説明

高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法

本発明の一態様によれば、実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド、及び、化学純度が約95%以上かつキラル純度が約97以上である実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法が提供される。本発明の他の態様によれば、高純度な光学活性型D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを含む農薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にL−2−ハロプロピオン酸又は(s)−(−)−2−ハロプロピオン酸からの高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド(除草剤)の製造方法に関する。本発明はまた、高純度な光学活性型D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを含む農薬組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドはナプロパミドとして知られており、そのラセミ混合物は「デブリノール(Devrinol)」の商品名で一般販売されている。デブリノールは、一年草や広葉雑草の発生防止を目的として多くの農作物栽培地で使用されている。
【0003】
ナプロパミドのプロピオンアミドにおける2位の炭素には、水素原子、メチル基、ナフトキシ基、カルボキシアミド基が結合しているため、該炭素はキラル中心を形成している。したがって、下記化学式1で表される分子にはD(R)体及びL(S)体の二種類のキラル立体異性体が存在する。
【0004】
この化合物の合成方法として様々な合成方法が報告されているが、一般的には上記異性体の混合物(通常はラセミ混合物)として生成される。
【0005】
【化1】

【0006】
N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドのD体及びL体並びに/又はそのラセミ混合物は除草活性を有する。非特許文献1には、ナプロパミドのD体は、所定の雑草に対する除草活性がL体よりも8倍高く、ラセミ混合物よりも1.7〜2倍高いことが報告されている。よって、現行のラセミ型ナプロパミドの約半分の量で効果的な除草組成物が製造されうる。
【0007】
光学活性型2−アリールプロピオンアミド及びそのホモログの合成に関して様々な合成戦略が報告されており、例えば、(a)ラセミ体を光学分割するための光学活性型塩、(b)ジアステレオマー誘導体(エステル塩や無水塩)の光学分割、(c)エステルの不斉加水分解や芳香族炭化水素の酸化等の生化学的手法(非特許文献2)、(d)キラル中心を有する出発物質を用いた立体特異的反応について報告がされている。
【0008】
様々なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド合成方法が報告されている。本合成方法に関する公開文献を時系列で下記に示すが、これらの文献の幾つかに記載されている合成方法で得られるD−(−)生成物の化学的性質及びキラル純度については、いずれの文献にも記載されていない。
【0009】
特許文献1には、α−ナフトール及びN,N−ジエチル−ブロモプロピオンアミドにメタノール中でナトリウムメトキシドを作用させて、ラセミ型N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを合成することが記載されている。
【0010】
特許文献2には、ナプロパミドのD体の合成方法が開示されている。本合成方法によれば、dl−2−(α−ナフトキシ)プロピオン酸を光学分割することにより、d体が純度90%で得られ、l体が純度85%で得られる。さらに、ホスゲンを使用してd体をDMF中で酸塩化物に変換することが開示されている。次いで、この酸塩化物は、酸受容体としてジエチルアミン及びトリエチルアミンを使用したアミド化によりN,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドのD体に変換される。D体のモル収率は61%であることが開示されている。
【0011】
上記合成方法の収率は全体的に低く、また、本文献は生成物の化学的性質及びキラル純度についても言及していない。さらに、非常に高価かつ多大な時間を要する光学分割を伴うため、N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドのD体の商業的生産には好ましくない。
【0012】
非特許文献3には、ナプロパミドのD体の合成方法について報告がされている。本合成方法では、出発物質であるL(+)乳酸をエステル化し、その後の反応によりナプロパミドのD体を得る。本合成方法は多数の工程を有し、全体的な収率も低い。また、この反応は入手困難なL(+)乳酸の利用可能性に依存するため、大規模合成としては好ましくない。
【0013】
特許文献3には、以下に示すラセミ型N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの合成方法が記載されている。本合成方法では、塩化ホスホリルの存在下で2−クロロプロピオン酸をジエチルアミンと反応させて2−クロロプロピオニルジエチルアミド中間体を生成し、これをαーナフトール及び水酸化ナトリウムと反応させてN,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを得る。しかしながら、本文献はラセミ型N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの合成を教示するものである。
【0014】
特許文献4には、N,N−ジアルキル−2−(4−置換−α−ナフトキシ)プロピオンアミドの光学異性体の合成方法として2つの方法が記載されている。第1の合成方法によれば、2−ハロプロピオン酸の光学活性型低級アルキルエステルを4−置換α−ナフトールと反応させて光学活性型4−置換−α−ナフトキシプロピオン酸を生成する。次いで、ホスゲンを用いてこれを酸塩化物とし、ジアルキルアミンと反応させて前記所望の光学異性体を得る。2−ハロプロピオン酸の光学活性型低級アルキルエステルを4−置換−α−ナフトキシプロピオン酸へ変換させる工程を含むため収率が低い。また、副生成物(例えば、ナフタレン環と縮合したフラン環)が生成されることがあり、これは所望の生成物からの単離が非常に困難である。
【0015】
第2の合成方法によれば、プロモーター(分子量が26以上である、第IIIA族金属のハライド又は第IVB族金属のハライド)の存在下、エステルをアミンと反応させて光学活性型アミドを合成する。このジアルキル化アミドを置換ナフトールで処理して、所望の光学異性体を含む生成物を得る。第2の合成方法により得られる生成物の光学純度は十分ではない。
【0016】
