説明

高剛性かつ軽量なプロペラシャフトの製造方法

【課題】ヨークに対するチューブの位置決めを簡素化でき、面全体で接合強度が均一で接合強度の高い接合面を形成でき、高剛性かつ軽量なプロペラシャフトを製造することができるプロペラシャフトの製造方法を提供する。
【解決手段】ヨーク凹部の内周面がチューブの外周面に対して相対的に大きな径を有しているヨークとチューブを準備し、凹部の第1のテーパ面でチューブの軸方向端面を案内しながら、凹部の底面と軸方向端面を当接させ、凹部の底面とチューブの軸方向端面を押圧しながら加熱することで、チューブを座屈変形させてチューブの外周面と凹部の内周面を当接させ、ヨークとチューブを拡散接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨークに対するチューブの位置決めを簡素化でき、接合面全体で均一な接合強度を有し、高剛性かつ軽量なプロペラシャフトを製造することのできるプロペラシャフトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プロペラシャフトのヨークとチューブの接合方法として、たとえば、アーク溶接や摩擦圧接による接合方法が広く採用されている。アーク溶接は、溶加材として溶接棒や溶接線を使用し、溶加材をヨークとチューブの間に介在させて電圧を付加し、それによって発生するアーク熱で溶加材を溶解してビードを形成することで、ヨークとチューブを接合するものである。また、摩擦圧接は、ヨークとチューブを回転させながら衝突させ、焼き付き現象を利用してヨークとチューブを接合するものである。しかし、アーク溶接や摩擦圧接においては、接合部の外周にビードや圧接カールが形成されるため、プロペラシャフトの回転軸と重心にずれが発生し、高速回転するプロペラシャフトの振動の発生要因となっている。また、ビードや圧接カールの発生部位に応力が集中し、それらが破損の起点となって、プロペラシャフトの剛性を低下させる要因となっている。
【0003】
ところで、現在、自動車産業においては、環境影響負荷を低減できる車両としてハイブリッド自動車や電気自動車が注目されており、燃費向上の要求や排ガス規制の強化から、その一層の小型化、軽量化、高性能化を目指した開発が自動車メーカー各社、自動車関連メーカー各社で日々進められている。たとえば、プロペラシャフトは原動機からの動力伝達に必須の部品であり、最終段減速後のトルクに耐え得る高い捩れ剛性が要求されることから、非常に丈夫な材質や構造で製造されており、自動車部品の中でも特に軽量化の要請が強い部品の一つである。
【0004】
プロペラシャフトの軽量化に関しては、たとえば炭素繊維強化プラスチック等を採用する等、材質面からのアプローチがある。炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料であり、軽量かつ高剛性な材料であるが、その一方で材料コストが高いというデメリットがある。このように材料面からの軽量化を図るには材料コストの高騰が不可避であることから、既述するような、アーク溶接や摩擦圧接で形成されるビードや圧接カールに関して、製造方法からのアプローチでプロペラシャフトの剛性の低下を抑止してその軽量化を図ることのできる接合方法の開発が望まれている。
【0005】
このような接合方法の一例として、たとえば液相拡散接合を挙げることができる。液相拡散接合は、固相接合法の一種と考えられており、接合しようとする材料の間に、箔、粉末、メッキ等の形態であって被接合材よりも融点が低い共晶組成の合金を介在させて、その材料を加圧しながら、合金(以下、「インサートメタル」という)の融点温度以上に接合部を加熱する接合方法である。液相拡散接合においては、合金を溶解させて等温凝固させることで、ビードや圧接カールの発生を抑止しながら材料同士を接合できる。また、液相拡散接合は比較的低い加圧力で接合できることから、接合による残留応力や変形を極力避けることができ、溶接の困難な高合金鋼、耐熱鋼の接合にも適用できる。さらに、等温凝固に必要な元素の相互拡散が極めて早いことから、接合時間の短縮にも繋がることが知られている。
【0006】
