説明

高強度低収縮性ポリアミド糸

高強度、低収縮性をもつことを特徴とする多フィラメント・ポリアミド糸が記載されている。このような糸およびそれからつくられた繊維布は、上記のような性質の組合せが望まれる工業的な用途に使用することができる。このような糸は自動車用エアバッグの製造に特に有用である。またこのような糸を製造する方法も記載されている。糸を製造する工程は、熔融したナイロンを紡糸−延伸し、糸の張力を弛緩させ調節した後に糸を巻取る工程を含んでいる。この方法でつくられた糸は、線密度が110〜940decitex、強度が80cN/tex以上であり、177℃で測定された収縮率が5%より小さい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2007年11月9日出願の米国特許暫定出願第60/986,671号の利益を請求する。該米国特許暫定出願第60/986,671号は引用により本明細書に包含されるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は高強度低収縮性のポリアミド、例えばナイロンの糸の製造法に関する。特にこのような組合せの物理的性質は、糸を巻き取る前に次に張力の緩和および調節を行う工程を含む連結した紡糸延伸法において熔融したナイロン重合体を押出すことによって得ることができる。このような糸は織物および編物繊維布の製造に使用することができ、このような織物および編物繊維布は自動車用のエアバッグのような工業製品に対する用途に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
ポリアミドの糸は高強度を必要とする工業用の糸および繊維布にしばしば使用される。最高の強度を発現させるためには、分子を配向させる紡糸および延伸法によりナイロンの糸を製造する。得られる配向の程度が高いほど得られた糸の強度は大きくなり、伸びは小さくなる。ポリアミドを用いてつくられた高強度の糸を使用して繊維布を製造する基本的な態様は、その糸のもつ固有の収縮性に関連している。紡糸延伸法においては重合体は高度の分子配向を受けるために、このような糸は収縮する自然の傾向をもっている。収縮の割合および程度は延伸の程度(この場合延伸の程度が大きいほど収縮の程度は大きき)、糸を加熱する温度、および糸をこの温度に保つ時間の関数である。従って通常は繊維布を高温の水の中で洗滌し、次いで高温の空気中で乾燥して収縮を促進させ、繊維布が寸法安定性をもつようにする。織物の後処理の際繊維布は収縮を起こすので、織っただけの繊維布の使用は少なくなるため、繊維の収縮の程度は繊維布の製造効率に影響を与える。
【0004】
十分に延伸したナイロン糸を製造する公知方法は、紡糸口金を通して熔融した重合体を押出してフィラメントをつくり、熔融したフィラメントを急冷し、フィラメントを融合させて多フィラメント糸をつくった後この糸を延伸して分子の配向を増加させ、得られる伸びの程度を減少させ強度を増加させる工程を含んでいる。延伸は、紡糸したばかりの糸を供給ロールから延伸ロールへ前進させ、この際延伸ロールを供給ロールよりも高速で回転させることにより達成される。延伸の程度が大きいほど糸の収縮度は高くなるであろう。紡糸工程と延伸工程を組み合わせて連続した製造工程にするこの種の方法は「紡糸−延伸」法と云われる。
【0005】
遅い「二段階」法を用いて非常に収縮性の低いポリアミド糸をつくることができる。この方法では紡糸したばかりの糸を巻き取った後に別の工程で延伸を行うので、延伸および弛緩工程は紡糸工程から切り離されている。しかしその製品は延伸する前においては結晶性が高すぎ、糸の切断を生ぜずに非常に高い延伸レベルを得ることはできない。従ってこの「二段階」法は約80cN/tex以上の非常に強度の高い糸を高速度で製造するのには適していない。
【0006】
紡糸−延伸法で製造された延伸度の高い高収縮性の糸は、延伸工程によって糸の中に誘起された張力のために、後で行われる処理において問題が生じる。弛緩を行わなかった場合、張力が高すぎて糸のパッケージを巻き付ける厚紙の管の芯を変形させる恐れがある。また、高度の延伸のために伸びは低くなるから、許容できない数の糸が切断する可能性がある。この問題は、速い速度の糸線を用いること必要な経済的な高速度製造の場合に顕著
になる。
【0007】
パッケージの変形と糸線の切断に関する問題を克服するために、巻き取りを行う前に、延伸を行った後、通常は加熱しながら、弛緩工程を導入して糸の張力を減少させることが知られている。このような一つの方法は特許文献1に記載されている。この特許は引用により本明細書に包含される。この特許では、ナイロン6,6の糸を含んで成るパッケージをつくるために弛緩工程を使用する。このような糸は伸びが約22〜約60%、ボイルオフ(boil−off)収縮が約3〜約10%、強度が約3〜約7g/デニール(32.7〜76.5cN/tex)であり、糸管に対する圧縮は糸のパッケージを巻き付ける糸管の芯を破砕するほど十分ではないという特徴をもっている。
【0008】
特許文献1に記載されたナイロン糸の製造法に見られる限界は、操作上の制約のために延伸区域と弛緩区域との間で張力を減少させ得る程度が影響を受けることである。張力を低すぎる或るレベルまで減少させると、糸は完全に不安定になり、フィラメンテーション(filamentation、即ち個々のフィラメントが広がること)および糸線の切断が生じる。このような張力の低下が大きくなり過ぎて糸線の不安定を誘起するような点は式1による弛緩比が約9%以上になる点である。

弛緩比(%) = ((R − R)/R)×100 [1]
ここでRは最後の段階の延伸ロールの周辺速度、
は弛緩ロールの周辺速度である。
【0009】
多くの高強度繊維布の用途に対しては、このような用途に使われる高強度の糸に固有の高度の収縮性は高強度繊維布へと移される。エアバッグの用途に対しては、それが膨張して広がった場合、繊維布は大きな強度、特に引裂きおよび破裂に抵抗する繊維布の能力、および低い空気透過性の両方を示す必要がある。エアバッグ用の繊維布に適した糸は、典型的には60〜85cN/texの範囲の強度、および5〜15%の高温空気による収縮率(ASTM D 4974により177℃で測定)を示す。低い透過性は、繊維布の少なくとも片側に低透過性の皮膜を被覆するか、または非常に緻密な織り方の繊維布をつくるか、或いはこれら二つの手段を適当に組み合わせることによって得ることができる。高強度はこの用途に使用する目的の繊維布に対しては必須な特性である。何故ならエアバッグは爆発的な膨張による初期的な衝撃、およびその直後にエアバッグに向かって投げ出された乗客の衝撃に耐えることができなければならないからである。エアバッグは破裂、引き裂け、またはかなりの伸長を起こすことなくこれらの力に耐えなければならない。
【0010】
