説明

高圧タンク

【課題】取付溝とバックアップリングとの隙間を埋めることができ、且つ、製造の容易な高圧タンクを提供する。
【解決手段】Oリング100を介して高圧側から押圧されることによって、第一バックアップリング90と第二バックアップリング92は、重ね合わされたテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する。つまり、第一バックアップリング90は口金20側に向かってスライドし、一方、第二バックアップリング92はバルブ32側に向かってスライドする。その結果、(A)の状態で存在していた各バックアップリングとリング取付溝80との隙間82が、(B)の状態では各バックアップリングによって埋められている。また、リング取付溝80は、比較的単純な矩形状断面に加工すればよいため、加工も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関し、特に高圧タンクのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用の燃料ガスなどを充填するための高圧タンクが知られている。高圧タンク内には、高圧力の燃料ガスが充填されるため、例えば、バルブと口金との接合部分などに、高圧力に耐えながら燃料ガスなどを密閉するシール構造が設けられる。なお、シール構造に関しては、高圧タンクに設けられるものに限らず、従来から様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、テーパ状溝底部を有する取付溝内に、そのテーパ状溝底部に対応したテーパ部を備えたバックアップリングを設ける技術が記載されている。これにより、シールリングを介して高圧側から押圧されたバックアップリングがテーパ面に沿ってスライドし、バックアップリングと取付溝との隙間が埋められる。
【0004】
【特許文献1】特許第3543617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、例えば、特許文献1には、取付溝内のテーパ状溝底部にバックアップリングのテーパ部を対応させる技術が開示されている。しかし、特許文献1の技術は、内燃機関のインジェクタの配管部などに用いられる密閉装置に関するものであり、高圧タンクのシール構造に関するものではない。仮に、高圧タンクのシール構造に適用できたとしても、取付溝内にテーパ状溝底部を設けることは、取付溝の加工を困難にする。
【0006】
本発明は、このような背景において成されたものであり、その目的は、取付溝とバックアップリングとの隙間を埋めることができ、且つ、製造の容易な高圧タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である高圧タンクは、シールリングと、各々がテーパ面を備えた第一および第二バックアップリングと、を取付溝内に設けた高圧タンクであって、前記第一および第二バックアップリングは、互いのテーパ面を重ね合わせて前記シールリングよりも低圧側に配置され、前記シールリングを介して高圧側から押圧されることによって、前記第一および第二バックアップリングがテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する、ことを特徴とする。
【0008】
上記構成では、取付溝内に設けられた第一および第二バックアップリングが互いに異なる方向へ摺動する。例えば、各バックアップリングが取付溝の壁面へ向かって摺動することにより、各バックアップリングと取付溝との隙間を埋めることが可能になる。また、上記構成では、取付溝の壁面にテーパを設ける必要がないため取付溝の加工が容易である。
【0009】
望ましい態様において、前記第一および第二バックアップリングは、各々、全周にテーパ面を備える、ことを特徴とする。望ましい態様において、前記シールリングと前記第一および第二バックアップリングは、タンク本体の開口に挿入されるバルブの外周面に形成された円環状の取付溝内に設けられ、バルブの外周面が開口に挿入された状態で、前記第一および第二バックアップリングが互いに異なる方向へ摺動することにより、各バックアップリングと取付溝との隙間が埋められる、ことを特徴とする。
【0010】
また上記目的を達成するために、本発明の好適な態様であるシール構造は、シールリングと、各々がテーパ面を備えた第一および第二バックアップリングと、を取付溝内に設けたシール構造であって、前記第一および第二バックアップリングは、互いのテーパ面を重ね合わせて前記シールリングよりも低圧側に配置され、前記シールリングを介して高圧側から押圧されることによって、前記第一および第二バックアップリングがテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、取付溝とバックアップリングとの隙間を埋めることができ、且つ、製造の容易な高圧タンクが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る高圧タンク10の全体構成を説明するための断面図である。まず図1を利用して、本実施形態の高圧タンク10の全体構成について説明する。
【0014】
本実施形態の高圧タンク10は、内部(タンク内側)に、例えば水素や天然ガスなどの燃料ガスを充填保管するためのものであり、容器状のタンク本体12を備えている。タンク本体12の周壁は、外側の外周壁16と内側の内周壁18で構成されている。内周壁18は、例えば樹脂ライナーでありナイロン樹脂等で形成される。内周壁18は、図1に破線で示される接続部70において、図1の上下に二分割されている。
【0015】
図1では高圧タンク10の下方側が図示省略されており、図示省略された下方側の内周壁18も上方側と同様に構成され、上下二体の内周壁18がレーザーなどの加熱装置によって接続部70で溶接される。そして、溶接されて一体となった内周壁18の外側に、樹脂(例えばエポキシ樹脂)を含浸させたカーボン繊維をフィラメントワインディングして被覆させ、これを乾燥させることにより、内周壁18と外周壁16の二層構造のタンク本体12が形成される。なお、内周壁18は予め上下一体で形成されてもよい。またタンク本体12に、その角部を保護するウレタン製の保護パッド50が取り付けられてもよい。
