高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置
【課題】極短時間で3次元情報及びその時間変化を観察・計測できる高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置を提供する。
【解決手段】対象物質3を回転用モータ17を用いて高速度で回転させながら、中性子ビーム2を照射する。対象物質3に照射された中性子ビーム2はその対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換され、変換された光がこの中性子−光コンバータ4の後方に光を反射・伝送するために配置された鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像を計算機8に転送し、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均の3次元情報を得る。又、これを時系列に連続して計算することで3次元情報の時間変化情報を取得することができる。
【解決手段】対象物質3を回転用モータ17を用いて高速度で回転させながら、中性子ビーム2を照射する。対象物質3に照射された中性子ビーム2はその対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換され、変換された光がこの中性子−光コンバータ4の後方に光を反射・伝送するために配置された鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像を計算機8に転送し、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均の3次元情報を得る。又、これを時系列に連続して計算することで3次元情報の時間変化情報を取得することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子ビームと高速度ビデオカメラとを利用した高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置に係り、更に詳しくは、中性子ビームを20回転/秒〜0.05回転/秒の高速度で回転する対象物質に照射して得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて高速度で記録すると共に、3次元中性子トモグラフィ技術によって、対象物質の3次元空間情報の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中性子ラジオグラフィ技術は、中性子を利用して目で見えない現象を直接見ることができる非破壊可視化技術であり、中性子がアルミニウムなどの金属を透過しやすく、水など水素を含む物質やホウ素やカドミウムなど中性子を吸収しやすい物質を透過しにくい性質を持つことを利用して、X線や磁気共鳴画像法(MRI)、超音波などでは見えない現象を可視化・計測できる技術である(非特許文献1参照)。
【0003】
図7に、この中性子ラジオグラフィ技術を用いた中性子ラジオグラフィ装置の概略図を示す。この装置では、まず、原子炉等の中性子源1からの中性子ビーム2が対象物質3に照射されると、対象物質を透過した中性子ビームがその背後に配置された中性子−光コンバータ4により光に変換される。その後、暗箱6内で、光を反射・伝送するための鏡5を通過して、対象物質の中性子ラジオグラフィ像がレンズカメラのCCD型素子7を用いて記録される。なお、CCD型素子7とは、受光素子が光から発生した電荷を読み出すために電荷結合素子 (CCD: Charge Coupled Device) と呼ばれる回路素子を用いて転送を行う固体撮像素子のひとつでありデジタルカメラなどで広く使用されている半導体素子である。
【0004】
図8に、この中性子ラジオグラフィ装置により得られた中性子ラジオグラフィ像を示す。
【0005】
また、中性子トモグラフィは、中性子ラジオグラフィ技術とコンピュータトモグラフィ技術(CT技術)を組み合わせた技術で、目で見えないものの中を立体的に観察できる技術であり、対象物質を180度回転させながら2次元の中性子ラジオグラフィ像を記録し、中性子ラジオグラフィ像を基にCT技術により時間平均の3次元情報を得ることができる技術である(非特許文献2参照)。
【0006】
図9に、この中性子トモグラフィ技術を用いた中性子トモグラフィ装置の概略図を示す。この装置では、まず、対象物質3を回転用モータ11を用いてステップ状に回転させながら中性子ビーム2を照射する。対象物質を透過した中性子ビームは、図7と同様に中性子ラジオグラフィ技術により、その背後に配置された中性子−光コンバータ4により光に変換され後、暗箱6内で、光を反射・伝送するための鏡5を通過して、対象物質の中性子ラジオグラフィ像がレンズカメラのCCD型素子7を用いて静止画として記録される。この静止画を1投影角度・1枚毎に計算機8に転送を繰り返す。更に、CT計算用計算機12では、複数角度から撮影された対象物質の投影情報(中性子ラジオグラフィ等の投影情報)から、対象物質の断面像をコンピュータによる計算により求める。
【0007】
図10に、中性子トモグラフィ技術によって観察の対象となる対象物質の写真(a)、中性子トモグラフィ技術による中性子トモグラフィ情報図(b)、及びその拡大図(c)を示す。
【非特許文献1】「特集:中性子ラジオグラフィの動向」、放射線と産業、Vol.84、pp.4-33 (1999).
