説明

高周波誘導加熱コイル及び高周波誘導加熱方法

【課題】加熱設備の費用を増大させる高周波誘導加熱コイルの偏芯機構や追従機構及びこれらの制御回路が無くとも、カムトップとカムベースを均一に加熱して焼入硬化層深さを一定にし、過熱組織のない優れた焼入品質を得ることが可能な高周波誘導加熱コイル及び高周波誘導加熱方法を提供する。
【解決手段】回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品たるカムシャフト50の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイル1において、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリット5を有する1つの円環状の第1加熱導体2と、第1加熱導体2の外周領域に配置され、かつスリット5を挟んで第1加熱導体2の外周部の、スリット5によって形成された一対の端部6以外の位置に一端が接続される第2加熱導体3a,3bと、一端が第2加熱導体3a,3bに接続され、かつ他端が高周波電源20に接続される一対の給電導体4a,4bと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状部品の外周面、特に回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品、例えば、カムシャフトのカム外周面を熱処理するための高周波誘導加熱コイルと、当該高周波誘導加熱コイルを用いた高周波誘導加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(a)〜(d)は、内燃機関のカムシャフトの概観図であって、1シリンダ当たり3つのカム52,53,54を有するカムシャフト50の例を示すものであり、3つのカム52,53,54は、図6(a)に示すように、左右両側のジャーナル51,51の間に位置し、回転軸Lの方向に沿ってそれぞれ所要の間隔を空けて配置されている。そして、カムトップ52a及びカムベース52bが図6(b)に示す位置にある第1カム52に対して、第2カム53のカムトップ53a及びカムベース53bと第3カム54のカムトップ54a及びカムベース54bは、図6(c)、(d)に示すように、円周方向の位相がそれぞれα°、β°ずれて設定されている。
【0003】
現状のカムシャフト50の第1カム52、第2カム53或いは第3カム54を熱処理する場合は、図5に示すように、円環状高周波誘導加熱コイル10の中心O1とカムシャフト50の中心O2とを一致させ、この状態でカムシャフト50の中心O2の周りに回転力を付与することによって第1カム52(或いは、第2カム53または第3カム54)を焼入温度まで加熱し、その後、図外の冷却手段により第1カム52(或いは、第2カム53または第3カム54)を急速冷却して焼入処理を行うことが通例である(特許文献1の図4、特許文献2の図3、特許文献3の図7、特許文献4の図10)。なお、図5において、符号20は高周波電源、符号4a,4bは給電導体、符号5は円環状導体2のスリット、符号6はスリット5により形成される円環状導体2の一対の端部である。
【0004】
ところが、上述した従来の第1カム52(或いは、第2カム53または第3カム54)の焼入方法では、図5に示すように、カムトップ52aの焼入硬化層100の深さd1とカムベース52bの焼入硬化層100の深さd2とが極端に異なるという問題を有している。そこで、この問題を解決するために、以下のような焼入技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献4の中で従来技術の一つとして図12及び図14に示すようなカムプロファイルに合わせた内面形状の高周波誘導加熱を用いて、カムシャフトは回転させずにカムを加熱する焼入方法が述べられている。
また、特許文献4は、円環状高周波誘導加熱コイルを用いて、そのコイル中心とカムシャフトの回転中心軸とを一致させずに偏芯させて、円環状高周波誘導加熱コイルの内周面とカムのカムトップ及びカムベースとの各距離が略同じとなるように設定することにより、加熱時の温度差を小さくする技術である。この技術は、上述のカムプロファイルに沿った内面形状の高周波誘導加熱コイルによる加熱と同様、カムシャフトを回転させていない。
【0006】
さらに、特許文献1及び3の焼入装置のように、前記偏芯状態でカムシャフトを回転させて加熱するために、円環状高周波誘導加熱コイルとカムトップとの距離が一定となるように、カムに対して円環状高周波誘導加熱コイルを追従運動させる機構を備える技術もある。
また、特許文献2のように、円環状高周波誘導加熱コイルを用いることなく半開放鞍型(U字型)コイルを用いて、カムシャフトを回転させながらカムトップ近傍が加熱導体に接近したときは加熱出力を低く、カムベース近傍が加熱導体に接近したときは加熱出力を高くする技術について述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−131637号公報
【特許文献2】特開2001−131638号公報
【特許文献3】特開2002−167620号公報
