説明

1,3−ジクロロアセトンの製造方法

(1)アセトンを塩素化してモノクロロアセトンを生成させ;(2)白金触媒、強酸、そして好ましくは塩化物源(例えば、塩としての添加又はモノクロロアセトンの加水分解から)及び若干の水の存在下に、モノクロロアセトンを不均化反応させて、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンを製造し;(3)触媒の存在下に1,3−ジクロロアセトンを水素化して、1,3−ジクロロヒドリンを製造し;そして(4)1,3−ジクロロヒドリンを塩基により環化させてエピクロロヒドリンを製造すること;によって、アセトンからエピクロロヒドリンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,3-ジクロロアセトン及びエピクロロヒドリンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトンを塩素で直接塩素化することにより、1,3-ジクロロアセトンを製造することは公知である。例えば特許文献1を参照されたい。この方法は、触媒量より多いヨウ素又はヨウ素塩を使用することを含んでいる。ヨウ素は非常に高価である(2002年9月23日発行の“The Chemical Marketing Reporter”によれば$13/kg)。この理由のために、この方法では、ヨウ素又はヨウ素塩を回収し再循環させることが非常に重要である。ヨウ素又はヨウ素塩を回収して再循環させるという余分な工程は、商品型製品のための商業上実行可能な方法を構築することにより、明らかに複雑さを増加することになる。直接アセトンを塩素化する別の方法は、ヨウ素又はヨウ素塩の代わりにメタノールを用いることを含んでいる。しかしながら、この方法の主製造物は塩素化された種のケタールである。1,3-ジクロロケトンを得るためには、そのケタールを加水分解しなければならず、それは慣用の方法とはいえない。
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,251,467号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヨウ素を使用する必要性を排除し、そしてそれを回収し再循環させることに関連した全ての複雑さを排除すると共に、後者の方法の場合、ケタールを加水分解する必要性をも排除した1,3-ジクロロアセトンを製造する方法を提供することは望ましいことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の側面において、本発明は、(1)アセトンを塩素化してモノクロロアセトンを生成させ、そして(2)白金触媒の存在下に、モノクロロアセトンを不均化反応させて、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンを製造することを含んでなる、1,3−ジクロロアセトンの製造方法である。更に強酸と、好ましくは塩化物源(例えば塩として添加又はモノクロロアセトンの加水分解から)と、若干の水とを、反応の開始を助けるために加えることができる。
【0006】
第二の側面において、本発明は、
(1)アセトンを塩素化してモノクロロアセトンを生成させ;
(2)白金触媒、任意的に強酸、好ましくは塩化物源(例えば、塩として添加又はモノクロロアセトンの加水分解から)及び若干の水の存在下に、モノクロロアセトンを不均化反応させて、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンを製造し;
(3)触媒の存在下に、1,3−ジクロロアセトンを水素化して、1,3−ジクロロヒドリンを製造し;そして
(4)1,3−ジクロロヒドリンを塩基で環化させてエピクロロヒドリンを製造すること;
を含んでなるエピクロロヒドリンの製造方法である。
【0007】
本発明のその他の側面は、以下の詳細な説明及び請求項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の方法は、以下の工程を含む:
(1)塩素化
モノクロロアセトン(MCA)を生成させるためのアセトンの塩素化は周知のプロセスである。例えば米国特許第4,439,623号明細書及び第3,397,240号明細書を参照されたい。
【0009】
(2)不均化反応
工程(1)で製造されたモノクロロアセトンは、白金触媒、任意的に、強酸、好ましくは塩化物源(例えば、塩として添加又はモノクロロアセトンの加水分解から)、及び若干の水の存在下に、不均化反応に供せられ、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンの両方が製造される。これらの製造物は、公知の方法、例えば抽出又は蒸留により回収することができる。
【0010】
意外にも、モノクロロアセトンを特定のタイプの触媒(それは白金触媒である)と共に加熱することにより、1,1−ジクロロアセトン又はより高塩素化の副生物を有効量製造することなく、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンが同時に製造されることを見出した。
【0011】
本発明に有用な白金触媒は、任意の白金+2及び/又は+4触媒を含む。そのような触媒は、米国特許第6,262,280号明細書に記載されている。適当な触媒の例には、PtCl2及びその水和物又はPtCl4-2のアルカリ金属塩(もしくはその水和物)、PtO2、クロロ白金酸、クロロ白金酸アンモニウムが含まれる。それらの触媒が、配位子、例えばシロキサン錯体などと錯体を形成している必要はない。
【0012】
好ましくは、本発明の実施に使用する触媒は白金の塩である。白金触媒は、不溶性の塩として添加したか否かにかかわりなく、均一の形体で存在する。若干の白金触媒が反応混合物中に浸出すれば反応が生じる。白金が反応混合物中に浸出しなければ(その反応混合物の液相の白金分析に基づいて)、反応は生じない。理論に拘泥しようとするものではないが、この反応は、Luinstra,G.A.;Wang,L.;Stahl,S.S.;Labinger,J.A.;Bercaw,J.E.の“J.Organometallic Chem 1995”,504巻、75〜91頁の「水性白金錯体によるC−Hの活性化:機構の研究」(“C−H activation by aqueous platinum complexes:A mechanistic study”)に記載されたShilov型反応において展開されていることに関連しているものと思われる。
【0013】
(3)水素化
本発明の主要な構成は、塩素原子を除去することなく、HCl生成により1,3−ジクロロアセトンを水素化することである。そのような水素化方法は、米国特許第5,744,655号明細書及び第6,350,922号明細書に記載されている。水素化反応の触媒は均一系又は不均一系であることができ、不均一系が最も好ましい。不均一系触媒の使用は、連続使用のための触媒を単離する必要性を最小限にするか、又は排除する。
【0014】
工程(2)で製造された1,3−ジクロロアセトンは、水素化剤との反応によって、水素化されて1,3−ジクロロヒドリンを製造する。
【0015】
本発明で有用な水素化剤は、例えば水素分子、アルコール又はそれらの組合せであることができる。水素化剤は好ましくは水素分子である。
【0016】
本発明で有用な適当なアルコールの例は、第一級又は第二級アルコール類、例えばメタノール、エタノール及びC3〜C10の第一級又は第二級アルコール類であることができる。好ましくは、アルコールはメタノールである。本発明で有用なその他の第二級アルコール類は、米国特許第2,860,146号明細書に記載されている。
【0017】
水素化剤源の最大量は、臨界的ではないが、実用上の考慮、例えば圧力、反応器効率及び安全性などにより規定される。水素化剤源が気体であるとき、水素化剤源の量は、好ましくは、少なくとも所望の圧力を与えるのに十分なものである。しかしながら、ほとんどの場合、反応器には、好ましくは、α−クロロケトンのモル当り水素分子1,000モル以下の量が含まれ、そしてより好ましくは、α−クロロケトンのモル当り水素分子100モル以下の量が含まれる。水素分子などの気体の水素化剤源は、好ましくは、気体状の試薬を液体状の反応混合物と混合する公知の方法、例えば攪拌しながら、気体を混合物を通して泡立たせるか、又は加圧下で水素を可溶化するなどの方法に従って使用する。
【0018】
本発明の水素化反応は、遷移金属含有不均一系触媒の存在下で生じる。
【0019】
本発明の不均一系触媒として有用な遷移金属は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)によって現在採用されている周期律表の、IB族、IIB族、IIIA〜VIIIA族のいずれかから選ばれる、1種又はそれ以上の金属であることができる。触媒金属は、好ましくはIUPAC周期律表のVIIIA族から選ばれ、例えば鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金及びそれらの混合物を含む。触媒金属は最も好ましくは白金である。
【0020】
反応温度は、水素を除いた全ての試薬が液体のままであり、且つ互いに接触している限り、臨界的なものではない。しかしながら、低い温度ではより長い反応時間が必要になり、不純物の濃度の増加につながる。反応温度は、好ましくは少なくとも−10℃、より好ましくは少なくとも20℃、そして最も好ましくは少なくとも50℃である。反応温度は、好ましくは250℃未満、より好ましくは100℃以下、最も好ましくは85℃以下である。
【0021】
反応圧力は、反応混合物中で反応を進めるのに十分な水素がある限り、臨界的なものではない。圧力は、好ましくは少なくとも14psi(97kPa、1気圧)、そしてより好ましくは少なくとも50psi(340kPa、3.4気圧)である。圧力は、好ましくは3,000psi(21MPa、220気圧)以下である。圧力が高ければ高いほど、反応時間がそれだけ短くなる。
(4)環形成又は環化工程
工程(3)で製造された1,3−ジクロロヒドリンは、例えば水酸化ナトリウムを含む水性アルカリ金属水酸化物のような強塩基と接触させることにより、環化されてエピクロロヒドリンが製造される。この工程はエピクロロヒドリンを製造する技術分野では周知である。例えば米国特許第2,860,146号明細書を参照されたい。
【0022】
本発明の方法は、次の一般式により表すことができる:
【0023】
【化1】

