説明

1価銅電解採取プロセスにおける電解液の浄液方法

【課題】 1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法に使用する1価銅を含有する溶液の精製法の提供。
【解決手段】 銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態とし、水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液とし、銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄し、必要に応じて有機溶剤中の金属イオンを還元した後、有機溶剤を酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出し、有機溶剤を再生し、循環使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法に使用する
1価銅を含有する溶液の精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種金属資源の枯渇防止ならびに環境負荷低減の要請から、リサイクルへの関心が高まりつつあり、製品が使用後に廃棄される場合に、元の金属にすることが社会的な要請となりつつある。金属銅或いは銅化合物に関しても、廃棄物の状態で回収した後、元の金属銅にすることが要請されている。本発明者らは、この観点から、1価銅イオンを含む溶液の電気分解により、金属銅を析出させる銅の回収方法において、1価銅イオンを含む溶液中に金属銅を析出させるためのカソード電極、1価銅イオンを含むアンモニアアルカリ性溶液中にアノード電極、及びカソード電極とアノード電極の間に隔膜を設け、前記電極に電流を流して、カソード電極側からアノード電極側へ溶液を移動させながら電気分解させることを特徴とする1価銅イオンを含む溶液の電気分解による金属銅の回収方法を開発した(特許文献1、非特許文献1)。
この方法は、1価銅イオンを含むアンモニアアルカリ性溶液から電気分解によって金属銅を回収するものであり、従来の硫酸酸性の状態で電解採取する方法に比べ著しく消費電力量を低下させることが可能となる。また、この電解採取を、アンモニアアルカリ性溶液を用いる浸出法と組み合わせることによって、含銅金属廃棄物からの金属銅の回収において電力消費量を著しく低減することが可能であるという顕著な効果を有する。また、このときにアノードにおいて生成する2価銅イオンを浸出槽に循環利用することが可能であるため、酸化剤生成に必要な薬剤の物質収支が保たれ、閉回路操業が可能であるという顕著な効果を有するものである。
この方法で使用される溶液は、主に1価銅イオンを含む溶液とすることが有効であり、溶液中で、銅に、2価の銅イオン及び硫酸アンモニウム及びアンモニアを反応させることにより、前記1価銅イオン錯体が形成される。
ここで、1価銅イオンを含む溶液中の1価銅イオンは、配位子を有する錯イオンの状態として使用されている。配位子には、NH、Cl、Br、I、アセトニトリル、シアン、ホスフン(PRH、PRH、PR:Rはメチル、エチル、プロピル基などのアルキル基、フエニル、トリル、ナフチル基などのアリール基を表す。)、アルシン(AsH、As、AsR、As:Rはメチル、エチル、プロピル基などのアルキル基、フエニル、トリル、ナフチル基などのアリール基を表す。)などが用いられている。浸出はアルカリ性溶液によって行われるため、酸性溶液による浸出に比べ不純物の溶解が少ないが、それでも、銅を回収する処理対象溶液には、銀、パラジウム、白金その他の貴金属の他、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉛などの金属の各イオンが含まれている。前記電解操作を行うために、前記貴金属及び金属イオンを回収することが必要とされている。
このようなことから前記銅回収のための処理対象溶液から前記貴金属及び金属イオンを除去する系統的な精製方法を確立することが望まれている。
【0003】
前記方法に用いる溶液ではないが、関連すると思われる従来技術を挙げると以下の通りである。
酸性領域における銅浸出液の浄液方法を概説する文献がある(非特許文献2)。本文献には、多段階の浄液方法が開発されており、不純物は、pH調節による沈殿操作、金属銅による銀の置換採取、イオン交換法による多価イオンの分離によって除去される。
オキシン系抽出剤を用いた、アルカリ性溶液からの亜鉛の回収に関する文献がある(特許文献3)。亜鉛は、8-ヒドロキシキノリン基を含む抽出剤によって分離され、酸により逆抽出され、電解採取または炭酸亜鉛として回収される。
オキシン系抽出剤(Kelex 100)を、アンモニア溶液からのCu(II)、Co、Ni、Feの抽出に用いることを記載している文献も見られる(非特許文献3)。この方法では、pH 8.5〜9.0の範囲では、抽出されやすさはCu(II) > Zn > Co > Niの順で減少する。Coの逆抽出は、金属を負荷した有機相が長く空気に曝されると、2価から3価へ酸化されるため、難しくなる。
アンモニア硫酸塩溶液からのニッケルの抽出に関し各種の抽出剤の組み合わせについて記載した文献もある(非特許文献4)。ニッケルの抽出率は、LIX64N/Kelex100の組み合わせにより53%、Kelex100/DNNSAの組み合わせにより87%に達した。一方、これら抽出剤単独では43%を越えなかった。
コバルトおよびその他の金属を含むアンモニア浸出液からコバルトの抽出および逆抽出のプロセスを提案する特許もある(特許文献3)。金属を負荷した有機相からコバルト以外の金属を除いた後、有機相中のコバルトは希酸による逆抽出の前に2価に還元される。
いずれにしても、従来技術として、1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法に使用する1価銅を含有する溶液の精製方法を示唆する文献は存在しない。
【特許文献1】特開2003-105580 、特開2003-253484、特開2003-105580
【特許文献2】カナダ特許第2347552号明細書
【特許文献3】米国特許第4,083,915号明細書
【非特許文献1】K.Koyama, M. Tanaka and J.C. Lee, “Copper Recovery from Waste Printed CircuitBoard,” Hydrometallurgy 2003 -Fifth International Conference in Honor of Professor Ian Ritchie - Vol. 2: Electrometallurgy andEnvironmental Hydrometallurgy, C.A. Young, A.M. Alfantazi, C.G. Anderson, D.B.Dreisinger, B. Harris and A. James, Eds., TMS, 2003, 1555-1563.
