説明

高発泡層を備えた透湿防水性布帛及びその製造方法

【課題】 透湿防水層面に十分な立体感及び意匠性を持つ透湿防水性布帛を提供する。
【解決手段】 この透湿防水性布帛は、布帛,接着剤層,高発泡層及び透湿防水層の順に積層貼合されてなる。高発泡層は、熱膨張したマイクロカプセルと、このマイクロカプセルを透湿防水層内面に保持するための合成樹脂と、マイクロカプセルの表面又は合成樹脂中に存在する親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とで形成されている。このような高発泡層を備えた透湿防水性布帛は、以下の方法で得ることができる。まず、離型材の表面に透湿防水層を形成する。この透湿防水層上に、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を、塗布した後、乾燥して合成樹脂層を形成する。その後、接着剤層を介して、合成樹脂層上に布帛を積層貼合した後、加熱下で熱膨張性マイクロカプセルを膨張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高発泡層を備えた透湿防水性布帛及びその製造方法に関し、特に、カジュアル衣料、スポーツ衣料、登山衣料等の各種衣料用布帛として用いるのに適した高発泡層を備えた透湿防水性布帛及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、湿式凝固法等で得られた透湿防水層と布帛を接着剤層を介して貼合してなる透湿防水性布帛が知られている。たとえば、特許文献1には、離型材上に、ポリウレタン樹脂溶液を塗布し、これを湿式凝固して透湿防水層を形成し、この透湿防水層上にポリウレタン系接着剤溶液を塗布し、これに布帛をラミネートすることによって、透湿防水性布帛を得る方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、このような透湿防水性布帛は、透湿防水層と布帛が接着剤層によって貼合されているだけなので、立体感や意匠性に劣るということがあった。この透湿防水性布帛に、立体感や意匠性を付与するには、透湿防水層表面に合成樹脂よりなるドット柄や格子柄等の各種柄を形成する方法、又は透湿防水層と布帛との間に合成樹脂よりなる各種柄を形成する方法が考えられる。しかし、前者の方法では、各種柄が表面に露出しているので、着用中や洗濯中における摩擦によって、脱落したり損傷するということがあった。また、後者の方法では、内部に各種柄が存在するので、十分な立体感や意匠性を表現しにくいということがあった。
【0004】
このため、後者の方法において、それが内部にあっても、十分な立体感や意匠性を表現しうるように、合成樹脂よりなる各種柄の厚みを厚くすることが考えられる。しかしながら、各種柄の厚みを厚くすると、透湿防水性布帛の重量が重くなり、カジュアル衣料、スポーツ衣料、登山衣料等として好ましくない。また、合成樹脂として発泡樹脂を用いれば、重量増加は抑制しうるが、布帛と透湿防水層とを積層貼合する際に、発泡樹脂が押しつぶされて厚みが薄くなり、好ましくない。さらに、布帛と透湿防水層とを積層貼合した後に、発泡樹脂を発泡させることも考えられるが、接着剤にて固定された状態となっているので、十分な発泡が実現できない。
【0005】
ところで、本件出願人は、先願として、熱膨張性マイクロカプセルが合成樹脂によって固定され、拘束されている状態であっても、熱膨張性マイクロカプセルと親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを併用すれば、加熱下における当該熱膨張性マイクロカプセルの膨張が阻害されにくいという技術的思想に基づく発明を提案している(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−227143公報(特許請求の範囲の項)
【特許文献2】特願2006−9220(特許請求の範囲の項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この特許文献2に係る発明を利用すれば、透湿防水層と布帛との間に立体感及び意匠性のある柄や層を形成しうるのではないかと考えた。すなわち、特許文献2に記載されている、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を、透湿防水層面に塗布し、最終的に布帛を積層貼合した後に、当該熱膨張性マイクロカプセルを膨張させれば、十分な立体感及び意匠性のある透湿防水性布帛が得られるのではないかと考えた。