説明

高速回転するロータを支承するための軸受装置

本発明は、ロータ軸受と減衰装置とを備えた、高速回転するロータを支承するための軸受装置(1)に関する。ロータ軸受は軸受レース(6)を、減衰装置は減衰インナスリーブ(7)を有している。軸受レース(6)は減衰インナスリーブ(7)により包囲されており、ねじ(11)により減衰インナスリーブ(7)に固定のために固く結合されている。軸受レース(6)は、ねじ(11)のねじ山が係入する雌ねじ山(10)を有している。減衰インナスリーブ(7)は、ねじ(11)の自由な通過を許可する開口(14)を有している。減衰インナスリーブ(7)上には、ねじ(11)を収容するための圧力分配エレメント(15)が配置されている。軸受装置(1)はオープンエンド紡績機のスピニングロータ(2)を支承するために役立つ。軸受装置(1)の構成により、組み立て、調整およびメンテナンスは簡単化される。軸受装置(1)のコストは減じられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した形式の、高速回転するロータを支承するための軸受装置に関する。
【0002】
この種の高速のロータ支承部はオープンエンド紡績機で使用され、発生する高い動的な力を解消することができるように、減衰装置のインナスリーブ内に固定されている。インナスリーブはゴム弾性的なエレメントによりロータハウジング内に保持されている。ロータ支承部と減衰装置のインナスリーブとの間には、固有弾性に起因する付加的な固有共振が発生するのを阻止するために、できるだけ剛性的な結合が形成される。ロータ支承部はロータと共に軸方向でロータハウジング内で、ロータを給糸および排糸のエレメントに対する正しい位置に調節することができるように調整可能でなければならない。この軸方向のポジショニングは、ロータ支承部が減衰装置のリング状の減衰エレメントと共にロータハウジング内で摺動させられることにより行われるか、またはロータ支承部だけが、既に前固定された減衰エレメント内で摺動させられることにより行われることができる。
【0003】
リング状の減衰エレメントは比較的長い紡績運転後、異物、塵埃および振動腐食によりロータハウジング内に固着する。減衰エレメントはそうなるともはや繊細にはロータ支承部の調整のために軸方向で摺動しない。ロータ支承部が減衰エレメントと共にロータハウジング内で摺動することはそれゆえできるだけ回避される。減衰エレメントおよびロータ支承部が互いに無関係なコンポーネントとして組み付けられ、メンテナンスされるとき、ロータ支承部の調整はそれゆえ有利には減衰エレメント内でのロータ支承部の摺動により実施される。
【0004】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第3837733号明細書により、オープンエンド紡績機のスピニングロータのための軸受装置が公知である。この公知の軸受装置では、減衰エレメントのインナスリーブが、一貫したねじ山付孔を備えた、中央に配置された環状のフランジを有している。ねじ山付孔内には、スリットが刻まれた頭と、対向して位置する先端とを有する円筒ねじが、ねじ頭が当接するまで螺入されている。軸受外レースの周囲には溝が延びており、溝内にはリングが装入されている。リングは一般にプラスチックまたは類似の変形可能な材料から成っている。円筒ねじの先端はプラスチックリング内に進入し、それによりロータ支承部を固く緊締する。メンテナンス目的でロータ支承部を取り外すたびに、ロータ支承部は新たに軸方向で調整されなければならず、ねじ先端が新しい箇所でプラスチックリング内に進入することに注意を払わなければならない。ねじ先端の小さな面を介したクランプ力の伝達も不都合である。プラスチックがクリープすると、ねじ先端のクランプ力、ひいてはロータ支承部の固定安全性は損なわれる。ロータ支承部がしばしば取り外されると、プラスチックリングを新しいものに交換することが必要となり得る。それというのも、使用されたプラスチックリングは円筒ねじの先端の多数の押し込み軌跡を有しており、それによりロータ支承部の確実なクランプはもはや保証されていないからである。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19901565号明細書には、後潤滑システムを備えたオープンエンド紡績機のスピニングロータの支承部が示されている。後潤滑システムは必要な構成部分および組み立てに関して手間がかかる。減衰装置のインナスリーブへの軸受外レースの固定は、スリットが刻まれた頭を供えた円筒ねじにより実施される。ねじはこの構成では、インナスリーブ内に設けられたねじ山によって保持されるのではなく、固くインナスリーブに結合され雌ねじ山を備えた装着部材により保持される。一般に、装着部材は溶接されたナットから成る。ねじを締め付ける際に、力はナットの分離の方向で作用する。それゆえ、ナットはきわめて良好に固定されていなければならない。