説明

高電流ガスクラスターイオンビーム処理システムにおけるビーム安定性向上方法及び装置

イオナイザーからガスジェット発生器に向かうイオンの後方抽出を防止するため、シールド用コンダクターと、別個のコンポーネント電気バイアスを利用することでイオナイザーの近辺で発生する過渡現象の頻度を減少させて高電流ガスクラスターイオンビームシステムのビーム安定性を向上させる装置と方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物体の表面処理のための増加電流(高電流)ガスクラスターイオンビーム(GCIB)に関し、特に、高電流GCIBのビーム安定性を改善し、高電流GCIBでの妨害現象及び過渡現象(トランジェント)を減少させる、さらに信頼性が高く、さらに高品質であるGCIBを利用した産業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面のエッチング、クリーニング及びスムージングのためにガスクラスターイオンビーム(GCIB)を利用することは知られている(例えば、デグチ他の米国特許5814194)。GCIBはまた、蒸発炭素質材料による気相成膜する方法に採用されている(例えば、ヤマダ他の米国特許6416820)。ここでガスクラスターとは常温・常圧においてはガス相(気相)であるナノサイズの凝集物である。そのようなクラスターは数個から数千個、あるいはそれ以上の分子が緩く結束した凝集体である。クラスターは電子衝撃あるいは他の手段でイオン化が可能である。それを方向付けし、制御可能なエネルギーのビームにすることができる。典型的にはそのようなイオンはq・eの正電荷を有する(eは電荷、qは1から数程度のクラスターイオンの電荷状態を表す)。クラスターイオン単位では相当なるエネルギーを運搬できるが、分子単位では適度なエネルギーであるため、大型サイズのクラスターは最も利用性が高い。クラスターは衝撃で分裂し、それぞれの分子は全クラスターエネルギーのほんの一部を運搬するのみである。その結果、大型クラスターの衝撃の影響は大きいものの、影響は非常に浅い表面領域に限定される。従って、従来のイオンビームプロセスでは表面下深くまで損傷を発生させていたが、イオンクラスターを多様な表面改質プロセスに利用できる。
【0003】
そのようなGCIBの発生及び加速の手段は前述の従来技術文献(米国特許5814194)で詳述されている。現在利用できるイオンクラスターソース(源)は数千までの広範囲のサイズN(Nは各クラスター内の分子数、アルゴンのような単原子ガスの場合には、単原子ガスの原子は原子あるいは分子と呼ばれ、そのような単原子ガスのイオン化原子はイオン化原子または分子イオンあるいは単にモノマーイオンと称される)を有する。
【0004】
多くの有用な表面処理効果がGCIBで表面を衝撃することで達成できる。これら処理効果には限定するわけではないが、スムージング、エッチング、膜成長、表面下へのイオン注入が含まれる。多くの場合、そのようなプロセスにおいて産業上実用的な成果を達成させるために、数百あるいは数千マイクロアンペア程度のGCIB電流が必要である。実験レベルでのGCIBビーム電流は、短期間のトランジェントビームバースト形態では、数百から数千マイクロアンペアの程度であることが報告されている。しかし産業上の高効率と高品質の表面処理結果を得るには、エッチング、スムージング、クリーニング、インフュージョンまたは膜形成処理のためのGCIB装置は、着実で長時間安定したビームを発生させねばならず、中断やビーム過渡電流を発生させることなく物体表面のGCIB処理を分単位あるいは時間単位で実施しなければならない。そのような長時間安定性を備えたGCIB処理装置は数百マイクロアンペア程度のビーム電流に限定されていた。より高いビーム電流を形成する試みは、一般的に長時間安定性を有さず、ビームライン中の他の過渡現象に起因するアークや頻繁なビーム過渡電流(“グリッチ”と呼称)の発生源であるビームを発生させた。そのような過渡現象は様々な形態で現れ、対象物体の不安定な処理結果をもたらした。アーク現象の場合にはGCIB処理システムの制御システムに対して物理的な損傷または過渡性誤作用の原因となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、高電流GCIB対象物体処理システムのビーム安定性を改善する方法と装置が求められており、本発明の一つの目的はそのような要求に応えることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記の目的並びに他の目的と利点は本発明の以下記載の実施例で達成される。
【0007】
