説明

高温半導体素子用平角状金被覆銅リボン

【課題】 半導体の素子パッドとニッケル(Ni)被覆基板側のリード間を多数箇所同時に接続するボンディングリボンにおいて、超音波接合性、高温信頼性を向上する。
【解決手段】 金被覆銅リボンを銅芯材と金被覆層で構成し、
銅芯材を70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)として導電性とループ形成性を付与し、被覆層を純度99.9%以上の金(Au)をアルゴンガス(Ar)等の希ガス雰囲気下でマグネトロンスパッタすることによって、微細な粒状の結晶組織として、芯材と被覆層とのビッカース硬さを同等にして、アルミパッドの損傷を防止するとともに、接合性を向上する。
希ガス雰囲気中でマグネトロンスパッタした金微細結晶組織は、硬さが金(Au)バルクよりも高く、粒状組織としたことで接合時の熱広がりを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品および半導体素子パッドを多数箇所同時に超音波接合し、ループ状に接続するための平角状金被覆銅リボン、特に、パワー半導体素子のアルミパッドとニッケル(Ni)被覆基板側リード部とを接続するための平角状金被覆銅リボンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子に搭載されたボンディングパッドとして、主に純度99.99%のアルミニウム(Al)金属またはそれに0.5〜1.2質量%のシリコン(Si)や0.2〜0.7質量%の銅(Cu)または、これらを組み合わせたAl−Cu−Siなどの合金からなるアルミパッドが使用される。
また、ニッケル(Ni)被覆基板側リードには、電気めっきおよびスパッタによりニッケル(Ni)被覆層が形成された銅(Cu)合金や鉄(Fe)合金、あるいは、これらからなるリードを搭載したセラミックスが主に使用されている。このアルミパッドとニッケル(Ni)被覆リードフレーム等を超音波接合によって接続するのに、平角状銅リボンが使用される。平角状銅リボンのボンディング方法は、銅リボンの上に超硬ツールを押しつけ、その荷重および超音波振動のエネルギーにより接合するものである。超音波印加の効果は、銅リボンの変形を助長するための接合面積の拡大と、銅リボン表面に自然に形成された酸化膜を破壊・除去することにより、銅(Cu)等の金属原子を下面に露出させ、対抗するアルミニウム(Al)の第一ボンド面およびニッケル(Ni)の第二ボンド面と銅リボン面との界面に塑性流動を発生させ、互いに密着する新生面を漸増させながら、両者を原子間結合させることにある。
【0003】
このような半導体素子のアルミ電極パッドおよびこれと接続するニッケル(Ni)被覆基板側のリードとは、上記したように、それぞれ材質が異なる。このため冶金的な溶融過程を伴わない超音波接合によっても、これらの接合界面では、Cuリボン表面の酸化や硫化による変質層の存在により、必ずしも強固な、信頼性の高い接合は達成できない。
これらの解決策として、銅(Cu)素材に金(Au)の電気めっきをし、その後複数回連続伸線して金(Au)を2.5μm及び0.8μm被覆した熱圧着ボールによるボンディングワイヤが提案されている(特開昭59−155161号公報および特開2004−006740号公報、後述の特許文献1及び2)。これらのボンディングワイヤの技術をボンディングリボンの超音波接合に適用すると、ボンディングワイヤの場合は接合する一方の半導体素子側の電極がアルミニウム(Al)パッドであり、他方がリードフレームなどの異種金属であるため、ボンディングリボンの場合も、アルミニウムパッドとニッケル(Ni)の電気めっきやクラッドが被覆されたコバール等のリードフレームに対して金被覆銅リボンの金属面を接合するものとなる。
しかし、この金(Au)被膜の厚い金被覆銅リボンは、金(Au)がニッケル(Ni)との接合性が悪いため、ニッケル(Ni)被覆基板側のリードとうまく第二ボンドすることができなかった。
【0004】
このため銅(Cu)の酸化および硫化を防止しつつ、このような第二ボンドの接合性の悪さを克服するため、金(Au)被覆層を薄くすることも行われている。
特開2007−324603号公報(後述の特許文献3)は、そのような要求に応えて提案されたものとみることもでき、導電性の高い銅(Cu)を芯材として金(Au)を被覆して高い導電性とアルミニウムパッドに対する超音波接合性を両立させたものである。
