説明

高分子電解質とそれを用いた電解質フィルムおよび電気化学素子

【課題】 イオン伝導性に優れる高分子電解質と電解質フィルムとを提供する。また、特性に優れる電気化学素子を提供する。
【解決手段】 以下の化学式(1)によって示される第1のモノマーと、以下の化学式(2)によって示される第2のモノマーとを含むモノマー群を重合させて得た共重合体と、イオン種とを含む高分子電解質とする。




上記式において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、CH3、C25またはC37であり、nは、1以上25以下の自然数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質とそれを用いた電解質フィルムおよび電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの電気化学素子(以下、単に「素子」ともいう)に用いる電解質として、高分子電解質の開発が進められている。高分子電解質は、ベースとなる高分子に、電気化学反応を担うイオン種を分散させた構造を有しており、通常、膜やゲルなどの固体電解質として素子に用いられる。このため、高分子電解質を用いた素子は、一般的な電解質溶液(例えば、リチウム塩などの電解質塩を非水溶媒に溶解させた溶液)を用いた素子に比べて、液漏れの心配がなく、安全性に優れている。また、素子形状の自由度が高く、情報・携帯機器に用いる電源への応用が期待されている。
【0003】
ベースとなる高分子には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル類が多く用いられており、例えば、特許文献1には、オリゴオキシエチレン側鎖を有するポリエーテル共重合体をベースとする高分子電解質が開示されている。
【特許文献1】特開平9−324114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これら高分子電解質のイオン伝導率は、電解質溶液に比べて、特に室温付近において小さく、充放電時に高い電流密度が要求される二次電池に用いるためには、イオン伝導率の向上が必須である。
【0005】
そこで本発明は、イオン伝導性に優れる高分子電解質と電解質フィルムとを提供することを目的とする。本発明は、また、特性に優れる電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の高分子電解質は、以下の化学式(1)によって示される第1のモノマー(モノマーA)と、以下の化学式(2)によって示される第2のモノマー(モノマーB)とを含むモノマー群を重合させて得た共重合体と、イオン種とを含むことを特徴としている。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

上記式において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、CH3、C25またはC37であり、nは、1以上25以下の自然数である。
【0009】
本発明の電解質フィルムは、上述した本発明の高分子電解質を含んでいる。
【0010】
本発明の電気化学素子は、一対の電極と、前記一対の電極によって狭持された電解質とを含む電気化学素子であって、前記電解質が、上述した本発明の高分子電解質であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来とは異なる組成を有する共重合体を含むことにより、イオン伝導性に優れる高分子電解質と電解質フィルムとを提供できる。また、このような高分子電解質を用いることにより、特性に優れる電気化学素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
最初に、本発明の高分子電解質について説明する。
【0013】
本発明の高分子電解質は、以下の化学式(4)によって示される構造単位A、および、以下の化学式(5)によって示される構造単位Bを含む共重合体と、イオン種とを含んでいる。このような高分子電解質は、イオン伝導性に優れている。
【0014】
−構造単位A−
【化4】

式(4)において、R6は、HまたはCH3であり、R7は、CH3またはC25であり、nは、1以上25以下の自然数である。共重合体における上記nは、一般的な手法、例えば、共重合体を加水分解した後に、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)測定および/またはNMR(核磁気共鳴)測定を行うことなどにより求めることができるが、共重合体に含まれる複数の構造単位A間のバラツキを反映し、平均値として測定されるため、上記nの測定値は必ずしも自然数にならない。
【0015】
−構造単位B−
【化5】

式(5)において、R8は、CH3、C25またはC37である。
【0016】
