説明

高温超電導ケーブル

【課題】本発明は、を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高温超電導ケーブルは、テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層とを備えて酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体をその厚さ方向に複数積層して酸化物超電導集合体が構成され、該酸化物超電導集合体が絶縁物で構成された支持体の一面に沿って直線状に配置されるように取り付けられて酸化物超電導導体が構成され、該酸化物超電導導体が金属パイプの内部に冷媒の流通路をあけた状態で収容され、該金属パイプの外方に断熱層を介し絶縁被覆層が形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に中間層と酸化物超電導層と安定化層を備えた積層構造の酸化物超電導積層体を備えた高温超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な高温超電導体として研究されており、これを線材に加工して電力供給用の高温超電導線ケーブルとして使用することが要望されている。酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、強度が高く、耐熱性もあり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、このテープ状の金属基材上に酸化物超電導層を形成する方法が研究されている。
【0003】
上述の高温超電導線材を用いた高温超電導ケーブルは、高価な液体ヘリウムを必要とする低温超電導体と比べ、安価な液体窒素で運用することができ、送電時のエネルギー損失を低減できる有望な技術として研究開発が進められている。
この種の高温超電導ケーブルの一例として、図8に示す如く、三心一括型高温超電導ケーブルであって、撚線からなるフォーマ100の外周に高温超電導線を巻線状に複数層配置して超電導層101を形成し、その外周に絶縁層102、103と超電導シールド層105と保護層106を形成してコアケーブル107を構成し、このコアケーブル107を3本そろえて断熱管108の内部に冷媒流通用の間隙104をあけて収容し、全体を保護層109で覆ってなる構造の高温超電導ケーブル110が知られている。
また、構造を単純化した三相同軸型の超電導ケーブルとして、内部に液体窒素流路111を形成した銅管からなるフォーマ112の外周に超電導テープ線113、114、115を絶縁層116、117を介し積層して多層構造とし、その外側に冷媒の流路を介して断熱層118とシールド層119で覆ってなる構造の高温超電導ケーブル120が知られている。
【0004】
図8、図9に示す構造の高温超電導ケーブル110、120の特徴としては、超電導特性を示す低温域まで超電導線材を冷却するため、超電導ケーブルの構造内に液体窒素流路を確保し、液体窒素を超電導ケーブル内に循環させることで、高温超電導ケーブル110、120を冷却可能な構造としている。
【0005】
その他、この種の高温酸化物超電導ケーブルにおいて、図10に示す如くテープ状の超電導導体121をらせん溝122が形成された絶縁体のスペーサ123に収容し、このスペーサ123を保護層125で覆ってなる構造の超電導ケーブル126が提案されている。この構造の高温酸化物超電導ケーブル126においてらせん溝122の内部には超電導導体121を収容した状態において間隙があけられており、この間隙が冷媒流通路127とされている。(特許文献1参照)
また、高温超電導ケーブルにおいて、図11に示す如く複数の酸化物超電導層を積層した導体コア130を用い、これらを樹脂製の断面円形のセクター131の外周部に形成した溝部132に収容し、セクター131の外周をアルミニウム製のテープ133で覆い、断熱層134と銅管135と外被136で覆ってなる構造の超電導ケーブル137が提案されている。(特許文献2参照)
【0006】
高温超電導ケーブルにおいて、図12に示す如く絶縁体からなるセクタ140の中心の空間部141に支持体142に支持されて超電導体ユニット143を収容し、セクタ140の外周部に設けた溝145に光ファイバ群146を備えた銅パイプ147を収容するとともに、セクタ140の外方に絶縁層148を介しコルゲートメタルシース149を被覆してなる構成の高温超電導ケーブル150が提案されている。(特許文献3参照)
高温超電導ケーブルにおいて、図13に示す如く超電導体テープ151を絶縁層152で覆ってなる酸化物超電導体153を複数の支持体154で支持した状態で空間部155を有する絶縁体156に収容してなる構成の高温超電導ケーブル157が提案されている。(特許文献4参照)
【0007】
高温超電導ケーブルにおいて、図14に示す如く断面コ字型の長尺のケース160の内部側に銀シース161でテープ状の酸化物超電導層162を覆ってなる酸化物超電導線材を複数積層し、ケース160の開口部側を封止材163で覆ってなる超電導導体165を複数配列させて一体化し、集合体の両端側に絶縁層166を配置した構成の高温超電導ケーブル1167が知られている。(特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−284721号公報