この発明によれば、ワイヤ内側の銅(Cu)層に対して、外側の金(Au)で被覆することによって信頼性の高い超音波ボンディングによる接合が達成できるとしている。それによれば、内側の銅(Cu)によって高い導電性を達成し、それに対して1/10よりも小さい厚さの金被覆層、実用上厚さ1〜200nm、有利には約20〜25nmの金(Au)被覆層によって、アルミニウムパッドに対する優れた超音波接合が達成できるとしている。
このような金被覆銅リボンによって1ヶ所で一気に超音波接合する場合、銅(Cu)が加工硬化をしなければ、銅芯材によって高い導電性は達成しうる。
しかしながら、金被覆銅リボンの多数箇所をアルミパッドへ同時に超音波接合する場合、接合時に発生する熱によって接合箇所における銅(Cu)は変形し、銅(Cu)の加工硬化によってアルミパッドにクラック等が入りやすくなる。また、その接合界面には銅(Cu)とアルミニウム(Al)との金属間化合物ができやすくなり、結果として接合強度にはバラツキが表れる。さらに高温放置すると、接合界面のボイド等からにアルミニウム(Al)の酸化膜が発達して接合界面における金被覆銅リボンの接合強度が低下し、高温接合信頼性は十分とはいえないものであった。
なお、パワー半導体等の高温半導体素子用金被覆銅リボンを用いた超音波接合は、第一ボンド後ループを形成して第二ボンドをし、場合によっては更にそれ以上の複数ボンドを行い、最終ボンド後にカッターで金被覆銅リボンを切断するものである。
【0005】
上記の金被覆銅リボンで接合信頼性が問題となるのは、130〜175℃の耐熱温度を必要とする高温半導体、特にエアコン、太陽光発電システム、ハイブリッド車や電気自動車などのパワー半導体に採用される大容量の金被覆銅リボンである。例えば、車載用に使用されるパワー半導体に用いられる金被覆銅リボンは、最大で通常150〜175℃程度の接合部温度に耐える必要がある。このような高温環境下においては、金被覆銅リボンを超音波接合した場合の高温酸化も課題として挙げられ、金被覆銅リボンの接合表面を安定な皮膜で覆うなどの措置により、金被覆銅リボンの耐酸化性向上が求められる。
このような実装環境下では、金被覆銅リボンとアルミパッド電極部およびニッケル(Ni)被覆基板側リードの接合強度の確保が重要となる。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−155161号公報
【特許文献2】特開2004−006740号公報
【特許文献3】特開2007−324603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するため、ある程度形状の大きな金(Au)被覆層を設けた金被覆銅リボンがアルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドで多数箇所の超音波接合によってボンディングし、第一ボンドからループを描いてニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドで多数箇所の超音波接合によってボンディングしても、第一ボンド時にアルミパッドにクラック等が生じることがなく、第二ボンド時においても十分な接合強度を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段として、本発明者らは金(Au)被覆層として微細な粒状の結晶組織を利用した。
すなわち、アルミパッド電極部との第一ボンドでは、多数の突出した形状の超硬ツールを金被覆銅リボンに押し付けて金被覆銅リボンの多数箇所をアルミパッドへ一気に超音波接合するのが一般的であるが、この時銅(Cu)芯材テープが変形されて加工硬化を起こしアルミニウムパッドにクラック等をもたらすものと思われる。本発明者らは金(Au)被覆層を微細な粒状結晶を積層させた組織構造にすることで、見かけの金(Au)被覆層の厚さを厚くし、そのクッション効果によって銅(Cu)芯材テープの加工硬化の影響を弱めてアルミニウムパッドにクラック等が生じないようにした。
また、超音波接合時に発生する接合に寄与しない熱を金(Au)被覆層の粒状組織に吸収させて金(Au)被覆層をバルク組織に戻すことによって、接合部近傍の発熱を大きくして銅(Cu)の加工硬化の影響を弱めることにした。
