説明

高密度の渦固定中心を有するREBa2Cu3O7(RE=希土類元素またはイットリウム)型のナノ構造超伝導材料およびその調製方法

本発明は、RE=希土類元素またはイットリウムであるREBaCu型のナノ構造超伝導材料に関し、このナノ構造超伝導材料は、2つの相、即ち、REBaCuの主要マトリックスと、BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、REおよび/またはRECu)の二次相とを備える。二次相は、高密度のナノメートル欠陥を提供し、それにより渦を効果的に固定する能力が増大するようにしてマトリックス内に無作為に分布している。本発明の別の主題は、これら超伝導材料を製造するための方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほぼ等方的に渦を効果的に固定するために適している高密度のナノメートル欠陥をその構造中に有する超伝導体材料膜および、欠陥を有する構造を効果的に発展させる方法に関する。本発明の目的は、以下の部門と特に関連している。
・化学部門:可溶性金属有機化合物の化学的前駆体。
・セラミックス−冶金部門:金属またはセラミック基板上ナノ複合セラミック被覆の堆積および成長。セラミックまたは金属基板上機能性ナノ構造の生成。
・エネルギー部門、電気機械技術および輸送:電力の生成、輸送、分配および使用向けの既存の電気機器の効率の改善、新たな電力機器の開発、様々な用途(核融合を含む)向けの強力な電磁石、航空および航海産業向けの強力で軽い電動機。
・生体臨床医学および製薬部門:より強力かつより高温で作動可能な新たな磁気共鳴診断用機器、分子設計用の新たな磁気共鳴分光計。
・電子工学部門:マイクロ波領域で機能し、通信分野で関心が高い新たな受動または能動装置。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導材料には、様々な技術における使用について非常に大きな可能性があるが、高磁場の下であっても高性能であり、特に、大電流を損失なく輸送する能力がある導体を得るための方法の開発が必須要件である。開発された最初の高温超伝導体は、BiSrCaCuO型の相に基づいていた。これらの高温超伝導体は、第1世代(1G)の超伝導体と呼ばれる。これらの材料の開発は、エピタキシャル超伝導被覆導体と呼ばれるREBaCu(RE=希土類元素またはイットリウム)型の材料に基づく第2世代(2G)の超伝導体の調製の新たな方法の発見により、画期的に進展した。
【0003】
マイクロ波領域で機能する通信技術には、超伝導薄膜を使用することが必要となる。というのは、それら超伝導薄膜の表面抵抗が低く、この低い表面抵抗により、このような材料に基づくデバイスにより優れた性能をもたらされるためである。特に、高出力時の非線形効果を低減させるために超伝導膜の臨界電流を改善する必要性は、言及するに値する。これらの用途では、必要となる基板が単結晶であり、マイクロ波領域で低損失である。
【0004】
ここ数年にわたって、高磁場、高温および大電流用途について高い可能性を有する様々な多層構成に基づくエピタキシャル超伝導被覆導体を得るために、様々な方法が開発されてきた。主に、金属基板上エピタキシャル層の真空中堆積の方法論に基づく、これら2G導体の調製のための様々な戦略に従ってきた。これらの基板は、多結晶基板上にイオンビームアシスト蒸着法(IBAD)によって堆積されるテクスチャ加工酸化物を備えるキャップ膜を有することができ、または熱機械プロセスによって得られるローリングアシスト二軸配向による基板(RABiTs)上に実現させるテクスチャを再現するテクスチャ加工キャップ層で構成することもできる。他の興味深い手法も、表面酸化エピタキシー法(SOE)によって、または基板傾斜成膜法(ISD)によってテクスチャ加工キャップ層が実現される手法である。
【0005】
これらの構造の基板が得られたら、原子拡散および酸化に対するキャップとして機能する多層の形で、電流を搬送する超伝導層REBaCuの形のエピタキシャル酸化物の堆積が行われる。これらの多層構造を作製するために、真空中堆積の技法(蒸着、アブレーション、レーザスパッタリング)または金属有機化学溶液に基づく堆積の技法(化学溶液堆積法、CSD)を使用することができる。これら後者は、低コストのエピタキシャル超伝導被覆導体が開発される可能性があるため、特に興味深い。超伝導膜の成長用CSD技法向けの最も見込みのある金属有機前駆体は、トリフルオロ酢酸塩である。
【0006】
REBaCu超伝導体を成長させるためにトリフルオロ酢酸塩(TFA)前駆体を使用する可能性の実証が、非常に重要な前進として広く記載されている(A.Gupta,R.Jagannathan,E.l.Cooper,E.A.Giess,J.l.Landman,B.W.Hussey、「Superconducting oxide films with high transition temperature prepared from metal trifluoroacetate precursors」、Appl.Phys.Lett.52、1988、2077、P.C.Mclntyre,M.J.CimaおよびM.F.Ng、「Metalorganic deposition of high−J BaYCu thin films from trifluoroacetate precursors onto (100)SrTiO」、J.Appl.Phys.、68、1990、4183)。これらの前駆体は、金属有機前駆体の分解後には最終生成物としてBaF、YおよびCuOを有し、したがってBaCOの形成を防ぎ、これにより低温でYBCOの薄膜を成長させることが可能となる。最近になって、高品質膜を得ると同時に、これら膜の処理に要する時間を減らし、前駆体溶液の安定性を増大させることを可能にするTFAの無水物前駆体を得るための新たな方法が記載されている(X.Obradors,T.Puig,S.Ricart,N.Roma,J.M.Moreto,A.Pomar,K.Zalamova,J.GazquezおよびF.Sandiumenge、「Preparacion de precursores metalorganicos anhidros y uso para la deposicion y crecimiento de capas y cintas superconductoras」、2005、スペイン特許第200500749号、N.Roma,S.Morlens,S.Ricart,K.Zalamova,J.M.Moreto,A.Pomar,T.PuigおよびX.Obradors、「Acid anhydrides:a simple route to highly pure organometallic solutions for superconducting films」、Supercond.Sci.Technol.、2006、19、521)。これらの前駆体は、結晶品質が高く超伝導特性が優れている膜および多層を得るために広く使用されている(X.Obradors,T.Puig,A.Pomar,F.Sandiumenge,N.Mestres,M.Coll,A.Cavallaro,Roma,J.Gazquez,J.C.Gonzalez,O.Castano,J.Gutierrez,A.Palau,K.Zalamova,S.Morlens,A.Hassini,M.Gibert,S.Ricart,J.M.Moreto,S.Pinol,D.lsfort,J.Bock.、「Progress towards all chemical superconducting YBCO coated conductors」、Supercond.Sci.Technol.、2006、19、S13)。
