説明

(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤におけるラセミ化合物の動的速度論的分割(DKR)方法

第三の化合物を立体選択的に製造するための、第一鏡像異性体化合物を含んでなる基質をラセミ化触媒と反応させて第二鏡像異性体化合物を形成し、同時に該第二鏡像異性体化合物を、生物学的触媒の存在下で反応させて該第三化合物を形成することを含んでなる方法であって、該方法が、少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤中で行われる、方法。生物学的触媒は、好ましくは酵素である。基質は、好ましくは、第一および第二鏡像異性体化合物のラセミ化合物を含んでなる。第二鏡像異性体化合物を、生物学的触媒の存在下で、試薬、例えばアシル供与体、と反応させ、第三の化合物を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一化合物と第二化合物の接触転化により第三の化合物を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、第一および第二鏡像異性体化合物を含んでなる基質をラセミ化触媒と反応させること、および生物学的触媒の存在下で第二化合物も反応させることにより、第三の化合物を立体選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、反応によりそれ自体を消費することなく、反応の速度を増加するように作用する物質である。酵素は、多くの場合、反応が拡散限界になる点に反応活性化エネルギーを下げるのに十分に効果的な生物学的触媒である。
【0003】
酵素触媒反応の傑出した特徴は、観察される基質特異性であり、これが生物学的機能を決定する。ある種の酵素はただ一種の生物学的基質を利用し、絶対基質特異性を示すと言われる。例えば、グルコキナーゼは、ATPからグルコースへのホスフェート移動に触媒作用するが、他の糖には作用しない。他の酵素は、遙かに広い基質特異性を示し、それらの本来の基質とは異なっていることが多い、構造的に関連する分子も利用することができる。これらの酵素は、関連基特異性(relative group specificity)を示すと言われる。この種の酵素の例は、様々なアシル供与体とアシル受容体との間のエステル交換反応に触媒作用するCandida cylindracea (C. cylindracea)リパーゼである。化学的特異性に加えて、酵素は、立体化学的特異性も示す。
【0004】
The International Union of Biochemistryは、酵素を、それらが触媒作用する反応の種類に応じて、6つのカテゴリーに分類している。
【0005】
酸化還元酵素は、酸化および還元剤反応に触媒作用する。より詳しくは、これらの酵素は、C−H、C−CおよびC=C結合の酸素化およびH原子当量の除去および追加に触媒作用する。
【0006】
トランスフェラーゼは、様々な基、例えばアルデヒド、ケトン、アシル、糖、ホスホリルまたはメチル基、の移動に触媒作用する。
【0007】
ヒドロラーゼは、とりわけ、エステル、アミド、ラクトン、ラクタム、エポキシド、ニトリル、酸無水物およびグリコシドの加水分解による開裂に触媒作用する。
【0008】
リアーゼは、C=C、C=NおよびC=O結合上への小分子の付加-除去に触媒作用する。
【0009】
イソメラーゼは、異性化反応、例えばラセミ化およびエピマー化、に触媒作用する。
【0010】
リガーゼは、C−O、C−S、C−NおよびC−C結合の形成および開裂とトリホスフェートの同時開裂に触媒作用する。
【0011】
自然界では、ある種の酵素が細胞膜中のリピド層の中またはリピド層で機能する。例えば、リパーゼは、水−リピド界面で活性である。リピド層は、作用酵素に非水性および非極性環境を与える。
【0012】
酵素触媒は、それらの立体選択性を利用するために、多くの方法で商業的にも使用されている。例えば、ヒドロラーゼ区分の酵素(プロテアーゼおよびリパーゼ)は、第二アルコールおよびカルボン酸のラセミ混合物の分割に、プロキラルおよび中心対称性化合物のキラル化合物への転化、およびメソ化合物の脱対称性化に商業的に使用されている。これらの酵素は、非極性溶剤、例えばヘキサン、中で最も効果的に作用する。溶剤の極性を増加させると、酵素が急速に失活する、および/または反応速度が大幅に低下する傾向がある。
【0013】
商業的な酵素触媒作用による製法を、生成物への反応速度、選択性および/または転化を改良することにより、改良することが望まれる。広範囲な反応基質を溶解させることができ、反応の際に酵素の失活を軽減し、特定の酵素を広範囲な基質全体にわたって効果的に活用できる溶剤を使用することも望ましい。
【0014】
特に、今日商業的に使用されている公知の方法より効率的に、第一化合物を第二化合物に立体選択的に転化できる酵素触媒作用による方法が必要とされている。
【0015】
WO2004/083444号は、少なくとも一種の第一化合物を含んでなる出発材料または基質を、生物学的触媒および少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤の存在下で、試薬と反応させることを含んでなる、第二化合物を立体選択的に製造する方法を開示している。
【0016】
この先行技術方法の欠点の一つは、ラセミ化合物の、所望の鏡像異性体生成物を選択的に与えるための反応の最高理論的収率が50%であることである。従って、重要な鏡像異性体出発材料が完全に選択的に所望の鏡像異性体生成物に転化されても、望ましくない鏡像異性体出発材料は未反応で残る。これは、非経済的であるのみならず、望ましくない鏡像異性体出発材料も所望の生成物から分離しなければならない。従って、この型の反応の効率を改良することが望ましい。
【0017】
公知の方法は、この型の製法の効率を改良するために2つの反応を使用する動的速度論的分割(DKR)である。
【0018】
下記のスキーム1に示すように、抗体の先行技術方法は、RおよびSで示す鏡像異性体材料の混合物またはラセミ化合物から出発することができる。立体選択的方法は、出発異性体Rからの所望の生成物Pを、S異性体からの好ましくない生成物Qよりも、優先的に与えることができる。これは、使用する触媒の、R出発材料の反応速度がS出発材料のそれよりも遙かに高い、選択的性質によるものである。例えば、この先行技術方法では、所望の生成物Pを、出発化合物RおよびSに対して、最高50%収率で形成することができる。
【数1】

【0019】
下記のスキーム2に示す様に、動的速度論的分割を使用することにより、この収率を改良することができる。この方法は、スキーム1に示す公知の方法に、RおよびS出発材料間のラセミ化反応または平衡化を加えたものに相当する。例えば、R出発材料が反応して所望の生成物Pを与える時、共存する、または同時に起こるラセミ化反応が、より多くのR出発材料をS出発材料材料から形成する。従って、R出発材料が、生成物Pへの転化により反応から除去されれば、S異性体からR異性体への徐々に起こる転化が促進される。これによって、生成物Pが、SおよびR出発材料の混合物から、理論的最大値100%の収率で形成される。
【数2】