ここで、図7を参照して、上記する液相拡散接合を使用した従来のプロペラシャフトの製造方法を説明する。同図において、プロペラシャフトPはヨークYとチューブTを有しており、ヨークYのチューブ側の端部に配された接合面Y1とチューブTのヨーク側の端部に配された接合面T1の間にインサートメタルMが配されている。なお、ヨークYが固定把持手段H1で保持され、チューブTが可動保持手段H2で保持されることにより、可動保持手段H2によってチューブTをヨークYに対して所定の荷重で押圧できるようになっている。また、接合部とその近傍には高周波誘導加熱電極Eが配設され、その周囲がシールドカバーSで覆われており、不活性ガスを導入管L1から導入して接合部を不活性ガス雰囲気下で接合することにより、拡散接合時の接合部の酸化を抑制することができる。なお、ヨークYとチューブTを接合した後に、不活性ガスは排出管L2からその外部へ排出される。
【0007】
図示するプロペラシャフトPにおいては、チューブTをヨークYに対して所定の荷重で押圧しながら、不活性ガス雰囲気下で高周波を誘導加熱電極Eに付与することにより、接合部とその近傍の高周波誘導加熱がおこなわれる。そして、ヨークYとチューブTの間に介在させたインサートメタルMを溶解させ、その金属元素がそれぞれの接合面Y1,T1を介してヨークY1とチューブT1へ拡散することで、ばり等の発生を抑止したヨークYとチューブTの接合部が形成される。
【0008】
しかし、上記するプロペラシャフトPにおいては、ヨークYの接合面Y1とチューブTの接合面T1の接合面積が小さく、プロペラシャフトの剛性を向上させることが非常に困難である。また、ヨークYとチューブTそれぞれの軸心がずれる可能性が大きいことから、接合部において均一な接合強度を保証できない。さらに、双方の軸心がずれると、プロペラシャフトが高速回転する際の振動の原因となり、プロペラシャフトの疲労破壊に直結し得る。したがって、大きな接合面積を有してプロペラシャフトの高い剛性を保証し、ヨークとチューブの位置決めを簡素化して拡散接合による接合面全体の接合強度の均一化を実現でき、車両全体の軽量化に寄与できるプロペラシャフトの製造方法の開発が求められている。
【0009】
ところで、上記するプロペラシャフトの製造方法に関する従来の公開技術として、特許文献1〜5に開示の方法を挙げることができる。特許文献1に開示の金属管の接合方法によれば、接合する金属管同士の軸心のずれを抑制し、接合面とインサートメタルの密着性を確保することにより、接合された金属管は、接合部における軸心と重心のずれが抑制されて高い剛性を有するものとなる。また、特許文献2に開示の製造方法によれば、鋼管の接合面が2段あるいは3段の傾斜面を有することで、接合面積を増加させて鋼管の接合強度を向上させることができる。また、特許文献3に開示の製造方法によれば、一方の加熱炉管要素の接合側端部と接合側端部が挿入される他方の加熱炉管要素の継手短管を、互いに圧接させながら拡散結合することで、接合された加熱炉管が高い剛性を有するものとなる。また、特許文献4に開示の製造方法によれば、接合すべき2本の金属管の接合面をインロウ型に加工して嵌め合わせ、それらの間に断面L字型のインサートメタルを挿入して接合させることで、金属管同士の接合強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3650486号公報
【特許文献2】特開平09−317959号公報
【特許文献3】特開平11−063853号公報
【特許文献4】特開平04−075773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示のプロペラシャフトの製造方法においては、金属管同士の軸心のずれを抑制することはできても、この軸心のずれを抑制するための継手筒が必要となることから、プロペラシャフトの軽量化を図ることは困難であり、これが製品コストの高騰にも繋がる。また、特許文献2に開示の製造方法においては、鋼管の拡散接合時における鋼管同士の押圧によって、接合面同士が離れる方向に向かって鋼管が座屈変形することから接合面積が減少し、さらには十分な加圧力を作用できずに接合強度が低下する可能性がある。また、特許文献3に開示の製造方法においては、一方の加熱炉管要素を他方の加圧炉管要素に嵌合させて位置合決めする際に、それぞれの位置のずれを抑制するために、一方の加熱炉管要素の外周面と他方の加熱炉管要素の内周面の面精度を高める必要があり、加熱炉管要素の製品コストが高騰し、高精度な位置決め装置も必要となる。さらに、特許文献4に開示の製造方法においても、接合すべき金属管の接合面の断面形状を2本の金属管で合致させる必要があり、高精度な接合面を形成するために追加の工程が必要となる。
