説明

高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法

【課題】加熱時に生成されたスケールを除去し、材料の表面及び裏面を的確な温度差として圧延機で圧延することで上反りを確実に防止する。
【解決手段】加熱炉1の加熱により高Si鋼材料7の表層に生成され、ファイアライトを含んで地鉄中にくさび状に食い込んでいるスケール21は、サイジングプレス3において高Si鋼材料7に30mm以上の幅圧下を行なうことで亀裂22が生じ、高Si鋼材料7の表層から除去しやすくなる。そして、デスケーリング装置4において高圧水を噴射することで、スケール21は小さな塊に分割されて高Si鋼材料7の表層から外部に飛散していく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ラインにおいて、加熱炉で加熱された高Si鋼の材料を圧延機で圧延する際に上反りを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の熱間圧延に際しては、圧延に先立って鋼材料を加熱炉に装入して加熱する。加熱炉内は酸化雰囲気なので、加熱中に鋼材料の表層は酸化されてスケールが生成する。このスケールが鋼材料の表層に付着したままで圧延を行うと、圧延材の表面にスケールが食い込み、スケール疵として残存する。このスケール疵の発生を防止するため、従来から圧延前の鋼材料の表層に高圧水を噴射するデスケーリング工程を行なうことで、鋼材料のスケールを除去する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、スケールの剥離のしやすさは鋼の成分によっても異なり、特に、Si含有量が0.6重量%以上の鋼材料(以下、高Si鋼材料と称する)に生成するスケールは、非常に剥離しにくいことが知られている。この理由は、スケール生成の際に、スケールと高Si鋼材料との粒界にくさび状にファイアライト(2FeO・SiO2)が形成されるからである。
このため、高Si鋼材料の熱間圧延ラインでは、デスケーリング工程における高圧水の噴射だけではスケールが十分に除去されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高Si鋼材料のスケールは地鉄と比較して熱伝熱係数が高く、デスケーリング工程後、表層にスケールが残存している高Si鋼材料は、水が溜まっている表面側が冷えやすい。
そして、表面及び裏面に大きな温度差が付いた(裏面温度が高く、表面温度が低い)高Si鋼材料が圧延機で圧延されると、圧延材に上反りが発生しやすく、圧延材製品の品質低下、操業上のトラブルや生産設備の破損などを招くおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、加熱時に生成されたスケールを除去し、材料の表面及び裏面を的確な温度差として圧延機で圧延することで上反りを確実に防止することができる高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願の請求項1記載の高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法は、加熱炉で加熱された高Si鋼材料を圧延機で圧延する熱間圧延ラインにおいて、前記加熱炉において、表面及び裏面が的確な温度差となるように前記高Si鋼材料を加熱し、前記加熱炉及び前記圧延機の間のラインにスケール除去部を設け、当該スケール除去部において、前記加熱炉で前記高Si鋼材料の表層に生成されたスケールに亀裂を生じさせ、前記亀裂を境に複数に分割された前記スケールを前記表層から除去するようにした。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法において、前記スケール除去部を、前記加熱炉の下流に配置したサイジングプレスと、このサイジングプレスと前記圧延機との間に配置したデスケーリング装置とで構成し、前記加熱炉から抽出した前記高Si鋼材料を、前記サイジングプレスにて幅方向に30mm以上圧下することで前記スケールに亀裂を生じさせ、前記サイジングプレスで幅圧下した前記高Si鋼材料の表面及び裏面に対して、前記デスケーリング装置が高圧水を噴射することで、前記亀裂を境に複数に分割されたスケールを前記表層から除去するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法によると、加熱炉の加熱により高Si鋼材料の表層に生成され、ファイアライトを含んで地鉄中にくさび状に食い込んでいるスケールは、スケール除去部により亀裂が生じ、複数に分割されて高Si鋼材料の表層から外部に飛散していく。
