説明

高密度納豆菌胞子の製造法

【課題】健康食品などとして利用可能な、食品または食品添加物を原料とする培地から高効率で納豆菌胞子を得る製造法を提供する。
【解決手段】窒素源として大豆由来原料0.5〜1.5%(w/v)、酵母エキスを0.5〜1.5%(w/v)および炭素源として1%以上のグルコースを含有する液体培地で納豆菌を、生菌数が1.0E+9細胞/mL以上となるまで培養することを特徴とする納豆菌胞子の製造法、およびこの方法により得られた胞子を利用した食品、動物又は魚類用飼料または衛生用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は納豆として食経験のある納豆菌の胞子粉末およびそれを用いた食品、飼料および衛生用品の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆菌の属するバチルス属細菌の胞子の持つ整腸作用や免疫賦活効果、感染症予防効果などの機能が注目され、動物飼料に配合させる試みがなされている(特許文献1〜5)。また、近年ではヨーグルトや乳酸菌入り飲料などを代表とする微生物を利用した食品は、健康の維持促進、疾病予防等に効果のあるプロバイオティクス機能をもつ健康食品として開発、利用が進んでいる。バチルス属細菌のうち、納豆としての食経験をもつ納豆菌または納豆菌胞子もまた、プロバイオティクス機能を持つ健康(補助)食品として注目されている(特許文献6)。
また、微生物フローラを変える効果に注目した消臭用途などの衛生用品にも利用されている(特許文献5)。
このような納豆菌、又はその胞子を健康(補助)食品として利用するには、生活習慣の多様化に伴う利便性の観点から保存性、携帯性および摂取の点で好都合な錠剤型などの形態で提供されることが好ましい。納豆菌胞子は加工および流通上、好都合な保存や熱安定性などに優れ、またそのサイズから生殖細胞よりは高密度化することができる。そのため、前述した錠剤型などの用途には納豆菌胞子が好都合である。
納豆菌胞子を提供するための手段として、安全性の観点から食品由来の原料を使用して製造することが好ましく、さらに感染症に懸念のある動物原料よりは植物由来の食品原料を使用することがより望ましい。しかしながら、植物由来の食品原料だけを用い、工業的生産に有利な高密度培養から高い胞子化率で納豆菌胞子を得た報告例はない。
一般にバチルス属細菌は中温度域、好気性条件下、タンパク質、糖質等の栄養成分を分解資化して生育し、栄養成分などの増殖条件の欠如とともに内胞子を形成し、その後胞子となる(非特許文献1)。胞子化時のアミノ酸要求性を利用して、例えばBacillus subtilisの胞子化を容易に進行させるための培地が開発されている(非特許文献2)。近年では、特許文献3においてコーンスティープリカー及び炭素源を含有する培地によるバチルス・レンタス、バチルス・パミルスの高濃度胞子液の調製法が開示されており、特許文献7においてはプロリン添加によるバチルス・ポピリエの高濃度胞子液の調製法が開示されている。これらの報告から、高密度の胞子を工業生産的な観点から得るためには、培養液1mLあたりの生菌数が1.0E+09細胞レベル以上となる高密度培養が可能であり、さらに培養されて得た納豆菌栄養細胞が少なくとも30%以上の転換率で容易に胞子化する技術の開発が重要と予測されるが、納豆菌に関してはこのような報告例はない。尚、特許文献3記載の方法では胞子を得るための培養に1〜3日かかり、また、特許文献7記載の方法では胞子化率が10%以下となるなど、時間や胞子化率の点で効率の悪いものであった。
【0003】
一方、特許文献2において、工業的生産が容易な液体培養法で、納豆菌の栄養細胞増殖及び胞子形成を達成する方法についての開示がなされている。しかし、特許文献2で開示されている方法では生菌数が多くなるにつれて胞子化率は下がっており、培養液1mLあたりの生菌数が1.0E+09細胞レベル以上では胞子化率は1.4%に留まっており、納豆菌胞子の工業的な製造法という観点からは不十分である。しかも、該発明においては、食品として利用可能な培地原料を用いて高密度の胞子を高効率で得ることについての言及はなされていない。
【特許文献1】特開昭48−75720
【特許文献2】特開平4−79879
【特許文献3】特開2000−217567
【特許文献4】特開2000−143521
【特許文献5】特開平5−146289
【特許文献6】特開2006−111573