非特許文献4には、上述の光学異性体の異なる光学分割方法が記載されている。これらの光学分割方法は、非常に複雑かつ面倒な作業や高価な光学分割剤の使用を伴う。さらに、多量の溶媒を必要とするため高コストとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第3,480,671号明細書(1969年)(Tilles et al)
【特許文献2】米国特許第3,718,455号明細書(1973年)(Baker et al)
【特許文献3】米国特許第3,998,880号明細書(1976年)(Simone et al)
【特許文献4】米国特許第4,548,641号明細書(1985年)(Walker et al)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Chan et al., J. Agric. Food Chem., 23(5), 1008-1010, (1975)
【非特許文献2】T. Sugai and K. Mori, Agric. Bio. Chem., 48, 2501 (1984)
【非特許文献3】James H. H Chan et al, J. Agric. Food Chem., 23(5), 1008-1010, (1975)
【非特許文献4】Lin Jin et al, Pesticides, 39, 18-20, (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、より高い除草活性を有する高純度光学活性型D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド、及び、商業的に実現可能なデブリノールの高純度D体の製造に適した製造方法を商業化する必要が依然としてあった。
【0020】
本発明の目的は、高キラル純度のD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを許容可能は高収率で得るための、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、前記実質的に高純度なD−デブリノールから、更に実質的に化学純度が高いD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを製造する方法を提供することである。
【0022】
本発明の更に他の目的は、中間体L−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドを介在させた新規な方法を提供することである。
【0023】
本発明の更に他の目的は、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの大規模製造に使用可能な簡便な方法を提供することである。
【0024】
本発明の更に他の目的は、化学純度が90%超でありかつキラル純度が80%超であるD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド生成物を提供することであり、これは更に高純度化されうる。
【0025】
本発明の更なる目的は、高純度d−デブリノールを含む農薬組成物、及び、その商業的に実現可能な大規模製造を目的とした製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一態様によれば、実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド、及び、化学純度が約95%以上でありかつキラル純度が約97%以上である実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法が提供される。本発明の他の態様によれば、高純度光学活性型D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを含む農薬組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド、及び、実質的に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法を提供する。
【0028】
本発明はまた、高純度光学活性型D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを含む農薬組成物を提供する。
【0029】
現在のナプロパミドの製造方法は上記特許文献3の説明の通りである。すなわち、ラセミ型2−クロロプロピオン酸から出発して、これを塩化ホスホリルの存在下でジエチルアミンと反応させてラセミ型2−クロロプロピオニルジエチルアミドとし、次いで過剰量のアルカリ金属水酸化物水溶液存在下でα−NPAと反応させてラセミ型ナプロパミドを得る。
【0030】
これに対して本発明では、L−(+)−2−ハロプロピオン酸から出発して、L−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドを経てD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを合成する。本発明の製造方法において、これら中間反応工程は、L−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドが合成中にラセミ化せずに原料のキラリティが維持され、その結果工程(iii)におけるSN反応によりD−(−)体へ最大限変換されて最大限の光学活性が得られるように、選択される。
【0031】
したがって、本発明は、高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法であって、
(i)L−2−(−)−ハロプロピオン酸を塩素化剤、好ましくはチオニルクロライド及びジメチルホルムアミドと反応させて、L−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを生成し、反応終了後、反応物から分別蒸留により生成物を回収する工程と、
(ii)前記工程(i)により得られたL−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを、過剰量のアルカリ金属水酸化物水溶液存在下でジエチルアミン水溶液と有機溶媒中で反応させて、反応終了後に溶媒の一部を留去し、次工程においてそのまま精製することなく(in situ)で反応させるためのL−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを含む反応物反応物を得る工程と、
(iii)前記工程(ii)で得られたL−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミド含有反応物を、アルカリ水溶液存在下でα−ナフトールと有機溶媒中において系中で(in situ)反応させてD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを生成し、反応終了後、水相から有機相を分離して溶媒を留去する工程と、を含む高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法を提供する。得られる生成物は化学純度及びキラル純度がより高い。該生成物は、有機相を水で洗浄し、減圧下で溶媒を除去することにより有機相から回収される。