また、第二ボンドでも、超硬ツールにより金被覆銅リボンの多数箇所を一気に超音波接合するが、この場合は、第一ボンドのようにニッケル(Ni)被覆層にクラック等が発生するような課題はない。そのため超音波接合の発熱量および超硬ツールの加圧力を大きくすることができ、金(Au)被覆層の厚さは実質的に薄く無視することができる。すなわち、金(Au)被覆層はボンディング時の荷重と超音波により破壊されるか、または、このときの熱により銅(Cu)芯材内部へと拡散するため、銅(Cu)芯材の銅(Cu)とニッケル(Ni)被覆層のニッケル(Ni)とが直接超音波接合される。
【0009】
本発明の130〜175℃の環境下においても使用可能である半導体に使用する金被覆リボンは、アルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドおよびニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドを多数箇所の超音波接合によって接合し、第一ボンドと第二ボンドとのあいだをループ状に接続するための金(Au)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状リボンにおいて、
前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記金(Au)被覆層はアルゴンガス(Ar)やネオン(Ne)ガス等の希ガス雰囲気下でマグネトロンスパッタされた純度99.9%以上の金(Au)からなる微細な粒状の結晶組織であることを特徴とする。
【0010】
本発明における金(Au)被覆層は、純度99.9%以上の高純度でありながら、マグネトロンスパッタされているので、硬さは純度99.99%以上の熱処理した金(Au)バルクの硬さ(10g加重で50Hv)よりも2倍以上高いもの(100〜150Hv)となっている。
これは、本発明の金被覆銅リボンの表面に形成される金(Au)被覆層が、希ガスが介在する低圧条件下で堆積して形成された微細な多結晶組織からなることにより、多くの内部歪みが蓄積されているためと考えられる。この歪みの原因は、金(Au)蒸発源の不純物に起因したり、真空装置中に残留する酸素や水分などに起因したりする。特に、マグネトロンスパッタリングの場合には、スパッタされる金(Au)粒子に高エネルギーが付加されるとともに、使用する希ガス、例えばアルゴン(Ar)や残留する水分子等が巻き込まれ、特定の条件下で緻密で結晶粒の小さい多結晶膜を形成する。この金(Au)被覆層の硬さは、金(Au)の純度が99.9質量%から99.99質量%へと高くなるほど低くなる傾向にある。
【0011】
なお、本発明の金被覆銅リボンの金(Au)被覆層は、純度99.9%以上の金(Au)を用いているので、銅(Cu)芯材の銅(Cu)との接合性もよく、金(Au)膜自体も緻密で安定であるため、銅(Cu)芯材内部からの酸素が金(Au)被覆層を経由してアルミニウム(Al)パッドの界面に進入するのを防ぎ、アルミニウム(Al)の酸化を抑制させる効果がある。このことは実装後の高温放置試験で、金(Au)被覆層が銅(Cu)芯材へ拡散して消失した箇所であっても、アルミパッドのアルミニウム(Al)と銅(Cu)との接合界面に新たなアルミニウム(Al)酸化物が形成されていないことから裏付けられる。
【0012】
金(Au)被覆層の上記の硬さに対して銅(Cu)芯材テープを70Hv以下、より好ましくは60Hv以下のビッカース硬さとすることにより、第一ボンド時におけるアルミパッドのチップダメージを抑制することが可能となる。
また、上記の金(Au)が被覆された銅(Cu)芯材テープの硬さに対して、前記金(Au)被覆層の厚さは、50nm以上500nm以下であり、好ましくは100〜400nmの範囲であり、マグネトロンスパッタされた金(Au)被覆層の厚さが上記の範囲にあることによって、銅(Cu)芯材テープの硬さが最も効果を発揮する。
なお、金(Au)被覆層の厚さが薄く、前記の特許文献3で好適範囲とされているような金(Au)被膜の厚さでは、下地となる銅(Cu)芯材テープの表面性状の影響を強く受け、マグネトロンスパッタされた金(Au)被膜であっても、銅(Cu)芯材テープの表面性状がそのまま現れて結晶組織を制御することができない。また、このような金(Au)被膜では、超音波接合の際のエネルギーの集中を受けてその結晶組織を維持できないため、銅(Cu)芯材テープの加工硬化の影響がそのままアルミパッドに伝わってしまう。
【0013】
