説明

高精細印刷用凸版及びそれを用いた電子デバイスの製造方法並びに有機EL素子

【課題】ガラス等の硬い基材に高精細印刷を凸版印刷法にて行うに際し、凸版の非画線部である凹部の深さを深くし、たとえ有機EL素子用インキの如く低粘度でかつ芳香族系溶媒もしくはハロゲン系溶剤に溶解しているインキを用いても、画線部の再現性に優れた印刷物を得ることができる高精細印刷用凸版及び電子デバイスの製造方法並び有機EL素子の提供にある。
【解決手段】高精細印刷物の画線部は一定のピッチ幅で整列されていて、このピッチ幅をaとすると、画線部である凸部がn×a(nは2以上の整数)のピッチ幅でなる高精細印刷用凸版とし、この高精細印刷用凸版を用いてn回に分けて高精細印刷物を得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子等電子デバイスの如く高精細印刷のための凸版に関するものであり、特に、有機EL素子用インキの如く低粘度のインキを用い、凸版印刷法で高精細印刷を行うに際し、再現性に優れる高精細印刷物を得るための凸版とそれを用いた電子デバイスの製造方法並びに有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細加工技術を用いた電子デバイス開発が急速な進化を遂げている。このような電子デバイスは次世代のエレクトロニクス分野、バイオテクノロジー分野、オプトロニクス分野などの発展へ貢献することが期待される。
【0003】
上記電子デバイスの一つである有機EL素子は、二つの対向する電極間に有機発光材料からなる有機発光層を形成し、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率良く発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0004】
有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
【0005】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分けパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0006】
さらに各種印刷法の中でも、有機EL素子やディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴム版を用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。実際にこれらの印刷法の試みとして、オフセット印刷による方法(例えば、特許文献1参照。)、凸版印刷による方法(例えば、特許文献1参照。)などが提唱されている。
【0007】
以下に、上記先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷の如き各印刷法には、最適な塗工液の粘度があることが知られており、塗工液には、増粘剤のような粘度調整剤を添加するのが一般的であ
る。
【0009】
一方、有機発光材料を印刷法により成膜する場合、有機発光材料は、水やアルコール、あるいは有機溶剤に分散もしくは溶解させることにより、塗工液化する。
【0010】
しかしながら、一般的な塗工液化可能な有機発光材料は、溶剤に対する溶解性が高い場合であっても、最大固形分比が5%程度であり、これを超えると固体が析出してしまい、塗工液の高粘度化は難しい。
【0011】
また、有機発光材料を成膜し素子として駆動させる場合、その耐久性は有機発光材料により形成される膜の純度が高い方が良いとされているため、有機発光材料により形成された膜中に残留する増粘剤などを添加することができず、この理由からも塗工液の高粘度化は難しい。
【0012】
その結果、有機発光材料の塗工液を凸版印刷法により印刷しようとした場合、その塗工液が低粘度であるために、非画線部である凸版の凹部にまで塗工液が流れ込んでしまい、その結果、被転写体である基板への塗工液の転写に際し、画線部である凸版の凸部表面の塗工液のみでなく、凹部に流れ込んだ塗工液も基板へ転写されてしまい、画線部の再現性に優れた印刷物を生産することが難しいという問題点があった。
【0013】
特に、高精細印刷を凸版印刷法により行う場合、凸版の画線部である凸部のピッチは狭くなり、同時に非画線部である凹部の深さは浅くなる。この凸版の画線部である凸部を感光性樹脂を用いて形成する場合でも、金属版をエッチング法などにより作製する場合でも、このような傾向が見られる。従って、高精細印刷を行う場合において、有機発光材料を含む塗工液といった低粘度の塗工液(インキ)を用いた場合、再現性よく印刷することは困難なものであった。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の問題点や困難な点を解決するものであり、その課題とするところは、ガラス等の硬い基材に高精細印刷を凸版印刷法にて行うに際し、該凸版印刷法に用いる凸版の非画線部である凹部の深さを深くし、たとえ有機EL素子用塗工液(インキ)の如く低粘度でかつ芳香族系溶媒もしくはハロゲン系溶剤に分散している塗工液(インキ)を用いても、画線部の再現性に優れた印刷物を得ることができる高精細印刷用凸版及びこの凸版を用いた電子デバイスの製造方法並びにこの製造方法で得られる有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に於いて上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、機能性材料を含むインキを凸版印刷法によって基板に転移して高精細印刷物を得るための凸版であって、前記高精細印刷物の画線部は一定のピッチ幅で整列されていて、該ピッチ幅をaとすると、画線部である凸部がn×a(nは2以上の整数)のピッチ幅でなることを特徴とする高精細印刷用凸版としたものである。