そして、この考えの下、本件発明者等が実験を行ったところ、熱膨張性マイクロカプセルを透湿防水層側の内面に配置することによって、立体感に優れた透湿防水性布帛が得られ、本発明に至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、特許文献2に係る発明を利用したものであって、布帛,接着剤層,高発泡層及び透湿防水層の順に積層貼合されてなり、該高発泡層は、熱膨張したマイクロカプセルと、該マイクロカプセルを該透湿防水層内面に保持するための合成樹脂と、該マイクロカプセルの表面又は該合成樹脂中に存在する親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とで形成されていることを特徴とする高発泡層を備えた透湿防水性布帛及びその製造方法に関するものである。
【0009】
本発明において、布帛としては、一般的に、織物、編物、不織布、合成皮革等の衣料用素材として用いられるものを好適に使用しうる。しかしながら、本発明においては、衣料用素材としての布帛に限らず、その他の用途に使用しうる布帛を用いてもよい。
【0010】
布帛を構成する繊維としても、任意のものが用いられる。たとえば、ナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、トリアセテート等の半合成繊維、木綿等の天然繊維を単独で又は混合して用いられる。
【0011】
布帛の片面又は両面には、撥水処理が施されていてもよい。撥水処理に用いる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤又はフッ素系撥水剤等の公知のものを使用しうる。また、撥水処理も、パディング法やスプレー法等の公知の方法で行えばよい。特に、良好な撥水性を必要とする場合には、フッ素系撥水剤、たとえば、AG7000(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)5質量%の水分散液でパディング(絞り率35%)した後、150〜170℃で30秒〜2分間の熱処理を行う方法を採用するのがよい。
【0012】
布帛の片面又は両面には、接着剤層を介して、高発泡層が貼合されている。高発泡層は、基本的に、合成樹脂と、熱膨張したマイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とで形成されている。合成樹脂としては、透湿防水層に接着貼合されるものであれば、どのようなものでも使用することができる。たとえば、ポリエステルやポリエチレン等のホットメルト樹脂として使用される合成樹脂、ポリウレタンやポリ酢酸ビニル等の接着剤として使用される合成樹脂を用いることができる。本発明においては、特に、架橋した合成樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基等の反応基を持ついわゆる架橋性を有したポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル、ポリアミド、ポリエチレン−酢酸ビニル等が、自己架橋するか或いはイソシアネート系、エポキシ系、メラミン系等の架橋剤と架橋した合成樹脂を用いることができる。本発明に係る透湿防水性布帛を、衣料用素材として使用する場合には、高発泡層がソフトな風合いを有しているのが好ましい。また、透湿防水性の合成樹脂を用いるのが好ましい。このような観点からは、主剤として、芳香族ジイソシアネートや脂肪族ジイソシアネート等からなるイソシアネート成分とポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコール等からなるポリオール成分の反応から得られる末端に水酸基を有する水溶性ポリウレタン樹脂を、ヘキサメチレンジイソシアネート系の架橋剤で架橋した透湿防水性合成樹脂がよい。
【0013】
熱膨張したマイクロカプセルは、熱膨張性マイクロカプセルが加熱下で膨張したものである。熱膨張性マイクロカプセルとしては、従来公知のものであれば、どのようなものでも用いることができる。具体的には、その粒子径が5〜50μm程度のものであり、外殻が塩化ビニリデンやアクリロニトリル等の重合物からなる熱可塑性樹脂で形成され、この外殻内にイソブタン,イソペンタン,n−ペンタン等の低沸点炭化水素が内包されてなる熱膨張性マイクロカプセルを用いることができる。このような熱膨張性マイクロカプセルは、80〜200℃程度の加熱下で、約20〜70倍体積膨張するものである。したがって、完全に自由な状態で熱膨張したマイクロカプセルは、その粒子径が13μm〜2.1mm程度のものとなる。
