説明

魚状ロボット

【課題】 尾鰭や胸鰭の遥動によらずとも、この魚状ロボットを前進又は後退させることが可能な魚状ロボットを提供する。
【解決手段】尾鰭17を含む胴後部16を遥動させることによって水中を遊泳することが可能に構成されていて、重心を長手方向に移動する重心移動機構40によってこの魚状ロボット10に長手方向の傾きを与えたうえ、浮沈タンク31内の水量を変えることによってその魚状ロボット10の見掛け比重を調節し、それによって生じた、浮力と重力との差を推進力として、必ずしも、電力消費の大きい、尾鰭17を含む胴後部16の遥動によらずとも、この魚状ロボット10を前進又は後退させることが可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尾鰭や胸鰭の遥動によらずとも、この魚状ロボットを前進又は後退させることが可能な魚状ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚状ロボットもしくは人工魚と称せられるものが種々提案され、その幾つかは実用化されている。そのうち、実際の魚の前進機構、水平旋回機構、及び上下運動機構について、それぞれ幾つかの例が示され、そのうちロボットが試作されたことも示されている。(例えば非特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、その遊泳には尾鰭の揺動等に多大のエネルギを必要とし、それを内蔵のバッテリに依存しようとすれば、頻繁な充電が必要であると言う問題点がある。なお、非特許文献1は上下運動について幾つかの提案をしているが、省エネについて触れていない。
【0004】
【非特許文献1】平田 宏一:魚ロボットの概要,海上技術安全研究所ホームページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、本発明は、上記した従来技術の欠点を除くために、尾鰭や胸鰭の遥動によらずとも、この魚状ロボットを前進又は後退させることが可能な魚状ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、請求項1の発明は、外見が魚状に形成された、一体又は略一体のゴム様弾性体の外皮で覆われ、且つ空気が封入された浮沈タンクへ水を送入したり、浮沈タンクから水を排出したりすることによって浮力を制御することが可能であり、且つ尾鰭を含む胴後部を遥動させることによって水中を遊泳することが可能に構成された魚状ロボットであって、この魚状ロボットを任意の俯角又は仰角でその長手方向に傾きが生じるように、重心を長手方向に移動する重心移動機構を搭載しており、それによってその魚状ロボットに長手方向の傾きを与えたうえ、前記浮沈タンクによって、この魚状ロボットの浮力と重力とを不等にし、その浮力と重力との差を推進力として、必ずしも、電力消費の大きい、尾鰭を含む胴後部の遥動によらずとも、この魚状ロボットを前進又は後退させることが可能に構成されている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成に加えて、前記重心移動機構は、前記重錘が長手方向のネジ棒に螺合されており、そのネジ棒の回転によって長手方向に移動するよう構成されている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記魚状ロボットの側方、左右方向又は略左右方向に外に向かって伸びる軸の周りに回動する、少なくとも一対の翼を備えている。
【0009】
