説明

高強度の真空堆積されたニチノール合金フィルム、医療用薄膜グラフト材料、およびそれを作製する方法。

複数の開口部を有する微孔性薄膜(3)被覆と、下にあり、かつ該微孔性薄膜被覆に物理的に接着されている構造支持体要素(2)とから構成され、該微孔性薄膜被覆が形状記憶特性を有する移植可能な管腔内グラフト(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、高強度の形状記憶および超弾性合金、ならびに真空堆積された金属材料に関する。より具体的には、本発明は、真空堆積技術によって製作され、および形状記憶効果(SME)および/または超弾性挙動を示す、ニッケルをベースとする合金、およびチタンをベースとする合金に関する。また、本発明は、哺乳類の心臓血管系、リンパ系、内分泌系、腎臓系、消化管系および/または生殖器系中に見出されるもののような、解剖学的通路の開存性を維持することを目的とする移植可能な医療用装置の分野に関する。より詳細には、本発明は、送出用カテーテルおよび最小限の侵襲性の外科手術手段を用いる管腔内送出のために設計されるグラフトに関する。本発明は、一般に、グラフト、あるいはステントグラフト(stent-graft)および被覆されたステントのようなグラフト組立体に関する。該グラフトまたはグラフト組立体は、全面的に、生体適合性金属、あるいは、複合材料のような生体適合性金属と同一の生物学的応答および材料特徴を示す生体適合性材料で製作される。
【背景技術】
【0002】
慣用の管腔内ステント、ステントグラフトおよび被覆されたステントは、遮断、閉塞または罹病した解剖学的通路を拡張させる手術の後にしばしば用いられ、構造的支持体を提供し、および該解剖学的通路の開存性を維持する。この例は、血管のための構造的支持体を提供し、再狭窄の発生率を減少させるための血管内ステントの血管形成後の使用である。本発明の主要であるがそれに限定されるものではない例は、導入用カテーテルを用いて疾患または外傷部位から離隔した遠隔導入位置に導入され、遠隔導入位置と疾患または外傷部位との間を連絡する血管系を通過し、そして疾患または外傷部位において導入用カテーテルから解放されて、疾患または外傷部位の血管の開存性を維持する、血管内ステントである。ステントグラフトは、同様の状況下で送出および展開され、および、たとえば血管形成後の再狭窄を減少させることによって解剖学的通路の開存性を維持するために、または、大動脈瘤排除用途におけるように動脈瘤を排除するのに用いられる場合に、用いられる。
【0003】
管腔内ステントの使用が血管形成患者における再狭窄の比率を減少させることに成功しているが、管腔内ステントの使用にもかかわらず、かなりの再狭窄比率が存在し続けていることが見いだされてきている。一般的に、ステント後の再狭窄比率は、大部分は、ステント上で内皮層が再成長しないこと、およびステントの管腔表面上の平滑筋細胞に関連する新内膜(neointimal)の成長の発生によると信じられる。動脈管腔の天然の非血栓形成性の内層である内皮に対する損傷は、ステントの部位における再狭窄の一因となる重要な要因である。内皮の喪失は、血栓形成性の動脈壁タンパク質を露出させ、それは、ステンレス鋼、チタン、タンタル、ニチノールなどのようなステントを製作するのに通例用いられる多くの人工器官材料の一般的な血栓形成特質に加えて、血小板の堆積および凝固カスケードを開始させ、ステントの管腔表面の部分的被覆から、閉塞性血栓までの範囲で変動する血栓形成をもたらす。加えて、ステントの部位における内皮の喪失は、ステント部位における新内皮の過形成の発現に関連する。したがって、移植された装置の体液または血液に接触する表面に付随する内皮化を伴う動脈壁の再内皮化は、血管系の開存性を維持し、かつ低流量の血栓症を防止するために決定的に重要であるとみなされている。
【0004】
現在、大抵の管腔内ステントは、健康な内皮の再建を促進することができない、および/または血栓形成性であることが知られている金属から製造される。カテーテル送出に十分な寸法的プロファイルを維持すると同時に、治癒を高め、かつ内皮化を促進させるために、大抵のステントは血液と接触する金属の表面積を最小限にする。したがって、新内皮の過形成の形成を減少させることに加えて、ステント移植に対する血栓形成応答を減少させるために、内皮細胞がステント位置の近位および遠位において内皮を形成する速度を増大させ、血管系を通って流れる血液と接触するステントの管腔表面上に移動し、そして内皮的被覆を提供することが有利であろう。
【0005】
現在のステントグラフトおよび被覆されたステントは本質的に管腔内のステントであり、ステントの管腔表面および管腔外(abluminal)表面のいずれかまたは両方を被覆し、開放空間または該管腔内ステントの隣接する構造部材間の間隙を閉塞する、別個の被覆を有する。内生の静脈またはDACRONとして知られるポリエステル織物のような合成材料を用いて、または発泡ポリテトラフルオロエチレンを用いて、ステントを被覆することによってステントグラフトを製作することが当該技術において知られている。加えて、異種グラフトまたはコラーゲンのような生物材料を用いてステントを被覆することが当該技術において知られている。ステントをグラフトで被覆することの主たる目的は、ステント材料の血栓形成効果を減少させることである。しかしながら、慣用のグラフト材料の使用が慣用のステントの治癒応答を高めるための完全な解答であることは証明されていない。
【0006】
温度によって活性化される形状記憶特性を有する薄肉のらせん状シートである人工器官の変形が記載されている(特許文献1参照)。管状要素は、複数の支柱を含む支持要素によって支持される。管状要素は、好ましくは、重なり合う内側および外側部分を有するらせん状シート形状を有する薄肉のシートとして記載されている。
【0007】
当該技術において、管腔内の壁を支持するための支持部品と、該支持部品を被覆し、生体適合性であり、および再狭窄の発生を防止または制限する被覆部品とを提供する全金属製薄膜管腔内装置に対する要求が、依然として存在する。
【0008】
また、本発明は、いくつかのプロセスパラメータを制御して本発明の高強度の堆積されたニチノールフィルムおよび本発明の移植材料を実現するスパッタ堆積による、ニッケル−チタン合金の物理蒸着(PVD)のための方法に関する。ターゲットから放出される粒子の基材表面に到達する際のエネルギーを制御することが望ましいことが見いだされている。特に、本発明の高強度のニチノールフィルムを製造するのに著しく寄与することが見いだされている1つのプロセスパラメータは、スパッタ堆積ターゲットのスパッタリング中に放出される粒子の平均自由行程がターゲットと基材との間の空間的離間距離の約半分より大きくなければならないことである。この条件は、非柱状膜の成長を促進するために、堆積する粒子の運動エネルギーが熱エネルギーよりも遥かに大きくなければならないという要件によって設定される。高エネルギー粒子の基材への到達のこの条件は、たとえばイオンビーム蒸着およびレーザーアブレーションのような他の堆積方法においても満たすことが可能であり、したがって本発明の方法はスパッタ法以外の方法を用いて実施することができる。また、他の堆積プロセスパラメータの制御が得られる堆積膜の強度特性に影響することが見いだされており、それはホローカソードDCマグネトロンを使用すること、ターゲットの制御された加熱、ベース圧力および作動気体(working gas)を制御して堆積した膜の酸素汚染を回避すること、堆積圧力を制御すること、堆積基材の表面粗さを制御すること、基材の組成を制御して堆積されるニチノール中への拡散汚染を回避すること、および基材に対して負のバイアス電圧を印加することを含む。
【0009】
冶金学の分野において、ほぼ化学量論量である50−50%のニッケルおよびチタンを有するニッケル−チタン合金が、SMEを示し、かつ特定の温度より高い温度で超弾性であることが知られている。また、主としてニッケルおよびチタンを含有するが銅、クロム、タンタル、ジルコニウムまたは他の金属のような他の成分を含む3元系合金もまた、多くの場合にSMEを示すことも知られている。同様に、ニッケルおよびチタンをベースとする4元系以上の複雑な合金がSMEを示す可能性があることも知られている。当該技術において用いられ、および本出願において用いられる際に、術語「ニッケル−チタン合金」は、形状記憶効果を示すニッケルおよびチタンを含有する2元系、3元系および4元系合金を含むことを意図する。
【0010】
SMEニチノール合金は、慣用的な冶金および真空堆積(特許文献2参照)の両方によって製造され得る。真空堆積による製造が、合金形成元素を添加して、広範な転移温度を有する広範な種類の合金膜を容易に製造するという潜在的利点を提供することが見いだされている。しかしながら、以前は、真空堆積された膜は慣用的な冶金によって製作された同等の製品に比較して劣った機械的特性を示した。本発明の目的のためには、慣用の冶金学的方法で制作されるそれら材料を「鍛造ニチノール」または「鍛造ニッケル−チタン合金」と呼ぶ。鍛造ニチノール材料と真空堆積ニチノール材料との間の機械的特性の差は真空堆積ニチノール膜の有用性を著しく制限する。ニチノール膜の最も魅力的な潜在的用途のいくつかは、マイクロエレクトロメカニカル(MEMS)装置、および管腔内ステントのような医療用装置を含む。しかしながら、10年より前のその当初から、鍛造ニチノールから製作される同様の装置に比較してそれらの不充分な強度の理由により、真空堆積薄膜ニチノールの装置は事実上、商業的に販売されていなかった。
【0011】
形状記憶および超弾性ニチノール材料は、マルテンサイト(M)相およびオーステナイト(A)相の間の可逆的相転移を受ける。この特性こそが、ニチノール材料の使用を、医療装置、マイクロエレクトロニクスセンサー装置などを含む特定の用途において特に望ましいものとする。M相は、低温および/または高応力において安定であり、そしてA相は高温および/またはより低応力において安定である。ニチノールの最も重要な特性の1つは、MからAへの転移温度である。この転移は、A(開始)とA(終了)との間の範囲内で起こる。転移プロセスは吸熱性であり、および熱作用ΔH、および所与の加熱速度において転移の熱作用が最大となる温度Aによって特徴づけられる。
【0012】
鍛造ニチノールはインゴットを真空溶融することにより製造される。この方法は、「インゴットA」と呼ばれるニチノールインゴットと同一の転移温度を有するニチノール材料をもたらす。インゴットAは、ニッケルおよびチタンおよびインゴットの化学量論に依存し、および−50〜100℃の間であることができる。過剰すなわち50原子%より多いニッケルが存在する場合にインゴットAはより低く、および合金が過剰すなわち50原子%より多いチタンを含有する場合にインゴットAはより高い。インゴットは、医療装置産業のような産業における使用のためにシートまたは管へと成型することによって加工される。ニチノール材料の個々の最終用途は特定の転移温度値を必要とする。しかしながら、それぞれの用途のために種々の異なるAp値を有するインゴットを入手することはできない。入手可能なインゴットにおけるこの難点に対応するために、所与の製品のA値を調整するために析出アニール(precipitation annealing)と呼ばれる方法が用いられる。
【0013】
析出アニールは、典型的には、10〜180分間にわたって、200〜500℃の温度においてニチノールをアニールする工程、次いで該材料を制御された冷却速度で冷却する工程または約200℃未満の温度において急冷する工程を伴う。析出アニールの結果として、インゴット中の過剰の成分(NiまたはTiのいずれか)が結晶構造から析出し、たとえばNiTi、NiTiなどのような介在物を形成する。これら介在物は、ニチノールの粒界に沿ってまたはニチノール結晶粒内部で別個の相を構成し、そして「析出物」と呼ばれる。
【0014】
どの程度までの析出物形成が必要であるかは、インゴットAと所望される装置のAとの間の関係に依存する。現在、医療装置製造業者(たとえば、ステント製造業者)のような個々のニチノール装置の製造業者はニチノールインゴット製作者からシートまたは管のような原料を購入する。原料を製造するためのインゴットは、装置製造業者の製品ラインの寿命中に、おそらくその組成およびA値が変化するであろう。したがって、所望される装置のAを実現するために、装置製造業者は、インゴット製作者から受領した全ての個々のバッチの所与のインゴットAに関して、析出アニール工程を調整しなければならない。インゴットAを調整するための析出アニールを要するこの必要性による不可避の結果は、出発原料に依存して同一の装置製品系統内の析出物の量の不定性が存在することである。インゴット間のインゴットA値の制御は極度に困難であるため、インゴットが同一の製作者によって造られている場合においてさえこの不定性は存在する。
【0015】
金属中の析出物は、機械的特性、腐蝕特性および疲労特性に関連を有する。析出物は塑性変形中のすべり面移動を抑制する傾向があり、したがって析出物の基本概念は金属の硬化である。所望される場合、硬化は伝統的冶金における冷間加工を用いて同様に達成することができる。薄膜冶金の場合、堆積パラメータによって、特に基材温度および成長速度の関数である粒径を制御することによって、硬化を制御してもよい。したがって、たとえ硬化が望ましい場合であっても、誘導される析出物形成に頼ることなしに代替法によって硬化を達成することができる。他の機械的特性に関しては、析出物は材料をより脆くし、かつ疲労寿命を減少させる傾向がある。これは、材料の粒子の間に非調和的に配置される析出物の周囲に生じる局所歪み場によって発生する。析出物は粒界に沿った微小亀裂を開始させ、そして粒間割れに寄与することが知られている。腐蝕特性に関しては、析出物は2つの方法において不利な効果を有する可能性があり:(i)前述の歪み場および関連する微小亀裂が、腐食性環境に暴露される有効表面積を増大させる可能性があり、および(ii)析出物およびその周囲のニチノールマトリクスによって、局所的微小要素(腐蝕対)が形成される可能性がある。
【0016】
ニチノールは、前述の段落に記載される伝統的冶金学的アプローチを用いることのみならず、薄膜堆積技術を用いることによって作製できることが知られている。このアプローチにおいて固有のことは、ニチノールの製造者がインゴットの製造と同等またはより良好に、A転移温度を制御できることである。堆積は、ニチノールの化学組成の精密な調整を提供し、そしてそれゆえに析出を排除または減少させ、それによって硬度を減少させ、ならびにプラトー応力(plateau stress)を減少させ、および同時に強度を改善する。しかしながら、約10℃以内の転移温度を制御するために組成の制御が約0.1原子%以内でなければならない用途において、堆積技術は一般的には用いられていない。
【0017】
ニチノールを製造するための最も一般的な堆積方法はDCスパッタ堆積である。本発明者らは、DCスパッタ堆積の特異形態に関して、すなわちホローカソード(HC)DCマグネトロンスパッタの例を用いて、発明を説明する(特許文献3参照)。しかしながら、堆積技術の当業者は、概要を述べる原理が広範な堆積方法に適用可能であることを理解するであろう。
【0018】
典型的には、スパッタ堆積されたニチノールは用いられるスパッタターゲットよりもNi豊富である。この理由は複雑であり、およびこれらの理由に良好な理解がなく、多くの研究者が種々の改善策を用いてきている。これらは、(i)ターゲット上に配置されるTiシートの形態において、ターゲットに対する余剰のTiの添加、または何らかの同等のアプローチ、および(ii)ターゲットが高温に到達させ、経験が示すように、それによって膜のTi含有率を高めることを含む。前述およびスパッタパラメータの調整を用いて堆積されるニチノール膜のTi含有率(Ni対Ti原子比)を調整する方法を提供することが本発明の目的である。マルテンサイト相で堆積され、生体内でマルテンサイト的に挙動する真空堆積されたニチノール薄膜、またはオーステナイト相で堆積され、生体内でオーステナイト的に挙動する真空堆積されたニチノール薄膜、あるいはマルテンサイト相で堆積され生体内でオーステナイト的に挙動する真空堆積されたニチノール薄膜を製造することが、本発明のさらなる目的である。マルテンサイト相で堆積され、生体内でマルテンサイト的に挙動するような材料は、膜のA値が体温よりも高いような原子化学量論を有して堆積される。オーステナイト相で堆積され、生体内でオーステナイト的に挙動するような材料は、膜のA値が周囲環境温度よりも低く、かつ体温よりも低いような原子化学量論を有して堆積される。最後に、マルテンサイト相で堆積され、生体内でオーステナイト的に挙動するような材料は、典型的には膜のA値が周囲環境温度よりも高いが体温よりも低いような原子化学量論を有して堆積される。これら本発明の真空堆積フィルムの重要な態様は、それら材料が、堆積されたままで材料の転移温度を調整するためのアニーリングによる熱セットの必要なしに、所望されるA値を示すことである。
【0019】
ニチノールの真空堆積は、高Ni含有量の材料を容易に製造することができるということにおいて、鍛造ニチノールより優れた追加の利点を提供する。高Ni含有量の鍛造材料を製造することは、押出、圧延などを実行不可能にするその極度の摩耗性および靭性によって妨害される。特に、A<−20℃の鍛造ニチノールからの装置の製造は、不可能ではないにせよ、非常に困難である(非特許文献1参照)。真空堆積のさらなる利点は、(1)高い壁厚均一性を有する壁厚の薄い管を作製する能力、(2)高い厚さ均一性を有する薄いシートを作製する能力、(3)複雑な形状を有する物体、たとえば漏斗およびバルーン形状のような長さ方向に沿って変化する径を有する管を作製する能力、(4)材料の純度に関するより良好な制御、(5)たとえば放射線不透過性を向上させるためのTaのような少量の合金化元素を添加することに関する材料組成の制御を含む。
【0020】
典型的には、スパッタ堆積されたニチノールは、鍛造ニチノールと比較して劣る機械的特性を有する。この劣等性は、極限強さにおいて最も明確に顕在化する。特許文献4に記載されるニチノール材料の極限強さは、その公開特許の図3から、約500MPaであることが分かる(特許文献4参照)。
【0021】
