説明

高結晶性SO4型ハイドロタルサイト類およびその使用

【課題】SO型ハイドタルサイトは結晶が小さく、且つ凝集が強いため、粗大な2次粒子となり、用途が限られていた。
【解決手段】従来の共沈法に替わるMg等の水酸化物または酸化物とAl等の塩基性塩を反応させる新しい合成法を開発した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なSO型ハイドロタルサイト類、その製造方法およびその利用に関する。さらに詳しくは、粉末X線回析の最強ピークの面間隔が11±0.3Åである高結晶性SO型ハイドロタルサイト類、およびそれの崩壊剤、調湿剤等への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
層間アニオンがSO2−である従来方法で合成されたハイドロタルサイト類(SO型HTと略称)は、下記式(4)
【化4】

(但し、式中、M2+は2価金属、M3+は3価金属を示し、x,yおよびaはそれぞれ2<x<20,0.5<y<1.5,0≦a<10)で表わされる。その結晶構造は、正に荷電したM2+とM3+の混合水酸化物層(基本層)の間にその正荷電を中和するためにSO2−イオンがHOと共に中間層を形成し、基本層間に入っている。この基本層と中間層の合計である単位層の厚さに相当する(底)面間隔(d)が約9Åである。粉末X線回析の最強ピークのd値がこれに相当する。基本層の正荷電の発生は、M2+(OH)において、M2+の一部がM3+によって置換固溶することによって起こる。層間アニオンであるSO2−はイオン交換性である。従来、SO型HT類は共沈法で製造され、極めて結晶性が悪く(1次粒子が小さい)、しかも2次凝集が極めて強く、大きな2次粒子となる。しかし、殆ど多くの用途が高結晶性で微粒子(凝集が少ない)が要求されるため、従来のSO型HTの用途は制酸剤に限られ、利用できる分野が少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
SO型HTは、無毒で安価であるが用途が望殆ど無い。そこで本発明者は、SO型ハイドロタルサイト類が水に接触させると、層間に水が浸入し、中間層が拡大する特徴に注目し、錠剤の崩壊剤としての新しい用途を発見した。(特願2004−156182,特開2005−336090)しかし、現在使用されている崩壊剤に比べ、少量配合時の崩壊能が劣り、打錠圧力を高くすると崩壊性が低下する欠点がある。
【0004】
また、SO型HTを繊維とか樹脂フィルムに添加すると、2次粒子が粗過ぎて分散不良を起こし、繊維とかフィルムに加工出来ない問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来のHT類の合成方法である共沈法では、前記SO型HT類の欠点は克服出来ないとの結論に達し、新しい合成方法を鋭意研究した。その結果、(a)Mgおよび/またはZnの水酸化物、酸化物およびそれらの固溶体の1種以上に、(b)下記式(3)で表わされるAl等の3価金属の塩基性塩または水酸化物
【0006】
【化3】

(但し、式中、M3+はAlおよび/またはFeを、An−はSO2−以外のn価のアニオン(nは1または2)を示し、xおよびyは次の範囲にある。0≦x<3,0≦y<10)を水媒体中で攪拌下、加熱または水熱処理し、その後、水洗またはSO2−で洗浄(イオン交換)することにより、著しく結晶(1次粒子)が大きく、且つ2次凝集が少ないSO型HT類を合成できることを発見した。
【0007】
しかも、この合成方法で出来た高結晶性SO型HT類は、その粉末X線回析の(00l)面に相当する最強ピークの面間隔dが、従来の共沈法では約8.6Åであるのに対し、約11.2Åに拡大する。したがって、共沈法のSO型HTとは異なる結晶構造を有する。そのため、吸水量も増え、吸水速度も速くなり、膨張率も約30%拡大するため、錠剤の崩壊性が向上する。
【発明の効果】
【0008】
結晶を大きくでき、しかも2次粒子を小さく出来るため、樹脂とか繊維の添加剤として使用できる様になり、用途が拡大する。
【0009】
また、層間隔が約30%拡大し、吸水速度も速くなるため、錠剤の崩壊剤としての性能が著しく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の合成SO型HTは、粉末X線回析の最強ピーク(単位層の厚さに相当)に相当する面間隔dが約11.2Åである。これは層間に室温で2分子層入った構造に相当する。この層間水は、約50℃以上に加熱すると脱水を開始し、約100℃強で殆ど脱水する。加熱脱水直後は、dが約8.6Åに短縮するが、室温で大気中に暴露すると、数分〜数10分で元のd=約11.2Åに吸水して、拡大する。この可逆反応は、約150℃の加熱脱水温度まで可能である。
【0011】
従来公知の共沈法で合成されたSO型HTは、1次粒子(結晶子)が数100Åレベルで、2次粒子が10〜50μmであるのに対し、本発明のSO型HTは、1次粒子が1,000Å(0.1μm)以上〜好ましくは5,000(0.5μm)Å以上であり、特に好ましくは1μm以上であり、2次粒子径は0.5〜5μm、好ましくは0.5〜2μmである。
決定する。
【0012】
本発明のSO型HTは、下記式(1)
【0013】
【化1】