本発明の高分子電解質がイオン伝導性に優れる理由は明確ではないが、共重合体が構造単位Bを含むことにより、構造単位Aにおける側鎖の運動性が向上したり、共重合体の極性が、イオン種の移動により適した状態へ変化したりするためではないかと考えられる。また、製造方法の説明において後述するが、従来の高分子電解質に比べて、高分子電解質に残留する未反応モノマーの量が減少している可能性がある。未反応モノマーの量が減少すると、未反応モノマーに吸着されるイオン種の量が減るため、高分子電解質のイオン伝導性が向上すると考えられる。また、構造単位Bは、ビニル化合物であるモノマーBの重合により形成された構造単位であるため、強度や粘弾性などの力学的特性に優れる高分子電解質とすることができる。
【0017】
構造単位Aは、モノマーA((メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル)の重合により形成された構造単位であり、nが、3以上15以下の自然数であることが好ましい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」の表記は、アクリル酸(モノマーAでは、R1=H)またはメタクリル酸(モノマーAでは、R1=CH3)を意味している。後述する「(メタ)アクリレート」についても同様に、アクリレートまたはメタクリレートを意味している。
【0018】
構造単位Bでは、R8がCH3である(即ち、モノマーBが酢酸ビニルである)ことが好ましい。R8がCH3である場合、共重合体の重合性や、共重合体とイオン種との相溶性をより向上でき、また、強度や粘弾性など、高分子電解質としての力学的特性をより向上できる。
【0019】
共重合体が含む構造単位Aと構造単位Bとの比は、特に限定されず、構造単位AおよびBの重量比を「構造単位A:構造単位B」で示した場合、例えば、60:40〜99.9:0.1の範囲であればよく、80:20〜99:1の範囲であることが好ましい。構造単位Aに対する構造単位Bの量が過小あるいは過剰になると、高分子電解質のイオン伝導性が低下する傾向を示す。
【0020】
共重合体の平均分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量(Mw)にして、1万〜300万の範囲であればよく、5万〜100万の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の高分子電解質が含むイオン種は、共重合体を介して輸送される種(高分子電解質として伝導性を有する種)であれば特に限定されず、例えば、リチウムイオンであればよい。イオン種がリチウムイオンである場合、本発明の高分子電解質は、リチウム一次/二次電池やキャパシタなどに用いることができる。なお、高分子電解質は、通常、上記イオン種のカウンターイオンを含んでいる。
【0022】
高分子電解質が含むイオン種の量は、特に限定されない。イオン種がリチウムイオンである場合、共重合体の重量aに対するリチウムの重量bの比(b/a)の値は、0.01≦b/a≦10の範囲であることが好ましく、0.02≦b/a≦2の範囲がより好ましい。b/aの値が小さすぎる場合は、イオン種の欠乏によって、また、b/aの値が大きすぎる場合は、過剰なイオン種が、カウンターイオンと共に電解質塩として析出したり、イオン会合を起こしたりすることによって、高分子電解質のイオン伝導性が低下する傾向を示す。
【0023】
共重合体は、構造単位AおよびB以外の構造単位(構造単位C)を含んでいてもよい。構造単位Cの組成を適宜選択することによって、イオン伝導性および/または力学的特性がより向上した高分子電解質としたり、共重合体の結晶化を抑制したりできる。
【0024】
構造単位Cは、例えば、ビニルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、N−ビニルピロリドン、ビニルブチルエーテル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラン、アクリロニトリル、オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、および、ジオキソラン基含有(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種の化合物の重合により形成された構造単位であればよい。なかでも、構造単位Cが、以下の化学式(6)によって示されることが好ましい。式(6)によって示される構造単位は、後述する化学式(3)によって示されるビニレンカーボネートの重合により形成された構造単位であり、ビニレンカーボネート構造が有する極性や立体構造の効果などにより、高分子電解質のイオン伝導性をより向上できる。
【0025】
【化6】

式(6)において、R9およびR10は、互いに独立して、H、CH3またはC25である。
【0026】
共重合体に含まれる構造単位Cの量は、50重量%以下が好ましい。共重合体における構造単位Cの量が過剰になると、高分子電解質のイオン伝導性が低下する傾向を示す。
【0027】
