説明

高分子電解質膜、その積層体、及びそれらの製造方法

【課題】製膜工程でのハンドリング性を改善し、且つ、製膜後の表面処理を不要とするために、電解質膜表面の第一面と第二面の表面の水に対する濡れ性の差が大きい、即ち接触角の差が大きい高分子電解質膜、その積層体、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】膜表面の水に対する接触角の小さい側を第一面、該接触角の大きい側を第二面としたときに、第一面と第二面の表面の接触角の差が30°より大きいイオン伝導性高分子電解質膜を製造する。当該製造方法は、主鎖及び/又は側鎖に芳香族基を有し、且つ該芳香族基にイオン交換基を有するイオン伝導性高分子を含む高分子電解質を溶媒に溶解した高分子電解質溶液を調製する工程;及び、該高分子電解質溶液を、支持基材上に流延塗布し、該支持基材上に高分子電解質膜が積層した積層体を形成する工程;を含む。得られた積層体から支持基材を除去することにより、高分子電解質膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜に関する。より詳しくは固体高分子型燃料電池の電解質膜として使用する高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素と酸素の化学的反応により発電させる発電装置であり、次世代エネルギーの一つとして電気機器産業や自動車産業等の分野において大きく期待されている。該固体高分子型燃料電池内の隔膜として従来用いられてきた、ナフィオン(デュポン社の登録商標)に代表されるフッ素系高分子電解質に代わって、耐熱性やガスバリア性に優れる炭化水素系高分子電解質が近年注目されてきている(特許文献1)。
【0003】
炭化水素系高分子電解質膜を工業的に製造するためには、高特性かつ高品質を保持しつつ連続的に製膜していくことが重要である。例えば芳香族系高分子電解質については、溶媒に溶解させて流延塗布後、乾燥せしめる、所謂溶液キャスト法による製膜方法が一般的である(特許文献2〜5)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−93114号公報
【特許文献2】特開2003−031232公報
【特許文献3】特開2004−134225公報
【特許文献4】特開2005−154710公報
【特許文献5】特開2005−216525公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜の製造過程(製膜)に係る前記溶液キャスト法においては、溶液状態で支持基材上に塗布し、溶媒乾燥を行い、更に水中浸漬による溶媒除去を行い、水乾燥を行うといった工程を経て、膜が製造される。このように様々な環境下に晒されることで、高分子電解質膜は膨潤や収縮を繰り返すため、連続的に処理する工程で、高分子電解質膜に皺や傷等を発生させずに製造することが重要となってくる。特に、支持基材と該支持基材上に生成させた高分子電解質膜の密着保持性が低いと、水洗工程において、残存している溶媒の除去効率を向上させるために、水中浸漬時間を比較的長時間とした場合、支持基材と高分子電解質膜とが部分的に剥離して、その剥離部が皺等の発生要因となる恐れがあった。また、このような支持基材と高分子電解質膜との剥離が著しい場合、水洗自体が困難となることがあった。
【0006】
従って本発明では、高分子電解質膜を工業的に製造することに鑑みて、電解質膜表面の基材面側は、水洗工程における水中浸漬時でも基材との剥離等が生じない程度の密着保持性を有し、もう片面側は電極と相互作用し易いような高分子電解質膜を提供することを目的とする。即ち、電解質膜表面の第一面と第二面の表面の水に対する濡れ性の差(水に対する接触角の差)が大きい膜及びそのような電解質膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明は、以下に記載したイオン伝導性高分子電解質膜、当該高分子電解質膜を含む積層体、及び、それらの製造方法を提供するものである。まず、本発明は下記[1]の、積層体の製造方法を提供する。
【0008】
[1]膜表面の水に対する接触角の小さい側を第一面、該接触角の大きい側を第二面としたときに、第一面と第二面の表面の水に対する接触角の差が30°より大きいイオン伝導性高分子電解質膜が、該高分子電解質膜の何れかの面が支持基材と接合した状態で、該支持基材上に積層された積層体を製造する方法であって、
以下の各工程:
主鎖及び/又は側鎖に芳香族基を有し、且つ該芳香族基に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有するイオン伝導性高分子を含む高分子電解質を溶媒に溶解した高分子電解質溶液を調製する工程;及び、
該高分子電解質溶液を、支持基材上に流延塗布し、該支持基材上に高分子電解質膜を積層する工程;
を含むことを特徴とする積層体の製造方法
【0009】
このようにすることにより、溶液キャスト法により高分子電解質膜を製膜する際に、高分子電解質溶液を適切な支持基材の表面に流延することによって、製膜後に表面処理等の後加工を行わなくても、高分子電解質膜の両面に30°より大きい接触角差をもたせることで、前記水洗工程での剥離を十分に防止し、かつ片面側は電極と高度の密着保持性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
【0010】
さらに本発明は、前記[1]に係る好適な実施形態として、下記の[2]、[3]を提供する。
[2]前記支持基材の流延塗布される表面が樹脂により形成されていることを特徴とする[1]に記載の積層体の製造方法
【0011】
[3]前記支持基材が樹脂フィルムであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の積層体の製造方法
【0012】
流延塗布により、高分子電解質膜の支持基材側の接触角を大きくすることが容易な支持基材としては、流延塗布される表面が樹脂で形成された支持基材が適しており、通常は樹脂フィルムが用いられる。
【0013】
また、本発明は前記いずれかの製造方法において、下記の[4]〜[15]を提供する。
[4]前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法
【0014】
[5]前記イオン伝導性高分子が、側鎖を有することを特徴とする[4]に記載の積層体の製造方法
[6]前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法
[7]前記イオン交換基がスルホン酸基であることを特徴とする[4]〜[6]のいずれかに記載の積層体の製造方法
[8] 前記イオン伝導性高分子が、下記一般式(1a)〜(4a)
【0015】

【0016】
(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)
【0017】

【0018】
(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)
から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の積層体の製造方法

