説明

高速印刷用のインクジェット用インクセット

シアンインクと、マゼンタインクと、イエローインクとを含有するインクジェット用インクセットであって、該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクがそれぞれ独立して、少なくとも65重量%の水と、1〜5重量%の間の分散顔料着色剤(dispersed pigment colorant)と、静的表面張力を減少させる界面活性剤と、該界面活性剤とは異なる動的表面張力減少剤と、該界面活性剤および該動的表面張力減少剤とは異なる少なくとも1種の保湿剤とを含有し;該界面活性剤、該動的表面張力減少剤および該少なくとも1種の保湿剤が、該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの間で同一であってもよく異なっていてもよく;該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの各インクが粘度で正規化された特定範囲の動的表面張力を示すと共に、併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクに関する平均粘度で正規化された特定範囲の動的表面張力を示すことによって特徴づけられる該インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通紙または光沢媒体にインクを高速で塗布する場合、優れた画像をもたらすように配合されたインクジェット用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、デジタルデータ信号に応答して、画像記録要素にピクセル・バイ・ピクセル法を用いてインク滴を沈着させることにより、印刷画像を形成する非インパクト型の方法である。画像記録要素上へのインク滴の沈着を制御して、所望の印刷画像を得る種々の方法が存在する。1つの方法(ドロップ・オン・デマンド型インクジェットとして知られている)においては、各インク滴は必要に応じて画像記録要素上に噴射され、所望の画像が形成される。ドロップ・オン・デマンド型の印刷においてインク滴の投射を制御する一般的な方法には、圧電変換器法と熱的気泡形成法が含まれる。別の方法(連続インクジェットとして知られている)においては、液滴の連続した流れは、画像記録要素の表面上へ像に対応して発射されて変流され、一方、画像化されていない液滴は捕集され、インク漕に回収される。インクジェットプリンターに関しては、卓上での書類と写真品質画像の印刷から、短期間印刷および工業的なラベル印刷に至る市場において幅広い用途が見出されている。
【0003】
初期のインクジェット用インクは、常套の印刷インクまたは筆記具用のインクと酷似した態様で配合されていた。印刷速度、使いやすさ、信頼性および環境問題に対して大きな注目が向けられるようになり、また、改良された画像を形成することへの関心が高まる中、インクは、特定の媒体上で充分に機能するように配合されている。1つの試みは、種々のインクジェット受容体上で、可能な限り高い画質を得ることである。一般的に受容体は、写真光沢のある受容体(photoglossy receiver)または普通紙受容体に分類される。該2種類の受容体は、写真光沢のある受容体が下層の紙支持体上に被覆層を有して製造されている点で、相互に区別されている。写真光沢のある受容体は、膨潤性のポリマーコーティング媒体(無孔の媒体)または微孔性媒体(バインダー内に親水性粒子が存在する媒体)に分類され得るが、混成構造も知られている。一般的に、ポリマーで被覆された媒体は、60度の視野角で光沢度が60を上回る極めて高い光沢を呈することができる。一般的な微孔性媒体は、ある種のポリマーで被覆された媒体の光沢値に近似した光沢値を有するように設計できる。普通紙及び写真光沢のある媒体の設計は、材料および製紙方法によって大きく異なるが、このことによって、本発明の範囲が限定して解釈されるべきではない。
【0004】
例えば、写真光沢がある画像受容体上に、耐久性と光沢のある画像を形成させることを目的とするインクは、被膜形成性ポリマーと溶解性の染料系着色剤を含有してもよく、一方、普通紙上に良好な密着性と速乾性を有するおよび滑らかな画像を形成させることを目的とするインクは、溶解性の染料系着色剤、紙浸透剤(paper penetrants)および紙のカール防止剤を含有してもよい。溶解性の全ての染料インクは、光退色が生じ(保管用写真画像が望まれる場合にこの問題は特に重要である)、再湿潤化に対する耐性が乏しいという問題を有する。溶解性の染料の代わりに、着色剤として分散した顔料を使用することによって、光退色の問題を緩和することが提案されている。しかしながら、顔料を使用することは、写真光沢がある媒体上での画像光沢の減少と乏しい耐摩擦性をもたらすと共に、普通紙上での画像の不均質性もしくは斑点の形成を引き起す。普通紙に顔料性のインクを塗布する場合に生じる、この特有の斑点または画像粒子の粗さの問題は、染料を基剤とするインクを普通紙に塗布する場合には、染料と更にそこから生じる着色剤の沈殿物が完全に可溶性を示すので、一般的に問題とならない。
【0005】
光沢紙またはコート紙の上に改良された画像をもたらすことに言及した、インクジェット用インクと印刷方法の代表的な開示文献には、米国特許第7030174号明細書(Yatake他)、米国特許第6790878号明細書(kurabayashi他)が含まれ、一方、普通紙の上に改良された画像をもたらすことに言及した、インクジェット用インクと印刷方法の代表的な開示文献は、米国特許第7094813号明細書(Namba他)、米国特許第7074843号明細書(Nakamura他)、米国特許第6695443号明細書(Aritu他)、米国特許第6530656号明細書(Teraoka他)、および米国特許第6440203号明細書(Kato他)が含まれる。
【0006】
光沢紙および経済的な普通紙の上に改良された画像をもたらすことを推奨するインクジェット用インクおよび印刷方法の開示文献には以下のものが含まれる:特定のアセチレン系界面活性剤を使用して色間にじみを減少させることを開示する米国特許第6890378号明細書(Yatake他)、記録材料の表面で完全に異なる電荷特性を有する異種インクを混合して使用することを開示する米国特許第6864302号明細書(Miyabashi他)および米国特許第6719420号明細書(Tomioka他)。1つ目の提案は、周知の欠陥のうち極めて限られたことのみを改善する点で劣っている。さらに、2つめの2種の提案によると、インクジェット装置を使用する間にインクが集塊状になるので、インクジェットの原動機を保守する場合に重大な問題が引き起こされてしまう。
【0007】
米国特許第6536891号明細書(Oyanagi)には、高粘度インクの、ライト(イエロー)インクの静的表面張力と、ダーク(ブラック)インクの静的表面張力とが特定の関係になるようにインクジェット用インクを調製して、ピエゾ噴出により画像が形成された普通紙上で、ブラックに対するイエローの(YvK)の色間にじみを制御することが開示される。高いインク粘度は、インクが高速で塗布される場合(特に、光沢のある媒体に塗布される場合)、ジェット噴出周波数(jet firing frequency)を限定し、癒着を引き起してしまう。さらに、シアン、マゼンタおよびイエローインクを有するインクジェット用インクセットがこの明細書には開示されていない。米国特許出願公開第2004/0069183号明細書(Kamoto他)には、同一インクの静的表面張力に対する表面再生速度(surface refresh rate)が0.5〜35Hz(すなわち表面寿命が2s〜30ms)における、静的表面張力と動的表面張力との間の差が7mN/mよりも小さい高粘度のインクジェット用インクが、ピエゾ(圧電)インクジェット用インク塗布システムから所望の放電安定性を示し、高品質な印刷画像を提供するインクとして開示されている。再び繰り返すが、高いインク粘度は、インクが高速で塗布される場合(特に、光沢のある媒体に塗布される場合)、ジェット噴出周波数を限定し、癒着を引き起してしまう。さらに、インク内に動的表面張力剤を使用することで本質的に得られ、気泡圧張力計を使用する場合に、これらの異なるインクの表面寿命で本質的に検出される明確な値から、規定された表面再生寿命に対する動的表面張力の引用されている単一の値をどのようにして導くかは、この明細書で説明されていない。
【0008】
米国特許第7037362号明細書(Honma他)には、蒸発後にごく僅かな粘性を示し、同一インクにおける10msの表面寿命での動的表面張力と、1sの表面寿命での動的表面張力の間で特定の関係を有し、普通紙上での速乾性と僅かな画像にじみを示す、染料を基剤とする着色インクと顔料を基剤とするブラックインクが開示されている。ここで、染料を基剤とするインクを使用することは、本質的に、保存の際の画像の不安定性をもたらす。さらに、試験条件下で調整される顔料を基材とするインクは、本質的に極めて高い乾燥後の粘度を示すので、該出願を実現するには、染料を基剤とするインクに限定されてしまう。さらに、シアン、マゼンタおよびイエローインクを有するインクジェット用インクセットがこの明細書には開示されていない。
【0009】
米国特許出願公開第2007/0022902号明細書(Koga)は、普通紙上での色間にじみを減少させ、インクセット内において、表面寿命が30msでの種々のインクの動的表面張力と、表面寿命が1sでの種々のインクの動的表面張力との間で特定の関係を示すことを特徴とする、高い粘性と大きな動的表面張力を示す染料を基剤とするインクを開示する。なお、染料を基剤とするインクを使用することは、本質的に、保存の際に画像の不安定性を導く。さらに、この明細書は染料着色剤インクのみを開示するので、顔料着色剤インクを使用することに関連する普通紙上の画像の粒子の粗さについて何も教示していない。米国特許出願公開第2007/0120928号明細書(Ma他)は、光沢のある写真紙上で色間にじみを減少させ、インクセット内の種々の着色インクの動的表面張力間で特定の関係を示すことを特徴とする、インクジェット用インクを開示する。界面活性剤の種類と濃度以外は、特定のインク成分、配合およびインクの物理的特性に関する記載がない。さらに、ブラックインクとイエローインクのみが開示されており、シアン、マゼンタおよびイエローインクを有するカラーインクジェット用のインクセットがこの明細書には開示されていない。米国特許出願公開第2007/0139501号明細書(Sekiguchi)は、着色剤を含まないモデルインクの動的表面張力の関係式に基づきインクが配合される場合に、高い密度を示し、普通紙上での色間にじみ(イエローとブラック)を減少させ、サーマルインクジェットプリンターでの使用に適当であり、染料を基剤とするイエローおよびブラックのインクジェット用インクを開示する。現実のインク特性と、これらのモデルインク特性との関係は開示されていない。なお、繰り返して記載するが、染料を基剤とするインクを使用することは、本質的に保存の際に画像の不安定性を導く。さらに、ブラックインクとイエローインクのみが開示されているが、シアン、マゼンタおよびイエローインクを有するカラーインクジェット用のインクセットがこの明細書には開示されていない。
【0010】
したがって、微孔を有する写真光沢紙またはコート紙上で、高い光沢と保管性を示す画像を提供でき、さらに、経済的な普通紙の上に低ノイズの画像を同時に提供できるインクジェット用インク、インクジェット用インクセットまたはインクジェット印刷法がこれらの技術により提供されていない。ことが同時に提供されていない。このことは、消費者が、写真光沢を有する画像を印刷するためのインクジェット印刷機、または普通紙への印刷を目的とするインクジェット印刷機のいずれかを選択する必要性に直面したままの状況を招いている。したがって、写真光沢があるコート紙と経済的な普通紙のいずれを使用しても、優れた画像をもたらすことができるインクジェット用インク、インクジェット用インクセットおよびインクジェット印刷法が要求されている。
【0011】
土を通過する水または油、木材に含浸する水または油、および液体を含有するその他の多孔質物質の水または油の運動力学の理論的研究と実用性の検討の詳細は、ウォッシュバーンによって物理学への影響力が大きい理論的記述として、ウォッシュバーン著「毛細管流動の動力学」、E.W.、「フィジカルレビュー」第17巻、第3号、第273頁〜第283頁(1921年)に記載されている。ここで、ウォッシュバーンは、毛細管表面を流体で湿潤させた条件下での毛細管に流入する流体の流速は、流体の表面張力に比例し、流体の粘度に反比例することを開示している。ウォッシュバーンは、単一毛細管における流動速度と、多孔質体が湿潤している間に生じ得る流体取り込みの総括速度の間に、類似点があると結論づけている。この研究の趣旨は次の通りである:粘度の増加は多孔質物質内への流体の流入を妨げる傾向があり、同時に、流体の表面張力が低下することにより、流体の流入と、流体と親水性表面(例えば上述の土壌および木材)との混和を妨げる。この研究は、長時間に亘る平衡過程とバルク流入を考慮するが、流体表面の寿命に伴って変化し得る流体の表面張力を考慮していない。
【0012】
一般に、分子的に均質な流体は、流体表面の寿命に伴って表面張力は変化しない。不均一流体が流体バルクと流体表面の間で特定の分子種を含む場合のみ、分子的に不均一なバルク流体(すなわち、混合成分溶液)のみが、表面寿命を生じながら表面張力を変化させる。水溶性の有機物質が疎水性および親水性の末端基を含む棒状構造を有することで識別される場合に、この現象で起こる最も関連性のある事柄が、該水溶性有機物質の水溶液である流体において生じる。平衡状態において、水素分子間の水素結合力は、棒状構造の疎水性末端基をバルクから排斥する傾向があり、この結果、全体的に流体は、流体表面に集中した有機物質と不均一になり、さらに、バルクから離れて整列している該有機物質の疎水性末端基と不均一になる。この結果、水性の流体と比べて有機流体の性質を示す流体ほど、より小さい表面張力を示す。これらの表面変換特性のために、親水性と疎水性の末端基を有する棒状の有機物質が界面活性剤として称されている。
【0013】
インクジェット用インクなどの、界面活性剤を包含するバルク流体が、インク滴状でインク噴出装置によって噴出される場合、まず、バルクと表面との間の界面活性剤の分布が関係している範囲で、該インク滴は非平衡状態になってしまう。バルク特性と表面特性の相違点は、ランダムな分子移動による衝撃を伴いながら、新たに形成されたインク滴表面に、界面活性剤分子が堆積して再度定着していることだけである。多くの場合、分子の拡散定数として計測されるランダムな分子移動は、とりわけ拡散分子の大きさ(通常分子量で示される)とバルク流体の粘度の影響を同様に受ける。特定のインク滴が記録媒体に衝突する場合、インク滴の表面とバルクは力学的に混合されるので、インクの平衡特性は、媒体との物理的相互作用にほとんど関係しなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7030174号明細書
【特許文献2】米国特許第6790878号明細書
【特許文献3】米国特許第7094813号明細書
【特許文献4】米国特許第7074843号明細書
【特許文献5】米国特許第6695443号明細書
【特許文献6】米国特許第6530656号明細書
【特許文献7】米国特許第6440203号明細書
【特許文献8】米国特許第6890378号明細書
【特許文献9】米国特許第6864302号明細書
【特許文献10】米国特許第6719420号明細書
【特許文献11】米国特許第6536891号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2004/0069183号明細書