本発明の高分子電解質の形態や構成などは、特に限定されず、例えば、膜状(フィルム状)であってもよいし、ゲル状であってもよい。膜状あるいはゲル状の高分子電解質は、固体電解質として扱うことができるため、取り扱い性や、電気化学素子に用いた場合の素子の安全性に優れている。膜状の高分子電解質は、電解質フィルムであるともいえる。
【0028】
本発明の高分子電解質は、共重合体を支持する支持体をさらに含んでいてもよく、強度などの力学的特性を向上できる。支持体を含む場合、支持体の片側あるいは両側の主面に共重合体が配置されていればよい。支持体が多孔質である場合、支持体の内部の空孔に共重合体が配置されていてもよい。
【0029】
支持体には、例えば、不織布や多孔質フィルムを用いればよい。具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などからなる不織布や、PP、PE、エチレン−プロピレン共重合体などからなる多孔質フィルムを用いればよい。支持体の形状は、特に限定されない。
【0030】
本発明の高分子電解質は、共重合体およびイオン種が溶媒に溶解した溶液であってもよい。溶液状の高分子電解質は、例えば、電極などの基板上に塗布した後に溶媒を除去することによって、あるいは、多孔質の支持体に含浸させることによって、膜状の高分子電解質として電気化学素子に用いることができる。
【0031】
本発明の高分子電解質は、必要に応じ、共重合体およびイオン種以外の材料を含んでいてもよく、例えば、絶縁性を有するポリマー粒子や無機粒子を含んでいてもよい。これらの粒子は、高分子電解質が用いられる環境(例えば、二次電池内)において、溶解しないことが好ましい。粒子の種類を適宜選択することによって、強度などの力学的特性を向上できたり、高分子電解質を狭持する電極間の短絡抑制効果を高めたり、膜状の高分子電解質とする場合に、その膜厚をより均一にできる。無機粒子の種類は特に限定されないが、絶縁性であり、高分子電解質に含まれるイオン種と実質的に化学反応しない無機粒子が好ましい。具体的には、アルミナ粒子、シリカ粒子などを用いればよく、高分子電解質内における安定性の観点からは、アルミナ粒子を用いることが好ましい。ポリマー粒子としては、例えば、架橋ポリスチレン粒子や、ポリ4フッ化エチレン粒子などを用いればよい。
【0032】
これらの粒子のサイズは、平均粒径にして、例えば、5μm〜100μm程度の範囲であればよく、高分子電解質に含まれる上記粒子の量は、共重合体100重量部に対して、10重量部〜500重量部程度の範囲であればよい。
【0033】
また例えば、本発明の高分子電解質は、絶縁性かつ上記イオン種の伝導性を有する溶液(あるいは、上記イオン種を含むことにより、上記イオン種の伝導性を発現できる溶媒)を含んでいてもよく、この場合、イオン伝導性をより向上できる。イオン種がリチウムイオンである場合、例えば、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテルなど、リチウムイオンを含むことによりリチウムイオン伝導性を発現できる非水溶媒を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の高分子電解質は、以下の化学式(1)によって示される第1のモノマー(モノマーA)と、以下の化学式(2)によって示される第2のモノマー(モノマーB)とを含むモノマー群を重合させて共重合体を形成することにより、製造すればよい。
【0035】
−モノマーA−
【化1】

式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、nは、1以上25以下の自然数である。モノマーAにおける上記nは、上述した構造単位Aの場合と同様に、一般的な手法(例えば、GPC測定および/またはNMR測定)により求めることができるが、複数のモノマーA間のバラツキを反映し、平均値として測定されるため、上記nの測定値は必ずしも自然数にならない。
【0036】
−モノマーB−
【化2】

式(2)において、R3は、CH3、C25またはC37である。
【0037】
換言すれば、本発明の高分子電解質は、上記モノマーAと上記モノマーBとを含むモノマー群を重合させて得た共重合体と、イオン種とを含んでいる。
【0038】
このような製造方法とすることによって、イオン伝導性に優れる高分子電解質が得られる理由は明確ではないが、重合時におけるモノマーBの存在により、モノマーA同士の重合や、モノマーAとBとの重合など、モノマー群に含まれるモノマーAの重合反応が促進されるためではないかと考えられる。モノマーAの重合が促進されれば、高分子電解質に残留する未反応モノマーAの量を低減できる。また、未反応のモノマーBは、未反応のモノマーAに比べて、重合時あるいは重合後に揮発しやすく、この傾向は、モノマーAにおけるnの値が大きいほど顕著である。即ち、モノマーBを含むモノマー群を共重合させることにより、高分子電解質に残留する未反応モノマーの量が低減でき、イオン伝導性に優れる高分子電解質が得られると考えられる。また、モノマーBとしてビニル化合物を共重合させるため、強度や粘弾性などの力学的特性に優れる高分子電解質を得ることができる。
