説明

高温用制振組成物、高温用制振基材、その使用方法、高温用制振シートおよびその使用方法

【課題】高温下における制振性がより一層向上された高温用制振組成物、高温用制振基材、その使用方法、高温用制振シートおよびその使用方法を提供すること。
【解決手段】融点が常温以上である第1重合体と、粘着付与剤と、充填剤とを含有する熱融着性樹脂からなり、熱融着性樹脂が、その融点付近の温度で制振性を有する高温用制振組成物がシート状に成形された高温用制振基材2およびその片面に積層される拘束層3を備える高温用制振シート1を、熱融着性樹脂の融点以上に加熱して、薄板5に接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用制振組成物、高温用制振基材、その使用方法、高温用制振シートおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車や家電製品には、部品の一部として薄板が使用されており、自動車や家電製品の運転時には、薄板の振動音を生じる。そのため、この振動音の発生を防止すべく、例えば、樹脂層を備える制振シートを薄板に貼着することにより、薄板の制振性を向上させることが知られている。
また、自動車のエンジンルームや家電製品のモータの近傍に配置される薄板は、高温になり易く、そのため、高温下においても制振効果を発現できる制振シートが望まれている。
【0003】
例えば、40℃以上の高温下において良好な振動減衰特性を得るべく、ブチルゴムおよびC5系石油樹脂を含有する高温用制振材料からなる制振シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−136998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に記載される制振シートにおいて、常温(20℃程度)下および高温(40℃程度)下における制振性の向上が認められる。
しかしながら、このような制振シートでは、常温下における制振性の向上が認められる一方、高温下における制振性のさらなる向上が望まれる。
本発明の目的は、高温下における制振性がより一層向上された高温用制振組成物、高温用制振基材、その使用方法、高温用制振シートおよびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の高温用制振組成物は、融点が常温以上である第1重合体と、粘着付与剤と、充填剤とを含有する熱融着性樹脂からなり、前記熱融着性樹脂は、その融点付近の温度で制振性を有することを特徴としている。
また、本発明の高温用制振組成物では、前記第1重合体は、ポリエチレンおよび/またはエチレン共重合体であることが好適である。
【0007】
また、本発明の高温用制振組成物では、前記第1重合体の融点と前記粘着付与剤の軟化温度との温度差が100℃以下であることが好適である。
また、本発明の高温用制振組成物では、前記熱融着性樹脂は、前記第1重合体の融点以下のガラス転移温度を有する第2重合体をさらに含有し、前記熱融着性樹脂は、前記第1重合体の融点と前記第2重合体のガラス転移温度との間の温度範囲内で制振性を有することが好適である。
【0008】
また、本発明の高温用制振組成物では、前記第1重合体の融点と前記第2重合体とのガラス転移温度との温度差が30℃以上であることが好適である。
また、本発明の高温用制振基材は、高温用制振組成物がシート状に成形されたことを特徴としている。
また、本発明の高温用制振シートは、上記した高温用制振基材と、前記高温用制振基材の片面に積層される拘束層とを備えていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の高温用制振基材の使用方法は、上記した高温用制振基材を、前記熱融着性樹脂の融点以上に加熱して、薄板に接着することを特徴としている。
また、本発明の高温用制振シートの使用方法は、高温用制振シートを、前記熱融着性樹脂の融点以上に加熱して、薄板に接着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高温用制振組成物は、軽量化が図られながら、高温下における制振性がより一層向上されている。
そのため、本発明の高温用制振組成物をシート状に成形した本発明の高温用制振基材およびそれを備える高温用制振シートを薄板に接着する、本発明の高温用制振基材の使用方法および本発明の高温用制振シートの使用方法によれば、薄板を、高温下において用いても、十分に制振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の高温用制振シートを、薄板に配置して、高温用制振基材を加熱することにより制振する、本発明の高温用制振基材および高温用制振シートの使用方法の一実施形態を示す説明図であって、(a)は、高温用制振シートを用意して、離型紙を剥がす工程、(b)は、高温用制振シートを薄板に接着する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高温用制振組成物は、第1重合体と、粘着付与剤と、充填剤とを含有する熱融着性樹脂からなる。
