説明

(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルの製造方法

フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをシロキサンと接触させることによる(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルの製造方法。(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリル中の(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸副生物の量は、前記混合物をトリアルキルシリルハライドと接触させることによって低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをシロキサンと、好ましくはカルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在下に接触させることによる(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルの製造方法に関する。本発明はさらに、トリアルキルシリルハライドと接触させることによる(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリル中の(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸の量の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリル(FSOCFCOSiR、本明細書ではRSUTASと呼ばれる)は、ジフルオロカルベンの前駆体であり、オレフィンのシクロプロパン化のために使用される(ドルビアー(Dolbier)ら、Journal of Fluorine Chemistry 第125巻(2004)、459−469ページを参照されたい)。このシクロプロパン化は、商業的に有用な化合物を製造するために手段として医薬および農薬工業で価値がある。
【0003】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル(RSUTMS)は元々、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸の銀塩とヨウ化トリメチルシリルとの反応によって製造された(ターゼソン(Terjeson)ら、J.Fluorine Chem.第42巻(1989)、187−200ページ)。
【0004】
ティエンら(Tian)、Organic Letters 第2巻(2000)、563−564ページは、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(RSUA)と塩化トリメチルシリルとの反応を含むRSUTMSの製造手順を記載している。RSUAをベースとするRSUTMS製造手順は、RSUAがフッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチル(RSU)から誘導されるので好ましくない。このように、RSU(酸フッ化物)がRSUA(酸)を製造するために加水分解されるとき、フッ化水素(HF)が発生し、廃棄処分されなければならない。それから、RSUAがトリアルキルシリルハライド(ハロトリアルキルシラン)と反応されるとき、例えば、塩化物、塩化水素が発生する。このように、この方法は化学量論量のHFおよびHClを発生させる。
【0005】
RSUTASの公知の製造方法での別の問題は、生成物が通常、RSU前駆体および/またはトリアルキルシリルエステル生成物と付随水との反応のために副生物としての(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(FSOCFCOH、RSUA)で汚染されることである。RSUTAS中のRSUAの存在は、シクロプロパン化剤としてのこの化合物のその後の使用に有害である。文献は、RSUAを除去するためにRSUTMSへのトリエチルアミンの添加を記載している。残念ながら、この手順は制御するのが困難であり、全体サンプルの急速な分解をもたらし得る。
【0006】
ファーナム(Farnham)は米国特許第5,268,511号明細書で、場合により、有用な反応速度を与えるためのカルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の存在下に、シロキサンとヘキサフルオロプロピレンオキシド−ベースのカルボン酸フッ化物または無水物との反応によるトリフルオロビニルエーテルの製造を教示している。生じたシリルエステル中間体は、熱分解触媒の存在下に加熱することによってトリフルオロビニルエーテルに転化される。しかしながら、ファーナムの開示は、出発原料として基−O(C)COFまたは−O(C)−C(O)O(O)C(C)O−を含有するカルボン酸フッ化物に限定され、従って出発原料としてのRSUを除外する。上述したように、RSUTASは分解してジフルオロカルベン基を形成し、ビニルエーテルを形成することはできない。さらに、ファーナムにおけるようなプロセス工程を用いて、すなわち、カルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の存在下にシロキサンをRSUと反応させてRSUTASを製造することが試みられた場合、RSUTASは有意な収率で製造されない。
【0007】
HFなどの望ましくない副生成物の有意な生成を低減するかまたはなくすRSUTASの製造方法が必要である。加えて、RSUA副生物を低減することが望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリル(RSUTAS)はフッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチル(RSU)をシロキサンと接触させることによって製造されることが発見された。本方法は、HFなどの望ましくない副生成物を有意に生成せずにRSUTASを提供する。本発明の好ましい形態では、本方法は、カルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在下に実施される。意外にも、触媒の不存在下に、本発明の方法は、良好な反応速度で良好な転化率および収率を与える。