【0039】
モノマーAは、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルであり、nが、3以上15以下の自然数であることが好ましい。モノマーBはビニル化合物の1種であり、R3がCH3である(モノマーBが酢酸ビニルである)ことが好ましい。モノマーBが酢酸ビニルである場合、モノマー群の重合性をより向上できる。
【0040】
モノマーAおよびBを含むモノマー群を共重合させる方法は特に限定されず、一般的なラジカル重合の手法を用いればよい。具体的には、例えば、溶液ラジカル重合法により、モノマーAおよびBを含むモノマー群を共重合させればよい。
【0041】
溶液ラジカル重合は一般的な手順に従って行えばよく、例えば、モノマーAおよびBを含むモノマー群と、重合溶媒と、重合開始剤とを混合し、モノマー群を共重合させればよい。モノマー群に含まれる各モノマー、重合溶媒および重合開始剤を混合する順序は、適宜設定すればよく、全てを一括して混合してもよいし、重合開始剤を含む重合溶媒にモノマーを滴下させ、重合反応を進めながら混合してもよい。また、モノマーAと重合溶媒と重合開始剤とを最初に混合し、モノマーAの重合がある程度進行した後に、モノマーBをさらに混合してもよい。モノマーAをある程度重合させた後にモノマーBを混合する方法を用いた場合、モノマーの種類によっては、組成の偏りに基づくマトリクス構造を有する共重合体を形成できる場合があり、この場合、粘弾性など、高分子電解質としての力学的特性を向上できる。重合は、不活性ガス雰囲気下において、モノマーおよび重合開始剤をラジカル発生温度に加熱したり、モノマーおよび重合開始剤に紫外線を照射したりして開始すればよい。
【0042】
重合溶媒は、ラジカル重合に一般的に使用される溶媒であればよく、例えば、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、メタノールなどを用いればよい。重合開始剤についても同様に、ラジカル重合に一般的に使用される開始剤であればよく、例えば、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物系開始剤や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ系開始剤を用いればよい。混合する重合開始剤の量は、モノマー100重量部に対して、通常、0.01重量部〜5重量部程度の範囲である。
【0043】
また、モノマーAおよびモノマーBを含む溶液状のモノマー群を基板(紫外線透過性を有するフィルムが好ましい)の表面に塗布し、紫外線を照射することにより、共重合させてもよい。共重合させた後に基板を除去すれば、膜状の高分子電解質を得ることができる。
【0044】
モノマー群に含まれるモノマーAとモノマーBとの重量比は、特に限定されず、上記比を「モノマーA:モノマーB」で示した場合、例えば、60:40〜99.9:0.1の範囲であればよく、80:20〜99:1の範囲であることが好ましい。モノマーAに対するモノマーBの量が過小あるいは過剰になると、得られた高分子電解質のイオン伝導性が低下する傾向を示す。
【0045】
本発明の高分子電解質にはイオン種が含まれているが、イオン種は、高分子電解質の製造工程における任意の時点において加えればよい。予めイオン種を加えたモノマー群(モノマーA、モノマーBおよびイオン種を含むモノマー群)を共重合させてもよいし、モノマーAおよびBを含むモノマー群を重合させて共重合体を形成した後に、形成した共重合体とイオン種とを混合してもよい。基板の表面に溶液状のモノマー群を塗布し、紫外線を照射する方法では、予めイオン種を加えたモノマー群を用いることが好ましい。
【0046】
イオン種を含むモノマー群を共重合させる方法は特に限定されず、例えば、溶液ラジカル重合法により、モノマー群を共重合させればよい。その際、溶液ラジカル重合法に関する上述の説明と同様に、モノマー群に含まれる各モノマー、重合溶媒、重合開始剤およびイオン種を混合する順序は、適宜設定すればよい。
【0047】
重合後の共重合体にイオン種を混合する方法は特に限定されず、例えば、溶液ラジカル重合法によって得られた共重合体溶液に、イオン種を混合すればよい。
【0048】
混合するイオン種の形態は特に限定されず、例えば、イオン種を含む塩を用いればよい。上述したようにイオン種は特に限定されないが、イオン種がリチウムイオンである場合、リチウム塩を用いればよい。具体的には、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、リチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22)などを用いればよい。混合するイオン種の量は、高分子電解質として必要なイオン種の量に応じて設定すればよい。
【0049】