【0014】
親水性かつ微多孔性シリカ微粉末としても、従来公知のものであれば、どのようなものでも用いることができる。たとえば、湿式法(ゲル法、沈降法)又は乾式法で製造されるもので、表面に親水基であるOH基を持ち、多数の細孔を持つ親水性かつ微多孔性シリカ微粉末を使用することができる。シリカ微粉末の粒子径は、0.01〜200μm程度のものが用いられ、特に1〜100μm程度のものが用いられる。本発明において、シリカ微粉末の粒子径は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径と同等か又はそれよりも大きいものを使用すると、発泡性がより向上する。この理由は、定かではないが、シリカ微粉末間の間隙が、熱膨張性マイクロカプセルの膨張を許容する間隙になるのではないかと推測しうる。
【0015】
高発泡層中における各物質の含有割合は、以下の割合であるのが好ましい。すなわち、熱膨張したマイクロカプセルは、合成樹脂100質量部に対して、3〜50質量部であるのが好ましく、特に5〜30質量部であるのがより好ましい。熱膨張したマイクロカプセルが3質量部未満になると、高発泡層の立体感が乏しくなる傾向が生じる。また、マイクロカプセルが50質量部を超えても、立体感はさほど変化しない。親水性かつ微多孔性シリカ微粉末は、合成樹脂100質量部に対して、3〜50質量部であるのが好ましく、特に5〜40質量部であるのがより好ましい。シリカ微粉末が3質量部未満になると、熱膨張性マイクロカプセルの発泡性を向上させにくくなる傾向が生じる。また、シリカ微粉末が50質量部を超えると、高発泡層が硬くなる傾向が生じる。さらに、熱膨張したマイクロカプセルとシリカ微粉末との使用割合は、マイクロカプセル:シリカ微粉末=1:3〜3:1(質量部)であるのが好ましい。この範囲を超えてシリカ微粉末又はマイクロカプセルの使用割合が多いと、熱膨張性マイクロカプセルの発泡性を向上させにくくなる傾向が生じる。
【0016】
高発泡層は、透湿防水層内面全面に積層貼合されていてもよいし、パターン状で一定の模様として積層貼合されていてもよい。衣料用素材として用いる場合、パターン状で積層貼合されている方が、ファッション性や意匠性の観点から好ましい。パターン状の形態としては、任意であって差し支えないが、ドット状,格子状、線状、斜線型、ピラミッド型、亀甲柄、ある特定の商標柄等の均一性のある柄あるいはランダム状の柄等の意匠性を発揮しやすい見栄え感のある柄であるのが好ましい。また、透湿防水層内面に対するパターン状の模様の占有面積は5〜90%の範囲であるのが好ましく、特に10〜80%の範囲であるのがより好ましい。占有面積が5%未満になると、立体感に乏しくて優れた意匠性を得にくくなる傾向が生じる。また、占有面積が90%を超えると、風合いが硬くなる傾向が生じる。
【0017】
高発泡層を布帛面に接着させるための接着剤としては、従来公知のものであれば、どのようなものでも使用しうる。具体的には、天然ゴム、ニトリルゴム系、クロロプレンゴム系等の合成ゴム、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン- 酢酸ビニル共重合樹脂、ポリウレタン系樹脂等を、単独で又は混合して用いることができる。特に、接着耐久性並びに透湿防水層側(即ち外層側)への十分な立体感を表現しうるという意匠性の観点から、硬化型の接着剤を用いるのが好ましい。たとえば、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基等の反応基を持ついわゆる架橋性を有したポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン- 酢酸ビニル等が、自己架橋するか或いはイソシアネート系、エポキシ系等の架橋剤と架橋して、接着剤が硬化型となるものが好ましい。この中でも、ポリウレタン系樹脂接着剤が柔軟性に富み、かつ透湿性にも優れているので、特に好ましい。
【0018】
接着剤よりなる層(接着剤層)は、布帛の全面に設けられていてもよいし、又は点状に部分的に設けられていてもよい。接着剤層の厚さは、5〜100μm 程度でよく、10〜80μm が好ましく、20〜50μm がより好ましい。5μm 未満では接着力に乏しく、100μm を超える厚みにしても、接着力の向上度合いが少なく、かつ得られる透湿防水性布帛の透湿性能低下並びに風合い硬化の問題点を生じやすい。接着剤層が点状に設けられている場合、各点の径は1mm程度以下であるのが好ましく、全点の占有面積は30%以上であるのが好ましい。このような点状接着剤層は、最終的に、良好な意匠性を透湿防水布帛に与えうる。