第1重合体は、融点が常温(20〜40℃)以上であり、具体的には、ポリエチレン、エチレン共重合体である。
ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(例えば、比重0.91〜0.93)、中密度ポリエチレン(例えば、比重0.93〜0.94)、高密度ポリエチレン(例えば、比重0.94〜0.96)が挙げられる。好ましくは、接着性や加工性の観点から、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンである。
【0013】
エチレン共重合体は、エチレンと、エチレンと共重合可能なモノマーとの共重合体からなる熱可塑性樹脂であって、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体などが挙げられる。
エチレン・酢酸ビニル共重合体は、例えば、エチレンと酢酸ビニルとの、ランダムまたはブロック共重合体、好ましくは、ランダム共重合体である。
【0014】
このようなエチレン・酢酸ビニル共重合体は、その酢酸ビニルの含有量(MDP法に準拠、以下同じ。)が、例えば、12〜50重量%、好ましくは、14〜46重量%であり、メルトフローレート(MFR:JIS K 6730に準拠。以下単にMFRという。)が、例えば、1〜30g/10min、好ましくは、1〜20g/10minであり、硬度(JIS K7215)が、例えば、60〜100度、好ましくは、70〜100度であり、軟化温度が、例えば、35〜70℃、好ましくは、35〜60℃である。
【0015】
エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、例えば、エチレンと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの、ランダムまたはブロック共重合体、好ましくは、ランダム共重合体である。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、メタクリル酸アルキルエステルおよび/またはアクリル酸アルキルエステルであって、より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル部分が炭素数1〜18の直鎖または分岐アルキルである)エステルなどが挙げられる。これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独使用または併用することができる。
【0016】
好ましくは、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体(EBA)である。
エチレン・アクリル酸エチル共重合体は、そのアクリル酸エチルの含有量(EA含有量、MDP法)が、例えば、9〜35質量%、好ましくは、9〜30質量%であり、MFRが、例えば、0.5〜25g/10min、好ましくは、0.5〜20g/10minであり、硬度(ショアA、JIS K7215(1986))が、例えば、60〜100度、好ましくは、70〜100度であり、軟化温度(ビカット、JIS K7206(1999))が、例えば、35〜70℃、好ましくは、35〜60℃であり、ガラス転移温度(DVE法)が、例えば、−40℃〜−20℃である。
【0017】
エチレン・アクリル酸ブチル共重合体は、そのアクリル酸ブチルの含有量(EB含有量、デュポン法)が、例えば、7〜35質量%、好ましくは、15〜30質量%であり、MFRが、例えば、1〜6g/10min、好ましくは、1〜4g/10minであり、硬度(ショアA、ISO 868、または、JIS K7215)が、例えば、75〜100度、好ましくは、80〜95度であり、軟化温度(ビカット軟化温度、JIS K7206、または、ISO 306)が、例えば、35〜70℃、好ましくは、35〜60℃である。
【0018】
これら第1重合体は、単独使用または2種以上併用することができる。
第1重合体として、好ましくは、EVAである。
第1重合体の融点、具体的には、JIS K7121、または、ISO 3146に準拠した測定方法により求められる融点は、例えば、45〜100℃、好ましくは、60〜95℃である。
【0019】
このような第1重合体を熱融着性樹脂に配合することにより、熱融着性樹脂の融点を所望の温度範囲(具体的には、50〜130℃)に設定することができる。
粘着付与剤は、熱融着性樹脂の接着性の調整のため配合され、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂(例えば、テルペン−芳香族系液状樹脂など)、クマロンインデン系樹脂(クマロン系樹脂)、石油系樹脂(例えば、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、C5/C6系石油樹脂など)、フェノール系樹脂などが挙げられる。これら粘着付与剤は、単独使用あるいは2種以上併用することができる。
【0020】
