説明

高容量の正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池

【課題】本発明は、高電圧で過充電時に大きい非可逆用量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物とスピネル系リチウムマンガン酸化物とを含み、正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で活性化させることにより、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域の活用のための追加的なリチウムを提供できると共に全SOC領域で均一なプロファイル(profile)を有する高容量のリチウム二次電池に関する。
【解決手段】本発明により、スピネル系リチウムマンガン酸化物と上記層状構造のリチウムマンガン酸化物とを含む混合正極活物質を含み、上記高電圧で充電することにより、安全性が改善され、特定SOC領域での急激な電圧降下による出力不足問題がなく、可用SOC区間が広く安全性が向上した高容量の電池を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量の正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA、ラップトップコンピュータなど携帯電子機器はもちろん、自動車の駆動電源としてもリチウム二次電池が用いられるにつれ、これら二次電池の容量を改善するための研究が活発に進められている。特に、HEV、PHEV、EVなどの中大型デバイスの電源としてリチウム二次電池を用いるためには、高い容量のみでなく、使用SOC領域で所定の出力が維持されてこそ安全であるが、放電中に急激な電圧降下が発生する二次電池の場合には、使用可能なSOC区間が制限されるので、中大型作動機器の駆動電源への適用に限界がある。したがって、中大型デバイスに用いるためには、広いSOC区間にわたって急激な出力低下がなく、高容量を有するリチウム二次電池の材料開発が要望されている。
【0003】
このようなリチウム二次電池の負極活物質としてはリチウム金属、硫黄化合物などの使用も提示されているが、安全性の面から炭素材料が多く用いられており、このように負極材料として炭素材料を用いる場合、リチウム二次電池の容量は正極の容量、すなわち正極活物質に含まれているリチウムイオンの量によって決定される。一方、正極活物質としては、主にリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)が用いられており、その他に層状結晶構造のLiMnO、スピネル結晶構造のLiMn等のリチウム含有マンガン酸化物とリチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)の使用が提案されてきている。
【0004】
上記のような正極活物質中LiCoOは寿命特性および充放電効率に優れるため、正極活物質として最も多く用いられているが、構造的安定性が劣り、原料として使われるコバルトの資源的限界によって価格競争力に限界があるという欠点があり、電気自動車などのような分野における動力源として大量に用いることには限界がある。
【0005】
LiNiO系正極活物質は、比較的安価で且つ高い放電容量の電池特性を有しているが、充放電サイクルに伴う体積変化により結晶構造の急激な相転移が発生し、空気と湿気に露出した時に安全性が急激に低下する問題点がある。
【0006】
また、LiMnO等のリチウム含有マンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、安価であるという利点があるものの、容量が小さくサイクル特性が良くなく、高温特性が劣るという問題点がある。
【0007】
このようなリチウムマンガン酸化物中でスピネル系リチウムマンガン酸化物の場合、4V領域(3.7〜4.3V)と3V領域(2.7〜3.1V)で比較的平坦な電位を示し、二つの領域が用いられる場合、約260mAh/g以上の大きい理論的容量(理論容量は3V領域と4V領域で約130mAh/gである。)を得ることができる。しかしながら、上記3V領域ではサイクルおよび保存特性が非常に低下するため活用し難いと知られており、スピネル系リチウムマンガン酸化物のみを正極活物質として用いる場合、リチウムソースを正極活物質に依存する現在のリチウム二次電池のシステムにおいては、3V領域での充放電に使用可能なリチウムソースがないので、可用容量の半分しか使用できないという限界がある。また、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物は、4V領域と3V領域の間で急激な電圧降下が発生して不連続的な電圧プロファイル(profile)が発現されるため、この領域で出力不足問題が生じる可能性があるので、電気自動車などのような分野における中大型デバイスの動力源として利用し難い実情にある。
【0008】
このようなスピネル系リチウムマンガン酸化物の欠点を補完しマンガン系活物質の優れた熱的安全性を確保するために層状リチウムマンガン酸化物が提案された。
【0009】
特に、マンガン(Mn)の含有量が、その他移転金属の含有量より多い層状xLiMnO・(1-x)LiMO(0<x<1、M=Co、Ni、Mnなど)は、高電圧で過充電時に非常に大きい容量を示すが、初期非可逆容量が大きいという欠点がある。これについては多様な説明が行われているが、一般的に次の通りである。すなわち、下記一般式のように、初期充電時、正極電位を基準として4.5V以上の高電圧状態で上記複合体を構成するLiMnOから、二つのリチウムイオンと二つの電子が酸素ガスと共に脱離されるが、放電時には一つのリチウムイオンと一つの電子のみが可逆的に正極に挿入されるためである。
(充電) LiMn4+ → 2Li+e- +1/2O +Mn4+
(放電) Mn4++ Li+ + e- → LiMn3+
したがってxLiMnO・(1-x)LiMO(0<x<1、M=Co、Ni、Mnなど)の初期充放電効率は、LiMnOの含有量(x値)により変わるが、一般的な層状構造の正極材、例えば、LiCoO、LiMn0.5 Ni0.5、LiMn0.33Ni0.33Co0.33等のような正極材より低い。
【0010】
この場合、xLiMnO・(1-x)LiMOの大きい非可逆容量による初期サイクルで負極でのリチウムの析出を防ぐためには、負極の容量を過量に設計しなければならないので、実際の可逆容量が小さくなる問題点があり得る。これにより、表面コーティングなどで非可逆を調節しようとする試みが行われているが、まだ生産性などの問題が完全に解決されない状況である。また、層状構造を有する物質の場合、安全性においても一部問題点が報告されている。
【0011】
このように、従来から知られているリチウム二次電池の正極活物質材料の単独使用には欠点および限界があり、これらの材料間に混合された混合物の使用が要求され、特に、中大型デバイスの電源として用いるためには、高容量を有しながら急激な電圧降下領域がない、すなわち、全SOC領域で均一なプロファイルを示すことで、安全性が改善されたリチウム二次電池に対する必要性が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような要求および従来問題を解決するためになされたものであって、本発明は、高電圧で過充電時に大きい非可逆容量を発現する層状構造のリチウム化合物とスピネル系リチウムマンガン酸化物を混合した混合正極活物質を比較的高い電圧で充電することにより、上記層状構造のリチウム化合物の大きい非可逆性質を利用して、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域の活用のためのリチウムの追加的供給を可能にし、4Vおよび3V領域での急激な出力低下を抑制することにより、4Vと3V領域を全て使用できる高容量のリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような課題を解決するために本発明は下記のような手段を提供する。