(式中、R1及びR2は互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、R1とR2が連結して環を形成していてもよい。)
【0019】
[9]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するポリマーセグメント(A)を一つ以上、及びイオン交換基を実質的に有さないポリマーセグメント(B)を一つ以上有する共重合体である[1]〜[8]のいずれかに記載の積層体の製造方法
[10]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)、及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の積層体の製造方法
【0020】
[11]少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有する高分子電解質膜が得られることを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の積層体の製造方法
[12]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であり、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相とを含むミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜が得られることを特徴とする[1]〜[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法
【0021】
[13]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、イオン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)


(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。Ar9は主鎖を構成する芳香環に直接又は側鎖を介してイオン交換基を有する。)
で表される繰返し構造を有し、且つ、
イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)


(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
で表される繰返し構造から選ばれる1種以上を有することを特徴とする[1]〜[12]のいずれかに記載の積層体の製造方法
【0022】
[14]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)において、イオン交換基が主鎖芳香族環に直接結合していることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかに記載の積層体の製造方法
[15]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)がいずれも、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有さないことを特徴とする[1]〜[14]のいずれかに記載の積層体の製造方法
【0023】
また、本発明は前記いずれかの製造方法から、下記の[16]〜[37]を提供する。
[16]前記[1]〜[15]のいずれかに記載された製造方法により得られた積層体から前記支持基材を除去する工程を含むことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法
[17]前記支持基材の除去後に、高分子電解質膜の前記支持基材と接合していた側の表面を表面処理する工程を含まないことを特徴とする[16]に記載の高分子電解質膜の製造方法
【0024】
[18]前記[1]〜[15]のいずれかに記載された製造方法により得られた積層体
【0025】
[19]前記[16]又は[17]に記載された製造方法により得られた高分子電解質膜
[20]少なくとも1種のイオン伝導性高分子を含む高分子電解質膜であって、該膜表面の水に対する接触角の小さい側を第一面、該接触角の大きい側を第二面としたときに、第二面に表面処理が行われておらず、且つ、第一面と第二面の表面の水に対する接触角の差が30°より大きいことを特徴とするイオン伝導性高分子電解質膜
[21]前記第一面及び前記第二面の両方とも表面処理が行われていないことを特徴とする[20]に記載のイオン伝導性高分子電解質膜
【0026】
[22]該膜の第一面の表面の水に対する接触角が10°以上60°以下であって、第二面の表面の水に対する接触角が60°以上であることを特徴とする[20]又は[21]に記載の高分子電解質膜
[23]該膜の第二面の表面の水に対する接触角が110°以下であることを特徴とする[20]〜[22]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0027】
[24]前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする[20]〜[23]のいずれかに記載の高分子電解質膜
[25]前記イオン伝導性高分子が、側鎖を有することを特徴とする[24]に記載の高分子電解質膜
[26]前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合又は他の原子を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする[20]〜[23]のいずれかに記載の高分子電解質膜
[27]前記イオン交換基がスルホン酸基であることを特徴とする[24]〜[26]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0028】
[28]前記イオン伝導性高分子が、下記一般式(1a)〜(4a)


(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)
から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)


(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族炭素基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)
から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有することを特徴とする[20]〜[27]のいずれかに記載の高分子電解質膜

(式中、R1及びR2は互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、R1とR2が連結して環を形成していてもよい。)
【0029】
[29]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するポリマーセグメント(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないポリマーセグメント(B)からなる、共重合体であることを特徴とする[20]〜[28]のいずれかに記載の高分子電解質膜
[30]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であることを特徴とする[20]〜[28]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0030】
[31]該膜が少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有することを特徴とする[20]〜[30]のいずれかに記載の高分子電解質膜
[32]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であり、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相を含むミクロ相分離構造を有することを特徴とする[20]〜[31]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0031】
[33]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、イオン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)


(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。Ar9は主鎖を構成する芳香環に直接又は側鎖を介してイオン交換基を有する。)
で表される繰返し構造を有し、且つ、
イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)


