説明

高周波電磁波照射を利用した熱分解粒子の加熱分解相互融着方法及びその製品への応用

【課題】高周波電磁波を吸収する粒子を用いた直接回路描画法において、耐熱性の低い基板材料上においても低抵抗の実装部品を短時間に作成することが可能な、新しい技術手法を提供する。
【解決手段】熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に表面塗布又は回路パターンニングを行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱する熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法とこの方法を用いて形成した導電材、導電路、アンテナ、バンプ、パッド、ビア等の電子実装部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線基板等の電子実装部品製造における、導電部品(導電路、バンプ等)およびアンテナパターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属(金属酸化物)微細粒子の製造技術、独立分散技術、さらには、超微量インクジェット、精密スクリーン印刷、ナノプリンティング、ナノインプリンティングによる微細配線パターニング技術の近年の著しい発展に伴い、それら技術を応用した直接回路描画法が次世代の電子実装部品形成技術として大いに注目されている。
【0003】
この直接回路描画法は、それまでリゾグラフィーやエッチングといった複雑な工程を経て製造されていた電子実装部品を、金属(金属酸化物)粒子の直接描画→焼成→相互融着→導電化によって製造するという手法であり、その詳細については非特許文献1第71頁に記載されている。この手法の確立により、導電回路パターン、バンプ、パッド、ビア、アンテナパターンといった電子実装部品を、安価かつ簡便に製造することが可能となると期待される。
【0004】
この直接回路描画法の重要な工程の一つに、金属(金属酸化物)粒子をパターニングした回路基板を熱処理し、粒子を相互融着させ、粒子によって構成された回路パターンを導電化する工程がある。
【0005】
これまでに提案されている直接回路描画法においては、この粒子を相互融着させる熱処理工程に、熱風やスチームもしくは電熱線を用いた加熱炉によって、金属(金属酸化物)粒子によって構成された回路パターン部分と下地基板部分の実装部品全体を、150℃から210℃で加熱処理することが特許文献1の実施例に、また同じく実装部品全体を150℃で加熱処理することが特許文献2の実施例に記載されている。
【0006】
しかしながら、この従来提案されていた熱処理方法では、粒子によって構成された回路パターンと共に下地基板部分も同等に等しく加熱されるため、使用可能な下地基板がこの熱処理時の保持温度よりも耐熱温度の高い材料に限定されるという問題があった。特に次世代の超高速電子デバイスにおいて不可欠な低抵抗の電子実装部品を作成する場合、この熱処理条件を高温・長時間に設定する必要があり、その意味で使用可能な基板材料は大きく限定されるものであった。
【0007】
さらに、この従来提案されていた熱処理方法では、加熱に数十分の時間を要し、生産性も低いことなどか特許文献1の実施例に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−2999833号公報
【特許文献2】特開2004−39956号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nikkei Electronics,Vol.67,No.824,(2002),p67−78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
金属(金属酸化物)粒子を用いた直接回路描画法において、使用可能な下地基板が耐熱温度の高い材料に限定されるともに、基板の加熱処理に時間がかかり生産性が低いという問題があった。そこで、本発明は耐熱性の低い基板材料においても低抵抗の実装部品を短時間に作成することが可能な、新しい技術手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に表面塗布を行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に表面塗布を行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に回路パターニングを行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、高周波電磁波照射によって、基板上に塗布もしくは回路パターニングされた熱分解性粒子を選択的に加熱し、さらにこの照射にともなう昇温によって熱分解性粒子の熱分解−相互融着が引き起こされた後は、加熱効果が自発的に停止することを特徴とした請求項2乃至請求項3に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、表面塗布された熱分解性粒子が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂をはじめとする高分子樹脂と熱分解性粒子を混合したペースト状混合物の形で表面塗布されることを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、熱分解性粒子に照射する電磁波が1MHz<f<300GHzの範囲の高周波電磁波であることを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、熱分解性粒子に照射する電磁波が300