(但し、式中、M2+はMgおよび/またはZnを示し、M3+はAlおよび/またはFe、好ましくはAlを示し、x,yおよびmは次の範囲にある。2<x<10,好ましくは3<x<8,特に好ましくは4<x<6,0.5<y<1.5,好ましくは0.8<y<1.2,特に好ましくは0.9≦y≦1.1,0<m<20,好ましくは2≦m<10)で表わされる。但し、本発明はSO以外にCO等のアニオンが不純物レベルで存在していても良い。本発明の合成SO型HTの製造方法は、(a)Mgおよび/またはZnの水酸化物、酸化物およびそれらの固溶体の1種以上、具体的には、例えばMg(OH),Mg1−k(Zn)(OH),MgO,ZnO,Mg1−k(Zn)O[但し、0<k<0.5]等を、好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1.0μm以上の1次粒子の物を選択し、これと、(b)下記式(5)
【0014】
【化5】

(但し、式中、M3+はAlおよび/またはFe、好ましくはAlを示し、An−はSO2−,NO,Cl,CHCOO等のn価のアニオン(nは1または2)を示し、xおよびyは次の範囲にある。0≦x<3,0≦y<10)で表わされる塩基性塩または水酸化物を混合後、加熱する。加熱は、好ましくは60℃以上、特に好ましくは100℃〜200℃で1〜20時間水熱処理し、その後、水洗またはSOイオンで洗浄することにより実施出来る。以上の方法で製造されるSO型HT類の1次粒子および2次粒子は、原料として用いる(a)の1次粒子および2次粒子にほぼ従う傾向にあるため、1次粒子(結晶)が大きく、例えば0.5μm以上、さらには1μm以上で且つ、凝集の少ない(a)を選択することが好ましい。
【0015】
その様な(a)に示す原料を使用することにより、結晶が良く発達し、且つ凝集の少ないSO型HTを合成出来る。(a)と(b)の混合物の加熱温度が高いほど短時間でSO型HT類が得られる傾向にあるため、100℃以上で水熱処理することが好ましい。加熱時間は約1時間以上、好ましくは5〜10時間である。原料(b)としては、水酸化物と塩基性塩の両方使用出来るが、塩基性塩の方が、反応性が良いので好ましい。塩基性塩の中では、塩基性硫酸塩が加熱処理後のSOイオンによるイオン交換工程が不必要となるため、より好ましい。
【0016】
本発明の(底)面間隔dが約11±0.3ÅのSO型HT類は、従来法では不可能であった種々の新しい用途が拓ける。例えば樹脂とか繊維に加工可能であり、その結果、例えば体温で、衣類に利用出来る。さらに、吸湿するときの発熱を利用して、保温機能付き下着としても利用できる。また、SOイオンが優れた赤外線吸収性を示すため、ポリエチレン、EVA等に0.1〜20重量%配合することにより、グリーンハウスフィルムの保温剤としても利用出来る。
【0017】
また、錠剤の崩壊剤として、従来のSO型HTを凌ぐ性能を発揮する。その理由は、従来のSO型の数百倍の距離(大きな板状結晶による)に亘って、急速な吸湿で、潤張することによる、破壊力の大幅な増加による。その上、打錠圧が高くなっても、結晶が大きいためにSO型HTの結晶の変形、破壊を受ける影響が少ないため、崩壊性能の低下を防げると考えられる。
【0018】
本発明のSO型HTを崩壊剤として利用する場合、その形態は、粉末、スプレードライ(噴霧乾燥)造粒物、押出造粒物、好ましくはスプレードライ造粒物等の種々の形態で用いることが出来る。錠剤の成型は、従来公知の崩壊剤、賦刑剤、溶剤等を併用して用いることが出来る。
【0019】
崩壊剤としては、デンプン系、セルロース系、ビニル系、糖アルコール系等の、例えばトウモロコキシデンプン、ばれいしょデンプン、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム等のデンプン系;カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース系;ポリビニルアルコール、架橋ポリビニルピロリデン等のビニル系;マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコール類を用いることが出来る。
【0020】
賦刑剤としては、例えば乳糖、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、マンニトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等を用いることが出来る。
【0021】
溶剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等を用いることが出来る。
【0022】
崩壊剤、賦刑剤、溶剤の本発明崩壊剤に対する配合量は、それぞれ1〜20重量%、1〜50重量%、1〜10重量%である。
