部の代表的な膨潤した高分子繊維類は、この膨潤した高分子繊維類の総重量に対して15〜95重量%の高分子材料と、5〜85重量%の極性溶媒と、0〜30重量%の活性剤とを含有する。
【0102】
膨潤した高分子繊維類、例えば活性剤を含まないものは、通常、均質であり、識別できる内部の孔又は内部の溝を含有しない。極性溶媒と高分子材料とを包含する高分子マトリックスは通常、膨潤した高分子繊維内では単一相として存在しており、溶媒と高分子材料との間に識別できる境界が存在しない。ただし、活性剤が存在する場合、活性剤は、高分子繊維全体に均質に分散されていても、されていなくてもよい。更に活性剤は、高分子マトリックスとは別個の相内に存在していてもよい。
【0103】
一般的に、高分子繊維類(特に、活性剤を有さないもの)には、顕微鏡、例えば環境走査型電子顕微鏡によって50倍までの倍率で観察した場合、識別できる孔又は空隙が全くない。高分子繊維類は、電界放出走査型電子顕微鏡によって100倍まで、500倍まで、1000倍まで、2000倍まで、5000倍まで、10,000倍まで、20,000倍まで、又は50,000倍までの倍率で観察した場合、識別できる孔又は空隙を全く有しないことが多い。
【0104】
光を散乱し得る不透明な構成成分を用いずに調製された膨潤した高分子繊維類は、透き通っているか又は透明であって、不透明度又はヘイズがほとんど又は全くないことがある。一部の実施形態では、膨潤した高分子繊維類は、透き通っているものが好ましい。他の実施形態では、透明性は必須ではなく、高分子繊維類の外観に影響を及ぼし得る様々な構成成分を添加することもできる。
【0105】
高分子繊維類に関連して使用されるとき、用語「透明な」とは、繊維類が、視覚的に検出可能な量の可視光を散乱しないことを表す。一部の実施形態では、空気が高分子繊維類内に混入されている場合があり、それが相境界で不透明部分を形成する可能性があるが、これは、極性溶媒中での高分子材料の相分離ではない。組成物類が透明であるとみなされるのは、波長が550ナノメートルの光のうちの少なくとも85%が、1ミリメートル厚の硬化した前駆体組成物の膜を透過する場合である。これらの膜類は、ガラス又は他の非干渉性基材の上にキャスト成形することができる。一部の実施形態では、波長が550ナノメートルの光のうちの少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも95%がこの膜を透過する。
【0106】
ヘイズ又は不透明度は、広帯域光源を有するヘイズメーター、例えば、BYK−ガードナー・ヘイズガード・プラス(BYK-Gardner Hazegard Plus)ヘイズメーターを用いて特性評価することができる。前駆体組成物から調製されたこの同様の膜での透過性は、少なくとも85%、少なくとも88%、少なくとも90%、又は少なくとも95%であり、ヘイズは、10%未満、8%未満、5%未満、又は3%未満である。多くの実施形態において、前記ヘイズ成分は相分離を表す。
【0107】
繊維類は、剛直であってもゴム弾性であってもよく、及び、粉砕され易くても(例えば、脆い)、そうでなくてもよい。高分子材料の含有量が多いと、膨潤した高分子繊維の弾性率及び圧潰強度が増加する傾向がある。より高い平均官能価を有する前駆体組成物を用いて達成される架橋量が大きいと、高分子繊維類の弾性率及び圧潰強度もまた増加する傾向がある。平均官能価とは、モノマー1分子当たりの重合性基(エチレン性不飽和基)の平均数を指す。
【0108】
高分子繊維類は多種多様な寸法を有することができる。前記繊維類の直径は、放射線硬化前に前駆体組成物の液体流を発生させるために用いられる的確な方法に依存し、及び、1マイクロメートル未満から数千マイクロメートルまでの範囲とすることができる。特に好適な繊維直径は、1マイクロメートル〜約5000マイクロメートルまでの範囲である。前記繊維の長さは、多くの場合、1ミリメートル〜100メートルまでの範囲である。
【0109】
高分子繊維類及び高分子繊維の製造方法のうち一部の実施形態では、第1の膨潤した高分子繊維から少なくとも一部の極性溶媒を除去して、乾燥した繊維を形成することができる。用語「乾燥した繊維」と「乾燥した高分子繊維」とは、本明細書では互換的に用いられる。乾燥した繊維は、次いで、当該乾燥した繊維が少なくとも一部のソルベートを収着するのに十分な時間、ソルベートと接触させることができる。すなわち、第1の膨潤した高分子繊維を乾燥させて、乾燥した高分子繊維を形成することができ、それをその後、ソルベートと接触させて、第2の膨潤した高分子繊維を形成することができる。ソルベートには、少なくとも1種の活性剤を含有することができる。活性剤に加えて、ソルベートは、流体、例えば、液体又は超臨界流体を包含することもできる。一部の代表的なソルベートには、活性剤に加えて極性溶媒が包含されている。
【0110】
本明細書で使用するとき、用語「収着する」とは、吸着する、吸収する、又はそれらの組み合わせを指す。同様に、用語「収着」は、吸着、吸収、又はそれらの組み合わせを指す。収着は、化学プロセス(すなわち、化学反応が生じるもの)であるか、物理プロセス(すなわち、化学反応が生じないもの)であるか、又はそれら両方であることも可能である。用語「ソルベート」とは、高分子繊維類、例えば、乾燥した高分子繊維類によって収着され得る組成物を指す。
【0111】
より具体的には、活性剤を包含する高分子繊維の製造方法を提供する。本方法には、(a)極性溶媒と、(b)極性溶媒と混和する重合性材料と、を含有する前駆体組成物を形成する工程が包含される。重合性材料は、フリーラジカル重合することが可能であり、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える。この方法には、更に、前駆体組成物の流れを形成する工程も包含される。流れの主軸(主要な面)は、多くの場合、気相に取り囲まれている。流れは、重合性材料を少なくとも部分的に重合させるためと、第1の膨潤した高分子繊維を形成するためとに十分な時間、放射線に曝露する。本方法には更に、第1の膨潤した高分子繊維から極性溶媒の少なくとも一部を除去して、乾燥した繊維を形成する工程が包含される。次に、乾燥した繊維を、乾燥した繊維が少なくとも一部のソルベートを収着して第2の膨潤した高分子繊維を形成するのに十分な時間、ソルベートと接触させる。ソルベートは典型的に活性剤を含有している。活性剤は、生物学的に活性な薬剤、生物学的に活性ではない薬剤、又はそれらの混合物であり得る。
【0112】
この方法には多くの場合、前駆体組成物を形成する工程が包含されており、前記前駆体組成物は、(a)前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒と、(b)前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料と、を含有している。重合性材料は極性溶媒と混和する。重合性材料は、フリーラジカル重合が可能であり、及び、モノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超える。重合性材料には、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が包含される。この方法には更に、前駆体組成物の流れを形成する工程が包含される。この流れの主軸(主要な面)は、多くの場合、気相に取り囲まれている。この流れを、重合性材料を少なくとも部分的に重合するため、及び第1の膨潤した高分子繊維を形成するために十分な時間、放射線に曝露する。この方法には更に、第1の膨潤した繊維から極性溶媒の少なくとも一部を除去して、乾燥した繊維を形成する工程も包含される。次に、乾燥した繊維を、乾燥した繊維が少なくとも一部のソルベートを収着して第2の膨潤した高分子繊維を形成するのに十分な時間、ソルベートと接触させる。ソルベートには、典型的に、活性剤が含有されている。活性剤は、生物学的に活性な薬剤、生物学的に活性ではない薬剤、又はそれらの混合物であることができる。