GCIB処理システムにおいて、対象物体の処理のための安定した高電流GCIBを達成するため、GCIBイオン化ソースの開発、ビーム空間電荷の制御並びに対象物体電荷の制御は全て重要な改善対象領域であった。ディクストラの米国特許6629508、マック他の米国特許6646277、及び共願米国特許出願10/667006は、それぞれ、前記領域での成果を開示する。それら成果には、少なくとも数百マイクロアンペアから数ミリアンペアのビーム電流のGCIBビームを発生させる能力が含まれる。しかしこれらビームは、場合によって産業上での最良の利用性を制限する不安定性を示す。一般的に、高GCIBビーム電流の発生により、さらに多量のガスがビームラインに導入される。本質的にガスクラスターイオンビームはガスを搬送する。ビーム電流Iを有するアルゴンビームでは、ビームのガス流F(sccm:標準立方センチ/分)は以下の式で表される。
(式1)

【0008】
従って、400μAでN/q比5000のビーム電流に対しては、ビームは相当量のガス流である約27sccmを導く。典型的なGCIB処理ツールでは、イオナイザーと対象物体はそれぞれ典型的には別々のチャンバーに収容される。これでシステム圧力の管理が容易になる。しかし、優れた真空システムデザインおよび装置の様々な領域の差圧遮断が存在しても、大量のガスを搬送するビームに関わる主たる困難性としては、圧力がビームライン全体を通じて増加することである。ビームの全体的なガス搬送量はガスクラスターイオンビームが標的領域を衝撃するときに放出され、このガスの一部はGCIB処理システムの真空チャンバー全体の圧力に影響を及ぼす。GCIBの形成と加速に高電圧がしばしば使用されるため、増加したビームライン圧力はアーク、放電、及び他のビーム不安定性の発生原因となる。ビーム電流が増加すると、ビームによるガス搬送量は増加し、ビームライン全体の圧力制御はさらに困難になる。ビームラインを通じたGCIBによる大量ガスの搬送と放出の能力は従来のイオンビームと較べて特異であるため、圧力に関連したビーム不安定性と放電は高電流GCIBでは従来のイオンビームよりもさらに深刻な問題となる。典型的なGCIBイオンソースでは、ビームの中性ガスクラスターは電子衝撃でイオン化される。イオナイザー領域は一般的に真空度が劣り、典型的には周囲の構造と較べて高電圧である。
【0009】
本発明は、GCIB対象物体処理システムで利用するイオンソースを備えたイオナイザーの周辺で発生する過渡現象の頻度を減少させるために、電気バイアス技術とシールド技術の組み合わせを利用している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は従来技術で知られた形態である典型的なデザインのGCIB処理装置100の基本要素を示す概略図であり、以下の事項を開示する。真空容器102は3つの連通チャンバー(ソースチャンバー104、イオン化/加速チャンバー106及び処理チャンバー108)に分割されている。3つのチャンバーは真空ポンプシステム146a、146b、146cでそれぞれ適した作動圧力に減圧される。ガス保存シリンダー111に保存された濃縮可能なソースガス112(例えばアルゴンまたは窒素)は加圧下でガスメータバルブ113とガス供給チューブ114を通って滞留チャンバー116に導入され、適正に形状化されたノズル110を介して実質的にさらに低い圧力内に放出される。よって超音速ガスジェット118が発生する。ジェットの膨張による冷却はガスジェット118の一部をクラスター状態に濃縮する。それぞれのクラスターは数個から数千個の弱く結合した原子または分子を含む。ガススキマー開口部120は、高い圧力が有害である下流領域(例:イオナイザー122、高電圧電極126、処理チャンバー108)を減圧するため、クラスタージェットに濃縮加工されなかったガス分子を部分的に分割する。濃縮可能なソースガス112に適するものとしてアルゴン、窒素、炭素、二酸化炭素、酸素、等々がある。スキマー開口部120は好ましくは円形であり、ほぼ円筒状のクラスタージェットを形成する。
【0011】
ガスクラスターを含む超音速ガスジェット118がガスジェット発生器(すなわち、ソースチャンバー104のコンポーネントでスキマー開口部120を含む)により形成された後、クラスターはイオナイザー122内でイオン化される。イオナイザー122は好適には実質的にクラスターガスジェット118と同軸に整合された円筒状である。イオナイザー122は典型的には電子衝撃イオナイザーであり、一以上の白熱フィラメント124から熱電子を発生させ、ジェットがイオナイザー122を通過する際に、ガスジェット118内のガスクラスターと衝突させることで、電子を加速して指向させる。電子衝撃はクラスターから電子を弾き出し、クラスターの一部を正にイオン化させる。適正にバイアス処理された高圧電極セット126はイオナイザーからクラスターイオンを抽出してビームを形成し、それを加速して望むエネルギーを付与し(典型的には1keVから数十keV)、集束させてGCIB128を形成する。