【非特許文献2】M. Kureta、"Development of a Neutron Radiography Three-Dimensional Computed Tomography System for Void Fraction Measurement of Boiling Flow in Tight Lattice Rod Bundles"、Journal of Power and Energy Systems、Vol.1-3、pp.211-224 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、既存の中性子トモグラフィ装置は、上述のように、中性子ラジオグラフィ像の記録装置としてCCD型素子を用いて記録した静止画を1投影角度・1枚毎に計算機に転送を繰り返す方式であり、記録時間は180度回転のCTを実施するに際して最短でも30分程度の時間を要していた。このため、得られる中性子トモグラフィ情報(CT値)は、30分以上の時間平均化された3次元情報であった。
【0009】
例えば、既存の中性子トモグラフィ技術によれば、図11に示すように、金属製容器内の水を直接観察でき、且つその3次元計測(空間分解能は最高0.1mm)も可能であるが、計測時間に30分以上もの時間を必要とし、このため得られる情報は時間平均量であるため、30分以内で変化する現象の時間変化を観察や計測することは不可能であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、極短時間で3次元情報及びその時間変化を観察・計測できる高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高速度コンピュータ断層撮影方法は、20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転する対象物質に中性子ビームを照射し、得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて連続して記録し、更にコンピュータトモグラフィ技術を用いて対象物質の3次元空間情報の0.05秒以上20秒間未満の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測することを特徴とする。
【0012】
前記3次元空間情報を用いて対象物質の位置情報の時間変化を計測することができる。
【0013】
前記対象物質の位置情報は、棒や壁の固体物質の表面位置情報及び中心位置の内部位置情報とすることができる。
【0014】
本発明の高速度コンピュータ断層撮影装置は、対象物質を20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させる回転用モータと、原子炉または加速器中性子源から導かれた中性子ビームに面し、前記対象物質のビームの背面側の暗箱の入口に設けられた中性子−光コンバータと、前記暗箱内に設けられた鏡と、前記暗箱の出口に設けられたレンズと、当該レンズの後方に設けられた画像強度増幅器と、当該画像強度増幅器の後方に設けられた高速度ビデオカメラと、前記高速度ビデオカメラからの記録画像が転送される計算機と、3次元CT計算を行うCT計算用計算機と、を備え、コンピュータトモグラフィ技術を用いて前記対象物質の3次元情報を計算することにより、対象物質の3次元空間情報を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来法で記録時間が最短でも30分間必要な中性子トモグラフィによる3次元情報と同程度の品質の結果を0.25秒間で取得することができる。記録速度が7200分の1に短縮されることにより、中性子ビームによる対象物質の放射化現象に起因する運用上の問題も無視できる程度に僅かな量に低減可能となるため、適用可能範囲が極めて広くなる。また、極短時間で3次元情報を得ることを連続して行うことにより、対象物質の速度等の時間変化を観察・計測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(高速度中性子トモグラフィ装置)
図1に、本発明の一実施形態である高速度中性子トモグラフィ装置を示す。
本高速度中性子トモグラフィ装置では、まず、対象物質3を回転用モータ17を用いて高速度で回転させながら、中性子ビーム2を照射する。具体的には、原子炉(JRR−3)の炉心からの中性子ビーム2をその原子炉の中性子ビーム孔を通して取り出し、炉外に配置された対象物質3に照射する。対象物質3に照射された中性子ビーム2はその対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換される。その変換された光がこの中性子−光コンバータ4の後方に光を反射・伝送するために配置された鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像を計算機8に転送し、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均の3次元情報を得る。又、これを時系列に連続して計算することで3次元情報の時間変化情報を取得することができる。