【特許文献2】特開昭63−307615号公報
【特許文献3】特開昭64−3906号公報
【特許文献4】特開昭64−3911号公報
【特許文献5】特開平5−62536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8と図9に示す構造の酸化物超電導ケーブル110、120は交流使用を想定した構造であるため、超電導ケーブルの外径が150mm程度となってしまう問題がある。また、図10に示す超電導ケーブル126の構造はコンパクトにはなるが、機械特性の弱いBi系の酸化物超電導線材を想定している構造のため、らせん溝122を備えたスペーサ123に超電導導体121をらせん状に収納しなければならず、超電導線材幅方向の歪(エッジワイズ)に対しても十分に注意しなければならず、高度な製造技術を要すると考えられる。
図10に示す超電導ケーブル126の構造では、製造コストを考慮しても、製造時の線速を上げることは困難と考えられ、製造コストの低減には不利な構造となる。
図11に示す超電導ケーブル137の構造では、機械的に強度は高いものの、複数の方向からセクター131の溝部132に導体コア132を収納しなければならず、収納させる工程が必要であり、高度な製造技術が必要であると考えられる。
【0010】
図12に示す超電導ケーブル150の構造では、収納方向は一方向ではあるものの、複合構造の超電導ケーブルということもあり、多くの部材を収納させる工程が必要になってくるとともに、高度な製造技術が必要であると考えられる。
図13に示す超電導ケーブル157の構造では、超電導テープ153が空隙を介し絶縁体156の内部に配置されているので、超電導テープ153の配置密度が低い構造となり、臨界電流密度が低下するという問題がある。
図14に示す構造では、集合導体に関する構造であり、機械的強度には優れているものの、密閉構造となるため、接続時の作業性などは損なわれる問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、直流用としてコンパクトな構造であり、製造しやすいとともに、機械的強度に優れた基材上に中間層、酸化物超電導層を積層してなる酸化物超電導積層体を備え、冷媒の流通路も確保できる構造とした高温超電導ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層とを備えて酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体をその厚さ方向に複数積層して酸化物超電導集合体が構成され、該酸化物超電導集合体が支持体の一面に沿って直線状に配置されるように取り付けられて酸化物超電導導体が構成され、該酸化物超電導導体が金属パイプの内部に冷媒の流通路をあけた状態で収容され、該金属パイプの外方に絶縁被覆層が形成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、前記支持体がその長さ方向全長に前記酸化物超電導集合体を収容する凹溝を備えてなることを特徴とする。
本発明は、上記課題を解決するために、前記凹溝に収容された前記酸化物超電導集合体が前記凹溝内において側圧0.9MPa以下の圧力で挟持されてなることを特徴とする。
本発明は、上記課題を解決するために、前記支持体の線膨張係数が1×10−6〜5×10−6であることを特徴とする。
本発明は、上記課題を解決するために、前記超電導積層体が前記支持体に接着されてなることを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、前記支持体が前記酸化物超電導導体の幅方向両側に配置される第1の分割支持体と第2の分割支持体とからなる分割構造とされ、前記第1の分割支持体と第2の分割支持体のそれぞれに前記酸化物超電導導体の幅方向両側部分を収容する凹溝が形成されるとともに、前記酸化物超電導導体がその幅方向両側部分を前記凹溝に収容し前記第1の分割支持体と第2の分割支持体に挟まれた状態で前記金属パイプに収容されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化物超電導積層体を支持体に沿って直線状に配置して取り付け、金属パイプの内部に冷媒の流通路をあけて収容したので、金属パイプ内の流通路に冷媒を流して酸化物超電導積層体を冷却しつつ酸化物超電導積層体の酸化物超電導層を超電導状態として通電することができる。この構造の高温超電導ケーブルにおいて支持体に沿って直線状に設けた酸化物超電導積層体であるならば、金属パイプの内部に酸化物超電導積層体を収容する場合の収容作業が容易であって、酸化物超電導積層体に作用する歪を軽減した状態で金属パイプの内部に収容できるので、超電導特性の劣化を生じない構造を提供することができる。また、酸化物超電導積層体を金属パイプの内部に直線状に収容した構造を採用することで、ケーブル全体の外径を小さくできる効果がある。
【0016】
酸化物超電導積層体を収容する支持体に凹溝を設け、この凹溝に沿って酸化物超電導積層体を収容することで、直線状に配置した酸化物超電導積層体を取り囲むように支持体で保護できるとともに、流通路を流れる冷媒を凹溝に沿って流すことができるので、凹溝に沿って流れる冷媒により凹溝内部の酸化物超電導積層体を効率良く冷却できる。
