説明

高周波電源装置

【課題】直流電圧をインバータ回路により高周波交流電圧に変換して負荷に供給する高周波電源装置の構成の簡素化を図る。
【解決手段】DC−DCコンバータ2と、コンバータ2の出力電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路3と、負荷に与えられる高周波電力の電力値を設定値に近づけるようにDC−DCコンバータを制御する電力制御部15と、インバータ回路3の出力電流の出力電圧に対する位相を遅れ位相とする状態を維持するようにインバータ回路3の出力周波数を制御する常時周波数制御と電力抑制指令が発生したときに負荷に与える電力を抑制するためにインバータ回路3の出力周波数を上昇させる電力抑制時周波数上昇制御とを行う周波数制御部12とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置等の負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置などの負荷に高周波電力を供給す高周波電源装置として、特許文献1や特許文献2に示されているように、商用交流電圧を直流電圧に変換する整流平滑回路とこの整流平滑回路から得られる直流電圧を一旦交流電圧に変換した後再度直流電圧に変換することにより適宜に変圧された直流電圧を出力するDC−DCコンバータとを備えた直流電源部と、この直流電源部の出力を高周波交流電力に変換するインバータ回路とを備えて、インバータ回路から得られる高周波電力を負荷に供給するようにしたものが用いられている。
【0003】
プラズマ処理装置などの負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置では、インバータ回路から負荷に与える高周波電力を設定値に保つ制御を行う必要がある。そのため、従来のこの種の高周波電源装置では、インバータ回路に入力する直流電力を発生するDC−DCコンバータの出力電圧を制御することにより、負荷に供給される高周波電力を制御している。
【0004】
プラズマ負荷などに高周波電力を供給する高周波電源装置においては、出力電力を抑制する制御を行うことが必要になることがある。例えば、何らかの原因により、高周波電源装置から負荷側を見たインピーダンスが低下すると、高周波電源装置から負荷に与えられる進行波電力が過渡的に大きく増大することがあり、この進行波電力の増大により負荷が破損したり、負荷から高周波電源装置に戻ってくる反射波電力により電源装置が破損したりするおそれがある。
【0005】
負荷のインピーダンスの低下は、例えば負荷がプラズマ処理装置である場合には、プラズマ処理中にアークの発生を伴う異常放電が生じたときに起こる。プラズマ処理中にアークの発生を伴う異常放電が持続すると被加工物が損傷するため、異常放電が生じたことが検出されたときには負荷に供給する電力を直ちに低下させることが必要になる。
【0006】
そこで、負荷に供給する電力を抑制するために、直流電源部の出力電圧を低下させる制御を行うことが考えられるが、直流電源部を構成する整流平滑回路には静電容量が大きい平滑用コンデンサが設けられているため、負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときに、直流電源部の出力電圧を直ちに低下させることはできない。
【0007】
負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときに、直流電源部の出力を低下させて、負荷や電源装置の保護を的確に図るためには何らかの工夫が必要である。特許文献2に示された高周波電源装置では、負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときに、整流平滑回路の平滑用コンデンサを強制的に放電させる手段を設けることにより、負荷に供給する高周波電力を短時間で低下させることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−185000号公報(図4)
【特許文献2】特開2003−143861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の高周波電源装置においては、負荷に供給する高周波電力を抑制する必要が生じたときに、直流電源部の出力を直ちに低下させることを可能にするために特別の工夫をする必要があったため、直流電源部の構成が複雑になるという問題があった。
【0010】
なお直流電源部の出力電圧を一定として、インバータ回路のスイッチ素子をPWM制御することにより,負荷に供給する電力を設定値に保つ制御を行うことも考えられる。しかしながら、インバータ回路のスイッチ素子のPWM制御は、インバータ回路の出力周波数よりも遙かに高い周波数でスイッチ素子をオンオフさせることにより行う必要があるため、インバータ回路の出力周波数が高い場合(現状のスイッチ素子の性能では、例えば数10乃至数100MHzの場合)には採用することが困難である。
【0011】
本発明の目的は、直流電源部の構成を複雑にすることなく、負荷に供給する高周波電力を必要時に瞬時に抑制することができる高周波電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、交流電圧を整流する整流平滑回路と該整流平滑回路の出力電圧を指令値により指令された大きさを有する直流電圧に変換するDC−DCコンバータとを有する直流電源部と、この直流電源部の出力電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路とを備えて、インバータ回路から得られる高周波電力を負荷に供給するように構成された高周波電源装置を対象とする。本発明が対象とする高周波電源装置では、インバータ回路の出力端子から負荷側を見た回路が直列共振特性を示すように構成されている。本願においては、前記の目的を達成するために、少なくとも以下に示す第1ないし第10の発明が開示される。
【0013】
第1の発明
本願に開示される第1の発明においては、負荷に供給される高周波電力を検出する電力検出部と、負荷に与える高周波電力を抑制することを指令する電力抑制指令を発生する電力抑制指令発生部と、インバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出する位相差検出部と、電力抑制指令が発生していないときには電力検出部により検出される高周波電力の電力値を設定値に近づけるようにDC−DCコンバータに指令値を与え、電力抑制指令が発生している状態では負荷に供給する高周波電力を増加させないようにDC−DCコンバータに指令値を与える電力制御部と、位相差検出部により検出された位相差と電力抑制指令とに応じてインバータ回路の出力周波数を制御する周波数制御部とが設けられる。