【0017】
(高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れ)
図2に、本高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れを示す。まず、中性子ビーム2が対象物質3に照射され、その対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換され、鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像が計算機8に転送され、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均のCT値分布18が得られる。これを時間変化処理19、時間変化観察20、時間変化計測21することによって、速度・ボイド率・温度・密度等の時間変化データ22を取得する。
【0018】
(高速度中性子トモグラフィ技術)
この高速度中性子トモグラフィ装置は、中性子ラジオグラフィ像の記録装置として、CMOS型素子を内蔵する高速度ビデオカメラ16を用いて中性子ラジオグラフィ像を連続して一旦メモリに書き込む。図3に、回転している対象物質(砂時計)を高速度ビデオカメラを用いて記録した中性子ラジオグラフィ像の例を示す。連続して一旦メモリに書き込まれた中性子ラジオグラフィ像は、一括記録後纏めて計算機8に転送し、計算機内に記録する方式とし、更に対象物質の回転速度を高速度で回転(例えば、20回転/秒)させることにより、高速度(例えば、1000画像/秒の記録速度で0.05秒間)で中性子トモグラフィ技術に必要となる像を得るものである。高速度ビデオカメラ16を用いて記録し、中性子トモグラフィ技術で3次元情報を得た場合、例えば180°の角度を回転するのに要した時間が0.05秒間であった場合には、0.05秒間平均の3次元中性子トモグラフィ情報を得ることができる。
【0019】
また、高速度ビデオカメラ16とレンズ14の間に挟んで使用される画像強度増幅器15は、高速度ビデオカメラ16の記録速度を速く設定する際に輝度を増幅し、明るい像を記録可能とするものである。
【0020】
図4に、対象物質の一例としての2個の砂時計(1分計と3分計)を示し、図5に、本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて得られた高速度中性子ラジオグラフィ画像の一例を示す。なお、図5は、画像強度増幅器15と高速度ビデオカメラ16を用いて、対象物質の回転速度を1回転/秒、記録速度を60画像/秒と設定し、対象物質である砂時計を136.5秒間記録し、計測時間内に砂が落下する現象を本技術を用いて表示したものである。また、図6に、高速度中性子トモグラフィによる4秒間平均3次元CT値分布の時間変化を示す。この図は、CTを行う投影像が記録された時間幅(4秒間)を時間方向に1ステップ(1/60秒変化、投影角度にすると1.5°相当変化)づつずらしながらCTを行い3次元CT値分布の時間変化を表示した一例である。
【0021】
(本高速度中性子トモグラフィ装置の効果)
このように、本装置では、形や内容が時間変化する対象物質を連続して20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させて記録し、中性子トモグラフィ技術で時間方向にもずらしながら処理を行うことで、3次元情報の時間変化も得ることができる。
【0022】
(本高速度中性子トモグラフィ装置の特徴部分)
前記データを得るために、本装置においては、(1)高速度ビデオカメラを用いて、20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転している対象物質の中性子ラジオグラフィ像を記録し、(2)中性子トモグラフィ技術を用いて短時間の時間平均分布を得る、および(3)中性子トモグラフィ技術を時間方向にも適用し、3次元情報の時間変化を得るものである。
【0023】
より具体的には本装置は、次の点に特徴部分を有するものである。
(a)中性子ラジオグラフィ技術を用いて回転する対象物質の中性子ラジオグラフィ像を発生させ、暗箱または暗室、鏡、レンズ、画像増幅器とともに高速度ビデオカメラを用いて、回転する対象物質の中性子ラジオグラフィ像の高速度連続像を記録する点。