【0014】
本発明は、下記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と下記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物とが混合された混合正極活物質を含み、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電することを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
[化1]
Li1+yMn2-y-z4-x
式中、0≦x≦1、0≦y≦0.3、0≦z≦1であり、Mは、Mg、Al、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、B、Ca、Nb、Mo、Sr、Sb、W、B、Ti、V、Zr、及びZnからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素であり、Qは、N、F、S、及びClからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素である。
[化2]
aLiMnO・(1-a)LiMO
式中、0<a<1であり、 Mは、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、Fe、Cu、Zn、Ti、及びBからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素が同時に適用されるものである。
【0015】
また、上記正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電することは、フォーメーション段階あるいはその後数サイクルあるいは毎サイクルで充電することを特徴とする。
【0016】
上記層状構造のリチウムマンガン化合物は、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電時4.45V〜4.8V領域で平坦準位を有し酸素が発生する物質であることを特徴とする。
【0017】
上記混合正極活物質は、混合正極活物質100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を1重量%〜60重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を40重量%〜99重量%含むことを特徴とする。
【0018】
上記混合正極活物質は、混合正極活物質100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を10重量%〜50重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を50重量%〜90重量%含むことを特徴とする。
【0019】
上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物は、導電性物質又は導電性物質の前駆体と複合体を形成することを特徴とする。
【0020】
上記導電性物質は、結晶構造がグラフェンやグラファイトを含むカーボン系物質であることを特徴とする。
【0021】
上記複合体は、高エネルギーミリング(high energy milling)による乾式法で一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の粒子表面にコーティングすることを特徴とする。
【0022】
上記導電性物質は、導電性物質と上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を溶媒に分散した後、導電性物質の前駆体を表面コーティングし乾燥して溶媒を回収する湿式法によって、一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の粒子表面にコーティングして含まれることを特徴とする。
【0023】
上記導電性物質又は導電性物質の前駆体は、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の合成原料であるリチウム前駆体およびマンガン前駆体と導電性物質又は導電性物質の前駆体を混合した後、上記導電性物質又は前駆体が酸化されない温度範囲で混合物を焼成して、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と複合体を形成することにより含まれることを特徴とする。
【0024】
上記混合正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-マンガン酸化物、リチウムマンガン-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル-マンガン酸化物およびこれらに他元素が置換又はドープされた酸化物で構成された群より選ばれる一つ又は2以上のリチウム含有金属酸化物がさらに含まれることを特徴とする。
【0025】
上記他元素は、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、及びFeからなる群より選ばれるいずれか一つ又は2以上の元素であることを特徴とする。
【0026】
上記リチウム含有金属酸化物は混合正極活物質の総重量に対して50重量%以内に含まれることを特徴とする。
【0027】
上記リチウム二次電池は、上記混合正極活物質以外にも導電材、バインダー、充填剤がさらに含まれる正極合剤が集電体上に塗布されたものを正極にすることを特徴とする。
【0028】
上記リチウム二次電池は、中大型デバイスの電源である電池モジュールの単位電池として用いられることを特徴とする。
【0029】
上記中大型デバイスは、パワーツール(power tool)、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;E-バイク(E-bike)、E-スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(Electric golf cart);電気トラック;電気商用車又は電力貯蔵用システムであることを特徴とする。
【0030】
一方、 本発明は、下記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と下記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物とを混合して混合正極活物質を製造する段階と、
上記混合正極活物質を含むリチウム二次電池の製造段階と、
上記リチウム二次電池を正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電する段階と、
脱ガス(degassing)段階と、を含むリチウム二次電池の製造方法を提供する。
[化1]
Li1+yMn2-y-z4-x
式中、0≦x≦1、0≦y≦0.3、0≦z≦1であり、Mは、Mg、Al、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、B、Ca、Nb、Mo、Sr、Sb、W、B、Ti、V、Zr、及びZnからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素であり、Qは、N、F、S、及びClからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素である。
[化2]
aLiMnO・(1-a)LiMO
式中、0<a<1であり、 Mは、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、Fe、Cu、Zn、Ti、及びBからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素が同時に適用されるものである。
【0031】
