説明

高周波弾性波装置

本発明は、無指向性の弾性波反射器(32)上の圧電膜(41)と、圧電膜の表面上に設けてあり、弾性波鏡の禁制帯内の波を励振すべく用いられる励振及び/又は受容手段(43, 44)とを備える弾性波装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共振システム、フィルタ、遅延線等を形成するのにエレクトロニクスに主に使用される弾性波伝播装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような装置は、現在、数ギガヘルツまでの高周波の分野に特に使用される。そのような装置は通信の分野、テレビの分野、携帯電話の分野、センサの分野、および製品ラベリングタグの分野での応用が特に見いだされている。
【0003】
2つのタイプの弾性波(音響波)装置が区別される。すなわち、表面弾性波装置(surface acoustic wave device、SAW)及び大量弾性波装置(bulk acoustic wave device、BAW)である。
【0004】
図1は、遅延線を形成する従来の表面弾性波装置の例を示している。この装置は圧電性の基板1上に形成される。可能な場合、これは、より厚い基板上に形成された一又は複数の薄い圧電膜上に形成される。弾性波はそれぞれ導伝指4及び5を備える2つの交互嵌合する櫛2及び3から基板中を伝達する。時間変化する信号又は交流の信号が櫛2と3との間に印加される場合、この信号は圧電効果により基板1中を伝播する表面弾性波に変換される。基板中を伝播する弾性波は、波が走る距離に対応する遅れを有するそれぞれの金属指9及び10を備える2つの交互嵌合する受容櫛7及び8の組立体により集められる。例えば、信号は電気インピーダンス11に亘って集められる。
【0005】
そのような弾性波装置は、上述のような高周波用部品(遅延線、フィルタ、共鳴器など)をよく形成すべくなされている。それらは、比較的複雑なフィルタを形成することさえ可能である。
【非特許文献1】アービィ, J. H. ら(Irby, J. H., et al.)、「弾性波誘導分布ブラッグ反射器(ADBR)についてのデルタN2及びカッパの計算(Calculation of DeltaN2 and Kappa for an Acoustically Induced Distribution Bragg Reflector (ADBR))」、IEEEジャーナル:量子エレクトロニクス(IEEE Journal of Quantum Electronics)、IEEE Inc. ニューヨーク、アメリカ合衆国、第34巻、第2号、1998年2月(1998−02)、213−224ページ、XP000737230、ISSN:0018−9197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、それらの操作周波数が増加すると、そのような装置は実用的な実施上の問題を提起する。実際、櫛2及び3並びに櫛7及び8の歯ピッチPは、関係P=λ/Nにより弾性波の波長λを決定する。ここで、N≧2で一般に2に等しい。現在用いられている材料においては、表面波の伝播速度Vは5000m/s程度である。例えば、2.5GHzの周波数fにおいて、波長は2μm(λ=V/f)である。すなわち、櫛歯のピッチは1μm程度でなければならない。これは、0.5μmの距離だけ離間した、0.5μm程度の幅の金属指であることを意味する。一方で、リソグラフィーの理由から、及び他方で、電気的損失の理由から、更に導伝性櫛を小型化することは実際上困難である。表面弾性波装置は、このように、実際には1乃至3GHz程度の操作周波数に制限される。
【0007】
他のタイプの弾性波装置は大量弾性波の特性を利用する。伝播媒体が薄膜である場合、一般に、バルク波は薄膜の厚さを横切って利用される。この目的には、電極はこの薄膜の両側に配置される。そのような装置は、3GHz超の周波数で作動できるが、特にメンブラン(membrane)が用いられる場合、設計するのはしばしば難しい。
【0008】
ノキア・モバイルフォン株式会社(Nokia Mobile Phones Limited)の米国特許第5873154号明細書は、特定の大量弾性波装置の構造について述べている。詳細には、ここで添付の図2を考慮すべきである。それは前記特許の図3と同様である。例えば、ガラス製の基板20上に、ブラッグ(Bragg)原理に基づく弾性波鏡を形成する多層膜21が示されている。また、それは、交互に積み重なった複数の膜22乃至26を備える多層膜を示しており、上部膜26は導伝膜である。圧電膜28が弾性波鏡上に形成されている。圧電膜は電極29で覆われ、電極26及び29の間の共鳴で励振できるようになしてある。この構造において、弾性波鏡21は、圧電膜28中で発生した振動が基板20中に反射し返されるのを避けるようになしてある。圧電膜28中で形成される波は従来のバルク波である。前記特許の図4は、伝播速度が、長手方向の波で6000m/s程度であり、厚み方向の波で2720m/s程度であることを示している。したがって、この装置では、弾性波鏡(弾性波反射器、音響反射器)21は、圧電膜28中に現れるバルク波の特徴を変更すべくなされていない。弾性波鏡は、単に圧電膜28と基板20との間の振動が孤立するようにのみ意図されている。
