説明

高温ガスシール

【課題】固体酸化物燃料電池スタックに使用するための可撓性なシールを、テープキャスト方法によって、繊維マトリックスと多くの固体粒子から形成する。
【解決手段】繊維及び粒子は、好ましくはセラミックであり、アルミナ又はジルコニアから形成されてもよい。シールは、燃料電池スタックに設置する前に、繊維、粒子、結合剤、及び非水性溶媒の形成、スラリーのテープキャスト、テープシールの乾燥、打抜きをすることによって形成され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に平面固体酸化物燃料電池スタック(stack)に使用するための、高温ガスシールに関する。
【背景技術】
【0002】
平面固体酸化物燃料電池(pSOFC)スタックは、三つの主要な構成要素、すなわち、セラミック電気化学的電池膜、金属の相互連結、及びシールの配置を有する。化学的エネルギーを電気的エネルギーに転化する機能を働かせるためには、SOFC膜が、500℃より高い運転温度の全てにおいて、酸化剤ガスにさらされる一つの電気化学的な面と、燃料ガスにさらされるその他を有していなければならない。金属の相互連結(IC)は、分離プレナム(plenum)によって、燃料及び酸化剤ガスを電池に配給し、スタック配置で電池間に配置されるときは、さらに電流を一つの電池から別の電池に運ぶ。SOFCスタックのセラミック電池及び相互連結の間に必要なシールは、適切な電気的遮蔽を与えるのと同様に、ガス配給プレナム内に反応物を含むために、ガス浸透に対する適切な抵抗を与えなければならない。シールは好ましくは経時的に有意な劣化に抵抗すべきであり、好ましくは熱サイクルされ得るべきである。
本質的に二つの標準的な密閉方法がある。一つは、(1)堅い接合部を形成することにより、別に、(2)圧縮“滑動”シールを構成することによる。各々の方法は、それ自体の一連の利点及び設計制約を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ガラス接合を用いる堅い接合部は、セラミックを金属に結合する簡単な方法である。しかし、ガラスの軟化点は、最大操作温度を制限する。さらに、ガラス−セラミックは脆弱な材料であり、非動的で低可縮性(yielding)のシールを形成するので、接合要素の各々、すなわち、セラミック電池、シール、及び金属ICにおける熱膨張の温度依存係数(CTE)がほぼ等しくなることは避けられない。そうでなければ、高熱応力が、スタックの加熱及び/又は冷却の間に構成要素の内部で増加し、電池又はシールの破砕の原因となり得る。ボラート又はホスファートドープしたアルミノシリケート類の範囲内における狭い範囲の高温ガラス組成物のみが、スタックの相互連結及びハウジング(housing)において一般に用いられるフェライトステンレス鋼の熱膨張係数に匹敵するそれを示す。あいにく、これらのガラスは、典型的に操作温度における最初の数時間の露出内に失透の兆候を示す。ガラスが結晶化を始めると、その注意深く設定された熱膨張特性が著しく変化し、結局は、生じる接合が耐えることのできる熱サイクルの数及びサイクルの割合を制限する。熱膨張係数が調和するとしても、スタック構成要素の熱伝導性が典型的に調和しないので、不均一な熱膨張が依然として生じ得る。ガラスは本質的に脆弱な材料なので、しばしば自動車用途の場合に、衝撃又は振動を与えると、熱サイクル条件下でひび割れして機能しなくなる。
ガラスシールのさらなる不都合は、それらが電気触媒電池との化学的非適合性を有するため、操作中の性能が劣化し得ることである。SOFCは特に、多くのガラスシールに含まれるアルカリ元素に対して鋭敏であり、このアルカリ元素はSOFC触媒に有害に影響することが見出されている。接触材料との相互作用のためにガラス組成物及び相が変動することもまた、長期使用に問題である。
【0004】
圧縮密閉は、代替方法である。準拠する高温材料は、スタックの外側の荷重フレームを使用して、2枚の密閉表面の間に捕らえられ、圧縮されて、日常の電気製品に用いられるゴムガスケットと同様に密閉する。シールは両密閉表面に適合し、使用中一定の圧縮下にあるので、動的なシールを形成する。すなわち、密閉表面は、シール特性を崩壊させることなく互いを通り越して滑ることができ、CTEの一致は、セラミック電池と金属ICとの間で必要がない。しかし、この性質に準拠するシールは、準拠するシールの基礎を形成する信頼性のある高温密閉材料がないことを主な理由として、不適切な密閉性能の不都合を欠点としてもつ。マイカ、ニッケル、及び銅を含む、いくつかの材料が考慮されているが、金属の場合における耐酸化性から、マイカに対する乏しい密閉性及びシールを貫通する漏れまでの多岐にわたるかなり多数の理由に対する欠陥が見出されている。マイカの場合、高温に耐えることはできるが、マイカシートの厚さの当然な変化及びマイカの相対的非圧縮性の両方が、この乏しい密閉作用に寄与している。さらに、マイカが、電池の触媒を汚染し得る無機物を浸出できることが見出されている。
