説明

(メタ)アクリル系共重合体

【課題】光学材料や吸水による反りが問題になるシート等、高精度な寸法安定性が要求される成形品や吸水と乾燥が長期に亘って繰り返される環境下で使用される成形品の材料として好適な低吸水性の新規な(メタ)アクリル系共重合体を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位、及び下記一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位を含有する(メタ)アクリル系共重合体。
【化1】


(式中、Xは、水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは、2以上20以下のいずれかの整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、脂環状メチレン単量体を重合することにより得られる(メタ)アクリル系共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、機械的強度や成形加工性、耐候性等にバランスのとれた性質を有しており、シート材料あるいは成形材料として多方面に使用されている。更に、メタクリル樹脂は、高透明性、低複屈折等の光学的にも優れた性質を有している。最近ではこうした特性を活かして、ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク材料や、カメラ、ビデオカメラ、投写型テレビ、光ピックアップ等のレンズ材料、さらに光ファイバー、光コネクターなど種々の光伝送材料としての用途が広がっている。
【0003】
しかしながら、メタクリル樹脂は吸水性が高いという問題点を有しており、その成形品において吸水による寸法変化や反りが生じたり、吸水と乾燥が長期に亘って繰り返される環境下で使用されるとクラックが発生したりすることもあるため、用途によってはその使用が制限されている。特に、ディスク材料やそれらの光学系に用いる光ピックアップレンズ、コネクターや、吸水による反りが問題になるシートなど、高精度な寸法安定性が要求される用途や、吸水と乾燥が長期に亘って繰り返される環境下での用途の成形品に対しては、使用が制限されている。
【0004】
それ故、近年、メタクリル樹脂の光学的性質を保持しながら、吸水性を改善する技術に関し数多くの提案がなされている。メタクリル系樹脂として、低吸水性を有するものとして、メチルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートとの共重合体(例えば、特許文献1参照)、メチルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレート及びベンジルメタクリレートとの共重合体とする方法(例えば、特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
また、メタクリル酸エステルの低吸水化法としてオレフィンセグメントを主鎖に導入する方法があり、低吸水化メタクリル酸エステル共重合体としてメタクリル酸エステル/イソブテン/マレイミドからなる共重合体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、オレフィンセグメントとしてノルボルネン骨格を有する単量体由来の単位を有するアクリル−ノルボルネン系共重合体も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、上記の従来法においては、次のような問題点があった。シクロヘキシルメタクリレートとの共重合ではオレフィンセグメントを導入する方法ほどの低吸水化を図ることができず、また、低吸水性を有するメタクリル酸エステル共重合体として、オレフィンセグメントを主鎖に導入したメタクリル酸エステル/イソブテン/マレイミドからなる共重合体や、オレフィンセグメントとしてノルボルネン骨格を有する単量体由来の単位を有するアクリル−ノルボルネン系共重合体においても、単量体単位として無水マレイン酸やマレイミドを含むため、吸水性が大幅に改善されていないという問題があった。
【特許文献1】特開昭58−5318号公報
【特許文献2】特開昭58−13652号公報
【特許文献3】特開平6−136058号公報
【特許文献4】特開平4−63810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、光学材料や吸水による反りが問題になるシートなど、高精度な寸法安定性が要求される用途の成形品に用いても、成形品が寸法安定性を有し、吸水と乾燥が長期に亘って繰り返される環境下での用途の成形品に用いても、クラックなどの発生が抑制される材料として好適に使用することができる新規な低吸水性(メタ)アクリル系共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、(メタ)アクリル酸エステルと特定の脂環状メチレン単量体とを重合して得られる共重合体が、優れた低吸水性を有することの知見を得て、かかる知見に基づき本発明をするに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位、及び下記一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位を含有する(メタ)アクリル系共重合体に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Xは、水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは、2以上20以下のいずれかの整数を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、低吸水性の新規な(メタ)アクリル系共重合体であり、光学材料や吸水による反りが問題になるシートなど、高精度な寸法安定性が要求される用途の成形品に用いても、成形品が寸法安定性を有し、吸水と乾燥が長期に亘って繰り返される環境下での用途の成形品に用いても、クラックなどの発生が抑制される材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位、及び下記一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位を含有するものであれば、特に制限されるものではない。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A):
本発明の(メタ)アクリル系共重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)をモノマーとして共重合することにより得られるものである。「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを表す。
