説明

高温スラグの処理方法

【課題】スラグの2次冷却過程における冷却水使用量を過不足ない最適量とするために、ロータリークーラー内のスラグ温度に対応して散水量を制御することができる高温スラグの処理方法を提供すること。
【解決手段】高温のスラグを1次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ2次冷却する高温スラグの処理方法であって、2次冷却を行う冷却装置として、スラグに散水を行う冷却水吹付け手段と、スラグと接触しない位置で雰囲気温度を測定する熱電対とを内部に備えた冷却装置を使用し、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温スラグの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1200℃以上の高温で排出される製鋼スラグに含まれる地金を分離する場合、分離作業の前工程として、高温スラグを冷却ピットで数時間放冷し、水蒸気爆発の危険がない温度まで冷却後、更に冷却を進行させるために、数時間に渡って冷却水を散水しながら冷却する冷却工程が必要であった。また該冷却工程を経たスラグを、その後、破砕機と磁選機に繰り返し通過させながら、順次、スラグから大塊地金・中塊地金・小塊地金を分級分離していたが、このようにして分離された地金は、スラグと十分に分離していない場合もあり、安定的に高い鉄含有率の地金を得ることが困難であった。
【0003】
これに対し、本願出願人は、製鋼スラグに含まれる地金を、水蒸気爆発や火災を発生させることなく効率よく回収し、鉄分含有率の高い地金を得ることができる製鋼スラグ中の地金回収方法を提供すること、および、過大な設備やコストを要することなく、かつ粉塵飛散を抑制しつつ製鋼スラグに含まれる地金を回収することができる方法を提供することを目的として、ロータリークーラーの内部に、製鋼スラグを、1000℃付近の高温状態で装入し、シェルの内面に突起を備えた該ロータリークーラーを回転させることによって、製鋼スラグに落下衝撃による破砕作用を加えながら冷却し、製鋼スラグに含まれる地金を分離する技術を開示している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1記載の製鋼スラグ中の地金分離方法では、製鋼工程から排出される1300〜1500℃の高温の製鋼スラグを、冷却ピットで800〜1250℃にまで冷却(以下、1次冷却という)した後、ホッパーを介してロータリークーラーに投入する。ホッパーの入口には、振動グリズリーと呼ばれる格子状の振動篩が設置されており、ここで製鋼スラグ中の大塊地金が回収される。次に、振動グリズリーを通過した製鋼スラグは、振動フィーダー等の切り出し装置によって、800〜1250℃程度の高温状態のままロータリークーラーに装入される。該ロータリークーラーは、シェルの内面に突起を備えた構造を有し、シェルを回転させることによって製鋼スラグに落下衝撃による破砕作用を加えながら100〜300℃の範囲で定めた所定の目標温度まで冷却し(以下、2次冷却という)、製鋼スラグに含まれる地金を分離することができる。このようにして破砕され地金を分離された製鋼スラグは、その後、出口シュートからコンベヤ上に排出される。
【0005】
特許文献1記載の製鋼スラグ中の地金分離方法では、2次冷却の冷却効率を高め、冷却装置の出側におけるスラグ温度を安定させるために、ロータリークーラーのシェルを外部から水冷する外部空冷手段と、シェルの中心部に冷却用送風管を固定してスラグを空冷する内部空冷手段と、冷却用送風管の下方に冷却用送水管を配置してスラグを水冷する内部水冷手段とを併用している。
【0006】
一般にロータリークーラーに投入される高温スラグ温度には800〜1250℃程度のバラつきがあり、このようなスラグを、2次冷却により所定の目標温度まで冷却するために、従来は、ロータリークーラー内に設けた内部水冷手段から過剰量の冷却水を散水する運転が行われていた。このように過剰量の冷却水を使用することは環境やコストの観点から好ましくないため、本来スラグ温度に応じて散水量を最適に制御することが望ましい。
【0007】
しかし、例えば、熱電対を用いてスラグ温度を直接しようとした場合、ロータリークーラー内で移動していく硬度の高い高温スラグとの接触により熱電対が破損しやすく実用性に欠け、また、高温スラグへの散水により水蒸気が発生している雰囲気下で、熱電対により検出される温度データがバラつくため、散水量制御に反映可能な精度でのスラグ温度データを得ることができず、結果としてスラグ温度に対応して散水量を最適に制御することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−127094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は前記問題を解決し、スラグの2次冷却過程における冷却水使用量を過不足ない最適量とするために、ロータリークーラー内のスラグ温度に対応して散水量を制御することができる高温スラグの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の高温スラグの処理方法は、高温のスラグを1次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ2次冷却する高温スラグの処理方法であって、2次冷却を行う冷却装置として、スラグに散水を行う冷却水吹付け手段と、スラグと接触しない位置で雰囲気温度を測定する熱電対とを内部に備えた冷却装置を使用し、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行うことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の高温スラグの処理方法において、該散水量決定テーブルは、スラグの実測温度データと、該実測温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量データと、該散水量によりスラグを所定の出口温度まで冷却することができる雰囲気温度データから構成され、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度から、該雰囲気温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量を決定することを特徴とするものである。