モノマー群は、モノマーAおよびB以外のモノマー(モノマーC)を含んでいてもよい。換言すれば、モノマーA、BおよびCを共重合させて、高分子電解質を得てもよい。モノマーCの種類を適宜選択することによって、イオン伝導性および/または力学的特性がより向上した高分子電解質を得たり、形成する共重合体の結晶化を抑制したりできる。モノマー群が含むモノマーCの量は、共重合体として必要な構造単位Cの量に応じて設定すればよく、通常、モノマー群に含まれるモノマー全体の30重量%以下が好ましい。
【0050】
モノマーCは、モノマーAと共重合できる限り特に限定されず、例えば、ビニルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、N−ビニルピロリドン、ビニルブチルエーテル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラン、アクリロニトリル、オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、および、ジオキソラン基含有(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であればよい。なかでも、モノマーCが、以下の化学式(3)によって示されるビニレンカーボネートであることが好ましい。この場合、式(3)に示すビニレンカーボネートの極性や立体構造の効果などにより、イオン伝導性がより向上した高分子電解質を得ることができる。
【0051】
【化3】

式(3)において、R4およびR5は、互いに独立して、H、CH3またはC25である。
【0052】
重合によって得られた高分子電解質は、上述したように、任意の形態や構成とすることができるが、各形態および構成とする方法は、特に限定されない。例えば、溶液ラジカル重合法によって得られた溶液状の高分子電解質を、基板の表面に塗布した後に、溶媒を除去することにより、膜状の高分子電解質(電解質フィルム)としてもよい。このとき、基板と電解質フィルムとを剥離する必要がある場合には、剥離性を有するように、基板の表面が処理されていることが好ましい。溶液状の高分子電解質を多孔質の支持体に含浸させた後に、溶媒を除去することにより(あるいは溶媒を残留させた状態で)、支持体を含む膜状の高分子電解質(電解質フィルム)としてもよい。得られた電解質フィルムを、一対の電極によって狭持すれば、電気化学素子を形成できる。
【0053】
また、溶液状の高分子電解質を電極の表面に塗布した後に溶媒を除去することによっても、膜状の高分子電解質を形成でき、電気化学素子を形成できる。
【0054】
本発明の高分子電解質は、共重合体およびイオン種以外の材料を含んでいてもよいが、これらの材料は、高分子電解質の製造工程における任意の時点で加えればよい。なお、本発明の高分子電解質を製造する際には、共重合体を精製する工程など、必要に応じて任意の工程を行ってもよい。
【0055】
次に、本発明の電気化学素子について説明する。
【0056】
本発明の電気化学素子は、一対の電極と、前記一対の電極によって狭持された本発明の高分子電解質とを含んでいる。本発明の高分子電解質がイオン伝導性に優れることから、特性(例えば、放電特性)に優れる電気化学素子とすることができる。
【0057】
本発明の電気化学素子の具体的な構成は特に限定されない。正極および負極の構成、高分子電解質に含まれるイオン種などを選択することによって、一次電池、二次電池、キャパシタ、センサーなどを構成できる。
【0058】
図1に、本発明の電気化学素子の一例を示す。図1に示す電気化学素子1は、コイン型のリチウム二次電池である。電気化学素子1は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる負極活物質4を含む負極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる正極活物質6を含む正極と、正極および負極によって狭持された高分子電解質2とを含んでいる。ここで、高分子電解質2は、上述した本発明の高分子電解質であり、イオン種としてリチウムイオンを含み、リチウムイオン伝導性を有している。正極活物質6は、正極集電体5上に配置されており、負極活物質4は、負極集電体3上に配置されている。負極集電体3は、負極端子を兼ねた封口板8と電気的に接続され、正極集電体5は、正極端子を兼ねたケース7と電気的に接続されている。ケース7と封口板8とは、絶縁性のガスケット9により固定されており、正極、負極および高分子電解質2は、ケース7の内部に密閉されている。
【0059】