フィラメント電源136はフィラメント電圧Vを供給し、イオナイザーフィラメント124を加熱する。陽極電源134は陽極電圧Vを与え、フィラメント124から放出された熱電子を加速してガスジェット混入クラスター118を照射し、イオンを発生させる。抽出電源138は抽出電圧Vを与え、高電圧電極をバイアスしてイオナイザー122のイオン化領域からイオンを抽出し、GCIB128を形成する。加速電源140は加速電圧VACCを与え、イオナイザー122に関して高圧電極をバイアスし、VACCに等しい加速を全GCIBに与える。一つ以上のレンズ電源(例えば142と144)が、GCIB128を集束させるための集束電圧(例えばVL1とVL2)で高圧電極をバイアスするために設けられる。
【0012】
半導体ウェハーまたはGCIB処理により処理される他の対象物体である物体152は物体保持ホルダー150で保持され、GCIB128の通路内に置かれる。ほとんどの利用が空間的に均等な結果を要する大型対象物の処理を想定するので、空間的に均質な結果を与えるために広い範囲にわたってGCIB128を均質にスキャン処理するスキャニングシステムの利用が望ましい。2対の直交静電スキャニングプレート130と132が、ラスターまたは他のスキャニングパターンを望む処理領域全体に提供するために利用することができる。ビームスキャン処理が実行されるとき、GCIB128はスキャン処理されたGCIB148に変換される。これは対象物体152の全表面をスキャン処理する。
【0013】
図2は、従来技術による機械式スキャニングGCIB処理装置200の基本要素の概略図である。対象物体152を機械的にスキャン処理する固定ビーム式と、ビーム測定用の従来型ファラディカップ並びに従来型熱イオンニュートラライザーを有している。ガスメータバルブ223を備え、滞留チャンバー116にガス供給管114を介して連結されたガス貯蔵シリンダー221に貯蔵されるオプションの第2ソースガス222(典型的にはソースガス112とは別)を追加的に含有することを除いて、GCIB構成は図1で示すものに類似する。図示はしないが、当業者であれば理解するように、ガス貯蔵シリンダー、配管及バルブを追加することで3個以上のソースガスが容易にアレンジできる。この複数のガスアレンジによって、2つの異なるソースガス112と222間で制御可能に選択でき、ガスクラスターを形成するために、2以上のソースガスの混合物を制御可能にアレンジできる。ソースガス112と222はそれ自体がガスの混合物でもよい。さらに、図2の機械的にスキャン処理するGCIB処理装置200において、GCIB128は静止状態であり(GCIB処理装置100でのようには静電的にスキャニングされない)、対象物体152はGCIB128によって機械的にスキャン処理され、GCIB128の効果を対象物体152の表面に提供する。
【0014】
Xスキャンアクチュエータ202はXスキャン動作208方向(紙面に対し垂直)に対象物ホルダー150の線状動作を与える。Yスキャンアクチュエータ204はYスキャン動作210方向に対象物ホルダー150の線状動作を与える。この方向は典型的にはXスキャン動作208に直交する。Xスキャン動作とYスキャン動作の組み合わせで対象物ホルダー150に保持された対象物体152をラスター様のスキャニング動作にてGCIB128を通過移動させ、GCIB128により対象物体152の表面に均質な照射をし、対象物体152を均質に処理する。対象物ホルダー150は対象物体152をGCIB128の軸に対して傾斜させ、GCIB128が対象物体152の表面に対してビーム入射角206を有するように配置する。ビーム入射角206は90°その他であるが、典型的には90°または約90°である。Yスキャニング中に、対象物ホルダー150に保持された対象物体152は図示の152Aと150Aでそれぞれ示されたポジションから別ポジションAに移動する。これら2ポジション間で移動するとき、対象物体152はGCIB128を通ってスキャン処理され、両端でGCIB128の通路から完全に外れる(オーバースキャン)。図2では明示されないが、同様なスキャニングとオーバースキャンが(典型的には)直交Xスキャン動作208方向(紙面に垂直)で実行される。
【0015】
ビーム電流センサー218はGCIB128の通路内に対象物体ホルダー150後ろに設置され、対象物ホルダー150がGCIB128の通路を外れてスキャン処理されるとき、GCIB128のサンプルを受信する。ビーム電流センサー218は典型的にはファラディカップ等であり、ビーム進入口以外は閉じており、真空容器102の壁に電気絶縁マウント212で固定されている。
【0016】