大部分の場合繊維布をスコアリング(scouring、擦って洗滌)し、紡糸時に被覆された仕上げオイル、および織り操作の前に被覆された潤滑剤または接合用皮膜を除去しなければならない。即ち典型的には織物繊維布を洗滌した後、乾燥用の空気中で加熱する。洗滌および乾燥の工程に応答して繊維布が示す高度の収縮性は、かたい織り目、およびそれに対応した低い空気透過性を得るために有利に使用される。特許文献2には、160℃における高温空気による収縮性が6〜15%(ASTM D4974による)のポリアミド糸を含んで成っている繊維布の製造法が記載されている。織ったばかりの繊維布を次に60〜140℃において水性浴中で処理する。これらの条件により収縮が起こり、既に密に織られた繊維布の密度はさらに増加する。この有利な結果により繊維布の細孔が実質的に閉じ、従ってガスの透過に対する抵抗性が改善される。熱的な保護用のまたは実質的にゼロの空気透過性のいずれかの性質をもった余分の被覆を必要とする繊維布の他の製造法においては、洗滌後繊維布を通常「熱固定」する。この方法では洗滌した繊維布を、被覆を行った際の温度に近い温度またはそれよりも高い温度、典型的には170〜225℃の温度で乾燥する。糸の固有の収縮性を最低限度に抑制すれば、上記範囲の下限に近い温度で乾燥を行うことができ、糸の熱的な損傷の危険を最低限度に抑制することができる
。このような損傷の効果は通常繊維布の変色の形で現れる。
【0011】
「空気透過性」は材料を通る空気流の割合を意味し、またさらに一定の圧力差において繊維布を横切る「静的空気透過性」、または繊維布上の一定の制限された空間の中に一定容積の空気を元の圧力差が生じるようにして導入した後の「動的空気透過性」として定義されている。本明細書の説明を行う目的に対しては、空気透過性は静的な形のものであり、これは圧力差500Paで100cmの面積を通る空気の容積の割合として定義され、L/dm/分の単位で表される。この性能パラメータはISO 9237に従って測定される。
【0012】
乗物用のエアバッグに使用する目的の繊維布はレピア(rapier)法、プロジェクティル(projectile)法、空気ジェット法、および水流ジェット法を含む通常の種々の織り方で織られている。歴史的には、このような多くの繊維布は縦糸を横切って横糸を機械的に延伸する通常のレピア織機を使用してつくられた。このような織り方を行う方法は、低い空気透過性を示し、且つ事故の際にエアバッグが膨張して広がった場合膨張および衝突の力に耐える構造的な安定性を示す高密度の織り目をつくる上で成功してきた。しかしレピア織機はこれに代わる技術的方法、例えば水流ジェットを用いる織り方に比べて著しく遅く、また糸と織機の部材の間、および横糸と縦糸との間の摩擦力のために、織物操作の際に損傷を与える。
【0013】
水流ジェット織りでは、水流により縦糸の格納器を通して横糸を延伸する。この織り方は横糸を挿入する方法に比べ遥かに速い方法である。水流ジェットによる織り方では糸にサイジング化合物を被覆する工程、および別の洗滌工程またはスコアリング工程の両方を省くことができる。しかし歴史的には水流ジェットによる織り方は、レピア織機に比べ織り目密度の小さい構造物をつくるのに用いられてきた。これを補償するためには、しばしば高い破断強度をもった糸を使用し、水流ジェット織機で得られる低密度の織り目構造にもかかわらず、最終的な繊維布の強度が改善されるようにする。特許文献3には、サイジングしない糸について水流ジェット織りを行うことによりレピア織りと同等な織り目密度を得ることができるエアバッグ用繊維布の製造方法が記載されている。この特許は引用により本明細書に包含される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,750,215号明細書。
【特許文献2】米国特許第5,581,856号明細書。
【特許文献3】米国特許第5,421,378号明細書。
【0015】
繊維布の高い収縮性は、高密度の編み目と低い空気透過性を得る上で有利に使用されるが、そのために製造の効率は悪くなる。例えばワンピースの形に織られたサイドカーテン・エアバッグ用繊維布(one piece woven side−curtain airbag fabric)を製造する場合、製造業者とっては1枚の繊維布から切取り得るエアバッグの数が最大になることが望ましい。収縮性が大きいほど、製造業者は与えられた幅をもつ織ったばかりの繊維布生地から切出し得る繊維布の枚数に制約を受ける。
【0016】
サイド・カーテンのエアバッグは一般に矩形の形をしており、従って織機の幅を横切って隣接した列をなすようにすることができる。膨張して広がり得る構造物の両側を一つの片から成る単位として切取り、次いでこれを折り畳んで半分にし膨張して広がり得るエアバッグをつくることができる。別法としてジャカード織機の場合にはこのようなエアバッグの各々を一つの一体となった片としてつくることができる。繊維布の幅は先ずその織機
で得られる幅によって制限され、第二にジャカード織機のヘッドの取扱い可能な複雑さによって制限を受ける。幅が2.9mよりも広い繊維布を織ることができる装置が見つかることはあまりない。次に繊維布を収縮させてこれに寸度安定性をもたせなければならないが、現在の技術では普通8%程度収縮させる。従ってエアバッグの製造業者には、廃棄部分を最小にする場合、(2.9−8%)m、即ち2.67mの幅のサイドカーテンを整数個つくらなければならないという制約が課される。従ってそれぞれ幅が0.89mのエアバッグの場合3個、またはそれぞれ幅が0.668mのエアバッグの場合4個、またはそれぞれ幅が0.534mのエアバッグの場合5個、或いはそれぞれ幅が0.445mのエアバッグの場合6個等が最適である。
【0017】
サイドーカーテン・エアバッグは、自動車の屋根の線とドアの窓の底部との間の間隙を充たすことが要求され、この距離が0.4mより小さいかまたは0.6mより大きいことはめったにない。横糸方向の繊維布の収縮を最低限度に抑制し、最高の数のエアバッグを製造できることが好ましい。
【0018】
サイドーカーテン・エアバッグは、車が何回も横転するような状況が続いている間、自動車の内部において多数回しかも繰り返して起こる衝撃に対し乗客を保護するために、比較的長時間の間広がったままの状態でいるようにつくられている。大きなエネルギーを吸収する潰れた区域と前方のエアバッグとの両方から自動車の前方の座席の乗客が利益を得ることができるような前方の衝突の場合と異なり、側面の衝突ではサイドーカーテンおよび側面のエアバッグの補助となるような非常に有効な補助手段は存在しない。その結果、サイドカーテン・エアバッグは乗客との間で間隔を維持するために高い内部圧力をもつように動作し、また乗客を車の内部に保持するためにその長さに沿って比較的高い張力で動作するように設計されている。
【0019】
