説明

高減衰ゴム

【課題】減衰性能が高く、かつ、シンプルな組成と簡易な工程により製造することのできる高減衰ゴムを提供すること。
【解決手段】アクリロニトリル−ブタジエンゴム(好ましくは、結合アクリロニトリル量が、30〜50%であるもの。)と、銅(II)の無機酸塩(好ましくは、硫酸銅無水物など。)と、を含有するゴム組成物を、好ましくは、150〜200℃で、10〜60分間加熱する。これにより、高減衰ゴムに与えられる伸びが、上記高減衰ゴムが切断したときの伸びに対して90%であるときの、上記高減衰ゴムのヒステリシス損失を、40〜70%に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、各種産業機械、家電製品などに対する防振、制振性能や、例えば、各種建造物に対する免震性能を向上させるため、振動エネルギーの減衰性能に優れた高減衰ゴムの開発が盛んになっている。
従来、高減衰ゴムは、原料ゴムに、架橋剤、充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなど。)、軟化剤、可塑剤、樹脂、ハイスチレンゴムなどの各種添加剤を配合し、得られた高減衰ゴム組成物を、混練、熱処理して作製されている。
【特許文献1】特許第3447643公報
【特許文献2】特許第2796044公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、従来の高減衰ゴム組成物は、多種多様な添加剤を必要としており、しかも、加工しにくく、高減衰ゴム組成物の調製や、高減衰ゴムの製造工程(特に、混練、加硫などの工程)が複雑になるという不具合があった。
そこで、本発明の目的は、減衰性能が高く、かつ、シンプルな組成と簡易な工程により製造することのできる高減衰ゴムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は、
(1) アクリロニトリル−ブタジエンゴムと、銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を加熱して得られることを特徴とする、高減衰ゴム、
(2) 前記銅(II)の無機酸塩が、硫酸銅であることを特徴とする、前記(1)に記載の高減衰ゴム、
(3) 前記アクリロニトリル−ブタジエンゴムの結合アクリロニトリル量が、30〜50%であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の高減衰ゴム、
(4) 前記ゴム組成物を、150〜200℃で、10〜60分間加熱して得られることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高減衰ゴム、
(5) 前記高減衰ゴムに与えられる伸びが、前記高減衰ゴムが切断したときの伸びに対して90%であるときの、前記高減衰ゴムのヒステリシス損失が、40〜70%であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の高減衰ゴム、
を提供する。
【0005】
上記した「高減衰ゴムが切断したときの伸び」は、JIS K 6251:2004「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に規定の引張試験(引張速さ500mm/分)において、高減衰ゴムから採取、作製されたダンベル状試験片(JIS K 6250に規定のダンベル状3号形、平行部分の幅5±0.1mm、平行部分の厚さ2.0±0.2mm、標線間距離20mm)が切断したときの伸びをいう。具体的には、上記ダンベル状試験片の切断時の標線間距離L1(mm)と、初期の標線間距離L0(mm)との差((L1−L0)/mm)で表される(L0=20mm)。
【0006】
また、上記ヒステリシス損失は、高減衰ゴムから採取、作製された短冊状試験片(幅5mm、厚さ2mm、標線間距離40mm)を、引張試験機(JIS B 7721)の一対のつかみ具(チャック間距離80mm)で固定して、下記の手順で引張応力を加えたときの、変形および回復の1サイクルにおける機械的エネルギーの損失率(%)をいう。
引張試験機に固定された上記短冊状試験片を、その伸びが目標の伸びになるまで、すなわち、上記短冊状試験片の標線間距離L2と初期の標線間距離L0との差((L2−L0)/mm)が、予め測定された、上記短冊状試験片の切断時の標線間距離L1と初期の標線間距離L0との差((L1−L0)/mm)に対して90%となるまで、引張速さ200mm/分で引っ張る。次いで、上記短冊状試験片の伸びが目標の伸びに達した直後に、同じ速さで、応力が0となるまで除荷する。
【0007】
ヒステリシス損失A(%)は、上述の一連の操作において記録された応力−歪み曲線(図1および図2参照)から、印加エネルギー(0点、曲線a、点b、点eおよび0点で囲まれる領域の面積)と、変形および回復の1サイクル後におけるエネルギー(0点、曲線a、点b、曲線c、点dおよび0点で囲まれる領域の面積)を求め、下記式により算出する。
【0008】
A(%)=[(面積(0abcd0))/(面積(0abe0))]×100