従って、本技術分野において、先行技術で見出された困難を緩和する高温燃料電池における使用に好適なシールが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、高温適用、例えば高温燃料電池、特にpSOFC'sにおける計画された密閉特性を有する、信頼性のあるガスケット型のシールを形成する方法に関する。本発明のシールは、高セラミック粉末充填を有するセラミック繊維によって補強されている、人工的に変形可能なセラミック未焼成(green)テープを含む。セラミック未焼成シールは、一旦、燃料電池スタックに設置されると、好ましくはスタックの最初の熱サイクル中に、点火(fire)してもよいが、焼成はされない。
本発明の一つの特徴によれば、SOFCスタック内で隣接する電池から固体酸化物燃料電池を密閉し、スタック中を動く各々から投入ガスを密閉するためのシールが与えられる。一つの実施態様では、このシールは、セラミック繊維のマトリックスと、セラミック繊維間に散在されている多数の固体粒子とを含む。
一つの実施態様では、このシールは、好ましくは有機結合剤である、結合剤材料をさらに含む。繊維は無作為に配向されてもよい。好ましい実施態様では、このシールは使用に先立って前圧縮されてもよい。
セラミック繊維は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、又はシリカを含む群から選択されてもよい。固体粒子は、セラミック粒子、ガラス粒子、又はSOFCスタックの操作温度において劣化及び焼結に抵抗し得る他の不活性材料でもよい。粒子がセラミック粒子の場合は、粒子は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、又はシリカを含む群から選択されてもよい。
一つの実施態様では、繊維及び粉末のスラリーはテープキャストして、セラミック粉末スラリーにおいてセラミックフェルト又はペーパーを浸すことによって形成されるシールの密度よりも大きい総合密度を有する、可撓性シールを形成する。圧縮性及び可撓性を保持するために、粒子径は、直径約5μmから直径約0.75μmの大きさにしてもよい。
別の特徴として、本発明は、その未焼成又は前点火の状態において、セラミック繊維、セラミック粉末、及び結合剤を含む高温ガスシールを含んでもよく、このシールは焼結されず、約50%未満の前点火多孔率を有する。このシールは高温燃料電池スタック、例えば平面固体酸化物燃料電池などに、特に有用となり得る。好ましくは、このシールは、約45%未満の前点火多孔率を有してもよい。さらに好ましくは、このシールは、約40%未満の前点火多孔率を有してもよい。最も好ましくは、このシールは、約35%未満の前点火多孔率を有してもよい。このシールの好ましい実施態様は、約50%未満の点火密度を有してもよい。点火すると、シールはほとんど全ての結合剤を失い得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、500℃を超える温度で操作され、熱サイクルに付される固体酸化物燃料電池に使用するのに好適なシールを与える。ここで述べられるシールは、他の高温ガス密閉環境及び特に高温燃料電池に使用するのに好適であり得る。本発明を述べるとき、別途示されない限り、以下の用語は以下の意味を有する。ここで定義されない全ての用語は、それらの共通な技術認識される意味を有する。“約”の用語は、測定の標準的な方法の既知で且つ許容される精度が与えられれば、許容される実験的又は測定誤差を含む定まった数量よりも大きい及び小さい範囲を指す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、所定の位置で配置された、本発明のシールを示す、燃料電池の配置の図である。
【図2】図2は、3000Xの倍率における、粒子を充填する前のアルミナ繊維マトリックスの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図3A及び3Bは、アルミナ浸漬含侵シールの断面図である。図3C及び3Dは、高温漏れ速度のテスト後の、アルミナテープキャストシールの断面図である。
【図4】図4は、浸漬含浸技術によって調製されたシールの漏れ速度テストの結果を示す図である。
【図5】図5は、熱サイクル前後のテープキャストシールの漏れ速度テストの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
