説明

高周波スパッタリング装置

【課題】ターゲットから発生する高周波ノイズの影響を抑えた高周波スパッタリング装置を提供する。
【解決手段】 被スパッタ面が処理チャンバー1内に露出したターゲット3は、高周波電源4によって高周波電圧が印加されてスパッタされる。ターゲット3の背後には絶縁部材30を介してベース板33が設けられ、ターゲット3とベース板33の間の空間に冷却機構8によって純水が供給されて冷却される。ベース板33は、10オーム以下の容量性インピーダンスとなるよう軸対称に配置された複数のコンデンサ36を介して接地されている。ターゲット3とベース板33の間に設けられた磁石ユニット5を回転させる回転機構7に対しては、ベース板33がシールドとなり、ターゲット3からの高周波ノイズが遮断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、基板の表面に所定の薄膜を作成するスパッタリング装置に関し、特に、ターゲットに高周波電力を供給してスパッタリングする高周波スパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタ放電によってターゲットからスパッタ粒子を放出させてそのスパッタ粒子を対象物に被着させることで成膜を行うスパッタリング装置は、LSI等の電子デバイスや液晶ディスプレイ等の表示装置の製作において盛んに利用されている。このようなスパッタリング装置のうち、ターゲットに高周波電力を供給してスパッタ放電を生じさせる高周波スパッタリング装置も多く用いられている。
【0003】
図4は、従来の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。図4に示す装置は、排気系11を有する処理チャンバー1と、処理チャンバー1内に所定のガスを導入するガス導入系2と、前側の被スパッタ面が処理チャンバー1内に露出するように設けられたターゲット3と、ターゲット3をスパッタするための高周波電力をターゲット3に供給する高周波電源4と、ターゲット3の背後に設けられた磁石ユニット5と、スパッタによってターゲット3から放出されたスパッタ粒子が到達する処理チャンバー1内の所定位置に基板9を保持する基板ホルダー6とを備えている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
高周波スパッタリングは、絶縁膜の作成のため絶縁体製のターゲット3をスパッタすべく開発されたものである。絶縁体製のターゲット3の場合、通常のスパッタリングのように負の直流電圧を与えてもスパッタ放電が生じないのでスパッタリングできない。しかしながら、ターゲット3に高周波電圧を与えると、高周波放電が生じ、この高周波放電により形成されたプラズマと高周波電圧との相互作用により、絶縁体製のターゲット3の表面に自己バイアス電圧と呼ばれる負のバイアス電圧が与えられる。この自己バイアス電圧によって絶縁体製のターゲット3がスパッタされる。ターゲット3が導体の場合でも、ターゲット3と高周波電源4との間に適当なキャパシタンスを与えることで、同様のメカニズムでスパッタを行うことができる。
【0005】
ターゲット3は板状の部材であり、その被スパッタ面は、基板ホルダー6上の基板9と平行になるよう設けられている。ターゲット3はその周縁の下側にリング状の絶縁材31を有しており、接地電位である処理チャンバー11の器壁に対して絶縁材31を介在させながら気密に接続されている。また、ターゲット3はその周縁の上側にリング状の導入部材32を有している。導入部材32は導電性の良好な部材で形成されており、導入部材32とターゲット3は電気的に接触している。高周波電源4は、導入部材32を介してターゲット3に接続されている。
【0006】
また、図4において、磁石ユニット5はマグネトロンスパッタリングを行うために設けられている。マグネトロンスパッタリングは、電界に直交するようにして磁界を設定し、スパッタ放電の際に電子がマグネトロン運動するようにする方式のスパッタである。電子が効率よく空間を移動するため、スパッタ放電の生成効率が高くなり、高速のスパッタリングが行えるメリットがある。磁石ユニット5は、中心磁石51と、この中心磁石51を取り囲む周状の周辺磁石52と、中心磁石51と周辺磁石52とを繋ぐヨーク53とから構成されている。中心磁石51のターゲット3側の面と周辺磁石52のターゲット3側の面とは互いに異なる磁極が現れるようになっており、ターゲット3を通して図4に示すような弧状の磁力線が設定されるようになっている。磁力線の最下部では、磁界は電界にほぼ直交し、マグネトロン放電が達成されるようになっている。