【0023】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(a)市販の高結晶性水酸化マグネシウム(商品名:協和化学製キスマ5)60gを水200mlに加えて分散させる。(b)硫酸アルミニウム(1.0モル/リットル)水溶液200mlを500mlのビーカーに入れ、これに水酸化ナトリウム(4.0モル/リットル)水溶液の110mlを攪拌下に加え反応させた塩基性硫酸アルミニウム(約25℃)を得た。(a)と(b)を攪拌下に混合後、このスラリーを容量1リットルのオートクレーブに入れ、170℃で10時間水熱処理を行った。室温まで冷えた後、減圧濾過、水洗し、約100℃で、10時間オーブンで乾燥後、アトマイザーで粉砕した。得られた粉末約4gをステンレストレー( cm× cm)に広げ、70℃のオーブンで30分間乾燥後、湿度30〜35%、室温(25〜30℃)の大気中に40分間静置後、粉末X線回析を測定した。最強ピークの面間隔dは11.2Åであった。このdは単位層厚に相当する乾燥粉末を塩酸に溶解後、化学分析を行うと共に、TG−DTA分析で、50℃〜150℃の重量減量から層間水量を測定し、化学組成を調べた結果は次の通りであった。TG−DTAから、50〜100℃で脱離する層間水量は12.4%であった。
Mg4.2Al(OH)12.4(SO1.0・4.2H
この物をSEMで測定した結果、1次粒子の形状は板状結晶であり、横巾は平均すると約 1.1μmであった。また、この粉末をイソプロピルアルコール中で、5分間超音波処理後、レーザー回析粒度分布測定機で測定した結果、累積50%の平均2次粒子径は1.8 μmであった。図1にX線回析パターンを示す。
【0025】
[比較例1]
硫酸マグネシウムと硫酸アルミニウムの混合水溶液(Mg=1.6モル/リットル,Al=0.8モル/リットル)と、4モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を定量ポンプで、容量約4リットルの円筒形ステンレス反応槽に攪拌しつつ連続的に供給し、pHを約10.0〜10.2、温度を30〜32℃に保って共沈反応させた。得られたスラリーを減圧濾過、水洗後、実施例1と同様にして乾燥、粉砕した。得られた粉末を実施例1と同様の条件で粉末X線回析を測定した結果、最強ピークの面間隔dは9.6Åであり、実施例1と同様にして求めた化学組成は次の通りであった。TG−DTAから、50〜100℃で脱離層間水量は5.2%であった。
MgAl(OH)11.6(SO1.2・1.9H
累積50%の平均2次粒子径は μmであり、SEMで測定した平均の1次粒子径は小さすぎて明確に決定出来なかった。微細な1次粒子が強く凝集し、大きな2次粒子約20μmを形成していた。図1にX線回析パターンを示す。
【実施例2】
【0026】
実施例1において、(a)として、高結晶水酸化マグネシウム(商品名:協和化学製キスマ )の60gを使用し、(b)の塩基性硫酸アルミニウムの合成条件で、アルカリとして2.0モル/リットルのNaCO水溶液を200ml使用する以外は実施例1と同様に行った。得られた物の化学組成は次の通りであった。TG−DTAから、50〜100℃で脱離層間水量は13.1%であった。
Mg5.1Al(OH)14.1(SO1.05・6.2H
実施例1と同様に前処理して測定した粉末X線回析の最強ピークの面間隔dは10.9Åであり、累積50%の平均2次粒子径は2.4μm、SEM測定による1次粒子径は約2.1μmであった。
【実施例3】
【0027】
(a)亜鉛華1号164gを約500mlの水に分散し、これに(b)1.0モル/リットルの硫酸アルミニウム水溶液330mlに、攪拌下に2モル/リットルの炭酸ナトリウム水溶液330mlを加えて生成した塩基性硫酸アルミニウムのスラリーを、攪拌下に加え均一に混合しつつ、約90〜95℃に加熱し、加熱を5時間継続して反応させた。反応物を減圧濾過後、水洗し、約100℃で10時間、オーブンで乾燥した後、アトマイザーで粉砕した。この物を実施例1と同様に前処理して測定した粉末X線回析の最強ピークの面間隔dは11.0Åであり、累積50%の平均2次粒子径は2.8μm、SEM測定による1次粒子径は約0.2μmであった。実施例1と同様にして求めた化学組成は次の通りである。TG−DTAから、50〜100℃で脱離層間水量は2.6%であった。
Zn5.9Al(OH)15.6(SO1.1・6.8H
【0028】
[崩壊性の評価試験]
下記処方
アスコルビン酸 50%
乳糖 36%
微結晶セルロース(賦形剤) 10%
ステアリン酸マグネシウム(滑剤) 1%
SOHTまたはクロスカルメロースナトリウム(崩壊剤) 3%
で、粉末を均一に混合後、ロータリー打錠機を用い、直径8mm、重量200mgの錠剤を、打錠圧力600,1200,1500kg/cmで作成した。得られた錠剤について、5個を1試料とし、その硬度とキヤ式硬度計で5回測定し、その平均値を求めた。崩壊時間は日本薬局法に準拠した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】




