説明

高温半導体素子用平角状パラジウム(Pd)又は白金(Pt)被覆銅リボン

【課題】超音波接合性、高温信頼性を向上したAlパッドと基板側のリード間を多数箇所同時に接続するボンディングリボンを提供する。
【解決手段】パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅芯材からなるボンディングリボンとして、
銅芯材を70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)として導電性とループ形成性を付与し、被覆層を純度99.9%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)をアルゴンガス(Ar)等の希ガス雰囲気下で室温の銅芯材テープ上にマグネトロンスパッタすることによって、微細な粒状の結晶組織として、芯材と被覆層とのビッカース硬さを同等にして、アルミパッドの損傷を防止するとともに、接合性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品および半導体素子パッドを多数箇所同時に超音波接合し、ループ状に接続するための平角状パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン、特にアルミパッドのパワー半導体素子とニッケル(Ni)被覆基板側リード部とを接続するための平角状パラジウムまたは白パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子に搭載されたボンディングパッドとして、主に純度99.99%のアルミニウム(Al)金属またはそれに0.5〜1.2質量%のシリコン(Si)や0.2〜0.7質量%の銅(Cu)または、これらを組み合わせたAl-Cu-Siなどの合金からなるアルミパッドが使用される。
また、ニッケル(Ni)被覆基板側リードには、電気めっきおよびスパッタによりニッケル(Ni)が形成された銅(Cu)合金や鉄(Fe)合金、あるいは、これらからなるリードを搭載したセラミックスが主に使用されている。このアルミパッドとニッケル(Ni)被覆リードフレーム等を超音波接合によって接続するのに、平角状銅リボンが使用される。平角状銅リボンのボンディング方法は、銅リボンの上に超硬ツールを押しつけ、その荷重および超音波振動のエネルギーにより接合するものである。超音波印加の効果は、銅リボンの変形を助長するための接合面積の拡大と、銅リボンに自然に形成された酸化膜を破壊・除去することにより、銅(Cu)等の金属原子を下面に露出させ、対抗するアルミニウム(Al)の第一ボンド面およびニッケル(Ni)の第二ボンド面と銅リボン面との界面に塑性流動を発生させ、互いに密着する新生面を漸増させながら、両者を原子間結合させることにある。
【0003】
このような半導体素子のアルミ電極パッドおよびこれと接続するニッケル(Ni)被覆基板側のリードとは、上記したように、それぞれ材質が異なる。このため冶金的な溶融過程を伴わない超音波接合によっても、これらの接合界面では、Cuリボン表面の酸化や硫化による変質層の存在により、必ずしも強固な、信頼性の高い接合は達成できない。
これらの解決策として、ボンディングワイヤのウェッジ接合技術を応用することが考えられる。すなわち、銅(Cu)極細線にパラジウム(Pd)を0.3μm電気めっきしたボンディングワイヤ(実開昭60-160554号公報、後述の特許文献1)やパラジウム(Pd)または白金(Pt)を0.1μm化学蒸着したボンディングワイヤ(特開昭62-097360号公報、後述の特許文献2)のウェッジ接合技術を応用することが考えられる。あるいは、パラジウム(Pd)を0.8μm電気めっきした後伸線したボンディングワイヤ(特開2004-014884号公報、後述の特許文献3)について、ウェッジ接合技術を応用することが考えられる。このボンディングワイヤの技術をボンディングリボンの超音波接合に適用すると、ボンディングワイヤの場合は接合する一方の半導体素子側の電極がアルミニウム(Al)パッドであり、他方がリードフレームなどの異種金属であるため、ボンディングリボンの場合も、アルミニウムパッドとニッケル(Ni)の電気めっきやクラッドが被覆されたコバール等のリードフレームに対してパラジウムまたは白金(Pt)被覆銅リボンの金属面を接合するものとなる。
ところが、この被覆銅リボンは、リボン幅が数百μmから十数mmあり、リボン厚さが1mm程度以下とボンディングワイヤよりも幅や厚さが一桁以上も大きくなり、パラジウム(Pd)被膜または白金(Pt)被膜が厚くなる。この被覆銅リボンを直接アルミ電極パッドに超音波接合しようとすると、アルミニウムパッドが過度に加熱されるとともに、アルミニウムパッドに対する過大な押圧力によってアルミニウムパッドが割れてしまうという課題があった。一方、パラジウム(Pd)または白金(Pt)はニッケル(Ni)との濡れ性が良いため、リードフレーム側でウェッジ接合すると、ニッケル(Ni)被覆基板側のリード上を高純度のパラジウム(Pd)や白金(Pt)が濡れ拡がり、リボン幅内でうまく第二ボンドすることができなかった。
【0004】
このため銅(Cu)の酸化および硫化を防止しつつ、このような第二ボンドの接合部の濡れ拡がりを克服するため、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を薄くすることも考えられうる。
特開2007−012776号公報(後述の特許文献3)は、そのような要求に応えて提案されたものとみることもでき、導電性の高い銅(Cu)を芯材としてパラジウム(Pd)または白金(Pt)を電気めっきした後、伸線・熱処理をして外皮層が0.016μmまたは0.007μmにしたボンディングワイヤである。この発明によれば、外側のパラジウム(Pd)等を薄くするため、第二ボンドにおける接合性の濡れ拡がりの課題を解決する可能性がある。また、熱処理による拡散層を設けることによって信頼性の高い超音波ボンディングによる接合が達成できるとしている。