“前点火”の用語は、セラミック材料内にある実質的な割合の有機材料が焼失する温度よりも高温で熱せられていない、未焼成のセラミック材料を指す。平面固体酸化物燃料電池において、設置され、典型的に500℃を超える操作又は高い温度に到達する熱サイクルをまだ経験していない、未焼成テープシールが、“前点火された”と考えてよい。“点火された”の用語は、セラミック材料内にある実質的な割合の有機材料が焼失する温度よりも高温で熱せられた後のセラミック材料を指す。点火されたシールは、焼結されてもされなくてもよい。操作又は高い温度に到達する熱サイクルを少なくとも一回経験している燃料電池スタックに設置されているシールは、“点火された”であると考えてよい。
【0009】
“セラミック”の用語は、金属酸化物(例えば、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、クロム、ランタン、ハフニウム、イットリウム、及びそれらの混合物の酸化物)を含むが、これに限定されない共有又はイオン結合を有する無機非金属固体材料、及び炭化物(例えば、チタン、タングステン、ホウ素、ケイ素のもの)、ケイ化物(例えば、モリブデン、ジシシリサイド(disicilicide)のもの)、窒化物(例えば、ホウ素、アルミニウム、チタン、ケイ素のもの)、及びホウ化物(例えば、タングステン、チタン、ウランのもの)、及びそれらの混合物を含むがこれに限定されない非酸化物化合物、すなわち、スピネル、チタン酸塩(例えば、バリウム、鉛、チタン酸鉛ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉄)、セラミック超伝導体、ゼオライト、セラミック固体イオン伝導体(イットリア安定化ジルコニア、β-アルミナ、及びセラート)を指す。
【0010】
図1に、燃料電池スタックの一部を図解する。シール(10a)が、2つの相互連結部(20)と、燃料電池(22)との間にあるのが示されている。シール(10b)もガスマニホルド(24)を囲んでいるのが示されており、このマニホルドは燃料及び空気を別々に電池に導く。効率及び安全性の理由のために、これらの2つのガス流を、それぞれのマニホルドの内部で密閉して保つことが重要である。本発明のシール(10a、10b)は、図解されている形状又は配置を有するシールに制限されず、燃料電池スタックの配置は、いかなる手法において請求される発明も制限しない。
シールは2種の本質的な要素、繊維(12)及び粒子(14)からなる。繊維(12)は土台を形成し、この種のシール固有の強さ及び可撓性にとって本質的である。充填剤粒子(14)は、繊維骨格内に散在して、適切な密閉性能を与える。繊維は電池の操作温度において可撓性のままであり得るべきであり、繊維マトリックス内にセラミック充填剤粒子を保持する。繊維及び粒子はまた、操作温度において焼結されるべきではなく、粒子は繊維マトリックスの空隙を満たすことができ、スタックガスに対して実質的に不浸透性であるシールを十分に形成すべきである。
【0011】
繊維及び充填剤粒子は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、又は他の好適なセラミック材料又は好適なセラミック材料の混合物でよい。好適なセラミック材料は、好ましくは不活性であるか燃料電池構成要素に化学的に相溶性があり、酸化及び還元環境において化学的に安定である。シリカ化合物はまた、潜在的に有用であるが、その水素に対すると反応、気化、及び電池能力の劣化のために、最適とは言えない。一つの実施態様では、繊維はアルミナであり、充填剤粒子はジルコニア又はアルミナである。多くの他の組み合せが可能であり、好適なセラミック材料の選択は、おそらく当業者の技術範囲内であろう。
【0012】
金属繊維又は粒子を用いてもよいが、それらの電気的伝導性、燃料電池操作温度における不安定又は酸化傾向、及びそれらの温度で焼成又は癒着する傾向のために、好ましくない。それにもかかわらず、いくつかの金属は、いくつかの用途において用いられ、セラミック材料のすべて又は一部にとして置換され得る。好適な金属繊維又は金属粉末は、好ましくは一定量、好ましくは約20体積%未満に制限されるべきである。表面上の酸化物層を生じて電気的伝導性を低下させ、及び焼結して密閉表面に結合し得る金属粉末及び繊維を選択するのも好ましい。好適な金属は、アルミニウム、鉄、及び合金を含んでよい。