この固定は溶接により達成可能であるか、または雌ねじ山は減衰インナスリーブの部分でなければならない。ナットの溶接時、インナスリーブの湾曲した面のために、市場で一般的な規格溶接ナットおよび通常の抵抗溶接が使用され得ないことは欠点である。加熱はそれに加えて減衰インナスリーブの変形に至り得る。ねじは、インナスリーブの周囲に延びるプラスチックリング内に進入する先端を有していない。ねじは単に面的に、ここでも存在するプラスチックリングを押圧する。軸受外レースの固定はクランプによってのみ実施される。進入する先端による塑性的な変形によるクランプの助成はこの構成では実施されない。プラスチックリングの磨耗、ひいてはプラスチックリングをある程度の時間の後に交換する必要性はただし欠点として残されたままである。
【0006】
本発明の課題は、ロータのための公知の支承部を改善することである。
【0007】
この課題は、請求項1の特徴部に記載した特徴を備えた軸受装置により解決される。
【0008】
本発明の有利な構成は従属請求項の対象である。
【0009】
本発明による軸受装置は減衰インナスリーブと軸受レースとの間の確実かつ長寿命な固定を保証する。プラスチッククランプリングと、軸受レースへの環状の溝の敷設とはもはや不要である。ナットの溶接による変形はもはや発生し得ない。ねじの、本発明による配置により、軸受レースと減衰インナスリーブとの間の結合は引っ張りにより形成される。それにより、背景技術による溶接されたナットを備えた構成に対して、圧力分配エレメントと減衰インナスリーブとの間の結合は強化され、背景技術のようには負荷されない。それにより、解離可能な固定の可能性が生じ、このことは背景技術に対する製作手間の減少に至る。減衰インナスリーブの周りに環状に延びるフランジの択一的な構成は省略されることができる。これらの理由から、減衰インナスリーブの製作時に、とりわけ加工手間が減じられる。組み立て、メンテナンスならびに調整の手間は減じられ、ひいてはコスト低下に貢献する。
【0010】
ねじが、軸受レースの雌ねじ山から解離された位置で、圧力分配エレメントにより保持されると、ねじは減衰インナスリーブの紛失不能な部分となる。軸受装置はそれにより組み立ての点でより便利となる。
【0011】
請求項4に基づき、開口が減衰インナスリーブに長穴として軸方向で形成されており、ロータ軸受がねじの解離時に減衰インナスリーブに対して軸方向で摺動可能であると、ロータ軸受もしくはスピニングロータの調整は迅速かつ簡単に可能である。この可能性は、圧力分配エレメントが解離可能に取り付けられており、軸方向で減衰インナスリーブ上を摺動可能であることによっても提供されている。
【0012】
圧力分配エレメントがリングセグメント状の保持アームを有しており、該保持アームにより減衰インナスリーブ上に係止可能であると、減衰インナスリーブへの圧力分配エレメントの簡単かつ迅速な装着が可能である。圧力分配エレメントは説明したように簡単な調整のために軸方向で限定的に摺動可能なままである。
【0013】
請求項6に基づく圧力分配エレメントの構成および請求項7に基づくねじの構成は、ねじ頭の良好な載置ならびに減衰インナスリーブに対する押し付け力の良好な分配を保証する。一体成形されたディスクにより、係止フックのノッチ内でのねじの確実な保持が可能である。
【0014】
請求項8に基づくねじの構成により、手間のかかる後潤滑装置、例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第19901565号明細書から公知であるような後潤滑装置は省略されることができる。後潤滑プロセスは簡単に実施される。
【0015】
圧力分配エレメントが弾性的な材料から成っていると、圧力分配エレメントの装着およびねじの保持は簡単である。
【0016】
請求項10ならびに請求項11記載の圧力分配エレメントは安価な製作を許可する。
【0017】
摩擦接続によるクランプと塑性変形とによる軸受レースと減衰インナスリーブとの結合は有利には、形状接続式の、磨耗のない結合により代替される。本発明による軸受装置は有利には確実な軸受固定と簡単な後潤滑とを、両構成部分、すなわち圧力分配エレメントおよびねじにより許可する。すべての部分は安価に製作可能である。軸受装置は簡単に組み立て可能であり、メンテナンスおよび調整を簡単化する。
【0018】
本発明のその他の詳細は図面の実施例から見て取れる。
図1:スピニングロータを備えた軸受装置の断面図である。
図2:図1に示した軸受装置の、ねじが解離された状態の断面図である。
図3:図2に示した軸受装置の斜視図である。
図4:保持エレメントの斜視図である。
【0019】
