説明

高炉又は製鉄所の操業方法

【課題】発生したCO及び/又はCOを有効に利用し、実質のCO発生量を削減することができる高炉操業方法を提供する。
【解決手段】CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)と、該工程(C)を経たガスを高炉内に吹き込む工程(D)を有する。混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収してこれをCHに変換(改質)し、このCHを高炉に吹き込み、CHが熱源及び還元剤として機能するようにしたので、CO及び/又はCOを有効に利用した高炉操業を低コストに実施することができ、CO発生量の削減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO及び/又はCOを含む混合ガスから分離回収したCO及び/又はCOを改質し、製鉄所内において熱源(燃料)や還元剤として利用する製鉄所の操業方法と、同じく高炉において熱源及び還元剤として利用する高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COの増加による地球温暖化が、国際的な問題として大きく取り上げられており、その排出量を削減することが全世界的な課題となっている。発生ガスからCOを分離・回収するために様々な技術開発が試みられているが、回収したCOをどのように利用するかについては、有効な手段は提案されていない。回収したCOを地中に埋める技術、いわゆるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)が欧州や米国、日本などを中心に盛んに研究されている。しかし、この方法は、COを地中に埋めた後の安全性の観点から、特に地震国である日本においては、社会的な合意が得られにくいだけでなく、財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算によれば、近海を含む日本付近でのCOの埋設可能量を排出量で除した値、すなわち寿命は、わずか50年〜100年程度であるとされている。したがって、少なくとも日本においては、CCSはCO排出削減のための抜本的な解決策にはなりにくいと考えられる。
【0003】
統計によれば、日本のCO排出量は、発電に伴う排出が約30%、鉄鋼生産に伴う排出が10%で、その他では、運輸部門、民生部門が大きな割合を占めている。発電所では、石炭、石油、天然ガスの化学エネルギーを、それら化石燃料の完全酸化によって電力エネルギーに変換するため、COが排出される。それ故、化石燃料の使用に見合う量のCOは必然的に発生してしまうが、このような化石燃料による発電は、長期的には太陽光発電、風力発電、潮力発電などのいわゆるソフト・エネルギーの利用、バイオマス発電、原子力発電の普及により、徐々に減少していくものと考えられる。
【0004】
一方、鉄鋼生産では種々のプロセスでCOが発生するが、最大の発生源は高炉プロセスである。この高炉プロセスにおけるCOの発生は、酸化鉄である鉄鉱石を還元材の炭素により還元し、鉄鉱石中の酸素を除去することに起因する。このため鉄鋼生産においては、COの発生は不可避であると言える。
高炉プロセスでは、高炉下部から1000℃以上の熱風を送風し、コークスを燃焼させ、鉄鉱石の還元・溶解に必要な熱を供給するとともに、還元ガス(CO)を生成させ、この還元ガスで鉄鉱石を還元し、溶銑を得る。
【0005】
COを発生させない鉄鉱石の還元方法としては、還元ガスとして水素を用いることが考えられる。高炉に水素を吹き込んだ場合、鉄鉱石の水素による還元は下記(1)式で表される。また、コークスなどの燃焼により発生するCOによる還元は下記(2)式で表される。
Fe2O3+3H2=2Fe+3H2O ΔH=100.1kJ/mol(吸熱) …(1)
Fe2O3+3CO=2Fe+3CO2 ΔH=-23.4kJ/mol(発熱) …(2)
上記のように水素による還元は吸熱反応であるため、水素を高炉に直接吹き込んだ場合、炉下部の熱を奪い、鉄鉱石の還元・溶解に必要な熱が不足する恐れがあり、炉下部の熱補償が必要となる。
【0006】
一方、特許文献1には、高炉でのコークスなどの還元材比を削減するために、LNGなどの炭化水素系ガスを吹き込む高炉操業方法が開示されている。
また、特許文献2には、高炉で低還元材比操業を指向した場合には、炉上部の熱補償のために、高炉ガスの一部を燃焼させ、高温ガスとして高炉シャフト部に吹き込む技術が開示されている。同文献には、必要に応じて高炉ガス中のCOを除去する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−233332号公報
【特許文献2】特開2008−214735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように鉄鋼生産においてCOの発生は不可避である。このため、発生したCOをいかに有効に利用し、実質のCO発生量を削減するかが重要な課題となる。
特許文献1の方法は、高炉にLNGを吹き込むことにより、還元材(コークスなど)が低減でき、間接的に高炉で発生するCO量を低減できるが、発生したCOを有効に利用し、実質のCO発生量を削減するというものではない。また、特許文献2の技術も、特許文献1と同様に実質のCO発生量を削減する技術ではなく、また、分離されたCOをさらに有効に利用することについては記載されていない。
【0009】
また、製鉄所においては高炉、コークス炉、転炉からそれぞれ高炉ガス、コークス炉ガス、転炉ガスが副生し、これら副生ガスは製鉄所内の加熱炉や熱風炉などの熱源(燃料)として利用されている。一方、高炉において低還元材比操業を指向した場合、高炉ガスの発生量及び発熱量が低下する。また、低還元材比操業に見合うだけのコークス量で良いことから、コークスの生産量を低減することが可能であり、結果としてコークス炉ガスも減少する。したがって、低還元材比操業では、総じて製鉄所内での熱源(燃料)が不足することになる。また、高炉やコークス炉の稼働率が低下したり、設備トラブル等で発生ガス量が少なくなった場合や、CO低減のために鉄スクラップを多量に使用した場合などにおいても、副生ガスの発生量が減少し、製鉄所内での熱源(燃料)が不足することになる。このように熱源となる副生ガスが不足した場合、外部から重油、天然ガスなど炭素含有の燃料を購入する必要がある。
【0010】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、発生したCO及び/又はCOを有効に利用し、実質のCO発生量を削減することができる高炉の操業方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、発生したCO及び/又はCOを有効に利用し、実質のCO発生量を削減することができるとともに、製鉄所内で熱源となる副生ガスが不足した場合でもこれを補うことができる製鉄所の操業方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、特に高炉から排出されるCO及び/又はCOを有効に利用することで、高炉のCO発生量を実質的に低減することができる高炉又は製鉄所の操業方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、CO及び/又はCOを改質するために必要な水素の購入量を減らし、より低コストに実施可能な高炉又は製鉄所の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、CO及び/又はCOを含む混合ガス(好ましくは高炉ガス)からCO及び/又はCOを分離回収してこれをCHに変換(改質)し、このCHを熱源(燃料)及び還元剤として高炉に吹き込み、或いは製鉄所内の加熱炉、熱風炉等のような設備で熱源(燃料)等として用いることで、実質的なCO発生量の削減を果たすことができる新たな高炉又は製鉄所の操業方法を創案した。同時に、そのような操業方法において、CO及び/又はCOをCHに変換する際に発生する反応熱を利用して水素を製造することで、より低コストで実施可能な操業方法を創案した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
[1]CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)と、該工程(C)を経たガスを高炉内に吹き込む工程(D)を有することを特徴とする高炉の操業方法。