これらの条件は、エアバッグが膨張して広がってゆく際早期の段階で達成され、横転した状態にある長い間に亙って維持される必要がある。即ち衝突した場合カーテンを短い時間で配置できることにより軸方向の張力と組み合わされた高い慣性および圧力の負荷が生じるが、このことには高強度の糸が極めて重要である。
【0020】
サイドカーテン・エアバッグに対する技術的な要求では、177℃において空気中で測定した収縮率が5%より小さく、80cN/tex以上の強度をもち、エアバッグまたは同様な繊維布に使用するのに適したレベルの品質を有する高品質の糸が必要なことが強調されている。
【0021】
高強度のポリアミド糸およびこのような糸からつくられた繊維布を製造し実用化する関連技術の説明を考慮し、典型的には低収縮性とは特徴付けられない糸からこのような高強度の繊維布を製造する際の製造上の非効率性を考えれば、強度が80cN/tex以上であり、高温空気による収縮率(ASTM D 4974による)が5%より小さい多フィラメントポリアミド糸を効率的に製造する改善された方法を提供することは有利であり且つ望ましいことであろう。このような繊維布はエアバッグを含む工業的な用途に特に望ましいでと思われる。
【本発明の概要】
【0022】
本発明に従えば、強度が80cN/tex以上であり、177℃において測定された収縮率が5%より小さく、且つ940decitexより小さい多フィラメントポリアミド糸が提供される。本発明はさらにこのような糸からつくられた繊維布、特に高強度および寸度安定性が必要とされる特徴をもった工業用の織物材料に関する。本発明の目的の一つであるこれらの糸および繊維布は自動車のエアバッグの用途に特に適している。
【0023】
一具体化例においては、本発明の多フィラメント糸は1〜9decitex/フィラメント(dpf)の線密度を示す個々のポリアミドフィラメントの多数を含んで成り、得られた糸は線密度が110〜940decitexの範囲にある。
【0024】
本発明の糸は熔融紡糸可能なポリアミドを含み、これはポリアミド単独重合体、共重合体、および主として脂肪族の、即ち重合体のアミド結合が二つの芳香環に連結している割合が85%より少ないこれらの混合物から成る群から選ばれる。本発明に従えば、広く使用されてるポリアミド重合体、例えばポリ(ヘキサメチレンアジパミド)、即ちナイロン6,6およびポリ(ε−カプロラクタム)、即ちナイロン6、およびそれらの共重合体および混合物を使用することができる。一具体化例においてはポリアミドはナイロン6,6である。
【0025】
本発明のさらに他の具体化例においては、織物または編物の繊維布、例えば被覆しない織物繊維布または他の製造製品は本発明のナイロン多フィラメント糸からつくられ、特定の一具体化例においてはこのように製造された繊維布の空気透過率は500Paにおいて100L/dm/分(ISO 9237に従って測定)より小さい、例えば1〜30L/dm/分または1〜10L/dm/分の範囲の静的空気透過率を示す。本発明のさらに他の具体化例においては、被覆された織物繊維布または他の製造製品は本発明のナイロン多フィラメント糸からつくられ、特定の一具体化例においてはこのようにつくられた繊維布は0.01〜3.0L/dm/分の範囲の静的空気透過率を示し、シリコーン、ポリウレタン、およびこれらの混合物および反応生成物から成る群から選ばれる重合体を含んで成る適当な被覆を有している。本明細書において使用されるように、シリコーンおよびポリウレタンはそれぞれ各共重合体を含むものとする。本発明のこの態様に従ってつくられた繊維布は自動車のエアバッグの用途に特に適している。
【0026】
本明細書においてなされた本発明の説明には、繊維布およびフィルムを含んで成る積層構造物を含んで成っている複合繊維布が包含されており、ここで該フィルムは密度が5〜130g/mの範囲にあり、該フィルムが選ばれる群はシリコーン、ポリウレタン、およびそれらの混合物および反応生成物から成っている。
【0027】
他の具体化例においては、本発明の糸からつくられた織物繊維布は対称的なまたは非対称的な織物構造をもつことによって特徴付けられている。即ち繊維布は、これらの多フィラメント糸が縦糸および横糸の両方の方向に織り込まれているか、或いはこれらの糸が縦糸方向だけまたは横糸方向だけに使われるように構成されていることができる。後者の非対称的なタイプの構成は、繊維布の収縮を横糸方向において特定的に最低限度に抑制することが望ましい用途に有用である。
【0028】
さらに本発明は多フィラメントポリアミド糸を製造する紡糸−延伸法を含んでいる。この方法は(a)熔融したナイロンを蟻酸における相対粘度約40〜約85において多重キャピラリー紡糸口金を通して押出して多数のフィラメントにし、次いでこれを急冷区域に通し;(b)フィラメントを融合して多フィラメント糸にし、この糸に潤滑用の紡糸仕上げ剤を被覆し;(c)少なくとも一つの供給ロールによりこの糸を少なくとも二つの対の駆動される延伸ロールから成る延伸区域へと向かわせ、ここで一つの対の内部の各ロールを同じ周辺速度で回転させ、また各対はその前にある対よりも比較的速い周辺速度で回転させられ;(d)該延伸ロールの各対の周りに少なくとも2回糸が巻き付くようにし;(e)これらの対のロールを直接取り囲む区域を高温の乾燥した空気で加熱するか、またはロールを加熱するか、或いはこの両方を組み合わせることにより、糸が延伸ロールの第2の対または随時付け加えられた対の上を通過する際に該糸を約160〜約245℃の温度に加熱し;(f)各対の延伸ロールおよび隣接した対の延伸ロールの間でロールの相対的な周辺速度を調節し、糸が延伸ロールの第2の対および随時付け加えられた延伸ロールの
対の上を通る際に糸の温度を調節し、糸が延伸ロールの各対を横切る際糸に対して賦与される延伸の程度を増加させ、最後に糸の全延伸比が約4.2〜約5.8になるようにし;(g)第1の駆動される張力弛緩ロールおよび第2の駆動される張力弛緩ロールから成る張力弛緩調節区域へと糸を導き、ここで糸がまさに出てくる最後の対の延伸ロールに比べ該第1のロールが遅い周辺速度で回転し、且つ第2の張力調節ロールよりも遅い速度で回転するようにし、このようにして張力弛緩調節区域の中における第2のロール対第1のロールの周辺速度の比を約1.01:約1.07、1.01:1.04、或いはまた1.02:1.034になるようにし、且つ糸が延伸区域を出る際に糸にかかる張力よりも高い安定した糸の張力が維持されるようにし;(h)糸をインターレース用のジェットに向かわせ;(i)張力弛緩調節区域の第2のロールよりも比較的速い周辺速度で回転する巻取りロールへと糸を向かわせて巻取り中安定な張力が維持されるようにし、且つ張力弛緩調節区域を横切る糸には最後の対の延伸ロールから出る糸よりも高い張力がかかり、且つ糸が巻取りロールに巻取られる際よりも低い張力がかかるようにする段階を含んで成っている。