【0113】
乾燥した繊維を形成するために第1の膨潤した高分子繊維から除去される極性溶媒の量は、所望のいかなる量でもあり得る。多くの場合、極性溶媒の少なくとも10重量%を第1の膨潤した高分子繊維から除去して、乾燥した繊維を形成する。例えば、極性溶媒の、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%を除去することで、乾燥した繊維を形成することができる。乾燥した繊維には、多くの場合、高分子材料中に残存する少なくとも少量の極性溶媒が含有されている。
【0114】
更に、乾燥した繊維をソルベートと接触させて活性剤を高分子繊維類内に又はその上に収着させる場合、乾燥した繊維内に存在する極性溶媒の量は、一般に、乾燥した高分子繊維の重量に対して25重量%以下である。乾燥した繊維中の極性溶媒の量は、乾燥した高分子繊維の重量の20重量%未満、15重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、2重量%未満、又は1重量%未満であり得る。一般に、第1の膨潤した繊維から除去される溶媒が多いほど、乾燥した繊維が収着できるソルベートの量は多くなる。
【0115】
第一の膨潤した高分子繊維は、極性溶媒を除去すると収縮して、円筒形状を有する崩壊した又は縮んだ繊維類と似たものとなる場合があり、一部の乾燥した高分子繊維類は、卵型又は楕円形の断面を有する場合もある。乾燥した高分子繊維の断面形状は、第1の膨潤した高分子繊維の断面形状に依存する。収縮量は、第1の膨潤した高分子繊維中に当初存在する極性溶媒の容積と、乾燥によって極性溶媒が取り除かれる度合いとに依存する。
【0116】
乾燥した高分子繊維(特に、活性剤を含まない場合)は、一般には均質のままであり、肉眼で見える(すなわち、100nmを超える)内部の孔又は溝を含有していない。一般には、高分子繊維には、顕微鏡によって観察したときに識別できる孔又は空隙が全くない。例えば、図5に示すように、2本の代表的な乾燥した高分子繊維類には、高分子繊維類を環境走査型電子顕微鏡を用いて50倍までの倍率で観察した場合、識別可能な孔が全くない。高分子繊維類には、電界放出走査型電子顕微鏡を用いて100倍まで、200倍まで、500倍まで、1000倍まで、2000倍まで、5000倍まで、10,000倍まで、20,000倍まで、又は50,000倍までの倍率で観察した場合、識別できる孔が全くない場合がある。乾燥した繊維は、高い弾性率、高い圧潰強度、又はそれらの組み合わせを有していてもよい。これらの特性は、膨潤した高分子繊維の特性と同様であるか、又はそれらの特性よりも大きいことがある。
【0117】
膨潤した高分子繊維は、種々の方法のうちいずれかによって乾燥させることができ(すなわち、膨潤した繊維から少なくとも一部の極性溶媒を取り除くことができる)、前記方法には、対流式オーブン等の従来のオーブン内で加熱すること、電子レンジ内で加熱すること、空気乾燥させること、凍結乾燥させること、又は真空乾燥させることが挙げられる。ある特定の繊維組成物を乾燥させるための最適な方法は、膨潤した高分子繊維中に存在する極性溶媒の素性及び量、並びに生物活性剤類等の繊維中の構成成分類の熱安定性にも依存する。水が存在する場合、好ましい乾燥方法には、従来のオーブン類、例えば、対流式オーブン類、電子レンジ類、真空オーブン類、及び凍結乾燥が包含される。水の場合、大気圧で乾燥させるのに好適な温度は、100℃近辺又は100℃超であることが多い。場合によっては、乾燥した繊維を更に高温に加熱することが望ましいこともある。これにより、縮合又は他の化学反応を介して繊維強度が向上する場合がある。例えば、繊維類を、140℃超、160℃超、あるいは180℃超に加熱することもできる。高分子繊維類は、乾燥時に凝集して、例えば、フィルム又はシートを形成することはない。それどころか、乾燥した繊維類は、別個の粒子のまま残る傾向がある。
【0118】
乾燥した繊維は、例えばソルベートを含浸させることによって容易に再膨潤して、当初のサイズとほぼ同じであり得る膨潤状態に戻すこともできる。典型的には、第2の膨潤した高分子繊維を形成するために、乾燥した繊維が収着し得るソルベートの容積は、乾燥プロセス中に第1の膨潤した高分子繊維から除去された極性溶媒及び他の非重合性成分の容積とほぼ等しい。前駆体組成物中に及びそれから得られる第1の膨潤した繊維中に存在する極性溶媒が、繊維を2回目に膨潤させる(例えば、乾燥した繊維を膨潤させる)ために用いられるソルベート中の溶媒と異なる場合、乾燥した高分子繊維はほとんど膨潤しない場合があり、又はその当初の、重合したときの寸法を超えて膨潤することもある。
【0119】
乾燥した繊維に、活性剤、特に、膨潤した高分子繊維の形成中に遭遇する熱又は放射線と反応し易いもの、例えば、薬剤、医薬品、殺虫剤、除草剤、染料、芳香剤、又はそれらの混合物を添加することもできる。繊維に活性剤を供給するために、乾燥した繊維を、活性剤を含有するソルベートと接触させる。活性剤が液体ではない場合、ソルベートは典型的には、極性溶媒又は超臨界流体(例えば、二酸化炭素)等の流体をも含有する。ソルベートは、溶液、懸濁液、又は分散液であってもよい。多くの実施形態において、ソルベートは溶液である。乾燥した繊維は、典型的に、少なくとも一部のソルベートを収着する。乾燥した繊維をソルベートに晒すことで、高分子繊維に活性剤が含浸する。
【0120】
ソルベートには、多くの場合、活性剤と、極性溶媒等の液体とが含まれている。液体を収着することで、多くの場合、高分子繊維が膨潤を生じる。液体は、典型的には、活性剤の繊維内への移動を促進する。液体は、多くの場合、活性剤を繊維全体へ届けて、均質な繊維を形成させる。ただし、一部の実施形態では、活性剤は、繊維の表面上に留まっている場合もあり、又はより高濃度の表面上で高分子繊維全体に亘る活性剤の勾配が存在する場合もある。例えば、活性剤のサイズ(例えば、分子サイズ)並びに極性溶媒の組成が、活性剤の乾燥した繊維内への移動(例えば、拡散)に影響を及ぼす場合がある。
【0121】
乾燥した高分子繊維は、多くの場合、乾燥した高分子繊維の重量に対して少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも80重量%、少なくとも100重量%、少なくとも120重量%、少なくとも140重量%、少なくとも160重量%、少なくとも180重量%、又は少なくとも200重量%の量のソルベートを収着することができる。重量の増加は、典型的には、乾燥した高分子繊維の重量に対して300重量%未満、275重量%未満、又は250重量%未満である。
【0122】