MHz<f<300GHzの範囲の高周波電磁波であることを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記熱分解性粒子が、金属−酸素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−窒素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−炭素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−ハロゲン結合を持つ無機及び有機金属ハロゲン化物のいずれかであること特徴とする、請求項2乃至請求項7に記載の粒子熱分解相互融着法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は前記熱分解性粒子が、酸化銀、窒化銀、ハロゲン化銀のいずれかであることを特徴とする、請求項8に記載の粒子熱分解相互融着法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成した導電路と基板の両者を含むことを特徴とする電子実装部品である。
【0021】
本発明は、前記粒子熱分解相互融着法を用いることを特徴とする導電材の形成方法である。
【0022】
本発明は、前記粒子熱分解相互融着法を用いることを特徴とする導電路の形成方法である。
【0023】
本発明の導電路の形成方法において、回路パターンの形成方法がインクジェット法によることを特徴とする導電路の形成方法である。
【0024】
本発明の導電路の形成方法において、回路パターンの形成方法がナノプリンティング法によることを特徴とする導電路の形成方法である。
【0025】
本発明の導電路の形成方法において、回路パターンの形成方法がナノインプリンティング法によることを特徴とする導電路の形成方法である。
【0026】
本発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成した導電路である。
【0027】
本発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成したアンテナである。
【0028】
本発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成したバンプである。
【0029】
本発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成したパッドである。
【0030】
本発明は、各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成したビアである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の方法を用いて、熱分解性を有する粒子を基板上に表面塗布又はパターニング後、所定の周波数の高周波電磁波を照射して選択加熱することにより、複雑な電子実装部品を、熱分解性を有する粒子を熱分解後相互融着させて形成することができる。この方法を用いることにより、基板上に導電路やアンテナ、バンプ、パッド、ビア等を含む電子部品を実装した電子基板を形成できる。このとき、電子部品形成部を選択的に加熱することから、電子部品実装基板には耐熱性を有する基板のみでなく、耐熱性の低い樹脂基板等を用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】熱分解性物質(AgOナノ粒子)を部分的に塗布したポリイミド基板
【図2】低周波電磁波照射装置
【図3】高周波電磁波照射装置
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の高周波電磁波照射を利用した熱分解粒子の加熱分解相互融着方法の詳細について説明する。導電路もしくはバンプ等の実装部品を構成する粒子材料として、熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を用い、その粒子を各種基板上に表面塗布もしくは表面パターニングを行う。基板上の表面塗布又はパターンニング法としては、インクジェット法、ナノプリンティング法、ナノインプリンティング法等の各種回路パターニング方法がある。ここで、導電路とは、そこに電流が流れたり、電磁誘導により電流が誘起されたりするもの等も含むものとし、閉回路も開回路も含み、さらに回路の形状やパターニングによる制約を受けないものとする。本願における回路も同様の意味で使用しているので、必ずしも閉回路に限らない。
【0034】
また、熱分解性粒子をペースト状にして塗布する時には、目的とする電子部品や導電路の形成部に応じて、ペーストの組成を選択できる。ペーストには、少なくとも高周波電磁波を吸収し、加熱分解・相互融着する粒子が含まれることを必須要件とするが、この他に導電性樹脂又は有機溶媒、導電性樹脂及び有機溶媒を必要に応じて混合する。混合する目的は、高周波電磁波を照射する粒子の分散状態の改善や基板との密着性の改善などのためである。
【0035】
高周波電磁波を吸収する熱分解性粒子として、金属−酸素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−窒素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−炭素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−ハロゲン結合を持つ無機及び有機金属化合物の少なくとも一つを用いることができる。また、第1ステップの熱分解性粒子として、酸化銀、窒化銀、ハロゲン化銀の少なくとも一つを用いる。
【0036】