【0019】
高発泡層の表面側(接着剤層側の反対面側)には、透湿防水層が貼合されている。透湿防水層としては、従来公知の透湿性及び防水性のある樹脂膜を使用することができる。具体的には、ポリウレタン系樹脂、ポリアミノ酸ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等からなる、微多孔性樹脂膜又は無孔性樹脂膜を用いることができる。透湿防水層は、これらの樹脂膜を一層で用いるのが一般的であるが、樹脂膜を二層以上積層して透湿防水層としてもよい。たとえば、微多孔膜同士、無孔膜同士、又は微多孔膜と無孔膜とを組み合わせて透湿防水層としてもよい。
【0020】
透湿防水層の厚みは、樹脂膜として微多孔膜を使用したときは、10〜100μmが好ましく、15〜70μmがより好ましい。厚みが10μm未満では防水性が不十分となりやすく、また、100μmを超えると風合いが硬く、透湿性が不十分となりやすい。また、樹脂膜として無孔膜を使用したときは、5〜30μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。厚みが5μm未満では、防水性が不十分となりやすく、また、30μmを超えると透湿性が不十分となりやすい。
【0021】
本発明においては、透湿防水層として、無孔性樹脂膜を用いるのが好ましい。無孔性樹脂膜を使用した場合、透湿防水層を薄くすることができ、高発泡層の発泡を阻害することが少なく、また、外部からの高発泡層の視認性も良好となる。特に、高発泡層に顔料やフィラー等を含有させて化粧効果を付与したときは、この化粧効果が無孔膜を通して、良好に視認しうる。
【0022】
透湿防水層は最外層となり、直接、身体の一部やインナーと接触し、摩擦が生じるので、着用性や磨耗耐久性の観点から、滑性を有し、かつソフトタッチやドライタッチ等のタッチ感に優れていることが好ましい。滑性やタッチ感を向上させるには、たとえば、樹脂膜中又は樹脂膜表面に、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系化合物、セリシン等のシルクパウダー、Ne−ラウロイル−L−リジン等のアミノ酸系微粉体、ウールパウダー、セルロース系パウダー、耐熱性有機フィラー微粉体等を含有させるか又は付着させればよい。
【0023】
本発明に係る高発泡層を備えた透湿防水性布帛は、離型材の表面に透湿防水層を形成した後、該透湿防水層上に、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を、塗布した後、乾燥して合成樹脂層を形成し、その後、接着剤層を介して、該合成樹脂層上に布帛を積層貼合した後、加熱下で該熱膨張性マイクロカプセルを膨張させる方法によって、好適に得ることができる。この方法を具体的に説明すれば、以下のとおりである。まず、離型紙、離型フィルム又は離型布等の離型材を準備する。そして、この離型材の表面に透湿防水層を形成する。透湿防水層を形成するには、透湿防水層を形成する前記した樹脂を用い、従来公知の方法を採用すればよい。たとえば、透湿防水層形成用樹脂液をコンマコーターやナイフコーター等を用いて塗布し、乾燥して無孔性樹脂膜を形成する乾式コーティング法を採用することができる。また、透湿防水層形成用樹脂液を同様に塗布した後、水等の凝固液で樹脂を凝固させ、その後、湯洗及び乾燥により微多孔性樹脂膜を形成する湿式コーティング法を採用することができる。さらに、透湿防水層を形成する前記した樹脂を溶融させ、Tダイから押し出して無孔性樹脂膜を形成する溶融押し出し法を採用することができる。
【0024】
透湿防水層を形成した後、この層上に、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を塗布する。合成樹脂溶液中における合成樹脂の種類や量、熱膨張性マイクロカプセルの種類や添加量、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末の添加量は、前記したとおりである。この合成樹脂溶液を、透湿防水層表面に塗布する。この塗布は、透湿防水層表面全面に塗布してもよいし、パターン状に塗布してもよい。塗布方法としては、コンマコーティング法、ロールオンナイフコーティング法、グラビアコーティング法又はスクリーン印刷法等を採用すればよい。塗布後、合成樹脂溶液を乾燥して、合成樹脂を固化させる。合成樹脂が架橋性合成樹脂の場合、この段階で架橋させておいてもよいし、未架橋の状態であってもよい。以上のようにして、合成樹脂を固化させて合成樹脂層を形成する。
【0025】