【0032】
化学純度が90%超でありキラル純度が80%超である上記生成物は、更に純度が高い生成物とされる。
【0033】
D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの純度を向上させて更に高純度なD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを得るには、濃縮した生成物を溶解し、次いで結晶化する。前記工程(iii)により得られたD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを溶媒に溶解してろ過した後、冷却ヘキサンで洗浄する。得られた結晶から溶媒を除去することにより、化学純度が95%超である結晶性D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドが得られる。
【0034】
このように、本発明の製造方法は高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを提供する。本製造方法を使用して任意の所望の純度を得ることができるが、望ましい純度としては以下のガイドラインが有用である。
【0035】
(a)化学純度が約90%以上でありかつキラル純度が約80%以上である高純度生成物、及び/又は
(b)化学純度が約95%以上でありかつキラル純度が約97%以上である超高純度生成物
【0036】
前記工程(iii)により得られた高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを更に高純度化するプロセスを以下に示す。
【化2】

【0037】
クロロプロピオン酸、ブロムプロピオン酸、ヨードプロピオン酸等のように、異なるハロゲンとしても同様のプロセスとすることができるが、商業的規模で製造する観点から、クロロプロピオン酸が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法は、商業的に実現可能な高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの大規模生産に有用であり、本製造方法はいずれの先行技術文献にも報告・示唆されていない。本発明の製造方法はまた、高純度生成物の更なる高純度化(高化学純度化及び高キラル純度化)にも応用されうる。
【0039】
高純度生成物
工程I:(L)−(−)−2−ハロプロピオン酸の(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドへの変換
この反応では、(L)−(−)−2−ハロプロピオン酸(L−CPA)([α]26:−16.2°(neat),l=10cm)を、少量のジメチルホルムアミド存在下で過剰量のチオニルクロライドと反応させて(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドを得る。
【0040】
チオニルクロライドは、50〜60℃、好ましくは50〜55℃で添加する。反応は、トルエンやヘキサン等の有機溶媒を用いて又は用いないで行われるが、有機溶媒を用いないで行うことが好ましい。(L)−(−)−2−ハロプロピオン酸のチオニルクロライドに対するモル比は1:1〜1;1.5、好ましくは1:1.3〜1:1.5である。反応混合物の温度は50〜60℃、好ましくは58〜60℃である。また、反応混合物の温度はラセミ化防止の非常に重要な因子である。
【0041】
反応はDB−5キャピラリー・カラムを使用したガスクロマトグラフィー(GC)によりモニターし、約5〜8時間でL−CPA含有量がGC面積で≦1%となった時点で終了する。反応終了後、スクラバー内のHClガス及びSOガスの発生は停止する。(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドを粗反応物から蒸留精製する。分留塔を使用して、得られた液体を大気圧下で蒸留する。
【0042】
蒸留した(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドの化学純度を、ガスクロマトグラフィーにより、2−ハロプロピオン酸クロライド標準試料と比較した保持時間(RT)を確認して測定した。
【0043】
工程II:(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライドの(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−ハロプロピオンアミドへの変換
本発明における第2工程は、光学活性型(L)−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドと少過剰量のジエチルアミンとの反応である。本反応は、ジエチルアミン水溶液に(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライド及びアルカリ金属水酸化物(好ましくは水酸化ナトリウム)水溶液を添加することにより行われる。
【0044】
ジエチルアミンの添加量は、(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライド1モルに対して1.01〜2モルが好ましく、1.01〜1.5モルがより好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液中25〜50wt%の濃度で使用され、(L)−(+)−2−ハロプロピオン酸クロライド1モルに対して1〜3モルである。
【0045】
第2工程における反応に使用される有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、又はその混合溶媒等の非極性溶媒から選択されることが好ましく、トルエンがより好ましい。
【0046】
上記酸塩化物のアミン水溶液への添加は、20〜30℃、好ましくは25〜27℃で行われる。反応混合物は通常20〜30℃、好ましくは25〜27℃に保持される。キャピラリー・カラム(DB−5)により反応をモニターし、(L)−(+)−(2)−ハロプロピオン酸クロライド含有量がGC面積で≦0.1%となるまで反応を継続する。反応は、通常4〜7時間以内、好ましくは4〜5時間以内に終了する。
【0047】
反応終了後、有機層及び水層を分離し、有機層の1/3〜1/2を減圧下で留去する。
42〜48%(v/v)の光学活性型(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−ハロプロピオンアミドを含む、残りの未蒸留反応物をそのまま精製することなく(in situ)で次の工程に使用する。本アミド化合物の化学純度は、ガスクロマトグラフィーにより、その標準試料の保持時間と照合することにより測定する。
【0048】