このように、芯材表面に金(Au)被覆層を設けることによって銅(Cu)芯材テープのボンディング時における加工硬化による影響を抑止することで、第一ボンド時におけるチップダメージを防ぐとともに、チップ側のアルミパッド電極に対して安定した接合強度を確保する。また、第二ボンド時における銅(Cu)芯材がニッケル(Ni)被覆層と直接超音波接合されることで、第二ボンドの安定した接合強度を確保する。また、銅(Cu)芯材テープを純度99.9%以上の銅(Cu)から純度99.99%以上の銅(Cu)ないし純度99.999%以上の銅(Cu)へと純度を高めることは、上記効果をさらに向上させる効果がある。銅(Cu)の純度や微量添加元素の種類は、使用する半導体の目的に応じて適宜選択することができる。なお、純度99.99%以上の銅(Cu)、更には純度99.999%以上の銅(Cu)のように、より高純度の銅(Cu)を使用することは、ループ形成時や第一ボンドと第二ボンドの接合時における加工硬化を低減させる効果もあり、高温半導体用途において好ましい。また、このような高純度化により、ループ形成時においては、急峻なループを描いても接合界面からはく離しにくくなる。
【0014】
また、本発明の高温半導体素子用金被覆銅リボンは、半導体の素子パッドとニッケル(Ni)被覆基板とのあいだを多数箇所の超音波接合によってループ状に接続するための金(Au)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状金被覆銅リボンにおいて、前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記金(Au)被覆層は、希ガスの低圧雰囲気中でマグネトロンスパッタリングによって形成され、多くの歪みが導入されたものからなることを特徴とする。
【0015】
金被覆銅リボン内の金(Au)の銅(Cu)内部への間の拡散による金皮膜の消失を防止するため、銅(Cu)芯材と金(Au)被覆層との間に拡散防止層を形成することは有効であって、拡散防止層は既知のニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)あるいはチタン(Ti)、タングステン(W)、クロム(Cr)に加え、銅(Cu)と全率固溶であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)およびその他白金族金属などをマグネトロンスパッタさせることができる。この拡散防止層は、マグネトロンスパッタによって硬くなっても、金(Au)被覆層に対してもきわめて薄く、最大でも金(Au)被覆層に対して数十%オーダー以下の膜厚に過ぎないので、第一ボンド時に拡散防止層の硬さの影響は無視することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明で得られる金(Au)被覆層は、純度99.9%以上の高純度でありながら、バルクの金(Au)の硬さよりも2倍以上のビッカース硬さをもち、銅(Cu)芯材の加工硬化による影響を小さくしたことを特徴とする。本発明ではこのような金(Au)被覆層を軟質の70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)とを組み合わせることによって、高温半導体用金被覆銅リボンとしての性能を発揮することができる。
すなわち、金被覆銅リボンの多数箇所を超硬ツールによってアルミパッドと超音波接合して第一ボンドとし、その後超硬ツールによって金被覆銅リボンをループ状に形成し、その後金被覆銅リボンの多数箇所を超硬ツールによってニッケル(Ni)被覆リードフレーム等と超音波接合して第二ボンドとして接続する、代表的な超音波ボンディング工程において、第一ボンド時のチップ割れを抑制し、第一ボンド時および第二ボンド時の接合強度のバラツキが小さく、安定してボンディングできる。また、ループ形成時に急峻なループを描いても、純度99.9%以上の高純度の金(Au)と純度99.9%以上の高純度の銅(Cu)との密着強度が確保されており、超音波ボンディング時にそのCu/Au界面が剥がれることもない。
