説明

高周波用誘電体磁器組成物およびその製造方法

【課題】 比誘電率εが8〜20で調整可能であり、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】 酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる誘電体磁器組成物であって、組成式 aSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3で表したときに、前記組成式におけるa,b,c,d(ただし、a、b、c、dはモル%である)が、4≦a≦37、25≦b≦92、2≦c≦19、2≦d≦19、a+b+c+d=100の範囲にある高周波用誘電体磁器組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比誘電率εが8〜20で調製可能であり、高周波領域でのQ値が大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの調整が容易に実現できる高周波数用誘電体磁器組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信網の急激な発展に伴い、通信に使用する周波数が拡大すると同時に、マイクロ波領域やミリ波領域の高周波領域に及んでいる。高周波用の誘電体磁器組成物としては、Q値が大きく、さらに共振周波数の温度係数τの絶対値が小さく所望の値に調整できる材料が求められている。比誘電率については、比誘電率εが大きくなるほどマイクロ波回路やミリ波回路の大きさを小さくできる。しかし、マイクロ波領域以上の高い周波数領域に関しては、比誘電率εが大き過ぎると、回路が小さくなりすぎ加工精度が厳しくなるために生産性が低下する。このため、比誘電率εが適度に小さい材料が必要となる。また、使用する周波数によりサイズが変化するために、加工性と小型化の両方を備えたマイクロ波またはミリ波回路とするためには比誘電率εが調製可能な材料であることが望まれる。
【0003】
このような誘電体磁器組成物として従来、BaO−MgO−WO3系材料等(特許文献1参照)や、MgTiO3−CaTiO3系材料(特許文献2参照)などが提案されている。しかし、これらの誘電体磁器組成物はいずれも比誘電率εが15以上であり、使用周波数の高周波数化に伴いさらに低い誘電率を有する誘電体磁器組成物が求められている。また、共振周波数の温度係数τの絶対値が0ppm/℃付近の特性を示す組成領域においては、比誘電率εは比較的狭い範囲でしか調製することができない。
【0004】
一方、アルミナ(Al3)、フォルステライト(Mg2SiO4)、コージェライト(Mg2Al4Si518)などは、優れたQ値を有し回路基板などに用いられている。しかし、共振周波数の温度係数τが−20〜−55ppm/℃であるため、用途が制限されている。
【0005】
さらに、フォルステライト(Mg2SiO4)とチタン酸カルシウム(CaTiO3)およびスピネルからなる磁器組成物(特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、この組成では誘電率の温度依存性が制御されることが開示されているものの、誘電率の値や、その制御の可能性については全く開示されていない。また、フォルステライト(Mg2SiO4)に酸化チタン(TiO2)を加えた磁器組成物(非特許文献1参照)が提案されているが、酸化チタン(TiO2)の添加とともに共振周波数の温度係数τが、徐々にプラス側へシフトしているが、30wt%添加でも、共振周波数の温度係数τが−62ppm/℃と負に大きく実用的でない。
【特許文献1】特開平6−236708号公報(第11頁段落番号(0033)、表1〜8参照)
【特許文献2】特開平6−199568号公報(第5頁段落番号(0018)、表1〜3参照)
【特許文献3】特開2000−344571(第2頁段落番号(0006)参照)
【非特許文献1】Journal of the European Ceramics Society (第23巻(2003)第2575頁、表3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題を解消し、比誘電率εが8〜20で調整可能であり、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる誘電体磁器組成物であって、組成式 aSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3で表したときに、前記組成式におけるa,b,c,d(ただし、a、b、c、dはモル%である)が、4≦a≦37、25≦b≦92、2≦c≦19、2≦d≦19、a+b+c+d=100の範囲にある高周波用誘電体磁器組成物に関する。
【0008】
また、出発原料として、SnTiO4およびMg2SiO4を用いて、所定量を混合、粉砕し、得られた粉末にバインダーを添加して成型、焼成することを特徴とする前記高周波用誘電体磁器組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる特定の誘電体磁器組成物とすることにより、比誘電率が8〜20で調製可能であり、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0010】
