説明

高延性及び耐遅れ破壊特性に優れた高強度冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板及びその製造方法

本発明は、980MPa以上の引張強度と28%以上の伸び率を有し、耐遅れ破壊特性に優れ、自動車用補強材及び衝撃吸収材などの曲げ加工特性だけではなく、一般的な水準のドローイング加工特性に優れた冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板及びその製造方法に関する。本発明は、重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、S:0.008%以下を含み、残りはFe及びその他不純物で組成されることを特徴とする高延性及び耐遅れ破壊特性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法に関する。また、上記冷延鋼板に溶融亜鉛メッキ層または合金化溶融亜鉛メッキ層を含む溶融亜鉛メッキ鋼板及びその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の構成品のうち、バンパー補強材またはドア内の衝撃吸収材に主に用いられる超高強度冷延鋼板において、従来開発されている鋼種に比べて成分変形と熱処理方法を改善することで、延性と耐遅れ破壊特性に優れた高延性超高強度冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車用鋼板は自動車成形フォームの複雑化、一体化の傾向によりさらに高い水準の成形性を有する鋼板が求められている上、特に、車が衝突する際、乗客の安全と密接な関係のある部品であるバンパー補強材またはドア内の衝撃吸収材は引張強度780MPa、伸び率30%以上の超高強度成形性に優れた鋼板が主に用いられており、高い引張強度と伸び率が求められる。最近では、自動車の排気ガスによる環境汚染問題が持ち上がり、燃費を向上させるための技術開発の方向として、超高強度鋼を利用して自動車の軽量化を成し遂げるための研究が増加している。しかし、強度、伸び率が高くなるにつれ、残留オーステナイト分率が高くなり、相対的に耐遅れ破壊現象が増加するという短所がある。
【0003】
従って、本発明では引張強度980MPa、伸び率28%以上を有する高強度、高延性及び耐遅れ破壊特性に優れた自動車用板材を製造することに目的がある。強度と伸び率を同時に向上させることができる残留オーステナイトを多量に含む鋼板は、残留オーステナイトが加工によりマルテンサイトに変態されながら延性を増加させるため、均一延性が非常に優れている上、ドローイングのような局所圧縮圧力を受ける場合、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態されながらネッキング抵抗性が急に増加する。そのため、冷延鋼板のように(222)集合組織が発達しなくてもドローイング加工が可能であるという特徴がある。従って、延性に優れた残留オーステナイトを多量に含む鋼板をドローイング用加工品に適用できれば、その活用分野は相当広くなるだろう。
【0004】
従来の残留オーステナイトを多量に含む鋼板の製造方法には、次のような2つの方法がある。
【0005】
1つ目は、低炭素鋼にSi、Mnを多量添加し、焼鈍時にオーステナイトを形成した後、冷却過程でベイナイト温度で一定に保持することで、強度と延性を同時に増加させるオーステンパー処理方法である。このように生成された残留オーステナイトを塑性変形中にマルテンサイトに変態させて強度増加とともに塑性誘起変態により応力集中を緩和させることにより延性を増加させるが、これを変態誘起塑性鋼(TRIP:transformation Induced Plasticity)といい、高い強度と延性を有する高強度鋼として用いられている。本発明で提案した第1の方法は発明組成を用いて上記の連続焼鈍法を使用し、鋼板を製造する。
【0006】
二つ目は、Mn低炭素鋼を熱間圧延した後、特定温度で再焼鈍してマルテンサイトをオーステナイトに逆変態させる逆変態法という方法である。この方法はオーステナイト安定化元素であるMnを多量に添加した鋼を利用し、熱延した後、得られたマルテンサイトとベイナイト混合組織を冷延してから、箱焼鈍して全組織のラス(lath)境界にオーステナイトを形成させた後、冷却して常温に残留させる。
【0007】