【0016】
また、請求項2の発明では、前記画線部である凸部の少なくとも表面が樹脂材料を一種以上含んでいることを特徴とする請求項1記載の高精細印刷用凸版としたものである。
【0017】
また、請求項3の発明では、前記樹脂材料が感光性樹脂を主成分として含有していることを特徴とする請求項2記載の高精細印刷用凸版としたものである。
【0018】
また、請求項4の発明では、前記樹脂材料が水溶性樹脂材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の高精細印刷用凸版としたものである。
【0019】
また、請求項5の発明では、上記請求項1乃至4のいずれか1項記載の高精細印刷用凸版で、回転する円筒状でなり、画線部である凸部が回転軸方向にn×aのピッチ幅を有する高精細印刷用凸版を用い、該高精細印刷用凸版に機能性材料を含むインキを供給し、該供給されたインキを円圧方式で硬質の基材に転移し、該高精細印刷用凸版を回転軸方向にaの幅で平行移動して前記転移をn回繰り返すことを特徴とする電子デバイスの製造方法としたものである。
【0020】
また、請求項6の発明では、前記機能性材料を含むインキが有機EL素子用インキであることを特徴とする請求項5記載の電子デバイスの製造方法としたものである。
【0021】
さらにまた、請求項7の発明では、上記請求項6記載の電子デバイスの製造方法で得られた有機EL素子としたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0023】
即ち、上記請求項1に係る発明によれば、機能性材料を含むインキを凸版印刷法によって硬質の基材に転移して高精細印刷物を得るための凸版であって、前記高精細印刷物の画線部は一定のピッチ幅で整列されていて、該ピッチ幅をaとすると、画線部である凸部がn×a(nは2以上の整数)のピッチ幅でなることとすることによって、非画線部である凹部の幅が大きくなり、よって深くすることができ、たとえ低粘度のインキが凹部に流れ込んでも、画線部が太ることがなく、再現性に優れた印刷物を得ることができる。従ってこの高精細印刷用凸版を用いてピッチ幅方向にa分だけ平行移動させn回印刷を繰り返すことにより目的のピッチ幅aのパターン(画線部)を有する再現性に優れる高精細印刷物を得ることができる。
【0024】
また、上記請求項2に係る発明によれば、画線部である凸部の少なくとも表面が樹脂材料を一種以上含んでいることによって、凸版の凸部に弾力性を付与するので、硬質の基材、例えばガラス基板などへ容易に印刷することができる。
【0025】
また、上記請求項3に係る発明によれば、樹脂材料が感光性樹脂を主成分として含有していることによって、高精細印刷用凸版の製版が露光、現像によってより容易なものとすることができる。
【0026】
また、上記請求項4に係る発明によれば、樹脂材料が水溶性樹脂材料を主成分としていることことによって、たとえ機能性材料を含むインキが有機溶剤、とりわけ芳香族系溶剤やハロゲン系溶剤で機能性材料を溶解しているものであっても、樹脂材料でなる凸版の画線部である凸部が膨潤したりすることがなく、再現性に優れる高精細印刷用凸版とすることができる。
【0027】
また、上記請求項5に係る発明によれば、上記請求項1乃至4のいずれか1項記載の高精細印刷用凸版で、回転する円筒状でなり、画線部である凸部が回転軸方向にn×aのピッチ幅を有する高精細印刷用凸版を用い、該高精細印刷用凸版に機能性材料を含むインキを供給し、該供給されたインキを円圧方式で硬質の基材に転移し、該高精細印刷用凸版を回転軸方向にaの幅で平行移動して前記転移をn回繰り返すことによって、たとえインキが低粘度で、かつ有機溶剤とりわけ芳香族系溶剤やハロゲン系溶剤でなるものを使用しても、再現性に優れる画線部の高精細印刷物とする電子デバイスの製造方法とすることができる。
【0028】
