説明

高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機

【課題】 高水圧等に対応可能な安全性の高い低コストのパイプルーフ工法用掘進機を提供する。
【解決手段】 前胴11aと後胴11bを方向修正用ジャッキ12で中折れ可能に連結し、前胴11aと後胴11bはその中折れ部分以外を推進用鋼管21と同じ外径及び材質の鋼管で構成し、開口された隔壁11cを前胴11aに一体的に取り付け、カッター13aと排土管14を備えた掘削装置13を前記隔壁11cの開口に後ろ側へ取り外し可能に取り付ける。排土管14の後端部には側壁の一部が開口された排土鋼管15を取り付け、その排土鋼管15の開口に後続の排土管16を接続し、排土鋼管15の開口を遮断するゲート17を前後方向へスライド自在に設け、後続の排土管16の途中位置に排土圧を調整する排土バルブ19を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの上部地盤の崩落防止の対策工として採用されるパイプルーフ工法に用いる掘進機に関する。
【背景技術】
【0002】
地下空間の構築や拡幅で採用されるパイプルーフ工法は、事前に到達箇所に回収スペースを確保できない計画のために、掘進機を掘削が終了した管路を通過させて発進側に引き戻す方法が求められる。そのため、一般的にはオーガタイプの鞘管方式が採用されやすいが、切羽は開放型となり、カッタービットの掘削外径が推進用鋼管の外径より小さく、推進延長に制限があり、特に硬質土質には鋼管圧入となるために、方向修正や掘進速度及び押圧力に問題を抱えている。
【0003】
高水圧の危険性が高い箇所を通過するラインや破砕帯及び被圧地下水との遭遇に関しては、掘進機には適切な切羽圧力の保持機能が求められる。このような施工条件では、オーガ式パイプルーフ掘進機は切羽が開放されており、地下水の流入が起こりやすく、切羽崩壊が発生し、鋼管径や推進距離も課題が多い(一般的にはオーガ式掘進機の適用範囲は鋼管径では500mm程度まで、推進延長平均30m程度が有効と考えられる)。その他、鋼管圧入力の増大により推進用鋼管の変形が発生する可能性も高い。
【0004】
上記の問題を解決するようなパイプルーフ工法用の回収可能な掘進機として、例えば特許文献1のような技術が既に開発されているが、駆動部は転用のために発進側に回収して再利用したとしても、掘進機外殻部は残置され、先頭管や方向修正管の製作費が施工費の高騰にもつながっている。パイプルーフ鋼管の内部にそのまま掘進機を挿入した施工法も存在するが、方向修正機能が得られない上、鋼管内径と駆動部外径との隙間の止水性に問題が発生し、また、管外周部の周辺摩擦力が上昇して、鋼管耐荷力が不足する事態も生じ、鋼管の変形によるパプルーフ鋼管の品質確保が困難となる場合も多い。
【0005】
掘進機外殻部を大型シールド掘進機のようにセグメント方式として、掘進機の組立を行う施工技術もあるが、掘進機外径が小さいこともあって剛性不足による掘進途中の外殻鋼管の変形や掘進機外殻のセグメント接続箇所が左右回転力の反力を繰り返し受けるためにボルト等に緩みが発生し、止水確保が困難となり、継ぎ手部の漏水が生じやすい。そのため、特に中小口径掘進機の中折修正機能部の分割組立方式は、高水圧等に十分に対応できていない現実がある。
【0006】
その他、組立方式の外殻鋼管は内部駆動装置を引き戻した後に再度鋼管内に作業員が入坑して内部から分解するために、一時的に切羽は開放されることで、土粒子の崩落や地下水の流入等で作業の危険性が高く、安全施工が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3534657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、高水圧等に対応可能な安全性の高い低コストの高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機を提供することにある。又、一般的な小口径のパイプルーフ掘進機では機能が集約された構造が中心であるが、中口径以上のパイプルーフ掘進機にも機能を中心部に集約化した構造のパイプルーフ掘進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) トンネルの上部地盤に対して掘進機を配置し、その掘進機の後方に推進用鋼管を接続して後方から押し出し、前方の掘進機で地盤を掘削しながら推進用鋼管を地中に推進させ、その埋設した推進用鋼管でトンネルの上部地盤を補強するパイプルーフ工法に用いる掘進機において、同掘進機は、前胴と後胴を方向修正用ジャッキで中折れ可能に連結し、前胴と後胴はその中折れ部分以外を推進用鋼管と同じ外径及び材質の鋼管で構成し、開口された隔壁を前胴に一体的に取り付け、カッターと排土管を備えた掘削装置を前記隔壁の開口に後ろ側へ取り外し可能に取り付けた構造で、前記排土管の後端部に側壁の一部が開口された排土鋼管を取り付け、その排土鋼管の開口に後続の排土管を接続し、外筒の開口を遮断するゲートを開閉自在に設け、前記後続の排土管の途中位置に排土圧力を調整する排土バルブを設けたことを特徴とする、高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
2) 排土鋼管の側壁に管内を目視する点検窓を設けた、前記1)記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