【0012】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、ヨークに対するチューブの位置決めを簡素化でき、接合強度が高く、しかも面全体で均一な接合強度を有する接合面を備え、高剛性かつ軽量なプロペラシャフトを製造することができるプロペラシャフトの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるプロペラシャフトの製造方法は、少なくとも、ヨークとチューブからなるプロペラシャフトにおいて、該ヨークが該チューブを嵌合わせる凹部を有し、該凹部は、内周面、底面、および該内周面から該底面に向かって縮径する第1のテーパ面を有し、該チューブは、少なくとも、前記凹部の内周面と接合される外周面と、前記凹部の底面と接合される軸方向端面と、該外周面から該軸方向端面に向かって縮径する第2のテーパ面を有し、前記底面と前記軸方向端面が同じ外径を備えている、プロペラシャフトの製造方法であって、前記凹部の内周面が前記チューブの外周面に対して相対的に大きな径を有している、ヨークとチューブを準備する第1の工程と、前記凹部の前記第1のテーパ面で前記チューブの前記軸方向端面を案内しながら、該凹部の前記底面と該軸方向端面を当接させる第2の工程と、前記凹部の前記底面と前記チューブの前記軸方向端面を押圧しながら加熱する第3の工程からなり、前記第3の工程において、少なくとも前記底面と前記軸方向端面を拡散接合させ、前記チューブを座屈させて該チューブの外周面と前記凹部の内周面を当接させ、該外周面と該内周面を拡散接合させるものである。
【0014】
本発明における「拡散結合」とは、接合する材料同士を密着させるように押圧しながら加熱し、接合面に生じる元素の拡散を利用して材料同士を接合する接合方法のことであり、たとえば、固相拡散接合や、接合する材料間に低融点のインサートメタルを介在させ、加熱によってインサートメタルを溶解させて材料同士を接合させる液相拡散接合等を含むものである。
【0015】
本発明のプロペラシャフトの製造方法によれば、凹部の内周面がチューブの外周面に対して相対的に大きな径を有していることから、ヨークの凹部にチューブを嵌合させる工程が簡素化され、凹部の第1のテーパ面でチューブの軸方向端面を案内しながら、凹部の底面と軸方向端面を当接させることで、ヨークに対するチューブの位置決めが容易となる。また、当接させた底面と軸方向端面を押圧しながら加熱することにより、チューブを拡管させながら外周方向へ拡がるように座屈させることができ、チューブの外周面と凹部の内周面を当接させることができる。また、当接後においても押圧力が作用してチューブの外周面と凹部の内周面を密実に当接させることにより、底面と軸方向端面を拡散接合させると同時に、チューブの外周面と凹部の内周面も拡散接合させることができる。
【0016】
このように、ヨークとチューブを容易に位置決めできることにより、面全体で接合強度が均一な接合面を形成でき、さらに、チューブを座屈させてチューブの外周面と凹部の内周面を当接させて接合できることにより、接合面積を増加させることができ、接合強度の高い高剛性なプロペラシャフトを製造することができる。
【0017】
なお、本発明における接合面の加熱方法としては、たとえば高周波誘導加熱や通電加熱、電熱ヒーターによる加熱方法等を挙げることができ、特に、高周波誘導加熱による加熱方法によれば、短時間に被接合面を局部的に加熱できることから好ましい。
【0018】
また、前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面は、相補的な形状を有していても、非相補的な形状を有していてもよい。
【0019】
第1のテーパ面と第2のテーパ面が相補的な形状を有していれば、第2の工程において、第1のテーパ面と第2のテーパ面を当接させ、第3の工程において、凹部の底面とチューブの軸方向端面を拡散接合させると同時に、第1のテーパ面と第2のテーパ面を拡散接合させることができる。したがって、ヨークとチューブの接合面積を増加させることができ、ヨークとチューブの接合面の接合強度を高めることができる。
【0020】
また、第1のテーパ面と第2のテーパ面が非相補的な形状を有していれば、第1のテーパ面と第2のテーパ面の接合面の高い面精度が不要となり、第2の工程において、ヨークの凹部の底面とチューブの軸方向端面を当接させる工程が容易となり、ヨークに対するチューブの位置決めを簡素化できる。また、第3の工程においては、チューブを座屈させることで第1のテーパ面と第2のテーパを当接させて拡散接合できることから、ヨークとチューブの高い接合面積を保証でき、ヨークとチューブの接合強度の低下を抑止できる。