(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
で表される繰返し構造から選ばれる1種以上とを有することを特徴とする[20]〜[32]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0032】
[34]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)において、イオン交換基が主鎖芳香族環に直接結合していることを特徴とする[20]〜[33]のいずれかに記載の高分子電解質膜
[35]前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が共に、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有さないことを特徴とする[20]〜[34]のいずれかに記載の高分子電解質膜
【0033】
[36]前記[20]〜[35]のいずれかに記載されたイオン伝導性高分子電解質膜が、該高分子電解質膜の第二面が支持基材と接合した状態で、該支持基材上に積層された積層体
[37]前記支持基材の高分子電解質膜と接合した表面が樹脂により形成されていることを特徴とする[36]に記載の積層体
[38]前記支持基材が樹脂フィルムである[36]又は[37]に記載の積層体
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高分子電解質膜の一方の表面は、溶液キャスト法により高分子電解質膜を製膜する際に、高分子電解質膜と支持基材との間に高度の密着保持性が発現されるので、連続製膜工程時のハンドリング性、特に水洗工程において支持基材との剥離を十分防止し得ることを可能とし、優れた積層体の製造方法を提供することができる。
更に本発明により得られる高分子電解質膜の他方の表面、すなわち支持基材面側とは反対側の表面が、燃料電池用電極とのなじみが良いので、燃料電池用電解質膜としての特性に優れており、利用価値が高い。
本発明によって得られる高分子電解質膜が燃料電池用電解質膜として使用される場合は、製膜時に支持基材と接していた水に対する濡れ性の低い第二面を空気極側に使用し、反対側の水に対する濡れ性の高い第一面を燃料極側に使用することにより、空気極側から燃料極側への水分移動を促進することが可能となるので、空気極、電解質膜及び燃料極の水分布を適正化する効果も期待できる。
従って本発明の製造方法により製造された高分子電解質膜は、高機能型の固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜として、工業的に有利な膜となる。
【0035】
また、本発明によれば、連続工程で水洗・乾燥後に支持基材から剥離した膜について、合紙を使用せずに膜単身でブロッキングを生じることなく巻き取ること又は積み重ねることができ、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る高分子電解質膜について具体的に説明する。高分子電解質とは、少なくとも1種のイオン伝導性高分子を含有する電解質樹脂であり、該高分子電解質からなる膜を高分子電解質膜と称する。高分子電解質膜は、イオン伝導性高分子を50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上の割合で含んでいることが好ましい。
イオン伝導性高分子とは、イオン交換基を実質的に有する高分子であって、固体高分子型燃料電池の電解質膜として用いたときに、イオン伝導、特にプロトン伝導に係る基を有する高分子であることを意味する。
【0037】
本発明の高分子電解質膜においてイオン伝導性を担うイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g〜4.0meq/gが好ましく、更に好ましくは1.0meq/g〜2.8meq/gである。イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が0.5meq/g以上であると、イオン伝導性がより高くなり、燃料電池用の高分子電解質としての機能がより優れるので好ましい。一方、イオン交換基導入量を示すイオン交換容量が4.0meq/g以下であると、耐水性がより良好となるので好ましい。
【0038】
本発明の高分子電解質膜は、該膜表面の水に対する接触角が小さい側(すなわち親水性が高い側)を第一面、接触角の大きい側(すなわち親水性が低い側)を第二面とした場合、第一面と第二面の表面の水に対する接触角の差が30°より大きいことを特徴とする。
更に、第一面の表面の水に対する接触角は、好ましくは10°以上60°以下であって、より好ましくは20°以上50°以下である。
第一面の表面の水に対する接触角が10°以上であれば、高分子電解質膜表面の吸水時の形態安定性がより優れるので好ましい。
第一面の表面の水に対する接触角が60°以下であれば、製造した高分子電解質膜と、燃料電池用電極との密着性がより強くなるので好ましい。
また、第二面の表面の水に対する接触角は、好ましくは60°以上であって、より好ましくは70°以上である。第二面の表面の水に対する接触角が60°以上であれば、製造中及び製造後において支持基材との密着性がより優れ、膜を巻物状に巻き取っていく時に膜同士が密着するブロッキングが膜間で生じるおそれが少なくなるので好ましい。
【0039】
また、第二面の表面の水に対する接触角は、好ましくは110°以下であって、より好ましくは100°以下である。第二面の表面の水に対する接触角が110°以下であれば、表面の濡れ性がより大きく、製造した高分子電解質膜と、燃料電池用電極との実用的な密着性が維持される。また、水洗工程において、洗浄水が十分に支持基材の反対の表面から、支持基材に接している表面に十分浸透できるので、実用的な水洗時間で、高分子電解質膜に残存している溶媒の除去を達成することができる。
【0040】
高分子電解質膜の第一面及び第二面の表面の水に対する接触角は、高分子電解質膜への表面処理等の後加工をしていない高分子電解質膜の値である。
表面処理等の後加工処理を施さない膜は、製膜工程の工程数を減らすことができて、工業的に非常に有用である。また、表面処理等を行うと、膜表面が化学的又は物理的な劣化を起こす場合もあり、表面処理等を施さない方が好ましい。
本発明によれば、溶液キャスト法により高分子電解質膜を製膜する際に、高分子電解質溶液を適切な支持基材の表面に流延することによって、製膜後に表面処理等の後加工を行わなくても、高分子電解質膜の両面に30°より大きい接触角差をもたせることができる。すなわち、溶液キャスト法による製膜後に、流延の際に支持基材との接合面となる第二面、及び、流延の際に空気との接触面となる第一面に特別な表面処理を行わなくても、膜の両面に充分な親水性の差をもたせることができる。
【0041】
表面処理等の後加工をしていないということは、流延を含む製膜工程で得られた膜の表面状態が、当該流延工程後に追加的な変化を受けていないということである。
表面処理とは、例えばコロナ処理やプラズマ処理等の親水化処理や、フッ素処理等の撥水化処理等が挙げられる。親水化処理が行われた表面は、通常、親水基が付与されていたり、或いは、微細な凹凸を有する粗面となっている。また、撥水化処理が行われた表面は、通常、撥水基が付与されている。
従って、表面処理が行われていない高分子電解質膜の状態の具体例としては、当該高分子電解質膜が本来有している官能基以外の官能基が表面に付与されていない、或いは、当該高分子電解質膜が本来有している官能基であるが、その存在量が変化していない(官能基の量が増えていない又は減っていない)、あるいは、製膜工程後に意図的に粗面化されていないといった状態が挙げられる。このように表面処理とは、高分子電解質膜に対して不可逆的な変化を生じさせる処理を表す。従って、高分子電解質膜を構成する高分子電解質において、イオン交換反応に係る処理は、イオン交換自体が可逆反応であることから、前記表面処理の範疇には含まれない。
【0042】
本発明の高分子電解質膜を製造する方法として、溶液状態より製膜する方法(いわゆる溶液キャスト法)が特に好ましく使用される。
具体的には、少なくとも一種のイオン伝導性高分子を、必要に応じてイオン伝導性高分子以外の高分子、添加剤等の他の成分と共に適当な溶媒に溶解し、その高分子電解質溶液を、ある特定の基材上に流延塗布(キャスト製膜)し、溶媒を除去することにより製膜されることが好ましい。
高分子電解質溶液を調製する際は、2種以上のイオン伝導性高分子を別々に溶媒に添加したり、或いは、イオン伝導性高分子と他の成分を別々に溶媒に添加するなど、高分子電解質を構成する2種以上の成分を別々に溶媒に添加し、溶解することで、高分子電解質溶液を調製してもよい。
【0043】
製膜に用いる溶媒は、イオン伝導性高分子及び必要に応じて添加される他の成分が溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等がイオン伝導性高分子の溶解性が高く好ましい。
【0044】
本発明で製造する高分子電解質膜を燃料電池に適用する場合、耐酸化性や耐ラジカル性等の化学的安定性を高めるために、本発明の効果を妨げない程度に高分子電解質に化学的安定剤を添加することが好ましい。添加する安定剤としては、酸化防止剤等が挙げられ、例えば特開2003−201403、特開2003−238678及び特開2003−282096の各公報に例示されているような添加剤が挙げられる。あるいは、特開2005−38834及び特開2006−66391の各公報に記載されている下式