[2]CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)を有し、該工程(C)を経たガスを製鉄所内で燃料及び/又は還元剤として利用することを特徴とする製鉄所の操業方法。
【0013】
[3]上記[1]又は[2]の操業方法において、工程(C)では、さらに、工程(B)を経たガスから下記(i)及び/又は(ii)を分離除去又は分離回収することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
(i)工程(B)で改質されることなく残存したCO及び/又はCO
(ii)工程(B)で消費されることなく残存した水素
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの操業方法において、混合ガスが高炉ガスであることを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの操業方法において、工程(B)で用いる水素の少なくとも一部がアンモニアを分解して得られたものであることを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
【0014】
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの操業方法において、さらに、工程(B)で発生する反応熱を利用して水素を製造する工程(E)を有し、該工程(E)で製造された水素の少なくとも一部を工程(B)で用いることを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[7]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、単環芳香族化合物及び/又は多環芳香族化合物の水素化物の脱水素反応により水素を製造するとともに、その脱水素反応の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[8]上記[7]の操業方法において、工程(E)では、工程(B)でのメタン化反応の反応圧力よりも高い反応圧力で脱水素反応を行うことで水素を製造することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[9]上記[8]の操業方法において、工程(E)における脱水素反応の反応圧力が、単環芳香族化合物及び/又は多環芳香族化合物の水素化物を反応器に供給する圧力で維持されることを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
【0015】
[10]上記[8]又は[9]の操業方法において、工程(E)で製造された水素を、さらに昇圧することなく工程(B)に供給することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[11]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱を熱源としてアンモニアを分解し、水素を製造することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[12]上記[11]の操業方法において、アンモニアの分解反応を水素分離膜の存在下で行うことを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[13]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、炭化水素の予熱用の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
【0016】
[14]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、工程(B)で発生する反応熱で水蒸気を発生させ、この水蒸気を改質反応用の水蒸気として利用することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[15]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、該蒸気により発電を行い、その電力により水の電気分解を行うことで水素を製造することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
[16]上記[6]の操業方法において、工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、該蒸気により発電を行い、その電力を用いたPSA法により水素含有ガスから水素を分離することで水素を製造することを特徴とする高炉又は製鉄所の操業方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高炉又は製鉄所の操業方法によれば、CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収してこれをCHに変換(改質)し、このCHを熱源(燃料)及び還元剤として高炉に吹き込み、或いは製鉄所内の加熱炉や熱風炉等のような設備で熱源(燃料)等として用いるようにしたので、CO及び/又はCOを有効に利用した高炉や製鉄所全体の操業を低コストに実施することができ、CO発生量の削減を図ることができる。また、高炉での低還元材比操業の実施やその他の理由で製鉄所内で熱源となる副生ガスが不足した場合でも、その不足分を適切に補うことができる。
【0018】
さらに、CO及び/又はCOをCHに変換する際に発生する反応熱を水素の製造に利用し、製造された水素を上記変換(改質)工程で用いることにより、本発明をより低コストで実施することができる。また、上記反応熱を熱源に利用して有機ハイドライドの脱水素反応により水素を製造するとともに、この脱水素反応工程での反応圧力を、CO及び/又はCOをCHに変換するメタン化反応工程の反応圧力よりも高くすることで、系内でのエネルギー効率が高められ、プロセス全体の省エネルギー化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】工程(B)が行われる設備の一実施形態を示す説明図
【図2】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の一実施形態を示す説明図
【図3】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図4】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図5】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図6】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図7】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図8】工程(B)及び工程(E)が行われる設備の他の実施形態を示す説明図
【図9】有機ハイドライドから水素を製造する工程(E)を有する方法の一実施形態を示す説明図
【図10】本発明の高炉操業方法において、混合ガスとして高炉ガスを用いる場合の一実施態様(ガスの処理フロー)を示す説明図
【図11】本発明の高炉操業方法において、混合ガスとして高炉ガスを用いる場合の他の実施態様(ガスの処理フロー)を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の高炉の操業方法について説明する。
本発明の高炉操業方法では、CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)と、該工程(C)を経たガスを高炉内に吹き込む工程(D)を有する。さらに、好ましくは、工程(B)で発生する反応熱を利用して水素を製造する工程(E)を有し、この工程(E)で製造された水素の少なくとも一部を工程(B)で用いる。
【0021】
工程(D)で高炉内に吹き込まれたCHは、高炉内において下記(3)式の反応により還元剤(還元ガス)に変換される。
CH4+1/2O2=CO+2H2 ΔH=-8.5kJ/mol(発熱) …(3)
上記(3)式は発熱反応であり、鉄鉱石の還元に必要な熱として供給される。また、生成する還元ガスは下記(4)式に示すように鉄鉱石を還元する。