【0021】
さらに、前記ヨークが、該ヨークの外周面から前記凹部の開口端部に向かって縮径する第3のテーパ面を有していることが好ましい。
【0022】
上記する形態によれば、プロペラシャフトのうちのヨークの凹部の開口端部に集中し得る応力を緩和できることから、プロペラシャフトの破損の起点となり得る要因を排除することができる。したがって、プロペラシャフトの高い剛性を保証することができ、プロペラシャフトの更なる軽量化も図ることができる。
【0023】
本発明のプロペラシャフトの製造方法によれば、凹部の内周面がチューブの外周面に対して相対的に大きな径を有し、凹部の第1のテーパ面でチューブの軸方向端面を案内してヨークとチューブを嵌合させることができ、ヨークに対するチューブの位置決めが容易となる。また、当接させた底面と軸方向端面を押圧しながら加熱することで、チューブを外周方向に拡がるように座屈変形させ、チューブの外周面と凹部の内周面を当接させて拡散接合することにより、ヨークとチューブの接合面における接合強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明のプロペラシャフトの製造方法によれば、ヨークとチューブの位置決めを簡素化でき、面全体で均一な接合強度を有する接合面を形成できる。また、ヨークとチューブの接合面積を増加させて、接合面の接合強度を高めることができることから、高剛性かつ軽量なプロペラシャフトを提供でき、車両全体の軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のプロペラシャフトの製造方法のフロー図である。
【図2】本発明の製造方法にて製造されるプロペラシャフトを示す斜視図であって、内部を視認できるように一部を切り欠いて断面を示した図である。
【図3】本発明のプロペラシャフトの製造方法の第1の工程を説明する縦断面図であって、ヨークとチューブを準備する工程を説明した図である。
【図4】図3に続いて、プロペラシャフトを製造する第2の工程を説明する縦断面図であって、ヨークの凹部にチューブを嵌合させて、チューブの凹部の底面とチューブの軸方向端面を当接させる工程を説明した図である。
【図5】図4に続いて、プロペラシャフトを製造する第3の工程を説明する縦断面図であって、凹部の底面とチューブの軸方向端面を押圧しながら加熱する工程を説明した図である。
【図6】本発明の製造方法にて製造されるプロペラシャフトの他の形態を示した縦断面図である。
【図7】従来のプロペラシャフトの製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明のプロペラシャフトの製造方法を説明する。図1は、本発明のプロペラシャフトの製造方法のフロー図であり、図2は、本発明の製造方法にて製造されるプロペラシャフトの概略を示した図であり、図3〜5は、図1で示すプロペラシャフトを製造する工程を説明する図である。また、図6は、本発明の製造方法にて製造されるプロペラシャフトの他の形態を示した模式図である。
【0027】
図1で示す本発明のプロペラシャフトの製造方法は、ヨークとチューブを準備する第1の工程(S1)と、ヨークの凹部の底面とチューブの軸方向端面を当接させて、ヨークに対してチューブを位置決めする第2の工程(S2)と、凹部の底面とチューブの軸方向端面で形成される接合面を押圧しながら加熱して、ヨークとチューブを接合させる第3の工程(S3)からなるものである。
【0028】
まず、第1の工程(S1)では、チューブを嵌合させる凹部を有するヨークであって、ヨークの凹部の内周面がチューブの外周面に対して相対的に大きな径を有しているような、ヨークとチューブを準備する。次いで、第2の工程(S2)では、ヨークの凹部に形成された第1のテーパ面でチューブの軸方向端面を案内しながら、ヨークの凹部にチューブを嵌合させ、ヨークの凹部の底面とチューブの軸方向端面を当接させて、ヨークとチューブの位置決めを行う。ここで、凹部の内周面がチューブの外周面に対して相対的に大きな径を有し、かつ、ヨークの凹部に形成された第1のテーパ面でチューブの軸方向端面を案内できることから、凹部の内周面とチューブの外周面の干渉を抑制して、簡易にヨークの凹部にチューブを嵌合できる。