(r=1〜2.5、s=0〜0.5、繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)

(r=1〜2.5、s=0〜0.5、繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)
で示されるホスホン酸基含有ポリマーを化学的安定化剤として含有することができる。なお、上式において「−(P(O)(OH)2r」及び「−(Br)s」の表記は、ビフェニリレンオキシ単位当たりに、ホスホン酸基が平均r個あり、ブロモ基が平均s個あることを意味する。
添加する化学的安定剤含有量は全体の20wt%以内が好ましく、それを超えて含有すると、高分子電解質膜の特性が低下する可能性がある。
【0045】
本発明において流延塗布に用いる支持基材は、連続製膜し得る基材を用いるのが好ましい。連続製膜し得る基材とは、巻物として保持できてある程度の湾曲等の外力下でも割れたりせずに耐えうる基材を指す。
【0046】
本発明において流延塗布する基材として、キャスト製膜時の乾燥条件に耐えうる耐熱性や寸法安定性を有するものが好ましく、また上記記載の溶媒に対する耐溶剤性や耐水性を有する樹脂基材、とりわけ樹脂フィルムが好ましい。また、塗布乾燥後に、高分子電解質膜と基材とが強固に接着せず、剥離し得る樹脂基材が好ましい。ここでいう「耐熱性や寸法安定性を有する」とは、高分子電解質を流延塗布後、溶媒除去のために乾燥オーブンを用いて乾燥する場合に、熱変形しないことをいう。また、「耐溶剤性を有する」とは、高分子電解質溶液中の溶媒によって基材(フィルム)自身が実質的に溶け出さないことをいう。また、「耐水性を有する」とは、pHが4.0〜7.0の水溶液中において、基材(フィルム)自身が実質的に溶け出さないことをいう。更に「耐溶剤性を有する」及び「耐水性を有する」とは、溶媒や水に対して化学劣化を起こさないことや、膨潤や収縮を起こさず寸法安定性が良いことも含む概念である。
【0047】
該フィルム表面の水に対する接触角の制御について説明する。該フィルムの表面の濡れ性は、高分子電解質と基材との組み合わせによって決まり、接触角の差として表される。ここで、高分子電解質としては、単独重合体よりも共重合体の方が好ましく、共重合体の中でも、ブロック共重合体を用いるとより好ましい。ブロック共重合体の中でも、ミクロ相分離構造を発現した場合は、特に好ましい。好ましい理由として、例えばミクロ相分離構造では微視的凝集体を有するため、高分子電解質と基材との間で親和性や斥力等の強い相互作用を受けて、接触角が制御されるという仮説が考えられる。
【0048】
適切な支持基材の表面に高分子電解質溶液を流延塗布することにより、高分子電解質と基材との間の相互作用により、得られた塗膜の支持基材側の接触角を、もう片面(空気面側)の接触角よりも大きくすることが容易である。すなわち、高分子電解質膜の支持基材との接合面が、水に対する接触角の大きい第二面となり、当該高分子電解質膜の空気との接触面が、水に対する接触角の小さい第一面となる。
【0049】
流延塗布により、高分子電解質膜の支持基材側の接触角を大きくすることが容易な支持基材としては、流延塗布される表面が樹脂で形成された支持基材が適しており、通常は樹脂フィルムが用いられる。
樹脂フィルムからなる支持基材としては、オレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリイミド系フィルム、フッ素系フィルム等が挙げられる。中でもポリエステル系フィルムやポリイミド系フィルムは、耐熱性、耐寸法安定性、耐溶剤性等に優れるため好ましい。ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル等が挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレートは上記諸特性に留まらず、汎用性やコスト面からも、工業的に好ましい。
【0050】
また、樹脂フィルムは、長く連続した可撓性基材の形態を取りうるので、巻物として保持、利用することができ、高分子電解質膜の連続製膜を行なう場合にも好適に用いられる。
【0051】
基材について、用途に応じて支持基材表面の濡れ性を変え得るような表面処理を施してもよい。ここでいう支持基材表面の濡れ性を変え得る処理とは、コロナ処理やプラズマ処理等の親水化処理や、フッ素処理等の撥水化処理等、一般的手法が挙げられる。
【0052】
以上の製膜工程を経て、支持基材上に高分子電解質膜が積層された積層体が得られる。この積層体は、高分子電解質膜と支持基材との密着保持性が良好なため、製膜工程でのハンドリング性に優れている。例えば、流延と溶媒乾燥の工程後に、膜中の溶媒を完全除去するために積層体を長時間水中浸漬すると、高分子電解質膜が支持基材から剥離しやすいが、本発明で得られる積層体は、高分子電解質膜と支持基材との間に高度な密着保持性を有しているので、このような場合においても、水中浸漬の途中で膜の剥離が発生し難いという利点がある。また、高分子電解質膜の支持基材面と接している側とは反対側の面は、水洗工程において、洗浄水と接触する表面となるので、該洗浄水の膜中への吸水速度が大きくなって、高分子電解質膜に残存する溶媒の除去効率を向上させることも期待できる。
積層体は、そのまま保管、流通させてもよい。支持基材が可撓性基材である場合には、積層体を巻物状の形態で取り扱うこともできる。
【0053】
上記積層体から支持基材を除去することによって、高分子電解質膜が得られる。支持基材は、通常、積層体から剥離することで除去すればよい。
本発明における高分子電解質膜の厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましい。膜厚が10μm以上の膜では実用的な強度がより優れるため好ましく、300μm以下の膜では膜抵抗が小さくなり、電気化学デバイスの特性がより向上する傾向にあるので好ましい。膜厚は、溶液の濃度及び基板上への塗布厚により制御できる。
【0054】
本発明により得られる高分子電解質膜は、製膜後に表面処理等の後加工を行わなくても、第一面と第二面の水に対する接触角の差が30°よりも大きいという特徴を有している。
この高分子電解質膜は、巻物の形態にしたり、或いは、第一面と第二面を向き合わせて重ね合わせた場合でも、ブロッキングを生じ難いという特性を有しているので、合紙を使用せずに膜単身で巻き取ること或いは積み重ねることができ、工業的に有利である。
【0055】
本発明におけるイオン伝導性高分子は、主鎖に芳香族環を有し、かつ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有することが好ましい。
本発明におけるイオン伝導性高分子は、側鎖を有していてもよい。
本発明におけるイオン伝導性高分子は、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有することが好ましい。
前記イオン交換基は、カチオン交換基であることが好ましい。
【0056】
本発明の高分子電解質膜は、炭化水素系高分子電解質膜、すなわち炭化水素系イオン伝導性高分子を含む高分子電解質からなる膜であることが好ましい。
炭化水素系高分子電解質は、炭化水素系イオン伝導性高分子を50重量%以上含有していることが好ましく、80重量%以上含有していることがさらに好ましい。ただし、本発明の効果を妨げない範囲で、別の高分子、炭化水素系ではないイオン伝導性高分子及び添加剤等が含まれていてもよい。
【0057】