しかし、現在までに知られていることによると、上記の方法により製造された残留オーステナイトを多量に含む鋼板にはドローイング後、一定時間が経過するにつれ、亀裂が生じる、いわゆる、遅れ破壊が発生するという問題がある(非特許文献1)。遅れ破壊は主に1.2GPa級の高張力ボルトのような超高強度鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼で頻繁に発生するもので、残留応力が高い状態において、水素が分子形態や原子形態で拡散し亀裂に発展する(非特許文献2)。
【0008】
一方、残留オーステナイトを多量に含む鋼板の場合、残留オーステナイトがドローイング加工によりマルテンサイトに変態されながら誘発された体積膨脹によって界面における内部応力と、水素の侵入による濃度増加により遅れ破壊が発生する(非特許文献3)。特に、マルテンサイト組織では、水素の拡散速度が非常に速く、溶解度が少ないため、侵入した水素はマルテンサイトと残留オーステナイトの境界に容易に凝集されて遅れ破壊が発生する。
【0009】
特許文献1はC:0.05〜0.3%、Si:2.0%以下、Mn:0.5〜4.0%、P:0.1%以下、S:0.1%以下、Ni:5.0%以下、Al:0.1〜2.0%、N:0.01%以下からなり、かつSi(%)+Al(%)≧0.5、Mn(%)+1/3Ni(%)≧1.0、かつ体積率で5%以上の残留オーステナイトを含む組織を有する組成物を開示している。また、上記組成のスラブを熱間圧延した後、300〜720℃で巻取し、圧下率:30〜80%で冷間圧延し、その後の連続焼鈍工程において、Ac1変態点以上、Ac3変態点以下の温度領域で加熱し、冷却中に550〜350℃の温度領域で30秒以上保持するか、または400℃/min以下の冷却速度で徐冷して上記鋼板を得る。この技術は、発明の1つ目の製造方法である連続焼鈍熱処理方法の種類に属するが、組成の側面でMn、Ti、B、Sbなどの添加元素においては異なる技術であり、本発明で得られた機械的特性に大きく至らないという側面で差がある。
【0010】
特許文献2はC:0.06〜0.2%、Si:2.0%以下、Mn:3.0〜7.0%及び残部Feからなり、残留オーステナイトが体積率で10%以上20%未満であり、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトが面積率で30%以上である、組成物を開示している。上記成分の鋼塊は熱間圧延後または圧下率20%以下の冷間圧延後、700〜(A1点−50)℃で、20秒以下保持して焼戻し熱処理を施すことにより製造し、引張強度は800MPaで、約30%の伸び率を有する。この公知技術は、本発明と比較すると、Alの未添加による耐遅れ特定の問題があり、熱間仕上げ圧延温度と冷間圧下率及び焼鈍熱処理保持時間において、本発明の製造方法と差があり、求められる機械的特性に至らない。
【0011】
また、特許文献3には、Mn:2〜6%、及び残留オーステナイトを20%以上からなる高強度鋼板が開示されている。この鋼板はC:0.1〜0.4%、Si:0.5%以下、Mn:2〜6%、Al:0.005〜0.1%からなる。この鋼板は、800〜950℃で熱処理した後、空気冷却またはそれ以上の冷却速度で冷却した熱延鋼板もしくは冷延鋼板、または熱延後200〜500℃に巻取した熱延鋼板、またはこの熱延鋼板を冷延した冷延鋼板を、焼鈍温度650〜750℃の温度範囲で1分以上の第1の焼鈍をし、500℃以下の温度で冷却し、そして引き続き焼鈍温度650〜750℃で1分以上第二の焼鈍をすることにより産生される。この技術は、20%以上の残留オーステナイトを含むことにより、ドローイング時にマルテンサイトへの変態による遅れ破壊現象が生じることと、組成中の耐遅れ破壊特性を強化するためのAlの添加がないということが本発明との差異である。また、焼鈍熱処理工程でも、この技術は2回焼鈍を行ったが、1回の焼鈍熱処理工程を有する本発明とは工程構成において大きな差がある。
【0012】
上記の他の技術は、主に強度と延性をともに増加させるために、残留オーステナイト含量を増加させることに重点を置いて開発されているが、残留オーステナイト含量が増加するにつれ、遅れ破壊の発生可能性が高くなることに対する対処方法がなかった。よって、強度と延性を同時に増加させるために残留オーステナイト含量を増加させると共に、遅れ破壊に対する抵抗性(耐遅れ破壊特性)を高めるための合金組成及び製造技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】日本公開特許第1993−070886号
【特許文献2】日本公開特許第2003−138345号
【特許文献3】日本特開平7−188834号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】CAMP−ISIJ Vol.5(1992)、1841
【非特許文献2】Material Science and Technology Vol.20(2004)、940