請求項4の発明は、外見が魚状に形成された、一体又は略一体のゴム様弾性体の外皮で覆われ、且つ空気が封入された浮沈タンクへ水を送入したり、浮沈タンクから水を排出したりすることによって浮力を制御することが可能であり、且つ尾鰭を含む胴後部を遥動させることによって水中を遊泳することが可能に構成された魚状ロボットであって、前記浮沈タンクへ水に限定しない任意の液体を送入すること、その浮沈タンクからその液体を排出することが可能に、その液体を貯蔵する補助タンクが付設され、且つその補助タンクはその容積が貯蔵液量に応じて増減容易に可撓性を有し、その容積の増減に応じて、この魚状ロボットを包囲する水が、その補助タンク周囲へ、又はその周囲から容易に移動するよう構成されている。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の構成に加えて、前記浮沈タンクへ水に限定しない任意の液体を送入すること、その浮沈タンクからその液体を排出することが可能に、その液体を貯蔵する補助タンクが付設され、且つその補助タンクはその容積が貯蔵液量に応じて増減容易に可撓性を有し、その容積の増減に応じて、この魚状ロボットを包囲する水が、その補助タンク周囲へ、又はその周囲から容易に移動するよう構成されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、浮沈タンク内の水量を調節し、この魚状ロボットは、その見掛け比重を、それを包囲する水の比重と同じにした場合、浮力と重力とが等しく、見掛け上無重力状態であり、その他の力が作用しなければ、静止していれば、何時までもその位置に静止し、また動いていても、水の抵抗を受けて減速し、間もなく停止する。それに対して浮沈タンク内の水量の調節によって、この魚状ロボットの見掛け比重を水の比重より、大きくするか、小さくすると、その浮力と重力との差が推進力となって、その魚状ロボットは、その姿勢が水平であれば、そのまま又は略そのままの姿勢で鉛直方向に浮上するか、又は沈降する。その速度は浮力と重力との差の増大に伴って増大する。
【0012】
なお、魚状ロボットは、一般に前部分の幅が大きく、後部分の幅が小さいため、その浮沈時の抗力が前と後で異なり、後部分が前部分よりも僅かに先行し、前後方向に僅かに傾斜する。その傾斜に伴って、この魚状ロボットは、鉛直方向に比べて小さいが、推進力の前後方向分力も僅かながら発生し、後進する。
【0013】
それに対して、この魚状ロボットは、重心移動機構によって重心をその中立点から前方又は後方に移動すれば、重心と浮心が同一鉛直線上に位置するよう、前下向き又は前上向きに、長手方向の傾きを生じるが、そのままの姿勢で静止していて、浮上することも、沈降することもない。しかしながら、この姿勢で、上述のようにこの魚状ロボットの見掛け比重を水の比重より、大きくするか、又は小さくすると、その浮力と重力との差が推進力となって、浮上又は沈降する。しかもその魚状ロボットは、長手方向に傾斜しているため、その長手方向の推進分力を有するため、その浮沈に当たって先行する端部(例えば前下向きの場合は頭部)を先頭に、尾鰭を含む胴後部の遥動によらずとも、魚状ロボットの前後方向の側に近寄った、抵抗最小の方向に前進又は後退することが出来る。その移動速度は浮力と重力との差の増大と共に増大する。
【0014】
従って、上記重心の長手方向の移動と,浮力と重力との差の変更と,を組み合わせ、先ず前下向きにして沈降しながら前進し、次いで前上向きにして浮上しながら前進すると言うジグザグ運動を交互に繰り返すことによって、電力消費の大きい、尾鰭17を含む胴後部16の遥動によらずとも、この魚状ロボット10を前進させることが出来、その省エネ化を図ることが出来る。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、重心移動機構の構成が簡単なうえ、設置空間が小さくて済み、しかも重心制御が正確、容易である。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、前記魚状ロボットは、その側方、左右方向又は略左右方向に外に向かって伸びる軸の周りに回動する翼によって、静止中であればその影響を受けることはないが、運動中であれば、その形状、面積、傾きに応じてその揚力又は/及び抗力を受ける。例えば、その翼の面積を出来るだけ大きくし、その翼をその魚状ロボットの長手方向に平行にすれば、それに垂直な方向の抗力が増大するため、同一の浮沈深さに対する水平移動距離が増大し、従って同一水平移動距離に対する浮沈回数が減少し、浮沈切り替えのための浮沈タンクへの給排水に必要な電力消費を節減することが出来る。なお、単に鉛直方向に浮沈する場合は、その魚状ロボットを水平にすると共に、翼はその長手方向に対して垂直にし、浮沈時の抵抗を最小限にすればよい。