炭化水素系イオン伝導性高分子は、典型的にはフッ素を全く含まないが、部分的にフッ素置換されていてもよい。炭化水素系イオン伝導性高分子としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリパラフェニレン、ポリイミド、等の芳香族主鎖を有するエンジニアリング樹脂や、ポリエチレン、ポリスチレン等の汎用樹脂、またはこれらを形成する繰返し単位を複数種組み合わせて有する共重合体にイオン交換基が導入されてなる高分子が挙げられる。特に、主鎖に芳香族環を有することが好ましいので、前記のようなエンジニアリング樹脂、または当該エンジニアリング樹脂を構成する繰返し単位を複数種組み合わせて有する樹脂にイオン交換基が導入されてなる高分子が、より耐熱性に優れた高分子電解質膜が得られるので好ましい。
イオン交換基としては、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、リン酸基(−OP(O)(OH)2)、ホスホン酸基(−P(O)(OH)2)、スルホニルイミド基(−SO2−NH−SO2−)等のカチオン交換基が好ましく、中でもスルホン酸基が好ましい。
また、炭化水素系高分子電解質は、フッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有する。
【0058】
本発明で用いる高分子電解質は、イオン交換基を有する繰り返し単位と、イオン交換基を有しない繰り返し単位からなる共重合体が、上述のように水に対する接触角を制御しやすいため、好ましい。該共重合体の共重合様式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、交互共重合のいずれでも、またはこのような共重合様式を組み合わせてなる共重合体でもよいが、より接触角を制御し易い点において、イオン交換基を有するポリマーセグメント(A)、及びイオン交換基を実質的に有さないポリマーセグメント(B)とを、それぞれ一つ以上有するブロック共重合体、グラフト共重合体等がより好ましい。更に好ましくはブロック共重合体が挙げられる。
【0059】
なお、本発明において、セグメント又はブロックが「イオン交換基を有する」とは、イオン交換基が、繰り返し単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメント又はブロックであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
一方、これらが「イオン交換基を実質的に有しない」とは、イオン交換基が、繰り返し単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメント又はブロックであることを意味し、繰り返し単位1個あたりで平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
【0060】
本発明で用いる高分子電解質がブロック共重合体を含む場合、該ブロック共重合体がイオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とを、それぞれ一つ以上有するものが好ましい。
【0061】
本発明で用いる高分子電解質がブロック共重合体を含む場合、高分子電解質膜がミクロ相分離構造を形成し得るものが好ましい。ここでいうミクロ相分離構造とは、ブロック共重合体やグラフト共重合体において、異種のポリマーセグメント同士が化学結合で結合されていることにより、分子鎖サイズのオーダーでの微視的相分離が生じてできる構造を指す。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で見た場合に、イオン交換基を有するブロック(A)の密度が高い微細な相(ミクロドメイン)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い微細な相(ミクロドメイン)とが混在し、各ミクロドメイン構造のドメイン幅すなわち恒等周期が数nm〜数100nmであるような構造を指す。好ましくは5nm〜100nmのミクロドメイン構造を有するものが挙げられる。
【0062】
本発明の高分子電解質に用いられるイオン伝導性高分子としては、例えば特開2005−126684号公報及び特開2005−139432号公報に準拠する構造が挙げられる。
【0063】
より具体的には、本発明のイオン伝導性高分子は、繰り返し単位として、上記の一般式(1a)、(2a)、(3a)、(4a)の何れか1種以上と、上記の一般式(1b)、(2b)、(3b)、(4b)の何れか1種以上とを含むイオン伝導性高分子が挙げられ、重合の形式としてはブロック共重合、交互共重合、及びランダム共重合等が挙げられる。
【0064】
本発明において、好ましいブロック共重合体としては、上記一般式(1a)、(2a)、(3a)、(4a)から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位からなるブロック1種以上と、上記一般式(1b)、(2b)、(3b)、(4b)から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位からなるブロック1種以上とを有するものが挙げられるが、より好ましくは、下記のブロックを有する共重合体が挙げられる。
【0065】
<ア>.(1a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<イ>.(1a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
<ウ>.(2a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<エ>.(2a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
【0066】
<オ>.(3a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<カ>.(3a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロック、
<キ>.(4a)の繰り返し単位からなるブロックと、(1b)の繰り返し単位からなるブロック、
<ク>.(4a)の繰り返し単位からなるブロックと、(2b)の繰り返し単位からなるブロックなど
【0067】
更に好ましくは、上記の<イ>、<ウ>、<エ>、<キ>、<ク>などを有するものである。特に好ましくは、上記の<キ>、<ク>などを有するものである。
【0068】
本発明において、より好ましいブロック共重合体としては、(4a)の繰り返し数、すなわち上記の一般式(4a')におけるmは5以上の整数を表し、5〜1000の範囲が好ましく、更に好ましくは10〜500である。mの値が5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、イオン伝導度が十分であるので好ましい。mの値が1000以下であれば、製造がより容易であるので好ましい。
【0069】
式(4a')におけるAr9は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0070】
また、Ar9は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0071】
Ar9は、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。イオン交換基として、上述のように酸性基(カチオン交換基)がより好ましく、中でもスルホン酸基がより好ましい。
【0072】
これらのイオン交換基は、部分的にあるいは全てが金属イオンなどで交換されて塩を形成していてもよいが、燃料電池用高分子電解質膜などとして使用する際には、実質的に全てが遊離酸の状態であることが好ましい。
【0073】
式(4a')で示される繰り返し構造の好ましい例としては、下記式が挙げられる。
【0074】