【非特許文献3】Material Science and Egineering A 438−440(2006)、262−266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は高強度と高延性をともに有する鋼板の従来技術の問題点を克服するためのもので、より詳細には残留オーステナイトの含量を増加させることができる最適の成分に、残留オーステナイトの安全性と遅れ破壊の抵抗性を高めるためのAlを適正量添加して耐遅れ破壊特性を改善すると共に、980MPa以上の引張強度と28%以上の伸び率を有する冷延鋼板及び溶融亜鉛メッキ鋼板を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明の他の目的は、上記980MPa以上の引張強度と28%以上の伸び率を有し、耐遅れ破壊特性に優れた冷延鋼板及び溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様に従って、重量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む、高強度の冷延鋼板及び亜鉛メッキ鋼板が提供される。
【0018】
また、本発明は、上記組成を満たす鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱し、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延する段階と、550〜650℃の温度で巻取する段階と、塩酸で酸洗した後、冷間圧下率30〜60%の範囲で冷間圧延する段階と、670〜780℃の温度範囲で60秒以上保持して連続焼鈍する段階を含む、高強度冷延鋼板及び溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法に関する。
【0019】
本発明の他の側面は、上記組成を満たす鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱し、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上げ圧延する段階と、550〜650℃の温度で巻取する段階と、塩酸で酸洗いした後、冷間圧下率30〜60%の範囲で冷間圧延する段階と、620〜720℃の温度範囲で1〜24時間、箱焼鈍逆変態処理する段階と、10〜200℃/sの冷却速度で冷却する段階を含む、高強度冷延鋼板及び溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のような成分構成と製造条件で、980MPa以上の引張強度と28%以上の伸び率を有し、特に、Al成分を添加して耐遅れ破壊特性を改善した鋼を製造する。このような鋼板は自動車用補強材及び衝撃吸収材などの曲げ加工の用途だけでなく、一般的な水準のドローイング加工が可能であるため、500MPa級の鋼板を用いる一部部品に代わって使用されると、自動車の車体の安全性及び軽量化の効果を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含むことを特徴とする、強度、伸び率及び耐遅れ破壊特性に優れた鋼板及びその製造方法に関する。
【0022】
以下では、本発明の成分系について詳しく説明する(以下、重量%)。
【0023】
炭素(C)の含量は0.05〜0.3%とする。Cは鉄鋼において、最も重要な成分で、強度及び延性など全ての物理的、化学的特性と密接な関係がある。本鋼板におけるCは、熱延後のラス(lath)組織を有するマルテンサイトやベイナイト形成、箱焼鈍逆変態時に形成されるオーステナイトの量、安定化に影響を及ぼすが、炭素量が0.05%未満ではラス組織の形成が不安定で、焼鈍後のオーステナイトの安全性も減少し、延性と強度が低下し、炭素量が0.3%を超えると、冷間圧延の荷重が増加して溶接性が低下し、加工性が低下するという短所があるため、Cの範囲を0.05〜0.3%に制限した。
【0024】
ケイ素(Si)の含量は0.3〜1.6%とする。炭化物の形成を抑制して変態誘起塑性(TRIP)を誘導するのに必須の固融炭素量を確保する役割をする。また、Siは製鋼時の介在物の浮上分離を円滑にし、溶接時に溶接金属の流動性を増加させるために添加した。Siの量が0.3%未満では製鋼時の介在物及びMnS形成に影響を及ぼさず、1.6%を超えると、熱延スケールを誘発させ、メッキ性が悪くなり、溶接性も劣化するという特性があるため、0.3〜1.6%に制限した。
【0025】