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原料ゴムに、架橋剤、充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなど。)、軟化剤、可塑剤、樹脂、ハイスチレンゴムなどの、多種多様な添加剤を配合する必要がなく、高減衰ゴム製造用のゴム組成物をシンプルな組成とし、かつ、混練および加熱処理による簡易な工程を経ることで、優れた減衰性能を有する高減衰ゴムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の高減衰ゴムは、アクリロニトリル−ブタジエンゴムと、銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を加熱することにより得られる。
アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)は、特に限定されず、例えば、結合アクリロニトリル量の大きい極高ニトリルタイプや高ニトリルタイプのNBRから、結合アクリロニトリル量の小さい低ニトリルタイプや中ニトリルタイプのNBRまで、公知の種々のNBRを用いることができる。
【0011】
なかでも、NBRは、架橋点を増やすという観点から、結合アクリロニトリル量の大きいタイプが好ましい。
NBRの結合アクリロニトリル量は、好ましくは、30〜50%であり、より好ましくは、35〜50%である。
このような結合アクリロニトリル量を示すNBRとしては、例えば、中高ニトリルタイプ(結合アクリロニトリル量が31%以上、36%未満のもの)、高ニトリルタイプ(結合アクリロニトリル量が36%以上、43%未満のもの)、極高ニトリルタイプ(結合アクリロニトリル量が43%以上のもの)などが挙げられる。
【0012】
銅(II)の無機酸塩としては、銅と無機酸との塩のうち、銅が+IIの酸化数を有する化合物が挙げられ、例えば、硫酸銅、塩化銅(II)、酸化銅(II)などが挙げられる。なかでも、好ましくは、硫酸銅が挙げられる。
なお、上記銅(II)の無機酸塩は、水和物(含水塩)の形態をとる場合があるが、水和物中の結晶水は、NBRの架橋構造の形成を阻害するおそれがある。このため、上記銅(II)の無機酸塩は、無水物であることが好ましい。
【0013】
それゆえ、上記銅(II)の無機酸塩のなかでも、特に好ましくは、硫酸銅(II)無水物が挙げられる。
上記銅(II)の無機酸塩は、NBR中に配合され、加熱処理されることによって、NBRのシアノ基が下記反応式(1)で示される分子間の架橋構造(トリアジン構造)を形成する反応と、NBRのシアノ基が下記式(2)で模式的に示される分子内環化による環構造を形成する反応とに対して、触媒作用を示す。
【0014】
反応式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
反応式(2):
【0017】
【化2】

【0018】
(なお、上記反応式は、分子内環化反応を模式的に示しており、炭素原子に結合する水素原子の数などの、化学量論的な整合は省略されている。)
NBRは、上記反応式(1)で示されるように、銅(II)の無機酸塩が触媒となって、分子間の架橋構造(トリアジン構造)を形成する。このNBRの架橋構造は、共有結合による架橋構造である。
【0019】
また、上記銅(II)の無機酸塩は、NBR中に配合され、加熱処理されることによって、例えば、下記(a)〜(d)に示される、架橋構造を形成すると考えられる。
(a) 下記式(3)で模式的に示される、NBRのシアノ基と、銅(II)イオンとの間の配位結合による架橋構造。
(b) 下記式(4)で模式的に示される、NBRの分子間架橋により形成されたトリアジン環と、銅(II)イオンとの間の配位結合による架橋構造。
(c) 下記式(5)で模式的に示される、NBR分子内環化により形成されたピリジン環と、銅(II)イオンとの間の配位結合による架橋構造。
(d) NBRのシアノ基と銅(II)イオンとの間の配位結合、NBRの分子間架橋により形成されたトリアジン環と銅(II)イオンとの間の配位結合、および、NBR分子内環化により形成されたピリジン環と銅(II)イオンとの間の配位結合からなる群より選ばれる2種以上の配位結合を含む架橋構造。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
(なお、上記式(3)〜(5)は、配位結合による架橋結合を模式的に示しており、炭素原子に結合する水素原子の数などの、化学量論的な整合は省略されている。)
上記したNBRの架橋構造は、上述のとおり、配位結合による架橋構造である。
上記した、銅(II)の触媒作用による、NBRの分子間架橋反応(トリアジン環の形成反応)およびNBR分子内環化反応(ピリジン環の形成反応)、ならびに、NBRのシアノ基、NBRの分子間架橋により形成されたトリアジン環またはNBR分子内環化により形成されたピリジン環と、銅(II)イオンとの間の配位結合の形成反応は、いずれの場合も、NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を、混練後、加熱処理することにより達成される。こうして、NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を、混練し、加熱処理することにより、高減衰ゴムが得られる。
【0024】
なお、NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を、混練し、加熱処理することで、どのような架橋状態が形成されているかについては、例えば、NMRなどによる観察で判定することができる。