マイクロコンピュターベースのコントローラーのような、コントローラー220はXスキャンアクチュエーター202とYスキャンアクチュエーター204とに電気ケーブル216を介して接続され、Xスキャンアクチュエーター202とYスキャンアクチュエーター204とを制御し、対象物体152をGCIB128光路の内外に設置し、対象物体152をGCIB128に対して均質にスキャン処理し、GCIB128による対象物体152の均質な処理を達成する。コントローラー220はリード線214を介してビーム電流センサー218で収集されたサンプルビーム電流を受容し、GCIBをモニターして所望の量が搬送されたとき、GCIB128から対象物体152を外すことで対象物体152によって受容されるGCIB量を制御する。
【0017】
図3は図2で示す従来技術によるGCIB処理装置の一部300のさらに詳細な概略図である。図示部分300はガススキマー開口部120、イオナイザー122及び超音速ガスジェット118を含んで表され、イオナイザー122のイオン化作用でGCIB128に変換されている。望ましいGCIBソースの操作によれば、中性ガスクラスターの超音速ガスジェット118はイオナイザー入口316からイオナイザー122に入り、イオナイザー122内で進行する電子衝撃イオン化によって少なくとも部分的にイオン化され、GCIB128としてイオナイザー出口318から放出される。イオナイザー本体は真空容器及び他のシステムコンポーネントに対して絶縁電圧VACCでバイアスされる。よってイオン化されたGCIB128は対象物体152(図2に示す)に到達する前に電圧VACCで加速される。ガス発生器の少なくとも一部(すなわちガススキマー開口部120)は導電性であり、イオナイザー122から絶縁された真空容器(図2の102)に取り付けられているため、ガス発生器の導電部分(すなわちイオナイザー入口316)と、ガススキマー開口部120との間には電位差VACCが存在する。VACCは典型的には約1kVから60kVの範囲である。イオナイザー入口316は直径Dを有しており、典型的には2cmから3cmの直径を有している。イオナイザー入口316近辺のイオナイザー122内の正イオン302の一部は不可避的にイオナイザー入口316に向かって後方にドリフトし、イオナイザー122とスキマー開口部120との間の高電位差によりイオナイザー入口を通って後方に抽出される。これらイオンはイオン化された残留ガス、または電子衝撃等によるクラスター分裂で発生した分解生成物であり得る。
【0018】
イオナイザー122を出ると、これらイオンはそれらを高エネルギーに加速するイオナイザー122の電圧VACCで強力に反発される。それらは、それらをガススキマー開口部120及び近辺領域に搬送させる軌道304を通って衝突し、第2電子306を放出する。第2電子306はイオナイザーの正電圧VACCによってイオナイザー122に向かって加速され、軌道308を通る。ガスとガスクラスター310を含んだ超音速ガスジェット118内の加速された第2電子306は、超音速ガスジェット118内のガス及び/又はガスクラスターをイオン化して正イオン312を形成し、ガススキマー開口部118近辺並びにガススキマー開口部118とイオナイザー入口316との間にプラズマ領域314を創出させる。これによりガススキマー開口部120とイオナイザー122との間で放電を開始させることができる。この放電によってクラスターを分解してさらに高い電流を導き出し、瞬間的に過負荷状態にして加速器電源(図2の140)を遮断し、GCIB128の過渡妨害すなわち“グリッチ”を引き起こす。増加したGCIB電流の創出は超音速ガスジェット118内の高速ガス流や、イオナイザー122内の増加電子流を必要とし、GCIBが対象物体から分離されているとき、ビーム搬送ガスのさらに増加した放出を必要とする。これら全要素は上述メカニズムの発生可能性増大の要因となり、GCIBビーム電流が増加するときに増加するグリッチ率を有したビームの“グリッチ”を発生させる。
【0019】
図4は図3で示すGCIB処理装置に類似した領域350の概略図であるが、“グリッチ”を減少あるいは最小化させつつGCIB電流を増加させる機構を含んでいる。例えば延長チューブ352のような管状導体が、イオナイザー122の入口に提供されたイオナイザー122の一体部分として図示されている。しかし、延長チューブはさほど一体的に連結させる必要はない。延長チューブ352は導電性であり、イオナイザー122に通電状態に取り付けられて、イオナイザーの電圧を有する。延長チューブ352とイオナイザー122との間にほぼ同一の電圧関係を達成させる他の形態でも採用可能である。延長チューブ352は内径Dを有しており、イオナイザー122のイオナイザー入口(図3の316)の径Dとほぼ同一である。延長チューブ352は長さLを有し、好適にはDよりも大きく、さらに好適にはDの2倍よりも大きい。延長チューブ352の壁は導電性であり、好適には金属製で、ガスコンダクタンスを向上させるために、打ち抜きがされたり(perforated)、あるいは複数の連結された共軸リング形態であったり、またはスクリーン材料製である。延長チューブ352はイオナイザー122の内部を外部電界から遮蔽し、イオナイザー122の入口近辺で形成された正イオン(例えば354)がイオナイザーから後方に抽出され、ガススキマー開口部120側に加速される可能性を減少させている。