Fe2O3+CO+2H2=2Fe+CO2+2H2O ΔH=58.9kJ/mol(吸熱) …(4)
上記のようにCHの燃焼熱も高炉内の鉄鉱石の還元・溶解に利用できるので、さきに(1)式に示したような水素による鉄鉱石還元ほど高炉下部への熱補償は必要ない。
【0022】
混合ガスとしては、CO及び/又はCOを含む混合ガスであれば、その種類は問わない。例えば、製鉄プロセスで発生する混合ガスとしては、高炉ガスや転炉ガスなどが代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではなく、また、他の産業分野で発生する混合ガスであってもよい。なお、COを効率的に分離するためには、混合ガスのCO濃度が高いことが望ましいが、高炉ガス、転炉ガス、加熱炉燃焼排ガスなどを前提にした場合、混合ガスとしては、COを15vol%以上含むものを対象とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明が最も有用なのは、原料の混合ガスとして高炉ガスを用いる場合であり、高炉ガスに含まれるCOとCOをCHに改質して高炉に熱源及び還元剤として循環させることにより、高炉からのCO排出量を削減することができる。高炉ガスの一般的な組成は、CO:15〜25vol%、CO:15〜25vol%、N:45〜55vol%、水素:0〜5vol%程度である。原料の混合ガスとして高炉ガスを用いる場合、高炉から発生する高炉ガスの一部又は全部を対象とするが、例えば、高炉ガスの10vol%を使用した場合には、CO排出量を約12%程度削減することができる。
【0024】
以下、本発明の高炉の操業方法について、これを構成する工程(A)〜(D)、さらに工程(E)について説明する。
・工程(A)
原料ガスである混合ガスは、CO及び/又はCOを含む混合ガスであり、この工程(A)では、この混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する。また、COとCOを含む混合ガスの場合には、混合ガスからCOとCOを分離回収し、工程(B)でCHに変換(改質)することが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、COとCOを含む混合ガスから、COのみを分離回収するようにしてもよい。
【0025】
混合ガスからCO、COを分離回収する方法は、それぞれ任意の方法でよい。また、混合ガスからCOとCOを各々分離回収する場合、COを分離回収した後、COを分離回収してもよいし、その逆でもよい。また、COとCOを同時に分離回収してもよい。
混合ガスからCOを分離回収する方法としては、例えば、加圧又は冷却によりCOを液化又は固化する方法、苛性ソーダやアミンなどの塩基性水溶液にCOを吸収させた後、加熱又は減圧により分離回収する方法、活性炭やゼオライトなどにCOを吸着させた後、加熱又は減圧により分離回収する方法、CO分離膜により分離回収する方法などが知られており、これらを含む任意の方法を採用することができる。
【0026】
また、混合ガスからCOを分離回収する方法としては、例えば、銅/活性炭、銅/アルミナ、銅/ゼオライトなどの吸着剤にCOを吸着させた後、加熱又は減圧により分離回収する方法、銅を主要成分とする吸収液にCOを吸収させた後、加熱又は減圧により分離回収する方法などが知られており、これらを含む任意の方法を採用することができる。
また、以上のようなCOを分離回収する方法とCOを分離回収する方法とを同時又は複合的に実施し、CO及びCOを同時に分離回収してもよい。
なお、混合ガスから分離回収されたCOやCOのガス純度に特別な制限はないが、改質工程で使用する反応器の小型化などの観点からは、80vol%以上の純度であることが好ましい。
【0027】
・工程(B)
この工程(B)では、上記工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換(改質)するが、CO及び/又はCOに水素を添加してCHに改質する方法には、特定の触媒などを用いて改質を行う公知の方法を採用することができる。水素によるCOの還元反応を下記(5)式に、水素によるCOの還元反応を下記(6)式に、それぞれ示す。
CO2+4H2=CH4+2H2O ΔH=-39.4kJ/mol(発熱) …(5)
CO+3H2=CH4+H2O ΔH=-49.3kJ/mol(発熱) …(6)
【0028】
上記(5)式、(6)式は発熱反応である。(5)式は平衡的には低温が有利であり、300℃におけるCO平衡転化率は約95%を示す。また、(6)式も平衡的には低温が有利であり、300℃におけるCO平衡転化率は約98%を示す。これらの反応には通常使用されているメタン化触媒を利用できる。具体的には、鉄、Ni、Co、Ruなどの遷移金属系触媒を用いることにより、COやCOをCHに改質可能である。なかでもNi系触媒は活性が高く、また耐熱性も高く500℃程度の温度まで使用可能であるので、特に好ましい。また、鉄鉱石を触媒として用いてもよく、特に高結晶水鉱石は、結晶水を脱水すると比表面積が増加し、触媒として好適に利用できる。
【0029】
メタン化反応器は、触媒層の圧力損失や、メタン化反応器下流側に後述するような熱交換器を設置する場合にはその圧力損失を考慮して、その入口圧力が0.2〜1MPa程度、より好ましくは0.3〜0.6MPa程度で運転されることが望ましい。メタン化反応器での反応圧力が低すぎると、圧力損失のためにメタン化反応器下流に吸引ブロワを設置する必要が生じ、消費動力が増大する。一方、メタン化反応器での反応圧力が高すぎると、CO及び/又はCO、及びHを反応圧力まで昇圧するための消費動力が増大する。
【0030】
ここで、CO、COをCHに改質する場合、CO、COをそれぞれ個別に改質してもよいし、COとCOを混合した状態で改質してもよい。
CO及び/又はCOに添加される水素の供給源は任意であるが、例えば、アンモニアなどのような含水素化合物を分解して生成させた水素を用いることができる。アンモニアの分解は下記(7)式で示される。
NH3=1/2N2+3/2H2 ΔH=11.0kJ/mol(吸熱) …(7)
【0031】
上記(7)式は400℃で約95%の平衡転化率を示す。アンモニアは、鉄、Ni、Coなどの遷移金属系触媒を用いることにより、窒素と水素に分解可能である。また、鉄鉱石を触媒として用いてもよく、特に高結晶水鉱石は、結晶水を脱水すると比表面積が増加し、触媒として好適に利用できる。
アンモニアは石炭を乾留するコークスを製造する際に発生し(アンモニア発生量は約3.3Nm/t-石炭)、現状では、液安又は硫安として回収されている。このアンモニアを本発明において水素源として利用できれば、製鉄所外から水素を調達する必要がなくなり、或いは製鉄所外から調達する量を少なくすることができる。
【0032】
また、水素を得るための他の含水素化合物としては、例えば、コークス炉ガスなどが挙げられる。コークス炉ガスから水素を得る場合、コークス炉ガス中の水素をPSA(物理吸着)などで分離回収する方法、コークス炉ガス中の炭化水素を改質(部分酸化)し、この改質ガスから水素をPSA(物理吸着)などで分離回収する方法、などの方法を採ることができる。また、バイオマスを部分酸化し、得られたガスからPSA(物理吸着)などで水素を分離回収してもよい。
アンモニアなどの含水素化合物を分解して水素を得る場合、分解した後の水素以外のガス成分(アンモニアの場合には窒素)を分離除去した後、水素を工程(B)に供給する。
また、他の供給源から得られる水素としては、例えば、天然ガスなどの炭化水素を水蒸気改質などによって改質することで製造された水素、液化水素を気化させて得られた水素、有機ハイドライドを脱水素して製造された水素、水の電気分解によって製造された水素などが挙げられる。
【0033】
CO及び/又はCOに水素を添加し、触媒を用いてCHに改質(CO、COをそれぞれ個別に若しくは混合した状態で改質)するには、通常、水素を添加したCO及び/又はCOを触媒が充填されている反応器に導入し、CO及び/又はCOをCHに変換(改質)する反応を生じさせる。反応器としては、固定層反応器、流動層反応器、気流層反応器などを用いることができる。なお、これら反応器の形式によって、触媒の物理的な性状が適宜選択される。
【0034】