【0014】
上記周波数制御部は、(a)電力抑制指令が発生していない定常時に、インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相を予め定められた目標遅れ位相に保つように前記インバータ回路の出力周波数を制御する定常時周波数制御と、(b)電力抑制指令が発生したときにインバータ回路の出力周波数を、負荷に与える高周波電力を抑制するのに適した値に設定された電力抑制時周波数まで上昇させる電力抑制時周波数上昇制御とを行うように構成される。
なお「負荷に与える高周波電力を抑制する」とは、負荷に与える電力を負荷に悪影響を及ぼすことがない範囲(許容範囲内)の大きさにまで低下させることである。
【0015】
インバータ回路から直列共振特性を有する負荷に高周波電力を供給する電力供給システムにおいて、インバータ回路の出力周波数を負荷側回路のインピーダンスが容量性を示す領域に設定した場合には、インバータ回路において、スイッチ素子がオン状態になった瞬間に電流が流れるハードスイッチング(hard switching)が起り、異常電圧が発生して大きな損失をもたらすことが知られている。したがって、インバータ回路から直列共振特性を有する負荷に電力を供給する場合には、特別な理由がない限り、インバータ回路の出力周波数を、負荷のインピーダンスが誘導性を示す領域(インバータ回路の出力電流の位相が出力電圧に対して遅れ位相となる周波数領域)に設定する。このように、インバータ回路の出力周波数が、インバータ回路から負荷側を見た回路のインピーダンスを誘導性とする領域にある場合には、インバータ回路の出力周波数を上げることにより、負荷に供給される電力を減少させることができ、インバータ回路の出力周波数を下げることにより、負荷に供給される電力を増大させることができる。
【0016】
従って、位相差検出部により検出された位相差と電力抑制指令とに応じてインバータ回路の出力周波数を制御する周波数制御部を設けて、該周波数制御部が、インバータ回路の出力電流の位相を、インバータ回路の出力電圧の位相に対して所定の目標遅れ位相角だけ遅らせた状態を維持するようにインバータ回路の出力周波数を制御する定常時周波数制御を行うようにしておくと、インバータ回路でハードスイッチングが起るのを防いで、異常電圧の発生により大きな損失が生じるのを防ぐことができる。
【0017】
また上記のように、電力抑制指令が発生したときに、インバータ回路の出力周波数を、負荷に与える高周波電力を抑制するのに適した値に設定された電力抑制時周波数まで上昇させる電力抑制時周波数上昇制御を行うように周波数制御部を構成しておくと、負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときにインバータ回路から負荷に供給される電力を瞬時に抑制することができる。インバータ回路の出力周波数を上昇させた場合には、整流平滑回路のコンデンサを放電させる方法によった場合よりも短い時間で出力電力を低下させることができるため、電力抑制指令に対する応答性を従来の高周波電源装置よりも高くすることができ、出力電力を抑制する必要が生じたときに出力電力を瞬時に低下させて、負荷の保護と高周波電源装置の保護とを確実に図ることができる。また上記のように構成すると、直流電源部にコンデンサを放電させる回路を設ける必要がないため、直流電源部の構成が複雑になるのを防ぐことができる。
【0018】
第2の発明
第2の発明は、上記第1の発明に適用されるもので、本発明においては、電力抑制時周波数が、周波数可変範囲内の周波数で、かつインバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相が予め定められた目標遅れ位相に保たれていたときのインバータ回路の出力周波数よりも高い周波数に設定される。
インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相を予め定められた目標遅れ位相に保つことができるインバータ回路の出力周波数は、負荷のインピーダンスの変化に伴って変化する。
【0019】
第3の発明
第3の発明も第1の発明に適用されるもので、第3の発明においては、周波数制御部が、定常時周波数制御におけるインバータ回路の出力周波数の制御を予め設定された周波数可変範囲内で行うように構成され、電力抑制時周波数が、前記周波数可変範囲の上限を与える周波数に設定される。
【0020】
第4の発明
第4の発明も第1の発明に適用されるもので、本発明においては、電力抑制時周波数が、電力抑制指令が発生したときのインバータ回路の出力周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数に設定される。
【0021】
第5の発明
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、電力抑制指令が発生した後にDC−DCコンバータに与える指令値を、負荷に供給する高周波電力を増加させることがない値とするように電力制御部が構成される。
【0022】
第6の発明
第6の発明も第1ないし第4の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、電力抑制指令が発生した後にDC−DCコンバータに与える指令値を、負荷に供給する高周波電力を低下させる方向に変化させるように電力制御部が構成される。
【0023】
第7の発明
第7の発明は、第1ないし第6の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、周波数指令により指令された通りの周波数を有する高周波信号を発生する高周波信号発生部と、高周波信号発生部が発生した高周波信号をインバータ回路を構成するスイッチ素子に与える制御信号に変換してインバータ回路に与える信号変換部とが設けられ、インバータ回路を構成するスイッチ素子が上記信号変換部から得られる制御信号によって制御されることにより、直流電源部の出力電圧が高周波信号の周波数に等しい周波数を有する高周波交流電圧に変換されるように構成されている。
【0024】
第8の発明
第8の発明は、上記第7の発明に適用されるもので、本発明においては、位相差検出部が、インバータ回路の出力電流の位相と高周波信号の位相とからインバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出するように構成されている。
【0025】