また、上記請求項6および7に係る発明によれば、機能性材料を含むインキが有機EL素子用インキである電子デバイスの製造方法で、得られる有機EL素子は、その再現性に優れた有機発光層を得ることができ、よってシャープ性に優れた画像のディスプレイを得ることを可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の高精細印刷用凸版の斜視図及び断面図であり、符号1は凸版を構成する支持体であり、2は凸版の画像部である凸部を示す。この支持体1は印刷に対する機械的強度を有すれば良く、公知の金属、樹脂、またはそれらの積層体を用いることができる。また、凸版の画像部である凸部2は少なくとも一種類以上の樹脂を用いれば良く、単層構造、積層構造のいずれを選択しても良い。ただし、塗工液と接する面に樹脂層があることが必要である。2に用いる樹脂材としては、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などから一種類以上を選択することができるが、有機発光材料などといった塗工液を塗布する場合、有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂や、ポリアミド、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミド、といった水溶性溶剤に可溶なものを用いることが望ましい。
【0031】
また、図2(A)は目的とする印刷物を示し、図2(B)は本発明における図2(A)の印刷物を作成するために用いる高精細印刷用凸版を示す。この符号3は被転写体、4は本発明の高精細印刷用凸版により形成された画線部を示す。3はガラスや樹脂フィルムといった光透過性の基材や、半導体基板などを用いることができる。本発明では、目的とする印刷物のパターン(画線部)のピッチ幅をaとした場合、対応する高精細印刷用凸版のパターン(凸部)のピッチがn×a(nは2以上の整数)で、整列していることを特徴としているが、図2(B)では、n=2の場合を示した。
【0032】
図2(B)に示す高精細印刷用凸版は、感光性樹脂を板状に成型したものを、露光、現像することによって形成する方法や、レーザーや金属の刀などで削ることで形成するといった、公知の方法を用いることができるが、その方法の容易さから、感光性樹脂による方法を用いることが望ましく、かつ耐溶剤性から水溶性の感光性樹脂とすることがより望ましい。
【0033】
次に本発明の高精細印刷用凸版及び電子デバイスの製造方法を用いて有機EL素子を作る場合の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。特に印刷物のパターン(画線部)及び高精細印刷用凸版のパターン(凸部)はストライプパターンを用いて説明しているが、これに限るものではなく、一定のピッチ幅で整列しているものであればよい。なお、n=2の場合のみ示しているが、これに限るものではなく、実質的にはn=2〜4程度で、4を越えると印刷回数または印刷ユニットが多くなり作業効率と見当精度が劣るようになるので好ましくない。
【0034】
また、図3には本発明の高精細印刷用凸版を用いた有機EL素子の製造装置の一例を示す。例えば図3のように、塗工液補充装置11から凸版へのインキング装置12へ有機発
光材料を含む有機EL素子用インキ13の補充を行い、インキング装置12に補充された有機発光材料を含む有機EL素子用インキ13のうち、余剰なものはドクター装置14により除去することができる。この塗工液補充装置には、滴下型の補充装置の他に、ファウンテンロールやスリットコータ、ダイコータ、ギャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクター装置14にはドクターロールの他にドクターブレードを用いることもできる。
【0035】
ドクター装置14により余剰なインキが除去された後、少なくとも表面が本発明の高精細印刷用凸版が装着されているシリンダー15へのインキングを行う。本発明の高精細印刷用凸版へのインキングは、少なくとも凸版の画線部である凸部に行われれば良い。本発明の高精細印刷用凸版へインキングされたインキは、被転写体3へ転移され印刷される。被転写体3へ印刷された有機発光材料を含むインキ13は乾燥することにより有機発光層を形成する。
【0036】
図3に示す1印刷ユニットでなる印刷装置により印刷を行ったのち、図1(B)に示す凸部2の位置が、図3の印刷装置に装着されている凸版に対してシリンダー15の回転軸方向に平行移動したパターン(凸部)を有する凸版を装着し、図3に示す1印刷ユニットでなる印刷装置を用いて印刷を行う。
【0037】
この結果、第1回目の印刷で、例えば図5(A)に示すように、被転写体3上にピッチ2aの画線部4でなる印刷物が得られ、第2回目の印刷で、例えば図5(B)に示すように、ピッチaの画線部4でなる目的の高精細印刷物を得ることができる。
【0038】
また異なる方法として、図3に示す1印刷ユニットでなる印刷装置により印刷を行なったのち、シリンダー15もしくは被転写体3を載置してある支持台16をシリンダー15の回転軸方向に平行移動することによっても図5(B)に示すようなピッチaの画線部4でなる目的とする高精細印刷物を得ることができる。なお、凸版の凸部の位置かまたは支持台16を平行移動するかのいずれの場合も被転写体3にアライメントマークを形成しておき、そのアライメントマークを印刷装置に装着したCCDカメラなどによって観察することによって位置合わせを行うことができる。
【0039】
さらにまた、その他の方法として、例えば、図4に示すように一台の印刷装置に凸版を2種類装着させ、2印刷ユニットで印刷することもできる。この場合、基準となる凸版に対して、シリンダー15の回転軸方向に平行移動されたパターン(凸部)を有する凸版の2種類を用いる。この結果においても、2印刷ユニットで印刷することによって、最初の印刷ユニットでは、図5(A)に示すように、被転写体3上にピッチ2aの画線部4でなる印刷物が得られ、次の印刷ユニットで、例えば図5(B)に示すように、ピッチaの画線部4でなる目的の高精細印刷物を得ることができる。