【0007】
しかしながら、エピタキシャル超伝導被覆導体の分野において現在必要とされている最も重要な進展は、エピタキシャルYBCO膜内に埋め込まれたナノ構造生成のための全く革新的な方法の開発である。この新たなナノ複合エピタキシャル超伝導被覆導体群を構築するための科学的動機は、効率的な渦固定中心を開発する必要性にある。磁場内で損失なく大電流を支える超伝導材料の能力は、非超伝導欠陥内渦を捕獲するそれら超伝導材料の能力によって制御される。渦が解放され停止してナノメートル欠陥によって固定された場合に、臨界電流密度Jに達する。これら渦の十分な固定を実現した場合、高温(60〜77K)および高磁場(1〜5T(テスラ))における電子技術システムを開発することが可能となる。理想的な固定中心は、固定される渦の核の量を最大となるよう10〜50nmの直径および高密度を有していなければならない。しかしながら、欠陥の長距離秩序を実現する必要はない。
【0008】
ナノテクノロジにおけるボトムアップ戦略の出現により、この学問分野に革命をもたらした。というのは、低コスト法としてのその大きな可能性を、先端ナノ構造材料の大規模生産へと容易に移すことができるためである。この戦略により、新たなまたは改善された機能を示すナノ複合またはナノ構造材料の開発のための全く新しい考えの実施が可能となる。現在まで、超伝導体ナノ構造化は、古典真空中でリソグラフィ技法を用いることで実現されていただけであった。これらのナノ構造材料は、渦固定現象など、非常に魅力的な物理的特性を示す。しかしながら、これらのナノ構造化技法は、それらの高いコストのために狭い領域に限られる。
【0009】
金属有機化学溶液に基づく合成法は、機能性酸化物と優れた特性を有する超伝導テープとの多層薄膜を製造するための低コスト技法としての、それら合成法の可能性を実証しているが、ナノ複合系を得るためには依然として実用的には使用されていない。
【0010】
最近になって、真空技法(アブレーション、レーザスパッタリング、蒸着等)に基づく薄膜堆積の技法により、それら技法を使用して非超伝導二次相を有する超伝導ナノ複合体を得ることができることが実証されている(J.L.Macmanus−Driscoll,S.R.Foltyn,Q.X.Jia,H.Wang,A.Serquis,L.Civale,B.Maiorov,M.P.MaleyおよびD.E.Peterson、「Strongly enhanced current densities in superconducting coated conductors of YBaCu7−x+BaZrO」、Nature Mat.2004、3、439、A.Goyal,S.Kang,K.J.Laonard,P.M.Martin,A.A.Gapud,M.Varela,M.Paranthaman,A.O.ljaduola,E.D.Specht,J.R.Thompson,D.K.Christen,S.J.PennycookおよびF.A.List、「Irradiation−free,columnar defects comprised of self−assembled nanodots and nanorods resultng in strongly enhanced flux−pinning in YBaCu7−x films」、Supercond.Sci.Technol.、2005、18、1533、Y.Yamada,K.Takahashi,H.Kobayashi,M.Konishi,T.Watanabe,A.Ibi,T.MurogaおよびS.Miyata,T.Kato,T.Hirayama,Y.Shiohra,「Epitaxial nanostructure and defects effective for pinning in (Y,RE)BaCu7−x coated conductors」、Applied Physics Letters.2005、87、132502)。第2の結晶相は、テクスチャ加工ナノ微粒子の形で分離され、無作為に分布するまたは膜と垂直に交差するナノロッドを形成することができる。これらのナノ構造は、それらナノ構造のナノメートルスケールにおける寸法によっては、およびそれらナノ構造がYBCO超伝導マトリックス中に欠陥を生成することができるかどうかによっては、超伝導特性、特に臨界電流の改善においていくらか成功を示している。この改善は、形成された柱状欠陥に沿って磁場が配向している場合に主に生じる。これらの実験により、特性が改善された新たな導体を得るための見込みのある経路が提案されてはいるが、それでもなお、それら導体は依然として著しい変化をもたらすことはできないままである(M.W.Rupich,T.Kodenkandath,N.Grafton,W.Zhang,X.Li、「Oxide films with nanodot flux pinning centres」、米国特許出願公開第2005/0159298 A1号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】スペイン特許第200500749号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0159298 A1号(M.W.Rupich,T.Kodenkandath,N.Grafton,W.Zhang,X.Li、「Oxide films with nanodot,flux pinning centres」)
【特許文献3】米国特許第587770号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1427002号
【特許文献5】欧州特許出願公開第1427001号
【特許文献6】国際特許出願公開第WO2004/044976号
【特許文献7】国際特許出願公開第WO2004/042779号
【特許文献8】国際特許出願公開第WO2005/013318号
【特許文献9】国際特許出願公開第WO2005/043615号
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0262686号
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/0269671号