典型的には、金属の機械的特性は、その微細構造に依存する。具体的には、堆積された金属膜の微細構造は、2つの主要な種類の特徴:(i)粒界および粒子内および粒子間の両方である析出物を有する粒状構造、および(ii)柱のような組織から構成される。粒状構造が基本的な機械的特性を決定するため、粒状構造は重要である。非晶質金属、すなわち明確な粒状構造を持たない金属、またはX線回折で検出できないほど小さい結晶粒を有する金属は、非常に硬くかつ脆いことが知られている。同様に、非常に小さい結晶粒径を有する結晶性金属もまた非常に脆いことが知られているが、しかしながら、結晶粒径が大きくなるにつれて展性がより大きくなる。結晶粒径が非常に大きい場合、金属は強度に乏しく、かつ低い弾性限界を有する。このように、妥当な結晶粒度を実現することが、金属製造技術の重要な特徴をなす。鍛造ニチノール材料に関して、実用的な機械的特性を有するために典型的には0.1〜10μmの範囲内の結晶粒径を有することが望ましいことが知られている。
【0022】
0.1〜25μmのオーダーの厚さを有するニチノール膜を堆積させるために、典型的には高い堆積速度が用いられる。そのようなより高い堆積速度において、得られるニチノール膜は、一般的に柱状粒のモルホロジーを発達させる。この柱状モルホロジーは重要である。なぜなら、それは粒界と同様の特徴を付与し、さらに柱状部は、得られるフィルムの全厚さを実質的に横切るからである。典型的な粒界と同様に、柱状粒モルホロジーは、膜の他の領域よりも弱い欠陥領域を生じ、および、汚染物質および析出物をこの欠陥領域内へと分離することができる。したがって、より大きな機械的強度を有するニチノール膜を得るためには、真空堆積中の柱状粒の成長を回避する必要がある。柱状成長は、以下の要因:(i)低い表面拡散速度、(ii)粗さのような、発現された表面特徴、および(iii)指向性堆積(非特許文献2参照)の組み合わせによってもたらされる。柱状成長のないニチノール膜の成長プロセスをもたらす堆積パラメータを選択する方法を提供することが、本発明の目的である。
【0023】
【特許文献1】米国特許第6,312,463号明細書
【特許文献2】米国特許第5,061,914号明細書
【特許文献3】米国特許第3,354,074号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2001/0039449号明細書
【特許文献5】米国特許第4,733,665号明細書
【特許文献6】米国特許第4,739,762号明細書
【特許文献7】米国特許第4,776,337号明細書
【特許文献8】米国特許第5,102,417号明細書
【特許文献9】米国特許出願第10/135,316号
【特許文献10】米国特許出願第10/135,626号
【非特許文献1】Minimally Invasive Therapy & Allied Technologies, 9(2), 61-65 (March 2000)
【非特許文献2】Science, 249, 264-268 (July 1990)
【非特許文献3】Serruys, P.W., Kutryk, M.J.B., Handbook of Coronary Stents, 3rdEd.(2000)
【非特許文献4】V. S. Chenysh, V. S. Tuboltsev, V. S. Kulikauskas, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 140, 303-310 (1998)
【非特許文献5】Chu, J.P. et al., Material Science and Engineering, A 277(1-2), 11-17 (2000)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の1つの態様は、金属材料または擬金属材料を含む微孔性金属薄膜被覆と、金属材料または擬金属材料から作製される下にある構造支持体とを含む移植可能な医療装置を提供する。好ましくは、微孔性金属薄膜被覆は、特定の界面上の点において、好ましくは溶接、縫合または他の一般的に知られている接着方法によって、下にある構造支持体と物理的に接着される。本発明の好ましい態様において、微孔性金属薄膜被覆および下にある構造支持体の両方は、転移温度を設定するための析出アニールの必要なしに真空堆積される、形状記憶特性および/または超弾性特性を有する金属材料または擬金属材料から製作される。より好ましくは、本発明の移植可能な管腔内グラフトを製作するのに用いられる金属は、ニチノールである。微孔性金属薄膜被覆のない、下にある構造支持体は、「ステント」として知られる移植可能な装置と類似している。下にある構造支持体は、管腔内送出および生体内人工器官として機能することの両方のために必要とされるフープ強度、円周方向コンプライアンスおよび縦軸方向の柔軟性を有する、当該技術において一般的に知られている任意の形状を呈することができる。好ましい実施形態において、構造支持体要素は、少なくとも一対の円筒形要素と、該円筒形要素の円周に沿ったほぼ同一の角度の点において隣接する円筒形要素を接合する連結部材とを含む形状を採る。
【0025】
本発明の別の態様において、移植可能なグラフトは、形状記憶特性および/または擬弾性特性を有する金属材料を含む微孔性金属薄膜被覆と、該微孔性金属薄膜被覆の下にある構造支持体要素とを含む。本明細書において、「擬弾性特性」は、金属材料が「擬弾性変形」を受ける能力を意味するために用いられる。好ましい態様において、構造支持体要素は、該構造支持体要素が体温においてマルテンサイト相からオーステナイト相への相転移を受けることを可能にする形状記憶特性を有する。この相転移の間に、構造支持体要素は、初期の送出径から、その目的とする生体内用途のための増大した拡張径へと自己拡張する。構造支持体要素の形状記憶拡張は、微孔性金属薄膜被覆に対して径方向の膨張力を及ぼし、それによって、構造支持体要素とともに微孔性金属薄膜を径方向へ拡張させる。微孔性金属薄膜の拡張は塑性的であるように見えるが、該微孔性金属薄膜は形状記憶材料であるので、その拡張は、実際には、該材料の転移温度より上で完全に回復可能であり、したがって、「擬塑性的」である。
【0026】
本発明のさらに別の態様において、移植可能な管腔内グラフトは、37℃より高いオーステナイト相転移温度Aを有する形状記憶合金を含む微孔性金属薄膜被覆と、該微孔性金属薄膜被覆の下にあり、0℃未満のオーステナイト相転移温度を有する形状記憶合金を含む構造支持体要素とから構成される。したがって、送出径および移植された拡張径の両方において、微孔性金属薄膜はマルテンサイト状態のままであり、一方、構造支持体要素は体温においてマルテンサイトからオーステナイトへの相転移を受ける。
【0027】
本発明の別の態様は、微孔性金属薄膜被覆と構造支持体要素との間の少なくとも1つの接触点において、構造支持体要素が微孔性金属薄膜被覆に対して物理的に接着されている、移植可能な管腔内グラフトである。好ましくは、該少なくとも1つの接触点は、微孔性金属薄膜被覆の近位端または遠位端の近傍のいずれか、および構造支持体要素の対応する端にある。さらにより好ましくは、該少なくとも1つの接触点は、微孔性金属薄膜被覆と構造支持体要素との遠位端の近傍に位置する。微孔性金属薄膜被覆に対する構造支持体要素の物理的接着は、スポット溶接、縫製、粘着剤、または2つの要素を物理的に接合する他の手段によって実施される。好ましくは、接着はスポット溶接を用いて実施される。
【0028】
本発明の別の態様において、移植可能な管腔内グラフトは、交互の峰部および谷部を有する正弦状のパターンを有する円筒形要素からなる構造支持体要素を含む。さらに、連結部材は、峰部−峰部または谷部−谷部のいずれかにおいて隣接する円筒形要素を接合する。本発明の好ましい実施形態において、円筒形要素のそれぞれを形成する構造要素は、それぞれの円筒形要素の拡張に適応させるための、峰部および谷部の頂点およびその近傍において狭くなる幅を有する。
【0029】
本発明の別の態様において、移植可能な管腔内グラフトは、隣接する連結部材と、隣接する連結部材を接続する一対の円筒形要素の断面によって確定されるセル(基本組織)から構成される構造支持体要素を含み、該セルは、一対の峰部または一対の谷部を含む。円筒形要素と同様に、それぞれの連結部材の反対側の端部のそれぞれは、連結部材の残余の中間部分よりも狭い幅を有することが好ましい。この方法において、連結部材および円筒形要素のより狭い部分は、構造支持体要素の拡張中により大きな歪みを経験する領域である。
【0030】
本発明の別の態様において、移植可能な管腔内グラフトは、微孔性金属薄膜被覆であって、該微孔性金属薄膜被覆の表面全面にわたって均一なパターンの開口部を含む微孔性金属薄膜被覆を含む。開口部は、円、三角形、楕円、菱形、星形、クローバー形、矩形、正方形、あるいは直線または曲線状の溝を含む一般的幾何形状から選択することができる。
【0031】
構造支持体要素は、任意の種類の構造部材から構成されていてもよく、および好ましくは概して管状の形状であり、および内壁すなわち内腔壁と、外壁すなわち管腔外壁と、該構造支持体要素の縦軸に沿って通った中央内腔とを有する。構造支持体要素は、当該技術において知られているように広範な種類の幾何形状および構造を含んでもよい。たとえば、構造支持体要素は、特許文献5〜8のバルーン拡張可能な溝つき形状を呈してもよく、あるいは、構造支持体要素は、複数の自己拡張可能な編み込みワイヤ部材として構成されてもよく、あるいは該要素は、非特許文献3に開示される任意の壁形状を呈してもよい(特許文献5〜8、非特許文献3参照)。構造支持体要素の設計、構造支持体要素の材料、構造支持体要素の材料特性のそれぞれ(たとえば、バルーン拡張可能性、材料のバネ張力による自己拡張性、構造支持体要素の形状記憶特性による自己拡張性、または構造支持体要素材料の超弾性特性による自己拡張性)は、当業者によく知られており、および本発明の移植可能なグラフトとともに用いてもよい。
【0032】
本発明の態様は、制御された異質性を有する血液接触表面を作製することが可能な種々の方法を用いる移植可能な管腔内グラフトの製作である。より詳細には、本発明のこの態様は、移植可能な管腔内グラフトの血液流動表面に沿った原子プロファイル、材料組成、粒子組成、粒子相、粒径または表面トポロジーにおける制御された異質性を有し、堆積される材料が堆積後アニールなしに所定の転移温度を示すように所定の原子化学量論量を有する材料で作製される移植可能な管腔内グラフトを提供する。
【0033】
本発明の別の態様は、マイクロエレクトロニクス製作の分野において用いられるもののような真空堆積技術を用いる、移植可能なグラフトを作成するための方法である。たとえば、スパッタ法、物理蒸着法、イオンビーム補助蒸着法などを用いて、移植可能なグラフト装置の微孔性金属薄膜被覆および構造支持体要素を作製してもよい。イオンビーム補助蒸着においては、アルゴン、キセノン、窒素またはネオンのような不活性ガスを用いる堆積される材料の同時のイオン衝撃を伴う、二重かつ同時の熱的電子ビーム蒸着を用いることが好ましい。堆積中の不活性ガスイオンによる衝撃は、堆積される材料中の原子充填密度を増大させることによって、ボイド含有量を低減するのに役立つ。堆積される材料中のボイド含有量の低減は、その堆積される材料の機械的特性を、バルク材料特性と同等にさせる。イオンビーム補助蒸着技術を用いて、20nm/秒までの堆積速度が実現可能である。
【0034】
スパッタ法を用いる際には、200μm厚のステンレス鋼の膜を、約4時間以内の堆積時間で堆積することができる。スパッタ法については、円筒形スパッタターゲット、すなわち基材(円周状源と共軸の位置に保持される)を同心的に取り巻く単一の円周状源を用いることが好ましい。
【0035】
堆積中、チャンバ圧力、堆積圧力およびプロセスガスの分圧を制御して、基材上への所望される種の堆積を最適化する。マイクロエレクトロニクス製作、ナノファブリケーション、および真空被覆技術分野において知られているように、反応性および非反応性ガスの両方が制御され、および堆積チャンバ中に導入される不活性すなわち非反応性ガスは、典型的にはアルゴンである。基材は、静止または可動のいずれであってもよく、その縦軸周りに回転させるか、X−Y平面中で移動するか、または堆積チャンバ中で遊星的または自転的に移動するかのいずれかであって、基材上への堆積される材料の堆積またはパターニングを容易にしてもよい。堆積される材料は、基材上に均一な固体膜として堆積されてもよく、あるいは、(a)基材表面にエッチングまたはフォトリソグラフィー技術を適用して所望されるパターンを有する陽画または陰画を作製することによるように、基材上に陽画または陰画パターンのいずれかを付与することによって、または(b)基材に適用されるパターンを画定し、基材に対して静止または可動のいずれであってもよいマスクまたはマスクの組を用いて、パターニングされてもよい。パターニングを用いて、得られる構造支持体または微孔性金属薄膜被覆の複雑な完成形状を達成してもよい。それらはともに相対的に厚い部分および相対的に薄い部分の領域のパターンの空間的配向に関連し、たとえばその長さにつれて膜の厚さを変化させ、別個の送出、配置、または生体内環境条件下における異なる機械的特性を付与する。
【0036】
装置の形成後、種々の方法を用いて、基材から装置を取り外してもよい。たとえば、エッチングまたは溶解のような化学的手段、切除、機械加工または超音波によって基材を除去してもよい。あるいはまた、炭素、アルミニウムまたは有機物をベースとする材料のような材料の犠牲層(フォトレジストのようなもの)を基材と構造支持体部材との中間に堆積させ、そして、融解、化学的手段、切除、機械加工、または基材から構造支持体部材を解放する他の適当な手段によって、犠牲層を除去してもよい。
【0037】
次に、得られる装置を、アニーリングのような結晶構造を変化させるために、または装置の異種表面を露出させるためのエッチングのような表面トポグラフィーを変化させるために、堆積後処理にかけてもよい。
【0038】
本発明にしたがって構造支持体部材を形成するために用いてもよい別の堆積プロセスは、カソードアーク、レーザーアブレーションおよび直接的イオンビーム蒸着である。金属作成技術において知られているように、堆積される膜の結晶構造は、堆積される膜の機械的特性に影響を及ぼす。堆積される膜のこれら機械的特性は、たとえばアニーリングのようなプロセス後処理によって変化させてもよい。
【0039】
移植可能な管腔内グラフトを作製するための材料は、材料の生体適合性、機械的特性(すなわち、引張強度、降伏強度)およびそれら材料の堆積の容易さについて選択され、限定なしに、以下のものを含む:原子状チタン、バナジウム、アルミニウム、ニッケル、タンタル、ジルコニウム、クロム、銀、金、ケイ素、マグネシウム、ニオブ、スカンジウム、白金、コバルト、パラジウム、マンガン、モリブデン、およびジルコニウム−チタン−タンタル合金、ニチノールおよびステンレス鋼のようなそれらの合金。
【0040】
本発明の移植可能な管腔内グラフト装置は、完全に金属材料または擬金属材料から形成され、それは、慣用の合成ポリマーグラフト材料を使用することに付随する内皮化および治癒応答に比較して、改善された内皮化および治癒応答を示す。
【0041】
本発明の方法および材料にしたがって、0.1〜1μmの範囲内の粒径を有する真空堆積されたニチノール膜が製造され、および最適な機械的特性を示す。1〜16mmの範囲内の直径を有する管のようなニチノールの肉薄管を、本発明の技術を用いて、約3〜20μmの壁厚および約10%未満の壁厚均一性を有して製造するのに成功した。管の縦軸に沿って切断することによって、管からシートが形成されてきた。しかしながらそのようなシートは、平面蒸着システムにおいて容易に作製される。同様に、数気圧の圧力において反復的に膨張させることができるプロトタイプの血管形成用バルーンが本発明の方法を用いて作製されている。本発明の方法は、冷間加工プロセスを用いる作製に必要であり、冠状動脈ステントを切り出すのに用いられるもののような小径の管のような冷間加工される材料を激しく汚染する潤滑剤を用いることを回避する。最後に、本発明の方法を用いて、約5%のTaが添加されたニチノール管を製造した。
【0042】
高強度の堆積されたニチノール材料を提供することが、本発明の主要目的である。詳細には、医療用途、機械用途および電子用途において有用である、高強度の真空堆積ニチノール膜を提供することが、本発明の目的である。高強度のニチノール材料を作製する方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。加えて、所望されるA値を維持することの困難性に鑑みて、本発明は、析出アニールを用いることなしに、所望される転移温度を有するニチノール材料を形成する方法を提供する。
【0043】
本発明は、鍛造ニチノール材料と比較される際に、改善された機械強度、疲労抵抗性および腐蝕抵抗性を有し、前駆体または完成品のいずれとして用いることもできる高強度のニチノール材料を提供する。本発明の真空堆積プロセスは、本質的には、そこでニチノール合金が形成される基材上に対して、1つまたは複数のターゲットからNi原子およびTi原子が共堆積される真空堆積プロセスである。本発明のプロセスは、堆積される膜のA転移温度を適応すなわち調整するための析出アニールを必要としないように、得られるニチノール膜の原子比の制御をしながら実施される。本発明の堆積プロセスの個々の詳細(ニチノールターゲットの作製、ターゲット温度、基材の表面粗さ、バイアス電圧の印加および他の堆積パラメータを含む)は、得られるニチノール膜が高い機械的強度を生じさせるのに必要な化学的純度および結晶微細構造を有するように選択される。
【0044】
本発明の方法は、ターゲットから放出される粒子の平均自由行程がターゲットと基材との間の距離の約半分よりも大きいように、スパッタターゲットおよび基材を空間的に離間する条件下での真空堆積を伴う。現時点において本発明者らに知られている最良の方法によれば、真空堆積はホローカソードDCマグネトロンにおいて実施され、そこでは、スパッタターゲットはスパッタ反応器中の冷却されるカソードから、部分的または完全に熱的に分離すなわち絶縁される。ターゲット温度は印加されるスパッタ電力により調節される。ターゲット組成は、所望される転移温度によって選択され、および、ターゲット表面に対してNiまたはTiワイヤを溶接して、ターゲット中のNiまたはTiの相対量を調整することによって、ニチノールターゲットを修正してもよい。あるいはまた、別個のNiおよびTiターゲットを用いて、Niターゲット対Tiターゲットの比を調整して、堆積されるニチノール膜において所望される転移温度を達成してもよい。印加されるスパッタ電力は、ターゲット温度が、得られるニチノール膜のTi含有率から決定されるような所望量のTi偏析を生じさせるのに十分な高さであるように選択される。ベース圧力およびArガスの品質は、ニチノール膜の酸素汚染を回避するように選択される。堆積圧力および「照射距離」としても知られるターゲット−基板間距離は、プラズマ内部でのNiおよびTi原子の原子散乱を最小限にするのに十分に小さくされる。加えて、基材の表面粗さは実質的に均一に平滑であるように制御される。加えて、基材温度は、所与の選択される堆積速度において堆積されるニチノール材料が結晶性であるのに十分な高さであるように選択される。好ましくは、基材温度は、同様に基材から堆積される材料中への拡散汚染を回避するのに十分に低いようにバランスをとられる。好ましくは、基材は、堆積されるニチノール膜が原子的に密集させるために十分に高いが、基材からの再スパッタまたはAr打ち込みのような実質的に有害な効果を回避するために十分に低いように選択されるバイアス電圧にて、負にバイアスされる。