図1には、スピニングロータ2を支承するための軸受装置1が示されている。スピニングロータ2はロータディスク3とロータシャフト4とから成っている。ロータシャフト4は玉軸受装置5により軸受レース6内で回転可能に支承されている。軸受レース6は減衰インナスリーブ7により包囲されている。減衰インナスリーブ自体はゴム弾性的なリング状の減衰エレメント8内に固定されている。減衰エレメント8は、鋼から成るその都度1つの内外の補強リング8A,8Bと、加硫により接着されたゴムリング8Cとを有しており、ハウジング9内に保持される。軸受レース6は一貫した雌ねじ山10を有している。雌ねじ山10内にはねじ11が係入する。ねじ11は六角穴12を備えた円筒頭ねじとして形成されている。ねじ11を通して後潤滑孔13が案内されている。後潤滑孔13により、玉軸受装置5は簡単にかつ大きな構造的な手間なしに後潤滑される。ねじ11は減衰インナスリーブ7の開口14を通して係合し、締め付けられた状態で圧力分配エレメント15を軸受レース6の方向での力により負荷し、かつ減衰インナスリーブ7を軸受レース6に押圧する。それにより、剛性的な結合が軸受レース6と減衰インナスリーブ7との間に形成され、軸受レース6はその位置で固定される。
【0020】
図2では、ねじ11がもはや雌ねじ山10内に係入しておらず、軸受レース6から解離され間隔を置いた位置に存在している。ねじ11は、円筒頭に一体成形されたディスク16を有している。ディスク16は、軸受レース6から間隔を置いた位置で、圧力分配エレメント15の、互いに対向して位置する2つの弾性的な係止フック18のノッチ17内に係入する。係止フック18間の間隔はその自由端に向かって減少する。
【0021】
ねじが回されて雌ねじ山から解離されるとき、ねじ16は係止フック18を緩解の経過中押し広げ、最終的に係止フック18のノッチ17内に係止される。この位置で、ねじ11は圧力分配エレメント15により確実かつ簡単に保持され、失われることがなく、かつ軸受レース6の雌ねじ山10内への後続の螺入のために既に整合されてポジショニングされている。ロータ軸受の軸受レース6はねじ11のこの位置で軸方向で摺動させられ、取り外されることができる。
【0022】
軸受レース6の制限された軸方向摺動は既に、ねじ11が数回転分だけ回されて解離され、ひいては軸受レース6への減衰インナスリーブの押し付けが取り除かれているときに可能である。ねじ11はその際、長穴として軸方向で構成されている開口14内で運動することができ、圧力分配エレメント15を連行する。それにより、軸受レース6もしくはスピニングロータ2の位置の調整は迅速かつ簡単に、大きな組立手間なしに可能である。
【0023】
図2に示した圧力分配エレメント15は、ねじ11が、軸受レース6の雌ねじ山10から解離された位置にあり、その際、軸受レース6がスピニングロータ2と共に取り外されている状態で、図3に斜視図で示されている。減衰装置はリング状の減衰エレメント8ならびに減衰インナスリーブ7を有している。その際、減衰エレメント8は減衰インナスリーブ7の端部に取り付けられている。
【0024】
圧力分配エレメント15は減衰インナスリーブ7上に、ねじ11が、図3には目視不能な開口14を通して係合することができるように配置されている。ねじ11は両係止フック18により保持される。保持アーム19は、圧力分配エレメント15を減衰インナスリーブ7上に載設する際に、圧力分配エレメント15をはめ合わせることができる程度に拡開し、その後減衰インナスリーブ7に密着するように十分な弾性を有している。圧力分配エレメント15は減衰インナスリーブ7に面した側で減衰インナスリーブ7の円筒形状に適合されている。係止フック18はフラットな台架20の縁部に配置されている。台架20上にはねじ11の円筒頭の下面が載置される。それにより、ねじ11を締め付けたときの押し付け力の良好な分配が可能である。
【0025】
図4には、圧力分配エレメント15が図1〜図3に対して拡大されて示されている。保持アーム19の内面に設けられた湾曲はこの図面に明瞭に見て取ることができる。ノッチ17を備えた係止フック18は、互いに対向して位置する配置により、ねじ11の円筒頭に張り出し成形されたディスク16を、ねじ11が回されて雌ねじ山10から解離されたときに良好に把持し、固定することができる。
【0026】
ねじ頭の六角穴内に導入されるスパナを用いてねじ11を緩解する際に、ディスク16は所定の位置から係止フック18に接触し、さらなる緩解時に係止フック18を拡開する。ねじ11が雌ねじ山10から解離されているときに、ねじ11は手で、ディスク16がノッチ17に到達し、そこに係止されるまで若干持ち上げられる。ねじ11の再螺入のために、ねじ11は下方に押し下げられ、ねじ16はそれによりノッチ17から解離される。ねじ11は圧力分配エレメント15の孔21を通して軸受レース6の雌ねじ山10内に係入し、再び固く締められることができる。圧力分配エレメント15は、プラスチックから製作された射出成形部分として構成されている。
【0027】