工程III:(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−ハロプロピオンアミドのD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドへの変換
この工程では、α−ナフトールを、工程IIにより得られた過剰量の光学活性型(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−ハロプロピオンアミドとアルカリ存在下で反応させる。α−ナフトールの(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−ハロプロピオンアミドに対する反応は、絶対的な立体配置の反転を伴う2分子求核置換(SN)反応であることがわかる。これにより、D体のN,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドが生成される。
【0049】
SN反応では、溶媒がラセミ化の防止に非常に重要な役割を果たす。使用する反応溶媒としては、トルエン、シクロヘキサン、キシレン、又はその混合溶媒等の様々な非極性溶媒から選択されるが、トルエンが好ましい。
【0050】
好ましい実施形態において、α−ナフトールのナトリウム塩と工程IIにより得られた過剰量のアミド化合物との反応は、反応混合物に水酸化ナトリウム水溶液(25〜50wt%)を添加することにより行われる。
【0051】
アルカリ水酸化物は過剰量存在し、α−ナフトール1モルに対して1〜5モルが好ましく、2〜5モルがより好ましい。また、アミド化合物は、α−ナフトール1モルに対して1〜1.5モルである。α−ナフトール及びアミド化合物のトルエン溶液への水酸化ナトリウム溶液の添加は、50〜70℃、より好ましくは55〜57℃で行われる。α−ナフトール塩は50〜70℃で形成される。次いで、温度を95℃にする。
【0052】
添加後、反応物を加熱して約95℃で還流させる。このときの温度としては60〜100℃が適切だが、反応時間や他の都合を考慮すると、反応混合物は通常約90℃〜100℃未満、好ましくは95〜98℃に保持する。
【0053】
反応はDB−5キャピラリー・カラムを使用したガスクロマトグラフィーによりモニターする。一般的に、反応はα−ナフトール含有量がGC面積で<1%となった時点で終了するが、これは約5〜8時間で、多くの場合6〜7時間である。次いで、得られた反応物を水で洗浄した後、水酸化ナトリウム及び水で抽出し、未反応のα−ナフトールを除去する。
【0054】
所望の生成物を高収率・高純度で得るためには、α−ナフトールとアミド化合物とを完全に反応させる必要がある。また、過剰のアミド化合物、溶媒、及び他の低沸点不純物を減圧下で留去する。
【0055】
溶媒を全て回収すると、淡褐色固体として融点75〜79℃の高純度D−デブリノールが収率84〜85%(L−CPCのモル比)で得られる。この生成物の化学純度は、標準試料として純D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを用いた内部標準法を使用したガスクロマトグラフィー(カラム:パックドカラム(液相:10wt% OV−7))により測定する。キラル純度は、OD−H Chiral Columnを用いた順相クロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/エタノール(99:1 v/v))により、UV測定装置内で波長230nmで測定する。
【0056】
本発明の好ましい実施形態に係る製造方法よって得られる高純度D−デブリノール固体生成物の化学純度は高く、93〜94%でありうる。キラル純度は、D体が81〜83%と高く、比旋光度(SOR)[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約−86°である。
【0057】
工程IIIにより得られる生成物の化学純度及びキラル純度は高いため、農薬組成物におけるナプロパミド濃縮物として使用することができる。
【0058】
前述のとおり、化学純度及びキラル純度がより高い生成物を得るために生成物の更なる高純度化を行う。高純度生成物(固体、淡褐色)の高純度化は様々な有機溶媒を用いて行うが、通常は極性水性溶媒系を用いて行う。様々な混合比(例えば、5:5(v/v)、7:3(v/v))に調製したイソプロピルアルコール(IPA)/水混合溶媒が高純度化に好適であるが、他の溶媒を用いてもよい。
【0059】
超高純度生成物
工程IIIにより得られた高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの更なる高純度化
【0060】
高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを超高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドに更に高純度化する方法は、該高純度生成物を溶解して結晶化させる工程を含む。工程IIIにより得られるD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを溶媒に溶解させる。結晶をろ取し、冷却ヘキサンで洗浄する。その後、溶媒を結晶から除去して、化学純度及びキラル純度が約95%以上の超高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド結晶を得る。本方法において、溶媒は極性有機溶媒から選択しても、極性水性有機溶媒から選択してもよい。溶媒としては、混合比50:50〜80:20(v/v)のイソプロパノール/水混合溶媒が好ましく、70:30(v/v)がより好ましい。
【0061】
得られた高純度生成物を、混合比65〜75:35〜25(v/v)、好ましくは70:30(v/v)のイソプロパノール/水混合溶媒に溶解し、60〜65℃で約45分間攪拌する。生じた反応物をまず室温まで冷却した後、10〜12℃に冷却し、該温度に3〜5時間保持して結晶化させる。得られた結晶をろ取し、得られた固体結晶を冷却ヘキサンで洗浄して、減圧下に3〜5時間保持することにより、残った微量の溶媒水分及び揮発性不純物(存在する場合)を除去する。このようにして、灰色がかった結晶性固体が出発物質L−CPCを100wt%とした場合の基準で、65〜66wt%の収率で得られる。この灰色がかった工業グレードの固体の融点は94〜96℃周辺である。標準試料としてD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを用いた内部標準法を使用したガスクロマトグラフィー(カラム:パックドカラム(液相:10% OV−7))により測定した化学純度は、約96%(w/w)である。キラル純度は、OD−H Chiral Columnを用いた順相クロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/エタノール(99:1 v/v))により、UV測定装置内で波長230nmで測定する。固体中の光学異性体の純度は、R体が約98%に向上し、S体が2%である。また、比旋光度[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約126°である。