(b)(a)で得られる高速度連続像から,中性子トモグラフィ技術により対象物質の3次元情報を得る点。
(c)(b)で得られる3次元空間情報を、時間方向に中性子トモグラフィ技術で処理を繰り返すことにより、3次元空間情報の時間変化を得る点。
(d)(a)または(b)で得られる3次元空間情報を用いて,対象物質の形状または形状の時間変化量を計測する点。
【産業上の利用の可能性】
【0024】
本発明によれば、極短時間で3次元情報、およびその時間変化を観察・計測ができる。このため、工業製品分野では、エンジン若しくはコンプレッサー等のアルムニウム合金製容器中の流体若しくはプラスチック部品の内部情報、又は金属等中の水素濃度の計測に適用できる。農産物分野では、木・果実等植物中の水分等の分布又は土壌中の水分等の分布の計測に適用できる。また、未知試料内の非破壊検査分野では、文化財、動作中の機械部品若しくはリバースエンジニアリング(物の形状のデジタル化)の内部計測に適用できる。更に、熱流動計測分野では、速度、密度、温度、ボイド率、液相ホールドアップ、固相ホールドアップの計測に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態である高速度中性子トモグラフィ装置を示す概略図である。
【図2】図1の本高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れを示すフローチャートである。
【図3】回転している対象物質(砂時計)を高速度ビデオカメラを用いて記録した中性子ラジオグラフィ像の例を示す写真である。
【図4】本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて測定する対象物質の一例を示す写真である。
【図5】本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて得られた高速度中性子ラジオグラフィ画像の一例を示す写真である。
【図6】高速度中性子トモグラフィによる4秒間平均3次元CT値分布の時間変化を示す図である。
【図7】従来の中性子ラジオグラフィ装置を示す概略図である。
【図8】従来の中性子ラジオグラフィ装置により得られた中性子ラジオグラフィ像を示す写真である。
【図9】従来の中性子トモグラフィ技術を用いた中性子トモグラフィ装置を示す概略図である。
【図10】従来の中性子トモグラフィ技術によって観察の対象となる対象物質の写真(a)、従来の中性子トモグラフィ技術による中性子トモグラフィ情報図(b)、及びその拡大図(c)である。
【図11】既存の中性子トモグラフィ技術で得られる時間平均3次元ボイド率分布例であり、(a)は沸騰水が流れる対象物質の設定例を示す写真、(b)は既存の中性子トモグラフィ技術で得られた30分間平均3次元ボイド率分布例を示す写真である。
【符号の説明】
【0026】
1 原子炉等中性子源
2 中性子ビーム
3 対象物質
4 中性子−光コンバータ
5 鏡
6 暗箱
7 レンズカメラ(CCD型素子)
8 計算機
11 回転用モータ
12 CT計算用計算機
14 レンズ
15 画像強度増幅器
16 高速度ビデオカメラ(CMOS型素子)
17 回転用モータ
18 短時間平均のCT値分布
19 時間変化処理
20 時間変化観察
21 時間変化計測
22 速度・ボイド率・温度・密度等の時間変化データ
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子ビームと高速度ビデオカメラとを利用した高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置に係り、更に詳しくは、中性子ビームを20回転/秒〜0.05回転/秒の高速度で回転する対象物質に照射して得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて高速度で記録すると共に、3次元中性子トモグラフィ技術によって、対象物質の3次元空間情報の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中性子ラジオグラフィ技術は、中性子を利用して目で見えない現象を直接見ることができる非破壊可視化技術であり、中性子がアルミニウムなどの金属を透過しやすく、水など水素を含む物質やホウ素やカドミウムなど中性子を吸収しやすい物質を透過しにくい性質を持つことを利用して、X線や磁気共鳴画像法(MRI)、超音波などでは見えない現象を可視化・計測できる技術である(非特許文献1参照)。
【0003】