【0020】
動的速度論的分割反応の例は公知であるが、これらの反応には、多くの欠点がある。欠点の一つは、反応混合物がトルエンのような溶剤を使用していることである。しかし、トルエンのような溶剤は、反応混合物の全ての望ましい成分と組み合わせて使用する上で、理想的な溶剤ではない。また、トルエンのような溶剤では、反応混合物を還流加熱する必要があることが多く、その結果、高温のために、触媒が劣化するか、または所望の触媒を使用できなくなる。
【0021】
動的速度論的分割反応は、金属または金属含有錯体を含んでなるラセミ化触媒を、立体選択的生物学的触媒、例えば酵素、との組合せで使用することが多い。しかし、ラセミ化触媒および生物学的触媒は、効果的に作用するために、異なった溶剤を必要とすることが多い。例えば、ラセミ化触媒は、妥当な速度で機能するために、高温を必要とする場合があるが、そのような温度は酵素の寿命には有害である。同様に、ラセミ化触媒は、酵素活性が大きく低下するか、または酵素が分解するような溶剤中でのみ、十分な溶解性を有することがある。反応混合物の他の成分と溶剤の溶解度および相容性も考慮しなければならない。これらのファクターとしては、出発材料、全ての試薬、助触媒および共溶剤の溶解度および相容性がある。
【0022】
従って、改良された動的速度論的分割方法を提供することが求められている。
【発明の開示】
【0023】
本発明の一態様によれば、第三の化合物を立体選択的に製造する方法であって、該方法が、
第一鏡像異性体化合物を含んでなる基質をラセミ化触媒と反応させて第二鏡像異性体化合物を与え、同時に該第二鏡像異性体化合物を、生物学的触媒の存在下で反応させて該第三化合物を与えることを含んでなり、該方法が少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤中で行われる、方法が提供される。
【0024】
好ましくは、該生物学的触媒が酵素である。
【0025】
該酵素はヒドロラーゼであるのが好都合である。
【0026】
該酵素は、プロテアーゼおよびリパーゼから選択するのが有利である。
【0027】
好ましくは、酵素は、全細胞培養の一部である。
【0028】
生物学的触媒は酵素抗体であるのが好都合である。
【0029】
第一および第二鏡像異性体化合物は、ある化合物のRおよびS異性体であるのが有利である。
【0030】
好ましくは、基質が、第一および第二鏡像異性体化合物のラセミ化合物を含んでなる。
【0031】
基質は、第一および第二鏡像異性体化合物のラセミ化合物ではないのが好都合である。
【0032】
第一および第二鏡像異性体化合物は、アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミノ酸エステル、アミン、チオールおよびアミドから選択するのが有利である。
【0033】
好ましくは、溶剤は、少なくとも一種のC1−10(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる。
【0034】
該少なくとも一種のC1−10(ハイドロ)フルオロカーボンは、ジフルオロメタン(R-32)、ペンタフルオロエタン(R-125)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、1,1-ジフルオロエタン(R-152a)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R-245fa)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R-236ea)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ea)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234ze)および(Z)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(R-1225ye)からなる群から選択するのが好都合である。
【0035】
溶剤は、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ea)および1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)の少なくとも一種を含んでなるのが有利である。
【0036】
好ましくは、溶剤はヨードフルオロメタン(CFI)を含んでなる。
【0037】
少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを共溶剤との組合せで使用するのが有利である。
【0038】
共溶剤は、ハロゲンを含まないのが好都合である。
【0039】
溶剤は、液体状態にあるのが有利である。
【0040】
好ましくは、水が反応系中で別の水相を形成するのに必要なレベルよりも低いレベルの水の存在下で、本製法を行う。
【0041】
使用する水の量は、溶剤に対して飽和レベルより低いのが好都合である。
【0042】
使用する水の量は、溶剤の総重量に対して1重量%未満であるのが有利である。
【0043】
好ましくは、生物学的触媒は、Novozym 435およびSubtilisin Carlsbergから選択する。
【0044】
ラセミ化触媒は金属を含んでなるのが好都合である。
【0045】
ラセミ化触媒は、金属錯体を含んでなるのが有利である。
【0046】
好ましくは、金属はパラジウムである。
【0047】
ラセミ化触媒は、炭素上のパラジウムを含んでなるのが好都合である。
【0048】
金属はルテニウムであるのが有利である。
【0049】
ラセミ化触媒は、ルテニウム(II)と少なくとも一種の芳香族または複素芳香族配位子の錯体を含んでなるのが好都合である。
【0050】
好ましくは、ラセミ化触媒は、クロロジカルボニル[1-(i-プロピルアミノ)-2,3,4,5-テトラフェニルシクロペンタジエニル]ルテニウム(II)、1-ヒドロキシテトラフェニルシクロペンタジエニル(テトラフェニル-2,4-シクロペンタジエン-1-オン)-mu-ヒドロテトラカルボニルジルテニウム(II)、またはジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体を含んでなる。
【0051】
好ましくは、ラセミ化触媒は生物学的触媒を含んでなる。
【0052】
ラセミ化触媒は、ラセマーゼ酵素またはエピメラーゼ酵素を含んでなるのが有利である。
【0053】
第二鏡像異性体化合物を、生物学的触媒の存在下で、試薬と反応させ、第三の化合物を形成するのが好都合である。
【0054】
該試薬はアシル供与体であるのが有利である。
【0055】
好ましくは、該試薬は、ビニルアルカノエートまたはイソプロペニルアルカノエートである。
【0056】
該試薬は酢酸ビニルであるのが有利である。
【0057】
第三の化合物は、少なくとも50%の鏡像異性体過剰で形成するのが好都合である。
【0058】
第三の化合物を、少なくとも70%の鏡像異性体過剰で形成するのが有利である。
【0059】
好ましくは、第三の化合物を、少なくとも90%の鏡像異性体過剰で形成する。
【0060】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明を例により説明する。
【0061】
本発明の方法は、第二の化合物を特定のキラル第三化合物に立体選択的に転化する。つまり、第二化合物が、原則的に、反応して立体異性体の混合物を形成できるが、生物学的触媒の影響下で優先的または選択的に反応し、一種類の鏡像異性体生成物を主として、好ましくは独占的に形成する。特に、我々は、一種類の特別な鏡像異性体生成物を主として、好ましくは独占的に得ることを述べている。より詳しくは、所望の鏡像異性体が、50%を超える、より好ましくは70%を超える、特に90%を超える鏡像異性体過剰で形成されるように、出発材料または基質が転化されるのである。
【0062】
本発明の方法は、第二化合物を第三の化合物に高い立体選択性で効果的に転化できる。この転化および立体選択性は、従来の炭化水素溶剤、例えばヘキサン、を使用する公知の商業的製法で得られるよりも優れている。さらに、本方法は、従来の炭化水素または他の有機溶剤中で行われる製法よりも、高い速度および/または低い温度で進行させることができる。
【0063】
本方法で使用する(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤は、同じ反応を従来の炭化水素溶剤、例えばヘキサン、を使用して行う場合よりも、生物学的触媒の分解を少なくすることも考えられる。これによって、連続製法では、触媒を交換するまで、より長い時間稼働させるか、またはバッチ製法では、触媒をより多くの回数再使用できる。これは、ラセミ化触媒にも当てはまる。(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤は除去し易いので、触媒および生成物を容易に回収することができ、特に熱的に敏感な材料には有益である。
【0064】
本発明の方法には、第一化合物から第二化合物への転化も関与する。つまり、ラセミ化触媒を使用し、第一鏡像異性体化合物が第二鏡像異性体化合物に転化される。
【0065】
第一と第二化合物は、対向する配置のキラル中心を有することにより、異なっている。従って、第一化合物がR配置のキラル中心を有する場合、第二化合物はS配置のキラル中心を有することになろう。ラセミ化は、第一から第二の鏡像異性体化合物に直接進むことができる、または別の化合物、例えばアキラルまたは非キラル中間体を通して進むことができる。このラセミ化過程は、立体選択的反応と共存的または同時に起こり、第三化合物を形成する。一般的に、これは、この反応が、第一鏡像異性体化合物、第二鏡像異性体化合物、ラセミ化触媒、生物学的触媒、全ての必要な試薬および溶剤の存在下での、ワン−ポット製法であることを意味する。第二鏡像異性体化合物選択的に反応して第三化合物を形成するにつれて、第一鏡像異性体化合物が、第二鏡像異性体化合物を通り、次いで所望の生成物に「引っ張られる」。ラセミ化触媒は、どの時点においても、完全にラセミ混合物を達成する必要は無く、未反応第一化合物の一部だけが転化されればよいことは明らかである。
【0066】
本発明の方法は、少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤の存在下で行われる。用語「(ハイドロ)フルオロカーボン」とは、ハイドロフルオロカーボン、フルオロヨードカーボンおよびペルフルオロカーボンからなる群から選択された化合物を意味する。用語「ハイドロフルオロカーボン」とは、炭素、水素およびフッ素原子だけを含む化合物を意味する。ハイドロフルオロカーボンは、飽和、不飽和、非環式または芳香族でよい。ハイドロフルオロカーボン溶剤が好ましい。
【0067】
溶剤は、通常、液体状態にあるが、超臨界流体の使用を排除しない。超臨界流体は、その熱力学的臨界点より上の温度および圧力で流体である。溶剤が一種以上の、室温で気体である低沸点化合物を含んでなる場合、所望の液体状態は、その溶剤を適切な低温に冷却することにより、および/またはその溶剤を、製法のいずれかの時点で超大気圧にさらすことにより、達成できる。これらの手段の一方または両方を、(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤を基質と混合して反応させる前または後に、および必要であれば、プロセス中連続的に適用することができる。
【0068】
好適な(ハイドロ)フルオロカーボンは、C1−10、特にC1−5、特にC1−4(ハイドロ)フルオロカーボンから選択することができる。