高分子繊維は、活性剤に対する担体であることもでき、この活性剤は、繊維内部の少なくとも一部に存在するか又は繊維の表面上の少なくとも一部に存在することができる。活性剤を、高分子繊維を形成するために用いられる前駆体組成物中に含むこともできる。あるいは、活性剤は、少なくとも部分的に乾燥させた高分子繊維によって収着させることもできる。高分子繊維は、バルクへの出入りの双方を拡散制御することができる。すなわち、多くの実施形態では、活性剤は、高分子繊維内へ拡散すること、高分子繊維から外へ放散されること、又はその両方が可能である。拡散速度は、例えば、高分子材料とその架橋密度とを変えることにより、極性溶媒を変えることにより、極性溶媒への活性剤の溶解性を変えることにより、活性剤の分子量を変えることにより、又はこれらの組み合わせによって制御できなければならない。拡散は、数時間に亘って、数日に亘って、数週間に亘って、又は数ヶ月に亘って生じる可能性がある。
【0123】
一部の用途では、活性剤を含有する高分子繊維が乾燥状態にあることが望ましい場合がある。乾燥した繊維をソルベートに晒すことによって活性剤を添加して、活性剤を含有する第2の膨潤した高分子繊維を形成した後で、第2の膨潤した高分子繊維を再び乾燥させることができる。この第2の乾燥した高分子繊維を水分に晒すと、活性剤は高分子繊維から放散することができる。活性剤は、第2の乾燥した高分子繊維内では、水分に晒されるまでは不活発なままであり得る。すなわち、活性剤は、第2の乾燥した高分子繊維内で、前記繊維を水分に晒すまで貯蔵することができる。この結果、不必要時に活性剤が浪費又は損失されるのを防止することができ、及び、加水分解、酸化、又は他のメカニズムによって劣化するかもしれない、水分に敏感な多数の活性剤の安定性を改善することもできる。活性剤の拡散制御された取り込み又は送達を利用した考えられ得る用途としては、例えば、薬物送達、創傷管理、持続放出性の抗菌保護及び抗真菌保護、空気清浄剤、徐放性殺虫剤、並びに魚又は哺乳動物等の高等動物に対する徐放性の誘引薬が挙げられる。
【0124】
創傷包帯として、高分子繊維に、治療機能をもたらす種々の活性剤を添加することができる。これらの活性剤を含有する創傷包帯によって、創傷の感染が軽減されるか又は撲滅される場合がある。加えて、これらの創傷包帯は、抗炎症薬、成長因子、α−ヒドロキシ酸、酵素阻害物質、例えば、マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)阻害物質、酵素活性化剤、血管拡張剤、走化性剤、止血剤(例えば、トロンビン)、抗菌剤、抗ヒスタミン剤、抗毒素、麻酔薬、鎮痛剤、ビタミン、栄養素、又は組み合わせ等、の治療活性剤を高分子繊維に添加すると、創傷治療の速度を速めることができる。創傷包帯に用いられる場合、高分子繊維は典型的に、滲出物の多い創傷に使用する以前は乾燥しているが、乾燥した創傷に水分を加えるように、膨潤した状態で用いることもできる。
【0125】
一部の実施形態では、膨潤した高分子繊維は、抗菌剤を哺乳類の組織か又は高分子繊維の外側の別の環境のいずれかに送達するために使用することができる。高分子繊維に添加可能な一部の代表的な抗菌剤としては、ヨウ素、及びその種々の錯体形態が挙げられる。ヨウ素又は三ヨウ化物と錯体を形成する化合物は、ヨードフォアと呼ばれる。一部のヨードフォアは、ヨウ素元素又は三ヨウ化物と特定の担体との錯体である。膨潤した高分子繊維及び乾燥した高分子繊維は、ヨードフォアである。これらのヨードフォアは、ヨウ素の可溶性を増加させることによってのみならず、溶液中の自由分子であるヨウ素の濃度を低下させることによっても、ヨウ素を持続放出させる一種のリザーバを供給することによっても、機能する。
【0126】
ヨウ素又はその錯体類は、高分子繊維に様々な形態で供給することができる。例えば、ヨウ素の溶液及びヨウ素塩を準備し、それを乾燥した高分子繊維に収着させる。あるいは、ヨウ素又はその錯体を、他のヨードフォアを利用して高分子繊維に供給することも可能である。これら他のヨードフォアは、例えば、ヨウ素又はヨウ素錯体を含有するポリマー担体を用いて形成することができる。好適な担体としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP);N−ビニルラクタムと他の不飽和モノマー(例えば、これらに限定されないが、アクリレート及びアクリルアミド)とのコポリマー;ポリエーテル含有界面活性剤(例えば、ノニルフェノールエトキシレート等)を包含する、種々のポリエーテルグリコール(PEG);ポリビニルアルコール;ポリカルボン酸、例えば、ポリアクリル酸;ポリアクリルアミド;及び多糖類、例えば、デキストロースが挙げられる。他の好適なヨードフォアとしては、米国特許第4,597,975号明細書(ウッドワード(Woodward)ら)に記載されているプロトン化アミンオキシド界面活性剤−三ヨウ化物錯体が挙げられ。一部の用途では、ヨードフォアはポピドン−ヨードである。これは、ポピドン−ヨードUSPとして商業的に入手可能であって、K30ポリビニルピロリドンとヨウ化物との錯体であり、この中には、利用可能なヨウ素が約9重量%〜約12重量%存在する。高分子繊維をこれら他のヨードフォアの1つに晒すと、ヨウ素又はその錯体は、高分子繊維と、ヨウ素又はその錯体を送達するのに用いられるポリマー担体との間に隔壁を作る傾向がある。
【0127】
一部の実施形態では、抗菌剤の種々の組み合わせを前駆体組成物又はソルベート中で用いることができる。前駆体組成物又はその結果として生じるヒドロゲルと相溶するあらゆる他の既知の抗菌剤を用いることができる。これらとしては、クロルヘキシジン塩、例えば、グルコン酸クロルヘキシジン(CHG);パラクロロメタキシレノール(PCMX)、トリクロサン、ヘキサクロロフェン、グリセリン及びプロピレングリコールの脂肪酸モノエステル及びモノエーテル、例えば、モノラウリン酸グリセロール、モノカプリル酸グリセロール、モノカプリン酸グリセロール、モノラウリン酸プロピレングリコール、モノカプリル酸プロピレングリコール、モノカプリン酸プロピレングリコール、フェノール、(C12−C22)疎水性物質及び四級アンモニウム基又はプロトン化第3級アミノ基を包含する界面活性剤及びポリマー、四級シラン等とポリ4級アミンとのような四級アミノ含有化合物、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド、銀含有化合物、例えば、金属銀、銀塩、例えば、塩化銀、酸化銀、及びスルファジアジン銀、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、オクテニジン(octenidene)、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。他の抗菌剤は、例えば、米国特許出願公開第2006/0052452号(ショルツ(Scholz))、同第2006/0051385号(ショルツ)、及び同第2006/0051384号(ショルツ)に記載されている。
【0128】
更に、高分子繊維は、汚染物質又は毒素等の種々の物質を凝縮させるために用いることもできる。例えば、高分子繊維を用いて、水系又は生態系から汚染物質を取り除くことができる。種々の機能性を高分子材料、例えば、キレート化剤に混入することによって、重金属、放射性汚染物質、等を除去できる場合がある。
【0129】
繊維は、多くの場合、未反応のエチレン性不飽和基を含有している。これらのエチレン性不飽和基は、他のモノマー、例えば、コーティング組成物中のモノマーと反応することができる。繊維を最終コーティングと重合させることも可能である。更に、一部の高分子繊維は、更なる反応が可能な他の官能基をも有している。例えば、前駆体組成物中に包含されるポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)の一部は、種々の求核置換反応又は縮合反応を引き起こす可能性があるヒドロキシ基を有している。