摩擦接続(Reibschluss:摩擦力による束縛)によるクランプならびに塑性変形が生じる、公知の構成におけるねじによる軸受レース6と減衰インナスリーブ7との従来の一般的な結合は有利には、形状接続(Formschluss:形状による束縛)式の、磨耗のない確実な結合により代替される。そのねじ11が失われることはない。それというのも、ねじ11は圧力分配エレメント15により解離された状態で保持されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】スピニングロータを備えた軸受装置の断面図である。
【図2】図1に示した軸受装置の、ねじが解離された状態の断面図である。
【図3】図2に示した軸受装置の斜視図である。
【図4】保持エレメントの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転するロータを支承するための軸受装置であって、ロータ軸受と減衰装置とが設けられており、ロータ軸受が軸受レースを、減衰装置が減衰インナスリーブを有しており、軸受レースが減衰インナスリーブにより包囲されており、ねじにより減衰インナスリーブに固定のために固く結合可能である
形式のものにおいて、
軸受レース(6)が、半径方向で延びる雌ねじ山(10)を有しており、該雌ねじ山(10)内にねじ(11)のねじ山が係入し、減衰インナスリーブ(7)が開口(14)を有しており、減衰インナスリーブ(7)上に圧力分配エレメント(15)が配置されており、該圧力分配エレメント(15)が、開口(14)と整合する孔(21)を有しており、開口(14)と孔(21)とが、ねじ(11)の自由な通過を許可するように寸法設定されている
ことを特徴とする、高速回転するロータを支承するための軸受装置。
【請求項2】
ねじ(11)が、軸受レース(6)の雌ねじ山(10)から解離された位置で、圧力分配エレメント(15)により保持されているように、圧力分配エレメント(15)が形成されている、請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
圧力分配エレメント(15)が、ねじ(11)を保持するための2つの係止フック(18)を有している、請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
開口(14)が長穴として軸方向で形成されており、ロータ軸受がねじ(11)の解離時に減衰インナスリーブ(7)に対して軸方向で摺動可能である、請求項1から3までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項5】
圧力分配エレメント(15)が、リングセグメント状の保持アーム(19)を有しており、該保持アーム(19)により減衰インナスリーブ(7)上に係止可能である、請求項1から4までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項6】
ねじ(11)が、ねじ頭の載置面を拡大するための、ねじ頭に一体成形されねじ頭から張り出したディスク(16)を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項7】
圧力分配エレメント(15)がねじ頭のための平坦な台架(20)を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項8】
ねじ(11)が後潤滑孔(13)を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項9】
圧力分配エレメント(15)が弾性的な材料から成っている、請求項1から8までのいずれか1項記載の軸受装置。
【請求項10】
圧力分配エレメント(15)がプラスチックから成っている、請求項9記載の軸受装置。
【請求項11】
圧力分配エレメント(15)が射出成形部分として製作されている、請求項9または10記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−523301(P2007−523301A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553454(P2006−553454)
【出願日】平成16年11月23日(2004.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013276
【国際公開番号】WO2005/090805
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(505009715)テクスパーツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【氏名又は名称原語表記】TEXParts GmbH
【住所又は居所原語表記】Maria−Merian−Strasse 8, D−70736 Fellbach, Germany
【Fターム(参考)】