マンガン(Mn)の含量は4.0〜7.0%とする。本発明において、Mnは熱延巻取後の冷却条件でも、ラス組織を得るために焼入性を増加させる効果と、箱焼鈍逆変態時にラス組織でオーステナイトが形成される温度範囲を拡張するために添加した。マルテンサイトを得るための冷却速度はマンガン当量(=Mn%+0.45*Si%+2.67*Mo%)によりlog(臨界冷却速度、単位℃/s)=3.95−1.73*Mn当量の関係式が与えられる。本発明では巻取後の冷却速度が0.005℃/s以上であるため、Mn当量として少なくとも3.6%が必要である。また、Mnは硬化能を大きくし、針状フェライト及びベイナイトのような低温変態相の生成を容易にし、強度を増加させ、オーステナイトを安定化させる成分であるため、焼鈍時に形成されたオーステナイトを容易く残留させるのに非常に効果的な元素である。しかし、Mnが7%を超えると、溶接性が低下し、製鋼時にスラグの組成が変化して耐火物の侵食が増加し、熱間圧延前に加熱段階で鋼塊の表面層の近くで粒界にマンガン酸化物を形成し、熱間圧延後の表面欠陥を誘発する。また、熱間圧延時に板材の中央に偏析帯を形成し、介在物の形成により水素脆性を引き起こす。従って、適正範囲を4.0〜7.0%に制限した。
【0026】
アルミニウム(Al)の含量は0.5〜2.0%とする。本発明において、Alの添加はSi成分と類似して遅れ破壊を防ぎ、オーステナイト内の固融炭素量を高めるためのものである。遅れ破壊の主な原因は、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態時に界面で生じる内部変形による残留応力と転位密度の増加による水素の吸着が生じるためである。特に、高マンガンを添加する場合、内部の積層欠陥エネルギー(stacking fault energy)が非常に低くなるため、乱れた転位の移動が容易でなく、転位の核(core)部位に水素が吸着すると、水素が抜けにくくなるため、境界面での水素の濃度が高くなる。Alは積層欠陥エネルギーを高める元素のうち最も効果的な成分であり、内部の積層欠陥エネルギーを高めることで、相対的に転位の動きを容易にする。これによって水素が着脱しやすくなり、境界面での水素の濃度が低下する。Alの含量が0.5%未満では上記効果を期待することが困難で、2.0%を超えると、水素の着脱は容易であるが、オーステナイトの分率が低下して延性が相対的に低下し、メッキ後の表面特性が悪くなる。
【0027】
ニッケル(Ni)の含量は0.02〜0.1%とする。NiはMnと類似する挙動をし、オーステナイト安定化成分である。残留オーステナイトの安全性を高め、分率を増加させる。しかし、0.1%を超えると、鋼の延性が急激に落ちるため、本発明では0.02〜0.1%と制限する。
【0028】
クロム(Cr)の含量は0.01〜0.1%とする。本発明におけるCrの添加は焼入性及び強度の上昇を目的とする。0.1%を超えると、焼入性の効果がそれ以上期待できないため、本発明では0.01〜0.1%に制限する。
【0029】
チタン(Ti)の含量は0.005〜0.03%とする。TiはAl及びBが本来の作用ができるように、2つの元素を枯渇させる反応()に必要なNを先ずTiNで形成させて枯渇させる成分である。さもなければ、NはAlN、BNを形成形成して、AlおよびBを枯渇させる。Ti含量は0.005%未満ではその役割をすることが困難で、0.03%を超えると、その効果がそれ以上期待できないため、0.005〜0.03%に制限する。
【0030】
ボロン(B)の含量は5〜30ppmとする。Bは鋼中に少量添加しても硬化能を向上させる成分で、5ppm以上を添加すると、高温でオーステナイト粒界に偏析されフェライトの形成を抑制し、硬化能の向上に寄与するが、添加量が30ppmを超えると、再結晶温度を上昇させて溶接性を劣化させる。
【0031】
アンチモン(Sb)の含量は0.01〜0.03%とする。Sbは適切な量である0.01〜0.03%を添加すると、表面特性を改善させるが、添加量が0.03%を超えると、表面に濃化が生じて表面特性が却って悪くなる。従って、本発明では0.01〜0.03%に限定する。
【0032】
以下では、本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0033】
本発明は上記組成を満たす鋼スラブを1150〜1250℃の温度範囲で加熱し、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延を行う。これは本発明の組成範囲を満たす鋼スラブの加熱炉の温度範囲に該当する。
【0034】
上記熱間仕上圧延後、550〜650℃の温度で巻取する。550℃未満の巻取温度では板形状が悪くなり、熱延板の強度が増加し、冷延時に作業性が低下する。650℃を超える巻取温度ではバンド状のベイナイト組織が粗大に形成され、焼鈍組織を不均一にして加工性を低下させるため、巻取温度は550〜650℃に制限した。