上記正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電する段階は、フォーメーション段階あるいはその後数サイクルあるいは毎サイクルで行うことを特徴とする。
【0032】
上記層状構造のリチウムマンガン酸化物は、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電時4.45V〜4.8V領域で平坦準位を有し酸素が発生する物質であることを特徴とする。
【0033】
上記混合正極活物質は、総重量100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を1重量%〜60重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を40重量%〜99重量%含むことを特徴とする。
【0034】
上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を導電性物質又は導電性物質の前駆体と複合体を形成する段階をさらに含むことを特徴とする。
【0035】
上記導電性物質は、結晶構造がグラフェンやグラファイトを含むカーボン系物質であることを特徴とする。
【0036】
上記複合体は、高エネルギーミリング(high energy milling)による乾式法で製造されることを特徴とする。
【0037】
上記複合体は、導電性物質と上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を溶媒に分散した後、導電性物質の前駆体を表面コーティングし乾燥して溶媒を回収する湿式法によって製造されることを特徴とする。
【0038】
上記複合体は、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の合成原料であるリチウム前駆体およびマンガン前駆体と導電性物質又は導電性物質の前駆体を混合した後、上記導電性物質又は前駆体が酸化されない温度範囲で焼成して製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、比較的高い電圧で充電する場合、大きい非可逆容量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物とスピネル系リチウムマンガン酸化物とを混合して正極を構成し高い電圧で充電することにより、従来の電池に比べて充放電容量が大きく、熱的安全性に優れた新しいシステムの電池を提供する。
【0040】
また、層状構造のリチウムマンガン酸化物の大きい非可逆容量を利用してスピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域を活用することにより、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V〜4V領域を全て利用できるようにして、セル容量を最大化すると同時に3V〜4V領域で緩慢な傾きの電圧プロファイルを有する電池を実現することにより、可用SOC区間を拡大し安全性が向上したリチウム二次電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明における実施例1に係るリチウム二次電池の充放電サイクルに対するグラフである。
【図2】本発明における実施例2に係るリチウム二次電池の充放電サイクルに対するグラフである。
【図3】本発明における比較例に係るリチウム二次電池の充放電サイクルに対するグラフである。
【図4】本発明における実験例に係る半電池(half cell)の充放電サイクルに対するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、上記のような課題を解決するために、比較的高い電圧(正極電位を基準として4.45V以上)で充電時大きい非可逆容量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物とスピネル系リチウムマンガン酸化物を含む混合正極活物質と、上記正極活物質を含むリチウム二次電池を提供する。
【0043】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0044】
一般に、スピネル系リチウムマンガン酸化物は、3次元結晶構造の特性上、速いリチウムイオンの拡散が可能であり、層状系構造の正極物質に比べて優れた出力特性を示す。また、安価であるMnの使用により、リチウム二次電池の正極活物質として最近注目されている。ところが、4V領域と3V領域という大きく区分される二つの作動電圧を有しているので、単独で用いる場合、上記二つの領域の作動電圧の間で急激な出力降下が発生する問題点を有している。
【0045】
上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の代表的物質中の一つであるLiMnの各電圧帯での酸化還元反応は次の通りである。
4V領域での酸化・還元反応:Mn + Li+ + e- ⇔ LiMn
3V領域での酸化・還元反応:LiMn + Li+ + e- ⇔ LiMn
【0046】
上記酸化還元反応で、4V領域を利用するためのLiMnは合成し難くないが、3V領域を活用するためのLiMnは合成し難く、安定した構造の化合物が容易に得られない。また、リチウムソースを正極活物質に依存する現在のリチウム二次電池のシステムにおいては上記3V領域で使用できるリチウムソースがないので、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域での作動が難しくなる。
【0047】
したがって上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の欠点を改善し3V領域の活用のためには、安定したスピネル構造のLiMnを合成したり、LiMnスピネルに追加的なリチウムを供給できる物質の混合が要望され、これと共に4V領域と3V領域を同時に利用するために3V〜4Vの全領域での急激な電圧降下がなく緩慢な傾きの電圧プロファイルが発現しなければならない。
【0048】
しかしながら、上記3V領域の反応で起こるリチウムの挿入/脱離によるサイクル特性は、充放電時にMn3+イオンに起因したヤーン・テラー歪み(Jahn-Teller distortion)により引き起こされる非対称的格子の拡張/収縮によって多くの問題点が生じる。すなわち、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物は、4V領域(3.7〜4.3V)で等軸晶系相(cubic phase)の単一相として存在するが、3V領域(2.5〜3.5V)でMn3+が過量に存在してヤーン・テラー歪み(Jahn-Teller distortion)効果によって等軸晶系相(cubic phase)から正方晶系相(tetragonal phase)に相転移現象が発生しながら、充放電特性が大きく減少することになる。
【0049】
例えば、同じ条件で二次電池を製造した時、4V領域での実際容量は理論容量に近接するが(理論容量は3V領域と4V領域で約130mAh/gである。)、3V領域での一般的な実際容量(90mAh/g)は理論容量に大きく至らない。上記のような構造変異のために3V領域での安定したスピネル構造を有するLiMnの開発には限界性があった。
【0050】
これにより本出願の発明者らは多様な実験と研究を重ねた結果、スピネル系リチウムマンガン酸化物に追加的なリチウムを供給して3V領域で安定的に作動でき、さらに4V領域と3V領域の間での急激な電圧降下がなく、3V〜4V領域を全て安全に利用できるように正極活物質を提供するに至った。
【0051】
本発明の正極活物質に含まれるスピネル系リチウムマンガン酸化物は、望ましくは下記一般式(1)で表される物質である。
[化1]
Li1+yMn2-y-z4-x
式中、0≦x≦1、0≦y≦0.3、0≦z≦1であり、Mは、Mg、Al、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、B、Ca、Nb、Mo、Sr、Sb、W、B、Ti、V、Zr、及びZnからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素であり、Qは、N、F、S、及びClからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素である。