【0009】
本発明の別の態様に従って、RSUTAS生成物中の(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(RSUA)副生物の量は、RSUTASとRSUAとの混合物をトリアルキルシリルハライドと接触させることによって低減される。これは、本発明の一実施形態ではRSUとシロキサンとの反応と同時に、または本発明の別の実施形態では、RSUTASが回収される蒸留工程と同時にまたはその後に有利に実施される。
【0010】
本発明の好ましい一実施形態では、(a)フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチル(RSU)をヘキサメチルジシロキサン(HMDS)と接触させて(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸とを含む混合物を製造する工程と、(b)前記混合物を蒸留して(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル(RSUTMS)と(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(RSUA)とを含む留出物を形成する工程と、(c)前記留出物を塩化トリメチルシリルと接触させてその中の前記(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(RSUA)の少なくとも一部を(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル(RSUTMS)に転化させる工程と、(d)(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル(RSUTMS)を回収する工程とを含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル(RSUTMS)の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態では、(a)フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをヘキサメチルジシロキサンと接触させて、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸とを含む混合物を製造する工程と、(b)前記混合物を塩化トリメチルシリルの存在下に蒸留して(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルを含む留出物を形成する工程と、(c)(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルを回収する工程とを含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチル(RSU)をシロキサンと接触させる工程を含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリル(RSUTAS)の製造方法を提供する。
【0013】
本発明に従って使用されるシロキサンは、ケイ素への3つの自由な結合のそれぞれがヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、またはオキシシリル基に結合した状態の基Si−O−Siを含有する化合物である。オキシシリル基とは、ケイ素の自由原子価がヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビル基に結合することができるO−Si基を意味する。シロキサンは、ヘキサメチルジシロキサンにおけるように、1個のシロキサン基を含有することができるか、オクタメチルシクロテトラシロキサンにおけるように、環式化合物であり、そして幾つかのシロキサン基を含有することができるか、またはポリ(ジメチルシロキサン)におけるように多くのシロキサン基を含有することができる。有用なシロキサンには、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3−ジエチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンおよびポリ(ジメチルシロキサン)が含まれるが、それらに限定されない。好ましいシロキサンは、式RSiOSiR(式中、各Rは独立してC〜Cヒドロカルビルである)の化合物である。より好ましいシロキサンは、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)およびヘキサエチルジシロキサン(HEDS)である。HMDSが最も好ましい。反応は、おそらくHEDS上のより大きいエチル基と比較して減少した立体障害のために、HMDSでより速く進行する。
【0014】
本発明の好ましい形態に従って、RSUとシロキサンとの接触はカルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在下に実施される。「カルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在」とは、米国特許第5,268,511号明細書にファーナムによって記載されているタイプの触媒が加えられないことを意味する。ファーナムの触媒は、カルボキシレート陰イオンそれ自体(塩として加えられる)であることができる、カルボキシレート陰イオン、−O(C)COの源か、または本方法においてフッ化アシルもしくはカルボン酸無水物と反応してシラノエート、フルオリド、ならびにアセテートおよびパーフルオロオクタノエートなどのカルボキシレートをはじめとするカルボキシレート陰イオンを形成することができる源として記載されている。ファーナムはRSUを開示していないが、本出願での「カルボキシレートアニオンシリル化触媒カルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在」はまた、RSUに対応するカルボキシレート陰イオンの源、例えば、RSUAの塩が加えられないことを意味する。ファーナムにおけるようなカルボキシレート陰イオン触媒を本発明の方法に使用することが試みられた場合、生成物RSUTASは有意な収率で形成されない。これは、触媒とRSUTAS生成物との反応によるものと考えられる。