【特許文献4】特開2002−356719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の焼入方法等のうち、円環状高周波誘導加熱コイル10の中心O1とカムシャフト50の中心O2とを一致させる方法では、図5に示すように、第1カム52のカムトップ52aと高周波誘導加熱コイル10の円環状導体2の内径との距離g1と、第1カム52のカムベース52bと高周波誘導加熱コイル10の円環状導体2の内径との距離g2の関係は、常にg1<g2であり、焼入硬化層100は、図示の如く、カムトップ52aの深さd1の方がカムベース52bの深さd2よりも深く焼入されることになる。
このように、カムトップ52aの方がカムベース52bよりも深く焼入されるということは、カムトップ52aとカムベース52bとで加熱中に温度差が生じていた結果であり、カムトップ52aが適正焼入温度のときに、カムベース52bは適正焼入温度に到達していないことがある。また、カムベース52bが適正焼入温度になったときに、カムトップ52aは過熱状態になることもある。
【0009】
このため、特許文献4の図12及び図14で示すように、カムプロファイルに合わせた内面形状の高周波誘導加熱コイルを用いて、カムベースとカムトップの温度差を小さくしてカムトップの過熱状態を解消する焼入方法が提案されている理由であるが、このような加熱コイルは、従来の円環状高周波誘導加熱コイルよりも製作が煩雑であり、カムシャフトの製作コストが高価になってしまうという問題点を有していた。
【0010】
また、上述した特許文献1、3、4の技術は、いずれも安価な円環状高周波誘導加熱コイルを用いて、カムトップの過熱を回避しつつカムの回転軸に直交する平面で切った断面での焼入硬化層深さを揃えるために提案されたものであるが、これら3つの技術を実施するに当りカムの回転中心から円環状高周波誘導加熱コイルの中心を移動させるために、直交する2方向の偏芯機構とその制御回路などが必要になる。さらに特許文献1と3の技術を実施する場合は、上述の偏芯機構とその制御回路に加えて、加熱中にカムトップの運動に対応して高周波誘導加熱コイルを追従させるための追従機構とそれを制御する制御回路が必要になる。
特許文献2の技術は特許文献1、3、4の技術のような偏芯機構と制御回路や追従機構とその制御回路こそ必要としないが、回転中のカム部の位相に応じて加熱出力を増減する加熱制御回路が必要となる。また、特許文献2に採用される半開放鞍型(U字型)高周波誘導加熱コイルは、カム部全周に加熱導体が対向配置されないので、カム部全周を囲む円環状加熱コイルと比べて加熱効率が低くなり、その加熱効率の低さを補うために加熱出力を増加させなければならず、ランニングコストが他の3つの技術に比べ高価になる。そして、いずれの従来技術についても、高周波誘導加熱コイルとカムの位相を決めるための位相決め機構は必要不可欠となるので、焼入設備は段落[0003]に述べた焼入方法を採るものよりも高価になる。
【0011】
一般に、図5及び図6に示すようなカムシャフト50は、シリンダ1つ当たり複数のカムを備えており、複数のカム52,53,54は、それぞれ位相が異なっていることが多い。重機などの大型エンジン用のカムシャフトのカムを熱処理する場合、カムそれ自体が大きく、1つのカム毎に熱処理するために上述した従来技術の焼入方法を適用することは可能である。
しかし、自動車などの小型エンジン用のカムシャフトのカムを熱処理する場合は、生産量が多く、複数のカムを同時に焼入処理することが求められるため、1つのシリンダに対応する位相の異なる複数のカムのそれぞれに対して、対応する高周波誘導加熱コイルをそれぞれ位相決めする必要がある。
さらに、各カムに対して対応する高周波誘導加熱コイルをそれぞれ追従運動させるようにすると、追従機構が複数個(1回に熱処理するカムと等しい数)必要になる。そのため、焼入設備が1つのカムを熱処理する焼入設備よりも高価になり、カムのサイズが小さくなると、上述した従来技術を適用することが困難になる場合も起こる。
【0012】
また、既述の特許文献1〜4に記載の技術は、上述したとおり、機械構成が複雑であり、設備費も高価になる傾向があることから、図5に示すように、円環状高周波誘導加熱コイル10を用いてそのコイル中心O1とカムシャフト50の回転中心O2とを一致させる焼入方法において、カムトップ52a,53a,54aとカムベース52b,53b,54bとの温度差発生の問題を高周波電源20の周波数選定や焼入加熱条件選定で回避しているのが実情である。しかし、このような選定による回避手法では、温度差を完全には解消することができず、カム形状(カムプロファイル)によってはカムトップ52a,53a,54aが若干の過熱状態を呈していることもある。
【0013】
以下に、図5に示す円環状高周波誘導加熱コイル10を用いての現状のカムシャフト50の1箇所のカムを高周波焼入処理する場合の具体例を記載する。
(1) 焼入対象部品 :カムシャフトのカム部
(a)カムベース円外径 :φ30 mm
(b)カムベース外径とカムトップ外径との差 : 5 mm
(2) 高周波焼入条件
(a)周波数 :30 kHz
(b)加熱出力 :28 kW
(c)加熱時間 :5.0 sec
(d)空冷時間 :0.5 sec
(e)冷却時間 :10.0 sec