3) 排土鋼管内の中央部に閉塞を解除するための削孔ロッドを配置し、その削孔ロッドを回転させるモーターを備え、削孔ロッドを前方へ押圧するジャッキを設けた、前記1)又は2)記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
4) 削孔ロッドを切羽の位置まで進退可能にし、その削孔ロッドの先端から地盤改良用の薬液等を地盤に注入して安定させる薬液注入手段を設けた、前記3)記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
5) 排土バルブの後方に排土管内の土砂を貯泥する逆止弁付吸気孔を有する密閉型の貯泥槽を設け、その貯泥槽内の土砂を真空ポンプで吸引できるようにした、前記1)〜4)いずれか記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
6) 貯泥槽内に土砂の滞留を防止する攪拌用の回転翼を設けた、前記5)記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
7) 貯泥槽に槽内を目視する点検窓を設けた、前記5)又は6)記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外殻を構成する前胴と後胴は、その止水性が要求される中折れ部分のみに機械加工されたものを用い、その他の部分は推進用鋼管と同じ外径及び材質の鋼管を使用したから、高水圧に対する止水性及び剛性を維持しつつ外殻の製作コストを低減できる。また、排土管の途中位置にゲートを開閉自在に取り付けたから、切羽圧力に応じて下側の排土開口面積を調整でき、作業停止時や緊急時は排土管を即時に閉塞して排土を遮断でき、安全性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のパイプルーフ工法用掘進機の縦断面図である。
【図2】実施例の止水栓の一部切欠き側面図である。
【図3】実施例の止水栓の平面図である。
【図4】実施例のパイプルーフ工法用掘進機の内部装置の取り外しを示す説明図である。
【図5】実施例のパイプルーフ工法による地盤の補強を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は実施例のパイプルーフ工法用掘進機の縦断面図、図2は実施例の止水栓の一部切欠き側面図、図3は実施例の止水栓の平面図、図4は実施例のパイプルーフ工法用掘進機の内部装置の取り外しを示す説明図、図5は実施例のパイプルーフ工法による地盤の補強を示す説明図である。
【0014】
図中、10はパイプルーフ工法用掘進機、11は外殻、11aは前胴、11bは後胴、11cは隔壁、12は方向修正用ジャッキ、13は掘削装置、13aはカッター、13bはモーター、14は排土管、15は排土鋼管、15aは点検窓、16は排土管、17はゲート、17aはゲート用ジャッキ、17bはスライド支柱、18は削孔ロッド、18aはモーター、18bは削孔ロッド用ジャッキ、18cは減速機、19は排土バルブ、20は貯泥槽、20aは回転翼、20bは逆止弁付吸気孔、20cは負圧ゲージ、20dは点検窓、21は推進用鋼管、Gは地盤、Tはトンネルである。
【0015】
図1に示すように、前胴11aと後胴11bを方向修正用ジャッキ12で中折れ可能に連結して外殻11を構成し、開口された隔壁11cを前胴11aに一体的に取り付け、カッター13aとモーター13bと排土管14を備えた掘削装置13を前記隔壁11cの開口にボルト等で後ろ側へ取り外し可能に取り付けている。前胴11aと後胴11bは、その中折れ部分以外を推進用鋼管21と同じ外径及び材質の一般鋼管で作製し、中折れ部分は機械加工された特殊な製品を使用している。この構成により、止水性及び剛性を維持しつつ外殻11の製作コストを低減できるようになっている。
【0016】
排土管14の後端部には側壁の一部が開口された排土鋼管15を取り付け、その排土鋼管15の開口に後続の排土管16を接続し、排土鋼管15の開口を遮断するゲート17をゲート用ジャッキ17aでスライド支柱17bに沿ってスライド自在に設けている。この構成により、作業停止時や緊急時にゲート17で排土管14の途中を即時に閉塞して排土を遮断でき、安全性が高いものとなっている。排土鋼管15の上面には点検窓15aを設け、切羽状況の確認のためにカメラ(図示せず)を挿入できる構造にし、障害物や閉塞状況の目視確認を可能にしている。
【0017】
排土鋼管15内の中央部には長尺の削孔ロッド18を切羽の位置まで進退可能に配置し、その削孔ロッド18を回転させる減速機18c付きのモーター18aを排土鋼管15に取り付け、その削孔ロッド18を前方へ押圧する削孔ロッド用ジャッキ18bを排土鋼管15に取り付けている。削孔ロッド18の先端は、岩等が切削可能なメタルクラウンが装着できるカッターヘッドとなっている。この構成により、高水圧下での掘削で排土管14に取り込まれた土砂がせり合って閉塞した場合に、これらの土砂の閉塞を掘削して開放してやることができる。また、大きな岩が取り込まれて閉塞した場合にも、削孔ロッド18で破砕して排土管14の詰まりを防止できるようになっている。
【0018】
また、削孔ロッド18には、その先端から地盤改良用の薬液等を注入できる薬液注入手段(図示せず)を備えている。これにより、掘進終了時には削孔ロッド18を切羽まで前進させて差し込み、薬液を地盤に注入することで、短時間に切羽を安定させることが可能となっている。これにより、掘削機を回収する際に開放される前面切羽を安定させた状態に保つことができる。また、この薬液注入手段としては別に特殊な切羽注入材を注入できるラインを設け、掘削中の切羽土砂の分離等に対して掘削土砂性状の改良を可能にしてもよい。