【0015】
本発明のより好ましい形態に従って、RSUとシロキサンとの接触はシリル化触媒の不存在下に実施される。シリル化触媒の不存在とは、シリル化過程の活性化エネルギーを下げることにより反応速度を高める物質または処理剤が接触工程中に全く加えられないことを意味する。いかなる反応容器にも存在することが避けられない表面がシリル化過程への付随的な触媒効果または抗触媒効果を与えるかもしれないことは理解され、かかる効果は、たとえあったとしても、シリル化反応速度への寄与はわずかであると考えらえる。より具体的には、シリル化触媒の不存在は、上述したカルボキシレートアニオンシリル化触媒をはじめとする、酸フッ化物のシリル化およびシリルエステルの形成を促進することが他の反応から知られている添加された触媒の不存在を意味する。意外にも、本発明の好ましい形態におけるように触媒なしで、本方法は、良好な反応速度で良好な転化率および収率を与える。
【0016】
RSUと接触されるシロキサンの量は好ましくは、RSUのモル当たりシロキサン中の約0.9〜約1.5モルのSi−O−Si結合である。一般に、RSUと接触されるシロキサンの量は等モルに近いものであり得る。例えば、HMDSとRSUとの反応を用いる本発明の一実施形態の場合には、好ましいモル比は約1:1である。RSUの全てを完全に消費させることが望まれる場合には化学量論比を上回るシロキサンの量が好ましいかもしれない。シロキサンの全てを完全に消費させることが望まれる場合には化学量論比を上回るRSUの量が好ましいかもしれない。本発明の後者の実施形態では、蒸留によるシリルエステルRSUTASのその後の単離は、シロキサンがRSUの沸点よりRSUTASの沸点に近い沸点を有するとき、シロキサンの不存在によって簡単にされる。
【0017】
RSUとシロキサンとの接触は液相で行うことができる。RSUTAS(反応生成物)は、過剰の反応体の1つ、RSUまたはシロキサンができるように、反応溶媒としての機能を果たすことができる。しかしながら、RSUとシロキサンとの接触は反応体または生成物以外のいかなる他の溶媒も加えずに液相で実施されることが好ましい。
【0018】
RSUとシロキサンとの接触は好ましくは約50℃〜約130℃、より好ましくは約90℃〜約120℃の温度で行われる。反応温度での反応内容物の自生圧力が反応を実施するために有利に用いられる。接触時間は典型的には約1時間〜18時間である。RSUが触媒を使用することなくRSUTASに非常に速く、かつ、かかる良好な転化率および収率で転化されることは意外なことである。
【0019】
反応器、そのフィードライン、排出ライン、および関連装置は、RSUなどのカルボン酸フッ化物に対して、およびフッ化水素に対して耐性のある材料で構成されるべきである。構成物の典型的な材料には、特にオーステナイトタイプの、ステンレススチール、モネル(Monel)(登録商標)ニッケル−銅合金、ハステロイ(Hastelloy)(登録商標)ニッケル−ベース合金およびインコネル(Inconel)(登録商標)ニッケル−クロム合金などの、周知の高ニッケル合金、ならびに銅−クラッド鋼が含まれる。
【0020】
本方法の一実施形態では、反応体RSUおよびシロキサンは反応器に加えられる。反応器は密封され、内容物は、RSUTASへのRSUの実質的な転化をもたらすのに十分な時間、所望の温度に加熱される。操作のこのモードはバッチ式として知られている。
【0021】
本方法の別の実施形態では、反応器にシロキサンが装入され、RSUは1〜18時間の期間にわたって所望の反応温度でシロキサンに加えられる。操作のこのモードは半バッチ式として知られている。
【0022】
半バッチ式の別の実施形態では、反応器にRSUが装入され、シロキサンは1〜18時間の期間にわたって所望の反応温度でRSUに加えられる。
【0023】
RSUをRSUTASに転化させるのに好適な時間の後に、反応混合物は好ましくは冷却され、そしてRSUTASを回収することができる。好ましくは、蒸留がRSUTASを回収するために用いられる。蒸留は、過剰のRSU(存在する場合)および本方法で典型的に形成されるフルオロシラン共生成物、例えば、シロキサンがHMDSであるときのフルオロトリメチルシランなどの低沸点反応成分を除去するために最初は大気圧で実施されてもよい。蒸留の圧力は次に、RSUTASを蒸留するために下げられる。好ましい蒸留圧力は1〜50mmHg(0.13〜6.7kPa)の範囲にある。蒸留釜の温度は生成物RSUTASの熱分解を避けるために約160℃を超えないことが好ましい。
【0024】
RSUTASの合成での主な副反応は、付随水によるRSUのまたはRSUTASの加水分解である。RSUTMS(FSOCFCOSi(CH)の合成で、酸汚染物質は(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸(FSOCFCOH、RSUA)である。本発明の別の態様では、RSUTASのRSUA含有率は、トリアルキルシリルハライドと接触させることによって低減される。本発明の好ましい一形態では、この接触は、RSUとシロキサンとの接触と同時に行われる。本発明の別の形態では、この接触に、同じか、または異なる反応容器でのRSUとシロキサンとの接触が続く。本発明の別の好ましい形態では、RSUAを含有するRSUTASの混合物とトリアルキルシリルハライドとの接触は蒸留工程中に、またはその後に行われる。
【0025】