(f)カムシャフト回転数 :180 r.p.m.
上記条件の下で高周波焼入処理を実施した場合のカムトップの焼入硬化層深さは5.9mmとなり、カムベースの焼入硬化層深さは3.9mmとなり、カムトップとカムベースの焼入硬化層深さの差は2.0mmとなっている。
【0014】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、加熱設備の費用を増大させる高周波誘導加熱コイルの偏芯機構や追従機構及びこれらの制御回路が無くとも、カムトップとカムベースを均一に加熱してカムの回転軸に直交する平面で切った断面での焼入硬化層深さを一定にし、過熱組織のない優れた焼入品質を得ることが可能な高周波誘導加熱コイル及び高周波誘導加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイルにおいて、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている。
【0016】
また、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイルにおいて、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている。
【0017】
さらに、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱するようにしている。
【0018】
そして、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱するようにしている。
【0019】
また、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱するようにしている。
【0020】
さらに、本発明は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱するようにしている。
【発明の効果】
【0021】
上述の如く、本発明に係る高周波誘導加熱コイルは、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するものであって、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えているので、円環状の第1加熱導体の中心からの円周方向の磁場を第2加熱導体の近傍で第1加熱導体の近傍よりも弱くすることができる。したがって、本発明に係る高周波誘導加熱コイルを用いれば、第2加熱導体の近傍に、過熱し易く、回転中心軸から外周面までの距離が最大となる金属部品の外周面領域を対向配置することにより、局部的な過熱を回避して金属部品の外周面を均一に加熱することができ、品質の優れた硬化層を有する金属部品、例えばカムシャフトを製造することができる。
【0022】
また、本発明に係る高周波誘導加熱コイルは、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイルにおいて、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えているので、上記発明と同様の効果を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明に係る高周波誘導加熱方法は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱するようにしているので、回転中心軸からの距離が最大となる外周面領域の局部的な過熱を回避し、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を均一に加熱することができ、その結果、過熱組織のない優れた焼入品質の金属部品、例えばカムシャフトを製造することができる。
【0024】
そして、本発明に係る高周波誘導加熱方法は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱するようにしているので、回転中心軸からの距離が最大となる外周面領域の局部的な過熱を回避し、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を均一に加熱することができるとともに、加熱時に金属部品を回転させる工程を加えることで回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面の加熱温度分布を調整することができる。したがって、本発明に係る高周波誘導加熱方法によれば、外周面に均一な深さの焼入硬化層を有する優れた焼入品質の金属部品、例えばカムシャフトを製造することができる。
【0025】
また、本発明に係る高周波誘導加熱方法は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱するようにしているので、回転中心軸からの距離が最大となる外周面領域の局部的な過熱を回避し、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を均一に加熱することができ、その結果、過熱組織のない優れた焼入品質の金属部品、例えばカムシャフトを製造することができる。