図7に、この中性子ラジオグラフィ技術を用いた中性子ラジオグラフィ装置の概略図を示す。この装置では、まず、原子炉等の中性子源1からの中性子ビーム2が対象物質3に照射されると、対象物質を透過した中性子ビームがその背後に配置された中性子−光コンバータ4により光に変換される。その後、暗箱6内で、光を反射・伝送するための鏡5を通過して、対象物質の中性子ラジオグラフィ像がレンズカメラのCCD型素子7を用いて記録される。なお、CCD型素子7とは、受光素子が光から発生した電荷を読み出すために電荷結合素子 (CCD: Charge Coupled Device) と呼ばれる回路素子を用いて転送を行う固体撮像素子のひとつでありデジタルカメラなどで広く使用されている半導体素子である。
【0004】
図8に、この中性子ラジオグラフィ装置により得られた中性子ラジオグラフィ像を示す。
【0005】
また、中性子トモグラフィは、中性子ラジオグラフィ技術とコンピュータトモグラフィ技術(CT技術)を組み合わせた技術で、目で見えないものの中を立体的に観察できる技術であり、対象物質を180度回転させながら2次元の中性子ラジオグラフィ像を記録し、中性子ラジオグラフィ像を基にCT技術により時間平均の3次元情報を得ることができる技術である(非特許文献2参照)。
【0006】
図9に、この中性子トモグラフィ技術を用いた中性子トモグラフィ装置の概略図を示す。この装置では、まず、対象物質3を回転用モータ11を用いてステップ状に回転させながら中性子ビーム2を照射する。対象物質を透過した中性子ビームは、図7と同様に中性子ラジオグラフィ技術により、その背後に配置された中性子−光コンバータ4により光に変換され後、暗箱6内で、光を反射・伝送するための鏡5を通過して、対象物質の中性子ラジオグラフィ像がレンズカメラのCCD型素子7を用いて静止画として記録される。この静止画を1投影角度・1枚毎に計算機8に転送を繰り返す。更に、CT計算用計算機12では、複数角度から撮影された対象物質の投影情報(中性子ラジオグラフィ等の投影情報)から、対象物質の断面像をコンピュータによる計算により求める。
【0007】
図10に、中性子トモグラフィ技術によって観察の対象となる対象物質の写真(a)、中性子トモグラフィ技術による中性子トモグラフィ情報図(b)、及びその拡大図(c)を示す。
【非特許文献1】「特集:中性子ラジオグラフィの動向」、放射線と産業、Vol.84、pp.4-33 (1999).
【非特許文献2】M. Kureta、"Development of a Neutron Radiography Three-Dimensional Computed Tomography System for Void Fraction Measurement of Boiling Flow in Tight Lattice Rod Bundles"、Journal of Power and Energy Systems、Vol.1-3、pp.211-224 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、既存の中性子トモグラフィ装置は、上述のように、中性子ラジオグラフィ像の記録装置としてCCD型素子を用いて記録した静止画を1投影角度・1枚毎に計算機に転送を繰り返す方式であり、記録時間は180度回転のCTを実施するに際して最短でも30分程度の時間を要していた。このため、得られる中性子トモグラフィ情報(CT値)は、30分以上の時間平均化された3次元情報であった。
【0009】
例えば、既存の中性子トモグラフィ技術によれば、図11に示すように、金属製容器内の水を直接観察でき、且つその3次元計測(空間分解能は最高0.1mm)も可能であるが、計測時間に30分以上もの時間を必要とし、このため得られる情報は時間平均量であるため、30分以内で変化する現象の時間変化を観察や計測することは不可能であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、極短時間で3次元情報及びその時間変化を観察・計測できる高速度コンピュータ断層撮影方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高速度コンピュータ断層撮影方法は、20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転する対象物質に中性子ビームを照射し、得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて連続して記録し、更にコンピュータトモグラフィ技術を用いて対象物質の3次元空間情報の0.05秒以上20秒間未満の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測することを特徴とする。
【0012】
前記3次元空間情報を用いて対象物質の位置情報の時間変化を計測することができる。
【0013】
前記対象物質の位置情報は、棒や壁の固体物質の表面位置情報及び中心位置の内部位置情報とすることができる。
【0014】