【0062】
本工程により得られる生成物は、化学純度が95%超であり、かつキラル純度が97%超である超高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドである。
【0063】
本高純度化プロセスにより得られる生成物の化学純度及びキラル純度は高いため、農薬組成物中のより強力なナプロパミド濃縮物として使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、これら実施例は例示のみを目的としており、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0065】
(実施例1)
本実施例では、本発明の製造方法を工程ごとに説明する。
【0066】
工程I:(L)−(−)−2−クロロプロピオン酸からの(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライドの合成
(L)−(−)−2−クロロプロピオン酸(108.5g、キラル純度:98%、1.0モル)を3口丸底ケトルに投入した後、攪拌しながらジメチルホルムアミド(5ml)を添加した。反応物を55℃に加熱し、チオニルクロライド(178.5g、キラル濃度:98%、1.5モル)をゆっくり添加した。添加中の反応物の温度は55〜57℃に保持した。
【0067】
DB−5カラムを使用したガスクロマトグラフィーにより反応をモニターしたところ、反応は7時間で終了した。反応中、発生したHClガス及びSOガスは希釈水酸化ナトリウム溶液を含むスクラバー内に吸収させた。反応終了後、スクラバー内でのHClガス及びSOガスの発生はなくなった。液体状の(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライド液を大気圧で30cm分画カラムを使用して蒸留した。105〜109℃で蒸留され、精製(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライド113.0gを得た。
【0068】
上記化合物の化学純度は96%であり、旋光度[α]26(neat,l=10cm)は+3.5°であった。蒸留した(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライドの化学純度は、2−クロロプロピオン酸クロライドの標準試料を用いてガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0069】
工程II:(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライドからの(L)−(+)−N,N−ジエチル−2−クロロプロピオンアミドの合成
ジエチルアミン(81g、1モル、純度:99%)、48%水酸化ナトリウム水溶液(100g、1.20モル)、水(120ml)、及びトルエン(250g)の混合液を反応容器に仕込んだ。反応混合液を20〜22℃まで冷却し、上記(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライド(127g、1モル)を、反応混合液を攪拌しながら滴下した。滴下中、温度を30℃以下とし、(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライド含有量がGC面積で≦0.1%になるまで該温度に維持した。キャピラリーGC(DB−5)を用いて反応をモニターしたところ、5時間以内に終了した。
【0070】
反応終了後、水相を分離した。トルエン中に生成物を含有する有機相を、洗浄後の洗浄水のpHが中性になるまで水洗し、全体から1/3のトルエンを留去した。残った有機物は255gであり、48wt%の(L)−(+)−2−クロロ−N,N−ジエチルクロロプロピオンアミドをトルエン中に含んでいた。これは、(L)−(+)−2−クロロプロピオン酸クロライド基準で93〜94%の収率に相当する。有機物はそのまま精製することなく(in situ)次工程に使用した。得られたアミド化合物の化学純度及び反応モニタリングは(L)−(+)−N,N−ジエチルクロロプロピオンアミドの標準試料を用いて確認した。
【0071】
工程III:D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの合成
α−ナフトール(517g、3.59モル、純度:99wt%)及び工程IIで得られたアミド化合物(647g、3.95モル;48%純度換算(w/w))のトルエン溶液(総重量:1345g)を3L丸底ケトルに投入した。得られた混合液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液(642g、7.7モル、48wt%)を55〜57℃で滴下した。
【0072】
滴下後、反応物を加熱して約95℃で還流した。還流を開始すると、塩化ナトリウムが分離し始めた。還流は、GC面積でα−ナフトール含有量が<1%となる反応完了まで6〜7時間続けた。
【0073】
反応溶液を50℃まで冷却した後、水500ml及びトルエン500mlを加え、該温度で45分間攪拌することで、有機相より色が薄い水相を分離した。中間相(エマルジョン)を含む有機相を50℃まで再加熱した。5%水酸化ナトリウム溶液250ml及び温水250mlを加え、両相を再び分離させた。再度、有機相を水250mlで洗浄した。有機相を回収した後、80℃で減圧下にて蒸発させた。更に3時間高真空下で蒸発させてトルエンを全て除去した。
【0074】
溶媒を完全に除去すると、淡褐色固体として、850gの高純度生成物が、出発材料であるL−CPC基準で83%の収率で得られた。また、融点は75〜79℃であった。
【0075】
標準試料としてD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを用いた内部標準法を使用したガスクロマトグラフィー(カラム:パックドカラム(液相:10% OV−7))により上記高純度生成物の化学純度を測定したところ、94%であった。
【0076】
また、OD−H Chiral Columnを用いた順相クロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/エタノール(99:1 v/v))により、UV測定装置内で波長230nmでキラル純度を測定したところ、D体が84%であり、L体が16%であった。また、比旋光度(SOR)[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約−86°であった。
【0077】
(実施例2)
工程IIIにより得られた高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの化学純度及びキラル純度の更なる高純度化
本実施例では、実施例1で得られた高純度生成物の更なる高純度化を説明する。
【0078】