【0030】
〔図1〕








【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回析の最強ピークの面間隔dが11±0.3Åである下記式(1)
【化1】

(但し、式中、M2+はMgおよび/またはZnを示し、M3+はAlおよび/またはFeを示し、x,yおよびmは次の範囲にある。2<x<10,0.5<y<1.5,0<m<20)で表わされる合成SO型ハイドロタルサイト類。
【請求項2】
1次粒子径が0.5μm以上である請求項1記載の合成SO型ハイドロタルサイト類。
【請求項3】
式(1)において、xの範囲が3<x<6である請求項1記載のSO型ハイドロタルサイト類。
【請求項4】
式(1)のM2+がMg、M3+がAlである請求項1記載のSO型ハイドロタルサイト類。
【請求項5】
粉末X線回析の最強ピークの面間隔dが11±0.3Åである下記式(2)
【化2】

(但し、式中、x,y,およびmはそれぞれ次の範囲にある。3≦x≦8,0.5<y<1.5,0<m<20)で表わされる合成SO型ハイドロタルサイト類を有効成分として含有する錠剤用崩壊剤。
【請求項6】
崩壊剤の重量に基づいて、1〜50重量%のデンプン系、セルロース系、ビニール系および糖アルコール系の親水性崩壊剤を併用する請求項4記載の錠剤用崩壊剤。
【請求項7】
(a)Mgおよび/またはZnの水酸化物、酸化物またはそれらの固溶体の1種以上と、(b)下記式(3)
【化3】

(但し、式中、M3+はAlおよび/またはFeを示し、An−はSO2−,NO3−,Cl,CHCOO等のn価(nは1または2)アニオンを示し、xおよびyは次の範囲にある。0≦x<3,0≦y<10)で表されるアルミニウムおよび/または鉄の塩基性塩または水酸化物、を水媒体中で攪拌下、60℃以上で加熱または水熱処理後、水洗またはSO2−含有水溶液で洗浄することを特徴とする請求項1記載の、粉末X線回析の最強ピークの面間隔が約11±0.3ÅであるSO型ハイドロタルサイト類の製造方法。
【請求項8】
請求項6の(a)のBET比表面積が20m/g以下である請求項6のSO型ハイドロタルサイト類の製造方法。


【公開番号】特開2009−120458(P2009−120458A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299040(P2007−299040)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】