合成樹脂層を形成した後、合成樹脂層と布帛とを接着剤層を介して、貼合する。接着剤としては、前記したものを使用することができる。接着剤層を形成するには、以下のような方法がある。たとえば、エマルジョン型又は溶剤型の接着剤液を、合成樹脂層面又は布帛面の全面又は部分的に点状に、コンマコーターやグラビアコーター等を用いて、塗布し乾燥すればよい。また、ホットメルト型の接着剤の場合は、これを溶融して、Tダイやグラビアコーター等を用いて、合成樹脂層面又は布帛面の全面或いは部分的に点状に塗布し、冷却して固化すればよい。なお、合成樹脂層がパターン状に形成されている場合には、合成樹脂層面に接着剤層を形成させると、この接着剤層は、合成樹脂層のパターン外の箇所では、透湿防水層面に形成されることとなる。
【0026】
以上のようにして、透湿防水層、合成樹脂層、接着剤層、布帛の順で積層貼合された積層物を得た後、この積層物を加熱すると、合成樹脂層中の熱膨張性マイクロカプセルが膨張し、合成樹脂層は高発泡層となる。本発明は、合成樹脂層中に熱膨張性カプセルと親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とが併存しているので、熱膨張性カプセルの熱膨張が阻害されることなく、十分に膨張し、これによって高発泡層が得られる。以上のようにして、本発明に係る高発泡層を備えた透湿防水性布帛が得られるのである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を用いて、合成樹脂層を形成するので、加熱下において熱膨張性マイクロカプセルが良好に膨張する。この原理は定かではないが、本発明者は、以下のように推測している。すなわち、合成樹脂溶液中に熱膨張性マイクロカプセルだけを混合すると、合成樹脂溶液を透湿防水層表面に塗布した後、熱膨張性マイクロカプセルが部分的に密な状態で偏在しやすいのではないかと推測している。これに対して、合成樹脂溶液中に親水性かつ微多孔性シリカ微粉末を共存させたときは、熱膨張性マイクロカプセルは偏在しにくくなり、合成樹脂層中に比較的均一に分散するため、粗な状態で存在するのではないかと推測している。これによって、熱膨張性マイクロカプセルは比較的フリーになったような状態で存在しており、スムーズに膨張するのではないかと推測している。
【0028】
したがって、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を用いて得られた合成樹脂層は、高発泡で立体感に富む。したがって、高発泡層が、布帛と透湿防水層の間に存在していても、その立体感が透湿防水層を通して外部に表現されるので、立体感に富むと共に、ファッション性や意匠性に優れた透湿防水性布帛が得られるという効果を奏するのである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。本発明は、合成樹脂層中において、熱膨張性マイクロカプセルと親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを併存させると、加熱下における当該熱膨張性マイクロカプセルの膨張が阻害されにくく、それが透湿防水層の内側に存在していると、良好な立体感が得られるという技術的思想に基づくものとして理解されるべきである。
【0030】
実施例1
[離型材の準備]
経糸、緯糸の双方に78デシテックス/48フィラメントのナイロンマルチフィラメントを用いて、経糸密度115本/2.54cm、緯糸密度100本/2.54cmのタフタを製織した。このタフタに、通常の方法により精練を行った後、ソフトシリコーン150(第一工業製薬株式会社製、シリコーン系エマルジョン)2質量%及びAG950(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)7質量%の混合エマルジョン液でパディング(絞り率35%)し、乾燥後、170℃で1分間の熱処理を行った。続いて、鏡面ロールを持つカレンダー加工機を用いて、温度180℃、圧力300kPa、速度20m/分の条件で目潰し加工を行い、離型布を得た。
【0031】
[透湿防水層形成用溶液の準備]
下記処方1に示す組成の透湿防水層形成用溶液を準備した。なお、この溶液の固形分濃度は25質量%であり、溶液の粘度は、25℃下において、15000mPa・sであった。
<処方1>
レザミンCU4821 100質量部
(大日精化工業株式会社製、 エステル系のポリウレタン樹脂)
炭酸カルシウム(#400) 7質量部
(日東粉化工株式会社製)
レザミンX架橋剤 1質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