【0017】
請求項4の発明によれば、又は請求項5の発明によれば(請求項1乃至3のいずれかの発明の効果に加えて)、この魚状ロボットは、浮沈に当たって、その浮沈タンクから周囲へ水の排出や周囲からの水の導入なしに、それに付設された補助タンクに貯留された液体によって周囲の水と同様の効果を発揮させることが出来る。従って、浮沈タンク用のポンプ・配管の、種々の物質を含む、周囲の水と接触することはなく、前記物質による、汚れ・詰まり・腐食等が防止可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の魚状ロボットを実施するための最良の形態について図1(a),(b),(c)によって説明すると、10は魚状ロボット、11はそれを覆う外皮であって、中空状一体又は略一体のゴム様弾性体よりなり、しかも、形態・模様・色・触感に至るまでその外観が可能な限り自然魚に似るよう造られている。なお、15は魚状ロボットの胴本体部分、16は胴本体部分15の後方に一体に結合された胴後部、17はその胴後部16の後部、それと一体に結合された尾鰭、18は前記胴本体部分15の前方に一体に結合された頭部である。
【0019】
次に20は、大部分の搭載部品(後述)を水密に収容する水密容器であって、胴本体部分15、頭部18内に配置され、主として両端が開かれた中空円筒21と,前端が閉じられ、後端が開かれた断面円形のキャップ22と,前記中空円筒21の各端部が外嵌された円板23,24と,よりなるが、そのうち円板23は後述する理由から刳り抜かれていると共に、キャップ22の後端部も外嵌されている。その他に図示は省略するが、各円板23,24と,中空円筒21、キャップ25と,の間をシールするOリング、両円板23,24間に張架された複数本の支柱等が存在する。
【0020】
ここで本発明の主題である、魚状ロボット10の、長手方向の傾斜及び浮力と重力との差を組み合わせ、利用した前進又は後退に関連する構成について記述する。30は魚状ロボット10の見掛け比重を調節する見掛け比重調節部であって、内部に空気が封じ込まれ、水を貯留することが出来る浮沈タンク31、その浮沈タンク31に外(魚状ロボット10周囲)から水を吸入したり、外へ排出したりするポンプ32の他図示されない給排水配管を備えている。なお、前記浮沈タンク31は、前記刳り抜かれた前側の円板23を越えて前方に伸びている。また、上記機器、部品は全て水密容器20内に水密に収納されている。
【0021】
次いで40は魚状ロボット10の重心を長手方向に移動する重心移動機構であって、重錘41、その重錘41を長手方向に貫通し、それに螺合されるネジ棒42、そのネジ棒42を1組の歯車(記号省略)を介して回動させる重錘移動用サーボモータ43、及び前記重錘41の位置を検知するポテンショメータ44を備えている。なお、前記ネジ棒42は必要長さ確保のため、上記刳り抜かれた円板22より前方に伸びており、また、前記重錘41はそのネジ棒42の回動によって長手方向にのみ案内されるよう拘束されている。
【0022】
さらに50は魚状ロボット10の揚力等を調節する揚力等調節機構であって、上記円板22の刳り貫かれた部分に配置された一対の翼回動用サーボモータ51,51、そのサーボモータ51,51に結合され、刳り貫かれた円板22をその半径方向に貫いて左右方向又は略左右方向(図では僅かに左右下向きに傾斜)に伸びる左右一対の軸(記号省略)にそれぞれ装着された翼51,51を備えている。なお、上記機器、部品は翼51,51を除き容器本体部分20内に水密に収納されている。なお、90はこの魚状ロボット10全体の制御部、95は各部に必要な電力を供給する蓄電池である。
【0023】
以上の構成に対する、尾鰭等の揺動によるものを除く作用について説明する。先ず単純な浮沈作用について説明する。この魚状ロボット10は、見掛け比重調整部30を構成する浮沈タンク31内の水量を調節し、その見掛け比重を、それを包囲する水の比重と同じにした場合、浮力と重力とが等しく、見掛け上無重力状態であり、その他の力が作用しなければ、静止していれば、何時までもその位置に静止し、また動いていても、水の抵抗を受けて減速し、間もなく停止する。