また、酸化物超電導積層体を凹溝に収容する際、支持体が酸化物超電導積層体に作用させる側圧を0.9MPa以下とすることにより、酸化物超電導積層体に余計な歪を作用させることがなく、超電導特性の劣化が生じ難いとともに、酸化物超電導積層体を凹溝の内部に確実に安定保持することができる。
【0017】
また、前記支持体の線膨張係数が1×10−6〜5×10−6であるならば、酸化物超電導積層体を構成する基材、中間層、酸化物超電導層および安定化層の線膨張係数と大きな差異が無く、熱履歴によって歪が作用し難いので、酸化物超電導積層体の酸化物超電導層に熱歪を与える可能性が低くなり、超電導特性の安定した高温超電導ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る高温超電導ケーブルの第1実施形態を示す概略断面図。
【図2】図1に示す高温超電導ケーブルに組み込まれている酸化物超電導積層体の概略断面図。
【図3】図2に示す酸化物超電導積層体の層構造を詳細に示す構成図。
【図4】図1に示す高温超電導ケーブルに適用される構造の第2の形態を示す断面図。
【図5】図1に示す高温超電導ケーブルに適用される構造の第3の形態を示す断面図。
【図6】図1に示す高温超電導ケーブルに適用される構造の第4の形態を示す断面図。
【図7】図1に示す高温超電導ケーブルを製造する装置の一例を示す構成図。
【図8】従来の超電導ケーブルの第1の例を示す部分断面略図。
【図9】従来の超電導ケーブルの第2の例を示す部分断面略図。
【図10】従来の超電導ケーブルの第3の例を示す部分断面略図。
【図11】従来の超電導ケーブルの第4の例を示す部分断面略図。
【図12】従来の超電導ケーブルの第5の例を示す部分断面図。
【図13】従来の超電導ケーブルの第6の例を示す部分断面図。
【図14】従来の超電導ケーブルの第7の例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る第1実施形態の高温超電導ケーブル1を模式的に示す概略断面図であり、図2は該高温超電導ケーブル1に組み込まれている酸化物超電導積層体2の概略断面図、図3は該酸化物超電導積層体2の積層構造の具体例を示す構成略図である。
本実施形態において酸化物超電導積層体2は、テープ状の金属製の基材3の上に、第1の中間層4と第2の中間層5と酸化物超電導層6と第1の安定化層7と第2の安定化層8を積層し、それらの全周を囲むように保護層9を被覆してなり、この酸化物超電導積層体2を複数積層して酸化物超電導集合体27が構成され、この酸化物超電導集合体27がテープ状の支持体11の上面に取り付けられて酸化物超電導導体28が構成され、この酸化物超電導導体28を中心部に備えて高温超電導ケーブル1が構成されている。
【0020】
高温超電導ケーブル1は、上述の構成の酸化物超電導導体28を収容した銅パイプなどの金属パイプ12と、該金属パイプ12を真空断熱層13を介して覆う金属コルゲート管15と、その外方に被覆されたポリエチレン層などからなる絶縁材料製の保護シース(絶縁被覆層)16とから構成されている。
【0021】
前記酸化物超電導積層体2は、より詳細には図3に示す如く、基材3の上面に拡散防止層21とベッド層22と配向層25からなる第1の中間層4とキャップ層からなる第2の中間層5が積層され、その上に酸化物超電導層6と第1の安定化層7と第2の安定化層8を積層して構成されているが、図2では図示の簡略化のために第1の中間層4を1層のように略して描いている。なお、本発明において拡散防止層21とベッド層22は必須ではなく、場合によっては略しても良い。
【0022】
前記基材3は、通常の超電導線材の基材として使用することができ、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0023】
拡散防止層21は、基材3の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。拡散防止層11の厚さが10nm未満となると、基材3の構成元素の拡散を十分に防止できなくなる虞がある。一方、拡散防止層21の厚さが400nmを超えると、拡散防止層21の内部応力が増大し、これにより、他の層を含めて全体が基材3から剥離しやすくなる虞がある。また、拡散防止層21の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0024】
ベッド層22は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層22は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層22は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。また、ベッド層22の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0025】
配向層25は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層としての第2の中間層5の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。配向層25の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この配向層25をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成する第2の中間層5の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これにより第2の中間層5の上に成膜する酸化物超電導層6の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層6を得るようにすることができる。