ダイラックカラーL−1500 5質量部
(大日本インキ化学工業株式会社製、白色着色剤)
N,N−ジメチルホルムアミド 30質量部
【0032】
[合成樹脂溶液の準備]
下記処方2に示す組成の合成樹脂溶液を準備した。なお、この合成樹脂溶液の固形分濃度は22質量%であり、合成樹脂溶液の粘度は、25℃下において、1500mPa・sであった。
<処方2>
ハイムレンY128NS 100質量部
(大日精化工業株式会社製、透湿性のある溶剤型ポリウレタン樹脂)
レザミンX 1質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
マイクロスフェアーH755D 3質量部
(大日精化工業株式会社製、平均粒子径が約20μmで、発泡温度が140〜170℃ の熱膨張性マイクロカプセル)
シリカパウダーRA(B70) 3質量部
(富士シリシア化学株式会社製、平均粒径が約70μmのシリカ微粉末)
セイカセブン X−2194レッド 3質量部
(大日精化工業株式会社製、赤色着色剤)
メチルエチルケトン 20質量部
トルエン 20質量部
【0033】
[接着剤液の準備]
下記処方3に示す組成の接着剤液を準備した。なお、この接着剤液の固形分濃度は36質量%であり、合成樹脂溶液の粘度は、25℃下において、2500mPa・sであった。
<処方3>
ハイムレン B−11 2NS 100質量部
(大日精化工業株式会社製、透湿性のあるポリウレタン樹脂系接着剤)
レザミン NE架橋剤 8質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
レザミン HI−299 2質量部
(大日精化工業株式会社製、架橋促進剤)
メチルエチルケトン 20質量部
トルエン 20質量部
【0034】
[布帛の準備]
経糸に78デシテックス/68フィラメントのナイロンマルチフィラメント、緯糸に78デシテックス/68フィラメントのナイロンマルチフィラメントの双糸を用いて、経糸密度180本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmの2/2ツイルを製織した。このツイルに、通常の方法により精練及び染色(日本化薬株式会社製、Kayanol Blue NR 1%o.m.f.)を行った後、エマルジョンタイプのフッ素系撥水剤としてアサヒガードAG−7000(旭硝子株式会社製)が6%分散されている水分散液でパディング(絞り率45%)し、乾燥後、170℃で40秒間の熱処理を行い、布帛を得た。
【0035】
[離型材上への透湿防水層の形成]
離型材の目潰し面に、<処方1>の透湿防水層形成用溶液を、コンマコーターにて、塗布量120g/m2(乾燥樹脂塗布量30g/m2)にて塗布し、直ちに25℃の水中に1分間浸漬して、湿式凝固を行った。次いで、50℃で5分間湯洗後、130℃で2分間の乾燥により、平均50μm厚の微多孔性樹脂膜を形成し、透湿防水層を得た。
【0036】
[透湿防水層上への合成樹脂層の形成]
次に、透湿防水層上に、<処方2>の合成樹脂溶液を、格子線状に彫刻したグラビアロール(5線/25.4mm、線幅:1mm、深度:0.15mm、格子線占有率:約20%)を用いて塗布し、120℃で1分間乾燥することによって、熱膨張性マイクロカプセルを約10質量%含有する、格子状の合成樹脂層を形成した。
【0037】
[合成樹脂層上への接着剤層の形成]
格子状の合成樹脂層を形成した後、この合成樹脂層上に<処方3>の接着剤液を、コンマコーターを用いて塗布量38g/m2にて塗布した。接着剤液は、格子状の合成樹脂層上に塗布されると共に、格子の不存在の箇所では透湿防水層上に塗布された。そして、130℃で1分間の乾燥を行い、平均13μm厚の接着剤層を形成した。
【0038】
[布帛の貼合]
接着剤層を形成した後、直ちに、布帛を接着剤層上に積層し、圧力200kPaにてラミネート加工を行い、離型材、透湿防水層、合成樹脂層、接着剤層、布帛の順で積層貼合された積層物を得た。
【0039】
[高発泡層の形成]
積層物を40℃で3日間エージングした後、離型材を剥離し、続いて、ヒートセッター機にて170℃×1分の条件で、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡を兼ねながら、セット加工を行った。このセット加工によって、合成樹脂層は高発泡層となり、高発泡層を備えた透湿防水性布帛を得た。
【0040】
実施例2
[透湿防水層形成用溶液の準備]
下記処方4に示す組成の透湿防水層形成用溶液を準備した。なお、この溶液の固形分濃度は22質量%であり、溶液の粘度は、25℃下において、3000mPa・sであった。