高分子電解質2を除き、電気化学素子1が備える各部材には、リチウム二次電池として一般的な材料を用いればよい。負極活物質4には、例えば、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金、リチウム−スズ合金、リチウム−鉛合金、リチウム−ビスマス合金、リチウム−ガリウム合金、リチウム−亜鉛合金、リチウム−カドミニウム合金、リチウム−ケイ素合金、リチウム−カルシウム合金、リチウム−バリウム合金、および、リチウム−ストロンチウム合金などの合金類、酸化鉄、酸化スズ、酸化ニオビウム、酸化タングステンおよび酸化チタンなどの酸化物、コークス、黒鉛および有機物焼成体などの炭素材料を用いればよい。正極活物質6には、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物、LiMn24などのリチウムマンガン酸化物、LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物、LiNiO2のNiをCoにより一部置換したLiNiCoO2、二酸化マンガン、五酸化バナジウムおよびクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化チタンおよび二硫化モリブデンなどの金属硫化物などを用いればよく、LiNiO2、LiNiCoO2およびLiMn24から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0060】
正極および負極は、集電体および活物質以外に、必要に応じて、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなどからなる導電剤や、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどからなる結着剤を含んでいてもよい。
【0061】
電気化学素子1は、リチウム二次電池の一般的な製造方法により、形成できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0063】
本実施例では、高分子電解質サンプルを11種類(実施例サンプル10種類、比較例サンプル1種類)作製し、その特性(動的弾性率、リチウムイオン伝導率およびリチウムイオン輸率)を評価した。
【0064】
最初に、各電解質サンプルの作製方法を示す。
【0065】
−サンプル1−
窒素ガス雰囲気下において、モノマーAとしてメタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約8.0:平均分子量454:シグマ−アルドリッチ社製)160gと、モノマーBとして酢酸ビニル(式(2)におけるR3=CH3)40gと、重合溶媒として酢酸エチル300gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3gとを混合し、得られた混合物を60℃で8時間撹拌した後に、80℃で3時間さらに撹拌して、モノマーAおよびBをラジカル共重合させた。重合は、酢酸エチルを適宜加えることにより、混合物の粘度を調整しながら行った。このようにして、モノマーAおよびBの共重合体の酢酸エチル溶液(共重合体濃度25重量%)を得た。得られた共重合体の重量平均分子量を、別途、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)により測定したところ、約23万であった。重量平均分子量は、他のサンプルにおいても同様に測定した。
【0066】
次に、作製した共重合体溶液に、イオン種としてリチウムトリフルオロメタンスルホン酸イミド(LiN(CF3SO22:キシダ化学社製)を、共重合体100重量部に対して5重量部加え、60℃で撹拌して、溶液中に分散させた。得られた溶液をシャーレに展開し、支持体としてポリエチレン製多孔質フィルム(厚さ25μm、空孔率50%、平均孔径0.1μm)を溶液に浸漬した。浸漬後、溶媒である酢酸エチルを、80℃で3時間乾燥した後に、60℃で12時間真空乾燥して除去し、支持体を含む膜状の高分子電解質であるサンプル1(厚さ40μm)を得た。
【0067】
−サンプル2−
上記のようにして作製したサンプル1を、リチウムイオンの存在により、リチウムイオン伝導性を発現する非水溶媒であるアセトニトリルに浸漬し、浸漬後、直ちに取り出し、サンプル2とした。
【0068】
−サンプル3−
支持体を浸漬させない以外は、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル3(厚さ35μm)を作製した。ただし、溶媒である酢酸エチルは、23℃で24時間乾燥した後に70℃で3時間乾燥し、60℃で12時間真空乾燥して除去した。
【0069】
−サンプル4−
モノマーAとしてメタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約8.0:平均分子量454:シグマ−アルドリッチ社製)190gを、モノマーBとして酢酸ビニル(式(2)におけるR3=CH3)10gを用いた以外は、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル4(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約18万であった。
【0070】
−サンプル5−