また、銅(II)の無機酸塩のうち、後述するNBRとの混練処理時において、分子レベルにまで分散されなかった分については、NBR中での配位結合の中心金属として作用せずに、NBR中でフィラーとして作用する。ここで、フィラーとして作用する銅(II)の無機酸塩は、NBR中で直径約1〜10μmの凝集体として存在することから、フィラーとして作用する銅(II)の無機酸塩の割合については、例えば、高減衰ゴムを電子顕微鏡などによって観察することにより、算出することができる。
【0025】
銅(II)の無機酸塩の配合量は、銅(II)の無機酸塩(の分子量)に占める銅(II)イオン(の式量)に応じて設定されるものであって、特に限定されないが、例えば、銅(II)の無機酸塩が硫酸銅(II)無水物である場合において、硫酸銅(II)無水物の配合量は、NBR100重量部に対して、好ましくは、1〜40重量部であり、より好ましくは、5〜15重量部である。
【0026】
この場合において、硫酸銅(II)無水物の配合量が、NBR100重量部に対して、5重量部を下回ると、NBRの架橋密度が低くなったり、硫酸銅(II)無水物による補強効果が得られにくくなったりして、高減衰ゴムの引張強さの、ゴム硬さなどが低下するといった不具合を生じるおそれがある。逆に、硫酸銅(II)無水物の配合量が、NBR100重量部に対して、15重量部を上回ると、高減衰ゴムのゴム硬さが高くなりすぎて、減衰部材としての使用に適さなくなるおそれがある。
【0027】
NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物は、さらに任意的に、NBR以外の他のゴム成分として、例えば、天然ゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴムを含有していてもよい。
また、NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物は、さらに任意的に、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、補強剤などを含有してもよい。
【0028】
加硫剤としては、例えば、硫黄、例えば、N,N’−ジチオビスモルホリンなどの有機含硫黄化合物、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシドなどの有機過酸化物が挙げられる。なかでも、好ましくは、硫黄および有機含硫黄化合物が挙げられる。加硫剤の配合量は、特に限定されないが、好ましくは、NBR100重量部に対して、2重量部以下である。
【0029】
加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TPTT)などのチウラム類、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(ZnMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(CMBT)、2−(N,N’−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどのチアゾール類、例えば、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩(PPDC)、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩(PMPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸胴(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸第2鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルルなどのジチオカルバミン酸塩類、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)などのスルフェンアミド類、例えば、トリメチルチオ尿素(TMU)、N,N’−ジエチルチオ尿素(DEU)などのチオウレア類、例えば、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)、1−o−トリルビグアニド(OTBG)などのグアニジン類、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、n−ブチルアルデヒドアニリンなどの有機系加硫促進剤や、例えば、消石灰、酸化マグネシウム、酸化チタン、リサージ(PbO)などの無機系加硫促進剤が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記例示の加硫促進剤のなかでも、好ましくは、チウラム類およびチアゾール類が挙げられる。加硫促進剤の配合量は、特に限定されないが、好ましくは、NBR100重量部に対して、2重量部以下である。
【0030】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、珪藻土、マイカ、アスベスト、グラファイトなどの無機系充填剤や、例えば、再生ゴム、粉末ゴム、アスファルト類、スチレン樹脂、にかわなどの有機系充填剤が挙げられる。
補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ系またはケイ酸塩系のホワイトカーボン、表面処理沈降性炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレーなどの無機系補強剤や、例えば、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、ハイスチレン樹脂(スチレン含有量の多いスチレン−ブタジエン共重合体)などの有機系補強剤が挙げられる。