なお、上記する工程において、凹部の底面とチューブの軸方向端面が同じ外径を有していることで、ヨークとチューブは精緻に位置決めされるものである。そして、第3の工程(S3)では、凹部の底面とチューブの軸方向端面で形成される接合面を押圧しながら加熱する。その際、チューブは加熱によって拡管しながら、軸心方向への押圧によって外周方向へ拡がるように座屈変形し、第2の工程において離れて配置されていたチューブの外周面と凹部の内周面が密接に当接する。したがって、第2の工程において当接させたヨークの凹部の底面とチューブの軸方向端面を拡散接合させながら、凹部の内周面とチューブの外周面も拡散接合させることができ、接合面積の大きなプロペラシャフトを製造することができる。
【0029】
ここで、図2を参照して、図1で示す製造方法にて製造されるプロペラシャフトの概略を説明する。なお、同図においては、プロペラシャフトの内部を視認できるように、ヨークとチューブの接合部とその近傍を切り欠いてその断面を示している。
【0030】
図示するプロペラシャフト100は、少なくともヨーク10とチューブ20からその大略が構成され、チューブ20は、ヨーク10との接合部と反対側の端部にスプラインジョイント11を有している。ヨーク10は、チューブ20を嵌合わせるための凹部1を有し、凹部1は、内周面2、底面4、および内周面2から底面4に向かって縮径する第1のテーパ面3を有している。また、チューブ20は、ヨーク10の凹部1の内周面2と接合される外周面12と、凹部1の底面4と接合される軸方向端面14と、その外周面12から軸方向端面14に向かって縮径する第2のテーパ面13を有している。ここで、チューブ20においては、ヨーク10との接合部近傍でチューブ20が略均一に外周方向に拡管して変形している。
【0031】
そして、ヨーク10とチューブ20は、上記する変形によって、凹部1の内周面2とチューブ20の外周面12で接合され、それと共に、ヨーク10の第1のテーパ面3および底面4と、チューブ20の第2のテーパ面13および軸方向端面14で接合されることにより、軸心Aに対して重心のずれが少なく、接合面積の大きなプロペラシャフト100が形成される。
【0032】
なお、使用するヨークやチューブの形状は図示する形状に限定されず、接続されるクロスベアリングやスリーブ等の形状に応じて所望にその形状を変更できる。また、チューブの両端にヨーク等を配置し、それらを嵌合わせて接合させる形態であってもよい。
【0033】
次に、図3〜5を参照して、図1で示すプロペラシャフトを製造する工程を詳細に説明する。ここで、図3は、プロペラシャフトを製造する第1の工程を説明した縦断面図であり、図4は、その第2の工程を説明した縦断面図、図5は、その第3の工程を説明した縦断面図である。
【0034】
まず、図3で示すように、ヨーク10Aを把持手段を併用した絶縁材からなる高周波誘導加熱装置K1で把持し、チューブ20Aを把持手段K2で把持して、ヨーク10Aとチューブ20Aを準備する。なお、把持手段K2にはボルトBが回転可能に接続されており、把持手段K2の内部に備えられている駆動手段(不図示)が駆動してボルトBを回転させることができる。ボルトBは、さらに、高周波誘導加熱装置K1が有する受け座K3に設けられたボルト孔K3aと螺合して接続されており、既述する把持手段K2の駆動手段にてボルトBを回転させることにより、把持手段K2と受け座K3の距離が所望に変更できるようになっている。このように、ヨーク10Aに対するチューブ20Aの距離が所望に変更自在となっていることにより、チューブ20Aをヨーク10Aに嵌合させることができる。また、ヨーク10Aとチューブ20Aが当接した後には、ヨーク10Aに対してチューブ20Aを押圧することもできる。なお、高周波誘導加熱装置K1と把持手段K2におけるヨーク10Aとチューブ20Aとの接触面は、把持する部材のプロペラシャフトの軸方向の滑りを抑止できる表面処理が施されているのが好ましい。
【0035】
図示するヨーク10Aの凹部1Aは、内周面2A、底面4A、および第1のテーパ面3Aを有しており、チューブ20Aは、外周面12A、軸方向端面14A、および第2のテーパ面13Aを有している。また、ヨーク10Aの凹部1Aの内周面2Aは、チューブ20Aの外周面12Aに対して相対的に大きな径を有しており、凹部1Aの内周面2Aとチューブ20Aの外周面12Aの距離は、0.1〜5mmに調整されているのが好ましい。
【0036】