粘着付与剤の軟化温度は、第1重合体の融点との温度差が、例えば、100℃以下、好ましくは、80℃以下となる温度である。詳しくは、粘着付与剤の軟化温度は、例えば、第1重合体の融点より高く、具体的には、第1重合体の融点を超過し、第1重合体の融点より100℃高い温度以下であり、好ましくは、第1重合体の融点を超過し、第1重合体の融点より80℃高い温度以下である。
【0021】
具体的には、粘着付与剤の軟化温度は、第1重合体の種類、配合割合、融点にもよるが、例えば、50〜200℃、好ましくは、60〜150℃である。
第1重合体の融点と粘着付与剤の軟化温度との温度差が上記範囲を超える場合には、所望の温度での熱接着ができない場合がある。
粘着付与剤の配合割合は、第1重合体100重量部、または、第1重合体および第2重合体(後述)の総量100重量部に対して、例えば、1〜200重量部、好ましくは、補強性および熱融着性(接着性)の観点から、5〜100重量部である。
【0022】
充填剤は、熱融着性樹脂の流れ性の調整のため配合される。充填剤は、例えば、補強剤であって、より具体的には、例えば、炭酸カルシウム(例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、白艶華など)、タルク、マイカ、クレー、雲母粉、ベントナイト(オルガナイトを含む。)、シリカ、アルミナ、アルミニウムシリケート、酸化チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、アルミニウム粉、ガラス粉(パウダ)などが挙げられる。これら充填剤は、単独使用あるいは併用することができる。
【0023】
充填剤の配合割合は、第1重合体100重量部に対して、例えば、1〜150重量部、補強性、重量(軽量化)、経済性の観点から、好ましくは、10〜100重量部である。
さらに、本発明の高温用制振組成物には、制振性を発現させる温度範囲を調整するために、第2重合体をさらに含有させることもできる。
第2重合体は、第1重合体の融点以下のガラス転移温度を有しており、例えば、3,4−ポリイソプレン、3,4−ポリイソプレンおよびスチレンの共重合体、ブチルゴム、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。
【0024】
第2重合体は、好ましくは、3,4−ポリイソプレンおよびスチレンの共重合体、ブチルゴム、SBRである。
3,4−ポリイソプレンおよびスチレンの共重合体は、3,4−ポリイソプレンおよびスチレンのランダムまたはブロック共重合体であり、そのうち、3,4−ポリイソプレンは、イソプレンの重合体であって、分子中にイソプロペニルエチレンを繰り返し単位とする重合体である。
【0025】
3,4−ポリイソプレンおよびスチレンの共重合体において、スチレン含有量が、例えば、10〜25重量%、好ましくは、12〜20重量%であり、MFRが、例えば、0.1〜10g/10min、好ましくは、0.5〜5g/10minである。
ブチルゴムは、イソブテン(イソブチレン)とイソプレンとのランダムまたはブロック共重合により得られる合成ゴムである。
【0026】
ブチルゴムにおいて、その不飽和度が、例えば、0.8〜2.2、好ましくは、1.0〜2.0であり、そのムーニー粘度(JIS K 6300−1(2001年))が、例えば、25〜90(ML1+8、at125℃)、好ましくは、30〜60(ML1+8、at125℃)である。
スチレン・ブタジエンゴム(SBR)は、スチレンおよびブタジエンのランダムまたはブロック共重合により得られる合成ゴムである。
【0027】
SBRにおいて、そのスチレン含有量が、例えば、18重量%以上、好ましくは、25〜70重量%であり、ムーニー粘度(JIS K 6300−1(2001年))が、例えば、30〜150(ML5+4、at100℃)、好ましくは、40〜100(ML5+4、at100℃)以下である。
また、第2重合体のガラス転移温度は、第1重合体の融点との温度差が、例えば、30℃以上となる温度である。詳しくは、第2重合体のガラス転移温度は、例えば、第1重合体の融点より低く、例えば、30℃以上低い。
【0028】
より具体的には、第2重合体のガラス転移温度は、例えば、−50〜70℃、好ましくは、−30〜50℃である。
第1重合体の融点と第2重合体のガラス転移温度との温度差が上記範囲に満たない場合には、第2重合体の配合による損失係数のピークのシフト効果(後述)を発現できない場合がある。
【0029】
これら第2重合体は、単独使用または2種以上併用することができる。
第2重合体を併用する場合において、少なくとも一方の第2重合体のガラス転移温度と第1重合体の融点との温度差が30℃以上であれば、他方の第2重合体のガラス転移温度と第1重合体の融点との温度差を30℃未満の温度にすることもできる。少なくとも一方の第2重合体のガラス転移温度と第1重合体の融点との温度差を30℃以上にすれば、広い温度範囲における高温用制振組成物の制振性を得ることができる。
【0030】