【0024】
Deacon法は、CuCl2触媒の存在下に気体状HClをO2で直接酸化することにより塩素を製造することを含む。この方法は総括化学式:
HCl(g)+1/4O2(g)→1/2H2O(g)+1/2Cl2(g) (1)
で表される。
【0025】
CuCl2触媒の存在下の反応(1)は早い総括発熱工程であり、700°K〜750°Kの通常の工業的操作条件下で平衡に達するものと想定される。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は、本発明を詳説するために提供されたものであり、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。別段の指示がない限り、全ての部及び%は重量基準である。
【0027】
例1〜4
GCの条件
GC:FID(フレームイオン化検出器)及び“6890自動注入器”付き“HP5890II”(前面検出器)
カラム:“Rtx−35”、Restek Corp.製、“Cat#10453”、“ser#441628”
カラムのタイプ:35%ジフェニル/65%ジメチルポリシロキサン
カラム寸法:30m×0.25mm×1.0μm
ヘッド圧:25psi
分割ガス抜き流れ(split vent flow):50mL/分
排出ガス流れ(purge gas flow):4mL/分
空気流れ:〜300mL/分
水素流れ:30mL/分
見掛け流れ(make-up flow):30mL/分(カラム流れ 〜4mL/分)
温度勾配:55℃で4分間保持、250℃まで+15℃/分で10分間
運転時間:27分
注入容量:0.5μL(5μLシリンジ)
注入温度:200℃
検出温度:290℃
溶媒洗浄剤:A=アセトニトリル、B=アセトニトリル/水 50/50
積分器:“HP ChemStation”
【0028】
不均化反応器は、磁気攪拌棒付きの4ドラムガラス瓶であった。モノクロロアセトンは、水、表Iに示された触媒、強酸及び、好ましくは塩化物塩を含む反応器に加えた。物質類の相対量は表I〜IVに示す。混合物は攪拌し、更に95〜100℃に17時間加熱した。製造物は室温まで冷却した。濾液10滴をアセトニトリルで1mLに希釈し、次いで使い捨てシリンジフィルターを通して濾過して、ガスクロマトグラフィーで分析した。製造された製造物の量は、表I〜IV(それぞれ例1〜4)に示されるように、GC面積%により報告する。
【0029】
【表1】