【0026】
さらに、本発明に係る高周波誘導加熱方法は、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱するようにしているので、回転中心軸からの距離が最大となる外周面領域の局部的な過熱を回避し、回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を均一に加熱することができるとともに、加熱時に金属部品を回転させる工程を加えることで回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面の加熱温度分布を調整することができる。したがって、本発明に係る高周波誘導加熱方法によれば、外周面に均一な深さの焼入硬化層を有する優れた焼入品質の金属部品、例えばカムシャフトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る高周波誘導加熱コイルを示す概観図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係る高周波誘導加熱コイルを示す概観図である。
【図3】本発明の上記2つの実施形態に係る高周波誘導加熱コイルを3巻き直列にした場合の変形例を示す概念図である。
【図4】本発明の実施形態の他の変形例に係る高周波誘導加熱コイルを示す概観図である。
【図5】従来の円環状高周波誘導加熱コイルを示す概観図である。
【図6】円周方向の位相が異なる3つのカムを備えた被処理物であるカムシャフトを示すものであり、(a)はカムシャフトの概観図、(b)は第1カムの概観断面図、(c)は第2カムの概観断面図、(d)は第3カムの概観断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の高周波誘導加熱コイル及び高周波誘導加熱方法を図1及び図2で示す実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、図1及び図2において、同様の部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付すとともに、図5及び図6の例と同様の部分及び同一の機能を有する部分にも同一の符号を付し、重複した説明を省略するものとする。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る高周波誘導加熱コイルの概観を示すものである。この高周波誘導加熱コイル1は、金属部品(軸状部品)であるカムシャフト50のカム52(若しくは、カム53またはカム54)の外周に配置され、カム52(若しくは、カム53またはカム54)の外周面を加熱して焼入処理するための加熱コイルである。そのため、高周波誘導加熱コイル1は、円周上の1箇所に円環状体を切るように径方向へ延びて配されるスリット5を有する円環状の第1加熱導体2と、当該円環状の第1加熱導体2の外周領域に離間して配置され、かつスリット5を挟んで当該円環状の第1加熱導体2の外周部の、スリット5によって形成された一対の端部6以外の位置に一端が接続される第2加熱導体3a,3bと、一端が第2加熱導体3a,3bの第1加熱導体2に接続されていない端部に接続され、かつ他端が高周波電源20に接続される一対の給電導体4a,4bとにより、構成されている。第2加熱導体3a,3bは、合わせた態様で中心角がθの略扇型形状に形成されている。
また、図1中の矢印は、ある瞬間における高周波電流の流れを示している。さらに、図1において、符号O1は円環状の第1加熱導体2の中心を示し、符号O2はカムシャフト50の回転中心を示している。
【0030】
図2は、本発明の別の実施形態に係る高周波誘導加熱コイルの概観を示すものである。この高周波誘導加熱コイル7は、カムシャフト50のカム52(若しくは、カム53またはカム54)の外周に配置され、カム52(若しくは、カム53またはカム54)の外周面を加熱して焼入処理するための加熱コイルである。そのため、高周波誘導加熱コイル7は、円周上の2箇所にそれぞれ円環状体を切るように径方向へ延び、円周方向に間隔を空けて配されるスリット5a,5bを有する円環状の第1加熱導体2と、当該円環状の第1加熱導体2の外周領域に離間して配置され、かつ当該円環状の第1加熱導体2の一方のスリット5bを挟んで両端が当該円環状の第1加熱導体2の外周部の、一方のスリット5bによって形成された一対の端部6b以外の位置に一端が接続される第2加熱導体3と、他方のスリット5aによって形成された一対の端部6aにそれぞれ一端が接続され、かつ他端が高周波電源20に接続される一対の給電導体4a,4bとにより、構成されている。第2加熱導体3は、中心角がθの略扇型形状に形成されている。
また、図2中の矢印は、ある瞬間における高周波電流の流れを示している。さらに、図2において、符号O1は円環状の第1加熱導体2の中心を示し、符号O2はカムシャフト50の回転中心を示している。
【0031】
なお、図1に示す実施形態の第2加熱導体3a,3bの中心角θ、並びに、図2に示す別の実施形態の第2加熱導体3の中心角θは、焼入処理されるカムシャフト50のカム52(若しくは、カム53またはカム54)の形状、大きさなどに対応させて、適宜選定される角度である。