【0007】
また、上記磁石ユニット5には、回転機構7が付設されている。回転機構7は、ターゲット3に生ずるエロージョンを均一にするため、磁石ユニット5を回転軸70の周りに回転させる機構である。エロージョンは、スパッタリングによってターゲット3の被スパッタ面が削られていくことを意味するが、磁石ユニット5を回転させないと、エロージョンが不均一に進行し、ターゲット3の寿命がきた際に無駄になる量が多くなったり、基板9に作成される薄膜の膜厚分布等が不均一になる問題がある。上記回転機構7は、ターゲット3を裏面で保持した保持棒71と、保持棒71に連結されたモータ72と、モータ72を制御するモータ制御部73とから主に構成されている。
【0008】
尚、前述した導入部材32の上側には、ベース板33が設けられている。ベース板33には、保持棒71が貫通した貫通穴が形成されている。ベース板33の上側には絶縁ブロック34を介してカバー12が設けられている。そして、このカバー12によって回転機構7が全体に覆われている。モータ72やモータ制御部73は、カバー12又はカバー12に接触させて設けた部材に対して固定されているが、カバー12は、接地電位である処理チャンバー1に対して短絡板13で短絡されている。従って、カバー12を経由してモータ72やモータ制御部73に高周波が伝わらないようになっている。
【0009】
また、上記高周波スパッタリングの際にターゲット3がかなり加熱されるため、ターゲット3を冷却する冷却機構8が設けられている。冷却機構8は、ターゲット3の裏面に接触するようにして冷媒81を流通させる機構となっている。具体的には、上記磁石ユニット5は、ターゲット3の裏面から少し離れた位置に設けられている。そして、磁石ユニット5、ターゲット3、導入部材32及びベース板33によって、図4に示すように断面凹状の空間が形成されている。冷却機構8は、この空間に冷媒81を流通させてターゲット3を冷却するようになっている。尚、冷媒81には水道水が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平08−100257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の高周波スパッタリング装置において、ターゲット3に供給される高周波の影響で、高周波ノイズが発生し、この高周波ノイズによって回転機構7のモータ72等が誤動作する問題があることが判明した。具体的に説明すると、ガス導入系2によって所定のガスを導入しながらターゲット3に高周波電力を供給すると、ガスが導入されている処理チャンバー1内の空間に絶縁破壊が生じてスパッタ放電が生成される。そして、このスパッタ放電によってプラズマが形成されるとともに、ターゲット3から放出されたスパッタ粒子によって成膜が行われる。
【0012】
発明者の研究によると、上記高周波スパッタ放電の生成の際、ターゲット3から高周波ノイズが発生していることが分かった。この高周波ノイズは、上記スパッタ放電の生成の際にターゲット3には過渡的に大きな高周波電流が流れ、この影響で高周波ノイズが発生するものと考えられる。回転機構7のモータ72やモータ制御部73は、アースに落とされているカバー12に接続されているものの、空気中を伝わる高周波ノイズによって誤動作するものと考えられる。高周波ノイズは、周波数が高くなると空気中を伝搬し易くなる。具体的には、MHzオーダー以上の高周波になると、特に空気中を伝搬し易くなる。最近における高周波スパッタリング装置は、イオン化効率を高めて成膜速度を速くする必要性から、この程度のより高い周波数の高周波を使用するようになってきている。従って、高周波ノイズの影響を極力抑えることは、今後の高周波スパッタリング装置にとって重要な課題である。
【0013】
本願の発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、ターゲットから発生する高周波ノイズの影響を抑えた高周波スパッタリング装置を提供することを目的としている