本方法の操作の可能な一モードでは、RSUTAS、RSUA、フルオロシラン共生成物、および任意の未反応シロキサンまたはRSU出発原料を含む生成物混合物は、減圧下に蒸留される。回収されたRSUTASおよび任意のRSUA副生物は次にトリアルキルシリルハライドと接触させられ、生じた混合物は減圧下に再蒸留される。具体的には、HMDSとRSUとの反応によるRSUTMSの製造において、生成物混合物はRSUTMS、RSUA、フルオロトリメチルシラン、および任意の未反応HMDSまたはRSUを含む。反応混合物は、未反応RSUおよびフロオロトリメチルシラン共生成物を除去するために蒸留される。RSUTMS、RSUA、および任意の未反応HMDSを含む生成物の残りは次にトリメチルシリルハライドと接触させられる。RSUAの濃度を下げるのに十分な時間後に、この混合物は次にRSUTMSを回収するために蒸留される。
【0026】
本方法の操作の好ましいモードでは、RSUTAS、RSUA、フルオロシラン共生成物および任意の未反応シロキサンまたは酸フッ化物出発原料を含む生成物混合物は、反応容器と同じであってもまたはそれとは異なってもよい容器中でトリアルキルシリルハライドと接触させられる。生じた混合物は次に、シリルエステルを回収するために減圧下に蒸留される。
【0027】
RSUA副生物をRSUTASに転化させるための好適なトリアルキルシリルハライドは好ましくは、式RSiX(式中、各Rは独立してC〜Cヒドロカルビルであり、Xは、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群から選択されるハライドである)の化合物を含む。トリメチルシリルエステルが製造されているとき、好ましいトリアルキルシリルハライドは塩化トリメチルシリルである。トリエチルシリルエステルが製造されているとき、好ましいトリアルキルシリルハライドは塩化トリエチルシリルである。幾らかのハロゲン化水素がこれらの反応によって生成するが、実質的に全てがガスとして反応混合物から出て行く。
【0028】
RSUA含有RSUTASと接触されるトリアルキルシリルハライドの量は好ましくは、RSUAのモル当たり約1〜約5モルのトリアルキルシリルハライドである。典型的には、過剰のトリアルキルシリルハライドが用いられる。RSUAと共にRSUTASを含む混合物とトリアルキルシリルハライドとの接触は好ましくは、約25℃〜約140℃の温度で、そしてこの反応温度での混合物の自生圧力で、溶媒を加えずに液相で実施される。RSUTASおよびRSUAを含む混合物は、トリアルキルシリルハライドと組み合わせられ、次に好ましい温度にされる。あるいはまた、どちらか一方の成分が反応温度で測定される方法で時間をかけて他の成分に加えられてもよい。過剰の未反応トリアルキルシリルハライドは回収され、再使用されてもよい。
【0029】
トリアルキルシリルハライドと接触させる工程を用いる本発明の好ましい方法によって回収されるRSUTMSは、好ましくは実質的にRSUAを含まない、実質的に含まないとは、約3モル%未満のRSUA、好ましくは約1モル%未満のRSUAを含有するRSUTASを意味する。
【0030】
本方法のこの好ましい形態の効能の典型的な例として、RSUTASとRSUAとの混合物中のRSUAの量は、約9モル%から約1モル%に低減することができる(実施例1を参照されたい)。
【0031】
本発明の一実施形態はこのように、(a)RSUをヘキサメチルジシロキサンと接触させてRSUTMSおよびRSUAを含む混合物を製造する工程と、(b)前記混合物を蒸留してRSUTMSおよびRSUAを含む留出物を形成する工程と、(c)前記留出物を塩化トリメチルシリルと接触させてその中のRSUAをRSUTMSに転化させる工程と、(d)RSUTMSを回収する工程とを含む、RSUTMSの製造方法を提供する。
【0032】
本発明の別の実施形態はこのように、(a)RSUをヘキサメチルジシロキサンと接触させてRSUTMSおよびRSUAを含む混合物を製造する工程と、(b)前記混合物を、塩化トリメチルシリルの存在下に蒸留してRSUTMSを含む留出物を形成する工程と、(c)RSUTMSを回収する工程とを含む、RSUTMSの製造方法を提供する。
【実施例】
【0033】
実施例では、以下の省略形を用いる:
RSU:フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチル、FSOCFC(O)F
RSUA:(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸、FSOCFCO
RSUTMS:(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリル、FSOCFCOSi(CH、反応生成物
FTMS:フルオロトリメチルシラン、反応生成物
HMDS:ヘキサメチルジシロキサン、反応体
CTMS:クロロトリメチルシラン、反応体
【0034】
実施例1
RSUTMSの製造
600mLのオートクレーブを氷水中で冷却し、排気し、ヘキサメチルジシロキサン(294mL、220g、1.36モル)およびRSU(255.3g、1.42モル)を装入する。オートクレーブを次に100℃で18時間加熱し、圧力は最高100psig(0.79MPa)に上昇する。反応混合物を室温に冷却し、黒色液体(471.4g)をオートクレーブから取り出す。
【0035】
上記の生成物、および実質的に同じ方法で製造した他のものを2Lフラスコ中で組み合わせ、真空源と蒸留装置との間に水冷凝縮器およびドライアイストラップを用いて蒸留して共生成物フッ化トリメチルシリルをトラップする。蒸留の結果を表1にまとめる。
【0036】
【表1】

【0037】
留分2および3は、8.4モル%のRSUAを含有するRSUTMSである。RSUTMSの収率は、反応の過程で実質的に全てが転化される、HMDS、限定試薬を基準として86.9%である。
【0038】
RSUTMS中のRSUAの量の低減