シールが燃料電池スタックで圧縮されるときは、粒子は、ガスの潜在的な漏れ経路を塞ぐか、又は非常に曲がりくねった漏れ経路を創り、非密閉性だが効果的なシールを与える。繊維はセラミック粉末に対する物理的拘束力として作用し、形状を形成し、その耐用年数を通して保持することを可能にする。セラミック粉末はアルミナマトリックス内に詰められるが、隣接する部分に焼結されず、典型的に500℃〜1000℃となり得る、燃料電池の操作温度において未焼結のままである。シールのセラミック構成要素は焼結されないので、シールは破壊されることなく曲げられるか、又は熱膨張又は縮小を経験し得る。なお、非粘着性の設置は、集合及び分解を容易にし、構成要素の再利用を可能にし、及び振動に対するシールの抵抗を増加させ、より広い多様な用途、例えば自動車に使用することを可能にする。
【0013】
繊維マトリックスは、無作為に配向した繊維から、高多孔性のマット又はフェルトに形成してもよい。それとは別に、繊維はある手法で織られるか又は配向してもよい。一つの実施態様では、繊維マトリックスは約90%の多孔率を有してもよく(粒子充填の前に)、約0.064〜0.24g/cm3(4〜15ポンド/ft3)の密度を有する。繊維マトリックスは高圧縮性である。繊維マトリックス自体は、高度に圧縮された時でさえ、密閉要素として特性は非常に低い。図2は、未圧縮状態で製造者から得られ、セラミック粒子を有さない、商業的に入手可能なアルミナ繊維ペーパーの形態における繊維(14)マトリックスの顕微鏡写真を示す。好適なアルミナ繊維フェルト又はセラミックペーパーは市場で入手可能であり、例えばジョージア州オーガスタのサーマルセラミックス(Themal Ceramics)から入手可能なKaowoolTMである。KaowoolTMは、少量のシリカ繊維及び有機結合剤を含む。有機結合剤は、燃料電池操作温度が増加する結果として、蒸発するか、又は焼失する。
【0014】
本発明において、適切な密閉性能を与えるのは、繊維マトリックス内の粒子の組み合せである。どのような好適な方法を使用して、繊維マトリックス内へ粉末を充填してもよい。一つの実施態様では、シールは、まずアルミナ繊維からアルミナフェルトを製造し、次に望みの厚さのシート状に形成及び圧延することによって、形成され得る。次に、フェルトは、アルコールなどの液体媒質におけるセラミック粉末の懸濁液に、ここでは浸漬含浸と呼ばれる方法によって浸漬される。液体媒質はどのような液体でもよいが、好ましくは低表面張力を有し、比較的に揮発性であって素早く蒸発されるべきである。エタノール及びイソプロパノールなどのアルコールは、この目的のために効果的な液体媒質である。セラミック粉末は、フェルトの毛管現象によってフェルトのマトリックス内に導入され、従って適度に濃密な密閉媒質をつくる。セラミック粉末の吸収後、フェルトを乾燥してエタノールを除去し、フェルトを必要な大きさ及び所望のシール形状に切断、又は穿孔する。次に、シールは設置に先立って前圧縮されるか、又は切断又は穿孔に先立って前圧縮されてもよい。
【0015】
浸漬含侵シールについては、ジルコニア又はアルミナ粒子を含んでもよいセラミック粒子は、一様にミクロン以下の大きさでもよく、好ましくは直径0.5μm未満である。別の実施態様では、粒子は直径約0.17μm以下である。良好な結果が、大きな(0.5μm)粒子及び小さな(0.17μm)粒子の混合物を含む実施態様で達成された。一つの好ましい態様では、8体積%のより大きなジルコニア粒子の懸濁液及び8体積%のより小さなジルコニア粒子の懸濁液からなり、より大きな粒子の懸濁液とより小さな粒子の懸濁液が55:45の比で混合された懸濁液が、効果的なシールとなった。
好ましい態様では、浸漬含浸シールはSOFCスタックに用いられる前に圧縮してもよい。大きな性能の向上が、前圧縮されなかったシールに対して前圧縮されたシールで、達成され得る。前圧縮工程において達成された圧縮力は燃料電池スタック内で達成されるそれよりも高くしてもよく、それによって全体の密度の増加を導かれるので、この性能が改良される。シールは液圧プレスによって前圧縮してもよく、密閉性能はより大きな前圧縮によって増加するが、圧力盤(platen)に粘着するシールの傾向のために、圧縮された後にプレスからシールを回収するのが困難であろう。種々の周知の方法が、粘着を低減するのに有用である。好ましい方法は、圧力盤とシールの間の非粘着被覆又は紙などの解離材料の使用を含む。生じるシールは任意の好適な厚さを有していてもよく、粒子の含浸の前の繊維マトリックスの厚さ及び用いられる前圧縮の量に主として依存する。一つの実施態様では、シールは、前圧縮に先立って、約0.51mm〜約1.70mm(約0.020インチ〜約0.067インチ)の厚さで変えてもよい。シールが前圧縮される場合は、それらは約0.20mm(約0.008インチ)の厚さまで圧縮され得る。
【0016】