【非特許文献2】M. Hamalainen, O. Hyvarinen and M. Jyrala, “SolutionPurification in the Outokumpu HydrocopperTM Process,”Hydrometallurgy 2003 -Fifth International Conference in Honor of Professor Ian Ritchie - Vol. 1: Leaching and SolutionPurification, C.A. Young, A.M. Alfantazi, C.G. Anderson, D.B. Dreisinger, B.Harris and A. James, Eds., TMS, 2003, 545-553.
【非特許文献3】G.M. Ritcey and B.H. Lucas, “Extraction and Separationof Copper, Nickel, Zinc and Cobalt from Ammoniacal Solution Using Kelex 100,”Hydrometallurgy, 1975, 105-113.
【非特許文献4】L.R. Penner, J.H. Russell and M.J. Campbell, “TwoSynergic Pairs for the Extraction of Ammoniacal Ni,” Solvent Extraction 1990,T. Sekine (Editor), Elsevier Science Publishers B.V., 1992, 423-428.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法に使用する1価銅を含有する溶液の精製方法に関し、溶液中に含まれる貴金属である銀、パラジウム、白金、ロジウムなど、金属であるコバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄などの各イオンを選択的に除去するための系統的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討して以下の事柄を見出した。
銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、(b)有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態として、(c)水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出し、(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄し、(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、必要に応じて金属イオンを還元した後、酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生し、(f)再生された有機溶剤を前記(b)工程に循環使用することを特徴する銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出すことにより、溶液中に含まれる貴金属である銀、パラジウム、白金、ロジウムなど、金属であるコバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄などの各イオンを選択的に除去するための系統的な方法が可能となる。
【0006】
本発明によれば、以下の方法が提供される。
(1)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、(b)有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態として、(c)水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出し、(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄し、(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生し、(f)再生された有機溶剤を前記(b)工程に循環使用することを特徴する銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0007】
(2)前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、金属イオンを還元した後、酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生することを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0008】
(3)前記銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液が、プリント配線基板、シュレッダーダストなど銅を含有する廃棄物または銅鉱石を浸出して得られた溶液であることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0009】
(4)前記浸出して得られた溶液が、浸出剤として、アンモニア性アルカリ溶液であり、アンモニウム塩として、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムを含むものにより処理されたものであることを特徴とする(3)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0010】
(5)前記貴金属イオンは、銀、パラジウム、白金から選ばれた貴金属イオンであることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0011】
(6)前記銅(I)イオン以外の金属イオンは、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄から選ばれた金属イオンであることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0012】