実施例1の工程IIIにより得られた褐色固体に対して、イソプロパノール/水混合液(70:30 v/v)を600.0g加え、攪拌しながら60〜64℃で加熱した。高純度生成物が完全に溶解するまで加熱・攪拌した。この温度で更に45分間攪拌した。得られた反応物をまず室温にし、次いで10〜12℃に冷却して3〜4時間保持した。固体結晶のろ取後、冷却ヘキサンで洗浄し、3時間減圧下に保持した。このようにして、工程IVにより、灰色がかった結晶性固体として690gの超高純度生成物が、出発物質のL−クロロプロピオン酸を基準にして全体として66%の収率で得られた。この超高純度生成物の融点は94.4〜96.1℃であった。また、粗生成物の場合と同様の方法により純度を測定した。
【0079】
超高純度生成物の化学純度は96%であった。また、光学異性体の割合は、D体が98%であり、L体が1.8%であった。さらに、比旋光度[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約−126°であった。
【0080】
(実施例3)
工程I及び工程IIは実施例1と同様にして行った。
【0081】
工程III:D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの合成
α−ナフトール(1230g、8.45モル、純度:99%)及び実施例1の工程IIで得られたアミド化合物(1446g、8.37モル)のトルエン溶液2000gを丸底ケトルに投入した。混合液を攪拌し、水酸化ナトリウム水溶液(1534g、18.41モル、48%)を55〜57℃で滴下した。
【0082】
滴下後、反応物を加熱して約95℃で還流した。還流を開始すると、塩化ナトリウムが分離し始めた。還流は、GC面積でα−ナフトール含有量が<1%となる反応完了まで6〜7時間続けた。
【0083】
反応溶液を50℃まで冷却した後、この温度で水1400mlを加え、更にこの温度で45分間攪拌することで、有機相より色が薄い水相を分離した。中間相(エマルジョン)を含む有機相を50℃に再加熱した。5%水酸化ナトリウム溶液250ml及び温水を加え、両相を再び分離させた。再度、有機相を水で洗浄した。有機相を回収した後、80℃で減圧下にて蒸発させた。更に3時間高真空下で蒸発させてトルエンを全て除去した。
【0084】
溶媒を完全に除去すると、淡褐色固体として、2361gの高純度生成物が、出発材料であるL−CPC基準で96.09%の収率で得られた。また、融点は75〜79℃であった。
【0085】
標準試料としてD−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを用いた内部標準法を使用したガスクロマトグラフィー(カラム:パックドカラム(液相:10% OV−7))により上記高純度生成物の化学純度を測定したところ、86%であった。
【0086】
また、OD−H Chiral Columnを用いた順相クロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/エタノール(99:1 v/v))により、UV測定装置内で波長230nmでキラル純度を測定したところ、D体が84%であり、L体が16%であった。また、比旋光度(SOR)[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は−78.92°であった。
【0087】
工程IV: 工程Iにより得られた高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの化学純度及びキラル純度の更なる高純度化
本実施例では、実施例3の工程IIIで得られた高純度生成物の更なる高純度化を説明する。
【0088】
実施例3の工程IIIにより得られた褐色固体に対して、イソプロパノール/水混合液(70:30 v/v)を5509ml加え、攪拌しながら60〜64℃で加熱した。高純度生成物が完全に溶解するまで加熱・攪拌した。この温度で更に45分間攪拌した。得られた反応物をまず室温にし、次いで10〜12℃に冷却して3〜4時間保持した。固体結晶のろ取後、冷却ヘキサンで洗浄し、3時間減圧下に保持した。このようにして、工程IIにより、灰色がかった結晶性固体として1560gの超高純度生成物が、出発物質のL−クロロプロピオン酸を基準にして全体として68%の収率で得られた。この超高純度生成物の融点は93〜94℃であった。また、粗生成物の場合と同様の方法により純度を測定した。
【0089】
高純度化生成物の化学純度は96%であった。また、光学異性体の割合は、D体が98%であり、L体が1.34%であった。さらに、比旋光度[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約−127.31°であった。
【0090】
(実施例4)
純度99%超の高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの調製
7Lケトルに超高純度D−デブリノール300(純度:97.5% w/wg)を投入し、攪拌しながらヘキサン5500mlを添加した。反応物の温度を65℃に上昇させた。添加中及び添加後の反応物の温度を2時間65℃に保持した後、15℃に冷却した。固体結晶をろ取し、ヘキサンで洗浄して、237gの超高純度生成物を得た。この超高純度生成物の融点は93〜94℃であった。
【0091】
この超高純度生成物の化学純度は99.1%であり、光学異性体の割合は100%D体であった。また、比旋光度[α]20(1wt%エタノール溶液,l=10cm)は約−133.33°であった。
【0092】
D−デブリノールの融点は93〜94℃であるが、ナプロパミドのラセミ体の融点は74.8〜75.5℃である。デブリノールの融点は低いため、処理用パンに高濃度で投入して高剪断力で処理するのは困難である。この問題は、D−デブリノールを使用することで解決される。D−ナプロパミドの融点は高いため、製造プロセス中の剪断により熱が生じても安定だからである。
【0093】
デブリノールのラセミ体の20℃の水に対する溶解性は73ppmであるが、D−デブリノールの水に対する溶解性は50mg/Lである。D−デブリノールから調製したD−デブリノールのサスペンション濃縮物はより安定性が高く、水に対する溶解性が低いからである。D−デブリノールのサスペンション濃縮物は、45%SC又は50%SCとして調製されうる。デブリノールのラセミ体はUV照射により色変化を伴いながら分解するが、D−デブリノールはUV照射下でも安定であり、かつ色変化も起こらない。このUV安定性により、D−デブリノールを用いて調製した製剤は物理的に安定であり、かつ色変化により美観が損なわれない。
【0094】
非特許文献1には、ナプロパミドのD体は、所定の雑草に対する除草活性がL体よりも8倍高く、ラセミ混合物よりも1.7〜2倍高いことが報告されている。D−デブリノールはデブリノールと比較して効能が高く、かつ高濃度での配合(80DF、50SC等)が容易なため、必要に応じて希釈して散布可能な高濃度製品として農家に出荷することができる。これにより包装コストや搬送コストが削減できる。また、高濃度D−デブリノール製品は、デブリノールの合成と同じ設備及び同じエネルギーで合成することができるため、製造コストも節約できる。
【0095】
したがって、本発明の化合物は、使用態様に応じて、乳化性濃縮物、サスペンション濃縮物、粒状製剤、又は任意の数種類の公知製剤として製剤化することができる。