高周波信号発生部が発生する高周波信号によりインバータ回路のスイッチ素子をオンオフ制御して直流電力を高周波電力に変換する場合、高周波信号の位相はインバータ回路の出力電圧の位相に等しいため、上記のように、インバータ回路の出力電流と高周波信号発生部が発生する高周波信号との位相差を検出するようにしても、インバータ回路の出力電流とインバータ回路の出力電圧との位相差を検出することができる。
【0026】
第9の発明
第9の発明は、第1ないし第8の発明のいずれかに適用される。本発明においては、インバータ回路の出力端子と負荷との間に、インバータ回路の出力が一次側に入力されたトランスが設けられて、該トランスの二次側から負荷に高周波電力を供給するように構成される。
【0027】
第10の発明
第10の発明も第1ないし第8の発明のいずれかに適用される。本発明においては、インバータ回路の出力端子と負荷との間に直流阻止用コンデンサが挿入されて、インバータ回路から直流阻止用コンデンサを通して負荷に高周波電力が与えられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、位相差検出部により検出された位相差と電力抑制指令とに応じてインバータ回路の出力周波数を制御する周波数制御部を設けて、該周波数制御部が、インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相を予め定めた目標遅れ位相に保つようにインバータ回路の出力周波数を制御する定常時周波数制御と、電力抑制指令が発生したときにインバータ回路の出力周波数を、負荷に与える高周波電力を抑制するのに適した値に設定された電力抑制時周波数まで上昇させる電力抑制時周波数上昇制御とを行うように構成したので、ハードスイッチングが起るのを防いで、異常電圧の発生により大きな損失が生じるのを防ぐことができるだけでなく、負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときにインバータ回路から負荷に供給される電力を瞬時に抑制して、負荷の保護と高周波電源装置の保護とを的確に図ることができる。本発明によれば、直流電源部にコンデンサを放電させる回路を設ける必要がないため、直流電源部の構成を複雑にすることなく、負荷の保護と高周波電源装置の保護とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係わる高周波電源装置の構成を示した回路図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係わる高周波電源装置の構成を示した回路図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係わる高周波電源装置の構成を示した回路図である。
【図4】本発明の実施形態において、インバータ回路から負荷側を見た回路のインピーダンスを示す等価回路図である。
【図5】(A)ないし(C)は、インバータ回路から直列共振特性を有する負荷に高周波電力を供給するシステムにおいて、インバータ回路の出力周波数を変化させた際の高周波電力の電力値の変化を、インバータ回路から負荷側を見た回路のインダクタンスをパラメータとして示したグラフである。
【図6】本発明の一実施形態において電力制御部と周波数制御部とを構成するためにマイクロプロセッサが実行するメインルーチンのアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態において出力周波数を制御するためにマイクロプロセッサが実行する制御ルーチンのアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態において高周波電力を制御するためにマイクロプロセッサが実行する制御ルーチンのアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態において、電力抑制指令に応答して出力電力を抑制する処理を行う際にマイクロプロセッサが実行する割込み処理の一例を示したフローチャートである。
【図10】インバータ回路の構成例を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明に係わる高周波電源装置PSの一実施形態を示したものである。同図において、1は商用電源から得られる交流電圧を整流して平滑する整流平滑回路、2は整流平滑回路から得られる直流電圧を変圧して、後記する電力制御部15から与えられる指令値により指令された大きさの直流電圧を出力するDC−DCコンバータであり、整流平滑回路1とDC−DCコンバータ2とにより直流電源部20が構成されている。
【0031】
3はDC−DCコンバータ2の出力を高周波交流電力に変換するインバータ回路である。インバータ回路3は、図10に示すように、スイッチ素子S1ないしS4をHブリッジ接続してなるスイッチ回路と,このスイッチ回路のHブリッジの4つのアームのスイッチ素子S1ないしS4にそれぞれ逆並列接続された帰還用ダイオードD1ないしD4とを備えた回路からなっている。このインバータ回路においては、Hブリッジの一方の対角方向に配置された対のアームを構成する対のスイッチ素子S1及びS4と、他方の対角方向に配置された対のアームを構成する他の対のスイッチ素子S2及びS3とを交互にオン状態にすることにより、DC−DCコンバータ2から与えられる直流電圧Vdcを矩形波状の高周波交流電圧Vinvに変換する。インバータ回路3を構成するスイッチ素子S1ないしS4は、MOSFET,バイポーラ型のパワートランジスタ、IGBT等の半導体スイッチ素子からなっている。
【0032】
図10に示されたインバータ回路3においては、スイッチ素子S1,S3の共通接続点及びスイッチ素子S2,S3の共通接続点からそれぞれ直流入力端子3a及び3bが引き出され、スイッチ素子S1とS2との接続点及びスイッチ素子S3とスイッチ素子S4との接続点からそれぞれ交流出力端子3c,3dが引き出されている。直流入力端子3a及び3bはそれぞれ、DC−DCコンバータ2の正極側及び負極側の出力端子(直流電源部20の出力端子)に接続され、交流出力端子3c,3dは、トランス4の1次コイル4aの両端に接続されている。本実施形態では、インバータ回路3とトランス4とにより電力変換部21が構成されている。
【0033】
トランス4の2次コイル4bの一端は、コイル5aとコンデンサ5bの直列回路からなる直列共振回路5とローパスフィルタからなるフィルタ部6と負荷に供給される高周波電力を検出する電力検出部10とを通して高周波電源装置PSの一方の出力端子22aに接続されている。トランス4の2次コイル4bの他端は、フィルタ部6と電力検出部10とを通して高周波電源装置PSの他方の出力端子22bに接続され、高周波電源装置PSの出力端子22a,22bが電力ケーブル等を通して負荷7の入力端子に接続されている。電力検出部10では、電力変換部21で発生する高調波成分を取り除いた基本周波数における電力を検出することが望ましいため、本実施形態では、図示のように、電力検出部10をフィルタ部6よりも負荷側に設けている。電力検出部10からは、負荷に与えられている高周波電流及び高周波電圧のそれぞれの検出値をも取り出すことができるようになっている。本実施形態では、インバータ回路3の出力端子3c,3dから負荷7側を見た回路が、直列共振特性を示すように構成されている。
