説明

高清浄度鋼の溶製方法

【課題】真空脱ガスを行なう際の溶鋼のフォーミングを防止し、高清浄度鋼の生産性向上を達成できる溶製方法を提供する。
【解決手段】転炉で溶鋼の脱炭処理を行なった後、取鍋に収容した溶鋼に可溶性ガスを溶解させ、次いで溶鋼を真空脱ガス槽に収容し、真空脱ガス槽内を2.7〜13.3kPa/分(=20〜100torr/分)の割合で減圧して所定の真空度に到達させ、引き続き真空脱ガス槽内を所定の真空度に維持しつつ真空脱ガス処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の溶製過程で溶鋼中に浮遊する非金属介在物(たとえば酸化物等)を低減する方法に関するものである。以下では、非金属介在物を低減した溶鋼を高清浄度鋼と記す。
【背景技術】
【0002】
厳格な品質(たとえば表面光沢,材料特性等)が要求される鋼材を製造するためには、その素材となる溶鋼の溶製過程にて非金属介在物を減少させる必要がある。高清浄度鋼を溶製するにあたって、溶鋼を転炉に収容して脱炭処理(いわゆる一次精錬)を行ない、さらに溶鋼を真空脱ガス装置(たとえばRH設備,VOD設備,AOD設備等)に収容して真空脱ガス処理(いわゆる二次精錬)を行なう工程が広く採用されている。
【0003】
たとえばステンレス鋼を製造する場合には、Al23系の硬質な非金属介在物を極めて低いレベルまで減少させる必要がある。そのため、二次精錬においSiを含有する還元剤を溶鋼に添加して塩基性スラグを生成させ、不活性ガスを吹き込んで溶鋼を強攪拌することによって還元剤と酸素とを反応させて、酸素を除去(いわゆる脱酸)する技術が知られている。この技術では、還元剤と酸素との反応によって生成した酸化物(すなわち非金属介在物)は、溶鋼中を浮上してスラグに取り込まれる。
【0004】
しかし還元剤としてSiを使用すると、スラグや耐火物に含まれるAl23がSiによって還元され、Alが溶鋼に混入する。そのAlは溶鋼中で再び酸化され、Al23系の非金属介在物を生成する。このようにして溶鋼中に生成される非金属介在物は、ステンレス鋼製品の表面品質や材料特性を著しく損なう原因になる。さらに、二次精錬にて溶鋼を強攪拌することによってスラグ滴が懸濁し、二次精錬の終了後も溶鋼中に残留する。これらのスラグ滴は、凝固して非金属介在物となり、ステンレス鋼製品の表面品質や材料特性を著しく低下させる。
【0005】
そこで溶鋼の溶製過程で非金属介在物を減少させる(すなわち高清浄化)技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1には、可溶性ガスを溶鋼に吹き込んで溶解し、その後、急速に減圧することによって、溶鋼中に微細な気泡を生成させ、非金属介在物を気泡とともに浮上させて除去する技術が開示されている。ところが特許文献1に開示された技術では、可溶性ガスを溶解させる際に溶鋼に作用する圧力が大気圧や300torr(=40kPa)に設定されているので、多量の可溶性ガスが溶解する。しかも真空脱ガスを行なうときには急速に減圧するので、溶鋼がフォーミングして、真空脱ガス処理の操業に支障をきたす惧れがある。
【特許文献1】特開平2-99263 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題を解消し、真空脱ガスを行なう際の溶鋼のフォーミングを防止し、高清浄度鋼の生産性向上を達成できる溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、転炉で溶鋼の脱炭処理を行なった後、取鍋に収容した溶鋼に可溶性ガスを溶解させ、次いで溶鋼を真空脱ガス槽に収容し、真空脱ガス槽内を2.7〜13.3kPa/分(=20〜100torr/分)の割合で減圧して所定の真空度に到達させ、引き続き真空脱ガス槽内を所定の真空度に維持しつつ真空脱ガス処理を行なう高清浄度鋼の溶製方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空脱ガスを行なう際の溶鋼のフォーミングを防止できるので、高清浄度鋼を効率良く安定して生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