【0015】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)としては特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸4−tーブチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリシクロデカニル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピル、メタクリル酸ペンタフルオロプロピル、メタクリル酸オクタフルオロペンチル、メタクリル酸2−(ペルフルオロオクチル)エチル等のメタアクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸4−tーブチルシクロヘキシル、アクリル酸トリシクロデカニル、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、アクリル酸アダマンチル等のアクリル酸エステル類などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明のアクリル系共重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)単位の含有量は、所望の樹脂の特性に応じて適宜設定されるが、50〜99モル%の範囲であることが好ましく、60〜95モル%の範囲であることがより好ましい。共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)単位の含有量が50モル%以上であれば、成形品において良好な機械強度を得ることができ、60モル%以上であれば上記効果をより顕著に得ることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)単位の含有量が99モル%以下であれば成形品において吸水性を低減することができ、95モル%以下であれば上記効果をより顕著に得ることができる。
【0017】
脂環状メチレン単量体(B):
本発明の(メタ)アクリル系共重合体における一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位は、一般式(I)
【0018】
【化2】

【0019】
で示される脂環状メチレン単量体(B)をモノマーとして共重合することにより得られる単位である。式(I)中、Xは、水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは、2以上20以下のいずれかの整数を表す。単量体の入手し易さ、吸水性改善の効果、熱的機械的物性の点から、nは、3以上12以下のいずれかの整数を表すことが好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ノルマルプロピル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルヘプチル基、ノルマルオクチル基、ノルマルノニル基、ノルマルデカニル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基、t−ブチルシクロヘキシル基などを挙げることができるが、単量体の入手し易さ、吸水性改善効果、あるいは熱的機械的物性の点から、Xとしては、水素、メチル基が好ましい。一般式(I)で表される脂環状メチレン単量体(B)としては、具体的には、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロブタン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、メチレンシクロへプタン、メチレンシクロオクタン、メチレンシクロノナン、メチレンシクロデカン、メチレンシクロドデカンなどの単環式脂環状メチレン化合物;2−メチレンビシクロ[2.2.1]ヘプタン、(+)−カンフェン、(−)−カンフェン、β−ピネンなどの二環式脂環状メチレン化合物;メチレンアダマンタンなどの三環式脂環状メチレン化合物;3−メチレンテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカンなどの四環式脂環状メチレン化合物などを挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、単量体の入手し易さ、吸水性改善の効果、熱的機械的物性の点から、メチレンシクロブタン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、2−メチレンビシクロ[2.2.1]ヘプタン、(+)−カンフェン、(−)−カンフェン、β−ピネン、メチレンテトラシクロドデカンが好ましい。
【0020】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体における脂環状メチレン単量体(B)単位の含有量は、1〜50モル%の範囲であるのが好ましく、5〜40モル%の範囲であるのがより好ましい。(メタ)アクリル系共重合体における脂環状メチレン単量体(B)単位の含有量が50モル%以下であれば、成形品において良好な機械強度を得ることができ、40モル%以下であれば上記効果をより顕著に得ることができる。また、脂環状メチレン単量体(B)単位の含有量が1モル%以上であれば、成形品において吸水性を低減することができ、5モル%以上であれば上記効果をより顕著に得ることができる。
【0021】
共重合可能な単量体(C):
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、さらに、必要により用途や成形性、その他の品質の要求などに応じて他の共重合可能な単量体(C)に由来する第3の構成単位を含有していてもよい。
【0022】
かかる第3の構成単位を得るため共重合される他の共重合可能な単量体(C)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の直鎖状または分岐を持つ鎖状オレフィン類;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状オレフィン(シクロアルケン)類;フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物等のα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物;フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジシクロヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、シクロへキシルマレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン等のジエン類;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン等のモノ若しくはポリアルキルスチレン等の芳香族ビニル化合物等を挙ることができる。