例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる配向層25は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔφ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0026】
前記IBAD法による配向層25であれば、目的とする層の構成粒子をスパッタ法により堆積させつつ、所定の入射角度でイオン照射を行うことにより、形成されるスパッタ膜の特定の結晶軸がイオンの入射方向に固定され、結晶のc軸が金属基板の表面に対して垂直方向に配向するとともに、結晶のa軸及びb軸が面内において一定方向に配向する。このため、IBAD法によってベッド層22上に形成された配向層25は、高い面内配向度、例えばΔφ=12〜16゜程度を得ることができる。
【0027】
次に、キャップ層としての第2の中間層5は、上述のように面内結晶軸が配向した配向層25表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料、であれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。例えばCeOによって構成される第2の中間層5は、上述のように自己配向していることにより、配向層25よりも更に高い面内配向度、例えばΔφ=4〜6゜程度を得ることができる。
【0028】
例えば、CeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
【0029】
酸化物超電導層6は高温超電導体として公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層6として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層6は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;塗布熱分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることができる。
【0030】
ここで前述のように、良好な配向性を有する第2の中間層5上に酸化物超電導層6を形成すると、この第2の中間層上に積層される酸化物超電導層6も第2の中間層5の配向性に整合するように結晶化する。よって前記第2の中間層5上に形成された酸化物超電導層6は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層6を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、基材10の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材10の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層6は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、基材10の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0031】
前記酸化物超電導層6の上に積層されている第1の安定化層7はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層6と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。なお、第1の安定化層7をAgから構成する理由として、酸化物超電導層6に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導層6から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。Agの第1の安定化層7を成膜するには、スパッタ法などの成膜法を採用し、その厚さを1〜30μm程度に形成できる。
第2の安定化層8は、良導電性の金属材料からなることが好ましく、酸化物超電導層6が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、第1の安定化層7とともに、超電導層6の電流が転流するバイパスとして機能する。
【0032】
第2の安定化層8を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)等の銅合金、ステンレス等の比較的安価なものを用いるのが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅がより好ましい。銅を用いることにより、材料コストを低く抑えながら第2の安定化層8を厚膜化することが可能となり、事故電流に耐える超電導導体を安価に得ることができる。第2の安定化層8の厚さは10〜300μmとすることが好ましい。安定化層8は、公知の方法で形成することができ、めっき法やスパッタ法、銅などの金属テープを第1の安定化層7上に半田付けする方法により形成することができる。