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、排気系を有する処理チャンバーと、処理チャンバー内に設けられたターゲットをスパッタするための高周波電力を該ターゲットに与える高周波電源と、前記ターゲットの背後に設けられた磁石ユニットと、前記磁石ユニットを回転させる回転機構と、スパッタによってターゲットから放出されたスパッタ粒子が到達する処理チャンバー内の所定位置に基板を保持する基板ホルダーと、を備えた高周波スパッタリング装置であって、前記ターゲットの背後にベース板を設け、該ベース板をコンデンサを介して接地部に接続したという構成を有する。また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記ベース板とターゲットとの間の空間に冷媒を供給してターゲットを冷却する冷却機構が設けられているという構成を有する。また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記コンデンサの容量をCとし、前記高周波電源の角周波数ωとすると、1/ωCで表される当該コンデンサの容量性インピーダンスは10オーム以下であるという構成を有する。また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、上記請求項1又は3の構成において、前記コンデンサは、前記基板ホルダーに保持される基板の中心軸に対して対称な位置に複数設けられているという構成を有する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した通り、本願の請求項1の発明によれば、ベース板が所定のコンデンサを介して接地部に接続されているので、回転機構の誤動作が防止される。このため、信頼性の高い高周波スパッタリング装置が提供される。また、ターゲットに与えられる自己バイアス電圧が低下する問題が無いという効果が得られる。また、請求項2の発明によれば、上記請求項1の効果に加え、コンデンサの容量性インピーダンスが10オーム以下であるので、高周波ノイズを遮蔽するシールドの効果の低減が防止されるという効果が得られる。また、請求項3の発明によれば、コンデンサが基板に対して軸対称な位置に複数設けられているので、基板に作成される薄膜の厚さや特性が均一になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の第一の実施形態の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】本願発明の第二の実施形態の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。
【図3】図2の装置におけるコンデンサ36の配置例について説明する平面概略図である。
【図4】従来の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。図1は、本願発明の第一の実施形態の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。図1に示す高周波スパッタリング装置は、同様に、排気系11を有する処理チャンバー1と、処理チャンバー1内に所定のガスを導入するガス導入系2と、前側の被スパッタ面が処理チャンバー1内に露出するように設けられたターゲット3と、ターゲット3をスパッタするための高周波電力をターゲット3に供給する高周波電源4と、ターゲット3の背後に設けられた磁石ユニット5と、スパッタによってターゲット3から放出されたスパッタ粒子が到達する処理チャンバー1内の所定位置に基板9を保持する基板ホルダー6とを備えている。
【0018】
本実施形態の装置の大きな特徴点は、ターゲット3の背後に設けられているベース板33が、ターゲット3からの高周波ノイズを遮断するシールドになっている点である。具体的には、本実施形態では、ベース板33は短絡板13によって処理チャンバー1に短絡されている。そして、カバー12は金属製の導体ブロック35を介してベース板33の上側に接続されている。従って、本実施形態では、カバー12及びベース板33がアースに落とされた構造となっている。また、ターゲット3の周縁の上側は、図4に示すような導入部材32ではなく、絶縁部材30が設けられている。そして、高周波電源4は、ターゲット3に直接接続されている。つまり、本実施形態では、高周波電源4による高周波電力はターゲット3にのみ供給されるようになっている。