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の高温スラグの処理方法において、2次冷却を行う冷却装置として、冷却風吹付け手段と冷却水吹付け手段とをシェルの内部に備えたロータリークーラーを使用し、該ロータリークーラーの入側では、冷却風吹付け手段によりシェル内部のスラグを800〜500℃まで空冷し、その後、冷却水吹付け手段により該スラグへの直接散水を行い、スラグを100〜300℃の範囲で定めた所定の目標温度まで冷却することを特徴とするものである。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の高温スラグの処理方法において、2次冷却を行う冷却装置として、更に、シェル外部散水手段を備えたロータリークーラーを使用し、該ロータリークーラーの入側では、シェル外部散水手段と冷却風吹付け手段によりスラグを冷却することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の高温スラグの処理方法において、1次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の高温スラグの処理方法において、冷却装置の入口にグリズリーを設置し、1次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することを特徴とするものである。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1記載の高温スラグの処理方法において、CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る高温スラグの処理方法は、2次冷却を行う冷却装置として、スラグに散水を行う冷却水吹付け手段と、スラグと接触しない位置で雰囲気温度を測定する熱電対とを内部に備えた冷却装置を使用し、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行う構成を有する。このうち、熱電対を用いて冷却装置内部雰囲気温度を測定する構成によれば、硬度の高い高温スラグと熱電対が接触して熱電対が破損してしまう問題を回避することができる。また、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行う構成によれば、スラグの2次冷却過程における冷却水使用量を過不足ない最適量とするために、ロータリークーラー内のスラグ温度に対応して散水量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】高温スラグ処理設備の概略説明図である。
【図2】ロータリークーラーの出側断面説明図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1には高温スラグ処理設備の概略説明図を示し、図2にはロータリークーラーの出側断面説明図を示し、図3には図2のA−A断面図を示している。
【0020】
本実施形態では、高温のスラグをスラグパン1からピット2に流下させ、先ず1次冷却を行う。本発明で処理対象とする高温のスラグは、炉または鍋から排出された製鋼スラグや溶銑予備処理スラグであり、製鋼スラグには転炉吹錬スラグ、溶銑予備処理スラグには溶銑脱リンスラグ、溶銑脱硫スラグなどが含まれる。
【0021】
なお、炉や鍋から排出されるスラグの温度はスラグの種類により異なるが、一般的には製鋼スラグでは1400〜1600℃であり、溶銑予備処理スラグでは1200〜1400℃である。
【0022】
1次冷却を行うピット2の構造は特に限定されるものではないが、ここでは砕石層の上に厚さ0.25mのスラブを敷き詰めた構造を採用している。このほか、冷却ボックスを使用して1次冷却を行うこともできる。高温のスラグはピット2上で均一な厚さに掻き均され、大きな塊や地金を取り除かれる。さらに散水ノズルから冷却水を噴霧する。この1次冷却によって、スラグ温度を800〜1250℃程度にまで降下させる。
【0023】
次にピット2からパワーショベル等の適宜の機器によりスラグを取り出し、冷却装置6において2次冷却を行う。冷却装置6の前段にはホッパー4が設置されており、その表面にはグリズリーと呼ばれる篩分け用の格子3が傾斜状態で設けられている。1次冷却を終えたスラグ中の地金大塊はこの篩分け格子3によって分離され、グリズリーを通過した小径のスラグのみが振動フィーダー5によって冷却装置6に投入される。
【0024】
2次冷却のための冷却装置6として、この実施形態ではロータリークーラーが用いられている。これはシェル7を水平面に対してわずかに傾斜させた軸線のまわりに回転させ、その内部にスラグに冷却風を吹付ける冷却風吹付け手段62を設けたものである。冷却風吹付け手段62はシェル7の中心を貫通するパイプ62aと複数のノズル62bを備えており、このノズル62bから冷却風を噴出してシェル内部のスラグを冷却する構造のクーラーである。また、円筒形のシェル7の外部にはシェル外部散水手段(図示しない)が設けられており、シェル7を外部から冷却する。
【0025】
ロータリークーラーの入側では、冷却風吹付け手段62によりシェル内部のスラグを800〜500℃まで空冷し、その後、冷却水吹付け手段63A、63Bにより該スラグへの直接散水を行い、スラグを100〜300℃の範囲で定めた所定の目標温度まで冷却する。