これらのなかでも、メタン化反応器としては、耐熱性に優れるNi系触媒などの触媒を充填した断熱型の固定層反応器は工業的実績が多い。図1は、工程(B)が行われる設備の一実施形態を示すものであり、触媒3(例えば、Ni系触媒など)を充填した複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置されている。これらの反応器1は、断熱型の固定層反応器からなる。これら複数の反応器1に、水素を添加したCO及び/又はCOが順次導入され、各反応器1においてCO及び/又はCOをCHに変換(改質)する反応が生じる。各反応器1の下流側のガス流路4には熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2で熱回収される。この実施形態では熱媒体として水を用い(5が熱媒体流路)、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行っている。
なお、反応温度の制御を適切に行いつつ、メタン化反応を効率的に生じさせるには、本実施形態のように、1基の反応器1に充填する触媒量を少なくするとともに、反応器1の下流側に設置された熱交換器2によって熱回収を行いながら反応温度制御を行い、このような反応器1と熱交換器2のセットを数基直列に配列した反応器群でメタン化反応を完結させるようにすることが好ましい。
【0035】
また、CO及び/又はCOに混合する水素の量は、量論比以上であることが好ましく、具体的には、水素の量はCO及び/又はCOに対する量論比で1以上1.2以下であることが好ましい。量論比が1未満では未反応で残留するCO及び/又はCOが増加するだけでなく、メタン化触媒上に炭素質が析出して触媒寿命を短くする恐れがある。一方、量論比が1.2を超えると、反応に対する悪影響は認められないものの、未反応で残留するHが増えて経済性が低下する。
【0036】
・工程(C)
この工程(C)では、上記工程(B)を経たガス(以下、「改質後ガス」という)からHOを分離除去する。水素によってCO及び/又はCOをCHに改質した場合、HOが生成する。HOが高炉に導入されると、高炉内のコークスを消費し、逆にCO排出量が増加する。したがって、改質後ガスからHOを分離除去する必要がある。
改質後ガスからHOを分離除去する方法としては、冷却方式、吸着方式などを適用できる。冷却方式では、改質後ガスを露点温度以下に冷却し、HOを凝縮除去する。露点温度は改質ガス中のHO濃度によって決まるが、通常、改質後ガスを30℃以下まで冷却すれば、HOを適切に凝縮除去することができ、通常高炉に吹き込まれる送風空気湿分濃度と同程度となるので、高炉操業上好ましい。また、吸着方式では、シリカゲルなどの除湿用吸着剤を用いるが、吸着塔内で吸着と再生を繰り返す方式、ハニカム状に成型された吸着剤が回転しながら再生・吸着を連続的に繰り返すハニカムローター方式などを適宜採用できる。また、改質後ガスを冷却する方法としては、例えば、工程(C)を経て高炉に供給される途中の改質後ガス(通常、常温)と熱交換させるようにしてもよい。
【0037】
また、上記工程(B)でCO及び/又はCOの改質のために添加した水素の一部が未反応状態で改質後ガス中に残存していても(通常、添加した水素の一部は未反応状態で改質後ガス中に残存する)、本発明では特に問題とはならないが、残存水素を分離回収して、工程(B)で再利用してもよい。改質後ガスから水素を分離回収するには、例えば、H以外のガスを吸着剤で吸着分離するPSA法などの方法を採ることができる。
さらに、改質後ガスに上記工程(B)でCHに改質されなかったCO及び/又はCO(特にCO)が残存している場合には、例えば、さきに述べたような方法でCO及び/又はCOを分離除去してもよい。
以上により、改質後ガスは、通常、CH主体のガス又は実質的にCHのみからなるガスとなる。
【0038】
・工程(D)
この工程(D)では、工程(C)を経た改質後ガスを熱源及び還元剤として高炉内に吹き込む。改質後ガスは、高炉操業を考慮するとガス温度を高めて高炉内に吹き込むことが好ましく、このため工程(B)を経た直後の高温の改質後ガスと熱交換して昇温させてから高炉に吹き込んでもよい。また、他の熱源を用いて間接加熱により改質後ガスを昇温させてもよい。改質後ガスの高炉内への吹き込みは、通常、羽口を通じて行うが、これに限られるものではない。改質後ガスを羽口から吹き込む場合、羽口に吹込みランスを設置し、この吹込みランスから吹き込むのが一般的である。
【0039】
・工程(E)
この工程(E)は、工程(B)で発生する反応熱を回収・利用して水素を製造するものであり、本発明では、この工程(E)で製造された水素の少なくとも一部を工程(B)で用いる。図2〜図8は、それぞれ工程(B)及び工程(E)が行われる設備の実施形態を示している。
さきに挙げた式(5)、(6)に示されるように、工程(B)においてCO及び/又はCOをCHに変換する際に発生する反応熱は極めて大きい。特に、Ni系触媒などのような耐熱性の高い触媒と断熱型のメタン化反応器を用い、メタン化反応器の出側ガス温度が400〜500℃程度になるように制御し、このような改質後ガスから熱回収を行えば、一般に大きな吸熱反応である水素の製造において、その熱を有効に利用することができる。
【0040】
工程(E)の実施形態である水素の製造方法としては、例えば、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(ア)単環芳香族化合物及び/又は多環芳香族化合物の水素化物(以下、説明の便宜上、これらを総称して「有機ハイドライド」という場合がある)の脱水素反応により水素を製造するとともに、その脱水素反応の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用する方法。
(イ)工程(B)で発生する反応熱を熱源としてアンモニアを分解し、水素を製造する方法。
(ウ)炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、原料となる炭化水素の予熱用の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用する方法。
【0041】
(エ)炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、この蒸気を改質反応用の水蒸気として利用する方法。
(オ)工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、この蒸気により発電を行い、その電力により水の電気分解を行うことで水素を製造する方法。
(カ)工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、この蒸気により発電を行い、その電力を用いたPSA法(圧力スイング法)により水素含有ガスから水素を分離することで水素を製造する方法。この方法には、例えば、コークス炉ガスなどから水素を分離する方法、バイオマスやプラスチックなどのガス化ガスから水素を分離する方法などが含まれる。
【0042】
上記(ア)の方法では有機ハイドライドの脱水素反応を行う水素製造用反応器が、上記(イ)の方法ではアンモニア分解を行う水素製造用反応器が、上記(ウ)の方法では炭化水素の水蒸気改質を行う水素製造用反応器が、それぞれ用いられ、これらの水素製造用反応器での熱源に、工程(B)で発生する反応熱が利用される。図2〜図6は、上記(ア)〜(ウ)の方法を実施するのに好適な設備構成の幾つかの実施形態を示している。
以上挙げた方法のなかで、上記(ア)の方法において水素製造原料となる有機ハイドライドは常温で液体であるが、水素製造プロセスでの省エネルギーの観点からは、そのような常温で液体である水素製造原料を用いた方が好ましい。これは、水素製造用反応器に水素製造原料を昇圧して供給する時、気体に較べて液体の方が遥かに小さい動力で昇圧できるからである。
【0043】
図2の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水素製造原料、すなわち上記(ア)の方法では有機ハイドライドを、上記(イ)の方法ではアンモニアを、上記(ウ)の方法では炭化水素をそれぞれ用い、熱交換器2でその水素製造原料と直接熱交換を行って水素製造原料を予熱する。そして、この予熱された水素製造原料は水素製造用反応器6に導入され、上記(ア)〜(ウ)のいずれかの方法により水素が製造される。但し、上記(ウ)の方法については、一般に、水蒸気改質反応温度は高いので、メタン化反応熱は原料炭化水素の予熱用として有効であるが、高い反応率で水蒸気改質反応を行うには、より高温の熱源も供給することが好ましい。