【特許文献7】特開2004−24127
【非特許文献1】J.Bacteriology Vol.103、p.529−535、1970
【非特許文献2】J.Bacteriology Vol.137、p.213−220,1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高密度納豆菌から高い転換率で胞子化される、工業的に利用価値の高い納豆菌胞子の製造法、および該方法によって得た納豆菌胞子を含有する食品や動物用飼料を提供することにある。具体的には、納豆菌を工業的に好都合な液体培養において1.0E+09細胞/mL以上の高密度培養を達成させ、菌数を維持させた状態から50%以上の転換率をもって胞子化させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は鋭意研究をおこなった結果、栄養細胞から胞子への転換には栄養成分の枯渇が伴う故、窒素源と炭素源の使用量は、栄養細胞増殖と胞子化促進の観点から重要であることを見出した。そして、窒素源と炭素源を含む培地において、窒素源としての大豆由来原料、酵母エキス、およびグルコースの使用範囲を制限することにより、高密度の納豆菌(栄養細胞)培養と高転換率の胞子化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の方法で得られる納豆菌胞子粉末はまた、食品由来または食品添加物を原料に使用しているため安全性が高い。従って、本発明は、本発明の方法で得られる納豆菌胞子粉末を含有する食品、動物または魚類用飼料および衛生用品をも提供するものでもある。
【0006】
本発明は以下の構成からなる。
[1]少なくとも、窒素源としての大豆由来原料、酵母エキス、および炭素源を含有する液体培地中で納豆菌を通気攪拌培養して納豆菌胞子を得る納豆菌胞子の製造方法であって、前記液体培地は大豆由来原料を0.5〜1.5%(w/v)、酵母エキスを0.5〜1.5%(w/v)、炭素源を1%(w/v)以上含み、生菌数が1.0E+9細胞/mL以上となるまで納豆菌を培養することを特徴とする方法。
[2]大豆由来原料が大豆加水分解物であり、炭素源がグルコースであることを特徴とする[1]の方法。
[3]大豆由来原料がペプチド鎖長3〜6の大豆ペプチドであることを特徴とする[1]または[2]の方法。
[4][1]〜[3]のいずれかの方法で得られた納豆菌胞子。
[5][1]〜[3]のいずれかの方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて食品を製造することを特徴とする、食品の製造方法。
[6][1]〜[3]のいずれかの方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて動物又は魚類用飼料を製造することを特徴とする、動物又は魚類用飼料の製造方法。
[7][1]〜[3]のいずれかの方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて衛生用品を製造することを特徴とする、衛生用品の製造方法。
[8][4]の納豆菌胞子を用いて得られる食品。
[9][4]の納豆菌胞子を用いて得られる動物又は魚類用飼料。
[10][4]の納豆菌胞子を用いて得られる衛生用品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、高効率で納豆菌胞子を得ることができる。
本発明の方法によって得られる納豆菌胞子を含有する食品は、整腸作用や免疫賦活効果、感染症予防効果などを有し、健康の保持・回復・増進などのために有用である。
本発明の方法によって得られる納豆菌胞子を含有する動物又は魚類用飼料は、整腸作用や免疫賦活効果、感染症予防効果などを有し、動物や魚類の健康の保持・回復・増進などのために有用である。
本発明の方法によって得られる納豆菌胞子を含有する衛生用品は、消臭剤や発毛剤等などとして有用である。
【発明の実施を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用される納豆菌は、食経験があれば特に限定するものでなく、高橋菌、成瀬菌、宮城野菌など市販されている納豆菌株、あるいは、従来知られているBacillus subtilisの分離培地を用いて通常市販されている納豆より純粋分離して得たもの、あるいはこれらの菌の混合物等を用いることができる。