【特許文献13】米国特許第7037362号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2007/0022902号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2007/0120928号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2007/0139501号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、微孔性写真光沢紙およびコート紙上での高画質で、光沢が高く、曇り度が低く、色間にじみの少ない画像をもたらすと共に、経済的な普通紙上に低ノイズの画像をもたらすインクジェット用インクセットおよびインクジェット印刷方法を提供することである。本発明の更なる目的は、種々の印刷媒体表面での優れた明暗安定性と、高い密度と、高い光沢を示し斑点が少ない画像を形成させる極めて粒径が小さい顔料粒子を含有する貯蔵安定性を示すインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
慎重な研究と観察を通じることで、本発明の発明者は、インクセット内のシアン、マゼンタおよびイエローの各インクジェット用インクが、顔料インクであって、該各インクが粘度で正規化された0.01sの表面寿命における特定範囲の表面張力を示す水性のインクジェット用インクセットを提供することによって、これらの目的を達成できることを究明した。特に、本発明の目的は、シアンインクと、マゼンタインクと、イエローインクとを含有するインクジェット用インクセットであって、該インクセットにおいて、該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクがそれぞれ独立して、少なくとも65重量%の水と、1〜5重量%の間の分散顔料着色剤(dispersed pigment colorant)と、静的表面張力を減少させる界面活性剤と、該界面活性剤とは異なる動的表面張力減少剤と、該界面活性剤および該動的表面張力減少剤とは異なる少なくとも1種の保湿剤とを含有し;該界面活性剤、該動的表面張力減少剤および該保湿剤が、該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの間で同一であってもよく異なっていてもよく;該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの各インクが、23.0mN/(m*cP)よりも小さい、粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命(surface refresh age)における動的表面張力を示し;併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクに関する平均粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力が22.0mN/(m*cP)よりも小さい値である該インクセットを提供することによって達成された。
【0017】
本発明の発明者は、根気強い努力を通じて、インク粘度に対して、普通紙上と光沢のある媒体上における液体の吸着に特に関連する時間枠(すなわち、インクの表面寿命0.01s)内に、三色全てのインクの動的表面張力を釣り合わせることによって上記の目的が達成されることを見出した。特定の機械論的解釈に必ずしも束縛されることなく、品質が悪い普通紙に生じる画像の不均等性または粒子粗さおよび色間にじみを低減させる目的は、水の一部が蒸発し、普通紙に固有の空隙内に該インクが流入する前に普通紙の表面上で顔料着色剤が定着して凝固するのに充分な時間にわたって紙の表面上にインク流体を保持することにより達成できることが本発明の発明者によって見出された。同様に、多孔質の媒体上で高い光沢を有する画像は、水が蒸発しインクが混合することなく媒体表面上で流延するのに充分な時間にわたって媒体表面上にインクを保持することによって達成できる。短い表面再生寿命での比較的大きな表面張力は、水の蒸発に優先して流体の吸着を促進するので、所望する画像効果をもたらさない。一方、短い表面再生寿命での比較的小さい表面張力は、信頼性のある高速インク噴出をもたらさない低いインク粘度は、普通紙、または微孔性媒体内のキャビティもしくはボイドへの過剰なインク流入を促進するので、形態が制御される均質乾燥をもたらす改良された画像特性を促進しない。逆に、高いインク粘度は高速での噴出性を悪くするので、インク噴出口の目詰まりと、媒体表面上でのインク成分の混合堆積(癒着)を促進する。したがって、所望の結果を得るためには、インクの表面張力と粘度を共に釣り合わせる必要がある。適当な釣り合せは、粘度で正規化された表面寿命0.01sでの特定範囲の表面張力によって、最も良く定義される。シアン、マゼンタおよびイエローインクの3種類全てが規定された範囲内の値を示すので、原色および二次色は共に、普通紙および光沢紙(媒体)の上で均一な効果をもたらす。
【0018】
ここで、σ0.01sは、0.01sの表面寿命における表面張力を示し、ηは液体粘度を示し、比(σ0.01s/η)は、粘度で正規化された0.01sにおける表面張力を示す。この値は、メーター×センチポイズ当りのミリニュートン単位[またはmN/(m×cP)]で表示される。
【0019】
好ましい実施態様において、前記インクの少なくとも1種は、体積加重した第50百分位数における粒径が1〜85nmを示す顔料着色剤を含有する。より好ましくは、前記シアン、マゼンタおよびイエローの顔料着色剤の3種類全ては、1〜85nmの体積加重した第50百分位数における粒径を示す。分散顔料着色剤は、界面活性剤分散型顔料、自己分散型顔料着色剤、または重合分散型顔料着色剤であってもよい。着色剤が界面活性剤分散型の顔料着色剤である場合、好ましくは、界面活性剤(分散剤)はオレイルメチルタウレートの金属塩である。さらに好ましい実施態様において、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのそれぞれは、さらにポリウレタンポリマーのバインダーを含有し、さらに、前記インクの少なくとも1種は、ベンジルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体を含有する。
【0020】
さらに、0.01sの表面寿命における表面張力を調整する役割を果たす任意の薬剤を、動的表面張力減少剤として有効に使用してもよく、好ましくは、該減少剤は350ダルトンよりも小さい分子量を有する。
【0021】
別の実施態様において、インクジェット用インクセットは、フォトブラックインク(Photo-black inks)、テキストブラックインク(text-black inks)、透明インク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、オレンジインク、グリーンインク、ホワイトインク、レッドインク、バイオレットインク、ブルーインクおよびブラウンインクから選択される1種または複数種の補助的なインクをさらに含有してもよい。なお、該補助的なインクは、さらに動的表面張力減少剤を含有してもよい。
【0022】
好ましい実施態様において、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクは、0.01sの表面寿命において43.0mN/mより小さい表面張力を示す。別の好ましい実施態様において、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクは、3.0cPより小さい粘度を示す。
【0023】
好ましい実施態様において、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクは、さらに粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力が10.5mN/(m×cP)より大きい値を示すことによって特徴付けられ、また、併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクに関する、平均粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力が、11.5mN/(m×cP)より大きい値を示すことにより特徴付けられる。より好ましい実施態様において、併用されるシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクに関する平均粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力は、14.0mN/(m×cP)より大きい。
【0024】
本発明の目的は、上述のインクセットを用いるサーマル(熱)噴出、ストリーム噴出(stream ejection)またはピエゾ噴出により記録媒体に塗布する工程を含むインクジェット印刷方法によってさらに達成される。
就中特に、本発明は以下のa)〜d)の工程を含むインクジェット印刷方法も提供する;
a)デジタルデータ信号に反応するインクジェットプリンターを準備し、
b)該プリンターにインクジェット記録用の受容体を装着し、
c)該プリンターに、本発明によるインクジェット用インクセットを装着し、
d)デジタルデータ信号に応答して、本発明による該インクセットを使用することで該インクジェット受容体上に画像を印刷する。
【0025】
さらに、本発明の目的は、インク噴出装置にインクを供給することに適するインクジェットカートリッジ(該カートリッジは、本発明によるインクセットを充填した一連のインク貯留部を有する)を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明によるインクジェット用インクセットは複数の水性インクを含有し、該各インクは少なくとも65重量%、好ましくは少なくとも70重量%の水を含有する。この規定は、蒸発によってインクを急速に乾燥させ、およびインクの粘度を制限する役割を果たすので、本発明に関連する所望のインク特性を補助する。
【0027】
本発明によるインクジェット用インクセットは、少なくとも1種のシアン着色インクと、少なくとも1種のマゼンタ着色インクと、少なくとも1種のイエロー着色インクとを含有する。いずれの場合において、該インクは、サーマル噴出、ストリーム噴出またはピエゾ噴出によって、普通紙または写真光沢を有する媒体に選択的に塗布される。本発明によるインクは、記録媒体の一般的な領域に重ねて塗布してもよく、記録媒体の隣接した領域に非重複的な状態で塗布してもよい。これらの塗布は、インクジェット用インク塗布の分野において全て既知である
【0028】
分散顔料着色剤は、本発明におけるインクジェット用インクセットのシアン、マゼンタおよびイエローのインクジェット用インクにおいて使用される。本発明においては、顔料を基剤とするインク組成物が使用される。なぜなら、顔料を基剤とするインクは、他の種類の着色剤から形成される印刷画像と比較して、比較的高い光学濃度と、光とオゾンに対する良好な耐性とを有する印刷画像を印刷できるからである。本発明の目的のために、イエロー着色剤は可視領域において400〜500nmの間に極大吸収を有し、マゼンタ着色剤は、使用される該イエロー着色剤の極大吸収波長よりも長い極大吸収波長を有し、該マゼンタ着色剤の極大吸収波長は490〜590nmの間であり、シアン着色剤は、使用される該マゼンタ着色剤の極大吸収波長よりも長い極大吸収波長を有し、該シアン着色剤の極大吸収波長は580〜650nmの間である。
【0029】
好ましい実施態様において、イエロー着色剤は可視領域において400〜510nmの間に極大吸収を有し、マゼンタ着色剤は510〜570nmの間に極大吸収波長を有し、シアン着色剤は590〜640nmの間に極大吸収波長を有する。
【0030】
顔料着色剤は、シアン、マゼンタおよびイエローインクにおいて1〜5重量%の量で使用され、好ましい態様においては、2重量%〜4重量%の量で使用される。好ましくは、分散顔料着色剤は、0.001〜0.085ミクロンの平均体積加重した第50百分位数における粒径を示す。インクは、0.005〜0.075ミクロンの間、より好ましくは0.005〜0.050ミクロンの間の平均体積加重した第50百分位数における粒径を示す分散顔料着色粒子を選択的に有する。該値より実質的に小さい顔料粒子はより不安定な画像を形成し、さらに、該値より実質的に大きい顔料粒子は所望の光沢特性を生じることができない。
【0031】
本発明において使用されるインクセットは、補助的なインク、例えば、フォトブラックインク、グレーインクおよびテキストブラックインクを含むブラックインク、光沢補助剤および保護被膜としての透明インク、レッド、グリーン、ブルー、ブラウン、オレンジ、バイオレット、ライトシアン(フォトーシアン)、およびライトマゼンタ(フォト−マゼンタ)インク、ならびに画像の再現に役立つ物質など、インクジェット技術において既知である全てのものを添加して増量してもよい。補助的な薄色インクまたはいわゆるフォトインクのための分散顔料着色剤は、好ましくは0.2重量%〜1重量%の間、より好ましい態様においては0.4重量%〜0.9重量%の間で存在する。例えば、薄色インクまたはフォトインクなどの、類似した色を示す2種類以上のインク(ただし、組成が異なる)は、美しいグラデーションを形成するため、または連続的な写真色調を形成するために使用してもよい。本発明において使用されるインクセットは、さらに、異なる色のインクと、異なる組成であり類似した色のインクとを共に含有してもよい。最良の結果を出すためには、補助的なインクは、さらに動的表面張力減少剤、および/または本発明のインクジェット用インクセットに関するシアン、マゼンタおよびイエローインクに対して設定される別の制限に適合する他の物質を含有してもよい。
【0032】
多種多様の有機顔料および無機顔料は、単独でまたは更なる顔料もしくは染料と組合せて、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインク、並びに本発明によるインクセットに使用され得る補助的なインク組成物において使用してもよい。本発明に使用されてもよい顔料は、例えば、米国特許第5026427号明細書、米国特許第5085698号明細書、米国特許第5141556号明細書、米国特許第5160370号明細書および米国特許第5169436号明細書に記載された顔料が含まれる。顔料の的確な選択は、特定の用途と、色の再現性および画像安定性などの性能要件に基づいて行われる。
【0033】
本発明において適する顔料は、以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アゾ顔料、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、アゾ顔料レーキ、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、ベンゾイミダゾロン顔料、ジアゾ縮合顔料、金属錯体顔料、イソインドリノン顔料およびイソインドリン顔料、多環式顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料およびぺリノン顔料、チオインディゴ顔料、アントラピリミドン顔料、フラバントロン顔料、アンタンテロン顔料、ジオキサジン顔料、トリアリールカルボニウム顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、酸化チタン、酸化鉄およびカーボンブラック。
【0034】