【0023】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体における第3の構成単位の含有量は20モル%以下であることが好ましい。第3の構成単位の含有量が20モル%以下であれば耐光性の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量は5000〜50万であることが好ましい。数平均分子量が5000以上であれば良好な機械強度を有し、50万以下であれば成形性の低下を抑制することができる。
【0025】
(メタ)アクリル系共重合体の製造:
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、上述の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)と、一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)と、必要によりこれらと共重合可能な単量体(C)とを重合して製造することができる。本発明における重合方法としては、特に制限はなく、公知の重合方法を採用することができる。例えば、熱ラジカル重合方法、光ラジカル重合方法、イオン重合方法、配位イオン重合方法、光カチオン重合方法等を挙げることができるが、重合反応の効率、工程操作性の点から、熱ラジカル重合方法、光ラジカル重合方法などラジカル重合方法が好ましい。重合形態としては、公知の重合形態を採用することができ、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、適当な溶媒を使用した溶液重合、及びスラリー重合等を採用することができる。
【0026】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体をラジカル重合により製造する際、用いるラジカル重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。例えばベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ系開始剤を挙げることができる。これらのうち好ましくはベンゾイルパーオキサイド、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
これらラジカル重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル系共重合体の製造に用いられる単量体100重量部に対して0.00001〜10重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.0001〜1重量部である。
【0028】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体をラジカル重合により製造する場合、必要に応じてルイス酸化合物(D)を使用することが好ましい。本発明の(メタ)アクリル系共重合体の製造に使用されるルイス酸化合物(D)としては、例えば、有機アルミニウム化合物(D−1)、有機アルミニウムオキシ化合物(D−2)及びイオン化イオン性化合物(D−3)から選ばれる1種または2種以上を組み合わせた化合物を挙げることができる。
【0029】
かかる有機アルミニウム化合物(D−1)としては、公知の有機アルミニウム化合物を使用することができる。好ましくは、下記式(II)で示される構造を有する有機アルミニウム化合物である。
【0030】
1aAlZ(3-a) (II)
式(II)中、E1は、炭素数1〜8の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表し、Zは、水素またはハロゲンを表し、aは1〜3のいずれかの整数を表す。aが2または3を表すとき、複数の総てのE1は同じであっても互いに異なるものを表していてもよく、aが1を表すとき、2つのZは同じであっても互いに異なるものを表していてもよい。
【0031】
式(II)で示される有機アルミニウム化合物(D−1)としては、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド、ジヘキシルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムクロライド;メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライド、ヘキシルアルミニウムジクロライド等のアルキルアルミニウムジクロライド;ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジヘキシルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド等を挙げることができる。これらの中でも、アルキルアルミニウムジクロライドが好ましく、エチルアルミニウムジクロライド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライドがより好ましい。
【0032】
有機アルミニウムオキシ化合物(D−2)としては、公知の有機アルミニウムオキシ化合物を使用することができ、好ましくは、式(III)
[−Al(E2)−O−]b (III)
で示される環状アルミノキサン(D−2−1)、または、式(IV)
3[−Al(E3)−O−]cAlE32 (IV)
で示される線状アルミノキサン(D−2−2)を挙げることができる。
【0033】
環状アルミノキサン(D−2−1)を示す式(III)中、E2は、炭素数1〜8の炭化水素基、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ノルマルペンチル基またはネオペンチル基を表し、さらに好ましくはメチル基またはイソブチル基を表す。総てのE2は同じであっても互いに異なるものを表していてもよい。式(III)中、bは2以上の整数、好ましくは2〜40のいずれかの整数を表す。
【0034】
線状アルミノキサン(D−2−2)を示す式(IV)中、E3は、炭素数1〜8の炭化水素基、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ノルマルペンチル基またはネオペンチル基を表し、さらに好ましくはメチル基またはイソブチル基を表す。総てのE3は同じであっても互いに異なるものを表していてもよい。式(IV)中、cは1以上の整数、好ましくは1〜40のいずれかの整数を表す。
【0035】
イオン化イオン性化合物(D−3)としては、式(V)
+ (BQ1234)- (V)
で示されるホウ素化合物(D−3−1)、式(VI)
(L−H)+ (BQ5678)- (VI)
で示されるホウ素化合物(D−3−2)を挙げることができる。
【0036】