本発明の高速度コンピュータ断層撮影装置は、対象物質を20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させる回転用モータと、原子炉または加速器中性子源から導かれた中性子ビームに面し、前記対象物質のビームの背面側の暗箱の入口に設けられた中性子−光コンバータと、前記暗箱内に設けられた鏡と、前記暗箱の出口に設けられたレンズと、当該レンズの後方に設けられた画像強度増幅器と、当該画像強度増幅器の後方に設けられた高速度ビデオカメラと、前記高速度ビデオカメラからの記録画像が転送される計算機と、3次元CT計算を行うCT計算用計算機と、を備え、コンピュータトモグラフィ技術を用いて前記対象物質の3次元情報を計算することにより、対象物質の3次元空間情報を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来法で記録時間が最短でも30分間必要な中性子トモグラフィによる3次元情報と同程度の品質の結果を0.25秒間で取得することができる。記録速度が7200分の1に短縮されることにより、中性子ビームによる対象物質の放射化現象に起因する運用上の問題も無視できる程度に僅かな量に低減可能となるため、適用可能範囲が極めて広くなる。また、極短時間で3次元情報を得ることを連続して行うことにより、対象物質の速度等の時間変化を観察・計測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(高速度中性子トモグラフィ装置)
図1に、本発明の一実施形態である高速度中性子トモグラフィ装置を示す。
本高速度中性子トモグラフィ装置では、まず、対象物質3を回転用モータ17を用いて高速度で回転させながら、中性子ビーム2を照射する。具体的には、原子炉(JRR−3)の炉心からの中性子ビーム2をその原子炉の中性子ビーム孔を通して取り出し、炉外に配置された対象物質3に照射する。対象物質3に照射された中性子ビーム2はその対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換される。その変換された光がこの中性子−光コンバータ4の後方に光を反射・伝送するために配置された鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像を計算機8に転送し、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均の3次元情報を得る。又、これを時系列に連続して計算することで3次元情報の時間変化情報を取得することができる。
【0017】
(高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れ)
図2に、本高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れを示す。まず、中性子ビーム2が対象物質3に照射され、その対象物質3を透過後、中性子−光コンバータ4により光に変換され、鏡5、レンズ14、画像強度増幅器15を通過して、高速度ビデオカメラ内のCMOS型素子16で連続した画像として高速度で記録される。この記録画像が計算機8に転送され、CT計算用計算機12を用いて3次元CT計算が行なわれ、短時間平均のCT値分布18が得られる。これを時間変化処理19、時間変化観察20、時間変化計測21することによって、速度・ボイド率・温度・密度等の時間変化データ22を取得する。
【0018】
(高速度中性子トモグラフィ技術)
この高速度中性子トモグラフィ装置は、中性子ラジオグラフィ像の記録装置として、CMOS型素子を内蔵する高速度ビデオカメラ16を用いて中性子ラジオグラフィ像を連続して一旦メモリに書き込む。図3に、回転している対象物質(砂時計)を高速度ビデオカメラを用いて記録した中性子ラジオグラフィ像の例を示す。連続して一旦メモリに書き込まれた中性子ラジオグラフィ像は、一括記録後纏めて計算機8に転送し、計算機内に記録する方式とし、更に対象物質の回転速度を高速度で回転(例えば、20回転/秒)させることにより、高速度(例えば、1000画像/秒の記録速度で0.05秒間)で中性子トモグラフィ技術に必要となる像を得るものである。高速度ビデオカメラ16を用いて記録し、中性子トモグラフィ技術で3次元情報を得た場合、例えば180°の角度を回転するのに要した時間が0.05秒間であった場合には、0.05秒間平均の3次元中性子トモグラフィ情報を得ることができる。
【0019】
また、高速度ビデオカメラ16とレンズ14の間に挟んで使用される画像強度増幅器15は、高速度ビデオカメラ16の記録速度を速く設定する際に輝度を増幅し、明るい像を記録可能とするものである。
【0020】