【0032】
次に、図1に示した本発明の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いて、被処理物のカムシャフト50を高周波誘導加熱して焼入する第1の方法、手順を説明する。なお、図2に示した本発明の別の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル7を用いて、カムシャフト50を高周波誘導加熱して焼入する方法は、高周波誘導加熱コイル1を用いる場合と同様であるので、異なる手順を除いてその焼入方法の説明を省略する。
先ず、高周波誘導加熱コイル1の円環状の第1加熱導体2の中心O1とカムシャフト50の回転中心O2との位置を一致させるとともに、図外の位相決め機構により、第1加熱導体2に設けられた1箇所のスリット5と、カムシャフト50のカム52,53,54のうち、例えばカム52のカムトップ52aとが対向するように配置する。
一方、図2に示した高周波誘導加熱コイル7を用いる場合は、第2加熱導体3が跨ぐスリット5bとカム52のカムトップ52aとが対向するように配置することになる。
次いで、カムシャフト50を回転させずに、高周波電源20から高周波変成器(図示せず)及び給電導体4a,4bを順次に介して、矢印で示すように、高周波誘導加熱コイル1に高周波電流を供給する。
【0033】
このとき、カム52の表面には、高周波誘導加熱コイル1に流れる高周波電流とは反対方向に高周波誘導電流が流れて高周波誘導加熱されることになる。このようにして、カム52の表面を所要の焼入温度まで高周波誘導加熱した後に、図示しない冷却噴射手段から冷却液を当該カム52に噴射して急速冷却する。すると、カム52の外周面には、焼入硬化層100が形成され、カムシャフト50のカム52の表面に対する一連の高周波焼入処理作業が完了することになる。
したがって、本実施形態の高周波誘導加熱コイル1を用いてカムシャフト50のカム52を焼入処理すると、体積が小さく過熱し易いカムトップ52aは、距離g3(≧距離g2)を空けて離れた第2加熱導体3a,3bによって高周波誘導加熱されるため、過熱されることなく、カムベース52bと略同じ焼入温度に加熱されることになる。その結果、カム52の表面に形成される焼入硬化層100のカムトップ52a側の焼入硬化層深さd1と、カムベース52b側の焼入硬化層深さd2は、d1≒d2となる。
【0034】
また、図1に示した本発明の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いて、カムシャフト50を高周波誘導加熱して焼入する第2の方法、手順を説明する。
先ず、高周波誘導加熱コイル1の円環状の第1加熱導体2の中心O1とカムシャフト50の回転中心O2との位置を一致させるとともに、図外の位相決め機構により、第1加熱導体2に設けられた1箇所のスリット5とカムシャフト50のカム52,53,54のうち、例えばカム52のカムトップ52aとが対向するように配置する。
一方、図2に示した高周波誘導加熱コイル7を用いる場合は、第2加熱導体3が跨ぐスリット5bとカム52のカムトップ52aとが対向するように配置すればよい。
次いで、カムシャフト50を回転させずに、高周波電源20から高周波変成器(図示せず)及び給電導体4a,4bを順次に介して、矢印で示すように、高周波誘導加熱コイル1に所要時間にわたり高周波電流を供給する。そして、所要時間経過後、高周波誘導加熱コイル1に高周波電流を供給しながらカムシャフト50に対して回転軸Lの周りに回転力を与え、所要時間にわたりカムシャフト50を回転させながら高周波誘導加熱を続ける。このようにして、カム52の表面を所要の焼入温度まで高周波誘導加熱した後に、図示しない冷却噴射手段から冷却液を当該カム52に噴射して急速冷却する。すると、カム52の外周面には、焼入硬化層100が形成され、カムシャフト50のカム52の表面に対する一連の高周波焼入処理作業が完了することになる。
したがって、上述した焼入方法で本実施形態の高周波誘導加熱コイル1を用いてカムシャフト50のカム52を焼入処理すると、カムシャフト50を回転させずに高周波誘導加熱する段階では、体積が小さく過熱し易いカムトップ52aは距離g3(≧距離g2)を空けて離れた第2加熱導体3a,3bによって高周波誘導加熱され、カムシャフト50を回転させながら高周波誘導加熱する段階では、体積が小さいカムトップ52aが第1加熱導体2によって高周波誘導加熱される時間帯が生ずるため、既述の焼入方法よりも若干カムトップ52aの温度を高くすることが可能となる。その結果、カム52の表面に形成される焼入硬化層100のカムトップ52a側の焼入硬化層深さd1と、カムベース52b側の焼入硬化層深さd2は、d1≧d2となる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いてカムシャフトの1箇所のカムを高周波焼入処理する場合の具体的な実施例を示す。
(1) 焼入対象部品 :カムシャフトのカム部
(a)カムベース円外径 :φ30 mm
(b)カムベース外径とカムトップ外径との差 : 5 mm
(2) 高周波焼入条件
(a)周波数 :30 kHz
(b)加熱出力 :31 kW
(c)加熱時間 :5.0 sec