好ましい態様では、シールは、シールに用いられる固体材料の密度の約1/2未満の前点火密度に等しい、約50%未満の多孔率を有していてもよい。固体アルミナの物理的密度は、例えば約4.0g/cm3である。従って、約2.0g/cm3の前点火密度を有する、アルミナ繊維及び粒子を含むシールはおよそ50%の多孔質となるであろう。好ましくは、シールは、約45%未満、さらに好ましくは約40%未満、及び最も好ましくは約35%未満の前点火多孔率を有しうる。シールの多孔率は、有機結合剤及び他成分が熱分解されるため、点火することで増加し得る。多孔率の増加の大きさは、シールにおける有機結合剤の割合、及び当業者に周知の他の要因に依存して変わる。
【0017】
一般に、セラミックフェルト又はペーパーを含侵することによって、好ましい低多孔率(高密度)のシールを製造するのは困難である。しかし、本出願人は、好適な高密度シールが、テープキャスト方法によって製造され得ることを発見した。一般に、テープキャストは薄く平らなシートを製造する粉末のための形状形成技術である。粉末スラリー層は、移動するセラミックスラリーにドクターブレードの剪断作用をかけることによってキャリアフィルム上に形成される。続いて、テープを乾燥する。テープは、損傷すること無くキャリアフィルムから除去されるための“未焼成強度”(green strength)を十分に与える結合剤系を含む。セラミックスラリーは、セラミック繊維又は粉末、コロイド力に対して粉末を安定させるための分散剤、キャストをするために混合粘度を低減する溶媒、キャストテープにおける未焼成強度のための結合剤、及び結合剤の特性を修正するための可塑剤を通常含む、多成分系でもよい。これらのスラリーの配合は、当業者の技術の範囲内でよい。
【0018】
本発明の一つの態様では、繊維及び粉末のスラリーは、テープキャストによって、先行技術で記載されたシールの全密度よりも有意に大きいそれを有する、可撓性のシールを形成し得る。繊維の目的は、結合剤の焼失後、シールに一定の強度及び可撓性性を与えることである。構造材料としてのアルミナを用いる場合は、粉末充填密度は、未焼成テープにおいて約2.6g/cm3及び点火テープキャストシールにおいて約2.3g/cm3としてよい。2.3g/cm3の密度は43%未満の多孔率に等しい。我々は、粉末内に比較的大きい粒子の大きさを保持することで、比較的良好な圧縮性、可撓性、及び高粉末充填密度が可能になることを見出した。一つの態様では、例えば粒子の60%は直径約5μmであり、その残りは直径約1μmであってもよい。
テープキャスト方法によって形成され得る未焼成テープは、他の周知のテープの形成技術、例えば加圧ロール、スラリー被覆、剪断圧縮、冷圧などによって形成してもよい。
【0019】
好ましい態様では、スラリーは、指示された割合(全て質量%)における以下の成分、アルミナ繊維(5〜40%)、アルミナ粉末(50〜90%)、可塑剤(1〜15%)、有機結合剤(2〜5%)、分散剤(>1%)、及び溶媒によってつくられてもよい。アルミナ繊維は、市販のSaffil HATM及び/又はSaffil RFTM繊維を含んでいてもよい。アルミナ粉末は、市販のAlcoa A15-SGTMアルミナ粉末を含んでいてもよい。好適な可塑剤は、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、又はベンジルブチルフタレートを、単独又は組み合せて含む。好適な有機結合剤は、ポリビニルブチラールを含む。好適な分散剤は、リン酸塩エステルを含んでいてもよい。好適な溶媒は、脂肪族又は芳香族炭化水素を、単独又は組み合せて含んでいてもよく、好ましくは、トルエン、メチルi-ブチラールケトン、及びエタノールの混合物、又はメチル-エチルケトン及びエタノールの2:1混合物でもよい。
【0020】
繊維のアスペクト比は本質的に変わりやすいが、アルミナ繊維は、約10〜約2000のアスペクト比を有していてもよい。一つの態様では、市販のSaffilTM HA又はSaffil RFTM(Saffil ltd、英国)アルミナ繊維を用いてもよい。SaffilTMアルミナ繊維は、約5%未満のシリカ含有量及び約0.5%未満の不純物を有する比較的純粋なアルミナからなる。混合前に、繊維直径の平均は約3μmであり、長さは約0.5mm〜約5mmである。激しい混合は繊維破損の原因となり、及び繊維長さの平均を著しく低減し得る。ジルコニア、チタニア、又はマグネシアを含めて、他のセラミック繊維が好適となり得る。
【0021】
アルミナ粉末は、約50μm未満、好ましくは約20μm未満、及びさらに好ましくは約10μm未満の粒子径を有していてもよい。一つの態様では、二峰性(bimodal)粒子径分布を有するアルミナ粉末が、効果的であることが見出された。市販のAlcoa A15-SGTMは、約0.2〜1.5μmの小さい粒子及び約1.5〜20μmのより大きな粒子による好適な二峰性粒子径分布を有する高純度アルミナ粉末の一つの例である。ジルコニア、チタニア、又はマグネシアを含めて、アルミナ以外の他のセラミック粉末が好適となり得る。
