説明

高周波用誘電体磁器組成物、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置

【課題】 高いεrと高いQ×f値を有し、またτfの絶対値が小さい、優れた誘電特性を示す高周波用誘電体磁器組成物を提供しようとする。
【解決手段】 組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、
0.1≦a≦0.9、
0.1≦b≦0.9、
0.315≦x≦0.345、
0.98≦v≦1.03
の範囲内にある主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を0.001〜1.0重量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において利用される高周波用誘電体磁器組成物、ならびにそれを用いて構成される誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器や回路基板等を構成する材料として、誘電体磁器が広く利用されている。
【0003】
このような高周波用誘電体磁器が、特に誘電体共振器や誘電体フィルタ等の用途に向けられる場合、要求される誘電特性としては、(1)誘電体中では電磁波の波長が1/(εr1/2)に短縮されるので、小型化の要求への対応として比誘電率(εr)が高いこと、(2)誘電損失が小さい、すなわちQ値が高いこと、(3)共振周波数の温度安定性が優れている、すなわち共振周波数の温度係数(τf)が0ppm/℃付近であること等が挙げられる。
【0004】
ここでτfは、25℃における共振周波数(f25)と、55℃における共振周波数(f55)の値とを用いて、共振周波数温度曲線を直線近似したときの傾き(1次微係数)を表わすものであり、その値はτf=(f55−f25)/(f25・(55℃−25℃))の式によって求められる。
【0005】
従来、上述したような要求を満たし得る高周波用誘電体磁器組成物として、例えばBa(Mg、Co、Ta、Nb)O3系(特許文献1参照)やBa(Mg、Co、Ta、Nb)O3にAl23、Cr23、Y23、Mn23を添加した系(特許文献2参照)等が、既に多数提案されている。
【特許文献1】特開昭61−224211号公報
【特許文献2】特公平5−15006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子機器の低損失化、かつ小型化の要求が高まり、誘電体共振器や誘電体フィルタ等の用途に向けられる高周波用誘電体磁器に要求される誘電特性に関して、より優れたものが必要とされるようになっている。特に、高周波領域で使用しても、高いεr、高いQ値、および高い温度安定性(τfが0ppm/℃付近)を併せ持つ材料に対する要求が高まってきている。
【0007】
ここで、前記特許文献1および2に記載された組成系を有する誘電体磁器組成物は、εrが約26〜32であり、Q値(1GHz)が約120、000〜150、000であり、τfは0±6ppm/℃付近で制御できる、優れた高周波用誘電体材料である。
【0008】
しかしながら、近年の通信技術の進歩に伴い、それを支えるための高性能な高周波用電子部品が必要となっており、そのような高周波用電子部品の開発に不可欠な、従来よりさらに優れた特性を示す高周波用誘電体材料が求められている。
【0009】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、すなわちマイクロ波やミリ波等の高周波領域で使用しても、高いεrと高いQ値を有し、またτfの絶対値が小さい、高周波用誘電体磁器組成物を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を解決するため、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、 組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0.315≦x≦0.345、0.98≦v≦1.03の範囲内にある主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を、合計量で0.001〜1.0重量部含有する。
【0011】
また、この発明の誘電体共振器は、誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器は、上述したこの発明の高周波用誘電体磁器組成物からなる。
【0012】
また、この発明の誘電体フィルタは、上述した誘電体共振器と、この誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備える。
【0013】
また、この発明の誘電体デュプレクサは、少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが、上述したこの発明に係る誘電体フィルタである。
【0014】
さらに、この発明の通信機装置は、上述の誘電体デュプレクサと、この誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、この送信用回路に接続される上述の入出力手段とは異なる、少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備える。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0.315≦x≦0.345、0.98≦v≦1.03の範囲内にある主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を、合計量で0.001〜1.0重量部含有するようにしているので、同一の主成分組成に対して副成分を含有していない場合、すなわち従来の誘電体磁器組成物と比較して、εrを低下させたりτfの絶対値を大きくしたりすることなく、Q×f値を大きく向上させることができ、さらに優れたマイクロ波誘電特性を示す、高周波用誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0016】