使用できる顔料の代表例には、以下のようなカラーインデックス(C.I.)ピグメントが含まれる:ピグメントイエロー1、2、3、5、6、10、12、13、14、16、17、62、65、73、74、75、81、83、87、90、93、94、95、97、98、99、100、101、104、106、108、109、110、111、113、114、116、117、120、121、123、124、126、127、128、129、130、133、136、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、183、184、185、187、188、190、191、192、193、194、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、21、22、23、31、32、38、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、49:3、50:1、51、52:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、66、67、68、81、95、112、114、119、122、136、144、146、147、148、149、150、151、164、166、168、169、170、171、172、175、176、177、178、179、181、184、185、187、188、190、192、194、200、202、204、206、207、210、211、212、213、214、216、220、222、237、238、239、240、242、243、245、247、248、251、252、253、254、255、256、258、261、264、C.I.ピグメントブルー1、2、9、10、14、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15、16、18、19、24:1、25、56、60、61、62、63、64、66、橋かけアルミニウムフタロシアニン顔料;C.I.ピグメントブラック1、7、20、31、32、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、6、13、15、16、17、17:1、19、22、24、31、34、36、38、40、43、44、46、48、49、51、59、60、61、62、64、65、66、67、68、69、C.I.ピグメントグリーン1、2、4、7、8、10、36、45、C.I.ピグメントバイオレット1、2、3、5:1、13、19、23、25、27、29、31、32、37、39、42、44、50、またはC.I.ピグメントブラウン1、5、22、23、25、38、41、42。
【0035】
補助的な白インク組成物において使用される白色顔料は、前記インク組成物が白色を示すことができる顔料である。この分野において一般的に使用されている種々の白色顔料を使用してもよい。このように使用される白色顔料は、例えば、無機白色顔料、有機白色顔料および白色の中空ポリマー微粒子である。白色顔料には以下のような無機顔料が含まれる:例えば、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、珪酸微粉などのシリカ、合成ケイ酸塩、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルクおよびクレイ。特に酸化チタンは、所望の被覆性と、着色性と、分散粒子の所望の粒子径とを示す白色顔料として既知である。有機白色顔料には、特開平11−129613号に示される有機化合物塩、および特開平11−140365号、特開2001−234093号に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が含まれる。上記白色顔料の具体的な商品は、ShigenoxOWP、ShigenoxOWPL、ShigenoxFWP、ShigenoxFWG、ShigenoxULおよびShigenoxU(以上、ハッコールケミカル社製、何れも商品名)である。さらに、白色の中空ポリマー微粒子としては、米国特許第4,089,800号に開示されている、実質的に有機ポリマーを含有する熱可塑性微粒子などが使用され得る。
【0036】
本発明において有用であり非自己分散型顔料を用いる、顔料を基剤とするインク組成物は、インクジェット印刷の技術分野の当業者において既知である任意の方法によって調製できる。有用な方法は、一般的に以下の2つの工程を含む:(a)顔料を1次粒子へと分割する分散工程または粉砕工程(なお該1次粒子は、粒子系において同定可能な最も小さい分割物として定義される)、および(b)前記工程(a)で得られた顔料分散体を残りのインク成分で希釈して、使用する粘度のインクを調製する希釈工程。
【0037】
粉砕工程(a)は、任意の種類の粉砕機、例えば、媒体ミル、ボールミル、2−ロールミル、3−ロールミル、ビーズミルおよびエアジェットミルなど、磨砕機、または液体相互作用機(liquid interaction chamber)を使用して行われる。粉砕工程(a)において、顔料は、一般的に、工程(b)において顔料分散体を希釈するために使用される媒体と同一または類似の媒体中で、必要に応じて懸濁される。不活性の粉砕媒体は、顔料を1次粒子へ分割するのを容易にするために、粉砕工程(a)において必要に応じて存在させる。不活性な粉砕媒体には、たとえば、米国特許第5891231号明細書に記載されているようなポリマービーズ、ガラス、セラミックスおよびプラスチックのような物質などが含まれる。粉砕媒体は、工程(a)で得られた顔料分散体、または工程(b)で得られたインク組成物から取り除かれる。
【0038】
分散剤は、顔料を1次粒子に分割することを容易にするために、粉砕工程(a)で必要に応じて存在する。工程(a)で得られる顔料分散体、または工程(b)で得られるインク組成物に対して、分散剤は、粒子安定性を維持し、凝固を防止するために必要に応じて存在させる。本発明における使用に適する分散剤は、インクジェット印刷の技術分野で一般的に使用されているものが含まれるが、これらに限定されない。水性顔料を基剤とするインク組成物に関して、特に有用な分散剤には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または非イオン界面活性剤、例えば硫酸ドデシルナトリウムまたはカリウムオレイルメチルタウレートもしくはナトリウムオレイルメチルタウレートなどが含まれる(たとえば、米国特許第5679138号明細書または同第5651813号明細書または同5985017号明細書を参照)。
【0039】
分散剤または界面活性剤を使用することなく分散可能な自己分散型顔料は、本発明において使用できる。この種の顔料は、表面処理、例えば、酸化/還元、酸処理/塩基処理、または結合化学(coupling chemistry)による官能化などの処理に付されている。該表面処理は、顔料の表面にアニオン性基、カチオン性基または非イオン性基を付与できるので、個別の分散剤を必要としない。インクジェット印刷に適する共有結合的に官能化された自己分散型顔料を調製および使用することは、以下の文献に記載されている:米国特許第6758891号明細書および同6660075号明細書(バーグマン他)、米国特許第5554739号明細書(ベルモント)、米国特許第5707432号明細書(アダムスおよびベルモント)、米国特許第5803959号明細書および同5922118号明細書(ジョンソンおよびベルモント)、米国特許第5837045号明細書(ジョンソン他)、米国特許6494943号明細書(ユウ他)、国際特許出願公開第96/18695明細書、同96/18696号明細書、同96/18689号明細書、同99/51690号明細書、同00/05313号明細書および同01/51566号明細書、米国特許第6280513号明細書および米国特許第6506239号明細書(オオスミ他)、米国特許第6503311号明細書(カール他)、米国特許第6852156号明細書(イー他)、米国特許第6488753号明細書(イトウ他)、欧州特許出願公開第1479732号明細書(モモセ他)。
【0040】
市販されている自己分散型顔料の例としては、以下のものが含まれる:CAB-O-JET(登録商標)200、CAB-O-JET(登録商標)250、CAB-O-JET(登録商標)260、CAB-O-JET(登録商標)270およびCAB-O-JET(登録商標)300(キャボット・スペシャリティケミカル社製)、ならびにBONJET(登録商標)CW−1およびCW−2(オリエント化学工業社製)。
【0041】
ポリマー分散剤も既知であり、水性顔料を基剤とするインク組成物に有用である。粉砕工程(a)の前または粉砕工程(a)の間に、ポリマー分散剤を顔料分散体に添加してもよく、該ポリマー分散剤には、例えば、ホモポリマーおよびコポリマー;アニオン性、カチオン性または非イオン性ポリマー;または、ランダム、ブロック、分枝鎖状もしくはグラフトポリマーなどのポリマーが含まれる。粉砕作業で有用なポリマー分散剤には、親水部分および疎水部分を有するランダムコポリマーおよびブロックコポリマーが含まれ(例えば、米国特許第4597794号明細書、同第5085698号明細書、同第5519085号明細書、同第5272201号明細書、同第5172133号明細書、同第6043297号明細書および国際特許出願公開第2004/111140号A1明細書を参照)、グラフトコポリマーが含まれる(例えば、米国特許第5231131号明細書、同第6087416号明細書、同第5719204号明細書または同第5714538号明細書を参照)。一般的に、これらのポリマー樹脂は、疎水性モノマーと親水性モノマーから構成されるコポリマーである。この場合、コポリマーは、疎水性のモノマーと親水性モノマーの配列および割合に基づいて、顔料に対する分散剤として機能を果たすことを目的とする。顔料粒子は、分散剤によってコロイド的に安定し、ポリマーを分散させた顔料分散体と称される
【0042】
ポリマー分散体(コポリマー)は、コポリマーを含むモノマー配列に限定されない。モノマー配列は、全体的にランダムであってもよく、またはAB若しくはABAなどのブロック状に配置されてもよい(なお、Aは疎水性モノマーであり、Bは親水性モノマーである)。さらに、ポリマーはランダムターポリマー構造またはABCトリブロック構造を有してもよい(なお、A、BおよびCブロックの少なくとも1つは親水性モノマーが選択され、残りのブロックは、相互に類似しない疎水性のブロックである。)
【0043】
特に有用なコポリマー分散剤は、該分散剤内の疎水性モノマーが、ベンジルメタクリレートもしくはベンジルアクリレート、または直鎖状または分枝鎖状であり、12個以上の炭素原子を有する脂肪族鎖を含有するメタクリル酸エステルもしくはアクリル酸エステルから選択される分散剤である。12個以上の炭素原子を有するメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの例としては、以下のものが含まれる;ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、テトラデシルアクリレート、テトラデシルメタクリレート、セチルアクリレート、イソ−セチルアクリレート、ステアリルメタクリレート、イソ-ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、デシルテトラデシルアクリレート、デシルテトラデシルメタクリレートなど。好ましくは、メタクリレートモノマーまたはアクリレートモノマーは、ステアリルもしくはラウリルメタクリレートまたはアクリレートである。ポリマーの疎水性部分は、1種または複数種の疎水性モノマーから調製できる。
【0044】
好ましいコポリマー分散剤は、親水性モノマーがカルボキシル化されたモノマーから選択されるポリマー分散剤である。好ましいポリマー分散剤は少なくとも1種の親水性モノマーから調製され、該モノマーはアクリル酸モノマーまたはメタクリル酸モノマー、あるいはこれらの組合せである。好ましくは、親水性モノマーはメタクリル酸である。
【0045】
一般的に、コポリマー分散剤の重量平均分子量は、50000ダルトンより小さい上限値を有する。コポリマーの重量平均分子量は、望ましくは25000ダルトンより小さい、より好ましくは15000ダルトンより小さい、最も好ましくは10000ダルトンより小さい値を示す。好ましくは、コポリマー分散剤は、500ダルトンより大きい下限値を示す重量平均分子量を有する。
【0046】
第1の好ましい実施態様において、コポリマー分散剤は、疎水性モノマーがベンジルメタクリレートであり、該モノマーがポリマー分散剤の全重量に対して50重量%〜80重量%の割合で存在し、該親水性モノマーはメタクリル酸である。
【0047】
第2の好ましい実施態様において、12個またはそれ以上の炭素原子を含む炭素鎖長を有する疎水性モノマーを含有するコポリマー分散剤が使用され、該分散剤は、コポリマーの全重量に対して少なくとも10重量%の量で存在し、より好ましくは20重量%よりも大きい量で存在し、必要に応じて芳香族基を含有する疎水性モノマーが添加され、親水性モノマーにはメタクリル酸が使用される。例えば、付加的に芳香族基を含有するモノマーは、ベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートである。好ましい付加的なモノマーはベンジルメタクリレートである。
【0048】
12個またはそれ以上の炭素原子を含む炭素鎖を有するモノマーと、必要に応じて添加される芳香族基を含有するモノマーとを含有する疎水性モノマーの総量は、ポリマー全量の20重量%〜95重量%の量でポリマー内に存在する。疎水性で芳香族基を含有するモノマーは、ポリマー全量の0〜85重量%、より好ましくは0〜60重量%、最も好ましくは0〜50重量%の量で存在し得る。特に好ましい実施形態は、ンジルメタクリレート、ステアリルメタクリレートおよびメタクリル酸のターポリマーである。
【0049】
特に有用なポリマー顔料分散剤は、さらに米国特許出願公開第2006/0012654号明細書および同2007/0043144号明細書に記載されている。
【0050】
カプセル型ポリマー分散剤およびこれらのポリマー分散顔料も本発明において使用できる。具体例が以下の明細書に記載されている:米国特許第6723785号明細書、同6852777号明細書、米国特許出願公開第2004/0132942号明細書、同2005/0020731号明細書、同2005/0009951号明細書、同2005/0075416号明細書、同2005/0124726号明細書、同2004/0077749号明細書および同2005/0124728号明細書。高い分散安定性を維持し、インク組成との相互作用が低いので、カプセル型ポリマー分散剤が特に有用である。着色剤相とポリマー相を有する複合着色剤粒子は、本発明において使用される、水性顔料を基剤とするインクにも有用である。顔料の存在下でモノマーを重合させることによって、複合着色剤粒子が生成される。例えば、米国特許出願公開第2003/0199614号明細書、同第2003/0203988号明細書または同第2004/0127639号明細書を参照できる。マイクロカプセル型顔料粒子も有用であり、該粒子は樹脂膜で被覆された顔料粒子からなる。たとえば、米国特許第6074467号明細書を参照できる。
【0051】
本発明によるインクセットで使用されるインクは、分散顔料着色剤に加えて、補助的な着色剤として染料をさらに含有してもよい。本発明において適当な染料としては、インクジェット印刷の技術分野において常套のものが含まれるが、これらに限定されない。本発明による水性インク組成物のための染料には、以下のものが含まれる:水溶性の反応染料、直接染料(direct dyes)、アニオン染料、カチオン染料、酸性染料、食品用染料、金属錯体染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、アントラピリドン染料、アゾ染料、ローダミン染料、溶剤系染料など。本発明において有用な染料の具体例には、以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アシッドイエロー、リアクティブイエロー、フードイエロー、アシッドレッド、ダイレクトレッド、リアクティブレッド、フードレッド、アシッドブルー、ダイレクトブルー、リアクティブブルー、フードブルー、アシッドブラック、ダイレクトブラック、リアクティブブラック、フードブラック、CAS No. 224628-70-0(日本化薬株式会社から JPD Magenta EK-1 Liquidとして販売されている)、CAS No. 153204-88-7(クランプトン・アンド・クノールズカラー社から、INTRAJET(登録商標)MAGENTA KPRとして市販されている)、および米国特許第5997622号明細書と同6001161号明細書に記載されている金属アゾ染料。また、本発明において有用である補助的な着色剤は、ポリマー染料または添加染料/ラテックス粒子(loaded-dye/latex particles)である。ポリマー染料の例は、米国特許第6457822号明細書と該明細書内の参考文献に記載されている。添加染料/ラテックス粒子の例は、米国特許第6431700号明細書、米国特許出願公開第2004/0186199号明細書、同2004/0186198号明細書、同2004/0068029号明細書、同2003/0119984号明細書および同2003/0119938号明細書に記載されている。本発明におけるインク組成物において使用される補助的な着色剤は、任意の効果的な量で存在でき、一般に0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜6重量%の量で存在できる。