【0045】
このようにして、スパッタ堆積のパラメータを厳格に制御することによって、本発明の方法は、完成したニチノール材料の転移温度を調整または低下させる析出アニールの必要性なしに、改善された強度、ならびに予測可能かつ明確に定められたA値を有するニチノール膜を与えるプロセスパラメータのバランスを実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明は、本発明の高強度の形状記憶および/または超弾性ニチノール材料も、本発明のグラフト材料を含む薄膜の形状記憶および/または超弾性ニチノール材料を作成するための方法も含む。本発明の材料は、当該技術において見いだされているものを超える高い機械的強度および靭性を有することを特徴とし、材料の形状設定または材料の転移温度設定のいずれに対しても析出アニールを必要としない。本発明の方法によれば、本発明のニチノール材料を、MEMSおよび医療用装置のような特定の目的とする最終用途のために製造することができ、それは、膜を形成するためのPVD、スパッタ堆積、プラズマ堆積、イオンビーム堆積などを含むがそれらに限定されるものではない堆積技術、および目的とする最終用途に適応させるための、エッチング、フォトリソグラフィー、機械加工または切除技術の堆積後の使用を用いる。マルテンサイト相にあり、かつ生体内への導入時にオーテスナイト相へ転移するように体温未満のA値を有する形状記憶ニチノール材料を堆積させることに加えて、本発明の方法を用いて、体温よりも高いA値を有するマルテンサイト相にあるニチノール材料を堆積させて、生体内においてマルテンサイト挙動を示すニチノール材料を提供してもよい。あるいはまた、本発明の方法を用いて、生体内で完全にオーステナイト的に挙動するのに十分に低いA値を有するオーステナイト相にあるニチノール材料を堆積させてもよい。本発明の方法の重要な態様は、該方法が、ニッケル−チタン合金の化学量論が所望される転移温度値を付与するためにヒートセットすることを必要とせず、逆に本発明の方法を用いて堆積されたままの材料が、記載される方法パラメータの操作の結果として付与される予め決定された転移温度を有するようなものである材料を堆積させることに成功することである。
【0047】
真空堆積技術を用いることによって、材料を直接的に所望される2次元または3次元形状(たとえば、平面状、管状、または多面形状)に成形することができる。堆積プロセスの共通の原理は、ペレットまたは厚いフォイルのような最小限に加工された形態の材料(原料物質)を保持し、そしてそれらを原子化することである。用語「原子化」は本明細書において柔軟に用いられ、荷電および/または中性の両方、および単一原子および/または原子クラスタを含むものの両方である、原子または分子サイズの粒子を形成することを含む。原子子化は、PVDにおける場合のように熱を用いて実施してもよいし、あるいは、たとえばスパッタ堆積の場合におけるように衝突プロセスの効果を用いて実施してもよい。次いで、原料物質の原子または粒子が、基材またはマンドレルの上に堆積して、所望される材料を形成する。大抵の場合において、次いで、堆積された材料を基材から部分的に除去するかまたは完全に除去するかのいずれかによって、所望される製品を形成する。
【0048】
本発明の用途の範囲を制限することなしに、以下のものは、本発明を用いて作製することができる製品または装置の具体例である:移植可能なニチノールステント、ニチノールグラフト、両構成部品のいずれかもしくは両方が本発明のニチノール材料から作製されるステント−グラフト装置、汎用の継目なしニチノール管、シート、たとえばMEMs装置として使用されてもよい膜またはホイル。
【0049】
本発明によれば、2つの主要部品、すなわち微孔性金属薄膜被覆および下にある構造支持体要素を含む移植可能な管腔内グラフトが提供され、それら2つの主要部品は互いに物理的に連結されている。移植可能な管腔内グラフトは、解剖学的通路(より具体的には血管系)全体にわたる単純な導入および通過を可能にする送出プロフィルを有する。加えて、移植可能な管腔内グラフトは、形状記憶材料、好ましくはニチノールから形成され、それは、該グラフトが生体内で拡張して、管腔壁を支持することを可能にする。
【0050】
本発明において用いられる際に、用語「擬金属」および「擬金属材料」は、生体適合性金属と実質的に同一な生物学的応答および材料特性を示す生体適合性材料として定義される。たとえば、擬金属材料の例は、複合材料、セラミック、水晶、およびボロシリケートを含む。複合材料は、セラミック、金属またはポリマーから作製される種々の繊維の任意のものによって補強されるマトリクス材料を含む。補強繊維は、材料の主たる荷重担体であり、マトリクス成分は、荷重を繊維から繊維へと移動させる。マトリクス材料の補強は、種々の方法において達成してもよい。繊維は、連続または不連続のいずれであってもよい。また、補強物は粒子の形態であってもよい。複合材料の例は、炭素繊維、ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、炭素およびグラファイト繊維、炭化ケイ素繊維、鋼繊維、タングステン繊維、グラファイト/銅繊維、チタンおよびケイ素の炭化物/チタン繊維から作製されるものを含む。本発明の微孔性薄膜材料を微孔性金属薄膜と呼ぶ本発明の記載の目的において、金属材料および擬金属材料の両方を含むことは理解されるであろう。
【0051】
本明細書で用いられる際に、用語「弾性変形」は、印加される荷重によってもたらされ、印加される荷重の除去時に完全に復元可能である変形として定義される。伝統的な金属の弾性限界は、典型的には1%歪み未満である。
【0052】
本明細書で用いられる際に、用語「塑性変形」は、印加される荷重によってもたらされ、結合が切断されるために、印加される荷重の除去時に完全に復元することができない変形として定義される。
【0053】
本明細書で用いられる際に、用語「擬弾性変形」は、印加される荷重によってもたらされ、印加される荷重の除去時に完全に復元可能であり、および、その限界が、伝統的な金属の弾性限界よりも著しく大きいこと(ニチノールの場合には8%歪み)によって特徴づけられる変形として定義される。この現象は、荷重の除去時に可逆である、荷重または応力に誘起される相転移によってもたらされる。
【0054】
本明細書で用いられる際に、用語「擬塑性変形」は、印加される荷重によってもたらされ、変形の完全な復元のために、荷重除去とともに、熱の印加のような他の作用を必要とする変形として定義される。擬塑性変形において、結合は切断されないが、代わりに再配向される(マルテンサイト相ニチノールの場合、非双晶化(detwinned)される)。
【0055】
試料がA(オーステナイト相転移の完了)よりも高い温度における破断に至る全行程をたどるオーステナイト相ニチノールの応力−歪み曲線は、以下の領域に区分することができる:オーステナイトの弾性変形、応力に誘起されるマルテンサイト相に至るオーステナイトの擬弾性変形、応力に誘起されたマルテンサイト相の弾性変形、応力に誘起されたマルテンサイト相の塑性変形、および破断。応力に誘起されたマルテンサイト相の塑性変形の開始前の任意の点における荷重の除去は、変形の完全な復元をもたらす。
【0056】
ニチノールは、M(マルテンサイト相転移の完了)未満の温度において変形され、そして引き続いてA(オーステナイト相転移の開始)未満に保持されるか、あるいは、Aより高い温度でその組み込まれた形状を復元するのを抑制される際に、熱的に誘起されるマルテンサイト状態にある。試料がAs未満より高い温度における破断に至る全行程をたどる際のマルテンサイト相ニチノールの応力−歪み曲線は、以下の領域に区分される:熱的に誘起されるマルテンサイト相の弾性変形、熱的に誘起されるマルテンサイト相の非双晶化による擬弾性変形、非双晶化された熱的に誘起されるマルテンサイト相の弾性変形、非双晶化された熱的に誘起されるマルテンサイト相の塑性変形、および破断。非双晶化された熱的に誘起されるマルテンサイト相の塑性変形の開始前の任意の点における荷重の除去は、Aを超えて加熱される際に変形の完全な復元をもたらす。
【0057】
本発明の好ましい実施形態において、NiTi薄膜微孔性金属薄膜被覆のA温度は、体温よりも高い。微孔性金属薄膜被覆は、送出カテーテル内の送出径において熱的に誘起されるマルテンサイト相にあり、かつ微孔性金属薄膜被覆は、カテーテル中にある際には事実上変形を経験しない。なぜなら、微孔性金属薄膜被覆は、カテーテルの鞘のIDとほぼ同一の径であるからである。送出時に、微孔性金属薄膜被覆は構造支持体の形状記憶拡張の影響下で擬塑性的な径方向の変形を経験する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、NiTi構造支持体要素のA温度は、体温未満である。構造支持体要素は、M未満の温度にされ、そして送出径への変形が起こる前には構造支持体要素が熱的に誘起されるマルテンサイト相にあるように、A未満の温度においてカテーテル中に装填される。構造支持体要素は、クリンプ(crimp)中に擬塑性的に変形し、そして、Aより高い温度において束縛する力を除去することによる体内での展開まで、擬塑性的に変形され、熱的に誘起されるマルテンサイト相にあると考えられる。
【0059】
本発明の作製および物理的特徴に関して、管腔内装置の表面との血液タンパク質の相互作用を熟慮することが重要である。なぜなら、該相互作用は、血管内装置の組織への取り込みおよび最終的に装置表面に沿った再内皮化に至る一連の事象の最初の段階であることが明らかであるからである。本発明の態様は、部分的には、管腔内装置を作成するのに用いられる材料の表面エネルギーと、管腔内装置の表面におけるタンパク質の吸着との間の関係に基づく。表面エネルギーと、管腔内装置の作成に一般的に用いられる金属上のタンパク質の吸着との間に関係が存在することが見いだされている。加えて、金属製の管腔内ステントの表面上に存在する比静電力が、グラフト表面および血管壁との血液の相互作用に影響することが見いだされている。
【0060】
考慮される別の重要な要因は静電力であり、それは、高度に電気的に負である血管系の天然の内皮層と、同様に負の実効電荷を有する大半の血清タンパク質および血液に運搬される細胞との間の相互作用を制限することにおいて、重要な役割を果たす。また、血管系中への移植可能な管腔内装置の導入時に、血液と接触する薄膜被覆および構造支持体の表面の静電表面電荷は、血清タンパク質、血液に運搬される細胞、および装置の部位の健康な内皮層と相互作用する。現在の移植可能な管腔内装置は、典型的には、以下の材料の1つで作製される:316Lステンレス鋼、ニチノール、金、タンタルまたはチタン。これらの例は、移植可能な管腔内装置がこれらの材料で作製される場合において劣悪な内皮化を示し、そして再狭窄をもたらす。
【0061】
内皮化の失敗の原因を決定するために、グラフト、ステントおよびステント−グラフトを含む管腔内装置に一般的に用いられる金属の表面特性を、自由エネルギーおよび静電荷に関して評価した。管腔内装置の表面における自由エネルギーとタンパク質吸着との間の関係を、平坦な正方形片(1×1cm)である5つの別個の試料(316Lステンレス鋼、2つの異なる表面処理(電解研磨および電解研磨/熱処理)がなされたニチノール、金、タンタルおよびチタン)を調製することによって評価した。これら試料のそれぞれの表面における静電荷を原子間力顕微法(AFM)によって評価し、装置の金属表面において起こり得る静電的不均一性を試験した。
【0062】
加えて、感光装置材料表面のミクロトポグラフィは、初期の材料表面に対するタンパク質結合中、および材料表面の内皮化に必要なタンパク質結合のカスケード中の両方において、タンパク質結合に効果を有する。したがって、均一な原子プロフィルおよび材料の粒径のような表面特徴は、たとえばタンパク質の疎水性領域におけるタンパク質(血液に運搬されるタンパク質または細胞表面のタンパク質のいずれか)の初期結合、およびタンパク質の屈曲および材料の表面への引力によるタンパク質の親水性結合領域の2次的結合の両方に影響を及ぼす。
【0063】
(表面自由エネルギー試験)
平坦な正方形片(1×1cm)として、ステントを作製するのに用いられる金属および金属合金の5個の試料を準備した:電解研磨した316Lステンレス鋼、2つの異なる表面処理(電解研磨および電解研磨/熱処理)がなされたニチノール、金、タンタルおよびチタン。全ての試料片は、以下のような標準化された5工程の超音波洗浄プロセスを受けた:順に、洗剤(20%のExtran 1000(VWR Science, West Chester, P.C.))中の初期浴、引き続いて蒸留水すすぎ、メタノールすすぎ、アセトンすすぎ、および蒸留水すすぎ。
【0064】
5個の試料のそれぞれを、生理学的濃度のアルブミン(Armour Pharmaceutical Company, Kankakee, IL)、フィブリノゲン(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)およびフィブロネクチン(ICN Biomedical, Aurora, OH)の単一タンパク質溶液に暴露した。それぞれのタンパク質溶液は、低濃度の以下の対応する放射性ラベルを付けられたタンパク質を用いて同位元素を添加された:I125アルブミン(Amersham Pharmacia biotech, Arlington Heights, IL)、I125フィブリノゲンまたはI125フィブロネクチン(ICN Pharmaceuticals, Inc., Irvine, CA)。それら溶液の推定総放射能は、0.64×10dpm/mlであった。静的なタンパク質吸着は、材料片を、37℃において、2時間にわたってヨウ素で処理されたタンパク質溶液中に浸漬することによって決定した。溶液からの取り出しの後に、試験片の放射能を、自動ウェルカウンター中で評価した。次いで、それぞれの片を、37℃において、24時間にわたってリン酸で緩衝された食塩水中ですすぎ、そして表面上の残存タンパク質の放射能を再評価した。それぞれの試験を3回反復した。
【0065】
全ての材料の表面エネルギーは、ビデオ接触角システム(VCAS 2500 XE, AST systems, Billerica, M.A.)を用いる前進接触角測定によって決定し、そして調和平均法によって計算した。水、ホルムアミドおよびキシレンを用いて、全表面エネルギーならびに極性成分および分散性成分を計算した。水およびホルムアミドについては前進する流体液滴/固体界面の1秒あたり10回のビデオ記録、およびキシレンについては1秒あたり65回の記録を得た。全ての実験を4回反復した。
【0066】
(表面自由エネルギー試験の結果)
316Lステンレス鋼、電解研磨(ep)ニチノール、電解研磨および熱処理された(epht)ニチノール、金、タンタルおよびチタンの全表面エネルギーは、epニチノールの32.8ダイン/cmから316Lステンレス鋼の64.6ダイン/cmまでの範囲におよび、その平均は43.94.8ダイン/cmであった。試験されたそれぞれの金属の全表面エネルギーを図2に示した。それぞれの金属に関する全表面エネルギーの極性成分および分散性(すなわち非極性)成分を図3に示し、非極性成分が0.210.07の平均極性/非極性比を有して最大であった。
【0067】
検討した全ての金属表面に関して、タンパク質結合は比較的均一であることが見いだされた。図4に示すように、試験された3種のタンパク質の中で、アルブミンの吸着は、全ての金属上でフィブロネクチンよりも少なく、および同様に金およびチタン上への吸着を除いてフィブリノゲンよりも少なかった。金およびチタンを除く全ての金属表面において、アルブミンに関して溶離後に除去されるタンパク質の割合は、フィブリノゲンまたはフィブロネクチンのいずれよりも高かった。
【0068】
表面エネルギー測定および表面上に結合したタンパク質の量の間の明白な関係は、タンパク質の結合と疎水性表面力の大きさとの関係を示す。
【0069】
(静電力試験)
電解研磨316Lステンレス鋼、2つの異なる表面処理(電解研磨および電解研磨/熱処理)がなされたニチノール、金、タンタルおよびチタンの平坦な1×1cmの正方形片(厚さ0.159cm)を相対的な金属表面の静電力の測定に用いた。全ての試料片は、以下のような標準化された5工程の超音波洗浄プロセスを受けた:順に、洗剤(20%のExtran 1000(VWR Science, West Chester, P.C.))中の初期浴、引き続いて蒸留水すすぎ、メタノールすすぎ、アセトンすすぎ、および蒸留水すすぎ。洗浄後、希薄食塩水(pH7.0)下における静電力曲線の取得のために、金属試料をAFM中に配置した。それぞれの金属試料の5つの部位において10回の静電力曲線を実施した。それぞれ異なる金属を有する5種の試料の総計を測定した。
【0070】
可能性のある静電的不均一性は、力−体積配列(force volume array)を得ることによって試験した。力−体積配列は、それぞれの表面の規定される区域を走査し、走査される区域当たり32線、線当たり32の曲線を得ることによって得た。行ったそれぞれの測定において、色による相対的高さを、静電力のレベルに割り当てた。結果は、所与の区域内の静電力の総体的レベルおよび表面電荷の変動のマップの両方を示すモザイク画であった。
【0071】
(静電力試験の結果)
力−体積画像の色レベルの試験において、ニチノールの画像に比較して、金およびステンレス鋼の体積画像の色が比較的均質であることが注目された。加えて、金およびステンレス鋼は、記載されるより暗い(すなわち、より低い)測定値における平均化後のニチノール画像について得られるレベルよりも平均的に高い、同等の静電力レベルを有するように見える。図5は、金属試料上の定量的測定値を示すグラフであり、一方、図6aは力−体積画像を反映したグラフであり、および図6bは、それぞれの画像に関する個々の力曲線である。
【0072】