【0009】
納豆菌を培養する培地は、食品用途の点から、食品または食品添加物として認められたものを原料として使用することが望ましい。さらに、近年の消費者の安全意識向上に伴い、消費者が感染症に懸念のある動物原料を避ける傾向にあるので、植物由来の原料を使用することが一層望ましい。
したがって、本発明の方法では、窒素源としては大豆由来原料を使用する。大豆由来原料は、高密度の胞子の回収性を考えれば不溶物を含まないものが好ましく、大豆加水分解物が好ましく、特に好ましいのは、平均ペプチド鎖長が3〜6の大豆ペプチドである。具体的には、例えば、ハイニュートSMP(不二製油社製)などの大豆ペプトンが使用できる。
【0010】
納豆菌の1.0E+09細胞/培養mLを満たす高密度培養と高密度に培養された納豆菌から胞子化率が50%以上で胞子を得るためには、窒素源としての大豆由来原料の使用量(濃度)は0.5〜1.5%(w/v)である。納豆菌の増殖と胞子化率の点から、この範囲が好適である。
【0011】
炭素源は食品または食品添加物として認められたグルコース、グリセロール、スクロース、ガラクトースなどが使用可能であるが、栄養細胞の増殖と胞子化の促進の点で、グルコースが特に好ましい。グルコースなどの炭素源の使用量は、納豆菌の1.0E+09細胞/培養mL以上となる高密度培養を達成できさえすれば増殖の途中で消費し尽くされても構わず、0.5〜1.5%(w/v)の大豆由来原料使用の培養条件において炭素源は1%(w/v)以上であれば何れの使用量でも構わないが、経済性の観点などを鑑みれば最低限の使用でよく、従って、1〜5%(w/v)が好ましく、特に1.5〜3%(w/v)程度が好ましい。
【0012】
また、本発明の製造法に使用する培地は、さらに、窒素源としても利用可能であるが、納豆菌の高密度液体培養を促進、維持するためのビタミン、ミネラルなどの微量成分の供給源となる酵母エキスを含む。酵母エキスもまた納豆菌の1.0E+09細胞/mL以上となる高密度液体培養を促進、維持できるものであれば何れも使用可能であるが、食品用途に製造されたものが好ましい。また、酵母エキスの使用量は、培地中に0.5〜1.5
%(w/v)の濃度となることが好ましい。納豆菌の胞子化率と培養密度の点から、この範囲が好適である。
【0013】
培地には、無機塩類として、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸鉄、塩化カルシウム、塩化マンガンなども必要に応じて添加することができる。
【0014】
本発明の納豆菌を高密度にて液体培養する条件としては、納豆菌が良好に生育しうる範囲内にて適宜に選択することができる。通常、pH6〜8、培養温度30℃〜42℃、1〜3日間程度が望ましい。培地のpHは水酸化ナトリウム溶液で調整することができる。
また、本発明の高密度培養のためには通気攪拌培養による好気的条件で培養することが好ましい。培養中の発泡制御のために消泡剤を適宜に培養液に添加することができる。消泡剤の種類として含ケイ素化合物やショ糖エステルなど各種使用できるが、特に好ましいものは食品添加物として認められたものである。
【0015】
本発明の製造法において、胞子化の時間を短縮するために、菌体増殖後炭素源が枯渇した時点で温度、通気量、または攪拌速度を上げてもよい。
上記のような方法で納豆菌を培養することにより、胞子化率の高い納豆菌が得られる。
そして、80℃にて30分程の熱処理をすることによって胞子のみを選択的に得ることができる。このようにして得た胞子溶液は、例えば、遠心、生理食塩水などで洗浄した後、凍結乾燥やスプレイドライ処理することによって納豆菌胞子粉末として粉末化することができる。
胞子化率の測定はHODGESらの方法(J.Bacteriology Vol.147、p427−431,1981)に従って実施することができる。
【0016】
本発明の製造法により得られた納豆菌胞子粉末は、納豆菌が生きた状態のまま、又はオートクレーブなどの滅菌技術によって納豆菌を死滅させるか、若しくは発芽率を0細胞/gとしたものを単独で食品として利用することができるが、また、必要に応じて糖衣やコーティングを施した錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤等の形態にて経口的に使用することもできる。また、他の健康食品や乳製品、菓子、飲料などに配合させた食品として利用することもできる。食品には、納豆菌胞子の有する整腸作用や免疫賦活効果、感染症予防効果などにより、健康の保持、回復および/または増進を主な目的として摂取される、健康食品、健康補助食品(サプリメント)、特定保健用食品も含まれる。