(d)空冷時間 :0.5 sec
(e)冷却時間 :10.0 sec
(f)カムシャフト回転数 :加熱中回転無し
【0036】
上記高周波焼入条件の下で高周波焼入処理を実施したところ、カムトップの焼入硬化層深さは4.5mm、カムベースの焼入硬化層深さは4.0mmであり、カムトップとカムベースの焼入硬化層深さの差は0.5mmとなった。
したがって、本発明の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いてカムシャフトの1箇所のカムを高周波焼入処理する場合は、従来の円環状高周波誘導加熱コイル10を用いて現状のカムシャフトの1箇所のカムを高周波焼入処理する場合に、カムトップとカムベースの焼入硬化層深さの差が2.0mmであるのと比べて、大幅に減少していることが確認できた。また、本実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いてカムシャフトの1箇所のカムを高周波焼入処理する場合は、カムトップにおいて過熱組織も観察されることはなくなり、カム部全体で良好な焼入組織を得ることができた。
【0037】
また、本発明の実施形態に係る高周波誘導加熱コイル1を用いて、カムシャフトを高周波誘導加熱する第2の焼入方法は、第1の焼入方法による熱処理でカムトップの焼入深さがカムベースの焼入深さよりも浅くなる場合に有効である。例えば、あるカムプロファイルに合わせて製作した本発明の実施形態による高周波誘導加熱コイル1を類似寸法でカムプロファイルの異なる別のカム部を高周波誘導加熱する場合に適用することができる。カムシャフトを回転させずに高周波誘導加熱を行った場合に、カムトップの温度がカムベースに比べて低いから、カムシャフトを回転させずに高周波誘導加熱を行った後、引き続きカムシャフトを回転させて高周波誘導加熱を行うことにより、カムトップが第2加熱導体3a,3bよりも近い距離に位置する第1加熱導体2にて高周波誘導加熱される時間が生ずることになる。これにより、カムシャフトの回転無しの時には不足していた熱量を補うことが可能となり、その結果、カムにおけるカムトップとカムベースをほぼ均一な温度に加熱することができる。
【0038】
以上、本発明の2つの実施形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、既述の実施形態においては、単独のカム部を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱コイル1,7について述べたが、図3に示すように、図1及び図2の高周波誘導加熱コイルを3巻き直列にそれぞれ接続することにより構成される高周波誘導加熱コイル8を用いることも可能である。このような高周波誘導加熱コイル8によれば、図6に示す各位相の異なる3つのカム52,53,54部に対応して3巻き直列のコイルを配置し、位相の異なる3つのカム52,53,54を1工程で高周波焼入処理することができる。
【0039】
また、特殊な形状のカムに適用する場合は、図4に示すように、第2加熱導体を複数個所に設けた高周波誘導加熱コイル9を用いることも可能である。この高周波誘導加熱コイル9は、円周上の3箇所にそれぞれ円環状体を切るように径方向へ延び、円周方向に間隔を空けて配されるスリット5a,5b,5cを有する円環状の第1加熱導体2a,2b,2cと、当該円環状の第1加熱導体2a,2b,2cの外周領域に離間して配置され、かつ当該円環状の第1加熱導体2a,2b,2cのスリット5b,5cを挟んで両端が当該円環状の第1加熱導体2a,2b,2cの外周部の、スリット5b,5cによって形成された一対の端部6b,6c以外の位置に一端が接続される中心角がθ1,θ2の略扇型形状の第2加熱導体3a,3bと、スリット5aによって形成された一対の端部6aにそれぞれ一端が接続され、かつ他端が高周波電源20に接続される一対の給電導体4a,4bとにより、構成されている。このような高周波誘導加熱コイル9によれば、特殊な形状のカムに適用する場合であっても、カム外周面に形成される焼入硬化層深さがほぼ均等となり、カム部全体が良好な焼入組織を有する品質の優れたカムシャフトを得ることができる。
さらに、既述の実施形態では、高周波誘導加熱コイル1,7を用いて高周波焼入処理する方法について述べたが、本発明は、高周波誘導加熱コイル1,7を用いて高周波焼戻処理する方法にも適用するが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1,7,8,9 高周波誘導加熱コイル
2,2a,2b,2c 第1加熱導体
3,3a,3b 第2加熱導体
4a,4b 給電導体
5,5a,5b,5c スリット
6,6a,6b,6c 第1加熱導体の一対の端部
20 高周波電源
50 カムシャフト
52 第1カム
52a 第1カムのカムトップ
52b 第1カムのカムベース
53 第2カム
53a 第2カムのカムトップ
53b 第2カムのカムベース
54 第3カム
54a 第3カムのカムトップ
54b 第3カムのカムベース
100 カムの焼入硬化層
O1 第1加熱導体の中心
O2 カムシャフトの回転中心
d1 カムトップの焼入硬化層深さ
d2 カムベースの焼入硬化層深さ