AFMが負に帯電した窒化ケイ素チップを用いたので、チップが負に帯電した表面に接近させられる際に、二重層力がチップを表面から遠ざけるように曲げ、そして、表面に対する降下の直線状パターンから逸脱する。反発力として測定される逸脱は、図6aにおいて影つき区域として示される。一方、表面がチップに比較して正電荷を示す場所においては、引力が存在して、チップを表面方向に曲げ、そして同様に表面への直線状降下から逸脱する。したがって、力−体積画像は、ステンレス鋼および金の両方が正味で反発力を示し、一方、ニチノールの曲線が選択されるピクセルに関してわずかな吸引力を示す。ニチノールの曲線上の十字線は、力−体積曲線上の暗ピクセルを表す。力−体積画像において淡色のピクセルの選択は反発的曲線をもたらし、電解研磨されたニチノールの表面の不均質性を示す。
【0073】
加えて、電解研磨されたニチノールと金またはステンレス鋼のいずれかとの間の表面に関連する力の強度の差は、窒化ケイ素チップが最初に曲がり始めて、表面から離れるように逸れるところの、表面からの相対的位置すなわち距離を調べることによってさらに立証される。金およびステンレス鋼の場合において、反発力は表面から約70nmまで及ぶ。しかしながら、反発力はニチノール表面からわずか17nmにおいて検出されるに過ぎなかった。
【0074】
ニチノールの熱処理によって得られるニチノール表面の酸化は、電解研磨されたニチノールよりも均質な力−体積画像をもたらし、およびステンレス鋼、金およびチタンについて観察されるものと同等であった。同様に、力が検出される酸化表面からの距離は、電解研磨した表面について測定される17nmから90nmに増大した。
【0075】
静電電荷試験による全表面エネルギーの試験の結果を比較する際に、表面エネルギーと静電電荷との間の直接的相関は明白ではなかった。しかしながら、全表面エネルギーを極性成分および非極性成分へと区分する際に、表面エネルギーの極性成分は、静電的表面力に対して有意の相関を示す。この相関は、表面エネルギーおよび表面静電電荷の均質性の両方が、タンパク質の吸着および内皮化に重要であることを示唆する。
【0076】
これらの前述の知見は、移植可能な管腔内グラフトに対する直接的適用性を有する。本発明の1つの態様によれば、グラフトの血液接触表面において制御された均質性を有することによって特徴づけられる表面を有する材料で製作される移植可能な管腔内グラフトが提供される。管腔内ステントおよびグラフトを製作するための現在の製造方法は、本発明の所望される材料特性を達成していない。現在は、ステントは、ステンレス鋼またはニッケル−チタン金属ハイポチューブ(hypotube)中に、径方向の拡張に適応させるための一連の溝またはパターンを機械加工することによって、あるいは、ワイヤを自己拡張性マトリクスへと織り合わせることによって作製される。本発明によれば、少なくとも1つの表面上に制御された不均質性を有する移植可能な管腔内グラフトを、構造支持体および薄膜被覆を含む本発明の管腔内グラフトの全体または個別の部品を真空堆積技術によって製作することによって提供し、該真空堆積技術において、堆積のプロセスパラメータを制御して、本発明の管腔内グラフトの表面不均質性を制御する。マイクロエレクトロニクス製作の分野において知られ、および参照により本明細書中に組み込まれるように、適切な堆積技術は、プラズマ蒸着、気相化学蒸着、物理蒸着、ならびにステントおよび/またはグラフトのパターン状に高い非晶質含有率を有する金属層を付与するために用いられるイオン注入である。
【0077】
添付する図面中の図1〜4は、本発明の1つの好ましい実施形態を例示し、図5〜41は本発明の別の実施形態を例示する。図42〜43、52および55〜56は本発明の方法に関連し、一方、図44〜51および53〜54は、本発明の方法によって制作される本発明のニチノール膜およびグラフトの材料のキャラクタリゼーションを表す。
【0078】
図1および図2は、微孔性金属薄膜被覆3のための足場を提供する構造支持体部材2を含む移植可能な管腔内グラフト1を示す。図1は、その送出プロフィルすなわち非拡張状態にある移植可能な管腔内グラフト1を示す。図2は、それが拡張状態に展開される際の、同一の移植可能な管腔内グラフト1を示す。拡張状態において、構造支持体要素2を形成する円筒形要素4および連結部材5を観察することができる。微孔性金属薄膜被覆3は、末端連結部材6の末端7上の点における接着によって構造支持体要素2に付着する。末端連結部材6は、構造支持体要素2の一方または両方の端、すなわち移植可能な管腔内グラフト1の近位端および/または遠位端にあってもよく;それによって、それらの一方または両方の端における微孔性金属薄膜被覆の接着を可能にしてもよい。好ましくは、図2に示されるように、連結部材6は、構造支持体要素2の遠位端に存在し;それによって移植可能な管腔内グラフト1の遠位端のみにおける微孔性金属薄膜被覆3の接着を可能にする。連結部材5は、円筒形要素4を互いに対して同相に維持するような様式において、隣接する円筒形要素4を互いに接続する。隣接する円筒形要素間の同相の関係を維持するために、連結部材5は、峰部8または谷部9のいずれかにおいて円筒形要素4と接続し、および隣接する円筒形要素4の対応する峰部8または谷部9に接続する。
【0079】
末端7における構造支持体要素2に対する微孔性金属薄膜被覆3の接着は、化学的手段、機械的手段または熱的手段によって達成される。たとえば、接着を、溶接、生体適合性粘着剤による粘着によって、あるいは、微孔性金属薄膜被覆3と構造支持体要素2の対向する表面上にかみ合う機械的部材を形成することによって達成することができる。好ましくは、接着は、末端7において溶接されるスポットを形成することにより達成される。
【0080】
図3は、別の好ましい実施形態の構造支持体要素2を示す。この図は、連結部材5によって隣接する円筒形要素4に接着される円筒形要素4から形成される構造支持体要素2を示す。連結部材5は、円筒形要素4を互いに対して同相に維持するような様式において、隣接する円筒形要素4を互いに接続する。隣接する円筒形要素間の同相の関係を維持するために、連結部材5は、峰部8または谷部9のいずれかにおいて円筒形要素4と接続し、および隣接する円筒形要素4の対応する峰部8または谷部9に接続する。円筒形要素4の峰部8および谷部9である先端部は、それぞれの連結部材5に接続されるか接続されないかのいずれかである。それぞれの連結部材5の対向する端は、頂点12および15において隣接する円筒形要素4と接続される。連結部材5と隣接する円筒形要素4との間の接続は、略Y型頂点20を形成し、および連結部材の反対端において、略W型頂点14を形成する。最後に、略U型頂点14が、連結部材を用いずに配置され、そして隣接するW型頂点15の間の中間の頂点を形成する。
【0081】
図3および図3Aに例示されるように、本発明の好ましい実施形態によれば、連結部材と円筒形要素4の頂点との間の接合位置において、それぞれの連結部材5の狭幅領域11を有することが有利である。加えて、それぞれの円筒形要素4のそれぞれの頂点12、14および15を、同様に、円筒形要素の残りの部分と比較して狭くすることが好ましい。この様式において、頂点における材料のX−Y平面における材料の幅2aは、構造支持体要素2の残余の部分の同一のX−Y平面における材料の幅2bよりも狭い。狭幅領域11および頂点の狭幅領域2aは、管腔内送出中に、その送出径からその移植される径までの構造支持体要素2の拡張中に比較的高い歪みにさらされる領域に位置し、そして、構造支持体要素2のこれら領域における歪みを緩和することを補助する。
【0082】
加えて、構造支持体要素2は、縦軸方向の柔軟性、径方向拡張およびフープ強度を含むその物理的特性を調整することができる追加の特徴を含むことができる。構造支持体要素2は、円筒形要素4および連結部材5の両方において、頂点8、9における減少した幅を含むことができる。この減少した幅は、特に径方向拡張時の応力が増大する区域にある。径方向拡張中に、その幅が大きすぎる場合、これらの高応力領域は亀裂を経験する恐れがある。したがって、その幅は、高応力領域が、構造支持体要素の材料応力、径方向強度および拡張可能要件を満たすことができるようなものであるべきである。円筒形要素の頂点において略U型ループ構造を付加して、構造支持体要素のさらなる柔軟性を提供することができる。略U型ループ構造は、径方向拡張時に印加される応力を除去することを補助し、それによって円筒形要素の残余の部分すなわち支柱部に伝達される応力の量を減少させる。
【0083】
構造支持体要素2に関して、代替の形状が考えられる。そのような代替の形状は、たとえば、パッチとしての使用のための平面形状、義歯用の固定材としての使用のためのような円錐台(frustroconical)形状、または骨移植用のような他の複雑な形状を含んでもよい。
【0084】
図4は、図3の頂点15における本発明の微孔性金属薄膜被覆3に覆われた、構造支持体要素2の一部の断片図である。微孔性金属薄膜被覆3は、一般的には、複数の微小開口部19を有する薄膜金属被覆材料17から構成される。複数の開口部19は、好ましくは0.5μm〜150μmの範囲内の開口表面積を有し、全開口表面積は0.001〜90%である。開口部19は、タンパク質のような細胞または非細胞の生理的物質が開口部19を通過することを可能にする。開口部19の大きさおよび微孔性金属薄膜被覆17の全開口面積の両方は、以下の非排他的要因に鑑みて選択することができる:所望されるグラフトの柔軟性、所望されるグラフトのフープ強度、開口部19の変形に起因する形状拡大の程度、および所望される送出プロフィルの大きさ。複数の開口部19が、微孔性金属薄膜被覆17に対して寸法的柔軟性、すなわち移植可能な管腔内グラフト1の縦軸に沿った圧縮性および拡張性を付与し、同時に、移植可能な管腔内グラフト1の径方向軸におけるコンプライアンス、折り畳み可能性および拡張可能性を可能にする。微孔性金属薄膜被覆17(したがって、得られる移植可能な管腔内グラフト1)の物理的特性を最大限にするために、複数の開口部19は、好ましくはパターン配列状に提供される。たとえば、径方向コンプライアンスに対して補強すると同時に、縦軸方向の柔軟性を選択的に向上させるために、パターン配列を提供してもよい。
【0085】
本発明の別の実施形態は、微孔性金属薄膜被覆中の複数の開口部のそれぞれの大きさを変化させて、それぞれの開口部を通る流体の流れを許すことなしに、それぞれの開口部を通した細胞移動を行うようにすることができる。この様式において、たとえば、血液は(変形または非変形状態における)複数の開口部を通して流れることができないが、種々の細胞またはタンパク質が複数の開口部を自由に通過して、生体内におけるグラフトの癒合を促進してもよい。いくつかの用途においては、複数の変形または未変形の微細孔を通る中程度の流体流動は、許容可能である可能性がある。たとえば、管腔内伏在静脈グラフトは、通壁性内皮化を可能にする一方で、血栓のような生物学的漂積物がグラフトの壁厚を通して流動することを遮断し、有害物が循環系に侵入することを有効に防止する二重の機能を果たす微孔性金属薄膜被覆の開口部を有して製作されてもよい。この例においては、複数の開口部のそれぞれは、それらの変形状態および未変形状態のいずれにおいても、数百μmを超えてもよい。
【0086】
当業者は、細孔の大きさと移植可能なグラフトの拡張すなわち変形可能性の総体的比率との間に直接的関係が存在することを理解するであろう。したがって、一般的に、グラフトの有効に達成可能な拡張すなわち変形の程度を増大させるために、細孔の大きさを増大させなければならない。微孔性金属薄膜被覆構造および特にその開口部の大きさに関するさらなる記載は、参照により本明細書の一部をなすものとする米国特許出願に記載されている(特許文献9および10参照)。
【0087】
別の好ましい実施形態の構造支持体要素2を図5に例示する。連結部材5は、円筒形要素4を互いに同相に維持するような様式で、隣接する円筒形要素4を互いに接続する。隣接する円筒形要素4の間の同相的関係を維持するために、連結部材5は、第1の円筒形要素4の峰部8または谷部9のいずれかにおいて隣接する円筒形要素4に接続し、および第2の円筒形要素4の対応する峰部8または谷部9に接続する。この接続のパターンは、峰対峰の接続または谷対谷の接続のいずれかを形成する。末端連結部材6の末端7に加えて、構造支持体要素2は、末端の円筒形要素4以外の円筒形要素4の頂点に接続される接着部材50も有する。接着部材21は、末端連結部材6と類似している。しかしながら、接着部材21は内部に位置し、および図4中に例示するように微孔性金属薄膜被覆17に付着する。追加の接着点を提供することにより、この好ましい実施形態の移植可能な管腔内グラフト1は、より密接な相互作用、および構造支持体要素2および微孔性金属薄膜被覆17の間の高度の対応を可能にする。より高度の対応は、構造支持体要素2に対する微孔性金属薄膜被覆17のズレまたは褶曲が小さいことをもたらす。
【0088】
図6は、本発明の好ましい実施形態による微孔性金属薄膜被覆17のための複数の開口部19のパターンを例示する。複数の開口部19のそれぞれは、一般的には、狭い縦溝23から構成され、縦溝12は、それぞれの縦溝12の反対端に略円形の面取開口部25を有する。略円形の面取開口部25を設けて、微孔性金属薄膜被覆17および狭い縦溝23の縦軸に直交する拡張力の印加時に、狭い縦溝23のそれぞれが広がり、拡張する能力を向上させるのが好ましいことが見いだされている。図6に示されるように、本発明の微孔性金属薄膜被覆17の非拡張状態においてそうであるように、それぞれの狭い縦溝23は、その最も閉じた状態にある。本発明のこの実施形態によれば、開口部19のそれぞれは、微孔性金属薄膜被覆17の縦軸と平行である縦軸を有する。開口部19は、千鳥状の構成にあり、隣接する開口部19は、隣接する開口部の長さの約1/2であるオフセットを有して配置される。開口部の千鳥状パターンは、開口部19の大きさおよび形状とともに、微孔性金属薄膜被覆17の径方向コンプライアンスおよび縦軸方向柔軟性とともに、予め決定された拡張比を与える。微孔性金属薄膜被覆17の厚さは約0.1μm〜約20μmの間であってもよく、好ましい範囲は約1μm〜約10μmの間であり、および最も好ましい厚さは約1μm〜約4.5μmである。
【0089】
微孔性金属薄膜被覆17の高度の柔軟性は図7に例示され、図7は、横方向に約45度曲げられた微孔性金属薄膜被覆17の一部を示す。この形状は、体の管腔の屈曲領域、たとえば、血管系の屈曲部において生じると考えられる。移植可能な管腔内グラフトは、概して直線形状ではない体の管腔を通過するにつれて、屈曲形状を経る;したがって、移植可能な管腔内グラフトの柔軟性は、管腔系に対する損傷または傷害をもたらすことなしにこれらの領域を越えるために重要である。屈曲形状において、微孔性金属薄膜被覆3は、圧縮側71および反対側の拡張側72とを有することが観察される。微孔性金属薄膜被覆3の表面を、移植可能な管腔内グラフト1の中心軸に対して垂直に、拡張側72から圧縮側71へと横断する際に、開口部31は、ほぼ完全に拡張された開口部63から、より楕円状の形態を採る圧縮された開口部73へ至ることが観察される。本発明の重要な態様は、複数の開口部19が、微孔性金属薄膜被覆3に加えられる引張力または圧縮力のいずれに対しても応答して、拡張および収縮の両方が可能であり、ならびに、座屈および慣用のステント被覆に典型的に見いだされるような被覆3表面のしわ寄りに抵抗する高度のコンプライアンスを提供することである。
【0090】
図8は、開いたセクション81を取り巻く2つの閉じたセクション80を有する、別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆3を示す。それぞれの閉じたセクション80において、開口部は、閉じており、非拡張状態である閉じた開口部82である。開いたセクション81において、開口部83のそれぞれは、縦軸方向の拡張力にさらされており、閉じた開口部82のそれぞれのような溝形状の開口部から変化し、そして張力下にある際の特徴であるダイヤモンド様形状の開口部へと開いている。閉じた開口部82のそれぞれは、微孔性金属薄膜被覆3の縦軸に対して平行に配向しており、したがって、縦軸方向に配向される引張荷重の下では開かない。対照的に、開口部83のそれぞれは、それら開口部の縦軸が微孔性金属薄膜被覆3の縦軸に対して垂直に配向しており、および縦軸方向に配向される引張荷重が開口部83のそれぞれを開く。
【0091】
図9〜図26は、本発明の別の実施形態による本発明の微孔性金属薄膜被覆3において用いられてもよい微孔性開口部の別のパターンを示す。それぞれの開口部パターンは、それら固有の独特の物理的特徴を有し、該特徴は、多孔度、それを通した拡散速度、径方向および縦軸方向コンプライアンス、縦軸方向柔軟性、径方向拡張および縦軸方向拡張の両方の、非拡張状態に対する比率、および表面流速(すなわち、該表面を横切って流れる流動の速度)を含む。発明を必要とする具体的な状況(たとえば、伏在静脈の移植、冠状動脈のステント、大動脈瘤の排除など)に関して設けられる基準に基づいて、所与の開口部パターンを選択してもよい。
【0092】
図9において開口部パターン90が示され、そのパターンにおいて、複数の開口部92のそれぞれが概して縦溝であり、該溝の反対端に略円形の面取開口部84を有する。複数の開口部のそれぞれの縦軸は、微孔性金属薄膜被覆の縦軸に対して垂直であり、該金属薄膜被覆に対して縦軸方向の拡張特性を付与する。縦溝92の隣接する列は、ほぼ半分の長さの間隔にて千鳥状である。
【0093】
図10に示される開口部パターン100は、複数の開口部102の縦軸が金属微孔性金属薄膜被覆の縦軸から角度をずらして配置されており、かつそれに対して平行でも垂直でもないことを除いて、図9に示されるものと同一である。
【0094】
図11に示される開口部パターン110は、面取開口部114を有する複数の開口部112のそれぞれが、微孔性金属薄膜被覆の縦軸に対して平行に配向される縦軸を有し、金属薄膜被覆に対して径方向の拡張特性を付与することを除いて、図9および図10に示されるものと同一である。
【0095】
図12および図13において、開口部パターン120および130は、その反対端に面取開口部124、134を有する縦溝122、132のそれぞれの寸法が、開口部122,132の縦軸においてより長い寸法を有することを除いて、図9に示されるものに類似している。図12においては、縦溝122の縦軸が微孔性金属薄膜被覆の縦軸に対して垂直であり、金属薄膜被覆に対して縦軸方向の拡張特性を付与し、一方、図13においては、縦溝132の縦軸が金属薄膜被覆の縦軸に平行であり、金属薄膜被覆に対して径方向の拡張特性を付与する。
【0096】
図13に示される開口部パターン140は、複数の異なる長さ寸法の縦溝142および146が存在することを除いて、図9に示されるものと類似しており、それぞれが、それらの反対端に面取開口部144を有し、金属薄膜被覆の縦軸に対して垂直に配向されている。
