説明

高圧放電灯点灯装置

【課題】放電ギャップの最初のブレークダウン電圧が通常時より著しく変動しても、高圧放電灯の始動不良や放電ギャップの短寿命といった不具合を防止する。
【解決手段】直流電源からの出力を受け高圧放電灯へ電力を供給する降圧チョッパ回路と、降圧チョッパ回路の出力を高周波および低周波の交流出力に変換して高圧放電灯に供給するフルブリッジ回路と、フルブリッジ回路の高周波電圧出力を受けて高圧放電灯を始動させるためのパルス電圧を発生するイグナイタ回路からなる高圧放電灯点灯装置において、イグナイタ回路のパルス電圧の所定時間当たりの発生数を検出するパルス電圧発生数検出回路を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧放電灯を点灯させるための高圧放電灯点灯装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高圧放電灯点灯装置の電子化による小型、軽量化が進み図2に示すような降圧チョッパ回路20とフルブリッジ回路30、およびイグナイタ回路40の組合せにより高圧放電灯50を高周波始動させ、その後、低周波の矩形波で安定に点灯させる高圧放電灯点灯装置が普及しつつある。
【0003】
図2の従来回路の動作を説明すると、降圧チョッパ回路20を構成するPWM制御回路28の制御方式は、抵抗27によりランプ電流に比例したランプ電流信号を、抵抗26によりランプ電圧に比例したランプ電圧信号を検出し、ランプ電流信号とランプ電圧信号を乗算器にて乗算した電圧信号、またはマイコンにて演算した電圧信号と、予め高圧放電灯50の定格ランプ電圧時に定格ランプ電力で点灯できるようにし設定した基準電圧とを誤差増幅器にて比較し、ランプ電流信号とランプ電圧信号を乗算した電圧信号、またはマイコンにて演算した電圧信号が一定になるようにトランジスタ21のデューティ比をパルス幅制御し、高圧放電灯50を適正な電力にて点灯させるものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
次に降圧チョッパ回路20の制限された直流出力を受けて動作するフルブリッジ回路30の動作は、トランジスタ31及び34とトランジスタ32及び33がブリッジ制御回路35にて制御される周波数にて交互に導通・非導通を繰り返すことにより、降圧チョッパ回路20の直流出力を交流電流に変換し、高圧放電灯50に供給するものである。
【0005】
ここで高圧放電灯50の始動時においては、一定時間、ブリッジ制御回路35で制御される周波数を数十kHzに高めることにより、トランジスタ31及び34とトランジスタ32及び33の中点に接続されたチョークコイル36とコンデンサ37の直列回路が共振し、チョークコイル36のインダクタンスとコンデンサ37の容量とブリッジ制御回路35の周波数で決まる正弦波の周波数の高い共振電圧がチョークコイル36およびコンデンサ37端に発生し、コンデンサ37に並列に接続されている高圧放電灯50端にも、その高周波の共振電圧が印加される。
【0006】
次に高圧放電灯50を始動させるためのイグナイタ回路40の動作は、先に説明したブリッジ制御回路35によりブリッジ回路が数十kHzの高周波で動作しているときのコンデンサ37端に発生する高周波の正弦波電圧を受け、チョークコイル36とコンデンサ37の接続点側がプラス電位のときにダイオード41、抵抗43、コンデンサ45の向きに電流が流れコンデンサ45が充電される。高周波の正弦波電圧の極性が反転し、チョークコイル36とコンデンサ37の接続点がマイナス電位のときはコンデンサ46、抵抗44、ダイオード42の向きに電流が流れコンデンサ46が充電される。
【0007】
上記動作を繰り返すことにより、コンデンサ45とコンデンサ46の直列回路端の電位は徐々に上昇していくが、一般的にはコンデンサ37端に発生する電圧は図3に示すようにチョークコイル36のインダクタンスとコンデンサ37の容量で決まる共振周波数fの時が最大で、周波数fにおけるコンデンサ37の電圧(a)を供給し続けた時に、コンデンサ45とコンデンサ46の直列回路端の電位が放電ギャップ48のブレークダウン電圧Vに達するとすると、コンデンサ45、46の直列回路より放電ギャップ48、パルストランス47の一次巻線に電流が流れパルストランス47の一次巻線にコンデンサ45、46の電圧が印加されることになる。
【0008】