したがって、例えば基地局、携帯電話、パーソナル無線機、衛星放送受信機等に搭載される誘電体共振器を小型化し、誘電損失を小さいものとし、また共振周波数の温度安定性を優れたものとすることができる。その結果、このような誘電体共振器を用いれば、小型化され、かつ優れた特性を有する誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置を有利に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、この発明の高周波用誘電体磁器組成物が適用される誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置について説明する。
【0018】
図1は、この発明の高周波用誘電体磁器組成物を用いて構成される誘電体共振器1の基本的構造を図解的に示す断面図である。
【0019】
図1を参照して、誘電体共振器1は、金属ケース2を備え、金属ケース2内の空間には、支持台3によって支持された柱状の誘電体磁器4が配置されている。そして、同軸ケーブル7の中心導体と外導体との間に結合ループ5を形成して入力端子とする。また、同軸ケーブル8の中心導体と外導体との間に結合ループ6を形成して出力端子とする。それぞれの端子は、外導体と金属ケース2とが電気的に接合された状態で、金属ケース2によって保持されている。
【0020】
誘電体磁器4は、入力端子および出力端子に電磁界結合して作動するもので、入力端子から入力された所定の周波数の信号だけが出力端子から出力される。
【0021】
このような誘電体共振器1に備える誘電体磁器4が、この発明の高周波用誘電体磁器組成物から構成される。
【0022】
なお、図1に示した誘電体共振器1は、基地局等で用いられるTE01δモード共振器であるが、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、他のTEモード、TMモード、およびTEMモードなどを利用する誘電体共振器にも同様に適用することができる。
【0023】
図2は、上述した誘電体共振器1を用いて構成される通信機装置の一例を示すブロック図である。
【0024】
図2に示した通信機装置10は、誘電体デュプレクサ12、送信用回路14、受信用回路16およびアンテナ18を含む。
【0025】
送信用回路14は、誘電体デュプレクサ12の入力接続手段20に接続され、受信用回路16は、誘電体デュプレクサ12の出力接続手段22に接続される。
【0026】
また、アンテナ18は、誘電体デュプレクサ12のアンテナ接続手段24に接続される。
【0027】
この誘電体デュプレクサ12は、2つの誘電体フィルタ26、28を含む。誘電体フィルタ26、28は、この発明の誘電体共振器に外部結合手段を接続して構成されるものである。図示の実施形態では、例えば図1に示した誘電体共振器1の入出力端子にそれぞれ外部結合手段30を接続して、誘電体フィルタ26および28のそれぞれが構成される。そして、一方の誘電体フィルタ26は、入力接続手段20と他方の誘電体フィルタ28との間に接続され、他方の誘電体フィルタ28は、一方の誘電体フィルタ26と出力接続手段22との間に接続される。
【0028】
次に、図1に示した誘電体共振器1に備える誘電体磁器4のように、高周波領域において有利に用いられる、この発明の高周波用誘電体磁器組成物について説明する。
【0029】
この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0.315≦x≦0.345、0.98≦v≦1.03の範囲内にある主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を、合計量で0.001〜1.0重量部含有する。
【0030】
この発明において、上述のような特定的な組成を選んだ根拠となる実施例について、以下に説明する。
【実施例】
【0031】
まず、主成分の出発原料として、高純度の炭酸バリウム(BaCO3)、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸コバルト(CoCO3)、酸化タンタル(Ta25)、および酸化ニオブ(Nb25)の各粉末を準備した。
【0032】
これらの各出発原料粉末を、表1〜3に示すa、b、xおよびvにそれぞれ選ばれた、組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成が得られるように調合し、ボールミルを用いて16h湿式混合することで均一に分散させた後、脱水および乾燥処理を施して調整粉末を得た。
【0033】
得られた調整粉末を1100〜1300℃の温度で3h仮焼し、主成分原料粉末とした。
【0034】
次に、副成分の出発原料として、高純度の酸化銅(CuO)および酸化セリウム(CeO2)の各粉末を準備した。
【0035】
前記主成分原料粉末100重量部に対して、これらの副成分出発原料粉末が表1〜3に示す重量部となるように調合し、さらに適量のバインダを加えて、再びボールミルを用いて16h湿式粉砕させた後、脱水および乾燥処理を施して焼成用粉末を得た。
【0036】
そして、この焼成用粉末を、1.47×102〜2.45×102MPaの圧力で円板状にプレス成形した後、1450〜1600℃の温度で4〜24h、大気中あるいは高酸素濃度雰囲気中において焼成し、直径10mm、厚さ5mmの円板状の焼結体を得た。
【0037】
得られた各試料に係る焼結体について、測定周波数(f)を6〜10GHzとして、共振点ピークを両端短絡型誘電体共振器法にて測定し、TE011モードにおける共振点ピーク高さと試料寸法からεrを求めた。また、共振点ピーク形状からQ値を求め、その時の共振周波数によりQ×f値に換算した。さらに、TE01δモードによるキャビティ法にて共振周波数を測定し、25〜55℃の温度範囲でのτfを測定した。
【0038】
上述のようにして測定した、試料組成に対応したεr、Q×f値、およびτfを表1〜3に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の試料である。
【0043】