【0040】
また、図6に図3の有機EL素子の製造装置(印刷装置)により製造された有機EL素子の断面図を示した。
【0041】
この有機EL素子の一発光単位20は、基板21と導電層22とホール注入層23と有機発光層24と陰極層25とを具備するものである。
【0042】
上記透明導電層22をなす材料としては、インジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)が挙げられる。また、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものや、ポリアニリン等の有機化合物などが挙げられる。
【0043】
また、基板21としては、絶縁性を有する基板であればいかなるものを使用することも
でき、例えば、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻取りにより有機EL素子の製造が可能となり、安価に素子を提供できる。プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどを用いることができる。
【0044】
また、ホール注入層23をなす材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の導電性高分子材料を用いても良い。
【0045】
上記有機発光層24は有機発光体を含有する層であり、電圧の印加により発光する層である。有機発光材料としては、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィリン系、キナクリドン系、N,N'−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N'−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の有機溶剤に可溶な有機発光材料や該有機発光材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系などの高分子有機発光材料が挙げられる。
【0046】
さらにまた、陰極層25をなす材料としては、有機発光層24の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体や酸化物、これらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。
【0047】
上述した有機発光素子を、本発明の高精細印刷用凸版を用いて製造するには、基板20の上に透明導電層22、ホール注入層23を積層した被転写基板を用い、そのインキとしては有機発光材料を含むインキ13を用いる。
【0048】
有機発光材料を含む塗工液は上述のように凸版の凸部へ供給され、上述の被転写基板へ印刷される。発光材料を溶解または分散させるような、塗工液に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、水などの単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。特に芳香族系溶剤およびハロゲン系溶剤は有機発光材料を溶解するのに優れているので好ましい。
【0049】
また、有機発光材料を含む塗工液には、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、乾燥剤などが添加されても良い。
【0050】
有機発光材料を含むインキ13の印刷を行った後、上述の陰極層25を形成する。この陰極層25の形成には真空蒸着法の他にインクジェット法といった公知の手段を用いることができる。
【0051】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0052】
〔発光層形成用塗工液の調製〕
高分子蛍光体をキシレンに塗工液濃度が1.0重量%となるように溶解させ、発光層形成用塗工液を調製した。ここで高分子蛍光体とは、ポリ(パラフェニレンビニレン)誘導体からなる発光材料を示す。
〔被転写基板の作製〕
150mm角、厚さ0.4mmのガラス基板上に表面抵抗率15ΩのITOを成膜した基材(ジオマテック(株)製)に、スピンコーターを用いて正孔輸送層としてポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を100nm膜厚で成膜した。さらにこの成膜されたPEDOT/PSS薄膜を減圧下100℃で1時間乾燥して、被転写基板を作製した。なお、ITOのパターンはストライプパターンであり、ITOのライン幅は100μm、スペース部分は400μmである。
〔高精細印刷用凸版の作製〕
市販の水溶性の光硬化性樹脂材に対し、ライン幅100μm、スペース幅900μmのネガ版を用い、露光、現像の工程を経て印刷用凸版を作製した。
〔有機発光層の形成〕