【0009】
本発明の目的は、既存の表面弾性波装置から欠点をなくし種々の応用を可能とする弾性波装置を提供することにある。
【0010】
本発明のより詳細な目的は、かなり高い周波数で動作できる弾性波装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、例えば表面弾性波装置で従来より用いられている型の交互嵌合する導伝指櫛を有する表面構造により簡便に励振できる弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を解決するために、本発明は、弾性波装置において、無指向性の弾性波反射器上の圧電膜と、圧電膜の表面上にあり、弾性波反射器の帯域内の波を励振することができる励振及び/又は受容手段とを備えることを特徴とする装置を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、励振/受容手段は交互嵌合した導伝性の櫛である。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、無指向性の弾性波反射器は、高い弾性波インピーダンスの膜と低い弾性波インピーダンスの膜とを交互に積み重ねて形成されている。
【0015】
本発明は、上記の装置の、特にフィルタ、共振器又は遅延線としての使用を提供する。
【0016】
本発明は、また、弾性波反射器上に圧電膜を有する弾性波装置を画定する方法において、所定の基板上に弾性波反射器を形成する所定の一対の材料について、分散曲線を算出するステップと、一対の材料が所望の周波数帯に帯域を有する無指向性の反射器を形成するように、一対の材料の各材料の膜厚の合計値Dを選択するステップと、反射器が無指向性を維持し、且つ圧電膜が反射器の周波数帯域内に弾性波振動モードを有するように、圧電膜の厚さを選択するステップとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付図面を参照して、特定の実施例の以下の非制限的説明で詳細に本発明の以上の他の物、特徴、および利点について議論する。
【0018】
図3は本発明に係る弾性波装置の実施形態を示している。この装置は、複数の膜32乃至40の組立体で形成された弾性波鏡(弾性波反射器、音響反射器)31を上部に据える基板30を備える。偶数の参照符号の膜は第1の材料であり、奇数の参照符号の膜は第2の材料である。2つの材料は明確に異なる弾性波インピーダンスを有する。例えば、シリコン基板30と、タングステン膜及びアルミニウム膜を交互に積み重ねて形成した鏡とが使用されてよい。弾性波鏡上に、例えば、窒化アルミニウム、AlN、で作られた、又は酸化亜鉛、ZnO、で作られた圧電膜41が配置される。圧電膜41上には、例えば、表面励振手段(surface excitation means)が配置される。これは、例えば、交互嵌合した歯を有する2つの励振櫛43と、図1に関連して述べたものと類似の弾性波遅延線を形成しており、交互嵌合した歯を有する2つの励振櫛44とである。
【0019】
そのような構造において、発明者は以下のことを示した。すなわち、以下に議論する、ある寸法及び振動数の条件が関係する場合、圧電膜41中を伝播する波はもはや表面弾性波(SAW)でも大量弾性波(BAW)でもない。それらは誘導波と呼ばれる特定の性質の波である。膜面内を伝播するそのような誘導波の速度は、かなり高く選択してよい。例えば、表面弾性波の速度より5乃至10倍速くてよい。更に、そのような誘導弾性波は、従来の表面弾性波と同様に、交互嵌合した導伝性の櫛のシステムにより、表面で励振され、受容されることができる。したがって、表面弾性波に対して現在用いられているものと同様の部品が、本発明に係る構造においても形成することができる。
【0020】
そのような装置の利点は明白である。弾性波が従来の表面弾性波よりn倍速く伝播されるので、与えられたピッチの励振ネットワークにおける周波数のn倍高い周波数で波を伝播できる。したがって、n=6の場合、所定の周波数で作動すべく現在使用されている励振又は受容装置は、6倍高い周波数で作動できる。2ギガヘルツ程度の周波数に適合する表面励振/受容システムは、交互嵌合した櫛の歯ピッチを変更せずに、12ギガヘルツの周波数で用いることができる。
【0021】
どんな公知の鏡でも、基板で形成する組立体が無指向性の周波数帯域を示せば、弾性波鏡として使用することができる。
【0022】