転炉で脱炭処理を施した溶鋼を取鍋に収容して、その溶鋼に可溶性ガスを吹き込む。その際には可溶性ガスを溶鋼に効率良く溶解するために、取鍋の上方からランスを溶鋼中に挿入して、そのランスを介して可溶性ガスを溶鋼中に吹き込むことが好ましい。また多量の可溶性ガスを溶解するために、可溶性ガスを吹き込む際に溶鋼に作用する圧力は大気圧とするのが好ましい。
【0010】
VODで脱炭処理を行なう場合は、取鍋を使用せず、VOD内でランスを溶鋼中に挿入して、そのランスを介して可溶性ガスを溶鋼中に吹き込むことが好ましい。
なお可溶性ガスは、溶鋼に含有される元素と結合せず(すなわち不活性であり)、かつ溶鋼に溶解し易い気体を使用する。可溶性ガスはこのような特性を有する気体であれば良く、その成分は特に限定しないが、安価な窒素ガスが好ましい。
【0011】
次いで溶鋼を真空脱ガス槽に収容する。さらに真空脱ガス処理を行なうべく、真空脱ガス槽内を減圧する。ここで減圧する割合が毎分2.7kPa(=20torr)未満であれば、所定の真空度に到達するまでに長時間を要する。しかも溶鋼に溶解した可溶性ガスが、真空脱ガス槽内の減圧の過程で徐々に溶鋼から放散される。このとき可溶性ガスは気泡となって溶鋼中を浮上するが、その気泡は極めて小さいので非金属介在物を捕捉して浮上するに足りる浮力は発生しない。一方、減圧する割合が毎分13.3kPa(=100torr)を超えると、多数の気泡が一斉に発生するので溶鋼のフォーミングが発生する。その結果、溶鋼とスラグが攪拌されて、スラグ滴が溶鋼に混入する。したがって、真空脱ガス槽内を減圧する割合は毎分2.7〜13.3kPaの範囲内とする。
【0012】
こうして所定の真空度に到達した後、真空脱ガス槽内の真空度を維持しつつ真空脱ガス処理を行なう。真空脱ガス処理は、高清浄度鋼の用途や成分に応じて条件を適宜設定して行なう。
【実施例】
【0013】
ステンレス鋼を溶製するにあたって、150ton転炉を用いて上吹き酸素で溶鋼の脱炭処理(すなわち一次精錬)を行ない、その溶鋼を取鍋に収容した。取鍋内の溶鋼に、上方からランスを挿入して、可溶性ガスを吹き込んだ。可溶性ガスは窒素ガスを使用し、吹き込み速度1.5m3/分で10分間吹き込んだ。次に、溶鋼を真空脱ガス槽に収容して、真空脱ガス処理(すなわち二次精錬)を行なった。真空脱ガス槽を減圧する際には、5.0kPa/分の割合で0.3kPaまで減圧した。これを発明例とする。
【0014】
一方、比較例として、ステンレス鋼の溶製過程で、真空脱ガス槽を15.0kPa/分の割合で減圧した。その他の条件は発明例と同じであるから、説明を省略する。
発明例と比較例について、二次精錬が終了した後、溶鋼から試料を3個づつ採取して、ISO4967に準拠して介在物の評価を行なった。その結果を表1に示す。発明例では、比較例に比べて、Aグループ,Bグループ,Cグループ,Dグループ,DSグループの指数番号が小さい値を示しており、清浄度が良好であることが分かる。
【0015】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉で溶鋼の脱炭処理を行なった後、取鍋に収容した前記溶鋼に可溶性ガスを溶解させ、次いで前記溶鋼を真空脱ガス槽に収容し、前記真空脱ガス槽内を2.7〜13.3kPa/分の割合で減圧して所定の真空度に到達させ、引き続き前記真空脱ガス槽内を前記真空度に維持しつつ真空脱ガス処理を行なうことを特徴とする高清浄度鋼の溶製方法。

【公開番号】特開2007−270166(P2007−270166A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93868(P2006−93868)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】