【0031】
充填剤および補強剤の配合量は、特に限定されず、高減衰ゴムの減衰性能が損なわれることのない範囲で、高減衰ゴムに要求される強度や嵩などに応じて、適宜設定される。
また、NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物は、さらに任意的に、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸などの加硫促進助剤、例えば、サリチル酸、無水フタル酸、安息香酸などの芳香族有機酸、例えば、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノン、N−ニトロソフェニル−β−ナフチルアミンなどのニトロソ化合物などの加硫遅延剤、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどのイミダゾール類、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのアミン類、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、スチレン化フェノールなどのフェノール類などの老化防止剤、例えば、脂肪酸(例えば、ステアリン酸、ラウリン酸など。)、綿実油、トール油、アスファルト物質、パラフィンワックスなどの、植物油系、鉱物油系および合成油系などの軟化剤、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリクレジルフォスフェートなどの可塑剤などを含有していてもよい。
【0032】
NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物の混練は、例えば、種々のロール機、ミキサなどを用いて行えばよい。
混練処理の処理時間は、例えば、ロールにて混練する場合において、好ましくは、5〜20分に設定される。混練時間が5分を下回ると、NBR中での銅(II)の無機酸塩の分散性が乏しくなって、架橋性の低下や、それに伴うゴムの物性(例えば、ゴム硬さ、引張強さなど。)の低下を招くおそれがある。一方、20分を超えて混練しても、NBR中での銅(II)の無機酸塩の分散性に有意な変化は観察されず、生産性やコスト上不利になる。
【0033】
NBRと銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物に対する加熱処理は、好ましくは、150〜200℃で、より好ましくは、180〜190℃で、好ましくは、10〜60分間、より好ましくは、20〜30分間、行えばよい。
加熱処理時の温度が、150℃を下回ると、架橋構造の形成に長時間を要するために、高減衰ゴムの生産性が低下する傾向がある。一方、加熱処理時の温度が、200℃を上回ると、NBRの劣化を生じるおそれがある。
【0034】
こうして得られる高減衰ゴムは、高減衰ゴムに与えられる伸びが、高減衰ゴムが切断したときの伸びに対して90%であるときにおいて、そのヒステリシス損失が、好ましくは、40〜80%、より好ましくは、50〜70%、さらに好ましくは、60〜70%である。
なお、上記の「高減衰ゴムが切断したときの伸び」および「ヒステリシス損失」については、上記したとおりである。
【0035】
上記高減衰ゴムは、例えば、防振ゴム、制振ゴム、粘性体ダンパ、減衰アイソレータなどの減衰部材の製造原料として用いることができる。
上記高減衰ゴムは、減衰性能が高く、しかも、シンプルな組成と簡易な工程により製造できることから、減衰性能に優れ、低コストであり、各種産業機械、家電製品などへの用途に適した減衰部材を提供することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
下記の実施例および比較例で使用した成分は、次のとおりである。
・アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR):結合アクリロニトリル量50%、商品名「DN003」、日本ゼオン(株)製
・硫酸銅(II)無水物:和光純薬(株)製
・硫黄:粉末硫黄、鶴見化学(株)製
・加硫促進剤:ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、商品名「ノクセラーDM」、大内新興化学工業(株)製
・亜鉛華:亜鉛華1号、三井金属鉱業(株)製
・ステアリン酸:日本油脂(株)製
実施例1
NBR(結合アクリロニトリル量50%)100重量部と、硫酸銅(II)無水物10重量部とを配合し、ロール機にて、室温で8分間混練した後、プレス成形機にて、190℃で20分間プレス成型(加熱処理)することにより、高減衰ゴムを得た。
【0037】
比較例1
NBR(結合アクリロニトリル量50%)100重量部と、硫黄2.5重量部と、加硫促進剤(MBTS)1.6重量部と、亜鉛華5重量部と、ステアリン酸1重量部とを配合し、ロール機にて、室温で8分間混練した後、プレス成形機にて、160℃で30分間プレス成型(加熱処理)することにより、加硫ゴムを得た。
【0038】
物性評価
上記実施例1の高減衰ゴムと上記比較例1の加硫ゴムとから、それぞれ、ダンベル状試験片(JIS K 6250に規定のダンベル状3号形、平行部分の幅5±0.1mm、平行部分の厚さ2.0±0.2mm、標線間距離20mm)を切り出した。