【特許文献12】国際特許出願公開第WO2003/063213号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.Gupta,R.Jagannathan,E.l.Cooper,E.A.Giess,J.l.Landman,B.W.Hussey、「Superconducting oxide films with high transition temperature prepared from metal trifluoroacetate precursors」、Appl.Phys.Lett.52、1988、2077
【非特許文献2】P.C.Mclntyre,M.J.CimaおよびM.F.Ng、「Metalorganic deposition of high−J Ba2YCu3O7 thin films from trifluoroacetate precursors onto (100)SrTiO3」、J.Appl.Phys.、68、1990、4183
【非特許文献3】X.Obradors,T.Puig,S.Ricart,N.Roma,J.M.Moreto,A.Pomar,K.Zalamova,J.GazquezおよびF.Sandiumenge、「Preparacion de precursores metalorganicos anhidros y uso para la deposicion y crecimiento de capas y cintas superconductoras」、2005
【非特許文献4】N.Roma,S.Morlens,S.Ricart,K.Zalamova,J.M.Moreto,A.Pomar,T.PuigおよびX.Obradors、「Acid anhydrides:a simple route to highly pure organometallic solutions for superconducting films」、Supercond.Sci.Technol.、2006、19、521
【非特許文献5】X.Obradors,T.Puig,A.Pomar,F.Sandiumenge,N.Mestres,M.Coll,A.Cavallaro,Roma,J.Gazquez,J.C.Gonzalez,O.Casta■o,J.Gutierrez,A.Palau,K.Zalamova,S.Morlens,A.Hassini,M.Gibert,S.Ricart,J.M.Moreto,S.Pi■ol,D.lsfort,J.Bock.、「Progress towards all chemical superconducting YBCO coated conductors」、Supercond.Sci.Technol.、2006、19、S13
【非特許文献6】J.L.Macmanus−Driscoll,S.R.Foltyn,Q.X.Jia,H.Wang,A.Serquis,L.Civale,B.Maiorov,M.P.MaleyおよびD.E.Peterson、「Strongly enhanced current densities in superconducting coated conductors of YBa2Cu3O7−x+BaZrO3」、Nature Mat.2004、3、439
【非特許文献7】A.Goyal,S.Kang,K.J.Laonard,P.M.Martin,A.A.Gapud,M.Varela,M.Paranthaman,A.O.ljaduola,E.D.Specht,J.R.Thompson,D.K.Christen,S.J.PennycookおよびF.A.List、「Irradiation−free,columnar defects comprised of self−assembled nanodots and nanorods resultng in strongly enhanced flux−pinning in YBa2Cu3O7−x」、Supercond.Sci.Technol.、2005、18、1533
【非特許文献8】Y.Yamada,K.Takahashi,H.Kobayashi,M.Konishi,T.Watanabe,A.Ibi,T.MurogaおよびS.Miyata,T.Kato,T.Hirayama,Y.Shiohra,「Epitaxial nanostructure and defects effective for pinning in (Y,RE)Ba2Cu3O7−x coated conductors」、Applied Physics Letters.2005、87、132502
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、RE=希土類元素またはイットリウムであるREBaCu型のナノ構造超伝導材料を提供することにあり、以後、本発明の超伝導材料と呼ぶ。この超伝導材料は、以下の特徴を備える。
・2つの相:
−REBaCuの主要マトリックス。
−このマトリックス全体に無作為に分布するBaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、REおよび/またはRECuの二次相。この二次相は、超伝導体のナノ構造を大きく改変する。
・欠陥間の離隔がわずか数十nmとなるように、その構造内に1μm当たり10〜10個の欠陥がある範囲の高密度のナノメートル欠陥。
・二次相なしで作製した薄いREBaCu膜の値を下回る、生成される欠陥によって生じる臨界電流の異方性の低減。
【0014】
本発明の特定の目的は、本発明の超伝導材料と、超伝導材料がその上に堆積されている基板とで構成される系にある。
【0015】
本発明の特定の一実施形態は、本発明の超伝導材料と、単結晶基板の硬質フィルムからなる基板とで構成される系にある。
【0016】
本発明の別の特定の実施形態は、本発明の超伝導材料と、可撓性金属テープからなる基板とで構成される系にある。
【0017】
本発明の別の目的は、REBaCu型のナノ構造超伝導酸化物の薄層を得るための方法にあり、以後本発明の超伝導体を得るための方法と呼ぶ。この方法は、
a)前駆体トリフルオロ酢酸塩の溶液を調製する段階aと、
b)膜厚の均一な制御を可能にする任意の方法によって、基板への溶液を堆積する段階bと、
c)制御された雰囲気中における熱処理によって、金属有機前駆体を分解する段階cと、
d)超伝導層の結晶化のための、制御された雰囲気中における高温での熱処理をする段階dと、を含む。
【0018】
この方法において、段階aの前駆体溶液は、可変比率のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩を含む。
【0019】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階aで使用するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩は、沈殿物の形成を防止するために、反応溶媒に可溶である酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサン酸エチル、プロピオン酸塩類などの有機塩である。