このことにより、パルストランス47の二次巻線には、一次巻線に印加された電圧に対してパルストランス47の昇圧比に応じたパルス電圧が発生し、その電圧はコンデンサ37を介して高圧放電灯50に印加されるため高圧放電灯50が、そのパルス電圧により絶縁破壊をして放電を開始する。
【0009】
しかし、実使用上においてはチョークコイル36のインダクタンスとコンデンサ37の容量には、それぞれバラツキがあり、かつ高圧放電灯点灯装置と高圧放電灯50を接続する電線のインダクタンスと容量も、この共振に影響を及ぼすため、図4に示したように、実使用においては本来の共振周波数fはf’へ移行したりf”へ移行したりしてしまう。そのため、本来は放電ギャップ48がブレークダウンできる周波数fでのコンデンサ37の電圧aもa’、a”となり、一定の周波数fでは放電ギャップ48を安定してブレークダウンさせることができない場合もある。
【0010】
また、図5で示すように放電ギャップ48も、そのブレークダウン電圧の中心値aに対し実際はa〜aの範囲でバラツキがあるため、仮に周波数fでのコンデンサ37端の電圧が一定であったとしても、安定して放電ギャップ48をブレークダウンさせることができない場合もある。
【0011】
そのため、従来例の回路では図6に示すようにブリッジ制御回路35の周波数をコンデンサ37端に発生する電圧が低いfstartで動作を開始し、時間と共に周波数を変化させることによりコンデンサ37端の電圧を徐々に高め、チョークコイル36、コンデンサ37の共振条件や放電ギャップ48のブレークダウン電圧にバラツキがあっても、確実に放電ギャップ48を安定してブレークダウンできるようにしている。
【0012】
また、放電ギャップ48がブレークダウンした後も、周波数を変化させると高圧放電灯50が放電を開始するまではコンデンサ37端に発生する電圧は必要以上に高くなってしまうため、放電ギャップ48がブレークダウンした時点で図7に示すようにブリッジ制御回路35の周波数を固定にし、安定したブレークダウンを繰り返すことを可能にしている。
【0013】
次に、高圧放電灯50が放電を開始した直後においても一定時間、ブリッジ制御回路35よりブリッジ回路30を、高周波にて動作することにより、降圧チョッパ回路20に加え、チョークコイル36も限流素子となり、制限された電流にて高圧放電灯50は高周波点灯を開始する。
【0014】
そして一定時間経過後にブリッジ制御回路35によりブリッジ回路を数十〜数百Hzにて動作させることにより、高圧放電灯50は高周波点灯から低周波の矩形波点灯に移行し安定した放電を維持する。
【0015】
また、この時チョークコイル36とコンデンサ37は高圧放電灯50に流れる、チョッパ回路20のスイッチング動作により発生するリップル電流を低減させるためのフィルタ回路の役割も担っている。
【特許文献1】特開2004−95334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、上述したように、従来の高圧放電灯点灯装置のイグナイタ回路40は、ブリッジ回路30の周波数をfstartから時間と共に高めていく制御をすることにより、コンデンサ37端の電圧も徐々に高くなる方向で変化していくため、共振条件や放電ギャップ個々のブレークダウン電圧にバラツキがあっても確実に放電ギャップ48をブレークダウンさせることは可能である。
【0017】
しかし、放電ギャップ48がブレークダウンする電圧は、最初にブレークダウンするときに通常のブレークダウン電圧Vとくらべて著しく低くなったり、高くなったりすることがある。
最初のブレークダウン電圧が低くなると、図8に示すようにフルブリッジ回路の動作周波数もそのまま維持されるため、コンデンサ37端の電圧も低くなり、そのためコンデンサ45−46端の電圧も通常時よりゆっくりと上昇するために、放電ギャップ48がブレークダウンする回数が少なくなり、または最悪ブレークダウンできなくなってしまう。そのため高圧放電灯50の始動性が悪くなったり、始動しなくなったりしてしまう。
また、最初のブレークダウン電圧が高くなると、図9に示すように、放電ギャップ48のブレークダウン回数が著しく多くなり、放電ギャップ48の寿命が短くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記問題点を解決するための本発明第1の側面は、直流電源からの出力を受け高圧放電灯へ電力を供給する降圧チョッパ回路と、降圧チョッパ回路の出力を高周波および低周波の交流出力に変換して高圧放電灯に供給するフルブリッジ回路と、フルブリッジ回路の高周波電圧出力を受けて高圧放電灯を始動させるためのパルス電圧を発生するイグナイタ回路からなる高圧放電灯点灯装置において、イグナイタ回路のパルス電圧の所定時間当たりの発生数を検出するパルス電圧発生数検出回路を備えた高圧放電灯点灯装置である。