しかしながら、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの多数箇所をアルミパッドへ同時に超音波接合する場合、外皮層が薄いため接合時に発生する熱によって接合箇所における銅(Cu)は変形し、銅(Cu)の加工硬化の影響が直接アルミ電極パッドに伝わるため、アルミパッドにクラック等が入りやすくなる。また、電極パッドの接合界面には銅(Cu)とアルミニウム(Al)との金属間化合物ができやすくなり、高温環境下で使用すると結果として接合強度にはバラツキが表れる。さらに高温放置すると、接合界面のボイド等からにアルミニウム(Al)の酸化膜が発達して接合界面におけるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの接合強度がなくなり、高温接合信頼性は十分とはいえないものとなる。
なお、パワー半導体等の高温半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンを用いた超音波接合は、第一ボンド後ループを形成して第二ボンドをし、場合によっては更にそれ以上の複数ボンドを行い、最終ボンド後にカッターでパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンを切断するものである。
【0005】
上記のパラジウム(Pd)又は白金(Pt)被覆銅リボンで接合信頼性が問題となるのは、130〜175℃の耐熱温度を必要とする高温半導体、特にエアコン、太陽光発電システム、ハイブリッド車や電気自動車などのパワー半導体に採用される大容量のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンである。例えば、車載用に使用されるパワー半導体に用いられるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンは、最大で通常150〜175℃程度の接合部温度に耐える必要がある。このような高温環境下においては、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンを超音波接合した場合の高温酸化も課題として挙げられ、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの接合表面を安定な皮膜で覆うなどの、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの耐酸化性向上が求められる。
このような実装環境下では、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンとアルミパッド電極部およびニッケル(Ni)被覆基板側リードの接合強度の確保が重要となる。
【特許文献1】実開昭60-160554号公報
【特許文献2】特開昭62-097360号公報
【特許文献3】特開2004-014884号公報
【非特許文献1】「Aspectroellipsometric investigation of the effect of argon partial pressure onsputtered palladium films」,BrianT. Sullivan et al., 3390, J. Vac. Sci. Techol. A 5(6), Nov/Dec 1987,PP3399-3407
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、ある程度形状の大きなパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を設けたパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンがアルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドで多数箇所の超音波接合によってボンディングし、第一ボンドからループを描いてニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドで多数箇所の超音波接合によってボンディングしても、第一ボンド時にアルミパッドにクラック等が生じることがなく、第二ボンド時においてもリボン幅を超えてぬれ拡がることがなく十分な接合強度を確保することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明者らはパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を微細な粒状の結晶組織を利用した。
すなわち、アルミパッド電極部との第一ボンドでは、多数箇所が突出された超硬ツールをパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンに押し付けてパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの多数箇所をアルミパッドへ一気に超音波接合するのが一般的なものであるが、この時銅(Cu)芯材テープが変形されて加工硬化を起こしアルミニウムパッドにクラック等をもたらすものと思われる。本発明者らはパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を銅(Cu)芯材と拡散させることなく銅(Cu)芯材テープ上に微細な粒状結晶を直接積層させた組織構造にすることで、見かけのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さを厚くしそのクッション効果によって銅(Cu)芯材テープの加工硬化の影響を弱めてアルミニウムパッドにクラック等が生じないようにした。また、超音波接合時に発生する接合に寄与しない熱をパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の粒状組織に吸収させてパラジウム(Pd)または白金(Pt))被覆層をバルク組織に戻すことによって、接合近傍の発熱を大きくして銅(Cu)の加工硬化の影響を弱めることにした。