【0075】
また、本発明において、より好ましいブロック共重合体としては、(1b)〜(3b)の繰り返し数、すなわち上記の一般式(1b’)〜(3b’)におけるnは5以上の整数を表し、5〜1000の範囲が好ましく、更に好ましくは10〜500である。nの値が5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、イオン伝導度が十分であるので好ましい。nの値が1000以下であれば、製造がより容易であるので好ましい。
式(1b’)〜(3b’)におけるAr11〜Ar18は、互いに独立な2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
また、Ar11〜Ar18は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0076】
イオン伝導性高分子の具体例としては、例えば下記の構造が挙げられる。
【0077】

【0078】

【0079】

【0080】

【0081】

【0082】

【0083】
なお、上記(1)〜(26)において、「Block」の表記は、括弧内の繰り返し単位からなるブロックをそれぞれ有するブロック共重合体であることを意味する。また、かかるブロック同士は、直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。
【0084】
より好ましいイオン伝導性高分子としては、例えば上記の(2)、(7)、(8)、(16)、(18)、(22)〜(25)等が挙げられ、特に好ましくは(16)、(18)、(22)、(23)、(25)等が挙げられる。
【0085】
イオン伝導性高分子が、上記ブロック共重合体である場合、イオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)がいずれも、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有していないことが、特に好ましい。ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
ここで「ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有していない」とは、イオン伝導性高分子の繰り返し単位あたりハロゲン原子を0.05個以上有していないことを意味する。
一方で、置換基として有していてもよい例としては、以下のものが挙げられる。例えばアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基が挙げられる。これらの置換基は炭素数1〜20が好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アセチル基、プロピオニル基、等炭素数が少ない置換基が挙げられる。
ブロック共重合体がハロゲン原子を含む場合、例えば燃料電池作動中にフッ化水素や塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が発生し、燃料電池部材を腐食する可能性があり、好ましくない。
【0086】
また、イオン伝導性高分子の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、15000〜400000であることが特に好ましい。
【0087】
本発明により得られる高分子電解質膜は、様々な分野での利用が期待される。
例えば、本発明の高分子電解質は、燃料電池等の電気化学デバイスの隔膜として使用することができる。この高分子電解質膜は、支持基材面側とは反対側の表面が燃料電池用電極とのなじみが良いので、燃料電池用電解質膜としての特性に優れており、利用価値が高い。
燃料電池用電解質膜として使用される場合、製膜時に支持基材と接していた水に対する濡れ性の低い第二面を空気極側に使用し、反対側の水に対する濡れ性の高い第一面を燃料極側に使用することにより、空気極側から燃料極側への水分移動を促進することが可能となるので、空気極、電解質膜及び燃料極の水分布を適正化する効果も期待できる。
従って本発明の製造方法により製造された高分子電解質膜は、高機能型の固体高分子型燃料電池用高分子電解質として、工業的に有利な膜となる。
【0088】
また、本発明によれば、連続工程で水洗・乾燥後に支持基材から剥離した膜について、合紙を使用せずに膜単身でブロッキングを生じることなく巻き取ること或いは積み重ねることができ、工業的に有利である。
【0089】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行なったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、更に特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0090】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明に係わる物性測定方法を以下に示す。
【0091】
(イオン交換容量の測定)
測定に供する高分子電解質膜を、加熱温度105℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて、乾燥重量を求めた。次いで、この高分子電解質膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この高分子電解質膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、高分子電解質膜の乾燥重量と上記の中和に要した塩酸の量から、高分子電解質膜のイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0092】
(GPCの測定)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定した。なお、移動相(溶離液)としては以下のいずれかを用いて測定した。
[移動相1]DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
[移動相2]DMF(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
【0093】
(接触角の測定)
各実施例又は比較例の高分子電解質膜について、支持基材から剥離した状態で、23℃50%RH雰囲気下で24時間静置させた後、接触角計(CA−A型 協和界面科学株式会社製)を用いて膜表面の水滴に対する接触角を液滴法により求めた。直径2.0mmの水滴を高分子電解質膜に滴下後、5秒後の接触角を値として用いた。
【0094】
(剥離強度の測定)
各実施例又は比較例の高分子電解質膜について、巾10mm×長さ60mmで支持基材とともに短冊状に切り出した。このサンプルについて、80℃のイオン交換水に2時間浸漬させ、表面付着水を拭き取り、23℃50%RH雰囲気下で引張試験機(インストロン社製)を用いて、10mm/minの剥離速度で高分子電解質膜を支持基材から剥離させる所謂180°ピール試験を行った。剥離強度が0.1(N/cm)以上の場合、密着保持性「○」とし、0.1(N/cm)未満の場合、密着保持性「×」とした。
【0095】
(TEM観察方法)
各実施例又は比較例の高分子電解質膜について、染色用水溶液(濃度 ヨウ化カリウム 15%, ヨウ素 5%)に室温で30分浸し、あらかじめ予備硬化を進めておいたエポキシ樹脂により包埋した。更にミクロトームにより室温・乾式の条件下で厚さ60nmの切片を切り出した。得られた切片をCuメッシュ上に採取し、透過型電子顕微鏡(日立製作所製 H9000NAR)で加速電圧300kVで観察した。
【0096】
(合成例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、DMSO142.2重量部、トルエン55.6重量部、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム5.7重量部、末端クロロ型である下記ポリエーテルスルホン
【0097】