【0097】
図15は、さらに別の開口部パターン150を示し、該パターンにおいては、複数の異なる長さ寸法の縦溝152、156、158が存在し、それら全ては、それらの端に面取開口部154を有する。加えて、開口部パターン150は、金属薄膜被覆の縦軸に平行に配列される縦溝152、156、158の群と、金属薄膜被覆の縦軸に垂直に配列される縦溝152、156、158の群とを有し、第1の群150aおよび第3の群150cは共通の縦軸を有し、一方、第2の群150bおよび第4の群150dは、共に第1の群150aおよび第3の群150cの縦軸に垂直である共通の縦軸を有するようなものであることによって特徴づけられる。それぞれの群の中で、縦溝開口部の隣接する列は、半分の長さのオフセットで千鳥状である。この様式において、微孔性金属薄膜被覆は、概して市松模様の開口部の群を有し、および径方向および縦軸方向の拡張可能性を示す。
【0098】
図16は、それぞれの縦溝162が共通の長さ寸法を有し、それらの反対端に面取開口部164を有することを除いて、図15に類似している。図15に示されるパターン150と同様に、開口部パターン160は、金属薄膜被覆の縦軸に平行に配列される縦溝162の群と、金属薄膜被覆の縦軸に垂直に配列される縦溝162の群とを有し、
第1の群160aおよび第3の群160cは共通の縦軸を有し、一方、第2の群160bおよび第4の群160dは、共に第1の群160aおよび第3の群160cの縦軸に垂直である共通の縦軸を有するようなものであることによって特徴づけられる。この様式において、微孔性金属薄膜被覆は、概して市松模様の開口部の群を有し、および径方向および縦軸方向の拡張可能性を示す。
【0099】
図17は、金属薄膜被覆部材174中の微孔性開口部のさらに別の代替形状170を示す。形状170によれば、微孔性開口部172のそれぞれは、概して三つ葉状、すなわちY字状の開口部を有し、三つ葉のそれぞれは、中心において約120度でオフセットされる。複数の微孔性開口部172は、開口部172間の間隔を最小限にし、および金属薄膜被覆部材174が複数の微孔性開口部172の間の高度に曲がりくねった経路を横断するような様式に配列される。微孔性開口部172のこの三つ葉状すなわちY字状の開口部形状は、金属薄膜被覆部材174に対して径方向および縦軸方向の両方の拡張特性をもたらし、および前述の他の実施形態の縦溝開口部とは異なり、金属薄膜被覆部材174の径方向の軸および縦軸の中間の軸に沿った拡張も同様に可能にする。拡張時に、三つ葉状すなわちY字状の開口部は、略円形開口部形状へと拡張する。図25は、形状170と類似している複数の三つ葉状すなわちY字状の開口部262を有するグラフト材料260の平面図であるが、より広範囲にわたる図を示す。
【0100】
図18は、本発明の微孔性金属薄膜被覆の別の代替形状180を示す。形状180によれば、複数の微孔性開口部は、いくつかの異なる開口部形状を有する。第1の開口部は、拡大された中間セクション181と、それぞれの細長い溝開口部182の反対端における面取開口部183とを有する、複数の細長い溝開口部182を含む。細長い溝開口部182は、それらの縦軸が金属薄膜被覆部材の縦軸と平行になるように配列される。第2の開口部は、第1の開口部182よりも短い縦軸を有する溝開口部184を含み、均一な寸法の中間セクションと、それらの反対端に面取開口部183とを有する。第2の開口部184のそれぞれは、金属薄膜被覆部材の縦軸に垂直な縦軸を有する。最後に、第3の開口部185を、拡大された概S字形状を有して提供され、その縦軸は、金属薄膜被覆部材の縦軸に平行に配列される。形状180によれば、複数の第1の開口部182は、金属薄膜被覆部材の縦軸に沿って隣接するオフセットされた列に配列される。第2の開口部は、縦軸方向に隣接する第1の開口部182の対の間に位置し、金属薄膜被覆部材の縦軸に垂直な円周方向に配向した列を形成するように位置する。複数の第3の開口部185は、第1の開口部182の円周方向に隣接する縦軸方向の列の中間にあり、かつ第2の開口部184の隣接する円周方向の列の間の、縦軸方向に伸びる列に位置する。
【0101】
別の好ましい実施形態によれば、形状190が提供される。形状190によれば、金属薄膜被覆材料194中に、複数の3本足すなわち概Y字形状の開口部190が設けられ、開口部190は、金属薄膜被覆材料194の縦軸または円周軸のいずれかに沿う、オフセットされた配列状に配向される。図17に示した実施形態と同様に、開口部190は、材料194の事実上任意の軸に沿った金属薄膜被覆材料194の拡張を可能にする。拡張時に、開口部190のそれぞれは、略円形形状を呈する。図26は、形状190に類似する複数の3本足すなわちY字形状の開口部を有するグラフト材料270の平面図であるが、より広範囲にわたる図を示す。
【0102】
図20は、さらに別の実施形態の微孔性開口部のパターン200を例示する。形状190と同様に、金属薄膜被覆材料208の縦軸および円周方向軸の両方に沿って配列される複数の三つ葉状すなわちY字状の開口部202が提供される。しかしながら、パターン200において、開口部202の三つ葉状の脚のそれぞれは、その端に略円形の面取部204と、三つ葉状の脚のそれぞれの対向する側面に一対の略三角形形状の開口部206とを有する。形状190と同様に、パターン200は、金属薄膜被覆材料108の事実上任意の軸におけるコンプライアンスを示す。
【0103】
図21および図22は、それぞれ、相互に関連する形状210および220を表す。形状210および220の両方に共通するものは、その反対端に略円形の面取部214、224を有し、金属薄膜被覆部材の縦軸に沿って伸びる、隣接し、オフセットされている列に配列される、縦軸方向に伸びる複数の細長い溝212、222である。同様に、その反対端に略円形の面取214、224を有する、円周方向に配向される複数の相対的に短い溝216、226が、金属薄膜被覆部材の円周方向軸に沿って伸びる、隣接し、オフセットされている列に配列される、複数の比較的短い溝216、226のそれぞれは、縦軸方向に伸びる細長い溝212および22の縦軸方向にて隣接する対の中間に位置する。形状210および220の間の差は、形状220において、円周方向に隣接し、かつオフセットされた2つの細長い溝222、および縦軸方向に隣接し、かつオフセットされた2つの比較的短い溝226によって画定される、金属薄膜被覆材料228中の複数の略台形の窓225が存在することである。形状210および220のそれぞれは、金属薄膜材料の径方向の軸および縦軸の両方におけるコンプライアンスを与える。
【0104】
図23は、金属薄膜被覆材料248中の開口部のためのさらに別の形状240を例示する。形状240は、全ての縦溝開口部242が拡大された中間セクション241を有し、かつ1つの円周方向に配向された溝開口部242が一対の隣接する縦軸方向に配向された溝開口部242の中間に位置するように、金属薄膜被覆材料248の縦軸および円周方向軸の両方に配列されていることを除いて、図18に示される形状180と高度の類似性を示す。また、複数の略十字の窓246が金属薄膜被覆材料248中に設けられ、およびそれら窓は一対の縦軸方向に配向された溝開口部242および一対の円周方向に配向された溝開口部242によって画定されている。形状240は、金属薄膜被覆材料248の縦軸および円周方向軸の両方において、コンプライアンスを示す。
【0105】
最後に、図24は、金属薄膜材料中の開口部の別の形状250を示す。形状250は、互いに略垂直に配向される、複数の円周方向に配向された細長い溝252および複数の縦軸方向に配向された細長い溝254を含む。複数の略円形の開口部256は、一対の円周方向に伸びる細長い溝252と一対の円周方向に伸びる細長い溝254とによって画定される区域において、金属薄膜材料258を貫通している。形状250は、金属薄膜材料258の縦軸および円周方向軸の両方において、コンプライアンスを示す。
【0106】
図27〜40は、本発明の別の実施形態の構造支持体要素300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、420、430、440および450の異なる形状を示す。種々の構造支持体要素は、径方向に拡張する能力および微孔性金属薄膜被覆を支持する能力を示し、および血管系のような解剖学的通路を通して移動するための柔軟性をも有する。示される形状に加えて、ステントの他の既知の形状は、ステント形状が径方向に拡張し、微孔性金属薄膜被覆を支持するために必要な能力、ならびに必要とされる柔軟性を有することを条件として、本発明の別の実施形態であると考えられる。
【0107】
図27は、複数の直線状縦軸方向要素304a〜304eと、複数の波状円周方向要素306a〜306eが設けられ、複数の直線状縦軸方向要素304a〜304eのそれぞれは、3点接続部305を形成する端部末端円周方向要素304eを除いて、円周方向要素と4点接続部305を形成する、構造支持体要素300の実施形態を示す。注目すべきことは、直線状縦軸方向要素304a〜304eの少なくともいくつかは、構造支持体要素300の少なくとも1つの末端から外側に突出し、および金属薄膜材料(不図示)のための接着点として役立つ面取円形末端309aを有する、末端延長部309をさらに有することである。好ましい実施形態によれば、波状円周方向要素306a〜306eのそれぞれは、複数の峰部303および谷部301を有する、略正弦形状を有する。
【0108】
図28Aおよび図28Bに示されるように、円周方向要素の隣接する対の間の直線状縦軸方向連結要素311および312は異なる長さを有していてもよく、それは、より短い長さの縦軸方向連結要素311の場合に円周方向要素の隣接する対の間の間隔を減少させ、あるいはより長い縦軸方向連結要素312の場合に円周方向要素の隣接する対の間の間隔を増大させるかのいずれかであり、構造支持体要素の縦軸方向柔軟性を変化させる。
【0109】
図29〜図33は、波状円周方向要素306が、異なる間隔を有し、および波状円周方向要素306の隣接する対を峰対峰または谷対谷のいずれかで接続する非直線状連結要素304のような異なる形状の連結要素304によって連結される、別の実施形態を示す。
【0110】
図34〜図40は、円周方向要素306が、峰部および谷部において、略半円形すなわち略C字形状の先端部を有し、および連結要素304のそれぞれが、その長さの中間に略U字形状の先端部を有する非直線状の屈曲要素である、構造支持体要素の別の実施形態380、390、400、420、430、440、450を示す。示される別個の実施形態間の主要な差異は、連結要素304の数および間隔にある。
【0111】
図41は、間隙410内部に示される微孔性金属薄膜被覆3の一部と共に、構造支持体要素の特定の形状を示す拡大図である。前述のような異なる開口部パターン200、90、240および270を有する、4つの別個の微孔性金属薄膜被覆3が示される。好ましい実施形態によれば、構造支持体要素全体にわたって、微孔性金属薄膜材料3中で単一種の開口部パターンを用いることが好ましいことは理解される。間隙410を被覆することによって、微孔性金属薄膜被覆3は、間隙410を通した微細物質の通過を制限し、同時に治癒応答を誘導するための組織成長の足場として機能する、連続的微孔性表面を作成する。微孔性金属薄膜被覆3の総開口部面積に基づいて、細胞および非細胞種、ならびに流体の間隙を通した拡散の速度が変化する。
【0112】
微孔性金属薄膜被覆3は、ステンレス鋼またはニチノールハイポチューブのような以前から存在する慣用の鍛造材料から製作されてもよいし、あるいは薄膜蒸着技術によって製作されてもよい。単一の金属または金属合金で作られる鍛造材料に加えて、本発明のグラフトは、生体適合性材料の単一層から構成されてもよく、または互いの上に形成されて自己支持性積層構造となる複数層の生体適合性材料から構成されてもよい。一般的に、積層構造は、木製品または紙製品のようなシート材料の機械的強度を増大させることが知られている。同様に、薄膜作成の分野においても、薄膜の機械的特性、特に硬度および靭性を向上させるために積層品が用いられる。積層金属箔は用いられても開発されてもきていない。なぜなら、たとえば圧延および押出のような標準的金属成型技術は、積層構造を製造するのに直ちには役立たないからである。真空堆積技術を開発して、改善された機械的特性を有する積層金属構造を得ることができる。加えて、積層構造を設計して、超弾性、形状記憶、放射線不透明性、腐蝕抵抗性などのような特殊な特性を有する層を含むことによって、特殊な性質を提供することが可能である。
【0113】
構造支持体要素および薄膜金属部材を含む本発明の医療用装置を作製するための好ましい方法によれば、金属膜および/または擬金属膜の物理蒸着法による作製が望ましい。本発明の好ましい作製方法を以下に記載する。慣用的に作製された生体適合性金属材料または生体適合性擬金属材料の前駆体ブランク、あるいはまた真空堆積される金属膜または擬金属膜の前駆体ブランクが用いられる。次いで、好ましくはいずれの前駆体ブランク材料も、マスクして複数の開口部31(図4参照)の境界(defining)を画定する領域のみを露出したままにする。次に露出された領域を、ウェットまたはドライの化学エッチング加工によるもののようなエッチング(エッチャントは前駆体ブランクの材料に依存して選択される)、またはレーザーアブレーションまたはEDMのような機械加工のいずれかによる除去にかけられる。あるいはまた、真空堆積を用いる場合には、複数の開口部に対応するパターンマスクをターゲットとソースとの間に挿入し、パターンマスクを通して金属または擬金属を堆積させて、パターン化された開口部を形成してもよい。さらに、真空堆積を用いる場合には、複数の膜の層を堆積させて、複数の開口部を形成する前にまたはそれと同時に、膜の積層膜構造を形成してもよい。
【0114】
積層フィルムがグラフトとして作製される場合、層の間に良好な接着力を与えることが必要である。これは、急峻な界面を与えるのではなく、比較的広範囲な界面領域を与えることによって達成してもよい。界面領域の幅は、その内部で示量性の熱力学的パラメータが変化する範囲によって定義されてもよい。この範囲は、検討される界面面積に依存することができ、それは、界面のミクロ粗さの程度を意味する。言い換えると、接着は、膜中の隣接する層間の界面のミクロ粗さの増大によって促進される。ミクロ粗さは、化学エッチングまたはレーザーアブレーションなどの化学的または機械的手段によって付与されてもよく、あるいは、ミクロ粗さを形成するために金属または擬金属種を選択的に堆積させることによる真空堆積中の加工工程として含まれてもよい。
【0115】
したがって、本発明は、生体適合性であり、折り畳みおよび展開、または可塑的変形力の印加のいずれかにより形状的変化が可能であり、および適当に小さい送出プロフィルを用いて管腔内送出が可能である、新規な金属および/または擬金属の移植可能なグラフトを提供する。本発明の膜を作製するために適当な金属材料は、それらの生体適合性、機械的特性(すなわち、引張強度、降伏強度)およびそれらの堆積の容易さによって選択され、および、以下のものを含むがそれらに限定されるものではない:チタン、バナジウム、アルミニウム、ニッケル、タンタル、ジルコニウム、クロム、銀、金、ケイ素、マグネシウム、ニオブ、スカンジウム、白金、コバルト、パラジウム、マンガン、モリブデン、ならびに、ジルコニウム−チタン−タンタル合金、ニチノールおよびステンレス鋼のようなそれらの合金。本発明に潜在的に有用な擬金属材料の例は、たとえば、複合材料、セラミック、石英およびボロシリケートを含む。
【0116】
また、本発明は、グラフトを形成する金属または擬金属の真空堆積、および堆積された材料の一部の除去(エッチング、EDM、アブレーションまたは他の同等の方法による)または堆積加工中のターゲットおよびソースの間に開口部に相当するパターンマスクを挿入することのいずれかによる開口部の形成によって本発明の移植可能な管腔内グラフトを作成するための方法を提供する。あるいはまた、鍛造ハイポチューブのような慣用の非真空堆積技術によって製作される、以前から存在する金属および/または擬金属膜を得て、そして膜の一部を除去すること(エッチング、EDM、アブレーションまたは他の同等の方法による)により、以前から存在する金属および/または擬金属膜中に微小開口部を形成する。本発明のグラフトを形成するために積層膜を用いることの利点は、別個の層において、差別的な機能性を付与することである。たとえば、タンタルのような放射線不透明材料が構造物の1つの層を形成し、同時に、他の層は、グラフトに所望される機械的および構造的特性を提供するために選択される。
【0117】
本発明を理解するための補助として、図43は、本発明の技術を実施する際に有用な真空スパッタ堆積システム50の模式図を提供する。堆積システム50においては、外部ハウジング54、ホローカソード60と熱的に接触している冷却ジャケット52、円筒形ターゲット64、システム50の中心軸に沿って配置される基材62、およびシステム内部での基材の回転運動を提供するために、基材62と連結された回転モーター63が提供される。シール56は、周囲環境から堆積チャンバ58を隔離するのに役立つ。ガス供給物注入ポート68は、堆積チャンバ58中へのアルゴンガスの導入を可能にし、一方、真空ポート66は、堆積チャンバ58内部の真空を得るための、堆積チャンバ58と真空ポンプとの間の連通を可能にする。作動気体から汚染物質(特に、ガス中に存在する可能性がある酸素または窒素)を除去するために、スクラバ69は、好ましくは、ガス供給物注入ポート68の上流に、かつ該ポートと直列に配置される。
【0118】
真空堆積されるニチノール材料の得られる強度が、ターゲット組成および真空堆積中に用いられるプロセスパラメータに完全に依存することが見いだされた。本発明によれば、それぞれが得られるニチノール材料の得られる機械的および物理的特性に影響を及ぼす多数のプロセスパラメータの均衡を実現することが望ましいことが見いだされた。
【0119】
本発明について考慮される最良の形態によれば、堆積中に堆積パラメータを制御して、基材上へのニチノールの堆積を最適化する。スパッタプロセスの具体的定義は、磁界強度および分布を含むスパッタ装置の詳細な形状を含む。ホローカソードDCスパッタ堆積の場合、スパッタパラメータは以下のものを含むがそれらに制限されるものではない:真空系のベース圧力、プロセスガスの品質および圧力、基材材料の品質および仕上げ、基材の温度、カソードに供給される電力および電圧、単一または複数のターゲットの材料品質、ターゲット表面温度、および照射距離。これらのパラメータの慎重な選択が、析出アニールの必要性なしにAを制御するのに必要とされるミクロ構造および適切な化学組成を有する高強度真空堆積形状記憶材料を製造することを可能にする。