【0069】
好ましいハイドロフルオロカーボンは、C1−10、特にC1−5、特にC1−4ハイドロフルオロカーボン、およびC2−5ハイドロフルオロアルケンから選択する。好適なハイドロフルオロカーボンとしては、ハイドロフルオロメタン、例えばトリフルオロメタン(R-23)、フルオロメタン(R-41)およびジフルオロメタン(R-32)、ハイドロフルオロエタン、例えばペンタフルオロエタン(R-125)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)および1,1-ジフルオロエタン(R-152a)、ハイドロフルオロプロパン、例えば1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R-245fa)、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(R-245ca)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(R-245eb)、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(R-245ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R-236ea)、1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン(R-236cb)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R-236fa)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ea)および1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ca)、テトラフルオロプロペンを包含するハイドロフルオロプロペン、例えば1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)およびペンタフルオロプロペン、例えば(Z)-1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(R-1225ye)、およびハイドロフルオロブタン、例えば1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R-356mfc)が挙げられる。
【0070】
好ましいハイドロフルオロカーボンは、R-32、R-134a、R-134、R-152a、R-143a、R-125、R-245fa、R-236eaおよびR-227eaであり、これらは全て、低沸点であり、製法の最後で反応混合物から比較的容易に除去することができる。
【0071】
これらの中で、R-227eaおよびR-143aが特に好ましい。
【0072】
フルオロヨードカーボンとしては、トリフルオロヨードメタンおよびペンタフルオロヨードメタンがある。これらの中で、トリフルオロヨードメタンが好ましい。
【0073】
所望により、二種類以上の(ハイドロ)フルオロカーボンの混合物を含む溶剤を使用することができる。
【0074】
本発明の方法に使用する溶剤は、(ハイドロ)フルオロカーボンに加えて、有機共溶剤も含んでなることができる。
【0075】
好適な共溶剤としては、とりわけ、フッ素を含まず、特にハロゲンを含まない化合物が挙げられる。好適なハロゲンを含まない共溶剤は、典型的には沸点が200℃以下、例えば−85〜200℃、である。好ましい共溶剤は、沸点が120℃以下、例えば−85〜120℃、より好ましくは100℃以下、例えば−70〜100℃、特に10℃以下、例えば−60〜10℃である。
【0076】
所望により、二種類以上の共溶剤の混合物を使用することができる。
【0077】
好適な共溶剤は、C2−6、特にC2−4炭化水素化合物、即ち炭素および水素原子のみを含む化合物、から選択することができる。好適な炭化水素としては、アルカンおよびシクロアルカンが挙げられ、アルカン、例えばエタン、n-プロパン、i-プロパン、n-ブタン、i-ブタンおよびn-ペンタン、が好ましい。
【0078】
他の好適な共溶剤としては、炭化水素エーテル、即ち式R-O-R を有し、RおよびRが独立して炭素および水素原子だけを含むヒドロカルビル基、例えばC1−6、特にC1−3アルキル基、である化合物が挙げられる。好適なジアルキルエーテルとしては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルおよびジエチルエーテルがある。
【0079】
さらに別の好適な共溶剤は、アミン、アミド、スルホキシド、アルコール、ケトン、カルボン酸、カルボン酸誘導体、無機酸およびニトロ化合物から選択することができる。
【0080】
好適なアミンとしては、アンモニア、モノ-、ジ-、およびトリアルキルアミン、例えばメチルアミンおよびトリエチルアミン、がある。
【0081】
好適なアミド共溶剤としては、N,N'-ジアルキルアミドおよびアルキルアミド、例えばジメチルホルムアミドおよびホルムアミド、がある。
【0082】
好適なスルホキシド共溶剤としては、ジアルキルスルホキシド、例えばジメチルスルホキシド、がある。
【0083】
好適なアルコール共溶剤としては、脂肪族アルコール、特にアルカノール、がある。好適なアルカノールは、C1−6、特にC1−3アルカノール、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノールおよび2-プロパノールから選択することができる。
【0084】
好適なケトン共溶剤としては、脂肪族ケトン、特にジアルキルケトン、例えばアセトン、がある。
【0085】
好適なカルボン酸共溶剤としては、ギ酸および酢酸がある。
【0086】
共溶剤として使用するのに好適なカルボン酸誘導体としては、酸無水物、例えば無水酢酸、およびC1−6、特にC1−3有機酸のC1−6、特にC1−3アルキルエステル、例えば酢酸エチル、がある。
【0087】
共溶剤として使用するのに好適なニトロ化合物としては、ニトロアルカンおよびニトロアリール化合物、例えばニトロメタンおよびニトロベンゼン、がある。
【0088】
好ましくはないが、有機共溶剤を使用する場合、溶剤ブレンドは、典型的には80.0〜99.0重量%の(ハイドロ)フルオロカーボンおよび1〜20重量%の共溶剤を含んでなる。好ましくは、溶剤ブレンドは、90.0〜99.0重量%の(ハイドロ)フルオロカーボンおよび1〜10.0重量%の共溶剤を含んでなる。共溶剤の極性が増加するにつれて、一般的に、酵素の失活に関する問題を回避するために、共溶剤の使用を少なくすることが望ましい。
【0089】
好ましくは、反応混合物には水を加えない。しかし、本発明の方法は、少なくとも少量の水の存在下で行うことができる。使用できる水の量は、水が反応系中に分離した相を形成しない程度である。これは、本方法の目的が、主として(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤から構成される環境中で酵素機能を有することであるためである。好ましくは、水の量は、使用する溶剤の飽和レベル未満に抑える。より好ましくは、反応を、溶剤の総重量に対して1重量%未満の水の存在下で行う。遊離水相が存在しないことは、基質、生成物またはラセミ化触媒が水に敏感である場合には、特に有益である。
【0090】
本発明の方法は、生物学的触媒の存在下で行う。「生物学的触媒」とは、生物学的組織または系の中に見られる触媒またはその誘導体もしくは類似体を意味し、合成された触媒を包含する。本発明の方法で使用する特別な生物学的触媒は、酵素および酵素抗体である。生物学的触媒は、無論、第二化合物から第三化合物への立体選択的転化に触媒作用することができる。特定の状況下では、追加の成分、例えばコファクター、を含むのが有益であるか、またはそれが必要である場合がある。
【0091】
典型的には、本発明の方法は、単一の生物学的触媒の存在下で行うが、我々は、触媒の混合物を使用できる可能性を排除しない。
【0092】
本方法で使用するのに好適な酵素は、上に記載した6区分の酵素のいずれかから選択することができる。
【0093】
酵素は、それらの酵素が通常存在する生物学的組織から単離されたか、または別の所で、宿主生物中で過剰発現により生産されたという意味で分類することができる。これらの個別酵素は、そのままで、または標準的な文献に記載されている、例えばFitzpatrick, P.A., Klibanov, A. M., J. Am. Chem. Soc., 1991, 113, 3166に記載されている方法を使用して凍結乾燥することができる。しかし、我々は、少なくともある種の酵素は、予め凍結乾燥することなく、(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤中で効果的に機能することができ、従って、重大な処理工程を回避する可能性があることを見出した。
【0094】
酵素は、凍結乾燥しても、しなくても、通常は、標準的な文献に記載されている方法を使用して固定する。例えば、酵素は、例えば物理的吸収または結合により、固体の不溶性マトリックス上に固定することができる。好適なマトリックスとしては、とりわけ、ガラス、ケイソウ土、シリカおよび有機重合体、例えばポリスチレンおよびポリアクリレート単独重合体および共重合体、が挙げられる。
【0095】
酵素は、固定化せずに使用することもできる。
【0096】
あるいは、酵素は、全細胞培養、例えば生(live)細胞培養、例えばLactobacillus acidophilus、静止細胞培養、例えば温水で活性化できる乾燥パン酵母、または酵素および必要なコファクターを含む、生存しない細胞培養、例えば死滅した酵母、の一部でもよい。酵素を含む全細胞培養は、通常、標準的な文献に記載されている方法を使用し、固体の不溶性マトリックス上に、例えば物理的吸収または結合により、固定する。この目的には、上記のマトリックスを使用できる。培養基は、固定せずに使用できる。
【0097】
本発明の目的に使用する好ましい酵素としては、ヒドロラーゼ区分の酵素がある。具体的な酵素は、プロテアーゼ、例えばSubtilisin CarlsbergおよびSubtilisin BPN、リパーゼ、例えばNovozym 435、Porcine pancreatic lipase、Candida antarctica B lipaseおよびPseudomonas cepacia lipaseおよびグリコシダーゼ、例えばAspergillus orgzeaから得られるα-およびβ-ガラクトシダーゼが挙げられる。
【0098】
酵素抗体は、触媒作用を有する抗体、即ち特殊な化学反応に触媒作用することができる抗体である。好適な酵素抗体は、アルドラーゼ抗体38C2である。
【0099】
酵素抗体は、酵素に関して上に記載したように、凍結乾燥および/または固定することができよう。
【0100】
本発明の方法は、ラセミ化触媒の存在下で行う。「ラセミ化触媒」とは、キラル中心の配置を反転させることにより、第一鏡像異性体化合物を第二鏡像異性体化合物に変換することができる触媒を意味する。この転化は、直接的でもよいし、中間体化合物、例えばアキラルまたはプロキラル化合物、を経由して進行させることもできる。好ましいラセミ化触媒は、金属、例えば遷移金属、を含んでなる。特に、ルテニウム(II)錯体を含んでなるラセミ化触媒が好ましい。置換された芳香族または複素芳香族炭化水素配位子を含んでなるルテニウム(II)錯体が特に好ましい。
【0101】
下記の3種類のルテニウム触媒が好ましい。
【化1】