【0029】
本発明は添付図面と関連して記載されている下記の詳細な説明からさらに良く理解できるであろう。下記に添付図面の簡単な説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、それぞれ初期の織り目密度の範囲に亙って織られた、引張り強度および収縮率が異なった2種の糸に対する繊維布の収縮率と繊維布の最終織り目密度の間の関係を示すグラフである。
【図2】図2はポリアミド繊維を延伸−紡糸する装置の模式図であり、この装置は本発明に従った張力弛緩調節区域を含んでいる。
【図3】図3はポリアミド繊維を延伸−紡糸する従来法の装置の模式図であり、この装置は同じ速度で走行する2個の張力弛緩ロールを含む単一の張力弛緩区域を含んでいる。
【0031】
下記の発明を実施するための形態を通じて添付図面のすべての数字は同様な構成要素に対しては同様な参照番号が付けられているものとする。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は高強度、低収縮性のポリアミド多フィラメント糸、および工業的並びに他の需要がある用途に使用するためのそれからつくられた繊維布に関する。さらに本発明はこのような糸のの製造法に関する。
【0033】
本発明の高強度の工業用糸は、その特定の最終用途に依存して、110〜940decitexの範囲の線密度をもつようにつくることができる。本発明の糸が特に適している最終用途の一例は自動車用エアバッグの製造である。エアバッグ用の繊維布の製造に使用する目的の本発明の高強度の糸は、約235〜約940decitex、もっと典型的には約235〜470decitexの範囲の線密度をもつようにつくることができ、成分のモノフィラメントは典型的には9dpf以下である。任意の合理的なdecitexを使用することができる。低デニールの糸は軽さと細さを与えるが強度が小さくなり、同じ被覆面を与えるのに多くの織り目を必要とするので価格が高くなる。糸の線密度が約235decitexより小さいと、典型的には繊維布の引張り強さおよび引裂き強さはエアバッグの規格を満たすのに不十分であろう。高デニールの糸(例えば約470decitex以上)は折り畳むことが困難な重く厚い繊維布を生じる傾向があり、また装置の小型化との間で折衷を行う必要がある。上記のすべての理由のために高強度糸が利点をもっていることは当業界の専門家には明らかであろう。
【0034】
本発明の方法および糸に使用するのに適し、エアバッグおよび他の高強度の工業的用途に対する必要性を充たした重合体は、ポリアミドの単独重合体、共重合体、および主として脂肪族の、即ち2個の芳香環に連結しているアミド結合が重合体の85%より少ないこれらの重合体の混合物から成る群から選ばれる溶融紡糸可能な重合体を含んで成っている。例えばポリ(ヘキサメチレンアジパミド)、即ちナイロン6,6およびポリ(ε−カプロアミド)、即ちナイロン6のような広く使用されているポリアミド重合体およびそれらの共重合体並びに混合物を本発明に使用することができる。
【0035】
自動車用のエアバッグは本発明の糸および繊維布の特に適した用途と考えられているが、これらの糸およびそれからつくられた繊維布の高強度、低収縮性の特性は他の多くの工業的用途にも役立つことを認識すべきである。これらの用途には、これだけには限定されないが縫糸、硬化包装テープ、剥離性多重繊維布、被覆したまたは被覆しない工業用繊維布、および同様な特性を必要とする他の用途が含まれる。
【0036】
加熱、水性浴中での処理またはこれらの組み合わせを行った際に繊維布が示す収縮の程度は糸の固有の収縮性および織り目の密度の関数である。図1は2種の糸に対して測定したデータを示す。このデータは繊維布の収縮率(「未処理」の状態における横糸に平行な繊維布の寸法とスコアリングおよび乾燥を行った後の同じ繊維布の寸法の差として定義される)と横糸に平行に測定された1cm当たりの本数によって表された最終的な繊維布の密度との間の関係を示している。上方の曲線は強度84cN/tex、177℃の高温空気による収縮率6.6%の従来のエアバッグ級の繊維布の典型的な状態を表している。この繊維布の糸は連結した紡糸−延伸法によってつくられている。この曲線に沿った個々のデータ点は繊維布の収縮は徐々に減少し織り目の密度は増加していることを示しているが、これは初期の(即ち収縮させる前の)織り目密度を次第に高くした繊維布について測定されたデータ点である。下方の曲線は強度71cN/tex、177℃の高温空気による収縮率2.2%の繊維布に対するデータの典型的な状態を表している。この繊維布の糸は連結しない紡糸−延伸法、即ち「二段階」法でつくられている。予想できるように、比較的高い織り目密度に織られた繊維布は比較的目の粗い繊維布よりも小さい収縮性をもっていることができる。またこれらのデータから明らかなように、糸の収縮性が減少することは、エアバッグの製造業者が多数のサイドカーテンを製造し得る能力、或いは1枚の繊維布の生地から幅の広いカーテンを同じ数だけ製造することができるこ能力にとって良い効果を与える。
【0037】
本発明の糸は最低強度が80cN/texであり、高温空気による収縮率(ASTM D 4974により177℃で測定)が5%より小さく、例えば2.5〜4.9%の範囲にある。この特性の組み合わせはエアバッグの用途に特に有利であることが見出だされている。特に、(1)膨張して広がることができるクッションは膨張過程の早期の段階において高い張力に耐えなければならず、膨張した後には一層長時間に亙ってさらに高い張力に耐えなければならない場合;また(2)織った後にスコアリングおよび乾燥操作を行う際、エアバッグをつくるのに使用される繊維布の生地の収縮性が小さいことによってさらにこの繊維布を高度の用途に使用できる場合には有利である。
【0038】
図2を参照すれば、高強度、低収縮性のポリアミド糸を製造するための本発明による方法が記載されている。蟻酸における相対粘度が40〜85(ASTM D 789により測定)の当業界に公知の方法でつくられた溶融したナイロンを、通常の押出し機(図示せず)を用いて多重キャピラリー紡糸口金板を備えた紡糸フィルターパック10に通す。これによって溶融した重合体はキャピラリーを通って紡糸されて多数のフィラメントになり、これは急冷区域20で冷却され、次いで潤滑用の紡糸仕上げ剤被覆機30のところで融合され、ここでほぼ純粋な油性仕上げ剤が多フィラメント糸35に被覆される。次に糸は少なくとも1個の供給ロール40により第1の対の駆動された延伸用のゴデットロール5
0の方へと向かう。糸はこの延伸ロール50の対の周りに多数回巻き付けられる。延伸ロール50はそれぞれ同じ周辺速度で回転しており、糸はそれぞれ回転軸に沿って横方向にずらされて巻き付けられる。
【0039】