(7)前記(b)有機溶剤が、8-ヒドロキシキノリン、アルキル基またはアルキレン基により置換されている8-ヒドロキシキノリンであることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0013】
(8)前記有機溶剤中には、改質剤を含有することを特徴とする(7)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0014】
(9)前記銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す水溶液には、銅は大部分が銅(I)イオンの形で存在していること
を特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0015】
(10)前記(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄する操作が、水または希薄な酸性水溶液によって行われ、共抽出されたアンモニアを取り除くためのものであることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0016】
(11)前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオンの還元操作がアンモニア溶液中の金属銅により行なわれることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【0017】
(12)前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオンを還元した後、有機溶剤を酸溶液と接触させる操作が、硫酸などの鉱酸であることを特徴とする(1)記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法に使用する1価銅を含有する溶液の新規な精製方法が得られる。具体的には溶液中に含まれる貴金属である銀、パラジウム、白金、ロジウムなど、金属であるコバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄などの各イオンを選択的に除去するための系統的な方法を提供するものであり、また、この方法で使用される有機溶媒を再生し、循環使用することができる。
ここで使用する抽出剤は、一価銅イオンを抽出しないので、この精製工程における銅の損失は非常に少ない。この方法と1価銅を含有する溶液から電解操作により金属銅を回収する方法を組み合わせることにより、金属銅をより少ないエネルギーで生産することができ、銅生産におけるコスト抑制ならびに温室効果ガスの排出抑制につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の処理対象液体は、銅(I)イオンを含む水溶液である。
2価銅イオン溶液中で、銅金属廃棄物と錯化合物の存在下に溶解処理する銅金属廃棄物溶解方法により製造される。銅金属廃棄物を供給するに当たっては、固体状の銅金属を含有する廃棄物であってもよい。固体状で供給される場合には、溶解処理の前に、粉砕して溶液処理をしやすいようにしておくことが必要である。粉砕物の大きさは溶解処理装置の処理量などにより相違する。比較的小規模なテストによれば、平均3から4mm程度のものとすれば十分である。粉砕には、工業的規模で行う場合であれば、各種の粉砕機を用いて行うことができる。溶液状で廃棄物が供給される場合には1価の銅イオンであることが必要である。溶解反応は2価の銅イオン溶液の存在下に行われる。
【0020】
前記溶液に錯化剤を供給する。錯化剤にはアンモニア、硫酸アンモニウム、アセトニトリル、シアンなどを挙げることができる。
【0021】
このような溶解処理で得られる1価銅イオンを含む溶液は中の1価銅イオンは、配位子を有する錯イオンの状態にある。配位子には、NH、Cl、Br、I、アセトニトリル、シアンなどを挙げることができる。これらは、銅イオンと、錯化剤を反応させて製造することができる
【0022】
次に、2価銅イオン溶液から1価銅イオンの生成に関し、アンモニア錯イオンを用いる場合について説明する。得られる1価銅イオン溶液は電解質錯体であり、溶液中で錯イオンに解離しているものである。アンモニアアルカリ性溶液中の銅(I)イオンは、([Cu(NH3)2]+)の錯イオンを形成している。溶液中で、銅に、2価の銅イオン及び硫酸アンモニウム及びアンモニアを反応させることにより、前記1価銅イオン錯体が形成される。前記アンモニアアルカリ性溶液とは、アンモニアとアンモニウム塩が存在する状態の溶液である。具体的に用いられるアンモニウム塩として硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウム等を挙げることができる。アンモニアはアンモニア水の添加による。または、水酸化ナトリウム等によるpH調整をおこなうことによりアンモニアを生成することが可能である。前記1価銅イオン溶液中に存在する、アンモニア濃度とアンモニウム塩濃度の合計濃度が1価銅イオン濃度に対して5倍以上であることが望ましい。この条件を満たす場合には、銅イオンは安定に存在することができる。この範囲以下の場合には銅イオンの形成が不十分であり1価銅の沈殿物が生成する可能性があるためである。溶液のpHは8から12の間であることが望ましい。この範囲を越えた場合には沈殿物が生成する可能性があるためである。また、1価銅イオンは6.3g/Lより濃度が大きいものが望ましい。銅濃度が小さい場合には、銅析出とともに水素の発生する可能性があり、効率を低下させる原因となるからである。
【0023】
前記溶解処理においては、2価の銅イオンとして硫酸銅を用いて行った場合に相当し、硫酸アンモニウム、アンモニアの存在下に固体状銅廃棄物を処理することにより、1価銅のアンミン錯イオンを生成させることによる操作とみることができる。本発明者らは、平均3.4mmの大きさに粉砕した廃プリント基板(4層にメッキされた多層基板。基板1gあたり、0.095gの銅を含有。)10gを、セパラブルフラスコに入れ、硫酸銅、硫酸アンモニウム、及びアンモニアを所定濃度に調整した溶液200mを添加し、毎分400回転で攪拌処理を行った。終了後、基板の最表面の銅は、すべて溶出されていた。銅の浸出に及ぼす硫酸銅濃度の影響を調べたところ、2価銅を含まない場合には銅はほとんど溶解しないこと、2価銅濃度の増加とともに反応初期の浸出速度及び各時間における浸出率は増加することがわかった。
【0024】
前記溶解操作において固体状銅廃棄物に、貴金属である銀、パラジウム、白金、など、金属であるコバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄などの各イオンを含有する場合には、前記貴金属及び金属はイオンの状態で溶液中に含有される状態となる。