【0033】
前記テープ状の基材3の上に拡散防止層21とベッド層22と配向層25からなる第1の中間層4を形成し、その上に第2の中間層5と酸化物超電導層6と安定化層7、8を形成した積層体の全周を取り囲むようにポリイミドテープなどを重ね巻きして絶縁材料製の保護層9を形成して図2に示す構造の酸化物超電導積層体2が構成されている。この酸化物超電導積層体2の厚さは約0.2〜0.25mmである。前記保護層9としてポリイミドテープの積層構造を採用できるが、ポリイミドテープの積層間に厚さ約0.1mmの半硬化エポキシ含浸ガラステープ(線膨張係数10〜50×10−6/℃)を配置することにより一体化することができる。
また、この酸化物超電導積層体2を複数、図1の形態では7層、厚さ方向に積層して酸化物超電導集合体27が構成されるともに、これらが絶縁材、金属からなるテープ状の支持体11の表面側に接着などの固定手段により取り付けられて積層構造の酸化物超電導導体28が構成されている。前記1つの酸化物超電導積層体2は厚さ約0.2mm〜0.25mm、幅約10mm程度のテープ状とされている。
【0034】
前記酸化物超電導導体28は金属パイプ12の内部に収容されているが、金属パイプ12の内径は酸化物超電導導体28の幅よりも大きくされているので、酸化物超電導導体28の周囲側において金属パイプ12の内面との間には間隙が形成され、これらの間隙が液体窒素などの冷媒の流通路30とされている。また、金属コルゲート管15は、ステンレス鋼あるいはアルミニウムなどの金属材料からなるもので、この例では、屈曲性を確保するためにコルゲート加工されており、保護シース16は防食用のポリエチレン層などの樹脂被覆層からなる。
【0035】
以上説明した構成の高温超電導ケーブル1にあっては、図8 、図9に示す従来構造の超電導ケーブルの外径が150mm程度と大きくなっていたのに対し、テープ状の基材3を含めた酸化物超電導積層体2の厚さが約0.2mm〜0.25mmであって薄く、7層程度積層して酸化物超電導集合体27として、それを金属パイプ12や金属コルゲート管15、保護シース16で覆ったとしても、外径100mm以下で実現できる。
この比較を詳細に行うと、臨界電流100A/cm(77K)の超電導線材を用いて、通電電流1000A、超電導線材の臨界電流2000Aの超電導ケーブルを得ようとすると、図8の構造では、幅2mmの超電導線材を適用し、超電導線材の臨界電流20A/2mm(77K)となるので、100本の超電導線材が必要となり、超電導ケーブル全体の外径は140mm程度、中芯のケーブル外径(3心のうち、1心の外径)でも70〜80mm程度となってしまう。
【0036】
これに対し図1の構造では、直流用と限定するならば、超電導積層体に幅10mmの構造を適用することができるので、超電導導積層体は20本の積層となり、その厚さは4mm程度となり、それを収容する金属パイプ12の内径を15mm程度とすることができるので、超電導ケーブル1としての外径を50mm以下とすることが可能となる。
本実施形態の高温超電導ケーブル1にあっては、ハステロイなどの強度の高いテープ状の基材3の上に酸化物超電導層6が形成されていて、酸化物超電導積層体2が構成されているので、Bi系などの酸化物超電導導体において従来適用されていた酸化物超電導層をAgの被覆層で覆う構造の超電導導体に対比すると、機械的強度が優れるという効果を奏する。
【0037】
また、本実施形態の高温超電導ケーブル1によれば、酸化物超電導積層体2を積層した酸化物超電導導体28を支持体11に沿って直線状に配置して取り付け、金属パイプの内部に冷媒の流通路30をあけて収容したので、金属パイプ12内の流通路30に冷媒を流して酸化物超電導積層体2を冷却しつつ酸化物超電導積層体2の酸化物超電導層6を超電導状態として通電することができる。この構造の高温超電導ケーブル1において支持体11に沿って直線状に設けた酸化物超電導積層体2であるならば、金属パイプ12の内部に長尺の酸化物超電導導体28を収容する場合の収容作業が容易であって、酸化物超電導積層体2に作用する歪を軽減した状態で金属パイプ12の内部に収容できるので、超電導特性の劣化を生じない構造を提供することができる。また、酸化物超電導積層体2を金属パイプの内部に直線状に収容した構造を採用することで、ケーブル全体の外径を小さくできる効果がある。
【0038】
本実施形態の構造において、酸化物超電導導体28を金属パイプ12で覆ってなる構造に対し、この構造を図4に示す構造で置き換えることができる。
図4に示す第2実施形態の構造では、酸化物超電導積層体2を積層した酸化物超電導集合体27を取り付ける長尺の支持体が横断面コ字型の支持体31であり、この支持体31の底壁31Aと側壁31B、31Bとに囲まれた状態となるように酸化物超電導積層体2を積層してなる酸化物超電導集合体27が支持体31の凹部31aに収容され、酸化物超電導導体28が構成される。