【0034】
図1に示した例では、高周波電源装置PSの出力端子22a,22bが直接電力ケーブル等を通して負荷に与えられているが、高周波電源装置PSの出力端子22a,22bと負荷7との間にインピーダンス整合器が設けられる場合もある。
【0035】
電力変換部21には、インバータ回路3の出力端子3c,3d間の電圧を検出する電圧検出部8と、インバータ回路3とトランス4との間でインバータ回路の出力電流Iinvを検出する電流検出部9とが設けられている。
【0036】
電圧検出部8の出力及び電流検出部9の出力は、インバータ回路3の出力電流と出力電圧との位相差を検出する位相差検出部11に入力されている。位相差検出部11は、電流検出部9により検出された電流と電圧検出部8により検出された電圧との位相差を検出する。位相差検出部11により検出された位相差は、インバータ回路3の出力周波数を制御する周波数制御部12に与えられている。
【0037】
13は周波数制御部12から与えられる周波数指令により指令された周波数を有する正弦波形の高周波信号を発生する高周波信号発生部、14は高周波信号発生部13が出力する高周波信号を、インバータ回路3のスイッチ素子に与える制御信号V1及びV2に変換する信号変換部である。高周波信号発生部13は、与えられた周波数指令により指令された通りの周波数と、与えられた振幅指令により指令された振幅とを有する正弦波信号を発生するダイレクト・デジタル・シンセサイザー(DDS)からなっている。
【0038】
信号変換部14は、高周波信号発生部13が発生する正弦波形の高周波信号の一方の極性の半波の期間矩形波状の第1の制御信号V1を発生し、該高周波信号の他方の半波の期間矩形波状の第2の制御信号V2を発生する。第1の制御信号V1は、インバータ回路3を構成するHブリッジの一方の対のアームを構成する対のスイッチ素子S1,S4をオン状態にするために該対のスイッチ素子S1,S4の制御端子に与える制御信号である。また第2の制御信号V2は、インバータ回路3を構成するHブリッジの他方の対のスイッチ素子S2,S3をオン状態にするために該対のスイッチ素子S2,S3の制御端子に与える制御信号である。
【0039】
インバータ回路3は、対のスイッチ素子S1,S4及び対のスイッチ素子S2,S3を交互にオン状態にすることにより、直流電源部20から与えられる直流電圧Vdcを、高周波信号発生部13が発生する高周波信号の周波数(周波数制御部12により指令された周波数)に等しい周波数を有する矩形波状の高周波交流電圧に変換する。この交流電圧は、トランス4を通して直列共振回路5に印加される。矩形波状の交流電圧が直列共振回路5に印加されることにより、基本波成分以外の高調波成分の殆どが除去されて、正弦波形に近い波形を有する高周波電圧が得られる。フィルタ部6は、直列共振回路5を通して得られる高周波電圧から基本波成分のみを抽出して正弦波形の高周波電力を負荷7に与える。
【0040】
なお本実施形態では、トランス4の二次側とフィルタ部6との間に直列共振回路5を設けているが、この直列共振回路は必須なものではなく、トランス4から負荷側を見た回路が直列共振特性を有し、フィルタ部6のみで正弦波形の高周波電力を得ることができる場合には、直列共振回路5を省略することができる。
【0041】
トランス4は、インバータ回路3から出力される単極性の矩形波状の高周波電圧を零レベルを基準にして正負の極性に変化する波形の高周波電圧に変換する働きと、出力端子22aからインバータ回路3側を見たインピーダンスを、負荷側のインピーダンス(負荷7に給電するための線路のインピーダンス)に変換する働きとをする。負荷に給電するための線路としては、通常特性インピーダンスが50Ωのものが使用される。
【0042】
プラズマ処理装置などの負荷7に高周波電力を供給す高周波電源装置では、負荷7に与える高周波電力を設定値に保つ必要があり、インバータ回路3からトランス4と直列共振回路5とフィルタ部(ローパスフィルタ)6とを通して負荷に与えられる高周波電力を設定値に保つ制御を行う必要がある。そのため、本実施形態の高周波電源装置においては、電力検出部10の検出出力が電力制御部15に与えられている。電力制御部15は、負荷7に与えられる高周波電力の検出値(電力検出部10から得られる検出値)と設定値との偏差を演算して、演算した偏差を零に近づけるようにDC−DCコンバータ2に指令値を与えることにより、インバータ回路3の出力電圧及び出力電流を制御して、負荷7に与えられる高周波交流電力を設定値に保つ。
【0043】
本実施形態ではまた、電力検出部10の出力が電力抑制判定部23に与えられている。電力抑制判定部23は、負荷7に与える高周波電力を抑制する必要がある状態が生じているか否かを判定する部分である。「負荷7に与える高周波電力を抑制する必要がある状態」とは、例えば負荷でアークを伴う放電が生じている状態である。負荷7でアークが発生すると、負荷のインピーダンスが小さくなる。従って、負荷でアークが発生しているか否かは、負荷の両端の電圧と負荷に流入する電流とから負荷のインピーダンスを演算して、演算されたインピーダンスが急峻な落ち込みを示したか否かを見ることにより判定することができる。インピーダンスが急峻な落ち込みを示したことは、例えば演算されたインピーダンスの微分値の絶対値が基準値を超えたことを検出することにより判別することができる。本実施形態においては、電力検出部10に設けられたセンサにより負荷7の両端の電圧と負荷7に流入する電流とを検出して、検出された電圧と電流とを電力抑制判定部23に与え、電力抑制判定部23において、検出された電圧と電流とから負荷7のインピーダンスを演算するようにしている。
【0044】
電力抑制判定部23で行われた判定の結果は、電力抑制指令発生部24に与えられている。電力抑制指令発生部24は、電力抑制判定部23が負荷でアークの発生を伴う放電が生じていると判定した時に周波数制御部12に電力抑制指令を与える。
【0045】
本実施形態ではまた、電力抑制指令を発生することを指令する外部指令を電力抑制指令発生部24に与えることができるようになっており、電力抑制指令発生部24は、この外部指令が与えられたときにも、周波数制御部12に電力抑制指令を与えるように構成されている。電力抑制指令発生部24への外部指令の供給は、例えば、作業員が、負荷に供給する電力を抑制する必要がある状態が生じていると判断したときに、スイッチやキーボードを操作することにより行われる。