【0025】
前記溶液の処理にあたっては、本発明では、以下の処理操作が行われる(図1)。
銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、(b)有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態として、(c)水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出し、(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄し、(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、必要に応じて金属イオンを還元した後、酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生し、(f)再生された有機溶剤を前記(b)工程に循環使用する。
以下に、この工程の説明を行なう。
【0026】
(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去する工程について
この工程で用いられる金属銅は粉粒状である。粒径は処理工程を考慮すると、細かいものであることが望ましい。粒径は適宜決定し、水溶液中に添加する。実施例では、平均粒径30 μmのものを使用した。添加量は水溶液に含まれる除去しようとする貴金属の含有量に応じて適宜定める。不必要に多く添加することは好ましくない。処理温度は室温でよい。処理に際しては酸素が存在しない状態で行う事が重要である。酸素が存在すると銅(I)イオンが酸化されるので好ましくない。
これにより貴金属である銀、パラジウム、白金、ロジウムなどが析出除去される。
析出した貴金属は、ろ過操作により除去される。
【0027】
(b)有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態とする工程について
前記(a)工程で貴金属である銀、パラジウム、白金、ロジウムなどを析出させて除去した後、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄などの各イオンを含有する銅(I)イオンを含む水溶液中から銅(I)イオン以外の金属イオンを除去する工程であり、前記水溶液と有機溶剤からなる有機相と液液接触させて、有機相中に金属イオンを取り込んで、水溶液中から金属イオンを除去する。液液接触の際の割合は適宜決定する。
有機溶剤には、前記金属イオンを除去することができるものであれば、公知の溶媒を適宜作用することができる。一般的には、オキシン抽出剤が用いられる。具体的には、有機溶剤が、8-ヒドロキシキノリン、アルキル基またはアルキレン基により置換されている8-ヒドロキシキノリンである。
これらオキシン抽出剤に、キレート抽出剤である、LIX63やLIX64N、酸性抽出剤であるVA10などを混ぜ合わせて用いる事ができる。この抽出剤には、改質剤を適宜用いる事ができる。改質剤には、アルコール溶液が用いられる。実施例では、5 vol%の1-デカノールを用いた場合を示した。
【0028】
(c)水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出す工程について
有機溶媒と水相を分離する。有機溶媒は、銅(I)イオン以外の金属イオンを含む有機相として分離される。この結果、水相には貴金属及び金属各イオンを含んでいない状態となり、この水相は、貴金属及び金属イオンを除去した銅(I)イオンを含む水溶液として電解操作により金属銅を回収する方法に用いることができる。
分離には静置分離などが採用される。
【0029】
(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄する工程について前記金属イオンを含有する有機相を水により洗浄することにより共抽出されたアンモニアを取り除く。水は、通常産業上に用いられる水のほか、酸を希薄な濃度に含む水溶液が用いられる。酸は塩酸などの鉱酸が用いられる。処理と同時にアンモニア成分が水に抽出され移行する。水により洗浄する際に水の量及び温度は適宜決定する。
【0030】
(e)必要に応じて、銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオンを還元処理した後、有機溶剤を酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生する工程について
必要に応じて、銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオン還元処理を行う。還元剤に銅粉が用いられ、アンモニア水の存在下に処理する。有機溶剤を酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出する。酸溶液には、硫酸が用いられる。前記銅(I)イオン以外の金属イオンは金属となり、硫酸で処理される結果、硫酸塩を形成して有機溶剤から分離される。具体的には、Al2(SO43、MnSO4、FeSO4、CuSO4、ZnSO4、PbSO4などとして除去される。硫酸の濃度は適宜決定される。
【0031】
(f)再生された有機溶剤を前記(b)工程に循環使用する工程について
再生された有機溶剤は、銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含んでいないので、前記(b)の有機溶媒として循環使用することができる。
【実施例1】
【0032】
以下に実施例を示す。これらの実験はバッチ法により行われているが、実操業の際には抽出カラム等連続抽出装置を使用して行うことができる。
銅粉を使用した置換法による銀の除去方法
銀(I)イオンを含む5M NH3 + 1M (NH4)2SO4溶液、および平均粒径30 μmの銅粉を用いて銀の除去実験を行った。
すべての反応操作はグローブボックスを用い、窒素雰囲気のもとで行った。窒素ガス中の微量の酸素は、塩基性ピロガロール溶液(15 wt%ピロガロールと30 wt%KOHの混合溶液)によってあらかじめ除去した。溶液50 mlと銅粉を、所定の温度にて、所定の時間混合した。ろ過後、ろ液中の金属濃度をICP発光分光法により測定し、その結果を表1に示した。これより、銀の置換反応は、添加した銅粉量が増えると進み、供給時のモル比(溶液1リットルに対する金属銅のモル数)/(銀のモル濃度、mole/l)が6を越えると、30分、25℃にてほぼ完全に銀を除去できることがわかる。
【0033】