【0052】
上記のように、Mnの一部を他の元素に置換する場合、スピネル系リチウムマンガン酸化物の構造的安全性を向上させ、寿命特性をより一層延長することもできる。
【0053】
本発明の正極活物質は、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物に、高電圧で充電時大きい非可逆容量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物を混合する。
【0054】
このように層状構造のリチウムマンガン酸化物をスピネル系リチウムマンガン酸化物と混合することにより、上記層状構造のリチウム化合物の大きい非可逆容量を活用して負極の非可逆を満たすと共に、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域に活用できるリチウムソースを確保することにより、高容量のリチウム二次電池を提供することができる。
【0055】
リチウム二次電池での正極の実際使用充電率(state of charge;SOC)は、負極表面での初期非可逆反応に制限を受ける。すなわち、最初充電時に負極の表面に固体電解質界面(solid electrolyte interface:SEI)膜が形成され、この際、正極から放出されたリチウムイオンが多量に用いられ、これにより実質的に充放電に参加するリチウムイオンの量が減少することになる。これは100%スピネル系リチウムマンガン酸化物のみを使用した場合、非可逆反応により負極に移動したリチウムイオンの全てがスピネル系リチウムマンガン酸化物に戻らず、リチウムマンガン酸化物のSOC状態が高まることになる原因となる。
【0056】
本発明の正極活物質に含まれる上記層状構造のリチウムマンガン酸化物は、負極表面での初期非可逆反応のためのリチウムを提供し、再度正極にリチウムソースを提供することにより、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域での反応に必要なリチウムを追加的に供給できる材料である。
【0057】
すなわち、本発明に係るスピネル系リチウムマンガン酸化物と、上記の大きい非可逆容量を有する層状構造のリチウムマンガン酸化物とが混合された混合正極活物質は、負極表面での初期非可逆反応に消耗するリチウムイオンを提供し、その後、放電時、負極での非可逆反応に使用されないリチウムイオンが正極に移動して、追加的にスピネル系リチウムマンガン酸化物に提供されることにより、3V領域でも活発に作動されるようにする。
【0058】
一般に、非可逆容量とは、(初めてのサイクル充電容量-初めてのサイクル放電容量)で定義され、本発明に用いられる大きい非可逆容量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物は、下記一般式(2)で表することができる。
[化2]
aLiMnO・(1-a)LiMO
式中、0<a<1であり、 Mは、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、Fe、Cu、Zn、Ti、及びBからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素が同時に適用されるものである。
【0059】
上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物は、上記一般式で表されるように、必須転移金属中でMnの含有量がリチウムを除いたその他の金属の含有量より多く、正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で充電時4.45V〜4.8V付近で平坦準位区間を有しながら酸素が発生する特徴を有する。
【0060】
この際、LiMnOで酸素が酸化しながら二つのリチウムイオンが発生する反応、すなわち、2Li+2e+0.5O形態の反応が起こり、その後、放電時にはリチウムの空間不足により一つのリチウムのみが正極に戻ることができることから、上記物質は大きい非可逆容量を有するようになり、高容量を実現するためにLiMnOの比率を増加させる場合、初期非可逆容量はより一層大きくなる。したがって上記層状構造のリチウムマンガン酸化物の非可逆容量は、製法、組成、充電条件により変わることができる。
【0061】
なお、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物は、正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で充電することにより、容量の約10〜40%程度に該当する非可逆容量が発現するので、このような非可逆特性を利用するためには比較的高い電圧で充電する過程が必ず必要であり、したがって本発明では上記混合正極活物質を含むリチウム二次電池を正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電するようにする。この際、充電方法は特に制限されず、当該技術分野で公知の方法を用いても構わない。
【0062】
上記のような充電過程は、毎作動サイクルごとに進行しても良く、安全性および工程性を勘案して電池フォーメーション段階で1回又は数回進行しても良い。上記のような充電を毎サイクルごとに進行するためには、正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で安定的に作動できる電解液が必要であるが、現在の技術段階ではこのような電解液の実現が容易ではない。
【0063】
一方、上記のような充電又はフォーメーション段階が終了した後には、上記充電過程で大量発生した酸素などのガスを除去するために必ず脱ガス(degassing)を行うようにする。
【0064】
上述したように、層状構造のリチウムマンガン酸化物を正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で充電する場合、材料の組成、表面コーティング、充電電圧および条件に応じて非可逆容量が変わるので、これによりスピネル系リチウムマンガン酸化物との含有量を調節することができる。
【0065】
従って、上記の大きい非可逆容量が発現する一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物は、この物質の非可逆容量と負極の非可逆容量、そしてスピネル系リチウムマンガン酸化物の3V容量間の関係を考慮して適切な含有量比を求めることができる。
【0066】
例えば、本発明の実施例1に記載されたように、正極電位を基準として4.6V電圧で充電する場合、一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物の非可逆容量は約70mAh/gであり、この際スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V容量は120mAh/gであるので、一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物とスピネル系リチウムマンガン酸化物との比は、負極の非可逆を考慮した場合、2:1の割合が適切である。
【0067】
若し、正極電位を基準として4.9V電圧で充電すると、非可逆容量がさらに増加するので、スピネル系リチウムマンガン酸化物の含有量を50%まで高めることができる。
【0068】
上記のように本発明に係る二次電池を正極電位を基準として4.45V以上の比較的高い電圧で充電して大きい非可逆容量を発現させる場合、本発明に係るリチウム二次電池は、2V〜4.6Vの領域で緩慢な電圧プロファイルを示す。すなわち、スピネルの作動電圧領域である3V領域と4V領域の境界付近での急激な電圧降下現象を抑制し、全体的に緩慢な電圧プロファイル(profile)が発現するので、特定SOC領域での急激な電圧降下による出力不足問題が発生せず使用できるSOC領域が拡大する。