【0046】
なお図1に示した例では、負荷7のインピーダンスの変化から、負荷7に供給する電力を抑制する必要がある状態が生じたか否かを判定するように電力抑制判定部23を構成しているが、負荷7がプラズマ処理装置である場合には、処理装置のチャンバに設けられた窓を通してアークの発光を検出する光センサを設けて、該光センサの出力から、負荷7に供給する電力を抑制する必要がある状態が生じているか否かを判別するように電力抑制判定部23を構成することもできる。
【0047】
上記のように、インバータ回路3から直列共振特性を有する回路に高周波電力を供給する場合、インバータ回路3から負荷側を見たインピーダンスは、図4に示すように、インダクタンスLと、キャパシタンスCと、抵抗Rとの直列回路により表すことができる。ここで、インダクタンスLをL1,L2及びL3(L1>L2>L3)として、周波数fを変化させたとすると、負荷に供給される電力Pは、図5の(A)ないし(C)のように変化する。これらの図においてfoは直列共振周波数である。
【0048】
図5から明らかなように、インバータ回路3から負荷側を見た回路のインピーダンスが、直列共振特性を有するように構成されている場合、インバータ回路3の出力周波数が直列共振周波数foに等しいときにインバータ回路から負荷側を見たインピーダンスが最小になり、負荷に供給される電力Pが最大になる。インバータ回路3の出力周波数が直列共振周波数foよりも高い領域では、インバータ回路3の負荷のインピーダンスが誘導性を示し、電流検出部9により検出される出力電流の位相が電圧検出部8により検出される出力電圧の位相よりも遅れる。またインバータ回路3の出力周波数が直列共振周波数foよりも低い領域では、インバータ回路3の負荷のインピーダンスが容量性を示し、電流検出部9により検出される出力電流の位相が電圧検出部8により検出される出力電圧の位相よりも進む。
【0049】
インバータ回路3から直列共振特性を有する負荷側回路に高周波電力を供給する電力供給システムにおいて、インバータ回路の出力周波数を、負荷側回路のインピーダンスが容量性を示す領域に設定した場合には、スイッチ素子がオン状態になった瞬間に電流が流れるハードスイッチング(hard switching)が起り、異常電圧が発生して大きな損失をもたらす。したがって、インバータ回路から直列共振特性を有する負荷に電力を供給する場合には、インバータ回路の出力周波数を、負荷のインピーダンスが誘導性を示す領域に設定する必要がある。図5において、B1ないしB3は使用可能領域の一例を示している。使用可能領域B1ないしB3はそれぞれインダクタンスLがL1,L2及びL3であるときに、電流の電圧に対する位相が遅れ位相となる領域であり、インバータ回路を通して電力の制御を行う場合に、制御に使用することができる領域である。
【0050】
図5から明らかなように、インバータ回路3の出力周波数が、負荷側の回路のインピーダンスを誘導性とする領域にある場合には、インバータ回路の出力周波数fを高くすることにより、負荷に供給される高周波電力を減少させることができ、インバータ回路の出力周波数fを低くすることにより、負荷に供給される高周波電力を増大させることができる。
【0051】
本実施形態で用いる周波数制御部12は、位相差検出部11により検出された位相差(インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相差)と、電力抑制指令発生部24が発生する電力抑制指令とを入力として、(a)電力抑制指令が発生していない定常時に、インバータ回路3出力電流の出力電圧に対する位相を予め定められた目標遅れ位相に保つようにインバータ回路3の出力周波数を制御する定常時周波数制御と、(b)電力抑制指令が発生したときにインバータ回路の出力周波数を、負荷に与える高周波電力を抑制するのに適した値に設定された電力抑制時周波数まで上昇させる電力抑制時周波数上昇制御とを行うように構成されている。本実施形態では、一定の周波数範囲を周波数可変範囲として予め設定しておいて、定常時周波数制御におけるインバータ回路の出力周波数の制御を、設定された周波数可変範囲内で行うように、周波数制御部12が構成されている。
【0052】
上記周波数可変範囲を定める上限周波数及び下限周波数に関する情報と、高周波電力の周波数の初期値の情報とを周波数制御部12に与えるため、第1のメモリ25と第2のメモリ26とが設けられている。第1のメモリ25は、負荷に与える高周波電力の周波数可変範囲の上限及び下限をそれぞれ定める上限周波数及び下限周波数を記憶している。また第2のメモリ26は、負荷7に与える高周波電力の周波数の初期値を記憶している。第2のメモリ26に記憶させておく高周波電力の周波数の初期値は固定値でもよく、前回の高周波電源装置の運転時に行われた定常時周波数制御において制御された周波数の最終値でもよい。
【0053】
定常時周波数制御を行うに当っては、予想される負荷7のインピーダンスの変動範囲を考慮して、周波数可変範囲の上限及び下限をそれぞれ与える上限周波数及び下限周波数を第1のメモリ25に記憶させておく。また正常な状態にある負荷7の抵抗値、インダクタンス及びキャパシタンスが初期値にある状態でインバータ回路3を動作させた際にインバータ回路3の出力電流の位相を出力電圧の位相に対して設定された目標位相角だけ遅れた状態にするインバータ回路の出力周波数を、周波数の初期値として第2のメモリ26に記憶しておく。実際に制御に使用する周波数可変範囲は、例えば中心周波数の前後10%程度であり、中心周波数が13.56MHzである場合、周波数可変範囲は、13.56±1.4MHz程度である。
【0054】
更に詳述すると、図示の周波数制御部12は、第2のメモリ26に記憶されている周波数の初期値をインバータ回路3の出力周波数の初期値としてインバータ回路3を起動させた後、負荷7のインピーダンスの変化に伴ってインバータ回路3の出力電流の位相が出力電圧の位相に対して遅れ側に変化したときに、出力電流の位相を進み側に変化させるべく、高周波信号発生部13に与える周波数指令を、前記周波数可変範囲内でインバータ回路の出力周波数を低くする方向に変化させ、負荷7のインピーダンスの変化に伴ってインバータ回路3の出力電流の位相が出力電圧の位相に対して進み側に変化したときに、出力電流の位相を遅れ側に変化させるべく、高周波信号発生部13に与える周波数指令を、前記周波数可変範囲内でインバータ回路の出力周波数を高くする方向に変化させることにより、インバータ回路3の出力電流の位相を出力電圧の位相に対して、予め定めた目標位相角だけ遅らせた状態を維持する定常時周波数制御を行う。
【0055】