この形態の支持体31はその横断面の各コーナー部分が金属パイプ12の内面に当接する程度の大きさとされているので、酸化物超電導集合体27を収容した支持体31を金属パイプ12の内部に挿入した状態においては、図4に示す如く酸化物超電導集合体27の上面と金属パイプ12の内面との間には最大幅dの空隙部が形成され、この空隙部が冷媒の流通路32Aとされている。また、支持体31の両側面と金属パイプ12の内面との間には流通路32Bが形成され、支持体31の底面と金属パイプ12の内面との間には流通路32Cが形成されている。
【0039】
図4に示す構造において、支持体31により酸化物超電導集合体27を金属パイプ12の内部に安定した状態で支持することができ、酸化物超電導集合体27の周囲側に冷媒の流通路32A〜32Cを形成しているので、流通路32A〜32Cに液体窒素などの冷媒を流通させて酸化物超電導集合体27を冷却し、各酸化物超電導積層6を超電導状態として通電することで、高温超電導ケーブル1を電力輸送用ケーブルとして利用することができる。
また、図1〜図3に示す構造において、支持体11、銅パイプ12、金属コルゲート管15に相当する部分を酸化物超電導積層体2と同程度の線膨張係数の材料を適用することによって、冷媒の流通路に液体窒素を流した場合、高温超電導ケーブル1の収縮長さを均一にできるので、高温超電導ケーブル1や酸化物超電導集合体27、酸化物超電導層6に余計な応力を負荷することのないケーブル構造を提供できる。
【0040】
図4の構造において、酸化物超電導集合体27を収容する支持体31に凹溝31aを設け、この凹溝31aに沿って酸化物超電導集合体27を収容することで、直線状に配置した酸化物超電導集合体27を取り囲むように支持体31で保護できるとともに、流通路32Aを流れる冷媒を凹溝31aに沿って流すことができるので、凹溝31aに沿って流れる冷媒により凹溝31a内の酸化物超電導集合体27を効率良く冷却できる。
また、酸化物超電導集合体27を凹溝31aに収容する際、支持体31が酸化物超電導集合体27に作用させる側圧を0.9MPa以下とすることにより、酸化物超電導積層体2に余計な歪を作用させることがなく、超電導特性の劣化が生じ難いとともに、酸化物超電導集合体27を凹溝31aの内部に確実に安定保持することができる。
【0041】
本実施形態の構造において、酸化物超電導導体28を金属パイプ12で覆ってなる構造に対し、この構造を図5に示す構造で置き換えることができる。
図5に示す第3実施形態の構造では、酸化物超電導積層体2を設置する長尺の支持体が横断面C字型の支持体33であり、この支持体33の底壁33Aと側壁33B、33Bとに囲まれた状態となるように酸化物超電導積層体2を積層してなる酸化物超電導集合体27が支持体33の凹部33aに収容されている。この形態の支持体33の外周面の3/4程度は金属パイプ12の内周面に隙間無く挿入されるように円弧形状とされており、支持体33の内面側には酸化物超電導集合体27の底面と側面を隙間無く挿入するために角溝型の凹部33aとされていて、図5に示す如く酸化物超電導集合体27の上面と金属パイプ12の内面との間には最大幅dの空隙部が形成され、この空隙部が冷媒の流通路34とされている。
【0042】
本実施形態の構造において、酸化物超電導導体28を金属パイプ12で覆ってなる構造に対し、この構造を図6に示す構造で置き換えることができる。
図6に示す第4実施形態の構造では、酸化物超電導集合体27を設置する長尺の支持体が横断面I字型の2つの長尺の分割支持体35、35からなり、これらの分割支持体35、35に挟まれた状態の酸化物超電導集合体27が金属パイプ12の内部に収容されている。
【0043】
これらの分割支持体35、35は、それらの間に酸化物超電導集合体27を挟んで金属パイプ12の内部に収容された状態において、それらの幅方向両側端部35aを金属パイプ12の内面に当接させる程度の大きさに形成され、分割支持体35、35の相対向する内面側に酸化物超電導集合体27の両側部を収容する凹溝35bを形成するための突条35c、35cが形成されている。分割支持体35、35は、それらの間に酸化物超電導集合体27を挟んで金属パイプ12の内部に収容された状態において、酸化物超電導集合体27の積層方向上下端部と金属パイプ12の内面との間に空隙部をあけるような形状とされ、これらの空隙部が冷媒の流通路36とされている。なお、分割支持体35の外側面35dと金属パイプ12の内面との間にも空隙部が形成され、この空隙部が冷媒の流通路37とされている。
【0044】
図4〜図6に示すいずれの構造においても、支持体により酸化物超電導集合体27を金属パイプ12の内部に固定した状態で安定支持することができ、酸化物超電導集合体27の周囲側に冷媒の流通路を形成しているので、流通路に液体窒素などの冷媒を流通させて酸化物超電導集合体27を冷却し、各酸化物超電導積層6を超電導状態として通電することで、電力輸送ケーブルとして利用することができる。
また、支持体31、33の凹溝31a、33aあるいは分割支持体35の凹溝35bに酸化物超電導集合体27を挟持する場合に作用する側圧は、0.9MPa以下とすることが好ましい。これは、酸化物超電導集合体27を構成する酸化物超電導積層体2に余計な歪を作用させることがなく、超電導特性の劣化が生じ難いとともに、酸化物超電導集合体27を各凹溝の内部に確実に安定保持するためである。なお、支持体から酸化物超電導集合体に作用させる側圧の望ましい範囲については後述の試験結果により詳述する。