次に、作成した熱分解性の粒子が塗布もしくは回路パターニングされた実装基板に対し、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱し、この熱分解性粒子を加熱分解相互融着させる。この熱分解性粒子の加熱分解相互融着によって各種基板上に導電性部品を形成する。
【0037】
本発明の最も特記すべき特徴は次の二つである。一つは、金属(金属酸化物)微細粒子を用いた直接回路描画法において、その熱処理(粒子相互融着)工程に、加熱炉ではなく、高周波電磁波照射装置を用いた点であり、もう一つは、それに使用する粒子として、熱分解性でかつ高周波電磁波吸収性の材料を用いた点である。
【0038】
高周波電磁波照射による物質加熱は、高周波電磁波の物質内部での誘電現象に起因する。すなわち、誘電損失の大きい(高周波電磁波吸収性の)材料に照射された高周波電磁波は、材料を構成する分子を回転・衝突・振動・摩擦させ、エネルギーを失いながら物質内部を伝搬する。この時生じた分子の運動により材料が加熱される。
【0039】
従来提案されていた熱風やスチームもしくは電熱線を用いた加熱炉による熱処理とこの高周波電磁波加熱との最も大きな相違点は、前者では外部から熱伝導によって材料によらず均一に熱が伝えられるのに対し、後者では、目的とする材料が直接加熱され、さらにこの加熱特性が物質により異なることに起因し、目的とする物質のみを選択的に加熱することが可能であるという点にある。
【0040】
ここで高周波電磁波による加熱特性の物質による相違について説明する。高周波電磁波が誘電性物質の中で単位面積あたり熱となって消費されるエネルギー(P)は次式で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
従って、高周波電磁波による物質の加熱され易さは、それぞれ物質固有の誘電率と誘電損失角の積(誘電損失係数)によって決まる。つまり、誘電損失係数が高い物質では、高周波電子波によって物質が高効率に加熱されるのに対し、誘電損失係数が低い物質では、ほとんど加熱されない。この誘電損失係数の値は、温度、周波数によって変化するが、一般に誘電損失係数の高い材料としては、水、エチレングリコール、遷移金属酸化物などが知られ、また誘電損失係数の低い材料としては、石英ガラス、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、テフロン(登録商標)などが知られている。
【0043】
本発明では、使用する粒子材料として誘電損失係数の高い遷移金属酸化物などの材料を用い、さらに下地基板として誘電損失係数の低いポリカーボネートなどの材料を選択することで、粒子に対する選択的加熱を実現している。
【0044】
次に、本発明において、使用する粒子の材料として酸化銀(AgO)をはじめとする熱分解性の材料を選択したことによって期待される、自発的過剰加熱防止効果について説明する。これは、物質の熱分解による誘電損失係数の変化に着目したものである。例えば、AgOでは約190℃前後で、2AgO→4Ag+Oの分解(還元)反応が生じることが知られている。
【0045】
ここで、遷移金属酸化物であるAgOでは誘電損失係数は高く、高周波電磁波の照射により急速に加熱される一方で、高導電性遷移金属であるAgではこの誘電損失係数が極めて小さくほとんど加熱されない。ただし金属の場合、電磁誘導現象によって生じる電流に起因するジュール熱によって加熱されるために、高周波電磁波応答特性は厳密には式(1)では表せない。
【0046】
従って、AgO粒子に対して高周波電磁波を照射した場合、まずAgOが選択的に急速に加熱され、その加熱によりAgOが熱分解してAgに変化した後は、ほとんど加熱されないとい
う、自発的な過剰加熱防止機構が働くことになる。本発明におけるこの自発的過剰加熱防止機構は、実装回路材料の直接回路描画法において、耐熱温度の低い基板材料の使用を可能とするための重要な特徴の一つであると考えられる。
【0047】
次に、本発明に使用する高周波電磁波の周波数fの影響について説明する。本発明で使用する照射する高周波電磁波として、周波数が1MHz<f<300GHzの範囲の高周波電磁波を用いる。これは電磁波照射により物質内部に誘電損失現象が生じると考えられる範囲である。適用周波数を1MHz<f<300GHzとするのは、周波数1MHz以下では、誘電損失効果自体がほとんど生じないからであり、また周波数300GHz以上では、照射された電磁波は極表面で減衰し、物質内部まで侵入しないためである。なお、この周波数範囲の高周波電磁波の中で、周波数範囲が300MHz<f<300GHzの範囲のものは、波長が短く、空間を自由に伝搬できることから、使用する電磁波としてより適していると考えられる。
【0048】
さらに式(1)より、高周波電磁波が誘電性物質の中で単位面積あたり熱となって消費されるエネルギー(P)は、照射する周波数(f)の二乗に比例することが分かる。その意味からは、周波数が高いほど、物質表面の急速加熱には適していると言える。しかしながら、その一方で、高周波電磁波は物質内部では減衰する。入射電磁波が物質内で半減する深さ(D)は次式で表される。
【0049】
【数2】

【0050】
この式から、照射電磁波の周波数が高くなるにつれて、物質内部への高周波電磁波の減衰距離は短くなることが分かる。従って、本発明では、作成する実装部品のサイズ(厚み)に応じて、照射する電磁波の周波数を調整すればよい。
【0051】