【0020】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この手順においては、RE、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の、Zr、Ce、Sn、Ru、La、SrおよびCaの様々な塩との錯体無水物溶液が、段階aにおいて得られる。
【0021】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、酸化物粉末を溶解させる別の有機酸の任意の無水物が、段階aにおいて使用される。
【0022】
本発明の特定の一実施形態は、トリフルオロ酢酸無水物(CFCO)O)と、反応の触媒としての少量のトリフルオロ酢酸(CFCOOH)(5体積%)とが段階aにおいて使用される、本発明の超伝導体を得るための方法にある。
【0023】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階aにおいて、可変比率の金属(Ag、Au)ナノ粒子または金属酸化物(BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE)ナノ粒子を含む、金属トリフルオロ酢酸塩の溶液が使用される。この方法においては、これらのナノ粒子は、酸化−還元反応と、沈殿と、それら粒子の表面と連結することが可能でそれによりそれら粒子の凝集が防止される界面活性剤、高分子または有機種による安定化とによって調製されている。
【0024】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階bにおいて使用される基板が、金属有機溶液からの成長に基づく自動組織化プロセスによって、または前もって合成したナノ粒子の堆積によって、金属酸化物(BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE)のナノ粒子の層で前もって覆われている。
【0025】
本発明の別の目的は、電子デバイスにおける本発明の超伝導材料の使用にある。
【0026】
本発明の別の目的は、電気系統における本発明の超伝導材料の使用であり、電力使用の発生、輸送および分配について既存の系統が改善される。
【課題を解決するための手段】
【0027】
高温および低磁場における超伝導材料の特性は、これらの材料中に存在する渦(磁束量子)を効果的に固定するそれら超伝導材料の能力によって決定され、このプロセスは、ナノメートル寸法を有する非超伝導欠陥の高密度で均質な分布が存在する場合に最適である。渦を固定するこの有益な効果をもたらすことができる結晶性欠陥は、二次相のナノ粒子、転位、積層欠陥、非超伝導相の連晶、粒界およびこれらすべてによって生じる残留張力を含め、非常に多様な性質を有することができる。
【0028】
超伝導材料における臨界電流密度は、それら超伝導材料の結晶学的構造により、通常は異方性であり、すなわち、超伝導材料の結晶軸に対する磁場Hの向きに依存する。電子技術用途の大部分では、この異方性を最小限に抑えることが望ましく、したがって、この異方性を低減する本発明において説明する材料などの材料を作製するための方法の開発が、大きな実際的関心事となる。
【0029】
本発明は、ほぼ等方的に渦を効果的に固定するために適している高密度のナノメートル欠陥をその構造中に有する超伝導体材料膜および、欠陥のこの構造を効果的に発展させる方法に関する。
【0030】
本発明の目的は、RE=希土類元素またはイットリウムであるREBaCu型のナノ構造超伝導材料を提供することにあり、以後、本発明の超伝導材料と呼ぶ。この超伝導材料は、以下の特徴を有する。
・2つの相:
−REBaCuの主要マトリックス。
−このマトリックス全体に無作為に分布するBaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、REおよび/またはRECuの二次相。この二次相は、超伝導体のナノ構造を大きく改変する。
・欠陥間の離隔がたった数十nmとなるようにその構造内に1μm当たり10〜10個の欠陥がある範囲の高密度のナノメートル欠陥。
・二次相なしで作製した薄いREBaCu膜の値を下回る、生成された欠陥によって生じる臨界電流の異方性の低減。
【0031】
ナノメートル欠陥は、ナノ粒子、転位、積層欠陥を取り囲む部分転位、積層欠陥、または粒界であると理解されている。これらの材料のナノメートル欠陥間の平均離隔はわずか数十nmでよいことにより、これらの欠陥の全長に沿って超伝導渦を連続的に固定することが可能となる。この高密度の欠陥は、高磁場を印加した場合に、渦固定のプロセスに効率の向上を与えるものである。この場合、それら欠陥密度も上昇する。
【0032】
臨界電流異方性値は、中でも磁場に依存するが、温度にはあまり強くは依存しない。磁場1T内にある本発明の超伝導材料は、磁場の向きを変えた場合、最大と最小との間の商が1.5〜1.8である臨界電流の変化を示す。これは、二次相なしの薄いREBaCu膜が示す商と比較して100%の減少である。
【0033】
本発明の特定の目的は、本発明の超伝導材料と、超伝導材料がその上に堆積されている基板とで構成される系にある。
【0034】
本発明の特定の一実施形態は、単結晶基板の硬質フィルム上に堆積させた本発明の超伝導材料である。
【0035】
本発明の別の特定の実施形態は、可撓性金属テープ上に堆積させた本発明の超伝導材料である。
【0036】
本発明の別の目的は、REBaCu型のナノ構造超伝導酸化物の薄層を得るための方法であり、以後、本発明の超伝導体を得るための方法と呼ぶ。この方法は、
a)前駆体トリフルオロ酢酸塩の溶液を調製する段階aと、
b)膜厚の均一な制御を可能にする任意の方法による、基板への溶液を堆積する段階bと、
c)制御された雰囲気中における熱処理による、金属有機前駆体を分解する段階cと、
d)超伝導層の結晶化のための、制御された雰囲気中における高温での熱処理をする段階dと、を含む。
【0037】
この方法において、段階aの前駆体溶液は、可変比率のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩を含む。
【0038】
特許出願PCT/ES2005/070056に記載されている方法と比較してこの方法との間の根本的な相違は、前駆体におけるアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩の使用にある。これらの塩により、材料の構造に高密度のナノメートル欠陥を提供する主要REBaCuマトリックス内に、二次相(BaZrO、CeO3、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE、RECu)が形成され、渦を効果的に固定する能力が増大する。