また、本発明の製造法により得られた納豆菌胞子粉末は、動物又は魚類用飼料にも配合することができる。その際、不活化した他の免疫賦活活性を持つ菌を混合して利用しても良い。そのような菌としては乳酸菌が例示される。
なお、本発明の健康食品や動物用の飼料としては、本発明の方法で得た納豆菌胞子を含有し、経口的に摂取しうるものであればよく、種類、形状などの制限は特にない。
さらに、本発明の製造法により得られた納豆菌胞子粉末は、衛生用品として使用することもでき、衛生用品としては、納豆菌胞子の雑菌の繁殖を抑える効果を利用した、消臭剤や発毛剤等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特に断りのない限り培地成分濃度は%(w/v)で表した。
【0018】
実施例1
培地中のグルコース濃度が納豆菌の増殖及び胞子化率に及ぼす影響を検討した。
3Lジャーに1.5Lの仕込み量にて次のような培地を調整した。1%大豆ペプチド(商品名 ハイニュートSMP、平均ペプチド鎖長3〜4、不二製油社製)、0.5%酵母エキス(食品用 アサヒビール社製 ミーストAP-329 )からなる培地を120℃で20分間オートクレーブ滅菌したものに、炭素源として別に120℃で20分間滅菌したグルコース(食品 和光純薬工業社製)をそれぞれ0.5、1、2、3、5%無菌的に添加し、その後、最終的にpH7.2となるよう水酸化ナトリウムにて調整した。該培地に、前もって1%ハイニュートSMP、0.5%酵母エキス、4%グリセロール(食品用 阪本薬品工業社製)の培地にて37℃、一晩培養した納豆菌高橋株(高橋祐蔵研究所社製)を15mL植菌し、培養温度37℃、通気量0.4vvm、攪拌数500rpmにて24時間培養した。グルコースの使用量が異なる何れの培養条件でも、溶存酸素計による溶存酸素値は培養液中の酸素が消費され尽くしていないことを示す0以上の値であった。これらの培養の増殖曲線を図1に、対数増殖終了時における納豆菌の生菌数、培養6、12、24時間におけるグルコース残存量、および培養24時間における80℃、30分間の熱処理によって求めた胞子化率を表1に示した。グルコース濃度はオンラインバイオケミカルコントローラBF−410(王子計測機器株式会社)を用いて測定した。
グルコース濃度が1%の培養においては対数増殖期の終わりに当たる培養7時間で、生菌数にして納豆菌は9.0E+08細胞/mLとなり、1.0E+09細胞/mL以上となる培養に届かなかった。一方、グルコース濃度が2〜5%の培養においては何れも対数増殖期の終わりに当たる時間(10時間、8時間、10時間)で、生菌数にして納豆菌は1.0E+09細胞/mL以上の培養であった。また、グルコース5%では、培養24時間で唯一グルコースは残存し、その量は26.8g/mLであった。グルコースの残存の有無に拘わらず、24時間の胞子化率は66%以上と高い率であった。本実施例の結果から高い胞子化率での転換はグルコースの消費に依存しないことが示唆された。
グルコース濃度1〜5%では細胞数1.0E+9細胞/mL以上を達成し、高い胞子化率を得ることができたが、グルコース濃度0.5%では胞子化率は100%であったものの、24時間培養しても1.0E+9細胞/mL以上の細胞数を達成できなかった。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例2
酵母エキスおよびグルコース濃度を一定にして、大豆ペプチド濃度が及ぼす納豆菌胞子化率への影響を調べた。即ち、実施例1と同様に、3Lジャーに1.5Lの仕込み量にて0.5%の酵母エキス、2%グルコースを含み、大豆ペプチド濃度がそれぞれ0.1、0.5、1、1.5、2および3%となるような培地を調製し、前もって37℃、16時間前培養した納豆菌高橋株15mLを接種し、培養温度37℃、通気量0.4vvm、攪拌数500rpmにて24時間培養した。この時の増殖曲線を図2に、対数増殖終了時期における納豆菌の生菌数、および培養24時間における80℃30分間の熱処理によって求めた胞子化率を表2に示した。大豆ペプチド濃度が0.5%〜3%の範囲の培養においては対数増殖期の終わりにあたる培養10時間程度で、生菌数にして納豆菌はいずれも1.