【0024】
それに対して浮沈タンク31内の水量をポンプ32によって排出又は導入することによってこの魚状ロボット10の見掛け比重を水の比重より、大きくするか、小さくすると、その浮力と重力との差が推進力となって、その魚状ロボット10は、後述するようにその姿勢が水平であれば、そのまま又は略そのままの姿勢で鉛直方向に浮上するか、又は沈降する。その速度は浮力と重力との差の増大に伴って増大する。
【0025】
なお、魚状ロボット10の重心は、姿勢安定化のため、その鉛直対称面内、浮心(浮力中心:魚状ロボット10内をその搭載品に占有された部分を含めて全て水で満たしたときの重心であって、それに対して浮力が作用する)直下に位置するよう設定されており、その魚状ロボット10を左右幅方向、長手方向のいずれかに傾けようとすると、重心と浮心との間に左右幅方向、長手方向のいずれかのずれが生じ、復元力が作用し、元の姿勢に戻る。
【0026】
次に魚状ロボット10を長手方向に傾斜させた場合について説明する。この魚状ロボット10の重心の長手方向の移動は次のようにして行うことが出来る。すなわち、重心移動機構40を構成する重錘移動用サーボモータ43を回動させると、その回動は1組の歯車を介してネジ棒42へ伝達され、そのネジ棒42が回動する。そのネジ棒42に螺合された重錘41は、前述のように長手方向のみに移動可能に拘束されていて、そのネジ棒42の回動によってその中立点から前方又は後方へ移動し、それに伴って重心も前方又は後方へ移動する。
【0027】
見掛け比重がそれを包囲する水の比重と等しい場合、上述のように重心がその中立点から前方又は後方へ移動すると、重心と浮心が同一鉛直線上に位置するよう、前下向き又は前上向きに、長手方向の傾きを生じる。しかしながら、魚状ロボット10はその姿勢のままで静止していて、浮上することも、沈降することもない。それに対して、この姿勢で、上述のように浮沈タンク31の水量を変化させ、この魚状ロボット10の見掛け比重を水の比重より、大きくするか、又は小さくすると、その浮力と重力との差が推進力となって、浮上又は沈降するが、その浮沈に当たって、先行する端部(例えば前下向きの場合は頭部18)を先頭に、抵抗最小の方向に前進又は後退する。その移動速度は浮力と重力との差の増大と共に増大する。
【0028】
前述の抵抗最小の方向に前進又は後退することについてより具体的に説明すると、前記浮力と重力との差に伴って生じる、前下向き又は前上向きに傾斜した魚状ロボット10の推進力Fは、例えば図2(a)に示すように、長手方向に平行な推進分力Fpとそれに垂直な推進分力Fvとに分けられ、その速度Vも長手方向に平行、垂直の分速度Vp,Vvに分けられる。その各分速度Vp,Vvはその魚状ロボット10を包囲する水の抵抗がないとすれば、その経過時間と共に次第に増大する。
【0029】
しかしながら、その各分速度Vp,Vvは、その水の抵抗を受けるため、それぞれの推進分力とその分抗力(KpVp,KvVv)とが等しくなる、一定値(終端速度Vpt,Vvt=(推進分力Fp,Fv)/(比例定数Kp,Kv))に落ち着く。なお、比例定数Kp,Kvは、それぞれ断面積Ap,Avと,渦を生じ易いかどうかによって決まる形状係数Dp,Dvと,の積である。しかも、両者について前記比例定数Kp,Kvを比較すると、魚状ロボット10の形状から長手方向の比例定数Kpに比べてそれに垂直な方向の比例定数Kvが著しく大であって、長手方向の推進分力Fpはそれに垂直な推進分力Fvに比べて小さいが、上記終端速度を求める式によって終端速度Vpt,Vvtが決まり、魚状ロボット10はその長手方向に平行な方向に近寄った、抵抗最小の方向に前進又は後退する。
【0030】
従って、図2(b)に示すように、上記重心の長手方向の移動と,浮力と重力との差の変更と,を組み合わせ、先ず前下向きにして沈降しながら前進し、次いで前上向きにして浮上しながら前進すると言うジグザグ運動を交互に繰り返すことによって、電力消費の大きい、尾鰭17を含む胴後部16の遥動によらずとも、この魚状ロボット10を前進させることが出来、その省エネ化を図ることが出来る。