【0069】
本発明の混合正極活物質、すなわち、スピネル系リチウムマンガン酸化物と上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物との組成は、上記混合物の全体重量を基準として、一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物が40重量%〜99重量%、望ましくは60重量%〜90重量%であり、スピネル系リチウムマンガン酸化物又は導電性物質との複合体は、1重量%〜60重量%、望ましくは10重量%〜40重量%となるようにする。
【0070】
上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の含有量が少なすぎると安全性に問題があり得、添加による効果を期待し難い。また一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物の含有量が40重量%未満である場合、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域帯に必要なリチウムの追加供給に限界があるため高容量の発現が難しい。
【0071】
一方、本発明に含まれるスピネル系リチウムマンガン酸化物は、上記のように一般的な形態のスピネル系リチウムマンガン酸化物を用いることもできるが、さらに、より望ましくは伝導性を向上させる物質と複合体で形成されたスピネル系リチウムマンガン酸化物で製造して、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物と混合することもできる。
【0072】
上記のように、スピネル系リチウムマンガン酸化物と導電性物質の複合体を含む本発明に係る正極活物質は、スピネル系リチウムマンガン酸化物の3V領域で伝導性をより一層向上させることができ、所望する水準の充放電特性を発揮できるようになり、サイクル安定性と寿命をより一層向上させることができる。
【0073】
上記複合体の形成は、スピネル系リチウムマンガン酸化物を合成した後、導電性物質とのミリング(milling)などの方法を用いて製造するか、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の焼成時に導電性物質又はその前駆体を共に含ませて製造する方法も可能である。
【0074】
上記導電性物質は、電気伝導度に優れ、二次電池の内部環境で副反応を誘発させないものであれば特に制限されないが、伝導性が高いカーボン系物質が特に望ましい。
【0075】
このような高伝導性のカーボン系物質の望ましい例としては、結晶構造がグラフェンやグラファイトを含む物質が挙げられる。場合によっては、伝導性が高い導電性高分子も可能であることはもちろんである。
【0076】
なお、上記導電性物質の前駆体は、酸素を含む雰囲気、例えば、空気雰囲気で相対的に低い温度で焼成する過程で導電性物質に変換される物質であれば特に制限されない。
【0077】
上記複合体を形成する方法中、導電性物質をスピネル系リチウムマンガン酸化物の粒子表面にミリング(milling)してコーティングする方法は様々であり、一つの望ましい例として高エネルギーミリング(high energy milling)又は混合(mixing)による乾式法がある。
【0078】
また、他の例として上記スピネル系リチウムマンガン酸化物を溶媒に分散した後、導電性物質の前駆体を表面コーティングし乾燥して溶媒を回収する湿式法でもコーティングを行うことができる。
【0079】
この際、コーティングされる上記導電性物質の量は少なすぎると所望する効果を期待し難く、逆に多すぎると相対的に活物質の量が少なくなり、容量が減少する可能性があるため、上記導電性物質の含有量は、導電性物質とスピネル系リチウムマンガン酸化物複合体の全体重量を基準として1重量%〜15重量%であることが望ましい。
【0080】
一方、複合体を形成するまた他の方法として、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の焼成時に導電性物質又はその前駆体を共に含んで製造する方法は、上記リチウムマンガン酸化物の合成原料であるリチウム前駆体およびマンガン前駆体と導電性物質又は導電性物質の前駆体を混合した後、上記導電性物質又は前駆体が酸化されない温度範囲で混合物を焼成する方法である。
【0081】
この場合、導電性物質又は導電性物質の前駆体の添加量は、導電性物質とスピネル系リチウムマンガン酸化物複合体の全体重量を基準として1重量%〜15重量%であることが望ましい。
【0082】
焼成温度は、上記したように、導電性物質又はその前駆体が酸化によって消失しない温度であって、望ましくは650℃ 〜800℃の範囲であり、焼成温度が非常に低いとリチウムマンガン酸化物の収率が低下し、逆に非常に高いと導電性物質などの酸化が起こる可能性がある。上記焼成は、望ましくは酸素濃度が5%〜30%である雰囲気で行い、より望ましくは空気雰囲気で行う。
【0083】
上記の方法によるとリチウムマンガン酸化物と導電性物質(又は、その前駆体)の複合体は、比較的低温での焼成過程を経るので、望ましくは上記焼成段階以前に混合物を粉砕(grinding)する段階をさらに含むことができる。
【0084】
本発明で上記スピネル系リチウムマンガン酸化物は、等軸晶系相(cubic phase)を含んでも良く、正方晶系相(tetragonal phase)を含んでも良く、二つを共に含んでも良い。すなわち、等軸晶系相のリチウムマンガン酸化物の結晶粒の間に導電性物質の粒子が位置している複合体構造であっても良く、正方晶系相のリチウムマンガン酸化物の結晶粒の間に導電性物質の粒子が位置している複合体構造などであっても良く、場合によっては、等軸晶系相と正方晶系相を全て含むリチウムマンガン酸化物の結晶粒の間に導電性物質の粒子が位置している複合体構造であっても良い。
【0085】
本発明に係る混合正極活物質は、正極電位を基準として4.45V以上の高電圧で充電時大きい非可逆用量が発現する層状構造のリチウムマンガン酸化物とスピネル系リチウムマンガン酸化物以外に下記のようなリチウム含有金属酸化物をさらに含むことができる。
【0086】
上記リチウム含有金属酸化物は、当業界に公知の様々な活物質として、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-マンガン酸化物、リチウムマンガン-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル-マンガン酸化物、リチウム含有オリビン型燐酸塩、これらに他元素が置換又はドープされた酸化物などが含まれ、上記他元素は、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、及びFeからなる群より選ばれるいずれか一つ又は2以上の元素である。このようなリチウム含有金属酸化物は、その含有量が混合正極活物質の総重量に対して50重量%以内に含ませることにより、発明の効果を奏することができる。
【0087】
なお、本発明は、上記のような混合正極活物質を含むことを特徴とする正極合剤を提供する。
【0088】
このような正極合剤は、正極活物質以外にも選択的に導電材、バインダー、充填剤などを含むことができる。
【0089】
上記導電材は、通常、正極活物質を含んだ混合物の全体重量を基準として1〜50重量%添加される。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発させず、導電性を有するものであれば特に制限されなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛と、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックと、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維と、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末と、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカーと、酸化チタンなどの導電性酸化物と、ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などを用いることができる。場合によっては上記正極活物質に導電性を有する第2被覆層が付加されることで、上記導電材の添加を省略することもできる。