図4に、対象物質の一例としての2個の砂時計(1分計と3分計)を示し、図5に、本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて得られた高速度中性子ラジオグラフィ画像の一例を示す。なお、図5は、画像強度増幅器15と高速度ビデオカメラ16を用いて、対象物質の回転速度を1回転/秒、記録速度を60画像/秒と設定し、対象物質である砂時計を136.5秒間記録し、計測時間内に砂が落下する現象を本技術を用いて表示したものである。また、図6に、高速度中性子トモグラフィによる4秒間平均3次元CT値分布の時間変化を示す。この図は、CTを行う投影像が記録された時間幅(4秒間)を時間方向に1ステップ(1/60秒変化、投影角度にすると1.5°相当変化)づつずらしながらCTを行い3次元CT値分布の時間変化を表示した一例である。
【0021】
(本高速度中性子トモグラフィ装置の効果)
このように、本装置では、形や内容が時間変化する対象物質を連続して20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させて記録し、中性子トモグラフィ技術で時間方向にもずらしながら処理を行うことで、3次元情報の時間変化も得ることができる。
【0022】
(本高速度中性子トモグラフィ装置の特徴部分)
前記データを得るために、本装置においては、(1)高速度ビデオカメラを用いて、20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転している対象物質の中性子ラジオグラフィ像を記録し、(2)中性子トモグラフィ技術を用いて短時間の時間平均分布を得る、および(3)中性子トモグラフィ技術を時間方向にも適用し、3次元情報の時間変化を得るものである。
【0023】
より具体的には本装置は、次の点に特徴部分を有するものである。
(a)中性子ラジオグラフィ技術を用いて回転する対象物質の中性子ラジオグラフィ像を発生させ、暗箱または暗室、鏡、レンズ、画像増幅器とともに高速度ビデオカメラを用いて、回転する対象物質の中性子ラジオグラフィ像の高速度連続像を記録する点。
(b)(a)で得られる高速度連続像から,中性子トモグラフィ技術により対象物質の3次元情報を得る点。
(c)(b)で得られる3次元空間情報を、時間方向に中性子トモグラフィ技術で処理を繰り返すことにより、3次元空間情報の時間変化を得る点。
(d)(a)または(b)で得られる3次元空間情報を用いて,対象物質の形状または形状の時間変化量を計測する点。
【産業上の利用の可能性】
【0024】
本発明によれば、極短時間で3次元情報、およびその時間変化を観察・計測ができる。このため、工業製品分野では、エンジン若しくはコンプレッサー等のアルムニウム合金製容器中の流体若しくはプラスチック部品の内部情報、又は金属等中の水素濃度の計測に適用できる。農産物分野では、木・果実等植物中の水分等の分布又は土壌中の水分等の分布の計測に適用できる。また、未知試料内の非破壊検査分野では、文化財、動作中の機械部品若しくはリバースエンジニアリング(物の形状のデジタル化)の内部計測に適用できる。更に、熱流動計測分野では、速度、密度、温度、ボイド率、液相ホールドアップ、固相ホールドアップの計測に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態である高速度中性子トモグラフィ装置を示す概略図である。
【図2】図1の本高速度中性子トモグラフィ装置の情報の流れを示すフローチャートである。
【図3】回転している対象物質(砂時計)を高速度ビデオカメラを用いて記録した中性子ラジオグラフィ像の例を示す写真である。
【図4】本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて測定する対象物質の一例を示す写真である。
【図5】本高速度中性子トモグラフィ装置を用いて得られた高速度中性子ラジオグラフィ画像の一例を示す写真である。
【図6】高速度中性子トモグラフィによる4秒間平均3次元CT値分布の時間変化を示す図である。
【図7】従来の中性子ラジオグラフィ装置を示す概略図である。
【図8】従来の中性子ラジオグラフィ装置により得られた中性子ラジオグラフィ像を示す写真である。
【図9】従来の中性子トモグラフィ技術を用いた中性子トモグラフィ装置を示す概略図である。
【図10】従来の中性子トモグラフィ技術によって観察の対象となる対象物質の写真(a)、従来の中性子トモグラフィ技術による中性子トモグラフィ情報図(b)、及びその拡大図(c)である。
【図11】既存の中性子トモグラフィ技術で得られる時間平均3次元ボイド率分布例であり、(a)は沸騰水が流れる対象物質の設定例を示す写真、(b)は既存の中性子トモグラフィ技術で得られた30分間平均3次元ボイド率分布例を示す写真である。
【符号の説明】
【0026】