冷却器、温度計、および添加漏斗を備えた500mLの3口フラスコに40.0gのCTMSを装入する。添加漏斗に100.0グラムのRSUTMS(約9モル%のRSUAを含有する)を装入する。フラスコ内容物を還流させ、フラスコ内容物の温度を81.5℃に昇温しながらRSUTMSを約2.2時間にわたって加える。RSUTMSの添加が完了した後、フラスコを2時間撹拌しながら放冷する。19F NMRによる反応混合物の分析は、RSUAの濃度が約9モル%から約1モル%に下がったことを示唆した。
【0039】
実施例2
RSUTMSの製造
本実施例では、生成物RSUTMS中のRSUAを低減するために、塩化トリメチルシリルを反応器への最初の装入物中に含める。
【0040】
210mLのハステロイTMC振盪機チューブにヘキサメチルジシロキサン(28.3g、0.174モル)およびCTMS(2.8g、0.0258モル)を装入する。チューブを密封し、ドライアイスで冷却し、排気し、RSU(33g、0.183モル)を装入する。チューブを次に105℃で6時間加熱し、圧力は最高67psig(0.56MPa)に上昇した。反応混合物を室温に冷却し、黄−茶色液体生成物を蒸留用のフラスコセットに移す。H NMRによる粗生成物の分析は、転化率が約93%(限定反応体、ヘキサメチルジシロキサンを基準として)であることを示す。19F NMRによる反応混合物の分析は、RSUTMSに対するRSUAの濃度が約8.6モル%であることを示唆する。低沸点成分(RSUおよびフルオロトリメチルシラン)を103℃の釜温度まで大気圧で蒸留する。RSUTMSを次に34mmHg(4.5kPa)で蒸留して約2モル%のRSUAを含有する34.6グラム(0.138モル)の生成物を与える。これは、6時間の反応時間で84%収率の蒸留生成物である。CTMS処理前の実施例1で見いだされるものと比べてより低いRSUA含有率は、反応開始時での塩化トリメチルシリル添加の有効性を示す。
【0041】
実施例3
RSUTMSの製造
1リットルのオートクレーブにヘキサメチルジシロキサン(243.5g、1.50モル)を装入し、次に窒素でパージし、冷却し、排気する。RSU(286g、1.59モル)を次に1.9℃で加える。オートクレーブを次に600rpmで攪拌しながら約1時間にわたって100.6℃に加熱し、圧力は最高69psig(0.58MPa)に上昇する。反応物を100℃で6時間撹拌し、次に室温に冷却する。粗生成物(521g)をオートクレーブから取り出し、RSUTMSに対するRSUAの濃度は約7.7モル%である。H NMRは、HMDS転化率が約97%であることを示す。
【0042】
生成物を、真空ジャケット付きビグリュー(Vigreux)カラムおよびコールドフィンガー蒸留ヘッドを備えた500mLのフラスコに移す。揮発性成分(RSUおよびフルオロトリメチルシラン)を、127.6℃の釜温度までの大気圧での蒸留により混合物から除去する。釜を室温に放冷し、次にCTMS(41.7g、0.384モル)を釜に加える。フラスコを次に、過剰のCTMSをオーバーヘッドに蒸留しながら大気圧で最高107.8℃に加熱する。次に蒸留での圧力を下げ、RSUTMSを回収する。中間留分(320.6g)は約3.3モル%のRSUAを含有する。RSUTMSの収率は、6時間の反応時間で転化したHMDSを基準として85%である。
【0043】
実施例4
RSUTMSの製造
実施例3の手順に従って、RSU(428g、2.38モル)をHMDS(361.8g、2.25モル)と95℃で6時間接触させる。排出後に、粗生成物のH NMR分析は、0.20モル%のHMDS、48.1モル%のFTMS、および51.7モル%のRSUTMSの存在を示唆し、HMDSの転化率は約99.6%である。粗生成物の19F NMR分析は、RSUTMSに対するRSUAの相対的な量が約3.0モル%であることを示唆する。本反応および(反応温度が110℃である以外は)実質的に同じ方法で実施された別の反応からの粗生成物を組み合わせ(合計1558g)、大気圧で蒸留して低沸点成分を除去する。クロロトリメチルシラン(126.04g)を蒸留釜に加え、混合物を一晩撹拌し、次に約370〜380ミリバール(37〜38kPa)の圧力で蒸留する。蒸留の圧力を次に33〜36ミリバール(3.3〜3.6kPa)に下げる。少量の前留分(59g)の後、生成物(1008g、装入されたHMDSを基準として87.7%収率)を、33〜36ミリバール(3.3〜3.6kPa)の圧力で、59.3〜61.3℃のヘッド温度で集める。生成物のRSUA含有率は1.4モル%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをシロキサンと接触させる工程を含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルの製造方法。
【請求項2】
接触工程がカルボキシレートアニオンシリル化触媒の不存在下に実施される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シロキサンが、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3−ジエチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンおよびポリ(ジメチルシロキサン)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
シロキサンが、ヘキサメチルジシロキサンおよびヘキサエチルジシロキサンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
シロキサンがヘキサメチルジシロキサンである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルと接触させるシロキサンの量が、フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルの1モル当たり約0.90〜約1.5モルのシロキサンである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