【0130】
繊維組成物が使用できる代表的な化粧品用途及びパーソナルケア用途としては、創傷ケア製品、例えば、過剰な滲出物を吸収させるための吸収性の創傷包帯及び創傷用布;応急処置包帯、ホット/コールドパック、ベビー用品、例えば、ベビーシャンプー、ローション、パウダー、及びクリーム;浴用剤、例えば、バスオイル、浴用剤錠剤、及びバスソルト、バブルバス、バス香料、及びバスカプセル;アイメイクアップ用調剤、例えば、アイブロウペンシル、アイライナー、アイシャドウ、目の周り用のローション、アイメイクアップリムーバ、及びマスカラ;フレグランス調剤、例えば、オーデコロン及び化粧水、パウダー、及びサッシェ;無着色ヘアー調剤、例えば、ヘアーコンディショナー、ヘアースプレー、縮毛矯正剤、パーマ剤、リンス、シャンプー、トニック、整髪料、及び他の身だしなみ助剤;カラー化粧品;ヘアーカラーリング調剤、例えば、染毛剤、毛髪着色剤、ヘアーシャンプー、ヘアーカラースプレー、ヘアーライトナー、及び毛髪脱色剤;メイクアップ用調剤、例えば、白粉、ファンデーション、レッグペイント及びボディペイント、口紅、化粧下地、頬紅、及びメイクアップ定着剤;マニキュア調剤、例えば、ベースコート、及びアンダーコート、キューティクルソフナー、ネイルクリーム及びローション、ネイルエクステンダー、ネイルポリッシュ及びエナメル、並びにネイルポリッシュリムーバー及びエナメルリムーバ;口腔衛生用製品、例えば、歯磨剤、及び洗口剤;パーソナル清浄用製品、例えば、浴用の石鹸及び洗剤、脱臭剤、膣洗浄器及び女性用衛生製品;シェイビング用調剤、例えば、アフターシェイブローション、髭軟化剤、男性用タルカムパウダー、シェイビングクリーム、シェイビングソープ及びプリシェイブローション;スキンケア調剤、例えば、クレンジング用調剤、皮膚消毒剤、除毛剤、顔及び首用のクレンザー、ボディ及びハンドクレンザー、脚用のパウダー及びスプレー、保湿剤、夜用調剤、ペースト状のマスク、及び皮膚清浄剤;並びに日焼け止めクリーム、ジェル及びローション等の日焼け止め調剤、及び室内日焼け用調剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
一部の用途では、高分子繊維は、対象とする別の化合物の有無を検出することができる指示薬を含有している。指示薬は、指示薬と、極性溶媒(例えば、水、ジメチルホルムアミド等)等の任意の流体とを含有するソルベートを用いて、乾燥した高分子繊維に添加することができる。繊維は、検出すべき化合物を潜在的に含有する試料と接触させることができる。その後、指示薬は、検出すべき化合物が試料に含有されていれば、変色することがある。試料に曝露したときに、指示薬が繊維の外へ移動しなければ、繊維が変色する場合がある。試料に曝露したときに指示薬が繊維の外へ移動すれば、試料自体が変色する場合がある。
【0132】
具体例では、高分子繊維に、アミノ含有物質の存在を検出できるニンヒドリン等の指示薬を添加することができる。多くの場合は、無色透明の乾燥した高分子繊維にニンヒドリンを添加することで、黄色の高分子繊維を形成することができる。ニンヒドリンのみならず極性溶媒をも含有するソルベートを用いて、活性剤を高分子繊維に添加することもできる。ニンヒドリン含有高分子繊維がアミノ含有物質と接触すると、ニンヒドリンは黄色から鮮やかな紫色へと変化する。ニンヒドリンとアミノ含有物質との相対的な拡散速度に応じて、繊維の色が黄色から紫色に変わることができるか、又はニンヒドリンが繊維の外へ移動してアミノ含有試料の色を変えることができる。例えば、少量のアミノ含有物質をニンヒドリン含有高分子繊維中に拡散させて、繊維の色を黄色から紫色へ変えることができる。しかしながら、比較的多量のタンパク質は、ニンヒドリンが繊維の外へ移動できるほど容易には、高分子繊維中に拡散させることができない。タンパク質を含有する試料の色は紫色に変化できるが、繊維は紫色には変化しない場合がある。アミノ含有物質の混合物を含有する一部の他の例では、高分子繊維とアミノ含有試料とがいずれも紫色に変化する場合もある。
【0133】
染料を添加した高分子繊維は、飽和度指示薬として用いることができる。染料含有高分子繊維は乾燥させることができる。乾燥した繊維を水と接触させると、染料が高分子繊維から外へ放散されて水の色を変えることもある。あるいは、水を含まない場合は無色であるが、水が繊維中に収着されると色が変わる染料を混入することも可能である。例えば、特定のpH指示薬、例えば、フェノールフタレインは、乾燥時は無色であるが、濡れると色が変わる。
【0134】
上述の事項は、本発明者らが予測して有効な説明が得られた実施形態の観点から本発明を説明しているが、本発明の想像上の、今のところ予測されていない修正であっても本発明の均等物を表す場合がある、ということも表している。
【実施例】
【0135】
本発明を、以下の例証的な実施例で更に説明しており、ここで、全ての部及び割合は、指示がない限り重量基準である。
【0136】
阻止帯アッセイ法
黄色ブドウ球菌(ATCC 6538)、グラム陽性菌、緑膿菌(ATCC 9027)、及びグラム陰性菌の別個の溶液を、EMDバイオサイエンシーズ(EMD Biosciences)(ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))製のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1ミリリットル(mL)当たり約1×10コロニー形成単位(CFU)の濃度で0.5マックファーランド(McFarland)標準比濁液を用いて調製することによって、試験を行った。この懸濁液を用い、滅菌綿棒をこの溶液に浸して、トリプチケースソイ寒天(TSA)プレートの乾燥した表面に異なる3方向に塗布することよって菌叢を準備した。TSAプレートは、ボイト・グローバル・ディストリビューション社(Voigt Global Distribution, Inc.)(カンサス州ローレンス(Lawrence))から入手した。繊維試料を所望の長さ、典型的には1.0±0.2cmに切断した。切断した繊維3本を、播種したプレートに載せて、滅菌鉗子を用いて寒天にしっかりと押し付けることで、寒天との完全な接触を確実にした。プレートは、28℃±1℃で24時間インキュベートした。細菌の生育について繊維の下の領域と繊維を囲む領域とを調べて、阻止帯の直径を記録した。
【0137】
カンジダ・アルビカンス試験:カンジダ・アルビカンス(ATCC 90028)を、ボイト・グローバル・ディストリビューション社(Voigt Global Distribution, Inc.)(カンザス州ローレンス(Lawrence))から入手したDIFCOサブロー(Sabouraud)デキストロース(SD)ブロス中で一晩生育させた。セルの濃度を、EMDバイオサイエンシーズ(EMD Biosciences)(ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))製のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1ミリリットル(mL)当たり約1×10コロニー形成単位(CFU)の濃度まで、0.5マックファーランド(McFarland)標準比濁液を用いて希釈した。滅菌綿棒をセル懸濁液に浸して、DIFCO SD寒天プレートの乾燥した表面に異なる3方向に塗布することによって、菌叢の調製を行った。寒天プレートは、ボイト・グローバル・ディストリビューション社(Voigt Global Distribution, Inc.)から入手した。試験しようとする繊維を、先ず、所望の長さ、典型的には10〜18mmに切断した。切断した繊維3本を、播種したプレートに載せて、滅菌鉗子を用いて寒天にしっかりと押し付けることで、寒天との完全な接触を確実にした。プレートを、28℃±1℃で24時間インキュベートした。真菌の生育について繊維の下の領域と繊維を囲む領域とを調べて、阻止帯の直径(そこで真菌の生育が減少した又は完全に撲滅したこと)を記録した。