表1〜3に示すように、主成分が組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0.315≦x≦0.345、0.98≦v≦1.03の範囲内にある試料番号4〜19、26〜37、44〜57、64〜80、および84〜98に係る誘電体磁器組成物によれば、εrが25.0〜33.0と大きく、Q×f値が100、000以上と高く、τfの絶対値が10ppm/℃以内に小さい、優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【0044】
特に前記試料番号中において、主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を、合計量で0.001〜1.0重量部含有する、本発明の範囲内の試料である試料番号5、6、8、9、11〜13、15、16、18、19、27、28、30、31、33、34、36、37、45〜47、49、50、52、53、55〜57、65〜67、69、70、72、73、75、76、78〜80、84〜87、89〜92、および94〜97に係る誘電体磁器組成物によれば、例えば試料番号10(従来の誘電体磁器組成物)と11〜13、および84〜87との比較から分かるように、同一の主成分組成に対して副成分を含有していない場合と比較して、εrを低下させたりτfの絶対値を大きくしたりすることなく、Q×f値を大きく向上させることができ、さらに優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【0045】
これらに対して、この発明の範囲外にある試料について考察する。
【0046】
まず、a<0.1、またはa>0.9の場合は、それぞれ試料番号1〜3と20〜22に示すように、Q×f値が100、000未満となる。
【0047】
次に、b<0.1の場合は、試料番号23〜25に示すように、Q×f値が100、000未満となる。他方、b>0.9の場合は、試料番号38〜40に示すように、εrが25未満となる。
【0048】
次に、x<0.315、またはx>0.345の場合は、それぞれ試料番号41〜43と58〜60に示すように、Q×f値が100、000未満となる。
【0049】
次に、v<0.98の場合は、試料番号61〜63に示すように、焼結性が低下し、1600℃でも焼結しなくなる。他方、v>1.03の場合は、試料番号81〜83に示すように、Q×f値が100、000未満となり、またτfの絶対値が10ppm/℃を超える。
【0050】
次に、試料番号88、93、および98に示す副成分の含有量が1.0重量部を超える場合は、例えば試料番号10(従来の誘電体磁器組成物)と88の比較から分かるように、同一の主成分組成に対して副成分を含有していない場合、すなわち従来の誘電体磁器組成物よりもQ×f値が低下する。
【0051】
なお、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、この発明の目的を損なわない範囲内で、わずかな副成分をさらに含有させてもよい。例えば、ZrO2、SiO2、Li2O、B23、PbO、Bi23、MnO2、NiO、Fe23、Cr23、V25等を0.01〜1.00重量%含有させることで、誘電体磁器の特性を劣化させることなく、焼成温度を20〜30℃低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の高周波用誘電体磁器組成物を用いて構成される誘電体共振器1の基本的構造を図解的に示す断面図である。
【図2】図2に示した誘電体共振器1を用いて構成される通信機装置の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
1 誘電体共振器
2 金属ケース
3 支持台
4 誘電体磁器
5、6 結合ループ
7、8 同軸ケーブル
10 通信機装置
12 誘電体デュプレクサ
14 送信用回路
16 受信用回路
18 アンテナ
20 入力接続手段
22 出力接続手段
24 アンテナ接続手段
26、28 誘電体フィルタ
30 外部結合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Ba{(MgaCo1-ax(TabNb1-b1-xvw(ただし、wは磁器としての電気的中性を保つのに必要な正の数)で表わされる組成を有し、上記組成式におけるa、b、x、およびvが、
0.1≦a≦0.9、
0.1≦b≦0.9、
0.315≦x≦0.345、
0.98≦v≦1.03
の範囲内にある主成分100重量部に対して、CuOおよび/またはCeO2である副成分を、合計量で0.001〜1.0重量部含有することを特徴とする、高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器は、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物からなる、誘電体共振器。
【請求項3】
請求項2に記載の誘電体共振器と、前記誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備える、誘電体フィルタ。
【請求項4】
少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが請求項3に記載の誘電体フィルタである、誘電体デュプレクサ。
【請求項5】
請求項4に記載の誘電体デュプレクサと、前記誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、前記送信用回路に接続される前記入出力手段とは異なる少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備える、通信機装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−217191(P2007−217191A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−20251(P2004−20251)
【出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】