【0120】
膜成長の速度は、堆積プロセスの別の重要なパラメータである。機能性に関して鍛造金属製品と比較することができるのに十分な厚さである材料を堆積させるために、1μm/時以上のオーダーの堆積速度が望ましい。他の堆積パラメータ、および最も重要には真空堆積方法中の基材温度に依存して、堆積物の構造は、非晶質であっても、結晶性であってもよい。ホローカソードDCスパッタ技術を用いる場合、高強度の5μm厚のニチノール膜を、約1時間未満で堆積することができる。
【0121】
本発明の方法によれば、本発明の材料は、円筒形ホローカソードDCマグネトロンスパッタ装置の軸に沿って、円筒形の脱酸素銅マンドレルを配置することにより作製される。スパッタターゲットは、約1〜3mmの間の厚さを有するニチノールシートから形成される。ターゲットは円筒形に成形されて、連続する円筒形表面を形成する。本発明の好ましい実施形態によれば、ターゲットは、作働ターゲット表面に対してスポット溶接されたワイヤの形態にあるNiまたはTiのいずれかが添加されたニチノールシートから作製される。堆積される膜の転移温度は、Niワイヤの添加によってより低い値へとシフトし、一方、該転移温度は、Tiワイヤの添加によってより高い値へとシフトする。あるいはまた、ターゲットは、チタンまたはニッケルのいずれかであるシートまたは管、および、それぞれ、溶接などによって該シートまたは管の表面に結合されるニッケルまたはチタンの部品から作製されてもよい。最後に、タンタルのような少量の合金化成分を、合金化成分のワイヤまたはシートをターゲットに固定することによって、ターゲットに添加してもよい。ターゲットは、カソードの内側に配置され、およびカソード本体とターゲットの間に電気的接触がなされる。
【0122】
カソードとターゲットとの間の熱的接触を維持して、カソードの冷却ジャケットがターゲットおよびカソードの両方から熱を放散させ、それによってターゲットを冷却するように機能することは、スパッタ堆積の慣用の方法において知られており、かつ十分に容認されている。通常の場合、カソードは、水循環を用いて、または時としてペルチェ冷却素子を用いて冷却される。しかしながら、マグネトロンスパッタの慣用の方法から逸脱し、および本発明の好ましい実施形態によれば、カソードおよびターゲット間の熱的接触は意図的に減少される。マグネトロンの磁石を過熱から保護するために、カソードの冷却は維持されるが、カソードおよびターゲット間の熱的接触は減少されるか、あるいは実質的に排除される。
【0123】
カソードからのターゲットの熱的隔離は、カソードおよびターゲットの間に断熱材料または誘電体材料を挿入することによって達成される。1つの実施形態において、この材料はセラミックの円筒であり;別の実施形態においては、1組の薄い熱伝導性材料(金属のようなもの)であってもよく、それは、用いられるカソードおよびターゲット間の熱伝導性を減少させて、ターゲットの冷却を減少させ、そしてターゲットの加熱を可能にするが、その程度は、ターゲットがカソード冷却ジャケットから熱的に隔離される場合よりも少ない。
【0124】
あるいはまた、本発明の別の好ましい実施形態によれば、ターゲットはカソードと完全に熱的に接触していてもよい。この実施形態においては、ターゲットとカソードとの間の熱的接触は慣用のスパッタ堆積技術から変化がなく、および熱的結合の低減は用いられない。しかしながら、より冷たいターゲット表面条件を調整するために、他のスパッタ堆積プロセスパラメータが調整される。十分なエネルギーをターゲット種に対して印加して、基材表面に到達する種の適切なエネルギーを保証するために、磁界強度、作動気体圧力、ターゲット物質の照射距離、スパッタ電力および/またはカソード電圧を調整する。
【0125】
高真空範囲(すなわち、およそ10−6〜10−7トール範囲内)またはより良好なもの内のベース圧力を有する真空系内でスパッタが最も良好に実施されることは、真空堆積技術において知られている。堆積中の作動気体圧力は、典型的には、約0.1ミリトール〜30ミリトールの間である。作動気体は好ましくはアルゴンであるが、He、Ne、KrまたはXeのような代替ガスを用いてもよい。高純度Arに関する99.999%の標準純度レベルにおいて、約30ミリトール未満の作働圧力における汚染物質の総計分圧は、約3×10−7トール未満であり、それは、典型的にはスパッタ堆積に関して許容可能であるとみなされる。
【0126】
この慣用の実施から逸脱して、本発明の方法の最も良好なモードによれば、追加の工程を用いて作動気体の不純物濃度を減少させることを含む。アルゴン作動気体の不純物濃度を減少させるために、アルゴンガスラインにスクラバを追加して、アルゴン供給物ライン中の酸素を減少させる。スクラバは、加熱されたチタンを用い、それは、酸化チタンへと酸化され、そしてアルゴン供給物ライン中の汚染物質である酸素を捕捉する。加えて、本発明の方法の最良のモードによれば、チタンサブリメーションポンプシステムを含んで、堆積中の作動気体中の酸素分圧を減少させることが望ましい。本発明の方法に従って前述の工程が用いられる一方で、真空堆積の当業者は、ガス供給物中の不純物を除去し、および酸素バックグラウンド圧力を減少させるための代替法を用いてもよいことを理解するであろう。
【0127】
図42に示されるように、本発明の方法10は、一般的に、真空系およびDCマグネトロンを含む堆積反応器を提供する工程12と、ターゲットおよび基材を提供および準備する工程14および16と、反応器中にターゲットおよび基材を装填する工程18と、次いで反応器内の真空を得る工程20とを含む。アルゴン作動気体を反応器中へと導入し、そしてプラズマを点火し(22)、ターゲットを調整し(26)、および基材を予熱する(24)。チャンバ内にプラズマを生じさせ、そして数時間の期間にわたってターゲットをプラズマに暴露することによって、最初の堆積前にニチノールターゲットの表面を調整または清浄化することが好ましい。最初の使用後かつさらなる使用の前に、プラズマプロセスが定常状態に到達するのに十分であるようなより短い時間(たとえば、30分間)にわたって、ターゲットを調整する。基材が予熱され、かつターゲットが準備された後に、基材をDCマグネトロン内に配置し(28)、そしてカソードに電圧を印加することによってスパッタ堆積プロセスを開始する(30)。基材に到達し、そして堆積された膜を形成するNiおよびTi原子に対して追加のエネルギーを付与するために、約40〜120Vの間、好ましくは60V〜100Vの間の負のバイアス電圧が望ましいことを見いだした。この追加のエネルギーは、「ピーニング」効果により、より高い膜密度およびより強い膜をもたらす。円筒形基材が存在する場合、堆積作業中に基材を回転させること(32)が望ましい。膜の堆積は、好ましくは約2〜10μm毎時の間の速度で実施される。堆積作業後に、堆積された膜は真空系内部で低温急冷され(34)、次いで真空系から取り出される(36)。本発明によれば、堆積された膜が基材上に残存している状態で、堆積されたフィルムの堆積後加工を行なってもよい(38)。たとえば、膜に対して所望される形状パターンを付与するために、あるいは、膜をその目的とする用途のための寸法とするために、堆積された膜のレーザーエッチングまたは化学エッチングを用いてもよい。最後に、堆積された膜は基材から取り外される(40)。
【0128】
バイアス電力供給源からの電力入力と組み合わせられるDCマグネトロン電力供給源からの電力入力は、ターゲット、プラズマおよび基材において放散されるエネルギーをもたらす。加えて、基材は別個の熱源によって加熱されてもよい。通常、カソード冷却はターゲットおよびカソードからの熱を放散させるヒートシンクとして役立つ。しかしながら、本発明のスパッタ方法において、ターゲットおよび冷却器の間の熱接触が減衰または排除されているので、印加されるエネルギーはターゲット、作動気体および基材を加熱する。加熱効果は、電力入力、ターゲットとカソードとの間の熱的結合のレベルを調整することにより、および/または基材ホルダの熱伝導性を調整することによって制御することができる。
【0129】
基材温度の重要性は、堆積技術においてよく理解されている。比較的に低温の基材上では、膜成長は本質的に非晶質であり、基材温度に伴って粒径が増大する。より低い基材温度において、柱状膜成長の傾向が増大する。
【0130】
しかしながら、本発明者らは、より高い積層温度が、基材表面に到達するスパッタされた原子のエネルギーのレベルほどには、柱状成長を減少させることにおいて重要ではないことを見いだした。得られる堆積された材料への効果は別として、スパッタプロセス自身は、ターゲットおよびガスの温度にはほとんど依存しない。多成分のターゲットを用いる場合、高いターゲット温度がより大きな重要性を有する。多成分ターゲットを用いる場合、放射線により強化される偏析および拡散と組み合わせられる個々の成分の優先的スパッタが起こる恐れがある。しかしながら、成分が「凍結され」および不動である低温のニチノールを用いた場合、初期の過渡現象の後には、NiおよびTiのスパッタ収率は安定する。
【0131】
しかしながら、典型的には、ターゲット組成の完全な再現は、堆積された膜において実現されない。この現象には2つの理由があると考えられる。第1に、Ni原子およびTi原子は、照射距離と呼ばれる基材からターゲットを離隔する距離を通して移動した後に基材に到達しなければならない。第2に、スパッタされるNi原子およびTi原子の角分布が異なる。Niは、ターゲット表面に関してより小さい放出角度を有する傾向があり、一方、Tiはより大きな放出角度を有し、ターゲット表面に対してより大きな入射角でターゲット表面を離れる。ニッケルおよびチタンの間の放出角度の差は、より低いTi含有量、およびニチノール膜の横方向不均質性をもたらす。
【0132】
慣用の平板スパッタ装置において、照射距離は、典型的には2〜6インチ、すなわち5〜15cmである。照射距離の重要性は、Ni原子およびTi原子が作動気体の原子と衝突し、散乱し、そしてターゲット上に再堆積するか、あるいは他の場所に堆積することによって堆積プロセスから完全に失われるかのいずれかである機会を有することである。照射距離が長いほど、およびガス密度が高いほど、再堆積効果および損失が大きくなる。Ni原子の散乱断面積よりもTi原子の散乱断面積の方が大きく、したがって、通常の状況下では、より多いNi含有量を有する膜が堆積する傾向がある。この効果は、再堆積した材料が優先的にスパッタされるという事実によって、ある程度まで相殺される。この問題に対する一般的な解決法は、追加のターゲットまたはターゲット片の形態において余分のTiを添加することである。しかしながら、そのような解決法は横方向に不均質な堆積物をもたらし、および有用なニチノール膜の堆積に必要とされる精密な組成制御の喪失をもたらす可能性がある。ターゲットと基材との間で散乱される原子はTiの不足をもたらし、関連する過渡効果の組み合わせのために堆積されるニチノール組成の一時的不整合性をもたらす。
【0133】
対照的に、高温においては、ターゲット表面組成はTiの偏析に影響される。すなわち、ターゲット表面における過剰のTi濃度が存在する。これは、より多くのTiがスパッタされ、そしてTi豊富な膜の製造をもたらす。加えて、ターゲットからゆっくりとTiが欠乏するようになる。ターゲット温度の制御は、堆積されるニチノール中のTi含有量の精密な制御を与える。ニチノール堆積物の所望される転移温度に依存して、堆積電力を選択して必要とされるTi偏析に関してターゲット温度を最適化することができ、およびプロセスを最適化するために、基材の冷却を増進させてもよいし、あるいは追加の基材加熱を導入してもよい。
【0134】
基材温度は、好ましくは400℃より高く、最も好ましくは約500℃に維持される。これらの温度において、堆積されるニチノールと典型的には無酸素銅(OFE Cu)である基材材料との間の相互拡散を無視できるが、柱状成長を抑制するのを補助するために、堆積物の表面移動度は依然として十分に高い。予熱されていない基材上への真空堆積もまた、本発明によって考慮される。他のプロセスパラメータを制御することによって、柱状成長を抑制するのに十分なエネルギーを基材の表面に到達する粒子に付与することは可能であり、および基材予熱の必要なしに本発明の高強度ニチノール材料を作製することができる。
【0135】
本発明によれば、約2.5cm未満の照射距離を有することが好ましいことが見いだされた。慣用の堆積加工に比較してより小さい照射距離および最小限にされたAr圧力を用いることによって、堆積中のNi原子およびTi原子の散乱を制限し、そしてターゲットのものに近接したNi対Tiの原子濃度がより容易に達成される。
【0136】
上記の考察に加えて、照射距離、圧力および温度は、以前には十分に認識されていなかったさらなる重要性を有する。スパッタ技術分野において用いられる典型的堆積条件(Ar圧力および温度)下では、堆積プロセス中、平均自由行程はmm領域である。スパッタされる原子は、数eVのエネルギー(長く高いエネルギーテールを有する準マックスウェル分布内の最も高確率の値)を有してターゲット表面を離れる。典型的な照射距離が数cmである、すなわち平均自由行程よりも約1桁大きいという事実によって、スパッタされた原子は、典型的には、それらが堆積する前に数回の衝突を受ける。結果として、それらはそれらの初期の運動エネルギーの多くを失う、すなわち熱運動化する。しかしながら、このエネルギーは、柱状部のない結晶膜成長を提供することに関して本質的な役割を果たす。例示的堆積プロセス中に記載される堆積パラメータの組み合わせは、照射距離と平均自由行程とが同等の大きさを有することを保証する。パラメータの他の組が同一の結果を与えることができ、そして本明細書に記載されるものと同一のニチノール膜特性を実現してもよい。
【0137】
円筒形マグネトロン形状は、大きな平板状ターゲットおよび平行な大きな平板状基材を有することと本質的に同一である。本明細書において、「大きい」とは、ターゲット−基材距離に比較して大きな寸法を有することと定義される。ターゲットと基材との間の距離は、両方の場合において均一である。スパッタ粒子のコサイン則分布を仮定すると、実際の照射距離、すなわち、2つの表面(ターゲットおよび基材)の間の平均飛行距離は、図52に示される。幾何的距離がlであり;包括的飛行方向が角度
【0138】

【0139】
であり、この方向における距離がlである。そして、平均は、
【0140】
【数1】

【0141】
で計算され、ここで
【0142】
【数2】

【0143】
が分布関数である。積分の評価は、以下の式をもたらす。
【0144】
【数3】

【0145】
Ti原子の照射距離はNi原子の照射距離よりもいくらか大きい。なぜなら、実験が示すように、Ni分布はコサイン則よりもいくらか狭いからである(非特許文献4参照)。
【0146】
平均自由行程(MFP)は、散乱断面積に反比例し、したがって原子量の平方根に比例するとみなすことができる:
【0147】
【数4】

【0148】
Niの平均原子量が58.71g/モルであり、Tiの平均原子量が47.90g/モルであるので、それらのMFPの比は1.11である。組成に関する効果がTiの衝突損失に起因すると仮定すると、該効果は、ターゲットから基材に至る途上での平均衝突数に比例するべきである。この衝突頻度は、照射距離とMFPとの比として推定することができる。MFPを正確に推定することは困難であるが、それをArのMFPに近いものであると推定し、そしてそれを平方根ルール(4)によって修正することができる。10ミリトールにおいて、ArのMFPは、λ=4.9mmである。これは300Kにおけるものである。800K(熱いターゲットを用いる堆積中の作動気体の推定温度)において、およびイオンが原子のMFPの(2)1/2倍であることを考慮すると、λ=18.5mmが得られる。そして、衝突頻度Nは以下のように推定することができる。
【0149】
【数5】

【0150】
そして、組成に関する効果は、以下のように推定することができる。
【0151】
【数6】

【0152】
この式を用いて、20mmから17mmへのターゲット−基材距離の3mmの変化がTi含有量の0.6〜0.7原子%の変化をもたらし、および堆積される膜の転移温度の60〜70℃の変化をもたらす。
【0153】
本発明者らに既知の最良のモードによれば、本発明の堆積プロセスは、一般的に以下の工程を含む:
a. HCマグネトロン中に取り付けられるが、カソードとターゲットとの間に薄いセラミック製円筒を配置することによって、水冷カソードとターゲットとの間の熱接触が阻害されるような、ニチノールターゲットを準備する;
b. カソードとターゲットとの間の電気的接触を提供する;
c. 基材は、100μmローパスフィルタを用いた500μm長さの軌跡に関するRa<50nmの表面粗さである表面仕上げまでその外側を研磨された、無酸素(OFE)銅管である;
d. 基材を真空チャンバ内に配置し、引き続いて該真空チャンバを、およそ2×10−7トール未満のベース圧力まで排気する;
e. 基材を、約400〜500℃の間の温度まで予熱する。あるいはまた、基材予熱工程を排除し、非予熱の基材表面への堆積が起こることも同様に考慮する;
f. 純Arガス(99.99%以上の純度)を、約1ミリトールと20ミリトールとの間の圧力において、堆積チャンバへと導入する;
g. ターゲット調整:マグネトロンに電力を供給してプラズマを発生させ、ダミーの基材とともに約10〜40分にわたって使用して、安定な堆積条件を実現する。約50mm直径および約150mmの長さのターゲットサイズに関して、マグネトロン電力はおよそ0.1kWと1kWとの間である。カソードの電圧は、約400Vと1000Vとの間、好ましくは600〜900Vの間に維持され、そして一定に保持される。Arガス供給を調節して、Arガス圧力を調整して、一定のカソード電圧を維持する;
h. 基材を、全ての面においてほぼ等しい約10mm〜25mmの照射距離を与えるスパッタ位置に移動させる;
i. 基材を、約10rpmと200rpmとの間の回転速度でその縦軸周りで回転させる;
j. 基材に対して、約−60Vと−100Vとの間の負のバイアス電圧を与える;
k. 所望される厚さの堆積物を与える期間にわたって、スパッタを実施する;
l. 堆積の完了後、プラズマを消失させ、そして、堆積チャンバ中に冷Ar(アルコールおよびドライアイスの混合物冷媒中に浸漬されるコイルを用いて冷却される)を導入することによって、真空下で堆積物を急冷する。
【0154】
この時点において、依然としてマンドレル上の材料は、真空堆積チャンバから取り出され、そして銅のマンドレルを化学的に除去する。表面仕上げ、切断などのさらなる堆積後工程を用いてもよい。