また、第二ボンドでも、超硬ツールによりパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの多数箇所を一気に超音波接合するが、この場合は、第一ボンドのようにニッケル(Ni)被覆層にクラック等が発生するような課題はない。そのため超音波接合の発熱量および超硬ツールの加圧力を大きくすることができるが、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さは実質的に薄く、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層が濡れ拡がることはない。すなわち、本発明に係るパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の溶け出し量がわずかである。このため、銅(Cu)芯材の銅(Cu)とニッケル(Ni)被覆層のニッケル(Ni)とが直接超音波接合されるが、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、ボンディング時の荷重と超音波により破壊されるか、または、このときの熱により銅(Cu)芯材内部あるいは被覆層のニッケル(Ni)内部へと拡散してパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層がリボン幅を超えて濡れ広がることはない。
【0008】
本発明の130〜175℃の環境下においても使用可能である半導体に使用するパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆リボンは、アルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドおよびニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドを多数箇所の超音波接合によって接合し、第一ボンドと第二ボンドとのあいだをループ状に接続するためのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状リボンにおいて、
前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層はアルゴンガス(Ar)やネオン(Ne)ガス等の希ガス雰囲気下で、室温に保持された前記銅(Cu)芯材テープ上に、マグネトロンスパッタされた50〜500nm厚の純度99.9%%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)からなる微細な粒状の結晶組織であることを特徴とする。
【0009】
本発明におけるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、純度99.9%以上の高純度でありながら、マグネトロンスパッタされているので、硬さは純度99.99%以上の熱処理したパラジウム(Pd)または白金(Pt)バルクの硬さ(10g加重でいずれも50Hv)よりも3倍程度高いもの(150Hv前後)となっている。
これは、本発明のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの表面に直接形成されるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層が、希ガスが介在する低圧条件下で堆積して形成された微細な多結晶組織からなることにより、多くの内部歪みが蓄積されているためと考えられる。この歪みの原因は、パラジウム(Pd)または白金(Pt)源の不純物に起因したり、真空装置中に残留する酸素や水分などに起因したりする。特に、マグネトロンスパッタリングにおいては、スパッタされるパラジウム(Pd)または白金(Pt)粒子に高エネルギーが付加されるとともに、使用する希ガス、例えばアルゴン(Ar)や残留する水分子等が巻き込まれ、特定の条件下で緻密で結晶粒の小さい多結晶膜を形成する。このパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の硬さは、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の純度が99.95質量%から99.99質量%へと高くなるほど低くなる傾向にある。
【0010】
なお、本発明のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、純度99.9%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)を用いている(好ましくは純度99.95%以上、より好ましくは純度99.99%以上である)ので、銅(Cu)芯材の銅(Cu)との接合性もよく、パラジウム(Pd)膜または白金(Pt)膜自体も緻密で安定であるため、銅(Cu)芯材内部からの酸素がパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を経由してアルミニウム(Al)パッドの界面に進入するのを防ぎ、アルミニウム(Al)の酸化を抑制させる効果がある。このことは実装後の高温放置試験で、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層が銅(Cu)芯材へ拡散して消失した箇所であっても、アルミパッドのアルミニウム(Al)と銅(Cu)との接合界面に新たなアルミニウム(Al)酸化物が形成されていないことから裏付けられる。
【0011】
パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の上記の硬さに対して銅(Cu)芯材テープを70Hv以下、より好ましくは60Hv以下のビッカース硬さとすることにより、第一ボンド時におけるアルミパッドのチップダメージを抑制することが可能となる。
また、上記のパラジウム(Pd)または白金(Pt)が被覆された銅(Cu)芯材テープの硬さに対して、前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さは、50nm以上500nm以下であり、好ましくは100〜400nmの範囲であり、マグネトロンスパッタされたパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さが上記の範囲にあることによって、銅(Cu)芯材テープの硬さが最も効果を発揮する。
なお、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さが薄く、前記の特許文献3で好適範囲とされているようなパラジウム(Pd)または白金(Pt)被膜の厚さでは、下地となる銅(Cu)芯材テープの表面性状の影響を強く受け、銅(Cu)芯材テープの加工硬化の影響がそのままアルミパッドに伝わってアルミパッド電極を破壊してしまう。
【0012】
このように、ボンディング時におけるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を設けることによって銅(Cu)芯材テープの加工硬化による影響を抑止することで、第一ボンド時におけるチップダメージを防ぐとともに、チップ側のアルミパッド電極に対して安定した接合強度を確保する。また、第二ボンド時における銅(Cu)芯材がニッケル(Ni)被覆層と直接超音波接合されることで、第二ボンドの安定した接合強度を確保する。
また、銅(Cu)芯材テープを純度99.9%以上の銅(Cu)から純度99.99%以上の銅(Cu)ないし純度99.999%以上の銅(Cu)へと純度を高めることは、上記効果をさらに向上させる効果がある。銅(Cu)の純度や微量添加元素の種類は、使用する半導体の目的に応じて適宜選択することができる。なお、純度99.99%以上の銅(Cu)、更には純度99.999%以上の銅(Cu)のように、より高純度の銅(Cu)を使用することは、ループ形成時や第一ボンドと第二ボンドの接合時における加工硬化を低減させる効果もあり、コスト高の点を除けば高温半導体用途において好ましい。また、このような高純度化により、ループ形成時においては、急峻なループを描いても接合界面からはく離しにくくなる。
【0013】
また、本発明の高温半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンは、半導体の素子パッドとニッケル(Ni)被覆基板とのあいだを多数箇所の超音波接合によってループ状に接続するためのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンにおいて、前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、希ガスの低圧雰囲気中で室温の前記銅(Cu)芯材テープに対してマグネトロンスパッタリングによって形成され、多くの歪みが導入されたものからなることを特徴とする。
【0014】
パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン内のパラジウム(Pd)または白金(Pt)の銅(Cu)内部への拡散によるパラジウム(Pd)皮膜または白金(Pt)皮膜における歪みの消失を防止するため、室温で直接マグネトロンスパッタ形成することが有効である。また、ループ形成時に急峻なループを描いても、純度99.9%以上の高純度のパラジウム(Pd)または白金(Pt)と純度99.9%以上の高純度の銅(Cu)との密着強度が確保されており、超音波ボンディング時にそのCu/Pd・Pt界面が剥がれることもない。
【発明の効果】
【0015】
本発明で得られるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、純度99.9%以上の高純度でありながら、バルクのパラジウム(Pd)または白金(Pt)の硬さよりも2倍以上のビッカース硬さをもち、銅(Cu)芯材の加工硬化の影響を小さくしたことを特徴とする。本発明ではこのようなパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層を軟質の70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)とを直接組み合わせることによって、高温半導体用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンとしての性能を発揮することができる。
すなわち、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの多数箇所を超硬ツールによってアルミパッドと超音波接合して第一ボンドとし、その後超硬ツールによってパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンをループ状に形成し、その後パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの多数箇所を超硬ツールによってニッケル(Ni)被覆リードフレーム等と超音波接合して第二ボンドとして接続する、代表的な超音波ボンディング工程において、第一ボンド時のチップ割れを抑制し、第一ボンド時および第二ボンド時の接合強度のバラツキが小さく、安定してボンディングできる。