【0035】
上記巻取してから塩酸で酸洗した後、冷間圧下率30〜60%の範囲で冷間圧延する。30%未満では冷間圧延による厚さの減少効果が少なく、60%を超えると、圧延負荷が増加して圧延し難いため、冷間圧下率を30〜60%に制限した。
【0036】
本発明は、上記冷間圧延後に2つの製造方法を適用することができる。以下で、詳しく説明する。
【0037】
1つ目の製造方法は、連続焼鈍工程に適用することを目標とする。
【0038】
上記冷間圧延後、670〜750℃の温度範囲で60秒以上保持して連続焼鈍する。連続焼鈍に適用できる時間は1〜3分程度が好ましく、箱焼鈍に比べて速いC、Mnの分配反応が必要であるため、C、Mnの拡散速度の速い670〜750℃の温度範囲を焼鈍温度と設定する。焼鈍中にはラス組織でオーステナイトが形成されなければならないが、670℃未満では強度及び延性を増化させるためのオーステナイトの安定化に必要な炭素量を確保することが難しく、750℃を超えると、Si、Al成分元素の拡散が促進されるため、炭化物の析出を抑制することができず、オーステナイトの安全性を確保することが困難であるため、焼鈍温度を670〜750℃に限定した。焼鈍時間は焼鈍温度で平衡状態を得るために必要な時間であり、60秒以上保持すると、その温度範囲でオーステナイトが十分に平衡状態に到達する。
【0039】
上記連続焼鈍した後、通常の方法で冷却する。5〜50℃/sの速度で冷却することが好ましい。
【0040】
2つ目の製造方法は箱焼鈍逆変態による製造方法である。
【0041】
上記冷間圧延後、620〜720℃の温度範囲で1〜24時間焼鈍する。
【0042】
一般的に、箱焼鈍逆変態の場合は、焼鈍温度で約1時間保持されると仮定され、連続焼鈍の数十倍の時間が必要である。従って、焼鈍温度は上記の連続焼鈍熱処理の範囲と多少異なる。箱焼鈍逆変態の場合は、連続焼鈍より相対的に低温で、長期間保持して残留オーステナイトを確保する。本製造方法の場合、620℃未満では炭素分配反応に必要な時間確保が商業的に不可能である。また、720℃以上では成分元素の拡散時間が長くて残留オーステナイトが分解反応(炭化物形成反応)し、オーステナイトの安全性が低下するため、高い延性を得ることができない。従って、焼鈍温度を620〜720℃に限定した。
【0043】
箱焼鈍時間は連続焼鈍より長時間を要し、焼鈍温度で平衡状態を得るために必要な時間である。それが1時間以下ではオーステナイトの核生成及び成長が不安定であるため、多量の残留オーステナイトを得ることができず、24時間ではオーステナイトが平衡状態に十分到逹できるため、それ以上焼鈍することは経済的でないため、1時間超過24時間以下に限定した。
【0044】
上記箱焼鈍し、10〜200℃/sの冷却速度で冷却する。冷間圧延量が増加すると、圧延により転位が過度に導入され、再結晶の挙動により冷延前のラス組織が破壊される。その結果、オーステナイトの形態が短い棒状の微細な組織に変化する。このような組織は伸び率を低下させるため、箱焼鈍後、冷却を一定速度以上にし再結晶組織の形成を抑制しなければならない。よって、強度と延性を同時に確保するためには加速冷却処理でラス組織を保持することが必要である。冷却速度が分当たり10℃/s未満では加工性が低下し、200℃/sを超えると、板形状及び不均一な冷却速度による板形状の不良によって、多量の冷却空気による表面酸化が生じるため、10〜200℃/sに制限した。
【0045】
上記2つの方法により製造された冷延鋼板に溶融亜鉛メッキまたは合金化亜鉛メッキをする。
【0046】
溶融亜鉛メッキは通常の方法により行われ、450〜500℃の温度範囲を有するメッキ浴で行うことが好ましい。溶融亜鉛メッキの密着性を極大化するためには450℃以上が好ましく、500℃を超えると、鋼板の合金化が行われる恐れがあるため、500℃以下に制限した。
【0047】
溶融亜鉛メッキをし、必要に応じて合金化溶融亜鉛メッキをする。合金化溶融亜鉛メッキは通常の方法により行われ、合金化は500〜600℃の温度範囲で行うことが好ましい。500℃未満では合金化反応がうまく行われず、600℃を超えると、素材の表面にメッキされている合金化溶融亜鉛メッキ層が蒸発する恐れがあるため、600℃以下にすることが好ましい。
【0048】
上記の溶融亜鉛メッキまたは合金化溶融亜鉛メッキをした溶融亜鉛メッキ鋼板は、10μm以内の溶融亜鉛メッキ層を有する。
【0049】
以下、本発明の組織に対して説明する。
【0050】