【0102】
ラセミ化触媒1は、クロロジカルボニル[1-(i-プロピルアミノ)-2,3,4,5-テトラフェニルシクロペンタジエニル]ルテニウム(II)であり、ラセミ化触媒2は、1-ヒドロキシテトラフェニルシクロペンタジエニル(テトラフェニル-2,4-シクロペンタジエン-1-オン)-mu-ヒドロテトラカルボニルジルテニウム(II)であり、ラセミ化触媒3は、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体である。
【0103】
一実施態様では、ラセミ化触媒は、生物学的触媒、例えばラセマーゼ酵素またはエピメラーゼ酵素、である。
【0104】
ラセミ化触媒は、典型的には生物学的触媒よりも大量に使用され、例えばラセミ化触媒は、基質に対して0.01〜30モル%、好ましくは2〜20モル%、より好ましくは4〜10モル%の範囲内で使用される。
【0105】
本発明の方法は、一般的に妥当な反応速度および成分溶解度を与え、生物学的触媒、ラセミ化触媒、第一化合物、第二化合物および第三化合物を包含する反応混合物の成分の重大な分解を回避する温度で行う。典型的には、本方法は、-60〜120℃の範囲内、好ましくは-30〜80℃の範囲内、特に0〜60℃の範囲内、例えば約20℃の温度で行う。
【0106】
本方法は、大気圧、大気圧未満、または超大気圧で行うことができる。精確な操作圧力は、とりわけ、使用する溶剤、特にその沸点、によって異なる。好ましい絶対操作圧力は、0.1〜200 barの範囲内、より好ましくは0.5〜30 barの範囲内、特に1〜15 barの範囲内である。
【0107】
(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤と、反応させる基質の重量比は、好ましくは1:1〜1000:1の範囲内、より好ましくは1:1〜500:1の範囲内、特に1:1〜10:1の範囲内である。生物学的触媒は、典型的には非常に少ない量、基質に対して例えば触媒10−3〜10−4モル%のオーダーで使用する。精確な量は、酵素の活性によって異なる。
【0108】
本発明の方法は、各種の立体選択的転化に効果的に応用できる。本発明の方法は、医薬品、香味料および香料、殺虫剤、および植物病気防止組成物の製造における中間体または最終製品として使用できる化合物の製造に特に有用である。
【0109】
一実施態様では、本発明の方法を使用し、ラセミ混合物を、生物学的触媒および(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤の存在下で、試薬と反応させることにより、その混合物を分割し、そのラセミ混合物を形成する鏡像異性体の一つを優先的または選択的に反応させ、新しい鏡像異性体を形成し、他の鏡像異性体は大部分または完全に未反応のまま残す。この未反応鏡像異性体は、ラセミ化触媒によりラセミ化し、生物学的触媒と良く反応する鏡像異性体を形成する。従って、好ましくない鏡像異性体から望ましい鏡像異性体が形成されるので、生物学的触媒は、この望ましい鏡像異性体と反応して鏡像異性体生成物を与える。
【0110】
ラセミ混合物は、出発材料のRおよびS鏡像異性体を含んでなる。好ましくは、RおよびS異性体は、最初は等量で存在する。あるいは、これらの異性体は、等しくない量で存在することもある。
【0111】
従って、本発明の一実施態様では、ラセミ混合物を分割する方法を提供するが、この方法は、該混合物を試薬と、生物学的触媒および少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤の存在下で反応させ、ラセミ混合物を形成する鏡像異性体の一種を新しい鏡像異性体化合物に優先的または選択的に転化することを含んでなる。本方法は、未反応鏡像異性体出発化合物を好ましい鏡像異性体出発化合物に転化するラセミ化触媒の存在下で行う。従って、好ましくない鏡像異性体出発化合物が、好ましい鏡像異性体出発化合物を経由して、所望の鏡像異性体生成物に転化される。
【0112】
本発明のこの実施態様により分割されるラセミ混合物は、RおよびSアルコール、RおよびSカルボン酸またはエステル、RおよびSアミノ酸エステル、RおよびSアミン、RおよびSチオールまたはRおよびSアミドを含んでなることができる。好ましくは、混合物はRおよびSアミノ−酸エステルを含んでなる。この特別な分割は、RまたはS鏡像異性体のキラル炭素に付加した官能基を優先的または選択的に変換することにより、行われる。生物学的触媒は、好ましくは酵素である。ラセミ化触媒は、好ましくはルテニウムを含んでなる。
【0113】
一態様で、本発明の方法は、RまたはS鏡像異性体のOH基を試薬と反応させ、優先的および好ましくは選択的に交換するエステル交換反応により、ラセミ性1-フェニルエタノールの分割に使用する。使用する試薬は、好ましくはアシル供与体、例えばエノールエステル、例えばビニルまたはイソプロペニルアルカノエート、またはアルコキシエノールエステル、である。好ましい試薬は、酢酸ビニルである。通常、エステル交換反応を受けるのは、R鏡像異性体である。生物学的触媒は、好ましくはリパーゼ、例えばCandida antarctica B Lipaseである。
【0114】
1-フェニルエタノールとアシル供与体のモル比は、好ましくは1:0.1〜1:100の範囲内、より好ましくは1:1〜1:50の範囲内、例えば1:20である。
【0115】
反応時間は、典型的には0.1〜48時間の範囲内、好ましくは1〜36時間の範囲内、特に1〜24時間の範囲内である。
【0116】
ラセミ性1-フェニルエタノールのRまたはS鏡像異性体(通常はR鏡像異性体)の優先的/選択的エステル交換反応は、所望の鏡像異性体が、50%を超える、好ましくは70%を超える、特に90%を超える、例えば100%の鏡像異性体過剰で形成されるような反応である。
【0117】
酢酸ビニルを使用し、ラセミ化が共存しない、R鏡像異性体の100%鏡像異性体過剰を予想するラセミ性1-フェニルエタノールの分割をスキーム3に示す。
【数3】