また、SnTiO4およびMg2SiO4を用いることで、容易に前記高周波用誘電体磁器組成物を製造する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の高周波用誘電体磁器組成物は、酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる誘電体磁器組成物であって、組成式 aSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3で表わしたときに各成分が、4≦a≦37、25≦b≦92、2≦c≦19、2≦d≦19、a+b+c+d=100の範囲にある高周波用誘電体磁器組成物に関するものである。
【0012】
本発明の高周波用誘電体磁器組成物は、図1のX線回折図が示すように酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる磁器組成物であることが特徴である。また、これら主要成分は、個別に作製したフォルステライト粉末、マグネシウムチタネート粉末を配合、焼成するという工程によって作製可能であるが、フォルステライト粉末に、各主要成分が目的の組成となるように、原料となる、SnO2、TiO2を秤量、混合、仮焼、粉砕、成型、焼成する工程によって作製した場合にも、目的としない結晶相は析出せず、優れた特性を有する磁器組成物が得られる特徴を有している。
【0013】
本発明における高周波用誘電体磁器組成物は、共振周波数fo(GHz)とQ値の積であるQ×fo値がたとえば40000(GHz)以上と高い値を示し、誘電損失の小さい磁器を提供することができる。また、本発明における誘電体磁器組成物は共振周波数の温度変化率(τ)の絶対値が30ppm/℃以下であり、温度による影響の少ない磁器を提供することができる。
【0014】
本発明における高周波用誘電体磁器組成物は、主成分として、酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)からなる磁器組成物であって、組成式 4≦a≦37、25≦b≦92、2≦c≦19、2≦d≦19、a+b+c+d=100で表すことにより特徴付けられる。
【0015】
本発明における組成の限定理由を説明する。組成式 aSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3において、aが4未満では共振周波数の温度変化率(τ)が−30ppm/℃より小さくなり好ましくない。aが37を超えると誘電率が20以上となり好ましくない。さらに、aのより好ましい範囲は、15≦a≦30であるが、この範囲であれば、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が20ppm/℃以下となる。bが25未満では誘電率が20以上となり好ましくなく、bが92を超えると、共振周波数の温度変化率(τ)が−30ppm/℃より小さくなり好ましくない。さらに、bのより好ましい範囲は、40≦a≦70であるが、この範囲であれば、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が20ppm/℃以下となる。cが2未満では、共振周波数の温度変化率(τ)が−30ppm/℃より小さくなり好ましく、cが19を超えると、誘電率が20以上となり好ましくない。さらに、dが2未満では、誘電率が20以上となり好ましくなく、dが19を超えると、共振周波数の温度変化率(τ)が−30ppm/℃より小さくなり好ましくない。
【0016】
上記の組成とすることにより、比誘電率が8〜20で調製可能であり、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0017】
次に、本発明の高周波用誘電体磁器組成物の製造方法を説明する。本発明の高周波用誘電体磁器組成物の最も好ましい製造方法は、原料として、SnTiO4およびMg2SiO4を用いる方法である。この2種類の原料を用いることにより、他の酸化物原料を用いることなく、容易に目的の組成物を得ることができる。その一実施形態は次の通りである。SnTiO4およびMg2SiO4の出発原料を所定量ずつ、水、アルコール等の溶媒と共に湿式混合する。続いて、水、アルコール等を除去した後、粉砕し、酸素含有ガス雰囲気(例えば空気雰囲気)下に1000〜1300℃で約2〜10時間程度仮焼する。これによって得られた仮焼粉を粉砕し、ポリビニルアルコールの如き有機バインダーと共に混合して均質にし、乾燥、粉砕して、加圧成型(圧力100〜1000Kg/cm)する。そして、この成型物を空気の如き酸素含有ガス雰囲気下に1250〜1450℃で焼成すれば、上記組成式で表される高周波用誘電体磁器組成物が得られる。原料として、SnTiO4およびMg2SiO4を用いればよいので、製造の管理が容易であり、容易に目的とする高周波用誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0018】
本発明においては、製造方法は上記製造方法に限定されるものではない。例えば、下記のような製造方法でも目的とする磁器組成物が得られる。酸化スズ(SnO2)と酸化チタン(TiO2)とを所定量のSnTiO4となるように秤量し、これに所定量のフォルステライト(Mg2SiO4)粉末を秤量し、水、アルコール等の溶媒とともに湿式混合する。続いて、水、アルコールを除去した後、粉砕する。このようにして得られた粉末にポリビニルアルコールの如き有機バインダーおよび水を混合して均質にし、乾燥、粉砕、加圧成型(圧力100〜1000kg/cm2程度)する。得られた成型物を空気の如き酸素含有ガス雰囲気下にて1250〜1450℃で焼成することによりaSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3で表される高周波用誘電体磁器組成物が得られる。