g1 第1加熱導体とカムトップとの距離
g2 第1加熱導体とカムベースとの距離
g3 第2加熱導体とカムトップとの距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイルにおいて、
円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、
前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、
一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、
を備えていることを特徴とする高周波誘導加熱コイル。
【請求項2】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱する高周波誘導加熱コイルにおいて、
円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、
前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、
残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、
を備えていることを特徴とする高周波誘導加熱コイル。
【請求項3】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、
前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、
前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、
加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【請求項4】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の1箇所に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、前記スリットによって形成された一対の端部以外の位置に一端が接続される第2加熱導体と、一端が前記第2加熱導体に接続され、かつ他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、
前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、
前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、
加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【請求項5】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、
前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、
前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、
加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を回転させずに高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱方法。
【請求項6】
回転中心軸から外周面までの距離が一定でない金属部品の外周面を加熱するに際し、円環状体を切るように円周上の2箇所以上に配されるスリットを有する1つの円環状の第1加熱導体と、前記第1加熱導体の外周領域に配置され、かつ1箇所以上に配された前記スリットを挟んで前記第1加熱導体の外周部の、1箇所以上に配された前記スリットによって形成された一対以上の端部以外の位置に両端が接続される1つ以上の第2加熱導体と、残りの1箇所の前記スリットにより形成される一対の端部にそれぞれ一端が接続され、かつそれぞれの他端が高周波電源に接続される一対の給電導体と、を備えている高周波誘導加熱コイルを用い、
前記第1加熱導体の中心と、前記金属部品の回転中心とを一致させ、
前記回転中心軸からの距離が最大となる前記金属部品の外周面領域を前記第2加熱導体に対向するように配置し、
加熱時には、前記高周波電源から前記給電導体を介して前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給し、前記金属部品を高周波誘導加熱開始から一定時間は回転させずに高周波誘導加熱し、一定時間経過後、前記金属部品を前記回転中心軸の周りに回転させながら高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23740(P2013−23740A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160913(P2011−160913)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000217653)電気興業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】