延伸された糸35を一対の駆動された延伸用ゴデットロール70の方へ進ませ、それぞれ延伸ロール70の周りに回転軸に沿って横方向にずらして糸を巻き付けることにより、糸はさらに延伸される。両方のゴデットロール70は同じ速度で回転しているが、ロール50よりも相対的に速い周辺速度で回転している。ゴデットロール70の間の区域によって表される延伸区域の中の糸は160〜245℃、例えば205〜215℃に加熱される。この加熱は、乾燥した高温の空気を用いて延伸区域を加熱するか、および/またはロールを加熱することによって行われる。ゴデットロール50の間の区域によって表される第1段階の延伸区域に対しても同様な加熱を随時行うことができる。糸の延伸は任意の数の段階で行うことができる。即ち少なくとも1個の供給ロール40とゴデットロール50との間に余分の組のロールを挿入し、ゴデットロール70で表される最後の延伸ロールから出る糸に対して所望の延伸比が得られるまで、各組のロールにより僅かに高い延伸度が賦与されるようにすることができる。強度が80cN/tex以上のナイロン6,6の糸をつくるには、約4.2〜約5.8、例えば約4.7〜約5.4の延伸比が適当であることが見出だされている。
【0040】
延伸用ゴデットロール70から、駆動されたロール90および100の間の区域によって表される加熱されていない張力弛緩調節区域へと糸を前進させる。これらの駆動されたロール90および100の両方は付属した分離ロール91および92を有している。糸線はこれらの駆動されたロールの各々の周りに巻き付けられ、次いで角度をもって取り付けられた付属した分離ロールへと進められ、ここで糸線は駆動されたロールの上の巻き付けられた糸線に重ならないようにして前進させられる。分離ロールを駆動する糸の摩擦も、適切な張力を与えることによって糸を安定化させる。本発明の一方法においては、張力弛緩調節区域の張力を減少させるロール90は延伸ロール70よりも遅い周辺速度で回転している。このようにして、糸がロール70と90の間を移動する際に最終延伸段階で維持された糸の高い張力が弛緩され、これによって糸が特定の最終用途の要求に対して所望の収縮(5%より小さい)を得るように収縮が弛緩される。
【0041】
張力調節ロール100およびそれに付属した分離ロール92は張力を減少させるロール90およびそれに付属した分離ロール91よりも速い周辺速度で回転する。この方法でロール90および100の相対的な周辺速度を調節することにより、張力弛緩調節区域の中の糸の張力は最終延伸段階の糸の張力よりも高いレベルに維持され、これによって糸線を確実に安定化することができる。ロール100対ロール90の周辺速度の比は約1.01:約1.07、好ましくは約1.01:約1.04、最も好ましくは約1.02:約1.034である。第1の張力減少ロール90はその周りに糸は1回またはそれよりも少ない回数で巻付けられていることが重要である。このロールの上にさらに多くの巻付けが行われている場合、糸の長さが増加し、それに伴ってこのロール上の滞在時間が長くなることにより過剰の冷却が行われ、そのため糸線が不安定になり、その結果フィラメンテーション、即ちフィラメントの広がり、および糸線の切断が生じる可能性がある。
【0042】
弛緩させ張力を調節した後、糸をインターレース用の空気ジェット105に通す。
【0043】
方向変換ロール110により適切な位置に配置した後、ロール100よりも速い周辺速度で回転する巻取りロール120の方へ糸を向かわせる。
【0044】
本発明の一具体化例においては5%より小さい収縮を得るために、典型的には最終延伸段階(ロール70)を出る糸の張力を減少させ、約9〜16.5%の弛緩比が得られるよ
うにすることが必要である。弛緩の割合の正確な値は延伸区域の温度に依存する。最終段階の延伸区域の温度が高いほど最終延伸段階と張力減少ロール90との間の糸の許容できる張力は高くなり、従ってこの糸の弛緩は大きくなる。一具体化例においては、約210℃の最終延伸段階の温度は約12〜約13%の弛緩比に対応している。弛緩比は式2によって定義される。

弛緩比(%) = ((R70−R90)/R70)×100 [2]
ここで
70はロール70の周辺速度であり、
90はロール90の周辺速度である。
【0045】
この弛緩比は延伸ロール70および第1の張力減少ロール90の相対的な周辺速度を調節することによって得られる。糸の良好なパッケージをつくるためには、ロール90を出る糸の張力を巻取りロール120の所における糸の張力より低くしなければならない。従って弛緩張力調節区域は、弛緩調節用の張力(ロール90および100の間)を最終段階の延伸(ロール70)および巻取り区域(ロール120)から分離し、糸の張力を最終段階の延伸区域(ロール70)の中の糸の張力より高く、巻取りロール120上に巻取られた際の糸の張力より低い一定のレベルに保つような形をしている。
【0046】
本発明の方法に従えば、80cN/tex以上の強度に対する要求および5%よりも小さい収縮に対する要求の両方を満たすことができる十分に配向した糸が得られる。
【0047】
紡糸時の処理性および他の後処理を改善する目的で、また他の或る種の望ましい性質を賦与するために、種々の添加物をフィラメント/糸の内部に混入するか、またはフィラメント/糸に対して局所的に添加することができる。このような添加物には、これだけには限定されないが例えば酸化防止剤、熱安定剤、平滑化剤、帯電防止剤、および燃焼遅延剤が含まれる。
【0048】
直ぐ上に記載した方法で製造された糸を織りまたは編んで本発明の繊維布をつくるには、全く通常の方法で行うことができる。本発明の糸から織物繊維布をつくるには、多数の縦糸の中に横糸を挿入するために空気ジェット、水流ジェットまたは機械的な方法(例えばプロジェクティル織機またはレピア織機)を用いて織機上で製造することができる。
【0049】
当業界の専門家には理解できるように、織る前にサイジング化合物と呼ばれる化学的な化合物を糸に被覆し、摩擦力、熱の蓄積、および織物工程中糸が可動部材または他の糸と接触することによって生じる摩耗による損傷を抑制する。このようなサイジング化合物は糸の一体性を維持するように潤滑剤および/または保護剤として作用する。ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアセテート、澱粉、ゼラチン、オイルまたはワックスのようなサイジング化合物を使用することができる。
【0050】
本発明の織物繊維布は次の二つの目的で水性処理を行うことができる:(1)紡糸法に用いられた紡糸用の仕上げ剤および織物工程に用いられたサイジング化合物の除去、および(2)糸の中の潜在的な収縮の弛緩。いつかエアバッグが膨張して広がることが必要になる前に該繊維布が過ごす典型的な長い貯蔵時間の間バクテリアの成長を避けるため、および後で随時行われる空気非透過性の皮膜と相容性をもたない、これを妨害すると思われる残留した表面物質を除去するためには、糸から処理助剤を除去することが重要である。繊維布に寸度安定性を獲得させ、織り目構造を密にすることに伴って起こるガス透過性を低下させるためには、潜在的な収縮を弛緩させることが重要である。