【0019】
こうして得られた高周波用誘電体磁器組成物は、そのまま、または必要に応じて、適当な形状およびサイズに加工することで、誘電体共振器として利用できる。また、外部に銀や銅などの導体を形成することにより、いわゆる同軸共振器やこれを利用した同軸型誘電体フィルターなどの高周波部品として利用することも可能である。さらには、板状に加工し、銀や銅などの導体配線を形成することにより、誘電体基板としても利用することができる。
【0020】
本発明の高周波用誘電体磁器組成物は、混合、仮焼、粉砕などの工程を経て得られる誘電体粉末をポリビニルブチラール等の樹脂、フタル酸ジブチル等の可塑剤、およびトルエン等の有機溶剤とを混合し、ドクターブレード法などによるシート成形を行い、得られたシートと導体とを積層化、一体焼成することにより、積層誘電体フィルタなどの積層部品や積層誘電体基板としても利用することができる。
【0021】
なお、スズ、マグネシウム、シリコン、チタンの原料としては、SnO、MgO、SiO、TiO等の他に、焼成時に酸化物となる硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物、有機金属化合物等を使用することができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
SnTiO4を26.8mol%、Mg2SiO4を73.2mol%となるように所定量を秤量し(表1参照)、これらをエタノール、ZrO2ボールと共にボールミルに入れて、12時間湿式混合した。溶媒を脱媒後、得られた混合粉を1100℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼粉をエタノール、ZrO2ボールと共にボールミルに入れて、12時間湿式粉砕した。続いて、水、アルコールを除去した後、このようにして得られた粉末にポリビニルアルコールおよび水を混合して均質にし、乾燥後、直径20mm、厚さ10mmのペレットに成形し、空気雰囲気中、1300℃の温度で2時間焼成した。
【0023】
こうして得られた実施例1の磁器組成物を直径16mmφ、厚み8mmの大きさに加工した後、誘電共振法によって測定し、共振周波数4〜10GHzにおけるQ×fo値、比誘電率、および共振周波数の温度係数τを求めた。その結果を表2に示す。
【0024】
得られた誘電体磁器組成物についてX線回折を行ったところ、酸化スズ(SnO2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、マグネシウムチタネート(MgTi25)結晶相から構成されていることが確認された。図1にそのX線回折図を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
(実施例2〜8)
SnTiO4、Mg2SiO4を表1に示した配合量となるように所定量を秤量し、実施例1と同一条件で混合、仮焼、粉砕、成形し、空気雰囲気下において、1150℃〜1450℃の温度にて2時間焼成して誘電体セラミックスを作製し、実施例1と同様な方法で特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0028】
(比較例1〜2)
SnTiO4、Mg2SiO4を表1に示した配合量となるように所定量を秤量し、実施例1と同一条件で混合、仮焼、粉砕、成形し、空気雰囲気下において、1150℃〜1450℃の温度にて2時間焼成して誘電体セラミックスを作製し、実施例1と同様な方法で特性を評価した。その結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、比誘電率が8〜20で調製可能であり、Q×fo値も大きく、さらに共振周波数foの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物を提供することができる。したがって、通信用のフィルターなどとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の高周波用誘電体磁器組成物のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式 aSnO2−bMg2SiO4−cMgTi25−dMgSiO3で表わされ、前記組成式におけるa、b、c、d(ただし、a、b、c、dはモル%である)が、4≦a≦37、25≦b≦92、2≦c≦19、2≦d≦19、a+b+c+d=100の範囲にある高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
SnTiO4およびMg2SiO4を出発原料として用い、所定量を混合、粉砕し、得られた粉末にバインダーを添加して成型し、焼成することを特徴とする請求項1記載の高周波用誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24082(P2010−24082A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186611(P2008−186611)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】