次に、本発明に用いる粒子材料について説明する。本発明に使用する粒子の必要要件は、熱分解性でかつ高周波電磁波吸収特性のある材料であり、その要件を満たすものであれば、粒子の種類を問わないため、熱分解性粒子が、金属−酸素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−窒素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−炭素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−ハロゲン結合を持つ無機及び有機金属ハロゲン化物等を用いることができる。さらに具体的には、Ag化合物を例にとると、熱分解性粒子としては酸化銀、窒化銀、ハロゲン化銀等を用いることができる。その中でも酸化銀(AgO)などは、比較的低温(約190℃)での熱分解性が報告されており、その意味でより適当であると考えられる。
【0052】
ここで、熱分解特性を有する粒子のサイズに関して、特に制限は設けない。本発明の目的とする電子実装部品の作成、特に次世代高密度電子デバイスに対応した微細実装部品の作成という観点からは、平均粒径50μm以下のものが適当である。粒子径が大きいと、粒子充点率が低下し、その結果抵抗率が増加する。さらに、粒子の界面エネルギー、粒径減少による融点の低下、さらには高周波電磁波の浸透深さを考慮すると、粒子サイズはより小さい方が好ましく、例えば、平均粒径1nm〜100nmであると特に好ましいと考えられる。
【0053】
以下に本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0054】
高周波電磁波を照射した場合の熱分解性物質(AgO)の選択加熱性、および過剰発熱防止効果について、以下の実験により確認した。熱分解性で且つ高周波電磁波を吸収する物質の一例として、AgOナノ粒子ペースト(平均粒径50nm、藤倉化成(株)製)を準備した。次にこのAgOナノ粒子ペーストを一般的なポリイミド基板上に部分的に塗布した(図1参照)。なお塗布部分の膜厚は約50μmであった。
【0055】
なお、本実施例では、熱分解性かつ高周波電磁波吸収性の粒子として、ペースト化したAgOナノ粒子を用いて実験を行ったが、本発明においては用いる粒子は必ずしもこのようなペースト状である必要はない。しかしながら、ペースト化した粒子を用いることで、ペーストに基板との密着性を高めることが可能となるため、高周波電磁波照射後に形成された導電材と基板との密着性が向上することが期待される。
【0056】
次に、このAgOナノ粒子ペーストを部分的に塗布したポリイミド基板に対し、図2に示す低周波電磁波照射装置により、出力500Wにて、周波数(f)=1000Hzの低周波電磁波を発生させ、低周波電磁波の照射、および図3に示す高周波電磁波照射装置により出力500Wにて、周波数(f)=2.45GHzの高周波電磁波を発生させ、高周波電磁波の照射をそれぞれ行い、それら照射にともなう基板各部(A部〜E部)の温度変化を、サーモグラフィー(日本アビオニクス社製、型式:TVS−8500)を用いて測定した結果を図1に示す。但し、電磁波照射容器内にサーモグラフィーを設置することが不可能であったため、温度の測定はそれぞれ設定時間の電磁波照射後すぐに電磁波防護用扉を開放することで行った。測定結果を表1、表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
先ず、表1(a)から、周波数(f)=1000Hzの電磁波を照射した場合、50sec照射後においても、AgO塗布部分の温度上昇は5℃以下であり、この周波数の電磁波照射においてAgO粒子がほとんど加熱されないことが確認された。この結果は、低周波の電磁波照射は、本発明の目的とする熱分解性粒子の加熱分解相互融着には不適であることを示唆するものである。
【0059】
【表2】

【0060】
一方で、表2より、周波数(f)=2.45GHzの高周波電磁波を照射した場合、AgO粒子を塗布した領域の顕著な温度上昇が確認された。この結果は、高周波電磁波を照射した場合の熱分解性物質(AgO)の選択的加熱性を示唆するものである。また同じく表2から、高周波電磁波照射に伴う熱分解性物質の温度上昇は190℃近傍で止まり、それ以上は加熱されないことも確認された。この結果は、加熱に伴うAgOの分解反応(2AgO→2Ag+O)の進行により、電磁波の吸収量が減少したことに起因するものと考えられる。
【0061】
このように、この高周波電磁波の照射対象として、酸化銀をはじめとする各種熱分解性で且つ高周波電磁波を吸収する粒子を用いることにより、粒子のみを選択的に加熱され、
さらに加熱による熱分解の進行後過度の昇温が自発的に防止されることを確認した。
【0062】
また、上記実験と同様に、図3に示す高周波電磁波の照射装置を用いて、AgOナノ粒子ペーストを(部分的に)塗布したポリイミド基板に対し、出力500Wにて、周波数(f)=500GHzの超高周波電磁波を発生させ、超高周波電磁波の照射実験も行った。このサンプルに関しても、50sec照射後、サンプルのAgOナノ粒子ペースト領域が、相互融着していることが確認された。
【実施例2】
【0063】
高周波電磁波の照射による熱分解性物質(AgO)の加熱分解−粒子相互融着効果について、下記の実験により確認した。まず、上記の高周波電磁波照射実験終了後の各サンプルについて、ZRD(粉末X線回折装置、株式会社リガク製)によって、結晶構造の同定を行った。周波数(f)=1000Hzの電磁波を照射したサンプルについては、照射時間によらず、AgOのみの存在を示すピークが確認された。これは、周波数(f)=1000Hzの低周波電磁波の照射では、加熱分解が進行しなかったことを示唆するものである。
【0064】