【0051】
本発明の繊維布の製造にレピア、プロジェクティルまたは空気ジェット織機を使用する
場合、水性処理は60〜100℃、例えば90〜95℃に保たれた水性浴の中で行われる。湿式処理の時間および使用される浴の添加物(例えばスコアリング剤)は除去すべきサイジング/防止用仕上げ剤に依存し、当業界の専門家によって決定することができる。水性処理の後で、残留水分含量を4〜6%にするために、ポリアミドの繊維布を140〜160℃、例えば140〜150℃の範囲の高温において高温空気中で乾燥する。高温空気による乾燥温度を160℃以下に保ち低い空気透過度を得ることが望ましい。過度に高い温度で加熱するか長期間加熱すると、水分含量が低い値になり、水分の再吸着およびそれに伴う織物構造物の不安定化が起こる可能性がある。しかし繊維布を被覆しようとする場合には170〜225℃の範囲の高温で乾燥することが望ましいこともある。
【0052】
本発明のポリアミド繊維布を織る場合水流ジェット織機を使用することは特に有利である。何故なら、織機自身で水を使うことにより、紡糸仕上げ剤およびサイジング化合物を除去するための他の水性処理工程が省略されるからである。事実、水流ジェット織機を使用する場合にはサイジング化合物の使用を省くことができる。しかし、繊維布を収縮させ安定化させる必要から、なお高温の水で処理することがしばしば必要である。本発明の糸および繊維布におけるように収縮が十分に小さい場合、このような収縮は高温の棒、赤外線装置、或いは他の放射加熱装置を使用して行うことができる。
【0053】
エアバッグ用の繊維布に使用する目的の本発明の繊維布は500Paにおいて1〜30L/dm/分、例えば1〜10dm/Lの範囲の低いガス透過率を示すことができる。このような透過率の値は当業界の専門家によって認められているように被覆しない繊維布を用いて得ることができる。0に近い透過率が必要とされる場合には、当業界の専門家には公知のように被覆が必要である。
【0054】
織り目を非常に密にすることは低いガス透過率を得る一つの方法である。本発明の範囲内の糸は低い収縮率(5%より小さい)をもっているから、最終的な織り目密度(水性処理の後)に寄与するために収縮の小さい繊維布を用いることができ、従ってそれに応じて原料の織り目の構造を高くしなければならない。このような構造をつくる方法は機械的な織機および流体ジェット織機の両方に対して知られており、これらの方法のいずれか、または所望のレベルのガス透過率を得ることができる当業界に公知の同様な方法が適している。
【0055】
非常に緻密なまたは比較的密度の低い織物繊維布のいずれかを用いて低いガス透過率を得る他の方法は、繊維布の少なくとも片面にガスを透過しない皮膜を5〜130g/mの範囲の量で被覆する方法である。ナイフ、ローラ、浸漬、押出し、または他の被覆法を用いて繊維布を被覆することができる。この目的に有用な皮膜はシリコーン、ポリウレタン、およびそれらの混合物および反応生成物から成る群から選ばれる重合体を含んで成っている。
【0056】
本明細書において使用される場合、シリコーンおよびポリウレタンはそれぞれその共重合体を含んでいるものとする。このリストは本発明を限定するものではなく、同じ機能を果たしエアバッグ繊維布の必要な性質または性能パラメータを損なわない他の被覆も使用することができる。
【0057】
非常に緻密なまたは比較的密度の低い織物繊維布のいずれかを用いて低いガス透過率を得るさらに他の方法は、繊維布とフィルムの積層構造物をつくり、この場合フィルムによって与えられる被覆率を5〜130g/mにすることを特徴とする方法である。この目的に有用なフィルムはシリコーンおよびポリウレタン、並びにその混合物および反応生成物から成る群から選ばれる。このリストは本発明を限定するものではなく、同じ機能を果たしエアバッグ繊維布の必要な性質または性能パラメータを損なわない他の被覆も使用することができる。
【0058】
エアバッグ用繊維布に対して用いられるポリアミド糸は、一般に高温空気による収縮(177℃で測定)が5〜15%の糸からつくられる。このような接触繊維布に必要とされる低い透過率を得るには緻密な繊維布が必要であり、これらの比較的高いレベルの収縮率は湿式処理の際糸を弛緩させることによりその目的を達成する助けとなる。
【0059】
本発明の織物繊維布は典型的には60〜100℃、例えば90〜95℃において水性浴中で処理を行い、その後で繊維布を弛緩させてもっと緻密にするために随時乾燥を行う。この湿式処理は織る前に被覆されたサイジング剤を除去する役目をする。このことは,いつか膨張して広がることが必要になる前に繊維布が典型的に過ごす長い貯蔵期間の間バクテリアの侵襲を防ぐために有利である。また水性浴は繊維の紡糸の際に得られる糸の上の紡糸用仕上げ剤を除去する役目をする。水性浴で処理した後、好ましくはそれよりも高い温度で高温空気による乾燥を行う。空気透過率が低いことが望ましい場合、高温空気による加熱工程は160℃以下に保たなければならない。過剰な高温における加熱は水分を再吸収し、繊維布の貯蔵時間が長くなると織物構造が不安定になる。被覆が必要な場合には、典型的には170〜225℃の範囲の高温を使用することができる。
【0060】
この湿式処理の時間および使用する浴添加物は除去すべきサイジング剤/仕上げ剤に依存し、当業界の専門家によって決定することができる。湿式処理により適切な程度の弛緩が得られ、従って所望の空気透過率を得るための繊維布の密度が得られる。
【0061】
本発明の糸から織物繊維布を製造する工程は、流体ジェットまたは多数の縦糸の間に横糸を挿入するための機械的装置を用いる織機によって行われる。水流ジェット、空気ジェット、プロジェクティルまたはレピア織機を含む極めて通常の織物装置を使用することができる。
【0062】
当業界の専門家には理解できるように、織る際に糸の機械的一体性を強化するためにサイジング化合物と呼ばれる化学的な化合物を局所的に被覆する必要がある。使用できるサイジング化合物は典型的にはポリアクリル酸であるが、他の重合体、例えばポリビニルアルコール、ポリスチレン、およびポリアセテートも同様に使用することができる。サイジング化合物は典型的には高強度糸の機械的一体性を強化するのに効果的であるが、このようなサイジング剤は繊維布をエアバッグ構造物にする前に繊維布に被覆するのに使用される重合体化合物と相容性をもたない糸のオイル分を閉じ込める傾向をもっている。従って被覆操作の前に繊維布をスコアリングして乾燥することにより、サイジング化合物並びに閉じ込められた糸のオイル分を除去することは推奨される方法である。
【0063】