さらに、ボンディングされたパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンを高温環境に放置しても、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の表面から銅(Cu)芯材テープ界面への酸素の進入を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明のパラジウム(Pd)被覆銅リボンのパラジウム(Pd)被覆層の上方からみた組織写真である。
【図2】図2は、比較例のパラジウム(Pd)層の組織写真である。
【図3】図3は、本発明のパラジウム(Pd)被覆銅リボンのパラジウム(Pd)被覆層の上方からみた拡大組織写真である(平均粒径:0.05〜0.3μm)。
【図4】図4は、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの断面図である
【図5】図5は、従来のパラジウム(Pd)または白金(Pt)クラッドリボンにより、半導体素子のパッドとリードフレームを超音波接合によって接続した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンにおいて、銅(Cu)芯材テープの純度は99.99%以上であることが好ましい。ループ変形時の加工硬化をできるだけ少なくし、ボンディングスピードを速め、単位時間当たりの接続個数を多くするためである。銅(Cu)芯材テープの純度や種類は使用する半導体やリードフレーム等によって適宜定まるが、ボンディング時における銅(Cu)芯材テープの加工硬化および不純物の混入を避けるため、純度99.995%以上とできるだけ高純度であることがより望ましい。
【0018】
パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の純度は99.9%よりも99.99%であることが好ましい。これは、チップダメージの原因となるパラジウム(Pd)または白金(Pt)金属中に含まれる微量元素がマグネトロンスパッタされたパラジウム(Pd)または白金(Pt)粒子の表面に析出・凝集してパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層に局部的に硬度の高い箇所が形成されるのを回避するためである。また、長期間高温度で半導体が使用された場合、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層ないし銅(Cu)芯材と半導体素子のアルミパッドとの接合界面において生じる、微量元素の集積や酸化を防ぎ、接合信頼性を確保するためである。
【0019】
本発明のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の硬さは、パラジウム(Pd)または白金(Pt)バルクの硬さの2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。接合部における銅(Cu)芯材テープの銅(Cu)の加工硬化によるアルミニウム(Al)パッドのチップダメージを回避するためである。
【0020】
また、純度99.9%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層は、アルゴンガス(Ar)やヘリウム(He)ガス等の希ガス雰囲気下でマグネトロンスパッタにより析出されたものであることが好ましい。
【0021】
銅(Cu)芯材テープ上にパラジウム(Pd)または白金(Pt)を被覆する場合、析出するパラジウム(Pd)または白金(Pt)の純度を確保すること、並びに、膜厚および膜質の均一性、芯材テープの角部分への析出しやすさ、銅(Cu)芯材テープの裏面へのつきまわり性などにおいては、マグネトロンスパッタよりも化学蒸着法のほうが優れている。しかし、本発明の課題となる、形成されるパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆膜が適度に硬質であり、かつ、多結晶化することにおいては、多くの歪みを導入可能であるマグネトロンスパッタの方が優れているので、本発明においてはマグネトロンスパッタを採用した。
【0022】
また、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さは、ニッケル(Ni)被覆リードフレーム等と超音波接合して第二ボンドとして接続する観点から、ニッケル(Ni)との濡れ拡がりを防止するため、500nm以下であることが好ましい。さらに、パラジウム(Pd)または白金(Pt)膜厚が50nm未満と薄すぎる場合、微細な粒状のパラジウム(Pd)または白金(Pt)結晶組織が形成できず第一ボンドのチップダメージの原因となることから、50nm以上が好ましい。より好ましくは、100〜400nmの領域であり、本領域において、耐チップダメージ性と被覆膜の密着強度のバランスが最も優れている。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明する。
〔銅(Cu)テープの作製〕
純度99.9質量%の銅(Cu)板材を圧延加工して、幅2.0mm、厚さ0.15mmの銅(Cu)テープを作製した。次いで、圧延加工したテープをフル・アニールしたところ、ビッカース硬さが70Hvから55Hvになった。このフル・アニールしたテープを本発明の銅(Cu)芯材テープとして実施例試料No.1〜3、40〜42、と比較例試料No.1〜3、7〜9、13〜15に使用した。また、純度99.99質量%、純度99.999質量%、および純度99.9999質量%の銅(Cu)平圧延したものをそれぞれ本発明の銅(Cu)芯材テープとして試料No.4〜6、16〜18、22〜24、28〜30、34〜36、43〜45、及び試料No.7〜9、46〜48に使用し、さらに、純度99.9999質量%の銅(Cu)平圧延したものを実施例試料No.10〜15、19〜21、25〜27、31〜33、37〜39、49〜54、及び比較例試料No.4〜6、10〜12、16〜18にそれぞれ使用した。