【0022】
次に、スラリーは、好ましくは繊維破損及び失われた溶媒を補充する手法で、例えばボールミル又はミキサーによって機械的に攪拌してもよい。混合中に最初に加えられ、保持される溶媒の量は、スラリーの粘度を変えるために変えてもよい。調合物に加えられる結合剤の型及び量は、スラリーの粘度に影響を及ぼしてもよい。典型的に、十分な溶媒を添加して、約1000cp〜約50000cpの粘度を有するスラリーを製造する。次に、スラリーを、当技術分野で周知のように、脱気し、シリコーン被覆されたMylarTMシートの上にテープキャストし、乾燥する。
【0023】
次に、未焼成シールテープは大きさと形状に切られ得る。得られるシールは、約2.00g/cm3〜約2.90g/cm3の密度を有していてもよく、これは点火後に約1.60〜約2.70g/cm3に減少する。シールは約25%〜約50%の多孔率を有していてもよく、これは点火すると、テープ固体充填を基にして約35%〜約60%に増加する。このテープキャスト方法からつくられるシールは、セラミックフェルトを、セラミック粒子懸濁液に浸漬するか又は別な含浸をすることによって得られたものよりも、より密で、多孔性の小さいものとなり得る。従って、効果的な密閉効果を得るために、設置に先立ってテープキャストシールを前圧縮することは、必ずしも必要ではない。
次に、シールは、燃料電池スタックの組み立てに用いられ得る。残留有機成分は、燃料電池(点火)の操作温度において焼失する。
【0024】
図3は、浸漬含浸したシール(A及びB)と、テープキャストしたシール(C及びD)の断面図を示す。低倍率においては、浸漬含侵(A)シールのマクロ多孔率は、テープキャスト(C)シールのそれよりも非常に大きい。高倍率においては、テープキャスト(D)シールの均一な多孔性が見られる。図4に示される浸漬含侵シールによるガス漏れの大部分は、主としてむらがあり大きなマクロ多孔性の問題により、及びシールと燃料電池又は相互連結の境界面によるものと信じられている。テープキャストシールにこれらの問題がないのは、多孔性がより均一であり、有機成分の焼失より前に使用中にシールを圧縮することによって、シールが不規則な表面と一致することによる。
未使用のテープシールは、溶媒にシールを溶解し、且つ生じるスラリーを元のシールをテープキャストしたのと同様の手法で再びキャストすることで、再利用できる。未使用のテープキャストシールを再利用するための能力は、この方法を用いるシール製造の経済性を有意に改良し得る。
【0025】
以下の実施例は、本発明を例証するためのものであり、いかなる手法においても請求される発明を制限しない。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
浸漬含侵シールの調製及び室温漏れ速度テスト。
ZircarTM1mm(0.040インチ)Al2O3繊維フェルトをシールの大きさ10×10cmにカットした。次に、Zircarのカットされた部分を小さな四角形のMylarTM(約15cm×15cm)上に置き、(A)8体積%ジルコニアの又は(B)10体積%Al2O3の懸濁液浴に、光攪拌(light agitation)を用いて15秒間浸漬した。次に、MylarTMを円運動で持ち上げて傾け、残りの溶液を分配し、過剰溶液落とした。シールをおよそ90分間、MylarTMシート上で乾燥するようにした。乾燥したらすぐに、重量、Wd、を記録し、シールのいくつかを2又は3回浸し、各々を浸した後に重量を記録した。
空気をテストガスとして、室温下で漏れ速度を測定した。このテスト装置は2枚の磨製スチール板、水圧供給器、圧力検出器、空気圧調整器及びゲージ、及び漏れ速度流量計からなる。テスト下のシールの厚さは、隙間ゲージ(feeler guage)によって測定した。
型抜き後のZircarTMAl2O3フェルトの重量、Wp、は、約0.302〜0.305gであった。このシールを8体積%YSZに3回、及び10体積%Al2O3に1〜2回浸漬した。各々のシールを漏れ速度テストの前に、102atm(1500psi)で2分間、前圧縮した。
表1は、充填量(Wd、シールの全重量)、圧縮力10atm(150psi)における厚さ、及び浸漬回数を異なってテストされるシールの充填密度を列挙している。
≪表1≫
漏れ速度(LR)対粉末の異なる充填量
テスト条件:T=Troom、Pair=3447及び6895Pa、Pcompress=10342hPa

10342Paの圧縮力下におけるYSZ及びAl2O3の両方に対する、測定された粉末充填密度に基づいて、シールの多孔率は約60%よりも高い。