エアバッグまたは他の工業用繊維布に使用でき、水流ジェット織機で織られた繊維布をつくることは特に有用な利点をもっている。この方法で織ると、糸にサイジング化合物を被覆することの好適度が少なくなるか、または必要なくなる。また、紡糸中に被覆された糸のオイル分は織り工程自身の間に除去されるから、別に行うスコアリング工程は最早必要ではない。
【0064】
これとは対照的に、サイジング化合物を被覆しない糸と共にレピアまたは空気ジェット織機を使用すると、織物工程の間に巻き付けられた糸が縦糸の貯蔵器の中に挿入された可動部材と接触することによって生じる熱の蓄積と摩耗による許容できない糸の損傷を生じる。水ジェット織機を使用すると、このような熱の蓄積および摩耗による糸の損傷が避けられる。何故なら横糸を縦糸の貯蔵器を通して挿入する際、縦糸は可動部材と接触しないからである。
【0065】
水流ジェット織機を用いると典型的にはレピア織機を用いる場合よりも低い密度の織り目が得られる。サイジング化合物を被覆しない糸を水流ジェット織機で織るために米国特許第5,421,378号明細書記載のような方法を用い、スコアリングを必要とせずにレピア織機で得られるのと同等な織り目の密度をもった繊維布をつくることができる。
【0066】
本発明の繊維布について通常の後処理を用いることができる。特定的に云えば、例えば20〜40g/mのシリコーンゴムのような繊維布に対する被覆を使用する場合、この被覆によって繊維布の静的空気透過率を修正し、0.01〜3.0L/dm/分の範囲のほぼ0に近い空気透過率を得ることができる。本発明の繊維布に対しては皮膜を被覆するための極めてありふれた皮膜および方法が適している。
【0067】
紡糸および他の後処理の処理性を改善し、或る種の他の望ましい特性を賦与する目的でフィラメント/糸の内部にまたは局所的に種々の添加物を混入することができる。このような添加物には、これだけには限定されないが、例えば酸化防止剤、熱安定剤、平滑化剤、帯電防止剤、および燃焼遅延剤が含まれる。このような添加物を混入しても本発明の利点が減少することはない。
【0068】
上記具体化例および下記実施例に記載の具体化例は例示のためだけの目的で記載されている。添付特許請求の範囲に入る本発明の多くの他の具体化例は当業界の専門家には明らかであろう。
【0069】
試験法
下記実施例においては下記の試験法を用いた。
【0070】
decitex(ASTM D 1907)はg数の単位で表した糸またはフィラメント10kmの繊維の線密度である。decitex(通常dtexで表す)は巻き付け回転機(wrap wheel)を用いパッケージから取り出した糸のかせ(skein)の重量を決定することによって測定される。
【0071】
糸の破断力(ASTM D 885)は米国マサチューセッツ州、CantonのInstron社製の定速伸長性(CRE)引張り試験機を用い、1m当たり120回の撚りを含む糸の破断力を決定することによって測定される。糸のゲージ長は250mmであり、伸長の速度は300mm/分である。破断力はNewton単位で報告される。
【0072】
破断時における糸の強度(tenacity)および伸びはASTM D 885によって測定される。破断時における強度は糸の破断力をdecitexで割った値の最大値であり、cN/tex単位で報告される。
【0073】
繊維布の破断力はISO 13934−1に従って測定される。
【0074】
糸の高温の空気による収縮は、ASTM D 4974に従い、弛緩した糸に0.44cN/tex,±0.088cN/texの特定の張力の負荷をかけ、乾燥した空気中で177℃において2分間の間測定される。
【0075】
下記実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。本発明の顕著な特徴をもたない対照例と比較することにより本発明の特に有利な特徴を見ることができる。
【実施例】
【0076】
下記実施例に特徴を記述されたすべての糸は、丸い断面をもつナイロン6,6から熔融
紡糸された糸である。重合体中には熱安定剤添加物のパッケージが存在していた。この糸は連結された延伸−巻取り段階を有する通常の熔融紡糸法を用いてつくった。糸の重量に関し1%の公称装荷量で糸にオイルを被覆した。
【実施例1】
【0077】
本発明を例示する試料1は図2に示されるような張力弛緩調節段階が付け加えられた紡糸−延伸法を用いてつくった。残りの実施例は対照例であり、それぞれ識別文字のついた番号によって区別され、それぞれ図3に図示されている。(図3においては、多フィラメント糸35はそれぞれ付属した分離ロール41および46を備えた一対の供給ロール40および45によって延伸ロールへと供給される。)対照試料はそれぞれ試料1と同様に紡糸延伸されたが、図3に示された張力弛緩段階は連結された一対の弛緩張力減少ロール100を用いて行われた。これらの各ロールは同じ速度で回転するが、延伸ロール70よりも遅い速度で回転している。安定な糸線を維持することができるこの張力弛緩区域の中で最低の張力を観測することにより、張力を減少させる量、従って得られる最低の収縮の量を決定した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1のデータから、試料1、即ち本発明に従ってつくられた糸だけが少なくとも80cN/texの収縮前の強度をもち、高温空気による収縮率が5%より小さいという所望の規格を満たしていることは明らかである。
【実施例2】
【0080】
表2に結果をまとめた本実施例においては、織物繊維布は本発明の糸または対照の糸を用いて水流ジェット織機上でつくる。すべての場合において、糸は140のフィラメント番手を有する470decitex糸である。本発明の糸には数字の標識を付け、対照試料は文字の標識の後につけた数字によって識別を行う。本発明の糸は、本発明を例示した糸について実施例1に記載した方法と同じ方法で製造する。対照糸は実施例1の対照糸に対して記載したのと同じ方法で製造したが、糸の延伸および弛緩の程度は種々の値の強度および収縮が得られるように変化させた。すべての結果は被覆しない繊維布について得られたものである。
【0081】
本発明の糸を使用すると、同等な強度をもつ従来入手できた高強度糸に比べ、繊維布の収縮性が減少した比較的低い透過率をもつ繊維布を製造し得ることは明らかである。また従来得られる低収縮性の糸に比べて低い空気透過率をもった強度の大きい繊維布を製造し得ることも明らかである。
【0082】
【表2】

【実施例3】
【0083】
結果を表3にまとめた本実施例においては、ワンピース織り空気ジェット織機(One−Piece−Woven(OPW)air−jet loom)の上で織物繊維布をつくる。本発明の繊維布には数字の標識を付け、対照の繊維布は文字の標識の後につけた数字によって区別する。本発明の糸および表3に記載された繊維布の製造に使用する対照の糸は実施例2で本発明を例示した糸について記載した方法と同じ方法で製造する。