【0020】
電子抑制装置366は第1電圧の導電性電子抑制電極358と、第2電圧の第2電極356と、抑制電極バイアス電源360とを含んでいる。従来の“接地”記号が図1、図2、図4及び図5で採用されているが、当業者であれば、それら記号は特定の電圧に接続されていることを意味せず、共通の基準電圧への接続を示していることを理解する。抑制電極バイアス電源360はグリッチ抑制電圧VGS(好適には約1kVから約5kV)を第2電極356とガススキマー開口部120に対して電子抑制電極358を負にバイアスするように設けられる。第2電極とスキマーはほぼ同じ電圧である。電子抑制電極358と第2電極356はそれぞれ共軸に整列した開口部を中性超音速ガスジェット118の搬送のために有する。負にバイアスされた電子抑制装置はガススキマー開口部120と電子抑制電極358との間の領域に電界を提供する。
【0021】
この電子抑制電極は、ガススキマー開口部内で放出された第2電子362を、ガススキマー開口部120または通電状態に接続された隣接領域に戻す軌道364に従わせる。また電子抑制装置は、ガススキマー開口部120とイオナイザー122との間の領域の超音速ガスジェット118内でそれらを加速させず、イオン化させない。延長チューブ352と電子抑制装置366は、ガススキマー開口部120とイオナイザー122との間の領域で放電やアークによるビームグリッチの減少に貢献する。図4で示す組み合わせで使用されているように、それらを独立に使用した貢献度の合計よりもさらに効果的である。その組み合わせによって、ビームグリッチングの原因であるスキマーとイオナイザーの放電を無視できる程度に減少させる。また、全ての原因によるグリッチ率を1時間あたり1回程度にして500から1000マイクロアンペア程度の安定したGCIBビーム電流の発生を可能にする。これは従来システムで得られる結果の10倍から100倍の改善である。以上、静電電子抑制装置366を説明したが、磁性電子抑制装置及び他の電子ゲートも同様に効果的であると予測される。
【0022】
図5は図4で示す本発明の改良を含んだ産業規模の対象物処理のための完成GCIB処理装置500の概略図である。
【0023】
以上、本発明を種々な実施例を基にして解説したが、本発明の範囲内でそれらに様々な変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、静電スキャンビームを利用する従来のGCIB処理装置の基本要素を示す概略図である。
【図2】図2は、対象物の機械的スキャニングを実行する静止ビームを利用し、ソースガスを混合させる従来のGCIB処理装置の基本要素を示す概略図である。
【図3】図3は、図2で示す従来のGCIB処理装置の一部のさらに詳細な概略図である。
【図4】図4は、図3に示すGCIB処理装置の同一領域に本発明の改良を含んだ概略図である。
【図5】図5は、本発明のGCIB処理装置の概略図であり、対象物の産業処理のために完成GCIB処理装置に改良を加えたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電流ガスクラスターイオンビーム装置であって、
減圧チャンバーと、
中性ガスクラスターを含んだガスジェットを発生させるために前記減圧チャンバー内に設置されたガスジェット発生器と、
ガスクラスターイオンを形成するため、前記ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化させるイオナイザーと、
エネルギーが付与されたガスクラスターイオンビームを形成するよう前記ガスクラスターイオンを加速させるため、前記減圧チャンバー内に設置された加速器と、
前記ガスジェット発生器と前記イオナイザーとの間での電子の移動を実質的に妨害しつつ、該イオナイザーにまで前記中性ガスクラスターを実質的に通過させるために前記ガスジェット発生器と前記イオナイザーとの間に設けられた電子抑制器と、を含んでいることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ガスジェット発生器は、
加圧ガスソースと、
前記加圧ガスソースから減圧チャンバーに加圧ガスを膨張させるノズルと、