【0044】
図3の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水を用い、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行い、さらにその蒸気を熱交換器7で水素製造原料と熱交換させ(8が水素製造原料流路)、水素製造原料を予熱する。そして、この予熱された水素製造原料は水素製造用反応器6に導入され、上記(ア)〜(ウ)のいずれかの方法により水素が製造される。
【0045】
図4の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置される。各反応器1の下流側のガス流路4が、水素製造用反応器6a(シェルアンドチューブ型反応器)の内部を通過し、ガス流路4を流れるガスの顕熱が水素製造用反応器6aの熱源として利用される。そして、水素製造原料が導入される水素製造反応器6aでは、上記(ア)〜(ウ)のいずれかの方法により水素が製造される。
なお、水素製造原料とガス流路4の流れ方向は向流とすることが一般的であるが、並流としてもよい。また、本実施形態では水素製造用反応器6aとしてシェルアンドチューブ型を例示したが、これに限定されるものではない。
【0046】
図5の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水を用い、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行う。蒸気が通る熱媒体流路5が、水素製造用反応器6a(シェルアンドチューブ型反応器)の内部を通過し、蒸気の顕熱が水素製造用反応器6aの熱源として利用される。そして、水素製造原料が導入される水素製造用反応器6aでは、上記(ア)〜(ウ)のいずれかの方法により水素が製造される。
なお、水素製造原料とガス流路4の流れ方向は向流とすることが一般的であるが、並流としてもよい。また、本実施形態では水素製造用反応器6aとしてシェルアンドチューブ型を例示したが、これに限定されるものではない。
【0047】
図6の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水を用い、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行うが、ガス流路4に直列に配置された複数の反応器のうち、下流側の1又は2以上の反応器1に付設された熱交換器2a(反応器1の下流側に配置された熱交換器2a)に熱媒体流路5を通じてスチームドラム9からの水が流され、熱交換器2aで蒸気を発生させて熱回収を行う。この蒸気はスチームドラム9を経て液体分が除かれた後、上流側の1又は2以上の反応器1に付設された熱交換器2b(反応器1の下流側に配置された熱交換器2b)に送られ、この熱交換器2bで過熱蒸気を発生させて熱回収を行う。本実施形態で配置された熱交換器2は、熱交換器2aが3基、熱交換器2bが1基である。そして、熱交換器2bで発生した過熱蒸気を熱交換器7で水素製造原料と熱交換させ(8が水素製造原料流路)、水素製造原料を予熱する。この予熱された水素製造原料は水素製造用反応器6に導入され、上記(ア)〜(ウ)のいずれかの方法により水素が製造される。
このように工程(B)の反応熱で過熱蒸気を発生させ、この過熱蒸気を水素製造原料の予熱用熱源として用いる方法は、熱効率に優れており特に好ましい。なお、図6に示される過熱蒸気を発生させる機構は、図5の実施形態の設備に適用してもよい。
【0048】
上記(エ)の方法では炭化水素の水蒸気改質を行う水素製造用反応器が用いられ、工程(B)で発生する反応熱で発生させたスチームが水素製造用反応器に導入される。図7は、この(エ)の方法を実施するのに好適な設備構成の一実施形態を示している。
図7の実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水を用い、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行い、さらにその蒸気が炭化水素が供給される水素製造用反応器10に改質反応用の水蒸気として導入され、炭化水素の水蒸気改質により水素が製造される。水蒸気改質反応温度は高いので、メタン化反応の反応熱を利用して発生させた蒸気を改質反応用の水蒸気の少なくとも一部として利用するこの方法は特に有用である。また、図6のような設備構成で、過熱蒸気を発生させて改質反応用の水蒸気の少なくとも一部として供給することは、熱効率の面から特に有効である。
【0049】
図8は上記(オ)の方法及び(カ)の方法を実施するのに好適な設備構成の一実施形態を示している。この実施形態では、図1の実施形態と同じく、触媒3(例えば、Ni系触媒など)が充填された複数基の反応器1(メタン化反応器)がガス流路4に直列に配置され、各反応器1の下流側のガス流路4に熱交換器2が配置され、各反応器1でのメタン化反応の反応熱(ガス顕熱)がこの熱交換器2(5が熱媒体流路)で熱回収される。この実施形態では、熱媒体として水を用い、熱交換器2で蒸気を発生させて熱回収を行うが、ガス流路4に直列に配置された複数の反応器のうち、下流側の1又は2以上の反応器1に付設された熱交換器2a(反応器1の下流側に配置された熱交換器2a)に熱媒体流路5を通じてスチームドラム9からの水が流され、熱交換器2aで蒸気を発生させて熱回収を行う。この蒸気はスチームドラム9を経て液体分が除かれた後、上流側の1又は2以上の反応器1に付設された熱交換器2b(反応器1の下流側に配置された熱交換器2b)に送られ、この熱交換器2bで過熱蒸気を発生させて熱回収を行う。本実施形態で配置された熱交換器2は、熱交換器2aが3基、熱交換器2bが1基である。そして、熱交換器2bで発生した過熱蒸気をスチームタービン11に供給して発電を行う。その電力を水素製造設備(図示せず)に供給し、その電力を用いて、上記(オ)の方法では水の電気分解を行うことで水素を製造し、上記(カ)の方法ではPSA法により水素含有ガスから水素を分離することで水素を製造する。また、この方法では、スチームタービン11から排出される廃スチーム或いは加圧排熱水の廃熱を利用した熱電変換などの廃熱発電を組み合わせ、発電量を増加させてもよい。
【0050】
以上述べた種々の実施形態のうち、工程(B)で発生する反応熱を蒸気で熱回収する方法(図3、図5〜図8)は、伝熱効率に優れ、発電設備などで多くの実績を有することから好ましい方法である。特に、図1において説明したような、メタン化反応器として耐熱性に優れるNi系触媒などを充填した断熱型の固定層反応器を採用した場合、メタン化反応器出口温度を400〜500℃に設定することができるため、反応熱を過熱中圧(圧力2〜5MPa程度)蒸気で回収することができ、効率的に水素を製造できるため特に好ましい。
【0051】
上記(ア)の方法において水素製造原料に用いる有機ハイドライドは、単環芳香族化合物の水素化物及び多環芳香族化合物の水素化物の中から選ばれる1種以上である。具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、テトラリン、パーヒドロアントラセンなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。有機ハイドライドの脱水素反応温度は300〜400℃程度であり、断熱型のメタン化反応器1の出口ガス温度よりも低い温度である。したがって、図2〜図6に示す何れの設備構成によっても有機ハイドライドの脱水素による水素製造が可能である。
【0052】
図9は、上記(ア)の方法で有機ハイドライドから水素を製造し、この水素を工程(B)のメタン化反応に利用する場合の一実施形態を模式的に示したものであり、設備構成としては、例えば、図2〜図6に示すものが採用可能である。図において、1はメタン化反応が行われる反応器(メタン化反応器)、4はガス流路、6は有機ハイドライドの脱水素反応が行われる水素製造用反応器(脱水素反応器)、12は水素製造用反応器6での脱水素反応生成物から水素を分離する水素分離装置(蒸留塔)、13は有機ハイドライドを水素製造用反応器6に供給するポンプ、14は有機ハイドライド脱水素生成物流路、15は背圧弁、16は水素分離後の有機ハイドライド脱水素生成物流路である。
【0053】