【0031】
しかも、この重心移動機構40は、それを構成する主要機器、部品が、重錘41、ネジ棒42、重錘移動用サーボモータ43、及びポテンショメータ44であって、ネジ棒42の回動によって重錘41が長手方向に移動し、それによって重心を長手方向に容易に移動することが可能であり、その機構が簡単なうえ、占有空間が小さくて済み、他の手段に比較して重心制御が正確、容易である。
【0032】
次に魚状ロボット10の揚力等を調節する揚力等調節機構50について説明すると、上記円板23の刳り抜かれた部分に配置された一対の翼回動用サーボモータ51,51、そのサーボモータ51,51に結合され、刳り抜かれた円板23をその半径方向に貫いて左右方向又は略左右方向(図では僅かに左右下向きに傾斜)外側に伸びる左右一対の軸(記号省略)にそれぞれ装着された翼52,52を備えている。なお、上記機器、部品は翼52,52を除き容器本体部分20内に水密に収納されている。
【0033】
揚力等調節機構50の作用について説明すると、魚状ロボット10は水平静止状態では、翼51,51を回動するだけでは、浮力と重力との差も変化せず、従ってその挙動に何らの変化を生じない。また、重心を長手に移動しても、単に長手方向に傾斜するだけで、以後静止したままである。しかし、運動中の魚状ロボット10は、翼51,51の傾きに応じた揚力又は/及び抗力を受け、その運動に種々の変化が生じる。
【0034】
すなわち例えば、魚状ロボット10を長手方向に傾斜させ、浮力を増減し、浮沈させる場合、その翼51,51を長手方向に水平にすると、それらに平行な方向の抗力は殆ど変化しないが、その面積に応じて、それらに垂直な方向の抗力が増大するため、同一の浮沈深さに対する水平移動距離が増大し、それだけ同一水平移動距離に対する浮沈回数が減少し、浮沈切り替えのための浮沈タンクへの給排水に必要な電力消費を節減することが出来る。
【0035】
それに対して単に鉛直方向に浮沈させる場合は、その魚状ロボット10を水平にすると共に、翼51,51は魚状ロボット10の長手方向に対して垂直にすることによって浮沈時の抗力を最小限にすることも可能である。また、水平な姿勢で鉛直又は略鉛直に浮上中、翼51,51の傾きを前上向きにすると、それによって前上向きの揚力を与えることが出来、その魚状ロボット10を重心の移動によらずとも前上向きに前進させることも出来る。
【0036】
ここで本発明の主題ではないが、それぞれ尾鰭17を含む胴後部16の遥動、魚状ロボット10の水平面内での旋回、に関連する構成の一例について説明する。先ず揺動機構60について説明すると、61は弾性変形容易な一枚の金属製の遥動板であって、その前端は前記水密容器20の後側円板24の後方に結合された軸支持部材27の後端に固定されている。62は揺動軸であって、その軸支持部材27上下に鉛直に取り付けられた1対の軸受け(記号省略)に回動自在に支承されている。63,63はその揺動軸62に垂直一体に取り付けられ、その揺動軸62を中心に左右方向に延びる上下1対のレバー、64,64はその各レバー63と前記揺動板61の後部との間に張架された左右1対の金属細線、65は揺動用動力伝達部分であって、前記揺動軸62とそれを駆動する揺動用サーボモータ67との間に介在する、水平軸66その他の部材よりなる。
【0037】
さらに、尾鰭17を含む胴後部16を折り曲げ、魚状ロボット10を水平面内で左右に旋回させる旋回機構70の一例について説明する。71は旋回軸であって、上記軸支持部材27、上記揺動軸62前方の上下に鉛直に取り付けられた1対の軸受け(記号省略)に回動自在に支承されている。72はその旋回軸71に垂直一体に取り付けられ、その旋回軸71を中心に左右水平方向に延びるレバー、73,73はそのレバー72と前記揺動板61の前部との間に張架された左右1対の金属細線、74は旋回用動力伝達部分であって、前記旋回軸71とそれを駆動する旋回用サーボモータ76との間に介在する、前記円板24を貫通する水平軸75その他の複数の部材よりなる。以上の構成によれば、尾鰭17を含む胴後部16を胴本体部分15に対して折り曲げると、尾鰭17を含む胴後部16を揺動させた場合だけでなく、それによらず、上述のように長手方向に傾斜した姿勢で浮沈させる場合でも、魚状ロボット10は左右に旋回させることが可能になる。