上記のように、周波数制御部12が、インバータ回路3の出力電流の出力電圧に対する位相を所定の目標遅れ位相に保つようにインバータ回路の出力周波数を制御する定常時周波数制御を行うようにしておくと、インバータ回路でハードスイッチングが起るのを防いで、異常電圧の発生により大きな損失が生じるのを防ぐことができる。
【0056】
周波数制御部12はまた、電力抑制指令発生部27が電力抑制指令を発生したときに、インバータ回路3の出力周波数を設定された電力抑制時周波数まで上昇させるように高周波信号発生部13に与える周波数指令を変化させることにより、負荷7に与える高周波電力を抑制する電力抑制時周波数上昇制御を行う。
【0057】
上記電力抑制時周波数は、例えば、周波数可変範囲内の周波数で、かつインバータ回路3の出力電流の出力電圧に対する位相が予め定められた目標遅れ位相に保たれていたときのインバータ回路の出力周波数よりも一定値だけ高い周波数に設定しておく。
【0058】
上記のように、電力抑制指令が発生したときに負荷7に与える高周波電力を抑制するべくインバータ回路3の出力周波数を上昇させる電力抑制時周波数上昇制御を行うように周波数制御部を構成しておくと、負荷7に供給する電力を抑制する必要が生じたときにインバータ回路から負荷に供給される電力を瞬時に抑制することができるため、整流平滑回路のコンデンサを放電させることにより電力の抑制を図っていた従来の高周波電源装置よりも、電力抑制指令に対する応答性を高くすることができる。また上記のように構成すると、直流電源部20にコンデンサを放電させる回路を設ける必要がないため、直流電源部の構成が複雑になるのを防ぐことができる。
【0059】
上記電力抑制時周波数はまた、周波数可変範囲の上限を与える周波数とすることもできる。
【0060】
上記のように周波数制御部12を構成した場合、インバータ回路3の出力周波数を周波数可変範囲内で変化させても、インバータ回路の出力電流の位相を出力電圧の位相に対して目標遅れ位相角だけ遅らせた状態に保持することができない事態や、インバータ回路の出力周波数を電力抑制時周波数まで上げても出力電力を抑制することができない事態が生じるおそれがある。このような状態は、負荷で何らかの異常が生じている状態である。このような状態が生じたときには、制御を中止すると共に、電源装置の運転を停止する等の措置を講じる必要がある。
【0061】
上記のような異常状態に対処し得るようにするため、上記周波数制御部12には、インバータ回路3の出力周波数を変化させる際に、高周波信号発生部13に与えられる周波数指令から、インバータ回路の出力周波数が周波数可変範囲内の予め定めた監視周波数よりも高いか否かを監視して、インバータ回路の出力周波数を監視周波数よりも高くしてもインバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相を目標とする位相遅れの状態にすることができないとき、及びインバータ回路3の出力周波数を設定された電力抑制時周波数まで上昇させても(設定された電力抑制時周波数の高周波信号を発生することを指令する周波数指令を高周波信号発生部13に与えても)出力電力を抑制することができないとき(出力電力を許容範囲内に収めることができないとき)に、高周波電力の出力を中止して異常信号を出力する異常信号出力手段を設けておくのが好ましい。この異常信号は、警報を発生させるために用いてもよく、負荷への高周波電力の供給を強制的に遮断するスイッチ手段を駆動する信号として用いてもよい。
【0062】
上記電力制御部10及び周波数制御部12はマイクロプロセッサにより構成することができる。図6ないし図9を参照すると、電力制御部15及び周波数制御部12を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムのアルゴリズムの一例を示すフローチャートが示されている。電力制御部15及び周波数制御部12を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムは、図6に示したメインルーチンと、図7に示した出力周波数制御ルーチンと、図8に示した出力電力制御ルーチンと、図9に示された電力抑制処理のための割り込みルーチンとからなっている。
【0063】
図6に示したメインルーチンは、負荷に電力を供給することを指令する電力供給指令が与えられたときに開始される。このメインルーチンにおいては、先ずステップS101で高周波信号発生部13に与える周波数指令及びDC−DCコンバータ2に与える指令値を初期値に設定した後、ステップS102でDC−DCコンバータ2に指令値の初期値を与えて直流電源部20の出力をインバータ回路3に印加し、高周波信号発生部(DDS)に周波数指令の初期値を与えてインバータ回路3を動作させる。これにより負荷7への電力の供給が開始される。
【0064】
次にステップS103で電力供給指令が与えられていることを確認し、電力供給指令が与えられている場合には、ステップS104で電力抑制指令が発生しているか否かを判定する。その結果、電力抑制指令が発生していないと判定された場合には、ステップS105に進んで、図7に示された出力周波数制御処理を行わせる。出力周波数制御処理が終了した後、ステップS106に進んで図8に示された出力電力制御処理を行い、この出力電力制御処理が完了した後ステップS103に戻る。
【0065】
ステップS104において電力抑制知指令が発生していると判定されたときには、ステップS107に進んで図9に示された電力抑制割り込み処理を行い、この割り込み処理が終了した後にステップS103に戻る。またステップS103において電力供給指令が与えられていないと判定されたときには、ステップS108に進んで高周波電力の出力を停止させる処理(DC−DCコンバータ2への指令値の供給停止、及び高周波信号発生部13への周波数指令の供給停止)を行った後メインルーチンを終了する。
【0066】
図7に示された出力周波数制御処理においては、先ずステップS201において位相差検出部11が検出している位相差(インバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差)を読み込み、ステップS202で、インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相が設定された目標遅れ位相であるか否かを判定する。その結果、インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相が設定された目標遅れ位相であると判定されたときにはこの処理を終了してメインルーチンに復帰する。またステップS202でインバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相が設定された目標遅れ位相からずれていると判定されたときには、ステップS203に移行して電流位相を所定の遅れ位相とするように高周波信号発生部13に与える周波数指令を変更する。ステップS203での処理は、インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相と目標遅れ位相との差を位相偏差として演算して、演算された位相偏差を零にするために高周波信号発生部13に与える必要がある周波数指令の値をマップ演算等により求める方法によってもよく、上記位相偏差を演算する過程と、演算された位相偏差を零にする方向に高周波信号発生部13に与える周波数指令の値を微小値ずつ変化させる過程とを、演算される位相偏差が許容範囲に収まるまで繰り返す方法によってもよい。