次に、得られたダンベル状試験片を、オートグラフ引張試験機(チャック間距離80mm、(株)島津製)に装着し、引張速さ500mm/分で引っ張って、ダンベル状試験片が切断した時の標線間距離L1と、初期の標線間距離L0(20mm)との差S1((L1−20)/mm)を測定した。また、下記式により、高減衰ゴムおよび加硫ゴムの切断時伸びEB(%)を算出した。
【0039】
B(%)=((L1−L0)/L0)×100
次いで、短冊状試験片(幅5mm、厚さ2mm、標線間距離40mm)を、上記オートグラフ引張試験機(チャック間距離80mm)に装着し、試験片の伸びS2(試験片の標線間距離L2と初期の標線間距離L0との差((L2−L0)/mm))が、試験片切断時の標線間距離L1と初期の標線間距離L0との差S1に対して90%となるまで、引張速度200mm/分で引っ張った。
【0040】
さらに、試験片の伸びが目標の伸びに達した直後に、同じ速さ(引張速度−200mm/分)で、応力が0となるまで除荷した。
上記実施例1の高減衰ゴムについて、上記オートグラフ引張試験機により測定された応力−歪み曲線を、図1に示す。また、上記比較例1の加硫ゴムについて、上記オートグラフ引張試験機により測定された応力−歪み曲線を、図2に示す。
【0041】
図1および図2に示す応力−歪み曲線から、実施例1の高減衰ゴムと比較例1の加硫ゴムとについて、ヒステリシス損失を測定したところ、実施例1の高減衰ゴムは、65%であった。これに対し、比較例1の加硫ゴムは、21%であった。
なお、ヒステリシス損失A(%)の測定は、図1および図2に示す応力−歪み曲線から、印加エネルギー(0点、曲線a、点b、点eおよび0点で囲まれる領域の面積)と、変形および回復の1サイクル後におけるエネルギー(0点、曲線a、点b、曲線c、点dおよび0点で囲まれる領域の面積)を求め、下記式により算出した。
【0042】
A(%)=[(面積(0abcd0))/(面積(0abe0))]×100
また、実施例1の高減衰ゴムと比較例1の加硫ゴムとについて、さらに、ゴム硬さ(JIS A;デュロメータ硬さ;JIS K 6253-1997)、引張強さTB(MPa;JIS K 6251:2004)、トルエンに対する膨潤度(%)およびガラス転移温度Tg(℃)を測定した。
【0043】
さらに、実施例1において調製された、NBRと硫酸銅とを含有する混練物(すなわち、実施離1の高減衰ゴムの架橋前のもの。)と、比較例1において調製された、NBR、硫黄、加硫促進剤、亜鉛華およびステアリン酸を含有する混練物(すなわち、比較例1の加硫ゴムの加硫前のもの。)と、について、130℃でのムーニー粘度ML(1+4)と、ガラス転移温度Tg(℃)とを測定した。
【0044】
これらの測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1中、「ML(1+4),130℃」は、130℃で測定されたムーニー粘度(1分予熱、4分後の粘度)を示す。「Tg」は、ガラス転移温度(℃)を示す。「硬さ(JIS A)」は、デュロメータ硬さを示す。「TB」は、引張強さ(MPa)を示す。「EB」は、切断時伸び(%)を示す。「膨潤率」は、トルエンに対する膨潤度(%)を示す。「hyst.loss」は、ヒステリシス損失(%)を示す。
【0047】
表1に示すように、実施例1の高減衰ゴムは、比較例1の加硫ゴムに比べて、ヒステリシス損失が著しく大きく、減衰性能が著しく優れていることがわかった。また、実施例1の高減衰ゴムは、比較例1の加硫ゴムに比べて、引張強さや伸びも大きく、引張強度が良好であることがわかった。
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1で得られた高減衰ゴムの応力−歪み曲線を示すグラフである。
【図2】比較例1で得られた加硫ゴムの応力−歪み曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル−ブタジエンゴムと、銅(II)の無機酸塩とを含有するゴム組成物を加熱して得られることを特徴とする、高減衰ゴム。
【請求項2】
前記銅(II)の無機酸塩が、硫酸銅(II)であることを特徴とする、請求項1に記載の高減衰ゴム。
【請求項3】
前記アクリロニトリル−ブタジエンゴムの結合アクリロニトリル量が、30〜50%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高減衰ゴム。
【請求項4】
前記ゴム組成物を、150〜200℃で、10〜60分間加熱して得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高減衰ゴム。
【請求項5】
前記高減衰ゴムに与えられる伸びが、前記高減衰ゴムが切断したときの伸びに対して90%であるときの、前記高減衰ゴムのヒステリシス損失が、40〜70%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の高減衰ゴム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−186583(P2007−186583A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5307(P2006−5307)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】