ここで、水素製造用反応器6における脱水素反応の反応圧力は、反応器1におけるメタン化反応の反応圧力よりも高くすることが好ましい。これは、そのような圧力差を設けることにより、水素製造用反応器6で製造された水素を反応器1に導入するためのコンプレッサーが不要となり、系内でのエネルギー効率が非常に高くなるためである。具体的には、水素製造用反応器6や水素分離装置12の圧力損失にもよるが、脱水素反応が行われる水素製造用反応器6の入口圧力は、メタン化反応が行われる反応器1の入口圧力よりも0.1〜0.5MPa高くすることが好ましく、0.2〜0.4MPa高くすることがより好ましい。脱水素反応器(反応器6)の入口圧力とメタン化反応器(反応器1)の入口圧力の差が小さすぎると、脱水素反応器で製造された水素をメタン化反応器に円滑に導入できなくなる場合があり、一方、脱水素反応器の入口圧力とメタン化反応器の入口圧力の差が大きすぎると、有機ハイドライドの脱水素反応は平衡上、低圧ほど有利であるため、水素収率が低下する。脱水素反応器(反応器6)における脱水素反応の反応圧力を、メタン化反応器(反応器1)におけるメタン化反応の反応圧力よりも高くすること、好ましくは上述した範囲の圧力差を設けることにより、有機ハイドライドを昇圧して脱水素反応器(反応器6)に供給した圧力で脱水素反応の圧力が維持され、さらに、分離した水素を昇圧することなくメタン化反応器(反応器1)に円滑に導入することができ、プロセス全体の省エネルギー化を達成することができる。
【0054】
上記(イ)の方法において水素源となるアンモニアの分解反応は、反応圧力0.1MPaにおいて平衡転化率が95%以上となる反応温度は約400℃である。したがって、この場合も有機ハイドライドの脱水素反応と同様、図2〜図6に示す何れの方法によっても水素の製造が可能である。また、アンモニア分解で生成する物質はNとHだけであるので、Pd膜などの既存の水素分離膜とアンモニア分解触媒とを組み合わせたメンブレンリアクター中で分解反応を行うことによって、平衡を超える転化率が達成可能であり、好ましい。なお、アンモニア分解触媒としては鉄、Ru、Ni、Coなどの遷移金属系触媒を用いることができる。また、鉄鉱石を触媒として用いてもよく、特に高結晶水鉱石は、結晶水を脱水すると比表面積が増加し、触媒として好適に利用できる。
【0055】
以上説明してきた工程(E)によって製造された水素は、必要に応じて不純物を除去した後、工程(B)のメタン化反応器の上流の水素供給配管に合流させ、メタン化反応に必要な水素の一部として利用される。ここで、前記「必要に応じて不純物を除去」とは、工程(B)のメタン化反応、工程(D)の高炉内へのメタン化ガスの吹き込み、及び工程(E)の水素製造の各工程において必要とされるレベルまで不純物を除去することを意味する。具体的には、水素純度として90%以上、より好ましくは95%以上であればよい。水素純度が90%未満では水素中の不純物によるメタン製造触媒の活性低下やメタン化反応器下流に設置された熱交換器等での伝熱効率の低下の原因となりやすい。また、工程(D)の高炉への吹込みにおいて、高炉内での鉄鉱石の還元効率の低下や熱効率の低下の原因となるおそれもある。なお、水素純度が99.999%より高くても工程(B),(D),(E)での技術上の問題はないが、必要以上に高純度とするとコスト高となるので、水素純度は99.999%を上限とするのが好ましい。
【0056】
図10は、原料ガス(混合ガス)として高炉ガスを用いる場合の本発明の一実施態様(ガスの処理フロー)を示したものである。この実施形態では、まず、工程(A)として、高炉ガスからCO及び/又はCOが分離回収される。また、高炉ガスはHOやNを含んでいるので、これらを分離除去することにより、残部ガス(改質高炉ガス)の品位を高めることができ、この残部ガスは燃料や水素源などとして利用できる。
次に、工程(B)として、高炉ガスから分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換(改質)する。水素は、アンモニアなどの含水素化合物を分解して得られ、分解した後の水素以外のガス成分(アンモニアの場合には窒素)を分離除去した後、水素が工程(B)に供給される。
【0057】
上記工程(B)を経た改質後ガスは、高炉に導入される直前の改質後ガスと熱交換されることで冷却された後、工程(C)として、HOが分離除去される。また、改質後ガス中に工程(B)で改質されなかったCO及び/又はCOや未反応の水素が残存している場合には、CO及び/又はCOと水素を分離回収し、工程(B)で再利用することもできる。このようにして工程(C)を経た改質後ガスは、上記工程(B)を経た直後の高温の改質後ガスと熱交換して昇温させた後、羽口から熱風とともに高炉内に吹き込まれる(工程(D))。
【0058】
図11は、原料ガス(混合ガス)として高炉ガスを用いる場合の本発明の一実施態様(ガスの処理フロー)を示したものである。この実施形態では、工程(A)〜(D)は図10と同様であるが、工程(E)において、工程(B)で発生する反応熱を利用して水素を製造し、この製造された水素が工程(B)に供給されて、メタン化反応に利用される。工程(E)では、例えば、さきに挙げた(ア)〜(カ)の方法と図2〜図8の設備で水素が製造される。
【0059】
次に、本発明の製鉄所の操業方法について説明する。
本発明の製鉄所の操業方法では、CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)を有し、該工程(C)を経たガスを製鉄所内で燃料及び/又は還元剤として利用するものである。さらに、好ましくは、工程(B)で発生する反応熱を利用して水素を製造する工程(E)を有し、この工程(E)で製造された水素の少なくとも一部を工程(B)で用いる。
工程(C)を経たガスを供給する製鉄所内の設備としては、上述した高炉以外に、高炉に供給する熱風を製造する熱風炉、スラブ等の鋼片を加熱する蓄熱バーナのような加熱炉、コークス炉、焼結機等を挙げることができる。加熱炉や熱風炉等の設備に本発明で得られたCHを燃料として供給することで、それらの設備で使用する燃料ガス量を節減することができる。
【0060】
熱風炉で使用される燃料ガスは、通常、高炉ガスとコークス炉ガスを混合し、発熱量(約1000kcal/Nm)を調整したものであるが、この高炉ガスやコークス炉ガスの代わりに本発明で得られたCHを利用することが可能である。本発明においてCO及び/又はCOを改質して得られたCH(低位燃焼熱で約8000〜8500kcal/Nm)は、通常の高炉ガス(低位燃焼熱で約800kcal/Nm)に比較して発熱量が高く、高炉ガス等に比べて少ない量で済み、配管コスト等の削減につながる。
また、さきに述べたように、製鉄所では高炉、コークス炉、転炉からそれぞれ高炉ガス、コークス炉ガス、転炉ガスが副生し、これら副生ガスは製鉄所内の加熱炉や熱風炉などの熱源(燃料)として利用されているが、この熱源となる副生ガスが種々の理由で不足して、天然ガスなどの外部燃料を使用する場合があり、これを補う熱源として、上記CO及び/又はCOを改質して得られたCHを用いれば、外部燃料使用量の削減が可能となる。
【0061】
この製鉄所の操業方法における工程(A)〜(C)及び工程(E)の内容や対象となる原料ガス(混合ガス)については、さきに述べた高炉の操業方法と同様である。改質後ガスのガス温度を高めて利用する必要がある場合、工程(B)を経た直後の高温の改質後ガスと熱交換して昇温させてから利用してもよい。また、他の熱源を用いて間接加熱により改質後ガスを昇温させてもよい。改質後ガス(CH)を熱風炉等の設備で利用する場合、通常、当該設備で使用されている燃料(例えば、熱風炉の場合には高炉ガスとコークス炉ガスの混合ガス)の使用量を考慮して改質後ガスの使用量を決める。そして、改質後ガスの使用量に応じて、通常使用されている燃料を減量する。
【実施例】
【0062】
本発明を実施する前の高炉操業条件を以下に示す。
・送風量:1112Nm/t-p
・酸素富化量:7.6Nm/t-p
・送風中湿分:25g/Nm
・送風温度:1150℃
・還元材比:497kg/t-p(コークス比:387kg/t-p、微粉炭比:110kg/t-p)
・高炉ガス発生量(dry):1636Nm/t-p(窒素:54.0vol%,CO:21.4vol%,CO:21.0vol%,水素:3.6vol%)
・CO排出量(高炉に供給したCをCO換算):1539kg/t-p
【0063】
[実施例1]
図10に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。
・工程(A)