表1は、ガス漏れ速度、LR、が、粉末充填密度が増加することによって減少することを示している。この漏れ速度テストは、室温で行った。
【0027】
(実施例2)
テープキャストシール調合物。
≪表2≫
テープキャストシール調合物。

テープキャストシールは、アルミナ繊維とアルミナ粉末を、15:85又は20:80の質量比で混合することによって、セラミック基盤(basis)上に形成した。テープキャストスラリーは、溶媒系ムとしてのメチルエチルケトン(MEK)(66.6質量%)及び完全な無水エタノール(33.3質量%)、又はMIBK、トルエン、及び無水エタノールの混合物を用いて形成した。MEK/EtOH調合物は、可塑剤として、ポリエチレングリコール400(PEG)及びジブチルフタレート(DBP)を用い、MIBK溶媒系はSanticizer160TM(ベンジルブチルフタレート)を用いた。Butvar(登録商標)B76又はB79、又は両方の混合物を、ポリビニルブチラール(PVB)結合剤として用い、これは少量のポリビニルアルコール及びポリビニルアセテートを含む。スラリー調合物は、市販のリン酸塩エステル分散剤であるEmphos PS236TMも含んでいた。
スラリー調製:
2リットルのボトルと、1500グラムの9.5mm直径アルミナ粉砕媒体を用い、アルミナ粉末を分散した。粉末、溶媒、及び分散剤をまず加え、次に〜100rpmで2時間ボールミルをした。 次に、可塑剤及び結合剤を加え、さらに2〜6時間ボールミルをした。次に、繊維をこの混合物に加えた。他の試験では、ミキサーを用いて繊維を分散した。この方法では、スラリーをまずミキサーに注ぎ、繊維を1/2〜1時間にわたって加えた。繊維添加の間、追加の溶媒を加え、蒸発で失われた溶媒を補充し、テープキャストに好適なスラリーを製造する必要がある。
テープキャスト:
スラリー調合物をシリコーン被覆Mylar(登録商標)上にテープキャストした。表3は、表2由来の調合物を用いるいくつかのテープキャスト試験を表している。試験は、脱気無し及び65〜70kPaの真空下で30分間脱気して行った。キャストテープは、Mylar(登録商標)から除去される前に約4時間乾燥した。密度及び収縮の概要を、表5に記載した。
≪表3≫
試験概要。

【0028】
(実施例4)
密度、収縮、及び漏れ速度テスト。
密度及び収縮のデータを、それぞれのテープについて集めた。6平方cm(1平方インチ)の4つの断片を切り出し、密度を測定した。次に、これらの断片の2つを、750℃で1時間点火し、有機物を焼き尽くす。次に、これらの同断片を再測定し、それらの点火後の密度及び収縮の値を決定する。表4はこのデータの概要である。
≪表4≫
密度及び収縮の概要。

*漏れ速度は、3447hPaの圧縮力、750℃、34hPa空気でテストした。テストデバイス検出限度は0.0012mL/分/mmであった。
【0029】
(実施例5)
浸漬含侵シール(YSZ及びアルミナ粒子の両方を浸漬する)を、異なる圧縮力下、750℃、34hPaで空気と共にテストした。シールを、テストジグに設置する前に、92252hPaの力で前圧縮した。結果を図4に示す。図示されるように、漏れ速度は、シール上の圧縮力が増加するのに従って、ほぼ直線状減少した。含侵シールの漏れ速度は、750℃の17237hPa圧縮力下で0.006mL/分/mmであり、テープキャストシールのそれよりも高かった。
より低い漏れ速度を、試験番号1〜4のテープキャストシールでテストした。試験番号4のシールを、室温から750℃で6サイクルの熱サイクルでテストした。漏れ速度は、それぞれの熱サイクル中の同じ圧縮力範囲内でテストした。図4に示されるように、漏れ速度は、室温において3447hPaと同じ程度の圧縮力でさえ、圧縮力の至る所で、0.002mL/分/mmよりも低かった。さらに、漏れ速度は熱サイクル中、一貫して低かった。いくつかの場合では、漏れ速度は、750℃における0.0012mL/分/mmの検出限度において、テストした。従って、テープキャストシールは、多くの熱サイクル後の測定漏れ速度データに関して、良好な熱サイクル能力も示す。
多様な改良、適応、及び前述の明細の変化が、ここで請求される発明の範囲から逸脱しない範囲で行われ得ることは、当業者には明らかである。
【0030】
ここで、本発明を、添付された簡単で且つ概略であると共に、スケールの一致していない図を参照しながら、具体的な実施態様によって説明する。
【0031】
なお、本発明の具体的な態様として以下のものがあげられる。
〔1〕
セラミック繊維、セラミック粉末、及び結合剤を含む、前点火の状態の高温ガスシールであって、前記シールが焼結されておらず、50%未満の多孔率を有しており、その点火された状態において、より高い多孔率を有し、実質的に結合剤がないことを特徴とする、シール。