さらに、ボンディングされた金被覆銅リボンを高温環境に放置しても、金(Au)被覆層の表面から銅(Cu)芯材テープ界面への酸素の進入を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金被覆銅リボンにおいて、銅(Cu)芯材テープの純度は99.99%以上であることが好ましい。ループ変形時の加工硬化をできるだけ少なくし、ボンディングスピードを速め、単位時間当たりの接続個数を多くするためである。銅(Cu)芯材テープの純度や種類は使用する半導体やリードフレーム等によって適宜定まるが、ボンディング時における銅(Cu)芯材テープの加工硬化および不純物の混入を避けるため、純度99.995%以上とできるだけ高純度であることがより望ましい。
【0018】
本発明の金(Au)被覆層の硬さは、金(Au)バルクの硬さの2倍以上であることが好ましい。接合部における銅(Cu)芯材テープの銅(Cu)の加工硬化によるアルミニウム(Al)パッドのチップダメージを回避するためである。
【0019】
また、純度99.9%以上の金(Au)被覆層は、アルゴンガス(Ar)やヘリウム(He)ガス等の希ガス雰囲気下でスパッタにより析出されたものであることが好ましい。
【0020】
銅(Cu)芯材テープ上に金(Au)を被覆する場合、析出する金(Au)の純度を確保すること、並びに、膜厚および膜質の均一性、芯材テープの角部分への析出しやすさ、銅(Cu)芯材テープの裏面へのつきまわり性などにおいては、マグネトロンスパッタよりも化学蒸着法のほうが優れている。しかし、本発明の課題となる、形成される金(Au)被覆膜が適度に硬質であり、かつ、多結晶化することにおいては、多くの歪みを導入可能であるマグネトロンスパッタの方が優れているので、本発明においてはマグネトロンスパッタを採用した。
【0021】
また、金(Au)被覆層の厚さは、ニッケル(Ni)被覆リードフレーム等と超音波接合して第二ボンドとして接続する観点から、ニッケル(Ni)との接合不良を避けるため、500nm以下であることが好ましい。さらに、金(Au)膜厚が50nm未満と薄すぎる場合、微細な粒状の金(Au)結晶組織が形成できず第一ボンドのチップダメージの原因となることから、50nm以上が好ましい。より好ましくは100〜400nmの領域であり、本領域において、耐チップダメージ性と被覆膜の密着強度のバランスが最も優れている。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例を説明する。
〔銅(Cu)テープの作製〕
純度99.9質量%の銅(Cu)板材を圧延加工して、幅2.0mm 厚さ0.15mmの銅(Cu)テープを作製した。次いで、圧延加工したテープをフル・アニールしたところ、ビッカース硬さが70Hvから55Hvになった。このフル・アニールしたテープを本発明の銅(Cu)芯材テープ「X1」として実施例と比較例に使用した。また、純度99.99質量%、純度99.999質量%、および純度99.9999質量%の銅(Cu)平圧延したものを本発明の銅(Cu)芯材テープ「X2」、「X3」、「X4」とした。
また、この銅(Cu)板材に純度99.9質量%、0.5μmのパラジウム(Pd)箔をスパッタにより成膜し、幅2.0mm、厚さ0.15mmの銅(Cu)芯材テープ「Y」を作製した。
なお、純度99.99〜99.9999質量%の銅(Cu)テープをフル・アニールすると、ビッカース硬さは何れも55〜50Hvであった。
【0023】
〔金(Au)蒸発源の作製〕
純度99.9質量%の金(Au)を蒸発源「A」、純度99.99質量%の金(Au)を蒸発源「B」、純度99.999質量%の金(Au)を蒸発源「C」、とした。また、本発明の純度を外れる2Nのものを「D」とした。これらの組成を表1及び表2に示す。
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
〔金被覆銅リボンの作製〕
マグネトロン・スパッタリング装置にアルゴンガスを流入し、真空度0.7Paに保った。次いで、スパッタ電力を1.0kWにして金(Au)蒸発源を加熱した。蒸発した金(Au)粒子は、直線距離で100mm離れた室温の銅(Cu)芯材テープに、表1、および表2に示す所定の膜厚で被着させ、金(Au)被覆リボンを作製した。また、拡散防止層(中間層)は次のようにして作成した。スパッタリング装置内に中間層となる純度99.9質量%以上の物質X のターゲットと純度99.9質量%以上の金(Au)ターゲットを配置し、スパッタリング圧力が0.7Paになるように純度99.99質量%以上のアルゴンガスで充填した。その後、スパッタリングにより100mm離れた平角状銅(Cu)芯材テープへ連続的に中間層の成膜を行い、所定形状の膜厚を形成した。その後、同一圧力で金(Au)被覆層の堆積・成膜を行い、所定形状の膜厚の緻密な結晶組織からなる層を形成した。