高炉から発生した高炉ガスの約10vol%を、CO吸着剤が充填された吸着塔に導入して絶対圧200kPaでCOを吸着させ、しかる後、このCOを絶対圧7kPaで脱着させ、CO(CO濃度99vol%)を得た。さらに、COが分離・回収された後の高炉ガスをCO吸着剤が充填された吸着塔に導入して絶対圧200kPaでCOを吸着させ、しかる後、このCOを絶対圧7kPaで脱着させ、CO(CO濃度99vol%)を得た。
【0064】
・工程(B)〜(D)
上記のように分離回収されたCOとCO(COとCOの混合ガス)を改質器(反応器)に導き、ここでアンモニアの分解により得られたHを添加し(H/(CO+CO):5モル比)、Ni系触媒を用いて反応温度:500℃、SV(Space
Velocity):100h−1の条件でCHに改質(変換)した。(CO+CO)転化率は約100%であった。この改質後ガスを熱交換器で冷却し、水分除去装置でHOを除去し、さらに、未反応のHを吸着分離(除去)した後、高炉羽口から吹き込んだ。なお、吸着分離したHは、再度(CO+CO)改質用の水素として利用した。この実施例では、還元材比:439kg/t-p(コークス比:329kg/t-p、微粉炭比:110kg/t-p)、CO排出量:1358kg/t-pとなり、本発明を実施する前の高炉操業条件と比較してCO排出量を約11.7%削減できた。
【0065】
[実施例2]
図11に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。工程(B)及び工程(E)では、図5に示す設備(但し、反応器1と熱交換器2のセットが5基直列に配置された設備)に、図6に示す過熱蒸気を得る機構を組み込んだ設備を用いた。
・工程(A)
高炉から発生した高炉ガスの約10vol%を、CO吸着剤が充填された吸着塔に導入して絶対圧200kPaでCOを吸着させ、しかる後、このCOを絶対圧7kPaで脱着させ、CO(CO濃度99vol%)を得た。さらに、COが分離・回収された後の高炉ガスをCO吸着剤が充填された吸着塔に導入して絶対圧200kPaでCOを吸着させ、しかる後、このCOを絶対圧7kPaで脱着させ、CO(CO濃度99vol%)を得た。
【0066】
・工程(B)〜(D)
上記のように分離回収されたCO,CO(COとCOの混合ガス)と、純度99%のHをH/(CO+CO)のモル比が5となるように各ガスの流量を制御して原料ガスとした。Ni系触媒を充填した断熱型のメタン化反応器と熱交換器のセットを5基直列とした設備に原料ガスを導入し、反応器入口温度:265℃、反応器出口温度:470℃、SV(Space Velocity):2000h−1の条件でCOとCOをCHに改質(変換)した。但し、最終段の反応器(5基目)だけは、反応器入口温度:220℃、反応器出口温度:250℃とした。[CO+CO]転化率は約100%であった。この改質後ガスを熱交換器で冷却し、水分除去装置でHOを除去し、さらに、未反応のHを吸着分離(除去)した後、高炉羽口から吹き込んだ。なお、吸着分離したHは、再度(CO+CO)改質用の水素として利用した。この実施例では、還元材比:439kg/t-p(コークス比:329kg/t-p、微粉炭比:110kg/t-p)、CO排出量:1358kg/t-pとなり、本発明を実施する前の高炉操業条件と比較してCO排出量を約11.7%削減できた。
【0067】
・工程(E)
水素製造用反応器としては、有機ハイドライドの脱水素反応により水素を製造する脱水素反応器を用いた。メタン化反応器下流の熱交換器で蒸気を発生させ、その蒸気をメチルシクロヘキサン(MCH)脱水素反応器(シェルアンドチューブ型反応器)のシェル側に供給し、脱水素反応の熱源とした。この蒸気は、圧力4MPa、温度400℃の過熱蒸気であり、流量は38t/hであった。但し、メタン化反応器に原料ガスを導入するためのコンプレッサー(工程B)、メタン化ガスを高炉内に吹き込むためのコンプレッサー(工程D)、並びに、熱交換器に供給する水の昇圧ポンプ(工程E)の動力を蒸気駆動としたため、MCH脱水素反応の熱源として利用可能な蒸気は26t/hであった。
【0068】
脱水素反応器のチューブ側にPt系脱水素触媒を充填し(SV:100h-1)、ここにMCHを21t/h供給し、圧力0.2MPa、反応温度は成行きで脱水素反応を行った。脱水素反応器出口ガスにはHの他にトルエンと微量の未反応MCHが含まれるので、脱水素反応器の下流に蒸留塔を設置して、Hを分離した。Hの目標純度を95%としたため、蒸留塔の塔頂温度は42℃であり、コンデンサーは水冷で十分であった。水素の製造量は12700Nm/hであり、工程(B)に供給するHの約20%を副生することができた。蒸留塔で分離されたHの全量を工程(B)の原料ガス供給系に導入し、メタン化反応器でのメタン化反応に利用した。
【0069】
[実施例3]
図11に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。工程(B)及び工程(E)では、図5に示す設備(但し、反応器1と熱交換器2のセットが5基直列に配置された設備)に、図6に示す過熱蒸気を得る機構を組み込んだ設備を用いた。
・工程(A)
実施例2と同様である。
・工程(B)〜(D)
実施例2と同様である。
【0070】
・工程(E)
水素製造用反応器としては、NH分解により水素を製造するメンブレンリアクターを用いた。それ以外は実施例2の工程(E)と同様、圧力4MPa、温度400℃の過熱蒸気を26t/h利用して、Hの製造を行った。NHの供給量は14t/hであった。NHの分解ではHの1/3モルのNが生成するので、PSA法によって分解ガスからHを分離した。その結果、純度99%のH製造量は21900Nm/hとなり、工程(B)で供給するHの約30%を副生することができた。なお、NH分解触媒はRu系を用いた。製造されたHの全量を工程(B)の原料ガス供給系に導入し、メタン化反応器でのメタン化反応に利用した。
【0071】
[実施例4]
図11に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。工程(B)及び工程(E)では、図5に示す設備(但し、反応器1と熱交換器2のセットが5基直列に配置された設備)に、図6に示す過熱蒸気を得る機構を組み込んだ設備を用いた。
・工程(A)
実施例2と同様である。
【0072】
・工程(B)〜(D)
高炉ガスから分離回収されたCO,CO(COとCOの混合ガス)と、純度99%のHをH/(CO+CO)のモル比が5となるように各ガスの流量を制御して原料ガスとした。Ni系触媒を充填した断熱型のメタン化反応器と熱交換器のセットを5基直列とした設備に原料ガスを導入し、反応器入口温度:265℃、反応器出口温度:470℃、SV(Space Velocity):2000h−1、反応器入口圧力0.3MPaの条件でCOとCOをCHに改質(変換)した。但し、最終段の反応器(5基目)だけは反応器入口温度:220℃、反応器出口温度:250℃とした。[CO+CO]転化率は約100%であった。なお、最終段反応器下流の熱交換器出口側のメタン化ガスの圧力は0.2MPaであった。
【0073】
前記改質後ガスを熱交換器で冷却し、水分除去装置でHOを除去し、さらに、未反応のHを吸着分離(除去)した後、高炉羽口から吹き込んだ。なお、吸着分離したHは、再度(CO+CO)改質用の水素として利用した。この実施例では、還元材比:439kg/t-p(コークス比:329kg/t-p、微粉炭比:110kg/t-p)、CO排出量:1358kg/t-pとなり、本発明を実施する前の高炉操業条件と比較してCO排出量を約11.7%削減できた。
【0074】
・工程(E)
水素製造用反応器としては、有機ハイドライドの脱水素反応により水素を製造する脱水素反応器を用いた。メタン化反応器下流の熱交換器で蒸気を発生させ、その蒸気をメチルシクロヘキサン(MCH)脱水素反応器(シェルアンドチューブ型反応器)のシェル側に供給し、脱水素反応の熱源とした。この蒸気は、圧力4MPa、温度400℃の過熱蒸気であり、流量は38t/hであった。但し、メタン化反応器に原料ガスを導入するためのコンプレッサー(工程B)、メタン化ガスを高炉内に吹き込むためのコンプレッサー(工程D)、並びに、熱交換器に供給する水の昇圧ポンプ(工程E)の動力を蒸気駆動としたため、MCH脱水素反応の熱源として利用可能な蒸気は26t/hであった。
【0075】
脱水素反応器のチューブ側にPt系脱水素触媒を充填し(SV:100h−1)、ここにMCHを0.6MPaに昇圧して20t/h供給した。反応温度は成行きで脱水素反応を行った。脱水素反応器出口圧力は0.5MPaであった。