【0039】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階aで使用するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩は、沈殿物の形成を防止するために、反応溶媒に可溶である酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサン酸エチル、プロピオン酸塩類などの有機塩である。
【0040】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、RE、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の、Zr、Ce、Sn、Ru、La、SrおよびCaの様々な塩との錯体無水物溶液が、段階aにおいて得られる。
【0041】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、酸化物粉末を溶解させる別の有機酸の任意の無水物が、段階aにおいて使用される。
【0042】
本発明の特定の一実施形態は、トリフルオロ酢酸無水物(CFCO)O)と、反応の触媒としての少量のトリフルオロ酢酸(CFCOOH)(5体積%)とが段階aにおいて使用される、本発明の超伝導体を得るための方法である。
【0043】
段階cの熱処理のための最高温度の選択は、使用する基板ならびにこの材料において望まれる少量の二次相によって決まる。熱処理のこれらの条件は、超伝導体における適切な欠陥構造の生成にも決定的となる。
【0044】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階aにおいて、可変比率の金属(Ag、Au)ナノ粒子または金属酸化物(BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE)ナノ粒子を有する、金属トリフルオロ酢酸塩の溶液が使用される。この方法においては、これらのナノ粒子は、酸化−還元反応と、沈殿と、それら粒子の表面と連結することが可能でそれによりそれら粒子の凝集が防止される界面活性剤、高分子または有機種(オレイン酸およびその誘導体、ドデシルアミン、PVP、PEG、長鎖チオール)を用いる安定化によって調製されている。これらの粒子は、金属トリフルオロ酢酸塩の溶液において使用する溶媒と適合する既知濃度の溶液の形で調製することになる。
【0045】
本発明の別の特定の目的は、本発明の超伝導体を得るための方法にある。この方法においては、段階bにおいて使用される基板が、金属有機溶液からの成長に基づく自動組織化プロセスによって、または前もって合成したナノ粒子の堆積において、金属酸化物(BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE)のナノ粒子の層で前もって覆われている。これらのナノ粒子をテンプレートとして使用することになり、それらナノ粒子上に、無水条件または部分的に加水分解された条件下で調製された金属トリフルオロ酢酸塩の溶液を堆積させ分解することになる。それらナノ粒子導入の目的は、それらナノ粒子が、それらナノ粒子上に堆積させた超伝導層内で欠陥核を生成する中心として作用することである。
【0046】
酸化物または金属のナノテンプレートの形成プロセスは、先に説明した段階と類似の段階(堆積、熱分解および成長)に従うが、酸化物の金属有機溶液の望まれる濃度は、それら溶液が部分的にのみ基板を覆うように、より小さい(0.003〜0.02M)。熱処理の継続期間ならびに熱処理が行われる雰囲気および温度により、得られるナノ粒子の寸法および形態が決定されることになる。また、結晶ネットワークパラメータのうち差を決定するためのパラメータは、ナノ粒子の形で成長する酸化物と対応する基板との間のパラメータである。ナノ粒子の形成に対するこの近似により、確固たる結晶配向を有するエピタキシャル構造がもたらされる。対照的に、前もって合成したナノ粒子は、無作為に配向することになる。
【0047】
先に述べた本発明の目的すべてにおいて、超伝導体に実用性を与える態様は、渦を効果的に固定するREBaCuマトリックス中の緻密な欠陥構造を、組成およびプロセスの適切な選択によって作り出したことから生じる。図1および図2において、透過型電子顕微鏡像は、BaZrOナノ粒子を導入した場合に結晶性REBaCuネットワークが強く無秩序化していたことを示している。特に、ナノ粒子それら自体、および連晶や転位などネットワークの様々なタイプの変形が特定され、それにより結晶面が激しく乱れる。これら無秩序構造が生成される成功は、強い磁場の下で超伝導材料の特性の向上を決定するものである。
【0048】
超伝導特性の並外れた向上を説明する理由は、REBaCuマトリックス中の高濃度の欠陥(欠陥数10〜10個/μm)の形成にある。これは、マトリックスと何ら結晶学的関係なく二次ナノ粒子が無作為に配向しているためであり、したがって界面は、欠陥の生成への駆動力として働く高いエネルギーを有する。二次相が無作為に分布する理由は、それら二次相の形成がREBaCuの結晶化に先行し、その結果、基板との界面の外側に局在化している二次相すべてに、特定の結晶学的配向に従って配向する理由がないからである。この特性により、ここで得られる材料が、両相が同時に結晶化する真空蒸着技法によってこれまでに調製された材料と区別される。
【0049】
したがって、二次ナノ粒子の寸法を制御し、これにより生成される欠陥の濃度が制御されることが特に重要である。また、過剰な量の非超伝導相(たとえば、マイクロメートル寸法以上の沈殿物または細孔を有する)の形成を回避しなければならない。というのは、これらは沈殿物または細孔、電流の循環を妨害する悪影響をもたらし、したがって電気的特性を低下させるためである。このため、形成される欠陥のナノメートル寸法を維持することは非常に重要である。
【0050】
最後に、記載されている本発明の目的の追加の利点は、それら目的により臨界電流の異方性が低減したことである。これは、生成された欠陥が等方性を有し、またモザイク層に関する構造の角度分布が増大するためである。この異方性低減により、本発明に記載されている新たな手順に従って作製されるテープに基づく超伝導コイルの設計において、より高い可撓性が可能となる。
【0051】
本発明の別の目的は、電子デバイスにおける本発明の超伝導材料の使用にある。
【0052】
本発明の別の目的は、電気系統における本発明の超伝導材料の使用にあり、電力使用の発生、輸送および分配について既存の系統が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】5重量%のBaZrOナノ粒子を有するYBaCu層の透過型電子顕微鏡法による横断画像を示す図。
【図2】生成された高濃度の欠陥をYBaCuマトリックス中に観測することができる、BaZrOナノ粒子を有するYBaCu層の透過型電子顕微鏡画像を示す図。
【図3】YBaCu参照層および10モル%のBaZrOナノ粒子を有するYBaCu層の基板に垂直に印加される磁場の関数としての、65Kにおける臨界電流を示す図。