また、この銅(Cu)板材に純度99.9質量%、0.5μmの白金(Pt)箔をスパッタにより成膜し、幅2.0mm、厚さ0.15mmの銅(Cu)白金被覆芯材テープを作製した。同様にして、この銅(Cu)板材に純度99.9質量%、0.5μmのパラジウム(Pd)箔をスパッタにより成膜し、幅2.0mm、厚さ0.15mmの銅(Cu)パラジウム(Pd)被覆芯材テープを作製した。
なお、純度99.99質量%、99.9999質量%および99.9999質量%の銅(Cu)テープをフル・アニールすると、ビッカース硬さは何れも55〜50Hvの範囲であった。
【0024】
〔パラジウム(Pd)または白金(Pt)蒸発源の作製〕
純度99.9質量%のパラジウム(Pd)または白金(Pt)をそれぞれ蒸発源として、純度99.99質量%のパラジウム(Pd)または白金(Pt)をそれぞれ蒸発源として、さらに純度99.995質量%のパラジウム(Pd)または白金(Pt)をそれぞれ蒸発源とした。これらの構成を表1〜表3に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

〔パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの作製〕
マグネトロン・スパッタリング装置にアルゴンガスを流入し、真空度0.7Paに保った。
次いで、スパッタ電力を1.0kWにしてパラジウム(Pd)または白金(Pt)蒸発源を加熱した。蒸発したパラジウム(Pd)または白金(Pt)粒子は、直線距離で100mm離れた室温の銅(Cu)芯材テープに、表1〜3に示す所定の膜厚で被着させ、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆リボンを作製した。また、拡散防止層(中間層)は次のようにして作成した。スパッタリング装置内に中間層となる純度99.9質量%以上の物質Xのターゲットと純度99.9質量%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)ターゲットを配置し、スパッタリング圧力が0.7Paになるように純度99.99質量%以上のアルゴンガスで充填した。その後、スパッタリングにより100mm離れた室温状態の平角状銅(Cu)芯材テープへ連続的に中間層の成膜を行い、所定形状の膜厚を形成した。その後、同一圧力でパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の堆積・成膜を行い、所定形状の膜厚の緻密な結晶組織からなる層を形成した。このスパッタ時間は短いので、銅(Cu)芯材テープの温度上昇は観測されなかった。
【0028】
〔硬さ測定〕
パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンについて、膜厚10、5、3μmのマ
グネトロンスパッタしたままのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の硬さをマイクロビッカース硬さ計で測定したところ、いずれも150±20Hv(読取値)であった。このことから、膜厚によらずHv硬度は殆ど変わらないことがわかった。従って、本発明のマグネトロンスパッタにより形成される被膜は著しく硬度が高く、かつ膜厚が小さくても高い値を維持することが解る。
【0029】
〔内部組織の測定〕
試料番号2の調質処理済のパラジウム(Pd)被覆銅リボンを薄い硝酸液または王水液にて数秒間浸漬した。そして、浸漬後のパラジウム(Pd)膜の表面をレーザー顕微鏡で観察した(図1)。
これに対して、比較例として試料番号2のパラジウム(Pd)と同一の組成で膜厚が50μmのものを純度99.999質量%の銅(Cu)板材にクラッド圧延加工したパラジウム(Pd)被覆銅リボンを同様に浸漬したときのパラジウム(Pd)膜の表面をレーザー顕微鏡で観察したものを図2に示す。さらに、その試料の膜表面の組織拡大図を図3に示す。
これらの図1および図3から明らかなとおり、本発明のマグネトロンスパッタ膜はパラジウム(Pd)または白金(Pt)の個々の粒界が球状に区画され、独立して存在していることがわかる。これは微量の元素がパラジウム(Pd)または白金(Pt)の粒界に析出して区画を形成したものと思われる。
【0030】
〔接合強度試験〕
試料番号1〜13のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンを純度99.99質量%のアルミニウム(Al)板(厚さ2mm)および5μmのニッケル(Ni)電気めっきを施した純度99.95質量%の銅(Cu)基板(厚さ2m)上に超音波ボンディングした。装置は、オーソダイン社(Orthodyne Elecronics
Co.)製全自動リボンボンダー3600R型にて、80kHzの周波数で、荷重および超音波負荷条件については、潰れ幅が1.01〜1.05倍になる条件で、全サンプルについて同一条件で、超音波ボンディングを実施した。
また、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンのループ長は50mmで、ループ高さは30mmとし、通常条件よりもリボンや経路やツールから受ける摺動抵抗が大きくなるような条件に設定した。そして、各試料ともn=40個で超音波ボンディングした場合にボンディング中に発生したワイヤ切断回数を調べた。その判定結果を表1〜3に併記した、接合強度は、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの側面より、デイジイ社製のDAGE万能ボンドテスターPC4000型にて接合部側面からのシェア強度測定を実施した。
【0031】
〔高温接合信頼性試験〕
実施例および比較例のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンについての信頼性試験として、ボンディング済のニッケル(Ni)被覆基板を175℃×500時間に暴露した後のシェア強度を測定した。そして信頼性試験後の強度を試験実施前のシェア強度で除した値を信頼性試験後の強度比と定義し、これらによって評価した。