また、第2重合体を併用する場合において、一方の第2重合体のガラス転移温度と第1重合体の融点との温度差が100℃以上であれば、他方の第2重合体のガラス転移温度と第1重合体の融点との温度差を、好ましくは、30℃以上100℃未満の温度にする。これにより、一方の第1重合体の融点と、第2重合体としてのガラス転移温度との温度差(間隔)が大きく(広く)なり過ぎることに起因する、それらの間の温度範囲における制振特性が不十分となることを防止することができる。
【0031】
第2重合体の配合割合は、第1重合体および第2重合体の総量100重量部に対して、例えば、20〜70重量部、好ましくは、30〜60重量部である。
第2重合体の配合割合が上記範囲に満たない場合には、広い温度範囲で高温用制振組成物に制振性を十分に向上させることができない場合がある。第2重合体の配合割合が上記範囲を超える場合には、高温での高温用制振組成物の制振性を十分に向上させることができない場合がある。
【0032】
このような第2重合体を熱融着性樹脂に含有させることにより、熱融着性樹脂の損失係数のピーク温度(例えば、低温側)にシフトさせることができる。
また、熱融着性樹脂には、上記成分に加えて、必要に応じて、例えば、揺変剤(例えば、モンモリロナイトなど)、滑剤(例えば、ステアリン酸など)、顔料、スコーチ防止剤、安定剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、防カビ剤、難燃剤などの公知の添加剤、さらには、過酸化物などの架橋剤などを、適宜の割合で含有することもできる。
【0033】
そして、熱融着性樹脂を調製するには、上記した各成分を上記した配合割合で配合して、これらを均一に混合する。熱融着性樹脂は、上記した成分を、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダ、押出機などによって混練することにより、調製することができる。
そして、熱融着性樹脂は、上記した第1重合体の融点付近の温度、具体的には、第1重合体の融点とそれより30℃高い温度との間の温度範囲内、好ましくは、第1重合体の融点とそれより20℃高い温度との間の温度範囲内で、最大の制振性を有する。
【0034】
具体的には、熱融着性樹脂は、第1重合体の融点と第2重合体のガラス転移温度との間の温度範囲内で制振性を有する。
より具体的には、熱融着性樹脂は、例えば、30〜130℃、好ましくは、40〜120℃、さらに好ましくは、50〜100℃の温度範囲内で制振性を有する。
なお、上記した説明における熱融着性樹脂が「制振性を有する」とは、熱融着性樹脂の後述する実施例において評価される上記温度範囲(例えば、30〜130℃)における制振性における損失係数が、例えば、0.05以上、好ましくは、0.08以上、さらに好ましくは、0.10以上、通常、0.5以下であると定義される。熱融着性樹脂の損失係数が上記範囲に満たない場合には、制振効果を十分に発現できない場合がある。
【0035】
一方、熱融着性樹脂は、常温付近、すなわち、具体的には、20〜40℃、好ましくは、20〜30℃の温度範囲内における制振性が、上記した融点付近(高温)における制振性より低くなっていてもよい。
つまり、熱融着性樹脂の損失係数のピークが、高温側の融点付近に存在する一方、常温付近における損失係数は、高温側のピークの裾に相当するような温度依存性になっていてもよい。
【0036】
これにより熱融着性樹脂からなる高温用制振組成物を得ることができる。
そして、この高温用制振組成物は、軽量化が図られながら、高温(例えば、30〜130℃)下における制振性がより一層向上されている。
次に、本発明の高温用制振組成物をシート状に成形した高温用制振基材およびそれを備える高温用制振シートについて説明する。
【0037】
高温用制振シートは、上記した高温用制振組成物がシート状に形成された高温用制振基材と、高温用制振基材の片面に積層される拘束層とを備えている。
高温用制振基材を形成するには、例えば、50〜150℃で、例えば、カレンダー成形、押出成形あるいはプレス成形などの成形方法によって、高温用制振組成物をシート状に形成する。
【0038】
このようにして形成される高温用制振基材の厚みは、例えば、0.2〜3.0mm、好ましくは、0.5〜2.5mmである。
拘束層は、加熱により熱融着する高温用制振基材を拘束して加熱後における高温用制振基材を保形し、かつ高温用制振基材に靭性を付与して強度の向上を図るものである。また、拘束層は、シート状をなし、軽量および薄膜で、高温用制振基材と密着一体化できる材料から形成されている。そのような材料として、例えば、ガラスクロス、金属箔、合成樹脂不織布、カーボンファイバーなどが挙げられる。
【0039】
ガラスクロスは、ガラス繊維を布にしたものであって、公知のガラスクロスが用いられる。また、ガラスクロスには、樹脂含浸ガラスクロスが含まれる。樹脂含浸ガラスクロスは、上記したガラスクロスに、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの合成樹脂が含浸処理されているものであって、公知のものが用いられる。なお、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル樹脂、EVA・塩化ビニル樹脂共重合体などが挙げられる。また、上記した熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂は、それぞれ、単独使用または併用することができ、また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂と(例えば、メラミン樹脂と酢酸ビニル樹脂と)を混合することもできる。