【図4】YBaCu参照層および10モル%のBaZrOナノ粒子を有するYBaCu層の基板に垂直に印加される磁場の関数としての、77Kにおける臨界電流を示す図。
【図5】TFA−YBCA基準層およびBZOナノ粒子を有するTFA−YBCA層の基板に垂直に印加される磁場の関数としての、77Kにおけるピン力F=JBを示す図であり、比較として、4.2Kにおける従来の超伝導線NbTlのピン力の依存性を示す図。
【図6】熱分解のプロセス後の、5重量%のBaZrOナノ粒子を有するYBaCu層の光学顕微鏡像を示す図。
【図7】5重量%のBaZrOナノ粒子を有するYBaCu層のX線回折スペクトルθ−2θを示す図。
【図8】印加される磁場と、TFA−YBCO基準層およびBZOナノ粒子を有するTFA−YBCO層の基板との間に形成される角度の関数としての、77Kにおける臨界電流密度の角度依存性を示す図。
【図9】熱分解のプロセス後の、5重量%のYナノ粒子を有するYBaCu層の光学顕微鏡像を示す図。
【図10】5重量%のYナノ粒子を有するYBaCu層のX線回折スペクトルθ−2θを示す図。
【図11】熱分解のプロセス後の、5重量%のGdナノ粒子を有するYBaCu層の光学顕微鏡像を示す図。
【図12】5重量%のGdナノ粒子を有するYBaCu層のX線回折スペクトルθ−2θを示す図。
【図13】熱分解のプロセス後の、5重量%のAuナノ粒子を有するYBaCu層の光学顕微鏡像を示す図。
【図14】5重量%のAuナノ粒子を有するYBaCu層の走査型電子顕微鏡像を示す図。
【図15】5重量%のAuナノ粒子を有するYBaCu層のX線回折スペクトルθ−2θを示す図。
【図16】単結晶基板上に成長させたCeOの自動組織化(a)ナノドットおよび(b)ナノロッドの原子間力の、原子間力顕微鏡法によって得られる像を示す図。
【図17】YBCO(TEM)マトリックス中のBaZrOの界面ナノロッドによって導入される欠陥を示す図。
【図18】自動組織化ナノテンプレート上に成長させたYBCOの、77Kにおける磁場の関数としての臨界電流(赤い丸)を示す図であり、比較として、YBCO基準層についての結果(青い丸)も示す図。
【発明を実施するための形態】
【0054】
いかに実施形態としての実施例1〜6を説明する。
【実施例1】
【0055】
Y、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩溶液50mlを、総金属濃度1.5M(Y:Ba:Cuの比率が1:2:3)で調製した。そのために、ジムロート冷媒に接続され、磁気撹拌が備わった250ml球形フラスコ内に、市販のYBaCuを8.334g(0.0125モル)秤量した。これに、近時に蒸留して得た乾燥アセトン25mlと、無水トリフルオロ酢酸22ml(0.000156モル)(過熱を防止するためにゆっくりと添加)と、トリフルオロ酢酸5mLとを添加した。この混合物を、不活性雰囲気(Ar)中で72時間50℃まで加熱した。その後、この混合物を周囲温度まで冷却し、0.45μmフィルタを通してろ過した。得られた溶液を、ロータリエバポレータを用いて減圧下で、最初は周囲温度で(2時間)、後に80℃まで徐々に加熱して濃縮し、Y、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩を得た。得られた固体の一部をアセトンに溶解させ、その他をメタノールに溶解させ、不活性雰囲気中の閉じたバイアル内で両方の溶液を維持した。
【0056】
この溶液を、寸法5mm×5mm、厚さ0.5mmおよび配向(100)の単結晶SrTiO基板上に、スピンコーティング技法によって堆積させた。その後、有機材料の分解で構成される熱分解を行った。そのために、(基板をそこに設置した)アルミニウムるつぼを使用し、このるつぼを直径23mmの石英管に導入し、石英管をオーブン内に設置した。オーブンが従うプログラムは、最高温度310℃までの加熱傾斜速度300℃/時間で、この最高温度を30分間維持した。オーブン内では、酸素圧1bar、流量0.051l/分および水圧24mbarの制御された雰囲気が必要となった。この湿度は、下側内部に多孔板が備わった洗浄びんにガスを通してガスを小液滴に分割することによって水分との接触面を増加させて実現した。プロセスの最後には、試料をデシケータに保存した。
【0057】
熱分解層を発端として、熱処理を施してYBaCu相の形成を実現した。この作業をオーブン内で行い、オーブン内では、790〜815℃の範囲の温度に達するまで急速な温度傾斜の上昇(25℃/分)を適用した。この温度を180分間(最後の30分は乾燥状態で)維持し、その後周囲温度に達するよう一定の下降傾斜2.5℃/分を適用した。この場合、0.2mbarのOおよび7mbarの水圧を使用した。ガスの流量は、質量流量計(Bronkhorst High−Techを用いる)によって規定するなどして、Nについては0.012〜0.6l/分の範囲で、Oについては0.006〜0.03l/分である混合を実現した。オーブンから試料を取り出すことなく、同じ乾燥雰囲気を用いて試料を酸素化した。温度を450℃まで上昇させ、ガスを圧力1barの乾燥Oに変え、温度を90分間維持した。その後、温度を、周囲温度に達するまで300℃/時間で下降させた。得られた層は、約300〜800nmの範囲の厚さを有していた。
【0058】
この試料を、X線回折、SEM画像化および77Kにおける臨界電流の測定値(J=3.5×10A/cm)によって特徴付けた。基準値のために、65K(図3)および77K(図4)で基板に垂直に印加される磁場の関数としての臨界電流の依存性を決定した。H=1Tにおいて、65KではJ=0.45×10A/cmであることがわかった。印加される磁場がなければ、65KではJ=4.2×10A/cmであった。
【0059】
臨界電流についてこれらの値を得ることにより、77Kにおけるピンニング力F(B)=JBの算出が可能となった(図5)。最後に、H//c配向からH//abへと磁場が変化した場合の臨界電流J(θ)の異方性を決定した(図8)。
【実施例2】
【0060】
隔壁蓋を有するバイアル内に、Ba(TFA)を21.3mg(5.9×10−6モル)と、Zr(acac)(5.9×10−6モル)を28.6gとを秤量し、実施例1で調製したYBCOのメタノール溶液2mlを添加した。この混合物を周囲温度で振り、0.45μmのフィルタを通してろ過した。調製したこの混合物を、Arの雰囲気中で保持した。
【0061】
最初の化学量論的関係が変化したこと、期待したバリウムとジルコニウムとの塩の含有量(5%)の増大を立証することを目的として、ICP分析を行った。
【0062】
5%を超えるBaとZrとの塩を含むY、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩を含有するこの溶液を発端として、実施例1に示す条件と同じ条件下でSrRiO基板上に堆積を行った。堆積させた試料を、実施例1で説明したような熱分解プロセスに従って分解した。熱分解した試料が均質で、また亀裂および粗さがないことを立証するために、熱分解した試料を、光学顕微鏡法によって特徴付けた(図6)。