【実施例2】
【0034】
銅粉を使用した置換法による銀の除去方法(他の金属イオンが存在する場合)
実施例1と同様の操作を、コバルト(II)、ニッケル(II)、亜鉛(II)、銅(I)の各イオンが共存する条件で行った。置換反応は25℃で45分間行った。銅(II)の濃度は、可視光(波長630 nm)の吸光度により求め、全銅濃度から銅(II)濃度を差し引くことにより銅(I)濃度を求めた。その結果を表2に示した。また、溶液中の各銅イオンの濃度と存在割合を表3に示した。
これらより、複数の金属イオンを含んだアンモニア溶液から、銀を完全にかつ選択的に除去できること、又、銅は、反応後も銅(I)として存在することがわかる。
【0035】

【0036】

【実施例3】
【0037】
鉄(II)、コバルト(II)、ニッケルおよび亜鉛は、銅(I)を多量に含む5M NH3 + 1M (NH4)2SO4溶液から、オキシン抽出剤LIX26に、LIX63、LIX64NおよびVA10を協同効果試薬として少量添加した溶媒抽出によって除去できる。
実験は、これまでの実施例と同様に窒素雰囲気下で行った。分析方法も同様である。水相は、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル、亜鉛および銅(I)を含む5M NH3 + 1M (NH4)2SO4溶液を用いた。有機相には、シェルゾールD70に溶解した種々の濃度のLIX26溶液を用いた。ただし改質剤として5 vol%の1-デカノールを添加した(以後有機相中の抽出剤、改質剤の濃度はすべてvol%を意味する)。協同効果試薬も適宜添加した。有機相と水相の体積比は1とし、接触時間10分、室温(25℃)にて行った。
【0038】
鉄の除去について
鉄(II)についての結果は表4に示したとおりであり、鉄はいずれの有機相を用いても完全に除去されることがわかる。
【0039】