スキーム3 第二アルコールの酵素による速度論的分割、アシル供与体として酢酸ビニルを使用
【0118】
本発明の一実施態様では、上記の反応を、その場におけるラセミ化、即ち動的速度論的分割、で行う。この過程を下記のスキーム4に示す。
【数4】

スキーム4 第二アルコールの動的速度論的分割
【0119】
スキーム4における動的速度論的分割反応は、未反応Sアルコールが少なくとも部分的にラセミ化されたR異性体の一部を与え、これが生物学的触媒と反応して所望の生成物を形成する以外は、上記のスキーム3に示す反応に対応する。上記のスキーム3に示す反応と対照的に、スキーム4に示す動的速度論的分割反応は、理論的最大eeを100%に維持しながら、理論的最大収率を50%から100%に増加させる。
【0120】
本発明の方法は、バッチ様式で、または連続的に行うことができる。沸点が常温未満である(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤を使用する場合、反応容器は、典型的には高圧に耐えられる圧力容器になる。
【0121】
バッチ製法では、製法の最後に、(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤を、例えば(ハイドロ)フルオロカーボンが常温で気体である場合には短時間蒸発により、または蒸留により除去して粗製反応混合物を形成し、必要であれば、これを精製して所望の生成物を単離する。
【0122】
連続製法では、(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤および反応物を含んでなる反応物流を、生物学的触媒およびラセミ化触媒を含む反応容器に連続的に通す。ラセミ化触媒は、少なくとも部分的に(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤中に溶解させることができる。典型的には、反応物流を、固定触媒床の上を通過させる。次いで、反応容器から出る粗製反応混合物を、例えば溶剤蒸発装置で処理し、(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤を除去し、この製法で形成された所望の生成物を回収する。除去された(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤は、凝縮させ、所望により循環使用し、溶剤の使用を最少に抑えることができる。未反応出発材料およびラセミ化触媒も、所望により循環使用することができる。
【0123】
溶剤を循環使用する場合、低沸点溶剤、つまり沸点が25℃以下、例えば0℃以下、である溶剤、に使用する好適な回収装置は、プロセスから出る粗製反応混合物を通過させる蒸発装置、蒸発装置中で発生した蒸気を圧縮するためのコンプレッサー、および コンプレッサーから出る、圧縮された蒸気を冷却するための冷却器を含んでなる。溶剤を、蒸発装置中で、コンプレッサーから吸引することにより行われる短時間蒸発により粗製反応混合物から除去し、次いで、そうして発生した溶剤蒸気を、ダイアフラムコンプレッサーでよいコンプレッサーに通し、そこで圧縮する。コンプレッサーから、溶剤蒸気は冷却器に送られ、そこで冷却去れ、液体形態に戻り、プロセスに再装填するか、または場合により、プロセスに溶剤を供給する溶剤貯蔵部に送られる。コイル状チューブの形態をとることができる冷却器は、凝縮の潜熱が溶剤蒸発に必要なエネルギーの少なくとも一部を供給するように、蒸発装置の内側に配置することができる。
【0124】
低沸点溶剤用のもう一つの好適な回収装置は、プロセスから出る反応混合物を通過させ、溶剤を蒸発させる蒸発装置、および冷却器を含んでなり、その冷却器の中で、蒸発装置から出る蒸気を冷却して液体形態に戻し、プロセスに再装填するか、または場合により、プロセスに溶剤を供給する溶剤貯蔵部に送る。蒸発装置の加熱および冷却器の冷却は、独立して行うことができるが、好ましい実施態様では、外部の熱ポンプ機構を使用し、蒸発装置の加熱および冷却器の冷却の両方を行う。外部の熱ポンプ機構は、蒸発装置、コンプレッサー、冷却器および膨脹バルブを含んでなり、これらはある回路中で連続的に配置され、その回路の中を熱移動流体が流れる。外部熱ポンプ機構の、コイル状チューブの形態をとることができる蒸発装置は、蒸発装置中の熱移動流体の蒸発により冷却器が冷却され、溶剤循環回路を通過する溶剤蒸気を凝縮させるように、溶剤循環回路の冷却器の内側または外側周囲に配置する。次いで、外部熱ポンプ機構の蒸発装置で発生した蒸気は、圧縮され、冷却器に送られ、そこで凝縮し、熱を放出する。外部熱ポンプ機構の、やはりコイル状チューブの形態をとることができる冷却器は、熱移動流体の凝縮に関連する凝縮の潜熱が、溶剤循環回路を通過する溶剤の蒸発に必要な熱を供給するように、溶剤循環回路の蒸発装置の内側または外側周囲に配置する。次いで、凝縮した熱移動流体は、膨脹バルブを通って蒸発装置に戻り、外部熱ポンプ機構のサイクルが完了する。
【0125】
外部熱ポンプ機構に代わるものとして、外部循環熱移動流体を使用し、溶剤凝縮の熱を蒸発装置容器に移動させ、溶剤蒸発用の熱を与えることができる。
【0126】
本発明の方法が完了した時、粗製反応混合物を精製工程にかけ、所望の生成物を単離することができる。次いで、純粋な生成物を一つ以上のさらなる合成工程にかけ、例えば薬学的組成物を製造することができる。あるいは、さらなる合成には、粗製反応混合物を直接使用することもできる。好適な精製技術としては、化学合成で日常使用されている技術、例えばクロマトグラフィー、結晶化および蒸留が挙げられる。
【0127】
ここで、本発明を下記の例で説明するが、これに限定するものではない。
一般的な手順
【0128】
R-134aおよびR-227eaは、Ineos Fluor Ltd.から供給され、さらなる精製を行わずに、使用した。反応を好適な容器、例えば標準的なプラスチック被覆した10 mlガラスエーロゾルビン、中で行うことにより、両方の溶剤を自己発生圧下で液体状態に維持した。
【0129】
酵素は、Aldrich Chemical CompanyまたはSigma Chemical Companyから入手した。他の薬品および溶剤は全てAldrich Chemical Companyから購入し、さらなる精製を行わずに、使用した。
【0130】
ガスクロマトグラムは、HP SE-54毛管カラム(25 mx内径0.21 mm)を備えたShimadzu GC-17a計器を使用して記録した。キラルガスクロマトグラムは、Chiraldex GTA毛管カラム(30 mx内径0.25 mm)を備えたChrompack CP9001計器で得た。どちらの場合も、火炎イオン化検出器を使用し、標準溶液を使用して個々の物質に対して応答ファクターを校正した。混合物から採取した試料をジクロロメタン中に入れた。
【0131】
キラル液体クロマトグラムは、Chiralcel OD分析カラム(250x内径4.6 mm)を備えたHewlett Packard 1050シリーズで記録した。
動的速度論的分割
【0132】
上記のように、速度論的分割は、多種多様な媒体で、鏡像異性体的に純粋な材料を得るために、かなり以前から使用されている。しかし、速度論的分割の欠点の一つは、これらの分割がもたらす収率限界である。伝統的な速度論的分割では、ただ一種の鏡像異性体だけが使用され、他は廃棄されるか、またはせいぜい、異なったプロセスに使用されるだけである。動的速度論的分割反応は、好ましくない鏡像異性体を、速度論的分割が起きている間に、その場でラセミ化することにより、この問題を解決する。このラセミ化は、ルテニウムまたはパラジウムであることが多い、金属系触媒を使用して達成される。この技術を酵素による速度論的分割に応用する際の問題の一つは、酵素とラセミ化触媒の両方に好適な溶剤を見つけることにある。(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤、例えばR-134a、R-227eaおよびR-32、は、ラセミ化触媒および生物学的触媒の両方との相容性を示し、両者とも、より一般的に使用されている溶剤と比較して、同等もしくは強化された活性を(ハイドロ)フルオロカーボン中で示すと思われる。
ラセミ化
【0133】
上に示す3種類のラセミ化触媒1、2、3を使用し、動的速度論的分割を行った。
【0134】
3種類のラセミ化触媒1、2、3を使用し、鏡像異性体的に純粋な(S)-1-フェニルエタノール4をR-134a中でラセミ化した(スキーム5)。これを、先行技術の動的速度論的分割に使用されることが多い溶剤であるトルエン中の同等条件下におけるラセミ化と比較した。3種類の触媒全てで、(ハイドロ)フルオロカーボン中でのラセミ化が著しく増加し、ラセミ化触媒1が最も顕著であった(表1)。
【数5】