【0030】
表Iのデータは、Pt(+2)及びPt(+4)触媒のみが、1,1−ジクロロアセトン又はより高塩素化の副生物を有効量製造せずに、かなりの量の1,3−ジクロロアセトンを製造したことを示している。
【0031】
【表2】

【0032】
表IIのデータは、白金触媒の存在下、反応の初期(反応開始後6.5時間)に反応混合物にHClを加えることが、反応開始の迅速化を助けるということを示している。
【0033】
【表3】

【0034】
表IIIのデータは、HClがその他の強酸よりも不均化反応の進行に対してよりよい成果をあげることを示している。
【0035】
【表4】

【0036】
表IVのデータは、塩化物の塩が不均化反応の発生を助けることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アセトンを塩素化してモノクロロアセトンを生成させ、そして
(2)白金触媒、塩化物源、水及び、任意的に、強酸の存在下に、モノクロロアセトンを不均化反応させて、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンを製造すること、
を含んでなる1,3−ジクロロアセトンの製造方法。
【請求項2】
白金触媒がPtCl4-2、PtO2、クロロ白金酸、クロロ白金酸アンモニウム及びポリアミン白金塩よりなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
強酸が塩化水素酸である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(1)アセトンを塩素化してモノクロロアセトンを生成させ;(2)白金触媒、塩化物源、水及び、任意的に、強酸の存在下に、モノクロロアセトンを不均化反応させて、アセトン及び1,3−ジクロロアセトンを製造し;(3)触媒の存在下に、1,3−ジクロロアセトンを水素化して1,3−ジクロロヒドリンを製造し;そして(4)1,3−ジクロロヒドリンを塩基で環化させてエピクロロヒドリンを製造することを含んでなるエピクロロヒドリンの製造方法。
【請求項5】
水素化剤が水素分子、アルコール又はそれらの組合せである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒が遷移金属含有不均一系触媒である請求項4に記載の方法。
【請求項7】
水素化剤が水素分子である請求項4に記載の方法。
【請求項8】
工程(2)で製造された1,3−ジクロロアセトンが、塩素原子を除去することなく、HClの生成によって水素化される請求項4に記載の方法。
【請求項9】
工程(3)で製造された1,3−ジクロロヒドリンを、強塩基と接触させることにより環化させてエピクロロヒドリンを製造する請求項4に記載の方法。
【請求項10】
強塩基が水性アルカリ金属水酸化物である請求項4に記載の方法。

【公表番号】特表2007−530686(P2007−530686A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506260(P2007−506260)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/009767
【国際公開番号】WO2005/097722
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】