【0040】
金属箔としては、例えば、アルミニウム箔やスチール箔などの公知の金属箔が挙げられる。
これら拘束層のうち、重量、密着性、強度およびコストを考慮すると、ガラスクロスが、好ましく用いられる。
また、拘束層の厚さは、例えば、50μm〜2mmである。とりわけ、拘束層としてガラスクロスが用いられる場合には、厚みが、好ましくは、300μm以下であり、拘束層として金属箔が用いられる場合には、取扱いの観点から、厚みが100μm以下である。
【0041】
そして、本発明の高温用制振シートは、上記した高温用制振基材と拘束層とを、貼り合わせることにより、得ることができる。高温用制振基材と拘束層との厚さの合計は、例えば、0.3〜5mm、好ましくは、0.6〜3.5mmである。
なお、得られた高温用制振シートには、必要により、高温用制振基材の表面(拘束層が貼着されている裏面に対して反対側の表面)に、実際に使用するまでの間、セパレータ(離型紙)を貼着しておくこともできる。
【0042】
そして、本発明の高温用制振シートは、薄板の制振に用いられる。
薄板としては、制振が必要な薄板であれば、特に限定されず、例えば、各種産業製品に用いられる薄板が挙げられる。このような薄板を形成する材料は、特に限定されず、例えば、金属または樹脂(FRPや合成樹脂を含む。)などである。このような薄板としては、具体的には、自動車の鋼板や外板などが挙げられる。また、薄板としては、例えば、電気機器や家電製品などの鋼板、より具体的には、コンピュータ、コンピュータディスプレイ、テレビ、ゲーム機器、冷蔵庫、掃除機の筐体内部の鋼板などが挙げられる。
【0043】
図1は、本発明の高温用制振シートを、薄板に接着することにより制振する、本発明の高温用制振基材および高温用制振シートの使用方法の一実施形態を示す説明図を示す。
次に、図1を参照して、本発明の高温用制振シートを、薄板に接着してすることにより制振する、本発明の高温用制振基材および高温用制振シートの使用方法の一実施形態について説明する。
【0044】
まず、この方法では、図1(a)に示すように、高温用制振シート1を用意する。
高温用制振シート1は、上記したように、高温用制振基材2と拘束層3とが貼り合わされ、高温用制振基材2の表面(拘束層3が貼着されている裏面に対して反対側の表面)に必要により離型紙6が貼着されている。
次いで、この方法では、高温用制振シート1を薄板5に配置する。
【0045】
薄板5は、上記した各種産業製品に用いられるものであって、例えば、外観に現れる外面と、内部に向き、外観に現れない内面とを備えている。
高温用制振シート1を薄板5に配置するには、図1(a)の仮想線で示すように、まず、高温用制振基材2の表面から離型紙6を剥がして、次いで、図1(b)に示すように、その高温用制振基材2の表面を、薄板5の内面に貼着(仮止め、もしくは、仮固定)する。
【0046】
その後、高温用制振シート1を加熱する。加熱温度は、第1重合体の融点以上の温度であり、例えば、熱融着性樹脂の融点より30℃以上高い温度、好ましくは、20℃以上高い温度である。具体的には、加熱温度は、例えば、80〜120℃である。
また、この加熱と同時または加熱後に、高温用制振シート1を、例えば、熱融着性樹脂が貼着位置から流れ出ない程度の圧力で、具体的には、プレスを用いて、例えば、0.15〜10MPaの圧力で、加圧することもできる。
【0047】
すると、上記した加熱によって、高温用制振基材2の熱融着性樹脂が熱融着し、これによって、高温用制振基材2が薄板5および拘束層3と密着性よく接着する。
そして、高温用制振シート1が接着された薄板5では、熱融着性樹脂の融点付近の温度(高温)に加熱されたときには、高温用制振基材2は、その熱融着性樹脂が相転移(溶解)することにより、薄板5における振動のエネルギーを効率よく吸収することができる。そのため、高温における薄板5の制振性をより一層向上させることができる。
【0048】
より具体的には、薄板5の、30〜130℃、好ましくは、40〜120℃の温度範囲における制振性を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。
実施例1〜4および比較例1
(高温用制振組成物の調製)
表1に示す配合処方において、各成分を重量部基準で配合し、これをミキシングロールで混練することにより、熱融着性樹脂からなる高温用制振組成物を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1中の成分またはその略号の詳細を以下に示す。
EVA−a:エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA):酢酸ビニルの含有量28量%、MFR15g/10min、硬度79、軟化温度39℃、融点71℃