したがって、本発明は、加熱炉において表面及び裏面が的確な温度差となるように加熱された高Si鋼材料は、圧延機で圧延される直前では、熱伝達係数が高く、熱的影響を与えやすいスケールが表層から完全に除去されており、加熱炉において表面及び裏面の的確な温度差を付けた状態を維持しているので、圧延機で圧延されて形成された圧延材の上反りを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る熱間圧延ラインを示す概略図である。
【図2】本発明に係る熱間圧延ラインに配置した炉温制御装置の構成を示す図である。
【図3】本発明に係る熱間圧延ラインにおいて高Si鋼材料に生成したスケールが除去される状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すものは、本発明に係る熱間圧延ラインの一部を示すものであり、ライン上流に加熱炉1が配置され、この加熱炉1からライン下流側に向けてHSB(ホットスケールブレーカー)2、サイジングプレス3、デスケーリング装置4、エッジャー5及び粗圧延機6の順で配置されている。
【0012】
そして、この熱間圧延ラインで熱間圧延される材料は、Si含有量が0.6重量%以上の鋼材料7であり(以下、高Si鋼材料7と称する)、幅寸法が1400mm程度の直方体形状とし、長手方向を搬送方向に向けて移動する。
加熱炉1は、図2に示すように、高Si鋼材料7を表面及び裏面から加熱する8つのゾーン1a〜1hを有する加熱炉であり、1aは予熱帯上部ゾーン、1bは予熱帯下部ゾーン、1cは第1加熱帯上部ゾーン、1dは第1加熱帯下部ゾーン、1eは第2加熱帯上部ゾーン、1fは第2加熱下部ゾーン、1gは均熱帯上部ゾーン、1hは均熱帯下部ゾーンである。
【0013】
図2の符号10は、加熱炉1を構成する8つのゾーン1a〜1hそれぞれの炉温制御を行なう炉温制御装置である。なお、炉温制御とは、各ゾーン内の炉内雰囲気温度に基づいてバーナに供給すべき燃料の流量を調整することで高Si鋼材料7を加熱制御するものである。
炉温制御装置10は、温度調整器(TIC)11と、ガス流量調整器(FIC)12及び燃焼空気流量調整器(FIC)13とで構成されている。
温度調整器11には、炉内温度を検出する温度センサ14から均熱帯下部ゾーン1hの炉内温度信号が入力する。そして、温度調整器11は、温度センサ14から入力した炉内温度信号に基づいて、均熱帯下部ゾーン1hに対するガス流量調整器12の設定値を演算する。
【0014】
また、ガス流量調整器12は、温度調整器11から入力した設定値と、ガス配管上の流量センサ15aから入力する流量信号とに基づいて弁開度制御を演算し、ガス流量調節弁16の弁開度を調節する。これにより、均熱帯下部ゾーン1hの炉温を調節するガスバーナ17へのガス供給量を制御する。
さらに、燃焼空気流量調整器13は、温度調整器11から入力した設定値に空気比Mを乗じた設定値が入力し、この設定値と、燃焼空気配管上の流量センサ15bから入力する流量信号とに基づいて弁開度を演算し、燃焼空気流量調節弁18の弁開度を連続的に調節する。
この温度調整器11、ガス流量調整器12及び燃焼空気流量調整器13からなる炉温制御装置10は、各ゾーン1a〜1hに温度センサ14及びガスバーナ16を配置し、各ゾーン1a〜1hの炉内温度を温度センサ14で計測し、その計測値に基づいてガスバーナ16に供給すべき燃料及び空気の流量を調整する炉温制御を行なう。
【0015】
また、HSB2は、加熱炉1から抽出された熱間状態の高Si鋼材料7のデスケーリングを行なう装置であり、高Si鋼材料7の表面及び裏面に向けて高圧水を噴射することで、高Si鋼材料7の表層に生成したスケールを除去する。
サイジングプレス3は、高Si鋼材料7の幅圧下を行なう装置である。
デスケーリング装置4は、サイジングプレス3で幅圧下した高Si鋼材料7の表面及び裏面に高圧水を噴射してデスケーリングを行なう装置である。
【0016】
エッジャー5は、デスケーリング装置4を通過した高Si鋼材料7の幅方向圧延を行なう装置である。
粗圧延機6は、幅方向圧延を行なった高Si鋼材料7を所定厚さに圧延して圧延材20を形成する装置である。
ここで、本発明に係る圧延機が、粗圧延機6に相当している。
【0017】
次に、本実施形態の高Si鋼材料7の熱間圧延について、図1から図3を参照して説明する。
先ず、図1に示すように、高Si鋼材料7は、加熱炉1に装入されていく。加熱炉1の各ゾーン1a〜1hに配置した炉温制御装置10は、図2で示したように、温度センサ14が検出した炉内温度に基づいてガスバーナ17へのガス供給量、燃焼空気量を制御し、高Si鋼材料7の表面及び裏面が的確な温度差となるように加熱する。
上記の的確な温度差とは、高Si鋼材料7の表面の温度が裏面の温度に対して10〜20℃高い範囲の温度差がある場合をいう。
ここで、加熱炉1に装入された高Si鋼材料7は、炉内が酸化雰囲気なので表層の酸化によりスケール21が生成する(図3(a)参照)。このスケール21は、ファイアライトを含んでおり、スケールが地鉄中にくさび状に食い込んだ状態となる。
【0018】