【0063】
この熱分解した試料を発端として、実施例1で説明したように熱処理を行って、YBaCuおよびBaZrO相を形成した。得られた層は、200〜800nmの範囲の厚さを有していた。この試料を、BaZrOナノ粒子が形成されたことが観測される走査型電子顕微鏡法およびX線回折法(図7)によって特徴付けた。また、そのように形成したBaZrOナノ粒子を、透過型電子顕微鏡法によって観察し、ナノ粒子を取り囲むYBCOマトリックスにおける高密度の欠陥の形成(図1および図2)を観測した。そのように形成したBaZrOナノ粒子の影響と、それらBaZrOナノ粒子によって生じる欠陥とを研究するために、65K(図3)および77K(図4)における標準的な4点技法によって、試料の輸送臨界電流を測定した。印加される磁場がない場合、77Kで値J=6.5×10A/cmが得られ、基板に垂直な磁場H=1Tにおいては値J=2.2×10A/cmが得られた。65Kでは、磁場がない場合に値J=15×10A/cmが得られ、基板に垂直な磁場H=1TにおいてはJ=15×10A/cmが得られた。臨界電流についてこれらの値を得ることにより、77Kにおけるピンニング力F(B)=JBの算出し、4.2KにおけるNbTiなど従来の超伝導線における既知の値とこのピンニング力を比較する(図5)ことが可能となった。観測された通り、得られた値は、現在存在する値よりもはるかに高く、低温超伝導体も改良する。最後に、H//c配向からH//abへと磁場が変化した場合の臨界電流J(θ)の異方性を決定した(図8)。観測された通り、配向に伴うこの値の挙動は、むしろ一様であった。具体的には、最大値と最長値との間の比率が約1.5であったが、従来のプロセスでは6〜7となることがある。
【実施例3】
【0064】
イットリウムのトリフルオロ酢酸塩5重量%を添加した、実施例1のY、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の溶液を発端として、LaAlO基板(寸法5mm×5mm、厚さ0.5mmおよび配向(100)の)上に、スピンコーティング技法によって14μlの試料を堆積させた。堆積させた試料を、実施例1で説明したように熱分解プロセスに従って分解した。熱分解した試料を光学顕微鏡法によって特徴付けて、この試料が均質で、また亀裂および粗さがないことを確認した(図9)。
【0065】
熱分解層を発端として、熱処理を施してYBaCuおよびY相の形成を実現した。この作業をオーブン内で行い、オーブン内では、790〜840℃に達するまで急速な温度傾斜(25℃/分)を適用した。この温度を180分間(最後の30分は乾燥状態で)維持し、その後温度を周囲温度まで2.5℃/分で下降させた。この場合、0.2mbarのOおよび7mbarの水圧を使用した。ガスの流量は、質量流量計(Bronkhorst High−Techを用いる)によって規定するなどして、Nについては0.012〜0.6l/分の範囲で、Oについては0.006〜0.03l/分である混合を実現した。オーブンから試料を取り出すことなく、同じ乾燥雰囲気を用いて試料を酸素化した。温度を450℃まで上昇させ、ガスを圧力1barの乾燥Oに変え、温度を90分間維持した。その後、温度を、周囲温度に達するまで300℃/時間でしっかりと下降させた。得られた層は、厚さ約275nmであった。
【0066】
この試料を、Yナノ粒子が形成されたことが観測される走査型電子顕微鏡法によって、またX線回折法(図10)によって特徴付けた。
【実施例4】
【0067】
ガドリニウムアセチルアセトナート5重量%を添加した、実施例1のY、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の溶液を発端として、SrTiO基板(寸法5mm×5mm、厚さ0.5mmおよび配向(100)の)上に、スピンコーティング技法によって14μlの試料を堆積させた。堆積させた試料を、実施例1で説明したように熱分解プロセスに従って分解した。熱分解した試料を光学顕微鏡法によって特徴付けて、この試料が均質で、また亀裂および粗さがないことを確認した(図11)。
【0068】
熱分解試料を発端として、実施例1で説明したように熱処理を行って、YBaCuおよびGd相を形成した。得られた層は、300〜800nmの範囲の厚さを有していた。この試料を、Gdナノ粒子が形成されたことが観測される走査型電子顕微鏡法およびX線回折法(図12)によって特徴付けた。臨界電流の測定により、磁場に対するそれら臨界電流の依存性がナノ複合材料において滑らかであることが確認された。
【実施例5】
【0069】
HAuCl5重量%を添加した、実施例1のY、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の溶液を発端として、LaAlO基板(寸法5mm×5mm、厚さ0.5mmおよび配向(100)の)上に、スピンコーティング技法によって14μlの試料を堆積させた。堆積させた試料を、実施例1で説明したように熱分解プロセスに従って分解した。熱分解した試料を光学顕微鏡法によって特徴付けて、この試料が均質で、また亀裂および粗さがないことを確認した(図13)。
【0070】
熱分解試料を発端として、実施例3で説明したように熱処理を行って、YBaCuおよびAu相を形成した。この試料を、Auナノ粒子が形成されたことが観測される走査型電子顕微鏡法(図14)およびX線回折法(図15)によって特徴付けた。得られた層は、300〜800nmの範囲の厚さを有していた。
【実施例6】
【0071】
モル比が0〜15%Gd、濃度が0.02〜0.003MであるCeおよびGdのプロピオン酸塩のイソプロパノール溶液を調製した。SrTiOおよびLaAlO(配向(100))の基板上に、スピンコーティング技法によって14μlの試料を堆積させた。また、酢酸BaとZrアセチルアセトナートとの水溶液を、化学量論的モル比1:1で調製した。堆積させた試料を、熱分解プロセスを用いて分解し、その後高温(900〜1000℃)における成長のプロセスを、可変継続期間(5〜30分)で行った。成長中における雰囲気は、OまたはAr5%のH2との混合物で、温度の傾斜上昇は、℃/hで固定した。得られる自動組織化ナノ構造の形態および寸法は、原子間力顕微鏡法によって制御するが、一部の典型的な例を図16に示す。これらの図面において、Ce1−xGd酸化物の生成された構造のナノメートル寸法を、また同様に、それら構造の形態(ナノドットおよびナノロッド)の著しい変化を観察することができる。これらの基板は、特性が向上した超伝導膜の堆積用の優れたテンプレートを構成する。
【実施例7】
【0072】