【0096】
乳化性濃縮物は、水又は他の分散剤に分散可能な均質液体又はペースト組成物である。
【0097】
粒状製剤は空中散布に特に有用である。有用な粒状製剤は数種類ありうる。含浸粒子とは、アタパルジャイト、カオリン粘土、トウモロコシの種芯、膨張マイカ等の吸収性キャリアの大型粒子に、有効成分を、通常は溶媒溶液として添加させたものである。表面被覆粒子は、溶融した有効成分をほぼ非吸収性の粒子の表面にスプレー塗布するか、或いは溶媒に溶かした有効成分溶液を該表面にスプレー塗布して製造されうる。コア部は顆粒肥料のように水溶性でもよいし、砂、大理石チップ、粗タルクのように不溶性でもよい。特に有用な粒子は、砂等の不溶性粒子に湿潤性粉体をコートしたものであり、該湿潤性粉体が水分と接触して分散しうるものである。粒子は、圧縮ローラー、ダイによる押出、又は顆粒化ディスクにより、ダストや粉体を凝集させることで製造されうる。
【0098】
粒子状D−デブリノール組成物は、単純粒子、湿潤性/分散性粒子、湿潤性粒子、分散性/流動性/湿潤性粒子等の形態で製剤化することができる。
【0099】
湿潤性粉体、分散性・流動性製剤は、水又は他の分散剤に容易に分散する微粒子である。湿潤性粉体は、最終的に、水又は他の液体中の乾燥微細物質又はエマルジョンとして散布される。湿潤性粉体の典型的なキャリアとしては、フラーズアース(fuller's earth)、カオリン粘土、シリカ、及び他の高吸収性かつ易湿潤性の無機賦形剤等が挙げられる。湿潤性粉体は、有効成分及びキャリアの吸収性にも依るが、通常5〜80%の有効成分を含有するように調製され、また、分散を容易にするため少量の湿潤剤、分散剤又は乳化剤を含む。
【0100】
農薬製剤に使用される典型的な湿潤剤、分散剤又は乳化剤としては、アルキルアリールスルフォネート、アルキルアリールスルフェート、及びそれらのナトリウム塩;ポリエチレンオキシド;硫酸化油;多価アルコール脂肪酸エステル;及び他の種類の界面活性剤が挙げられ、多くのものは市販されている。
【0101】
分散剤及び/又は湿潤剤は、前記相溶性要件が満たされれば、固体粒子を水中に分散させるために通常使用される任意の物質又は物質のブレンドから選択されうるが、「HOSTAPON T」(ヘキスト社製)の名で市販されているN−メチル−N−オレオイルタウレートナトリウム塩等のタウリン系分散剤により良好な結果が常に得られることが知られている。また、湿潤剤であるMorwet EFW(アルキルナフタレンスルフォネートナトリウム塩(Witco社),Morwet D809, ダラス USA)を更に添加してもよい。
【0102】
液体組成物状のD−デブリノールは、乳化性濃縮物、流動性液体、サスペンション濃縮物等として製剤化することができる。
【0103】
分散/縣濁剤は、ナトリウムナフタレンスルフォネート、アルキルナフチルスルフォネート、ナトリウムリグノスルフォネート、ポリカルボキシレート、Atox Metasperse 550S、及び他の公知の分散/縣濁剤から選択される。
【0104】
製剤を任意の環境で使用可能にするために凍結防止剤が使用される。凍結防止剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコオール、プロピレングリコール、グリセロール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
発泡を抑えるために消泡剤が使用される。消泡剤としては、RHODASIL(ローディア社)等のシリコーンオイル、沈降シリカ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
不活性フィラーは、沈降シリカ、カオリン、ベントナイト、ドロマイト、アタパルジャイト、硫酸アンモニウム、Attagel 50、またはそれらの混合物等から選択されうる。
【0107】
粘性剤は、キサンタンガム、セルロース、またはそれらの混合物等から選択される。
【0108】
組成物中に使用する溶剤は、シクロヘキサノール、ペンタノール、キシレン、イソホロン、またはそれらの混合溶媒等から選択されうる。
【0109】
組成物中に使用する保存剤は、BHA,BHT、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(Proxel GXL)、またはそれらの混合物から選択されうる。
【0110】
前記製剤は希釈しないでそのまま用いてもよいし、あるいは、水又は他の好適な希釈剤を使用して希釈溶液、エマルジョン又はサスペンションとして用いてもよい。前記組成物は、除草が所望されるエリアに対して、液状の場合はスプレーにより、固体の場合は機械設備による施用により適用される。また、特定の処理を行って最適な結果を得ることが適切であるように、土壌を耕作することにより土壌表面に施した製剤を土壌表層にブレンドしてもよいが、そのままの状態でもよい。
【0111】
本発明の活性除草化合物は、殺虫剤、殺菌剤、殺線虫剤、植物成長調節剤、肥料、及び他の農業化学薬品と共に製剤化及び/又は施用されうる。単独で製剤化する場合も他の農業化学薬品と共に製剤化する場合も、本発明の活性化合物を施す際は言うまでもなく有効量及び有効濃度の有効成分を使用する。「有効量」を構成する量は、予測パターン、予測降水量、予測利水量、除草対象の植物種、(もしあれば)農作物等の多くの要因により変動する。通常は、1ヘクタール当たり0.1〜9kg(例えば0.25〜4.00kg)の量を均一に施用する。
【0112】
(実施例4)
D−デブリノール 500(gms/kg)DF
【0113】
表1
【表1】

【0114】
手順:適切なミル及びブレンダーを使用して、表1に示す全ての成分を粒径d−90=10〜15μmとなるまで混合、粉砕、ホモジェナイズした。次いで、好適な押出機を使用して、水をバインダーとして凝集・押出して必要な粒子サイズとした。得られた湿潤粒子を乾燥し、好適な篩いを使用して必要な粒子サイズに篩い分けした。
【0115】
(実施例5)
D−デブリノール 450 SC
【0116】
表2
【表2】

【0117】
手順:適切なミル及びブレンダーを使用して、表2に示す全ての成分を粒径d−90=10〜15μmとなるまで混合、粉砕、ホモジェナイズした。次いで、好適な押出機を使用して、水をバインダーとして凝集・押出して必要な粒子サイズとした。得られた湿潤粒子を乾燥し、様々な篩いを使用して必要な粒子サイズに篩い分けした。
【0118】
(実施例6)
デブリノール 25%(w/w)EC
【0119】
表3
【表3】

【0120】
手順:必要量のD−デブリノール及び必要量のキシレンを容器内に投入し、溶液が透明になるまで攪拌した。次いで、必要量のカルシウムアルキルベンゼンスルフェート及びトリステアリルフェノールエトキシレート16モルを添加し、30分間攪拌した。得られた溶液をろ過した後、エマルジョンの安定性及び他の関連パラメータについて試験を行った。
【0121】
(実施例7)
デブリノール 15%(w/w)EW
【0122】
表4
【表4】

【0123】