次に周波数(f)=2.45GHzの電磁波を照射したサンプルについては、照射時間によって得られるX線回折でのピークの位置が変化した。照射時間0secおよび10secのサンプルについては、AgOのみの存在を示すピークが確認されたのに対し、照射時間20secのサンプルについては、AgOおよびAgのピークが確認され、さらに、照射時間30sec以上のサンプルについては、Agのピークのみが確認された。この結果は、高周波電磁波照射にともなう加熱によって、熱分解性物質(AgO)の加熱分解が進行するという事実を示唆するものである。
【0065】
さらに周波数(f)=500GHzの電磁波を50sec照射したサンプルについては、AgOおよびAgのピークが確認された。これは部分的(表面)においてのみAgOの熱分解が進行したものによると考えられる。
【実施例3】
【0066】
さらに、加熱にともなう粒子相互融着効果を確認することを目的に、周波数(f)=2.45GHzの電磁波を照射したサンプル(照射時間50sec)について電気抵抗測定を行った。測定は、デジタルマルチメータ(Keithley社製、型式:DMM2000)、直流安定化電源(ケンウッド社製、形式:PAR20−4H)を用いて、直流四端子法によって行った。
【0067】
その結果、この周波数(f)=2.45GHzの電磁波を50sec照射したサンプルに対しては、ρ=5.0μΩ・cmという高い導電性が確認された。この結果は、高周波電磁波の照射によりAgOの加熱分解(還元)粒子相互融着効果が進行し、Agの低抵抗の導電膜が形成されるという事実を示唆するものである。
【0068】
なお、同様の効果は同じくポリイミド基板上にバンプ状に形成した円柱突起(円柱状、高さ約1mm、直径2mm)においても確認され、形状によらず本方法が適用出来ることが分かった。
【0069】
さらに、ポリイミド基板上に形成したAgOナノ粒子ペーストを用いてパッド、ビア等を形成し、効果を確認したところ高い導電性が得られ、これらについても同様の効果が確認された。
【符号の説明】
【0070】
1.ポリイミド基板
2.AgO粒子を塗布した領域
3.電磁波照射容器
4.導線
5.加熱電極
6.ターンテーブル
7.電磁波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に表面塗布を行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解方法。
【請求項2】
熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に表面塗布を行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法。
【請求項3】
熱分解性を有し且つ高周波電磁波を吸収する粒子を、各種基板上に回路パターニングを行った後に、高周波電磁波照射を行うことで、熱分解性粒子を選択的に加熱することを特徴とする、熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法。
【請求項4】
高周波電磁波照射によって、基板上に塗布もしくは回路パターニングされた熱分解性粒子を選択的に加熱し、さらにこの照射にともなう昇温によって熱分解性粒子の熱分解相互融着が引き起こされた後は、加熱効果が自発的に停止することを特徴とした請求項2乃至請求項3に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着法。
【請求項5】
表面塗布された熱分解性粒子が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂をはじめとする高分子樹脂と熱分解性粒子を混合したペースト状混合物の形で表面塗布されることを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法。
【請求項6】
熱分解性粒子に照射する電磁波が1MHz<f<300GHzの範囲の高周波電磁波であることを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法。
【請求項7】
熱分解性粒子に照射する電磁波が300MHz<f<300GHzの範囲の高周波電磁波であることを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の熱分解性粒子の加熱分解相互融着方法。
【請求項8】
前記熱分解性粒子が、金属−酸素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−窒素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−炭素結合を持つ無機及び有機金属化合物、金属−ハロゲン結合を持つ無機及び有機金属ハロゲン化物のいずれかであること特徴とする、請求項2乃至請求項7に記載の粒子熱分解相互融着法。
【請求項9】
前記熱分解性粒子が、酸化銀、窒化銀、ハロゲン化銀のいずれかであることを特徴とする、請求項8に記載の粒子熱分解相互融着法。
【請求項10】
各種基板上にパターニングした高周波電磁波を吸収する熱分解性を有する粒子を、高周波電磁波照射を行うことで選択的に加熱し、熱分解性粒子を加熱分解相互融着して作成した導電路と基板の両者を含むことを特徴とする電子実装部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−232667(P2010−232667A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106213(P2010−106213)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2004−107870(P2004−107870)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】