また、ヨーク10Aの凹部1Aの第1のテーパ面3Aのテーパ角α1とチューブ20Aの第2のテーパ面13Aのテーパ角α2は同じ角度を有しており、テーパ角α1,α2は、2〜45°に調整されているのが好ましい。
【0037】
次いで、図4で示すように、把持手段K2が有する駆動手段にてボルトBを回転させ、チューブ20Bの軸方向端面14Bおよび第2のテーパ面13Bと、ヨーク10Bの底面4Bおよび第1のテーパ面3Bが当接するまで、ヨーク10Bに対してチューブ20Bを移動させる。ここで、ヨーク10Bの底面4Bとチューブ20Bの軸方向端面14Bは同じ外径を有しており、チューブ20Bの軸方向端面14Bの端点14Baとヨーク10Bの底面4Bの端点4Baを接触させることができ、ヨーク10Bに対してチューブ20Bを精緻に位置決めすることができる。
【0038】
上記する移動に際し、仮にチューブ20Bのヨーク10Bに対する位置がずれて、チューブ20Bの軸方向端面14Bの端点14Baがヨーク10Bの第1のテーパ面3Bに接触した場合でも、その第1のテーパ面3Bによってチューブ20Bの軸方向端面14Bの端点14Baが底面4Bの端点4Baまで案内されることとなる。したがって、容易に軸方向端面14Bの端点14Baを底面4Bの端点4Baに合致させることができ、軸心等の位置ずれを抑制して、ヨーク10Bに対してチューブ20Bを精緻に位置決めすることができる。
【0039】
図5で示す絶縁材からなる高周波誘導加熱装置K1は、その内部にヨーク10Cとチューブ20Cの接合部を巻回しするように高周波コイルK1aを備えており、この高周波コイルK1aに通電することで接合部を高周波誘導加熱することができる。また、高周波誘導加熱装置K1は不図示のシールドカバーを備えており、このシールドカバーの内部に、たとえばアルゴンや窒素、ヘリウム等の不活性ガスを供給しながら接合することにより、接合部の酸化を抑制できるようになっている。なお、チューブ20Cの内部にも不活性ガスを供給しながら接合部を接合することで、さらに接合部の酸化を抑止することもできる。
【0040】
ヨークとチューブを位置決めした後、図5で示すように、把持手段K2の駆動手段にてヨーク10Cの凹部1Cの底面4Cとチューブ20Cの軸方向端面14Cを10〜25MPaの圧力で押圧しながら、不活性ガス雰囲気下、高周波誘導加熱装置K1による接合部の高周波誘導加熱がおこなわれる。
【0041】
ヨーク10Cの凹部1Cの底面4Cおよび第1のテーパ面3Cと、チューブ20Cの軸方向端面14Cおよび第2のテーパ面13Cにおいては、押圧しながら加熱することにより、それぞれの接合面で拡散接合させることができる。また、チューブ20Cにおいては、加熱によって拡管させながら、押圧によって外周方向へ拡がるように座屈変形させることにより、チューブ20Cの外周面12Cをヨーク10Cの内周面2Cに当接させるまで、チューブ20を拡管させることができる。そして、当接後においても押圧力を作用させ、チューブ20Cの外周面12Cとヨーク10Cの内周面2Cを密実に当接させながら、高周波誘導加熱によって接合部近傍を所定温度まで加熱することにより、ヨーク10Cの内周面2Cとチューブ20Cの外周面12Cを密実に拡散接合することができる。したがって、ヨーク10Cとチューブ20Cを、接合面全体で均一かつ高い接合強度で拡散接合させることが可能となる。
【0042】
そして、上記する押圧状態で所定の温度まで冷却された後、その温度で押圧力が除苛され、さらに常温状態まで冷却されて、ヨークとチューブの拡散接合が完了する。
【0043】
なお、ヨークとチューブの拡散接合においては、第2の工程において、ヨークとチューブの接合面に、たとえば非晶質金属箔等からなる5〜300μmの厚みを有するインサートメタルを介在させ、第3の工程において、そのインサートメタルを溶解させて金属元素を拡散させることで、ヨークとチューブを拡散接合させる形態であってもよい。
【0044】
また、ヨークの第1のテーパ面のテーパ角をチューブの第2のテーパ面のテーパ角よりも相対的に小さく形成し、第2の工程におけるヨークとチューブの位置決めに際し、第1のテーパ面と第2のテーパ面を離れて配置させることもできる。この形態によれば、それぞれのテーパ面の面精度を精緻に形成する工程が不要となり、製造コストを抑制して、ヨークに対するチューブの位置決めも容易に行うことができる。また、第3の工程において、チューブを拡管しながら外周方向に座屈変形させることにより、第1のテーパ面と第2のテーパ面を当接させて拡散接合でき、ヨークとチューブの接合面積の低下を抑制することができる。