手順:必要量のD−デブリノール及び溶媒を容器内に投入し、溶液が透明になるまで攪拌した。次いで、必要量のカルシウムアルキルベンゼンスルフェート及びトリステアリルフェノールエトキシレート16モルを添加し、30分間攪拌した。さらに必要量の水を添加し、30分間攪拌した。必要な粘性が得られるまで2%キサンタンガム溶液を添加した。EWの仕様要件を満たした後、包装して出荷する。
【0124】
添付の特許請求の範囲に規定された本発明の新規化合物の製剤及び用途が、本発明の要旨から逸脱しない範囲で様々に変更されうることは明らかであろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(L)−2−(−)−ハロプロピオン酸をチオニルクロライド及びジメチルホルムアミドと反応させて、(L)−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを生成する第一工程と、
前記(L)−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを、アルカリ金属水酸化物水溶液の存在下でジエチルアミンと反応させて、(L)−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを生成する第二工程と、
前記(L)−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを含む反応物を、アルカリ金属水酸化物水溶液の存在下でα−ナフトールと反応させて、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを生成する第三工程と、を含む、
D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法。
【請求項2】
(L)−2−(−)−ハロプロピオン酸とチオニルクロライドとのモル比は、1:1〜1:1.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一工程における反応混合物の温度は50〜60℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第一工程における反応混合物の温度は58〜60℃が好ましい、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
α−ナフトールとアミドとのモル比は、1:1〜1:1.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(L)−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを含む反応物をα−ナフトールと反応させる工程は、非極性有機溶媒中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
非極性有機溶媒は、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、及びそれらの混合溶媒等からなる群から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
非極性有機溶媒はトルエンである、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
ハロプロピオン酸は(L)−(−)−2−クロロプロピオン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(L)−2−(−)−ハロプロピオン酸をチオニルクロライド及びジメチルホルムアミドと反応させて、(L)−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを生成する工程と、
前記(L)−2−(+)−ハロプロピオン酸クロライドを、アルカリ金属水酸化物水溶液の存在下でジエチルアミンと反応させて、(L)−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを生成する工程と、
前記(L)−(+)−2−ハロ−N,N−ジエチルプロピオンアミドを含む反応物を、アルカリ金属水酸化物水溶液の存在下でα−ナフトールと反応させて、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを生成する工程と、
極性有機溶媒又は極性水性有機溶媒を使用して、前記D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドを再結晶化する工程と、を含む、
高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドの製造方法。
【請求項11】
再結晶化に使用する溶媒は、イソプロピルアルコールと水の混合溶媒である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合溶媒におけるイソプロパノールと水との体積混合比は、50:50〜80:20である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
イソプロパノールと水との体積混合比は70:30である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドのキラル純度は80〜99%である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
キラル純度は少なくとも95%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
キラル純度が80〜99%である、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド。
【請求項17】
キラル純度が少なくとも95%である、D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミド。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の高純度D−(−)−N,N−ジエチル−2−(α−ナフトキシ)プロピオンアミドと、
農薬上許容可能な賦形剤と、を含む農薬組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の組成物を含む、農薬製剤。









【公表番号】特表2010−526059(P2010−526059A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−505017(P2010−505017)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/IN2008/000284
【国際公開番号】WO2009/004642
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(509304874)ユナイテッド フォスフォラス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】