スキーム5 4のラセミ化
【0135】

e.e.(%)
溶剤 1
R-134a 3.50 33.70 8.4
トルエン 58.10 75.20 32.0
表1 (S)-1-フェニルエタノール4の異なったラセミ化触媒Ru触媒によるラセミ化、室温で24時間後。1.5 mmol 4、1.5 mmolNaCO、0.08 mmolBuOK、4モル%ラセミ化触媒1、0.5 mmol (S)-1-フェニルエタノール4、6モル%ラセミ化触媒2、1.5 mmol (S)-1-フェニルエタノール4、1.5 mmol NEt、21モル%ラセミ化触媒3
【0136】
触媒1によるSアルコール4のラセミ化速度を維持するのに必要な触媒の量も研究し、触媒15モル%と20モル%の差は無視できることが分かった。結果を図1に示す。触媒1は、Sアルコール4を数時間以内に効果的にラセミ化することが分かる。
【0137】
より徹底した研究を、ラセミ化触媒3の触媒作用による(S)-1-フェニル-2-プロパノール5のラセミ化で行った(スキーム6)。このラセミ化は、表2に示す7種類の溶剤、即ちR-227ea、クロロホルム、R-134a、酢酸ビニル、トルエン、ヘキサンおよびtert-ブチルメチルエーテル(TBME)で行い、R-227eaが最良の溶剤であると思われ、触媒R-134aが3番目に高い活性を示した。触媒が同等の活性を示す唯一の有機溶剤は、クロロホルムである(表2)。しかし、クロロホルムは、多くの酵素を分解し、製薬および他のファインケミカル分野における製品中の、クロロホルムの残留レベルに対する法的な圧力が高まっているので、DKR用溶剤の魅力的な選択ではない。
【数6】