また、図6に示す構造の支持体35は、銅などの金属でも良いが、絶縁を重視する際は、窒化アルミニウム(AlN)あるいは窒化ほう素(BN)などのセラミックスからなることが好ましい。窒化ほう素の線膨張係数は1×10−6程度、窒化アルミニウムの線膨張係数は4〜5×10−6程度である。このことから、支持体35をAlNあるいはBNなどのセラミックスで構成する場合の線膨張係数は、1×10−6〜5×10−6の範囲が好ましい。これらを選択することが好ましい理由は、これらの材料が絶縁性に富み、熱伝達が良好なためである。
【0045】
図7は、図1に示す断面構造の高温超電導ケーブル1を製造する場合に用いて好適な製造装置の一例を示すもので、この例の製造装置40は、第1の送出装置41と第2の送出装置42を備え、第1の送出装置41に前記構造の酸化物超電導導体28が巻き付けられて送り出し自在とされ、第2の送出装置42に銅テープ43が巻き付けられて送り出し自在とされている。
第2の搬送装置42の後段側(図7の右側)には、テープガイド装置45と銅テープ耳取装置46とスリッター47とが設置され、スリッター47の後段側にフォーミング装置48とTIG(Tungsten Inert Gas)溶接装置49とスクイズロール50と冷却装置51とコルゲート装置52が設置され、この後段側に探傷機53と引取キャタピラ54と巻取装置55が設置されている。
【0046】
図7に示す装置を用いて銅テープ43を酸化物超電導導体28に縦添えして長手方向に銅テープ43をフォーミング装置48で丸め加工しながらTIG溶接装置49で金属パイプを造管しながら超電導導体28を金属パイプの内側に収納し、必要に応じコルゲート装置52でコルゲート加工することで、図1に示す断面構造の高温超電導ケーブル1のうち、金属コルゲート管15の部分までを製造することができる。
【0047】
図1に示す実施形態の金属パイプ12は、予めコンフォーム装置などを用いて押出加工して得た金属パイプを用いても良いし、図7に示す装置を用いて先に説明したように金属パイプ12を造管しながらその内部に酸化物超電導導体28を収容してゆくように製造することもできる。この製造方法によれば、金属パイプ12の造管作業と同時に金属パイプ12への酸化物超電導導体28の収容操作ができるので、製造工程の簡略化ができる。
また、図7に示す装置によれば、金属パイプ12の形成から酸化物超電導導体28の収容、金属コルゲート管の製造までの工程を同一工程で実現可能であるので、製造コストの面で極めて有利な特徴を有する。
【実施例】
【0048】
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状の基材を用意し、このテープ状基材の表面を研磨して鏡面に仕上げた。
このテープ基材をエタノール、アセトンの有機溶剤を用いて脱脂、洗浄した後、イオンビームスパッタ法を用いてテープ基材の表面にAlからなる厚さ100nmの拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、拡散防止層とベッド層を形成した。
次に、イオンビームアシストスパッタ装置を用いてIBAD法を実施し、ベッド層上に厚さ5〜10nmのMgOの配向層を形成した。この場合、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。IBAD法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、MgOの配向層を形成した。
【0049】
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCu7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。パルスレーザー蒸着法の実施にあたり成膜装置内部でテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜するようにした。
【0050】
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの第1の安定化層を形成した。このスパッタ法においてもテープ状の基材をリールからリールへ供給する間に成膜できるようにしている。次に、酸素アニールを500℃で10時間行い、26時間炉冷後、取り出した。
そして、Agの第1の安定化層の上に片面半田付きの銅テープを貼り合わせ、全周にポリイミドテープを重ね巻きして図2に示す断面構造の酸化物超電導積層体とした。以上の工程により、テープ状の長尺の基材上に拡散防止層とベッド層と配向層とキャップ層と酸化物超電導層と第1の安定化層と第2の安定化層を備えた構造の酸化物超電導積層体を形成した。
【0051】
次に、図1に示す横断面平板型のテープ状の支持体、図4に示す横断面コ字型の支持体、図5に示すC字型の支持体、図6に示す分割構造の支持体をそれぞれ用意し、これらの支持体を使い分けて各支持体に上述の構造の酸化物超電導積層体を固定し、高温超電導ケーブルの試作を行った。各支持体は、窒化ほう素(BN:線膨張係数:1×10−6)から構成している。
窒化ほう素製の分割支持体を図6に示す如く2つ配置してそれらの間に酸化物超電導積層体を挟みつつ銅の金属パイプの内部に収容してなる構造を作製した。分割支持体の幅は3mm(積層体を挟んでいる部分の厚さ)、金属パイプの内径は20mmのものを用いた。酸化物超電導積層体の上下に高さ約10mmの流通路を設けた構造となっている。
【0052】