【0067】
図8に示された出力電力制御処理においては、ステップS301において電力検出部10が検出している電力の検出値を読み込み、ステップS302において電力の検出値が許容範囲に収まっているか否かを判定する。その結果、許容範囲内にないと判定された場合にはステップS303に進んで電力の検出値を許容範囲に収めるように直流電源部20のDC−DCコンバータに与える指令値を変更する処理を行った後メインルーチンに復帰する。ステップS302で出力電力の大きさが許容範囲内にあると判定されたときには以後何もしないでメインルーチンに復帰する。
【0068】
図8のステップS303における処理は、出力電力とその目標値との偏差を演算する過程と、演算した偏差を零にする方向にDC−DCコンバータに与える指令値を微小値ずつ変化させる過程とを、偏差が許容範囲に収まるまで繰り返す方法によることができる。
【0069】
図9に示された電力抑制割り込み処理においては、ステップS401で負荷に供給される高周波電力の周波数を前記電力抑制時周波数まで上昇させるように、高周波信号発生部13に与える周波数指令を変更した後、メインルーチンに復帰する。
【0070】
上記の実施形態では、インバータ回路3の出力端子と負荷7との間にインバータ回路の出力が一次側に入力されたトランス4が設けられて、トランス4の二次側から負荷7に高周波電力を供給するように構成されているが、トランス4を用いる代りに、インバータ回路3の出力端子と負荷7との間に直流阻止用コンデンサを挿入して、インバータ回路から直流阻止用コンデンサを通して負荷に高周波電力を与えるように構成することもできる。
【0071】
図2は、インバータ回路3の出力を直流阻止用コンデンサを通して負荷に供給するようにした実施形態を示したものである。図2に示した例では、インバータ回路3の一方の出力端子3cが、直流阻止用コンデンサ31と直列共振回路5とフィルタ部6と電力検出部10とを通して負荷7の一方の入力端子に接続され、インバータ回路3の出力端子3dが、電流検出部9と直流阻止用コンデンサ32とフィルタ部6と電力検出部10とを通して負荷7の他方の入力端子に接続されている。図2に示した実施形態のその他の構成は図1に示した実施形態と同様である。
【0072】
上記の実施形態では、電力変換部21が一つだけ設けられていたが、電力変換部21を一つだけ設けただけでは負荷に供給する電力が不足する場合には、図3に示すように、インバータ回路の出力電圧の位相が等しく、出力電流の位相が等しい複数(図示の例では4個)の電力変換部21Aないし21Dを設けて、これらの電力変換部の出力を合成して直列共振回路5とフィルタ部6とを通して負荷7に供給するようにしてもよい。図示の例では、電力変換部21Aないし21Dのトランス4の二次コイルを並列に接続することにより、電力変換部21Aないし21Dの出力を合成する合成回路30を構成している。
【0073】
図3に示したように構成する場合には、信号発生部14が発生する制御信号V1及びV2を信号分配部16により、電力変換部21Aないし21Dのインバータ回路3に分配して、電力変換部21Aないし21Dのインバータ回路3から同位相の高周波信号を発生させる。このように構成する場合、電力変換部21Aないし21Dのインバータ回路3の出力電圧の位相及び出力電流の位相は等しいため、電圧検出部8及び電流検出部9はいずれか一つの電力変換部にのみ設ければよい。図2に示した例では、電力変換部21Dに電圧検出部8と電流検出部9とを設けている。
【0074】
図3に示した例では、電力変換部21Aないし21Dのトランス4の二次コイルを並列に接続することにより、電力変換部21Aないし21Dの出力を合成する合成回路30を構成したが、合成回路30の構成は図3に示した例に限定されるものではなく、他の周知の構成を有する合成回路を用いることもできる。
【0075】
図3に示した例では、インバータ回路3とトランス4とにより電力変換部を構成するとしたが、直列共振回路5及びフィルタ部6をも電力変換部に含めて、その後段に合成回路を設けるように構成することもできる。
【0076】
上記の各実施形態では、インバータ回路3とトランス4(又は直流阻止用コンデンサ31、32)との間でインバータ回路の出力電流を検出する電流検出部9と、インバータ回路の出力電圧を検出する電圧検出部8を設けて、電流検出部9により検出される電流の位相と、電圧検出部8により検出される電圧の位相とから、インバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出するように、位相差検出部が構成されているが、インバータ回路の出力電圧は高周波信号発生部13が発生する高周波信号と同位相であるので、電流検出部9により検出される電流の位相と、高周波信号発生部13が発生する高周波信号の位相とからインバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出するように構成してもよい。このように構成すると、電圧検出部8を省略することができるため、装置の構成の簡素化を図ることができる。
【0077】
上記の実施形態では、電力抑制判定部23において、負荷に与えられている高周波電圧の検出値と高周波電流の検出位置とから負荷のインピーダンスを演算して、負荷7で電力を抑制する必要がある状態が生じているか否かを判定するようにしているが、電力抑制判定部23を省略して、外部指令が与えられたときにのみ電力抑制指令を発生させるように構成してもよい。
【0078】