スキーム6 (S)-1-フェニル-2-プロパノール5のラセミ化。条件0.5 mmol (S)-1-フェニル-2-プロパノール5、0.5 mmol NEt、15モル%ラセミ化触媒3。
【0138】

溶剤 e.e.(%)
R-227ea 4.48
クロロホルム 10.06
R-134a 15.10
酢酸ビニル 65.94
トルエン 75.96
ヘキサン 86.26
TBME 90.38
表2 様々な溶剤における(S)-1-フェニル-2-プロパノール5のラセミ化。条件0.5 mmol (S)-1-フェニル-2-プロパノール5、0.5 mmol NEt、15モル%ラセミ化触媒3、室温で24時間後。
【0139】
ラセミ化触媒3による(S)-1-フェニル-2-プロパノール5のラセミ化を、R-227eaおよびクロロホルムでさらに行った。この研究により、初期のラセミ化速度はクロロホルムの方が高かったが、速度に交差点がある、即ち触媒の寿命がHFCでより長いことが分かった。結果を図2に示す。
動的速度論的分割
【0140】
上記の結果が両方とも、ラセミ化触媒の活性が(ハイドロ)フルオロカーボン中で増加することを示しているので、(ハイドロ)フルオロカーボンを動的速度論的分割に使用した。ラセミ化の研究で使用したルテニウム触媒3および4を、市販の生物学的触媒Novozym 435と組み合わせて、R-134a中での第二アルコールの動的速度論的分割に使用した。
【0141】
2-クロロ-1-フェニルエタノール6の動的速度論的分割反応を研究した。これらの結果は、所望の鏡像異性体生成物8が収率72%およびee80%で得られ、動的速度論的分割を(ハイドロ)フルオロカーボン中で実行できることが立証された(スキーム7)。
【数7】

スキーム7 2-クロロ-1-フェニルエタノール6のDKR。条件0.6 mmol 6、1.8 mmol p-クロロフェノールアセテート、5モル%ラセミ化触媒2、室温。
【0142】
動的速度論的分割を、ルテニウム触媒3を使用してアルコール1-フェニルエタノール4にも行った(スキーム8)。酵素、基質およびラセミ化触媒のレベルを変え、収率90+%およびe.e.を達成した(表3)。
【数8】

スキーム8 1-フェニルエタノール4のDKR。条件および結果を表3に示す。
【0143】

4 (mM) 9 (mM) 酵素(U) モル%3 収率(%) ee(%)
100 2000 100 10.7 68.1 90
100 2000 10 20.8 81.7 82
100 1000 10 21.2 86.1 83
200 1000 10 10.5 82.3 81
200 1000 10 20.0 88.1 85
100 500 10 20.9 87.6 86
300 900 4500 20.6 78.2 91
100 300 1500 21.1 80.5 91
300 900 2025 21.1 97.8 81
300 300 2025 21.1 92.3 86
300 900 4500 20.6 95.1 93
表3 室温における4のDKRの最適化
【0144】
ラセミ性1-フェニル-2-プロパノールの動的速度論的分割で分かるように、生物学的触媒Novozym 435は、これらの条件下で良好な選択性も示す(スキーム9)。
【数9】

スキーム9 1-フェニル-2-プロパノール5のDKR。条件0.5 mmol 1-フェニル-2-プロパノール5、10.0 mmol 酢酸ビニル、リパーゼ100 U、21.2モル%ラセミ化触媒3、室温。
【0145】
本発明の動的速度論的分割に関して注意すべき他の点は、短い反応時間、穏やかで都合の良い試薬、例えば酢酸ビニル、の使用、およびラセミ化を常温で行えることである。先行技術の動的速度論的分割は、プロセスが長く、高温が関与し、溶剤として還流トルエンを使用し、効果で、容易に入手できないアシル供与体を使用することがある。
【数10】