スパッタ時間が短いため、銅(Cu)芯材テープの表面温度はほぼ室温である。
【0026】
〔硬さ測定〕
金被覆銅リボンについて、膜厚10、5、3μmのマグネトロンスパッタしたままの金(Au)被覆層の硬さをマイクロビッカース硬さ計で測定したところ、いずれも100〜150Hv(読取値)であった。このことから、膜厚によらずHv硬度は殆ど変わらないことがわかった。従って、本発明のマグネトロンスパッタにより形成される被膜は著しく硬度が高く、かつ膜厚が小さくても高い値を維持することが解る。
上記で測定した金(Au)被覆層の厚さは本発明の金(Au)被覆層の厚さよりも大きいが、Hv測定には、上記の厚さが必要であり、また、これらの被覆層形成の履歴に差異はないから、本発明範囲の金(Au)被覆層の厚さにおいても上記測定値が成り立つ。
【0027】
〔内部組織の測定〕
試料番号2の調質処理済の金被覆銅リボンを薄い王水液にて数秒間浸漬した。そして、浸漬後の金(Au)膜の表面をレーザー顕微鏡で観察した(図1、図2)。さらに、スパッタ表面を拡大(10,000倍)したスパッタ面(写真)を図5に示す。
これに対して、比較例として試料番号2の金(Au)と同一の組成で膜厚が50μmのものを純度99.999質量%の銅(Cu)板材にクラッド圧延加工した、金被覆銅リボンを同様に浸漬したときの金(Au)膜の表面をレーザー顕微鏡で観察したものを図3及び4に示す。
これらの図1、図2および図5から明らかなとおり、本発明のマグネトロンスパッタ膜は金(Au)の個々の粒界が球状に区画され、独立して存在していることがわかる。これは微量の元素が金(Au)の粒界に析出して区画を形成したものと思われる。
これらの金被覆銅リボンの構成について、実施例を表1、比較例を表2に示す。
【0028】
〔接合強度試験〕
試料番号1〜54および比較例の試料番号1〜18の金被覆銅リボンを純度99.99質量%のアルミニウム(Al)板(厚さ2mm)および5μmのニッケル(Ni)電気めっきを施した純度99.95質量%の銅(Cu)基板(厚さ2mm)上に超音波ボンディングした。ボンディング装置は、オーソダイン社(Orthodyne
Elecronics Co.)製全自動リボンボンダー3600R型にて、80kHzの周波数で、荷重および超音波負荷条件については、潰れ幅が1.01〜1.05倍になる条件で、全サンプルについて同一条件で、超音波ボンディングを実施した。
また、金被覆銅リボンのループ長は50mmで、ループ高さは30mmとし、通常条件よりもリボンや経路やツールから受ける摺動抵抗が大きくなるような条件に設定した。
そして、各試料とも接合個数:n=40個で超音波ボンディングした場合についてボンディング中に発生したワイヤ切断回数を調べたが、これらの条件下ではいずれもワイヤ切断は発生しなかった。
【0029】
〔高温接合信頼性試験〕
接合強度は、金被覆銅リボンの側面より、デイジイ社製のDAGE万能ボンドテスターPC4000型にて接合部側面からのシェア強度測定を実施した。
実施例および比較例の金被覆銅リボンについての信頼性試験として、ボンディング済のニッケル(Ni)被覆基板を175℃×500時間に暴露した後のシェア強度を測定した。そして信頼性試験後の強度を試験実施前のシェア強度で除した値を信頼性試験後の強度比と定義し、これによって評価した。
また、判定は、信頼性試験後の強度比を基にし、信頼性試験後の強度比が0.9以上のものを二重丸(◎)で表記し、0.7以上0.9未満のものを一重丸(○)で表記し、0.7未満のものをバツ(×)印で表記した。これらの結果を実施例について表3および比較例について表4に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表3および表4から明らかなように金(Au)被覆層の純度が重要であって、本発明範囲の蒸発源A〜Cの純度の被覆層のものはいずれも接合強度および接合信頼性において良好な結果を得たが、それよりも純度の低い蒸発源Dの被覆層を形成した比較例の試料番号13〜18のものはすべて信頼性が不良であり、また、接合強度においても劣っていることがわかる。
また、金(Au)被覆層のマグネトロンスパッタしたままの硬さについても、本発明実施例のものは、Hv100〜150の範囲にあり、接合強度および接合信頼性において良好な結果を得ている。