無指向性の鏡を画定するモードを、図4に関連して述べる。例えば同じ厚さのアルミニウム膜及び厚さのタングステン膜を交互に積み重ねた所定の多層膜に対して、図4に示す分散曲線が計算される(例えばD.ブリア及びB.ダファリ=ルハニ(D. Bria and B. Djafari-Rouhani)物理レビュー(Phys. Rev.)E66、056609、2002年を参照)。分散曲線は、ハッチングにより、振動モードが多層膜のピッチDと波長λとの間の比率に応じて構造(鏡及び基板)中に存在できるすべての領域を示している。ピッチは、鏡を形成している各材料の膜の厚さの合計である。VL及びVTと示した2つの直線は、基板(この例ではシリコン)のそれぞれ断面方向及び長手方向の弾性波の速度を示している。空白の領域は、伝播が禁制である領域を示している。図説した構造の場合、1.2乃至2.4GHz・μmの(周波数)×(厚さ)積の範囲において(例えば、ピッチD=0.4μmのとき、周波数帯域は3乃至6GHzに広がっている)、どのような波長であっても、伝播モードは可能でないことが分かる。この範囲では、構造は、発生する全部の波を反射する。それは無指向性の弾性波鏡である。分散曲線の制限周波数は多層膜構造のピッチDに比例していることに注意されるべきである。したがって、一旦、曲線ネットワークが所定の鏡の膜のピッチに対して決定されれば、膜のピッチを比例して増加させることにより、異なる帯域を選択できる。
【0023】
そして、考慮されている周波数帯で振動できるように、圧電膜41の厚さは選択されなければならない。実際、鏡の上に1層加えた場合、複数の付加的なデフォルトモードが追加される。これらのいくつかが帯域にある場合、それらは、基板中に逃げることなく必ず膜内に誘導される。例えば、800nm程度に厚みを有する窒化アルミニウム(AlN)の圧電膜においては、帯域中に単一のデフォルトモードが得られる。モード遮断周波数(mode cut−off frequency)は4GHz程度になる。
【0024】
3.57μmの櫛ピッチにおいて、装置の表面に平行な弾性波伝播速度は30000m/s程度である。この速度はタンタル酸リチウム基板における通常の表面波の速度の7倍速い。
【0025】
伝播の損失は実質的に表面波装置のそれと同様である。更に、得られる結合係数(coupling coefficient)は3%程度である。すなわち、固体AlN材料での表面波の場合の実質的に30倍である。
【0026】
AlNが圧電膜として好ましい材料として示されたが、任意の現在用いられている圧電材料、例えばZnO、LiNbO3 、KNbO3 を用いてよい。
【0027】
もちろん、本発明は当業者が想起する様々な変更と修正を有していてよい。特に、不動態化やカプセル化の目的のために装置の上に一又は複数の薄膜を加えることができる。さらに、この圧電膜中に弾性波のエネルギーを閉じ込めるために圧電膜上に第2の弾性波鏡を配置してよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】簡略化した表面弾性波遅延線の斜視図である。
【図2】米国特許第5873154号明細書で述べられているように基板から孤立した大量弾性波装置の断面図である、。
【図3】本発明に係る大量弾性波装置の構造を示す図である。
【図4】本発明に係る構造の特性的分散曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波装置において、
無指向性の弾性波反射器(32)上の圧電膜(41)と、
圧電膜の表面上にあり、弾性波反射器の帯域内の波を励振することができる励振及び/又は受容手段(43, 44)と
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
励振/受容手段(43, 44)は交互嵌合した導伝性の櫛であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
無指向性の弾性波反射器(32)は、高い弾性波インピーダンスの膜と低い弾性波インピーダンスの膜とを交互に積み重ねて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置のフィルタとしての使用。
【請求項5】
請求項1に記載の装置の共振器としての使用。
【請求項6】
請求項1に記載の装置の遅延線としての使用。
【請求項7】
弾性波反射器上に圧電膜を有する弾性波装置を画定する方法において、
所定の基板上に弾性波反射器を形成する所定の一対の材料について、分散曲線を算出するステップと、
一対の材料が所望の周波数帯に帯域を有する無指向性の反射器を形成するように、一対の材料の各材料の膜厚の合計値を選択するステップと、
反射器が無指向性を維持し、且つ圧電膜が反射器の周波数帯域内に弾性波振動モードを有するように、圧電膜の厚さを選択するステップと
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−530874(P2008−530874A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554623(P2007−554623)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050142
【国際公開番号】WO2006/087496
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(507273057)ユニヴェルシテ ドゥ フランシュ コムテ (1)
【Fターム(参考)】