【0019】
上記第1の側面において、フルブリッジ回路のスイッチング動作により高周波電圧出力を発生する共振回路を備え、パルス電圧発生数検出回路が検出した所定時間当たりのパルス電圧発生数が所定のパルス発生数よりも少なかった場合に、フルブリッジ回路の動作周波数を変化させて高周波電圧出力を高くするよう構成した。
【0020】
上記第1の側面において、フルブリッジ回路のスイッチング動作により高周波電圧出力を発生する共振回路を備え、パルス電圧発生数検出回路が検出した所定時間当たりのパルス電圧発生数が所定のパルス発生数よりも多かった場合に、フルブリッジ回路の動作周波数を変化させて高周波電圧出力を低くするよう構成した。
【0021】
本発明第2の側面は、上記第1の側面の高圧放電灯点灯装置、高圧放電灯、高圧放電灯が取り付けられるレフレクタ、及び少なくとも高圧放電灯点灯装置を内包する筐体を備えた光源装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高圧放電灯点灯装置によれば、放電ギャップの最初のブレークダウン電圧が通常時より著しく変動しても、高圧放電灯の始動不良や放電ギャップの短寿命といった不具合を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、実施の形態について説明する。図1は本発明に係る高圧放電灯点灯装置の実施の形態を示す回路構成図で、図2に示した従来例のものと同一または対応する部材については、同一の番号を付して、その説明を省略する。
本発明に係る高圧放電灯点灯装置において従来例と異なる点は次の通りである。すなわち、イグナイタ回路40にパルス発生数検知回路491を設け、パルス発生数検出回路の検出結果によって、フルブリッジ制御回路の動作を制御できるようにしたことである。
【0024】
その動作は、放電ギャップ48の最初のブレークダウン電圧が低くなってしまった場合、イグナイタ回路40の所定時間当たりのパルス発生数が規定値範囲より低下したことを、パルス発生数検知回路491が検知し、フルブリッジ回路の動作周波数を高くして、コンデンサ37端の電圧を上昇させることにより、イグナイタ回路40のパルス発生数を規定値範囲に上昇させる。このときのコンデンサ37端の電圧の変化とギャップ48端の電圧変化を図10に示す。
【0025】
また、放電ギャップ48の最初のブレークダウン電圧が高くなってしまった場合は、イグナイタ回路40の所定時間当たりのパルス発生数が規定値範囲より多くなったことを、パルス発生数検知回路491が検知し、フルブリッジ回路の動作周波数を低くすることによって、コンデンサ37端の電圧を低下させ、イグナイタ回路40のパルス発生数を規定値範囲にする。このときのコンデンサ37端の電圧の変化とギャップ48端の電圧変化を図11に示す。
【0026】
なお従来例および実施例において、フルブリッジ回路の動作周波数を高くすると共振電圧が高くなると説明しているが、図3のfより高周波側の共振電圧カーブを用いて、周波数を下げると共振電圧が高くなるようにしてもよい。
【0027】
上記構成により、コンデンサ37に発生する共振電圧が適正な範囲になるように制御され、それにより所定時間当たりのギャップ48のブレークダウン回数も適正な範囲に保たれるので、ギャップ48のブレークダウン電圧の変動があっても高圧放電灯の始動不良や放電ギャップの短寿命といった不具合を防止できる。
【0028】
上記実施例では、放電ギャップの最初のブレークダウン電圧が通常時より著しく変動しても、高圧放電灯の始動不良や放電ギャップの短寿命といった不具合を防止できる高圧放電灯点灯装置を示したが、それを用いたアプリケーションとしての光源装置を図12に示す。図12において、61は上記で説明した実施例の高圧放電灯点灯装置、62は高圧放電灯50が取り付けられるレフレクタ、63は高圧放電灯点灯装置61、高圧放電灯50及びレフレクタ62を内蔵する筐体である。なお、図は実施例を模擬的に図示したものであり、寸法、配置などは図面通りではない。そして、図示されない映像系の部材等を筐体63内に適宜配置してプロジェクタが構成される。