【0084】
従来入手できる高強度の糸からつくられた繊維布よりも幅が広く、且つそれと同等な強度をもった極めて高い強度のエアバッグクッション(織機の幅当たり4個)をつくるために本発明の糸を使用できることは明らかである。従って繊維布の製造効率は最高になる。
【0085】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度が80cN/tex以上、高温空気による収縮率が177℃において5%より小さく、線密度が940decitex以下であることを特徴とする多フィラメントポリアミド糸。
【請求項2】
ポリアミドはポリアミド単独重合体、共重合体、およびそれらの主として脂肪族の、即ち重合体の85%より少ないアミド結合が二つの芳香環に結合している混合物から成る群から選ばれる熔融紡糸可能な重合体を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の多フィラメント糸。
【請求項3】
ポリアミドはポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6,6)含んで成ることを特徴とする請求項1記載の多フィラメント糸。
【請求項4】
該糸を構成する個々のフィラメントは1〜9dpfであり、該糸の線密度は110〜940decitexの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の多フィラメント糸。
【請求項5】
請求項1記載の糸からつくられた製造製品。
【請求項6】
請求項1記載の糸を製造するための紡糸−延伸法において
(a)熔融したナイロンを蟻酸における相対粘度約40〜約85において多重キャピラリー紡糸口金を通して押出して多数のフィラメントにし、次いでこれを急冷区域に通し;
(b)フィラメントを合体して多フィラメント糸にし、この糸に潤滑用の紡糸仕上げ剤を被覆し;
(c)少なくとも一つの供給ロールによりこの糸を少なくとも二つの対の駆動される延伸ロールから成る延伸区域へと向かわせ、ここで一つの対の内部の各ロールは同じ周辺速度で回転させ、また各対はその前にある対よりも比較的速い周辺速度で回転するようにし;
(d)該延伸ロールの各対の周りに少なくとも2回糸が巻き付くようにし;
(e)これらの対のロールを直接取り囲む区域を高温の乾燥した空気で加熱するか、またはロールを加熱するか、或いはこの両方を組み合わせることにより、糸が少なくとも二つの対の延伸ロールの上を通過する際該糸を160〜245℃の温度に加熱し;
(f)各対の延伸ロールおよびそれに続く対の延伸ロールの間でロールの相対的な周辺速度を調節し、糸が少なくとも二つの対の延伸ロールの上を通る際に糸の温度を調節し、糸が延伸ロールの各対を横切る際糸に対して賦与される延伸の程度を増加させ、最後に糸の全延伸比が4.2〜5.8になるようにし;
(g)第1の駆動される張力弛緩ロールおよび第2の駆動される張力弛緩ロールから成る張力弛緩調節区域へと糸を導き、ここで該第1のロールを糸がまさに出てくる最後の対の延伸ロールに比べ遅い周辺速度で回転させ、このようにして約9〜約16.5%の弛緩比が得られるようにし、且つ該第1のロールを該第2のロールより低い速度で回転させ、このようにして張力弛緩調節区域の中における第2のロール対第1のロールの周辺速度の比が約1.01:約1.07になるようにし、且つ糸が延伸区域を出る際に糸にかかる張力よりも高い安定した糸の張力が張力弛緩調節区域の中において維持されるようにし;
(h)糸をインターレース用のジェットに向かわせ;
(i)張力弛緩調節区域の第2のロールよりも比較的速い周辺速度で回転する巻取りロールへと糸を向かわせて巻取り中安定な張力が維持されるようにし、且つ張力弛緩調節区域を横切る糸には最後の対の延伸ロールから出る糸よりも高い張力がかかり、且つ糸が巻取りロールに巻取られる際よりも低い張力がかかるようにする段階を含んで成っていることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の糸を含んで成ることを特徴とする織物または編物繊維布。
【請求項8】
請求項7記載の繊維布からつくられたことを特徴とする製造製品。
【請求項9】
空気の透過率が500Paにおいて100L/dm2/分より小さいことを特徴とする請求項7記載の被覆しない織物繊維布。
【請求項10】
空気の透過率が1〜30L/dm2/分の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の被覆しない織物繊維布。
【請求項11】
空気の透過率が1〜10L/dm2/分の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の被覆しない織物繊維布。
【請求項12】
5〜130g/mの装荷量で皮膜が被覆され、皮膜はシリコーン、ポリウレタン、およびそれらの混合物および反応生成物から成る群から選ばれる重合体を含んで成ることを特徴とする請求項7記載の繊維布。
【請求項13】
空気の透過率は2L/dm/分より小さいことを特徴とする請求項12記載の被覆した繊維布。
【請求項14】
フィルムが5〜130g/mの範囲の密度をもち、該フィルムがシリコーン、ポリウレタン、およびそれらの混合物および反応生成物から成る群から選ばれる重合体を含んで成る該フィルムと、繊維布との積層化された構造物を含んで成っていることを特徴とする請求項7記載の繊維布。
【請求項15】
請求項11記載の繊維布を含んで成ることを特徴とするエアバッグ。
【請求項16】
請求項13記載の繊維布を含んで成ることを特徴とするエアバッグ。
【請求項17】
請求項11記載の繊維布を含んで成るワンピースの形に織られたエアバッグ。
【請求項18】
請求項13記載の繊維布を含んで成るワンピースの形に織られたエアバッグ。
【請求項19】
横糸に対して平行に配向している請求項1記載の多フィラメント糸を含んで成ることを特徴とする繊維布。
【請求項20】
縦糸に対して平行に配向している請求項1記載の多フィラメント糸を含んで成ることを特徴とする繊維布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−503374(P2011−503374A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532652(P2010−532652)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003695
【国際公開番号】WO2009/060179
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】