0E+09細胞/mL以上に達した。その後の24時間培養までの培養において、大豆ペプチド濃度が0.5〜1.5%では納豆菌栄養細胞の維持に必要な大豆ペプチド由来の窒素成分が消費され、納豆菌は50%以上の高胞子化率を示した。一方、大豆ペプチド濃度2%以上では納豆菌栄養細胞の維持に必要な大豆ペプチド由来の窒素成分が消費しきれなかったために納豆菌は胞子化できず熱処理によって死滅し、結果として低い胞子化率となった。また、大豆ペプチド濃度0.1%以上では胞子化率は100%であったものの、24時間培養しても1.0E+9細胞/mL以上の細胞数を達成できなかった。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例3
グルコースおよびハイニュートSMP濃度を一定にして、酵母エキス濃度が及ぼす納豆菌胞子化率への影響を調べた。即ち、実施例1、2と同様に、3Lジャーに1.5Lの仕込み量にて2%グルコース、1%のハイニュートSMPを含み、酵母エキス濃度がそれぞれ0、0.5、1、1.5および2%となるような培地を調製し、前もって37℃、16時間前培養した納豆菌高橋株15mLを接種し、培養温度37℃、通気量0.4vvm、攪拌数500rpmにて24時間培養した。この時の増殖曲線を図3に、対数増殖終了時期における納豆菌の生菌数、および培養24時間における80℃30分間の熱処理によって求めた胞子化率を表3に示した。酵母エキス濃度が0.5%〜2%の範囲の培養においては対数増殖期の終わりにあたる培養10時間程度で、生菌数にして納豆菌はいずれも1.0E+09細胞/mL以上に達した。その後の24時間培養までの培養において、酵母エキス濃度が0.5〜1.5%では納豆菌栄養細胞の維持に必要な窒素成分、微量成分が消費され、納豆菌は50%以上の高胞子化率を示した。一方、酵母エキス濃度2%以上では納豆菌栄養細胞の維持に必要な窒素成分、微量成分が消費しきれなかったために納豆菌は胞子化できず熱処理によって死滅し、結果として低い胞子化率となった。また、酵母エキス濃度0%では、1.0E+09細胞/mL以上の細胞数を達成できず、胞子化率も低い結果となった。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例4 本発明の最適な形態
1%の大豆ペプチド、0.5%酵母エキスおよび2%グルコースを含む培地で、実施例1と同様の条件で納豆菌高橋株を24時間培養した。80℃30分熱処理して集めた沈殿物をイオン交換水にて3回洗浄し、その後凍結乾燥した。このようにして得た納豆菌高橋株胞子粉末の乾燥重量1gあたりの胞子数は4.0E+11細胞であった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】各グルコース濃度における納豆菌の生菌数の経時変化を示すグラフ。
【図2】各大豆ペプトン濃度における納豆菌の生菌数の経時変化を示すグラフ。
【図3】各酵母エキス濃度における納豆菌の生菌数の経時変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも窒素源としての大豆由来原料、酵母エキス、および炭素源を含有する液体培地中で納豆菌を通気攪拌培養して納豆菌胞子を得る納豆菌胞子の製造方法であって、前記液体培地は大豆由来原料を0.5〜1.5%(w/v)、酵母エキスを0.5〜1.5%(w/v)、炭素源を1%(w/v)以上含み、生菌数が1.0E+9細胞/mL以上となるまで納豆菌を培養することを特徴とする方法。
【請求項2】
大豆由来原料が大豆加水分解物であり、炭素源がグルコースであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
大豆由来原料がペプチド鎖長3〜6の大豆ペプチドであることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法で得られた納豆菌胞子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて食品を製造することを特徴とする、食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて動物又は魚類用飼料を製造することを特徴とする、動物又は魚類用飼料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法により納豆菌胞子を製造し、得られた納豆菌胞子を用いて衛生用品を製造することを特徴とする、衛生用品の製造方法。
【請求項8】
請求項4記載の納豆菌胞子を用いて得られる食品。
【請求項9】
請求項4記載の納豆菌胞子を用いて得られる動物又は魚類用飼料。
【請求項10】
請求項4記載の納豆菌胞子を用いて得られる衛生用品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−199980(P2008−199980A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41213(P2007−41213)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】