【0090】
上記バインダーは、活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合に助力する成分であって、通常、正極活物質を含む混合物の全体重量を基準として1〜50重量%添加する。このようなバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴムなど様々な共重合体などが挙げられる。
【0091】
上記充填剤は、正極の膨張を抑制する成分であって、選択的に使用され、当該電池に化学的変化を誘発させず、繊維状材料であれば特に制限されなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体と、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質を用いることができる。
【0092】
なお、本発明は、上記正極合剤が集電体上に塗布される正極を提供する。
【0093】
上記正極は、例えば、正極集電体上に上記混合正極活物質、導電材およびバインダー、充填剤などの正極合剤をNMPなどの溶媒に混合して作製されたスラリーを負極集電体上に塗布した後乾燥および圧延して製造することができる。
【0094】
上記正極集電体は一般的に3〜500μmの厚さに作製する。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発させず、高い導電性を有するものであれば特に制限されなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、又は、アルミニウムやステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等を用いことができる。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態が可能である。
【0095】
なお、本発明は、上記正極、負極、セパレータ、およびリチウム塩含有非水電解液で構成されたリチウム二次電池を提供する。
【0096】
上記負極は、例えば、負極集電体上に負極活物質を含んでいる負極合剤を塗布及び乾燥して作製され、上記負極合剤には、必要に応じて、先立って説明したような成分をさらに含ませることもできる。
【0097】
上記負極集電体は、一般的に3〜500μmの厚さに作製する。このような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発させず、導電性を有するものであれば特に制限されなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドニウム合金などを用いることができる。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で用いることができる。
【0098】
上記セパレータは、負極と負極との間に介され、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が用いられる。セパレータの気孔直径は一般的に0.01〜10μmであり、厚さは一般的に5〜300μmである。このようなセパレータとしては、例えば、耐化学性および疏水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーと、ガラス繊維又はポリエチレン等で作られたシートや不織布などが用いられる。電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には固体電解質がセパレータを兼ねることもできる。
【0099】
上記リチウム塩含有非水系電解液は、非水電解液とリチウム塩とからなる。非水電解液としては非水系有機溶媒、有機固体電解質、無機固体電解質などが用いられる。
【0100】
上記非水系有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソロン、フォルムアミド、ジメチルフォルムアミド、ジオキソロン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、硝酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソロン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。
【0101】
上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、燐酸エステルポリマー、ポリアジテイションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などを用いることができる。
【0102】
上記無機固体電解質としては、LiN、LiI、LiNI、LiN-LiI-LiOH、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiPO-LiS-SiS等のLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などを用いることができる。
【0103】
上記リチウム塩は、上記非水系電解質に溶解しやすい物質として、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSO)NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4-フェニルホウ酸リチウム、イミドなどを用いることができる。
【0104】
また、非水系電解液には、充放電特性、難燃性などの改善を目的にして、例えば、ピリジン、亜リン酸トリエチル、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレン ジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサ燐酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどを添加することもできる。場合によっては、不燃性を付与するために、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませることもでき、高温保存特性を向上させるために二酸化炭酸ガスをさらに含ませることもできる。
【0105】
本発明に係る混合正極活物質を含むリチウム二次電池は、正極電位を基準として4.5V以上の電圧で充電し、負極の非可逆に必要なリチウムイオンを提供した後、放電時に再度正極に追加的なリチウムの提供が可能であるため、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物の作動電圧を十分に大きくすることにより、高容量のリチウム二次電池の提供はもちろん、2.5V〜4V領域で急激な電圧の降下がなく、全領域にわたって均一なプロファイルを示す、出力が顕著に向上したリチウム二次電池を提供する。
【0106】
本発明に係るリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いることができ、望ましくは複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池として用いることができる。
【0107】