【0019】
このように、ベース板33がターゲット3から絶縁され、かつ、アースに落とされているため、ベース板33はターゲット3からの高周波ノイズを遮蔽するシールドとして機能するようになっている。即ち、ターゲット3から電波として放出される高周波ノイズは、ベース板33を通してアースに高周波電流となって流れる。このため、上側の回転機構7のモータ72やモータ制御部73に伝わってこれらを誤動作させることが防止される。
【0020】
次に、本願発明の第二の実施形態について説明する。図2は、本願発明の第二の実施形態の高周波スパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。図2に示す装置は、図1に示す装置と同様、排気系11を有する処理チャンバー1と、処理チャンバー1内に所定のガスを導入するガス導入系2と、前側の被スパッタ面が処理チャンバー1内に露出するように設けられたターゲット3と、ターゲット3をスパッタするための高周波電力をターゲット3に与える高周波電源4と、ターゲット3の背後に設けられた磁石ユニット5と、スパッタによってターゲット3から放出されたスパッタ粒子が到達する処理チャンバー1内の所定位置に基板9を保持する基板ホルダー6とを備えている。
【0021】
この実施形態の装置は、図1に示す装置と異なり、ベース板33は、絶縁ブロック34を介して上側のカバー12に接続されているとともに、コンデンサ36を介してアースに短絡されている。即ち、図2に示すように、カバー12には金属製の保持板37が取り付けられており、この保持板37の下側にコンデンサ36が保持されている。ベース板33は、コンデンサ36を介して保持板37に接続されており、保持板37はカバー12及び短絡板13を介して処理チャンバー1に短絡されている。
【0022】
この第二の実施形態の装置は、第一の実施形態の装置に比べて、ターゲット3に与える自己バイアス電圧の低下防止という点で優れた構成となっている。以下、この点を説明する。前述したように、ターゲット3の裏側には冷却機構8によって冷媒81が流通している。この冷媒81には、通常水道水が使用される。第一の実施形態のように、ベース板33を短絡板13によって処理チャンバー1にそのまま短絡してしまうと、冷媒81を通して高周波電流がベース板33に流れてしまう。この結果、ターゲット3に充分な自己バイアス電圧が与えられずターゲット3のスパッタが不十分になってしまうことがある。
【0023】
より具体的に説明すると、前述したように、自己バイアス電圧は、電子とイオンの移動度の違いを利用している。即ち、高周波の正の半周期において多く電子がターゲット3の表面に集まるものの負の半周期においてはイオンは相対的に少ししか集まらないことを利用している。ここで、上述したように、冷媒81としての水がターゲット3とベース板33との間に存在していると、ターゲット3の表面に貯まった電荷が水を通してベース板33に流れ、最終的にはアースに流れ込んでしまう。この結果、蓄積電荷の量の差を反映した自己バイアス電圧が低下してしまう。
【0024】
そこで、この第二の実施形態では、電荷がベース板33に流れてもアースには流れ込まないように、コンデンサ36を介してベース板33をアースに短絡させるようにし、アースからベース板33を電気的に浮かせている。このため、ターゲット3に与えられる自己バイアス電圧が低下してスパッタリングが不十分になることがない。ターゲット3に与えられる自己バイアス電圧の大きさについて、具体的な数値を挙げて説明すると、例えば高周波電源4が周波数13.56MHzで出力8000Wであり、処理チャンバー1内の圧力が50Torr程度である場合、上述した第一の実施形態の構成では自己バイアス電圧は−480V程度である。一方、同じ条件でも、第二の実施形態の構成では、自己バイアス電圧は−800V程度になる。
【0025】
コンデンサ36の容量は、ベース板33を高周波ノイズのシールドとして用いる観点から非常に重要である。ωは、高周波電源4がターゲット3に与える高周波の角周波数である。コンデンサ36の容量性インピーダンスが大きいと、ベース板33に流れる高周波ノイズの電流がアースに流れ込みにくくなり、シールドとしてのベース板33の機能が低下してしまう。コンデンサ36の容量をCとすると、1/ωCで表される当該コンデンサ36の容量性インピーダンスは10オーム以下であることが好ましい。尚、後述するように、コンデンサ36が複数ある場合、その合計の容量性インピーダンスが10オーム以下ということである。コンデンサ36の容量について具体例を挙げると、例えば高周波電源4の周波数が13.56MHzである場合、コンデンサ36の容量としては2000pF程度が好ましい。この例では、コンデンサ36の容量性インピーダンスは6オーム程度になる。