EVA−b:エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、酢酸ビニルの含有量19重量%、MFR2.5g/10min、硬度90、軟化温度58℃、融点84℃
テルペン樹脂:テルペン樹脂(テルペン-芳香族系液状樹脂)、軟化温度115℃
石油系樹脂:C5/C9系石油樹脂、軟化温度100℃
3,4−イソプレンおよびスチレンの共重合体:スチレン含有量20重量%、MFR5g/10min、ガラス転移温度8℃
ブチルゴム:不飽和度1.7、ムーニー粘度50(ML1+8、at125℃)、ガラス転移温度−50℃
スチレン・ブタジエンゴム:スチレン含有量65重量%、ムーニー粘度60(ML5+4、at100℃)、ガラス転移温度50℃
ポリブテン:数平均分子量1400
(高温用制振基材の作製)
次いで、調製した高温用制振組成物を、プレス温度110℃、プレス圧力2MPaのプレス成形により、シート状に成形することにより、厚み1.8mmの高温用制振基材を作製した。
【0052】
(高温用制振シートの作製)
作製した高温用制振基材に、拘束層として、厚さ0.2mmのガラスクロスを貼り合わせることにより、厚さ2.0mmの高温用制振シートを作製した(図1(a)参照)。
(評価)
1) 熱融着性樹脂の比重
各実施例および比較例の熱融着性樹脂の20℃における比重を水中置換法により測定した。その結果を表1に示す。
2) 制振性(損失係数)
各実施例および比較例で得られた高温用制振シートを、10×250mmの大きさに切り出し、これを、0.8×10×250mmの大きさの冷間圧延鋼板の片面に配置し、これらを、110℃で20分間それぞれ加熱することにより、高温用制振シートにおける高温用制振基材を薄板に貼着して、試験片を得た。
【0053】
その後、実施例1および2の試験片については、0℃、20℃、40℃、60℃、80℃、100℃および120℃のそれぞれの温度における2次共振点の損失係数を、中央加振法にて測定した。
また、実施例3の試験片については、0℃、20℃、40℃、60℃、80℃および100℃のそれぞれの温度における2次共振点の損失係数を、中央加振法にて測定した。また、実施例4の試験片については、20℃、40℃、60℃、80℃および100℃のそれぞれの温度における2次共振点の損失係数を、中央加振法にて測定した。またさらに、比較例1の試験片については、0℃、20℃、40℃、60℃および80℃のそれぞれの温度における2次共振点の損失係数を、中央加振法にて測定した。
【符号の説明】
【0054】
1 高温用性制振シート
2 高温用制振基材
3 拘束層
5 薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が常温以上である第1重合体と、粘着付与剤と、充填剤とを含有する熱融着性樹脂からなり、
前記熱融着性樹脂は、その融点付近の温度で制振性を有することを特徴とする、高温用制振組成物。
【請求項2】
前記第1重合体は、ポリエチレンおよび/またはエチレン共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の高温用制振組成物。
【請求項3】
前記第1重合体の融点と前記粘着付与剤の軟化温度との温度差が100℃以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高温用制振組成物。
【請求項4】
前記熱融着性樹脂は、前記第1重合体の融点以下のガラス転移温度を有する第2重合体をさらに含有し、
前記熱融着性樹脂は、前記第1重合体の融点と前記第2重合体のガラス転移温度との間の温度範囲内で制振性を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高温用制振組成物。
【請求項5】
前記第1重合体の融点と前記第2重合体とのガラス転移温度との温度差が30℃以上であることを特徴とする、請求項4に記載の高温用制振組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高温用制振組成物がシート状に成形されたことを特徴とする、高温用制振基材。
【請求項7】
請求項6に記載の高温用制振基材と、
前記高温用制振基材の片面に積層される拘束層と
を備えていることを特徴とする、高温用制振シート。
【請求項8】
請求項6に記載の高温用制振基材を、前記熱融着性樹脂の融点以上に加熱して、薄板に接着することを特徴とする、高温用制振基材の使用方法。
【請求項9】
請求項7に記載の高温用制振シートを、前記熱融着性樹脂の融点以上に加熱して、薄板に接着することを特徴とする、高温用制振シートの使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−1471(P2011−1471A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145672(P2009−145672)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】