また、判定は、信頼性試験後の強度比を基にし、信頼性試験後の強度比が0.9以上のものを二重丸(◎)で表記し、0.7以上0.9未満のものを一重丸(○)で表記し、0.7未満のものをバツ(×)印で表記した。これらの結果を実施例について表1,2および比較例について表3に示す。
【0032】
表1〜表3から明らかなようにパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の組織と厚さが重要であって、本発明範囲の蒸発源99.9%〜99.9999%の純度の粒状組織であって本発明範囲の厚さの被覆層のものは第一ボンド及び第二ボンドのいずれにおいても接合強度および接合信頼性において良好な結果を得ている。
これに対して、比較例の試料No.1〜13に示されているように、それと同等の純度のパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層であっても、被覆層のパラジウム(Pd)または白金(Pt)の厚さが本発明範囲を超えて厚いもの(比較例No.7〜9、及びNo.10〜12)、或いは、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さが本発明範囲より薄い場合(試料番号1〜3、及びNo.4〜6)、すべて接合強度が劣り、また接合信頼性が不良であることがわかる。
また、パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の厚さが、硬さや被覆層の厚さが本発明範囲であっても(200nm、300nm)、その被覆層がマグネトロンスパッタによるものではなく、本発明の特徴とする粒状組織を備えていない比較例No.13〜18のものは、その、接合強度が低く、接合信頼性も著しく劣ったものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
130〜175℃の耐熱温度と大容量を必要とする高温半導体、特にエアコン、太陽光発電システム、ハイブリッド車や電気自動車などのパワー半導体に採用されることによって、これらの新たな用途において普及し、当該分野の発展に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0034】
1 パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン
2 金被覆層
3 銅芯材
4 アルミニウムパッド
5 リード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドおよびニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドを多数箇所の超音波接合によって接合し、第一ボンドと第二ボンドとのあいだをループ状に接続するためのパラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状リボンにおいて、
前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層はアルゴンガス(Ar)等の希ガス雰囲気下で、室温に保持された前記銅(Cu)芯材テープ上に、マグネトロンスパッタされた50〜500nm厚の純度99.9%以上のパラジウム(Pd)または白金(Pt)からなる微細な粒状の結晶組織であることを特徴とする半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項2】
前記粒状の結晶組織が上方向から見て1μmあたり10〜100個である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項3】
前記粒状の結晶組織が上方向から見て1μmあたり10〜50個である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項4】
前記銅(Cu)芯材テープの純度が99.9以上である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項5】
前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の純度が99.99以上である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項6】
前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆層の純度が99.995以上である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項7】
前記パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボンの形状が、幅0.5〜10mmおよび厚さ0.05〜1mmである請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。
【請求項8】
前記半導体素子パッドが、0.5〜1.5質量%シリコン(Si)または0.2〜0.7質量%銅(Cu)を含むアルミニウム(Al)合金である請求項1に記載の半導体素子用パラジウム(Pd)または白金(Pt)被覆銅リボン。


【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−1746(P2012−1746A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135624(P2010−135624)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】