モノマーAおよびB以外に、モノマーAおよびBと共重合するモノマーCとして、式(3)に示すビニレンカーボネート(シグマ−アルドリッチ社製:R4=H、R5=H)10gをさらに加えた以外は、サンプル4と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル5(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約18万であった。
【0071】
−サンプル6−
最初にモノマーAのみをラジカル重合させ、モノマーBである酢酸ビニルを、モノマーAの重合開始から6時間経過後に、モノマーA、モノマーAの重合体および重合溶媒を含む混合物に加えた以外は、サンプル4と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル6(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約18万であった。
【0072】
−サンプル7−
モノマーAとして、アクリル酸トリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=H、R2=CH3、および、n(平均値)=3:大阪有機化学工業社製)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル7(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約35万であった。
【0073】
−サンプル8−
イオン種を加えた共重合体溶液に、無機粒子としてアルミナ粒子(平均粒径20μm、最大粒径32μm)を、共重合体100重量部に対して50重量部加えた以外は、サンプル4と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル8(厚さ45μm)を作製した。ただし、共重合体溶液には支持体を浸漬させず、溶媒である酢酸エチルは、サンプル3と同様の条件により除去した。
【0074】
−サンプル9−
モノマーAとして、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約8.0:平均分子量454:シグマ−アルドリッチ社製)100gと、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約23:平均分子量1100:シグマ−アルドリッチ社製)60gとを用いた以外は、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル9(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約18万であった。
【0075】
−サンプル10−
モノマーAとして、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約8.0:平均分子量454:シグマ−アルドリッチ社製)100gと、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約4.6:平均分子量300:シグマ−アルドリッチ社製)60gとを用いた以外は、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプル10(厚さ40μm)を作製した。なお、得られた共重合体の重量平均分子量は、約20万であった。
【0076】
−サンプルA(比較例)−
モノマーBを用いることなく、モノマーAとして、メタクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(式(1)におけるR1=R2=CH3、および、n(平均値)=約8.0:平均分子量454:シグマ−アルドリッチ社製)200gを用いた以外は(即ち、モノマーAのみの重合体を形成した以外は)、サンプル1と同様にして、膜状の高分子電解質であるサンプルA(厚さ40μm)を作製した。なお、得られたモノマーAの重合体の重量平均分子量は、約22万であった。
【0077】
このようにして準備した高分子電解質について、その弾性率(動的粘弾性測定による動的弾性率)、リチウムイオン伝導率およびリチウムイオン輸率を評価した。評価方法を以下に示す。
【0078】
−動的弾性率測定−
動的粘弾性測定装置(DMS:セイコーインスツルメンツ社製)を用い、温度25℃において、高分子電解質に周波数10Hzのずり成分を印加して粘弾性特性を求めた。次に、得られた粘弾性特性から、一般的な解析手法を用い、動的弾性率を算出した。
【0079】
−リチウムイオン伝導率測定−
作製した膜状の高分子電解質サンプルを、アルゴン雰囲気下において、一対の白金電極によって狭持し、50℃で14日間保存した後、インピーダンス測定装置(263Aポテンショスタット+5210アンプ:プリンストン アプライド リサーチ社製)を用い、温度23℃にて、複素インピーダンス解析法により実数インピーダンス成分R(Ω)を求めた。高分子電解質のリチウムイオン伝導率σ(S/cm)は、インピーダンス成分R(Ω)、高分子電解質の厚さd(cm)、および、白金電極と高分子電解質とが接触している面積A(cm2)から、式σ=d/(R・A)により求めた。
【0080】