スキマー開口部と、をさらに含んでいることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記イオナイザーはガスジェットを受容する入口を有していることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記ガスジェットは実質的に筒状で、軸を有し、
前記イオナイザー形状は実質的に筒状で、入口は実質的に直径Dの円形であることを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記イオナイザー入口と前記ガスジェット発生器との間に設けられ、ガスジェットの軸と同軸方向に整列された管状コンダクターをさらに含んでいることを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記ガスジェット発生器の少なくとも一部は電気的に導電性であり、第1電圧で電気的にバイアスされており、
前記イオナイザーの少なくとも一部は電気的に導電性であり、第2電圧でバイアスされており、
管状コンダクターは第2電圧と同様の電圧でバイアスされており、イオナイザーからガスジェット発生器へのイオンの後方抽出を防止していることを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項7】
第2電圧は第1電圧に対して略1kVから略60kV正電圧であることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記管状コンダクターは実質的に直径Dで長さLの筒状であり、LはDより大きいことを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項9】
0.5D<D<1.5Dであることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記ガスジェット発生器の少なくとも一部は電気的に導電性であり、第1電圧で電気的にバイアスされており、
イオナイザーの少なくとも一部は電気的に導電性であり、異なる第2電圧でバイアスされていることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記電子抑制器は、異なる第3電圧で電気的にバイアスされた導電性電子抑制電極と、
第1電圧でバイアスされた導電性電極とを含んでおり、
前記導電性電子抑制電極と前記導電性電極はそれぞれガスジェットの搬送用開口部を有していることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
第2電圧は第1電圧に対して略1kVから略60kV正電圧であり、
第3電圧は該第1電圧に対して略1kVから略5kV負電圧であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項13】
前記電子抑制器は磁性電子抑制器であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項14】
減圧チャンバー内に中性ガスクラスターのガスジェットを形成するガスジェット発生器と、ガスクラスターイオンを形成するために前記ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化するイオナイザーと、エネルギーを付与されたガスクラスターイオンビームを形成するために前記ガスクラスターイオンを加速する加速器とを含んだ高電流ガスクラスターイオンビームシステムにおける、ビーム安定性を向上させ、高電流ガスクラスターイオンビーム発生時の過渡現象を減少させる装置であって、
前記ガスジェット発生器と前記イオナイザーとの間に設けられた電子抑制器が、イオナイザーへの中性ガスクラスターの通過を実質的に許し、ガスジェット発生器とイオナイザーとの間の電子の通過を実質的に防止することを特徴とする装置。
【請求項15】
高電流ガスクラスターイオンビーム装置であって、
減圧チャンバーと、
中性ガスクラスターを含み、軸を有したガスジェットを発生させるために該減圧チャンバー内に設置されたガスジェット発生器と、
ガスクラスターイオンを形成するため、前記ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化させ、ガスジェットを受容する入口を有したイオナイザーと、
前記イオナイザー入口と前記ガスジェット発生器との間に露出して、前記ガスジェットの軸と同軸方向に整列された筒状コンダクターと、
エネルギーが付与されたガスクラスターイオンビームを形成するために前記ガスクラスターイオンを加速させる、前記減圧チャンバー内に設置された加速器と、
を含んでおり、本装置は前記イオナイザーから前記ガスジェット発生器に向かうイオンの後方抽出を防止するように調整されていることを特徴とする装置。