【0016】
タンク本体12は、金属製の略円筒状とされた口金20を有している。口金20は、例えばステンレスやアルミニウム製である。口金20は、外周壁16と内周壁18に嵌入されて、さらに、口金20は、内周壁18に沿ってタンク内側に向かって突出している。
【0017】
口金20内には、略円柱状の開口が設けられており、これがタンク本体12の開口として機能する。口金20の開口には、略円柱状のバルブ32が取り付けられている。バルブ32の軸方向の中間部分には雄ネジが形成されており、バルブ32の雄ネジが口金20の開口に設けられた雌ネジに締結(螺合)されることで、バルブ32によって口金20の開口が閉じられている。
【0018】
バルブ32と口金20との接触面には、Oリング60が挿入されている。Oリング60は、例えばゴム製などの弾力を有する部材であり、略円柱状のバルブ32を取り囲むように配置されている。そして、このOリング60を介して口金20とバルブ32とが接触することにより、シール性が確保されている。なお、口金20と内周壁18との接触面にもOリング60が設けられており、口金20と内周壁18との間のシール性が確保されている。
【0019】
本実施形態の高圧タンク10は、開口部分がタンクの内側に突出している。その内側突出部分では、略円柱状のバルブ32を取り囲むように口金20がタンク内側に向かって突出している。そして、内側突出部分のバルブ32と口金20との接続面において、バルブ32の外周面に円環状のリング取付溝80が設けられている。
【0020】
図2は、リング取付溝80内の構成を説明するための図であり、図2(A)(B)は、共に、図1に示すリング取付溝80の右側断面の拡大図である。
【0021】
図2(A)に示すように、リング取付溝80は、矩形断面に形成されてその内部にOリング100と第一バックアップリング90と第二バックアップリング92が設けられている。Oリング100は、略円柱状のバルブ32を取り囲むシールリングであり、例えばゴム製などの弾力を有する部材で形成される。
【0022】
第一バックアップリング90および第二バックアップリング92は、各々、略円柱状のバルブ32を取り囲むリング状の部材である。第一バックアップリング90および第二バックアップリング92は、例えば樹脂系材料によって形成されることが望ましい。但し、金属などで形成されてもよい。そして、第一バックアップリング90および第二バックアップリング92は、各々、全周にテーパ面が形成され、互いのテーパ面を重ね合わせてリング取付溝80内に収められている。図2の第一バックアップリング90と第二バックアップリング92の断面では、傾斜直線で示される断面部分がテーパ面に対応している。
【0023】
図2(A)の下方側はタンク内側である。タンク内部には、例えば水素や天然ガスなどの燃料ガスが充填されている。燃料ガスはタンク内に高圧力で充填されているため、バルブ32と口金20との間の僅かな隙間に高圧の燃料ガス(高圧ガス)が入り込み、リング取付溝80内に入り込んでしまう。バルブ32と口金20との間の僅かな隙間に入り込む高圧ガスをシールするために、Oリング100が設けられている。つまり、Oリング100がバルブ32と口金20の隙間をシールすることにより、燃料ガスがその隙間からタンク外部へ流出することを防止している。
【0024】
本実施形態では、リング取付溝80内において、Oリング100よりも低圧側、つまり図2(A)の上方側に、第一バックアップリング90および第二バックアップリング92が配置される。図2(A)の状態でリング取付溝80内にタンク内側(高圧側)から高圧ガスが入り込むと、Oリング100が上方側に向かって押圧される。そして、第一バックアップリング90および第二バックアップリング92は、Oリング100を介して、上方側へ向かって押圧される。
【0025】
図2(B)は、Oリング100と第一バックアップリング90と第二バックアップリング92が上方側に向かって押圧された状態を示している。Oリング100を介して高圧側から押圧されることによって、第一バックアップリング90と第二バックアップリング92は、重ね合わされたテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する。つまり、Oリング100による押圧方向に対して略垂直な面内に属する互いに逆向きの方向へ摺動する。本実施形態では、第一バックアップリング90は口金20側に向かってスライドし、一方、第二バックアップリング92はバルブ32側に向かってスライドする。
【0026】
このように、密閉すべき部材(口金20とバルブ32)と近接する方向(隙間をなくす方向)に各バックアップリングが摺動するため、その結果、図2(A)の状態で存在していた各バックアップリングとリング取付溝80との隙間82が、図2(B)の状態では各バックアップリングによって埋められている。つまり、第一バックアップリング90が口金20側の隙間82を埋めており、また、第二バックアップリング92がバルブ32側の隙間82を埋めている。
【0027】
このように、各バックアップリングによって隙間82が埋められるため、高圧ガスでOリング100が押圧されて上方に向かって潰された場合でも、Oリング100が隙間82に入り込むことを防ぐことができる。そのため、Oリング100によるシール機能が十分に発揮され、また、Oリング100が隙間82に入り込んでOリング100の一部が損傷することなどを防ぐこともできる。
【0028】
このように、本実施形態によって、Oリング100が隙間82に入り込むことを防ぐことができる。さらに、本実施形態では、二つのバックアップリングのテーパ面を利用しているため、リング取付溝80にテーパ面を形成する必要がない。つまり、リング取付溝80は、比較的単純な矩形状断面に加工すればよいため、加工も容易である。
【0029】