これに対して、比較例のものは硬さが本発明範囲にあっても、被覆層の金(Au)の純度が本発明範囲を外れるもの(比較例13〜18)は前記したように接合強度および接合信頼性において劣り、金(Au)被覆層の厚さが本発明範囲より薄く(試料番号1〜6)ても、あるいは厚くても(試料番号7〜12)、良い結果が得られない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のボンディングリボンは、車両搭載用、パワー半導体デバイスなどの急速に発展しつつある領域において高い信頼性を発揮して適用できるものであり、これらの発展分野を中心に産業発展に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の金被覆銅リボンの金(Au)被覆層の上からみたレーザ顕微鏡による組織写真(対物レンズ×20)である。
【図2】図2は、同じく本発明の金(Au)被覆層の組織写真(対物レンズ×150)である。
【図3】図3は、比較例の金被覆銅リボンの金(Au)被覆層の上から見た組織写真(対物レンズ×20)である。
【図4】図4は、比較例の金(Au)被覆層の同じく上から見た組織写真対物レンズ×150)である。
【図5】図5は、本発明の金被覆銅リボンの金(Au)被覆層の上からみた組織写真(10、000倍)である。
【図6】図6は、本発明の金(Au)被覆銅リボンの断面図である。
【図7】図7は、従来の金(バルク)クラッドリボンにより、半導体素子のパッドとリードフレームを超音波接合によって接続した状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)の金属または合金からなる半導体素子パッドの第一ボンドおよびニッケル(Ni)被覆基板の第二ボンドを多数箇所の超音波接合によって接合し、第一ボンドと第二ボンドとのあいだをループ状に接続するための金(Au)被覆層および銅(Cu)芯材テープからなる平角状リボンにおいて、
前記銅(Cu)芯材テープは70Hv以下のビッカース硬さをもつ純度99.9%以上の銅(Cu)からなり、前記金(Au)被覆層はアルゴンガス(Ar)等の希ガス雰囲気下でマグネトロンスパッタされた純度99.9%以上の金(Au)からなる微細な粒状の結晶組織であることを特徴とする半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項2】
前記粒状の結晶組織の結晶粒の線密度が上方向から見て1μmあたり10〜100個である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項3】
前記粒状の結晶組織の結晶粒の線密度が上方向から見て1μmあたり10〜50個である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項4】
前記銅(Cu)芯材テープの純度が99.9以上である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項5】
前記金(Au)被覆層の純度が99.99以上である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項6】
前記金(Au)被覆層の純度が99.999以上である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項7】
前記金(Au)被覆層の厚さが、50〜500nmである請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項8】
前記金被覆銅リボンの形状が、幅0.5〜10mmおよび厚さ0.05〜1mmである請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。
【請求項9】
前記半導体素子パッドが、0.5〜1.5質量%シリコン(Si)または0.2〜0.7質量%銅(Cu)を含むアルミニウム(Al)合金である請求項1に記載の半導体素子用金被覆銅リボン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−236461(P2011−236461A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107778(P2010−107778)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】