【0040】
コバルト(II)の除去について
コバルト(II)についての結果は表5に示したとおりであり、コバルトはいずれの有機相を用いても、完全に除去されることがわかる。
【0041】

【0042】
ニッケルの除去について
ニッケルについての結果は表6に示したとおりであり、ニッケルの抽出は、協同効果によって大きく促進され、カルボン酸(VA10)の添加が最も効果が大きいことがわかる。
【0043】

【0044】
亜鉛の除去について
亜鉛についての結果は表7に示したとおりであり、LIX 26-LIX 64N(体積比5:1)の組み合わせが最も亜鉛除去率が高く、VA10には協同効果は見られないことがわかる。
【0045】

【0046】
銅の挙動について
銅の抽出挙動を調べその結果を表8に、また水相中の銅イオンの存在形態を調べその結果を表9に示した。これより銅損失は、協同抽出系では5〜9%と、LIX26単独使用のとき(3.7%)よりもやや増えるものの低い値であることがわかる。また銅のうち抽出されるのは、供給液中に存在する微量の銅(II)イオンであり、銅(I)イオンは抽出されないことがわかる。
【0047】

【0048】

【実施例4】
【0049】
銀、コバルト(II)、ニッケルおよび亜鉛は、多量の銅(I)イオンを含むアンモニアアルカリ性溶液から、LIX 26に、LIX 84I、DNNSA、PC88A、D2EHPA、VA10といった抽出剤を少量添加することにより除去できる。
グローブボックス中で窒素雰囲気下にて、等体積(各50 ml)の水相と有機相を混合し、所定時間毎に水相および有機相を合わせて10 mlを採取した。相分離の後、水相中の金属濃度をICP発光分光法により測定した。用いた水相は、銀、コバルト(II)、ニッケル、亜鉛および銅(I)を含む5M NH3 + 1M (NH4)2SO4溶液であり、有機相は15%LIX26と5%1-デカノールのシェルゾールD70溶液であり、必要に応じて各種抽出剤も加えた。
【0050】
銀の除去について
表10は銀についての結果であり、銀の除去は完全に行われることがわかる。
【0051】

【0052】
コバルトの除去について
表11はコバルトについての結果であり、コバルトの除去は完全に行われることがわかる。
【0053】

【0054】
ニッケルの除去について
表12はニッケルについての結果であり、ニッケルの除去も完全に行われるが、LIX 26単独使用の場合、その速度はやや小さいことがわかる。
【0055】

【0056】
亜鉛の除去について
表13は亜鉛についての結果であり、LIX 26にLIX 84Iを加え、15分振とうしたときに76%と最大の抽出率が得られた。亜鉛の抽出率は、時間とともに若干減少していく傾向が見られた。
【0057】

【0058】
不純物除去工程における銅の損失について
表14は銅についての結果であり、銅の10%程度が抽出操作によって有機相に移動することがわかる。
【0059】

【実施例5】
【0060】
塩化アンモニウム溶液によってPCB中の銅を浸出させたときには、各不純物金属イオンの濃度が硫酸アンモニウム溶液系のそれとは異なってくる。これら不純物は、LIX
26を用いた溶媒抽出法によって、銅(I)イオンを多量に含む浸出液から除去することができる。
【0061】
アルミニウム、マンガン、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル、銅(I)、亜鉛および鉛を含む5M NH3 + 4M NH4Cl溶液を水相供給液、LIX 26と1-デカノールおよび必要に応じて他の抽出試薬を溶解したシェルゾールD70溶液を有機相供給液として使用し、溶媒抽出実験を行った。不純物の濃度は、実際の浸出で得られる濃度の約10倍とした。ただし、この濃度では鉛は完全には溶解しなかったので、実験前にろ過した。等体積(20 ml)の水相と有機相を、窒素で満たしたグローブボックス中で室温にて混合した。分相後、水相中の金属濃度をICP発光分光分析装置にて定量した。
【0062】
アルミニウムの除去について
表15はアルミニウムについての結果であり、アルミニウムは完全に除去可能であることがわかる。
【0063】