なお、図2には、図1に示すリング取付溝80の右側断面のみを図示しているが、リング取付溝80は、円柱状のバルブ32の外周を取り囲むように円環状に形成されている。また、第一バックアップリング90と第二バックアップリング92とOリング100も、各々、円柱状のバルブ32の外周を取り囲むように円環状に形成され、そして、第一バックアップリング90および第二バックアップリング92の各々は、全周に亘ってテーパ面が形成されている。したがって、Oリング100が、図2の上方側に向かって押圧されることによって、第一バックアップリング90が全周に亘って口金20側(つまり径方向の外側)にスライドして隙間82を埋め、また、第二バックアップリング92が全周に亘ってバルブ32側(つまり径方向の内側)にスライドして隙間82を埋めている。
【0030】
図3および図4は、本発明に係るバックアップリングの変形例を示す図であり、図3および図4は、各々、図1に示すリング取付溝80の右側断面の拡大図に相当する。
【0031】
図3に示す変形例は、図2に示す第一バックアップリング90と第二バックアップリング92のテーパ面の傾斜方向を反転させた例である。つまり、図3に示す変形例では、Oリング100によって第一バックアップリング90と第二バックアップリング92が上方側に向かって押圧されると、第一バックアップリング90がバルブ32側に向かってスライドし、一方、第二バックアップリング92が口金20に向かってスライドする。つまり、第一バックアップリング90がバルブ32側の隙間を埋め、第二バックアップリング92が口金20側の隙間を埋めることになる。
【0032】
図4に示す変形例は、第一バックアップリング90と第二バックアップリング92に加えて、第三バックアップリング94を設けた例である。そして、図4に示す変形例では、Oリング100によって第一バックアップリング90と第二バックアップリング92と第三バックアップリング94が上方側に向かって押圧されると、第一バックアップリング90が口金20側に向かってスライドし、第二バックアップリング92がバルブ32側に向かってスライドし、第三バックアップリング94が口金20側に向かってスライドする。つまり、第一バックアップリング90と第三バックアップリング94とによって口金20側の隙間を埋め、第二バックアップリング92がバルブ32側の隙間を埋める。このように、三つのバックアップリングを利用して隙間を埋めることも可能であり、また、必要に応じてさらにバックアップリングを追加してもよい。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
例えば、図2から図4には、Oリング100の上方側にバックアップリングを設ける実施形態を示したが、Oリング100の下方側にバックアップリングを設けてもよい。例えば、図2において、Oリング100の上方側に加えて下方側にも第一バックアップリング90と第二バックアップリング92を設けてもよい。これにより、Oリング100の上方側が高圧となり下方側に向かってOリング100が押圧される場合でも、下方側に設けられる第一バックアップリング90と第二バックアップリング92によって、Oリング100が隙間に入り込むことを防ぐことができる。
【0035】
また、本発明に係るバックアップリングは、バルブと口金との間に設けられる用途に限定されない。例えば、バルブ内に設けられたガス流路周辺などのシール部分において、本発明に係るバックアップリングが利用されてもよい。さらに、本発明に係るバックアップリングは、高圧タンクに限らず、流体などを封止することにより、シールの下流と上流で圧力差が生じる構成であれば、如何なるシールにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る高圧タンクの全体構成を説明するための断面図である。
【図2】リング取付溝の拡大断面図である。
【図3】本発明に係るバックアップリングの変形例を示す図である。
【図4】本発明に係るバックアップリングの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 高圧タンク、80 リング取付溝、82 隙間、90 第一バックアップリング、92 第二バックアップリング、100 Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリングと、
各々がテーパ面を備えた第一および第二バックアップリングと、
を取付溝内に設けた高圧タンクであって、
前記第一および第二バックアップリングは、互いのテーパ面を重ね合わせて前記シールリングよりも低圧側に配置され、
前記シールリングを介して高圧側から押圧されることによって、前記第一および第二バックアップリングがテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する、
ことを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクにおいて、
前記第一および第二バックアップリングは、各々、全周にテーパ面を備える、
ことを特徴とする高圧タンク。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧タンクにおいて、
前記シールリングと前記第一および第二バックアップリングは、タンク本体の開口に挿入されるバルブの外周面に形成された円環状の取付溝内に設けられ、
バルブの外周面が開口に挿入された状態で、前記第一および第二バックアップリングが互いに異なる方向へ摺動することにより、各バックアップリングと取付溝との隙間が埋められる、
ことを特徴とする高圧タンク。
【請求項4】
シールリングと、
各々がテーパ面を備えた第一および第二バックアップリングと、
を取付溝内に設けたシール構造であって、
前記第一および第二バックアップリングは、互いのテーパ面を重ね合わせて前記シールリングよりも低圧側に配置され、
前記シールリングを介して高圧側から押圧されることによって、前記第一および第二バックアップリングがテーパ面によって互いに異なる方向へ摺動する、
ことを特徴とするシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−146946(P2007−146946A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341003(P2005−341003)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】