【0026】
冷却水吹付け手段63A、63Bからの散水量は、スラグと接触しない位置で雰囲気温度を測定する熱電対61により測定した冷却装置内部雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて決定される。
【0027】
表1には、散水量決定テーブルを示している。該散水量決定テーブルは、スラグの実測温度データと、該実測温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量データと、該散水量によりスラグを所定の出口温度まで冷却することができる雰囲気温度データから構成され、該熱電対を用いて測定した雰囲気温度から、該雰囲気温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量を決定するものである。
【0028】
【表1】

【0029】
熱電対61は、図2および図3に示すように、冷却風吹付け手段62のパイプ62aの側面に配設されている。本発明では、熱電対61の下部先端位置を、シェル7の回転に伴って移動するスラグ表面と触れない位置に配置して、高硬度のスラグとの接触による破壊を防止している。また、熱電対61の下部先端位置を、スラグに表面に近接するよう配置して、測定温度の安定化を図っている。
【0030】
本実施形態では、熱電対61a、61b、61c、61dを、冷却風吹付け手段62の側部4か所に配置してシェル内の雰囲気温度測定を行っている。熱電対61aと61b(以下、温度計Aという)、熱電対61cと61d(以下、温度計Bという)をそれぞれペアとして、ハイセレクタ方式で切り換えを行う。
【0031】
温度計Aの温度が設定値A1になったとき、冷却水吹付け手段63Aから所定の設定流量(V1)で散水を開始し、設定時間(T1)後に冷却水吹付け手段63Bからの散水を開始する。このとき、冷却水吹付け手段63Bからの散水量は、温度計Bの温度により決定される。
【0032】
このように熱電対61を用いて測定した冷却装置内部雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行う構成によれば、スラグの2次冷却過程における冷却水使用量を過不足ない最適量とするために、ロータリークーラー内のスラグ温度に対応して散水量を制御することができる。
【0033】
2次冷却によって、100〜300℃の範囲で定めた所定の目標温度にまで冷却されたスラグは、冷却装置6の出口8から傾斜コンベヤ9に排出され、その後、トリッパコンベア10を介して製品ピット11へと搬送される。
【符号の説明】
【0034】
1 スラグパン
2 ピット
3 篩分け用の格子
4 ホッパー
5 振動フィーダー
6 冷却装置
61a、61b、61c、61d 熱電対
62 冷却風吹付け手段
62a パイプ
62b ノズル
63A、63B 冷却水吹付け手段
7 シェル
8 出口
9 傾斜コンベヤ
10 トリッパコンベア
11 製品ピット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温のスラグを1次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ2次冷却する高温スラグの処理方法であって、
2次冷却を行う冷却装置として、スラグに散水を行う冷却水吹付け手段と、スラグと接触しない位置で雰囲気温度を測定する熱電対とを内部に備えた冷却装置を使用し、
該熱電対を用いて測定した雰囲気温度を、事前に定めた散水量決定テーブルにあてはめて冷却水吹付け手段の散水量の制御を行うことを特徴とする高温スラグの処理方法。
【請求項2】
該散水量決定テーブルは、スラグの実測温度データと、該実測温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量データと、該散水量によりスラグを所定の出口温度まで冷却することができる雰囲気温度データから構成され、
該熱電対を用いて測定した雰囲気温度から、該雰囲気温度を有するスラグを所定の出口温度まで冷却するために必要とした散水量を決定することを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項3】
2次冷却を行う冷却装置として、冷却風吹付け手段と冷却水吹付け手段とをシェルの内部に備えたロータリークーラーを使用し、該ロータリークーラーの入側では、冷却風吹付け手段によりシェル内部のスラグを800〜500℃まで空冷し、その後、冷却水吹付け手段により該スラグへの直接散水を行い、スラグを100〜300℃の範囲で定めた所定の目標温度まで冷却することを特徴とする請求項1または2記載の高温スラグの処理方法。
【請求項4】
2次冷却を行う冷却装置として、更に、シェル外部散水手段を備えたロータリークーラーを使用し、該ロータリークーラーの入側では、シェル外部散水手段と冷却風吹付け手段によりスラグを冷却することを特徴とする請求項3記載の高温スラグの処理方法。
【請求項5】
1次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項6】
冷却装置の入口にグリズリーを設置し、1次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項7】
CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−21204(P2012−21204A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161490(P2010−161490)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】