脱水素反応器出口ガスにはHの他にトルエンと微量の未反応MCHが含まれるので、脱水素反応器の下流に蒸留塔を設置して、Hを分離した。蒸留塔の塔頂圧は0.4MPa、Hの目標純度は95%としたため、蒸留塔塔頂温度は57℃であり、コンデンサーは水冷で十分であった。
【0076】
水素の製造量は10600Nm/hであり、工程(B)で供給するHの16%を副生することができた。蒸留塔で分離されたHの全量を工程(B)の原料ガス供給系に導入し、メタン化反応器でのメタン化反応に利用した。蒸留塔の塔頂圧、すなわち、分離した水素の圧力は0.4MPaなので、メタン化反応器入口圧力(0.3MPa)よりも十分に高く、製造した水素は何ら昇圧する必要なく、メタン化反応器に導入できた。また、脱水素反応の圧力は原料であるMCHの圧力(0.6MPa)だけで維持することができ、その昇圧軸動力は8kWと低く、プロセス全体として大きな省エネルギーが達成できた。
【0077】
[実施例5]
図11に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。工程(B)及び工程(E)では、図5に示す設備(但し、反応器1と熱交換器2のセットが5基直列に配置された設備)に、図6に示す過熱蒸気を得る機構を組み込んだ設備を用いた。
・工程(A)
実施例2と同様である。
・工程(B)〜(D)
実施例4と同様である。
・工程(E)
MCHを1.1MPaに昇圧して脱水素反応器に供給した以外は実施例4と同様にしてMCH脱水素反応を行った。なお、脱水素反応器出口圧力は1MPaであった。水素の製造量は9200Nm/hと実施例4よりも1割以上減少したものの、MCHの昇圧軸動力は19kWと、実施例4(8kW)の2.5倍に過ぎなかった。
【0078】
[実施例6]
図11に示すような処理フローに従い、高炉ガスの一部を改質・循環させた。工程(B)及び工程(E)では、図5に示す設備(但し、反応器1と熱交換器2のセットが5基直列に配置された設備)に、図6に示す過熱蒸気を得る機構を組み込んだ設備を用いた。
・工程(A)
実施例2と同様である。
・工程(B)〜(D)
実施例4と同様である。
【0079】
・工程(E)
MCHを0.3MPaに昇圧して脱水素反応器に供給した以外は実施例4と同様にしてMCH脱水素反応を行った。なお、脱水素反応器出口圧力は0.2MPaであった。蒸留塔の塔頂圧を0.1MPaとしたため、蒸留塔塔頂温度は28℃となり、コンデンサー冷却は水冷では不十分であり、チラーの設置が必要であった。水素の製造量は12700Nm/hと実施例4よりも増加したものの、製造した水素の圧力が0.1MPaであるので、メタン化反応器に導入するためにはコンプレッサーが必要となり、昇圧軸動力は830kWと大きな動力が必要となった。なお、MCHの昇圧軸動力は3kWであったものの、昇圧動力は合計で833kWとなり、プロセス全体としてのエネルギー収支は実施例4に較べて低下した。
【符合の説明】
【0080】
1 反応器
2,2a,2b 熱交換器
3 触媒
4 ガス流路
5 熱媒体流路
6,6a 水素製造用反応器
7 熱交換器
8 水素製造原料流路
9 スチームドラム
10 水素製造用反応器
11 スチームタービン
12 水素分離装置
13 ポンプ
14 有機ハイドライド脱水素生成物流路
15 背圧弁
16 水素分離後の有機ハイドライド脱水素生成物流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)と、該工程(C)を経たガスを高炉内に吹き込む工程(D)を有することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
CO及び/又はCOを含む混合ガスからCO及び/又はCOを分離回収する工程(A)と、該工程(A)で分離回収されたCO及び/又はCOに水素を添加し、CO及び/又はCOをCHに変換する工程(B)と、該工程(B)を経たガスからHOを分離除去する工程(C)を有し、該工程(C)を経たガスを製鉄所内で燃料及び/又は還元剤として利用することを特徴とする製鉄所の操業方法。
【請求項3】
工程(C)では、さらに、工程(B)を経たガスから下記(i)及び/又は(ii)を分離除去又は分離回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
(i)工程(B)で改質されることなく残存したCO及び/又はCO
(ii)工程(B)で消費されることなく残存した水素
【請求項4】
混合ガスが高炉ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項5】
工程(B)で用いる水素の少なくとも一部がアンモニアを分解して得られたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項6】
さらに、工程(B)で発生する反応熱を利用して水素を製造する工程(E)を有し、該工程(E)で製造された水素の少なくとも一部を工程(B)で用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項7】
工程(E)では、単環芳香族化合物及び/又は多環芳香族化合物の水素化物の脱水素反応により水素を製造するとともに、その脱水素反応の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項8】
工程(E)では、工程(B)でのメタン化反応の反応圧力よりも高い反応圧力で脱水素反応を行うことで水素を製造することを特徴とする請求項7に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項9】
工程(E)における脱水素反応の反応圧力が、単環芳香族化合物及び/又は多環芳香族化合物の水素化物を反応器に供給する圧力で維持されることを特徴とする請求項8に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項10】
工程(E)で製造された水素を、さらに昇圧することなく工程(B)に供給することを特徴とする請求項8又は9に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項11】
工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱を熱源としてアンモニアを分解し、水素を製造することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項12】
アンモニアの分解反応を水素分離膜の存在下で行うことを特徴とする請求項11に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項13】
工程(E)では、炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、炭化水素の予熱用の熱源として工程(B)で発生する反応熱を利用することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項14】
工程(E)では、炭化水素の水蒸気改質により水素を製造するとともに、工程(B)で発生する反応熱で水蒸気を発生させ、この水蒸気を改質反応用の水蒸気として利用することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項15】
工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、該蒸気により発電を行い、その電力により水の電気分解を行うことで水素を製造することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。
【請求項16】
工程(E)では、工程(B)で発生する反応熱で蒸気を発生させ、該蒸気により発電を行い、その電力を用いたPSA法により水素含有ガスから水素を分離することで水素を製造することを特徴とする請求項6に記載の高炉又は製鉄所の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−225969(P2011−225969A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35508(P2011−35508)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】