上記中大型デバイスの望ましい例としては、パワーツール(power tool)、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;E-バイク(E-bike)、E-スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(Electric golf cart);電気トラック;電気商用車又は電力貯蔵用システムが挙げられるが、これらに限定されるのではない。
【0108】
以下、実施例により本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
[正極の製造]
層状構造のリチウムマンガン酸化物として0.5LiMnO・0.5Li(Mn0.33Ni0.33Co0.33)Oとスピネル系リチウムマンガン酸化物としてLiMnを2:1の割合で混合し、これを正極合剤の総重量に対して80重量%にし、導電材としてデンカブラック7重量%、グラファイト7重量%、バインダーとしてPVDF6重量%をNMPに添加してスラリーを作製する。これを正極集電体に塗布して圧延および乾燥して二次電池用正極を製造した。
【0110】
[リチウム二次電池の製造]
上記のように製造された正極を含み、黒鉛を基づいた負極の間に多孔性ポリエチレンのセパレータを介し、リチウム電解液を注入してコイン型リチウム二次電池を作製した。
【0111】
上記コイン型リチウム二次電池を正極電位を基準として4.6VでCC/CV充電した後、2Vで放電した(C-rate = 0.1C)。
【0112】
(実施例2)
上記実施例1でスピネル系リチウムマンガン酸化物として、LiMnの代わりにLiMn86重量%とグラファイト7重量%、デンカブラック7重量%間の高エネルギーミリング過程により複合体形態で製造したものを適用したことを除いては実施例1と同一な過程で正極を製造し、上記実施例1と同一な方法でリチウム二次電池を製造した。
【0113】
(比較例)
上記実施例で0.5LiMnO・0.5Li(Mn0.33Ni0.33Co0.33)OとLiMnを混合した混合正極活物質の代わりに、LiMnのみを正極合剤の総重量に対して80重量%含むことを除いては正極の製造およびリチウム二次電池の製造方法において上記実施例1と同一な方法でコイン型リチウム二次電池を作製した。
【0114】
(実験例)
本発明に係る正極活物質の3V領域での作動効果をより詳しく確認するために、上記実施例1で負極活物質としてリチウム金属を使用したことを除いては同一な方法を用いて半電池(half cell)を製造した。
【0115】
上記実施例1、2および比較例、実験例によって製作されたフルセル(full cell)又はハーフセル(half cell)二次電池を0.1Cの条件で充放電を繰り返してサイクルによる容量の変化をそれぞれ測定し、その結果をそれぞれ順に図1〜図4に示す。
【0116】
図1には、実施例1の二次電池に対する3V〜4V領域でのサイクルの増加による電流-電圧の変化およびプロファイルの傾きが示されており、図2には、実施例2の二次電池に対する3V〜4V領域でのサイクルの増加による電流-電圧の変化およびプロファイルが示されており、図3には、比較例の二次電池に対する容量およびプロファイルの傾きが示されている。また、図4には、上記実験例に係る半電池のサイクルの増加による容量の変化およびプロファイルの傾きが示されている。
【0117】
これらの図を参照すると、実施例1および実施例2の二次電池は、比較例の二次電池と比較すると、初期容量が大きく、サイクルの増加による容量減少現象が緩和され、2Vから4.5Vにかけて急激な電圧の降下がなく均一なプロファイルが示すことを確認することができる。したがって本発明に係るリチウム二次電池は、充放電特性および安全性に非常に優れ、2V〜4.5Vの全領域を全て使用できる高容量のリチウム二次電池であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と下記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物とが混合された混合正極活物質を含み、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電することを特徴とするリチウム二次電池。
[化1]
Li1+yMn2-y-z4-x
式中、0≦x≦1、0≦y≦0.3、0≦z≦1であり、Mは、Mg、Al、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、B、Ca、Nb、Mo、Sr、Sb、W、B、Ti、V、Zr、及びZnからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素であり、Qは、N、F、S、及びClからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素である。
[化2]
aLiMnO・(1-a)LiMO
式中、0<a<1であり、 Mは、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、Fe、Cu、Zn、Ti、及びBからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素が同時に適用されるものである。
【請求項2】
上記正極電位を基準として4.45V以上の電圧での充電は、フォーメーション段階あるいはその後数サイクルあるいは毎サイクルで行うことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
上記層状構造のリチウムマンガン酸化物は、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電時4.45V〜4.8V領域で平坦準位を有し酸素が発生する物質であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
上記混合正極活物質は、総重量100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を1重量%〜60重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を40重量%〜99重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
上記混合正極活物質は、総重量100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を10重量%〜50重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を50重量%〜90重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物は、導電性物質又は導電性物質の前駆体と複合体を形成することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
上記導電性物質は、結晶構造がグラフェンやグラファイトを含むカーボン系物質であることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
上記複合体は、高エネルギーミリング(high energy milling)による乾式法で一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の粒子表面にコーティングすることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
上記導電性物質は、導電性物質と上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を溶媒に分散した後、導電性物質の前駆体を表面コーティングし乾燥して溶媒を回収する湿式法によって、一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の粒子表面にコーティングして含まれることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