接触工程が、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルが溶媒としての機能を果たす状態で液相で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
接触工程が、溶媒無添加で液相で実施される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
接触工程が約50℃〜約130℃の温度で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
接触工程が、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物を製造する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物をトリアルキルシリルハライドと接触させる工程をさらに含み、該ハライドが臭素、塩素およびヨウ素からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物と、トリアルキルシリルハライドとの接触工程がフッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルとシロキサンとの接触工程と同時に行われる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物を蒸留によって回収する工程をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物と、トリアルキルシリルハライドとの接触工程が蒸留と同時に、またはその後に行われる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
トリアルキルシリルハライドが塩化トリメチルシリルである請求項11に記載の方法。
【請求項16】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物と接触させるトリメチルシリルハライドの量が、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸の1モル当たり約1〜約5モルのトリメチルシリルハライドである請求項11に記載の方法。
【請求項17】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリアルキルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸との混合物中の(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸の量が、接触工程の後に約3モルパーセント未満である請求項11に記載の方法。
【請求項18】
(a)フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをヘキサメチルジシロキサンと接触させて、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸とを含む混合物を製造する工程、(b)上記混合物を蒸留して(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸とを含む留出物を形成する工程、(c)上記留出物を、その中の上記(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸の少なくとも一部を(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルに転化させるのに十分な条件下に塩化トリメチルシリルと接触させる工程、および(d)(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルを回収する工程とを含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルの製造方法。
【請求項19】
(a)フッ化(フルオロスルホニル)ジフルオロアセチルをヘキサメチルジシロキサンと接触させて、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルと(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸とを含む混合物を製造する工程と、(b)上記混合物を塩化トリメチルシリルの存在下に蒸留して(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルを含む留出物を形成する工程と、(c)(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルを回収する工程とを含む、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルの製造方法。
【請求項20】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルが、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸を実質的に含まずに回収される請求項18に記載の方法。
【請求項21】
(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸トリメチルシリルが、(フルオロスルホニル)ジフルオロ酢酸を実質的に含まずに回収される請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2009−537522(P2009−537522A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510977(P2009−510977)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/011067
【国際公開番号】WO2007/136541
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】