上記の高精細印刷用凸版を自社製凸版印刷機に装着し、印刷を行なったのち、被転写体を設置してある台をシリンダーの回転軸方向に500μm平行移動し、二回目の印刷を行った。印刷した基板を150℃で5時間乾燥した後、陰極としてカルシウム1nm、アルミニウム80nm積層し、有機EL素子を得た。得られた有機EL素子に電圧をかけ発光状態の確認を行ったところ、良好な発光が得られた。
【0053】
以下に、本発明の比較例について説明する。
【実施例2】
【0054】
〔n=1の凸版を用いた場合〕
市販の水溶性の光硬化性樹脂材に対し、ライン幅100μm、スペース幅400μmのネガ版を用い、露光、現像の工程を経て印刷用凸版を作製した。上記高精細印刷用凸版を自社製凸版印刷機に装着し、印刷をおこなった。印刷した基板を150℃で5時間乾燥した後、陰極としてカルシウム1nm、アルミニウム80nm積層し、有機EL素子を得た。得られた有機EL素子に電圧をかけ発光状態の確認を行ったところ、レリーフに流入していた塗工液(インキ)も被転写体上に転写してしまっていたため、均一な発光が得られなかった。
【実施例3】
【0055】
〔溶剤可溶性の光硬化性樹脂を用いた場合〕
市販の溶剤可溶性の光硬化性樹脂材に対し、ライン幅100μm、スペース幅900μmのネガ版を用い、露光、現像の工程を経て印刷用凸版を作製した。上記の高精細印刷用凸版を自社製凸版印刷機に装着し、印刷を行ったのち、被転写体を設置してある台をシリンダーの回転軸方向に500μm平行移動し、二回目の印刷を行った。印刷した基板を150℃で5時間乾燥した後、陰極としてカルシウム1nm、アルミニウム80nm積層し、有機EL素子とした。電圧をかけ発光状態の確認を行ったところ、版の膨潤により均一なライン幅が得られなったため、均一な発光が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の高精細印刷用凸版の一事例を模式的に表したもので、(A)は、その斜視図であり、(B)は、その断面図である。
【図2】本発明の高精細印刷用凸版と高精細印刷物の一事例を模式的に表したもので、(A)は、高精細印刷物の平面図であり、(B)は、高精細印刷用凸版の平面図である。
【図3】本発明の高精細印刷用凸版を用いた印刷ユニットの一事例を側面で表した説明図である。
【図4】本発明の高精細印刷用凸版を用いた印刷ユニットの他の事例を側面で表した説明図である。
【図5】図3および4に示す印刷ユニットにより得られる高精細印刷物の一事例を示した平面図であり、(A)は、最初の印刷で得られる高精細印刷物の平面図であり、(B)は、目的の高精細印刷用凸版の平面図である。
【図6】本発明の高精細印刷用凸版を用いて製造した有機EL素子の一事例を説明する側断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1‥‥支持体
2‥‥凸版の凸部
3‥‥被転写体
4‥‥印刷物の画線部
5‥‥凸版の凹部
11‥‥インキ補充装置
12‥‥インキング装置
13‥‥インキ
14‥‥ドクター装置
15‥‥シリンダー
16‥‥支持台
20‥‥有機EL素子の一発光単位
21‥‥基板
22‥‥透明導電層
23‥‥ホール注入層
24‥‥有機発光層
25‥‥陰極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性材料を含むインキを凸版印刷法によって基板に転移して高精細印刷物を得るための凸版であって、前記高精細印刷物の画線部は一定のピッチ幅で整列されていて、該ピッチ幅をaとすると、画線部である凸部がn×a(nは2以上の整数)のピッチ幅でなることを特徴とする高精細印刷用凸版。
【請求項2】
前記画線部である凸部の少なくとも表面が樹脂材料を一種以上含んでいることを特徴とする請求項1記載の高精細印刷用凸版。
【請求項3】
前記樹脂材料が感光性樹脂を主成分として含有していることを特徴とする請求項2記載の高精細印刷用凸版。
【請求項4】
前記樹脂材料が水溶性樹脂材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の高精細印刷用凸版。
【請求項5】
上記請求項1乃至4のいずれか1項記載の高精細印刷用凸版で、回転する円筒状でなり、画線部である凸部が回転軸方向にn×aのピッチ幅を有する高精細印刷用凸版を用い、該高精細印刷用凸版に機能性材料を含むインキを供給し、該供給されたインキを円圧方式で硬質の基材に転移し、該高精細印刷用凸版を回転軸方向にaの幅で平行移動して前記転移をn回繰り返すことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記機能性材料を含むインキが有機EL素子用インキであることを特徴とする請求項5記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
上記請求項6記載の電子デバイスの製造方法で得られた有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−90597(P2007−90597A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281317(P2005−281317)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】