【請求項16】
ガスジェット発生器は、
加圧ガスソースと、
該加圧ガスソースから減圧チャンバーに加圧ガスを膨張させるノズルと、
スキマー開口部とをさらに含んでいることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項17】
ガスジェットは実質的に筒状であり、イオナイザー形状は実質的に筒状で、入口は実質的に直径Dの円形であることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項18】
ガスジェット発生器の少なくとも一部は導電性であり、第1電圧で電気的にバイアスされており、
イオナイザーの少なくとも一部は導電性であり、異なる第2電圧でバイアスされており、
筒状コンダクターは第2電圧でバイアスされて、前記イオナイザーからガスジェット発生器へのイオンの後方抽出を防止していることを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項19】
管状コンダクターは実質的に筒状であり、直径Dと長さLを有し、LはDよりも大きいことを特徴とする請求項18記載の装置。
【請求項20】
0.5D<D<1.5Dであることを特徴とする請求項19記載の装置。
【請求項21】
減圧チャンバー内で中性ガスクラスターのガスジェットを形成するガスジェット発生器と、
ガスクラスターイオンを形成するために前記ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化する、入口を有したイオナイザーと、
エネルギーを付与されたガスクラスターイオンビームを形成するために前記ガスクラスターイオンを加速する加速器とを含んだ高電流ガスクラスターイオンビームシステムにおける、ビーム安定性を向上させ、高電流ガスクラスターイオンビーム処理時の過渡現象を減少させる装置であって、
前記イオナイザーの入口とガスジェット発生器との間に、ガスジェット軸と同軸方向に整列されている管状コンダクターを含んでいることを特徴とする装置。
【請求項22】
500から1000マイクロアンペアのビーム電流を有したガスクラスターイオンビームの安定性を高める方法であって、減圧チャンバー内で実施される以下のステップ:
中性ガスクラスターのガスジェットをガスジェット発生器で発生させるステップ;
ガスジェット内の放電可能性を減少させるために、前記ガスジェット発生器とイオナイザーとの間で電子の通過を実質的に防止しつつ、該イオナイザーへの前記中性ガスクラスターの通過を許可するステップ;
ガスクラスターイオンを形成するために、ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化するステップ;及び
エネルギーが付与されたガスクラスターイオンビームを形成するために、ガスクラスターイオンを加速するステップ、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項23】
500から1000マイクロアンペアのビーム電流を有したガスクラスターイオンビームの安定性を高める方法であって、減圧チャンバー内で実施される以下のステップ:
ガスジェット発生器により、ガスジェット軸を有し、中性ガスクラスターを含む実質的に筒状のガスジェット発生させるステップ;
ガスジェットを受容する入口と、イオナイザー入口とガスジェット発生器との間に設けられ、前記ガスジェット軸と同軸方向に整列された管状コンダクターとを有するイオナイザーを提供するステップ;
ガスジェットの放電可能性を減少させるために、ガスジェット発生器とは異なる電圧で前記管状コンダクターと前記イオナイザーの少なくとも一部を電気的にバイアスするステップ;
ガスクラスターイオンを形成するために、ガスジェット内の中性ガスクラスターの少なくとも一部をイオン化するステップ;及び
エネルギーが付与されたガスクラスターイオンビームを形成するためにガスクラスターイオンを加速するステップ、
を含んでいることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−529877(P2007−529877A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504133(P2007−504133)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/009018
【国際公開番号】WO2005/089459
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(505099750)エピオン コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】