本発明の2つの製造方法により製造された冷延鋼板はほぼ同一組織を有する。本発明におけるそれぞれの冷延鋼板は、40〜50%のマトリックスとして焼戻しされたマルテンサイト、20〜40%の残留オーステナイト、および残部フェライトから成る。特に、高い引張強度と伸び率を有させるために、本発明では残留オーステナイトの範囲を20〜40%に限定した。
【0051】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
下記表1に示した成分範囲を有する鋼種を製造した。A〜Hまでの8鋼種は本発明の組成範囲に属し、I〜Kまでの3鋼種は本発明の範囲から外れた鋼である。
【0053】
【表1】

【0054】
上記表1の組成を有する鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱し、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延を行った後、550〜650℃の温度で巻取し、酸洗いした後、冷間圧下率30〜60%の範囲で冷間圧延した。
【0055】
上記方法により製造された冷延鋼板を表2の巻取温度、焼鈍温度及び焼鈍時間の条件で連続焼鈍した。
【0056】
【表2】

【0057】
上記表2の条件により製造された冷延鋼板に対し、引張強度、伸び率及び遅れ破壊亀裂の長さを測定して下記表3に示した。表3での遅れ破壊亀裂の長さの評価は、95mm直径の原板を加工し、45mm直径の頭部を平らなパンチでコップ状にドローイングした後、エチルアルコールに3日間および7日間それぞれ沈積して、亀裂の平均長さを調査した。
【0058】
表3において、発明材は発明鋼の組成を本発明の製造方法により製造し、比較材は発明材の成分において、Al成分が未添加された組成と同一組成を有する鋼を熱延した後、異なる焼鈍温度で処理した。
【0059】
【表3】

【0060】
また、上記表1の組成を有する鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱し、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延を行った後、550〜650℃の温度で巻取し、酸洗した後、冷間圧下率30〜60%の範囲で冷間圧延した。
【0061】
上記方法により製造された冷延鋼板を表4の巻取温度、焼鈍温度、焼鈍時間及び冷却速度で、箱焼鈍により逆変態した。
【0062】
【表4】

【0063】
表5には本発明材と比較材を箱焼鈍による逆変態焼鈍熱処理した後、引張強度、伸び率及び遅れ破壊の長さを調査して示した。遅れ破壊の長さの特性評価は上記と同様に調査した。
【0064】
【表5】

【0065】
本発明の2つの製造方法により製造された発明材の場合、全て同一成分系において、焼鈍温度を発明範囲内で処理した時、比較材に比べて伸び率は約8〜10%増加し、優れた特性を示した。特に、本発明材はAl成分が添加されない比較材と同一製造方法で処理しても引張強度、伸び率は類似する特性を有したが、遅れ破壊亀裂の長さに相当な差があることが分かった。発明材は遅れ破壊亀裂の長さが3日、7日後にも約0mm(耐遅れ破壊特性良好)であったが、比較材は15〜20mmであり、本発明材の組成中にAlを添加することが耐遅れ破壊特性を改善することが分かる。
【0066】
そのため、本発明材は発明組成で2つの製造方法により発明したが、発明材は全て980MPa以上の引張強度、28%以上の伸び率及び優れた耐遅れ破壊特性を有するため、既存の高強度鋼板に比べて延性が非常に優れると共に、作業性が著しく改善するという効果がある。特に、高い残留オーステナイト分率を有する高強度鋼板の短所である遅れ破壊形状を改善することで、ドローイング用にも使用できるという長所がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含むことを特徴とする、高強度冷延鋼板。
【請求項2】
40〜50%のマトリックスとして焼戻しされたマルテンサイト、20〜40%の残留オーステナイト、および残部フェライトを含む微構造を含むことを特徴とする、請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項3】
前記冷延鋼板は、980MPa以上の引張強度と28%以上の伸び率を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含み、かつ、亜鉛メッキ層または合金化溶融亜鉛メッキ層を含むことを特徴とする、高強度亜鉛メッキ鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延をする段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗した後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