次に、加熱炉1で加熱された熱間状態の高Si鋼材料7はHSB2に装入され、高Si鋼材料7の表面及び裏面に向けて高圧水を噴射することで、表層に生成したスケールの一部が除去される。
次に、HSB2から搬出された高Si鋼材料7は、サイジングプレス3内に搬入され、このサイジングプレス3において、幅寸法が1400mm程の高Si鋼材料7に対して30mm以上の幅圧下を行なう。
このサイジングプレス3により高Si鋼材料7に対して30mm以上の幅圧下を行なうと、図3(b)に示すように、ファイアライトを含んで地鉄中にくさび状に食い込んだスケール21の圧延方向に亀裂22が生じる。この亀裂22の形成によってスケール21は除去しやすくなる。
【0019】
次に、スケール21に亀裂22が生じている高Si鋼材料7は、デスケーリング装置4内に搬入され、このデスケーリング装置4において表面及び裏面に高圧水が噴射される。
この際、図3(c)に示すように、デスケーリング装置4のノズル4aから高圧水がスケール21に向けて噴射されると、亀裂22が生じているスケール21は小さな塊に分割されて高Si鋼材料7の表層から外部に飛散し、高Si鋼材料7の表層から完全に除去されていく。
【0020】
次に、表層からスケールが完全に除去された高Si鋼材料7は、エッジャー5に装入され、幅方向圧延が行なわれる。
次に、エッジャー5で幅方向圧延が行なわれた高Si鋼材料7は、粗圧延機6で圧入されて圧延材20が形成される。
本実施形態の高Si鋼材料7の熱間圧延によると、加熱炉1の加熱により高Si鋼材料7の表層に生成され、ファイアライトを含んで地鉄中にくさび状に食い込んでいるスケール21は、サイジングプレス3において高Si鋼材料7に30mm以上の幅圧下を行なうことで亀裂22が生じ、高Si鋼材料7の表層から除去しやすくなり、デスケーリング装置4において高圧水を噴射することで小さな塊に分割されて高Si鋼材料7の表層から外部に飛散していく。
【0021】
したがって、加熱炉1において表面及び裏面が的確な温度差となるように加熱された高Si鋼材料7は、粗圧延機6で圧延される直前では、サイジングプレス3及びデスケーリング装置4を通過することで、熱伝達係数が高く、熱的影響を与えやすいスケール21を表層から完全に除去しており、加熱炉1において表面及び裏面の的確な温度差を付けた状態を維持しているので、粗圧延機6で圧延されて形成された圧延材20の上反りを確実に防止することができる。
なお、本実施形態の加熱炉1は、材料3を表面及び裏面から加熱する8つのゾーン1a〜1hを有する加熱炉としたが、本発明の要旨がこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0022】
1…加熱炉、1a〜1h…ゾーン、2…HSB、3…サイジングプレス、4…デスケーリング装置、5…エッジャー、6…粗圧延機、7…高Si鋼材料、10…炉温制御装置、11…温度調整器、12…ガス流量調整器、13…燃焼空気流量調整器、14…温度センサ、15a,15b…流量センサ、16…ガス流量調節弁、17…ガスバーナ、18…燃焼空気流量調節弁、20…圧延材、21…スケール、22…亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉で加熱された高Si鋼材料を圧延機で圧延する熱間圧延ラインにおいて、
前記加熱炉において、表面及び裏面が的確な温度差となるように前記高Si鋼材料を加熱し、
前記加熱炉及び前記圧延機の間のラインにスケール除去部を設け、当該スケール除去部において、前記加熱炉で前記高Si鋼材料の表層に生成されたスケールに亀裂を生じさせ、前記亀裂を境に複数に分割された前記スケールを前記表層から除去することを特徴とする高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法。
【請求項2】
前記スケール除去部を、前記加熱炉の下流に配置したサイジングプレスと、このサイジングプレスと前記圧延機との間に配置したデスケーリング装置とで構成し、
前記加熱炉から抽出した前記高Si鋼材料を、前記サイジングプレスにて幅方向に30mm以上圧下することで前記スケールに亀裂を生じさせ、
前記サイジングプレスで幅圧下した前記高Si鋼材料の表面及び裏面に対して、前記デスケーリング装置が高圧水を噴射することで、前記亀裂を境に複数に分割されたスケールを前記表層から除去することを特徴とする請求項1記載の高Si鋼の熱間圧延ラインにおける上反り防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187603(P2012−187603A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52057(P2011−52057)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】