【0045】
次に、図6を参照して、本発明のプロペラシャフトの製造方法にて製造されるプロペラシャフトの他の形態を説明する。図示するプロペラシャフトのチューブは、図3〜5で示すチューブと同様の構成を有するものであるため、その説明を省略する。
【0046】
図示するヨーク30は、チューブ40を嵌合させる凹部21を有し、ヨーク30の外周面25から凹部21の開口端部26に向かって縮径する第3のテーパ面27を有している。したがって、ヨーク30の凹部21の開口端部26における、ヨーク30とチューブ40の間の段差が除去されて、開口端部26近傍のチューブ40に発生し得る応力集中を抑止でき、プロペラシャフト200の破損の起点となり得る要因を排除することができる。よって、プロペラシャフト200の高い疲労強度を保証することができ、プロペラシャフトの更なる軽量化も図ることができる。
【0047】
既述するプロペラシャフトにおいては、ヨークの凹部に対してチューブを嵌合させてヨークとチューブを接合させる形態であるが、チューブが凹部を有し、その凹部にヨークを嵌合させて接合させる形態にも本発明の製造方法を適用できる。また、ヨークやチューブに形成されるテーパ面については、その断面において、既述するような直線的な平面に限定されず、多段状の連続した平面や曲率が連続的に変化する曲面等を使用することもできる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1,21…凹部、2…凹部の内周面、3…第1のテーパ面、4…凹部の底面、10、30…ヨーク、11…スプラインジョイント、12…チューブの外周面、13…第2のテーパ面、14…チューブの軸方向端面、20、40…チューブ、25…ヨークの外周面、26…凹部の開口端部、27…第3のテーパ面、100、200…プロペラシャフト、S1…第1の工程、S2…第2の工程、S3…第3の工程、B…ボルト、K1…高周波誘導加熱装置、K2…把持手段、K3…受け座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ヨークとチューブからなるプロペラシャフトにおいて、該ヨークが該チューブを嵌合わせる凹部を有し、該凹部は、内周面、底面、および該内周面から該底面に向かって縮径する第1のテーパ面を有し、該チューブは、少なくとも、前記凹部の内周面と接合される外周面と、前記凹部の底面と接合される軸方向端面と、該外周面から該軸方向端面に向かって縮径する第2のテーパ面を有し、前記底面と前記軸方向端面が同じ外径を備えている、プロペラシャフトの製造方法であって、
前記凹部の内周面が前記チューブの外周面に対して相対的に大きな径を有している、ヨークとチューブを準備する第1の工程と、
前記凹部の前記第1のテーパ面で前記チューブの前記軸方向端面を案内しながら、該凹部の前記底面と該軸方向端面を当接させる第2の工程と、
前記凹部の前記底面と前記チューブの前記軸方向端面を押圧しながら加熱する第3の工程からなり、
前記第3の工程において、少なくとも前記底面と前記軸方向端面を拡散接合させ、前記チューブを座屈させて該チューブの外周面と前記凹部の内周面を当接させ、該外周面と該内周面を拡散接合させる、プロペラシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面が相補的な形状を有している、請求項1に記載のプロペラシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記第1のテーパ面と前記第2のテーパ面が非相補的な形状を有している、請求項1に記載のプロペラシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記ヨークが、該ヨークの外周面から前記凹部の開口端部に向かって縮径する第3のテーパ面を有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロペラシャフトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−224604(P2011−224604A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95755(P2010−95755)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】