〔2〕
高温燃料電池に使用するための、〔1〕記載のシール。
〔3〕
前記セラミック繊維及びセラミック粉末が、同一でも異なってもよい材料であり、アルミナ又はジルコニアを含んでいてもよい、〔2〕記載のシール。
〔4〕
前記シールが、約45%未満の前点火多孔率を有する、〔3〕記載のシール。
〔5〕
前記シールが、約40%未満の前点火多孔率を有する、〔4〕記載のシール。
〔6〕
前記シールが、約35%未満の前点火多孔率を有する、〔5〕記載のシール。
〔7〕
テープキャスト方法によって形成される、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のシール。
〔8〕
約50%未満の点火多孔率を有する、〔7〕記載のシール。
〔9〕
約45%未満の点火多孔率を有する、〔8〕記載のシール。
〔10〕
約40%未満の点火多孔率を有する、〔9〕記載のシール。
〔11〕
セラミック高温ガスシールを形成する方法であって、以下の工程、
(a)複数のセラミック繊維を、1種以上のセラミック粉末及び有機結合剤と液体中で混合して、スラリーを形成する工程、
(b)テープを形成する工程、及び
(c)前記テープを乾燥して、前点火シールを形成する工程、
を含むことを特徴とする方法。
〔12〕
前記テープ形成工程が、テープキャスト、加圧ロール、スラリー被覆、剪断圧縮、又は冷圧を含んでもよい、〔11〕記載の方法。
〔13〕
前記テープ形成工程が、テープキャストを含む、〔12〕記載の方法。
〔14〕
前記セラミック繊維及びセラミック粉末が、同一でも異なってもよい材料であり、アルミナ又はジルコニアを含んでいてもよい、〔11〕記載の方法。
〔15〕
前記液体が、水性又は非水性である、〔11〕記載の方法。
〔16〕
前記液体が、非水性の液体であり、脂肪族又は芳香族炭化水素を含む、〔15〕記載の方法。
〔17〕
前記非水性液体が、トルエン、ケトン、及びアルコールの組み合せを含む、〔16〕記載の方法。
〔18〕
前記非水性液体が、ケトン及びアルコールの組み合せを含む、〔16〕記載の方法。
〔19〕
前記有機結合剤が、ポリビニルブチラールを含む、〔11〕記載の方法。
〔20〕
前記スラリーが、さらに可塑剤を含む、〔11〕記載の方法。
〔21〕
前記可塑剤が、ポリエチレングリコール、ジブチルフタラート、ベンジルブチルフタラート、又はそれらの組み合せを含む、〔20〕記載の方法。
〔22〕
前記スラリーが、さらに分散剤を含む、〔11〕記載の方法。
〔23〕
前記分散剤が、ホスフェートエステルを含む、〔22〕記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維、セラミック粉末、及び結合剤を含む、前点火の状態の高温ガスシールであって、前記シールが焼結されておらず、約25〜約50%の多孔率を有しており、その点火された状態において、約35%〜約60%のより高い多孔率を有し、実質的に結合剤がないことを特徴とする、シール。
【請求項2】
高温燃料電池に使用するための、請求項1記載のシール。
【請求項3】
前記セラミック繊維及びセラミック粉末が、同一でも異なってもよい材料であり、アルミナ又はジルコニアを含んでいてもよい、請求項2記載のシール。
【請求項4】
前記シールが、約45%未満の前点火多孔率を有する、請求項3記載のシール。
【請求項5】
前記シールが、約40%未満の前点火多孔率を有する、請求項4記載のシール。
【請求項6】
前記シールが、約35%未満の前点火多孔率を有する、請求項5記載のシール。
【請求項7】
テープキャスト方法によって形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシール。
【請求項8】
約50%未満の点火多孔率を有する、請求項7記載のシール。
【請求項9】
約45%未満の点火多孔率を有する、請求項8記載のシール。
【請求項10】
約40%未満の点火多孔率を有する、請求項9記載のシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−238620(P2011−238620A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137558(P2011−137558)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2004−562414(P2004−562414)の分割
【原出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【出願人】(505371519)ヴァーサ パワー システムズ リミテッド (11)
【Fターム(参考)】