Y、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の実施例1の溶液を発端として、実施例6に従って得た自動組織化ナノ構造を有するLaAlOおよびSrTiO基板(寸法5mm×5mm、厚さ0.5mmおよび配向(100))上に、スピンコーティング技法によって14μlの試料を堆積させた。堆積させた試料を、実施例1で説明したように熱分解プロセスに従って分解した。熱分解した試料を光学顕微鏡法によって特徴付けて、この試料が均質で、また亀裂および粗さがないことを確認した。熱分解層を発端として、熱処理を施してYBaCu相の形成を実現した。この作業をオーブン内で行い、オーブン内では、790〜840℃に達するまで温度の急速な傾斜上昇(25℃/分)を適用した。この温度を180分間(最後の30分は乾燥状態で)維持し、その後試料を周囲温度まで2.5℃/分で徐々に冷却した。この場合、0.2mbarのOおよび7mbarの水圧を使用した。ガスの流量は、質量流量計(Bronkhorst High−Techを用いる)によって規定するなどして、Nについては0.012〜0.6l/分の範囲で、Oについては0.006〜0.03l/分である混合を実現した。オーブンから試料を取り出すことなく、同じ乾燥雰囲気を用いて試料を酸素化した。温度を450℃まで上昇させ、ガスを圧力1barの乾燥Oに変え、温度を90分間維持した。その後、温度を、周囲温度に達するまで300℃/時間で下降させた。得られた層は、厚さ約200〜300nmであった。
【0073】
この試料を走査型電子顕微鏡法、X線回折法、透過型電子顕微鏡法によって特徴付け、臨界電流を誘導または輸送技法によって測定した。図17は、BaZrOナノ粒子によりREBaCuマトリックスに欠陥が導入されたことを示す典型的なTEM像である。図18は、一方をナノ構造試料上に、もう一方を通常の試料上に成長させた2種の試料の、77Kにおける磁場に対する臨界電流の依存性を示す。観測された通り、REBaCuマトリックスに導入された欠陥のおかげで、高磁場において臨界電流が上昇した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記号「RE」が希土類元素またはイットリウムである、REBaCu型のナノ構造超伝導材料であって、
REBaCuの主要マトリックスと、
前記マトリックス全体に無作為に分布するBaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、REおよび/またはRECuからなると共に超伝導体のナノ構造を改変する二次相との、2つの相を具備した構造を有し、
その構造中におけるナノメートル欠陥の密度が、1μm当たり欠陥数で10〜10個の範囲にあることで、欠陥間の離隔長が数十nm程度となっており、
上記欠陥の生成により、臨界電流の異方性が、前記二次相なしで作製されたREBaCuの薄膜における値を下回るほどに低減される、ことを特徴とするナノ構造超伝導材料。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ構造超伝導材料と、当該材料がその上に堆積された基板とによって形成されている系。
【請求項3】
前記基板が、硬質単結晶フィルムであることを特徴とする請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記基板が、可撓性金属テープであることを特徴とする請求項2に記載の系。
【請求項5】
請求項1から4に記載のナノ構造超伝導材料を得る方法であって、
トリフルオロ酢酸塩の前駆体溶液を調製する段階aと、
膜厚の均一な制御を可能にする任意の方法によって、基板に前記溶液を堆積する段階bと、
制御された雰囲気中における熱処理によって、金属有機前駆体を分解する段階cと、
超伝導層の結晶化するための、制御された雰囲気中における高温での熱処理をする段階dとを含み、
前記段階aの前記前駆体溶液は、可変比率のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記段階aで使用する前記アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩および/または遷移金属塩は、沈殿物の形成を防止するために、反応溶媒に可溶である酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサン酸エチル、または、プロピオン酸塩類などの有機塩であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
RE、BaおよびCuのトリフルオロ酢酸塩の、Zr、Ce、Sn、Ru、La、Mn、SrおよびCaの様々な塩との錯体無水物溶液が、前記段階aにおいて得られることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
酸化物粉末を溶解させる有機酸に対応する任意の無水物が、段階aにおいて使用されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
トリフルオロ酢酸無水物(CFCO)O)と、反応の触媒としての少量のトリフルオロ酢酸(CFCOOH)(5体積%)とが、前記段階aにおいて使用されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
可変比率の金属または金属酸化物のナノ粒子とともに、金属トリフルオロ酢酸塩の溶液が、段階aにおいて使用され、前記ナノ粒子は、酸化還元反応と、沈殿と、安定化処理とによって調整されており、
前記安定化処理は、前記ナノ粒子の表面と連結することが可能であり、それにより前記ナノ粒子の凝集を防止する、界面活性剤、高分子または有機種を用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記段階bにおいて使用される前記基板が、金属有機溶液からの成長に基づく自動組織化プロセスによって、または前もって合成したナノ粒子の堆積において、金属酸化物(BaZrO、CeO、BaSnO、BaCeO、SrRuO、La1−xMnO(M=Ca、Sr、Ba)、RE)のナノ粒子の層で前もって覆われていることを特徴とする、請求項5から9に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から4に記載のナノ構造超伝導材料を使用した電子デバイス。
【請求項13】
請求項1から4に記載のナノ構造超伝導材料を使用した電気系統。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2010−513180(P2010−513180A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540797(P2009−540797)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/ES2007/070204
【国際公開番号】WO2008/071829
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(508157886)コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス (21)
【Fターム(参考)】