【0052】
本発明において使用されるインクセットのインクは、静的表面張力を減少させてインクの該静的表面張力を適当なレベルに調製するために添加される界面活性剤を含有する。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性であってもよく、例えば、インク組成物の0.01〜5%の量で使用される。適当な非イオン性界面活性剤の例には以下のものが含まれる:直鎖状アルコールエトキシレートもしくは第二級アルコールエトキシレート(例えば、ユニオンカーバイド社製、TERGITOL(登録商標)15−SおよびTERGITOL(登録商標)TMNシリーズ;ユニクマ(Uniquema)社製BRIJ(登録商標)シリーズなど)、エトキシ化アルキルフェノール(例えば、ユニオンカーバイド社製TRITON(登録商標)シリーズなど)、フルオロ界面活性剤(例えば、デュポン社製のZONYLS(登録商標);3M社製のFLUORADS(登録商標)など)、脂肪酸エトキシレート、脂肪アミドエトキシレート、エトキシ化ブロックコポリマーおよびプロポキシ化ブロックコポリマー(例えば、BASF社製のPLURONIC(登録商標)およびTETRONICシリーズなど)、エトキシ化およびプロポキシル化シリコーン系の界面活性剤(例えば、CK ウイトコ社製のSILWET(登録商標)シリーズなど)、アルキルポリグリコシド(例えば、コグニス社製のGLUCOPONS(登録商標)など)、およびアセチレン系ポリエチレンオキシド界面活性剤(例えば、エアープロダクツ社製のSURFYNOLS(登録商標)など)。さらに、表面張力を減少させる、立体配座的に不斉でポリオキシ化された水溶性炭化水素を界面活性剤として使用できる。さらに、アニオン性界面活性剤の例としては以下のものが含まれる;カルボキシル化した界面活性剤(例えば、エーテルカルボキシレートおよびスルホスクシネートなど)、硫酸化した界面活性剤(例えば、ナトリウムドデシルスルフェートなど)、スルホン酸化した界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホネート、α−オレフィンスルホネート、アルキルジフェニルオキシドジスルホネート、脂肪酸タウレートおよびアルキルナフタレンスルホネートなど)、リン酸化した界面活性剤(例えば、デクター・ケミカル社製のSTRODEX(登録商標)シリーズなどの、アルキルアルコールおよびアリールアルコールのリン酸化エステル)、ホスホン化した界面活性剤、アミンオキシド界面活性剤、およびアニオン性のフッ素化界面活性剤。両性界面活性剤の例としては、ベタイン、スルタインおよびアミノプロピオナートが含まれる。カチオン性界面活性剤の例としては、四級アンモニウム化合物、カチオン性アミンオキシド、エトキシ化脂肪族アミンおよびイミダゾリン界面活性剤が含まれる。上記界面活性剤の分類の追加例が、「マクカッチョンの(McCutcheon's)乳化剤および清浄剤:1995年,北米版」に記載されている。さらに、全ての帯電した界面活性剤は、それらの結合質量(bound mass)を効果的に増加させる凝集した水和水に起因して、水性インク内でゆっくりとした拡散を示す傾向がある。有用な非イオン性界面活性剤が、好ましくは350ダルトンより大きい分子量、より好ましくは400ダルトンより大きい分子量、最も好ましくは500ダルトンより大きい分子量を有することで、インクの静的表面張力と平衡表面張力の制御を区別できるようにして、バルクインク内でのゆっくりとした拡散を確実にする。個々のインクに対して適当な界面活性剤の混合物を使用することが特に好ましい。本発明において使用され、共に区別されるシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクは、所望されるインクの物理的性質を実現するために、同一の界面活性剤、異なる界面活性剤または界面活性剤の混合物を使用してもよい。
【0053】
また、当業者において既知の動的表面張力減少剤(DST剤)を、本発明において使用されるインクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインク内で使用してもよい。なお、該動的表面張力減少剤は界面活性剤と区別される。界面活性剤に加えて異なるDST剤を使用することによって、各インクの動的表面張力が良好に最適化されるので、本発明の目的が達成される。好ましくは、使用される動的表面張力減少剤は、非対称の多価アルコール、または多価アルコール由来のモノアルキルエーテルを含有する。多価アルコール由来の低級モノアルキルエーテルの具体例としては以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、とりわけ、ダウケミカル社製のDOWANOL(登録商標)、CELLUSOLVE(登録商標)およびCARBITOL(登録商標)などの市販品。非対象の低級多価アルコールの具体例としては以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1-フェニル-1,2−エタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールおよび1,3−ヘキサンジオール。また、有用な動的表面張力減少剤には、水溶液中で立体配座的に分子自身を折りたたみ、非対称な形態で官能的に作用することにより、短時間で表面張力を減少させる1,6-ヘキサンジオールなどのジオールが含まれる。さらに、有用な動的表面張力減少剤には、比較的低分子量のアセチレンアルコールと、これらのポリアルキレンオキシド誘導体が含まれる。
【0054】
有用なDST剤は、本発明を効果的に実施するために欠かせない、0.01sの表面寿命における表面張力を確実に制御し、バルクインク内における該減少剤の高速拡散性を確実におこなえるよう、350ダルトン未満、より好ましくは280ダルトン未満、最も好ましくは210ダルトン未満の分子量を有する。逆に、本発明により有用なDST剤は、好ましくは76ダルトンより大きい、より好ましくは90ダルトンより大きい分子量を有する。この最小限の分子量は、長期間保存する場合にDST剤がインクから蒸発することを防ぎ、該DST剤が96℃より高い引火点(製品に対して適当な引火点)を示すことを確実にする。さらに、分子量と揮発度の下限値は、インクが噴出された後に普通紙または光沢のある印刷媒体の表面上で乾燥している間、DST剤がインク組成物内に留まって活性化することを確実にする。さらに、有用なDST剤が対象とするプリンター装置の一般的な操作温度よりも低い融点を有することで、プリントヘッド装置またはメンテナンス装置に結晶質の沈殿物が形成されることを防ぐ。実用的には、有用なDST剤は30℃よりも低い融点、好ましくは20℃よりも低い融点、より好ましくは10℃よりも低い融点を示す。
【0055】
平均体積加重した第50百分位数における粒径が0.075より小さい粒径を示す顔料を使用し、特に、動的表面張力減少剤として1,2ペンタンジオールを使用する場合、貯蔵安定性インクを有利に生成できることが見出されており、このことは、本件出願人によって同時に出願され、同時に出願が継続している米国特許出願第11/964947号明細書に記載されている。
【0056】
さらに、本発明により使用されるインクジェット用インクセットのシアンインク、マゼンタインク、イエローインクは、1種または複数種の水溶性の保湿剤(共溶媒とも称される)を含み、該保湿剤は、インク組成物において使用される界面活性剤と動的表面張力減少剤と区別され、インクジェット用インクに対して有用な特性をもたらすために添加される。一般的に、有用な特性としては以下のことが含まれる(ただしこれらに限定されない):プリントヘッドのノズル内で、インク組成物の乾燥と被膜形成を防ぐこと、インク組成物中の成分の溶解度を補助すること、噴出装置から噴出されるインクの噴出特性を補助すること、印刷した後、画像記録要素にインク組成物の浸透を促進すること、光沢をもたらすこと、色間にじみを抑制すること、癒着を抑制すること、機械的なアーティファクト、例えば紙のしわ、印刷の途中および後に生じる紙のカールなどを抑制すること。界面活性剤およびDST剤は、これらの特性の幾つかをもたらすが、使用される界面活性剤と動的表面張力減少剤とは異なる少なくとも1種の保湿剤を使用することによって、本発明によるインクセットのインクに対して要求される保湿性と表面張力とをより良好に制御できる。
【0057】
インクジェットの技術分野において既知であり、本発明における別の成分と相溶性を示す任意の水溶性保湿剤が使用される。ここでの「水溶性」とは、使用される保湿剤と水が均質になる混合物を意味する。さらに、単一の保湿剤を使用してもよく、有用なインクジェット用インクは、各保湿剤がインクジェット用インクに有用な特性を付与する2種、3種またはそれ以上の保湿剤の混合物を使用してもよい。水性のインク組成物において使用される保湿剤および共溶媒の代表例としては、以下のものが含まれる:(1)アルコール、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、イソ-ブチルアルコール、フルフリルアルコールおよびテトラヒドロフルフリルアルコールなど;(2)多価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、平均分子量が200〜5000ダルトンの範囲を示すポリエチレングリコール、平均分子量が200〜5000ダルトンの範囲を示すポリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2,4-ブタントリオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-プロパンジオール、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-プロパンジオール、単糖アルコールおよび糖アルコールお並びにチオグリコールなど;(3)多酸素化された(polyoxygenated)ポリオールおよびこれらの誘導体、例えばジグリセロール、ポリグリセロール、グリセロールエトキシド、グリセロールプロポキシド、グリセリス(glyceryths)、アルキル化およびアセチル化グリセリス、ペンタエリトリトール、ペンタエリトリトールエトキシドおよびペンタエリトリトールプロポキシド、ならびにこれらのアルキル化誘導体およびアセチル化誘導体など;(4)窒素含有化合物、例えば尿素、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、イミダゾリジノン、N-ヒドロキシエチルアセトアミド、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリジノン、1-(ヒドロキシエチル)-1,3-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよび1,3-ジヒドロキシ-イミダゾリジノンなど;(5)硫黄含有化合物、例えば2,2'-チオジエタノール、ジメチルスルホキシド、及びテトラメチレンスルホンなど;および(6)水溶性のN-オキシド、例えば4-メチルモルホリン-N-オキシドなど。これらのうち、上記のグリセロールおよびこれらの多価アルコール誘導体が好ましく、グリセロールが特に好ましい。グリセロールの多価アルコール誘導体としては、グリセロールエトキシド、グリセロールプロポキシド、グリセリスが含まれる。保湿剤は単独で使用してもよく、1種または複数種の上記保湿剤を更に組合せて使用してもよい。有用な保湿剤が、対象とするプリンター装置の一般的な操作温度よりも低い融点を示すことで、プリントヘッド装置またはメンテナンス装置に結晶質の沈殿物が形成されることを防ぐ。実用的には、有用な保湿剤は30℃よりも低い融点、好ましくは20℃よりも低い融点、より好ましくは10℃よりも低い融点を示す。グリセロールおよびこれらの多価アルコール誘導体が使用される場合、それらは好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%、最も好ましくは3〜10重量%で使用される。単独または組合せて使用される水溶性の保湿剤と動的表面張力減少剤は任意の量で使用できるが、水溶性の保湿剤と動的表面張力減少剤の総量は、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは8〜20重量%である。
【0058】
本発明において使用される水性インク組成物のpHは、有機酸若しくは無機酸または有機塩基若しくは無機塩基を添加することによって調整できる。好ましくは、有用なインクは、使用される染料または顔料の種類、および使用される別のインク成分の電荷特性に基づいて、2〜10のpHを示すことができる。アニオン電荷で安定化された耐摩擦性ポリマーをインクの中で使用する場合、pHは6より高く、好ましくはpH領域が7〜11、より好ましくはpH領域が7.5〜10である。代表的な無機酸には、硝酸、塩酸、リン酸および硫酸が含まれる。代表的な有機酸には、メタンスルホン酸、酢酸、ギ酸および乳酸が含まれる。代表的な無機塩基には、アルカリ金属の水酸化物および炭酸塩が含まれる。代表的な有機塩基には、アンモニア、トリエタノールアミンおよびテトラメチレンジアミンが含まれる。また、周知の緩衝剤(商品)を使用してもよい。
【0059】
また、インクジェット用インク組成物は、無着色粒子、例えば無機粒子またはポリマー粒子を含有してもよい。このような粒子状添加物を使用することは、特に写真品質の画像を対象とするインクジェット用インク組成物において、この数年間で増加している。例えば、米国特許第5925178号明細書は、画像記録要素の顔料粒子の光学密度と、耐摩擦性とを向上させるために、顔料を基剤とするインク内に無機粒子を使用する技術を開示する。別の例において、米国特許第6508548号明細書は、印刷画像の耐光性と耐オゾン性を向上させるために、染料を基剤とするインク内に水分散性のポリマーを使用する技術を開示する。このような粒子を使用して、印刷画像の光沢不均一性、耐光性および/または耐オゾン性、耐水性、耐摩耗性および種々の更なる特性を改良する技術は、例えば、米国特許第6598967号明細書に記載されている。
【0060】
無着色粒子を含み、着色剤を含まない無色のインク組成物を使用してもよい。無着色のインク組成物は、多くの場合「フィクサー」技術、または普通紙上での色間にじみを減少させ、耐水性をもたらすために着色インク層の下層、上層もしくは共に印刷される不溶化流体として使用される(例えば、米国特許第5866638号明細書または同6450632号明細書参照)。また、無着色のインクは、通常、引っ掻き抵抗性と耐水性とを向上させるために使用され、印刷画像に該インクのオーバーコートをもたらす(例えば、米国特許出願公開2002/0009547号明細書および欧州特許出願公開第1022151号明細書参照)。また無着色のインクは、印刷画像内の光沢不均一性を減少させるために使用される(例えば米国特許第6604819号明細書、米国特許出願公開第2003/0085974号明細書、同2003/0085974号明細書、同2003/0189626号明細書参照)。
【0061】
本発明において有用な無機粒子の例には、以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アルミナ、ベーマイト、粘土、炭酸カルシウム、二酸化チタン、焼成粘土、アルミノ珪酸塩、シリカ、又は硫酸バリウム。
【0062】
インク組成物において使用される無着色粒子は、任意の有効量で存在でき、一般に0.01〜20重量%、好ましくは0.01〜6重量%の量で存在する。無着色粒子の的確な選択は、特定用途および印刷画像に要求される性質に基づいて行われる。
【0063】
ポリマーが本発明において使用されるインクジェット用インク内に存在してもよい。該ポリマーは、バインダーもしくは噴出を補助するものとして使用でき、あるいは他の有用な機能を実現するために使用できる。これらのポリマーは、水溶性ポリマー、水希釈性ポリマーまたは水分散性ポリマー粒子に分類できる。