【0138】
(実施例1)
実施例1は、図2に例示されるような機器で行った。図2の種々の要素を参照し、参照数字を括弧の中に示す。
【0139】
脱イオン水中に、40重量%の20モルがエトキシル化されたトリメチロールプロパントリアクリレート(TMTPA)(ペンシルバニア州エクセター(Exeter)のサートマー(Sartomer)製SR415)約500グラムと、1重量%の光開始剤(ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown)のチバ・スペシャルティ・ケミカルカルズ(Ciba Specialty Chemicals)製イルガキュア(IRGACUR)2959)とを含有する、均質な前駆体組成物を調製した。トリアクリレートの重量割合は前駆体組成物の重量を基準としており、光開始剤の重量割合は、重合性材料の重量を基準としている。前駆体組成物を、圧力ポットであるリザーバ(32)に入れた。このポットを207kPa(30psi)まで加圧した。このポットからの送達ラインは、123cm(4フィート)区分の0.635cm(0.25インチ)ポリエチレン管(36)と91cm(3フィート)区分の0.3175cm(0.125インチ)ステンレス鋼管(38)とを包含し、その末端に内径800マイクロメートル(0.80mm)のオリフィスを有するスウェイグロック(Swagelok)(商標)SS−200−R−1結合金具(34)を有するものであって、これらはUV露光領域の上端からおおよそ約5cm(2インチ)上方に配置されていた。
【0140】
スウェイグロック(Swagelok)(商標)結合金具を起点とする、前駆体組成物のための経路は、長さ91cmで直径5cmの石英管(46)であって、これは、遮光体(44)と、一対の240W/cm(600W/インチ)照射装置(42)(メリーランド州ガイザーズバーグ(Gaithersburg)のフュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems)から入手したもの)とで画定されるUV露光領域へと延びており、前記UV露光領域は、前記電球の配置が落下してくる液体流と平行となるように、一体成形された背面反射体に結合した25cm長の「H」電球をそれぞれ装備していた。
【0141】
加圧された流れを石英管の壁と接触しないように位置合わせしてすぐに、流動を停止して、石英管の下に受け器を配置した。ランプを点けて、前駆体の流れを再始動させて、繊維を受け器に回収した。
【0142】
得られた収率は、本質的に定量的な収率であった。繊維の外径は、約500マイクロメートルであり、各繊維の長さは、数cm〜少なくとも1メートルまでの範囲であった。結果として得られた繊維は、幾分、弾性を示した。
【0143】
(実施例2)
実施例1の方法で調製された繊維のストランドを、100℃のオーブンで2時間乾燥させた。重量損失は約60重量%であった。乾燥した繊維を、メチレンブルー水溶液に入れた。数分以内に、繊維は、かなりの容量の溶液を収着して青色になった。脱イオン水ですすぎ洗いした後、青色の繊維が得られた。
【0144】
(実施例3)
実施例2からのすすぎ洗いした青色繊維の小片を、脱イオン水の入ったバイアル瓶に入れた。数秒以内に、繊維から水中へ青色の拡散が観察された。
【0145】
(実施例4〜9)
これら実施例では、送達ラインの末端にあるスウェイグロック(Swagelok)(商標)結合金具と、圧力ポットの圧力と、ステンレス鋼管(38)の直径とを変更した以外は、実施例1と同じ方法で繊維を作製した。各取付金具のオリフィス直径及び得られた繊維の特性を、表1に記す。
【0146】
【表1】

【0147】
実施例4及び5はいずれも良好な繊維であった。実施例6は、直径0.3175cmのステンレス送達管を用いたものであり、品質の良くない繊維であったが、これは、0.3175cm管の構造によって、繊維前駆体溶液が直径の大きなオリフィスの方への十分に供給されなかったためと考えられる。
【0148】
実施例7及び8は、前記ステンレス管を、更に大きな0.635cmステンレス管に替えて作製された。流れの出口粘度を低下させてUV領域内に適度な滞留時間を与えるために、ポット圧をかなり下げた。繊維形成中の実際の圧力が低すぎてポットに既設の測定器では測定できなかったため、表1では34kPa(5psi)未満の値が記されている。実施例7及び8は良好な繊維であり、約2〜4kg/分程度の速い流速で形成された。
【0149】
実施例9では、内径4.3mmのオリフィスを用いたが、これは、実施例7(内径2.0mm)及び実施例8(内径3.0mm)を調製するのに用いたオリフィスよりも大きい。得られた繊維は、固体/液体混成であり、実施例7及び8ほど重合が進まなかったが、これは、より大きな出口オリフィス直径が原因であり、更に速い流速が必要であったと考えられる。
【0150】
高分子繊維の直径は、通常、オリフィス直径の約50〜80%である。直径はまた、重合性組成物の粘度にも左右される。
【0151】
(実施例10〜13)
実施例10〜13は、前記の実施例4、5、7、及び8と同じ方法で調製した。繊維は実施例2と同様にして乾燥させてから、水で再度膨潤させた。繊維の特性を表2に記す。
【0152】
【表2】

【0153】
繊維の直径が大きいほど(実施例12及び13)均質ではなくなり、内部空隙を幾分有していたかもしれないという、目に見える徴候がいくつかあった。これら内部空隙は、恐らく、空気の混入が原因であろう。オリフィス直径が更に大きい場合は、より速い流速によって、多くの場合、内部空隙の形成を最小限にすることができる。
【0154】
(実施例14)
実施例8の方法を用いて調製された繊維の7cm長のストランドを、100℃で2時間乾燥させた。繊維約0.6cmを、ガラスバイアル瓶内でメチレンブルー水溶液に浸漬した。繊維の残りの部分(約6.5cm)は、溶液より上に残しておいた。バイアル瓶に蓋をして、この容器を放置した。72時間後、繊維の全長が青色に変わり、バイアル瓶内に溶液が全く残っていなかった。
【0155】
(実施例15)
PEG600ジアクリレート(サートマー(Sartomer)製SR 610)と20モルがエトキシル化されたトリメチロールプロパントリアクリレート(サートマー製SR 415)との25:75ブレンドを調製し、これに2重量%の光開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)製イルガキュア(IRGACURE)2959)を添加した。40重量%アクリレートブレンド水溶液約500グラムを、図2の設備を用いて圧力ポットに入れた。溶液は、138〜207kPa(20〜30psi)までの圧力でSS−400−R−1ノズル(内径0.80mm)等価物から供給した。実施例1からの繊維の直径よりも小さな直径の繊維が得られた。