【0064】
マンガンの除去:
表16はマンガンについての結果であり、マンガンは完全に除去可能であることがわかる。
【0065】

【0066】
鉄の除去について
表17は鉄についての結果であり、データにばらつきはあるが鉄は高い効率で除去可能であることがわかる。
【0067】

【0068】
コバルトの除去:
表18はコバルトについての結果であり、コバルトは高い効率で除去可能であることがわかる。
【0069】

【0070】
ニッケルの除去について
表19はニッケルについての結果であり、25%LIX 26単独系において、60分の混合を行うことにより90%以上の効率で除去でき、またLIX26に酸性抽出剤を添加した場合には15分の混合で90%以上の効率で除去できることがわかる。
【0071】

【0072】
銅の抽出について
表20は銅についての結果であり、表21は表20における実験No.3で生成した水相中の銅イオンの存在形態を調べたものである。表20より10%強の銅が有機相に移動していることがわかるが、この傾向はすでに述べた硫酸塩系での傾向と同じである。また表21より、銅イオンは、ほとんどが銅(I)として留まっていることがわかる。
【0073】

【0074】

【0075】
亜鉛の除去について
表22は亜鉛についての結果である。亜鉛の除去率は低く、最も高かったのが、25%LIX
26を用いて10〜15分の抽出を行ったときであり、66%の値であった。他の抽出試薬の添加はこの系では効果がない。
【0076】

【0077】
鉛の除去について
表23は鉛についての結果であり、鉛はほぼ完全に除去可能であることがわかる。
【0078】

【実施例6】
【0079】
ここでは、多量の銅(I)イオンおよび不純物としてアルミニウム、マンガン、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル、亜鉛および鉛を含む電解液を、溶媒抽出法を用いて不純物を除去し、不純物金属イオンを負荷した有機相を、洗浄し、逆抽出を行うことを試みた。すべての実験は、グローブボックスを用い窒素雰囲気中で行った。分相後、水相中の金属濃度をICP発光分光分析により定量した。
【0080】
1.抽出操作
不純物をLIX 26を用いて有機相に抽出し、生成した有機相を水により洗浄し、共抽出されたアンモニアを除去した。洗浄後の有機相を、種々の濃度の硫酸と混合し、逆抽出を行った。逆抽出に先立ち、洗浄後の有機相を、金属銅を含むアンモニア溶液と接触させ、金属イオンを還元することも試みた。
抽出操作において用いた水相は、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および鉛を含む5M NH3と4M NH4Clの混合溶液であった。有機相は、25%のLIX 26と10%の1-デカノールをシェルゾールD70に溶解したものを用いた。抽出は、室温にて体積比1で30分間行った。
表24は各金属の抽出率を調べた結果であり、不純物はほぼ完全に除去可能であること、銅の損失は10%程度であることがわかる。
【0081】

【0082】
2.有機相の洗浄
上記の実験で生成した有機相と、イオン交換水を、体積比1にて室温で20分間混合し洗浄操作を行った。
表25はその結果を示している。洗浄操作によっては、金属イオンはほとんど水相に移動しないことがわかる。
【0083】

【0084】
3.有機相中の金属の還元
オキシン系抽出剤やヒドロキシオキシム系抽出剤によってコバルト(II)を抽出した場合、いったん抽出されたコバルトが3価に酸化されると、逆抽出が非常に難しくなることが知られている。酸化されてしまった場合は、銅粉を含む水溶液と接触させるとコバルト(II)に還元できることが知られている。そこで、この還元操作によって、有機相に抽出された金属が逆抽出されないかを調べた。実験では、洗浄後の有機相50 mlと、20 g/lの銅粉(平均粒径30 μm)を含む142 g/lのアンモニア溶液を、20分間、室温にて接触させた。
表26はその結果を示しており、還元操作によって金属イオンはほとんど水相に移動しないことがわかる。
【0085】