【0098】
(住友化学製スミカエクセルPES5200P)2.1重量部、2,2’−ビピリジル9.3重量部を入れて攪拌した。その後バス温を100℃まで昇温し、減圧下でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、65℃に冷却後、常圧に戻した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)15.4重量部を加え、70℃に昇温し、同温度で5時間攪拌した。放冷後、反応液を大量のメタノールに注ぐことによりポリマーを析出させ濾別。その後6mol/L塩酸による洗浄・ろ過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することにより目的とする下記ポリアリーレン系ブロック共重合体3.0重量部(IEC=2.2meq/g、Mn=103000、Mw=257000[移動相2])を得た。
【0099】

【0100】
(製膜条件1)
キャスト製膜について、連続乾燥炉を用いて行った。すなわち、高分子電解質溶液を、膜厚可変型ドクターブレードを用いて所望の膜厚へと調整し、支持基材上に連続的に流延塗布して、連続的に乾燥炉へと入れていき、大部分の溶媒を除去した。乾燥条件を下記に記す。
乾燥条件:温度80℃、時間66分
(なお、温度は乾燥炉の設定温度を指し、時間はキャスト製膜された
高分子電解質膜は乾燥炉に入炉してから出炉するまでの時間を指す。)
乾燥後の高分子電解質膜をイオン交換水で水洗を行って溶媒を完全に除去した。この膜を2N塩酸に2時間浸漬後、再度イオン交換水で水洗せしめて、更に風乾することで、高分子電解質膜を作製した。
【0101】
実施例1
合成例1で得られた、ポリアリーレン系ブロック共重合体(IEC=2.2meq/g、Mn=103000、Mw=257000[移動相2]、なおIECはイオン交換容量、Mnはポリスチレン換算の数平均分子量、Mwはポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。以下の実施例においても同様である。)をBCP−1とする。BCP−1をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材として巾300mm、長さ30mのポリイミドフィルム(デュポン帝人社製、商品名カプトン)を用いて、製膜条件1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0102】
実施例2
合成例1で得られたブロック共重合体(BCP−1)と特開2005−38834号公報参考例3に記載の方法を参考にして合成した、下図に示すようなホスホン酸基含有ポリマー(AD−1とする)との混合物(重量比90対10)をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材として巾300mm、長さ500mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)を用いて、製膜例1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0103】


(r=1.9、s=0.0、繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)
【0104】
実施例3
特開2005−206807号公報(実施例2〔0059〕)に記載の方法を参考にして合成した、下図に示すようなスルホン酸基含有ブロック共重合体(IEC=1.8meq/g、Mn=60000、Mw=420000[移動相1])を合成し(BCP−3とする)、NMPに溶解して、濃度が13.5wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材として巾300mm、長さ500mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)を用いて、製膜条件1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0105】


(繰り返し単位の添え字数字は、繰り返し単位のモル分率を示す。)
【0106】
実施例4
BCP−1をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材として巾300mm、長さ30mのPETフィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)を用いて、製膜条件1の方法で膜厚約10μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0107】
比較例1
BCP−1をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材に巾300mm、長さ1000mのシリカ蒸着PET(尾池工業社製、膜厚12μm)を用いて、製膜条件1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0108】
比較例2
BCP−1とホスホン酸基含有ポリマー(AD−1)との混合物(重量比90対10)をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材に巾300mm、長さ1000mのアルミシート(膜厚200μm)を用いて、製膜例1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0109】
比較例3
合成例1の重合方法に準拠して合成した、BCP−1と合成ロットが異なるポリアリーレン系ブロック共重合体(IEC=2.2meq/g、Mn=116000、Mw=228000[移動相2]:BCP−2)と特開2006−66391号公報(〔0059〕)に記載の方法を参考にして合成したホスホン酸基含有ポリマー(AD−2とする)との混合物(重量比90対10)をDMSOに溶解して、濃度が10wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材に巾300mm、長さ1000mのアルミナ蒸着PET(膜厚100μm)を用いて、製膜例1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
【0110】
比較例4
BCP−3をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、濃度が13.5wt%の溶液を調製した。得られた溶液を、支持基材に巾300mm、長さ1000mのアルミナ蒸着PET(膜厚100μm)を用いて、製膜条件1の方法で膜厚約30μmの高分子電解質膜を作製した。TEM観察の結果、ミクロ相分離構造をとっており、親水相と疎水相が共に連続相を形成していることが分かった。
実施例1〜4、比較例1〜4で用いた高分子電解質組成物と、製膜時の支持基材種類を表1に記す。
【0111】
【表1】


実施例1〜4、比較例1〜4の基材−膜の剥離強度試験について、下表に記す。
【0112】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜表面の水に対する接触角の小さい側を第一面、該接触角の大きい側を第二面としたときに、第一面と第二面の表面の水に対する接触角の差が30°より大きいイオン伝導性高分子電解質膜が、該高分子電解質膜の何れかの面が支持基材と接合した状態で、該支持基材上に積層された積層体を製造する方法であって、
以下の各工程:
主鎖及び/又は側鎖に芳香族基を有し、且つ該芳香族基に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有するイオン伝導性高分子を含む高分子電解質を溶媒に溶解した高分子電解質溶液を調製する工程;及び、
該高分子電解質溶液を、支持基材上に流延塗布し、該支持基材上に高分子電解質膜を積層する工程;
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記支持基材の流延塗布される表面が樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記支持基材が樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記イオン伝導性高分子が、側鎖を有することを特徴とする請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記イオン交換基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記イオン伝導性高分子が、下記一般式(1a)〜(4a)