上記の実施形態では、定常時周波数制御におけるインバータ回路3の出力周波数の制御を予め設定された周波数可変範囲内で行うように、周波数制御部12を構成したが、周波数可変範囲を特に設定せずに、電力抑制指令が発生していない定常時に、インバータ回路3の出力電流の出力電圧に対する位相を予め定められた目標遅れ位相に保つようにインバータ回路3の出力周波数を制御する定常時周波数制御を行うように、周波数制御部12を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係わる高周波電源装置は、プラズマ発生装置やレーザ発振装置などの高周波電力を供給することが必要な負荷の電源として広く用いることができる。本発明によれば、負荷に供給する電力を抑制する必要が生じたときに、インバータ回路の出力周波数を上昇させることにより、その出力電力を低下させるので、インバータ回路から負荷に供給される電力を瞬時に抑制して、負荷の保護と高周波電源装置の保護とを的確に図ることができる。本発明によれば、直流電源部にコンデンサを放電させる回路を設ける必要がないため、直流電源部の構成を複雑にすることなく、負荷の保護と高周波電源装置の保護とを図ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 整流平滑回路
2 DC−DCコンバータ
3 インバータ回路
4 トランス
5 直列共振回路
6 フィルタ部
7 負荷
8 電圧検出部
9 電流検出部
10 電力検出部
11 位相差検出部
12 周波数制御部
13 高周波信号発生部
14 信号変換部
15 電力制御部
20 直流電源部
21 電力変換部
23 電力抑制判定部
24 電力抑制指令発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を整流する整流平滑回路と該整流平滑回路の出力電圧を指令値により指令された大きさを有する直流電圧に変換するDC−DCコンバータとを有する直流電源部と、前記直流電源部の出力電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路とを備えて、前記インバータ回路から得られる高周波電力を負荷に供給するように構成され、前記インバータ回路の出力端子から前記負荷側を見た回路が直列共振特性を示すように構成されている高周波電源装置であって、
前記負荷に供給される高周波電力を検出する電力検出部と、
前記負荷に与える高周波電力を抑制することを指令する電力抑制指令を発生する電力抑制指令発生部と、
前記インバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出する位相差検出部と、
前記電力抑制指令が発生していないときには前記電力検出部により検出される高周波電力の電力値を設定値に近づけるように前記DC−DCコンバータに指令値を与え、前記電力抑制指令が発生している状態では前記負荷に供給する高周波電力を増加させないように前記DC−DCコンバータに指令値を与える電力制御部と、
前記位相差検出部により検出された位相差と前記電力抑制指令とに応じて前記インバータ回路の出力周波数を制御する周波数制御部と、
を具備し、
前記周波数制御部は、(a)電力抑制指令が発生していない定常時に、前記インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相を予め定められた目標遅れ位相に保つように前記インバータ回路の出力周波数を制御する定常時周波数制御と、(b)前記電力抑制指令が発生したときに前記インバータ回路の出力周波数を、前記負荷に与える高周波電力を抑制するのに適した値に設定された電力抑制時周波数まで上昇させる電力抑制時周波数上昇制御とを行うように構成されている高周波電源装置。
【請求項2】
前記電力抑制時周波数は、前記周波数可変範囲内の周波数で、かつ前記インバータ回路の出力電流の出力電圧に対する位相が予め定められた目標遅れ位相に保たれていたときの前記インバータ回路の出力周波数よりも高い周波数である請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記周波数制御部は、前記定常時周波数制御における前記インバータ回路の出力周波数の制御を予め設定された周波数可変範囲内で行うように構成され、
前記電力抑制時周波数は、前記周波数可変範囲の上限を与える周波数に設定されている請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記電力抑制時周波数は、前記電力抑制指令が発生したときの前記インバータ回路の出力周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数である請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項5】
前記電力制御部は、前記電力抑制指令が発生した後に前記DC−DCコンバータに与える指令値を、前記負荷に供給する高周波電力を増加させることがない値とするように構成されている請求項1,2,3または4に記載の高周波電源装置。
【請求項6】
前記電力制御部は、前記電力抑制指令が発生した後に前記DC−DCコンバータに与える指令値を、前記負荷に供給する高周波電力を低下させる方向に変化させるように構成されている請求項1,2,3または4に記載の高周波電源装置。
【請求項7】
周波数指令により指令された通りの周波数を有する高周波信号を発生する高周波信号発生部と、
前記高周波信号を前記インバータ回路を構成するスイッチ素子に与える制御信号に変換して前記インバータ回路に与える信号変換部とを備え、
前記インバータ回路を構成するスイッチ素子が前記制御信号によって制御されることにより、前記直流電源部の出力電圧が前記高周波信号の周波数に等しい周波数を有する高周波交流電圧に変換されるように構成されている、
請求項1ないし6のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項8】
前記位相差検出部は、前記インバータ回路の出力電流の位相と前記高周波信号の位相とから前記インバータ回路の出力電流と出力電圧との位相差を検出するように構成されている、
請求項7に記載の高周波電源装置。
【請求項9】
前記インバータ回路の出力端子と前記負荷との間に前記インバータ回路の出力が一次側に入力されたトランスが設けられて該トランスの二次側から前記負荷に高周波電力を供給するように構成されている請求項1ないし8のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項10】
前記インバータ回路の出力端子と前記負荷との間に直流阻止用コンデンサが挿入されて前記インバータ回路から前記直流阻止用コンデンサを通して前記負荷に高周波電力が与えられる請求項1ないし8のいずれかに記載の高周波電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−50296(P2012−50296A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192339(P2010−192339)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】