金属パイプに収容する際、酸化物超電導積層体を挟んだこれらの支持体の両側から、0.5MPa、0.9MPa、1.1MPaの側圧を酸化物超電導積層体に印加するように組み立てて、それぞれの高温超電導ケーブルを作製し、それぞれ液体窒素において冷却して超電導特性を測定したところ、以下の結果となった。
支持体側圧:0.25MPa:△:超電導導体の安定性が悪い。
支持体側圧:0.5MPa:○:超電導特性劣化無し。
支持体側圧:0.9MPa:○:超電導特性劣化無し。
支持体側圧:1.1MPa:×:超電導特性劣化有り。
以上の結果から、金属パイプに収容する際、支持体側圧は0.9MPa以下の値となるように作製する必要があることが判明した。また、前記側圧の評価結果から、0.5MPa以上、0.9MPaの範囲がより好ましい。
【0053】
図1、図4、図5、図6のそれぞれの構造について、支持体の形状及び材質について、検討した。図1の構造の支持体をAlNから作製した試料(試料1)、図1の構造の支持体をBNから作製した試料(試料2)、図4の構造の支持体をAlNから作製した試料(試料3)、図4の構造の支持体をBNから作製した試料(試料4)、図5の構造の支持体をフッ素樹脂から作製した試料(試料5)、図1の構造の支持体を銅から作製した試料(試料6)、図1の構造の支持体をハステロイから作製した試料(試料7)につき、それぞれ熱伝導率(W/m・K)を測定した。その結果を以下に示す。
【0054】
試料1(AlN):200(W/m・K)、試料2(BN):60(W/m・K)、試料3(AlN):200(W/m・K)、試料4(BN):60(W/m・K)、試料5(フッ素樹脂):0.3(W/m・K)、試料6(銅):350(W/m・K)、試料7(ハステロイC276):10(W/m・K)。
以上の結果から、AlNやBNからなる支持体を適用することで、絶縁性を確保しつつフッ素樹脂製の支持体を適用した構造よりも機械強度を保ちつつ、冷却特性の優れた支持体を得られる。AlNやBNからなる支持体であるならば、熱伝導率(W/m・K)は60〜200の範囲とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、送電線、各種電力機器に用いられる酸化物超電導導体を適用した高温超電導ケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…高温超電導ケーブル、2…酸化物超電導積層体、3…基材、4…第1の中間層、5…第2の中間層、6…酸化物超電導層、7…第1の安定化層、8…第2の安定化層、9…保護層、10…酸化物超電導集合体、15…金属コルゲート管、16…保護シース(絶縁被覆層)、21…拡散防止層、22…ベッド層、25…配向層、27…酸化物超電導集合体、28…酸化物超電導導体、31…支持体、31a…凹溝、32A〜32C…流通路、33…支持体、33a…凹溝、34…流通路、35…分割支持体、35b…凹溝、36、37…流通路、40…製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層とを備えて酸化物超電導積層体が構成され、該酸化物超電導積層体をその厚さ方向に複数積層して酸化物超電導集合体が構成され、該酸化物超電導集合体が支持体の一面に沿って直線状に配置されるように取り付けられて酸化物超電導導体が構成され、該酸化物超電導導体が金属パイプの内部に冷媒の流通路をあけた状態で収容され、該金属パイプの外方に絶縁被覆層が形成されてなることを特徴とする高温超電導ケーブル。
【請求項2】
前記支持体がその長さ方向全長に前記酸化物超電導集合体を収容する凹溝を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導ケーブル。
【請求項3】
前記凹溝に収容された前記酸化物超電導集合体が前記凹溝内において側圧0.9MPa以下の圧力で挟持されてなることを特徴とする請求項2に記載の高温超電導ケーブル。
【請求項4】
前記支持体の線膨張係数が1×10−6〜5×10−6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高温超電導ケーブル。
【請求項5】
前記超電導積層体が前記支持体に接着されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高温超電導ケーブル。
【請求項6】
前記支持体が前記酸化物超電導導体の幅方向両側に配置される第1の分割支持体と第2の分割支持体とからなる分割構造とされ、前記第1の分割支持体と第2の分割支持体のそれぞれに前記酸化物超電導導体の幅方向両側部分を収容する凹溝が形成されるとともに、前記酸化物超電導導体がその幅方向両側部分を前記凹溝に収容し前記第1の分割支持体と第2の分割支持体に挟まれた状態で前記金属パイプに収容されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高温超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−74340(P2012−74340A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228953(P2010−228953)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】