<処方4>
ハイムレン T−21−1 100質量部
(大日精化工業株式会社製、透湿性のあるポリウレタン樹脂)
セイカセブン DUT4093 ホワイト 10質量部
(大日精化工業株式会社製、白顔料)
メチルエチルケトン 15質量部
N,N−ジメチルホルムアミド 15質量部
【0041】
[離型材上への透湿防水層の形成]
離型材として、リンテック社製の離型紙(EV130TPD)を用い、その離型面上に、<処方4>の透湿防水層形成用溶液を、コンマコーターにて、塗布量45g/m2にて塗布し、その後、100℃で2分間乾燥して、10μm厚の無孔性樹脂膜を形成し、透湿防水層を得た。
この後、実施例1と同様の方法により、[透湿防水層上への合成樹脂層の形成]、[合成樹脂層上への接着剤層の形成]、[布帛の貼合]及び[高発泡層の形成]を行い、高発泡層を備えた透湿防水性布帛を得た。
【0042】
実施例3
[滑性付与剤の準備]
下記処方5に示す組成の滑性付与剤を準備した。なお、この滑性付与剤の固形分濃度は19質量%であり、その粘度は、25℃下において、3500mPa・sであった。
<処方5>
ハイムレン C−61 100質量部
(大日精化工業株式会社製、透湿性のあるポリウレタン樹脂)
NPファイバー W10−MG2 12質量部
(日本製紙ケミカル株式会社:セルロース系滑性向上剤)
メチルエチルケトン 30質量部
【0043】
実施例2において、[高発泡層の形成]の際、離型材を剥離した後、上記<処方5>に示す滑性付与剤を、ナイフコーターを用いて塗布量20g/m2にて塗布し、100℃で1分間の乾燥により、平均4μm厚のドライタッチな薄膜を形成する工程を付加する他は、実施例2と同一の方法で高発泡層を備えた透湿防水性布帛を得た。
【0044】
比較例1
実施例1において、[透湿防水層上への合成樹脂層の形成]を省略し、透湿防水層上に接着剤層を形成した他は、実施例1と同一の方法で透湿放水性布帛を得た。
【0045】
比較例2
実施例2において、[透湿防水層上への合成樹脂層の形成]を省略し、透湿防水層上に接着剤層を形成した他は、実施例2と同一の方法で透湿放水性布帛を得た。
【0046】
比較例3
実施例1において、<処方2>の合成樹脂溶液として、マイクロスフェアーH755Dを配合しない合成樹脂溶液を用いた他は、実施例1と同一の方法で透湿防水性布帛を得た。
【0047】
比較例4
実施例2において、<処方2>の合成樹脂溶液として、マイクロスフェアーH755Dを配合しない合成樹脂溶液を用いた他は、実施例2と同一の方法で透湿防水性布帛を得た。
【0048】
比較例5
[布帛上への合成樹脂層の形成]
布帛上に、<処方2>の合成樹脂溶液を、格子線状に彫刻したグラビアロール(5線/25.4mm、線幅:1mm、深度:0.15mm、格子線占有率:約20%)を用いて塗布し、120℃で1分間乾燥することによって、熱膨張性マイクロカプセルを約10質量%含有する、格子状の合成樹脂層を形成した。
【0049】
[透湿防水層上への接着剤層の形成]
実施例1で用いた離型材の目潰し面に、前記<処方4>の透湿防水層形成用溶液を、コンマコーターにて、塗布量45g/m2にて塗布し、その後、100℃で2分間乾燥して、10μm厚の無孔性樹脂膜を形成し、透湿防水層を得た。この透湿防水層上へ前記<処方3>の接着剤液を、コンマコーターを用いて塗布量38g/m2にて塗布した。接着剤液は、透湿防水層の全面に塗布された。そして、130℃で1分間の乾燥を行い、平均13μm厚の接着剤層を形成した。
【0050】
前記した[布帛上への合成樹脂層の形成]で得られた布帛の合成樹脂層を、前記した[透湿防水層上への接着剤層の形成]で得られた接着剤層に当接して積層し、圧力200kPaでラミネート加工して、離型材、透湿防水層、接着剤層、合成樹脂層、布帛の順で積層貼合された積層物を得た。そして、積層物を40℃で3日間エージングした後、離型材を剥離し、前記<処方5>に示す滑性付与剤を、ナイフコーターを用いて塗布量20g/m2にて透湿防水層へ塗布し、100℃で1分間の乾燥により、平均4μm厚のドライタッチな薄膜を形成した。その後、ヒートセッター機にて170℃×1分の条件で、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡を兼ねながら、セット加工を行い、透湿防水性布帛を得た。
【0051】
実施例1〜3及び比較例1〜5で得られた各布帛について、以下の項目を評価した。その結果を表1に示した。
(1)耐水圧(kPa);JIS L−1092、高水圧法