1 原子炉等中性子源
2 中性子ビーム
3 対象物質
4 中性子−光コンバータ
5 鏡
6 暗箱
7 レンズカメラ(CCD型素子)
8 計算機
11 回転用モータ
12 CT計算用計算機
14 レンズ
15 画像強度増幅器
16 高速度ビデオカメラ(CMOS型素子)
17 回転用モータ
18 短時間平均のCT値分布
19 時間変化処理
20 時間変化観察
21 時間変化計測
22 速度・ボイド率・温度・密度等の時間変化データ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転する対象物質に中性子ビームを照射し、得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて連続して記録し、更にコンピュータトモグラフィ技術を用いて対象物質の3次元空間情報の0.05秒以上20秒間未満の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測することを特徴とする高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項2】
前記3次元空間情報を用いて対象物質の位置情報の時間変化を計測することを特徴とする請求項1記載の高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項3】
前記対象物質の位置情報は、棒や壁の固体物質の表面位置情報及び中心位置の内部位置情報であることを特徴とする請求項2記載の高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項4】
対象物質を20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させる回転用モータと、原子炉または加速器中性子源から導かれた中性子ビームに面し、前記対象物質のビームの背面側の暗箱の入口に設けられた中性子−光コンバータと、前記暗箱内に設けられた鏡と、前記暗箱の出口に設けられたレンズと、当該レンズの後方に設けられた画像強度増幅器と、当該画像強度増幅器の後方に設けられた高速度ビデオカメラと、前記高速度ビデオカメラからの記録画像が転送される計算機と、3次元CT計算を行うCT計算用計算機と、を備え、コンピュータトモグラフィ技術を用いて前記対象物質の3次元情報を計算することにより、対象物質の3次元空間情報を得ることを特徴とする高速度コンピュータ断層撮影装置。
【請求項1】
20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転する対象物質に中性子ビームを照射し、得られた中性子ラジオグラフィ像を高速度ビデオカメラを用いて連続して記録し、更にコンピュータトモグラフィ技術を用いて対象物質の3次元空間情報の0.05秒以上20秒間未満の時間平均分布またはその時間変化を観察・計測することを特徴とする高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項2】
前記3次元空間情報を用いて対象物質の位置情報の時間変化を計測することを特徴とする請求項1記載の高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項3】
前記対象物質の位置情報は、棒や壁の固体物質の表面位置情報及び中心位置の内部位置情報であることを特徴とする請求項2記載の高速度コンピュータ断層撮影方法。
【請求項4】
対象物質を20回転/秒〜0.05回転/秒の回転速度で回転させる回転用モータと、原子炉または加速器中性子源から導かれた中性子ビームに面し、前記対象物質のビームの背面側の暗箱の入口に設けられた中性子−光コンバータと、前記暗箱内に設けられた鏡と、前記暗箱の出口に設けられたレンズと、当該レンズの後方に設けられた画像強度増幅器と、当該画像強度増幅器の後方に設けられた高速度ビデオカメラと、前記高速度ビデオカメラからの記録画像が転送される計算機と、3次元CT計算を行うCT計算用計算機と、を備え、コンピュータトモグラフィ技術を用いて前記対象物質の3次元情報を計算することにより、対象物質の3次元空間情報を得ることを特徴とする高速度コンピュータ断層撮影装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−168496(P2009−168496A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4247(P2008−4247)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
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