【0156】
(実施例16)
繊維反応器は、図2に示した実施例1と同様にして、オリフィス内径が800マイクロメートル(0.8mm)の実施例15のノズルを用いて組み立てた。圧力ポットに、20モルがエトキシル化されたトリメチロールプロパントリアクリレート(TMTPA)(サートマー(Sartomoer)製SR415))40重量%と、光開始剤(イルガキュア(IRGACURE)2959)0.4重量%と、水59.6重量%とを含有する前駆体組成物を充填した。圧力ポットを145kPa(21psi)まで加圧して、流れの位置合わせを行った。位置合わせした時点で、圧力を緩和して、排出された前駆体組成物は破棄して、回収容器をきれいな物と置き換えた。
【0157】
ノズルからの前駆体組成物流の流動を、145kPa(21psi)の圧力で、水銀(H)電球を装備した2つのフュージョンLH−10ランプを点けたときに再開した。連続繊維は、目立った副生成物を何ら伴わずに、回収容器に回収された。調製された繊維はブフナー(Buechner)漏斗でろ過して、脱イオン水で3回洗浄した。
【0158】
(実施例17)
ヒドロゲル繊維は、図3に示す機器修正を利用したこと以外は、実施例16と同様に作製した。図3の種々な要素を参照し、参照数字を括弧の中に示す。溶液送達システム(130)は、前駆体組成物(50)を保持するガラス広口瓶(132)と、前記溶液に浸かってゴム栓から突き出ている、実施例16で用いたノズルに接続されたプラスチック管と、から構成されていた。前記栓は、石英管(146)の最上部で真空シールを提供するような大きさとした。
【0159】
繊維回収容器としては、4リットル吸引瓶を用いた。真空ポンプを用いて真空を発生させて、前駆体組成物を溶液リザーバ(132)(ガラス広口瓶)から重合システム(140)へ汲み出した。回収容器内の圧力は測定しなかった。水を真空下でシステムから誘引して、落下する流れを石英管と回収フラスコのどちらの側面にも接触させないようにノズルと回収フラスコとの位置合わせをした。この時点で、ポンプ上流に配置されたブリード弁を利用して真空を破って、ガラス広口瓶(132)に実施例16で用いられたものと同じ前駆体組成物を満たした。システムの位置合わせをするのに用いた水は、回収容器に残した。
【0160】
ランプを点けてすぐに、ブリード弁を閉じて、前駆体組成物を重合システムに約200g/分の速度で誘引した。連続繊維は、目立った副生成物を何ら伴わずに回収容器に回収された。前駆体組成物を使い尽くしてから、ランプを「スタンバイ」状態に設定して、ブリード弁を開いた。繊維と水との混合物を回収容器から大きなブフナー(Buechner)漏斗へ流し入れて、蒸留水で3回すすぎ洗いした。得られた繊維は、優れた透明性、並びに良好な伸び及び引張特性を示した。
【0161】
実施例17の減圧プロセスを用いて作製された繊維と、正圧プロセスを用いて作製された実施例16からの繊維についての寸法及び引張特性を、表3にまとめた結果と比較した。
【0162】
【表3】

【0163】
(実施例18)
20モルがエトキシル化されたトリメチロールプロパントリアクリレート90重量%とイルガキュア(IRGACURE)2959 1重量%と水とを含有する前駆体組成物から、実施例17のプロセスを用いて繊維を作製した。繊維は、柔軟かつ弾性であり、実施例17からの繊維直径に匹敵する直径を有していたが、引張強度がかなり高かった。乾燥させると、繊維はその質量の10重量%を損失し、そして再度膨潤することができた。
【0164】
(実施例19)
BASF(ドイツ)から市販されているブロノポール(Bronopol)(取引表記マイアシッド・アズ・プラス(MYACIDE AS PLUS))1部をIPA 5部と混合することによって、ブロノポール溶液を調製した。ブロノポール(Bronopol)は、抗菌剤として機能し得る。溶液は、十分に溶解するまで攪拌した。
【0165】
実施例1の記載と同様にして調製した繊維を、60℃のオーブンで1時間乾燥させた。繊維の長さは1.0±0.2cmであった。乾燥繊維1重量部をガラス広口瓶内でブロノポール(Bronopol)溶液3重量部に30分間浸漬した。繊維をこの溶液から取り出して、脱イオン水ですすぎ洗いし、ペーパータオルで手早く乾燥させた。この繊維の抗菌性能を、黄色ブドウ球菌(ATCC 6538)及び緑膿菌(ATCC 9027)に関する阻止帯試験法を用いて評価した。得られた阻止帯の形は不規則であった。測定された阻止帯は、黄色ブドウ球菌では約35mmであり、緑膿菌では30mmであった。
【0166】
(実施例20)
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製した。繊維は、70℃で1.5時間乾燥させてから、ポビドン−ヨード溶液と接触させた。
【0167】
ポビドン−ヨード溶液は、10重量部のポビドンヨードを90重量部の水と混合することによって調製した。ポビドン−ヨードは、1−エチエニル(ethyenyl)−2−ピロリドンホモポリマーとヨウ素との化合物であって、プルドゥ・フレデリック・カンパニー(Prudue Frederick Company)(コネチカット州スタンフォード(Stamford))から取引表記ベタジン(BETADINE)として、又はシグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セント・ルイス(Saint Louis))から入手可能である。ポビドン−ヨードは、防腐剤として利用可能である。
【0168】
乾燥した繊維0.2部をポビドン−ヨード溶液2部と共にガラス広口瓶に入れた。繊維に溶液を室温で2時間吸着させたところ、赤色に変わった。その後、繊維を溶液から取り出して、脱イオン水ですすぎ洗いして、空気乾燥させた。次に試料をきれいなガラスバイアル瓶に移して蓋をした。処理した繊維は、阻止帯法を用いてカンジダ・アルビカンスに対して評価した。10mm長の繊維の場合、阻止帯は14mmであり、繊維長と直交していた。
【0169】
(実施例21)
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製した。繊維は、70℃で1.5時間乾燥させてから、ミコナゾール溶液と接触させた。
【0170】
ミコナゾールの飽和溶液は、ミコナゾール硝酸塩約1部を水99部に添加することによって調製した。ミコナゾール硝酸塩(1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2[(2,4−ジクロロフェニル)メトキシ]エチル]イミダゾール)は、抗真菌剤として利用可能であり、ミズーリ州セント・ルイス(Saint Louis)のシグマ−アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Co.)から入手することができる。3日間、静かに動転させた後、溶液を重力の2900倍の力で15分間遠心分離することによって、溶解しなかった余分なミコナゾールを除去した。次に上澄みを、ワットマン(Whatman)(英国ミドルセックス(Middlesex))から市販されている0.22マイクロメートルのシリンジフィルタに通した。
【0171】
乾燥した繊維0.1部を、ミコナゾール溶液2部と共にガラス広口瓶に入れた。繊維に溶液を室温で2時間吸収させた。その後、繊維を溶液から取り出して、脱イオン水ですすぎ洗いして、空気乾燥させた。次に試料をきれいなガラスバイアル瓶に移して蓋をした。処理した繊維は、阻止帯法を用いてカンジダ・アルビカンスに対して評価した。18mm長の繊維の場合、阻止帯は23mmであり、繊維長と直交していた。