【0155】
種々の方法の任意のものによる装置形成の後に、装置を基材から取り外す。たとえば、エッチングまたは溶解のような化学的手段、アブレーション、機械加工、または超音波エネルギーにより、基材を取り外してもよい。あるいはまた、銅またはニッケルのような材料の犠牲層を、基材とニチノール管(すなわち、それから形成される装置)との中間に堆積させてもよい。装置は、レーザー切断、レーザーアブレーション、またはフォトリソグラフィーパターンを用いる化学的もしくは電気化学的エッチング、または任意の同等の方法を用いて、ニチノール管が依然としてマンドレル上にある状態で成形されてもよい。ついで、犠牲層の融解、犠牲層の選択的化学エッチング、または他の適当な手段を用いて、その装置を取り外してもよい。
【0156】
得られる装置を積層後処理にかけて、アニーリングによるように結晶構造を変化させてもよいし、洗浄および不活性化によるように表面のトポグラフィーを変化させてもよい。
【0157】
図44は、本発明の方法に従うスパッタ堆積によって堆積された本発明のニチノール膜の電子マイクロプローブスペクトルである。該スペクトルは、6.35mmのスパッタ堆積されたニチノール管の外側表面において得られた。測定は、エネルギー分散性スペクトロスコピー(EDS)を用いて実施した。データは、その膜が純粋で化学量論的なニチノールであることを示す。痕跡量のアルミニウムおよびケイ素の存在は、表面汚染に帰する。同一材料のX線回折分析が、ニチノール膜の100%の結晶性を確認した。
【0158】
図45は、本発明の方法によって製造された本発明の膜の示差走査熱分析(DSC)による試験を示すグラフである。DSC曲線は、24.4J/gの高いΔH値を示す強い転移を示す。動的機械的分析(DMA)を用いる本発明の高強度ニチノール膜の試験の結果を図46に示す。図46は、本発明のニチノール薄膜の応力−歪曲線(曲線A)および鍛造ニチノールシート(曲線B)である。鍛造ニチノールシートを化学的エッチングにより薄くして、DMA装置による試験のために好ましい約10μmの厚さを達成した。本発明のニチノール膜Aは、グラフに示される最高の応力および歪みにおいて破壊され、したがって、極限応力は約1250MPaであり、同時に極限歪は約12%であった。同一の膜に関して、図4および図5に示される結果が得られた。鍛造ニチノール膜は破壊されなかったが、その試験は、約1400MPaのDMA装置の加重限界および約7.5%の歪限界に到達した。
【0159】
図47Aおよび図47Bは、先行技術のスパッタ堆積されたニチノール膜(10000倍で撮られた本発明のニチノール膜の5μm厚の横断面)の走査電子顕微鏡写真である。図47Aは、膜の概ね柱状の組織によって特徴づけられる、慣用的にスパッタ堆積されたニチノール膜(非特許文献5参照)の微細構造モルホロジーを示す。図47Bは、本発明の5μm膜の断面の破断された横断面の走査電子顕微鏡写真である。本発明の膜は、柱状モルホロジーが全く存在しないことを示し、および接近した充填を示し、かつ事実上表面粗さを示さない粒状構造によって特徴づけられる。
【0160】
図48は、本発明のニチノール材料の5μmの試料のX線回折グラフである。他の有意なピークが存在しない、2θ軸のおよそ438における約3600cpsの強いピークは、本発明のニチノール材料中に析出物の存在しないことの明確な指標である。
【0161】
図49は、図7に示されるX線回折に用いた本発明のニチノール材料の同一の5μmの試料について撮られた透過電子顕微鏡写真である。顕微鏡写真は、本発明のニチノール材料の平均粒径が約0.1μmであることを確認した。
【0162】
図50は、図7および図8に示される本発明のニチノールの同一の5μm試料について撮られた電子線回折の図であり、事実上完全に析出物が存在しないことを示す。非常にわずかな痕跡量のTiNiが存在するが、しかし回折図中に他の析出物が存在する証拠は存在しなかった。
【0163】
図51は、円筒形の管として形成された本発明のニチノール材料の管腔表面について撮られた表面プロフィロメトリを用いる表面走査である。堆積された材料の小さい表面粗さは、基材の平滑性の結果であり、および堆積前の基材研磨および表面調整の特性および程度によって決定される。
【0164】
図53のパネル(a)および(b)、ならびに図54は、本発明の材料の外側表面のより大きな視野を示す暗視野顕微法(図53のパネル(a)および(b))および明視野顕微法の光学写真である。図53において、パネル(a)は、高エネルギー粒子が基材から排除された場所で得られる、かなりの表面粗さを有する5μmのニチノール膜の表面を示す。そのような表面は、図47Aに示すような柱状モルホロジーの特徴である。図53のパネル(a)とは対照的に、パネル(b)は、高エネルギー粒子が基材に到達することを許された場所の、実質的に平滑な外部表面を示す。したがって、本発明のニチノール材料と一致する図53のパネル(b)に示される、より平滑な表面プロフィルは、図47Aおよび図53のパネル(a)に示される慣用のスパッタ堆積プロセス技術を用いて得られるものよりも完全なニチノール材料を表す。
【0165】
得られる堆積後の膜の総体的なキャラクタリゼーションを行って、ニチノール膜が柱状粒構造を有して成長したか、あるいは非柱状粒構造を有して成長したかを決定してもよい。図54に示すように、膜、および柱状組織を有する充填領域および非柱状粒モルホロジーを有する膜の間に、光沢の差が存在する。ニチノールが柱状組織を有して成長する場合、それらの柱は典型的には直径0.1〜1μmであり、粗くかつ周囲光を散乱し、表面光沢の減少をもたらす、得られる表面を与える。しかしながら、ニチノール膜が非柱状粒構造を有する場合、膜表面は、柱状粒構造を示す膜よりも著しく平滑であり、そして周囲光を反射し、膜に対してより高い表面光沢を与える。このように、周囲照明下での単純な視覚的観察が、柱状組織を有する膜の低い光沢と、非柱状粒構造を有する膜の高い光沢との間の差異を区別することができる。したがって、図54に示すように、より高い光沢を有する領域は、柱状組織を有さない領域であり、一方、より低い光沢を有する領域は、柱状成長の領域である。しかしながら、膜厚が約1μm未満である場合、光沢の差異は良好には発現されず、そして観察するのが困難である。
【0166】
図55および図56は、180Wの一定スパッタ電力におけるカソード電圧と作動気体圧力との間の関係(図55)、および600Vの一定カソード電圧におけるスパッタ電力と作動気体圧力との間の関係(図56)を示す。一定スパッタ電力において、カソード電圧および作動気体圧力はほぼ反比例の関係であり、および一定カソード電圧における作動気体の圧力およびスパッタ電力はほぼ正比例の関係であることは容易に理解されるであろう。カソード電圧、スパッタ電力および作動気体圧力の具体的な値は、具体的なマグネトロン形状、磁界強度、磁界の形状および真空系に依存することが見いだされている。したがって、図55および図56に表された値は、用いた個々の反応器系において有効である。それにもかかわらず、図55および図56に表される関係は、用いられる個々のマグネトロンおよび反応器系に無関係に有効であることを、スパッタ技術分野の当業者は認識するであろう。本発明によれば、約500〜1000Vの間、好ましくは約600〜900Vの間のカソード電圧を用いることが好ましく、それはこのカソード電圧範囲に関連して、より低い作動気体圧力の利点を享受するためである。
【0167】
本発明のニチノールが、慣用の鍛造ニチノール管に比較して改良された腐蝕特性を示すことが見いだされた。腐蝕速度測定は、同一重量の鍛造ニチノール管(MINITUBES, France)および本発明のニチノール管を、37℃において、15時間にわたって、3MのHSO+メタノールの溶液中に浸漬することによって実施された。慣用のニチノール管および堆積された管の両方は、同一の不活性化手順によって処理された。酸浴に対する暴露の前後において、それぞれの管の重量および表面積を測定した。これらの測定から、腐蝕速度データは、鍛造材料に対して4.18μg/cm/時間であると計算され、堆積された管に対して1.54μg/cm/時間であると計算された。したがって、本発明の真空堆積されたニチノール材料は、より大きな腐蝕抵抗性を示した。このデータに基づいて、および腐蝕および疲労抵抗性の間のよく知られた関係に基づいて、鍛造ニチノール材料と比較する際に、本発明の真空堆積されたニチノール管が同様に改善された疲労抵抗性を示すであろうと結論づけることは合理的である。
【0168】
このように、本発明によれば、当該技術において入手可能または以前から知られているものよりも高い機械的特性を有する、ニチノール膜をスパッタ堆積させるための真空堆積法が提供される。本発明の真空堆積方法は、プロセスパラメータおよび個々のプロセスパラメータの間の関係の両方を制御すること、および高強度機械的特性を有するニチノール膜を堆積させること伴う。真空系のベース圧力、プロセスガスの品質および圧力、基材材料の品質および仕上げ、基材の温度、カソードに供給される電力および電圧、および照射距離を慎重に調整することによって、およびこれらのパラメータの間の関係のバランスを取ることによって、約0.1μmと25μmとの間の厚さを有する高強度ニチノール膜を製造することができる。
【0169】
高強度のニチノール膜を製造することに加えて、本発明の方法は、より厚いグラフト材料および/またはステントのような構造支持体要素としての使用に適当である、25μm〜200μmの間の生体適合性金属および擬金属のより厚い膜を製造することに容易に適合可能である。
【0170】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して記載してきたが、本発明が記載される好ましい実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべき本発明から逸脱することなしに、寸法、形状、作製方法、基材材料の選択、基材表面を制御する様式、堆積技術および堆積プロセスパラメータにおける種々の変形を用いてもよいことを、当業者は理解および認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】送出径にある移植可能な装置の実施形態を示す平面図である。
【図2】拡張径すなわち目的とする生体内での径の移植可能な装置の実施形態を示す平面図である。
【図3】拡張径にある移植可能な管腔内装置の好ましい実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図3A】本発明の移植可能な管腔内装置による構造支持体要素の頂点の別の実施形態を示す部分的断面図である
【図4】拡張径にある移植可能な管腔内装置の実施形態の微孔性金属薄膜被覆を示す分解平面図である。
【図5】本発明の移植可能な管腔内装置の別の実施形態の構造支持体要素の平面図である。
【図6】本発明の好ましい実施形態にしたがう微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンの平面図である。
【図7】微孔性金属薄膜被覆のコンプライアンスを示す、湾曲形状の本発明の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の平面図である。
【図8】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の非拡張−縦軸方向拡張−非拡張領域を示す平面図である。
【図9】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図10】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図11】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図12】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図13】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図14】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図15】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図16】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図17】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図18】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図19】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図20】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図21】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図22】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図23】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図24】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図25】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図26】本発明の別の実施形態の微孔性金属薄膜被覆の開口部のパターンを示す平面図である。
【図27】拡張径にある、移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図28A】短い連結部材を有し、拡張径にある、移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図28B】長い連結部材を有し、拡張径にある、移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図29】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図30】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図31】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図32】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図33】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図34】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図35】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図36】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図37】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図38】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図39】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図40】移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図41】微孔性金属薄膜被覆の微孔性開口部の別個のパターンを示す、移植可能な管腔内グラフトの別の実施形態の構造支持体要素を示す平面図である。
【図42】高強度ニチノール膜を作成するための本発明の方法のプロセス流れ図である。
【図43】本発明の円筒形マグネトロンスパッタ装置の概略図である。
【図44】スパッタ堆積によって堆積させた本発明のニチノール膜の電子マイクロプローブスペクトルを示す図である。
【図45】本発明のニチノール膜の試験から得られる示差走査熱量計の曲線を示す図である。
【図46】本発明のニチノール膜の応力−歪み曲線特性を示すグラフである。
【図47A】慣用のニチノール膜の横断面を示す走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【図47B】本発明のニチノール膜の横断面を示す走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【図48】本発明のニチノール膜のX線回折パターンを示す図である。
【図49】本発明のニチノール膜の透過電子顕微鏡写真を示す図である。
【図50】本発明のニチノール膜から得られる電子回折パターンを示す図である。
【図51】本発明のニチノール膜の試験から得られる表面プロフィロメータの軌跡を示す図である。
【図52】ターゲットおよび基材の共平面表面間の原子の平均飛行距離を示すグラフである。
【図53】100倍の対物レンズを通して得られる5μmニチノール膜の暗視野光学顕微鏡写真を示す図であり、(a)は、ターゲットからの高エネルギー粒子を基板から排除する条件で成長させた膜を示す図であり、(b)はターゲットからの高エネルギー粒子が基板に入ることを許す条件で成長させた膜を示す図である。
【図54】膜の表面の粗面領域および平滑領域の両方を示す、4倍の対物レンズを通して得られる5μmニチノール膜の明視野顕微鏡写真を示す図である。
【図55】一定スパッタ電力におけるカソード電圧と作動気体の圧力との関係を示すグラフである。
【図56】一定カソード電圧における作動気体の圧力とスパッタ電力との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 擬弾性特性を有する金属材料を含む微孔性金属薄膜被覆と、
(b) 金属材料を含み、および少なくとも一対の円筒形要素と、隣接する円筒形要素を接合する連結部材とをさらに含むる、該微孔性金属薄膜被覆の下にある構造支持体要素と
を含み、
(c)該微孔性金属薄膜被覆と該構造支持体要素との間の少なくとも1つの接触点によって、該構造支持体要素が該微孔性金属薄膜被覆に接着されている
ことを特徴とする移植可能な管腔内グラフト。
【請求項2】