【0064】
本発明において、「水溶性」という用語は、ポリマーを水中で溶解させ、該ポリマーの希釈溶液が動的光散乱法、または粒子分析の分野において公知である任意の他の技術を用いて分析される場合に、散乱が観察されないことを意味する。
【0065】
本発明において、「水希釈性」という用語は、ポリマーが水と混合することで、溶媒および水で膨潤するポリマー凝集体の適度に安定した分散系が形成されることを意味する(「有機コーティング:化学技術」(第2版、ウイック、ジョーンズおよびパパス著、ワイリーインターサイエンス刊、1999年参照)。このようなポリマーはモノマー中に幾つかの親水性基を有するが、塩基によって中和されるまで水に不溶である。
【0066】
本発明において、「水分散性」という用語は、ポリマーが水中で離散した形態(粒子状)で存在し、該粒子が分散または懸濁しており、多くの場合、分散剤を使用することによって凝集または凝固しないよう安定化されていることを意味する。水溶性ポリマーとは対照的に、水分散性ポリマーの希釈溶液は、動的光散乱または粒子分析の分野に公知の他の技術を利用して分析される場合に散乱を示す。
【0067】
インク組成物において有用な水溶性ポリマーには、非イオン性ポリマー、アニオン性ポリマーおよび両性ポリマーが含まれる。水溶性ポリマーの代表例には、以下のものが含まれる:ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチルオキサゾリン、ポリアミド、およびアルカリ可溶性樹脂、ポリウレタン(例えば、米国特許第6268101号明細書に記載のもの)、ポリアクリル、スチレン−アクリルメタクリル酸コポリマー(例えば、S.C.ジョンソン社製のJONCRYL(登録商標)70、メドウエストバコ社製のTRUDOT(登録商標)IJ−4655、およびエアプロダクツ・アンド・ケミカル社製VANCRYL(登録商標)68Sなど)、ならびに米国特許第6866379号明細書および米国特許出願公開第2005/0134665号明細書に例示されているポリマー。
【0068】
水分散性ポリマー粒子は、一般に付加重合体または縮合ポリマーに分類され、これらはいずれもポリマー化学の分野における当業者に公知である。水分散性ポリマー粒子群には、以下のものが含まれる:アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエーテル、ポリカーボネート,無水ポリ酸、およびこれらの混合物からなるコポリマー。このようなポリマー粒子はアイオノマーの形成、被膜形成、非被膜形成、可溶または大きな架橋をすることができ、広範囲な分子量とガラス転移温度を示してもよい。インクジェット用インクにおいて使用される水分散性ポリマー粒子の例としては、スチレン-アクリルコポリマー[以下の商品名で市販されている:JONCRYL(登録商標)(S.C.ジョンソン社製)、UCAR(登録商標)(ダウケミカル社製)、JONREZ(登録商標)(メドウエストバコ社製)およびVANCRYL(登録商標)(エアプロダクツ・アンド・ケミカル社製)];スルホン化ポリエステル[以下の商品名で市販されている:EASTMAN AQ(登録商標)(イーストマン・ケミカル社製)];ポリエチレンもしくはポリプロピレンの樹脂エマルション、およびポリウレタン(ウイトコ社製のWITCOBONDS(登録商標)など)である。
【0069】
また、コア・シェルポリマー粒子は、水膨潤性と耐摩擦性を改善するために使用されている(米国特許第5814685号明細書、同5912280号明細書、同6057384号明細書、同6271285号明細書、第6858301号明細書)。水分散性ポリマー粒子の更なる例としては、熱可塑性樹脂粒子(米国特許第6147139号および同6508548号にて開示)が含まれる。ポリマー粒子は、高いガラス転移温度と低いガラス転移温度とを有する樹脂(例えば米国特許第6498202号明細書に記載されている)の混合物であってもよい。さらに、コア・シェルポリマー粒子は、米国特許第5814685号明細書、同5912280号明細書、同6057384号明細書、同6271285号明細書および同6858301号明細書に記載されているものを使用してもよい。また、耐久性を増強するポリマー粒子に加えて、大きく架橋したポリマー粒子をインク内に添加してもよい。
【0070】
本発明において使用されるインクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクにおいて使用される特に好ましい粒子は、水溶性ポリアクリレートポリマーおよびポリウレタンラテックスバインダーポリマーである。貯蔵される水性インク内でのエステル官能基の加水分解によって、ポリマー主鎖の崩壊と官能性の喪失が引き起されるので、ポリエステルポリマー、すなわち、主鎖結合にエステル結合を有するポリマーは好ましくない。同様な理由から、側鎖にエステル官能基を有するポリマーもあまり好ましくない。
【0071】
任意の有用な量で水溶性のポリアクリレートポリマーを使用できるが、好ましくは、本発明において使用されるインクは、0.1重量%〜3重量%の間で水溶性のポリアクリレートポリマーを含有できる。水溶性のポリアクリレートポリマーは、付加重合体または縮合ポリマーであってもよく、これらはいずれもポリマー化学の分野における当業者に公知である。具体例としては、いかのものが含まれる(ただし、これらに限定されない);アクリル酸ポリマー;メタクリル酸ポリマー;スチレン−アクリル酸コポリマー;スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステルコポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステルコポリマー、スチレン−メタクリル酸コポリマー、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステルコポリマー、スチレン−マレイン酸ヘミエステルコポリマー、ビニルナフタレン−アクリル酸コポリマー、ビニルナフタレン−マレイン酸コポリマーなど。特に好ましくは、水溶性のポリアクリレートポリマーには、ベンジルメタクリレート−アクリル酸コポリマーとスチレン−マレイン酸ヘミエステルコポリマーが含まれる。これらのポリマーは、ポリマーの構成成分であるアクリル酸、マレイン酸またはメタクリル酸に由来する酸性基を有することにより水溶性を示す。酸性基を含むポリマーに関するポリマーの電荷安定性の程度は、ポリマーの酸価(AN)として示される。計算されるポリマーの酸価は、ポリマー形成原料におけるモノマー1g当りの酸性モノマーのモル数に56をかけた値で規定される(数字「56」は水酸化カリウムの分子量である)。測定された酸価は、水中に水酸化カリウムを滴定する場合、ポリマー1g当りに発見される酸の分子量に56をかけたものである。水溶性のポリアクリレートポリマーは、好ましくは100〜400、より好ましくは140〜300の酸価を示し、また、重量平均分子量Mwは、5000〜20000、より好ましくは6000〜16000である。
【0072】
任意の有用な量でポリウレタンラテックスバインダーを使用できるが、好ましい実施態様において、本発明において使用されるインクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクはそれぞれ、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.5〜2重量%の量でポリウレタンラテックスバインダーを含有する。
【0073】
ポリウレタンラテックスバインダーは、少なくとも2つのヒドロキシル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを含有する少なくとも1種のモノマーと、少なくとも2つのイソシアネート基を含有する別のモノマーから生成される。一般的に、ジイソシアネートがポリウレタン化学の分野において使用されるが、トリイソシアネートも使用できる。ジイソシアネートの例としては、イソホロンジイソシアネート、および上記文献に開示されたものが含まれる。本発明において使用されるポリウレタンは、必要に応じて、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する更なるモノマーと、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する該モノマーと異なるモノマーから生成される。一般的に、これらの必要に応じて使用されるモノマーは、比較的分子量が大きいモノマーである(ただし、該分子量は3000ダルトンよりも小さい)。これらは、該技術分野において、多くの場合ポリオールと称される。これらの例としては以下のものが含まれる:ポリオールおよびポリカーボネートのポリヒドロキシ誘導体、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリエステルアミドおよびポリチオエーテル。好ましくは、必要に応じて使用されるモノマーは、ポリカーボネートまたはポリエーテルである。より好ましくは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する必要に応じて使用されるモノマーは、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールである。少なくとも2つのヒドロキシル基と少なくとも1つのカルボン酸基とを含有するモノマーの例は、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸および4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-バレリアン酸のヒドロキシエチルエーテルである。その他の例は、米国特許第6268101号明細書、米国特許出願公開第2003/0184629号明細書、およびこれらの明細書において言及された参考文献に記載されている。水分散性ポリウレタンは、顔料インク中のバインダーとして米国特許第6533408号明細書に記載されており、良好な噴出性能と良好な印刷画像の耐久性を示すインクジェット用の顔料インクのための有用なポリウレタンが、米国特許出願公開第2004/0085419号明細書に開示されている。本発明において使用されるポリウレタンは、7500ダルトンよりも大きい重量平均分子量(Mw)を有する。Mwが7500ダルトンよりも小さい場合、インクジェット用インク組成物は、充分な着色性と引っ掻き抵抗性を提供できなくなる。10000ダルトンよりも大きいMwが好ましい。該ポリウレタンの最大Mwは特に限定されないが、一般的に組成物に要求される物理的特性と、以下に言及される印刷方法によって決定される。熱転写印字ヘッドに関するインクジェット用インクとしてインク組成物を使用する場合、ポリウレタンの最大Mwは、好ましくは50000ダルトンである。ポリウレタンの酸価は、同様に、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する少なくとも1つのモノマーによって付与される酸性基によりもたらされる。該酸性基は好ましくはカルボン酸基であるが、任意の種類の酸性基を使用してもよい。ポリウレタンラテックスバインダーは、50〜200の酸価、好ましくは60〜150の酸価、最も好ましくは70〜110の酸価を示してもよい。本発明において使用されるポリウレタンは、20〜180℃の間のガラス転移温度(Tg)、好ましくは40℃〜120℃の間のガラス転移温度、より好ましくは60℃〜100℃の間のガラス転移温度を示す。
【0074】
この種のポリマーを使用する際に、水溶性のポリアクリレートポリマーとポリウレタンラテックスバインダーとの合計に対する分散顔料の重量比が3:1〜1:2の間である場合、最も優れた印刷画像が得られる。より好ましくは、水溶性のポリアクリレートポリマーとポリウレタンラテックスバインダーとの合計に対する分散顔料の重量比は2:1〜1:1の間である。ポリマーの量が上記割合よりも少ない場合、不十分な噴出性と不十分な被膜形成とを引き起してしまう。一方で、ポリマーの量が上記割合よりも多い場合、不十分な噴出性と、噴出装置またはプリンターのメンテナンス装置の目詰まりと、種々の印刷媒体上でのインクの癒着を引き起してしまう。
【0075】
水性インク中で、かび、菌類などの微生物が増殖することを抑制するために、インクジェット用インク組成物に殺菌剤を添加してもよい。インク組成物用の好ましい殺菌剤は、最終的な濃度が0.0001〜5重量%であるPROXEL(登録商標)GXL(ゼネカ・スペシャリティーズ社製)、またはKORDEK(登録商標)である。インクジェット用インク組成物中に必要に応じて存在してもよい更なる添加剤には、濃厚剤、導電性向上剤、焦げ付き防止剤、乾燥剤、耐水化剤、染料可溶化剤、キレート化剤、バインダー、光安定剤、増粘剤、緩衝剤、防かび剤、カール防止剤、安定剤および消泡剤が含まれる。
【0076】
インクが吐出されるプリントヘッドの特定の用途および性能要求に基づいて、インク組成物の選択が的確に行われる。インクジェット印刷の技術分野で公知なように、ドロップ・オン・デマンド方式のインク噴出モード、または連続的インク噴出モードのいずれにおいても機能できる熱転写印字ヘッドおよび圧電性印字ヘッドは、確実かつ正確にインクを噴出するために、それぞれ異なる物理的性質を示すインク組成物を各々必要とする。許容できる粘度は、4cP以下、好ましくは1.0〜3.6cPの範囲、より好ましくは1.5〜3.0cPの範囲である。許容できる静的表面張力は60.0mN/m以下、好ましくは28.0mN/m〜40.0mN/mの範囲である。本発明において有用なインクの、0.01sの表面寿命における表面張力は、43.0mN/mより小さく、好ましくは42.0mN/mより小さく、最も好ましくは39.0mN/mより小さい。
【0077】
インク粘度は、数多くある任意の周知技術を用いて測定できる。好ましい方法には、例えば毛細管粘度計などを使用して、一定量の流体が毛細管を通過する時間を計測する方法、または、例えば回転球粘度計を使用して流体内を通過する球の滴下速度を計測する方法が含まれる。毛細管粘度計と、回転球法とを採用する市販のアントン・パール社製の自動マイクロ粘度計(AMVn)を、本明細書において記載する粘度の測定に使用した。本明細書において開示される、全てのインクの粘度の値は、重力下で誘発される、24℃〜26℃での剪断下で測定された。前述の値の単位はセンチポイズ(cP)(すなわち、1cP=10-3パスカル-秒(Pa*s)=10-2dyne*s/cm)である。粘度は高精度で測定できるが、本明細書における粘度の値は、小数第1位または小数第2位までの値であり、また、インクセット粘度のインクの粘度の値を記載する場合、通常、これらの値は概数値であり、端数が切り捨てられた値ではない。インクの粘度を列挙した全ての請求項は、通常、小数第1位で丸められたcPで表される値により解釈されることを意図する。
【0078】
ウィルヘルミープレート法は、固体界面での液体の静的表面張力を測定するための既知の方法である。該方法には、既知の寸法のプレート(一般的に粗面化された白金合金から選択される)が含まれ、該プレートは天秤から吊り下げられる。該プレートを、測定する溶液に接触させ、垂直方向の力をプレートに印加し、溶液とプレートとの間に液体メニスカスを形成させる。得られる表面張力は、以下の式に従って算出される:
σ=F/Lcos(θ)
式中、σは液体の表面張力を示し、
Fは、天秤に作用する力(ミリ−ニュートン/メートル)を示し、
Lは、プレートの濡れ長さ(ミリメートル)を示し、
θは、プレートと溶液との間の接触角を示す。
【0079】
一般的に、粗面化された白金を用いる結果、接触角は極めてゼロに近づき、コサインθは1に近づく。この方法に関する完全な理論的な取り扱いは、例えば、「ウィルヘルミープレートを用いる、表面張力と界面張力の測定方法」、コロイド・アンド・ポリマーサイエンス、第255巻(第7号)第675頁〜第681頁に記載されている。表面張力を測定するための数多くの市販の装置が知られているが、本発明において表面張力の値を示すために使用された装置は、クルス社製、K10ST型の張力計である。
【0080】