上記導電性物質又は導電性物質の前駆体は、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の合成原料であるリチウム前駆体およびマンガン前駆体と導電性物質又は導電性物質の前駆体を混合した後、上記導電性物質又は前駆体が酸化されない温度範囲で混合物を焼成して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と複合体を形成することによって含まれることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
上記混合正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-マンガン酸化物、リチウムマンガン-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル-マンガン酸化物およびこれらに他元素が置換又はドープされた酸化物で構成された群より選ばれる一つ又は2以上のリチウム含有金属酸化物がさらに含まれることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
上記他元素は、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、及びFeからなる群より選ばれるいずれか一つ又は2以上の元素であることを特徴とする請求項11に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
上記リチウム含有金属酸化物は、正極活物質の総重量に対して50重量%以内に含まれることを特徴とする請求項11に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
上記リチウム二次電池は、上記混合正極活物質以外にも導電材、バインダー、充填剤がさらに含まれた正極合剤が集電体上に塗布されたものを正極とする請求項1〜請求項13のうちいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
上記リチウム二次電池は、中大型デバイスの電源である電池モジュールの単位電池として用いられることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
上記中大型デバイスは、パワーツール(power tool)、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;E-バイク(E-bike)、E-スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(Electric golf cart);電気トラック;電気商用車又は電力貯蔵用システムであることを特徴とする請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
下記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物と下記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物とを混合して混合正極活物質を製造する段階と、
上記混合正極活物質を含むリチウム二次電池の製造段階と、
上記リチウム二次電池を正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電する段階と、
脱ガス(degassing)段階と、を含むリチウム二次電池の製造方法。
[化1]
Li1+yMn2-y-z4-x
式中、0≦x≦1、0≦y≦0.3、0≦z≦1であり、Mは、Mg、Al、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、B、Ca、Nb、Mo、Sr、Sb、W、B、Ti、V、Zr、及びZnからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素であり、Qは、N、F、S、及びClからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素である。
[化2]
aLiMnO・(1-a)LiMO
式中、0<a<1であり、 Mは、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、V、Fe、Cu、Zn、Ti、及びBからなる群より選ばれる一つ又は2以上の元素が同時に適用されるものである。
【請求項18】
上記正極電位を基準として4.45V以上の電圧での充電段階は、フォーメーション段階あるいはその後数サイクルあるいは毎サイクルで行うことを特徴とする請求項17に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項19】
上記層状構造のリチウムマンガン酸化物は、正極電位を基準として4.45V以上の電圧で充電時4.45V〜4.8V領域で平坦準位を有し酸素が発生する物質であることを特徴とする請求項17に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項20】
上記混合正極活物質は、総重量100重量%に対して上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を1重量%〜60重量%含み、上記一般式(2)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物を40重量%〜99重量%含むことを特徴とする請求項17に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項21】
上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を導電性物質又は導電性物質の前駆体と複合体を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項22】
上記導電性物質は、結晶構造がグラフェンやグラファイトを含むカーボン系物質であることを特徴とする請求項21に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項23】
上記複合体は、高エネルギーミリング(high energy milling)による乾式法で製造されることを特徴とする請求項21に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項24】
上記複合体は、導電性物質と上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物を溶媒に分散した後、導電性物質の前駆体を表面コーティングし乾燥して溶媒を回収する湿式法によって製造されることを特徴とする請求項21に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項25】
上記複合体は、上記一般式(1)で表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物の合成原料であるリチウム前駆体およびマンガン前駆体と導電性物質又は導電性物質の前駆体を混合した後、上記導電性物質又は前駆体が酸化されない温度範囲で焼成して製造されることを特徴とする請求項21に記載のリチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−520782(P2013−520782A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554932(P2012−554932)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/KR2011/001299
【国際公開番号】WO2011/105832
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504111015)エルジー ケム. エルティーディ. (38)
【Fターム(参考)】