【0172】
(実施例22)
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製した。繊維は、70℃で1.5時間乾燥させてから、エコナゾール溶液と接触させた。
【0173】
エコナゾールの飽和溶液は、エコナゾール硝酸塩約1部を水99部に添加することによって調製した。エコナゾール(1−[2−[(4−クロロフェニル)メトキシ]−2(2,4−ジクロロフェニル)−エチル]イミダゾール)は、抗真菌剤として利用可能であり、ミズーリ州セント・ルイス(Saint Louis)のシグマ−アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Co.)から市販されている。3日間、静かに動転させた後、溶液を重力の2900倍の力で15分間遠心分離することによって、溶解しなかった余分なエコナゾールを除去した。次に上澄みを、ワットマン(Whatman)(英国ミドルセックス(Middlesex))から市販されている0.22マイクロメートルのシリンジフィルタに通した。
【0174】
乾燥した繊維0.1部を、エコナゾール溶液2部と共にガラス広口瓶に入れた。繊維に溶液を室温で2時間吸収させた。その後、繊維を溶液から取り出して、脱イオン水ですすぎ洗いして、空気乾燥させた。次に試料をきれいなガラスバイアル瓶に移して蓋をした。処理した繊維は、阻止帯法を用いてカンジダ・アルビカンスに対して評価した。18mm長の繊維の場合、阻止帯は29mmであり、繊維長と直交していた。
【0175】
(実施例23)
実施例21及び22からの処理した繊維の、時間依存性の活性物質の放出について調べた。カンジダ・アルビカンスに対する阻止帯を繊維で測定した後、この同じ繊維を新たに播種した寒天プレートに移して、24時間インキュベートした。2回目の24時間インキュベーションの後で、阻止帯を2日目の阻止帯として再度測定し、そして繊維を再度新しいプレートに移した。このプロセスを、1週間又は阻止帯が検出されなくなるまで毎日繰り返し行った。ミコナゾールとエコナゾールで処理した繊維では、阻止帯は7日間存続した。
【0176】
(実施例24)
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製した。繊維は、60℃のオーブンで2時間乾燥させた。2本の異なるサイズの繊維を用いた。最初の繊維は、初期重量0.18グラム及び長さ6.2cmであった。乾燥後、最初の繊維の重量は0.05グラム及び長さは4.2cmとなった。二本目の繊維は、初期重量0.02グラム及び長さ10cmであった。乾燥後、二本目の繊維の重量は0.012グラム及び長さは7cmとなった。
【0177】
水8部と、水酸化ナトリウム溶液(水中5重量%)5部と、コダック(Kodak)製o−クレゾールフタレイン染料0.04部とを混合することによって、フタレイン染料溶液を調製した。溶液の色は深紫色であった。フタレインpH指示薬染料溶液を乾燥した繊維に加えて、2時間吸収させた。繊維を溶液から取り出して、脱イオン水ですすぎ洗いした。繊維の色は鮮やかな紫色となった。
【0178】
着色繊維を60℃のオーブンで2.5時間乾燥させた。紫色が消えて、繊維は見かけ上、完全に透明となった。乾燥した繊維に脱イオン水を加えると、5秒で紫色へと戻った。1分後、紫色が繊維から周りの水へと滲出し始めた。
【0179】
(実施例25)
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製した。繊維を、80℃のオーブンで2時間乾燥させた。脱水した繊維(0.35g)を1重量%ニンヒドリン水溶液(4mL)と室温で24時間反応させた。ニンヒドリンは、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee))から入手可能である。ニンヒドリン水溶液に晒した後、繊維を水とエタノールですすぎ洗いして、大気中で4時間乾燥させた。乾燥ニンヒドリン含有繊維を、密封したバイアル瓶内で保存して、将来の使用に備えた。
【0180】
ニンヒドリン含有繊維の第1の試料は5重量%ブミネートアルブミン水溶液と接触させ、及び、ニンヒドリン含有繊維の第2の試料は豚の肉汁溶液と接触させた。ブミネートアルブミン(25重量%溶液)は、バクスター・ヘルスケア社(Baxter Healthcare Co.)から入手した。豚の肉汁溶液は、約16グラムの新鮮な豚の細切れ肉から20mLの水を用いて16時間かけて抽出することによって調製し、生じた混合物を濾過した。肉汁中の総タンパク質は、ピアス(Pierce)アッセイに従って測定し、約17mg/mL〜37mg/mLの範囲であった。
【0181】
これら2つの試料に晒すために、ニンヒドリン含有繊維100mgを別個のバイアル瓶(4mL)に入れた。次いで、豚の肉汁750μLを第1のバイアル瓶に加え、そして5重量%ブミネートアルブミンタンパク質水溶液750μLを第2のバイアル瓶に加えた。約30分で、両方のバイアル瓶とも青色になり始め、最終的には紫色になった。豚の肉汁の入ったバイアル瓶では、繊維が紫になる。豚の肉汁の色は変化しなかった。しかしながら、ブミネートアルブミンの入ったバイアル瓶では、溶液は紫色になったが、繊維は紫色を示さなかった。
【0182】
(実施例26)
酸化銀含有溶液は、シグマ−アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Company)(ミズーリ州セント・ルイス(St. Louis))から市販されている炭酸アンモニウム5重量部を水95重量部とを組み合わせて、塩が溶解するまで混合することによって調製した。アルファ・イエサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ワードヒル(Ward Hill))から市販されている酸化銀(AgO)1重量部をこの溶液に加えた。混合物は、酸化銀が溶解するまで60℃で1時間攪拌し、その結果、銀イオンを含有する透き通った透明な溶液が得られた。
【0183】
繊維は、実施例1の記載と同様にして調製して、60℃のオーブンで1時間乾燥させた。乾燥した繊維1重量部を、酸化銀溶液3重量部と共にガラス広口瓶に1時間入れた。繊維の色は暗灰色となった。その後、繊維を溶液から濾別して、脱イオン水ですすぎ洗いし、ペーパータオル上で手早く乾燥させた後に、きれいなガラスバイアル瓶に移して蓋をした。酸化銀で処理した繊維を、阻止帯アッセイ法を用いて評価した。黄色ブドウ球菌に対する阻止帯の直径は1mmであり、緑膿菌に対する阻止帯の直径は5mmであった。
【0184】
(実施例27)
繊維は、実施例1に記載した方法に従って、調製した。得られた繊維を、次に70℃のオーブンで30時間乾燥させた。乾燥終了時の重量損失は、55%であった。この乾燥した繊維の400mg試料を、その後、100mMヨウ素元素の200mMヨウ化カリウム溶液10mLが入ったバイアル瓶に入れた。この溶液は深い青みがかった黒色であった。繊維試料とヨウ素溶液を入れたバイアル瓶を数時間、静かに動転させた。液相が透明になる一方で、繊維は青みがかった黒色となって、繊維がヨウ素を活発に吸収したことを示した。次に、ヨウ素/ヨウ化物溶液のアリコート2mLを加えて、液相が青みがかった黒色から変化して透き通るまで、添加する毎にバイアル瓶を動転させた。液相が淡い茶褐色のままとなるまで、これらアリコートを添加し続けた。こうなるまでに、400mgの乾燥した繊維は合計26mLのヨウ素/ヨウ化物溶液に晒された。