ホウ素化合物(D−3−1)を示す式(V)中、Bは、4価の原子価状態のホウ素原子を示し、Q1、Q2、Q3及びQ4はそれぞれホウ素原子に結合し、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素置換シリル基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数2〜20の2置換アミノ基を表し、Q1〜Q4が表す基は総て同じであっても一つ以上が異なっていてもよい。Q1〜Q4はそれぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基を表すことが好ましい。式(V)において、(BQ1234)- が表すアニオンとしては、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,2,4−トリフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−ト及びテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート等を挙げることができる。
【0037】
また、式(V)中、J+は無機または有機のカチオンを表す。J+ が表す無機のカチオンとして、フェロセニウムカチオン、アルキル置換フェロセニウムカチオン、銀陽イオン等を挙げることができ、有機のカチオンとして、トリフェニルメチルカチオン等を挙げることができる。
【0038】
式(V)で表されるホウ素化合物(D−3−1)としては、例えば、フェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1'−ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、銀テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート及びトリフェニルメチルテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート等を挙げることができる。これらの中でも、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0039】
また、ホウ素化合物(D−3−2)を示す式(VI)中、Bは、4価の原子価状態のホウ素原子を表し、Q5、Q6、Q7及びQ8はそれぞれホウ素原子に結合し、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素置換シリル基、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数2〜20の2置換アミノ基を表し、Q5〜Q8が表す基は総て同じであっても一つ以上が異なっていてもよい。Q5〜Q8はそれぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基を表すことが好ましい。式(VI)において、Lは中性ルイス塩基を示し、(L−H)+はブレンステッド酸を示す。式(VI)中の(L−H)+が示すブレンステッド酸としては、例えば、トリアルキル置換アンモニウム、N,N−ジアルキルアニリニウム、ジアルキルアンモニウム及びトリアリールホスホニウム等を挙げることができる。式(VI)において、(BQ5678)-が表すアニオンとしては、例えば、前記のホウ素化合物(D−3−1)を表す式(V)中の(BQ1234)-として例示したものと同一のものを挙げることができる。
【0040】
式(VI)で表されるホウ素化合物(D−3−2)としては、例えば、トリエチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(ノルマルブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(ノルマルブチル)アンモニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジイソプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート及びトリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。これらの中でも、トリ(ノルマルブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート又はN,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0041】
これらルイス酸化合物の使用量は、(メタ)アクリル酸エステル単量体1モルに対して0.001〜10モルであることが好ましく、更に好ましくは0.001〜2モルである。ルイス酸化合物の種類にもよるが、その使用量により脂環状メチレン単量体(B)の共重合比を1〜50モル%の間で任意に制御することができる。ルイス酸化合物の使用量が(メタ)アクリル酸エステル単量体1モルに対して10モル以下であれば共重合体中に含まれる有機アルミニウム化合物残渣による透明性の低下が抑制され、2モル以下であれば、かかる効果を顕著に得ることができる。また、ルイス酸化合物の使用量が(メタ)アクリル酸エステル単量体1モルに対して0.001モル以上であれば脂環状メチレン単量体(B)の共重合が阻害されない。
【0042】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体をラジカル重合により溶媒を使用して製造する場合、使用する溶媒としてはラジカル重合開始剤およびルイス酸を失活させない各種の溶媒を挙げることができる。例えば、ベンゼン、トルエン、o,m,p−キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ベンゾニトリル、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0043】
重合温度については、−50〜200℃が好ましく、0〜150℃がより好ましい。
【0044】
上記ラジカル重合に際し、その他、本発明の(メタ)アクリル系共重合体の分子量を調節するために、メルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー、テルペノイド化合物等、公知の連鎖移動剤を添加してもよい。
【0045】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体には、各種用途に使用するに際し、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の劣化防止剤、可塑剤、安定化剤、増粘剤、粘着付与樹脂等を含有させることができ、さらには、極性基を付与したオレフィン系樹脂であるという観点からも、着色剤、顔料、増量剤等を含有させることができる。
【0046】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、その優れた透明性、低吸水性等を活用して、電気・電子分野、自動車分野、医療分野等におけるエラストマー、透明耐熱性樹脂、シート、フィルム、チューブ、ホース、光学材料、シーリング剤、接着剤、粘着剤、封止剤、塗料、コーティング剤、自動車部品、電気部品、航空・宇宙部品、電子部品、電池部品、エレクトロニクス関連部品、マルチメディア関連部品など、各種成形品、部品の材料として有用である。さらには、極性基を付与したオレフィン系樹脂であるという観点からも、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等に添加することにより、これらの樹脂の耐衝撃性、塗装性、印刷適性、耐候性等を改良することも可能である。さらには、ポリオレフィン系樹脂とアクリル系樹脂との相溶化剤、密着性改良剤など異なる樹脂間の相溶化剤として利用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例で得られた重合体の共重合組成は1H-NMR(日本電子製、JNM−EX270)により決定した。数平均分子量および分子量分布(Mw/Mn)はポリメタクリル酸メチルをスタンダードとしてGPC(Waters製、GPC150C)により測定した(クロロホルム、40℃)。