【0019】
後続の排土管16の途中位置には2体の排土バルブ19を前後に設けている。これらの排土バルブ19は、排土圧力の微調整が可能な油圧ジャッキ(図示せず)を備え、切羽からの地下水圧に対応するために排土管16の断面を如何ような形状にも即時に調整できるようになっている。
【0020】
排土バルブ19の後方には密閉構造の貯泥槽20を設置している。その貯泥槽20内には土砂の滞留を防止する攪拌用の回転翼20aを設け、貯泥槽20の上面には、真空ポンプ(図示せず)を接続するための逆止弁付吸気孔20bと、貯泥槽20の内部圧力を確認して隔壁11cから排土バルブ19までの閉塞を察知するための負圧ゲージ20cを設け、真空ポンプで吸引することで排土管14,16内の土砂を貯泥槽20へ輸送できるようにしている。貯泥槽20の後面には開放可能な点検窓20dを設け、ゲート17の閉塞後に安全を確認して貯泥槽20内の清掃を可能にしている。
【0021】
このようにして構成された前記パイプルーフ工法用掘進機10を、構築しようとするトンネルTの上部地盤に対して配置し、パイプルーフ工法用掘進機10の後方に推進用鋼管21を接続して後方から押し出し、前方のパイプルーフ工法用掘進機10で地盤Gを掘削しながら推進用鋼管21を地中に推進させ、トンネルTのアーチ部分に沿って複数箇所埋設する。その後、図4に示すように、外殻11内の方向修正用ジャッキ12及び掘削装置13、その他装置を取り外して発進側へ引き戻し、図5に示すように、外殻11内及び推進用鋼管21内にコンクリートを注入してトンネルTの上部地盤が補強される。また、コンクリート注入前の推進用鋼管21は地盤改良(薬液注入工)を行うための作業管として活用され、後工程にも重要な作業空間となる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の技術は、トンネルの上部地盤を補強するパイプルーフ工法に用いる掘進機に利用される。
【符号の説明】
【0023】
10 パイプルーフ工法用掘進機
11 外殻
11a 前胴
11b 後胴
11c 隔壁
12 方向修正用ジャッキ
13 掘削装置
13a カッター
13b モーター
14 排土管
15 排土鋼管
15a 点検窓
16 排土管
17 ゲート
17a ゲート用ジャッキ
17b スライド支柱
18 削孔ロッド
18a モーター
18b 削孔ロッド用ジャッキ
18c 減速機
19 排土バルブ
20 貯泥槽
20a 回転翼
20b 逆止弁付吸気孔
20c 負圧ゲージ
20d 点検窓
21 推進用鋼管
G 地盤
T トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの上部地盤に対して掘進機を配置し、その掘進機の後方に推進用鋼管を接続して後方から押し出し、前方の掘進機で地盤を掘削しながら推進用鋼管を地中に推進させ、その埋設した推進用鋼管でトンネルの上部地盤を補強するパイプルーフ工法に用いる掘進機において、同掘進機は、前胴と後胴を方向修正用ジャッキで中折れ可能に連結し、前胴と後胴はその中折れ部分以外を推進用鋼管と同じ外径及び材質の鋼管で構成し、開口された隔壁を前胴に一体的に取り付け、カッターと排土管を備えた掘削装置を前記隔壁の開口に後ろ側へ取り外し可能に取り付けた構造で、前記排土管の後端部に側壁の一部が開口された排土鋼管を取り付け、その排土鋼管の開口に後続の排土管を接続し、外筒の開口を遮断するゲートを開閉自在に設け、前記後続の排土管の途中位置に排土圧力を調整する排土バルブを設けたことを特徴とする、高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項2】
排土鋼管の側壁に管内を目視する点検窓を設けた、請求項1記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項3】
排土鋼管内の中央部に閉塞を解除するための削孔ロッドを配置し、その削孔ロッドを回転させるモーターを備え、削孔ロッドを前方へ押圧するジャッキを設けた、請求項1又は2記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項4】
削孔ロッドを切羽の位置まで進退可能にし、その削孔ロッドの先端から地盤改良用の薬液等を地盤に注入して安定させる薬液注入手段を設けた、請求項3記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項5】
排土バルブの後方に排土管内の土砂を貯泥する逆止弁付吸気孔を有する密閉型の貯泥槽を設け、その貯泥槽内の土砂を真空ポンプで吸引できるようにした、請求項1〜4いずれか記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項6】
貯泥槽内に土砂の滞留を防止する攪拌用の回転翼を設けた、請求項5記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。
【請求項7】
貯泥槽に槽内を目視する点検窓を設けた、請求項5又は6記載の高水圧対応パイプルーフ工法用掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−69082(P2011−69082A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220005(P2009−220005)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【Fターム(参考)】