【0185】
次にヨウ素飽和繊維の抗菌活性を、前述の阻止帯試験を用いて試験した。阻止帯は、黄色ブドウ球菌と緑膿菌のどちらの場合もヨウ素飽和繊維の周囲に見られたが、前記阻止帯は黄色ブドウ球菌(1〜2.5cm)の方が緑膿菌(0.5〜1cm)よりも大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)前駆体組成物の総重量に対して少なくとも5重量%の極性溶媒、及び
b)フリーラジカル重合が可能でありかつモノマー1分子当たりのエチレン性不飽和基の平均数が1.0を超え、前記極性溶媒と混和する重合性材料、
を含む前駆体組成物を提供する工程と、
前記前駆体組成物の流れを形成する工程と、
前記重合性材料を少なくとも部分的に重合させるために十分な時間、及び3:1を超えるアスペクト比を有する第1の膨潤した高分子繊維を形成するために十分な時間、前記流れを放射線に曝露する工程と、
を含む高分子繊維の製造方法。
【請求項2】
前記重合性材料が、モノマー1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の平均数が少なくとも2であるポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が2000g/モル以下の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の膨潤した繊維から前記極性溶媒の少なくとも一部を除去することで、乾燥した繊維を形成する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体組成物が活性剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記活性剤が生物活性剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体組成物が光開始剤を更に含み、前記放射線が化学線を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の膨潤した繊維から前記極性溶媒の少なくとも一部を除去することで、乾燥した繊維を形成する工程と、
前記乾燥した繊維が、少なくとも1つの活性剤を含む前記ソルベートの少なくとも一部を収着して第2の膨潤した高分子繊維を形成するのに十分な時間、前記乾燥した繊維をソルベートに接触させる工程と、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が更に、前記第2の膨潤した高分子繊維を乾燥させる工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒、及び
b)前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料であって、フリーラジカル重合が可能であり、極性溶媒と混和し、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル官能基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を含む、前記重合性材料、
を含む前駆体組成物を供給する工程と、
前記前駆体組成物の流れを形成する工程と、
前記重合性材料を少なくとも部分的に重合させるために十分な時間、及び3:1を超えるアスペクト比を有する第1の膨潤した高分子繊維を形成するために十分な時間、前記流れを放射線に曝露する工程と、
を含む、高分子繊維を含む物品の調整方法。
【請求項11】
前記第1の膨潤した繊維から前記極性溶媒の少なくとも一部を除去することで、乾燥した繊維を形成する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記前駆体組成物が、前記重合性材料の重量に対して1重量%未満のアニオン性モノマーを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)が2000g/モル未満の重量平均分子量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体組成物が活性剤を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記活性剤が生物活性剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記前駆体組成物が光開始剤を更に含み、及び前記放射線が化学線を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の膨潤した繊維から前記極性溶媒の少なくとも一部を除去することで、乾燥した繊維を形成する工程と、
前記乾燥した繊維が活性剤を含む前記ソルベートの少なくとも一部分を収着して第2の膨潤した高分子繊維を形成するのに十分な時間、前記乾燥した繊維をソルベートに接触させる工程と、
を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記活性剤がエチレン性不飽和基と光開始剤とを含み、前記方法が更に、前記第2の膨潤した高分子繊維を化学線に曝露する工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の膨潤した高分子繊維を乾燥させる工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
アスペクト比が3:1を超える高分子繊維を含む物品であって、前記高分子繊維が、前駆体組成物のフリーラジカル重合反応生成物を含み、前記前駆体組成物が、
a)前記前駆体組成物の総重量に対して5重量%〜85重量%の極性溶媒、及び
b)前記前駆体組成物の総重量に対して15重量%〜95重量%の重合性材料を含み、前記重合性材料が、フリーラジカル重合が可能であり、極性溶媒と混和し、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル官能基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を含む、物品。
【請求項21】
アスペクト比が3:1を超える高分子繊維を含む物品であって、前記高分子繊維が、
a)フリーラジカル重合が可能な、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有しかつ少なくとも5個のアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド(メタ)アクリレート)を含む、重合性材料を含んだ前駆体組成物のフリーラジカル重合反応生成物と、
b)活性剤と、
を含む物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−519427(P2010−519427A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550962(P2009−550962)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/053290
【国際公開番号】WO2008/103561
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】