【0086】
4.逆抽出:
4.1 還元処理後の有機相からの金属の逆抽出
還元処理を行った金属含有有機相と、逆抽出用水相として270
g/l硫酸を体積比1にて、15分間、分液ロート内で混合した。分相後水相を分液ロートから抜き出し、新たに270 g/l硫酸を入れ、同様に混合した。この混合操作を計4回行った。
表27はその結果であり、鉛以外のすべての金属は1段目で完全に逆抽出されている。2段目以降も水相中に各金属イオンが検出されているが、これは分液ロート内壁に残留していた微量の水相の影響と思われる(以下同じ)。鉛は4段の逆抽出で73%が逆抽出された。
【0087】

【0088】
4.2 洗浄後の有機相の逆抽出
4.1と同じ条件で、洗浄後の有機相を、還元操作を行わないで逆抽出実験に供した。その結果を表28に示す。
表28はその結果であり、鉛以外のすべての金属は1段目で完全に逆抽出されている。鉛は4段の逆抽出で43%が逆抽出された。
【0089】

【0090】
次に、上記実験と同じ条件にて、硫酸濃度を98 g/lとして逆抽出を行った。ただし逆抽出の繰り返し回数は5とした。表29はその結果であり、鉛以外の金属は3段までで完全に逆抽出されていることがわかる。鉛の逆抽出率は5段で47%であった。
【0091】

【0092】
4.3 混合抽出剤からの逆抽出
混合抽出剤を使用して溶媒抽出を行い、不純物金属を抽出し、生成した有機相をすぐに硫酸による逆抽出操作に供した。
抽出操作では、置換処理後の水相を、25%LIX 26、3%VA10、10 %1-デカノールを含むシェルゾールD70溶液と、室温にて、体積比1で30分混合することにより行った。
表30はその結果であり、不純物は一段の抽出で、70%以上の効率で除去されている。銅の損失は10%である。
【0093】

【0094】
次に、上記操作によって生成した有機相と、275 g/l硫酸を、室温、体積比1の条件にて混合した。混合時間は1段目15分、2段目30分とした。
表31はその結果であり、鉛以外の不純物は一段の逆抽出で95%以上の効率で逆抽出されている。2段の逆抽出後での鉛の総括逆抽出率は31%であった。
【0095】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の方法を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、(b)有機溶剤と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機溶剤中に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態として、(c)水相を有機溶剤から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出し、(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄し、(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生し、(f)再生された有機溶剤を前記(b)工程に循環使用することを特徴する銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項2】
前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤について、金属イオンを還元した後、酸溶液と接触させて、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機溶剤を再生することを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項3】
前記銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液が、プリント配線基板、シュレッダーダストなど銅を含有する廃棄物または銅鉱石を浸出して得られた溶液であることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項4】
前記浸出して得られた溶液が、浸出剤として、アンモニア性アルカリ溶液であり、アンモニウム塩として、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムを含むものにより処理されたものであることを特徴とする請求項3記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項5】
前記貴金属イオンは、銀、パラジウム、白金から選ばれた貴金属イオンであることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項6】
前記銅(I)イオン以外の金属イオンは、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、鉄から選ばれた金属イオンであることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項7】
前記(b)有機溶剤が、8-ヒドロキシキノリン、アルキル基またはアルキレン基により置換されている8-ヒドロキシキノリンであることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項8】
前記有機溶剤中には、改質剤を含有することを特徴とする請求項7記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項9】
前記銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す水溶液には、銅は大部分が銅(I)イオンの形で存在していることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項10】
前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤を水により洗浄する操作が、水または希薄な酸性水溶液によって行い、共抽出されたアンモニアを取り除くためのものであることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項11】
前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオンを還元した還元操作がアンモニア溶液中の金属銅により行なわれることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。
【請求項12】
前記(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機溶剤中の金属イオンを還元した後、有機溶剤を酸溶液と接触させる操作が、硫酸などの鉱酸であることを特徴とする請求項1記載の銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−57137(P2006−57137A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240053(P2004−240053)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度経済産業省「低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発 廃棄物適正処理システム技術開発 高効率分離回収システム技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】