670〜750℃の温度範囲で、60秒以上保持して連続焼鈍し、冷却する段階
とを含む、高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延をする段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗した後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
620〜720℃の温度範囲で、1〜24時間、箱焼鈍して逆変態処理する段階と、
10〜200℃/sの冷却速度で冷却する段階
とを含む、高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延をする段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗した後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
670〜750℃の温度範囲で、60秒以上保持して連続焼鈍し、冷却する段階と、
450〜500℃の温度範囲で亜鉛メッキする段階
とを含む、高強度亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項8】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延する段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗した後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
670〜750℃の温度範囲で、60秒以上保持して連続焼鈍し、冷却する段階と、
450〜500℃の温度範囲で亜鉛メッキする段階と、
500〜600℃で合金化溶融亜鉛メッキする段階
とを含む、高強度合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項9】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延をする段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗した後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
620〜720℃の温度範囲で、1〜24時間、箱焼鈍して逆変態処理する段階と、
10〜200℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
450〜500℃の温度範囲で亜鉛メッキする段階と、
を含む、高強度亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項10】
重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、及びS:0.008%以下、並びに残部Fe及び不純物を含む鋼スラブを、1150〜1250℃の温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延をする段階と、
550〜650℃の温度で巻取する段階と、
塩酸で酸洗いした後、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延する段階と、
620〜720℃の温度範囲で、1〜24時間、箱焼鈍して逆変態処理する段階と、
10〜200℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
450〜500℃の温度範囲で亜鉛メッキする段階と、
500〜600℃で合金溶融亜鉛めっきする段階と、
を含む、高強度合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。

【公表番号】特表2011−523442(P2011−523442A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510406(P2011−510406)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005132
【国際公開番号】WO2009/142362
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】