【0038】
3番目に上記尾鰭17を含む胴後部16の内部構造について簡単に説明すると、80は複数の円板81(又はそれに準ずる形状の板)が長手方向に隙間を開けて配列された板列部分であって、前記尾鰭17を含む胴後部16を覆う外皮11を内側から支持すると共に、その各円板81は前記遥動板61と一体に結合されていて、その断面形状を全く又は殆ど変えず、且つ円板81同士の隙間を変えることによって前記遥動板61と共に容易に左右に湾曲し、遥動することが可能に構成されている。以上のように構成されることによって尾鰭17を含む胴後部16を自然魚のそれのようにしなやかに遥動させることが可能になる。
【0039】
その尾鰭17を含む胴後部16の遥動機構60と,上述の見掛け比重調節部30、重心移動機構40及び揚力等調節機構50と,を組み合わせた作用について説明する。見掛け比重調節部30との組み合わせについては、単に前進しながら浮沈するだけであるため、敢えて説明するまでもない。次にこの魚状ロボット10に前記遥動機構60と重心移動機構40とを組み合わせ作動させると、その見掛け比重が水の比重と同じものであっても、上向きに浮上させたり、下向きに沈降させたりすることが可能である。さらにそれに見掛け比重調節部30を組み合わせ、作動させると、その遥動による推力に、上述の浮力と重力との差による、上向き又は下向きに前進させる推力が加わるため、遥動のみよる場合に比較して、それだけ同一水平移動距離当たりの電力消費が節減される。
【0040】
次に尾鰭17を含む胴後部16の遥動機構60と翼51,51を含む揚力等調節機構50とを組み合わせると、魚状ロボット10の見掛け比重が水の比重に等しくても、魚状ロボット10の速度と翼51,51の傾斜とに応じて揚力が生じるためその翼51,51の傾きの方向に近寄った方向に浮上又は沈降する。なお、魚状ロボット10はその速度と翼51,51の長手方向の傾きをそのまま維持しておくと、その長手方向の傾きは次第に増す筈あるが、その傾きの増大に伴って重心と浮心との長手方向のずれが増し、復元力が増すため、その傾きの増大も減速し、遂にはその速度と翼51,51の傾きに応じた一定値に落ち着く。それにさらに重錘41の位置の移動を組み合わせれば、いずれか単独よりも魚状ロボット10の長手方向の傾きを大きくすることが出来る。
【0041】
ここで図3によって可撓性補助タンクについて説明する。すなわち、前記浮沈タンク31へ水に限定しない任意の液体(例えば油)を送入すること、その浮沈タンク31からその液体を排出することが可能に、その液体を貯蔵する補助タンク35が付設され、しかもその補助タンク35はその容積が貯蔵液量に応じて増減容易に可撓性を有し、その容積の増減に応じて、この魚状ロボット10を包囲する水が、その補助タンク31周囲へ、又はその周囲から容易に移動するよう構成されている。
【0042】
以上のよう構成されることによって、この魚状ロボット10は、浮沈に当たって、その浮沈タンク31から周囲へ水の排出や周囲からの水の導入なしに、それに付設された補助タンク35に貯留された液体によって周囲の水と同様の効果を発揮させることが出来る。従って、浮沈タンク31用のポンプ・配管の、種々の物質を含む、周囲の水と接触することはなく、前記物質による、汚れ・詰まり・腐食等が防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を実施するための最良の形態例であって、(a)はその鉛直縦断面、(b)はその水平断面図、(c)は翼付近の横断面図である。
【図2】図1の魚状ロボットの挙動を説明する、(a)は推進力、速度のベクトル図、(b)は経路図である。
【図3】本発明を実施するための、浮沈タンクに、任意の液体を送入(a)、又はその浮沈タンクからその液体を排出(b)、可能に、その液体を貯蔵する補助タンクを付設したものを示す側面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 魚状ロボット