−リチウムイオン輸率測定−
作製した膜状の高分子電解質サンプルを用い、図1に示すようなコイン型(2032型)のリチウムセルを作製した。具体的には、直径15mm、厚さ1mmのリチウム金属板を電極として使用し、この電極間に、各高分子電解質サンプルを挟み込んでリチウムセルを作製した。集電体には、アルミネットを用いた。
【0081】
このようにして準備したリチウムセルに、Δ10mVの交流電圧(周波数:10mHz〜100kHzで連続的に変化)を印加し、複素インピーダンス解析法により、電解質のバルク抵抗Rbと、界面抵抗Reとを求めた。次に、リチウムセルに10mVの直流電圧を印加し、セルを流れる電流の経時変化を測定して、初期電流値I(0)と、定常電流値I(∞)とを求めた。高分子電解質のリチウムイオン輸率t+は、式t+=[I(∞)・{ΔV−I(0)・Re}]/[I(0)・{ΔV−I(∞)・Re}]により求めた。なお、測定は、アルゴンガス雰囲気下(アルゴンを充填したグローブボックス中)において、23℃にて行った。
【0082】
各電解質サンプルに対する評価結果を、以下の表1および表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

表1および表2に示すように、実施例であるサンプル1〜10では、比較例であるサンプルAに比べて、リチウムイオン伝導率が向上した。リチウムイオン輸率に関しては、サンプル9がサンプルAとほぼ同等であったものの、サンプル9以外の実施例サンプルにおいて、サンプルAに比べて向上する結果となった。サンプル9のイオン輸率の値がサンプルAと同等であった理由は明確ではないが、モノマーAの分子量が他のサンプルの分子量よりも大きい(式(1)におけるn(平均値)の値が約23)ことが原因として考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、イオン伝導性に優れる高分子電解質と電解質フィルムとを提供できる。本発明によれば、上記高分子電解質を用いることによって、特性に優れる電気化学素子を提供できる。本発明の高分子電解質は、一次電池、二次電池、キャパシタ、センサーなど、各種の電気化学素子に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の電気化学素子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0087】
1 電気化学素子(リチウム二次電池)
2 高分子電解質
3 負極集電体
4 負極活物質
5 正極集電体
6 正極活物質
7 ケース
8 封口板
9 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)によって示される第1のモノマーと、以下の化学式(2)によって示される第2のモノマーとを含むモノマー群を重合させて得た共重合体と、
イオン種とを含むことを特徴とする高分子電解質。
【化1】

【化2】

上記式において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC25であり、R3は、CH3、C25またはC37であり、nは、1以上25以下の自然数である。
【請求項2】
前記モノマー群における前記第1のモノマーと前記第2のモノマーとの重量比が、60:40〜99.9:0.1の範囲である請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
前記モノマー群が、前記第1および第2のモノマーとは異なる第3のモノマーをさらに含む請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項4】
前記第3のモノマーが、以下の化学式(3)によって示される請求項3に記載の高分子電解質。
【化3】

上記式において、R4およびR5は、互いに独立して、H、CH3またはC25である。
【請求項5】
前記イオン種が、リチウムイオンである請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質を含む電解質フィルム。
【請求項7】
一対の電極と、
前記一対の電極によって狭持された電解質とを含む電気化学素子であって、
前記電解質が、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質であることを特徴とする電気化学素子。
【請求項8】
前記一対の電極が、前記高分子電解質に含まれるイオン種を可逆的に吸蔵および放出できる正極および負極であり、
前記イオン種が、リチウムイオンである請求項7に記載の電気化学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−219561(P2006−219561A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33187(P2005−33187)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】