動的表面張力は周知の特性であり、動的表面張力を測定するための様々な技法が知られている。本発明によるインクセットの動的表面張力を測定するために使用される技法は、最大泡圧法と呼ばれている。該技法の詳細は、「最大泡圧法による動的表面張力の測定」コロイド・アンド・ポリマーサイエンス、第272巻、第731頁〜第739頁、1994年、を含む種々の刊行物に記載されている。
【0081】
最大泡圧法の基礎となる操作原理には、測定溶液(本明細書ではインクジェット用インク)中に浸漬された細い円柱型の毛細管内に空気流を通過させることが含まれる。該空気流れは、該毛細管から放出されるときに気泡を形成し、該気泡はインク溶液内に押出される。インクの表面張力は等式(1)を使用して決定される:
(1)ΔP=Pb−P=2σ/R
式中、Pは気泡内の圧力であり、Pは周囲の溶液の圧力であり、σはインクの表面張力であり、Rは気泡の半径である。
気泡の半径Rが毛細管の半径rと等しくなる位置で、気泡内の圧力が最大になり、等式(1)を等式(2)のように書き換えることができる。
(2)σ=ΔPmr/2
式中、ΔPmは、気泡の内側と外側との間の圧力の最大差である。この最大圧力を超えると、気泡は毛細管から放出され、該過程が再び開始される。気泡形成の過程は、該気泡形成の頻度が非常に速い頻度から比較的遅い頻度まで変化するように制御されてもよい。気泡生成の速度は、溶液中での気泡の表面寿命の存続期間に関連する。例えば、気泡形成の頻度が変動することで、10ミリ秒〜50000ミリ秒の表面寿命がもたらされる。その結果、動的表面張力に対する時間(表面寿命の存続期間)のプロットを得ることができる。表面張力を測定するための数々の市販の装置が知られているが、本発明における動的表面張力の値を測定するために使用された装置は、クルス社製BP-2気泡張力計である。本明細書において記載される全てのインクの表面張力値は、24℃〜26度で測定されている。
【0082】
前述の表面張力値は、ミリニュートン/メーター(mN/m)[1mN/m=1dyne/cmである]として表されることが好ましい。表面張力は高精度で測定されるが、本明細書における表面張力値は、小数第1位または小数第2位までの値であり、また、インクの表面張力値またはインクセットの表面張力が記載されている場合、通常、これらの値は概数値であり、端数が切り捨てられた値ではない。表面張力が記載された全ての請求項においては、該表面張力は通常は小数第1位までの概数であり、これらの値の単位はmN/mである。
【0083】
本発明において記載される粘度で正規化された表面張力の単位は、mN/(m*cP)であり、この比は正確には、液体の取り込み速度に対して予測されるようにm/s単位の速度である。粘度で正規化された表面張力が記載された全請求項においては、該表面張力は通常は小数第1位までの概数であり、これらの単位はmN/(m*cP)である。
【0084】
本発明において使用される有用なインクセットにおけるインクの静的表面張力は、色間にじみを最小限にするために特定の関係を有してもよい。このような関係は、共同で譲渡された特許出願第60/892176号明細書(2007年2月28日出願)に記載されている。シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを使用する有用な1つの実施態様において、イエローインクの静的表面張力は、インクセットのシアンインクとマゼンタインクの静的表面張力よりも少なくとも2.0mN/m小さい。シアンインク、マゼンタインク、イエローインクおよびブラックインクを使用する別の有用な実施態様において、イエローインクの静的表面張力は、インクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびブラックインクの静的表面張力よりも少なくとも2.0mN/m小さい。シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクおよび無色の保護インクを使用する別の有用な実施態様において、イエローインクと無色の保護インクの静的表面張力は共に、インクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびブラックインクの静的表面張力よりも少なくとも2.0mN/m小さく、好ましい実施態様において、無色の保護インクの静的表面張力は、該イエローインクの静的表面張力よりも少なくとも1.0mN/m小さい。これら全ての実施態様においては、前記の特許出願60/892176号明細書に記載されているようにインクセットの全インクに関する、表面寿命10m秒での動的表面張力は35mN/m以上である。
【0085】
上記インクジェット用インク、インクジェット用インクセットおよび画像形成方法は、当業者に既知である任意の適当なインクジェット画像の受容体に有用に使用される。該受容体には以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):艶消しおよび光沢を有する普通紙、カードストック、ボール紙、透明または不透明なプラスチックおよびビニル、表面加工紙、コート紙および多層構造の画像受容体。微孔性で光沢を有する受容体が、本発明によるインクジェット用インク、インクジェット用インクセットおよびインクジェット画像の形成方法で使用するための画像形成媒体として特に好ましい。
【0086】
本発明において使用されるインクジェットインクは、この技術分野において既知のインクジェット用インク容器、またはインク噴出器にインクを供給するために適するカートリッジに収納されてもよい。該容器は、本発明によるインクを個別に収容する1個または複数個のインク貯蔵部を有してもよい。別の実施態様において、卓上用途を目的とする場合、該貯蔵部はそれぞれ20ml以下のインクを貯蔵する。商業用途を目的とする対象において、該貯蔵部はそれぞれ5リットルまでのインクを貯蔵する。
【実施例】
【0087】
実施例
実施例I:DST剤の効用
42種類の着色インクを以下の配合に従って調製した(%とは、重量%を意味する)。使用する全ての成分(顔料を除く)は、使用量で水溶性を示した。マイクロトラック社製、ナノトラック型の超微細粒度分析器(UPA)を使用してインクの粒子径を測定した。
【0088】
シアンインク1は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、5.4%のエチレングリコール、7.5%のグリセロール、0.75%のSURFYNOL-465、1.3%のTRUDOT(登録商標)[スチレン-アクリレートポリマー(IJ4655)]、0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.045ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0089】
マゼンタインク2は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、8%のエチレングリコール、8%のグリセロール、0.5%のSURFYNOL-465、1.3%のTRUDOT(登録商標)[スチレン-アクリレートポリマー(IJ4655)]、0.15%のトリエタノールアミン、0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.016ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0090】
イエローインク3は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、5%のエチレングリコール、10%のグリセロール、0.5%のPK90(界面活性剤)、1.3%のTRUDOT(登録商標)[スチレン-アクリレートポリマー(IJ4655)]、0.13%のトリエタノールアミン、0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.010ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。シアンインク1、マゼンタインク2およびイエローインク3を共に使用してインクセット1を形成した。
【0091】
試験インク4〜42(合計39種類の試験インク:13種のシアンインク、13種のマゼンタインク、13種のイエローインク)は、上記配合に対してそれぞれ、1%、2%、3%、4%もしくは5%の1,2-ヘキサンジオール、または1%、2%、3%、4%もしくは5%のジエチレングリコールモノブチルエーテル、または1%、3%もしくは5%のトリエチレングリコールモノブチルエーテルを添加することによって調製した。
【0092】
インクジェット用インク噴出器へのインク供給に適したインクジェット用のインクカートリッジに、該インクを充填した。
【0093】
普通紙上に滑らかな画像を形成するためのこれらのインクの性質は、添加するDST調整剤の種類と添加量により差別化されたインクセット内で、該インクを混合させることによって評価した。すなわち、インクセット1はDST剤を含有しないコントロールであり、インクセット2は、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのそれぞれに、1重量%の1,2-ヘキサンジオールを含有し、インクセット3〜6は、2重量%、3重量%、4重量%または5重量%の1,2-ヘキサンジオールをそれぞれ含有するシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを含有し、インクセット7〜11は、1重量%、2重量%、3重量%、4重量%もしくは5重量%のジエチレングリコールモノブチルエーテル(商品名DOWANOL DB)を含有し、インクセット12〜14は、1重量%、3重量%もしくは5重量%のトリエチレングリコールモノブチルエーテル(ポリエチレングリコールモノブチルエーテルとして市販されている場合もある)を含有した。これらのインクセットは印刷原色(すなわち、シアンおよびマゼンタ)および、二次色(すなわち、レッド、グリーンおよびブルー)に使用され、カラーパッチを、キャノン社製i960型インクジェットプリンター(サーマル噴出型)を使用して、5種類の代表的な普通紙、すなわちジョージア・パシフィック社製のインクジェット紙(20#、明度92)、ゼロックス社製のエクストラブライト・インクジェット紙(24#、明度95)、ハンマーミル社製のフォーMP多目的紙(20#、明度92)、ヒューレット・パッカード社製の多目的紙(20#、明度92)、およびヒューレット・パッカード社製の上質紙(20#、明度92)上に印刷した。印刷されたカラーパッチは、2000年7月に発刊されたコダック技術データ資料E-58内の表題「プリントグレインインデックス」に記載されているコダック社製の「グレインルーラー」を使用して、均質性に関して視覚的に評価した。上記5種類の各普通紙に印刷処理をおこなった後、シアン、マゼンタ、レッド、グリーンおよびブルーの各パッチの粒状性または斑点を、プリントグレインインデックス(PGI)を評価した。DST調整剤を添加したものは、原色(単独で印刷されたシアンおよびマゼンタのカラーパッチ)と、二次色(2種類の原色パッチを重ねて印刷することにより調製されたレッド、グリーンおよびブルーのパッチ)に関するPGIを低下させることを可能とした。また、DST調整剤の含有量が比較的高いものは、PGI法により評価されたいずれの場合においても、画像の斑点をより大きく減少させることを可能とした。斑点の減少効果は、中間色、グレーおよびブラックを形成する2種または3種のインクの不均一な混合物を含む連続色調画像においてさらに観察された。各インクセットに関するこれら25個のPGI測定の平均は一覧にされ、印刷の粒子粗さの全変化を表1に記載した。ここで、負の値は、より均質で粒子が細かく、斑点が少ない画像に相当する。4種類の普通紙の相違は、視覚的に平均的な観察者の95%によって容易に識別された。この試験方法は簡単な手段として採用され、含有されるDST減少剤の添加量と種類で差別化されている各インクから調製されたインクセットは、同様に優れた結果を示したことが理解されている。
【0094】
【表1】

【0095】
含有されたDST剤の種類と添加量によって、普通紙上の画像の粒子粗さの減少に影響を及ぼすことは容易に理解できる。インクセット3〜14は、圧倒的多数の観察者に対して明確な、普通紙粒状性の減少を示す。DST剤として極めて少量の1,2−ヘキサンジオールのみを包含するインクセット2は、極めて少量の変化のみを示す。
【0096】
実施例II:一部のインクの調整効果
平行しておこなった実施例において、3種類のインクのうち1種または2種のインクのみがDST減少剤を包含することにより改質されているシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを含有するインクセットを調製し、上記のようにして評価した。総合的な粒状性評価の著しい改良が一部の例で観察されたが、該粒状性は再現される色に非常に依存するので、効果は一様ではなく、許容できなかった。例えば、マゼンタインクのみが効果的な量のDST調整剤を包含する場合、マゼンタパッチの粒状性には充分な減少が生じ、レッドパッチおよびブルーパッチの粒状性は中程度で減少し、シアンパッチ、イエローパッチまたはグリーンパッチの粒状性は減少しなかった。DST調整剤は該剤を包含するインクから誘導される色にのみ作用するので、全てのカラー画像に対して、均質で視覚的に好適な粒状性の減少をもたらすために、インクを形成する3原色(シアン、マゼンタおよびイエロー)中にDST減少剤を存在させる必要があることは容易に理解される。
【0097】
実施例III:インクの物理的特性と噴出性に対するDST減少剤の効果
実例として、上記実施例Iの幾つかのマゼンタインクに関する、粘度、静的表面張力、0.01sの表面寿命における表面張力、粘度で正規化された0.01sの表面寿命における表面張力、および発射周波数(firing frequency)の限界値を、以下の表2に記載する。この表によると、インクに直接添加されるDST剤が、インクの粘度を増加させ、同時にインクの静的表面張力と0.01sの表面寿命におけるインクの表面張力を減少させること、ならびに得られる効果は使用されるDST剤の種類に依存することが判る。さらにこの表によると、過剰量のDST剤は、発射周波数の最大値が減少することから示されるように、サーマル噴出器からのインクの適切な噴出を妨げ、不十分な印刷速度と印刷物の不十分な処理量を導くことが判る。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例IV:インクセットの物理的特性と外観の評価
上記インクセット1〜6における各インクの、粘度で正規化された0.01sの表面寿命における表面張力と、インクセットの平均粘度で正規化された0.01sの表面寿命における表面張力と、普通紙の粒状性の変化に関して、上記方法に従い測定された全て結果を以下の表3に纏める。表から判るように、普通紙上の画像の粒子粗さにおける有用な減少(すなわち、少なくとも4種類のグレイン単位による粒子粗さの減少)は、インクセット内のシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、23mN/(m*cP)より小さい、粘度で正規化された0.01sの表面寿命における表面張力を示し、該3種類のインクに関して、22mN/(m*cP)より小さい、平均粘度で正規化された0.01sの表面寿命における表面張力を示す場合にのみ達成される。これらの条件は共に、全ての原色、二次色および混合色における視覚的改良を保証する
【0100】
【表3】

【0101】
実施例V:粒子径の効果
シアン、マゼンタまたはイエローの各顔料分散液を、インク101〜118を調製するために異なる粒径に粉砕された対応する顔料分散液へと置き換えることにより、上記インクセットから得られる様なコントロールインクを変化させた。これらのインクをそれぞれコダック社製の光沢のある媒体上に印刷し、光沢計を使用して20度での光沢を測定した。比較的高い光沢値は、常套の写真画像を連想させるような比較的反射性の高い画像に相当する。試験インク中の顔料の体積加重した第50百分位数での粒径と印刷後の光沢値を以下の表4に示す。光沢を有する媒体上での高い光沢値は、比較的小さな粒径の顔料を使用する場合にのみ得られることが表から容易に判る。