11 外皮
15 胴本体部分
16 胴後部
17 尾鰭
18 頭部
20 水密容器
21 中空円筒
22 キャップ
23 円板
24 円板
27 軸支持部材
30 見掛け比重調節部
31 浮沈タンク
32 ポンプ
35 補助タンク
40 重心移動機構
41 重錘
42 ネジ棒
43 重錘移動用サーボモータ
44 ポテンショメータ
50 揚力等調節機構
51 翼回動用サーボモータ
52 翼
60 揺動機構
61 遥動板
62 揺動軸
63 レバー
64 金属細線
65 揺動用動力伝達部分
66 水平軸
67 揺動用サーボモータ
70 旋回機構
71 旋回軸
72 レバー
73 金属細線
74 旋回用動力伝達部分
75 水平軸
76 旋回用サーボモータ
80 板列部分
81 円板
90 制御部
95 蓄電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外見が魚状に形成された、一体又は略一体のゴム様弾性体の外皮で覆われ、且つ空気が封入された浮沈タンクへ水を送入したり、浮沈タンクから水を排出したりすることによって浮力を制御することが可能であり、且つ尾鰭を含む胴後部を遥動させることによって水中を遊泳することが可能に構成された魚状ロボットであって、この魚状ロボットを任意の俯角又は仰角でその長手方向に傾きが生じるように、重心を長手方向に移動する重心移動機構を搭載しており、それによってその魚状ロボットに長手方向の傾きを与えたうえ、前記浮沈タンクによって、この魚状ロボットの浮力と重力とを不等にし、その浮力と重力との差を推進力として、必ずしも、電力消費の大きい尾鰭を含む胴後部の遥動によらずとも、この魚状ロボットを前進又は後退させることが可能に構成されていることを特徴とする魚状ロボット。
【請求項2】
前記重心移動機構は、前記重錘が長手方向のネジ棒に螺合されており、そのネジ棒の回動によって長手方向に移動するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の魚状ロボット。
【請求項3】
前記魚状ロボットの側方、左右方向又は略左右方向に外に向かって伸びる軸の周りに回動する、少なくとも一対の翼を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚状ロボット。
【請求項4】
外見が魚状に形成された、一体又は略一体のゴム様弾性体の外皮で覆われ、且つ空気が封入された浮沈タンクへ水を送入したり、浮沈タンクから水を排出したりすることによって浮力を制御することが可能であり、且つ尾鰭を含む胴後部を遥動させることによって水中を遊泳することが可能に構成された魚状ロボットであって、前記浮沈タンクへ水に限定しない任意の液体を送入すること、その浮沈タンクからその液体を排出することが可能に、その液体を貯蔵する補助タンクが付設され、且つその補助タンクはその容積が貯蔵液量に応じて増減容易に可撓性を有し、その容積の増減に応じて、この魚状ロボットを包囲する水が、その補助タンク周囲へ、又はその周囲から容易に移動するよう構成されていることを特徴とする魚状ロボット。
【請求項5】
前記浮沈タンクへ水に限定しない任意の液体を送入すること、その浮沈タンクからその液体を排出することが可能に、その液体を貯蔵する補助タンクが付設され、且つその補助タンクはその容積が貯蔵液量に応じて増減容易に可撓性を有し、その容積の増減に応じて、この魚状ロボットを包囲する水が、その補助タンク周囲へ、又はその周囲から容易に移動するよう構成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の魚状ロボット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−210361(P2007−210361A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29749(P2006−29749)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】