【0029】
上記より、高圧放電灯の始動不良や放電ギャップの短寿命といった不具合を防止した高圧放電灯点灯装置を内蔵したので、始動性を確保した信頼性の高い光源装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る高圧放電灯点灯装置の実施の形態を示す回路構成図
【図2】従来の高圧放電灯点灯装置を示す回路構成図
【図3】従来例におけるブリッジ回路スイッチング周波数と共振電圧の関係を示す図
【図4】従来例におけるバラツキを含めたブリッジ回路スイッチング周波数と共振電圧の関係を示す図
【図5】従来例におけるブリッジ回路のスイッチング周波数と共振電圧と放電ギャップのブレークダウン電圧のバラツキの関係を示す図
【図6】従来例におけるブリッジ回路のスイッチング周波数の動作を示す図
【図7】通常時における実際のブリッジ回路のスイッチング周波数の動作と放電ギャップ電圧の関係を示す図
【図8】従来例におけるギャップの初回のブレークダウン電圧が低い場合のブリッジ回路のスイッチング周波数の動作と放電ギャップ電圧の関係を示す図
【図9】従来例におけるギャップの初回のブレークダウン電圧が高い場合のブリッジ回路のスイッチング周波数の動作と放電ギャップ電圧の関係を示す図
【図10】実施例におけるギャップの初回のブレークダウン電圧が低い場合のブリッジ回路のスイッチング周波数の動作と放電ギャップ電圧の関係を示す図
【図11】実施例におけるギャップの初回のブレークダウン電圧が高い場合のブリッジ回路のスイッチング周波数の動作と放電ギャップ電圧の関係を示す図
【図12】本発明の光源装置を示す図
【符号の説明】
【0031】
10:直流電源
20:チョッパ回路
30:フルブリッジ回路
31、32、33、34:トランジスタ
35:ブリッジ制御回路
36:チョークコイル
37:コンデンサ
40:イグナイタ回路
41、42:ダイオード
43、44:抵抗
45、46:コンデンサ
47:パルストランス
48:放電ギャップ
491:パルス電圧発生数検出回路
50:高圧放電灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの出力を受け高圧放電灯へ電力を供給する降圧チョッパ回路と、該降圧チョッパ回路の出力を高周波および低周波の交流出力に変換して前記高圧放電灯に供給するフルブリッジ回路と、前記フルブリッジ回路の高周波電圧出力を受けて前記高圧放電灯を始動させるためのパルス電圧を発生するイグナイタ回路からなる高圧放電灯点灯装置において、
前記イグナイタ回路のパルス電圧の所定時間当たりの発生数を検出するパルス電圧発生数検出回路を備えた高圧放電灯点灯装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧放電灯点灯装置において、前記フルブリッジ回路のスイッチング動作により前記高周波電圧出力を発生する共振回路を備え、
前記パルス電圧発生数検出回路が検出した所定時間当たりのパルス電圧発生数が所定のパルス発生数よりも少なかった場合に、前記フルブリッジ回路の動作周波数を変化させて前記高周波電圧出力を高くするよう構成された高圧放電灯点灯装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高圧放電灯点灯装置において、前記フルブリッジ回路のスイッチング動作により前記高周波電圧出力を発生する共振回路を備え、
前記パルス電圧発生数検出回路が検出した所定時間当たりのパルス電圧発生数が所定のパルス発生数よりも多かった場合に、前記フルブリッジ回路の動作周波数を変化させて前記高周波電圧出力を低くするよう構成された高圧放電灯点灯装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載の高圧放電灯点灯装置、高圧放電灯、該高圧放電灯が取り付けられるレフレクタ、及び少なくとも該高圧放電灯点灯装置を内包する筐体を備えた光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−277083(P2008−277083A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118321(P2007−118321)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】