【0102】
【表4】

【0103】
実施例VI:有用なインクセットの特性測定
単独で使用する際のインク粘度の変化が及ぼす影響と、単独で使用する際の、0.01sの表面寿命におけるインクの表面張力の変化が及ぼす影響と、混合して使用する際の、普通紙上の画像の粒子粗さと写真光沢紙の特性に及ぼす影響とを充分に比較することを目的として、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを含む比較用または本発明によるインクジェット用インクもしくはインクジェット用インクセットの配合を、以下のようにして調製した。
【0104】
比較用のシアンインク201(粘度および0.01sでの表面張力は先行技術の範囲、DST剤を含まない)は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.5%のグリセロール、4.5%のエチレングリコール、0.75%のSURFYNOL-465、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.060ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0105】
比較用のマゼンタインク202(粘度および0.01sでの表面張力は先行技術の範囲、DST剤を含まない)は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、8%のグリセロール、5.0%のエチレングリコール、0.50%のSURFYNOL-465、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.013ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0106】
比較用のイエローインク203(粘度および0.01sでの表面張力は先行技術の範囲、DST剤を含まない)は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、10%のグリセロール、2.0%のエチレングリコール、界面活性剤として0.75%のTERGITOL(登録商標)15s5、1.5%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.60%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.009ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。比較用のインク201(シアン)、202(マゼンタ)および203(イエロー)を共に使用して、比較用のインクセット20を調製した。
【0107】
本発明によるシアンインク211(粘度が上昇し、DST剤が0.01sでの表面張力を制御した)は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、4.5%のグリセロール、4.5%の1,5−ペンタンジオール、2%のトリエチレングリコール、4%の1,2−ペンタンジオール、1.0%のSURFYNOL-465、1.1%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、0.9%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.060ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0108】
本発明によるマゼンタインク212(粘度が上昇し、DST剤で0.01sでの表面張力を制御した)は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、5.5%のグリセロール、5.5%の1,5−ペンタンジオール、4.0%のトリエチレングリコール、3.0%の1,2−ペンタンジオール、0.75%のSURFYNOL-465、1.2%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.0%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.013ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0109】
本発明によるイエローインク213(粘度が上昇し、DST剤で0.01sでの表面張力を制御した)は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.0%のグリセロール、4.0%の1,5−ペンタンジオール、3%の1,2−ペンタンジオール、界面活性剤として0.5%のTERGITOL(登録商標)15s5、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.009ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。本発明によるインク211(シアン)、212(マゼンタ)および213(イエロー)を共に使用して、本発明によるインクセット21を調製した。
【0110】
試験用のシアンインク221(粘度は増加し、0.01sでの表面張力は変化しなかった)は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、6.0%のグリセロール、6.0%の1,5−ペンタンジオール、2%のトリエチレングリコール、1.0%のSURFYNOL-465、1.1%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、0.9%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.060ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0111】
試験用のマゼンタインク222(粘度は増加し、0.01sでの表面張力は変化しなかった)は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、6.8%のグリセロール、6.8%の1,5−ペンタンジオール、4.0%のトリエチレングリコール、0.75%のSURFYNOL-465、1.2%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.0%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.013ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0112】
試験用のイエローインク223(粘度は増加し、0.01sでの表面張力は変化しなかった)は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、8.3%のグリセロール、5.3%の1,5−ペンタンジオール、界面活性剤として0.5%のTERGITOL(登録商標)15s5、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.009ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0113】
試験用のインク221(シアン)、222(マゼンタ)および223(イエロー)を共に使用して、試験的なインクセット22を調製した。
【0114】
試験用のシアンインク231(粘度は変化せず、DST剤で0.01sでの表面張力を調整した)は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、6.1%のグリセロール、4.0%の1,2−ペンタンジオール、1.0%のSURFYNOL-465、1.1%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、0.9%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量〜26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.060ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0115】
試験用のマゼンタインク232(粘度は変化せず、DST剤で0.01sでの表面張力を調整した)は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.6%のグリセロール、3.0%の1,2−ペンタンジオール、0.75%のSURFYNOL-465、1.2%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.0%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、緩衝剤として0.05%のトリエタノールアミン、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.013ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0116】
試験用のイエローインク233(粘度は変化せず、DST剤が0.01sでの表面張力を調整した)は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.4%のグリセロール、3.0%の1,2-ペンタンジオール、界面活性剤として0.5%のTERGITOL(登録商標)15s5、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比77:23、酸価約137)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.009ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。
【0117】
試験用のインク231(シアン)、232(マゼンタ)および233(イエロー)を共に使用して、試験的なインクセット23を調製した。
【0118】
以下の表5に概略的に示すように、これらの4種類のインクセットは、インクおよびインクセットの粘度と0.01sでの表面張力が比較的高い値と低い値を示す実験設計の境界を示す。
【0119】
【表5】

【0120】
さらに、この実験設計に関して、中間の性質を示すインクの実験評価を行うことに適する更なる試験用インクは、個々のインクを混合することによって容易に調製できることが理解できる。例えば、高い粘度と0.01sでの表面張力が中間値を示すシアンインクは、シアンインク211とシアンインク221とを1:1で混合したものから容易に得ることができ、同様に、粘度の中間値と表面張力の中間値を示すマゼンタインクは、マゼンタインク222とマゼンタインク232とを1:1で混合したものから容易に得ることができる。さらに、設計された4種類の基本的なインクから調製される、類似したカラーインクの複合混合物は、種々の中間組成物を含み、種々の粘度と0.01sでの表面張力特性とを示すインクをもたらす。同様な傾向から、試験的に明示された紙面を印刷するインクセットは、「境界」インクまたは種々の中間混合インクを使用して調製できる。この方法において、インクセット20,21、22および23インクにより印刷された紙面は、実験を通じて評価される。境界なインクと混合インクの重要な物理的特性を測定し、幾つかの中間(混合)インクのその他の特性を補間法により算出した。
【0121】
種々のインクを、デザイン範囲を充足するインクセット内に集め、インクセットカートリッジに装着した。次いで、画質評価の対象となる画像を、これらの種々のインクセットを使用して、コダック社製5300型卓上プリンターを用いて1組の普通紙と光沢を有する媒体上に印刷した。画質を判定する観察者によって、得られた画像を、普通紙上の画像粒子粗さ、普通紙の色間にじみ、普通紙の癒着、光沢媒体の色間にじみ、光沢媒体の光沢および光沢媒体の癒着に重点をおいて評価した。全てのインクセットは色間にじみに関して良好な結果をもたらした。インクセットの種類、物理的特性および判定結果を以下の表6に示す。
【0122】
【表6】

【0123】
評価されたインクセットにおいて、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、全て23mN/(m*cP)より小さい、粘度で正規化された表面張力(表面寿命0.01s)を示し、3種類のインクの平均粘度で正規化された表面張力(表面寿命0.01s)が、22mN/(m*cP)より小さい場合、充分な向上が観察された。また、評価されたインクセットにおいて、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、全て22mN/(m*cP)より小さい、粘度で正規化された表面張力(表面寿命0.01s)を示し、3種類のインクの平均粘度で正規化された表面張力(表面寿命0.01s)が、21mN/(m*cP)より小さい場合、優れた向上が観察された。
【0124】
実施例VII:粘度、および粘度で正規化された0.01sでの表面張力の極限
本発明によるシアンインク401は、2.2%のPB15:3顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.0%のグリセロール、5%の1,5−ペンタンジオール、3.0%の1,2−ペンタンジオール、1.0%のSURFYNOL-465、1.3%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比67:33、酸価約200)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.060ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。このインクは、35.3mN/mの静的表面張力と、2.10cPの粘度と、38.1mN/mの、0.01sでの表面張力と、18.1mN/(cP*m)の、粘度で正規化された0.01sでの表面張力とを示した。
【0125】
本発明によるマゼンタインク402は、3%のPR122顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、6.5%のグリセロール、6.5%の1,5−ペンタンジオール、2%のトリエチレングリコール、2.25%の1,2−ペンタンジオール、0.75%のSURFYNOL-465、1%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比67:33、酸価約200)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.013ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。このインクは、36.4mN/mの静的表面張力と、2.58cPの粘度と、40.8mN/mの、0.01sでの表面張力と、15.8mN/(cP*m)の、粘度で正規化された0.01sでの表面張力とを示した。
【0126】
本発明によるイエローインク403は、2.75%のPY155顔料(米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.33%のグリセロール、4.33%の1,5−ペンタンジオール、2.25%の1,2−ペンタンジオール、界面活性剤として0.5%のTERGITOL(登録商標)15s5、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比67:33、酸価約200)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクにおける顔料粒子は、0.009ミクロンの、体積加重した第50百分位数での粒径を示した。このインクは、32.5mN/mの静的表面張力と、2.04cPの粘度と、41.8mN/mの、0.01sでの表面張力と、20.5mN/(cP*m)の、粘度で正規化された0.01sでの表面張力とを示した。
【0127】