スキーム10 (S)-1-フェニル-1-エチルアミンのPd/C触媒作用によるラセミ化
【0146】
スキーム10は、炭素上のパラジウムを使用し、(S)-1-フェニル-1-エチルアミンをラセミ化することができ、この方法を本発明のDKR反応に使用できることを示している。
(S)-1-フェニル-2-プロパノールの製造
【0147】
1 Lの金属シリンダーに(±)-1-フェニル-2-プロパノール(16.3 g、120 mmol)を加えた。これに、酢酸ビニル(30 mL、325 mmol)およびNovozym 435(1.2 g、13440 U)を加えた。この容器を密封し、R-134a(130 g、100 ml)を装填した。この容器を160 rpm、25℃で72時間振とうした。R-134aを排気し、担持された酵素を粗製物から濾過した。粗製物をフラッシュクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し、(S)-1-フェニル-2-プロパノールをオイルとして得た(収率94%、e.e.90%)。
ラセミ化触媒1を使用する(S)-1-フェニル-1-エタノールのラセミ化
【0148】
(S)-1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、NaCO1.5 mmol、BuOK0.08 mmol、およびラセミ化触媒1 4モル%をフラスコ中に入れた。これにトルエン(5 mL)を加えた。容器を密封し、混合物を室温で攪拌した。24時間後、混合物の試料を採取し、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
【0149】
同じ反応を、溶剤としてR-134aを使用して試験した。(S)-1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、NaCO1.5 mmol、BuOK0.08 mmol、およびラセミ化触媒1 4モル%の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
ラセミ化触媒2を使用する(S)-1-フェニル-1-エタノールのラセミ化
【0150】
(S)-1-フェニル-1-エタノール0.5 mmol、およびラセミ化触媒2 6モル%をフラスコ中に入れた。これにトルエン(5 mL)を加えた。容器を密封し、混合物を室温で攪拌した。24時間後、混合物の試料を採取し、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
【0151】
同じ反応を、溶剤としてR-134aを使用して試験した。(S)-1-フェニル-1-エタノール0.5 mmol、およびラセミ化触媒2 6モル%の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
ラセミ化触媒3を使用する(S)-1-フェニル-1-エタノールのラセミ化
【0152】
(S)-1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、NEt1.5 mmol、3 21モル%をフラスコ中に入れた。これにトルエン(5 mL)を加えた。容器を密封し、混合物を室温で攪拌した。24時間後、混合物の試料を採取し、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
【0153】
同じ反応を、溶剤としてR-134aを使用して試験した。(S)-1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、NEt1.5 mmol、およびラセミ化触媒3 21モル%の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
ラセミ化触媒3を使用する(S)-1-フェニル-1-エタノールのラセミ化の最適化
【0154】
(S)-1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、NEt1.5 mmol、およびラセミ化触媒3(様々な量、表3参照)の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
ラセミ化触媒3を使用する(S)-1-フェニル-2-プロパノールのラセミ化
【0155】
(S)-1-フェニル-1-エタノール0.5 mmol、NEt0.5 mmol、およびラセミ化触媒3 15モル%の混合物を溶剤トルエン、クロロホルム、ヘキサン、TBMEおよび酢酸ビニル(5 mL)のそれぞれの中で調製した。容器を密封し、混合物を室温で攪拌した。24時間後、試料採取し、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
【0156】
同じ反応を、溶剤としてR-134aおよびR-227を使用して試験した。(S)-1-フェニル-2-プロパノール1.5 mmol、NEt0.5 mmol、およびラセミ化触媒3 15モル%の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)またはR-227(6.95 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。(ハイドロ)フルオロカーボン溶剤がプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これらをヘキサン中に入れ、HPLCにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
(S)-1-フェニル-1-エチルアミンのPd/C触媒作用によるラセミ化(スキーム10)
【0157】
(S)-1-フェニル-1-エチルアミン0.33 mmol、および10%Pd/C(40 mg)の混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。次いで、フラスコを排気して真空にし、水素ガスを充填した。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を35℃で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをヘキサン中に入れ、HPLCにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
2-クロロ-1-フェニル-1-エタノールの動的速度論的分割
【0158】
2-クロロ-1-フェニル-1-エタノール0.6 mmol、p-クロロフェノールアセテート1.8 mmol、ラセミ化触媒2 5モル%およびNovozym 435 36 Uの混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
1-フェニル-1-エタノールの動的速度論的分割
【0159】
1-フェニル-1-エタノール1.5 mmol、酢酸ビニル4.5 mmol、NEt1.5 mmol、ラセミ化触媒3 20.6モル%およびNovozym 435 4500 Uの混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。24時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをジクロロメタン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
1-フェニル-2-プロパノールの動的速度論的分割
【0160】
1-フェニル-1-プロパノール0.5 mmol、酢酸ビニル10.0 mmol、NEt0.5 mmol、ラセミ化触媒3 21.2モル%およびNovozym 435 100 Uの混合物をガラスエーロゾルビン中で調製した。次いで、エーロゾルビンに蓋をかぶせ、蓋を所定の位置に留めた。秤量した量の液体R-134a(6.50 g、5 mL)を、エーロゾルバルブを通して大型の圧力容器から導入した。次いで、得られた混合物を室温で攪拌した。48時間後、エーロゾルバルブを通して反応混合物の一部を排気することにより、混合物を試料採取した。R-134aがプロセス中で蒸発し、反応混合物の低揮発性残留物が残った。これをヘキサン中に入れ、ガスクロマトグラフィーにより鏡像異性体過剰に関して、およびHPLCにより鏡像異性体過剰に関して分析した。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】ラセミ化触媒3による(S)-1-フェニル-2-プロパノールの鏡像異性体過剰(ee)の減少を示すグラフである。
【図2】ラセミ化触媒3による(S)-1-フェニル-1-エタノールの鏡像異性体過剰(ee)の減少を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三の化合物を立体選択的に製造する方法であって、該方法が、
第一鏡像異性体化合物を含んでなる基質をラセミ化触媒と反応させて第二鏡像異性体化合物を与え、同時に前記第二鏡像異性体化合物を、生物学的触媒の存在下で反応させて前記第三化合物を与えることを含んでなり、該方法が少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる溶剤中で行われる、方法。
【請求項2】
前記生物学的触媒が酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素がヒドロラーゼである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、プロテアーゼおよびリパーゼから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、全細胞培養の一部である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的触媒が酵素抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第一および第二鏡像異性体化合物が、ある化合物のRおよびS異性体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基質が、前記第一および第二鏡像異性体化合物のラセミ化合物を含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基質が、第一および第二鏡像異性体化合物のラセミ化合物ではない、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第一および第二鏡像異性体化合物が、アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミノ酸エステル、アミン、チオールおよびアミドから選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶剤が、少なくとも一種のC1−10(ハイドロ)フルオロカーボンを含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一種のC1−10(ハイドロ)フルオロカーボンが、ジフルオロメタン(R-32)、ペンタフルオロエタン(R-125)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、1,1-ジフルオロエタン(R-152a)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R-245fa)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R-236ea)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ea)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234ze)および(Z)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(R-1225ye)からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶剤が、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R-227ea)および1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)の少なくとも一種を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶剤がヨードトリフルオロメタン(CFI)を含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも一種の(ハイドロ)フルオロカーボンが、共溶剤との組合せで使用される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記共溶剤が、ハロゲンを含まない、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記溶剤が液体状態にある、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
水が前記反応系中で別の水相を形成するのに必要なレベルよりも低いレベルの水の存在下で行われる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記使用する水の量が、前記溶剤に対して飽和レベルより低い、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記使用する水の量が、前記溶剤の総重量に対して1重量%未満である、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記生物学的触媒が、Novozym 435およびSubtilisin Carlsbergから選択される、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ラセミ化触媒が金属を含んでなる、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ラセミ化触媒が金属錯体を含んでなる、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記金属がパラジウムである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記ラセミ化触媒が、炭素上のパラジウムを含んでなる、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記金属がルテニウムであるのが有利である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項27】
前記ラセミ化触媒が、ルテニウム(II)と少なくとも一種の芳香族または複素芳香族配位子の錯体を含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記ラセミ化触媒が、クロロジカルボニル[1-(i-プロピルアミノ)-2,3,4,5-テトラフェニルシクロペンタジエニル]ルテニウム(II)、1-ヒドロキシテトラフェニルシクロペンタジエニル(テトラフェニル-2,4-シクロペンタジエン-1-オン)-mu-ヒドロテトラカルボニルジルテニウム(II)、またはジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体を含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ラセミ化触媒が生物学的触媒を含んでなる、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ラセミ化触媒が、ラセマーゼ酵素またはエピメラーゼ酵素を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第二鏡像異性体化合物が、前記生物学的触媒の存在下で、前記試薬と反応し、第三の化合物を形成する、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記試薬がアシル供与体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記試薬が、ビニルアルカノエートまたはイソプロペニルアルカノエートである、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記試薬が酢酸ビニルである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第三の化合物が、少なくとも50%の鏡像異性体過剰で形成される、請求項1〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第三の化合物が、少なくとも70%の鏡像異性体過剰で形成される、請求項1〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記第三の化合物が、少なくとも90%の鏡像異性体過剰で形成される、請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
実質的に添付の図面を参照しながら本明細書に記載される方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−533067(P2009−533067A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505954(P2009−505954)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001426
【国際公開番号】WO2007/129018
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(505353319)イネオス、フラウアー、ホールディングス、リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】INEOS FLUOR HOLDINGS LIMITED
【Fターム(参考)】