(2)透湿度(g/m2・24hrs);JIS L−1099、A−1法
JIS L−1099、B−1法
(3)意匠性;目視にて、立体感および見栄え感(視認性、鮮明性)を下記のごとく、5段階の評価にて行った。
5級…立体感および見栄え感が特に良好。
4級…立体感および見栄え感がほぼ良好。
3級…立体感および見栄え感がやや劣っている。
2級…立体感あるいは見栄え感の何れかが劣っている。
1級…意匠性を有していない通常膜レベルである。
(5)耐摩耗性;JIS L−1084、A−1法準拠
摩擦子に綿布(かなきん3号布)、弧面上に試料を取り付けて、100回の摩擦を繰り返した後、外観変化の度合いを下記のごとく、5段階の評価にて行った。
5級…全く変化なし
4級…わずか変化あり
3級…透湿防水層がやや損傷し、立体感や視認性がやや低下
2級…透湿防水層の損傷と共に立体感や視認性が明らかに低下
1級…透湿防水層の損傷と共に立体感や視認性がかなり低下
【0052】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実 施 例 比 較 例
━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━
1 2 3 1 2 3 4 5
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
耐水圧 231 252 263 230 250 227 246 258
A−1透湿度 5802 4223 4113 6890 4290 5905 4287 4123
B−1透湿度 6821 17920 16867 7021 18026 6905 18127 16976
意匠性 4 5 5 1 1 1 1 2
耐磨耗性 4 3 5 4 3 4 3 5
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0053】
比較例1〜4に係る透湿防水性布帛は、高発泡層を備えていないため、高発泡層を備えている実施例1〜3に係る透湿防水性布帛に比べて、その意匠性が極端に低下している。比較例5に係る透湿防水性布帛は、布帛,と発泡層,接着剤層及び透湿防水層の順に積層されているため、高発泡層における膨張したマイクロカプセルが接着剤層を介して透湿防水層に現れるので、高発泡層が直接、透湿防水層と接触している実施例1〜3に係る透湿防水性布帛と比べて、その意匠性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛,接着剤層,高発泡層及び透湿防水層の順に積層貼合されてなり、該高発泡層は、熱膨張したマイクロカプセルと、該マイクロカプセルを該透湿防水層内面に保持するための合成樹脂と、該マイクロカプセルの表面又は該合成樹脂中に存在する親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とで形成されていることを特徴とする高発泡層を備えた透湿防水性布帛。
【請求項2】
高発泡層が、パターン状で設けられている請求項1記載の高発泡層を備えた透湿防水性布帛。
【請求項3】
接着剤層は、布帛と高発泡層とを貼合すると共に、高発泡層の存在しない箇所では、布帛と透湿防水層を貼合している請求項2記載の高発泡層を備えた透湿防水性布帛。
【請求項4】
透湿防水層が無孔膜である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高発泡層を備えた透湿防水性布帛。
【請求項5】
離型材の表面に透湿防水層を形成した後、該透湿防水層上に、熱膨張性マイクロカプセルと、親水性かつ微多孔性シリカ微粉末とを含有する合成樹脂溶液を、塗布した後、乾燥して合成樹脂層を形成し、その後、接着剤層を介して、該合成樹脂層上に布帛を積層貼合した後、加熱下で該熱膨張性マイクロカプセルを膨張させることを特徴とする高発泡層を備えた透湿防水性布帛の製造方法。
【請求項6】
合成樹脂溶液をパターン状に塗布して、パターン状の合成樹脂層を形成し、接着剤層を介して、布帛と該合成樹脂層を貼合すると共に該布帛と透湿防水層を貼合することによって、該合成樹脂層上に布帛を積層貼合する請求項5記載の透湿防水性布帛の製造方法。

【公開番号】特開2008−121141(P2008−121141A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306072(P2006−306072)
【出願日】平成18年11月11日(2006.11.11)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】