(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)



(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)
から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の積層体の製造方法。

(式中、R1及びR2は互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、R1とR2が連結して環を形成していてもよい。)
【請求項9】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するポリマーセグメント(A)を一つ以上、及びイオン交換基を実質的に有さないポリマーセグメント(B)を一つ以上有する共重合体である請求項1〜8のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)、及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有する高分子電解質膜が得られることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であり、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相とを含むミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜が得られることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、イオン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)

(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。Ar9は主鎖を構成する芳香環に直接又は側鎖を介してイオン交換基を有する。)
で表される繰返し構造を有し、且つ、
イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)

(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
で表される繰返し構造から選ばれる1種以上を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)において、イオン交換基が主鎖芳香族環に直接結合していることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)がいずれも、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有さないことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項16】
前記請求項1〜15のいずれかに記載された製造方法により得られた積層体から前記支持基材を除去する工程を含むことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項17】
前記支持基材の除去後に、高分子電解質膜の前記支持基材と接合していた側の表面を表面処理する工程を含まないことを特徴とする請求項16に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項18】
前記請求項1〜15のいずれかに記載された製造方法により得られた積層体。
【請求項19】
前記請求項16又は17に記載された製造方法により得られた高分子電解質膜。
【請求項20】
少なくとも1種のイオン伝導性高分子を含む高分子電解質膜であって、該膜表面の水に対する接触角の小さい側を第一面、該接触角の大きい側を第二面としたときに、第二面に表面処理が行われておらず、且つ、第一面と第二面の表面の水に対する接触角の差が30°より大きいことを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項21】
前記第一面及び前記第二面の両方とも表面処理が行われていないことを特徴とする請求項20に記載の高分子電解質膜。
【請求項22】
該膜の第一面の表面の水に対する接触角が10°以上60°以下であって、第二面の表面の水に対する接触角が60°以上であることを特徴とする請求項20又は21に記載の高分子電解質膜。
【請求項23】
該膜の第二面の表面の水に対する接触角が110°以下であることを特徴とする請求項20〜22のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項24】
前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、且つ、該芳香族環に直接結合又は他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする請求項20〜23のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項25】
前記イオン伝導性高分子が、側鎖を有することを特徴とする請求項24に記載の高分子電解質膜。
【請求項26】
前記イオン伝導性高分子が、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合又は他の原子を介して間接的に結合したイオン交換基を有することを特徴とする請求項20〜23のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項27】
前記イオン交換基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項24〜26のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項28】
前記イオン伝導性高分子が、
下記一般式(1a)〜(4a)


(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に、主鎖に芳香族環を有し、さらに芳香族環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香族環か側鎖の芳香族環の少なくとも1つが該芳香族環に直接結合したイオン交換基を有する。
Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rは互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位1種以上と、
下記一般式(1b)〜(4b)



(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族炭素基を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2のいずれかを表し、X、X’、X”は互いに独立にO、Sのいずれかを表す。Yは直接もしくは下記一般式(10)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’は互いに独立に1、2又は3を表す。)から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを有することを特徴とする請求項20〜27のいずれかに記載の高分子電解質膜。

(式中、R1及びR2は互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を表し、R1とR2が連結して環を形成していてもよい。)
【請求項29】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するポリマーセグメント(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないポリマーセグメント(B)からなる、共重合体であることを特徴とする請求項20〜28のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項30】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であることを特徴とする請求項20〜29のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項31】
該膜が少なくとも2つ以上の相にミクロ相分離した構造を有することを特徴とする請求項20〜30のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項32】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)及び、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)からなる、ブロック共重合体であり、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)の密度が高い相と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)の密度が高い相とを含むミクロ相分離構造を有することを特徴とする請求項20〜31のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項33】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、イオン交換基を有するブロック(A)が、下記一般式(4a’)。

(式中、mは5以上の整数を表し、Ar9は2価の芳香族基を表し、ここで2価の芳香族基は、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。Ar9は主鎖を構成する芳香環に直接又は側鎖を介してイオン交換基を有する。)
で表される繰返し構造を有し、且つ、
イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が下記一般式(1b’)、(2b’)、(3b’)

(式中、nは5以上の整数を表す。Ar11〜Ar18は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。その他の符号は、前記一般式(1b)〜(3b)のものと同じである。)
で表される繰返し構造から選ばれる1種以上を有することを特徴とする請求項20〜32のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項34】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)において、イオン交換基が主鎖芳香族環に直接結合していることを特徴とする請求項20〜33のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項35】
前記イオン伝導性高分子が、イオン交換基を有するブロック(A)と、イオン交換基を実質的に有さないブロック(B)とをそれぞれ一つ以上有し、且つ、イオン交換基を有するブロック(A)及びイオン交換基を実質的に有さないブロック(B)が共に、ハロゲン原子を含む置換基を実質的に有さないことを特徴とする請求項20〜34のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項36】
前記請求項20〜35のいずれかに記載されたイオン伝導性高分子電解質膜が、該高分子電解質膜の第二面が支持基材と接合した状態で、該支持基材上に積層された積層体。
【請求項37】
前記支持基材の高分子電解質膜と接合した表面が樹脂により形成されていることを特徴とする請求項36に記載の積層体。
【請求項38】
前記支持基材が樹脂フィルムである請求項36又は37に記載の積層体。

【公開番号】特開2008−78127(P2008−78127A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216920(P2007−216920)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】