【0026】
また、コンデンサ36の空間的な配置は、ターゲット3の被スパッタ面を臨む放電空間に設定される高周波電界の形状に影響を与える。そして、この高周波電界の形状は被スパッタ面のスパッタによって進行するエロージョンの形状に影響を与え、最終的には基板9の表面に作成される薄膜の膜厚や特性の分布に影響を与える。従って、均一な特性の薄膜を均一な厚さで作成するには、コンデンサ36を基板9の表面に対して均一に配置することが重要である。即ち、基板9の中心軸に対して対称な配置にすることが好ましい。
【0027】
コンデンサ36の配置について、図3を使用してさらに具体的に説明する。図3は、図2の装置におけるコンデンサ36の配置例について説明する平面概略図である。例えば、基板9が直径300mmの半導体ウェーハであり、ベース板が直径500mmの円板状である場合、コンデンサ36は、基板9の中心軸の同軸上の直径400mmの円弧上に等間隔に5個設けられる。
【0028】
自己バイアス電圧の減少を防ぐという意味では、冷却機構8の冷媒81に純水を使用することも非常に効果的である。水道水に比べて純水は電流が流れにくいので、ターゲット3の表面の電荷がアースに流れ込むことが少なくなる。第一の実施形態において冷媒81として純水を使用すると、前述したのと同じ条件で自己バイアス電圧は−800V程度まで大きくなる。また、第二の実施形態において、冷媒81に純水を使用すると、前述したのと同じ条件で自己バイアス電圧はさらに−1000V程度まで大きくできる。
【0029】
次に、上記第一第二の実施形態に共通した他の部分の構成について説明する。図1及び図2に示す処理チャンバー1は気密な真空容器であり、基板9の出し入れを行う不図示のゲートバルブを有している。排気系11は、クライオポンプやターボ分子ポンプ等を備えており、処理チャンバー1内を1×10-6〜1×10-5Pa程度の到達圧力まで排気できるようになっている。尚、排気系11は、バリアブルオリフィス等の排気速度調整器を有する。ガス導入系2は、スパッタ放電用のガスとして例えばアルゴンや窒素等のスパッタ率の高いガスを導入するよう構成されている。ガス導入系2は、ガスの流量を調整するマスフローコントローラを有する。
【0030】
ターゲット3は、作成する薄膜の材料よりなる板状である。例えばチタン膜を作成する場合、チタンより成るターゲット3が使用される。尚、ターゲット3と高周波電源4との高周波線路上には、高周波のインピーダンス整合を行う不図示の整合器が設けられている。また、ターゲット3の周辺部の下側には、ターゲットシールド38が設けられている。ターゲットシールド38は、ターゲット3の周辺部の表面の不要な場所での放電を防止するためのものである。ターゲットシールド38は、接地電位である処理チャンバー1に短絡されており、ターゲット3の周辺部に所定の狭い隙間を持って対向している。
【0031】
尚、回転機構7の回転軸70は、ターゲット3の中心軸から偏心した位置に設定されることがある。また、回転機構7は、自転軸の周りの自転と公転軸の周りの公転という二つの回転運動を行うよう構成されることがある。このような場合、複数のモータやモータ制御部を備えることがあるが、こられ複数のモータやモータ制御部が高周波ノイズから遮蔽されるよう構成される。
【0032】
基板ホルダー6は、処理チャンバー1内の下方位置に配置された台状の部材であり、その上面に基板9が載置されて保持される。基板ホルダー6は、基板9を所定温度に加熱するための不図示のヒータや、加熱を効率良く行うために基板9を静電吸着する不図示の静電吸着機構等を備えている。さらに、基板9に自己バイアス電圧を与えるための基板バイアス用高周波電源が基板ホルダー6に接続されることがある。また、基板ホルダー6とターゲット3との間の空間を取り囲むようにして、防着シールド14が設けられている。防着シールド14は、処理チャンバー1の内面等の不要な場所へのスパッタ粒子の付着を防止するためのものである。
【0033】