前記少なくとも1つの接触点は、該微孔性金属薄膜被覆の近位端または遠位端のいずれか、および該構造支持体要素の対応する端の近傍に位置することを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項3】
前記少なくとも1つの接触点は、該微孔性金属薄膜被覆および該構造支持体要素の遠位端の近傍に位置することを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項4】
前記構造支持体要素は、該構造支持体要素の末端から縦軸方向に伸びる少なくとも1つの延長部材をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項5】
前記少なくとも1つの延長部材は、該微孔性金属薄膜被覆に接着されていることを特徴とする請求項4に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項6】
前記円筒形要素は、交互の峰部および谷部を有する正弦曲線パターンを採ることを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項7】
前記連結部材は、峰部−峰部または谷部−谷部のいずれかで、隣接する円筒形要素を接合することを特徴とする請求項6に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項8】
前記円筒形要素は、交互の峰部および谷部を有する正弦曲線パターンをとり、および前記少なくとも1つの延長部材は、該構造支持体要素の末端の少なくとも1つの谷部から縦軸方向に伸びることを特徴とする請求項4に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項9】
前記微孔性金属薄膜被覆は、該微孔性金属薄膜被覆の表面全体を通して均一なパターンの開口部を示すことを特徴とする請求項8に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項10】
前記微孔性金属薄膜被覆および前記構造支持体要素は、ニチノールから製造されることを特徴とする請求項9に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項11】
前記微孔性金属薄膜被覆は、室温から体温への温度変化を通してマルテンサイト結晶構造を維持し、および生体内でマルテンサイト的に挙動することを特徴とする請求項10に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項12】
室温から体温への温度変化中にマルテンサイト結晶構造からオーステナイト結晶構造への相転移を起こし、および生体内でオーステナイト的に挙動する構造支持体要素をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項13】
室温から体温への温度変化を通してオーステナイト結晶構造を維持し、および生体内でオーステナイト的に挙動する微孔性金属薄膜被覆をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項14】
室温から体温への温度変化中にマルテンサイト結晶構造からオーステナイト結晶構造への相転移を起こし、および生体内でオーステナイト的に挙動する微孔性金属薄膜被覆をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項15】
前記少なくとも1つの接触点は、末端において円筒形要素から近位端方向または遠位方向に突出する突出部をさらに含み、および該円筒形要素の谷部および連結部材と共に4点結合を形成することを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項16】
前記円筒形要素の幅は、峰部および谷部の頂点において、該円筒形要素の他の部分よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項17】
それぞれの連結部材は、波状の円筒形要素の峰部または谷部のいずれかと接続され、および該連結部材の中間部分の幅よりも狭い幅を有する、対立する端を有することを特徴とする請求項16に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項18】
(a) 37℃より高いオーステナイト相転移開始温度を有する形状記憶合金を含む微孔性金属薄膜被覆と、
(b) 少なくとも一対の円筒形要素と、隣接する円筒形要素を該円筒形要素の周囲に沿った同一の角度点で接合する連結部材とを含む、該微孔性金属薄膜被覆の下にある構造支持体要素であって、該構造支持体要素は、0℃未満のオーステナイト相転移開始温度を有する形状記憶合金をさらに含む構造支持体要素と
を含み、
(c)該微孔性金属薄膜被覆と該構造支持体要素との間の少なくとも1つの接触点によって、該構造支持体要素が該微孔性金属薄膜被覆に接着されている
ことを特徴とする移植可能な管腔内グラフト。
【請求項19】
前記形状記憶合金はニチノールであることを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項20】
前記微孔性金属薄膜被覆は、室温から体温への温度変化を通してマルテンサイト結晶構造を維持することを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項21】
室温から体温への温度変化中に、マルテンサイト結晶構造からオーステナイト結晶構造への相転移を起こす構造支持体要素をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項22】
前記少なくとも1つの接触点は、該微孔性金属薄膜被覆の近位端または遠位端のいずれか、および該構造支持体要素の対応する端の近傍に位置することを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項23】
前記少なくとも1つの接触点は、該微孔性金属薄膜被覆および該構造支持体要素の遠位端の近傍に位置することを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項24】
前記円筒形要素は、交互の峰部および谷部を有する正弦曲線パターンを採ることを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項25】
前記連結部材は、峰部−峰部または谷部−谷部のいずれかで隣接する円筒形要素を接合することを特徴とする請求項21に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項26】
前記微孔性金属薄膜被覆は、該微孔性金属薄膜被覆の表面全体を通して均一なパターンの開口部を示すことを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項27】
前記少なくとも1つの接触点は、末端連結部材の末端上にあることを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項28】
前記円筒形要素の幅は、頂点においておよび頂点の近傍において、該円筒形要素の他の部分よりも狭いことを特徴とする請求項17に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項29】
(a) ニチノールを含む微孔性金属薄膜被覆;および
(b) 複数の峰部および谷部を有する少なくとも一対の波状の円筒形要素と、該峰部または該谷部のいずれかにおいて隣接する円筒形要素を接合し、および末端の円筒形要素の谷部から縦軸方向に伸びる少なくとも1つの突出部を有する連結部材とを含む、該微孔性被覆の下にある構造支持体要素であって、ニチノールを含む構造支持体要素と
を含み、
(c)該構造支持体要素は、該少なくとも1つの突出部において該微孔性金属薄膜被覆と接合されている
ことを特徴とする移植可能な管腔内グラフト。
【請求項30】
室温から体温への温度変化を通して、前記微孔性金属薄膜被覆はマルテンサイト結晶構造を維持することを特徴とする請求項27に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項31】
前記構造支持体部材は、室温から体温への温度変化中に、マルテンサイト結晶構造からオーステナイト結晶構造への相転移を起こすことを特徴とする請求項28に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項32】
室温から体温への温度変化を通してオーステナイト結晶構造を維持し、生体内でオーステナイト的に挙動する微孔性金属薄膜被覆をさらに含むことを特徴とする請求項27に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項33】
室温から体温への温度変化中に、マルテンサイト結晶構造からオーステナイト結晶構造への相転移を起こし、生体内でオーステナイト的に挙動する微孔性金属薄膜被覆をさらに含むことを特徴とする請求項27に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項34】
前記微孔性金属薄膜被覆は、該微孔性金属薄膜被覆の表面全体を通して規則的なパターンの開口部を示すことを特徴とする請求項28に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項35】
マグネトロン、カソード、該カソードと熱的に結合される冷却装置、および大気から選択的に隔離することができる堆積チャンバを有する真空スパッタ堆積装置中で、請求項1から31のいずれかに記載の金属薄膜を製造するための方法であって、該方法が:
(a) ニッケル、チタン、およびニッケル−チタン合金からなる群から選択される少なくとも1つのターゲットを、堆積チャンバ中に配置する工程と;
(b) 堆積チャンバ中に、ターゲットと空間的に離隔された基材を配置する工程と;
(c) 選択される作動気体を堆積チャンバに供給する工程と;
(d) スパッタされる粒子の平均自由行程が、ターゲットと基材との間の距離の約半分より大きい条件下で、前記少なくとも1つのターゲットから、材料をスパッタ堆積する工程と;
(e) 基材から、堆積された材料を取り外す工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
工程(a)が、少なくとも1つのニッケルターゲットと、少なくとも1つのチタンターゲットとを提供することをさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記カソードと前記ターゲットとは、少なくとも部分的に熱的に絶縁されていることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記スパッタ堆積装置が、ターゲットとカソードとの間の絶縁性接触における断熱性セラミック材料をさらに含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記基材の少なくとも1部は、約50nm未満のR値の表面粗さを有することを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項40】
工程(c)における作動気体が、He、Ne、Ar、KrおよびXeからなる群から選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項41】
工程(d)に先だって、前記基材を、約400℃〜550℃の間の温度に加熱することを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項42】
工程(b)が、前記基材に対してバイアス電圧を供給することをさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記バイアス電圧は負の電圧であることを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記バイアス電圧は、約−120V以下であることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項45】
工程(c)が、真空堆積システム中に、約0.1〜約30ミリトールの圧力までのArガスを導入する工程をさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項46】
工程(d)が、堆積基板とターゲットとの間の照射距離が約25mm未満になるように、堆積基板とターゲットとを配置する工程をさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項47】
前記基材が、円筒形基材であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項48】
工程(d)が、堆積される膜が管形状であるように、前記基材を回転させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項49】
工程(d)が、スパッタ装置内部で、堆積されたニチノール膜を急冷する工程をさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項50】
堆積されたニチノール膜を視覚的に検査し、および堆積されたニチノール膜の光沢に基づいて堆積されたニチノール膜の表面粗さを定性的に決定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項51】
前記金属薄膜が、少なくとも1000MPaの極限強度を有するニチノール膜から本質的に構成されていることを特徴とする請求項1から31のいずれかに記載の微孔性金属薄膜。
【請求項52】
前記ニチノール膜が、少なくとも約10%の最大歪みを有することを特徴とする請求項48のニチノール膜。
【請求項53】
前記金属薄膜が、何らの堆積後加工なしに、実質的に非柱状の微細構造を有するニチノール膜から本質的に構成されていることを特徴とする請求項1から31のいずれかに記載の微孔性金属薄膜。
【請求項54】
前記ニチノール膜が、約500MPaより大きい極限強度を有することを特徴とする請求項50に記載のニチノール膜。
【請求項55】
前記ニチノール膜が、約8%より大きい最大歪みを有することを特徴とする請求項51に記載のニチノール膜。
【請求項56】
前記ニチノール膜が、ニッケルおよびチタンから本質的に構成されていることを特徴とする請求項50に記載のニチノール膜
【請求項57】
前記ニチノール膜が、析出物を実質的に持たないことを特徴とする請求項53に記載のニチノール膜。
【請求項58】
約1250MPaよりも大きい極限強度を有することを特徴とする請求項53に記載のニチノール膜。
【請求項59】
約12%より大きい最大歪みを有することを特徴とする請求項55に記載のニチノール膜。
【請求項60】
前記ニチノール膜が、約−20℃と−60℃との間の転移温度Aを有することを特徴とする請求項53に記載のニチノール膜。
【請求項61】
前記微孔性金属薄膜および前記構造支持体要素の少なくとも1つが、マグネトロン、ターゲット、基材、該カソードと熱的に結合された冷却装置および大気から選択的に隔離することが可能な堆積チャンバを有する真空システム中でニチノールをスパッタ堆積する工程を含む方法によって製造され、
ターゲットから放出される粒子のエネルギーを、放出された粒子の平均自由行程がターゲットと基材との間の照射距離の約半分より大きいように制御することを特徴とする請求項1から31のいずれかに記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項62】
前記方法が、スパッタ堆積装置内部のカソードからターゲットを熱的に脱結合する工程をさらに含むことを特徴とする請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項63】
前記方法が、スパッタ堆積実施中にターゲットを等温的に加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項64】
前記方法が、ターゲット材料のスパッタ堆積中、ターゲットを実質的に一定の温度に加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項65】
前記微孔性金属薄膜および前記構造支持体要素の少なくとも1つが、実質的に非柱状の結晶粒構造を有することによって特徴づけられる請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項66】
前記微孔性金属薄膜および前記構造支持体要素の少なくとも1つが、500MPaより大きい極限強度を有することによって特徴づけられる請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項67】
前記微孔性金属薄膜および前記構造支持体要素の少なくとも1つが、合金化されたニッケルおよびチタンから本質的に構成されることを特徴とする請求項58に記載の移植可能な管腔内グラフト。
【請求項68】
前記微孔性金属薄膜および前記構造支持体要素の少なくとも1つが、ニチノール膜内部に実質的に析出物を持たないことによって特徴づけられる請求項64に記載の移植可能な管腔内グラフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28A】
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【図28B】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47A】
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【図47B】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【公表番号】特表2006−500173(P2006−500173A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540138(P2004−540138)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/029676
【国際公開番号】WO2004/028340
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(504006054)アドヴァンスド バイオ プロスセティック サーフェシーズ リミテッド (11)
【Fターム(参考)】