【0049】
また、吸水率は、得られた重合体のキャストフィルムを用い、25℃24時間水中に放置した後の重量増加を測定し、次式によって吸水率を求めた。
吸水率(%)=吸水重量×100/重合体重量
[実施例1]
アルゴン置換した100mLフラスコ内にメタクリル酸メチル1.0g(10mmol)を加え−78℃に冷却した。これにトルエン1.25mL、続いてエチルアルミニウムジクロライドの1.8Mトルエン溶液3.0mL(5.4mmol)を滴下した後、溶液を室温まで上げ、30分攪拌した。
【0050】
攪拌後、再度−78℃に冷却し、メチレンシクロヘキサン0.96g(10mmol)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル10mgを添加した。70℃で12時間攪拌することにより共重合を行った。
【0051】
その後、反応液を1N塩酸10mLとメタノール100mLとの混合物中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体を1N塩酸、メタノールで洗浄し、減圧乾燥し、共重合体を得た(収率34質量%)。この共重合体の0.4g/mLクロロホルム溶液を調製し、テフロンシート上でキャストフィルムを作成した(膜厚180μm)。キャストフィルムは約1cm2のフィルムで70℃24時間真空乾燥させたものを吸水率試験に用いた。
【0052】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、作成したフィルムの吸水率を表1に示す。
[実施例2]
実施例1においてメチレンシクロヘキサンの替わりにメチレンシクロペンタン0.82g(10mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手法により共重合することで共重合体を得て(収率20質量%)、実施例1と同様にしてフィルム(厚さ160μm)を作成した。
【0053】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、フィルムの吸水率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1においてメタクリル酸メチルの替わりに、メタクリル酸シクロヘキシル1.68g(10mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手法により共重合することで共重合体を得て(収率38質量%)、実施例1と同様にしてフィルム(厚さ160μm)を作成した。
【0054】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、フィルムの吸水率を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1においてメタクリル酸メチルの替わりに、メタクリル酸メチル0.8g(8mmol)とアクリル酸メチル0.17g(2mmol)を用いた以外は実施例1と同様の手法により共重合することで共重合体を得て(収率39質量%)、実施例1と同様にしてフィルム(厚さ145μm)を作成した。
【0055】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、フィルムの吸水率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
[比較例1]
アルゴン置換した100mLフラスコ内にメタクリル酸メチル2.0mL(20mmol)、トルエン4.25mL、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル10mgを添加した。65℃で24時間攪拌することにより重合を行った。
【0056】
その後、反応液をメタノール100mLとの混合物中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄し、減圧乾燥し、重合体を得た(収率64質量%)。この共重合体の0.4g/mLクロロホルム溶液を調製し、テフロンシート上でキャストフィルムを作成した(膜厚160μm)。
【0057】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、フィルムの吸水率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において用いたエチルアルミニウムジクロライドの1.8Mトルエン溶液を用いないこと以外は実施例1と同様の手法により共重合することで共重合体を得た(収率58質量%)。
【0058】
得られた共重合体の共重合比、数平均分子量、分子量分布、フィルムの吸水率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
略号;MMA メタクリル酸メチル
CHMA メタクリル酸シクロヘキシル
MA アクリル酸メチル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位、及び下記一般式(I)で示される脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位を含有する(メタ)アクリル系共重合体。
【化1】

(式中、Xは、水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは、2以上20以下のいずれかの整数を表す。)
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する単位を50〜99モル%有し、脂環状メチレン単量体(B)に由来する単位を1〜50モル%有する請求項1に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項3】
ラジカル重合することにより得られる請求項1または2に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項4】
ルイス酸化合物(D)の存在下でラジカル重合することにより得られる請求項3に記載の(メタ)アクリル系共重合体。

【公開番号】特開2006−299194(P2006−299194A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126576(P2005−126576)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】