次に、第一第二の実施形態の装置の動作について説明する。不図示のゲートバルブを通して基板9が処理チャンバー1内に搬入され、基板ホルダー6上に載置される。基板9は基板ホルダー6上に静電吸着されて所定の温度に加熱される。処理チャンバー1内は予め所定の圧力に排気されており、この状態でガス導入系2が動作して所定のガスが所定の流量で導入される。そして、高周波電源4が動作してターゲット3に高周波電力が供給される。この結果、ターゲット3に自己バイアス電圧が与えられるとともに高周波スパッタ放電が生じてターゲット3がスパッタされる。このスパッタによって、ターゲット3の材料の薄膜が基板9に作成される。この際、回転機構7が磁石ユニット5を回転させ、ターゲット3の被スパッタ面のエロージョンを均一にする。また、ターゲット3は冷却機構8によって例えば20〜25℃程度に冷却される。薄膜が所定の厚さに達したら、高周波電源4の動作を止めるとともに、ガス導入系2の動作を止める。そして、処理チャンバー1内を再度排気した後、基板9を処理チャンバー1から取り出す。
【0034】
上述したように、上記各実施形態の装置では、ベース板33が高周波ノイズのシールドとして利用されているので、回転機構7のモータ72やモータ制御部73が誤動作する問題が生じない。また、第二の実施形態では、これに加え、ベース板33がコンデンサ36を介してアースに接続されているので、ターゲット3に与えられる自己バイアス電圧が低下する問題がない。
【0035】
上述した各実施形態では、ベース板33を高周波ノイズのシールドに利用したが、ベース板33とは別の部材をシールドとして用いてもよい。例えば、図4に示す構成において、ターゲット3からモータ72やモータ制御部73を遮蔽するようにしてベース板33の上側に絶縁材を介して金属製の板を設け、この板を短絡板13によって処理チャンバー1に短絡してもよい。この場合は、ベース板33はアースから電気的に浮いているので、第一の実施形態のような自己バイアス電圧の低下の問題は生じない。
【符号の説明】
【0036】
1 処理チャンバー
11 排気系
12 カバー
13 短絡板
2 ガス導入系
3 ターゲット
33 ベース板
34 絶縁ブロック
35 導体ブロック
36 コンデンサ
4 高周波電源
5 磁石ユニット
6 基板ホルダー
7 回転機構
72 モータ
73 モータ制御部
8 冷却機構
81 冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系を有する処理チャンバーと、処理チャンバー内に設けられたターゲットをスパッタするための高周波電力を該ターゲットに与える高周波電源と、前記ターゲットの背後に設けられた磁石ユニットと、前記磁石ユニットを回転させる回転機構と、スパッタによってターゲットから放出されたスパッタ粒子が到達する処理チャンバー内の所定位置に基板を保持する基板ホルダーと、を備えた高周波スパッタリング装置であって、
前記ターゲットの背後にベース板を設け、該ベース板をコンデンサを介して接地部に接続したことを特徴とする高周波スパッタリング装置。
【請求項2】
前記ベース板とターゲットとの間の空間に冷媒を供給してターゲットを冷却する冷却機構が設けられていることを特徴とする請求項1記載の高周波スパッタリング装置。
【請求項3】
前記コンデンサの容量をCとし、前記高周波電源の角周波数ωとすると、1/ωCで表される当該コンデンサの容量性インピーダンスは10オーム以下であることを特徴とする請求項1記載の高周波スパッタリング装置。
【請求項4】
前記コンデンサは、前記基板ホルダーに保持される基板の中心軸に対して対称な位置に複数設けられていることを特徴とする請求項1又は3記載の高周波スパッタリング装置。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−235581(P2009−235581A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171680(P2009−171680)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【分割の表示】特願平11−72805の分割
【原出願日】平成11年3月17日(1999.3.17)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】