フォトブラックインク404は、1.63%のPK−7カーボンブラック、0.38%のPB15:3顔料および0.5%のPR122顔料(各顔料に、米国特許第5679138号明細書、同5651813号明細書、同5985017号明細書に開示されているようにして、オレイルメチルタウリン酸カリウム(KOMT)を同様に使用して分散させた)、7.0%のグリセロール、4.0%の1,5−ペンタンジオール、4.0%のトリエチレングリコール、0.45%のSTRODEXPK-90、0.9%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比67:33、酸価約200)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、0.3%のトリエタノールアミン、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。このインクは、35.2mN/mの静的表面張力と、1.97cPの粘度と、44.7mN/mの、0.01sでの表面張力と、22.7mN/(cP*m)の、粘度で正規化された0.01sでの表面張力とを示した。
【0128】
インクジェット用インク401(シアン)、402(マゼンタ)、403(イエロー)および404(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40を調製した。
【0129】
シアンのインクジェット用インク401a〜401e、マゼンタのインクジェット用インク402a〜402e、イエローのインクジェット用インク403a〜404e、フォトブラックのインクジェット用インク404a〜404eは、保湿剤の含有量を増加させることにより、粘度を比較的高い値へと調整することによって、インク401〜404に類似させて調製した。これらのインクの粘度、および粘度で正規化された0.01sでの表面張力を、以下の表7において記載する。インクジェット用インク401a(シアン)、402a(マゼンタ)、403a(イエロー)および404a(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40aを調製した。インクジェット用インク401b(シアン)、402b(マゼンタ)、403b(イエロー)および404b(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40bを調製した。インクジェット用インク401c(シアン)、402c(マゼンタ)、403c(イエロー)および404c(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40cを調製した。インクジェット用インク401d(シアン)、402d(マゼンタ)、403d(イエロー)および404d(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40dを調製した。インクジェット用インク401e(シアン)、402e(マゼンタ)、403e(イエロー)および404e(フォトブラック)を共に使用して、本発明によるインクジェット用インクセット40eを調製した。光沢のある写真用紙と普通紙上の画質に関して、これらのインクジェット用インクセットを上記と同様に評価した。結果を以下の表7に示す。
【0130】
【表7】

【0131】
これらのインクセットを使用して、光沢のある媒体上に画像が印刷される場合、インクセット内のインクの粘度が増加すること、またはインクセット内のインクの、粘度で正規化された0.01sでの表面張力が減少することにより着色剤の癒着を増加させることが容易に判る。各インクジェット用インクの粘度を4.0cPより低く維持し、インクジェット用インクセットの平均粘度を3.6cPより低く維持することが好ましく;各インクジェット用インクの粘度を3.7cPより低く維持し、インクジェット用インクセットの平均粘度を3.2cPより低く維持することがより好ましく;各インクジェット用インクの粘度を3.3cPより低く維持し、インクジェット用インクセットの平均粘度を3.1cPより低く維持することが就中より好ましく;各インクジェット用インクの粘度を3.0cPより低く維持し、インクジェット用インクセットの平均粘度を2.9cPより低く維持することが最も好ましいと理解できる。同様に、各インクジェット用インクの、粘度で正規化された0.01sでの表面張力を10.5mN/m*cPより高く維持し、インクジェット用インクセットの、平均粘度で正規化された0.01sでの表面張力を11.5mN/m*cPより高く維持することが好ましく;各インクジェット用インクの、粘度で正規化された0.01sでの表面張力を11.5mN/m*cPより高く維持し、インクジェット用インクセットの、平均粘度で正規化された0.01sでの表面張力を12.5mN/m*cPより高く維持することがより好ましく;各インクジェット用インクの、粘度で正規化された0.01sでの表面張力を12.5mN/m*cPより高く維持し、インクジェット用インクセットの、平均粘度で正規化された0.01sでの表面張力を14.0mN/m*cPより高く維持することが就中より好ましいと理解できる。
【0132】
実施例8:保護インクまたはフォトブラックインクにDST剤を添加した場合の光沢の向上
テキストブラックインク505は、自己分散型カーボンとして4.5%のオリエント351、0.4%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー、12%のグリセロール、界面活性剤として0.4%のTERGITOL(登録商標)15s12、0.23%のトリエタノールアミン、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)、ならびに残余量の水を含有した。
【0133】
透明インク506は、0.8%のベンジルメタクリレート-アクリル酸コポリマー(重量比67:33、酸価約200)、1.2%のポリカーボネート−ポリウレタン(酸価76、分子量約26000ダルトン)、12.0%のグリセロール、6.0%のエチレングリコール、0.75%のTERGITOL(登録商標)15-s-5、抗菌剤として0.02%のKORDEK(登録商標)MLXを含有した。
【0134】
透明インク507は、0.01sでの表面張力減少剤として2%の1,2-ペンタンジオールを添加したことを除き、透明インク506と同様にして調製した。透明インク507は、20.3mN/(cP*m)の、粘度で正規化された0.01sでの表面張力を示した。
【0135】
インク401、402、403、404、505および506を含有するインクジェット用インクセット50を準備し、カートリッジに装着した。インク201,202、203、404、505および506を含有する比較用のインクジェット用インク20aを準備し、カートリッジに装着した。比較用のインクジェット用インクセット20aを含有するカートリッジと、本発明によるインクジェット用インクセット50を含有するカートリッジとを、コダック社製の5300型インクジェットプリンターに連続して装着した。光沢を評価するための7色を含むパッチセットを、各インクセットのシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのみを使用する印刷モードを使用して、コダック社製の写真用光沢媒体上に印刷した。比較用のインクジェット用インクセットは、20°で平均33.6の光沢を示し、本発明によるインクジェット用インクセットは、20°で平均51.5の光沢を示した(53%向上した)。さらに、種々の市販されている有用な写真用光沢紙上に印刷したところ、測定された光沢は同様に向上した。
【0136】
別の実施態様において、インク401、402、403、404、505および507(即ち、透明インク中に1,2−ペンタンジオールを含むインクセット)を含有するインクセット50aに対して、インクセット50を比較した。両インクセットを、特に、印刷されていない範囲と明色範囲に透明インクが使用される印刷モードを使用して、コダック社製の5300型インクジェットプリンターで写真用光沢媒体上にそれぞれ印刷する場合、インクセット50aは、明色の光沢において著しい増加を示した。従って、インクジェット用インクセットにおける保護インクに関して、0.01sでの表面張力を制御することの効用が明らかにされ、インクジェット技術において、0.01sでの表面張力の減少効果を改めて明らかにした。
【0137】
別の実施態様において、3%の1,2-ペンタンジオールを組み込むことでフォトブラックインク404を改質し、フォトブラックインク508を調製した。インク401、402、403、508、505および507を使用してインクジェットインクセット50cを調整した。評価の結果、このインクジェット用インクセットも、優れた普通紙上での画像の粒子粗さを示し、癒着することなく写真用光沢紙上での高い光沢を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンインクと、マゼンタインクと、イエローインクとを含有するインクジェット用インクセットであって、
該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクがそれぞれ独立して、
少なくとも65重量%の水と、1〜5重量%の分散顔料着色剤と、静的表面張力を減少させる界面活性剤と、該界面活性剤とは異なる動的表面張力減少剤と、該界面活性剤および該動的表面張力減少剤とは異なる少なくとも1種の保湿剤とを含有し;
該界面活性剤、該動的表面張力減少剤および該少なくとも1種の保湿剤が、該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの間で同一であってもよく異なっていてもよく;
該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの各インクが、23.0mN/(m*cP)よりも小さい、粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力を示し;
併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクに関する、平均粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力が22.0mN/(m*cP)よりも小さい値であることを特徴とする
該インクセット。
【請求項2】
シアン、マゼンタおよびイエローの分散顔料着色剤の各着色剤が、1〜85nmの、体積加重した第50百分位数での粒径を有する請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
インクセットの少なくとも1種のインクに対して、該分散顔料着色剤が、オレイルメチルタウレートのカリウム塩で分散させた界面活性剤分散型顔料である請求項1に記載のインクセット。
【請求項4】
インクセットの少なくとも1種のインクに対して、該分散顔料着色剤が、自己分散型顔料着色剤またはポリマー分散型顔料着色剤である請求項1に記載のインクセット。
【請求項5】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、更にポリウレタンバインダーポリマーを含有する請求項1に記載のインクセット。
【請求項6】
インクセットの少なくとも1種のインクが、更にベンジルメタクリレート−アクリル酸コポリマーを含有する請求項5に記載のインクセット。
【請求項7】
フォトブラックインク、テキストブラックインク、透明インク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、オレンジインク、グリーンインク、ホワイトインク、レッドインク、バイオレットインク、ブルーインクおよびブラウンインクから選択される少なくとも1種の補助的なインクをさらに含有する請求項1に記載のインクセット。
【請求項8】
少なくとも1種の補助的なインクが、動的表面張力減少剤を含有する請求項7に記載のインクセット。
【請求項9】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクに関する動的表面張力減少剤が、非対称の多価アルコール、または多価アルコールから誘導されるモノアルキルエーテルを含有する請求項1に記載のインクセット。
【請求項10】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクに関する動的表面張力減少剤が、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1-フェニル-1,2−エタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールまたは1,3−ヘキサンジオールを含有する請求項9に記載のインクセット。
【請求項11】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクに関する動的表面張力減少剤が、76〜350ダルトンの分子量と、96℃よりも高い引火点とを有する請求項9に記載のインクセット。
【請求項12】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクに関する動的表面張力減少剤が、90〜350ダルトンの間の分子量と、96℃よりも高い引火点とを有する請求項1に記載のインクセット。
【請求項13】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、43mN/mよりも小さい、0.01sの表面寿命における表面張力を示す請求項1に記載のインクセット。
【請求項14】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの平均粘度が3.0cPよりも低い請求項1に記載のインクセット。
【請求項15】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクが、12.5mN/(m*cP)より大きい、粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力を示し;
併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクに関する、平均粘度で正規化された0.01sの表面再生寿命における動的表面張力が14.0mN/(m*cP)よりも大きい値であることを更に特徴とする請求項1に記載のインクセット。
【請求項16】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの各インクの粘度が3.0cPよりも低く、併用される該シアンインク、該マゼンタインクおよび該イエローインクの平均粘度が2.9cPよりも低い請求項15に記載のインクセット。
【請求項17】
サーマル噴出、ストリーム噴出(stream ejection)またはピエゾ噴出によって、記録媒体に請求項1に記載のインクセットを塗布することを含むインクジェット記録方法。
【請求項18】
以下の工程を含む請求項17に記載のインクジェット記録方法:
a)デジタルデータ信号に反応するサーマルインクジェットプリンター、ストリームインクジェットプリンターまたはピエゾインクジェットプリンターを準備し、
b)該プリンターにインクジェット用の記録要素を装着し、
c)該プリンターに請求項1に記載のインクジェット用インクセットを装着し、および、
d)該デジタルデータ信号に応答して、該インクセットを使用することで該インクジェット用の記録要素上にカラー画像を印刷する。
【請求項19】
プリンターがサーマルプリントヘッドを含む請求項18に記載のインクジェット記録方法。

【公表番号】特表2011−510108(P2011−510108A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540638(P2010−540638)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/013725
【国際公開番号】WO2009/085138
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】